説明

ナノコンポジット熱電変換材料およびその製造方法

【課題】高いフォノン散乱能を有する形態のフォノン散乱粒子を用いたナノコンポジット熱電変換材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】熱電変換材料を構成する複数の第1元素の塩と、還元時にゲル化する第2元素の塩とを含む溶液を調製する第1工程、上記溶液に還元剤を加えて、上記第2元素のゲル状水酸化物10を析出させる第2工程、上記溶液に上記還元剤を更に加えて、上記第2元素のゲル状水酸化物の周囲に上記複数の第1元素20を析出させてスラリーを形成する第3工程、上記スラリーをろ過・洗浄した後、熱処理することにより、上記複数の第1元素を合金化15して上記熱電変換材料から成るマトリクス30を形成すると共に、該マトリクス中に分散した上記第2元素を構成元素とするナノサイズのフォノン散乱粒子を形成する第4工程を含むナノコンポジット熱電変換材料の製造方法および製造されたナノコンポジット熱電変換材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料マトリクス中にナノサイズのフォノン散乱粒子が分散したナノコンポジット熱電変換材料の製造方法およびそれにより製造されたナノコンポジット熱電変換材料に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換材料は、2つの基本的な熱電効果であるゼーベック(Seebeck)効果及びペルチェ(Peltier)効果に基づき、熱エネルギと電気エネルギとの直接変換を行なうエネルギ材料である。
【0003】
熱電変換材料を用いた熱電発電デバイスは、従来の発電技術に比べて、構造は簡単で、堅牢かつ耐久性が高く、可動部材は存在せず、マイクロ化が容易であり、メンテナンス不要で信頼性が高く、寿命が長く、騒音は発生せず、汚染も発生せず、低温の廃熱を利用可能であるといった多くの利点がある。
【0004】
熱電変換材料を用いた熱電冷却デバイスも、従来の圧縮冷却技術に比べて、フロン不要で汚染は発生せず、小型化は容易で、可動部材は存在せず、騒音も発生しないなどの利点がある。
【0005】
そのため、特に近年のエネルギ問題や環境問題の重大化に伴い、航空・宇宙、国防建設、地質及び気象観測、医療衛生、マイクロ電子などの領域や石油化工、冶金、電力工業における廃熱利用方面などの広範な用途への実用化が期待されている。
【0006】
熱電変換材料の性能を評価する指数として、パワーファクターP=S2σおよび無次元性能指数ZT=(S2σ/κ)Tが用いられている。ここで、S:ゼーベック係数、σ:導電率、κ:熱伝導率、T:絶対温度である。すなわち、良好な熱電特性を得るには、ゼーベック係数Sおよび導電率σが高く、熱伝導率κが低いことが必要である。
【0007】
熱伝導率κを低減するためには、熱伝導の担い手の一つであるフォノンを散乱させることが有効であり、熱電変換材料マトリクス中にフォノン散乱用の粒子が分散したコンポジット熱電変換材料が提唱されている。
特に、フォノン散乱粒子の形態によってフォノン散乱能を高めることが提案されている。
特許文献1には、フォノン散乱粒子としてナノワイヤをランダムな方位で分散させることが提案されている。
特許文献2には棒状のフォノン散乱粒子の長軸方向を、特許文献3には帯状のフォノン散乱粒子の長軸方向を、熱伝導方向とほぼ垂直に配向させることが提案されている。
特許文献4には、コア/シェル構造の複数個の粒子がシェル部同士で連続した形態を持ち、シェル部が電子伝導性を持ち、コア部がフォノン散乱能を持つ。したがって、フォノン散乱粒子の表面すなわちマトリクスと粒子の界面でのフォノン散乱能には配慮されていない。
しかし、これら従来のフォノン散乱粒子の形態では実用的な熱電変換特性を達成するには不十分であり、より高いフォノン散乱能を発揮できる形態を備えたフォノン散乱粒子が必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2008−523579号公報
【特許文献2】特開2008−124361号公報
【特許文献3】特開2000−164940号公報
【特許文献4】特開2007−21670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術の限界を超えて高いフォノン散乱能を有する形態のフォノン散乱粒子を用いたナノコンポジット熱電変換材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、下記の工程:
熱電変換材料を構成する複数の第1元素の塩と、還元時にゲル化する第2元素の塩とを含む原料溶液を調製する第1工程、
上記溶液に還元剤を加えて、上記第2元素のゲル状水酸化物を析出させる第2工程、
上記溶液に上記還元剤を更に加えて、上記第2元素のゲル状水酸化物の周囲に上記複数の第1元素を析出させてスラリーを形成する第3工程、および
上記スラリーをろ過・洗浄した後、熱処理することにより、上記複数の第1元素を合金化して上記熱電変換材料から成るマトリクスと、該マトリクス中に分散した上記第2元素の酸化物から成るナノサイズのフォノン散乱粒子とを形成する第4工程
を含むナノコンポジット熱電変換材料の製造方法を提供する。
本発明は更に、上記製造方法により製造されたナノコンポジット熱電変換材料をも提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第2工程で析出した第2元素のゲル状水酸化物はナノサイズの水酸化物粒子が細長く連なった連鎖形態を有し、この連鎖形態を維持したまま第4工程でナノサイズの酸化物となって熱電変換材料マトリクス中に分散するので、連鎖を構成する個々の第2元素酸化物ナノ粒子の外形が凹凸状に連なることにより大きな界面粗さが形成され、フォノン散乱を活発化して熱伝導率が顕著に低下し、熱電変換特性が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の方法における還元と熱処理による諸相の変化を模式的に示す図である。
【図2】図2は、本発明の連鎖形態による大きな界面粗さを示す模式図である。
【図3】図3は、本発明の実施例におけるナノコンポジット熱電変換材料の製造工程を示すフローチャートである。
【図4】図4は、本発明の実施例において得られたナノコンポジット熱電変換材料のTEM像を示す写真である。
【図5】図5は、本発明の実施例において得られたナノコンポジット熱電変換材料の熱伝導率を、従来の種々のナノコンポジット熱電変換材料の熱伝導率と対比して示す、熱伝導率と界面密度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1を参照して、本発明によるナノコンポジット熱電変換材料の製造プロセスにおける諸相の変化を説明する。熱電変換材料(Co,Ni)Sbから成るマトリクス中に、フォノン散乱粒子としてAlが分散したナノコンポジット熱電変換材料を製造する場合を想定して説明する。
【0014】
<第1工程>
熱電変換材料(Co,Ni)Sbを構成する3種類の第1元素Co,Ni,Sbの塩と、還元時にゲル化する第2元素Alの塩とを含む溶液を調製する。
【0015】
<第2工程>
上記溶液に還元剤を加えて、上記第2元素Alのゲル状水酸化物Al(OH)10を析出させる。これを「還元初期」として図1(1)に示す。ゲル10は、図示のように、個々の水酸化アルミニウムAl(OH)粒子が複数個連なった線状の連鎖形態である。溶液は、ゲル状水酸化アルミニウム粒子が分散した粒子分散溶液の状態である。ここで還元時に先ずゲル状水酸化物Al(OH)が析出するのは、Co,Ni,Sbの塩から金属Co,Ni,Sbへの還元反応における酸化還元電位に比べて、Alの塩からAl水酸化物への還元反応における酸化還元電位が高いからである。
【0016】
<第3工程>
この粒子分散溶液に上記還元剤を更に加えて、第2元素のゲル状水酸化物(ゲル状水酸化アルミニウムAl(OH))10の周囲に、上記複数の第1元素(Co,Ni,Sb)20を析出させ、スラリーを形成する。この経過を「還元途中」として図1(2)に示し、「還元完了」として図1(3)に示すように、第1元素(Co,Ni,Sb)20の集合体であるマトリクス前躯体30’中に、第2元素のゲル状水酸化物(Al(OH))10が分散した、ナノコンポジット熱電変換材料の前躯体40’がスラリーを形成している。
【0017】
<第4工程>
次に、上記のスラリーをろ過・洗浄した後に、熱処理することにより、複数の第1元素(Co,Ni,Sb)20の集合体30’を合金化して熱電変換材料(Co,Ni)Sbから成るマトリクス30と、マトリクス30中に分散した、第2元素を構成元素とするナノサイズのフォノン散乱粒子15とを形成する。この例では、第2元素(Al)の水酸化物(Al(OH))が熱処理時に酸化されて酸化アルミニウム(Al)から成るフォノン散乱粒子15となる。
【0018】
これにより、熱電変換材料30中にナノサイズのフォノン散乱粒子15が分散したナノコンポジット熱電変換材料40が得られる。
【0019】
本発明の方法により得られたナノコンポジット熱電変換材料40は、図2に示したように、第2元素を構成元素とする連鎖形態のフォノン散乱粒子15を構成する個々の第2元素酸化物ナノ粒子の外形が凹凸状に連なることにより大きな界面粗さが形成され、フォノン散乱を活発化して熱伝導率が顕著に低下し、熱電変換特性が大幅に向上する。
【0020】
本発明の方法により製造するのに適したナノコンポジット熱電変換材料としては下記のものが挙げられる。
マトリクス(熱電変換材料):(Co,Ni)Sb系、(Bi,Sb)(Te,Se)系、PbTe系、SiGe系、CaSb系、ZnSb系。
フォノン散乱粒子:Al。
【実施例】
【0021】
本発明の方法により下記の条件および手順で、熱電変換材料(Co,Ni)Sbから成るマトリクス中に、フォノン散乱粒子として30vol%のAl粒子が分散したナノコンポジット熱電変換材料を製造した。製造プロセスを図3のフローチャートに示す。
【0022】
≪原料溶液の調製≫
エタノール100mlに、下記原料を溶解して原料溶液を調製した。
マトリクス原料 塩化コバルト六水和物(CoCl・6HO) 0.9g
塩化ニッケル六水和物(NiCl・5HO) 0.057g
塩化アンチモン(SbCl) 2.75g
分散粒子原料 塩化アルミニウム六水和物(AlCl・6HO) 1.79g
【0023】
≪還元≫
エタノール100mlに還元剤としてNaBH3.1gを溶解した溶液を上記原料溶液に滴下した。
還元により析出したナノ粒子を含んだエタノールスラリーを、水500ml+エタノール300mlの溶液でろ過・洗浄し、更にエタノール300mlでろ過・洗浄した。
【0024】
≪熱処理≫
その後、密閉式のオートクレーブに装入し、240℃×48hrの水熱処理を行なってマトリクスを合金化させた。
次いで、Nガスフロー雰囲気で乾燥させ、粉末を回収した。このとき、約2.2gの粉末が回収された。
【0025】
≪焼結≫
回収した粉末を500℃で放電プラズマ焼結(SPS)し、熱電変換材料(Co,Ni)Sbから成るマトリクス中に、フォノン散乱粒子として10vol%のAl粒子が分散したナノコンポジット熱電変換材料を得た。
【0026】
≪構成相の観察≫
得られた粉末をTEM観察により確認した。図4にTEM像を示す。(Co,Ni)Sbマトリクス中に、Al粒子が分散した組織が観察され(図4(1))、(Co,Ni)Sb相とAl相との界面に界面粗さ2.1±1.1nmが確認された(図4(2))。
【0027】
≪性能≫
熱伝導率は0.6W/m/Kと測定された。
図5は、従来の種々のコンポジット熱電変換材料について、界面密度(単位体積当たりにおけるマトリクスとナノ粒子との接触面積比)に対して熱伝導率を示したグラフであり、これらと比較するために上記熱伝導率のデータをプロットした。
本実施例で得られたナノコンポジット熱電変換材料の界面密度は0.03(1/nm)であり、同じ界面密度の従来値(2.5W/m/K)に比べて本実施例の熱伝導率(0.6W/m/K)は約1/4と大幅に低下していることが分かる。
なお、図5に示した従来材の詳細は下記のとおりである。
【0028】
◇スラリーSiO(平均粒径5nm)3.35gを配合。
製法:実施例と同様にCo,Ni,Sbの塩の溶解しているエタノールスラリー中に、フォノン散乱粒子としてSiOのPGMスラリー(*)を分散させ、実施例と同様の還元剤にて塩を還元し、CoNiSbSiOの複合粒子を作製。その後、水熱処理、焼結を行なってバルク体を得た。(*:PGM(プロピレングリコールモノメチルエーテル)溶媒中に、SiO(粒径5nm)を3.35g(10wt%)分散させたスラリー)
下記の粉末SiO、粉末Al、比較材についても、これらフォノン散乱粒子を下記のとおりとした他は、上記と同様の製法である。
【0029】
□粉末SiO(平均粒径20nm)0.335gを配合。
【0030】
△粉末Al(平均粒径30nm)0.384gを配合。
【0031】
○比較材(平均粒径1〜4μm):1μmSiOを0.335g配合。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、従来技術の限界を超えて高いフォノン散乱能を有する形態のフォノン散乱粒子を用いたナノコンポジット熱電変換材料およびその製造方法が提供される。
【符号の説明】
【0033】
10 第2元素のゲル状水酸化物
15 フォノン散乱粒子
20 複数の第1元素
30’ マトリクス前躯体
30 熱電変換材料マトリクス
40’ ナノコンポジット熱電変換材料の前躯体
40 ナノコンポジット熱電変換材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程:
熱電変換材料を構成する複数の第1元素の塩と、還元時にゲル化する第2元素の塩とを含む溶液を調製する第1工程、
上記溶液に還元剤を加えて、上記第2元素のゲル状水酸化物を析出させる第2工程、
上記溶液に上記還元剤を更に加えて、上記第2元素のゲル状水酸化物の周囲に上記複数の第1元素を析出させてスラリーを形成する第3工程、および
上記スラリーをろ過・洗浄した後、熱処理することにより、上記複数の第1元素を合金化して上記熱電変換材料から成るマトリクスと、該マトリクス中に分散した上記第2元素を構成元素とするナノサイズのフォノン散乱粒子とを形成する第4工程
を含むナノコンポジット熱電変換材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記第2元素はAlであることを特徴とするナノコンポジット熱電変換材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により製造されたナノコンポジット熱電変換材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−35259(P2011−35259A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181580(P2009−181580)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】