説明

ナノカーボン材料の生成方法、生成装置、及びナノカーボン材料

【課題】乾式処理のような高価な製造設備を必要とせず、高電圧を印加する必要もないため製造も容易で、製造現場の作業環境を悪化・劣化させず、安全性を確保でき、さらに、生成と回収とを連続的に行うことにより製造効率を向上させて製造コストを飛躍的に低減し、量産性に優れたナノカーボン材料の生成方法及び生成装置を提供する。
【解決手段】A)容器内に充填した有機溶媒中に、電源に接続した電極の陰極および陽極と超音波発生機器に接続された超音波ホーンとを配置する工程と、B)前記超音波ホーンの先端付近の有機溶媒中に超音波を発生させて超音波キャビテーション場を生成し、前記電極に電圧を印加して超音波キャビテーション場に放電プラズマを生起させることによって、有機溶媒中の分子を熱分解してナノカーボン材料を生成する工程とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒中に超音波を照射しそこに安定した放電プラズマを生起させる手法によってナノカーボン材料を生成する方法、装置及び生成されたナノカーボン材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボン封入金属ナノ粒子(カーボンナノカプセル)などのナノカーボン材料を生成する方法として、アーク放電(非特許文献1〜5)、レーザーアブレーション(非特許文献6〜8)、化学蒸着(CVD)(非特許文献9〜13)、炭化水素炎(hydrocarbon flames)(非特許文献14、15)などの方法が知られている。これらの生成方法は、何れも乾式処理と呼ばれ、高価な真空容器が必要であるにも拘らず、製造効率が低いため、量産性に劣るという問題がある。すなわち、この乾式処理においては、生成したナノカーボン材料を真空容器から取り出して回収することになるが(バッチプロセス)、その間は生成処理を中断しなければならないため単位時間当たりの製造効率の向上には限界がある。
【0003】
一方、近時、溶液中でナノ材料を生成する様々な超音波処理(湿式処理)が注目されてきており(非特許文献16)、このような湿式処理を利用してナノカーボン材料を生成することで上記した乾式処理の問題点を解決することが検討されている。例えば、特許文献1では、有機化合物の炭化促進固体触媒を加えた液状有機化合物に、超音波を照射してカーボンナノチューブを製造する方法が開示されている。前記固体触媒としては遷移金属または遷移金属化合物が用いられている。
【0004】
以下に、本発明者らが、非特許文献20において提案した湿式処理(超音波処理)によるナノカーボン材料の生成原理を簡単に説明する。
【0005】
この超音波処理においては、無数の微細気泡が連続的に生成され崩壊する超音波キャビテーション場が有機溶媒内に生成される。この微細気泡の圧壊によって生じる局所的な高温および高圧領域は、いわゆる「ホットスポット」として認識されている(非特許文献17〜19)。そして、前記溶液の液体分子は、このホットスポット(5000〜数万℃、千数百気圧)でより小さなフラグメントや原子に分解され、生成されたラジカルおよび遊離電子によって電気伝導度が向上する。そのため、多数の活性化された微細気泡を持つ超音波キャビテーション場では、液体ベンゼンなどの絶縁性若しくは導電率が低い有機溶媒中でも、通常は放電が起きない程度の小さな印加電圧で安定したプラズマ放電を生起させることができる。電極一対を超音波キャビテーション場に挿入してプラズマ放電を起こす。このプラズマにより有機化合物が熱分解され、周囲の液体による急速冷却および超音波の攪拌作用によりナノカーボン材料が生成される。
【非特許文献1】W. Kratschmer, L.D. Lamb, K. Fostiropoulos, D.R. Huffman, Nature 347 (1990) 354-358.
【非特許文献2】S. Iijima, Nature 354 (1991) 56-58.
【非特許文献3】C. Journet, W.K. Maser, P. Bernier, A. Loiseau, M. Lamy de la Chapelle, S. Lefrant, P. Deniard, R. Lee, J.E. Fischer, Nature 388 (1997) 756-758.
【非特許文献4】Y. Saito, T. Yoshikawa, M. Okuda, N. Fujimoto, K. Sumiyama, K. Suzuki, A. Kasuya, Y. Nishina, J. Phys. Chem. Solids 54 (1993) 1849-1860.
【非特許文献5】Y. Saito, T. Yoshikawa, M. Okuda, N. Fujimoto, S. Yamamuro, K. Wakoh, A. Kasuya, Y. Nishina, Chem. Phys. Lett. 212 (1993) 379-383.
【非特許文献6】H.W. Kroto, J.R. Heath, S.C. O'Brien, R.F. Curl, R.E. Smalley, Nature 318 (1985) 162-163.
【非特許文献7】T. Guo, P. Nikolaev, A. Thess, D.T. Colbert, R.E. Smalley, Chem. Phys. Lett. 243 (1995) 49-54.
【非特許文献8】Y. Zhang, S. Iijima, Phil. Mag. Lett. 78 (1998), 139-144.
【非特許文献9】W.Z. Li, S.S. Xie, L.X. Qian, B.H. Chang, B.S. Zou, W.Y. Zhou, R.A. Zhao, G. Wang, Science 274 (1996) 1701-1703.
【非特許文献10】Z.W. Pan, S.S. Xie, B.H. Chang, C.Y. Wang, L. Lu, W. Liu, W.Y. Zhou, W.Z. Li, L.X. Qian, Nature 394 (1998) 631-632.
【非特許文献11】M. Terrones, N. Grobert, J.P. Zhang, H. Terrones, J. Olivares, W.K. Hsu, J.P. Hare, A.K. Cheetham, H.W. Kroto, D.R.M. Walton, Chem. Phys. Lett. 285 (1998) 299-305.
【非特許文献12】J.C. Angus, C. Hayman, Science 241 (1988) 913-921.
【非特許文献13】D.L. Pappas, K.L. Saenger, J. Bruley, W. Krakow, J.J. Cuomo, J. Appl. Phys. 71 (1992) 5675-5684.
【非特許文献14】P.Gerhard, S. Loeffler, K.-H. Homann, Chem. Phys. Lett. 137 (1987) 306-310.
【非特許文献15】J.B. Howard, J.T. McKinnon, Y. Makarovsky, A.L. Lafleur, E.M. Johnson, Nature 352 (1991) 139-141.
【非特許文献16】T.J. Mason (Ed.), Advances in Sonochemistry, vol. 3, JAI Press, 1999.
【非特許文献17】E.A. Neppiras, Phys. Rev. 61 (1980) 159-251.
【非特許文献18】Y.T. Didenko, W.B. McNamara III, K.S. Suslick, J. Am. Chem. Soc. 121 (1999) 5817-5818.
【非特許文献19】W.B. McNamara III, Y.T. Didenko, K.S. Suslick, Nature 401 (1999) 772-775.
【非特許文献20】E. Shibata, R. Sergiienko, H. Suwa, T. Nakamura, Carbon 42 (2004) 885-888.
【非特許文献21】K. Niwase, T. Tanaka, Y. Kakimoto, K.N. Ishihara, P.H. Shingu, Mater. Trans., JIM 36 (1995) 282-288.
【非特許文献22】M. Yoshikawa, G. Katagiri, H. Ishida, A. Ishitani, Solid State Commun. 66 (1988) 1177-1180.
【非特許文献23】X.L. Dong, Z. D. Zhang, S.R. Jin, W.M. Sun, X.G. Zhao, Z.J. Li, Y.C. Chuang, J. Mater. Res. 14 (1999) 1782-1790.
【非特許文献24】O. Mamezaki, H. Adachi, S. Tomita, M. Fujii, S. Hayashi, Jpn. J. Appl. Phys. 39 (2000) 6680-6683.
【非特許文献25】J. Pola, M. Urbanova, Z. Bastl, Z. Plzak, J. ?ubrt, V. Vorlieek, I. Gregora, C. Crowley, R. Taylor, Carbon 35 (1997) 605-611.
【非特許文献26】R. Katoh, H. Yokoi, S. Usuba, Y. Kakudate, S. Fujiwara, Chem. Phys. Lett. 291 (1998) 305-310.
【非特許文献27】M.T. Beck, Z. Dinya, S. Keki, Tetrahedron 48 (1992) 4919-4928.
【非特許文献28】R. katoh, E. Yanase, H. Yokoi, S. Usuda, Y. Kakudate, S. Fujiwara, Ultrasonic Sonochemistry 5 (1998) 37-38.
【特許文献1】特開平11-43316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、乾式処理のような高価な製造設備を必要とせず、高電圧を印加する必要もないため製造も容易で、製造現場の作業環境を悪化・劣化させず、安全性を確保でき、さらに、生成と回収とを連続的に行うことにより製造効率を向上させて製造コストを飛躍的に低減し、量産性に優れたナノカーボン材料の生成方法及び生成装置を提供することを目的とする。なお、本発明のナノカーボン材料の生成処理は、非特許文献20に開示された全ての材料に適用可能であり、本明細書では具体的な材料の列挙は省略する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の主要な観点によれば、A)容器内に充填した有機溶媒中に、電源に接続した電極の陰極および陽極と超音波発生機器に接続された超音波ホーンとを配置する工程と、B)前記超音波ホーンの先端付近の有機溶媒中に超音波を発生させて超音波キャビテーション場を生成し、前記電極に電圧を印加して超音波キャビテーション場に放電プラズマを生起させることによって、有機溶媒中の分子を熱分解してナノカーボン材料を生成する工程とを備えたことを特徴とするナノカーボン材料の生成方法が提供される。
【0008】
また、本発明の第2の主要な観点によれば、有機溶媒を充填した容器と、超音波発生機器に接続され前記有機溶媒中に浸漬される超音波ホーンと、一端が電源に接続され、他端が前記超音波ホーンの先端の近傍に配置された一対の電極と、前記超音波ホーンの先端付近の有機溶媒中に超音波を発生させて超音波キャビテーション場を生成し、前記電極に電圧を印加して超音波キャビテーション場に放電プラズマを生起させることによって、有機溶媒中の分子を熱分解してナノカーボン材料を生成する制御手段とを備えたことを特徴とするナノカーボン材料生成装置が提供される。
【0009】
さらに、本発明の第3の主要な観点によれば、電極及び超音波発生機器に接続された超音波ホーンの先端を同一の金属で形成し、容器内に充填した有機溶媒中に、電源に接続した前期電極の陰極および陽極と前記超音波ホーンとを配置し、超音波ホーンの先端付近の有機溶媒中に超音波を発生して超音波キャビテーション場を生成し、電極に電圧を印加して超音波キャビテーション場に放電プラズマを生起させることにより、有機溶媒中の分子を熱分解することによって生成される、前記金属の金属炭化物がグラファイト層で被覆されたカーボンナノカプセルを含むことを特徴とするナノカーボン材料が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、有機溶媒中で、アモルファスカーボンナノ粒子および、カーボンナノカプセルと呼ばれる多層グラファイトケージに封入された、TiCナノ粒子、金属炭化物ナノ粒子、金属ナノ粒子等のナノカーボン材料を効率的に生成できる方法及び装置を得ることができる。この方法では、超音波キャビテーション場の存在により、絶縁性の有機溶媒中でも比較的低電力で安定した放電プラズマを生起させることができる。放電プラズマにより、有機溶媒分子は熱分解し、超音波の攪拌作用によりナノカーボン材料が生成される。すなわち、高価な真空容器を用いる従来の乾式処理法に比べ、本発明の湿式処理(超音波処理)では安価な装置で生成することが可能であり、また、溶液プロセスであるため、量産に向けた簡便な流通プロセス(連続式)の開発が可能となる。
【0011】
この湿式処理(超音波処理)では、アモルファスカーボンナノ粒子と同時に電極ならびにホーン先端由来の金属を内包したカーボンナノカプセルを生成することができる。これは、放電プラズマにより、電極およびホーン先端の金属の蒸発と同時に有機分子の熱分解が起こり、グラファイト層で覆われた金属炭化物ナノ粒子が生成されるためである。このプロセスにより、電極ならびに超音波ホーン先端チップの材料を変えることにより様々な内包粒子のカーボンナノカプセルを作製することが可能となる。
【0012】
特に、純鉄製の電極ならびにホーン先端チップを用いて炭化鉄内包カーボンナノカプセルを作製し、この炭化鉄内包カーボンナノカプセルを熱処理(炭化鉄の熱分解)することで、α-Fe(純鉄)内包カーボンナノカプセルを得ることができる。この鉄系金属(Fe, Ni, Co)を内包したカーボンナノカプセルは、耐酸化性・耐食性に優れた磁性材料として広い分野で利用され得る。また、電極ならびにホーン先端チップに貴金属(Pt, Pd, Rh)やそれらの合金(Fe-貴金属)を採用し、これらの金属を内包したカーボンナノカプセルを生成した場合には、安価で高品質の燃料電池用触媒として好適に利用することができる。
【発明の実施の形態】
【0013】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態にかかるナノカーボン材料の生成方法及び生成装置を説明する。
【0014】
図1は、ナノカーボン材料生成装置を模式的に示す図である。このナノカーボン材料生成装置1は、主として、湿式処理によってナノカーボン材料を生成する生成部2と、生成されたナノカーボン材料を有機溶媒中から回収する回収部3とから構成される。
【0015】
生成部2は、液体ベンゼンなどの有機溶媒OSを充填したガラス製の容器10と、有機溶媒中に浸漬される超音波ホーン11を備えた超音波発生器12と、先端13aが前記超音波ホーン11の先端11aの近傍に配置される一対の電極(陽極及び陰極)13、13と、これらの電極13、13に電圧を印加するコントローラ14と、容器10内に不活性ガス(Ar)を供給して不活性雰囲気に保持する不活性ガス供給部15(一部のみ図示)と、前記容器10内の超音波照射による温度上昇を防ぐための氷浴用容器16とを備えている。前記容器10の上部開口は蓋17で密封される。
【0016】
前記超音波発生器12が有機溶媒中に超音波を発生させることで、超音波ホーン11の先端11a付近に図に一点鎖線で示す超音波キャビテーション場CFが発生する。そして、コントローラ14が電極13、13に電圧を印加し、前記超音波キャビテーション場CFに放電プラズマを生起させることによって、有機溶媒中の分子を熱分解してナノカーボン材料を生成することができる。
【0017】
有機溶媒としては、液体ベンゼン等の芳香族系の化合物を好適に採用できる。この場合は、ナノカーボン材料を生成した後にポリマー化し易くなるという性質があるが、後述する再利用(溶媒の循環)には何ら支障はない。また、カーボンナノカプセルを集中的に生成したい場合は、余分なアモルファスカーボンの生成を抑制するために、アルコールのような直鎖の炭化水素を備えた有機溶媒を採用するのが好ましい。
【0018】
前記電極13及び超音波ホーン11の先端11aは、同一の金属で形成される。この金属としては、Fe、Ni、Co等の鉄系金属、Pt、Pd、Rh等の貴金属、またはFeとこれら貴金属のひとつからなる合金から選択するのが好ましい。前記コントローラ14が電極13、13に電圧を印加すると、この先端金属が放電プラズマによって有機溶媒中に蒸発し、この金属の金属炭化物がグラファイト層で被覆されたカーボンナノカプセルを生成することができる。また、有機溶媒中で急速に冷却して生成するため、従来のアーク放電法等によって生成されるカーボンナノカプセルに比べて全体的に丸い形状で数nm程度の微小カプセルを多く生成することができる。
【0019】
前記回収部3は、生成部2・回収部3及び回収室20を夫々連結して有機溶媒OSをこの装置1内で循環させるための上り/下り配管21、22及び加圧ポンプ23と、回収室20内の有機溶媒から、遠心分離やフィルタリング、磁選等の方法で、前記生成されたナノカーボン材料を分離して採取する採取部24と、回収したナノカーボン材料を加熱する熱処理部25とを備えている。ナノカーボン材料を採取した後の有機溶媒は、前記加圧ポンプ23によって下り配管22を通じて容器10内に戻される。
【0020】
回収部3によるナノカーボン材料の回収は、前記ナノカーボン材料の生成と並行して行われる。これにより、生成されたナノカーボン材料を回収するために装置を停止する必要がなく、連続的に生成することが可能になる。従って、従来の乾式処理に比べて、生成効率が飛躍的に高まり、量産性を向上させることができる。
【0021】
ここで、上記回収部3は、フィルター孔径や遠心分離の回転数、磁力等を適宜調整することで、特定の粒径及び/若しくは特定の形状のナノカーボン材料を選択的に回収するのが好ましい。例えば、ナノカーボン材料の用途に合わせて、粒径が数nm程度の微小材料だけを回収したり、数百nm以上の比較的大径のカーボン材料やアモルファスカーボンを除去したり、エッジを多数有するナノレベルのグラファイト層の湾曲構造(シェル構造)のナノカーボン材料を選択的に回収する。シェル構造のナノカーボン材料は、燃料電池の空気極として好適な触媒活性を備えているため、このような選択的な回収は特に有効である。一方で、結晶化が進んだグラファイト層は却って活性が低下するおそれもあるが、本発明のように、有機溶媒中の急速冷却によって生成されるナノカーボンカプセルは、アーク放電法等によって生成される従来のカーボンナノカプセルに比べてナノレベルで乱れた構造となり、高い触媒活性を有するものである。
【0022】
前記熱処理部25は、回収したナノカーボン材料を数百度に加熱することで、前記金属炭化物を分解して純金属とし、この純金属を内包するカーボンナノカプセルを生成するものである。
【実施例1】
【0023】
以下、上述した生成装置を用いて、ナノカーボン材料を生成した例を説明する。
【0024】
(実施例1)
【0025】
まず、ガラス製容器に入れた100mlの液体ベンゼンに、直径18mmのチタンチップを装備した超音波ホモジナイザーの超音波ホーンを挿入した。超音波照射による温度上昇を防ぐため、ガラス容器を氷浴で冷却すると共に、容器の上部開口をテフロン(登録商標)製の蓋で密封した。容器内を不活性雰囲気に保つため、Arガスを供給した。直径2mmの鉄電極一対(陽極及び陰極)を、互いに1mm離し、前記超音波ホーンの下端の直下に近接して設置した。一対の電極とホーン下端との距離は、ガラス容器のZ軸精度ステージ(図示せず)により調節し、それらの距離はその間の抵抗を測定することで確認した。なお、実験装置の詳細は、前記非特許文献20にも示されている。
【0026】
前記ホモジナイザーは600W、20kHzで操作し、超音波を照射した。超音波照射中、DC定電圧電源ユニットを用いて、電極の電圧をDC55Vに維持した。電源ユニットの電流の上限は、実験中1.58Aに設定した。
【0027】
超音波照射を行わないと、低電圧(DC55V)ではプラズマ放電は発生しなかった。図2に示すとおり、超音波照射を行うと、ホーン下の超音波キャビテーション場でプラズマの広がりが発生した。プラズマ放電が発生しているときは、電極の電流が電源ユニットの電流限界よりも一瞬高くなった。これらの条件では電圧が間欠的に低下するため、電気プラズマが点滅した。プラズマの点滅が電極および超音波ホーン下面の摩耗のために遅くなったとき、Z軸精度ステージを用いて電極の位置を上昇させた。実験は約1時間続けた。
【0028】
カーボンナノ粒子の構造は、得られた粒子の低倍率、高解像度のTEM(HRTEM)像を得るため、300kV TEMおよび200kV TEMで観察した。グラファイトの標準検体を用いてカメラ長を正しく決定した制限視野回折(SAED)パターンにより、カーボンナノ粒子の構造を検討した。デジタル化したHRTEM像の高速フーリエ変換(FFT)で得られたデジタル回折像(digital diffractgrams)により、結晶性のコア構造も同定した。十分規定されたCu、Ti、TiC、および75%Ti−25%Cu合金の検体から事前にデジタル回折像を回収し、これにより所見の未知または複雑なパターンを探索した。
【0029】
生成されたナノカーボン材料を観察し、構造的に分析するため、透過型電子顕微鏡(TEM)およびラマン分光法を用いた。また、実験後の有機溶媒の重合化合物および重合度を検討するため、ガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)およびマトリックス支援レーザーイオン化飛行時間型質量分析(MALDI TOF−MS)を用いた。
【0030】
ラマン分光法では、343Kで真空ロータリーエバポレータを用い、カーボン粒子を液体と分離した。前記1時間の実験で、液体ベンゼンから約30mgのカーボン粉末を得た。室温、514.5nmの励起波長、後方散乱の配置で分光計およびArイオンレーザーを用い、乾燥サンプルで測定を行った。比較のため、標準グラファイト粉末(1〜2μm)および標準単結晶ダイアモンド粉末(1μm)のラマンスペクトルも測定した。発光による直線バックグラウンドは前記ラマンスペクトルから差し引いた。
【0031】
プラズマ処理の後、液体サンプルは、ガスクロマトグラフと連結した質量分析検出計により分析した。クロマトグラフィーの条件は、HP−5MS、5%フェニルメチルシロキサンキャピラリーカラム、30m×φ0.25mm×0.25μmとした。個々の有機化合物の同定は、NISTリファレンスライブラリにある標準化合物の質量スペクトルの比較を基に行った(米国標準技術局、質量分析ライブラリ、1998年版)。
【0032】
液体サンプルの重合度を分析するため、MALDI−TOF−MSを用いた。これらの検討は、陽イオンを検出する反射モードで行った。実験後の液体サンプルの検討では、組成と濃度を10mg/mlの2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)のアセトニトリル溶液とした基質溶液を用いた。基質とサンプルの容積混合比は約1:1とした。
【0033】
実験結果を以下に示す。
【0034】
1.カーボンナノ粒子の構造検討
【0035】
液体ベンゼンから生成した実験的カーボン粒子の構造を決定するため、低倍率の明視野画像および高解像度のTEM(HRTEM)で観察した。低倍率では、図3(a)に示すとおり、小さなカーボン粒子の凝集体を観察した。図3(b)は、図3(a)の一部の拡大画像を示している。写真画像のコントラストから、カーボン粒子は直径約30nm未満であることが判断できる。図3(c)は、カーボンナノ粒子の高解像度TEM(HRTEM)像を示しており、アモルファスのような非常に不規則な構造が明らかとなっている。この画像で規則的な構造を識別することは不可能である。カーボンナノ粒子のTEM測定の特定部位の電子回折像も図3(c)に示している。これは不鮮明なグラファイトとアモルファス状のハローリングとから成り、本実施例で得られたカーボンナノ粒子がアモルファス状カーボンの1つであったことを示している。
【0036】
図4は、乾燥した実験用カーボン粉末、標準グラファイト粉末、および標準単結晶ダイアモンド粉末のラマンスペクトルを示している。本実施例の実験用粉末のスペクトルには、約1385cm−1を中心とした平らなラマンピークと、約1580cm−1の比較的鋭いピークがあった。これらは一般的に、それぞれDバンドおよびGバンドと呼ばれている。2ピークの強度比、ピーク幅、ピーク位置などの情報をさらに得るため、ラマンスペクトルを図4に示す2つのガウシアン関数にフィッティングした。生成グラファイト粉末と生成単結晶ダイアモンド粉末とのラマンスペクトルは、それぞれGバンド(1581cm−1)とDバンド(1331cm−1)とに鋭いラマンピークを示した。
【0037】
表1は、今回のスペクトルのフィッティング結果であるアセチレンを用いたプラズマCVDによるDLCフィルムスペクトルのフィッティング結果(非特許文献22参照)、及びグラファイト粉末の長時間の機械的粉砕によって生成したアモルファス状カーボンの結果(非特許文献21参照)を示している。
【0038】
【表1】

【0039】
実験用カーボン粉末のラマンスペクトルは、ステンレス球で1000時間、機械的に粉砕したグラファイト粉末で作成した、アモルファス状カーボンのスペクトルと同じである(非特許文献21参照)。プラズマCVD法で調製したDLCフィルムのラマンスペクトルは、本実施例のスペクトルとは異なり、Dバンドにより平らなピーク(肩)とGバンドにより幅広いピークを示す(非特許文献22参照)。本実施例の実験的カーボン粉末はアモルファス構造であるが、DLCフィルムほど不規則ではなく、これは、本実施例では電気プラズマによる芳香族分子の不完全な分解で、生成したカーボンにカーボンの六角構造がわずかに残ったためと考えられる。
【0040】
2.Cuナノ粒子またはTiCナノ粒子を封入したカーボンナノカプセル
【0041】
TEM分析において、アモルファス状の炭素マトリックスで約50〜150nmの大きさの結晶性ナノ粒子を観察した。これらの粒子(カーボンナノ粒子)は、図5(a)および(b)に示すとおり、多層グラファイトケージに包まれていた。図5(b)のカーボン外殻の格子縁の間隔は約0.34nmで、グラファイト(002)面の格子間隔に近い値である。図5(b)の特定部位の電子回折像を図5(c)に示す。カーボンナノ粒子の結晶コアの回折点は、同様にグラファイトの外殻とアモルファス状カーボンから始まるアーチ状のセミリングと広がったリングに重なっている。図5(c)では、回折点から結晶コアがTiC化合物であることが示される。TiC粒子は、超音波ホーンの表面から放射されるTi蒸気によって生成された可能性が最も高く、これがカーボンと反応して炭化物を形成した。炭化物粒子で覆っているグラファイトの外殻は、炭化物粒子が形成された高温で生成された。アモルファス状カーボンのグラファイト化は熱い炭化物粒子の周囲で起こり、炭化物粒子は液体中で冷却された。磁性材料として生成された、金属ナノ粒子の表面を覆っているグラファイトの外殻は、一般に酸化を防ぐと考えられている(非特許文献23参照)。本研究で得られたカーボンナノ粒子の大きさと形は、これらの金属化合物を含む炭素棒により、一般的なアーク放電法で生成された鉄族金属(Fe、Ni、Co)の大きさと形に類似していた)非特許文献4、5参照)。
【0042】
本実施例では、図6(a)に示すとおり、グラファイトシートに包まれた、大きさ10nm未満の金属ナノ粒子も観察した。これらのカーボンナノ粒子のサイズと形は、真空でニッケル触媒を用いるグラファイトのマグネトロンスパッタリング後、熱アニールによって生成したニッケルカーボンナノカプセルと類似している(非特許文献24参照)。しかし、本実施例のナノカプセルはやや不規則な形である。この差は、カーボンナノカプセルの生成法に由来していると考えられる。実際、グラファイトアーク放電などの従来の方法よりも同時スパッタリング法により、規則的な形で均一に分布したカーボンナノカプセルを得る方が簡単である(非特許文献4、5参照)。
【0043】
カプセル化した金属ナノ粒子の性質を明確にするため、本実施例では図6(b)および(c)に示すとおり、高速フーリエ変換(FFT)を行った。図6(b)には図6(a)のHRTEM像に対応する、格子画像のデジタル回折像が含まれている。図6(b)のスポットの多くは、Cu(111)とCu(200)に起因する。これらのナノ粒子は銅電極から放出される蒸気によって生成した可能性が高い。デジタル回折像でCuの特定の反射を用いて再構築した処理画像(A〜Dとした)のそれぞれは、図6(c)に示す通り、やや白いゾーンを示している。これらの白いゾーンは、視野内のカプセル化したナノ粒子を示している。ここで留意すべきは、ブラッグ反射が強く励起されたナノ粒子の一部のみが、図6(c)で画像化されていることである。これは、粉末検体中で一部のナノ粒子とカーボンとが重なったためである。いずれにしても、デジタル回折像からは、これらのカプセル化したナノ粒子が主にCuであることを示している。
【0044】
TiCナノ粒子とCuナノ粒子の大きさの違いは、異なる発生源によって生じたものと考えられる。TiとCuは、それぞれ超音波ホーンの下端表面および電極から発生した。Tiは容易にTiCに変換することができるので、ナノ粒子もTiからTiCに変換したために大きくなったとも考えられる。この方法では、グラファイトの外殻に封入された任意の金属ナノ粒子の生成は、超音波ホーンの先端および電極の物質を選択することで可能である。
【0045】
3.液体サンプルのGC−MSおよびMALDI TOF−MSの検討
【0046】
前記実験後、前記ベンゼン液は黄色に変化し、何らかの重合が起こったことを示していた。前記実験後の液体ベンゼンサンプルの分子量が230Da未満のGC−MSスペクトルを図7に示すが、主に生成された化合物はビフェニル(C1210)および1,4−ジエチニルベンゼン(C10)であった。他にも多環芳香族炭化水素が低収率で認められた。少量のフェノール、2,6−ジメチル−(C10O)、2,5 ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロペルオキシド(C18)、および2,6−ジアミノプリン(C)が存在したが、これはガラス容器に漏れた空気との反応によるものであった。本研究のベンゼン液にみられる多環芳香族炭化水素の種類は、レーザー光分解(非特許文献25、26)やトルエン液中の電気アーク放電(非特許文献27参照)による液体ベンゼンの分解に関する他の検討と十分一致している。Katohらが非特許文献28で報告しているように、液体中で超音波照射のみを1時間行うと、液体ベンゼンが黄色に変化する。本実施例よりも少量の同タイプの多環芳香族化合物は、液体ベンゼン中で超音波処理するだけで形成された、と推定され得る。
【0047】
図7に示した化合物のGC−MS測定に基づくと、ホットゾーンのベンゼン分子は、フェニル、アルカン、H、Cラジカルに分解したと考えられる。周囲の液体によって完全にクエンチ(急冷)され、これらのラジカルがカーボンナノ粒子や多環芳香族化合物など、より安定な化合物となった。例えば、ビフェニルの生成は、おそらく、ベンゼンのC−H結合が解離することで、プラズマのホットゾーンで形成された2つのフェニルラジカルが結合したためと考えられる。
【0048】
4.MALDI−TOF−MSによる高分子炭水化物の特徴決定
【0049】
前記実験後の液体サンプル中に高分子ポリマーが存在するか否かを検出するため、本実施例ではMALDI−TOF−MS分析を行った。結果を図8に示す。図8に示した結果を基に、分子量が664、856、1200、および1372Da前後の高分子量化合物を4種類発見した。1つの同族体が900Da前後で明らかに識別できた。挿入図は、ピーク−ピーク間の距離が14DaでCHフラグメントに対応し、これが縮合してポリマーになったことを示している。明らかに、ベンゼンの高分子重合反応は、プラズマ処理中に、ナノカーボン粒子の生成と平行して進んでいた。
【0050】
実施例2
【0051】
実施例2に関する実験装置の概略図を図9に示す。実験方法は実施例1の場合とほぼ同じであるが、有機溶媒としてエタノール溶媒100mlをガラス容器に入れ、電極は陽極、陰極共に純鉄製で直径2mmのものを用いた。また、超音波ホーンはTi合金製の直径18mmで、先端には純鉄製のチップを装着させた。
【0052】
実験後のエタノール溶媒から遠心分離によってカーボンナノカプセルの粉末試料を採取し、塩酸(30%HCl)溶液を用いて混入した粗大金属分を酸洗除去した。得られたカーボンナノカプセルの粉末を、Ar雰囲気下で、300℃から900℃で2時間熱処理し、各温度におけるカーボンナノカプセルの形態ならびに構造の変化と磁化特性の変化を調査した。形態観察ならびに構造解析は、300kVの透過電子顕微鏡(TEM)と粉末X線回折(XRD)を用いて行った。また、磁化特性は振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定した。
【0053】
実験結果を以下に示す。
【0054】
図10に未熱処理のカーボンナノカプセルのTEM観察像、制限視野回折図形ならびにEDX分析結果を示す。図10(a)ならびに(d)はそれぞれ径300nm程度のカーボンナノカプセルであるが、それぞれの回折図形(b)(e)を見ると図10(a)の内包粒子は結晶状のセメンタイトFe3C、図10(d)の内包粒子は非晶質であることがわかる。図10(b)の回折図形を見ると結晶状のセメンタイトからのスポットと粒子を覆うグラファイト層からの(002)リングが見られる。図10(c)は(a)のカーボンナノカプセルのグラファイト層の拡大写真であるが、40層ほどのグラファイト層で内包粒子が覆われていることがわかる。図10(d)のカーボンナノカプセルの内包粒子は非晶質なので、図10(f)に示すようにEDXを用いて成分分析を行った。結果を見るとFeとCで構成されており、この内包粒子は非晶質の炭化鉄であることが示唆された。
【0055】
図11に示すように、未熱処理のサンプルから径数nmカーボンナノカプセルも観察された。図11(a)は高分解TEM像、図11(b)は(a)の高速フーリエ変換より得られたデジタル回折図形である。この回折図形より内包粒子は非晶質であり、また、後に示すXRDから炭化鉄であることが推定された。
【0056】
次に、図12に未熱処理のカーボンナノカプセル粉末試料、400℃熱処理、600℃熱処理、900℃熱処理後の試料それぞれのXRD分析結果を示す。未熱処理の試料では、炭化鉄であるセメンタイトFe3Cとχ-Fe2.5Cのピークが見られる。また、ピークは若干ブロードなものもあり非晶質の粒子が混在していることがわかる。これは図10に示したTEM観察と対応している。400℃熱処理後は炭化鉄が分解して生成した結晶状α-Feに対応する鋭いピークが見られる。また、残っているFe3Cのピークは低くなっており結晶化が進んでいることがわかる。600℃ではFe3Cのピークはほとんど見られずに、α-Feの鋭いピークが見られることから、ほとんどのカーボンナノカプセルの内包粒子が結晶状α-Feに転換していることが示唆される。900℃では、600℃熱処理後では見られなかったFe3Cのピークがわずかに確認される。これはFe3Cの分解反応が熱力学的には低温ほど進行しやすいことに起因する。
【0057】
図13に未熱処理のカーボンナノカプセル試料、400℃熱処理、600℃熱処理、900℃熱処理後の試料それぞれのTEMによる全体のモロフォロジー観察を示す。それぞれ、生成したアモルファスカーボン粒子素地中に大小のカーボンナノカプセルが分散していることがわかる。この図から、熱処理温度の増大による、カーボンナノカプセルの粗大化が確認される。
【0058】
図14(a)に600℃熱処理後の径150nmほどのカーボンナノカプセル、図14(c)に900℃熱処理後の径250nmほどのカーボンナノカプセルのTEM写真を示す。それぞれの電子線回折図形を図14(b)と(d)に示しているが、両者とも内包粒子が結晶状のα-Feであることが確認される。これは図12のXRDの結果とも対応しており、熱処理により炭化鉄内包粒子がα-Feへと転換していることがわかる。
【0059】
また、900℃で熱処理すると図13、14に示したように最大で径600nmほどの粗大カーボンナノカプセルが見られるようになるが、図15に示すように、比較的小さな(径100nm以下の)カーボンナノカプセルをTEMで観察すると形態が球形ではなく、多角形状になっていることがわかる。このように、熱処理により炭化鉄内包粒子をα-Feに転換することが可能であるが、径の粗大化とともに形態がいびつになることが確認される。
【0060】
熱処理後も径が数nmから十nm程度の微小カーボンナノカプセルは残存していた。図16(a)(c)に600℃と900℃の熱処理後のサンプルで観察された微小カーボンナノカプセルの高分解TEM写真を示す。それぞれ、図16(b)と(d)に高速フーリエ変換によるデジタル回折図形を示しているが、これより内包粒子は炭化鉄Fe3Cであることが示唆される。図14に示したような比較的大きなカーボンナノカプセルの内包粒子は炭化鉄の分解によりα-Feに転換されるが、微小カーボンナノカプセルの内包粒子はその大きな比表面積の影響により熱力学的な性質が異なるため分解されないと思われる。
【0061】
図17に未熱処理のサンプル、600℃および900℃熱処理のサンプル中のカーボンナノカプセルの粒度分布を示す。グラフはTEM写真から画像処理により見積もった値である。結果を見ると径5nm以下のカーボンナノカプセルの数が顕著に多いことが分かる。図13のTEM像ですでに示したように、熱処理によりカーボンナノカプセルの粒度は大きくなっていく。未熱処理のサンプルならびに、300℃から900℃の熱処理サンプルの磁化特性(飽和磁化、保磁力)をVSMで測定した。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表には参照試料として、試薬レベルのα-Fe粉末(純度99.9%以上)とセメンタイトFe3C粉末(純度98%以上)の測定結果も同時に示している。表を見て分かるように、通常、飽和磁化はα-Feの方が大きく、保磁力はセメンタイトFe3Cの方が大きい。図18に、作製したカーボンナノカプセルサンプルの熱処理による飽和磁化の変化を示しているが、700℃付近で極大を示している。これは700℃付近でカーボンナノカプセル内包粒子の炭化鉄からα-Feの転換が最も効率良く進んだためである。熱力学的には炭化鉄のα-Feへの分解は低温ほど進みやすいが、温度が低すぎると拡散が遅く反応効率は悪い。また、高温だと熱力学的には分解は進行しにくいが、拡散(反応)は早く進む。700℃付近が炭化鉄のα-Feの分解に関して最適な温度であったと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、本発明の実施形態にかかるナノカーボン材料生成装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、液体ベンゼンの超音波キャビテーション場における電器プラズマ放電を示す図である。
【図3】図3(a)は、実験的に生成したカーボン粒子の低倍率でのTEM画像、(b)は、(a)の一部を拡大したTEM画像、(c)は、(a)に示した検体の縁のHRTEM画像および特定部位の電子回折像の挿入画像である。
【図4】図4は、乾燥した実験用カーボン粉末について2つのガウシアンでフィッティングしたラマンスペクトル、グラファイトのラマンスペクトル、およびダイアモンド粉末のラマンスペクトルを示したグラフである。
【図5】図5(a)は、多層グラファイトシートに包まれたTiC粒子のTEM画像、(b)は、対応するHRTEM画像、(c)は、(b)のHRTEM画像に対応する特定部位の回折パターンである。
【図6】図6(a)は、ベンゼン液実験で形成したカーボンナノカプセルのHRTEM画像、(b)は、(a)で示した格子像の高速フーリエ変換(FFT)により計算した、対応するデジタル回折像、(c)は、(b)で示したデジタル回折像の各Cuスポットごとの逆FFT画像である。
【図7】図7は、プラズマ処理後のベンゼンサンプルのGC−MSクロマトグラムを示している。
【図8】図8は、プラズマ処理後のベンゼンサンプルのMALDI飛行時間型質量分析を示している。
【図9】図9は、実施例2における実験装置の概略図である。
【図10】図10(a)(d)は、未熱処理カーボンナノカプセルの低倍率TEM写真、(b)は、(a)の制限視野電子回折図形、(c)は、(a)のグラファイト層の高分解TEM写真、(e)は、(d)の制限視野電子回折図形、(f)は、(d)のカーボンナノカプセル内包粒子のEDXスペクトルである。
【図11】図11(a)は、未熱処理微小カーボンナノカプセルの高分解TEM写真、(b)は、(a)の微小カーボンナノカプセルの高速フーリエ変換によるデジタル回折図形である。
【図12】図12は、熱処理によるカーボンナノカプセル粉末試料のXRDスペクトルの変化を示している。
【図13】図13は、熱処理によるカーボンナノカプセル試料のモロフォロジーの変化(TEM写真)を示している。
【図14】図14(a)は、600℃熱処理のカーボンナノカプセルの低倍率TEM写真、(b)は、(a)の制限視野電子回折図形、(c)は、900℃熱処理のカーボンナノカプセルの低倍率TEM写真、(d)は、(c)の制限視野電子回折図形である。
【図15】図15は、900℃熱処理のカーボンナノカプセルの低倍率TEM写真である。
【図16】図16(a)は、600℃熱処理の微小カーボンナノカプセルの高分解TEM写真、(b)は、(a)の微小カーボンナノカプセルの高速フーリエ変換によるデジタル回折図形、(c)は、900℃熱処理の微小カーボンナノカプセルの高分解TEM写真、(d)は、(c)の微小カーボンナノカプセルの高速フーリエ変換によるデジタル回折図形である。
【図17】図17は、熱処理温度によるカーボンナノカプセルの粒度分布の変化を示している。
【図18】図18は、作製したカーボンナノカプセル試料の飽和磁化(熱処理温度による変化)を示している。
【符号の説明】
【0065】
1…ナノカーボン材料生成装置
2…生成部
3…回収部
10…容器
11…超音波ホーン
12…超音波発生器
13…電極
14…コントローラ
15…不活性ガス供給部
16…氷浴用容器
20…回収室
21、22…配管
23…加圧ポンプ
24…採取部
25…熱処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)容器内に充填した有機溶媒中に、電源に接続した電極の陰極および陽極と超音波発生機器に接続された超音波ホーンとを配置する工程と、
B)前記超音波ホーンの先端付近の有機溶媒中に超音波を発生させて超音波キャビテーション場を生成し、前記電極に電圧を印加して超音波キャビテーション場に放電プラズマを生起させることによって、有機溶媒中の分子を熱分解してナノカーボン材料を生成する工程と
を備えたことを特徴とするナノカーボン材料の生成方法。
【請求項2】
請求項1記載の生成方法において、
前記A)工程は、電極及び超音波ホーンの先端を同一の金属で形成して有機溶媒中に配置するものであり、
前記B)工程は、この金属を前記放電プラズマによって有機溶媒中に蒸発させ、この金属の金属炭化物がグラファイト層で被覆されたカーボンナノカプセルを含むナノカーボン材料を生成するものである
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2記載の生成方法において、
前記金属は、Fe、Ni、Co等の鉄系金属、Pt、Pd、Rh等の貴金属、またはFeとこれら貴金属のひとつからなる合金から選択されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の生成方法において、
さらに、C)生成されたナノカーボン材料を有機溶媒中から回収する工程を備えたことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4記載の生成方法において、
前記C)工程は、
C1)ナノカーボン材料を含む有機溶媒を、容器に接続された回収機構に移動させる工程と、
C2)この回収機構に供給された有機溶媒からナノカーボン材料を採取する工程と、
C3)ナノカーボン材料を採取した後の有機溶媒を前記回収機構から容器内に戻す工程とを備えた
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5記載の生成方法において、
前記C1)〜C3)の工程は、B)工程と並行して行われることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項4記載の生成方法において、
前記C)工程は、特定の粒径及び/若しくは特定の形状のナノカーボン材料を選択的に回収するものであることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項4記載の生成方法において、
さらに、D)回収したナノカーボン材料を熱処理する工程を備えたことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8記載の生成方法において、
前記D)工程は、300℃〜900℃でナノカーボン材料を熱処理するものであることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項8記載の生成方法において、
前記D)工程は、熱処理により前記金属炭化物を分解して純金属とし、この純金属を内包するカーボンナノカプセルを生成するものであることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10記載の生成方法において、
前記金属は鉄であり、
前記D)工程は、700°Cで2時間加熱して純鉄を内包するカーボンナノカプセルを生成するものであることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1記載の生成方法において、
さらに、前記容器内に充填した有機溶媒を冷却する工程を備えたことを特徴とする方法。
【請求項13】
有機溶媒を充填した容器と、
超音波発生機器に接続され前記有機溶媒中に浸漬される超音波ホーンと、
一端が電源に接続され、他端が前記超音波ホーンの先端の近傍に配置された一対の電極と、
前記超音波ホーンの先端付近の有機溶媒中に超音波を発生させて超音波キャビテーション場を生成し、前記電極に電圧を印加して超音波キャビテーション場に放電プラズマを生起させることによって、有機溶媒中の分子を熱分解してナノカーボン材料を生成する制御手段と
を備えたことを特徴とするナノカーボン材料生成装置。
【請求項14】
請求項13記載のナノカーボン材料生成装置において、
前記電極及び超音波ホーンの先端は同一の金属で形成され、
前記制御手段は、この金属を前記放電プラズマによって有機溶媒中に蒸発させ、この金属の金属炭化物がグラファイト層で被覆されたカーボンナノカプセルを生成する
ことを特徴とする装置。
【請求項15】
請求項14記載のナノカーボン材料生成装置において、
前記金属は、Fe、Ni、Co等の鉄系金属、Pt、Pd、Rh等の貴金属、またはFeとこれら貴金属のひとつからなる合金から選択されることを特徴とする装置。
【請求項16】
請求項13または請求項14記載のナノカーボン材料生成装置において、
さらに、前記容器と連通し、前記有機溶媒からナノカーボン材料を回収する回収機構を備えた装置。
【請求項17】
請求項16記載のナノカーボン材料生成装置において、
前記回収機構は、生成されたナノカーボン材料を含む有機溶媒を前記容器から採取室に移動させる手段と、
移動させた有機溶媒から、遠心分離、フィルタリング等の方法でナノカーボン材料を分離して採取する手段と、
ナノカーボン材料を採取した後の有機溶媒を前記容器内に戻す手段と
を備えたことを特徴とする生成装置。
【請求項18】
請求項17記載のナノカーボン材料生成装置において、
前記回収機構は、制御手段によるナノカーボン材料の生成と並行して、生成されたナノカーボン材料を回収するものであることを特徴とする装置。
【請求項19】
請求項18記載のナノカーボン材料生成装置において、
前記回収機構は、特定の粒径及び/若しくは特定の形状のナノカーボン材料を選択的に回収するものであることを特徴とする装置。
【請求項20】
請求項19記載のナノカーボン材料生成装置において、
さらに、回収機構が回収したナノカーボン材料を熱処理する手段を設けた装置。
【請求項21】
請求項20のナノカーボン材料生成装置において、
前記熱処理手段は、300℃〜900℃でナノカーボン材料を熱処理するものであることを特徴とする装置。
【請求項22】
請求項20記載のナノカーボン材料生成装置において、
前記熱処理手段は、前記金属炭化物を分解して純金属とし、この純金属を内包するカーボンナノカプセルを生成するものであることを特徴とする装置。
【請求項23】
請求項22記載のナノカーボン材料生成装置において、
前記金属は鉄であり、前記熱処理手段は、700°Cで2時間加熱して純鉄を内包するカーボンナノカプセルを生成するものであることを特徴とする装置。
【請求項24】
請求項13記載のナノカーボン材料生成装置において、
さらに、前記容器内に充填した有機溶媒を冷却する手段を備えたことを特徴とする装置。
【請求項25】
電極及び超音波発生機器に接続された超音波ホーンの先端を同一の金属で形成し、容器内に充填した有機溶媒中に、電源に接続した前期電極の陰極および陽極と前記超音波ホーンとを配置し、超音波ホーンの先端付近の有機溶媒中に超音波を発生して超音波キャビテーション場を生成し、電極に電圧を印加して超音波キャビテーション場に放電プラズマを生起させることにより、有機溶媒中の分子を熱分解することによって生成される、前記金属の金属炭化物がグラファイト層で被覆されたカーボンナノカプセルを含むことを特徴とするナノカーボン材料。
【請求項26】
請求項25記載のナノカーボン材料において、
前記金属は、Fe、Ni、Co等の鉄系金属、Pt、Pd、Rh等の貴金属、またはFeとこれら貴金属のひとつからなる合金であることを特徴とするナノカーボン材料。
【請求項27】
請求項26記載のナノカーボン材料において、
前記金属は鉄(Fe)であり、粒径が数nmであるカーボンナノカプセルを多く含むことを特徴とするナノカーボン材料。
【請求項28】
請求項25記載のナノカーボン材料において、
このナノカーボン材料を熱処理することによって分解された前記金属炭化物の純金属を内包するカーボンナノカプセルを含むことを特徴とするナノカーボン材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−273707(P2006−273707A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258287(P2005−258287)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年9月1日 社団法人応用物理学会発行の「2004年(平成16年)秋季 第65回 応用物理学会学術講演会講演予稿集 第1分冊」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】