説明

ナノダイヤモンド粒子含有めっき膜を形成した材料及びその製造方法

【課題】従来の技術では含有させることのできなかった量のナノダイヤモンド粒子を、金属マトリックス中に分散させためっき膜を基材表面に有する材料、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】平均粒径が1〜1000nmのダイヤモンド微粒子を懸濁しためっき浴を酸素を含有する気体で攪拌しながら基材を浸漬し、基材表面に金属マトリックス中に8〜25容量%の平均粒径が1〜1000nmのダイヤモンド微粒子を分散させためっき膜を形成する。金属マトリックスとしてはニッケル、銅、錫、クロム、亜鉛、鉛、コバルト、鉄、金、銀、白金からなる群から選択された金属を使用し、基材としては金属、プラスチック、セラミックスから選択されたものを使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面に金属マトリックス中にナノダイヤモンド粒子を分散させためっき膜を形成した材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平均粒径が1〜10nm程度のダイヤモンド粒子(以下、「ナノダイヤモンド粒子」という)を無電解めっきにより金属膜中に共析させて、膜表面に潤滑性や耐摩耗性を有するめっき膜を形成した材料は公知である。(例えば、特許文献1参照)
【特許文献1】特開2004−310818号公報
【0003】
特許文献1には、0.001〜1重量%のナノダイヤモンド粒子を含有する無電解めっき膜を基材表面に形成し、磁気記録材料として使用することが記載されているが、めっき膜中に含有させることのできるナノダイヤモンド粒子の量は極めて限定されたものであった。
本発明者等は、無電解めっきのめっき条件を最適化することによって、めっき膜中に共析させるナノダイヤモンド粒子の量を最大7.5容量%迄増加できることを見出し発表したが(非特許文献1参照)、潤滑性や耐摩耗性等の特性が改善された材料を得るためには、基材表面に形成するめっき膜中にさらに多量のナノダイヤモンド粒子を含有する材料の開発が求められていた。
【非特許文献1】電気化学会第71回大会講演要旨集、第36頁、平成16年3月24日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明は、従来の技術では含有させることのできなかった量のナノダイヤモンド粒子を、金属マトリックス中に分散させためっき膜を基材表面に有する材料、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は鋭意検討した結果、ナノダイヤモンド粒子を懸濁しためっき浴を酸素を含有する気体で攪拌することによって、上記課題が解決されることを見出し本発明を完成したものである。
すなわち、本発明では次の1〜12の構成を採用する。
1.基材表面に、金属マトリックス中に8〜25容量%の平均粒径が1〜1000nmのダイヤモンド微粒子を分散させためっき膜を形成したことを特徴とする材料。
2.金属マトリックスがニッケル、銅、錫、クロム、亜鉛、鉛、コバルト、鉄、金、銀、白金からなる群から選択された金属により構成されたものであることを特徴とする1に記載の材料。
3.ダイヤモンド微粒子が混酸で熱処理されたものであることを特徴とする1又は2に記載の材料。
4.めっき膜の膜厚が0.05〜1000μmであることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の材料。
5.めっき膜が無電解めっきにより形成されたものであることを特徴とする1〜4のいずれかに記載の材料。
6.基材が金属、プラスチック、セラミックスから選択されたものであることを特徴とする1〜5のいずれかに記載の材料。
7.平均粒径が1〜1000nmのダイヤモンド微粒子を懸濁しためっき浴を酸素を含有する気体で攪拌しながら基材を浸漬し、基材表面に金属マトリックス中に平均粒径が1〜1000nmのダイヤモンド微粒子を分散させためっき膜を形成することを特徴とする材料の製造方法。
8.めっき膜中に8〜25容量%のダイヤモンド微粒子を含有することを特徴とする7に記載の材料の製造方法。
9.めっき浴が錯化剤としてクエン酸又はその金属塩を含有するものであることを特徴とする7又は8に記載の材料の製造方法。
10.めっき浴がホスフィン酸系無電解めっき浴であることを特徴とする7〜9のいずれかに記載の材料の製造方法。
11.めっき浴がホスフィン酸系無電解ニッケルめっき浴であることを特徴とする10に記載の材料の製造方法。
12.めっき浴がクエン酸・ニッケル錯体系電解めっき浴であることを特徴とする7〜9のいずれかに記載の材料の製造方法。
【0006】
なお、本発明において「ホスフィン酸系」とは、「ホスフィン酸又はその塩を含有する」ことを意味し、「クエン酸・ニッケル錯体系」とは、「クエン酸又はその塩、及びニッケル錯体を含有する」ことを意味する。他の場合にも、「A系」とは、「Aを含有する」という意味である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来技術では得ることのできなかった、金属マトリックス中に8容量%以上のナノダイヤモンド粒子を分散させためっき膜を、特別な装置や高価な原料を使用せずに基材表面に容易に形成することができる。単にスターラーでめっき浴を撹拌する従来技術では、めっき開始後10分程度でめっき浴の自己分解が発生し、めっき浴全体から粉体の析出が生じて十分な膜厚を有するナノダイヤモンド粒子を含有するめっき膜を形成することができなかった。本発明によれば、めっき浴中に酸素を含有する気体を導入してめっき浴を攪拌することにより、めっき浴の自己分解を防止し、十分な膜厚を有するナノダイヤモンド粒子を含有するめっき膜を形成することが可能となった。
本発明のナノダイヤモンド粒子含有めっき膜を有する材料は、潤滑性や耐摩耗性等にすぐれ、磁気記録材料、摺動材料、砥石等の幅広い分野に応用可能なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、金属プラスチック、セラミックス等から選択された基材表面に、従来技術では得ることのできなかった金属マトリックス中に、多量のナノダイヤモンド粒子を分散させためっき膜を形成した材料を製造するものである。
ナノダイヤモンド粒子を分散させる金属マトリックスを構成する材料としては特に制限はなく、ニッケル、銅、錫、クロム、亜鉛、鉛、コバルト、鉄、金、銀、白金等、通常めっき膜を構成するのに使用される金属はいずれも使用することができるが、特に好ましい金属としてはニッケルが挙げられる。
【0009】
ナノダイヤモンド粒子としては、平均粒径1〜1000nm程度、好ましくは1〜100nm程度、特に好ましくは1〜10nm程度のものを使用する。このようなナノダイヤモンド粒子は市場から入手可能であるが、市販品を使用する場合には、製造ロットによりめっき膜中に分散させることができるナノダイヤモンド粒子の量にばらつきが生じることがあるので、混酸(例えば、濃硫酸中に硝酸或いはその塩を含む混酸)を使用した熱処理によりナノダイヤモンド粒子を精製しておくことが好ましい。
【0010】
基材表面に形成するめっき膜の膜厚としては、0.05〜1000μm程度のものとすることができるが、通常は1〜100μm程度とすることが好ましい。
めっき膜の形成方法としては、無電解めっき及び電解めっきのいずれも使用することができるが、無電解めっきによればより多量のナノダイヤモンド粒子をめっき膜中に容易に共析することができるので好ましい。
【0011】
本発明では、ナノダイヤモンド粒子を分散(懸濁)しためっき浴を酸素を含有する気体で攪拌しながら基材を浸漬することによって、めっき膜を構成する金属マトリックス中に従来の技術では分散させることのできなかった量のナノダイヤモンド粒子を分散させることを可能としたものである。
酸素を含有する気体としては、純粋な酸素のほか、酸素と窒素等の他の不活性気体との混合物を使用することができ、実用上は空気を使用することが好ましい。
【0012】
従来の技術では、めっき浴を単にスターラーで攪拌しながら基材を浸漬しめっき膜を形成していたが、スターラー攪拌ではめっき開始後10分程度でめっき浴の自己分解が発生し、めっき浴全体から粉体の析出が生じて十分な膜厚を有するナノダイヤモンド粒子を含有するめっき膜を形成することができなかった。
本発明では、めっき浴中に酸素を含有する気体を導入してめっき浴を攪拌することにより、このような従来技術の問題点を解消したものである。本発明の酸素を含有する気体によりめっき浴を攪拌する方法は、無電解めっきのみならず、電解めっきにも有効な方法である。
【0013】
無電解めっきに使用するめっき浴としては特に制限はなく、通常無電解めっきに使用されるめっき浴はいずれも使用することができ、例えばホスフィン酸又はその塩を含有するホスフィン酸系無電解めっき浴、ホルムアルデヒドを含む無電解めっき浴、ジメチルアミンボランを含む無電解めっき浴等が挙げられる。
【0014】
これらのめっき浴中には、通常錯化剤が添加される。このような錯化剤としては、例えば乳酸、酒石酸、クエン酸、グリシン、イミノ酢酸、コハク酸、リンゴ酸、グルコン酸のような炭素数が3〜6のカルボン酸及びその金属塩、もしくはアンモニア等が挙げられ、好ましい錯化剤としてはクエン酸及びその金属塩が用いられる。これらの錯化剤は、単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
めっき浴中の錯化剤の含有量は、目的とするめっき膜の種類や膜厚等に応じて適宜選択することができるが、通常は0.05〜2.0M程度、特に0.1〜1.0M程度とすることが好ましい。
【0015】
本発明の、金属マトリックス中にナノダイヤモンド粒子を分散させためっき膜を有する材料は、電解めっきによっても製造することができる。
電解めっきのめっき浴としては特に制限はなく、通常電解めっきに使用される浴はいずれも使用することができ、例えばクエン酸・ニッケル錯体系電解めっき浴、錯化剤を用いない電解めっき浴、アンミン錯体系電解めっき浴等が挙げられる。
【0016】
無電解めっき浴又は電解めっき浴中に分散させるナノダイヤモンド粒子の量は、目的とするめっき膜の性状に応じて適宜選択することができるが、通常は0.01〜30g/L程度、特に0.5〜20g/L程度とすることが好ましい。
めっき浴中に導入する酸素を含有する気体の量は、100mL〜1Lのめっき浴を用いる場合は、通常は10〜2,000mL/min程度、特に100〜500mL/min程度とすることが好ましい。これより大きいめっき浴の場合は、概ね体積に比例した導入量が好ましい。
【実施例】
【0017】
つぎに、金属マトリックスを構成する材料としてニッケルを使用した場合を例にとり本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
なお、以下の例では、めっき膜中のナノダイヤモンド粒子の含有量は、得られためっき膜を硝酸で溶解し、遠心分離により膜中に共析したナノダイヤモンド粒子を沈降させ、乾燥後重量を測定することによって求めた。
【0018】
(実施例1)
基材として、純度99.9%の銅板(厚さ0.1mm、縦40mm、横30mm)を使用し、常法により塩化スズ・塩化パラジウムからなる2液型プロセスにより触媒化した。
内容量100mLのガラス製容器中で、ホスフィン酸ナトリウム0.15M、クエン酸ナトリウム0.2M、硫酸ニッケル0.1Mを含有し、NaOHによりpHを10に調整しためっき浴に、ナノダイヤモンド粒子を5g/L分散させた。めっき浴中に0.35L/min.の空気を供給し撹拌しながら、75℃で無電解めっきを行なったところ、2時間で膜厚約10μmのニッケルめっき膜が得られた。このめっき膜中の、ナノダイヤモンド粒子の含有量は8.5容量%であった。
【0019】
(比較例1)
めっき浴中に空気を導入せずに、スターラーによりめっき浴を攪拌した以外は、実施例1と同様にして銅板の表面に膜厚約5μmのナノダイヤモンド粒子を含有するニッケルめっき膜を形成した。このめっき膜中のナノダイヤモンド粒子の含有量は7.5容量%であった。
しかしながら、このめっき浴は不安定であり、1時間以内に自己分解によりめっき膜を構成する金属の析出が停止し、これ以上膜厚を厚くすることはできなかった。また、得られためっき膜も、実施例1のめっき膜に比較して性状が不均一なものであった。
【0020】
(実施例2)
めっき浴中に分散させるナノダイヤモンド粒子の量を、0.5g/L,1g/L,3g/L及び10g/Lに変更した以外は、実施例1と同様にして銅版の表面に膜厚約10μmのニッケルめっき膜を形成した。得られた、めっき膜中のナノダイヤモンド粒子の含有量とめっき浴中のナノダイヤモンド粒子の量との関係を、実施例1を含めて図1に記載した。
【0021】
(実施例3)
めっき浴中に分散させるナノダイヤモンド粒子の量を20g/Lに変更した以外は、実施例1と同様にして銅版の表面に膜厚約10μmのニッケルめっき膜を形成した。このめっき膜中の、ナノダイヤモンド粒子の含有量は14容量%であった。
【0022】
(実施例4)
基材として、純度99.9%の銅板(厚さ0.1mm、縦40mm、横30mm)を使用し、内容量100mLのガラス製容器中で、硫酸ニッケル0.53M、塩化ニッケル0.09M、クエン酸ナトリウム1.24Mを含有し、NaOHによりpHを8に調整しためっき浴に、ナノダイヤモンド粒子を5g/L分散させた。めっき浴中に0.35L/min.の空気を供給し撹拌しながら、浴温50℃、2500Cの通電量で電解めっきを行なったところ、3時間で膜厚約10μmのニッケルめっき膜が得られた。このめっき膜中の、ナノダイヤモンド粒子の含有量は8.0容量%であった。このナノダイヤモンド粒子の含有量は、電解めっきによるものとしては過去最高のものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1及び2で得られた、めっき膜中のナノダイヤモンド粒子の含有量とめっき浴中のナノダイヤモンド粒子の量との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に、金属マトリックス中に8〜25容量%の平均粒径が1〜1000nmのダイヤモンド微粒子を分散させためっき膜を形成したことを特徴とする材料。
【請求項2】
金属マトリックスがニッケル、銅、錫、クロム、亜鉛、鉛、コバルト、鉄、金、銀、白金からなる群から選択された金属により構成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の材料。
【請求項3】
ダイヤモンド微粒子が混酸で熱処理されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の材料。
【請求項4】
めっき膜の膜厚が0.05〜1000μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の材料。
【請求項5】
めっき膜が無電解めっきにより形成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の材料。
【請求項6】
基材が金属、プラスチック、セラミックスから選択されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の材料。
【請求項7】
平均粒径が1〜1000nmのダイヤモンド微粒子を懸濁しためっき浴を酸素を含有する気体で攪拌しながら基材を浸漬し、基材表面に金属マトリックス中に平均粒径が1〜1000nmのダイヤモンド微粒子を分散させためっき膜を形成することを特徴とする材料の製造方法。
【請求項8】
めっき膜中に8〜25容量%のダイヤモンド微粒子を含有することを特徴とする請求項7に記載の材料の製造方法。
【請求項9】
めっき浴が錯化剤としてクエン酸又はその金属塩を含有するものであることを特徴とする請求項7又は8に記載の材料の製造方法。
【請求項10】
めっき浴がホスフィン酸系無電解めっき浴であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の材料の製造方法。
【請求項11】
めっき浴がホスフィン酸系無電解ニッケルめっき浴であることを特徴とする請求項10に記載の材料の製造方法。
【請求項12】
めっき浴がクエン酸・ニッケル錯体系電解めっき浴であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の材料の製造方法。










【図1】
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【公開番号】特開2006−225730(P2006−225730A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41689(P2005−41689)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月16日 電気化学会北陸支部主催の「2004年 電気化学会北陸支部秋季大会」において文書をもって発表
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】