説明

ナノインプリントモールドの製造方法、光学素子の製造方法、およびレジストパターンの形成方法

【課題】 本発明は、可変成型ビーム方式の電子線描画装置を用いて、実用的な生産性で、200nm前後の円形パターンが規則的に配列したレジストパターンを形成し、前記レジストパターンからナノ凹凸構造体を形成することができるナノインプリントモールドの製造方法、光学素子の製造方法、およびレジストパターンの形成方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 電子線の有するビームぼけの現象を積極的に利用することにより、直径100nm〜250nmの円形パターンを、可変成型ビーム方式の電子線描画装置を用いて1ショットの矩形ビームで描画し、さらに、この描画方法により形成したレジストパターンをマスクに用いて所望の3次元構造を有するナノインプリントモールドを製造することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノインプリントモールドの製造方法、光学素子の製造方法、およびレジストパターンの形成方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、光学素子、特に発光ダイオードの発光面に設けられるナノ凹凸構造体を製造するためのナノインプリントモールドの製造方法、そのモールドを用いた光学素子の製造方法、およびレジストパターンの形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電球、蛍光灯に比べ、発光ダイオード(以下、「LED」という)は、小型、長寿命、超軽量、低発熱性であるという特徴を有しており、現在、携帯電話、各種表示パネル、信号機等に使用されている。また、近年、LEDの発光効率向上とともに、低炭素化社会の要請から、従来の電球や蛍光灯に代わって、液晶表示装置用のバックライト、自動車のヘッドライト、一般の照明器具等への応用が期待されている。
【0003】
LEDは、n型ドーピング半導体層とp型ドーピング半導体層とで発光層を挟持した構造を有し、n型ドーピング半導体層からの電子がp型ドーピング半導体層からの電子正孔と発光層において再結合するとき発光する。そして、LEDの発光効率は、発光層で発光する際の内部量子効率と、その光を外部に取り出す外部取出効率により決まる。
【0004】
しかしながら、LEDの発光層で発光された光は、LEDを構成する半導体の最外層と空気層(若しくは保護膜)との界面等で、屈折率の違いにより反射されてしまい、外部取出効率が低くなるという問題がある。
【0005】
この外部取出効率を高めるために、LEDの発光面に、光の反射防止や回折格子などの機能を備えたナノサイズの凹凸構造体を設ける方法があり、例えば、ブロックコポリマーの自己組織化を用いたナノ構造体をLEDの発光面に形成する方法が提案されている(特許文献1)。
【0006】
ブロックコポリマーとは、二つのホモポリマーが1箇所だけ化学結合した構造をもつポリマーであり、このブロックコポリマーを薄膜にしてアニールすると、各々のポリマーの反発力から相分離を起こしてドット状のナノ構造を形成する。これが自己組織化である。
【0007】
この自己組織化によってできた相分離構造をマスクにして基板をエッチングすることにより、図9に示すような、発光層32の上に設けられた半導体発光素子基板31の表面に、図10に示すような、屈折率勾配構造を成す円錐部34、回折格子構造を成す円柱部35、屈折率勾配構造を成すメサ部36からなるナノ凹凸構造体33を形成することができる。
【0008】
LEDの表面にナノメートルサイズの規則的構造(凹凸)を形成した場合、光は凹凸領域を屈折率が半導体表面から空気まで滑らかに変化する層と感じるようになり、そのため、界面での反射は減少し、外部取出効率が高くなる。
【0009】
上述のようなナノ凹凸構造体33を設けたLEDにおいては、臨界角以内の角度で界面に入射する光のほぼ全てを外部に取り出すことが可能であり、さらに、臨界角よりも広角で入射した光に対しては、図11に示すように、回折格子の効果によって−1次回折光として外部へ取り出すことが可能となる。
【0010】
この−1次回折光取り出しのための最適な凹凸間隔(円柱の間隔)は、200nm前後である。したがって、ナノ凹凸構造体33の円柱部35の直径も200nm前後が最適になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−108635号公報
【特許文献2】米国特許第5772905号
【特許文献3】特開2008−76922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述のブロックコポリマーの自己組織化を用いた形成方法では、ナノ凹凸構造体の円柱の直径や間隔を、所定の範囲内に制御することは困難であり、それゆえ、外部取出効率を高めたLEDを設計通りに製造することも困難であった。
【0013】
ここで、微細なパターンを設計通りに形成する技術として、半導体製造の技術分野におけるレーザ描画技術や電子線描画技術がある。また、形成した微細なパターンを等倍転写して複製物を量産する技術として、ナノインプリント技術がある(特許文献2)。
【0014】
したがって、上述のようなレーザ描画技術や電子線描画技術を用いて直径200nm前後の円形のレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクに用いて所望の3次元構造を有するナノインプリントモールドを製造することができれば、上記の円柱の直径や間隔を所定の範囲内に制御したナノ凹凸構造体を有するLEDを量産することが可能となる。
【0015】
しかしながら、一般に、レーザ描画で形成できる円形パターンの直径は250nm程度より大きいものであり、上述のような200nm前後の規則的構造、すなわち、200nm前後の円形パターンの形成は、レーザ描画技術では困難である。
【0016】
次に、電子線描画技術について検討する。現在市販されている電子線描画装置には、主に研究開発用途のスポットビーム方式の電子線描画装置と、主にフォトマスク等の量産製造用途の可変成型ビーム方式の電子線描画装置がある。
【0017】
前者のスポットビーム方式の電子線描画装置では、ビーム電流の大きさに応じてその直径サイズを変えることができる円形ビーム(スポットビーム)を用いるため、本来、円形パターンの形成には適しているが、スポットビーム径は最大でも100nm程度である。オーバー露光などを施すことで200nm程度であれば形成できる可能性もあるが、スポットビーム方式の電子線描画装置はビーム電流の値が低いため描画速度が遅く、実用的な生産性を得ることは、やはり困難である。
【0018】
一方、後者の可変成型ビーム方式の電子線描画装置は、スポットビーム方式よりも描画速度が速く、1ショットで形成できる矩形ビームのサイズも200nm角程度を形成することが可能である。
【0019】
しかしながら、従来においては、可変成型ビーム方式の電子線描画装置を用いて、水平や垂直方向以外の斜め線等を含む図形を描画する場合には、目的の図形よりも格段に小さな複数の矩形ショットに分割して描画しているため(特許文献3)、ショット数の増大とともに描画時間も増大してしまい、生産性が落ち、製造コストも高くなるという問題がある。
【0020】
例えば、図12に示す例は、1つの円パターン(図12(a))の曲線を忠実に形成するために極めて小さな矩形ショット41で分割した様子を示している。この例では、1ショットで形成できる同サイズの矩形パターンと比較して25倍の描画時間がかかることになる。
【0021】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、可変成型ビーム方式の電子線描画装置を用いて、実用的な生産性で、200nm前後の円形パターンが規則的に配列したレジストパターンを形成し、前記レジストパターンからナノ凹凸構造体を形成することができるナノインプリントモールドの製造方法、光学素子の製造方法、およびレジストパターンの形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者は、種々研究した結果、電子線の有するビームぼけの現象を積極的に利用することにより、直径100nm〜250nmの円形パターンを、可変成型ビーム方式の電子線描画装置を用いて1ショットの矩形ビームで描画できることを見出し、さらに、この描画方法により形成したレジストパターンをマスクに用いて所望の3次元構造を有するナノインプリントモールドを製造することにより、設計通りのナノ凹凸構造体を表面に有する光学素子を、生産性良く製造できることを見出して本発明を完成したものである。
【0023】
すなわち、本発明の請求項1に係る発明は、基材上にポジ型またはネガ型の電子線レジストを形成し、前記電子線レジストに可変成型ビーム方式の電子線描画装置を用いて円形のレジストパターンを形成し、前記レジストパターンをマスクに用いて所望の3次元構造を形成するナノインプリントモールドの製造方法であって、前記電子線描画装置のビームブラーの大きさ(σ)と、可変成型で形成する正方形の辺の長さ(X)と、電子線レジストに形成される円形パターンの直径(D)との関係を予め求めておき、前記関係に基づいて、ビームブラーの大きさ(σ)及び/又は正方形の辺の長さ(X)を設定することにより、前記電子線レジストに、1ショットの矩形ビーム照射で、所望の直径を有する円形のレジストパターンを形成することを特徴とするナノインプリントモールドの製造方法である。
【0024】
また、本発明の請求項2に係る発明は、前記レジストパターンの直径が、前記可変成型で形成する正方形の対角線の長さよりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のナノインプリントモールドの製造方法である。
【0025】
また、本発明の請求項3に係る発明は、前記レジストパターンの直径が、100nm〜250nmであることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のナノインプリントモールドの製造方法である。
【0026】
また、本発明の請求項4に係る発明は、前記ビームブラーの大きさ(σ)が、前記レジストパターンの直径の0.4倍から0.8倍の大きさであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のナノインプリントモールドの製造方法である。
【0027】
また、本発明の請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のナノインプリントモールドの製造方法により製造したモールドを用い、半導体発光素子基板上に硬化性樹脂を配し、前記硬化性樹脂と前記モールドを接触させた状態で前記硬化性樹脂を硬化させることにより、前記半導体発光素子基板上に所望の凸状構造を形成することを特徴とする光学素子の製造方法である。
【0028】
また、本発明の請求項6に係る発明は、前記半導体発光素子基板に対して化学的に不活性なガスを用いて物理的にエッチングすることにより、円錐部、円柱部、メサ部の3つの構造部からなるナノ凹凸構造体を形成することを特徴とする請求項5に記載の光学素子の製造方法である。
【0029】
また、本発明の請求項7に係る発明は、可変成型ビーム方式の電子線描画装置を用いたレジストパターンの形成方法であって、前記電子線描画装置のビームブラーの大きさ(σ)と、可変成型で形成する正方形の辺の長さ(X)と、電子線レジストに形成される円形パターンの直径(D)との関係を予め求めておき、前記関係に基づいて、ビームブラーの大きさ(σ)及び/又は正方形の辺の長さ(X)を設定することにより、前記電子線レジストに、1ショットの矩形ビーム照射で、所望の直径を有する円形のレジストパターンを形成することを特徴とするレジストパターンの形成方法である。
【0030】
また、本発明の請求項8に係る発明は、前記レジストパターンの直径が、前記可変成型で形成する正方形の対角線の長さよりも小さいことを特徴とする請求項7に記載のレジストパターンの形成方法である。
【0031】
また、本発明の請求項9に係る発明は、前記レジストパターンの直径が、100nm〜250nmであることを特徴とする請求項7〜8のいずれかに記載のレジストパターンの形成方法である。
【0032】
また、本発明の請求項10に係る発明は、前記ビームブラーの大きさ(σ)が、前記レジストパターンの直径の0.4倍から0.8倍の大きさであることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のレジストパターンの形成方法である。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、円形のレジストパターンを、可変成型ビーム方式の電子線描画装置を用いて1ショットの矩形ビーム照射で描画できるため、実用的な生産性で、光学素子等に用いられる規則的に配列した円形のレジストパターンを形成することができる。
【0034】
そして、前記レジストパターンをマスクに用いて所望の3次元構造を有するナノインプリントモールドを製造することができ、このモールドを用いてナノインプリントすることにより、円柱の直径や間隔を所定の範囲内に制御したナノ凹凸構造体を有する設計通りのLEDを量産することができることになる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係るナノインプリントモールドの一例を説明するための図であり、(a)は転写パターン部を拡大した平面図であり、(b)は(a)におけるA−A断面図である。
【図2】本発明に係るナノインプリントモールドの製造方法の一例を示す工程図である。
【図3】本発明に係る製造方法により製造されたナノインプリントモールドを使用したインプリント方法の一例を説明するための工程図である。
【図4】本発明に係る可変成型ビーム方式の描画装置を用いて円形ビームを形成する方法を示す図であり、加速電圧が20kVのシミュレーション結果を示す。
【図5】本発明に係る可変成型ビーム方式の描画装置を用いて円形ビームを形成する方法を示す図であり、加速電圧が50kVのシミュレーション結果を示す。
【図6】本発明に係る可変成型ビーム方式の描画装置を用いて円形ビームを形成する方法を示す図であり、加速電圧が100kVのシミュレーション結果を示す。
【図7】本発明に係るナノインプリントモールドの円形パターンを、可変成型ビーム方式の描画装置を用いて形成した一例を示す図であり、(a)はナノ凹凸構造体の設計パターン、(b)は描画パターンを示す。
【図8】図7における描画パターンを本発明に係る方法で形成したレジストパターンを示す図である。
【図9】発光表面にナノ凹凸構造体を有する発光素子の概略断面図である。
【図10】図9におけるナノ凹凸構造体を説明するための拡大図である。
【図11】図10におけるナノ凹凸構造体の機能を説明するための図である。
【図12】可変成型ビーム方式の描画装置を用いて円形パターンを形成する従来の方法を説明する図であり、(a)は円形パターン、(b)は描画パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係るナノインプリントモールドの製造方法およびレジストパターンの形成方法について説明する。
[レジストパターンの形成方法]
まず、本発明に係るレジストパターンの形成方法について説明する。
(ビームブラーの検討)
電子線描画においては、電子の持つ負電荷の反発力に起因するクーロン効果(若しくは、空間電荷効果とも呼ぶ)によって、ビームがぼけてしまう現象が生じる。このビームのぼけ量をビームブラー(σ)と呼び、通常、可変成型ビーム方式の電子線描画装置においては、様々な形状や大きさの全ての描画パターンで設計どおりのパターンを得るために、このビームブラーを極力小さくすることが求められる。
【0037】
ここで、一般に、ビームブラー(σ)は、電子線の電流(I)に比例して大きくなり、加速電圧(V)の3/2乗に反比例する。それゆえ、ビームブラー(σ)を小さくするには、加速電圧(V)を高くすることが有効であり、高解像度を要求される描画装置では、50kV〜100kVの加速電圧が用いられている。
【0038】
逆に、ビームブラー(σ)を大きくするには、上記の電流(I)を大きくすることや、加速電圧(V)を小さくすることで、操作できることになる。
【0039】
本発明者は、このビームブラー(σ)を積極的に利用することにより、矩形ビームをぼかすことで円形ビームを得ることを検討し、シミュレーションを行った。
(シミュレーション)
3次元電子線リソグラフィシミュレーター(みずほ情報総研、FabMeister(登録商標)−EL)を用いて、Si(シリコン)上に形成した電子線レジスト(100nm厚)内のエネルギー蓄積の様子を計算した。シミュレーション条件は以下のとおりである。
【0040】
矩形ビームは正方形とし、一辺の長さ(X)を160nm、200nm、240nmの3種類について計算した。
【0041】
加速電圧(V)は、20kV、50kV、100kVの3種を計算した。
【0042】
ビームブラー(σ)は、20nmステップで0nm〜160nmの範囲を計算した。
【0043】
露光量は、加速電圧が20kVの時の露光量を10μC/cm2として、ビームブラーが無い場合(σ=0nm)に、Xが240nmの矩形中央部にほぼ同等のエネルギーが蓄積するように、50kV、100kVの露光量を設定した。
【0044】
シミュレーション結果を、図4〜図6に示す。なお、ビームブラー(σ)が0nmおよび20nmでは、レジストパターンは矩形状であるため、図示は省略している。
【0045】
まず、加速電圧が20kVの場合には、図4に示すように、矩形ビームの辺(X)が160nmにおいて、ビームブラー(σ)が60nm〜120nmの範囲で、直径(D)が160nm程度の円形のエネルギー蓄積分布を得ることが可能であるとの結果が得られた。
【0046】
また、矩形ビームの辺(X)が200nmにおいては、ビームブラー(σ)が80nm〜140nmの範囲で、直径(D)が200nm程度の円形のエネルギー蓄積分布を得ることが可能であるとの結果が得られた。
【0047】
また、矩形ビームの辺(X)が240nmにおいては、ビームブラー(σ)が120nm〜160nmの範囲で、直径(D)が、240nm程度の円形のエネルギー蓄積分布を得ることが可能であるとの結果が得られた。
【0048】
次に、加速電圧が50kVの場合には、図5に示すように、矩形ビームの辺(X)が160nmにおいて、ビームブラー(σ)が80nm〜120nmの範囲で、直径(D)が160nm程度の円形のエネルギー蓄積分布を得ることが可能であるとの結果が得られた。
【0049】
また、矩形ビームの辺(X)が200nmにおいては、ビームブラー(σ)が80nm〜140nmの範囲で、直径(D)が200nm程度の円形のエネルギー蓄積分布を得ることが可能であるとの結果が得られた。
【0050】
また、矩形ビームの辺(X)が240nmにおいては、ビームブラー(σ)が100nm〜160nmの範囲で、直径(D)が、240nm程度の円形のエネルギー蓄積分布を得ることが可能であるとの結果が得られた。
【0051】
続いて、加速電圧が100kVの場合には、図6に示すように、矩形ビームの辺(X)が160nmにおいて、ビームブラー(σ)が80nm〜120nmの範囲で、直径(D)が160nm程度の円形のエネルギー蓄積分布を得ることが可能であるとの結果が得られた。
【0052】
また、矩形ビームの辺(X)が200nmにおいては、ビームブラー(σ)が100nm〜160nmの範囲で、直径(D)が200nm程度の円形のエネルギー蓄積分布を得ることが可能であるとの結果が得られた。
【0053】
また、矩形ビームの辺(X)が240nmにおいては、ビームブラー(σ)が120nm〜160nmの範囲で、直径(D)が、240nm程度の円形のエネルギー蓄積分布を得ることが可能であるとの結果が得られた。
【0054】
上述のように、いずれの加速電圧においても、ビームブラー(σ)を大きくしていくことで、矩形のビームを円形にすることができることが判明した。しかも、注目すべきことに、矩形ビームの辺(X)と同程度の直径を有し、ほぼ真円と評価できる円形のレジストパターンを形成可能である。
【0055】
従来、矩形ビームを用いて円形のレジストパターンを得る手法として、得たい円形のレジストパターンに対し、はるかに小さい矩形ビームを用いて(例えば、辺の長さが直径の1/3以下)、オーバー露光により、円形のレジストパターンを得るという手法があった。しかし、この手法では、得たい円形のレジストパターンが小さくなるにつれて、対応する矩形ビームを形成することが困難になり、また、小さい矩形ビームで多くの露光量を必要とすることから描画時間もかかり、効率の悪い手法であった。
【0056】
一方、上述の結果からは、得たい円形のレジストパターンに対し同程度の大きさの矩形ビームを用いて、通常の露光量で、ほぼ真円形状のレジストパターンを形成可能であり、パターンの微小化にも対応でき、かつ、高い生産性が期待される。
【0057】
また、上記結果から、得たい円形のレジストパターンの直径をDとすると、矩形ビームの辺(X)は、Dと同程度の大きさとし、ビームブラー(σ)を、0.4×D≦σ≦0.8Dの範囲とすることが好ましい。この範囲であれば、通常の露光量で、ほぼ真円形状のレジストパターンを形成可能だからである。
【0058】
例えば、直径200nmの円形のレジストパターンを得たい場合には、矩形ビームの正方形の辺の長さXを200nm程度に設定し、ビームブラーを80〜160nmにすると良い。
(実描画での検証)
上記のシミュレーション結果を検証するため、実際に、可変成型ビーム方式の電子線描画装置を用いて、矩形のパターンが規則的に配列したパターンを電子線レジストに描画した。
【0059】
図7は、本発明に係るナノインプリントモールドの円形パターンを、可変成型ビーム方式の描画装置を用いて形成した一例を示す図であり、(a)はナノ凹凸構造体の設計パターン、(b)は描画パターンを示す。
【0060】
図7(a)において、各円は、互いに正三角形の頂点に相当する位置に配設されており、各円の中心間の距離は、円の直径の2倍の大きさに設計されている。そして、図7(b)においては、(a)における円の代わりに正方形の描画パターンが配設されている。
【0061】
図8は、図7における描画パターンを本発明に係る方法で形成したレジストパターンの電子線顕微鏡写真を示す。
【0062】
電子線描画装置としては、加速電圧20kVの日本電子製JBX−7000を用い、矩形ビームの正方形の辺の長さ(X)は、175nmに設定した。ビームブラー(σ)は100nm程度である。電子線レジストには、東レ製ポジ型電子線レジストHS−31(膜厚400nm)を用いた。
【0063】
図7および図8に示すように、矩形の描画パターン(図7(b))から、円形のレジストパターンが形成されていることが確認された(図8)。
【0064】
また、この円形のレジストパターンの直径Dは、214nmであった。この値は、用いた矩形ビームの対角線の長さ(175nm×√2≒247.45)より小さい値であり、このことからも、オーバー露光で矩形ビームより大きな円形のレジストパターンを得たわけではないことが立証される。
【0065】
すなわち、本発明においては、可変成型で形成する正方形の対角線の長さよりも小さい値の直径を有する円形のレジストパターンを得ることができる。
【0066】
このような、矩形ビームの辺(X)と同程度の直径を有し、ほぼ真円形状のレジストパターンを形成できる理由は、ビームのぼけにより、矩形の角の部位の露光量が相対的に減少するためと考える。
【0067】
以上のように、本発明においては、直径100nm〜250nmの円形のレジストパターンを、可変成型ビーム方式の電子線描画装置を用いて、1ショットの矩形ビーム照射で描画できるため、従来のような、複数の矩形ショットによる分割描画における、ショット数の増大や描画時間の増大という問題を解消し、実用的な生産性で、光学素子等に用いられる円形パターンが規則的に配列したレジストパターンを形成することができる。
【0068】
さらに、従来のショット分割の方法では、曲線を忠実に形成するためには極めて小さな矩形ショットを必要とし、200nm前後の微細な円形パターンとなると、現実的な描画時間内で忠実に再現することは困難であったが、本発明においては、1ショットの矩形ビームで、ほぼ真円形状のレジストパターンを形成できることが確認された。
【0069】
なお、上述においては、ポジ型の電子線レジストを用いて円形の開口パターンを形成する例を示したが、本発明においては、ネガ型の電子線レジストを用いて円形の残しパターンを形成することもできる。
[ナノインプリントモールド]
次に、本発明に係るナノインプリントモールドについて説明する。
【0070】
図1は、本発明に係るナノインプリントモールドの一例を説明するための図であり、(a)は転写パターン部を拡大した平面図であり、(b)は(a)におけるA−A断面図である。
【0071】
図1(a)および(b)に示すように、本発明に係るナノインプリントモールド1は、モールドの基材2の主面に、円柱状の凹状構造3を規則的配列で有する構成になっている。
【0072】
基材2の材料は、ナノインプリントに適用可能なものであれば用いることができ、例えば、シリコン、石英、ガラス、その他の無機および有機材料からなる基材を用いることができる。なお、光インプリント法に用いる場合は、紫外線を透過する材料が好ましく、例えば、石英基板、ガラス基板などの透明無機基材、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状オレフィン共重合体樹脂などの透明有機基材が好ましい。
【0073】
凹状構造3は、上述のレジストパターン形成方法により形成された円形パターンの開口部に露出した基材2をエッチング加工して形成されるものであり、上述のように、LEDの発光効率を高める用途において、円の直径は、100nm〜250nmの範囲であることが好ましい。
【0074】
図1(a)に示す例では、凹状構造3の円形パターンは、互いに正三角形の頂点に当たる位置に配設されており、各円の中心から中心までの距離は、円の直径の2倍の大きさに設計されている。
【0075】
凹状構造3の深さは、用途によって様々であるが、エッチング加工の精度からは、概ね円の直径の2倍程度の大きさである。
[ナノインプリントモールドの製造方法]
次に、本発明に係るナノインプリントモールドの製造方法について説明する。
【0076】
図2は、本発明に係るナノインプリントモールドの製造方法の一例を示す工程図である。
【0077】
まず、図2(a)に示すように、モールドの原版である基材2の主面に、金属薄膜4を形成し、その上に電子線レジスト5を塗布形成する。金属薄膜4は、電子線描画における帯電防止や、基材2のエッチングの際のハードマスクとして機能するものである。
【0078】
金属薄膜4の材料は、導電性や加工性を備えたものならば用いることができ、例えば、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)等である。金属薄膜4の厚さは、加工性を損なわない厚さであることが好ましく、例えば、10nm〜100nm程度である。金属薄膜4は、スパッタ成膜法等、公知の方法により形成することができる。
【0079】
なお、金属薄膜4は、必要に応じて設けられるものであり、基材2の主面上に直接、電子線レジスト5を塗布形成してもよい。
【0080】
電子線レジスト5は、適度な感度や解像度と、エッチング耐性があればよく、公知の材料を用いることができ、例えば、フォトマスクの製造に用いられているものであれば、好適に用いることができる。電子線レジスト5の厚さは、例えば、0.1μm〜0.6μmであり、スピンコート法などの公知の方法で塗布形成することができる。
【0081】
本発明においては、電子線レジスト5はポジ型、ネガ型のいずれであっても用いることができるが、ここでは、ポジ型の電子線レジストを例に、以下説明する。
【0082】
次に、図2(b)に示すように、上述のレジストパターン形成方法により、所望の円形開口を有するレジストパターン5aを形成する。
【0083】
本発明においては、可変成型ビーム方式の電子線描画装置を用い、前記電子線描画装置のビームブラーの大きさ(σ)と、可変成型で形成する正方形の辺の長さ(X)と、電子線レジストに形成される円形パターンの直径(D)との関係を予め求めておき、前記ビームブラーの大きさ(σ)及び/又は正方形の辺の長さ(X)とを設定することにより、1ショットの矩形ビーム照射で、電子線レジスト5に、所望の直径を有する円形のレジストパターン5aを形成する。
【0084】
本発明においては、上記の円形のレジストパターンを1ショットのビームで形成するため、実用的な生産性で、直径200nm前後の円形パターンが規則的に配列したレジストパターンを形成することができる。
【0085】
次に、図2(c)に示すように、レジストパターン5aをマスクに用いて金属薄膜4をエッチングし、さらに、基材2をエッチングして、所望の凹状構造3を形成する。
【0086】
金属薄膜4のエッチングは、例えば、金属薄膜4にCrを用いた場合には、酸素ガスと塩素系ガスによるドライエッチング法を用いることができ、基材2のエッチングは、例えば、基材2に石英基板を用いた場合には、フッ素系ガスによるドライエッチング法を用いることができる。
【0087】
最後に、図2(d)に示すように、レジストパターン5aおよび金属薄膜4を除去して、所望の凹状構造3を有したナノインプリントモールド1を得る。
【0088】
本発明においては、直径100nm〜250nmの円形のレジストパターンを、可変成型ビーム方式の電子線描画装置を用いて1ショットの矩形ビーム照射で描画できるため、従来よりも描画時間を大幅に短縮でき、実用的な生産性で、光学素子等に用いられる円柱状の凹状パターンが規則的に配列したナノインプリントモールドを製造することができる。
[光学素子の製造方法]
次に、本発明に係るナノインプリントモールドを用いた光学素子の製造方法について説明する。
【0089】
図3は、本発明に係る製造方法により製造されたナノインプリントモールドを使用したナノインプリント方法の一例を説明するための工程図である。図3においては、光ナノインプリント法によるナノインプリント方法を説明する。
【0090】
光ナノインプリントは、光硬化性樹脂にモールドを接触させた状態で光を照射して前記樹脂を光硬化させることによりパターンを転写成型する技術である。高温加熱を必要としないが、モールドもしくは基材は光に対し、透明である必要がある。実用的には、光としては紫外線を用いる。
【0091】
まず、図3(a)に示すように、例えば、半導体発光素子基板等の被転写基板6の上に未硬化の硬化性樹脂7を形成し、次に、図3(b)に示すように、本発明に係るナノインプリントモールド1を硬化性樹脂7に押し当てた状態で紫外線8を所定量照射して硬化性樹脂7を硬化させる。
【0092】
硬化性樹脂7は、紫外線を照射されることにより架橋反応を起こして硬化する樹脂であり、光ナノインプリント用として知られている各種の硬化性樹脂を、適宜用いることができる。
【0093】
その後、ナノインプリントモールド1を離型し(図3(c))、硬化した樹脂パターン7aをマスクに被転写基板6をエッチング等の加工を施し、所望の凸状構造9を形成する(図3(d)、(e))。
【0094】
ここで、図10に示すような円錐部、円柱部、メサ部の3つの構造部からなるナノ凹凸構造体を形成するには、まず、上述のようなナノインプリント法により、円柱状の凸状構造を形成し、その後、円柱状の凸状構造に対してAr、He等、被転写基板6の材料に対して化学的に不活性なガスを用いて、前記円柱状の凸状構造を物理的にエッチングする。この物理的エッチングにより、円柱の上面と円柱の無い下面がエッチングされ、自己的に円錐部、メサ部が形成される。
【0095】
上述のように、本発明によれば、直径100nm〜250nmの円形のレジストパターンを、可変成型ビーム方式の電子線描画装置を用いて、1ショットの矩形ビーム照射で描画できるため、実用的な生産性で、光学素子等に用いられる直径200nm前後の円形パターンが規則的に配列したレジストパターンを形成することができる。
【0096】
そして、前記レジストパターンをマスクに用いて所望の3次元構造を有するナノインプリントモールドを製造することができ、さらに、このモールドを用いたナノインプリントにより、円柱の直径や間隔を設計通りに形成したナノ凹凸構造体を半導体発光素子基板上に有し、外部取出効率が高い光学素子を、低コストで、量産することができる。
【0097】
なお、上述のナノインプリントモールドの製造方法においては、ポジ型の電子線レジストを用いて、所望の凹状構造を有するナノインプリントモールドを形成する例を示したが、本発明においては、ネガ型の電子線レジストを用いて、まず、円柱状の凸状構造を有するモールド(マザーモールド)を作成し、このマザーモールドから上述のようなナノインプリント法を用いて、凹凸の反転したモールド、すなわち、所望の凹状構造を有したナノインプリントモールドを製造することもできる。この方法は、所望の凹状構造を有するナノインプリントモールドを量産する場合に、好適である。
【0098】
以上、本発明に係るナノインプリントモールドの製造方法、光学素子の製造方法、およびレジストパターンの形成方法についてそれぞれの実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と、実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる場合であっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0099】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
ナノインプリントモールド1の基材2として、外形が6インチ×6インチ、厚さ0.25インチの石英基板を用い、その主面上に金属薄膜4として厚さ60nmCr薄膜を形成し、この金属薄膜4の上に電子線レジスト5として、東レ製ポジ型電子線レジストHS−31を膜厚400nmに塗布形成し、上述の本発明に係る方法で電子線描画した。
【0100】
電子線描画装置には、加速電圧20kVの日本電子製JBX−7000を用い、矩形ビームの大きさを、一辺の長さ(X)が175nmの正方形に設定して、各々の正方形の中心間の距離が400nmになるように、互いに正三角形の頂点に当たる位置に、1ショットずつ描画した。ビームブラー(σ)は100nm程度である。
【0101】
次に、上記の電子線レジストを現像し、得られたレジストパターンをマスクに用いて、Cr薄膜を酸素ガスと塩素系ガスでドライエッチングし、さらに、露出した石英基板をフッ素系ガスでエッチングし、その後、レジストおよびCr薄膜を除去して、直径214nm、深さ400nmの円柱状の凹状構造が400nmピッチで規則的に配列するナノインプリントモールド1を得た。
【符号の説明】
【0102】
1・・・ナノインプリントモールド
2・・・基材
3・・・凹状構造
4・・・金属薄膜
5・・・電子線レジスト
5a・・・レジストパターン
6・・・被転写基板
7・・・硬化性樹脂
7a・・・硬化した樹脂パターン
8・・・紫外線
9・・・凸状構造
11・・・円形パターン
12・・・矩形ショット
31・・・半導体発光素子基板
32・・・発光層
33・・・ナノ凹凸構造体
34・・・円錐部
35・・・円柱部
36・・・メサ部
41・・・矩形ショット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にポジ型またはネガ型の電子線レジストを形成し、前記電子線レジストに可変成型ビーム方式の電子線描画装置を用いて円形のレジストパターンを形成し、前記レジストパターンをマスクに用いて所望の3次元構造を形成するナノインプリントモールドの製造方法であって、
前記電子線描画装置のビームブラーの大きさ(σ)と、可変成型で形成する正方形の辺の長さ(X)と、電子線レジストに形成される円形パターンの直径(D)との関係を予め求めておき、
前記関係に基づいて、ビームブラーの大きさ(σ)及び/又は正方形の辺の長さ(X)を設定することにより、
前記電子線レジストに、1ショットの矩形ビーム照射で、
所望の直径を有する円形のレジストパターンを形成することを特徴とするナノインプリントモールドの製造方法。
【請求項2】
前記レジストパターンの直径が、前記可変成型で形成する正方形の対角線の長さよりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のナノインプリントモールドの製造方法。
【請求項3】
前記レジストパターンの直径が、100nm〜250nmであることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のナノインプリントモールドの製造方法。
【請求項4】
前記ビームブラーの大きさ(σ)が、前記レジストパターンの直径の0.4倍から0.8倍の大きさであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のナノインプリントモールドの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のナノインプリントモールドの製造方法により製造したモールドを用い、
半導体発光素子基板上に硬化性樹脂を配し、
前記硬化性樹脂と前記モールドを接触させた状態で前記硬化性樹脂を硬化させることにより、前記半導体発光素子基板上に所望の凸状構造を形成することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記半導体発光素子基板に対して化学的に不活性なガスを用いて物理的にエッチングすることにより、円錐部、円柱部、メサ部の3つの構造部からなるナノ凹凸構造体を形成することを特徴とする請求項5に記載の光学素子の製造方法。
【請求項7】
可変成型ビーム方式の電子線描画装置を用いたレジストパターンの形成方法であって、
前記電子線描画装置のビームブラーの大きさ(σ)と、可変成型で形成する正方形の辺の長さ(X)と、電子線レジストに形成される円形パターンの直径(D)との関係を予め求めておき、
前記関係に基づいて、ビームブラーの大きさ(σ)及び/又は正方形の辺の長さ(X)を設定することにより、
前記電子線レジストに、1ショットの矩形ビーム照射で、
所望の直径を有する円形のレジストパターンを形成することを特徴とするレジストパターンの形成方法。
【請求項8】
前記レジストパターンの直径が、前記可変成型で形成する正方形の対角線の長さよりも小さいことを特徴とする請求項7に記載のレジストパターンの形成方法。
【請求項9】
前記レジストパターンの直径が、100nm〜250nmであることを特徴とする請求項7〜8のいずれかに記載のレジストパターンの形成方法。
【請求項10】
前記ビームブラーの大きさ(σ)が、前記レジストパターンの直径の0.4倍から0.8倍の大きさであることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のレジストパターンの形成方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−253965(P2011−253965A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127354(P2010−127354)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】