説明

ナノダイヤモンドの精製方法及び精製ナノダイヤモンド

【課題】 グラファイト相を有するナノダイヤモンドから、グラファイト相を効率的に、高い割合で、かつ低コストで除去するナノダイヤモンドの精製方法、及び高純度の精製ナノダイヤモンドを提供する。
【解決手段】 グラファイト相を含有し、動的光散乱法で求めたメジアン径が250 nm以下のナノダイヤモンドを精製する方法であって、(1) 酸素と水及び/又はアルコールからなる処理溶媒とが共存する流体中で、グラファイト相を有するナノダイヤモンドを、上記処理溶媒の標準沸点以上の温度及び一気圧(ゲージ圧)以上の圧力で亜臨界処理又は超臨界処理するか、(2) 酸性化合物を含む溶液により、グラファイト相を有するナノダイヤモンドを超臨界処理する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイト相を有するナノダイヤモンドから、グラファイト相を、効率的に、高い割合で、かつ低コストで除去するナノダイヤモンドの精製方法、及び高純度の精製ナノダイヤモンドに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノダイヤモンドは、高い硬度を有し、平滑性に優れているので、研磨材や潤滑材として利用されている。ナノダイヤモンドはまた、誘電率が低く、電気絶縁性、耐熱性、熱伝導性、光学的性質及び生体適合性に優れているので、半導体や回路基板用の絶縁材料、光学部品用材料等の分野での利用も期待されている。
【0003】
ナノダイヤモンドの製造方法として、爆射法(炭素原子を含む爆薬を爆発させ、それに伴う衝撃によりナノサイズのダイヤモンドを生成させる方法)が代表的である。しかしこの方法により得られるナノダイヤモンドは、グラファイトを主とする炭素不純物を含んでいるので、ダイヤモンド本来の性質が阻害されている。
【0004】
そこで特開2003-146637号(特許文献1)は、グラファイト相含有ナノダイヤモンドを、150〜250℃の温度及び1.4〜2.5 MPaの圧力において硝酸で酸化処理した後、アンモニア等の塩基で中和することにより、精製する方法を記載している。しかしこの方法ではグラファイト相を十分に除去できない。
【0005】
特開2004-43265号(特許文献2)は、グラファイト相含有ナノダイヤモンドを超臨界水で処理することにより、精製する方法を記載している。しかしこの方法で十分にグラファイト相を除去するには、700〜800℃の温度及び100〜200 MPaの圧力が必要であり、水の臨界点(臨界温度374℃、臨界圧力22.1 MPa)に比較的近い温度・圧力では足りず、エネルギー及び装置にかかるコストが高いという問題がある。
【0006】
そこでYury Gogotsi,外4名,「ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(Journal of American Chemical Society)」,2006年,第128巻,pp. 11635-11642(非特許文献1)は、グラファイト相含有ナノダイヤモンドを大気圧下空気で酸化することにより、精製する方法を記載している。しかしこの方法では、酸素が粒界のグラファイト相に十分に浸透しないので、ナノダイヤモンド表面のグラファイト相しか除去されないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-146637号公報
【特許文献2】特開2004-43265号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Yury Gogotsi,外4名,「ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(Journal of American Chemical Society)」,2006年,第128巻,pp.11635-11642
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、グラファイト相を有するナノダイヤモンドから、グラファイト相を効率的に、高い割合で、かつ低コストで除去するナノダイヤモンドの精製方法、及び高純度の精製ナノダイヤモンドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、(1) 酸素と水及び/又はアルコールからなる処理溶媒とが共存する流体中で、グラファイト相を有するナノダイヤモンドを、前記処理溶媒の標準沸点以上の温度及び一気圧(ゲージ圧)以上の圧力で亜臨界処理又は超臨界処理するか、(2) 酸性化合物を含む溶液により、グラファイト相を有するナノダイヤモンドを超臨界処理すると、高い割合でグラファイト相が除去された高純度のナノダイヤモンドが、効率的かつ低コストで得られることを発見し、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、グラファイト相を含有し、動的光散乱法で求めたメジアン径が250 nm以下のナノダイヤモンドを精製する本発明のナノダイヤモンドの第一の精製方法は、酸素と水及び/又はアルコールからなる処理溶媒とが共存する流体中、前記処理溶媒の標準沸点以上の温度及び一気圧(ゲージ圧)以上の圧力で前記ナノダイヤモンドを亜臨界処理又は超臨界処理することを特徴とする。
【0012】
前記処理の条件は、(前記処理溶媒の臨界温度−100℃)以上の温度、及び前記処理溶媒の臨界圧力の50%以上の圧力であるのが好ましい。前記処理の圧力条件は、前記処理溶媒の臨界圧力の70%以上がより好ましい。
【0013】
本発明のナノダイヤモンドの第二の精製方法は、少なくとも酸性化合物と水及び/又はアルコールからなる処理溶媒とを含む溶液中で、前記グラファイト層含有ナノダイヤモンドを超臨界処理することを特徴とする。前記酸性化合物として硝酸を用い、前記処理溶媒として水を用いるのが好ましい。
【0014】
グラファイト相の除去率を一層高めるために、第一及び第二の方法において、前記グラファイト相含有ナノダイヤモンドは、炭素原子を含む爆薬を爆発させる爆射法により合成した後、メジアン径が50 nm以下となるように粉砕してなるのが好ましく、30 nm以下となるように粉砕してなるのがより好ましい。
【0015】
上記第一及び第二の方法により精製された本発明のナノダイヤモンドは、ラマンスペクトルにおける1,330±10 cm-1のピーク強度Iaと、1,610±100 cm-1のピーク強度Ibとの比が1.2以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のナノダイヤモンドの精製方法では、(1) 酸素と水及び/又はアルコールからなる処理溶媒とが共存する流体を、激しい反応性を有する亜臨界又は超臨界状態とした溶液を用いるか(第一の方法)、(2) 酸性化合物を含み、激しい反応性を有する超臨界状態とした溶液を用いる(第二の方法)ので、比較的低い温度及び圧力で、グラファイト相含有ナノダイヤモンドから、高い割合でグラファイト相を除去することができる。そのためエネルギー及び装置にかかるコストが低く、生産性が良い。特に第一の方法では酸性の化合物を使用しないので、装置腐食等の問題がない。本発明の方法で精製したナノダイヤモンドは高純度であり、ダイヤモンド本来の性質を十分に発揮することができるので、研磨材、平滑材、絶縁材料、光学部品用材料等の用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ブレンドダイヤモンドを製造する装置を示す断面図である。
【図2】精製ナノダイヤモンドの典型的な赤外吸収スペクトルである。
【図3】超臨界処理に使用した装置の構成を示す概略図である。
【図4】実施例1の超臨界処理前のUDD及び精製ナノダイヤモンドのラマン測定チャートである。
【図5】実施例7の超臨界処理前のUDD及び精製ナノダイヤモンドのラマン測定チャートである。
【図6】実施例1及び7の超臨界処理前のUDD及び精製ナノダイヤモンドの赤外吸収スペクトルである。
【図7】実施例1〜3の精製ナノダイヤモンドの赤外吸収スペクトルである。
【図8】実施例7〜9の精製ナノダイヤモンドの赤外吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[1] グラファイト相含有ナノダイヤモンド
本発明の方法により精製するグラファイト相含有ナノダイヤモンドは、爆射法(炭素原子を含む爆薬を、不活性ガス雰囲気で爆発させ、それに伴う衝撃によりナノサイズのダイヤモンドを生成させる方法)等により合成される。グラファイト相含有ナノダイヤモンドは、合成したままの状態の粗ダイヤモンド(ブレンドダイヤモンド、以下BDとよぶ)でもよいし、BDを選択的酸化処理した後、塩基で中和することにより得られ、グラファイト相の一部が除去された超分散ダイヤモンド(Ultra Dispersed Diamond、以下UDDとよぶ)でもよいが、好ましくはUDDである。
【0019】
爆射法によるBDの製造方法は、例えば特開昭56-26711号、特開昭63-303806号、特開平1-234311号、特開平2-141414号、特開平3-271109号、特表平6-505694号(WO93/13016号)、特表平7-505831号(WO94/18123号)、特開2003-146637号、特開2006-239511号、米国特許第5861349号、英国特許第1154633号、Science, Vol. 133, No. 3467 (1961), pp. 1821-1822、炭素, 第22巻, No. 2, 189〜191頁 (1984)、Van Thiei. M. & Rec., F. H., J. Appl. Phys. 62, pp. 1761〜1767 (1987)、K. Xu. Z. Jin, F. Wei and T. Jiang, Energetic Materials, 1, 19 (1993)、Chemical Physics Letters, 222 (1994), pp. 343-346、Carbon, Vol. 33, No. 12 (1995), pp. 1663-1671、Bull. Soc. Chem. Fr. Vol. 134 (1997), pp. 875-890、Diamond and Related materials Vol. 9 (2000), pp. 861-865、Physics of the Solid State, Vol. 42, No. 8 (2000), pp. 1575-1578等に記載されている。具体的には、図1に示すように、胴内に電気雷管6を装着し、爆薬[例えばTNT(トリニトロトルエン)と、HMX(シクロテトラメチレンテトラニトロアミン)又はRDX(シクロトリメチレントリニトロアミン)とを(40/60)〜(60/40)の質量比で含む混合物]5を収納した片面プラグ付き鋼鉄製パイプ4を、純チタン製耐圧容器2に入れた氷水1の中に沈め、鋼鉄製パイプ4に鋼鉄製ヘルメット3を被せて爆薬を爆発させると、氷水1中にBDが生成する。
【0020】
UDDの製造方法は、例えば特開2003-146637号に記載されている。具体的には、(1) BDを、酸(濃硝酸、濃硫酸、これらの混合物等)中で1.4 MPa程度の圧力及び150〜180℃程度の温度で10〜30分間加圧・加熱することにより選択的酸化処理し、(2) 得られた分散液を、1.8 MPa程度の圧力及び200〜240℃程度の温度で加圧・加熱することにより、BDを一次酸化性エッチング処理し、(3) 必要に応じてさらに2.5 MPa程度の圧力及び230〜250℃程度の温度で加圧・加熱することにより、BDを二次酸化性エッチング処理し、(4) 得られた分散液に、酸の1〜1.5当量の塩基(アンモニア等)を添加することにより酸を中和し、(5) 得られたUDDを水で洗浄し、(6) 得られた懸濁液を遠心分離する工程を有する。工程(6)で脱水したUDDは、水を加えて懸濁液とするか、乾燥して微粉末とすればよい。UDDは市販品を用いてもよく、例えばビジョン開発株式会社より販売されている。
【0021】
爆射法により得られたBD及びこれに上記工程(1)〜(6)の処理を施して得られたUDDは、1〜10 nm程度の径を有するナノサイズのダイヤモンドが凝集した粒子からなるが、95体積%以上が1,000 nm以下の粒径を有するのが好ましく、粒径1,000 nm超の粒子を実質的に含んでいないのが好ましい。粒径は動的光散乱法で求めることができる。BD及びUDDは、250 nm以下のメジアン径を有するので、グラファイト相を効率的に、かつ高い割合で除去することができる。グラファイト相の除去率を一層高めるために、BD及びUDDをさらに粉砕するのが好ましい。粉砕により、BD及びUDDのメジアン径を100 nm以下にするのが好ましく、50 nm以下にするのがより好ましく、30 nm以下にするのが最も好ましい。
【0022】
BD及びUDDの粉砕処理としては湿式粉砕処理が好ましい。湿式粉砕法としては、ビーズミル法、ジェットミル法、振動ミル法、流星型ボールミル法、サンドミル法、ロールミル法、ハンマーミル法等が挙げられるが、ビーズミル法が好ましい。ビーズとしては、ジルコニアビーズ、ガラスビーズ、アルミナビーズ等が挙げられるが、中でも耐磨耗性が高いジルコニアビーズが好ましい。ビーズの粒径は1.0 mm以下が好ましく、0.5 mm以下がより好ましい。この粒径が1.0 mm超だと粉砕効果が低い。必要に応じて、比較的大きい粒径のビーズ(例えば約0.1 mm)を用いて処理した後、より小さい粒径のビーズ(例えば約50 nm)を用いて処理してもよい。
【0023】
ビーズミルで処理するBD及びUDDの水懸濁液の濃度は0.05〜16質量%が好ましい。回転子の周速や粉砕処理時間は、所望の粉砕度に応じて適宜設定すればよいが、回転子の周速は5m/秒以上とするのが好ましい。ビーズミルとして、例えばアシザワファインテック株式会社製の「スターミルLMZ」及び「スターミルナノゲッター」が挙げられる。
【0024】
必要に応じて、ビーズミル法以外の湿式粉砕法を併用してもよい。他の湿式粉砕法として、上記のものが挙げられる。他の湿式粉砕法による処理は、ビーズミルによる処理の前に行うのが好ましい。
【0025】
BD及びUDDは、主として粒界及び表面にグラファイト相を有する。BD及びUDDは、グラファイト以外の不純物として、(i) 非晶質炭素、(ii) 炭化水素、ヘテロ原子含有炭化水素等の炭化水素不純物、(iii) 鉄等の金属及びその酸化物、塩(金属硫酸塩、金属カーボネート等)、カーバイド等、及び(iv) 珪素、硫黄等の非金属無機物及びその酸化物、カーバイド等も有する。BD及びUDDは、グラファイトを主とするこれらの不純物が有する官能基及び結合を有する。官能基として、メチル基、メチレン基、メチン基、カルボニル基、ケトン基、エステル基、カルボキシル基、エーテル基、アルデヒド基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、硝酸エステル基、スルホン酸基、炭素原子に結合した水酸基(結合性水酸基)等が挙げられる。本発明では、上記の不純物を十分に分解又は溶解することができる。
【0026】
[2] 精製方法
(a) 第一の方法
グラファイト相含有ナノダイヤモンドの第一の精製方法は、(1) グラファイト相含有ナノダイヤモンドと、水及び/又はアルコールからなる処理溶媒とからなる混合物を調製し、(2) このナノダイヤモンド−溶媒混合物に酸素を共存させた状態で、処理溶媒の標準沸点以上の温度及び一気圧(ゲージ圧)以上の圧力でグラファイト相含有ナノダイヤモンドを亜臨界処理又は超臨界処理し、(3) 得られた精製ナノダイヤモンドを含む液を遠心分離して処理溶媒を除去する工程を有する。工程(3)の後、脱処理溶媒した精製ナノダイヤモンドを水洗する工程(4)、及び遠心分離する工程(5)を設けてもよい。工程(3)又は(5)で得られた精製ナノダイヤモンドは、分散溶媒を加えて懸濁液にするか、乾燥して微粉末にすればよい。この分散溶媒は水、有機溶媒(アルコール等)又はこれらの混合液でよい。懸濁液には、必要に応じて分散剤を添加してもよい。
【0027】
(1) ナノダイヤモンド−溶媒混合物の調製工程
ナノダイヤモンド−溶媒混合物のグラファイト相含有ナノダイヤモンドの濃度は、0.05〜16質量%が好ましく、0.1〜12質量%がより好ましく、1〜10質量%が最も好ましい。この濃度が16質量%を超えると、精製が不十分となる恐れがある。一方0.05質量%未満であると、生産性が悪い。
【0028】
処理溶媒としては、水、アルコール又はこれらの混合液を用いる。アルコールとしては炭素数1〜3の低級アルコール(以下単に「低級アルコール」とよぶ)が好ましい。低級アルコールの具体例として、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール及びこれらの混合液が挙げられる。
【0029】
(2) 精製処理工程
ナノダイヤモンド−溶媒混合物をオートクレーブに入れ、酸素を導入する。必要に応じて触媒(酸化ホウ素等)を添加してもよい。オートクレーブ内に空気がある場合、酸素で置換するのが好ましい。酸素の導入量は、グラファイト相含有ナノダイヤモンド中のグラファイト1gに対して、0.1モル以上が好ましく、0.15モル以上がより好ましく、0.2モル以上が最も好ましい。この導入量の上限は特に制限されない。ナノダイヤモンド中のグラファイトの割合は、例えば、JIS K2249に準拠してナノダイヤモンドの比重を測定し、この比重から、ダイヤモンドの比重を3.50 g/cm3とし、グラファイトの比重を2.25 g/cm3として算出することができる。
【0030】
処理溶媒の標準沸点Tb以上及び一気圧(ゲージ圧)以上となるように、オートクレーブ内の温度及び圧力を調整する。処理溶媒のTb以上及び一気圧(ゲージ圧)以上にする限り、処理溶媒を亜臨界状態[Tb以上の温度及び一気圧(ゲージ圧)以上の圧力で、かつ臨界温度Tc未満及び/又は臨界圧力Pc未満の状態]にしてもよいし、超臨界状態にしてもよい。本発明では、亜臨界又は超臨界状態の酸素及び処理溶媒により、グラファイト相を効率的に選択的酸化することができる。
【0031】
処理温度の下限は(処理溶媒の臨界温度Tc−150℃)が好ましく、(Tc−100℃)がより好ましい。処理温度の上限は800℃が好ましく、600℃がより好ましい。処理圧力の下限は、処理溶媒の臨界圧力Pcの30%が好ましく、Pcの50%がより好ましく、Pcの70%が最も好ましい。処理圧力の上限は70 MPaが好ましく、50 MPaがより好ましい。処理時間は温度及び圧力により適宜設定すればよいが、0.1〜24時間が好ましい。
【0032】
下記表1に、酸素、水及び低級アルコールのTb、Tc及びPcを示す。水及び低級アルコールのTcは、酸素のTc(−118℃)より遥かに高く、水及び低級アルコールのPcは、酸素のPc(5.1 MPa)以上である。従って、水及び/又は低級アルコールからなる処理溶媒をTb以上及び一気圧(ゲージ圧)以上にした時、酸素は亜臨界状態のままか超臨界状態となり、処理溶媒を超臨界状態にした時、酸素も超臨界状態となる。
【0033】
【表1】

【0034】
(3) 脱溶媒工程
得られた精製ナノダイヤモンドを含む液を遠心分離し、処理溶媒を除去する。
【0035】
(4) 水洗工程
デカンテーション法により、脱処理溶媒した精製ナノダイヤモンドを水洗してもよい。洗浄操作は3回以上行うのが好ましい。
【0036】
(5) 脱水工程
水洗した精製ナノダイヤモンドを遠心分離し、脱水するのが好ましい。
【0037】
(b) 第二の方法
グラファイト相含有ナノダイヤモンドの第二の精製方法は、(1) グラファイト相含有ナノダイヤモンドと、酸性化合物と、水及び/又はアルコールからなる処理溶媒とを含む混合物を調製し、(2) このナノダイヤモンド−酸性化合物−溶媒混合物を、処理溶媒の臨界点以上の温度及び圧力で処理し、(3) 得られた精製ナノダイヤモンドを含む液を遠心分離して処理溶媒を除去する工程を有する。工程(3)の後、脱溶媒した精製ナノダイヤモンドを水洗する工程(4)、及び遠心分離する工程(5)を設けるのが好ましい。工程(3)と(4)の間に、必要に応じて、脱溶媒した精製ナノダイヤモンドを塩基性溶液で中和する工程(6)、及び弱酸で処理する工程(7)を設けてもよい。工程(3)又は(5)で得られた精製ナノダイヤモンドは、上記と同様に懸濁液にするか、微粉末にすればよい。
【0038】
(1) ナノダイヤモンド−酸性化合物−溶媒混合物の調製工程
グラファイト相含有ナノダイヤモンドの処理溶媒分散液に、酸性化合物又はその溶液を添加するか、乾燥したグラファイト相含有ナノダイヤモンドに酸性化合物及び処理溶媒を添加することにより、ナノダイヤモンド−酸性化合物−溶媒混合物を調製する。
【0039】
酸性化合物としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホウ酸、フッ酸、臭化水素酸等の無機酸、及び蟻酸、酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられるが、無機酸が好ましく、硝酸がより好ましい。
【0040】
必要に応じて、さらに酸化性化合物を添加しても良い。酸化性化合物としては、過酸化水素、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウム、過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、塩素酸リチウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、マンガン酸ナトリウム、マンガン酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、重クロム酸カリウム、クロム酸カリウム等が挙げられるが、過酸化水素が好ましい。酸性化合物と酸化性化合物との好ましい組合せとして、硝酸と過酸化水素との組合せが挙げられる。
【0041】
ナノダイヤモンド−酸性化合物−溶媒混合物のグラファイト相含有ナノダイヤモンドの濃度は第一の方法と同じでよい。十分に精製するために、ナノダイヤモンド−酸性化合物−溶媒混合物における上記化合物の濃度は0.01〜10 mol/Lが好ましく、0.1〜5mol/Lがより好ましい。
【0042】
(2) 超臨界処理工程
ナノダイヤモンド−酸性化合物−溶媒混合物を処理溶媒の臨界点以上の温度及び圧力で処理する。水及び低級アルコールの臨界温度Tc及び臨界圧力Pcは、上記表1に記載の通りである。温度は処理溶媒の臨界温度〜600℃が好ましい。温度の上限は550℃がより好ましい。圧力は処理溶媒の臨界圧力〜100 MPaが好ましい。圧力の上限は70 MPaがより好ましく、50 MPaが最も好ましい。処理時間は温度及び圧力により適宜設定すればよいが、1〜24時間が好ましい。
【0043】
(3) 脱溶媒工程、(4) 水洗工程及び(5) 脱水工程
工程(3)〜(5)は第一の方法と同じでよい。
【0044】
(6) 中和工程
工程(3)で脱溶媒した精製ナノダイヤモンドを、塩基性溶液で中和してもよい。塩基性溶液としては水酸化ナトリウム水溶液及び水酸化カリウム水溶液が好ましい。塩基性溶液の濃度は0.01〜0.5 mol/Lが好ましい。脱溶媒した精製ナノダイヤモンドに塩基性溶液を添加し、超音波処理するのが好ましい。中和後、遠心分離し、塩基性溶液を除去する。
【0045】
(7) 弱酸処理工程
工程(6)で中和した精製ナノダイヤモンドを弱酸溶液で洗浄するのが好ましい。弱酸溶液によって、中和処理後に残留しているナトリウム等の金属イオンを除去することができる。弱酸溶液として、0.01〜0.5 mol/Lの塩酸が挙げられる。中和した精製ナノダイヤモンドに弱酸溶液を添加し、超音波処理するのが好ましい。洗浄後、遠心分離し、弱酸溶液を除去する。
【0046】
[3] 精製ナノダイヤモンドの性質及び用途
本発明の方法により精製したナノダイヤモンドのグラファイト相は、高い割合で除去されている。具体的には、ラマンスペクトルにおけるダイヤモンドに帰属する1,330±10 cm-1のピーク強度Iaが、グラファイトに帰属する1,610±100 cm-1のピーク強度Ibより大きい(前者のピークの方が後者のピークより高い)。強度比Ia/Ibは1.2以上が好ましく、1.5以上がより好ましい。
【0047】
精製ナノダイヤモンドはまた、グラファイト相の除去に伴い多くの官能基が除去されている。図2は、100℃の温度で2時間乾燥後における精製ナノダイヤモンドの典型的な赤外吸収スペクトルを示す。精製ナノダイヤモンドは、(i) ほぼ3,000〜3,700 cm-1の範囲に表れ、水酸基の伸縮振動に帰属すると考えられるピーク1、(ii) ほぼ2,800〜3,000 cm-1の範囲に表れ、メチレン基の伸縮振動に帰属すると考えられるピーク2、(iii) ほぼ1,700〜1,800 cm-1の範囲に表れ、ケトン基、アルデヒド基、エステル基、カルボキシル基等が有するカルボニル基の伸縮振動に帰属すると考えられるピーク3、(iv) ほぼ1,500〜1,700 cm-1の範囲に表れ、アミド基、カルボキシル基等が有するカルボニル基の伸縮振動、水酸基の変角振動等に帰属すると考えられるピーク4、(v) ほぼ1,200〜1,400 cm-1の範囲に表れ、硝酸エステル基、CN単結合、CH結合、水酸基等に帰属すると考えられるピーク5、(vi) ほぼ1,100〜1,200 cm-1の範囲及びほぼ1,000〜1,100 cm-1の範囲に表れ、硝酸エステル基、脂肪族エーテル基、SO二重結合等に帰属すると考えられるピーク6及び7、(vii) ほぼ800〜1,000 cm-1の範囲に表れ、硝酸エステル基、C-C-C結合、アルデヒド基等に帰属すると考えられるピーク8、及び(viii) ほぼ750〜800 cm-1の範囲、ほぼ650〜750 cm-1の範囲、ほぼ500〜650 cm-1の範囲及びほぼ400〜500 cm-1の範囲に表れ、脂肪族エーテル基、芳香族基等に帰属すると考えられるピーク9〜12を有するが、ピーク2〜12の強度I2〜I12はいずれも、ピーク1の強度I1より小さい。ピーク2〜12の各強度I2〜I12と、ピーク1の強度I1との比はいずれも2.5以下が好ましく、2.0以下がより好ましい。
【0048】
精製ナノダイヤモンドは、ナノサイズのダイヤモンドの一次粒子が凝集してなるメジアン径30 nm〜1μm(動的光散乱法)程度の粒子であり、10μm以上の粗大粒子を微量に含む。そのため精製ナノダイヤモンドは、使用目的に応じて、濾過、遠心分離、デカンテーション等の方法により比較的細かい粒子と粗大な粒子とを分離するのが好ましい。
【0049】
以上のように精製ナノダイヤモンドはグラファイト相が高い割合で除去されているので、ダイヤモンド本来の性質(優れた機械的性質、化学的安定性、電気絶縁性、低誘電性、熱伝導性、耐熱性等)を十分に発揮することができる。精製ナノダイヤモンドは、例えば半導体、回路基板、コンデンサ等に用いる絶縁材料、研磨剤、放熱材料等の用途に好適である。精製ナノダイヤモンドは高い屈折率を有し、他の材料(透明樹脂、ガラス等)への分散性にも優れているので、光学部品(眼鏡用レンズ、光情報記録/再生装置用ピックアップレンズ、バックライト用レンズ及びレンズシート等)用の材料としても有用である。
【0050】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0051】
実施例1
ブレンドダイヤモンドの合成
図1に示す装置を用いて、TNT(トリニトロトルエン)とRDX(シクロトリメチレントリニトロアミン)とを60/40の質量比で含む0.65 kgの爆薬を、容量3m3の耐圧容器2内で爆発させてブレンドダイヤモンド(BD)を合成した。爆発生成物が膨張し熱平衡に達した後、15 mmの断面を有する超音速ラバルノズルを通して、35秒間ガス混合物を耐圧容器2より流出させた。容器壁との熱交換及びガスにより行われた仕事(断熱膨張及び気化)のため、生成物の冷却速度は280℃/分であった。サイクロンで捕獲した生成物(黒色の粉末、BD)の比重は2.55 g/cm3、メジアン径(動的光散乱法)は220 nmであった。この比重から、ダイヤモンドの比重を3.50 g/cm3、グラファイトの比重を2.25 g/cm3として、ダイヤモンドとグラファイトの割合を計算すると、ダイヤモンド24体積%及びグラファイト76体積%の組成になっていると推定された。
【0052】
超分散ダイヤモンドの調製
上記BDを60質量%硝酸水溶液に入れ、160℃の温度及び1.4 MPaの圧力で20分間選択的酸化処理し、230℃の温度及び1.8 MPaの圧力で1時間酸化性エッチング処理し、アンモニアを添加して210℃の温度及び2.0MPaの圧力で20分間還流することにより中和した後、分離した超分散ダイヤモンド(UDD)を洗浄し、乾燥した。このUDDのメジアン径は130 nm(動的光散乱法)であり、JIS K2249に準拠して測定した比重は3.38 g/cm3であった。この比重から算出した組成は、ダイヤモンド90体積%及びグラファイト10体積%の組成になっていると推定された。
【0053】
粉砕
上記UDD243 gを、水/トリエチレングリコール混合溶媒(容量比1:1)に入れ、攪拌して5質量%の水分散液を調製した。粒径が0.1 mmのジルコニアビーズをベッセルに充填したビーズミル(使用機器:アシザワファインテック株式会社製「スターミルLMZ」)に、上記水分散液を0.12 L/分の速度で供給し、10 m/秒の周速で回転子を回転させながら、連続的にUDDを粉砕した(ミル内における滞留時間:2時間)。粉砕後のUDDのメジアン径は25 nmであった。
【0054】
精製
粉砕したUDDの2.0質量%水分散液を30 mL調製し、これをオートクレーブ(容量50 mL、SUS316製)に入れ、酸素導入管、温度センサ及び調圧弁を有する蓋で密封した。オートクレーブ内の空気を酸素で置換し、オートクレーブ内が1.0 MPa(ゲージ圧)の圧力となるように、室温で酸素を導入し、オートクレーブを炉内に設置し、平均昇温速度6.5℃/分で加熱した。400℃に到達後、400±5℃の温度及び24.8±1 MPaの圧力で1時間処理し、室温まで冷却した後、大気圧まで減圧し、精製ナノダイヤモンドを含む液を回収した。この液は、上澄みと薄い灰色を呈する精製ナノダイヤモンドの沈殿とに分離していた。
【0055】
精製ナノダイヤモンド含有液を遠心分離し、上澄み液を除去し、脱水した精製ナノダイヤモンドをデカンテーション法で3回水洗し、遠心分離し、脱水した精製ナノダイヤモンドを120℃で加熱乾燥した。UDD及び精製ナノダイヤモンドの乾燥質量の差から算出した除去率は、UDDを100質量%として5.9質量%であった。精製ナノダイヤモンドの比重は3.49 g/cm3であった。この比重から算出した組成は、ダイヤモンド99体積%及びグラファイト1体積%であった。
【0056】
実施例2
UDDの水分散液の量を25 mLとし、397.5℃の温度及び19.85 MPaの圧力まで昇温した後、直ちに室温まで冷却した以外実施例1と同様にして、UDDを処理した。得られた精製ナノダイヤモンドを含む液は、上澄みと薄い灰色を呈する精製ナノダイヤモンドの沈殿とに分離していた。
【0057】
上記と同様にして精製ナノダイヤモンドを水洗し、乾燥した後、除去率を求めた結果、5.5質量%であった。精製ナノダイヤモンドの比重は3.47 g/cm3であった。この比重から算出した組成は、ダイヤモンド98体積%及びグラファイト2体積%であった。
【0058】
実施例3
UDDの水分散液の量を15 mLとし、処理圧力を16±1 MPaとし、処理時間を2時間とした以外実施例1と同様にして、UDDを処理した。得られた精製ナノダイヤモンドを含む液は、上澄みと薄い灰色を呈する精製ナノダイヤモンドの沈殿とに分離していた。
【0059】
上記と同様にして精製ナノダイヤモンドを水洗し、乾燥した後、除去率を求めた結果、5.0質量%であった。精製ナノダイヤモンドの比重は3.46 g/cm3であった。この比重から算出した組成は、ダイヤモンド97体積%及びグラファイト3体積%であった。
【0060】
実施例4
UDDの水分散液の量を15 mLとし、処理温度を300±5℃とし、処理圧力を20±1 MPaとした以外実施例1と同様にして、UDDを処理した。上記と同様にして精製ナノダイヤモンドを水洗し、乾燥した後、除去率を求めた結果、2.7質量%であった。精製ナノダイヤモンドの比重は3.42 g/cm3であった。この比重から算出した組成は、ダイヤモンド94体積%及びグラファイト6体積%であった。
【0061】
実施例5
UDDの水分散液の量を15 mLとし、処理温度を350±5℃とし、処理圧力を20±1 MPaとした以外実施例1と同様にして、UDDを処理した。上記と同様にして精製ナノダイヤモンドを水洗し、乾燥した後、除去率を求めた結果、3.7質量%であった。精製ナノダイヤモンドの比重は3.44 g/cm3であった。この比重から算出した組成は、ダイヤモンド95体積%及びグラファイト5体積%であった。
【0062】
実施例6
処理温度を500±5℃とした以外実施例1と同様にして、UDDを超臨界処理した。上記と同様にして精製ナノダイヤモンドを水洗し、乾燥した後、除去率を求めた結果、6.5質量%であった。精製ナノダイヤモンドの比重は3.50 g/cm3とダイヤモンドと同じであり、ほぼ全量のグラファイトが除去されたと推定された。
【0063】
実施例1〜6より、UDDを、酸素及び水が共存する流体中で亜臨界処理又は超臨界処理すると、グラファイトを主とする不純物が大幅に除去されることが分かった。
【0064】
実施例7
図3は、UDDを硝酸で超臨界処理するのに用いた装置を示す。この装置は、ハステロイ(登録商標)製オートクレーブ(容量10 mL)11と、これを加熱する炉12と、オートクレーブ11内の圧力を制御する背圧制御弁13と、背圧制御弁13の前段に設けられた冷却コイル14と、背圧制御弁13の後段に設けられた廃液容器15と、内容物の温度を検出する温度センサ16と、背圧制御弁13及び温度センサ16でそれぞれ検出された圧力及び温度を記録するコンピュータ17とを有する。オートクレーブ11と背圧制御弁13とを接続する管110に、三方継手111を介して、超純水タンク18と、超純水を送液するポンプ19とが接続されている。
【0065】
実施例1と同様にして調製した粉砕UDD(メジアン径25 nm、推定組成:ダイヤモンド90体積%/グラファイト10体積%)の2.0質量%水分散液と、13.4 Nの硝酸(61質量%、比重1.38、和光純薬工業株式会社製)とを体積比9:1で混合した。得られた混合物(7mL)をオートクレーブ11に入れ、オートクレーブ11に管110及び温度センサ16を取り付け、オートクレーブ11を炉12内に設置した。オートクレーブ11内の圧力が30 MPaに到達するまで、タンク18から超純水を0.5 mL/分の流量で送液した後、超純水の流量を0.1 mL/分に下げ、昇温を開始した。三方継手111から排出されたグラファイト等の不純物を含む水がオートクレーブ11に逆流するのを防止するために、超純水の流量を0.1 mL/分に保持しながら、オートクレーブ11内を30±1 MPaの圧力、及び500±5℃の温度に3時間保持することにより、UDDを硝酸で超臨界処理した。超純水の流量を0.1 mL/分に保持したまま室温まで冷却した後、大気圧まで減圧し、精製ナノダイヤモンドを含む液を回収した。
【0066】
上記と同様にして精製ナノダイヤモンドを水洗し、乾燥した後、除去率を求めた結果、4.7質量%であった。精製ナノダイヤモンドの比重は3.46 g/cm3であった。この比重から算出した組成は、ダイヤモンド97体積%及びグラファイト3体積%の組成になっていると推定された。
【0067】
実施例8
処理時間を5時間とした以外実施例7と同様にして、UDDを硝酸で超臨界処理した。上記と同様にして求めた除去率は5.0質量%であった。精製ナノダイヤモンドの比重は3.46 g/cm3であった。この比重から算出した組成は、ダイヤモンド97体積%及びグラファイト3体積%の組成になっていると推定された。
【0068】
実施例9
温度を400℃±5とした以外実施例8と同様にして、UDDを硝酸で超臨界処理した。上記と同様にして求めた除去率は2.5質量%であった。精製ナノダイヤモンドの比重は3.45 g/cm3であった。この比重から算出した組成は、ダイヤモンド96体積%及びグラファイト4体積%の組成になっていると推定された。
【0069】
実施例10
温度を580〜600℃とし、圧力を60MPaとし、時間を8時間とした以外実施例7と同様にして、UDDを硝酸で超臨界処理した。上記と同様にして求めた除去率は6.5質量%であった。精製ナノダイヤモンドの比重は3.50 g/cm3とダイヤモンドと同じであり、ほぼ全量のグラファイトが除去されたと推定された。
【0070】
実施例7〜10より、UDDを超臨界状態の硝酸で処理すると、グラファイトを主とする不純物が大幅に除去されることが分かった。
【0071】
比較例1
硝酸を添加しなかった以外実施例7と同様にして、UDDを超臨界水で処理した。上記と同様にして算出した除去率は0.7質量%であった。ナノダイヤモンドの比重は3.39 g/cm3であった。この比重から計算すると、精製ナノダイヤモンドはダイヤモンド91体積%及びグラファイト9体積%の組成になっていると推定された。以上のことから、比較例1の超臨界水処理では、実施例1〜10の酸素又は硝酸を用いた処理に比較して、グラファイト相の除去量が格段に劣っていることが分かった。
【0072】
実施例1〜3,7〜9で得られた精製ナノダイヤモンド及びUDDについて、以下の条件でラマンスペクトルを測定した。実施例1及び7の結果を図4及び5に示す。
【0073】
装置:顕微ラマン分光器(レニショー株式会社製 JRS-SYSTEM 2000)
レーザー波長:532 nm
レーザーパワー:100%
グレーティング:1800 line/mm
測定時間:30秒
積算:5回
サンプル:100℃で乾燥
【0074】
図4及び5から明らかなように、精製ナノダイヤモンドでは、ダイヤモンドに帰属する1,333 cm-1付近のピークの強度Iaが、グラファイトに帰属する1,620 cm-1付近のピークの強度Ibより大きい。これに対して、UDDでは強度Iaが強度Ibより小さい。精製ナノダイヤモンド及びUDDについて五ヶ所の部位を測定し、強度比Ia/Ibの平均値を求めた結果、実施例1及び7の精製ナノダイヤモンドでは、それぞれ8.0及び1.6であったのに対し、UDDでは0.86であった。実施例2,3,8,9について、上記と同様にして求めた強度比Ia/Ib(平均値)は、それぞれ4.2、2.1、1.8、1.2であった。なおグラファイトに帰属する1,620 cm-1付近のピークは共鳴ラマン効果により強度が著しく大きく検出されるので、グラファイトの定量は不可能であるが、ダイヤモンド及びグラファイトのピークの強度比からサンプル間の相対比較を行うことはできる。
【0075】
実施例1〜3,7〜9で得られた精製ナノダイヤモンド及びUDDについて、フーリエ変換赤外分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製Nicolet MAGNA 760)を用いて、透過法により、100℃の温度で2時間乾燥後における赤外スペクトルを測定した。結果を図6〜8に示す。なお図7及び8では図6より縦軸の上限値を小さくしている。図6〜8から明らかなように、実施例1〜3,7〜9で得られた精製ナノダイヤモンドでは、UDDに比較して、(i) ほぼ2,800〜3,000 cm-1の範囲に表れ、メチレン基の伸縮振動に帰属すると考えられるピーク、(ii) ほぼ1,700〜1,800 cm-1の範囲に表れ、ケトン基、アルデヒド基、エステル基、カルボキシル基等が有するカルボニル基の伸縮振動に帰属すると考えられるピーク、(ii) ほぼ1,500〜1,700 cm-1の範囲に表れ、アミド基、カルボキシル基等が有するカルボニル基の伸縮振動、水酸基の変角振動等に帰属すると考えられるピーク、(iii) ほぼ1,200〜1,400 cm-1の範囲に表れ、硝酸エステル基、CN単結合、CH結合、水酸基等に帰属すると考えられるピーク、(iv) ほぼ1,100〜1,200 cm-1の範囲及びほぼ1,000〜1,100 cm-1の範囲に表れ、硝酸エステル基、脂肪族エーテル基、SO二重結合等に帰属すると考えられるピーク、(v) ほぼ800〜1,000 cm-1の範囲に表れ、硝酸エステル基、C-C-C結合、アルデヒド基等に帰属すると考えられるピーク、及び(vi) ほぼ750〜800 cm-1の範囲、ほぼ650〜750 cm-1の範囲、ほぼ500〜650 cm-1の範囲及びほぼ400〜500 cm-1の範囲に表れ、脂肪族エーテル基、芳香族基等に帰属すると考えられるピークはいずれも減少していた。
【0076】
実施例1〜3,7〜9の精製ナノダイヤモンドの赤外吸収スペクトルにおける上記各ピークの強度I2〜I12(図2参照)と、3,000〜3,700 cm-1の範囲に表れ、水酸基の伸縮振動に帰属すると考えられるピークの強度I1(図2参照)との比を求めた。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
表2から明らかなように、ピーク強度比(I2/I1)〜(I12/I1)はいずれも2.0以下であり、特に実施例1〜3では1.0以下であり、実施例1及び2では0.6以下であった。
【符号の説明】
【0079】
1・・・氷水
2・・・耐圧容器
3・・・ヘルメット
4・・・鋼鉄製パイプ
5・・・爆薬
6・・・電気雷管
11・・・オートクレーブ
12・・・加熱炉
13・・・背圧制御弁
14・・・冷却コイル
15・・・廃液容器
16・・・温度センサ
17・・・コンピュータ
18・・・超純水タンク
19・・・ポンプ
110・・・管
111・・・三方継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイト相を含有し、動的光散乱法で求めたメジアン径が250 nm以下のナノダイヤモンドを精製する方法であって、酸素と水及び/又はアルコールからなる処理溶媒とが共存する流体中、前記処理溶媒の標準沸点以上の温度及び一気圧(ゲージ圧)以上の圧力で前記グラファイト層含有ナノダイヤモンドを亜臨界処理又は超臨界処理することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載のナノダイヤモンドの精製方法において、(前記処理溶媒の臨界温度−100℃)以上の温度、及び前記処理溶媒の臨界圧力の50%以上の圧力で、前記グラファイト層含有ナノダイヤモンドを処理することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のナノダイヤモンドの精製方法において、前記処理溶媒の臨界圧力の70%以上の圧力で、前記グラファイト層含有ナノダイヤモンドを処理することを特徴とする方法。
【請求項4】
グラファイト相を含有し、動的光散乱法で求めたメジアン径が250 nm以下のナノダイヤモンドを精製する方法であって、少なくとも酸性化合物と水及び/又はアルコールからなる処理溶媒とを含む溶液中で、前記グラファイト層含有ナノダイヤモンドを超臨界処理することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載のナノダイヤモンドの精製方法において、前記酸性化合物として硝酸を用い、前記処理溶媒として水を用いることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のナノダイヤモンドの精製方法において、前記グラファイト相含有ナノダイヤモンドは、炭素原子を含む爆薬を爆発させる爆射法により合成した後、メジアン径が50 nm以下となるように粉砕してなることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載のナノダイヤモンドの精製方法において、前記グラファイト相含有ナノダイヤモンドは、メジアン径が30 nm以下となるように粉砕してなることを特徴とする方法。
【請求項8】
グラファイト相を含有し、動的光散乱法で求めたメジアン径が250 nm以下のナノダイヤモンドを、酸素と水及び/又はアルコールからなる処理溶媒とが共存する流体中、前記処理溶媒の標準沸点以上の温度及び一気圧(ゲージ圧)以上の圧力で亜臨界処理又は超臨界処理することにより精製したナノダイヤモンドであって、ラマンスペクトルにおける1,330±10 cm-1のピーク強度Iaと、1,610±100 cm-1のピーク強度Ibとの比が1.2以上であることを特徴とする精製ナノダイヤモンド。
【請求項9】
グラファイト相を含有し、動的光散乱法で求めたメジアン径が250 nm以下のナノダイヤモンドを、少なくとも酸性化合物と水及び/又はアルコールからなる処理溶媒とを含む溶液中で、超臨界処理することにより精製したナノダイヤモンドであって、ラマンスペクトルにおける1,330±10 cm-1のピーク強度Iaと、1,610±100 cm-1のピーク強度Ibとの比が1.2以上であることを特徴とする精製ナノダイヤモンド。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の精製ナノダイヤモンドであって、前記グラファイト相含有ナノダイヤモンドは、炭素原子を含む爆薬を爆発させる爆射法により合成した後、メジアン径が50 nm以下となるように粉砕してなることを特徴とする精製ナノダイヤモンド。
【請求項11】
請求項10に記載の精製ナノダイヤモンドであって、前記グラファイト相含有ナノダイヤモンドは、メジアン径が30 nm以下となるように粉砕してなることを特徴とする精製ナノダイヤモンド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−37693(P2011−37693A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220664(P2009−220664)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(500462834)ビジョン開発株式会社 (51)
【Fターム(参考)】