説明

ナット構造および埋め込みナット構造体

【課題】ネジ孔において内径に対する長さの比を抑えるとともに、固定穴の深さに応じて長さを調節して使用することができるナット構造を提供する。
【解決手段】ナット構造20は、第1のネジ孔21aが形成された第1のナット21と、第2のネジ孔22aが形成された第2のナット22と、第1のネジ孔21aの一部を残して第1のネジ孔21aに螺合する第1のネジ溝24aが一端に、第2のネジ孔22aに螺合する第2のネジ溝24aが他端にそれぞれ形成された連結用ネジ体24と、第1のネジ孔21aと第1のネジ溝24aとの接続部分を水密に保持する密封部26と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、躯体に埋め込んで用いられるナット構造、およびこのナット構造を備える埋め込みナット構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンカーボルトを躯体に接続するために、アンカーボルトと接続可能な部材を躯体内に埋め込むことが行われている。
たとえば、特許文献1に記載の固定要素固着用カプセルは、接着用の主剤を収納した容器本体の開口部を、硬化剤および無機質材を固形剤で固形化したキャップによりシールした構造となっている。このカプセルを、コンクリートに形成した穴(固定穴)に挿入しておき、棒状部材をこの穴内に挿入するときにカプセルを割って主剤および固形剤を混合することで、主剤が硬化し、穴内で棒状部材をコンクリートに固着することができる。
しかし、このカプセルを用いた接続方法では、コンクリートに棒状部材を繰り返し接続できないという問題がある。
【0003】
また、特許文献2に記載のアンカーボルトの定着方法では、先端部がテーパー状膨径部となったアンカーボルトにアンカースリ−ブを外挿させた状態で、アンカー穴内に挿入させる。そして、テーパー状膨径部がアンカー穴の膨径底部に達したときに、アンカースリ−ブをアンカー穴側に押圧すると、アンカースリ−ブの先端部がテーパー状膨径部により拡張するので、アンカーボルトがアンカー穴から抜け出ないようになる。
この定着方法では、アンカーボルトとアンカースリ−ブとの間、そしてアンカースリ−ブとアンカー穴との間にガタが生じやすく、アンカーボルトを躯体に安定させて固定することが難しい。
【0004】
特許文献1に記載のカプセルを用いた接続方法における繰り返し接続できないという問題、そして、特許文献2に記載の定着方法におけるガタが生じるという問題を解決するために、以下のような接続構造が検討されている。この接続構造は、躯体に埋め込まれたナット部材(ナット構造)と、このナット部材に螺合するアンカーボルトとで構成される。このように構成することで、躯体にアンカーボルトをガタを抑えて繰り返し接続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−142199号公報
【特許文献2】特開平6−65931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の埋め込まれたナット部材とアンカーボルトとによる接続構造では、アンカーボルトの径方向に作用する剪断力を支持するために、ナット部材を、内部に形成されるネジ孔の内径に対するネジ孔の長さを、たとえば数倍以上と充分に長くしておく必要がある。一般的なネジ切りカッターでは、数十mmの長さのネジ孔までしか形成できないので、たとえば、24mmの径用の、長さ150mmの長いナット部材を製造するためには、特殊な工具を用いる必要がある。
また、躯体に形成される穴も、施工条件や寸法誤差などにより様々な深さのものが形成されるので、穴の深さによらず使用できるナット部材が求められている。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、ネジ孔において内径に対する長さの比を抑えるとともに、固定穴の深さに応じて長さを調節して使用することができるナット構造、およびこのナット構造を躯体に埋め込んだ埋め込みナット構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明のナット構造は、第1のネジ孔が形成された第1のナットと、第2のネジ孔が形成された第2のナットと、前記第1のネジ孔の一部を残して前記第1のネジ孔に螺合する第1のネジ溝が一端に、前記第2のネジ孔に螺合する第2のネジ溝が他端にそれぞれ形成された連結用ネジ体と、前記第1のネジ孔と前記第1のネジ溝との接続部分を水密に保持する密封部と、を備えることを特徴としている。
この発明によれば、第2のナットの第2のネジ孔と連結用ネジ体の第2のネジ溝とが螺合する軸線方向の範囲を調節することで、第1のナットと第2のナットとの距離が変化する。
【0009】
また、上記のナット構造において、前記連結用ネジ体の前記第2のネジ溝は、前記第2のネジ孔の一部を残して前記第2のネジ孔に螺合するように構成され、一端に前記第2のネジ溝を有するとともに、前記第2のナットの前記第2のネジ孔に対して前記連結用ネジ体が螺合する側とは反対側から螺合する調節用ネジ体をさらに備えることがより好ましい。
この発明によれば、第2のナットの第2のネジ孔との調節用ネジ体と第2のネジ溝が螺合する軸線方向の範囲を調節することで、第2のナットと調節用ネジ体との距離が変化する。
【0010】
また、上記のナット構造において、前記調節用ネジ体には、外径が前記第2のネジ溝の外径より大きな大径部が設けられていることがより好ましい。
また、上記のナット構造において、前記密封部は、樹脂、ゴム、油脂および溶接接続部の少なくとも一つを含んで構成されることがより好ましい。
また、上記のナット構造において、前記密封部は、前記連結用ネジ体に設けられ、前記第1のネジ孔の縁部に水密に当接するフランジ部であることがより好ましい。
【0011】
また、本発明の埋め込みナット構造体は、固定穴が開口する基準面が設けられた躯体と、前記固定穴内に、前記第1のナットが前記固定穴の開口側に位置するとともに、前記第1のナットとは反対側の端部が前記固定穴の底部に当接するように配置された上記のいずれか一項に記載のナット構造と、前記ナット構造の外面を前記固定穴内に固定する固定部材と、を備えることを特徴としている。
この発明によれば、ナット構造における第1のナットとは反対側の端部を固定穴の底部に当接させることで、固定穴内でナット構造を上下方向に位置決めした状態で、固定部材によりナット構造を固定穴内に固定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明において、請求項1に記載のナット構造によれば、第1のナットと第2のナットとの距離、すなわちナット構造の全長が変化するため、固定穴の深さに応じてナット構造の長さを調節して使用することができる。また、第1のナットと第2のナットとを軸線方向に接続させた構造となっているため、それぞれナットのネジ孔における内径に対する長さの比を抑え、ナットを備えるナット構造を容易に製造することができる。
密封部により、第1のネジ孔と前記第1のネジ溝との接続部分を通して第1のネジ孔内に液体などが侵入することを防止することができる。
また、請求項2に記載のナット構造によれば、固定穴がより深く形成されている場合にも適応させることができる。
請求項3に記載のナット構造によれば、たとえば、第2のナットと大径部との間に他の部材を挟んだときに、調節用ネジ体を軸線方向に移動しにくくすることができる。
また、請求項4に記載のナット構造によれば、第1のネジ孔と第1のネジ溝との接続部分を、より確実に水密に保持することができる。
請求項5に記載のナット構造によれば、第1のネジ孔の縁部とフランジ部との接続部分を、より確実に水密に保持することができる。
そして、請求項6に記載した本発明の埋め込みナット構造体によれば、躯体に対して第1のナットの第1のネジ孔を精度良く配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態のナット構造の側面断面図である。
【図2】同ナット構造を備える本実施形態の埋め込みナット構造体の正面断面図である。
【図3】同埋め込みナット構造体の製造方法を説明する図である。
【図4】同埋め込みナット構造体の製造時の変形例を説明する正面断面図である。
【図5】同ナット構造の変形例を示す側面断面図である。
【図6】同ナット構造の変形例を示す側面断面図である。
【図7】同ナット構造の変形例を示す側面断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態の埋め込みナット構造体の正面断面図である。
【図9】図8中の切断線A−Aの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明に係るナット構造の第1実施形態を、図1から図7を参照しながら説明する。
図1に示すように、ナット構造20は、多角形の筒状に形成された上部ナット(第1のナット)21、中部ナット(第2のナット)22および下部ナット(第2のナット)23と、上部ナット21と中部ナット22、中部ナット22と下部ナット23をそれぞれ接続する連結用ネジ体24、25と、上部ナット21の内周面に形成されたネジ孔(第1のネジ孔)21aと連結用ネジ体24に形成されたネジ溝24aとの接続部分を水密に保持する密封部26とを有している。
【0015】
本実施形態では、上部ナット21、中部ナット22および下部ナット23は、同一の形状に形成されている。すなわち、上部ナット21のネジ孔21a、中部ナット22に形成されたネジ孔(第2のネジ孔)22aおよび下部ナット23に形成されたネジ孔(第2のネジ孔)23aは、同一の内径およびピッチに設定されている。
連結用ネジ体24、連結用ネジ体25には、全長にわたりネジ溝(第1のネジ溝、第2のネジ溝)24a、ネジ溝(第1のネジ溝、第2のネジ溝)25aがそれぞれ形成されている。
連結用ネジ体24のネジ溝24aは、上部ナット21のネジ孔21aの一部を残してネジ孔21aに一端が螺合するとともに、中部ナット22のネジ孔22aの一部を残してネジ孔22aに他端が螺合している。同様に、連結用ネジ体25のネジ溝25aは、中部ナット22のネジ孔22aにおけるネジ溝24aが螺合していない部分に一端が螺合するとともに、下部ナット23のネジ孔23aの一部を残してネジ孔23aに螺合している。
【0016】
密封部26は、ネジ溝24aとネジ孔21aの端部との接続部分に配置され、本実施形態では樹脂で形成された接着剤が用いられている。密封部26は、ネジ溝24aにおける軸線C方向の所定の位置に、全周にわたり配置されている。
下部ナット23において、連結用ネジ体25が螺合する側と反対側の端部には、調節用ネジ体27が接続されている。
調節用ネジ体27は、ネジ溝(第2のネジ溝)27aと、ネジ溝27aの端部に設けられた大径部27bとを有している。大径部27bは、外径がネジ溝27aの外径より大きな円板状に形成されている。ネジ溝27aは、大径部27bが下部ナット23から所定の距離離間するように、下部ナット23のネジ孔23aに螺合している。
以上のように構成されたナット構造20は、それぞれのネジ孔とネジ溝とが螺合する範囲を調節することで、軸線C方向の長さを変化させることができる。
【0017】
続いて、前記実施形態のナット構造20を備える本実施形態の埋め込みナット構造体について説明する。以下の実施形態では、埋め込みナット構造体が建築物の基礎施工用に用いられる場合を例にとって説明する。
図2に示すように、本実施形態の埋め込みナット構造体1は、固定穴11が開口する基準面12が設けられた鉄筋コンクリート(躯体)10と、固定穴11内に配置された前述のナット構造20と、ナット構造20の外面を固定穴11内に固定するグラウト材(固定部材)30とを備えている。
【0018】
固定穴11は、型枠を配置してからコンクリートを流入させる箱抜きや、コンクリートカッターなどを用いた穿孔により、鉄筋コンクリート10に形成される。
ナット構造20は、固定穴11内で、上部ナット21が固定穴11の開口11a側に位置するとともに、調節用ネジ体27の大径部27bが固定穴11の底面に当接するように配置されている。さらに、ナット構造20は、上部ナット21のネジ孔21aの開口が上方を向くとともに、上部ナット21におけるこの開口側の端面が基準面12と同一面上になるように配置されている。
グラウト材30としては、セメントやモルタルなどを適宜選択して用いることができる。グラウト材30の上面は、鉄筋コンクリート10の基準面12と同一面上になるように構成されている。
以上のように、ナット構造20は鉄筋コンクリート10に埋め込まれた状態に配置されている。
【0019】
鉄筋コンクリート10の基準面12、グラウト材30の上面、および上部ナット21の端面は全体として一つの平面を構成し、この一つの平面の上には、板状のベース材41が配置されている。ベース材41には、板厚方向に貫通孔41aが形成されている。
ベース材41上には、ネジ溝24aと同一の外径およびピッチに形成されたネジ溝42a、およびネジ溝42aの一端に設けられた鍔部42bを有するネジ部材42が配置されている。そして、鍔部42bがベース材41の上面に係止され、ネジ溝42aが貫通孔41aを通してネジ孔21aに螺合することで、ベース材41が鉄筋コンクリート10上に固定されている。
【0020】
次に、以上のように構成されたナット構造20および埋め込みナット構造体1の製造方法について説明する。
まず、鉄筋コンクリート10に穿孔などにより、所定の深さの固定穴11を形成する。
続いて、上部ナット21のネジ孔21aの一部を残してネジ孔21aに連結用ネジ体24の一端を螺合させる。このとき、上部ナット21と連結用ネジ体24との接続部に密封部26を全周にわたり配置する。そして、ナット構造の全長が固定穴11の深さと等しくなるように、ナット構造を構成する追加の部材となるナット22、23、連結用ネジ体25および調節用ネジ体27を選択し、それぞれのネジ孔とネジ溝とが螺合する範囲を調節し、本実施形態のナット構造20を構成する。
【0021】
次に、図3に示すように、固定穴11内で、上部ナット21が固定穴11の開口11a側に位置するとともに、調節用ネジ体27の大径部27bが固定穴11の底面に当接するように配置する。このとき、上部ナット21の端面は基準面12と同一面上に配置される。
硬化する前の液状のグラウト材を、グラウト材が上部ナット21内に入らないように固定穴11に注入する。ナット21と連結用ネジ体24との接続部には密封部26が配置されているので、上部ナット21内に液状のグラウト材が流れ込むのが防止される。
この状態で所定の時間放置することで、液状のグラウト材が硬化し、図1に示すようにグラウト材30となる。以上により、本実施形態の埋め込みナット構造体1が製造される。
【0022】
以上説明したように、本実施形態のナット構造20によれば、中部ナット22のネジ孔22aと連結用ネジ体24のネジ溝24aとが螺合する軸線C方向の範囲を調節することで、上部ナット21と中部ナット22との距離が変化しナット構造20の全長が変化する。このため、固定穴11の深さに応じて、ナット構造20の長さを調節して使用することができる。
また、ナット構造20は、ナット21、22、23を軸線C方向に接続させた構造となっている。したがって、それぞれナット21、22、23のネジ孔21a、22a、23aにおける内径に対する長さの比を抑え、従来の接続構造のように特殊な工具を用いることなく、ナット21、22、23を備えるナット構造20を容易に製造することができる。
密封部26により、ネジ孔21aとネジ溝24aとの接続部分を通して上部ナット21のネジ孔21a内に液状のグラウト材30が侵入することを防止することができる。
【0023】
下部ナット23に螺合する調節用ネジ体27を備えるため、固定穴11がより深く形成されている場合にも適応させることができる。
調節用ネジ体27には大径部27bが設けられているため、下部ナット23と大径部27bとの間にグラウト材30が注入され硬化したときに、調節用ネジ体27を軸線C方向に移動しにくくすることができる。
また、密封部26として樹脂で形成された接着剤が用いられているため、ネジ孔21aとネジ溝24aとの接続部分を、より確実に水密に保持することができる。
【0024】
ナット構造20は、複数のナットを軸線C方向に接続することで、ネジ孔21aの内径に対して充分長く構成することができる。このため、軸線Cに直交する方向に作用する剪断力に対する耐久性を向上させることができる。
そして、本実施形態の埋め込みナット構造体1によれば、調節用ネジ体27の大径部27bを固定穴11の底部に当接させることで、固定穴11内でナット構造20を上下方向に位置決めした状態で、グラウト材30によりナット構造20を固定穴11内に固定する。したがって、鉄筋コンクリート10に対して上部ナット21のネジ孔21aを精度良く配置することができる。
【0025】
なお、前記埋め込みナット構造体1の製造時において、図4に示すように、液状のグラウト材を固定穴11に注入する前に、上部ナット21にネジ部材42を螺合させておいてもよい。このとき、上部ナット21とネジ部材42の鍔部42bとの間にOリング45などを挟んで、ネジ部材42を上部ナット21に水密に接続することが好ましい。
このような手順を行うことで、上部ナット21内に液状のグラウト材が流れ込むのを、確実に防止することができる。
【0026】
また、前記実施形態においては、ナット構造は、以下の図5〜図7に説明するように様々な構成とすることができる。
たとえば、図5に示すナット構造50は、前記第1実施形態のナット構造20における下部ナット23、連結用ネジ体25および調節用ネジ体27が備えられていない構成となっている。ナット構造50は、このような簡単な構成であっても、中部ナット22のネジ孔22aと連結用ネジ体24のネジ溝24aとが螺合する範囲を調節することで、ナット構造50の軸線C方向の長さを変化させることができる。
なお、本変形例において、ナット構造に備えられるナットの数は、2つ以上であればいくつでもよく、この場合には、ナット構造に備えられる数のナットを接続するための連結用ネジ体がナット構造に備えられる。
【0027】
図6に示すナット構造60は、前記第1実施形態のナット構造20の中部ナット22、連結用ネジ体24、25に代えて、中部ナット61、連結用ネジ体62、63をそれぞれ備えている。
中部ナット61は、中部ナット22より外径、および中部ナット61に形成されるネジ溝61aの内径がそれぞれ大きく設定されている。
連結用ネジ体62は、前述のネジ溝24aが一端に形成されているとともに、中部ナット61のネジ溝61aに螺合するネジ溝62aが他端に形成されている。また、連結用ネジ体62には、ネジ溝24aとネジ溝62aとの間にネジ溝62aより大径のフランジ部62bが設けられている。
同様に、連結用ネジ体63は、中部ナット61のネジ溝61aに螺合するネジ溝63aが一端に形成されているとともに、前述のネジ溝25aが他端に形成されている。また、連結用ネジ体63には、ネジ溝63aとネジ溝25aとの間にネジ溝63aより大径のフランジ部63bが設けられている。
【0028】
本変形例のように、互いに内径の異なる上部ナット21および中部ナット61であっても、連結用ネジ体62を用いることで互いに接続してナット構造60を構成することができる。
さらに、中部ナット61の外径は上部ナット21の外径より大きく設定されているので、ナット構造60の周囲にグラウト材30が注入され硬化したときに、ナット構造60を軸線C方向にさらに移動しにくくすることができる。
【0029】
図7に示すナット構造70は、前記変形例のナット構造60において密封部26が備えられず、連結用ネジ体62に設けられたフランジ部62bが上部ナット21のネジ孔21aの縁部に水密に当接するように構成したものである。
本変形例においては、フランジ部62bが密封部を構成する。
ナット構造70をこのように構成することで、ネジ孔21aの縁部とフランジ部62bとの接続部分を、より確実に水密に保持することができる。
【0030】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図8および図9を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図8および図9に示すように、本実施形態の埋め込みナット構造体2は、前記第1実施形態の埋め込みナット構造体1において、ナット構造20に代えてナット構造80を備えている。ナット構造80は、前記ナット構造20の上部ナット21、密封部26、および調節用ネジ体27に代えて、上部ナット81、前述のOリング45、および調節用ネジ体82を備えている。
【0031】
上部ナット81は、上部ナット21の外周面に、固定穴11の内面向かって延びる複数のスペーサ81aが形成されたものである。スペーサ81aの先端は、固定穴11の内面に当接しているか、固定穴11の内面からわずかに離間している。ここで、このスペーサ81aは上部ナット21と一体形成または溶接等により一体化されていてもよいし、上部ナット21からの出寸法を微調節できるよう、ネジ式構造等で接続し、長さ可変としてもよい。
隣り合うスペーサ81aの間には隙間が形成され、液状のグラウト材は、この隙間を通して固定穴11の下部に流れ込む。
上部ナット81と中部ナット22との間には、Oリング45が挟み込まれていて、液状のグラウト材が上部ナット81内に流れ込まないように密封している。
調節用ネジ体82の大径部27bにおけるネジ溝27aとは反対側の面には、ドーム状に突出した支持部82aが形成されている。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の埋め込みナット構造体2によれば、ネジ孔21a、22a、23aにおいて内径に対する長さの比を抑えるとともに、固定穴11の深さに応じて長さを調節して使用することができる。
さらに、上部ナット81および調節用ネジ体82を有するので、ナット構造80をスペーサ81aの先端および支持部82aで支持することで位置決めし、ナット構造80を固定穴11内で安定させることができる。
【0033】
以上、本発明の第1実施形態および第2実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更なども含まれる。さらに、各実施形態で示した構成のそれぞれを適宜組み合わせて利用できることは、言うまでもない。
たとえば、前記第1実施形態では、上部ナット21として多角形のナットを用いたが、これに代えてリングナットとしてもよい。
また、前記第1実施形態では、密封部26として樹脂で形成された接着剤を用いた。しかし、これに代えて、密封部が、樹脂、ゴム、油脂、および溶接接続部(ネジ溝24aとネジ孔21aとを溶接により接続した部分)の少なくとも一つを含んで構成されるものとしてもよい。密封部の具体的な例としては、コーティング材、Oリングを挙げることができる。
前記第2実施形態においても、Oリング45に代えて、このような密封部を用いることができる。
【0034】
また、前記第1実施形態および第2実施形態では、大径部27bの厚さ方向に見たときに大径部27bが円形に形成されているとした。しかし、厚さ方向に見たときの大径部27bの形状は円形に限ることなく、径方向における最大寸法がネジ溝27aの外径より大きくなれば、楕円形状や多角形状などでもよい。
また、前記第1実施形態および第2実施形態とも、基準面12を鉄筋コンクリート10の上面とほぼ同じ高さに設定して説明したが、例えば基準面12を鉄筋コンクリート10の上面より30mm程度上側に設定するなど、基準面12を鉄筋コンクリート10の上面より上下させてもよい。
また、前記第1実施形態および第2実施形態とも、ネジはすべて同一方向ネジである必要はなく、例えばネジ溝62aまたはネジ溝63aを逆ネジとするなど、一部のネジ方向を変えてもよい。
また、前記第1実施形態および第2実施形態では、埋め込みナット構造体が建築物の基礎施工用に用いられる場合を例にとって説明したが、埋め込みナット構造体はこれに限ることなく、たとえば、家具や住宅用としても用いることができる。この場合には、固定部材としては樹脂などを用いることができる。
【0035】
前記第1実施形態および第2実施形態では、それぞれのナットの軸線C方向の長さは互いに異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1、2 埋め込みナット構造体
10 鉄筋コンクリート(躯体)
11 固定穴
11a 開口
12 基準面
20、50、60、70、80 ナット構造
21、81 上部ナット(第1のナット)
21a ネジ孔(第1のネジ孔)
22、61 中部ナット(第2のナット)
22a、23a、61a ネジ孔(第2のネジ孔)
23 下部ナット(第2のナット)
24、25、62、63 連結用ネジ体
24a、25a ネジ溝(第1のネジ溝、第2のネジ溝)
26 密封部
27、82 調節用ネジ体
27a、62a ネジ溝(第2のネジ溝)
27b 大径部
30 グラウト材(固定部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のネジ孔が形成された第1のナットと、
第2のネジ孔が形成された第2のナットと、
前記第1のネジ孔の一部を残して前記第1のネジ孔に螺合する第1のネジ溝が一端に、前記第2のネジ孔に螺合する第2のネジ溝が他端にそれぞれ形成された連結用ネジ体と、
前記第1のネジ孔と前記第1のネジ溝との接続部分を水密に保持する密封部と、
を備えることを特徴とするナット構造。
【請求項2】
前記連結用ネジ体の前記第2のネジ溝は、前記第2のネジ孔の一部を残して前記第2のネジ孔に螺合するように構成され、
一端に前記第2のネジ溝を有するとともに、前記第2のナットの前記第2のネジ孔に対して前記連結用ネジ体が螺合する側とは反対側から螺合する調節用ネジ体をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のナット構造。
【請求項3】
前記調節用ネジ体には、外径が前記第2のネジ溝の外径より大きな大径部が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のナット構造。
【請求項4】
前記密封部は、樹脂、ゴム、油脂および溶接接続部の少なくとも一つを含んで構成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のナット構造。
【請求項5】
前記密封部は、前記連結用ネジ体に設けられ、前記第1のネジ孔の縁部に水密に当接するフランジ部であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のナット構造。
【請求項6】
固定穴が開口する基準面が設けられた躯体と、
前記固定穴内に、前記第1のナットが前記固定穴の開口側に位置するとともに、前記第1のナットとは反対側の端部が前記固定穴の底部に当接するように配置された請求項1〜5のいずれか一項に記載のナット構造と、
前記ナット構造の外面を前記固定穴内に固定する固定部材と、
を備えることを特徴とする埋め込みナット構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−41955(P2012−41955A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181632(P2010−181632)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】