説明

ナノ寸法粒子を用いる炭化水素転化方法

(a)積層物質を含んでなる触媒粒子を第一の有極性炭化水素中に懸濁させ、積層物質の離層を引き起こすような条件を使用して1ミクロンより小さい寸法を有する粒子を含んでなる懸濁液を形成せしめ、(b)場合により、懸濁液を第二の炭化水素に加え、(c)第一および/または場合により第二の炭化水素を該離層された積層物質の存在下で転化させ、そして(d)離層された物質を第一および/または場合により第二の炭化水素から分離する段階を含んでなる炭化水素転化方法。この方法は小さい触媒粒子を用いて炭化水素類を転化させる経済的に望ましい方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
炭化水素転化反応用に使用される不均質触媒は一般的に少なくとも40ミクロン(微球)から数ミリメートルまで(押し出し物またはペレット)の寸法を有する。これらの触媒粒子を用いて行われる方法は一般的に物質移動限度および/または到達性限度により支配される。従って、触媒粒子上に存在する触媒部位の一部だけが有効に利用されることはまれなことではない。
【背景技術】
【0002】
これらの問題を解決するための1つの方法は、非特許文献1および特許文献1に記載されているように、炭化水素中に懸濁させた、好ましくは1ミクロンより小さい、非常に小さい触媒粒子を使用することである。
【0003】
特許文献1は、10ミクロンより小さい、例えば0.1〜9ミクロンの名目粒子寸法を有する水素転化触媒を液体炭化水素供給原料中に懸濁させそして生じる懸濁液を水素に富んだ気体と一緒に接触区域を通して高められた温度および圧力において供給する段階を含む水素脱硫方法を記載している。触媒は、アルミナ、シリカ、マグネシア、および/またはゼオライト上に担持されたNi、Co、Mo、および/またはWである。小さい粒子は、転化しようとする液体炭化水素供給原料に対するそれらの添加前に、例えば、粉砕により得られる。
【0004】
非特許文献1は、酢酸のエステル化、クメンの分解、および2−プロパノールの脱水素化用の触媒としての積層金属酸化物HTiNbOおよびHSrNb10から生ずるナノシートの使用を開示している。これらのナノシートは、水酸化テトラ(n−ブチルアンモニウム)(TBAOH)を、それぞれ、HTiNbOおよびHSrNb10の水性懸濁液に加えそして生じた懸濁液を3〜7日間にわたり振盪することにより製造される。層間への大きいTBAカチオンの挿入が層の膨張を引き起こして、個別の金属酸化物シートの離層を生ずる。懸濁液を次に遠心しそしてナノシートを上澄み液から沈殿させる。上記反応における触媒としての使用の前に、沈殿したナノシートを不活性雰囲気下で真空にして水を除去する。小さい触媒粒子のこの製造方法はどちらかというとやっかいである。
【特許文献1】米国特許第3,975,259号明細書
【非特許文献1】A.Takagaki et al.,J.A.C.S.125(2003)pp.5479−5485
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、積層物質の離層(delamination)から生ずる1ミクロンより小さい寸法を有する触媒粒子を用いる炭化水素類の転化方法を提供することが本発明の目的であり、この触媒粒子は経済的にさらに望ましい方法で得られる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
a)積層物質を含んでなる触媒粒子を第一の有極性炭化水素中に懸濁させ、積層物質の離層を引き起こすような条件を使用して1ミクロンより小さい寸法を有する粒子を含んでなる懸濁液を形成せしめ、
b)場合により、懸濁液を第二の炭化水素に加え、
c)第一および/または場合により第二の炭化水素を該離層された積層物質の存在下で転化させ、そして
d)離層された物質を第一および/または場合により第二の炭化水素から分離する
段階を含んでなる炭化水素転化方法に関する。
【0007】
この方法では、積層物質を炭化水素(第一の炭化水素)中に懸濁させることにより積層物質が離層されそして次にこの第一の炭化水素を転化するために使用され、および/または引き続き炭化水素(第二の炭化水素)が加えられる。
【0008】
積層物質は、一般的に積み重ね順序(stacking order)と称する方法で組み立てられた層(シート)から構成される結晶性物質である。層間に、電荷均衡性アニオンまたはカチオンが収容される。本明細書では、離層は構造を(部分的に)層剥離(de−layering)することによる積層物質の積み重ね順序のねじれ(distorting)として定義される。そのため、個別層は本質的に無傷のまま保たれるが、それらの通常の順序がねじれる。その結果、(X線回折により測定される)物質の結晶性は減少する。離層の用語は、媒体中の個別層の不規則的分散をもたらしそれにより積み重ね順序を全く残さない極端な場合も包含する。この極端な場合は本明細書では剥離(exfoliation)と称する。従って、離層された積層物質は離層の結果としてのねじれた積み重ね順序を有する物質である。
【0009】
段階a)
方法の第一段階は、積層物質を含んでなる固体粒子を第一の炭化水素中に懸濁させ、それにより積層物質を離層して1ミクロンより小さい寸法を有する粒子を含んでなる懸濁液を形成せしめることを包含する。
【0010】
用語「積層物質」(“layered material”)は、アニオン性クレイ、積層ヒドロキシ塩、カチオン性クレイ、およびカチオン性積層物質を包含する。
【0011】
アニオン性クレイ(先行技術ではハイドロタルサイト類似物質および積層二重水酸化物とも称する)は間にアニオンおよび水分子がある2価および3価金属水酸化物の特定の組み合わせから構成される正に荷電された層よりなる結晶構造を有する。ハイドロタルサイトは3価金属がアルミニウムであり、2価金属がマグネシウムであり、そして優性なアニオンがカーボネートである天然産出アニオン性クレイの例であり、メイクスネライト(meixnerite)は3価金属がアルミニウムであり、2価金属がマグネシウムであり、そして優勢なアニオンがヒドロキシルであるアニオン性クレイである。
【0012】
積層ヒドロキシ塩類(LHS)はアニオン性クレイとはそれらが2価金属のみで構成されている点で区別されるが、積層二重水酸化物は2価および3価金属の両方より構成される。LHSの例は下記の理想式:[(Me2+,M2+(OH)(Xn−1/n][式中、Me2+およびM2+は同一もしくは相異なる2価金属イオンでありそしてXはOH以外のアニオンである]に従う2価金属のヒドロキシ塩である。LHSの別の例は一般式[(Me2+,M2+(OH) 2+(Xn−2/n][式中、Me2+およびM2+は同一もしくは相異なる2価金属イオンでありそしてXはOH以外のアニオンである]を有する。LHSが2種の金属を含有する場合には、2種の金属の相対量の比は1に近づくことができる。或いは、この比はそれよりはるかに大きくてもよく、金属の一方が他方より優性であることを意味する。これらの式は理想的なものであること並びに実際には全体的構造は保たれるが化学的分析は理想式を満たさない組成物を示しうることを認識することが重要である。上記のLHS−構造は1種もしくはそれ以上の2価金属が水酸化物イオンと八面体的に配位されている改変された水滑石類似層の別の配列であると考えられる。1つの群では、構造的なヒドロキシル基は交換されうる別のアニオン(例えばナイトレート)により部分的に置換される。別の群では、八面体層中の空隙には四面体的に配位されたカチオンが伴われる。積層ヒドロキシ塩に関するさらなる構造詳細並びに作用に関しては下記の文献が照合される:J.Solid State Chem.148(1999)26−40,Solid State Ionics 53−56(1992)527−533,Inorg.Chem.32(1993)1209−1215、J.Mater.Chem.1(1991)531−537,Reactivity of Solids,1,(1986)319−327,およびReactivity of Solids,3,(1987)67−74。
【0013】
カチオン性クレイはアニオン性クレイは、それらが間にカチオンおよび水分子がある4価、3価、および場合により2価の金属水酸化物の特定の組み合わせから構成される負に荷電された層よりなる結晶構造を有する点で、異なる。カチオン性クレイの例は、緑粘土類(モンモリロナイト、ベイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、サポナイト、ラポナイト(laponite)TM、およびサウコナイトを包含する)、ベントナイト、イライト類、雲母類、グラウコナイト、ベルミキュライト類、アタパルガイト、およびセピオライトを包含する。
【0014】
カチオン性積層物質(CLM類)は、特徴的なX線回折パターンを有する結晶性NH−Me(II)−TM−O相である。この構造では、Me(II)は2価金属を表しそしてTMは遷移金属を示す。CLMの構造は、これらの層の間に挟まれた電荷−相殺カチオンを有する2価金属八面体および遷移金属四面体の負に荷電された層よりなる。CLM類に関するさらなる情報に関しては、M.P.Astier et al.(Ann.Chim.Fr.Vol.12,1987,pp.337−343)およびD.Levin,S.Soled,and J.Ying(Chem.Mater.Vol.8,1996,836−843;ACS Symp.Ser.Vol.622,1996,237−249;Stud.Surf.Sci.Catal.Vol.118,1998,359−367)を参照することができる。
【0015】
本発明の方法の間に触媒作用を受ける反応によって、積層物質を含んでなる固体粒子は100%の積層物質よりなることができる。しかしながら、これらの粒子は他の物質、例えばゼオライト(例えばホージャサイトもしくはペンタシル−タイプゼオライト)、アルミナ、シリカ、マグネシア、中程度の多孔性物質(MCM−タイプ物質)、遷移金属酸化物もしくは水酸化物、金属化合物などを含有できる。これらの物質は段階c)における触媒作用目的のために適切でありうる。他の物質は好ましくは粒子中に50重量%より少ない、より好ましくは25重量%より少ない量で存在する。
【0016】
第一の炭化水素は有極性であり、炭化水素が芳香族および/またはナフテン環に結合された1個もしくはそれ以上のへテロ原子、例えば窒素、硫黄および/または酸素、を含有することを意味する。そのような炭化水素類の例は芳香族軽循環油(aromatic light cycle oil)、ナタネ油のような重油、大気もしくは真空残渣、FCCガソリンまたは循環油、およびコーカー軽油である。
【0017】
第一の炭化水素に加えられる積層物質を含んでなる触媒粒子は一般的に200ミクロンより小さい、好ましくは1〜3ミクロンの直径を有する。積層物質を含んでなる触媒粒子を第一の炭化水素と混合する間に、積層物質は離層し、それによりナノ寸法粒子を含有する懸濁液を形成するであろう。それらの中位直径として表示されるこれらのナノ寸法粒子の寸法は1ミクロンより小さく、好ましくは800nmより小さく、より好ましくは600nmより小さく、そして最も好ましくは500nmより小さい。粒子を炭化水素から例えばナノ濾過、蒸留、または遠心により分離できるようにするためには、ナノ寸法粒子は一般的に50nmより大きく、好ましくは200nmより大きい。粒子の中位直径は、代表的な粒子数の直径を電子顕微鏡により観察して測定することにより決定される。中位直径は分布の中間であり、粒子数の50%が中位直径より上にありそして50%が中位直径より下にある。
【0018】
段階a)は20〜400℃の、好ましくは50〜300℃の、そしてより好ましくは70〜200℃の範囲内の温度において、大気圧またはそれより高い−好ましくは自生−圧力において行うことができる。具体的な条件は、例えば第一の炭化水素、積層物質のタイプ、およびこの系内の離層の動力学に依存するが、一般的に温度は好ましくは第一の炭化水素の通常のすなわち大気の沸点より低い。
【0019】
段階a)で形成される懸濁液は好ましくは25重量%より低い、より好ましくは5〜15重量%の固体含有量を有する。
【0020】
離層の動力学は積層物質と第一の炭化水素との間の相容性および相互作用に依存する。離層を促進させるためには、高い剪断力を懸濁液に適用することができまたは超音波を懸濁液に導入することができる。
【0021】
段階b)
第二の炭化水素を懸濁液に加えることができる。段階c)で転化しようとするものが第一の炭化水素でない場合には、この第二の炭化水素はそのようにして転化されるものであろう。しかしながら、段階c)において第一および第二の炭化水素の両方を転化させることも可能である。このように、転化しようとする炭化水素が積層物質の離層にあまり適切でない場合には、最初の積層物質をより適切な炭化水素(第一の炭化水素)中で離層し、その後にそれを転化しようとする炭化水素(第二の炭化水素)と混合する。そのため、第二の炭化水素は段階c)で転化する必要があるいずれかの炭化水素原料でありうる。
【0022】
第二の炭化水素類の例は、酸素化物、アルコールおよび/または酸基を含有する炭化水素類、窒素および/または硫黄へテロ原子を含有する炭化水素類、アミノ酸類、不飽和炭化水素類(オレフィン類)、イオン性重合用の炭化水素類、重油類、重原油類、タール砂、バイオマス物質、およびそれらの混合物である。重油類、重原油類、およびタール砂は、種々の不純物、例えば重金属(例えばFe、V、Ni)、S、N、および/もしくはO−含有種、並びに/またはナフテン酸類を含有しうる。バイオマス物質はO−含有種を含有しうる。
【0023】
段階c)
段階c)は炭化水素転化反応を包含する。そのような炭化水素転化反応の例は重合(例えばナタネ油の重合)、水素脱硫、水素窒硫、水素化、脱水素化および液相分解である。触媒粒子内に存在する積層物質および任意の他の物質の選択はもくろむ炭化水素転化反応に依存するであろう。例えば、水素脱硫(HDS)または水素脱窒(HDN)がもくろまれる場合には、触媒粒子は好ましくはNi、Co、Mo、および/またはHDSもしくはHDN触媒中および上に普通に存在する他の金属を含有する。該金属は積層物質中および上にイオン交換または含浸により導入されうる。
【0024】
段階c)中に適用される条件は、もちろん適用される水素転化触媒に関することを除いて、これらの転化反応を行うための先行技術で既知のものと同じであろう。
【0025】
懸濁された粒子は得られた生成物から、例えば遠心、ナノ−濾過または蒸留により、分離することができる。
【実施例】
【0026】
実施例1
約70マイクロメートルの寸法を有するハイドロタルク石粒子(25mg)を100mのナタネ油に撹拌下で加えた。混合物を105℃に加熱した。72時間にわたり撹拌した後に、透明な液体が得られた。従って、ハイドロタルサイトはもはや肉眼で観察することができず、ハイドロタルサイトが離層され、それにより1ミクロンより有意に小さい寸法の粒子を形成せしめたはずであることを示した。
【0027】
透明な液体は非常に粘着性であった。GC分析はナタネ油の50%より多くが重合体に転化されたことを示した。
【0028】
この実験は積層物質が有極性炭化水素中で離層できそして同時にこれらの炭化水素類を転化させうることを示す。
【0029】
実施例2
ナタネ油−ハイドロタルサイト懸濁液の温度が80℃であったこと以外は、実施例1を繰り返した。ここでも、透明な液体が得られた。ここでも、ナタネ油の一部が重合体に転化された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)積層物質を含んでなる触媒粒子を第一の有極性炭化水素中に懸濁させ、積層物質の離層を引き起こすような条件を使用して1ミクロンより小さい寸法を有する粒子を含んでなる懸濁液を形成せしめ、
b)場合により、懸濁液を第二の炭化水素に加え、
c)第一および/または場合により第二の炭化水素を該離層された積層物質の存在下で転化させ、そして
d)離層された物質を第一および/または場合により第二の炭化水素から分離する
段階を含んでなる炭化水素転化方法。
【請求項2】
第一の炭化水素が芳香族軽循環油である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
段階a)を高剪断下で行う請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
段階a)が超音波処理を伴う請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
段階a)中に超臨界流体(例えば超臨界CO)を懸濁液に加え、それにより超臨界懸濁液を形成せしめ、その後に超臨界懸濁液の圧力を開放する請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
積層物質がアニオン性クレイ、カチオン性クレイ、カチオン性積層物質、および積層ヒドロキシ塩よりなる群から選択される前記請求項のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2008−510869(P2008−510869A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−528857(P2007−528857)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【国際出願番号】PCT/EP2005/054180
【国際公開番号】WO2006/021575
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(507062783)
【Fターム(参考)】