説明

ナノファイバ膜製造装置およびナノファイバ膜製造方法

【課題】エレクトロスピニングによる膜形成の対象面において、簡便な方法でナノファイバの堆積の有無の切り替えることができるナノファイバ膜製造装置およびナノファイバ膜製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】捕集シート11においてナノファイバ10aの膜形成の対象面に、堆積膜30を形成する対象となる表堆積領域Cと堆積膜30を形成する対象とならない非堆積領域Fが混在している場合において、表堆積領域Cを接地もしくは表堆積領域Cに原料液10を帯電させた電荷と反対の極の電圧を印加し、非堆積領域Fに載置された導電体34に、原料液10を帯電させた電荷と同極の電圧を印加する。これにより非堆積領域Fへのナノファイバ10aの付着・体積を排除して、エレクトロスピニングによる膜形成の対象面において、簡便な方法でナノファイバ10aの堆積の有無の切り替えを行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子物質から成るナノファイバの堆積膜を製造するナノファイバ膜製造装置およびナノファイバ膜製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サブミクロンスケールの直径を有する繊維状物質(ナノファイバ)を製造する方法として、エレクトロスピニング(電荷誘導紡糸)法が知られている。このエレクトロスピニング法においては、溶媒中に樹脂などの溶質を分散または溶解させた原料液を空間中にノズルなどにより流出させるとともに、原料液に電荷を付与して帯電させ、空間を飛行中の原料液を電荷相互に作用するクーロン力によって電気的に延伸させることによりナノファイバを生成する。
【0003】
このようにして生成されたナノファイバを捕集シートによって捕集することにより、高分子物質より成るナノファイバが不織布状に堆積された高分子ウエブ(ナノファイバ膜)が形成される(例えば特許文献1参照)。この特許文献に示す先行技術例においては、捕集シートに対向して2次元に配列された複数のノズルを備え、ナノファイバの生成に際して、捕集シートを水平方向に送りながら複数のノズルにより捕集シートに対して高分子溶液を吐出させる例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−174867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ナノファイバ膜の用途は様々であり、用途によっては捕集シートにおいて、ナノファイバーを堆積させるべき領域とナノファイバーを堆積すべきでない領域を有するものがある。例えば、捕集シートとして用いられる導電膜上にナノファイバの堆積膜を形成した積層体をコンデンサなどの電子部品の素材として用いる場合には、電極として用いられる領域には絶縁体であるナノファイバを付着堆積させることができない。
【0006】
しかしながら、上述の特許文献に示す例を含め、従来のナノファイバ膜の製造においては、膜形成の対象面において、ナノファイバの堆積の要否が異なる領域を混在させることができなかった。このため、エレクトロスピニングによる膜形成の対象面において、簡便な方法でナノファイバの堆積の有無の切り替えを可能にすることが求められていた。
【0007】
そこで本発明は、エレクトロスピニングによる膜形成の対象面において、簡便な方法でナノファイバの堆積の有無の切り替えることができるナノファイバ膜製造装置およびナノファイバ膜製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のナノファイバ膜製造装置は、高分子物質から成るナノファイバの堆積膜を製造するナノファイバ膜製造装置であって、前記高分子物質を溶媒に溶解させた原料液を吐出させる吐出手段と、前記原料液を前記吐出手段を介して帯電させる帯電手段と、前記吐出手段に対向して配置され吐出された前記原料液が電気的に延伸して生成されたナノファイバを捕集シートによって捕集する捕集部とを備え、前記捕集シートにおいてナノファイバの膜形成の対象面には、堆積膜を形成する対象となる堆積領域と堆積膜を形成する対象と
ならない非堆積領域が混在しており、前記堆積領域を接地もしくは堆積領域に前記原料液を帯電させた電荷と反対の極の電圧を印加し、前記非堆積領域に前記原料液を帯電させた電荷と同極の電圧を印加する電圧印加部を備えた。
【0009】
本発明のナノファイバ膜製造方法は、高分子物質から成るナノファイバの堆積膜を製造するナノファイバ膜製造方法であって、前記高分子物質を溶媒に溶解させた原料液を吐出手段によって吐出させるとともに、帯電手段によって前記原料液を帯電させる吐出・帯電工程と、前記吐出され帯電した前記原料液が電気的に延伸して生成されたナノファイバをシート状の導電膜より成る捕集シートによって捕集する捕集工程とを含み、前記捕集シートにおいてナノファイバの膜形成の対象面には、堆積膜を形成する対象となる堆積領域と堆積膜を形成する対象と成らない非堆積領域が混在しており、前記堆積領域を接地もしくは堆積領域に前記原料液を帯電させた電荷と反対の極の電圧を印加し、前記非堆積領域に前記原料液を帯電させた電荷と同極の電圧を印加する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、捕集シートにおいてナノファイバの膜形成の対象面に堆積膜を形成する対象となる堆積領域と堆積膜を形成する対象と成らない非堆積領域が混在している場合において、堆積領域を接地もしくは堆積領域に原料液を帯電させた電荷と反対の極の電圧を印加し、非堆積領域に前記原料液を帯電させた電荷と同極の電圧を印加することにより、エレクトロスピニングによる膜形成の対象面において、簡便な方法でナノファイバの堆積の有無の切り替えを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態のナノファイバ膜製造装置の構成説明図
【図2】本発明の一実施の形態のナノファイバ膜製造装置の制御系の構成を示すブロック図
【図3】本発明の一実施の形態のナノファイバ膜製造方法(第1実施例)の工程説明図
【図4】本発明の一実施の形態のナノファイバ膜製造方法(第1実施例)における堆積膜の形成過程の説明図
【図5】本発明の一実施の形態のナノファイバ膜製造方法(第2実施例)における捕集シートおよび支持部材の説明図
【図6】本発明の一実施の形態のナノファイバ膜製造方法(第2実施例)の工程説明図
【図7】本発明の一実施の形態のナノファイバ膜製造方法(第3実施例)における捕集シートおよび支持部材の説明図
【図8】本発明の一実施の形態の本発明の一実施の形態のナノファイバ膜製造方法(第3実施例)の工程説明図
【図9】本発明の一実施の形態のナノファイバ膜製造装置の構成説明図
【図10】本発明の一実施の形態のナノファイバ膜製造装置の構成説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。まず図1を参照して、ナノファイバ膜製造装置1の構成を説明する。図1において、高分子物質から成るナノファイバの堆積膜を製造する機能を有するナノファイバ膜製造装置1は、ナノファイバ生成部2a、捕集部2bより成る機構部2を備えている。ナノファイバ生成部2aは、金属板など導電性を有する平板状の移動プレート3に、複数(ここでは5本)の溶液供給容器5を、X方向に列状に配置した構成となっている。
【0013】
それぞれの溶液供給容器5の下端部には、導電性の表面を有する吐出ノズル5aが、移動プレート3の下面に突出して装着されており、溶液供給容器5の上部には、エア供給管5bがつなぎ込まれている。溶液供給容器5は内部にナノファイバの原料となる高分子材
料を溶媒に溶解させた原料液10が貯留されている。エア供給管5bは、開閉バルブ6、レギュレータ7を介してエア供給源8に接続されており、エア供給源8からエア供給管5bを介して溶液供給容器5に所定圧のエアを供給することにより、吐出ノズル5aから原料液10が吐出される。なお原料液10が貯留された溶液供給容器5を用いる替わりに、溶液タンクに接続された溶液供給管から別途原料液10を供給し、エア供給管5bからのエア圧によって原料液10を吐出ノズル5aから吐出させるように構成してもよい。
【0014】
このとき、開閉バルブ6をオンオフすることにより、原料液10の吐出を断接することができ、またレギュレータ7の設定圧力を調整することにより、原料液10を吐出させるためのエア圧力を調整することができる。吐出ノズル5a、エア供給管5bを備えた溶液供給容器5およびエア供給源8は、高分子物質を溶媒に溶解させた原料液10を吐出させる吐出手段を構成する。そしてこの吐出手段は、原料液10を吐出する複数の吐出ノズル5aを列状に配置したノズル列Lを備えた構成となっている。なお、ここでは複数の吐出ノズル5aを備えた吐出手段の例を示しているが、膜形成対象物によっては、単一の吐出ノズル5aを備えた構成であってもよい。
【0015】
移動プレート3は高電圧印加装置9に電気的に接続されており、高電圧印加装置9を作動させることにより、移動プレート3には正側の高電圧(+10〜20KV)が印加され、さらに導電性の表面を有する吐出ノズル5aを介して原料液10に高電圧が付与される。したがって吐出ノズル5aから吐出される原料液10は正電位に帯電しており、下方に噴射される過程において電荷相互に作用するクーロン力によって電気的に延伸され、ナノファイバ10aが生成される。すなわち、高電圧印加装置9は原料液10を吐出手段の吐出ノズル5aを介して帯電させる帯電手段となっている。なお、吐出ノズル5aとしては、ノズル径が0.1〜2mm、ノズル長lが3〜10mmのものが用いられ、移動プレート3に最小5mmの配列ピッチpで配置される。また、移動プレート3に印加される高電圧は、負側の高電圧(−10〜−20KV)を印加するものであってもよい。
【0016】
ここで、ナノファイバ10aを構成する高分子物質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等およびこれらの共重合体等の高分子物質を例示できる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在しても差し支えない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記樹脂に限定されるものではない。
【0017】
原料液10に使用される溶媒としては、揮発性のある有機溶剤などを例示することができる。具体的に例示すると、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化
炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、ピリジン、水等を挙示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在しても差し支えない。なお、上記は例示であり、本願発明に用いられる原料液10は上記溶媒を採用することに限定されるものではない。
【0018】
さらに、原料液10に骨材や可塑剤などの添加剤を添加してもよい。当該添加剤としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げることができるが、耐熱性、加工性などの観点から酸化物を用いることが好ましい。当該酸化物としては、Al、SiO、TiO、LiO、NaO、MgO、CaO、SrO、BaO、B、P、SnO、ZrO、KO、CsO、ZnO、Sb、As、CeO、V、Cr、MnO、Fe、CoO、NiO、Y、Lu、Yb、HfO、Nb等を例示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在しても差し支えない。なお、上記は例示であり、本願発明の原料液10に添加される物質は、上記添加剤に限定されるものではない。原料液10における溶媒と高分子材料との混合比率は、溶媒の種類と高分子材料の種類とにより異なるが、高分子材料の量が、約5〜40%、より好適には5〜30%の間が望ましい。
【0019】
移動プレート3にはノズル往復動機構4が結合されており、ノズル往復動機構4を駆動することにより、移動プレート3は複数の溶液供給容器5とともにY方向(矢印a方向)に往復動する。これにより、ナノファイバ生成部2aによって生成されたナノファイバ10aは、以下に説明する捕集部2bの表面11aに対して、Y方向の往復動を伴って散布される。ノズル往復動機構4は、前述構成の吐出手段を捕集部2bの捕集面に対して平行な平面内で往復動させる移動機構となっている。そしてこの移動機構は、吐出手段を前述のノズル列Lに直交する方向(Y方向)に往復動させるようにしている。
【0020】
捕集部2bは、供給リール13から繰り出される捕集シート11を、シート送り駆動機構15によって駆動される回収リール14によって巻き取ることにより、X方向に送る(矢印b)構成となっている。捕集シートは、樹脂などの絶縁体を板状に成形した支持部材12によって下方から支持された状態で送られる。捕集シート11の表面11aは、ナノファイバ生成部2aの吐出ノズル5aと対向しており、吐出ノズル5aから吐出された原料液10が電気的に延伸して生成されたナノファイバ10aは、タングステン膜などの導電膜より成る捕集シート11の表面11a(シート状の捕集面)によって捕集される。捕集シート11は接地線によって接地部16に接続されており、正の電荷を帯びたナノファイバ10aを捕集することにより帯電した捕集シート11の電荷は接地部16に移動し、これにより捕集シート11が徐電される。なお、接地部16に接続する代わりに、捕集シート11に電圧印加部(図示省略)によって負の電圧を印加するようにしてもよい。
【0021】
ノズル往復動機構4、開閉バルブ6、レギュレータ7、高電圧印加装置9、シート送り駆動機構15は制御部20よって制御され、これによりナノファイバ膜製造装置1によるナノファイバ膜製造作業が実行される。ここで、制御部20の構成および機能を図2を参照して説明する。図2において、制御部20は、ノズル往復動制御部21、往復動周期演算部22、付与高電圧制御部23、溶液供給制御部24、シート送り制御部25および記憶部26より構成され、さらに制御部20には、入力部27、表示部28が接続されている。
【0022】
ノズル往復動制御部21は、ノズル往復動機構4による移動プレート3のY方向への往復動、すなわち吐出ノズル5aの往復動を制御する。往復動周期演算部22は、吐出ノズル5aの往復動における周期を、予め記憶部26に記憶されたデータに基づいて演算する。付与高電圧制御部23は高電圧印加装置9によって移動プレート3に印加される電圧を制御する。溶液供給制御部24は、開閉バルブ6、レギュレータ7を制御し、これにより吐出ノズル5aからの原料液10の吐出のオンオフおよび圧力が制御される。シート送り制御部25はシート送り駆動機構15を制御し、これにより捕集部2bにおける捕集シート11の送り動作が制御される。
【0023】
記憶部26には、往復動ストローク26a、往復動周期26b、付与高電圧値26c、溶液供給圧力26dおよびシート送り速度26eが記憶されている。往復動ストローク26aは、ノズル往復動機構4による吐出ノズル5aの往復動のストロークを示すデータであり、対象となる捕集シート11の種類毎に記憶されている。往復動周期26bは、往復動周期演算部22によって演算された吐出ノズル5aの往復動の周期を示す。付与高電圧値26cは、高電圧印加装置9によって移動プレート3に印加される電圧値であり、対象となる捕集シート11や原料液10の種類毎に記憶される。
【0024】
溶液供給圧力26dは原料液10を吐出するためのエア供給圧力であり、レギュレータ7の設定値として、対象となる捕集シート11や原料液10の種類毎に記憶される。シート送り速度26eは捕集部2bにおける捕集シート11の送り速度を示すデータであり、同様に対象となる捕集シート11や原料液10の種類毎に記憶される。入力部27はキーボードやタッチパネルスイッチなどの入力装置であり、操作コマンドの指示入力や接地部16へのデータ入力を行う。表示部28は液晶パネルなどの表示装置であり、入力部27による入力時の案内画面や報知画面の表示を行う。
【0025】
このナノファイバ膜製造装置1は上記のように構成されており、次にナノファイバ膜製造装置1によるナノファイバ膜製造方法(第1実施例)について説明する。まず最初に、図3,図4を参照して、捕集シート11の表面11aにナノファイバ10aの堆積膜を適正な品質で形成するために採用される膜形成動作、すなわち吐出ノズル5aを予め設定される所定のインターバル時間で往復動させながら膜形成を行う方法について説明する。
【0026】
ここでは、電荷を帯び溶媒を含んだナノファイバ10aが、電荷や溶媒が内部に残留したまま膜形成が行われることによる品質不良、すなわち電荷によってナノファイバ10aが相互に反発することによる密集度の低下や、溶媒が残留することによる固化状態の不良を防止するために、以下に説明するように、捕集シート11の表面11aを2つの領域に区分し、これらの領域に予め設定された所定のインターバル時間で交互にナノファイバ10aを堆積させて複数の単位堆積層を積層するようにしている。この膜形成動作は、制御部20が、堆積膜を適正な品質で形成するために予め設定される上述のインターバル時間に基づいた往復動周期Tで、吐出手段をノズル往復動機構4によって移動させることによって実行される。
【0027】
すなわち図3(a)に示すように、幅寸法B1(Y方向寸法)の捕集シート11の捕集面である表面11aの幅方向の領域を、第1堆積領域A1、第2堆積領域A2の2つに等分に区分する。第1堆積領域A1、第2堆積領域A2のそれぞれの上方には、当該領域を対象としてナノファイバ10aを散布するための吐出ノズル5aの位置が、それぞれ第1ノズル位置P1、第2ノズル位置P2として設定される。そしてナノファイバ膜形成動作においては、吐出ノズル5aを第1ノズル位置P1、第2ノズル位置P2の間の距離、すなわち往復動ストロークSだけ往復動させ、第1堆積領域A1、第2堆積領域A2に交互にナノファイバ10aを散布する。この吐出ノズル5aの往復動における往復動周期Tは、後述するように、対象となるナノファイバ10aの種類や、付与高電圧値26c、溶液
供給圧力26dなどの膜形成条件に基づいて個別に設定される。
【0028】
まず図3(b)に示すように、吐出ノズル5aを第1ノズル位置P1に位置させ、吐出ノズル5aからナノファイバ10aを第1堆積領域A1に散布する。次いで、往復動周期Tの半周期(T/2)が経過した後、図3(c)に示すように、吐出ノズル5aを第2ノズル位置P2に移動させる。このとき、第1堆積領域A1には、図3(b)において半周期の間に散布されたナノファイバ10aが表面11aに堆積して単位堆積層30aが形成されている。そしてこの後、半周期(T/2)経過毎に、吐出ノズル5aを第1ノズル位置P1、第2ノズル位置P2の間で移動させ、第1堆積領域A1、第2堆積領域A2に交互にナノファイバ10aを散布・堆積させる。これにより吐出ノズル5aの1回の往復動周期T毎に、捕集シート11の表面11aにはナノファイバ10aの単位堆積層が形成され、この吐出ノズル5aの往復動周期Tの往復動を予め定められた所定回数反復して実行することにより、表面11aには複数層の単位堆積層(ここでは、3層の単位堆積層30a、30b、30c)より構成されるナノファイバ10aの堆積膜30が形成される。
【0029】
図4は、上述のナノファイバ膜形成における堆積膜の形成過程を示すものであり、ここでは、表面11aに単位堆積層30aを形成した後、その上層に次の単位堆積層30bを形成する場合を示している。まず図4(a)は、第1堆積領域A1を対象としてナノファイバ10aを堆積させる状態を示しており、吐出ノズル5aから吐出される原料液10は高分子物質を溶媒に溶解させた組成となっていることから、原料液10が電気的に延伸して生成されるナノファイバ10aには溶媒31とともに電荷32が伴っている。このため、ナノファイバ10aが半周期の間継続して第1堆積領域A1に散布されて、単位堆積層30aの上層に堆積している間には、単位堆積層30bには溶媒31、電荷32が蓄積される。
【0030】
図4(b)は、半周期経過後に、吐出ノズル5aを移動させて第2堆積領域A2を対象としてナノファイバ10aを堆積させる状態を示している。ここでも同様に、ナノファイバ10aが半周期の間継続して第2堆積領域A2に散布されて単位堆積層30aの上層に堆積している間には、単位堆積層30bには溶媒31、電荷32が蓄積される。これに対し、第1堆積領域A1においては、ナノファイバ10aの散布が中断された状態となっているため、単位堆積層30bに蓄積された溶媒31は蒸散して大気中に放出される。また電荷32は、捕集シート11と電気的に接続された接地部16に移動し、単位堆積層30bは徐電された状態となる。これにより単位堆積層30bにおいては、ナノファイバ10aの固化が促進されるとともに、ナノファイバ10aを相互に反発させる作用が消失するためナノファイバ10aの密着度が向上し、良好な品質特性を備えた単位堆積層30bが形成される。
【0031】
図4(c)は、さらに半周期が経過して、吐出ノズル5aを再び移動させて第1堆積領域A1を対象としてナノファイバ10aを堆積させる状態を示している。この場合には、既に形成された単位堆積層30bの上層に単位堆積層30cが形成されるが、上述のように単位堆積層30bは既に溶媒31、電荷32が放出されているため、従来方法において生じていたような、単位堆積層30cによって単位堆積層30bからの溶媒31、電荷32の放出が阻害されることに起因する品質不良が生じない。また第2堆積領域A2においては、ナノファイバ10aの散布が中断された状態となっているため、上述と同様に、単位堆積層30bに蓄積された溶媒31、電荷32が放出され、良好な品質特性を備えた単位堆積層30bが形成される。
【0032】
すなわち、上述のナノファイバ膜製造方法においては、高分子物質を溶媒に溶解させた原料液10を吐出手段の吐出ノズル5aによって吐出させるとともに、高電圧印加装置9によって移動プレート3、吐出ノズル5aを介して原料液10を帯電させる(吐出・帯電
工程)。次いで吐出され帯電した原料液10が電気的に延伸して生成されたナノファイバ10aをシート状の捕集面である捕集シート11の表面11aによって捕集する(捕集工程)。
【0033】
そしてこの捕集工程においては、吐出ノズル5aを表面11aに対して平行な平面内で、堆積膜30を適正な品質で形成するために予め設定される所定のインターバル時間に基づいた往復動周期Tで移動させるようにしている。このインターバル時間は、本実施の形態においては、往復動周期毎に形成されるナノファイバ10aの単位堆積層から電荷32を除去するのに必要な徐電時間および溶媒31を蒸散させるのに必要な溶媒蒸散時間に基づいて設定され、徐電時間、溶媒蒸散時間のうち、いずれか長い方の時間よりも、往復動周期Tの半周期(T/2)が長くなるように設定される。ここで、上述の徐電時間、溶媒蒸散時間は、対象とする原料液10の種類毎に、付与高電圧値26c、溶液供給圧力26dなどによって規定される膜形成条件で実際に膜形成動作を試行し、その試行結果を評価するいわゆる条件出し作業によって決定される。具体的な数値例を示すと、一般に上述の徐電時間、溶媒蒸散時間は0.5sec.未満であり、このインターバル時間を半周期とする往復動周期Tとしては、約1sec.程度を選択することができる。
【0034】
上記説明したように、図3,図4に示す第1実施例においては、吐出手段の吐出ノズル5aによって吐出され帯電した原料液10が電気的に延伸して生成されたナノファイバ10aを捕集シート11の表面11aによって捕集する捕集工程において、吐出ノズル5aを表面11aに対して平行な平面内で、堆積膜30を適正な品質で形成するために予め設定される所定のインターバル時間に基づいた往復動周期Tで移動させるようにしている。これにより、堆積膜30を構成する単位堆積膜の正常な形成が担保され、残留する電荷や溶媒成分などに起因する品質不良を防止することができる。
【0035】
次にナノファイバ膜製造装置1によるナノファイバ膜製造方法(第2実施例)について、図5,図6を参照して説明する。この第2実施例は、捕集シートとして導電膜を用いる場合において、導電膜の端部を完全に覆う形でナノファイバを付着させて、電気的な絶縁性を確保することが必要となる場合に適用されるナノファイバ膜製造方法を示している。
【0036】
図5(a)において、捕集シート11はタングステンなどの導電性の素材を膜状にした導電膜である。捕集シート11においてナノファイバ10aの堆積膜30を形成する対象となる堆積領域は、膜形成動作において吐出ノズル5aと対向する表面11aの全範囲に設定された表堆積領域Cに加えて、端部11cにおいて裏面11b側に回り込んで端部11cの近傍に設定された裏堆積領域Dを含んでいる。この場合には、捕集部2bは、図5(b)に示すように、捕集シート11の裏面11bにおいて裏堆積領域Dを除く範囲に当接して捕集シート11を支持する支持部材12を備えた構成となり、これにより、膜形成動作においては裏堆積領域Dが常に露呈した状態となる。
【0037】
捕集シート11は図1に示す例と同様に、接地部16と電気的に接続され、捕集シート11に降り注ぐ電荷を接地部16に逃がすようにしている。なお、捕集シート11を接地する替わりに、捕集シート11に原料液10を帯電させた電荷と反対の極の電圧を印加する電圧印加部(図示省略)を設けるようにしてもよい。
【0038】
次に図6を参照して、膜形成過程について説明する。図6(a)は、固定配置された1つの吐出ノズル5aによるナノファイバ10aの散布範囲によって、必要とされる堆積領域を全てカバー可能な場合の例を示している。この場合には、吐出ノズル5aによるナノファイバ10aの散布範囲が、幅寸法B2の表堆積領域Cの全てをカバーし、さらに端部11cから外側に所定範囲Eだけはみ出した形態となるように、吐出ノズル5aを配置する。
【0039】
ここで所定範囲Eは、吐出ノズル5aから吐出された帯電した原料液10が電気的に延伸して生成され、電荷32を伴って降り注ぐナノファイバ10aが、端部11cの外側を落下し、その一部が端部11cを迂回して電荷32の付着力によって裏堆積領域Dに付着堆積する条件を満たすような幅範囲に設定される。この所定範囲Eについても、ナノファイバ10aの種類および膜形成条件毎に試行を行い、堆積状態を評価する条件出し作業によって決定される。
【0040】
すなわちこの第2実施例においては、吐出手段の吐出ノズル5aは、生成されたナノファイバ10aが捕集シート11の端部11cの外側に降り注ぎ、且つ外側に降り注いだナノファイバ10aが裏堆積領域Dに電気的に吸着される位置に配置される。これにより、捕集シート11の表堆積領域Cのみならず、端部11cを覆って裏面11bの裏堆積領域Dまで廻りこむ形で堆積膜30が形成される。
【0041】
図6(b)は、固定配置された1つの吐出ノズル5aによるナノファイバ10aの散布範囲によっては、必要とされる堆積領域をカバーできないような幅寸法B2Lを有する捕集シート11を対象とする場合の例を示している。この場合には、吐出ノズル5aを固定配置せずに、ノズル往復動機構4によって吐出ノズル5aを捕集シート11の幅方向(Y方向)に往復動させる(図1参照)。すなわち、図6(b)に示すように、吐出ノズル5aが捕集シート11の端部11c側に移動した状態において、図6(a)に示す所定範囲Eが確保される位置を一方側の第1のストロークエンドSE1とし、端部11cの反対側に移動した状態において、表堆積領域Cの残余の範囲を吐出ノズル5aによるナノファイバ10aの散布範囲がカバーするように、第2のストロークエンドSE2を設定する。
【0042】
すなわち図6(b)に示す例においては、吐出手段の吐出ノズル5aを捕集シート11に対して平行な平面内で端部11cと直交する方向(Y方向)に往復動させるノズル往復動機構4を備えた構成を採用する。そしてノズル往復動機構4による往復動のストロークは、生成されたナノファイバ10aが端部11cの外側に降り注ぎ且つ外側に降り注いだナノファイバ10aが裏堆積領域Dに電気的に吸着される位置に吐出ノズル5aが移動するように設定される。
【0043】
なお、ノズル往復動機構4によって吐出ノズル5aを捕集シート11に対してY方向に往復動させる替わりに、捕集シート11を支持する支持部材12を、部材移動機構(図示省略 )によって固定配置された吐出ノズル5aに対して平行な平面内で、捕集シート11の端部11cと直交する方向(Y方向)に往復動させるようにしてもよい。この場合においても、部材移動機構による捕集シート11の往復動のストロークは、生成されたナノファイバ10aが端部11cの外側に降り注ぎ且つ外側に降り注いだナノファイバ10aが裏堆積領域Dに電気的に吸着される位置に、吐出ノズル5aが捕集シート11に対して相対移動するように設定される。
【0044】
すなわち、上述のナノファイバ膜製造方法(第2実施例)においては、高分子物質を溶媒に溶解させた原料液10を吐出手段の吐出ノズル5aによって吐出させるとともに、高電圧印加装置9によって移動プレート3、吐出ノズル5aを介して原料液10を帯電させる(吐出・帯電工程)。次いで吐出され帯電した原料液10が電気的に延伸して生成されたナノファイバ10aをシート状の捕集面である捕集シート11の表面11aによって捕集する(捕集工程)。
【0045】
そして吐出・帯電工程において、生成されたナノファイバ10aが端部11cの外側に降り注ぎ、且つ端部11cに降り注いだナノファイバ10aが裏堆積領域Dに電気的に吸着される位置に、吐出ノズル5aを位置させるようにしている。これにより、エレクトロ
スピニングによってナノファイバ10aの堆積膜を導電膜に形成するナノファイバ膜形成において、簡便な方法で導電膜の端部にナノファイバ10aを裏面側まで回り込んで堆積させることができ、導電膜の端部の絶縁性を確保することが可能となっている。
【0046】
次にナノファイバ膜製造装置1によるナノファイバ膜製造方法(第3実施例)について、図7,図8を参照して説明する。この第3実施例は、堆積膜形成の対象となる捕集シートの同一面において、ナノファイバを堆積させるべき領域とナノファイバを堆積すべきでない領域が混在している場合に適用されるナノファイバ膜製造方法を示している。
【0047】
図7(a)において、捕集シート11はタングステンなどの導電性の素材を膜状にした導電膜である。捕集シート11においてナノファイバ10aの膜形成の対象面表面11aには、堆積膜30を形成する対象となる表堆積領域Cと、堆積膜30を形成する対象とならない非堆積領域Fが混在して設定されている。さらに図5(a)に示す例と同様に、表面11aに設定された表堆積領域Cに加えて、端部11cにおいて裏面11b側に回り込んで端部11cの近傍に設定された裏堆積領域Dを含んでいる。この場合には、捕集部2bは、図7(b)に示すように、捕集シート11の裏面11bにおいて裏堆積領域Dを除く範囲に当接して捕集シート11を支持する支持部材12を備えた構成となり、これにより膜形成動作においては裏堆積領域Dが常に露呈した状態となる。
【0048】
捕集シート11を捕集部2bに装着するに先だって、表面11aの非堆積領域Fには、樹脂などの絶縁物33を介してアルミニウムなどの導電体34が載置される。このとき、図7(b)中の拡大図に示すように、絶縁物33において表堆積領域Cと非堆積領域Fの境界近傍に位置する部分には、傾斜部33aが設けられる。このため絶縁物33上に載置される導電体34の端部34aは、表堆積領域Cとの境界から幾分隔てられた形態となる。これにより、後述するように、表堆積領域Cに形成される堆積膜30の厚さが非堆積領域Fとの境界近傍で減少する現象を防止することが可能となっている。
【0049】
そして導電体34には、原料液10を帯電させた電圧(+10〜20KV)よりも低い同極の電圧(例えば+1〜5KV)が電圧印加部35によって導電体34に印加される。これとともに、図1に示す例と同様に、捕集シート11は接地部16と電気的に接続され、捕集シート11に降り注ぐ電荷を接地部16に逃がすようにしている。なお、捕集シート11を接地する替わりに、捕集シート11に原料液10を帯電させた電荷と反対の極の電圧を印加する電圧印加部(図示省略)を設けるようにしてもよい。
【0050】
次に図8を参照して、膜形成過程について説明する。図8(a)は、固定配置された1つの吐出ノズル5aによるナノファイバ10aの散布範囲によって、必要とされる堆積領域を全てカバー可能な場合の例を示している。この場合には、吐出ノズル5aによるナノファイバ10aの散布範囲が、幅寸法B4の表堆積領域Cの全てをカバーして一部が非堆積領域Fの一部を含み、さらに端部11cから外側に、図6(a)において示す所定範囲Eだけはみ出した形態となるように、吐出ノズル5aを配置する。そして非堆積領域Fに絶縁物33を介して載置された導電体34には、原料液10を帯電させた電荷と同極の正の電圧を電圧印加部35によって印加する。このとき、捕集シート11は接地もしくは負の電圧が印加されている。
【0051】
吐出ノズル5aから吐出された帯電した原料液10が電気的に延伸して生成されたナノファイバ10aは、捕集シート11の表面11aに降り注ぐとともに、図6に示す例と同様に、その一部が端部11cを迂回して電荷32の付着力によって裏堆積領域Dに付着堆積する。そして表面11aの表堆積領域Cに降り注いだナノファイバ10aは、捕集シート11が接地もしくは負の電圧が印加されていることから、表堆積領域C内の表面11aに堆積して堆積膜30を形成する。
【0052】
これに対し、非堆積領域Fに載置された導電体34にはナノファイバ10aを帯電させている電荷32と同極の電圧が印加されていることから、表面11aの非堆積領域Fに降り注ぐナノファイバ10aは、導電体34によって反発されて非堆積領域Fへの堆積が阻害される。この導電体34によるナノファイバ10aの排除作用において、図7(b)に示すように、導電体34の端部34aは表堆積領域Cとの境界近傍に設けられた傾斜部33aの幅分だけ表堆積領域Cの端部から隔てられている。したがって表堆積領域Cの端部においては、導電体34によるナノファイバ10aの排除作用は小さく、表堆積領域Cの端部近傍において堆積膜30の膜厚が減少することに起因する堆積膜30の形状不良が発生しない。
【0053】
図8(b)は、固定配置された1つの吐出ノズル5aによるナノファイバ10aの散布範囲によっては、必要とされる堆積領域をカバーできないような幅寸法B4Lを有する表堆積領域Cが設定された捕集シート11を対象とする場合の例を示している。この場合には、図6(b)に示す例と同様に、吐出ノズル5aを固定配置せずに、ノズル往復動機構4によって吐出ノズル5aを捕集シート11の幅方向(Y方向)に往復動させる(図1参照)。すなわち、図8(b)に示すように、吐出ノズル5aが捕集シート11の端部11c側に移動した状態において、図6(a)に示す所定範囲Eが確保される位置を一方側の第1のストロークエンドSE1とし、端部11cの反対側に移動した状態において、表堆積領域Cの残余の範囲を吐出ノズル5aによるナノファイバ10aの散布範囲がカバーするように、第2のストロークエンドSE2を設定する。
【0054】
すなわち図8(b)に示す例においては、吐出手段の吐出ノズル5aを捕集シート11に対して平行な平面内で端部11cと直交する方向(Y方向)に往復動させるノズル往復動機構4を備えた構成を採用する。そしてノズル往復動機構4による往復動のストロークは、表堆積領域Cにナノファイバ10aが降り注ぐように設定されるとともに、生成されたナノファイバ10aが端部11cの外側に降り注ぎ且つ外側に降り注いだナノファイバ10aが裏堆積領域Dに電気的に吸着される位置に吐出ノズル5aが移動するように設定される。
【0055】
すなわち、上述のナノファイバ膜製造方法(第3実施例)においては、高分子物質を溶媒に溶解させた原料液10を吐出手段の吐出ノズル5aによって吐出させるとともに、高電圧印加装置9によって移動プレート3、吐出ノズル5aを介して原料液10を帯電させる(吐出・帯電工程)。次いで吐出され帯電した原料液10が電気的に延伸して生成されたナノファイバ10aをシート状の捕集面である捕集シート11の表面11aによって捕集する(捕集工程)。
【0056】
そして捕集シート11においてナノファイバの膜形成の対象面である表面11aには、堆積膜30を形成する対象となる表堆積領域Cと堆積膜30を形成する対象とならない非堆積領域Fが混在しており、表堆積領域Cを接地もしくは表堆積領域Cに原料液10を帯電させた電荷と反対の極の電圧を印加し、非堆積領域Fに原料液10を帯電させた電荷と同極の電圧を印加するようにしている。これにより、エレクトロスピニングによってナノファイバ10aの堆積膜を導電膜に形成するナノファイバ膜形成において、簡便な方法でナノファイバの堆積の有無の切り替えを行うことができる。
【0057】
なお上述の実施の形態の各実施例では、捕集部2bにおいて捕集シート11を移動させて吐出ノズル5aから連続的にナノファイバ10aを表面11aに対して散布して堆積させる例を示したが、静止状態の捕集シート11に対して所定時間だけナノファイバ10aを散布して堆積膜を形成するようにしてもよい。
【0058】
また本発明において適用対象となるナノファイバ膜製造装置の構成は、図1に示すナノファイバ膜製造装置1の構成には限定されるものではなく、以下に示すような、種々の変更形態のものに対して本発明を適用することができる。図9に示すナノファイバ膜製造装置1Aは、図1に示すナノファイバ膜製造装置1において機構部2を構成する捕集部2bを、捕集シート11を下方から支持する支持部材に上凸形状の支持面112aを有する支持部材112を用いている。
【0059】
そして供給リール13から繰り出され、回収リール14によって巻き取られる捕集シート11を、支持部材112の両端に配置された押さえローラ17A、押さえローラ17Bによって上方から押し付けて、支持面112aに倣わせるようにしている。これにより、ナノファイバ膜形成対象の捕集シート11に、予め上凸の反り変形を与えて、表面11aにナノファイバ10aを堆積することにより生じる捕集シート11の上反り変形を相殺することができる。
【0060】
さらに、図10に示すナノファイバ膜製造装置1Bは、図1に示すナノファイバ膜製造装置1において機構部2を構成するナノファイバ生成部2aを、ノズル往復動機構4によって移動する移動プレート3の下面に複数(ここでは5つ)の吐出孔50aを備えた3角柱形状のノズルヘッド50を装着した構成のものを用いている。ノズルヘッド50に結合された溶液配管51は、ポンプ52を介して溶液供給部53に接続されており、ポンプ52を駆動することにより、ノズルヘッド50には原料液10が供給される。
【0061】
そしてこの状態で、エア供給管5bを介して溶液吐出用のエアをノズルヘッド50内に供給することにより、吐出孔50aからは原料液10が吐出され、同様にナノファイバ10aが生成される。このような方式を採用することにより、複数の吐出孔50aを備えた構成において、それぞれの吐出孔50aに作用するエア圧力を均一にすることができ、吐出孔50aからの原料液10の吐出状態のばらつきを排除することができる。なおノズルヘッド50に直接吐出孔50aを設ける替わりに、下方に突出した形状の吐出ノズルを設けるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のナノファイバ膜製造装置およびナノファイバ膜製方法は、エレクトロスピニングによる膜形成の対象面において、簡便な方法でナノファイバの堆積の有無の切り替えることができるという効果を有し、高分子物質から成るナノファイバの堆積膜を製造する分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1,1A,1B ナノファイバ膜製造装置
2 機構部
2a ナノファイバ生成部
2b 捕集部
5 溶液供給容器
5a 吐出ノズル
9 高電圧印加装置
10 原料液
10a ナノファイバ
11 捕集シート
11a 表面
11b 裏面
12 支持部材
16 接地部
30 堆積膜
30a、30b、30c 単位堆積層
31 溶媒
32 電荷
C 表堆積領域
D 裏堆積領域
F 非堆積領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子物質から成るナノファイバの堆積膜を製造するナノファイバ膜製造装置であって、
前記高分子物質を溶媒に溶解させた原料液を吐出させる吐出手段と、前記原料液を前記吐出手段を介して帯電させる帯電手段と、前記吐出手段に対向して配置され吐出された前記原料液が電気的に延伸して生成されたナノファイバを捕集シートによって捕集する捕集部とを備え、
前記捕集シートにおいてナノファイバの膜形成の対象面には、堆積膜を形成する対象となる堆積領域と堆積膜を形成する対象とならない非堆積領域が混在しており、
前記堆積領域を接地もしくは堆積領域に前記原料液を帯電させた電荷と反対の極の電圧を印加し、前記非堆積領域に前記原料液を帯電させた電荷と同極の電圧を印加する電圧印加部を備えたことを特徴とするナノファイバ膜製造装置。
【請求項2】
前記電圧印加部は、前記非堆積領域に前記原料液を帯電させた電圧よりも低い電圧を印加することを特徴とする請求項1記載のナノファイバ膜製造装置。
【請求項3】
前記非堆積領域には、前記捕集シート上に絶縁物を介して導電体が載置され、前記電圧印加部は、前記導電体に前記原料液を帯電させた電圧よりも低い電圧を印加することを特徴とする請求項1記載のナノファイバ膜製造装置。
【請求項4】
前記吐出手段を前記捕集シートに対して平行な平面内で前記端部と直交する方向に往復動させる移動機構を備え、前記移動機構による往復動のストロークは前記堆積領域にナノファイバを降り注ぐように設定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のナノファイバ膜製造装置。
【請求項5】
前記堆積領域は、前記吐出手段と対向する表面側に設定された表堆積領域に加えて、いずれかの端部において裏面側に回り込んでこの端部近傍に設定された裏堆積領域を含み、
前記捕集部は、前記捕集シートの裏面において前記裏堆積領域を除く範囲に当接して支持する支持部材を備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のナノファイバ膜製造装置。
【請求項6】
前記吐出手段は、前記原料液を吐出する複数の吐出ノズルを列状に配置したノズル列を備え、前記吐出手段を前記ノズル列と直交する方向に往復動させる移動機構を備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のナノファイバ膜製造装置。
【請求項7】
高分子物質から成るナノファイバの堆積膜を製造するナノファイバ膜製造方法であって、
前記高分子物質を溶媒に溶解させた原料液を吐出手段によって吐出させるとともに、帯電手段によって前記原料液を帯電させる吐出・帯電工程と、前記吐出され帯電した前記原料液が電気的に延伸して生成されたナノファイバをシート状の導電膜より成る捕集シートによって捕集する捕集工程とを含み、
前記捕集シートにおいてナノファイバの膜形成の対象面には、堆積膜を形成する対象となる堆積領域と堆積膜を形成する対象とならない非堆積領域が混在しており、
前記堆積領域を接地もしくは堆積領域に前記原料液を帯電させた電荷と反対の極の電圧を印加し、前記非堆積領域に前記原料液を帯電させた電荷と同極の電圧を印加することを特徴とするナノファイバ膜製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−84843(P2011−84843A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239025(P2009−239025)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】