説明

ナノファイバ製造装置および製造方法

【課題】生産されるナノファイバの品質を維持しつつ、生産効率の向上を図る。
【解決手段】原料液300を貯留する第一貯留空間111と、原料液300を前記第一貯留空間に導入する第一導入孔131と、第一貯留空間111に貯留される原料液300を導出する複数の導出孔132であって、導出孔132を通過する原料液300の圧力が均等となるように配置される導出孔132とを備える貯留槽101と、原料液300を貯留する第二貯留空間113と、第一貯留空間111から導出される原料液300を第二貯留空間113に導入する第二導入孔112と、第二貯留空間113に貯留される原料液300を外部空間に流出させる複数の流出孔118を備える複数の流出体115とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、静電延伸現象によりサブミクロンオーダーやナノオーダーの細さである繊維(ナノファイバ)を製造するナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂などから成り、サブミクロンスケールやナノスケールの直径を有する糸状(繊維状)物質を製造する方法として、静電延伸現象(エレクトロスピニング)を用いた方法が知られている。
【0003】
この静電延伸現象とは、溶媒中に樹脂などの溶質を分散または溶解させた原料液を空間中にノズルなどにより流出(噴射)させるとともに、原料液に電荷を付与して帯電させ、空間を飛行中の原料液を電気的に延伸させることにより、ナノファイバを得る方法である。
【0004】
より具体的に静電延伸現象を説明すると次のようになる。すなわち、帯電され空間中に流出された原料液は、空間を飛行中に徐々に溶媒が蒸発していく。これにより、飛行中の原料液の体積は、徐々に減少していくが、原料液に付与された電荷は、原料液に留まる。この結果として、空間を飛行中の原料液は、電荷密度が徐々に上昇することとなる。そして、溶媒は、継続して蒸発し続けるため、原料液の電荷密度がさらに高まり、原料液の中に発生する反発方向のクーロン力が原料液の表面張力より勝った時点で原料液が爆発的に線状に延伸される現象が生じる。これが静電延伸現象である。この静電延伸現象が、空間において次々と幾何級数的に発生することで、直径がサブミクロンオーダーやナノオーダーの樹脂から成るナノファイバが製造される。
【0005】
以上のような静電延伸現象を用いてナノファイバを製造する装置の専らの課題として生産効率の向上が挙げられる。例えば、特許文献1に記載の発明は、矩形箱状の流出体の底面に多数の流出孔を設け、流出体内部に貯留されている原料液を多数の流出孔から一度に流出させることで、生産効率の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−190090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よりナノファイバの生産効率の向上を図ろうとする場合、特許文献1に記載の発明では、箱状の流出体を大きくし、貯留された原料液300を流出させる流出孔の数を増加させることが考えられる。ところが、単に流出孔の数を増加させるだけでは、流出孔間の流出量のバランスが崩れて、均一な原料液の流出を確保することが困難となり、生産されるナノファイバの繊維径や形成されるナノファイバの不織布の厚みが安定しないなどの問題が生じる。
【0008】
また、複数の流出体を設けることが考えられるが、この場合、流出体間における貯留した原料液の量のバランスが崩れて、流出体間で均一な原料液の流出を確保することが困難となる。この場合も、生産効率はある程度向上するものの、生産されるナノファイバの繊維径や形成されるナノファイバの不織布の厚みが安定せず、ナノファイバの品質を高く維持することは困難である。
【0009】
本願発明は上記問題点に基づきなされたものであり、空間中に一度に流出する原料液の量を増加させることができるにもかかわらず、流出孔から流出される原料液の状態を均一化でき、ナノファイバの品質を高く維持することができるナノファイバ製造装置、および、ナノファイバ製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本願発明にかかるナノファイバ製造装置は、原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、原料液を貯留する第一貯留空間と、原料液を前記第一貯留空間に導入する第一導入孔と、前記第一貯留空間に貯留される原料液を導出する複数の導出孔であって、前記導出孔を通過する原料液の圧力が均等となるように配置される導出孔とを備える貯留槽と、原料液を貯留する第二貯留空間と、前記第一貯留空間から導出される原料液を前記第二貯留空間に導入する第二導入孔と、前記第二貯留空間に貯留される原料液を外部空間に流出させる複数の流出孔を備える複数の流出体と、前記流出体と所定の間隔を隔てて配置される帯電電極と、前記流出体と前記帯電電極との間に所定の電圧を印加する帯電電源とを備えることを特徴とする。
【0011】
これによれば、貯留槽に貯留された原料液は、複数の流出体に対し均一な状態で供給することができ、流出体の流出孔から外部空間に流出する原料液の流出量などの状態も均一化することができる。したがって、製造されるナノファイバの品質を高い状態で維持しつつ高い生産効率を確保することが可能となる。
【0012】
さらに、前記貯留槽の導出孔と前記流出体の第二導入孔とを連結する複数の連結管であって、相互に形状が同一の連結管を備えることが好ましい。
【0013】
これによれば、連結管による原料液の圧力損失なども均一化することができ、外部空間に流出する原料液の均一化に寄与することが可能となる。また、連結管と接続される流出体を容易に組み替えることができるようになり、原料液300の種類などに柔軟に対応することが可能となる。さらに、一部の連結管をはずして導出孔に蓋をするなどの作業が容易に行え、ナノファイバを製造する領域の調整なども容易に行うことが可能となる。
【0014】
さらに、前記連結管は、真っ直ぐな円筒形状であることが好ましい。
これによれば、連結管による圧力損失を最小限に抑えつつ、連結管を備えることによる効果を全て享受することが可能となる。
【0015】
また、上記目的を達成するために、本願発明にかかるナノファイバ製造方法は、原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造方法であって、原料液を貯留槽の内方に配置される第一貯留空間に貯留し、前記第一貯留空間に貯留される原料液を複数の導出孔によって均等な圧力で原料液を複数箇所に導出し、前記第一貯留空間から導出される原料液を複数の流出体の内方に配置される第二貯留空間にそれぞれ貯留し、前記第二貯留空間に貯留される原料液を複数の流出孔によって外部空間に流出させ、前記流出体から流出する原料液に電荷を付与して帯電させることを特徴とする。
【0016】
これによれば、貯留槽に貯留された原料液は、複数の流出体に対し均一な状態で供給することができ、流出体の流出孔から外部空間に流出する原料液の流出量などの状態も均一化することができる。したがって、製造されるナノファイバの品質を高い状態で維持しつつ高い生産効率を確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本願発明によれば、空間中に一度に流出する原料液の量を増加させてナノファイバの生産効率を向上させても、流出孔から流出される原料液の状態を均一化でき、ナノファイバの品質を高く維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ナノファイバ製造装置を模式的に示す斜示図である。
【図2】貯留槽を一部切り欠いて模式的に示す斜示図である。
【図3】流出体を切り欠いて示す斜示図である。
【図4】流出体のバリエーションを示す斜示図である。
【図5】連結管のバリエーションと、貯留槽と流出体との位置関係のバリエーションを側方から示す平面図である。
【図6】貯留槽と流出体との位置関係のバリエーションを正面から断面で示す平面図である。
【図7】流出体のバリエーションを示す斜示図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本願発明に係るナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法を、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
図1は、ナノファイバ製造装置を模式的に示す斜示図である。
同図に示すように、ナノファイバ製造装置100は、原料液300を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバ301を製造する装置であって、貯留槽101と、複数の連結管102と、複数の流出体115と、帯電電極121と、帯電電源122とを備えている。本実施の形態の場合さらに、ナノファイバ製造装置100は、供給手段107と、収集手段128と、誘引手段104とを備えている。さらに、ナノファイバ製造装置100は、移動手段129を備えている。
【0021】
図2は、貯留槽を一部切り欠いて模式的に示す斜示図である。
同図に示すように、貯留槽101は、原料液300を一時的に貯留するタンクであり、第一貯留空間111と、第一導入孔131と、複数の導出孔132とを備えている。
【0022】
第一貯留空間111は、原料液300を一時的に貯留する空間であって、貯留槽101により全周囲が囲われて形成される空間である。
【0023】
第一導入孔131は、原料液300を第一貯留空間111に導入するための孔であり、貯留槽101を貫通して形成される孔である。本実施形態の場合、第一導入孔131は、矩形の貯留槽101の天井部に設けられ、原料液300の供給路である案内管114(図1参照、内容は後述)と接続されるものとなっている。
【0024】
導出孔132は、第一貯留空間111に貯留される原料液300を導出する孔であって、貯留槽101を貫通した状態で複数個設けられる孔である。また導出孔132は、各導出孔132に通過する原料液300の圧力が均等となるように貯留槽101に配置されている。本実施形態の場合、導出孔132は、貯留槽101の床面部に、貯留槽101の長さ方向(y方向)に沿って一列に配置されている。このように導出孔132が配置されることで、各導出孔132を通過する原料液300の圧力を均一化することが可能となる。また、導出孔132は、原料液300の経路を形成する連結管102と接続されるものとなっている。
【0025】
なお、導出孔132は床面部ばかりでなく貯留槽101の側壁に設けてもかまわない。この場合、各導出孔132の高さが同じとなるように導出孔132を配置することが望ましい。これにより通過する原料液300の圧力を均一化することができる。
【0026】
図3は、流出体を切り欠いて示す斜示図である。
流出体115は、原料液300の圧力(重力も含む場合がある)により原料液300を空間中に流出させるための部材であり、ナノファイバ製造装置100に複数個備えられている。各流出体115は、第二貯留空間113と、第二導入孔112と、流出孔118とを備えている。また、流出体115は、流出する原料液300に電荷を供給する電極としても機能しており、原料液300と接触する部分の少なくとも一部は導電性を備えた部材で形成される。本実施の形態の場合、流出体115全体が金属で形成されている。なお、金属の種類は導電性を備えておれば、特に限定されるものではなく、黄銅やステンレス鋼など任意の材料を選定しうる。
【0027】
第二貯留空間113は、流出体115の内部に形成される空間であり、貯留槽101から供給される原料液300を貯留する空間である。また、第二貯留空間113は、複数の流出孔118に接続され、流出孔118に同時に原料液300を供給するものとなっている。本実施の形態の場合、第二貯留空間113は、ナノファイバ製造装置100に複数個備えられる流出体115のそれぞれに一つずつ設けられている。
【0028】
以上のように第二貯留空間113は、原料液300を流出孔118の近傍で一時的に貯留し、複数の流出孔118に均等な圧力で原料液300を供給する機能を備えており、これにより、各流出孔118から均等な状態で原料液300を流出させることが可能となる。従って、製造されるナノファイバ301の品質の空間的なムラを抑制することが可能となる。
【0029】
第二導入孔112は、第一貯留空間111から導出される原料液300を第二貯留空間113に導入する孔であり、流出体115を貫通して設けられる孔である。本実施形態の場合、ナノファイバ製造装置100に複数個備えられる流出体115の天井部にそれぞれ第二導入孔112が設けられている。また、第二導入孔112は、原料液300の経路を形成する連結管102と接続されるものとなっている。なお、第二導入孔112は天井部ばかりでなく流出体115の側壁に設けてもかまわない。
【0030】
流出孔118は、第二貯留空間113に貯留される原料液300を外部空間に流出させる孔であり、流出体115に複数個設けられている。本実施の形態の場合、流出孔118は、流出体115の長さ方向(y方向)に一列に並んで配置されている。また、流出孔118の先端にある開口部119も同様に、所定の間隔で一列に並んで配置されている。
【0031】
流出孔118の孔長や孔径は、特に限定されるものではなく、原料液300の粘度などにより適した形状を選定すれば良い。具体的には、孔長は、0.1mm以上、5mm以下の範囲から選定されるのが好ましい。孔径は、0.1mm以上、2mm以下の範囲から選定されるのが好ましい。また、流出孔118の形状は、円筒形状に限定されるわけではなく、任意の形状を選定しうる。特に開口部119の形状は、円形に限定されるわけではなく、三角形や四角形などの多角形、星形など内側に突出する部分のある形状などでもかまわない。
【0032】
流出孔118を挟むように配置される二つの側壁である側面部117は、開口部119近傍から延設され、起立状態で配置される流出体115の部分である。また、側面部117は、並んで配置されている流出孔118の配置方向に延びた状態で設けられており、全ての流出孔118を二つの側面部117で挟むように設けられている。また、側面部117は、図3に示すように、開口部119近傍から離れるに従い相互の間隔が広がるように配置されている。
【0033】
流出体115は、上記側面部117を備えることで、イオン風の発生を抑制し、また、イオン風が発生したとしても、空間中に流出する原料液300と交差しない方向にイオン風を飛ばせることができるため、イオン風が影響を及ぼすことなく安定した状態でナノファイバ301を製造することが可能となる。
【0034】
また、側面部117は開口部119の近傍に向かって徐々に細くなるように配置されているため、開口部119の近傍に電荷が集中させやすく、原料液300に効率的に電荷を供給することができる。
【0035】
さらに、開口部119の周囲の空間を広く開放することができるため、帯電蒸気が充満することを回避することが可能となる。また、側面部117に沿った気体の流れが発生し、帯電蒸気の充満を積極的に回避しているとも考えられる。
【0036】
本実施の形態では、ナノファイバ製造装置100は、流出体115を4個備えているが、これらはすべて同一の形状であり、第二貯留空間113の形状も、第二導入孔112の形状も、流出孔118の形状も同一である。また、流出孔118の数も同じである。また、本実施の形態では、流出体115における第二導入孔112のXY平面における位置は、貯留槽101の対応する導出孔132のXY平面における位置と一致しており、すべての流出体115の第二導入孔112と導出孔132とのXY平面における位置関係は同様となっている。これにより、連結管102は、導出孔132から第二導入孔112に至るまでZ方向に真っ直ぐ配置されることとなる。さらに、連結管102の長さ(Z方向)、管断面積(管径)、は相互に相等しい、つまり、各連結管102の形状は等しい。
【0037】
帯電電極121は、流出体115と所定の間隔を隔てて配置され、自身が流出体115に対し高い電圧もしくは低い電圧となることで、流出体115に電荷を誘導するための電極である。本実施の形態の場合、帯電電極121は、ナノファイバ301を誘引する誘引手段104としても機能しており、流出体115の下端部と対向する位置に配置されている。従って、帯電電極121が流出体115に対して低い電位となると、流出体115には正の電荷が誘導され、原料液300は正に帯電する。逆に、帯電電極121が流出体115に対して高い電位となると、流出体115には負の電荷が誘導され、原料液300は、負に帯電する。
【0038】
なお、帯電電極121は、誘引手段104としての機能など複数の機能を有する必要は無い。例えば、帯電電極121と誘引手段104とが別々の構成であってもかまわない。
【0039】
帯電電源122は、帯電電極121と流出体115との間に高電圧を印加することのできる電源である。本実施形態の場合、帯電電源122は、流出体115に電荷を誘導して原料液300を帯電させる機能を有するほか、帯電した原料液300やナノファイバ301を誘引する電界を発生させる誘引電源としての機能も有している。また、帯電電源122は、直流電源が採用されており、5KV以上、50KV以下の範囲の値から設定される電圧を発生することができるものとなっている。
【0040】
なお、帯電電源122は、誘引電源としての機能など複数の機能を有する必要は無い。例えば、帯電電極121と誘引手段104とが別々の構成であってもかまわない。
【0041】
本実施の形態では、帯電電源122は、一方が流出体115に接続され、他方が接地されている。また、帯電電源122は、接地されている帯電電極121とアースを介して接続されている。これにより、帯電電源122は、流出体115と帯電電極121との間に0V(接地状態)から200KV以下の範囲で設定された電圧を印加することができるものとなっている。
【0042】
なお、帯電電極121に電源を接続して帯電電極121を高電圧に維持し、流出体115を接地することで原料液300に電荷を付与してもよい。また、帯電電極121と流出体115とのいずれも接地しないような接続状態であってもかまわない。
【0043】
収集手段128は、静電延伸現象により製造されるナノファイバ301を堆積させて収集する部材である。本実施の形態の場合、収集手段128は、例えば、ナノファイバを堆積させるポリエチレンのシートであり、ロール127に巻き付けられた状態で供給されている。
【0044】
なお、収集手段128はこれに限定されるわけではない。例えば、収集手段128は、剛性のある板状の部材からなるものでもかまわない。また、ナノファイバ301の堆積物のみを利用する場合には、収集手段128の表面にテフロン(登録商標)コートを行うなど、ナノファイバ301を剥ぎ取る際の剥離性が高い収集手段128であってもよい。
【0045】
誘引手段104は、空間中で製造されたナノファイバ301を収集手段128に誘引するための装置である。本実施の形態の場合、誘引手段104は、帯電電極121としても機能する金属板であり、収集手段128の後方に配置されている。誘引手段104は、帯電しているナノファイバ301を電界により収集手段128に誘引する。つまり、誘引手段104は、帯電したナノファイバ301を誘引するための電界を発生させるための電極である。
【0046】
なお、誘引手段104としては、電界で原料液300やナノファイバ301を誘引するのではなく、気体流により原料液300やナノファイバ301を誘引するものでもかまわない。また、電界と気体流とを併用して原料液300やナノファイバ301を誘引するものでもかまわない。
【0047】
移動手段129は、流出体115と、収集手段128とを相対的に移動させる装置である。本実施の形態の場合、流出体115は固定されており、収集手段128のみを移動するものとなっている。具体的に移送手段は、長尺の収集手段128を巻き取りながらロール127から引き出し、堆積するナノファイバ301と共に収集手段128を搬送するものとなっている。
【0048】
なお、移動手段129は、収集手段128を移動させるばかりではなく、流出体115を収集手段128に対して移動させるものでもかまわない、また、移動手段129は、収集手段128を一定方向に移動させ、流出体115を往復動させるなど、任意の動作状態を例示することができる。また、開口部119の並び方向と直交する方向に収集手段128を移動させているが、それに限定するものではなく、開口部119の並び方向に収集手段128を移動させ、流出体115を開口部119の並び方向と直交する方向に往復動させるものであってもかまわない。
【0049】
供給手段107は、図1に示すように、貯留槽101を介して流出体115に原料液300を供給する装置であり、原料液300を大量に貯留する容器151と、原料液300を所定の圧力で搬送するポンプ(図示せず)と、原料液300を案内する案内管114とを備えている。
【0050】
ここで、ナノファイバ301を構成する樹脂であって、原料液300に溶解、または、分散する溶質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等およびこれらの共重合体等の高分子物質を例示できる。また、上記より選ばれる一種でもよく、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は、上記樹脂に限定されるものではない。
【0051】
原料液300に使用される溶媒としては、揮発性のある有機溶剤などを例示することができる。具体的に例示すると、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、ピリジン、水等を挙示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明に用いられる原料液300は上記溶媒を採用することに限定されるものではない。
【0052】
さらに、原料液300に無機質固体材料を添加してもよい。当該無機質固体材料としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げることができるが、製造されるナノファイバ301の耐熱性、加工性などの観点から酸化物を用いることが好ましい。当該酸化物としては、Al23、SiO2、TiO2、Li2O、Na2O、MgO、CaO、SrO、BaO、B23、P25、SnO2、ZrO2、K2O、Cs2O、ZnO、Sb23、As23、CeO2、V25、Cr23、MnO、Fe23、CoO、NiO、Y23、Lu23、Yb23、HfO2、Nb25等を例示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明の原料液300に添加される物質は、上記添加剤に限定されるものではない。
【0053】
原料液300における溶媒と溶質との混合比率は、選定される溶媒の種類と溶質の種類とにより異なるが、溶媒量は、約60重量%から98重量%の間が望ましい。好適には溶質が5〜30重量%となる。
【0054】
次に、上記構成のナノファイバ製造装置100を用いたナノファイバ301の製造方法を説明する。
【0055】
まず、供給手段107により案内管114を経て供給される原料液300を貯留槽101の内方に配置される第一貯留空間111に貯留する(第一貯留工程)。第一貯留空間111に貯留された原料液300は、複数の導出孔132によって均等な圧力で導出される。
【0056】
導出された原料液300は、各連結管102に均等な圧力を維持したまま流出体115に案内される。
【0057】
次に、第一貯留空間111から導出され各連結管102により案内された原料液300は、各流出体115の内方に配置される第二貯留空間113にそれぞれ貯留される(第二貯留工程)。以上により、各流出体115の第二貯留空間113に均等に原料液300が供給される。つまり、各流出体115の第二貯留空間113に貯留される原料液300の量は均等な状態で維持される。
【0058】
次に、帯電電源122により帯電電極121を正または負の高電圧とする。帯電電極121と対向する流出体115の下端部に電荷が集中し、当該電荷が流出孔118を通過して空間中に流出する原料液300に転移し、原料液300が帯電する(帯電工程)。
【0059】
前記帯電工程と第一貯留工程と第二貯留工程とはほぼ同時期に実施され、流出体115の流出孔118から帯電した原料液300が外部空間に流出する(流出工程)。
【0060】
ここで、各流出体115の第二貯留空間113に貯留される原料液300の量は均等な状態で維持されるため、各流出体115に設けられている各流出孔118から流出する原料液300も均等な状態で流出する。つまり、各流出孔118から流出する原料液300の圧力が均等であり、原料液300の単位時間あたりの流量も均等である。
【0061】
次にある程度空間中を飛行した原料液300に静電延伸現象が作用することによりナノファイバ301が製造される(ナノファイバ製造工程)。
【0062】
ここで、各流出孔118から流出した原料液300は、均等な太さで流出している。これにより、均等な繊維径のナノファイバ301が大量に製造される。
【0063】
この状態において、収集手段128の背方に配置される誘引手段104と流出体115との間に発生する電界により、ナノファイバ301が収集手段128に誘引される(誘引工程)。
【0064】
以上により、収集手段128にナノファイバ301が堆積して収集される(収集工程)。収集手段128は、移動手段129によりゆっくり移送されているため、ナノファイバ301も移送方向に延びた長尺の帯状部材として回収される。
【0065】
以上のような構成のナノファイバ製造装置100を用い、以上のナノファイバ製造方法を実施することによって、高い生産効率を維持しつつ、品質の高いナノファイバ301を空間的にムラが発生することなく均一に製造することが可能となる。また、均等な繊維径のナノファイバ301からなる不織布を製造することが可能となる。
【0066】
なお、本願発明は、上記実施の形態に限定されるわけではない。例えば図4に示すように、流出体115は、箱形でもかまわない。また、図5に示すように、貯留槽101と流出体115とを曲がった連結管102で連結してもかまわない。また、図6に示すように、連結管102を用いずに貯留槽101の導出孔132と流出体115の第二導入孔112とを直接接続するものでもかまわない。また、流出体115はその長手方向に並べて配置されるものでなくともよい。例えば、図7に示すように、流出体115の長手方向と交差する方向に複数の流出体115を並べて配置してもよい。この場合、貯留槽101の長手方向と、流出体115の長手方向は交差する。
【0067】
また、本願発明は、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて実現される別の実施の形態を本願発明の一例としてもよい。また、上記実施の形態に対して本願発明の趣旨、すなわち、特許請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本願発明に含まれる。また、「同一」や「均等」などの文言は本願発明の趣旨を逸脱しない程度の誤差を許容する意味で使用している。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本願発明は、ナノファイバの製造やナノファイバを用いた紡糸、不織布の製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0069】
100 ナノファイバ製造装置
101 貯留槽
102 連結管
104 誘引手段
107 供給手段
111 第一貯留空間
112 第二導入孔
113 第二貯留空間
114 案内管
115 流出体
118 流出孔
119 開口部
121 帯電電極
122 帯電電源
127 ロール
128 収集手段
129 移動手段
131 第一導入孔
132 導出孔
151 容器
300 原料液
301 ナノファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、
原料液を貯留する第一貯留空間と、原料液を前記第一貯留空間に導入する第一導入孔と、前記第一貯留空間に貯留される原料液を導出する複数の導出孔であって、前記導出孔を通過する原料液の圧力が均等となるように配置される導出孔とを備える貯留槽と、
原料液を貯留する第二貯留空間と、前記第一貯留空間から導出される原料液を前記第二貯留空間に導入する第二導入孔と、前記第二貯留空間に貯留される原料液を外部空間に流出させる複数の流出孔を備える複数の流出体と、
前記流出体と所定の間隔を隔てて配置される帯電電極と、
前記流出体と前記帯電電極との間に所定の電圧を印加する帯電電源と
を備えるナノファイバ製造装置。
【請求項2】
さらに、
前記貯留槽の導出孔と前記流出体の第二導入孔とを連結する複数の連結管であって、相互に形状が同一の連結管
を備える請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項3】
前記連結管は、真っ直ぐな円筒形状である
請求項2に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項4】
さらに、
空間中で製造されるナノファイバを収集する収集手段と、
前記収集手段にナノファイバを誘引する誘引手段と
を備える請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項5】
原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造方法であって、
原料液を貯留槽の内方に配置される第一貯留空間に貯留し、
前記第一貯留空間に貯留される原料液を複数の導出孔によって均等な圧力で原料液を複数箇所に導出し、
前記第一貯留空間から導出される原料液を複数の流出体の内方に配置される第二貯留空間にそれぞれ貯留し、
前記第二貯留空間に貯留される原料液を複数の流出孔によって外部空間に流出させ、
前記流出体から流出する原料液に電荷を付与して帯電させる
ナノファイバ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−174202(P2011−174202A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39341(P2010−39341)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】