説明

ナット供給装置

【課題】スポット溶接機等の位置決めピンにナットを正確かつ確実に供給することで溶接不良を抑制し、作業効率を大幅に向上させる。
【解決手段】ナット供給装置10は、位置決めピンPに向けてシリンダ31が設置され、シリンダ31内に往復移動によってナットNを位置決めピンPに供給するピストンロッド32が設けられる。ピストンロッド32の往復通路には、バネ部材35に付勢されて待機スペースRにナットNを保持するガイド扉34が設けられる。ピストンロッド32が前進して待機スペースRのナットNを係止すると、扉開放機構36によりガイド扉34が瞬時に自動開放する。制御タイマ65は、ピストンロッド32がスタート位置から前進してナット係止位置に達する前の所定のタイミングで、ピストンロッド32を駆動するフットスイッチFを強制的にON状態に保持し、ピストンロッド32を目的位置まで到達させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ナット供給装置に関し、詳しくは、スポット溶接機等の位置決めピン(ガイドピン)に溶接用のナットを供給するナット供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接機を用いてワークとナットとの溶接を行う場合、溶接時の治具となる位置決めピン(ガイドピンとも呼ばれる。)にワークとナットを嵌めてセットする。このような位置決めピンへのナットの嵌め合わせ作業を補助する装置として、ナット供給装置が用いられている。
【0003】
従来のナット供給装置は、例えば図12に示すように、スポット溶接機1の側方にナット供給ヘッド4が設けられる。ナット供給ヘッド4は、位置決めピンPに向けてシリンダ5が設置され、このシリンダ5内にピストンロッド6が往復移動可能に設けられる。
スポット溶接機1は、下部電極2aと上部電極2bを有し、下部電極2aの上端に絶縁性の位置決めピンPが設けられる。この位置決めピンPにワークWとナットNがセットされる。
【0004】
シリンダ5の上方には、ナット供給シュート7が設けられる。図13に示すように、ナット供給シュート7には、フィーダ本体(図示省略)から溶接用のナットNが1個ずつ縦向き姿勢を保って送られる。シリンダ5の前端部であってピストンロッド6の往復通路上にはガイド扉8が設けられる。ガイド扉8は、支軸8aによりピストンロッド6の往復通路を開閉する。支軸8aにはガイド扉8を閉鎖方向に付勢するバネ部材9が設けられており、バネ部材9がガイド扉8を閉鎖状態(図13(A))に保つことで、ガイド扉8の内側にナットNの待機スペースRが確保される。
【0005】
スポット溶接機1の位置決めピンPにナットNを供給する場合、作業者がフットスイッチ(図示料略)を踏み込むと、シリンダ5内のスタート位置にあるピストンロッド6が前進し、待機スペースRのナットNに達する。このとき、ロッド先端がナット孔に入り、ナットNを串刺し状に係止した状態になる。そして、この状態のままバネ部材9の付勢力に反してガイド扉8を押し開け(図13(B)参照)、位置決めピンPまでナットNを送る。位置決めピンPにナットNを嵌め合わせた後、ピストンロッド6が後退して元のスタート位置まで戻る。バネ部材9に押されてガイド扉8が閉鎖状態に戻ると、ナット供給シュート7から待機スペースRに新たなナットNが補給されて待機状態に保たれる。
【0006】
ナット供給装置では、このような動作を繰り返すことにより、ナットNを1個ずつスポット溶接機1の位置決めピンPに供給する。スポット溶接機1は、位置決めピンPにナットがセットされた状態で、下部電極2aと上部電極と2bを通電を行い、ワークWにナットNを溶接する。
【0007】
なお、従来のナット供給装置に関する先行技術としては、特許文献1〜3が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−284705号公報
【特許文献2】実開昭52−6028号マイクロフィルム
【特許文献3】実開昭51−114331号マイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このような従来のナット供給装置は、上記のように位置決めピンにナットを供給する動作を繰り返していると、位置決めピンからナットが外れることがある。極端な場合には位置決めピンに2個のナットが供給装置されることもあり、このようなナットの供給ミスが溶接不良の要因の一つとなっている。
【0010】
これに対し、このような溶接不良を防ぐための手段としては、図14に示すように、上部電極2bの先端に取り付ける絶縁キャップCがある。この種の絶縁キャップCには、その先端にナットNの外径より僅かに広い貫通孔Chが形成される。位置決めピンPにナットNが正しくセットされると、キャップ先端の貫通孔ChにナットNが嵌り、下部電極2aと上部電極2bが通電する(図14(A)参照)。位置決めピンPからナットNが外れると、絶縁キャップCの先端がナットNと上部電極2bとの間に挟まって、下部電極2aと上部電極2bとの通電を遮断する(図14(B)および(C)参照)。これにより、溶接不良を未然に防止し、歩留まりを向上させることができる。
【0011】
ところが、上記のような対策では、絶縁キャップCにより溶接不良を未然に防止するのには役立つが、位置決めピンPからナットNがズレた際に、作業を中断して邪魔なナットNを取り除く作業が必要となる。特に、大量のナットを溶接する場合にはナットを取り除く作業が煩雑で、作業効率を低下させている。このため、このような面倒な作業を伴わない作業効率に優れた対策が求められていた。
【0012】
上記課題を解決するため、本発明者は、前述の絶縁キャップのように、位置決めピンからナットがズレたことを事後的にチェックするのではなく、ピストンロッドによるナットの供給動作そのものを正確かつ確実に行うための対策を研究し、試作等による検討を重ねた。その結果、ピストンロッドの往復動作によりナットを確実に位置決めピンに供給するには下記の2つの要因が関連している点を見出した。
【0013】
第1に、ピストンロッドの先端にナットが係止されるとき、ガイド扉にナットが干渉して(バネ部材の反発力を受けて)その係止姿勢が傾くことが挙げられる。ロッド先端におけるナットの係止姿勢は、ナット毎に若干のバラツキがあるが、これらのナットの中には、ピストンロッドがガイド扉を押し開ける際にバネ部材の反発力で正常な姿勢から大きく傾くものがある。このように傾いた係止姿勢のままナットが送られると、位置決めピンからナットが外れてしまう。
【0014】
第2に、フットスイッチの踏み込みが不十分な場合に、ナットの待機スペースに前のナットが留まったまま新たなナットが補給されることが挙げられる。
前述したようなナット供給装置では、通常、フットスイッチを1回踏み込むことでピストンロッドが1ストローク駆動する。ピストンロッドが位置決めピンのある目的位置まで到達すると、スポット溶接機がピストンロッドに続いて駆動し、溶接作業を行う。フットスイッチの踏み込みが不十分な場合には、ピストンロッドが目的位置まで到達することなく元のスタート位置に戻り、スポット溶接機が駆動しない。
【0015】
ところが、フットスイッチの踏み込みが中途半端で、ピストンロッドがナットを係止したままガイド扉を押し開ける途中でスタート位置に戻るような場合には、このナットが待機スペースに残ったまま新たなナットが補給されてしまう。この結果、次回のピストンロッドの駆動時に2個のナットが位置決めピンに供給されてスポット溶接機が駆動するような不具合が起こる。
【0016】
本発明者らは、上記のようなガイド扉とフットスイッチ(押圧スイッチ)に関連する2つの要因を解消することにより、ナット供給の信頼性を大幅に高めて、結果として、溶接不良の防止と作業効率の向上を共に実現するに至った。
本発明の目的は、スポット溶接機等の接合機の位置決めピンにナットを正確かつ確実に供給することで溶接不良を抑制し、作業効率を大幅に向上させるようにしたナット供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決するために本発明のナット供給装置は、以下の構成を採用することとした。すなわち、
溶接機等の接合機の位置決めピンにナットを1個ずつ供給するナット供給装置であって、
前記接合機の側方に前記位置決めピンに向けて設置されるシリンダと、
このシリンダ内のスタート位置から前記位置決めピンに達する目的位置まで往復移動可能に設けられるピストンロッドと、
前記ピストンロッドの往復通路を開閉可能に設けられ、閉鎖状態の場合に前記往復通路の待機スペースにナットを保持するガイド扉と、
前記ガイド扉を閉鎖方向に付勢するバネ部材と、
前記ガイド扉を前記バネ部材の付勢力に逆らって開放する扉開放機構と、
前記シリンダの外側から前記往復通路の待機スペースにナットを1個ずつ補給するナット供給シュートとを備え、
前記ピストンロッドがスタート位置から目的位置へ前進するとき、前記ピストンロッドの先端に前記待機スペースのナットを串刺し状に係止し、前記扉開放機構により前記ガイド扉を開放して前記ナットを前記位置決めピンに供給する一方、
前記ピストンロッドが目的位置からスタート位置に後退するとき、前記ガイド扉を前記バネ部材の付勢力により閉鎖して、前記ナット供給シュートから補給された新たなナットを前記待機スペースに保持するように構成され、しかも、

前記ガイド扉の扉開放機構は、
前記ガイド扉に連結される駆動部材と、
前記駆動部材を駆動して前記ガイド扉を開放するソレノイドと、
前記ピストンロッドがスタート位置から前進して前記待機スペースのナットを係止する時の前記ピストンロッドのナット係止位置を検知する係止位置検知センサと備えており、
前記ピストンロッドがスタート位置からナット係止位置に達したとき、前記係止位置検知センサの検知信号に基づいて前記ソレノイドおよび前記駆動部材を瞬時に駆動して、所定時間だけ前記ガイド扉を自動開放するように構成されており、

さらに、前記ピストンロッドの往復移動制御手段として、
押圧操作でON状態に保持されることにより、前記ピストンロッドをスタート位置から目的位置に向けて前進させる押圧スイッチと、
前記ピストンロッドが目的位置に到達した時に前記ピストンロッドの位置を検知して前記押圧スイッチを強制的にOFF状態にし、前記ピストンロッドを元のスタート位置まで後退させる目的位置検知センサと、
前記ピストンロッドがスタート位置から前進してナット係止位置に達する前の所定のタイミングで前記押圧スイッチを強制的にON状態に保持し、前記押圧スイッチの押圧操作が解除された場合でも、前記ピストンロッドを目的位置まで到達させる制御タイマとを備える構成とした。
【0018】
このようなナット供給装置の構成によれば、ピストンロッドがスタート位置から前進してナット係止位置に達すると、同時にガイド扉が自動開放する。このため、ナットがガイド扉から負荷(バネ部材の反発力)を受けることが無くなる。この結果、ガイド扉にナットが干渉することなくなり、位置決めピンに向けて傾きのない安定した姿勢でナットを供給することができる。
【0019】
ここで、上記のようにガイド扉がソレノイドの駆動力により自動開放する構成において、ガイド扉の開放時間が長すぎると、待機スペースにタイミングよく新たなナットを保持することができない問題が生じるが、本発明では、ソレノイドの駆動力が所定時間だけガイド扉に作用して停止し、ピストンロッドがスタート位置へ後退する途中でガイド扉がバネ部材の付勢力で元の閉鎖状態に戻る。つまり、従来のナット供給装置と同様のタイミングでガイド扉が閉鎖する。これにより、待機スペースに新たなナットを迅速かつ確実に補給することができる。
【0020】
加えて、本発明の構成によれば、押圧スイッチと制御タイマの構成により、ピストンロッドがスタート位置から前進してナット係止位置に達すると、押圧操作の状態にかかわらず押圧スイッチが強制的にON状態に保たれる。そして、ピストンロッドが確実に目的位置まで到達して元の後退位置に戻る。つまり、押圧スイッチによる押圧操作の時間が足りなくても、ピストンロッドがナット係止位置に達した後は、確実にナットを位置決めピンまで送るため、待機スペースにナットを残すようなことがない。
この結果、前述のガイド扉の自動開放と相俟ってナット供給の信頼性を大幅に高め、溶接不良を未然に防止し、作業効率を大幅に向上させることができる。
【0021】
本発明のナット供給装置は、スポット溶接機、プロジェクション溶接機等の溶接機に溶接ナットを供給する装置として用いると効果的である。その他、自動カシメ機にクリンチナットを供給する装置として適用してもよい。位置決めピンにナットをセットする構成を有するものであれば接合機の種類は問わない。
本発明において、「串刺し状」とは、必ずしもナット孔にピストンロッドが貫通しなくともよく、ロッド先端にナットを係止することができればよい。
「ナットを1個ずつ」とは、単一のピストンロッドでナットを1個ずつ供給する場合の他、2本以上または二股のピストンロッドで複数のナットを位置決めピンに供給する場合も含む。
「押圧スイッチ」は、押圧操作に応じてスイッチのON・OFFを切り替えるものであればよく、フットスイッチの他、ボタンスイッチ、レバースイッチ等も含む。
もちろん本発明には明細書に記載される他の発明を組み合わせることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態によるナット供給装置の全体構成を示す斜視図である。
【図2】同ナット供給装置の要部を示す概略構成図である。
【図3】同ナット供給装置のガイド扉の扉開放機構を示す側面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】同ガイド扉を示す拡大斜視図である。
【図6】同ガイド扉の扉開放機構を示すもので、(A)はピストンロッドがスタート位置にある状態、(B)はピストンロッドがナット係止位置にある状態を示す部分拡大断面図である。
【図7】同ガイド扉の扉開放機構を示すもので、(C)はピストンロッドがナット係止位置を通過した直後の状態、(D)はピストンロッドが目的位置に到達した状態を示す部分拡大断面図である。
【図8】同ガイド扉の扉開放機構を示すもので、ピストンロッドが目的位置からスタート位置に戻る過程でガイド扉が閉鎖する時の状態を示す部分拡大断面図である。
【図9】同ナット供給装置の正常時におけるフットスイッチ(押圧スイッチ)とピストンロッドの位置との関係を説明するためのタイムチャートである。
【図10】同ナット供給装置の誤操作時におけるフットスイッチ(押圧スイッチ)とピストンロッドの位置との関係を説明するためのタイムチャートである。
【図11】比較例のナット供給装置におけるフットスイッチ(押圧スイッチ)とピストンロッドの位置との関係を説明するためのタイムチャートである。
【図12】従来のナット供給装置の要部を示す概略構成図である。
【図13】従来のナット供給装置の扉開放機構を示すもので、(A)はピストンロッドがナット係止位置に達する前の状態、(B)はピストンロッドが目的位置に到達した状態を示す部分拡大断面図である。
【図14】溶接不良を防止するための絶縁キャップを説明するもので、(A)は正常時の絶縁キャップ、(B)および(C)は異常時の絶縁キャップを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に実施形態によるナット供給装置10の全体構成を示した。ナット供給装置10は、スポット溶接機1の側方に設置される。スポット溶接機1は、下部電極2aと上部電極2bとの間にワークWとナットN(図2参照)がセットされるもので、下部電極2aの上端にワークWとナットNの治具となる絶縁性の位置決めピンPが突出している。位置決めピンPにワークWとナットNがセットされた状態で、スポット溶接機1の上部電極2bが下降し、下部電極2aに通電してワークWとナットNとの溶接が行われる。
【0024】
ナット供給装置10は、主要な構成部としてフィーダ本体10Aとナット供給ヘッド10Bとを備えている。フィーダ本体10Aは、溶接用のナットNを貯留するとともに、ナットNの向きを揃えて1個ずつナット供給ヘッド10Bに送る。ナット供給ヘッド10Bは、フィーダ本体10Aから送られたナットを、作業者のフットスイッチFの押圧操作に応じてスポット溶接機1の位置決めピンPに供給する。
【0025】
フィーダ本体10Aは、架台21にホッパ22、調整ゲート23、レベラー24、ボウル25、分離器26等が設けられている。最上部のホッパ22の正面下方に調整ゲート23が開放し、この調整ゲート23の下方にボウル25が配置される。ボウル25の内側にはレベラー24が挿入される。ボウル25の下方には連結パイプ25aが連なり、このパイプに分離器26が接続される。
ホッパ22に投入された溶接用のナットNは、調整ゲート23を通ってボウル25に入る。レベラー24によって適量に調整されたナットNは、連結パイプ25aから分離器26に導入され、一定の姿勢に保たれて供給ホース27を介してナット供給ヘッド10Bに送られる。
【0026】
なお、図1において、符号28はフットスイッチFとフィーダ本体10Aとを接続する配線コード、符号29はスポット溶接機1とフィーダ本体10Aとを接続する配線コードである。符号60は、ナット供給ヘッド10Bの動作を制御するための制御器(後述)である。
【0027】
図2に示すように、ナット供給ヘッド10Bは、その基本的な構成としてシリンダ31、ピストンロッド32、ガイド扉34、バネ部材35、およびナット供給シュート37を備えている。
シリンダ31は、スポット溶接機1の所定箇所に固定アーム15により位置決めピンPに向けて設置される(図1参照)。シリンダ31内のスタート位置から位置決めピンPに達する目的位置までピストンロッド32が往復移動可能に設けられている。
【0028】
シリンダ31には、エアホース38a,38bが接続される(図1参照)。これらのエアホース38a,38bは、フィーダ本体10Aのコンプレッサ(図示省略)からの圧縮空気をシリンダ31に送り込んでピストンロッド32を前進方向または後退方向へ駆動する。
【0029】
ガイド扉34は、ピストンロッド32の往復通路を開閉可能に設けられる。シリンダ31の前端部の支軸34aにガイド扉34が回動可能に取り付けられる。図6に示すように、ガイド扉34が閉鎖状態にある場合には、ピストンロッド32の往復通路が遮断されてガイド扉34の内側の空間がナットNの待機スペースRとなる。
【0030】
バネ部材35は、コイルスプリングからなるもので、ガイド扉34の支軸34aに取り付けられる。バネ部材35の一端がシリンダ31側に、他端がガイド扉34側に固定され、ガイド扉34を閉鎖方向に付勢している。ピストンロッド32の負荷がガイド扉34にかからない平常時には、バネ部材35の付勢力によりガイド扉34が縦向きの閉鎖状態に保たれる。これにより、待機スペースRにナットNが起立姿勢(縦向き姿勢)で保持されることになる(図6参照)。
【0031】
ナット供給シュート37は、シリンダ31の上方に弧状に延びてフィーダ本体10Aの供給ホース27に接続される。ナット供給シュート37のナット供給口は、待機スペースRに開口している。ピストンロッド32が目的位置からスタート位置に戻る時、ガイド扉34が閉鎖状態に復帰した直後のタイミングで、ナット供給シュート37から待機スペースRに新たなナットが1個ずつ補給されるように設定される。
【0032】
ナット供給ヘッド10BのナットNを位置決めピンPに供給する場合、図6(A)に示すように、待機スペースRにナットNを待機させた状態で作業者がフットスイッチFをONにすると、ピストンロッド32がスタート位置から前進し、ロッド先端にナットNが串刺し状に係止される(図6(B)参照)。すると、図6(B)矢印のように、ガイド扉34が開き、ピストンロッド32がガイド扉34を超えて前進する(図7(C)参照)。ピストンロッド32が目的位置に達すると(図7(D)参照)、ナットNがロッド先端から離れて位置決めピンPに嵌まる。これにより、ワークWにナットNが位置決めされることになる。
【0033】
その後、ピストンロッド32は、目的位置から後退してスタート位置に戻る。戻る途中でピストンロッド32がガイド扉34の内側に入ると、バネ部材35の付勢力によってガイド扉34が閉鎖状態に戻る(図8(E)参照)。そして、ガイド扉34の内側の待機スペースRにナット供給シュート37から新たなナットNが供給されて待機状態に保たれる。
このような動作を繰り返すことで、ナット供給ヘッド10BのナットNが1個ずつスポット溶接機1の位置決めピンPに供給される。
【0034】
なお、ナット供給ヘッド10Bには、シリンダ31内にナットNの吸着用の電磁コイル39が収納される(図3および図4参照)。電磁コイル39は、シリンダ31の内壁に沿って筒状に延び、コイル中央にピストンロッド32が通される。ピストンロッド32がスタート位置から前進して電磁コイル39内を通過するとき、電磁コイル39が通電してピストンロッド32が電磁石となる。これにより、ロッド先端にナットNが吸着される。
ピストンロッド32が目的位置に到達すると、電磁コイル39の通電が遮断され、ピストンロッド32が磁力のない状態になる。これにより、ロッド先端からナットNが重力落下して位置決めピンPに嵌まる。このように電磁コイル39の磁力を利用することで、ピストンロッド32によるナットNの移送の精度が高められている。
【0035】
次に、ガイド扉34の扉開放機構36について説明する。
ナット供給ヘッド10Bには、上記の基本的な構成に加え、ガイド扉34を自動開放するための扉開放機構36が設けられている(図2参照)。
【0036】
図2に示すように、扉開放機構36は、その主要構成として駆動部材41、ソレノイド42、目的位置検知センサG1およびナット係止位置検知センサG2を有する。シリンダ31の上方に台座44を介してソレノイド42が固定され、ソレノイド42の駆動軸42aに駆動部材41の一端が連結される(図3参照)。そして、駆動部材41の他端にガイド扉34が回動可能に連結される。
ソレノイド42の停止時には、駆動軸42aが前方に伸びてガイド扉34を閉鎖状態に保つ(図6参照)。ソレノイド42の起動時には、駆動軸42aが後方に引き込まれて駆動部材41と共にガイド扉34を引っ張る(図7(C)参照)。これにより、ガイド扉34が支軸34aの時計回りに回動して開放状態に切り替わる。
【0037】
図3に示すように、ソレノイド42の台座44は、シリンダ31の取付孔に締め付ける固定ボルト45,45を有している。台座44にはその長さ方向に長孔(図示省略)が切ってあり、この長孔に沿って固定ボルト45,45が移動可能になっている。つまり、長孔における固定ボルト45,45の位置を調整することにより、ソレノイド42の位置を微調整することができる。ガイド扉34の開放角度が適切でない場合には、上記のようにソレノイド42の位置を調整することで、ガイド扉34の自動開放角度を最適に保つように適宜修正することができる。
【0038】
図5に示すように、ガイド扉34には、扉板51の両側に側板52,53が立ち上げられる。扉板51は、平板状で、ナットNを縦向き姿勢で保持するのに十分な面積をもつ。側板52,53は、扉板51の両端からほぼ垂直に延び、一方の側板52が楔形で、他方の側板53が矩形に形成される。側板52,53には、ガイド扉34の支軸34aを通すための軸孔54が貫通しており、側板53の端部には軸孔54から十分な距離を保って連結軸56が設けられる。そして、この連結軸56に駆動部材41が回動可能に連結される。
【0039】
目的位置検知センサG1およびナット係止位置検知センサG2は、ピストンロッド32の位置を検知するための磁気センサである(図1および図2参照)。シリンダ31の後端付近の上下2箇所に各センサが配置されている。ピストンロッド32の後端部に固定された磁性体がスタート位置から各センサの位置に来たとき、磁気変化を検知してピストンロッド32の位置を検知するようになっている。
【0040】
ピストンロッド32がスタート位置にあるとき、ソレノイド42は停止状態にあり、ガイド扉34に駆動力が作用しない。このため、図6に示すように、ガイド扉34は、バネ部材35の付勢力により閉鎖状態に保たれる。
ピストンロッド32がスタート位置からナット係止位置に達すると、係止位置検知センサG2がピストンロッド32の位置を検知する。すると、この検知信号に基づいてソレノイド42が起動し、バネ部材35の付勢力に反して駆動部材41を引っ張る。これにより、ガイド扉34が閉鎖状態から開放状態に瞬時に切り替わる。
【0041】
ピストンロッド32が目的位置に到達すると、目的位置検知センサG1がピストンロッド32の位置を検知し、この検知信号に基づいてソレノイド42が停止する。このとき、駆動軸42aと駆動部材41が前方(図6で左側)に移動し、ガイド扉34がバネ部材35に引っ張られてピストンロッド32の側面に摺接する状態となる。そして、ピストンロッド32がスタート位置に戻ると、ガイド扉34がバネ部材35の付勢力により閉鎖状態に戻る。
【0042】
このように扉開放機構36では、ピストンロッド32がスタート位置からナット係止位置に達した瞬間にガイド扉34が自動開放し、ピストンロッド32が目的位置に到達した時点でガイド扉34が自動開放が終了する。この結果、ロッド先端でナットNがガイド扉34の負荷(バネ部材35の反発力)を受けなくなり、安定した姿勢で位置決めピンPに供給される。また、ピストンロッド32がスタート位置に後退するとき、ガイド扉34がバネ部材35で確実に閉鎖状態に切り替わるので、待機スペースRへの新たなナットNの補給も確実に行える。
【0043】
次に、ナット供給装置10における制御器60(図1および図2参照)の構成・作用について説明する。
図2に示すように、制御器60は、ガイド扉34の自動開放のタイミングを制御するとともに、ピストンロッド32の往復移動を制御する。
【0044】
制御器60は、その主要な構成として各種配線の中継端子61、リレー62〜63、および制御タイマ65を備えている。中継端子61には目的位置検知センサG1、係止位置検知センサG2、リレー62〜63および制御タイマ65の各配線が接続される。リレー62〜63は、それぞれ目的位置検知センサG1、係止位置検知センサG2、および制御タイマ65の信号に基づいて各種回路をON・OFFする。
【0045】
制御器60が係止位置検知センサG2からの検知信号を入力すると、この信号に基づいてソレノイド42の電源をOFFからONにする。これにより、ピストンロッド32が係止位置に達した瞬間にソレノイド42が駆動し、ガイド扉34が自動開放することになる。一方、制御器60が目的位置検知センサG1からの検知信号を入力すると、ソレノイド42の電源をOFFに戻す。これにより、ピストンロッド32が目的位置に達した瞬間にソレノイド42が停止し、ガイド扉34の自動開放状態が解除されることになる。
【0046】
制御タイマ65は、ピストンロッド32の駆動開始後にフットスイッチFの通電を制御する機能をもつ。
前述したように、ナット供給装置10の操作は、作業者が溶接を行うタイミングでフットスイッチFのフットペダルを踏み込むことにより行う。この場合、フットペダルを踏み込むと、フットスイッチFがON状態に保持され、ピストンロッド32がスタート位置から目的位置に向けて前進する。
ピストンロッド32が目的位置に到達すると、フットペダルが踏み込まれたままの状態でも、目的位置検知センサG1がピストンロッドの位置を検知してフットスイッチFを強制的にOFF状態にする。これにより、ピストンロッド32が元のスタート位置に戻る。
【0047】
ピストンロッド32が目的位置に達する前にフットペダルの踏み込み(押圧)が解除される場合には、フットスイッチFがON状態からOFF状態に切り替わり、ピストンロッド32が目的位置に達する前にスタート位置に戻る。
【0048】
制御タイマ65を用いる場合、フットペダルの踏み込み(押圧)の後、設定時間だけフットスイッチFがON状態に保たれると、フットペダルの踏み込みが解除されても、フットスイッチFをそのままON状態に保つ。これにより、ピストンロッド32が目的位置に到達する途中でスタート位置に戻るを防止する。なお制御タイマ65の仕様等は特に制限されず、市販のアナログ若しくはデジタルタイマを使用することができる。
【0049】
図9〜図11に制御タイマ65の設定時間を説明するためのタイムチャートを示した。各図において、ピストンロッド32の位置は、「S:スタート位置」、「M:ナット係止位置」、「E:目的位置」とし、ピストンロッド32の1ストロークが経過時間に応じて山型の軌跡になるように表している。
【0050】
制御タイマ65の設定時間は、ピストンロッド32がナット係止位置に達する前の所定時間に設定される。例えば図9に示すように、ピストンロッド32が0.3秒過ぎにナット係止位置に達し、0.5秒後に目的位置に到達する場合には、制御タイマ65の設定時間を0.3秒に設定する。このように制御タイマ65を設定することで、フットペダルを0.3秒以上踏み込んでフットスイッチFをON状態に保てば、その後、フットペダルから足が離れても、ピストンロッド32が確実に目的位置に到達する。つまり、ピストンロッド32がナット係止位置でナットNを係止した後は、ナットNが確実に目的位置に供給されることになる。
【0051】
フットペダルの踏み込み時間が0.3秒に満たない場合には、図10に示すように、フットスイッチFがON状態から強制的にOFF状態に切り替わり、ピストンロッド32が元のスタート位置に戻る。これにより、フットスイッチFが誤操作で一時的にON状態になることがあっても、ピストンロッド32が元のスタート位置に戻り、スポット溶接機の誤動作が防止される。作業者が誤ってフットペダルに触れたような場合にはこのような機能が有効に働く。
【0052】
なお、比較例として、図11には制御タイマ65が省略された場合のタイムチャートを示した。この場合、ピストンロッド32がナット係止位置を経由して目的位置に向かう途中で(図11の場合はほぼ0.4秒後)、フットペダルの踏み込みが解除されると、その時点でフットスイッチFがOFFになり、ピストンロッド32がスタート位置に戻る。このとき、ピストンロッド32にナットNが係止されていると、このナットNが待機スペースRに戻って新たなナットNと共に再度、待機状態に保たれることが起こりうる。
本実施形態のナット供給装置10では、上記のようにピストンロッド32が待機スペースでナットNを一旦係止すると、目的位置までナットNを確実に届けて元のスタート位置に戻る。この結果、待機スペースRに前のナットNが残ってしまうことが無くなり、複数ナットの停滞による供給ミスが防止される。
【0053】
このように本実施形態のナット供給装置10によれば、待機スペースRのナットNをピストンロッド32で目的位置に供給する際に、ロッド先端にナットNを係止すると同時にガイド扉34を自動開放することにより、ナットNがガイド扉34に干渉するのを防止する。この結果、ロッド先端にナットNを傾きの少ない安定した姿勢に保って位置決めピンに供給することができる。
そして、前述したように、ピストンロッド32がナットNを係止した後は、スタート位置に戻ることなく目的位置まで移動するため、前述のガイド扉34の自動開放作用と相俟って、ナットNを1個ずつ確実に位置決めピンに供給することができる。
このように2つの作用を実現する結果、ナットNの供給ミスがほとんど無くなり、スポット溶接の作業の信頼性を大幅に向上させることができる。また、歩留まりの向上にも役立ち、作業コストの低減を図ることが可能になる。
さらには、本実施形態では、ガイド扉34の自動開放の終了タイミングとピストンロッド32の戻りタイミングとを目的位置検知センサG1で併せて検知する。つまり、目的位置検知センサG1が上記2つのタイミングを検知する兼用のセンサとして機能する。これにより、ナット供給ヘッドの構成を簡素化することができる。
【0054】
以上、ナット供給装置10を説明したが、本発明の実施形態はこれに限られることなく、種々の変形・変更を伴ってもよい。
前記実施形態では、スポット溶接機にナット供給装置1を使用しているが、プロジェクション溶接機にナット供給装置1を使用してもよい。自動カシメ機の位置決めピンにクリンチナットを供給する装置としてナット供給装置1を使用することもできる。
【0055】
また、ナット供給装置1の扉開放機構36では、ピストンロッド32が目的位置に到達した時点でガイド扉34の自動開放が終了するように設定されているが、ガイド扉34の開放時間をタイマ等で制御するようにしてもよい。ガイド扉34の自動開放後、ピストンロッド32が再びガイド扉34の内側に戻る前のタイミングで自動開放が終了するように開放時間を設定すれば、前記実施形態と同様な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0056】
1・・スポット溶接機、2a・・下部電極、2b・・上部電極、
10・・ナット供給装置、10A・・フィーダ本体、10B 供給ヘッド、
15・・固定アーム、21・・ホッパ、22・・調整ゲート、23・・レベラー、
24・・ボウル、27・・ナット供給ホース、28,29・・接続コード、
31・・シリンダ、32・・ピストンロッド、34・・ガイド扉、34a・・支軸、
35・・バネ部材、36・・扉解放機構、37・・ナット供給シュート、
38a,38b・・エアホース、39・・電磁コイル、41・・駆動部材、
42・・ソレノイド、42a・・駆動軸、44・・台座、45・・固定ボルト、
60・・制御器、61・・中継端子、62,63,64・・リレー、65・・制御タイマ、
F・・フットスイッチ(押圧スイッチ)、P・・位置決めピン、R・・待機スペース、
W・・ワーク、G1・・目的位置検知センサ、G2・・係止位置検知センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接機等の接合機の位置決めピンにナットを1個ずつ供給するナット供給装置であって、
前記接合機の側方に前記位置決めピンに向けて設置されるシリンダと、
このシリンダ内のスタート位置から前記位置決めピンに達する目的位置まで往復移動可能に設けられるピストンロッドと、
前記ピストンロッドの往復通路を開閉可能に設けられ、閉鎖状態の場合に前記往復通路の待機スペースにナットを保持するガイド扉と、
前記ガイド扉を閉鎖方向に付勢するバネ部材と、
前記ガイド扉を前記バネ部材の付勢力に逆らって開放する扉開放機構と、
前記シリンダの外側から前記往復通路の待機スペースにナットを1個ずつ補給するナット供給シュートとを備え、
前記ピストンロッドがスタート位置から目的位置へ前進するとき、前記ピストンロッドの先端に前記待機スペースのナットを串刺し状に係止し、前記扉開放機構により前記ガイド扉を開放して前記ナットを前記位置決めピンに供給する一方、
前記ピストンロッドが目的位置からスタート位置に後退するとき、前記ガイド扉を前記バネ部材の付勢力により閉鎖して、前記ナット供給シュートから補給された新たなナットを前記待機スペースに保持するように構成され、しかも、

前記ガイド扉の扉開放機構は、
前記ガイド扉に連結される駆動部材と、
前記駆動部材を駆動して前記ガイド扉を開放するソレノイドと、
前記ピストンロッドがスタート位置から前進して前記待機スペースのナットを係止する時の前記ピストンロッドのナット係止位置を検知する係止位置検知センサと備えており、
前記ピストンロッドがスタート位置からナット係止位置に達したとき、前記係止位置検知センサの検知信号に基づいて前記ソレノイドおよび前記駆動部材を瞬時に駆動して、所定時間だけ前記ガイド扉を自動開放するように構成されており、

さらに、前記ピストンロッドの往復移動制御手段として、
押圧操作でON状態に保持されることにより、前記ピストンロッドをスタート位置から目的位置に向けて前進させる押圧スイッチと、
前記ピストンロッドが目的位置に到達した時に前記ピストンロッドの位置を検知して前記押圧スイッチを強制的にOFF状態にし、前記ピストンロッドを元のスタート位置まで後退させる目的位置検知センサと、
前記ピストンロッドがスタート位置から前進してナット係止位置に達する前の所定のタイミングで前記押圧スイッチを強制的にON状態に保持し、前記押圧スイッチの押圧操作が解除された場合でも、前記ピストンロッドを目的位置まで到達させる制御タイマとを備えたことを特徴とするナット供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−250265(P2012−250265A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125136(P2011−125136)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(311004898)
【Fターム(参考)】