ナノインプリントリソグラフィ用モールド
【課題】 本発明は、転写領域における凹凸パターンと樹脂との間の離型力を小さくし、離型工程におけるパターン欠陥の発生を抑制することができるナノインプリントリソグラフィ用モールドを提供することを目的とするものである。
【解決手段】 略矩形状の上面に転写領域を有するメサ構造体を備えたナノインプリントリソグラフィ用モールドにおいて、前記メサ構造体の上面の四隅の少なくとも一の角部に、先端角度が鋭角である第1の突起形状と、前記第1の突起形状の両脇の第2および第3の突起形状とを有する離型開始構造を形成することにより、上記課題を解決する。
【解決手段】 略矩形状の上面に転写領域を有するメサ構造体を備えたナノインプリントリソグラフィ用モールドにおいて、前記メサ構造体の上面の四隅の少なくとも一の角部に、先端角度が鋭角である第1の突起形状と、前記第1の突起形状の両脇の第2および第3の突起形状とを有する離型開始構造を形成することにより、上記課題を解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な凹凸パターンからなる転写パターンを、被転写基板上に形成された硬化型樹脂に転写するナノインプリントリソグラフィに用いられるモールドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、特に半導体デバイスについては、微細化の一層の進展により高速動作、低消費電力動作が求められ、また、システムLSIという名で呼ばれる機能の統合化などの高い技術が求められている。このような中、半導体デバイスのパターンを作製する要となるリソグラフィ技術は、パターンの微細化が進むにつれ、露光装置などが極めて高価になってきており、また、それに用いるマスク価格も高価になっている。
【0003】
これに対して、1995年Princeton大学のChouらによって提案されたナノインプリント法(インプリント法とも呼ばれる)は、装置価格や使用材料などが安価でありながら、10nm程度の高解像度を有する微細パターン形成技術として注目されている(特許文献1)。
【0004】
ナノインプリント法は、予め表面にナノメートルサイズの凹凸パターンを形成したモールド(テンプレート、スタンパ、金型とも呼ばれる)を、半導体ウエハなどの被転写基板表面に塗布形成された樹脂に押し付けて、前記樹脂を力学的に変形させて前記凹凸パターンを転写し、このパターン転写された樹脂をレジストマスクとして被転写基板を加工する技術である。一度モールドを作製すれば、ナノ構造が簡単に繰り返して成型できるため高いスループットが得られて経済的であるとともに、有害な廃棄物が少ないナノ加工技術であるため、近年、半導体デバイスに限らず、さまざまな分野への応用が期待されている。
【0005】
このようなナノインプリント法には、熱可塑性樹脂を用いて熱により凹凸パターンを転写する熱インプリント法や、光硬化性樹脂を用いて紫外線により凹凸パターンを転写する光インプリント法などが知られている(特許文献2)。
上記の光インプリント法は、室温でパターン転写でき、熱インプリント法のような加熱・冷却サイクルが不要でモールドや樹脂の熱による寸法変化が生じないために、解像性、アライメント精度、生産性などの点で優れていると言われている。
【0006】
なお、上述のように、ナノインプリント法では、モールドの転写パターン(凹凸パターン)を被転写基板上の樹脂に押し当てることで所望の凹凸パターンを転写するため、所望の転写パターンが形成された領域(転写領域)以外の領域(非転写領域)は、被転写体や樹脂との接触を避ける目的で、通常、転写領域よりもモールド内側(下側)へ掘り下げられた形態をしている。
すなわち、ナノインプリントリソグラフィ用モールドは、通常、その転写領域の面が、前記非転写領域の面から所定の高さの位置に形成されたメサ構造を有している。
より具体的には、例えば、図11に示すように、一般的なナノインプリントリソグラフィ用モールド101は、基板107の上に、略矩形状の上面(転写領域102)と傾斜領域103からなるメサ構造体105を有しており、転写領域102と非転写領域106とは、高さ位置が異なっている。
【0007】
次いで、図12を用いて、一般的なナノインプリントリソグラフィの工程の概略を説明する。
まず、図12(a)に示すように、ナノインプリントリソグラフィ用モールド101を準備し、被転写基板111上に未硬化の硬化型樹脂112を形成する。
次に、モールド101と被転写基板111上の樹脂112とを接触させ(図12(b))、例えば、紫外線114を所定量照射することにより、樹脂112を硬化させ(図12(c))、その後、モールド101を離型して硬化した樹脂パターン113を得る((図12(d)))。
【0008】
ここで、上述のようなナノインプリント法を用いて凹凸パターンを被転写基板に転写する際には、被転写基板上に形成された硬化前の樹脂を、モールドの凹凸パターンの形状に忠実に充填し、樹脂を硬化した後は、硬化した樹脂がモールドから離型されずに付着残留することに起因するパターン欠陥が発生しないように離型する必要がある。
上記の離型を容易に行うために、一般的に、硬化した樹脂がモールドに付着することを防ぐために、モールド側に離型処理が行われている。さらに、例えば、離型開始点として、転写領域の外側に、転写領域内の凹部よりも開口寸法および深さが大きい凹形状を形成する方法や、断面形状が、円錐形状又は三角柱形状の凸部を形成する方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2004−504718号公報
【特許文献2】特開2002−93748号公報
【特許文献3】特開2006−245072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記の方法においては、単に、転写領域の凹凸パターンよりも離型しやすい凹形状や凸部を、転写領域の凹凸パターンの外側に形成しているだけであり、転写領域の凹凸パターンが受ける離型力については何ら考慮されておらず、前記凹形状や凸部の離型開始点のみが容易に離型することは期待できても、転写領域の凹凸パターンは、むしろ、離型されずに付着残留して、パターン欠陥を発生してしまう恐れがある。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、転写領域における凹凸パターンと樹脂との間の離型力を小さくし、離型工程におけるパターン欠陥の発生を抑制することができるナノインプリントリソグラフィ用モールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、種々研究した結果、略矩形状の上面に転写領域を有するメサ構造体を備えたナノインプリントリソグラフィ用モールドにおいては、上述のような離型の開始点は、離型時の応力が集中する前記メサ構造体の上面の角部であり、この角部に応力が集中し、樹脂の変形あるいは歪が大きくなった場合に、モールドの離型処理面と樹脂との間で、離型が開始するものと考えられるため、前記角部に、より応力が集中するような離型開始構造を形成することにより、上記課題を解決できることを見出して本発明を完成したものである。
【0013】
すなわち、本発明の請求項1に係る発明は、略矩形状の上面に転写領域を有するメサ構造体と、前記メサ構造体の周辺に非転写領域を備え、前記転写領域に形成された転写パターンを、被転写体の硬化型樹脂に転写するナノインプリントリソグラフィに用いられるモールドであって、平面視上、前記メサ構造体の上面の四隅の少なくとも一の角部に、先端角度が鋭角である第1の突起形状と、前記第1の突起形状の両脇の第2および第3の突起形状と、を有する離型開始構造を備えることを特徴とするナノインプリントリソグラフィ用モールドである。
【0014】
また、本発明の請求項2に係る発明は、前記第2および第3の突起形状の先端角度が鈍角であることを特徴とする請求項1に記載のナノインプリントリソグラフィ用モールドである。
【0015】
また、本発明の請求項3に係る発明は、前記第1の突起形状の先端の頂点位置が、前記メサ構造体の上面の直交する2辺が交差する位置に一致することを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のナノインプリントリソグラフィ用モールドである。
【0016】
また、本発明の請求項4に係る発明は、前記第1の突起形状の先端角度が、20度〜40度の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のナノインプリントリソグラフィ用モールドである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ナノインプリントリソグラフィ用モールドのメサ構造体の上面の四隅の少なくとも一の角部に、先端角度が鋭角である第1の突起形状と、前記第1の突起形状の両脇の第2および第3の突起形状と、を有する離型開始構造を形成し、この離型開始構造に離型の際の応力を集中させることにより、ナノインプリントリソグラフィ用モールドの転写領域における凹凸パターンと、被転写基板上に形成された樹脂との間の離型力を低減させ、モールドを被転写基板から離型する際のパターン欠陥の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールドの一例を示す概観図であり、(a)は平面図、(b)は(a)におけるA−A断面図を示す。
【図2】本発明に係る離型開始構造の例を示す説明図である。
【図3】シミュレーションに用いたメサ構造体の角部の構造例を示す説明図である。
【図4】本発明に係るシミュレーションモデルを説明する図であり、(a)はメサ構造体全体の平面図、(b)はシミュレーションモデルの平面図を示す。
【図5】本発明に係るシミュレーション条件を説明する図であり、(a)はシミュレーションモデルの斜視図、(b)はシミュレーションモデルの側面図を示す。
【図6】各種角部構造に対するシミュレーション結果を示す説明図であり、(a)は従来の例、(b)は突起形状が2個の例、(c)は本発明の例を示す。
【図7】シミュレーションに用いた本発明に係る離型開始構造の形状例を示す説明図である。
【図8】図7に示す各離型開始構造に対するシミュレーション結果を示す説明図である。
【図9】シミュレーションに用いた本発明に係る離型開始構造の形状例を示す説明図である。
【図10】本発明に係る離型開始構造の先端角度と相対最大歪の関係を示す図である。
【図11】従来のナノインプリントリソグラフィ用モールドの例を示す概観図であり、(a)は平面図、(b)は(a)におけるB−B断面図を示す。
【図12】従来のナノインプリントリソグラフィ工程の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[ナノインプリントリソグラフィ用モールド]
まず、本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールドについて説明する。
図1は、本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールドの一例を示す概観図であり、(a)は平面図、(b)は(a)におけるA−A断面図を示す。
図1(a)および(b)に示すように、本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールド1は、基板7の上に、略矩形状の上面に転写領域2を有するメサ構造体5と、前記メサ構造体5の周辺に非転写領域6を備えており、平面視上、前記メサ構造体5の上面の四隅の角部には、先端角度が鋭角である第1の突起形状と、前記第1の突起形状の両脇の第2および第3の突起形状を有する離型開始構造4が形成されている。
【0020】
なお、図1においては、メサ構造体5の上面の四隅の全角部に、離型開始構造4が形成されている例を示しているが、本発明はこの形態に限定されず、離型開始構造4は、メサ構造体5の上面の四隅の少なくとも一の角部に形成されていればよい。
【0021】
ここで、基板7については、ナノインプリントリソグラフィ用モールドに用いられる基板であれば用いることができる。例えば、フォトマスクに用いられている合成石英基板を用いることができ、その大きさは、例えば、縦152mm、横152mm、厚さ0.25インチである。
【0022】
また、転写領域2の大きさは、ナノインプリントリソグラフィ用モールドに用いられる大きさであれば、特に制限されないが、例えば、30mm角程度の大きさである。
【0023】
また、転写領域2を上面とするメサ構造は、通常、基板7の上にエッチングマスクを形成し、ウェットエッチングにより非転写領域6を掘り下げることで形成され、その高さ(H)は、例えば、20μm程度である。
【0024】
[離型開始構造]
次に、本発明に係る離型開始構造について説明する。
図2は、本発明に係る離型開始構造の例を示す説明図である。ここで、図2(a)は第2および第3の突起形状9、10の先端角度(β1、β2)が鈍角である例を示し、図2(b)は第2および第3の突起形状11、12の先端角度(β3、β4)が鋭角である例を示している。
例えば、図2(a)に示すように、本発明に係る離型開始構造4は、先端角度(α1)が鋭角である第1の突起形状8と、前記第1の突起形状8の両脇にある第2の突起形状9、および第3の突起形状10を有している。
【0025】
前記メサ構造体の角部に、上述のような3つの突起形状を有する離型開始構造が形成されていることにより、本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールドは、従来のナノインプリントリソグラフィ用モールドに比べて、離型時の応力を前記メサ構造体の角部に集中させることができる。
それゆえ、本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールドは、前記メサ構造体の角部以外の転写領域における凹凸パターンと、被転写体上に形成された樹脂との間の離型力を低減させることができ、モールドを被転写体から離型する際のパターン欠陥の発生を抑制することができる。
【0026】
ここで、図2(a)に示すように、本発明においては、第2および第3の突起形状9、10の先端角度(β1、β2)は、鈍角であることが好ましい。
このような形態であれば、後述するシミュレーション結果から、図2(b)に示すような、第2および第3の突起形状11、12の先端角度(β3、β4)が鋭角である場合よりも、前記離型開始構造に応力集中させる効果が高いからである。
【0027】
また、前記第1の突起形状の先端の頂点位置は、前記メサ構造体の上面の直交する2辺が交差する位置に一致することが好ましい。例えば、図2(a)または(b)において破線で示すように、第1の突起形状8の先端の頂点位置は、前記メサ構造体の上面の直交する2辺が交差する位置に一致することが好ましい。
このような形態であれば、被転写体における所定の転写領域を飛び出さない範囲で、前記第1の突起形状の先端角度を効率的に鋭角にできるからである。
【0028】
また、前記第1の突起形状の先端角度は、20度〜40度の範囲であることが好ましい。例えば、図2(a)に示すように、第1の突起形状8の先端角度(α1)は、20度〜40度の範囲であることが好ましい。
このような形態であれば、後述するシミュレーション結果に示すように、前記先端角度が40度〜90度の範囲である場合よりも、前記離型開始構造に応力集中させる効果が高いからである。
【0029】
なお、前記メサ構造体の角部に形成する離型開始構造としては、上述の本発明に係る離型開始構造の他に、図3(b)に示すような形態の構造も考えられる。
【0030】
ここで、図3(b)に示す角部構造32は、先端角度(γ1、γ2)が鋭角である突起形状41、42を2個有する構造である。ただし、前記突起形状41、42のいずれも、先端の頂点位置は、前記メサ構造体の上面の直交する2辺が交差する位置に一致していない。すなわち、図3(b)に示す構造は、図3(a)に示す、従来のメサ構造体の角部の頂点を内側に向けて、略V字型に切り込んだような形状を有している。
【0031】
しかしながら、シミュレーションの結果、例えば、図2(a)または(b)に示すような本発明に係る離型開始構造であれば、従来のメサ構造体の角部構造よりも応力を集中させる効果を向上させることができるが、上述の図3(b)に示すような形態の角部構造では、従来のメサ構造体の角部構造よりも応力集中させる効果が低いことが判明した。
以下、本発明の作用効果について検証したシミュレーションに基づいて、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0032】
(シミュレーションモデル)
まず、シミュレーションモデルについて説明する。
図4は、本発明に係る離型開始構造のシミュレーションモデルを説明する図であり、(a)はメサ構造体全体の平面図、(b)はシミュレーションモデルの平面図を示す。
【0033】
本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールドのメサ構造体5は、例えば、図4(a)に示すように、その四隅の全角部に離型開始構造4を有している形態の場合、メサ構造体5の平面中心に対し各四隅の方向の領域は、対称的な形状を有していることになる。
それゆえ、本シミュレーションでは、計算時間が増大になることを抑制しながら、効率的な計算結果を得るために、図4(b)に示すように、平面視上、メサ構造体5を、その中心からXY方向に四等分した領域の一つを切り出し、シミュレーションのモデルとした。
【0034】
(シミュレーション条件)
続いて、前記切り出したモデルに対して、どのような条件でシミュレーションしたかについて説明する。
図5は、本発明に係るシミュレーション条件を説明する図であり、(a)はシミュレーションモデルの斜視図、(b)はシミュレーションモデルの側面図を示す。
図5(a)、および(b)に示すように、シミュレーションモデル20は、仮想基板21、仮想メサ構造体22、仮想硬化型樹脂23から構成されている。なお、図5(a)、(b)においては、実際のナノインプリントリソグラフィのインプリント工程に合わせて、メサ構造体の上面(転写領域)側が下側になるように図示している。
【0035】
ここで、上記の仮想基板21、仮想メサ構造体22、仮想硬化型樹脂23の厚さの比は、10:2:1とした。
また、弾性率は、仮想基板21および仮想メサ構造体22が72GPa、仮想硬化型樹脂23が1GPaとした。
また、ポアッソン比は、仮想基板21および仮想メサ構造体22が0.17、仮想硬化型樹脂23が0.3とした。
【0036】
実際のナノインプリントリソグラフィのインプリント工程においては、被転写基板は硬化型樹脂が形成された面を上側に配置され、図5(b)に示すように、硬化型樹脂に、ナノインプリントリソグラフィ用モールドのメサ構造体の上面(転写領域)が接触した形となる。そして、離型の際には、ナノインプリントリソグラフィ用モールドの基板の外形側面が保持されて上側へ引き上げられ、硬化型樹脂からナノインプリントリソグラフィ用モールドが離型される。
【0037】
この離型の際、応力が集中するメサ構造体の角部から、離型が始まる。離型した部分の長さの増加に伴い、系のもつ自由エネルギーが増大し、この自由エネルギーは、離型の運動エネルギーに変換される。すなわち、離型部分の長さの増加に伴い、離型の進展速度は増大し、離型は連続的に進んでいく。したがって、メサ構造体の角部に、より応力を集中させるような構造、すなわち、メサ構造体の角部の樹脂をより歪ませることができる離型開始構造の形状を見出せれば、そのような離型開始構造を有するナノインプリントリソグラフィ用モールドにおいては、転写領域における離型力や歪を低減させることができるため、上述のような離型工程におけるパターン欠陥の課題を解決することができる。
【0038】
そこで、本シミュレーションでは、有限要素法を用いて、各種形態の離型開始構造を有するシミュレーションモデル20に対し、仮想硬化型樹脂23の上面(図5(a)におけるP面)を拘束面(固定面)とし、基板側面(図5(a)におけるQ面およびR面)に上向きの力(図5(b)におけるF)を与えた場合における、仮想基板21、仮想メサ構造体22、仮想硬化型樹脂23の各部位の歪みの大きさを計算した。
なお、計算には、SIMULIA社の汎用非線形有限要素解析(FEM)ソフトであるAbaqusを用いた。
【0039】
(シミュレーション結果)
<突起形状の数の違いに対する歪みの比較>
まず、メサ構造体の角部に形成する突起形状の数の違いに対する歪みの比較に関するシミュレーション結果について説明する。
【0040】
図6は、上述のシミュレーション結果を示す説明図である。
ここで、図6(a)は、上述の図3(a)に示すような従来の角部構造の例(比較例1)を示し、図6(b)は、上述の図3(b)に示すような突起形状が2個の角部構造の例(比較例2)を示し、図6(c)は、上述の図2(b)に示すような本発明に係る離型開始構造の例(実施例1)を示している。
【0041】
図6に示すように、モールド側面を引き上げる力Fを受けることにより樹脂(仮想硬化型樹脂23)は歪み、その歪の大きさは、図6に示す構造のいずれにおいても、角部の先端に近づくほど大きく、角部先端に応力が集中し、歪が大きくなっている様子がわかる。
【0042】
ここで、各種形状の角部構造の歪みを定量的に比較するために、上記シミュレーションにおいて、せん断成分がゼロになるように座標系をとったときの最大主応力の方向における角部構造の樹脂に生じる歪の最大値を最大歪と規定し、図6に示す各種形状の角部構造に対して、上記の従来の角部構造の例(比較例1)の最大歪の値を1とした場合の相対最大歪を計算した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、本発明に係る離型開始構造の例である実施例1は、従来の角部構造である比較例1よりも、その最大歪は大きな値となり、本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールドにおいては、従来のナノインプリントリソグラフィ用モールドよりも角部に応力を集中させることができることを示している。
一方、突起形状が2個の比較例2は、従来の角部構造の比較例1よりも、その最大歪は小さな値であり、応力集中させる効果は低いことが判明した。
【0045】
<第2および第3の突起形状の先端角度に対する歪みの比較>
次に、突起形状を3個有する本発明に係る離型開始構造において、中央の第1の突起形状の先端角度を一定にして両脇の第2、第3の突起形状の先端角度を変更した場合のシミュレーション結果について説明する。
【0046】
図7は、上述のシミュレーションに用いた本発明に係る離型開始構造の形状例を示す説明図である。
図7(a)〜(c)に示すいずれの離型開始構造においても、中央の第1の突起形状8の先端角度(α1)は等しい角度(鋭角)である。
一方、両脇の第2および第3の突起形状の先端角度については、図7(a)に示す第2および第3の突起形状9A、10Aの先端角度(β9A、β10A)は共に63.4°であり、図7(b)に示す第2および第3の突起形状9B、10Bの先端角度(β9B、β10B)は共に116.6°であり、図7(c)に示す第2および第3の突起形状9C、10Cの先端角度(β9C、β10C)は共に166.0°になっている。
【0047】
図8は、上述のシミュレーション結果を示す説明図である。
ここで、図8(a)は、上述の図7(a)に示す本発明に係る離型開始構造の例(実施例1)の結果を示し、図8(b)は、上述の図7(b)に示す本発明に係る離型開始構造の例(実施例2)の結果を示し、図8(c)は、上述の図7(c)に示す本発明に係る離型開始構造の例(実施例3)の結果を示している。なお、図8(a)は、上述の図6(c)と同じものである。
図8に示す各離型開始構造のシミュレーション結果に基づいて、上述の表1に示した従来の角部構造の例(比較例1)の最大歪の値を1とした場合の相対最大歪を計算した。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、実施例1〜3のいずれも、相対最大歪の値は1を超え、本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールドにおいては、従来のナノインプリントリソグラフィ用モールドよりも角部に応力を集中させることができることが判明した。
さらに、本発明において、その最大歪は、第2および第3の突起形状の先端角度に依存し、前記先端角度が大きいほど、前記最大歪の値が大きくなる傾向を示すことも判明した。
そして、上記の結果から、第2および第3の突起形状の先端角度が鈍角である実施例2および実施例3は、前記角度が鋭角の実施例1よりも、その最大歪は大きな値となり、角部に応力を集中させる効果が高いことから、離型開始構造としてより好ましい形態であることも判明した。
【0050】
<第1の突起形状の先端角度に対する歪みの比較>
次に、本発明に係る離型開始構造において、両脇の第2、第3の突起形状の先端角度を一定にして、中央の第1の突起形状の先端角度を変更した場合のシミュレーション結果について説明する。
【0051】
図9は、上術のシミュレーションに用いた本発明に係る離型開始構造の形状例を示す説明図である。ここで、図9(a)は、第1の突起形状8の先端角度(α1)がより大きい例を、図9(b)は、第1の突起形状8の先端角度(α1)がより小さい例を、それぞれ示している。なお、煩雑となるのを避けるため、図9においては、複数の先端角度の例の中から、2種のみを例示している。
本シミュレーションにおいては、両脇の第2および第3の突起形状9、10の先端角度(β1、β2)を一定(共に135度)とし、中央の第1の突起形状8の先端角度(α1)を、20度〜90度の範囲で変更した。
そして、先端角度(α1)が90度の場合(すなわち、従来の角部構造)の最大歪の値を1として、各種の先端角度(α1)に対する相対最大歪を計算した。結果を図10に示す。
【0052】
図10に示すように、第1の突起形状8の先端角度(α1)が小さくなるほど、その最大歪は大きな値となり、角部に応力を集中させることができることが判明した。
さらに、第1の突起形状8の先端角度(α1)が20度〜40度の範囲における図10のグラフの傾きは、40度〜90度の範囲における傾きよりも急であることから、本発明においては、前記第1の突起形状の先端角度は、20度〜40度の範囲であることが好ましいものと考えられる。
【0053】
以上、本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールドについて説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と、実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる場合であっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0054】
1・・・ナノインプリントリソグラフィ用モールド
2・・・転写領域
3・・・傾斜領域
4・・・離型開始構造
5・・・メサ構造体
6・・・非転写領域
7・・・基板
8、8A、8B・・・第1の突起形状
9、9A、9B、9C、11・・・第2の突起形状
10、10A、10B、10C、12・・・第3の突起形状
20・・・シミュレーションモデル
21・・・仮想基板
22・・・仮想メサ構造体
23・・・仮想硬化型樹脂
31、32・・・角部構造
41、42・・・突起形状
101・・・ナノインプリントリソグラフィ用モールド
102・・・転写領域
103・・・傾斜領域
105・・・メサ構造体
106・・・非転写領域
107・・・基板
111・・・被転写基板
112・・・硬化型樹脂
113・・・樹脂パターン
114・・・紫外線
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な凹凸パターンからなる転写パターンを、被転写基板上に形成された硬化型樹脂に転写するナノインプリントリソグラフィに用いられるモールドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、特に半導体デバイスについては、微細化の一層の進展により高速動作、低消費電力動作が求められ、また、システムLSIという名で呼ばれる機能の統合化などの高い技術が求められている。このような中、半導体デバイスのパターンを作製する要となるリソグラフィ技術は、パターンの微細化が進むにつれ、露光装置などが極めて高価になってきており、また、それに用いるマスク価格も高価になっている。
【0003】
これに対して、1995年Princeton大学のChouらによって提案されたナノインプリント法(インプリント法とも呼ばれる)は、装置価格や使用材料などが安価でありながら、10nm程度の高解像度を有する微細パターン形成技術として注目されている(特許文献1)。
【0004】
ナノインプリント法は、予め表面にナノメートルサイズの凹凸パターンを形成したモールド(テンプレート、スタンパ、金型とも呼ばれる)を、半導体ウエハなどの被転写基板表面に塗布形成された樹脂に押し付けて、前記樹脂を力学的に変形させて前記凹凸パターンを転写し、このパターン転写された樹脂をレジストマスクとして被転写基板を加工する技術である。一度モールドを作製すれば、ナノ構造が簡単に繰り返して成型できるため高いスループットが得られて経済的であるとともに、有害な廃棄物が少ないナノ加工技術であるため、近年、半導体デバイスに限らず、さまざまな分野への応用が期待されている。
【0005】
このようなナノインプリント法には、熱可塑性樹脂を用いて熱により凹凸パターンを転写する熱インプリント法や、光硬化性樹脂を用いて紫外線により凹凸パターンを転写する光インプリント法などが知られている(特許文献2)。
上記の光インプリント法は、室温でパターン転写でき、熱インプリント法のような加熱・冷却サイクルが不要でモールドや樹脂の熱による寸法変化が生じないために、解像性、アライメント精度、生産性などの点で優れていると言われている。
【0006】
なお、上述のように、ナノインプリント法では、モールドの転写パターン(凹凸パターン)を被転写基板上の樹脂に押し当てることで所望の凹凸パターンを転写するため、所望の転写パターンが形成された領域(転写領域)以外の領域(非転写領域)は、被転写体や樹脂との接触を避ける目的で、通常、転写領域よりもモールド内側(下側)へ掘り下げられた形態をしている。
すなわち、ナノインプリントリソグラフィ用モールドは、通常、その転写領域の面が、前記非転写領域の面から所定の高さの位置に形成されたメサ構造を有している。
より具体的には、例えば、図11に示すように、一般的なナノインプリントリソグラフィ用モールド101は、基板107の上に、略矩形状の上面(転写領域102)と傾斜領域103からなるメサ構造体105を有しており、転写領域102と非転写領域106とは、高さ位置が異なっている。
【0007】
次いで、図12を用いて、一般的なナノインプリントリソグラフィの工程の概略を説明する。
まず、図12(a)に示すように、ナノインプリントリソグラフィ用モールド101を準備し、被転写基板111上に未硬化の硬化型樹脂112を形成する。
次に、モールド101と被転写基板111上の樹脂112とを接触させ(図12(b))、例えば、紫外線114を所定量照射することにより、樹脂112を硬化させ(図12(c))、その後、モールド101を離型して硬化した樹脂パターン113を得る((図12(d)))。
【0008】
ここで、上述のようなナノインプリント法を用いて凹凸パターンを被転写基板に転写する際には、被転写基板上に形成された硬化前の樹脂を、モールドの凹凸パターンの形状に忠実に充填し、樹脂を硬化した後は、硬化した樹脂がモールドから離型されずに付着残留することに起因するパターン欠陥が発生しないように離型する必要がある。
上記の離型を容易に行うために、一般的に、硬化した樹脂がモールドに付着することを防ぐために、モールド側に離型処理が行われている。さらに、例えば、離型開始点として、転写領域の外側に、転写領域内の凹部よりも開口寸法および深さが大きい凹形状を形成する方法や、断面形状が、円錐形状又は三角柱形状の凸部を形成する方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2004−504718号公報
【特許文献2】特開2002−93748号公報
【特許文献3】特開2006−245072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記の方法においては、単に、転写領域の凹凸パターンよりも離型しやすい凹形状や凸部を、転写領域の凹凸パターンの外側に形成しているだけであり、転写領域の凹凸パターンが受ける離型力については何ら考慮されておらず、前記凹形状や凸部の離型開始点のみが容易に離型することは期待できても、転写領域の凹凸パターンは、むしろ、離型されずに付着残留して、パターン欠陥を発生してしまう恐れがある。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、転写領域における凹凸パターンと樹脂との間の離型力を小さくし、離型工程におけるパターン欠陥の発生を抑制することができるナノインプリントリソグラフィ用モールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、種々研究した結果、略矩形状の上面に転写領域を有するメサ構造体を備えたナノインプリントリソグラフィ用モールドにおいては、上述のような離型の開始点は、離型時の応力が集中する前記メサ構造体の上面の角部であり、この角部に応力が集中し、樹脂の変形あるいは歪が大きくなった場合に、モールドの離型処理面と樹脂との間で、離型が開始するものと考えられるため、前記角部に、より応力が集中するような離型開始構造を形成することにより、上記課題を解決できることを見出して本発明を完成したものである。
【0013】
すなわち、本発明の請求項1に係る発明は、略矩形状の上面に転写領域を有するメサ構造体と、前記メサ構造体の周辺に非転写領域を備え、前記転写領域に形成された転写パターンを、被転写体の硬化型樹脂に転写するナノインプリントリソグラフィに用いられるモールドであって、平面視上、前記メサ構造体の上面の四隅の少なくとも一の角部に、先端角度が鋭角である第1の突起形状と、前記第1の突起形状の両脇の第2および第3の突起形状と、を有する離型開始構造を備えることを特徴とするナノインプリントリソグラフィ用モールドである。
【0014】
また、本発明の請求項2に係る発明は、前記第2および第3の突起形状の先端角度が鈍角であることを特徴とする請求項1に記載のナノインプリントリソグラフィ用モールドである。
【0015】
また、本発明の請求項3に係る発明は、前記第1の突起形状の先端の頂点位置が、前記メサ構造体の上面の直交する2辺が交差する位置に一致することを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のナノインプリントリソグラフィ用モールドである。
【0016】
また、本発明の請求項4に係る発明は、前記第1の突起形状の先端角度が、20度〜40度の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のナノインプリントリソグラフィ用モールドである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ナノインプリントリソグラフィ用モールドのメサ構造体の上面の四隅の少なくとも一の角部に、先端角度が鋭角である第1の突起形状と、前記第1の突起形状の両脇の第2および第3の突起形状と、を有する離型開始構造を形成し、この離型開始構造に離型の際の応力を集中させることにより、ナノインプリントリソグラフィ用モールドの転写領域における凹凸パターンと、被転写基板上に形成された樹脂との間の離型力を低減させ、モールドを被転写基板から離型する際のパターン欠陥の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールドの一例を示す概観図であり、(a)は平面図、(b)は(a)におけるA−A断面図を示す。
【図2】本発明に係る離型開始構造の例を示す説明図である。
【図3】シミュレーションに用いたメサ構造体の角部の構造例を示す説明図である。
【図4】本発明に係るシミュレーションモデルを説明する図であり、(a)はメサ構造体全体の平面図、(b)はシミュレーションモデルの平面図を示す。
【図5】本発明に係るシミュレーション条件を説明する図であり、(a)はシミュレーションモデルの斜視図、(b)はシミュレーションモデルの側面図を示す。
【図6】各種角部構造に対するシミュレーション結果を示す説明図であり、(a)は従来の例、(b)は突起形状が2個の例、(c)は本発明の例を示す。
【図7】シミュレーションに用いた本発明に係る離型開始構造の形状例を示す説明図である。
【図8】図7に示す各離型開始構造に対するシミュレーション結果を示す説明図である。
【図9】シミュレーションに用いた本発明に係る離型開始構造の形状例を示す説明図である。
【図10】本発明に係る離型開始構造の先端角度と相対最大歪の関係を示す図である。
【図11】従来のナノインプリントリソグラフィ用モールドの例を示す概観図であり、(a)は平面図、(b)は(a)におけるB−B断面図を示す。
【図12】従来のナノインプリントリソグラフィ工程の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[ナノインプリントリソグラフィ用モールド]
まず、本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールドについて説明する。
図1は、本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールドの一例を示す概観図であり、(a)は平面図、(b)は(a)におけるA−A断面図を示す。
図1(a)および(b)に示すように、本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールド1は、基板7の上に、略矩形状の上面に転写領域2を有するメサ構造体5と、前記メサ構造体5の周辺に非転写領域6を備えており、平面視上、前記メサ構造体5の上面の四隅の角部には、先端角度が鋭角である第1の突起形状と、前記第1の突起形状の両脇の第2および第3の突起形状を有する離型開始構造4が形成されている。
【0020】
なお、図1においては、メサ構造体5の上面の四隅の全角部に、離型開始構造4が形成されている例を示しているが、本発明はこの形態に限定されず、離型開始構造4は、メサ構造体5の上面の四隅の少なくとも一の角部に形成されていればよい。
【0021】
ここで、基板7については、ナノインプリントリソグラフィ用モールドに用いられる基板であれば用いることができる。例えば、フォトマスクに用いられている合成石英基板を用いることができ、その大きさは、例えば、縦152mm、横152mm、厚さ0.25インチである。
【0022】
また、転写領域2の大きさは、ナノインプリントリソグラフィ用モールドに用いられる大きさであれば、特に制限されないが、例えば、30mm角程度の大きさである。
【0023】
また、転写領域2を上面とするメサ構造は、通常、基板7の上にエッチングマスクを形成し、ウェットエッチングにより非転写領域6を掘り下げることで形成され、その高さ(H)は、例えば、20μm程度である。
【0024】
[離型開始構造]
次に、本発明に係る離型開始構造について説明する。
図2は、本発明に係る離型開始構造の例を示す説明図である。ここで、図2(a)は第2および第3の突起形状9、10の先端角度(β1、β2)が鈍角である例を示し、図2(b)は第2および第3の突起形状11、12の先端角度(β3、β4)が鋭角である例を示している。
例えば、図2(a)に示すように、本発明に係る離型開始構造4は、先端角度(α1)が鋭角である第1の突起形状8と、前記第1の突起形状8の両脇にある第2の突起形状9、および第3の突起形状10を有している。
【0025】
前記メサ構造体の角部に、上述のような3つの突起形状を有する離型開始構造が形成されていることにより、本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールドは、従来のナノインプリントリソグラフィ用モールドに比べて、離型時の応力を前記メサ構造体の角部に集中させることができる。
それゆえ、本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールドは、前記メサ構造体の角部以外の転写領域における凹凸パターンと、被転写体上に形成された樹脂との間の離型力を低減させることができ、モールドを被転写体から離型する際のパターン欠陥の発生を抑制することができる。
【0026】
ここで、図2(a)に示すように、本発明においては、第2および第3の突起形状9、10の先端角度(β1、β2)は、鈍角であることが好ましい。
このような形態であれば、後述するシミュレーション結果から、図2(b)に示すような、第2および第3の突起形状11、12の先端角度(β3、β4)が鋭角である場合よりも、前記離型開始構造に応力集中させる効果が高いからである。
【0027】
また、前記第1の突起形状の先端の頂点位置は、前記メサ構造体の上面の直交する2辺が交差する位置に一致することが好ましい。例えば、図2(a)または(b)において破線で示すように、第1の突起形状8の先端の頂点位置は、前記メサ構造体の上面の直交する2辺が交差する位置に一致することが好ましい。
このような形態であれば、被転写体における所定の転写領域を飛び出さない範囲で、前記第1の突起形状の先端角度を効率的に鋭角にできるからである。
【0028】
また、前記第1の突起形状の先端角度は、20度〜40度の範囲であることが好ましい。例えば、図2(a)に示すように、第1の突起形状8の先端角度(α1)は、20度〜40度の範囲であることが好ましい。
このような形態であれば、後述するシミュレーション結果に示すように、前記先端角度が40度〜90度の範囲である場合よりも、前記離型開始構造に応力集中させる効果が高いからである。
【0029】
なお、前記メサ構造体の角部に形成する離型開始構造としては、上述の本発明に係る離型開始構造の他に、図3(b)に示すような形態の構造も考えられる。
【0030】
ここで、図3(b)に示す角部構造32は、先端角度(γ1、γ2)が鋭角である突起形状41、42を2個有する構造である。ただし、前記突起形状41、42のいずれも、先端の頂点位置は、前記メサ構造体の上面の直交する2辺が交差する位置に一致していない。すなわち、図3(b)に示す構造は、図3(a)に示す、従来のメサ構造体の角部の頂点を内側に向けて、略V字型に切り込んだような形状を有している。
【0031】
しかしながら、シミュレーションの結果、例えば、図2(a)または(b)に示すような本発明に係る離型開始構造であれば、従来のメサ構造体の角部構造よりも応力を集中させる効果を向上させることができるが、上述の図3(b)に示すような形態の角部構造では、従来のメサ構造体の角部構造よりも応力集中させる効果が低いことが判明した。
以下、本発明の作用効果について検証したシミュレーションに基づいて、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0032】
(シミュレーションモデル)
まず、シミュレーションモデルについて説明する。
図4は、本発明に係る離型開始構造のシミュレーションモデルを説明する図であり、(a)はメサ構造体全体の平面図、(b)はシミュレーションモデルの平面図を示す。
【0033】
本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールドのメサ構造体5は、例えば、図4(a)に示すように、その四隅の全角部に離型開始構造4を有している形態の場合、メサ構造体5の平面中心に対し各四隅の方向の領域は、対称的な形状を有していることになる。
それゆえ、本シミュレーションでは、計算時間が増大になることを抑制しながら、効率的な計算結果を得るために、図4(b)に示すように、平面視上、メサ構造体5を、その中心からXY方向に四等分した領域の一つを切り出し、シミュレーションのモデルとした。
【0034】
(シミュレーション条件)
続いて、前記切り出したモデルに対して、どのような条件でシミュレーションしたかについて説明する。
図5は、本発明に係るシミュレーション条件を説明する図であり、(a)はシミュレーションモデルの斜視図、(b)はシミュレーションモデルの側面図を示す。
図5(a)、および(b)に示すように、シミュレーションモデル20は、仮想基板21、仮想メサ構造体22、仮想硬化型樹脂23から構成されている。なお、図5(a)、(b)においては、実際のナノインプリントリソグラフィのインプリント工程に合わせて、メサ構造体の上面(転写領域)側が下側になるように図示している。
【0035】
ここで、上記の仮想基板21、仮想メサ構造体22、仮想硬化型樹脂23の厚さの比は、10:2:1とした。
また、弾性率は、仮想基板21および仮想メサ構造体22が72GPa、仮想硬化型樹脂23が1GPaとした。
また、ポアッソン比は、仮想基板21および仮想メサ構造体22が0.17、仮想硬化型樹脂23が0.3とした。
【0036】
実際のナノインプリントリソグラフィのインプリント工程においては、被転写基板は硬化型樹脂が形成された面を上側に配置され、図5(b)に示すように、硬化型樹脂に、ナノインプリントリソグラフィ用モールドのメサ構造体の上面(転写領域)が接触した形となる。そして、離型の際には、ナノインプリントリソグラフィ用モールドの基板の外形側面が保持されて上側へ引き上げられ、硬化型樹脂からナノインプリントリソグラフィ用モールドが離型される。
【0037】
この離型の際、応力が集中するメサ構造体の角部から、離型が始まる。離型した部分の長さの増加に伴い、系のもつ自由エネルギーが増大し、この自由エネルギーは、離型の運動エネルギーに変換される。すなわち、離型部分の長さの増加に伴い、離型の進展速度は増大し、離型は連続的に進んでいく。したがって、メサ構造体の角部に、より応力を集中させるような構造、すなわち、メサ構造体の角部の樹脂をより歪ませることができる離型開始構造の形状を見出せれば、そのような離型開始構造を有するナノインプリントリソグラフィ用モールドにおいては、転写領域における離型力や歪を低減させることができるため、上述のような離型工程におけるパターン欠陥の課題を解決することができる。
【0038】
そこで、本シミュレーションでは、有限要素法を用いて、各種形態の離型開始構造を有するシミュレーションモデル20に対し、仮想硬化型樹脂23の上面(図5(a)におけるP面)を拘束面(固定面)とし、基板側面(図5(a)におけるQ面およびR面)に上向きの力(図5(b)におけるF)を与えた場合における、仮想基板21、仮想メサ構造体22、仮想硬化型樹脂23の各部位の歪みの大きさを計算した。
なお、計算には、SIMULIA社の汎用非線形有限要素解析(FEM)ソフトであるAbaqusを用いた。
【0039】
(シミュレーション結果)
<突起形状の数の違いに対する歪みの比較>
まず、メサ構造体の角部に形成する突起形状の数の違いに対する歪みの比較に関するシミュレーション結果について説明する。
【0040】
図6は、上述のシミュレーション結果を示す説明図である。
ここで、図6(a)は、上述の図3(a)に示すような従来の角部構造の例(比較例1)を示し、図6(b)は、上述の図3(b)に示すような突起形状が2個の角部構造の例(比較例2)を示し、図6(c)は、上述の図2(b)に示すような本発明に係る離型開始構造の例(実施例1)を示している。
【0041】
図6に示すように、モールド側面を引き上げる力Fを受けることにより樹脂(仮想硬化型樹脂23)は歪み、その歪の大きさは、図6に示す構造のいずれにおいても、角部の先端に近づくほど大きく、角部先端に応力が集中し、歪が大きくなっている様子がわかる。
【0042】
ここで、各種形状の角部構造の歪みを定量的に比較するために、上記シミュレーションにおいて、せん断成分がゼロになるように座標系をとったときの最大主応力の方向における角部構造の樹脂に生じる歪の最大値を最大歪と規定し、図6に示す各種形状の角部構造に対して、上記の従来の角部構造の例(比較例1)の最大歪の値を1とした場合の相対最大歪を計算した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、本発明に係る離型開始構造の例である実施例1は、従来の角部構造である比較例1よりも、その最大歪は大きな値となり、本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールドにおいては、従来のナノインプリントリソグラフィ用モールドよりも角部に応力を集中させることができることを示している。
一方、突起形状が2個の比較例2は、従来の角部構造の比較例1よりも、その最大歪は小さな値であり、応力集中させる効果は低いことが判明した。
【0045】
<第2および第3の突起形状の先端角度に対する歪みの比較>
次に、突起形状を3個有する本発明に係る離型開始構造において、中央の第1の突起形状の先端角度を一定にして両脇の第2、第3の突起形状の先端角度を変更した場合のシミュレーション結果について説明する。
【0046】
図7は、上述のシミュレーションに用いた本発明に係る離型開始構造の形状例を示す説明図である。
図7(a)〜(c)に示すいずれの離型開始構造においても、中央の第1の突起形状8の先端角度(α1)は等しい角度(鋭角)である。
一方、両脇の第2および第3の突起形状の先端角度については、図7(a)に示す第2および第3の突起形状9A、10Aの先端角度(β9A、β10A)は共に63.4°であり、図7(b)に示す第2および第3の突起形状9B、10Bの先端角度(β9B、β10B)は共に116.6°であり、図7(c)に示す第2および第3の突起形状9C、10Cの先端角度(β9C、β10C)は共に166.0°になっている。
【0047】
図8は、上述のシミュレーション結果を示す説明図である。
ここで、図8(a)は、上述の図7(a)に示す本発明に係る離型開始構造の例(実施例1)の結果を示し、図8(b)は、上述の図7(b)に示す本発明に係る離型開始構造の例(実施例2)の結果を示し、図8(c)は、上述の図7(c)に示す本発明に係る離型開始構造の例(実施例3)の結果を示している。なお、図8(a)は、上述の図6(c)と同じものである。
図8に示す各離型開始構造のシミュレーション結果に基づいて、上述の表1に示した従来の角部構造の例(比較例1)の最大歪の値を1とした場合の相対最大歪を計算した。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、実施例1〜3のいずれも、相対最大歪の値は1を超え、本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールドにおいては、従来のナノインプリントリソグラフィ用モールドよりも角部に応力を集中させることができることが判明した。
さらに、本発明において、その最大歪は、第2および第3の突起形状の先端角度に依存し、前記先端角度が大きいほど、前記最大歪の値が大きくなる傾向を示すことも判明した。
そして、上記の結果から、第2および第3の突起形状の先端角度が鈍角である実施例2および実施例3は、前記角度が鋭角の実施例1よりも、その最大歪は大きな値となり、角部に応力を集中させる効果が高いことから、離型開始構造としてより好ましい形態であることも判明した。
【0050】
<第1の突起形状の先端角度に対する歪みの比較>
次に、本発明に係る離型開始構造において、両脇の第2、第3の突起形状の先端角度を一定にして、中央の第1の突起形状の先端角度を変更した場合のシミュレーション結果について説明する。
【0051】
図9は、上術のシミュレーションに用いた本発明に係る離型開始構造の形状例を示す説明図である。ここで、図9(a)は、第1の突起形状8の先端角度(α1)がより大きい例を、図9(b)は、第1の突起形状8の先端角度(α1)がより小さい例を、それぞれ示している。なお、煩雑となるのを避けるため、図9においては、複数の先端角度の例の中から、2種のみを例示している。
本シミュレーションにおいては、両脇の第2および第3の突起形状9、10の先端角度(β1、β2)を一定(共に135度)とし、中央の第1の突起形状8の先端角度(α1)を、20度〜90度の範囲で変更した。
そして、先端角度(α1)が90度の場合(すなわち、従来の角部構造)の最大歪の値を1として、各種の先端角度(α1)に対する相対最大歪を計算した。結果を図10に示す。
【0052】
図10に示すように、第1の突起形状8の先端角度(α1)が小さくなるほど、その最大歪は大きな値となり、角部に応力を集中させることができることが判明した。
さらに、第1の突起形状8の先端角度(α1)が20度〜40度の範囲における図10のグラフの傾きは、40度〜90度の範囲における傾きよりも急であることから、本発明においては、前記第1の突起形状の先端角度は、20度〜40度の範囲であることが好ましいものと考えられる。
【0053】
以上、本発明に係るナノインプリントリソグラフィ用モールドについて説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と、実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる場合であっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0054】
1・・・ナノインプリントリソグラフィ用モールド
2・・・転写領域
3・・・傾斜領域
4・・・離型開始構造
5・・・メサ構造体
6・・・非転写領域
7・・・基板
8、8A、8B・・・第1の突起形状
9、9A、9B、9C、11・・・第2の突起形状
10、10A、10B、10C、12・・・第3の突起形状
20・・・シミュレーションモデル
21・・・仮想基板
22・・・仮想メサ構造体
23・・・仮想硬化型樹脂
31、32・・・角部構造
41、42・・・突起形状
101・・・ナノインプリントリソグラフィ用モールド
102・・・転写領域
103・・・傾斜領域
105・・・メサ構造体
106・・・非転写領域
107・・・基板
111・・・被転写基板
112・・・硬化型樹脂
113・・・樹脂パターン
114・・・紫外線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略矩形状の上面に転写領域を有するメサ構造体と、前記メサ構造体の周辺に非転写領域を備え、前記転写領域に形成された転写パターンを、被転写体の硬化型樹脂に転写するナノインプリントリソグラフィに用いられるモールドであって、
平面視上、前記メサ構造体の上面の四隅の少なくとも一の角部に、
先端角度が鋭角である第1の突起形状と、
前記第1の突起形状の両脇の第2および第3の突起形状と、
を有する離型開始構造を備えることを特徴とするナノインプリントリソグラフィ用モールド。
【請求項2】
前記第2および第3の突起形状の先端角度が鈍角であることを特徴とする請求項1に記載のナノインプリントリソグラフィ用モールド。
【請求項3】
前記第1の突起形状の先端の頂点位置が、前記メサ構造体の上面の直交する2辺が交差する位置に一致することを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のナノインプリントリソグラフィ用モールド。
【請求項4】
前記第1の突起形状の先端角度が、20度〜40度の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のナノインプリントリソグラフィ用モールド。
【請求項1】
略矩形状の上面に転写領域を有するメサ構造体と、前記メサ構造体の周辺に非転写領域を備え、前記転写領域に形成された転写パターンを、被転写体の硬化型樹脂に転写するナノインプリントリソグラフィに用いられるモールドであって、
平面視上、前記メサ構造体の上面の四隅の少なくとも一の角部に、
先端角度が鋭角である第1の突起形状と、
前記第1の突起形状の両脇の第2および第3の突起形状と、
を有する離型開始構造を備えることを特徴とするナノインプリントリソグラフィ用モールド。
【請求項2】
前記第2および第3の突起形状の先端角度が鈍角であることを特徴とする請求項1に記載のナノインプリントリソグラフィ用モールド。
【請求項3】
前記第1の突起形状の先端の頂点位置が、前記メサ構造体の上面の直交する2辺が交差する位置に一致することを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のナノインプリントリソグラフィ用モールド。
【請求項4】
前記第1の突起形状の先端角度が、20度〜40度の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のナノインプリントリソグラフィ用モールド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図5】
【図6】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図5】
【図6】
【図8】
【公開番号】特開2013−45875(P2013−45875A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182425(P2011−182425)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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