説明

ナノ繊維の製造方法、ナノ繊維、混合ナノ繊維、複合化方法、複合材料および成形品

【課題】セルロース系の繊維原料から、十分に微細化され、再凝集の抑制されたナノ繊維を効率よく製造する。
【解決手段】セルロースの水酸基の一部に多塩基酸無水物(特に、二塩基酸無水物)を140℃以下の温度で半エステル化してカルボキシル基を導入して、多塩基酸半エステル化セルロースを調製する。この多塩基酸半エステル化セルロースを微細繊維化して、ナノ繊維を製造する。ミクロフィブリル表面に導入された負の電荷を有するカルボキシル基の存在により、ミクロフィブリル間の反発力を誘引し、分散体中で安定して分散する。カルボキシル基の導入が簡単な反応によって容易に行い得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度有機成形材料や機能膜などの分野で使用できるセルロース系ナノ繊維(以下、単に「ナノ繊維」と表記する。)に関するものである。
【0002】
ここで、ナノ繊維とは、形態や寸法がある一定値に絞り込まれたものではなく、基本単位である幅4nmのセルロースミクロフィブリル(セルロース分子鎖が6本×6本の36本の構成に相当)、それが4本程度緩やかな束となって集まって細胞壁中の基本単位として存在するセルロースミクロフィブリル束、そのようなミクロフィブリル束が集束し、さらに数十から数百nmの束となってネットワークを形成しているミクロフィブリル化セルロースなど、様々な形態の繊維を含む総称である。
【背景技術】
【0003】
近年、植物資源ベースの高物性材料開発が世界的に求められ、その中でセルロース系ナノコンポジット開発の動きが始まり、急速に進んできている。その基本エレメントとして、高強度、低熱膨張のナノ繊維に注目が集まっている。このナノ繊維では、いかにしてナノ繊維としての機能を大きく発揮しうるものにするか、特に合成高分子との複合化など工業的に加工しやすいものにするか、それら複合化などの加工中にナノ繊維としての形態を失わないものを意識して実現するかということ、そういったことを眼目として開発することが求められている。
【0004】
こうした流れの中、木材パルプなど植物系繊維材料からのナノ繊維の製造および合成高分子との複合材料化については、最近になって各種の技術が発表されるようになってきている。
【0005】
まず、ミクロフィブリル化セルロースは、パルプなどの植物繊維をセルロースミクロフィブリルのレベルにまで解繊して得られる。従来より、熱可塑性樹脂とファイバーからなる複合材料においては、その機械強度等の特性が、材料中に分散したファイバーのアスペクト比により制御され、アスペクト比が高い程、機械強度等の特性が優れることは公知である。したがって、これまでも高アスペクト比のセルロース系ファイバーを得るために、ミクロフィブリル状化方法が検討されてきた。それらの延長線上で技術開発が行われ、特にここ3、4年は、ナノ繊維化とそれと合成高分子との複合化がナノ材料技術の一つとして注目され、発展しつつある(例えば、特許文献1、2参照)。
【0006】
そのような開発の中で、物理的な処理を行う解繊技術として、高圧ホモジナイザー法が著名であり、広範囲に用いられている。例えば、(a)セルロース系の繊維原料を湿式で離解した後、(b)離解された繊維原料を予備的に解繊して粗繊維化する予備解繊工程を実施し、(c)予備解繊された繊維原料を蒸煮処理した後、(d)蒸煮処理された繊維原料を微細繊維化(ミクロフィブリル化)するというように幾つかの処理を重ねて行うことにより、所期の目的を達するとしている(例えば、特許文献2参照)。ところが、これでは、得られる微細化繊維の繊維径にも分布が存在し、一般的な処理条件下では微細化の程度も不完全であり、1μm以上の太い繊維も若干残ることが多いという。この例が示すように、通常、これまで知られている方法によるこの種のミクロフィブリル化は決して簡単ではない。
【0007】
一方、化学的な処理条件によりセルロースの微細化を行う方法として、酸加水分解法による微細化技術が知られている。しかし、この方法では、セルロース繊維の切断が起こってアスペクト比が低下することが知られており、一般に繊維の形状を保ったままアスペクト比の高い状態で微細化することが困難であった。
【0008】
これに対して、最近、セルロース表面の酸化によって容易にナノ繊維に解繊できることが明かにされた。すなわち、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(以下、「TEMPO」と表記する。)の存在下、次亜塩素酸のような酸化剤を用い、水系で非晶領域にある6位のセルロース水酸基を選択的にカルボキシル化すると、ナノ繊維相互の反発性が高まり、ナノ繊維化が促進されている(例えば、特許文献3参照)。セルロース表面の化学修飾によるナノ繊維の製造である。
【特許文献1】特開2005−42283号公報
【特許文献2】特開2008−75214号公報
【特許文献3】特開2008−1728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、セルロース表面の酸化によってナノ繊維に解繊する手法では、1gのパルプ当たり0.013gのTEMPOおよび0.13gの臭化ナトリウム(水150mlに分散)、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液の形で次亜塩素酸ナトリウムを2.5mmolとなるように次亜塩素酸ナトリウムを加えて反応を行うといったように化学薬品、それもハロゲン化物を多量に用いる点、特に反応残物を利用せず過剰量の水を用いた水洗で除くと言った点、酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムは分解して塩素ガスを発生する強アルカリであり、安全性に関する論議がある点、反応全体として安価であるとの主張があるものの、コスト軽減が望まれる点といった問題を持っている。すなわち、汎用的に入手可能なセルロースがその構造中に内包しているナノ繊維性を活用して、産業的に利用可能な極めて微小な繊維径をもつナノ繊維を効率的に得る望ましい方法はなお大いに開発すべき問題となっている。
【0010】
このように、年をおって優れた微細繊維状セルロースの製造方法が提案されているが、いずれも、なお改善の余地があるものであり、十分に微細化された繊維状セルロースを一層効率よく製造することが可能なナノ繊維の製造が求められているのが実情である。
【0011】
また、ミクロフィブリル化セルロースであるナノ繊維は軽くて強度が高く、さらには生分解性も高いためフィルム、パソコン、携帯電話等の家電製品の筐体、文房具等の事務機器、スポーツ用品、輸送機器、建築材料など幅広い分野への応用が期待され得る。したがって、開発すべきナノ繊維は合成樹脂との複合化に向いたものであり、その複合化加工時に再凝集が抑制され、複合材料調製により適したナノ繊維となっており、汎用の混練手段で、樹脂成分中に該ナノ繊維成分を均一に微細分散させて、高剛性で高強度なナノ繊維/樹脂複合材料を与えるべきものであることが求められることになる。
【0012】
しかし、セルロースを一旦ナノ繊維化しても、熱可塑性樹脂および熱硬化性オリゴマー中に微細分散させようとする過程でナノ繊維表面間での主に水素結合を介した結合力によって強く集束し、再凝集しがちである。したがって、熱可塑性樹脂および熱硬化性オリゴマー中に微細分散させることは難しい。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑み、セルロース系の繊維原料から、十分に微細化され、再凝集が起こりにくいナノ繊維を効率よく製造することが可能なナノ繊維の製造方法と、ナノ繊維の再凝集を起こさせることなく、ナノ繊維と樹脂との複合材料を製造することが可能な複合化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、上述した各種の技術を参照しつつ広く検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、まず、セルロース外部表面および試薬が届きうる内部表面への多塩基酸無水物の半エステル化反応、或いは不飽和多塩基酸ないし不飽和多塩基酸無水物の付加反応について検討し、溶剤を使わない加熱下、望ましくは加圧・加熱下での固/固および気/固反応でそれらをより容易になし得ることを知り、各様に反応させた。
【0016】
特に、二軸押出機または加圧ニーダーを使う混練反応により好適にそれら反応を進め得た。それらの過程でも微細繊維化(ミクロフィブリル化)が一部進むが、引き続いての水系スラリーを用いた微細繊維化よりセルロースI型結晶構造を有する新規のナノセルロース繊維を得た上で、必要に応じセルロース非晶領域膨潤剤も存在させて合成高分子類と溶融混練する樹脂組成物の製造方法および製品としての複合樹脂組成物を得た。溶融混練中に繊維成分を解繊してミクロフィブリル化がさらに加えられるとともに、樹脂成分中に均一に微細分散させることにもなる。
【0017】
それらの際、多塩基酸無水物の半エステル化反応、或いは不飽和多塩基酸ないし不飽和多塩基酸無水物の付加反応によりミクロフィブリル表面に導入された負の電荷を有するカルボキシル基の存在により、ミクロフィブリル間の反発力を誘引し、分散体中での安定な分散の原因となっていることを確認し、本発明を完成させた。
【0018】
本発明に係る第1のナノ繊維の製造方法は、セルロースの水酸基の一部に多塩基酸無水物を半エステル化してカルボキシル基を導入することにより、多塩基酸半エステル化セルロースを調製する多塩基酸半エステル化セルロース調製工程と、前記多塩基酸半エステル化セルロースを微細繊維化することにより、ナノ繊維を製造する繊維製造工程とを含むナノ繊維の製造方法としたことを特徴とする。
【0019】
本発明に係る第2のナノ繊維の製造方法は、セルロースを構成する原子団の一部に不飽和多塩基酸または不飽和多塩基酸無水物を付加させてカルボキシル基を導入することにより、不飽和多塩基酸付加セルロースを調製する不飽和多塩基酸付加セルロース調製工程と、前記不飽和多塩基酸付加セルロースを微細繊維化することにより、ナノ繊維を製造する繊維製造工程とを含むナノ繊維の製造方法としたことを特徴とする。
【0020】
本発明に係る第1の複合化方法は、上記ナノ繊維を樹脂と混練することにより、複合材料を調製する複合化方法としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ミクロフィブリル表面に導入された負の電荷を有するカルボキシル基の存在により、ミクロフィブリル間の反発力を誘引し、分散体中で安定して分散するとともに、カルボキシル基の導入が簡単な反応によって容易に行い得ることから、セルロース系の繊維原料から、十分に微細化され、再凝集が起こりにくいナノ繊維を効率よく製造することが可能になる。
【0022】
しかも、導入される半エステル化物鎖またはグラフト鎖がミクロフィブリルに横方向の不規則性を与え、コンフォメーション的に複雑になり、その面でも再凝集が妨げられると言える。
【0023】
また、汎用の混練手段および成形手段で、樹脂成分中に該ナノ繊維成分を均一に微細分散させて、高剛性で高強度な複合材料を製造することが可能になる。その結果、汎用熱可塑性樹脂を射出成形、フィルム、シートなどの押出成形設備に適用することができ、生産効率の向上および生産コストの削減を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0025】
実施の形態1として、セルロースの水酸基の一部に多塩基酸無水物(特に、二塩基酸無水物)を半エステル化してカルボキシル基を導入することにより、多塩基酸半エステル化セルロースを調製し、この多塩基酸半エステル化セルロースを微細繊維化することにより、ナノ繊維を製造する場合について述べる。
【0026】
まず、セルロース準備工程で、セルロースとして、パルプ、セルロース粉末などを準備する。具体的には、クラフトパルプ、サルファイトパルプなどの木材の化学処理パルプ、コットンリンターやコットンリントのような綿系パルプ、麦わらパルプやバガスパルプ等の非木材系パルプ、古紙から再生された再生パルプ、海草から単離されるセルロース、人造セルロース繊維、酢酸菌によるバクテリアルセルロース繊維、ホヤ等の動物由来のセルロース繊維等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。そして、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのうち、コストの面、地球環境の面からは、植物由来の木材、古紙等から得られたパルプが好ましい。天然セルロースは、叩解等の表面積を高める処理を施すことが望ましい。そうすれば、反応効率を高めることができ、生産性を高めることができる。
【0027】
次に、多塩基酸半エステル化セルロース調製工程に移行し、セルロースの水酸基の一部に多塩基酸無水物を140℃以下の温度で半エステル化してカルボキシル基を導入する。
【0028】
ここで用いる多塩基酸無水物としては、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ジクロロマレイン酸、無水イタコン酸、無水テトラブロモフタル酸、無水ヘット酸、無水トリメット酸、無水ピロメリット酸、等が挙げられるが、特に無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸が、工業的に有利で安価な点で好ましい。
【0029】
この多塩基酸無水物としては、不飽和多塩基酸無水物および飽和多塩基酸無水物がある。不飽和多塩基酸無水物としては、無水マレイン酸、無水ナジック酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水メサコン酸等が使用される。また、飽和多塩基酸無水物としては、無水フタル酸、無水オルソフタル酸、無水イソフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水テトラクロロフタル酸、無水テレフタル酸、無水アジピン酸、無水コハク酸、無水ヘット酸等が挙げられる。
【0030】
ここで、多塩基酸無水物の配合量は次のとおりである。まず、前記多塩基酸無水物は、乾燥したセルロース系物質成分100重量部に対して、1〜120重量部、好ましくは、3〜100重量部使用する。これは、前記多塩基酸無水物を120重量部より多く使用すると、セルロース系物質成分の含量が低くなり、熱圧成形時にしみ出しが起こり好ましくなく、また、1重量部未満の少量では半エステル化セルロースミクロフィブリル間のカルボキシル基が低下し、ミクロフィブリル間の静電反発力が不足し、満足すべき性能のナノ繊維が得られなくなる点で好ましくないことによる。
【0031】
このとき、多塩基酸無水物をセルロースと反応させる際に、その反応を半エステル化に止め、遊離のカルボキシル基を残す必要があるが、その目的を達するためには、例えば無水マレイン酸の場合反応温度を140℃以下にするなど、反応温度の制御で可能である。
【0032】
また、多塩基酸無水物をセルロースと反応させる際には、無触媒下でも十分に進行するが、反応を促進させるために炭酸ナトリウム、ジメチルベンジルアミン、テトラメチルアンモニウムクロライド、ビリジン等の塩基性触媒を用いてもよく、付加エステル化触媒を使用してもよい。なお、無触媒下でエステル化を行なわせる一般的な製造法としては、リグノセルロース系またはセルロース系物質の存在下で前記多塩基酸無水物を混合し、60〜140℃の温度で0.25〜2時間反応させる方法がある。
【0033】
また、多塩基酸無水物をセルロースと反応させる際に用いる装置としては、一般的な加熱攪拌型反応機や通常のドラム型ニーダーを用いてもよいが、加圧ニーダーや多軸押出混練機を用いると反応は好適に進め得る。
【0034】
こうして、セルロースの水酸基の一部に多塩基酸無水物を半エステル化してカルボキシル基を導入すると、多塩基酸半エステル化セルロースが得られる。
【0035】
その後、必要に応じ未反応物除去工程に移行し、未反応の多塩基酸を除去する。それには、多塩基酸半エステル化セルロースを蒸煮・濃縮処理するか、或いは、多塩基酸半エステル化セルロースをアセトンなどの溶剤で抽出する。すると、未反応の多塩基酸が除去される。
【0036】
次いで、必要に応じセルロース膨潤工程に移行し、所定の膨潤剤を用いて、先程の多塩基酸半エステル化セルロースの非晶領域を膨潤させる。この膨潤剤は、セルロース繊維と水素結合能を有する低分子化合物であり、半エステル化セルロースおよび/または不飽和多塩基酸付加セルロースの繊維集合体、特にそれらの非晶領域に含浸、拡散可能な化合物である。具体的には、水、エチレングリコール、ブチレングリコール、メチルアルコール、エチルアルコール等がある。これらの中で好ましいのは、水、エチレングリコール、メチルアルコールであり、とりわけ水は安価で使いやすい。そして、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。例えば、膨潤剤として水を用いる場合、多塩基酸半エステル化セルロースを液比20程度で水に懸濁させればよい。
【0037】
最後に、繊維製造工程に移行し、高圧ホモジナイザー、ニーダー、多軸混練押出機により、水系スラリーを用いて、先程の多塩基酸半エステル化セルロースを微細繊維化する。
【0038】
この微細繊維化のためには、種々な装置を使用することができる。具体例を示せば、反応物繊維における反応の進行度(カルボキシル基含量)にも依存するが、好適に反応が進行した半エステル化セルロースおよび/または不飽和多塩基酸付加セルロースの場合には、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー等の工業生産機としての汎用の分散機で十分に本発明の微細セルロース繊維の分散体を得ることができる。このとき、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波分散処理、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、およびグラインダーのような強力で叩解能力のある装置を使用することにより、一層効率的かつ高度な微細繊維化が可能となる。
【0039】
こうして、多塩基酸半エステル化セルロースを微細繊維化すると、セルロースI型結晶構造を有するナノ繊維が得られる。このナノ繊維がセルロースI型結晶構造であることは、その広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と2シータ=22〜23°付近の二つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。さらに、本発明の微細セルロース繊維のセルロースにカルボキシル基が導入されていることは、水分を完全に除去したサンプルの赤外分光スペクトル(FTIR)において酸型のカルボキシル基(−COOH)のカルボニル基に起因する1730cm-1に吸収が存在することより確認することができる。
【0040】
ここで、ナノ繊維の製造工程が終了する。
[発明の実施の形態2]
【0041】
実施の形態2として、セルロースを構成する原子団の一部に不飽和多塩基酸(特に、不飽和二塩基酸)または不飽和多塩基酸無水物(特に、不飽和二塩基酸無水物)を付加させてカルボキシル基を導入することにより、不飽和多塩基酸付加セルロースを調製し、この不飽和多塩基酸付加セルロースを微細繊維化することにより、ナノ繊維を製造する場合について述べる。これは、重合開始剤の存在下に不飽和多塩基酸をセルロースと混練を主とする反応を行うことにより、不飽和多塩基酸の不飽和基を用いる付加反応、すなわちグラフト重合を行うものである。
【0042】
まず、セルロース準備工程で、セルロースとして、パルプ、セルロース粉末などを準備する。その具体例については、上述した実施の形態1と同じである。
【0043】
次に、不飽和多塩基酸付加セルロース調製工程に移行し、重合開始剤を用いて、セルロースを構成する原子団の一部に不飽和多塩基酸または不飽和多塩基酸無水物を200℃以下の温度で付加させてカルボキシル基を導入する。
【0044】
ここで用いる不飽和多塩基酸、又は、不飽和多塩基酸無水物としては、それぞれ、一部前出のように、マレイン酸、ナジック酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等、又は、無水マレイン酸、無水ナジック酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水メサコン酸等が挙げられる。特に、それぞれ、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、又は、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸が、工業的に有利で安価な点で好ましい。これらのモノマー、特に無水マレイン酸はビニル基の二つの炭素にそれぞれ電子吸引性のカルボニルが付いており、ビニル基のカチオン性が高く、静電反発により重合体を生じ難くグラフト鎖は伸びない。これは少量のモノマーの添加によってもセルロース鎖に沿って効率的にモノマー付加を生じさせ、カルボキシル基を分散させて導入しうることにつながり、かえって好都合である。必要に応じ電子供与性の置換基を持ったビニルモノマーとの共重合を行うこともでき、グラフト鎖の重合度を高め、導入されるグラフト鎖がより効果的にミクロフィブリルに横方向の不規則性を与え、コンフォメーション的に複雑にし、再凝集防止に役立たせることも可能である。
【0045】
また、重合開始剤としては、各種の有機過酸化物を使用することができる。具体的には、ベンゾイルペルオキシド、ジクロルベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ペルオキシベンゾエート)ヘキシン−3,1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ラウロイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシフェニルアセテート等を挙げることができる。これらの中では、ジクミルペルオキシド、t−ブチルペルオキシベンゾエート、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンが、使いやすく、工業的に有利といった点で好ましい。これらの重合開始剤は単独で、あるいは、複数種を組み合わせて用いられ、その配合量は、熱硬化性樹脂100重量部に対して、0.1〜20重量部、さらに好ましくは1.0〜10重量部である。
【0046】
また、不飽和多塩基酸または不飽和多塩基酸無水物をセルロースと反応させる際に用いる装置としては、一般的な加熱攪拌型反応機や通常のドラム型ニーダーを用いてもよいが、加圧ニーダーや多軸押出混練機を用いると反応は好適に進め得るという点は、上述した実施の形態1と同じである。この場合の方が加圧ニーダーや多軸押出混練機を反応機として用いる必要性は高い。その際、全般的には60〜140℃で反応させるのが工業的に有利であるが、加圧ニーダーや多軸押出混練機を用いて反応温度を170℃程度まで高めれば、20分程度の短時間で反応を終えることができる。なお、反応温度が200℃以下であれば、セルロースの熱分解を回避することができる。
【0047】
こうして、セルロースを構成する原子団の一部に不飽和多塩基酸または不飽和多塩基酸無水物を付加させてカルボキシル基を導入すると、不飽和多塩基酸付加セルロースが得られる。
【0048】
その後、必要に応じ未反応物除去工程に移行し、未反応の多塩基酸を除去する。それには、不飽和多塩基酸付加セルロースを蒸煮・濃縮処理するか、或いは、不飽和多塩基酸付加セルロースをアセトンなどの溶剤で抽出する。すると、未反応の多塩基酸が除去される。
【0049】
次いで、必要に応じセルロース膨潤工程に移行し、所定の膨潤剤を用いて、先程の不飽和多塩基酸付加セルロースの非晶領域を膨潤させる。この膨潤剤については、上述した実施の形態1と同じである。
【0050】
最後に、繊維製造工程に移行し、上述した実施の形態1と同様な手順で、高圧ホモジナイザー、ニーダー、多軸混練押出機により、水系スラリーを用いて、先程の不飽和多塩基酸付加セルロースを微細繊維化する。
【0051】
こうして、不飽和多塩基酸付加セルロースを微細繊維化すると、上述した実施の形態1と同様、セルロースI型結晶構造を有するナノ繊維が得られる。
【0052】
ここで、ナノ繊維の製造工程が終了する。
[発明の実施の形態3]
【0053】
実施の形態3として、上述した実施の形態1、2で得られたナノ繊維を樹脂と混練することにより、複合材料を調製する複合化方法について述べる。
【0054】
すなわち、必要に応じ所定の膨潤剤を用いて、ナノ繊維を構成する多塩基酸半エステル化セルロースまたは不飽和多塩基酸付加セルロースの非晶領域を膨潤させ、二軸押出機(二軸エクストルーダー)を用いて、多塩基酸半エステル化セルロースまたは不飽和多塩基酸付加セルロースを樹脂と溶融混練することにより、繊維成分を解繊するとともに、樹脂成分中に繊維成分を均一に微細分散させて高分子樹脂組成物(複合材料)を製造する。
【0055】
ここで用いる樹脂としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性初期縮合物が望ましいが、これらに限定されるものではない。例えば、ポリ乳酸、脂肪族芳香族ポリエステル、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、アセタール樹脂、ポリカーボネート、繊維素プラスチック、ポリグリコール酸、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリ−4−ヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレートポリエチレンアジペート、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン等のポリエステル、ポリエチレングリコール等のポリエーテル、ポリグルタミン酸、ポリリジン等のポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂、ポリイミド樹脂等の熱可塑性樹脂などを使用することができ、1種単独または2種以上を組み合わせて使用できるが、これらに限定されない。バイオマス液化物由来フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂も使用できる。好ましくは、生分解性樹脂、ポリオレフィン、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、脂肪族ポリエステルである。
【0056】
また、樹脂として熱可塑性樹脂または熱硬化性初期縮合物を用いる場合は、ナノ繊維と熱可塑性樹脂または熱硬化性初期縮合物との混合比率は、質量比で1:99〜99:1とするのが好ましい。
【0057】
なお、樹脂としてポリ乳酸を使用する場合、このポリ乳酸は、特に限定されないが、十分な強度を有するために好ましい数平均分子量は3万以上、好ましくは10万以上である。ポリ乳酸の数平均分子量の上限は特に制限はないが、通常100万以下、好ましくは50万以下である。得られるポリ乳酸の物性から、ポリ乳酸を構成するL体とD体のモル比は、100/0〜0/100の全ての組成で使用できるが、弾性率の高いものを得る上では、L体が95モル%以上であることが好ましい。ポリ乳酸の製造法は公知であり、特に限定されるものではなく、例えば、ラクチドを経由する開環重合法、乳酸の直接重縮合法等が挙げられる。
【0058】
また、樹脂として脂肪族芳香族ポリエステルを使用する場合、この脂肪族芳香族ポリエステルは、1,4−ブタンジオール、アジピン酸およびテレフタル酸をそれぞれ所定量取り、重縮合させたものであり、市販品として、BASF(社)(独)の Ecoflex,Eastman Chemical 社(米)のEastar Bio および Dupont社(米)の Biomax がある。それぞれ既存のPETなどポリエステル生産技術、設備を利用できているので、非常に高い価格競争力を持っているといわれている。生分解性高分子としては、Calgill 社(米)のポリ乳酸に次ぐ低価格のものである。物性にはLDPEと類似の特性を持っており、高い破断点伸び、優れた靭性と柔軟性、耐衝撃性、LDPEと同じ温度域の融点、優れたキャストおよびインフレーションフイルム成形性を備えている。他に、完全な生分解性とコンポスト性、ヨーロッパ規格EC90/128や米国のFDA基準に合格した食品衛生性を持つことも特徴となっている。なお、それら脂肪族芳香族ポリエステルの間には Ecoflex が Eastar Bio コポリエステルに比べ枝分かれ構造を持つため、溶融粘度がより高粘度であるといった違いがあり、また、例えば、Eastar Bio の場合、通常用途の Eastar Bio GPと高溶融粘度の EastarBio Ultra といったような種類別もある。
【0059】
なお、膨潤剤の繊維成分、すなわち前処理パルプまたはセルロース系繊維に対する使用量は、繊維成分の保水率以上であればよいが、後述する分散工程での微細化効果と、その後の分離性から、前処理パルプまたはセルロース系繊維の100〜600重量%、特に200〜500重量%であることが好ましい。
【0060】
また、二軸押出機は、汎用の熱可塑性樹脂の混合、可塑化、押出に使用される装置であり、二本のスクリュウの回転方向は異方向、同方向回転どちらでもよい。スクリュウの噛み合いは完全噛み合い型、不完全噛み合い型、非噛み合い型があるが、繊維成分の分散性の面から完全噛み合い型が好ましい。スクリュウ長さ/スクリュウ直径比(L/D)は20〜70であれば良い。具体的な二軸押出機としては、(株)日本製鋼所製の二軸混練押出機「TEX」、東芝機械(株)製の二軸混練押出機「TEM」、クルップ・ウエルナー社製の二軸押出機「ZSK」等を用いることができる。
【0061】
そして、このような二軸押出機を用いて、スクリュウ構成の組み合せにより、例えば次の(A)または(B)の工程を経て溶融混練を行うことが好ましい。
(A)二軸押出機に樹脂成分、繊維成分およびセルロース非晶領域膨潤剤を供給して、二軸押出機内でセルロース非晶領域膨潤剤の存在下に繊維成分を樹脂成分中に解繊、分散させる解繊・分散工程と、その後、樹脂成分を溶融させるとともに、溶融樹脂成分中に繊維成分を更に解繊、微細分散させる溶融・分散工程と、その後、セルロース非晶領域膨潤剤を分離するとともに、混練物を押し出すセルロース非晶領域膨潤剤分離・押出工程。
【0062】
この場合において、解繊・分散工程は、温度が30〜90℃であることが好ましく、溶融・分散工程は温度が120〜200℃であることが好ましく、その後のセルロース非晶領域膨潤剤分離・押出工程は温度が120〜200℃であることが好ましい。また、スクリュウ回転速度は全工程とも50〜400rpmの範囲であることが好ましく、長時間滞留による高分子樹脂やセルロース系添加剤の劣化、分解を防止するためには、スクリュウ長さ/スクリュウ直径比(L/D)は小さい方が好ましく、25〜50が好ましい。
(B)二軸押出機に樹脂成分を供給して、二軸押出機内で樹脂成分を溶融させる溶融工程と、その後、繊維成分およびセルロース非晶領域膨潤剤の混合物を二軸押出機に加圧注入してセルロース非晶領域膨潤剤の存在下に繊維成分を樹脂成分中で解繊、微細分散させる溶融・解繊・分散工程と、その後、該セルロース非晶領域膨潤剤を分離するとともに、混練物を押し出すセルロース非晶領域膨潤剤分離・押出工程。
【0063】
この場合において、溶融工程は、温度が120〜200℃であることが好ましく、溶融・解繊・分散工程は温度が120〜180℃であることが好ましく、その後のセルロース非晶領域膨潤剤分離・押出工程は温度が120〜200℃で、圧力が大気圧〜真空であることが好ましい。また、スクリュウ回転速度は全工程とも50〜400rpmの範囲であることが好ましい。また、溶融・解繊・分散工程においては、セルロース非晶領域膨潤剤と繊維成分との混合物は、ポンプを用いて、圧力が大気圧〜数MPaの溶融樹脂成分中に加圧注入し、セルロース非晶領域膨潤剤を分離させることなく、更に溶融、解繊、微細分散を行うことが好ましい。この場合のスクリュウ長さ/スクリュウ直径比(L/D)は30〜70が好ましい。
【0064】
ここで、上記(A)、(B)いずれの方法においても、セルロース非晶領域膨潤剤の二軸押出機への注入は、繊維成分と予備混合し液状でポンプで供給してもよく、必要に応じてセルロース非晶領域膨潤剤を液状で単独で供給してもよい。また、繊維成分の短繊維状化を図るために、上記溶融混練工程を加圧条件として、セルロース非晶領域膨潤剤の蒸発揮散を防止することもできる。更に、必要に応じて、樹脂成分の溶融工程に加圧ポンプによりセルロース非晶領域膨潤剤を添加することもできる。溶融混練後は脱圧することにより、更には減圧することによりセルロース非晶領域膨潤剤を分離することができる。
【0065】
このようにして押出、粒状化された高分子樹脂組成物は、乾燥工程を必要とせず、高分子樹脂に必須の成形加工前の表面付着水の分離のための予備乾燥のみで成形加工に供することができる。
【0066】
なお、得られる高分子樹脂組成物、すなわち、樹脂成分中に繊維成分が均一に微細分散した複合材料の特性は、樹脂成分中に分散している繊維成分の形態に大きく依存し、セルロース繊維の集合体であるよりもミクロフィブリル状化していることが好ましい。本発明では、上述のように、セルロース非晶領域膨潤剤の存在下に好ましくは二軸押出機を用いて樹脂成分と繊維成分との溶融混練を行うと、樹脂成分を混合、混練媒体として、良好な混合、混練性のもとに、繊維成分を解繊するとともに、樹脂成分中に均一微細分散させることができる。そして、セルロース非晶領域膨潤剤は、このような溶融混練工程において、セルロースミクロフィブリル間の凝集力を低下させ、セルロース繊維の集合体をミクロフィブリル状に解繊しやすくするとともに、解繊されたミクロフィブリル状化セルロース同士の凝集を防止する機能を有し、均一微細分散性を高める効果を奏する。ただし、セルロース繊維の集合体を完全にミクロフィブリル状化することは困難であり、本発明により製造される脂肪族ポリエステル組成物中の繊維成分には、セルロース繊維の集合体から解繊されたミクロフィブリル状化セルロースだけでなく、セルロース繊維の集合体も存在する。
[発明のその他の実施の形態]
【0067】
なお、上述した実施の形態1では、多塩基酸半エステル化セルロース調製工程の直後に未反応物除去工程が設けられている場合について説明したが、未反応物除去工程は、多塩基酸半エステル化セルロース調製工程と繊維製造工程との間であれば、どこに設けても構わない。
【0068】
また、上述した実施の形態2では、不飽和多塩基酸付加セルロース調製工程の直後に未反応物除去工程が設けられている場合について説明したが、未反応物除去工程は、不飽和多塩基酸付加セルロース調製工程と繊維製造工程との間であれば、どこに設けても構わない。
【0069】
さらに、上述した実施の形態1では、セルロースの水酸基の一部に多塩基酸無水物を半エステル化してカルボキシル基を導入することにより、多塩基酸半エステル化セルロースを調製し、この多塩基酸半エステル化セルロースを微細繊維化することにより、ナノ繊維を製造する場合について説明し、上述した実施の形態2では、セルロースを構成する原子団の一部に不飽和多塩基酸または不飽和多塩基酸無水物を付加させてカルボキシル基を導入することにより、不飽和多塩基酸付加セルロースを調製し、この不飽和多塩基酸付加セルロースを微細繊維化することにより、ナノ繊維を製造する場合について説明したが、これらのナノ繊維を混合してもよい。
【0070】
また、上述した実施の形態1、2では、繊維製造工程において、水系スラリーを用いて多塩基酸半エステル化セルロース、不飽和多塩基酸付加セルロースを微細繊維化する場合について説明したが、必ずしも水系スラリーを用いる必要はない。
【0071】
また、上述した実施の形態1、2では、ナノ繊維について説明し、上述した実施の形態3では、ナノ繊維と樹脂との複合材料について説明したが、これらのナノ繊維や複合材料には、必要に応じて、滑材、ワックス類、着色剤、安定剤、その他の各種の添加剤を配合してもよい。
【0072】
また、上述した実施の形態3では、ナノ繊維と樹脂との複合材料について説明したが、この複合材料から種々の形状(例えば、フィルム状、シート状など)の成形品を製造することもできる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
これらの実施例の一部で用いられた物性値測定法は、以下のとおりである。
(1)引張強度(破断)、引張破断伸度、引張弾性率(ヤング率)…JISK−6732に準拠して、(株)島津製作所製の万能試験機「オートグラフ」で測定した。
(2)溶融粘度、溶融温度…(株)島津製作所製の流動特性評価装置「フローテスターCFF−C」により測定した。
[実施例1]
【0075】
乾燥重量で200g相当分のセルロース粉末(日本製紙ケミカル(株)製KC-フロックW-400G;含水率8%の気乾試料)と無水マレイン酸23.2gを500mL容加圧型ニーダー((株)森山製作所製「MixLab」)に秤取り125℃で20分混練し、半エステル化反応を行った。アセトン抽出、乾燥、秤量により、4.43%重量増加分の無水マレイン酸がエステル化されていることが知られた。
【0076】
次に、該反応物セルロース粉末に水を加え、約5重量%スラリーとし、(株)スギノマシン製作所製の湿式微粒化装置「スターバースト(旧アルティマイザー)HJP-25080」による処理(245MPaでの対向衝突処理)を行い、乳化水懸濁液を得た。すなわち、加圧型ニーダーを用いる混練反応で得た無水マレイン酸半エステル化セルロース粉末(日本製紙ケミカル(株)製KC-フロックW-400G)を水に懸濁させ(セルロース系試料/脱イオン水=1/20[w/w])、245MPaの超高圧で10回繰り返し対抗衝突させるスターバースト処理を行い、乳白色のセルロース系微分散液を得た。この際、半エステル化反応は類似条件で二軸エックスとルーダーを用いた処理によっても可能であった。生成分散液を乾燥させて得られた透明な膜状のセルロースの広角X線回折像から、このものがセルロースI型結晶構造を有するセルロースから成ることが示され、また同じ膜状セルロースのFTIRスペクトルのパターンからカルボニル基の存在が確認された。
[比較例1]
【0077】
実施例1の原料として用いたセルロース粉末(日本製紙ケミカル(株)製KC-フロックW-400G;含水率8%の気乾試料)に水を加え、実施例1と同等の245MPaの超高圧で10回繰り返し対抗衝突させるスターバースト処理を行い、約4重量%とした分散体を調製した。
【0078】
図3に、ここで得られた分散体を市販凍結乾燥機により凍結乾燥乾燥させた後、走査型電子顕微鏡観察用の試料台に載せ、イオンスパッター装置JFC1100(日本電子(株)製)を用いて金イオンコーティングを行ったうえで、走査型電子顕微鏡(JSM-T330A;日本電子(株)製)で観察した結果を示す。なお、図3の倍率は10000倍である。
【0079】
また、図1に実施例1で得られた分散液を同様に凍結乾燥させた後、同様に走査型電子顕微鏡観察した結果を示す。なお、図1の倍率は30000倍である。
【0080】
そして、図1および図3の倍率が異なることに留意して両者を比較すると、図3のSEM像がセルロース繊維が凝集した外観を示しているのに対して、図1のそれは、用いた条件での金蒸着により繊維径が約70nm太くなっていると言うことも勘案すれば、ナノ繊維状のセルロースから構成されており、最大繊維径が50nmかつ数平均繊維径が12nmと言った具合にナノ繊維化されているといえ、両者の間には大きな違いが認められる。
【0081】
以上により、実施例1により得られた微細セルロース繊維の分散体は本発明の微細セルロース繊維を含有していることが確認された。
[実施例2]
【0082】
無水マレイン酸23.2gの代わりに無水コハク酸を23.6g用いるほかは実施例1に準じ、コハク酸半エステル化セルロースを調製した。実施例1での場合と同様に定量した結果、5.10%重量増加分の無水コハク酸がエステル化されていることが知られた。
【0083】
次に、該反応物セルロース粉末に水を加え、約5重量%スラリーとし、(株)スギノマシン製作所製のスターバースト(旧アルティマイザー)HJP-25080による処理(245MPaでの対向衝突処理)を行い、乳化水懸濁液を得た。生成物がセルロースI型結晶構造を有するセルロースから成ることが示され、またATRスペクトルのパターンからカルボニル基の存在が確認された。
【0084】
図2に、実施例2で得られた分散液を凍結乾燥させた後、走査型電子顕微鏡観察した結果を示す。図2の倍率は30000倍である。
【0085】
図2より、ナノ繊維状のセルロースから構成されており、最大繊維径が45nmかつ数平均繊維径が10nmと言った具合にナノ繊維化されていることが知られ、実施例2により得られた微細セルロース繊維の分散体は本発明の微細セルロース繊維を含有していることが確認された。
[実施例3]
【0086】
実施例1で得られた無水マレイン酸半エステル化セルロース粉末(日本製紙ケミカル(株)製KC-フロックW-400G)を10g、100ml容の耐圧反応管に秤取り、90gの水を加えて密閉し、140℃で20分蒸煮した後、必要量の水を用いて丸底フラスコに洗いこみ、約100℃でロータリーエバポレーター濃縮を行った。
【0087】
次に、該濃縮反応物セルロース懸濁液に水を加え、約5重量%スラリーとし、(株)エスエムテー製の圧力式ホモジナイザー(LAB1000超高圧ホモジナイザー)を用いて98MPaの超高圧で10回繰り返し処理を行い、乳白色のセルロース系微分散液を得た。生成分散液を乾燥させて得られた透明な膜状のセルロースの広角X線回折像から、このものがセルロースI型結晶構造を有するセルロースから成ることが示され、また同じ膜状セルロースのATRスペクトルのパターンからカルボニル基の存在が確認された。
[実施例4]
【0088】
乾燥重量で40g相当分のセルロース粉末(日本製紙ケミカル(株)製KC-フロックW-400G;含水率8%の気乾試料)、無水マレイン酸4.8gおよびジクミールパーオキシド0.4gをラボプラストミル500mL容加圧型ニーダー(東洋精機(株)製)に秤取り170℃で30分混練し、付加反応を行った。アセトン抽出、乾燥、秤量により、8.7%重量増加分の無水マレイン酸が付加されていることが知られた。
【0089】
次に、該濃縮反応物セルロース懸濁液に水を加え、約5重量%スラリーとし、(株)エスエムテー製の圧力式ホモジナイザー(LAB1000超高圧ホモジナイザー)を用いて98MPaの超高圧で10回繰り返し処理を行い、乳白色のセルロース系微分散液を得た。生成分散液を乾燥させて得られた透明な膜状のセルロースの広角X線回折像から、このものがセルロースI型結晶構造を有するセルロースから成ることが示され、また同じ膜状セルロースのATRスペクトルのパターンからカルボニル基の存在が確認された。
[実施例5]
【0090】
乾燥重量で40g相当分のセルロース粉末(日本製紙ケミカル(株)製KC-フロックW-400G;含水率8%の気乾試料)、無水マレイン酸4.8gおよびジクミールパーオキシド0.4gをラボプラストミル(東洋精機(株)製)に秤取り170℃で30分混練し、付加反応を行った。アセトン抽出、乾燥、秤量により、8.7%重量増加分の無水マレイン酸が付加されていることが知られた。
【0091】
次に、該濃縮反応物セルロース懸濁液に水を加え、約5重量%スラリーとし、(株)エスエムテー製の圧力式ホモジナイザー(LAB1000超高圧ホモジナイザー)を用いて98MPaの超高圧でマルチパス方式を用い、10回繰り返し処理を行い、乳白色のセルロース系微分散液を得た。生成分散液を乾燥させて得られた透明な膜状のセルロースの広角X線回折像から、このものがセルロースI型結晶構造を有するセルロースから成ることが示され、また同じ膜状セルロースのATRスペクトルのパターンからカルボニル基の存在が確認された。
[実施例6]
【0092】
実施例1で得られた無水マレイン酸半エステル化セルロースについてスターバースト10回繰り返し対抗衝突処理を行って得られた乳白色のセルロース系微分散液を準静的にアセトンに溶媒置換し、液比500の懸濁液を調製し、十分に攪拌、均一化した後、非晶性ポリ乳酸(三井化学(株)製LACEA H-280)95gを加え、攪拌を続けて均一なゲル状物を得た。次いで、70℃での減圧留去によりアセトンを除き、5%無水マレイン酸半エステル化セルロース含有のポリ乳酸複合材料を調製した。この分散物をラボプラストミル(東洋精機(株)製)を用いて40rpm、140℃で15分間混練した。得られた混練物をスペーサーを用いて厚さ0.3mmのシートに成形した。すなわち、スペーサーを用いて、先ず初めに混練物を160℃で0.5MPaで5分間圧締し、次いで1MPaで5分間圧締し、次いで90℃で1時間加熱処理を行い、シートを作成した。得られたシートを5mm×40mm×0.3mmのサイズにカットして引張試験用サンプルとし、強度試験に供した。オートグラフを用い、引張速度1mm/分、測定温度20℃での試験の結果、引張強度64.8MPa、ヤング率4.1GPaと言う優れた結果が得られた。これらは次の比較例2の結果より有意に優れており、無水マレイン酸半エステル化セルロースのナノ繊維性と複合材料中での優れた分散性を反映したものとなっている。
[比較例2]
【0093】
実施例1〜6の原料として用いられたセルロース粉末(日本製紙ケミカル(株)製KC-フロックW-400G;含水率8%の気乾試料)に水を加え、実施例1と同等の245MPaの超高圧で10回繰り返し対抗衝突させるスターバースト処理を行い、約4重量%とした水系の分散体を調製した。
【0094】
次いで、実施例6での場合と同様に準静的にアセトンに溶媒置換し、液比500の懸濁液を調製し、十分に攪拌、均一化した後、非晶性ポリ乳酸(三井化学(株)製LACEA H-280)95gを加え、攪拌を続けて均一なゲル状物を得た。次いで、70℃での減圧留去によりアセトンを除き、5%無水マレイン酸半エステル化セルロース含有のポリ乳酸複合材料を調製した。この分散物をラボプラストミル(東洋精機(株)製)を用いて40rpm、140℃で15分間混練した。得られた混練物をスペーサーを用いて厚さ0.3mmのシートに成形した。すなわち、スペーサーを用いて、先ず初めに混練物を160℃で0.5MPaで5分間圧締し、次いで1MPaで5分間圧締し、次いで90℃で1時間加熱処理を行い、シートを作成した。得られたシートを5mm×40mm×0.3mmのサイズにカットして引張試験用サンプルとし、強度試験に供した。オートグラフを用い、引張速度1mm/分、測定温度20℃での試験の結果、引張強度48.6MPa、ヤング率3.9GPaと言う結果が得られた。これらは先の実施例6の結果より劣っており、スターバースト処理セルロースのナノ繊維性と複合材料中での分散性が実施例6の無水マレイン酸半エステル化セルロースでの場合より劣っていることを示していると言える。その違いはナノ繊維の再凝集性の違いを反映したものと言えよう。
[比較例3]
【0095】
脂肪族芳香族ポリエステル(1,4−ブタンジオールとジカルボン酸(アジピン酸およびテレフタル酸)を組み合わせたコポリエステル;Eastman Chemical社(米)製 Eastar Bio GPコポリエステル)23g、無水マレイン酸 2.3gおよびジクミルパーオキサイド0.08gをビーカーに秤取り、よく混ぜ合わせた後、160℃に調温され、30rpmで撹枠ブレードが互いに逆方向に回転している東洋精機(株)製ラボ・ブラストミルの30ml 容混練ダイ中に素早く全量を投入した。投入後、直ちに、撹枠ブレード回転速度を 70rpm に上げ、160℃で15分間混練反応した。反応終了後、直ちに、内容物を取り出し、冷却した。十分に冷却した後、一度薄膜シート状に熱圧成形した上で、細片化し、以後の実験に、無水マレイン酸変性脂肪族芳香族コポリエステル(MEB−1)として供試した。得られたMEB−1の一部を取り、クロロホルムに溶解、大過剰のn−ペンタン中に投入沈殿させるという操作、および、その後の濾集、乾燥により精製した上で、赤外吸収分光分析(FTIR)および核磁気共鳴分析(NMR)を行い、脂肪族芳香族コポリェステル樹脂への無水マレイン酸の付加を確認した。得られた混練物(MEB−1)を180℃で0.5分間かけて加圧変形して、0.4mmの厚みのフイルムを調製した。このフイルムより、80mm×5mmの短冊形試片を切り出し、力学特性と熱流動特性の評価を行ったところ、引張り強度19.2MPa、ヤング率33.6MPa、破断伸長率987.6%、180℃、4.9MPa荷重下での溶融粘度218Pa・s(2180ポアズ)、熱流動温度123.1℃であった。なお、未処理脂肪族芳香族コポリエステル樹脂(コントロール)の引張り強度は20.8MPa、ヤング率34.6MPa、破断伸長率1154.4%、180℃、4.9MPa荷重下での溶融粘度220.5Pa・s、熱流動温度124.5℃であった。
[比較例4]
【0096】
脂肪族芳香族ポリエステル(1,4−ブタンジオールとジカルボン酸(アジピン酸およびテレフタル酸)を組み合わせたコポリエステル;Eastman Chemical社(米)製 Eastar Bio GPコポリエステル)とセルロース繊維粉(日本製紙(株)製KCF(ケー・シ・フロック)W−100)とを、各13.0gずつビーカーに秤取り、スパーテルでよく混ぜ合わせた後、180℃に調温され、撹枠ブレードが30rpm の回転速度で互いに逆方向に回転しているラボプラストミル(東洋精機(株)製)中に5分間をかけて投入し、引き続き、回転速度を70rpmに上げて15分問混練を行った。次いで、得られた混練物を、180℃で0.5分間をかけて加圧成形して0.4mm厚のフイルムを調製した。このフイルムより、80mm×5mmの短冊形試験片を切り出し、力学特性(引張り強度特性)および熱流動特性の評価を行った。結果は次のとおりであった。すなわち、引張強度14.0MPa、引張り弾性率453.6MPa、破断伸長率14.0%、180℃、4.9MPa荷重下での溶融粘度473Pa・s、熱流動温度126℃であった。
[比較例5]
【0097】
脂肪族芳香族ポリエステル(1,4−ブタンジオールとジカルボン酸(アジピン酸およびテレフタル酸)を組み合わせた Eastman Chemical社(米)製 Eastar BioGPコポリエステル)11.7g、比較例3で調製した無水マレイン酸変性脂肪族芳香族コポリエステル(MEB−1)1.3g、およびセルロース繊維粉(日本製紙(株)製KCFW−100)13gをビーカーに秤取り、スパーテルでよく混ぜ合わせた後、180℃に調温され、撹枠ブレードが30rpmの回転速度で互いに逆方向に回転しているラボプラストミル(東洋精機(株)製)中に5分間をかけて投入し、引き続き、回転速度を70rpmに上げて15分間混練を行った。
【0098】
次いで、得られた混練物を、180℃で0.5分をかけて加圧成形して、0.4mm厚のフイルムを調製した。このフイルムより80mm×5mmの短冊形試験片を切り出し、力学特性(引張強度特性)および熱流動特性の評価を行った。結果は、引張強度16.2MPa、引張弾性率238.0MPa、破断伸長率26.1%、180℃、4.9MPa荷重下での溶融粘度356.5Pa・s、熱流動温度124.8℃であった。これらの結果を比較例4のコポリエステルとセルロース繊維粉を変性コポリエテルの添加なしに直接混練複合化したものの対応する値と比べると、引張弾性率が小さくなっていることが最も目を引く。無水マレイン酸変性コポリエステルは比較例3に示したように作られ、精製はせずにそのまま用いているものであるが、未反応の無水マレイン酸残存物が有意量残存していることが知られている。低分子量可塑剤として働く区分の存在、および本比較例5の混練時にセルロース充填剤をエステル化してその表面相であるにせよ可塑化する効果が考えられ複合体のエラストマー性を高めているものといえる。結果的に破断伸長率は比較例4で14.0%であったものが、26.1%とほぼ倍増している。溶融粘度も低下している。それにも拘わらず引張強度が比較例1で14.0MPaであったものが、16.2MPaと増大しているが、無水マレイン酸変性コポリエステルが、セルロース充填剤表面水酸基サイトと化学結合し、前者の後者へのグラフト重合(変性)によるそれら界面での接着性の増大に基づく複合体強度増強作用が認められたということになる。
[実施例7]
【0099】
脂肪族芳香族ポリエステル(1,4−ブタンジオールとジカルボン酸(アジピン酸およびテレフタル酸)を組み合わせた Eastman Chemical社(米)製 Eastar BioGPコポリエステル)11.7g、比較例3で調製した無水マレイン酸変性脂肪族芳香族コポリエステル(MEB−1)1.3g、およびセルロース繊維粉(日本製紙(株)製KCFW−100)12gをビーカーに秤取り、スパーテルでよく混ぜ合わせた後、180℃に調温され、撹枠ブレードが30rpmの回転速度で互いに逆方向に回転しているラボプラストミル(東洋精機(株)製)中に5分間をかけて投入した後、引き続き、回転速度を70rpmに上げて、実施例1で得られた無水マレイン酸半エステル化セルロースについてスターバースト10回繰り返し対抗衝突処理を行って得られた乳白色のセルロース分を1g含む微分散液の濃縮物を加え、水を留去させながら20分間混練を行った。
【0100】
次いで、得られた混練物を、180℃で0.5分をかけて加圧成形して、0.4mm厚のフイルムを調製した。このフイルムより80mm×5mmの短冊形試験片を切り出し、力学特性(引張強度特性)および熱流動特性の評価を行った。結果は、引張強度20.1MPa、引張弾性率284.2MPa、破断伸長率31.5%、180℃、4.9MPa荷重下での溶融粘度361.5Pa・s、熱流動温度126.2℃であった。これらの結果を比較例5のコポリエステルとセルロース繊維粉および変性コポリエテルを直接混練複合化したものの対応する値と比べると、強度およびヤング率の両者が大きくなっていることが認められる。結果的に破断伸長率は比較例5で26.1%であったものが、31.5%と大きくなっている。溶融粘度も僅かに低下している。これらは、比較例5と比べて、ナノ繊維性のあるマレイン酸半エステル化セルロースが3.8%入っている効果と言える。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、ナノ繊維およびその製造、並びに樹脂成分中にナノ繊維成分を均一に微細分散させた高剛性で高強度な複合材料およびその製造に関する技術分野に広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】実施例1で得られた分散液を凍結乾燥させて走査型電子顕微鏡により鏡査した顕微鏡写真(SEM写真)を示す図である。
【図2】実施例2で得られた分散液を凍結乾燥させて走査型電子顕微鏡により鏡査した顕微鏡写真(SEM写真)を示す図である。
【図3】比較例1で得られた分散液を凍結乾燥させて走査型電子顕微鏡により鏡査した顕微鏡写真(SEM写真)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースの水酸基の一部に多塩基酸無水物を半エステル化してカルボキシル基を導入することにより、多塩基酸半エステル化セルロースを調製する多塩基酸半エステル化セルロース調製工程と、
前記多塩基酸半エステル化セルロースを微細繊維化することにより、ナノ繊維を製造する繊維製造工程と
を含むことを特徴とするナノ繊維の製造方法。
【請求項2】
前記多塩基酸半エステル化セルロース調製工程において、
前記多塩基酸無水物を140℃以下の温度で半エステル化することを特徴とする請求項1に記載のナノ繊維の製造方法。
【請求項3】
前記多塩基酸半エステル化セルロース調製工程と前記繊維製造工程との間に、前記多塩基酸半エステル化セルロースを蒸煮・濃縮処理して未反応の多塩基酸を除去する未反応物除去工程が含まれることを特徴とする請求項1または2に記載のナノ繊維の製造方法。
【請求項4】
前記多塩基酸半エステル化セルロース調製工程と前記繊維製造工程との間に、前記多塩基酸半エステル化セルロースを溶剤抽出して未反応の多塩基酸を除去する未反応物除去工程が含まれることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のナノ繊維の製造方法。
【請求項5】
前記多塩基酸半エステル化セルロース調製工程の後に、前記多塩基酸半エステル化セルロースの非晶領域を膨潤させるセルロース膨潤工程を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のナノ繊維の製造方法。
【請求項6】
セルロースを構成する原子団の一部に不飽和多塩基酸または不飽和多塩基酸無水物を付加させてカルボキシル基を導入することにより、不飽和多塩基酸付加セルロースを調製する不飽和多塩基酸付加セルロース調製工程と、
前記不飽和多塩基酸付加セルロースを微細繊維化することにより、ナノ繊維を製造する繊維製造工程と
を含むことを特徴とするナノ繊維の製造方法。
【請求項7】
前記不飽和多塩基酸付加セルロース調製工程において、
前記不飽和多塩基酸または不飽和多塩基酸無水物を200℃以下の温度で付加させることを特徴とする請求項6に記載のナノ繊維の製造方法。
【請求項8】
前記不飽和多塩基酸付加セルロース調製工程と前記繊維製造工程との間に、前記不飽和多塩基酸付加セルロースを蒸煮・濃縮処理して未反応の多塩基酸を除去する未反応物除去工程が含まれることを特徴とする請求項6または7に記載のナノ繊維の製造方法。
【請求項9】
前記不飽和多塩基酸付加セルロース調製工程と前記繊維製造工程との間に、前記不飽和多塩基酸付加セルロースを溶剤抽出して未反応の多塩基酸を除去する未反応物除去工程が含まれることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載のナノ繊維の製造方法。
【請求項10】
前記不飽和多塩基酸付加セルロース調製工程の後に、前記不飽和多塩基酸付加セルロースの非晶領域を膨潤させるセルロース膨潤工程を含むことを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載のナノ繊維の製造方法。
【請求項11】
前記繊維製造工程において、
水系スラリーを用いて前記多塩基酸半エステル化セルロースまたは前記不飽和多塩基酸付加セルロースを微細繊維化することを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のナノ繊維の製造方法。
【請求項12】
前記繊維製造工程において、
高圧ホモジナイザー、ニーダー、多軸混練押出機のいずれか1つ以上を用いて、前記多塩基酸半エステル化セルロースまたは前記不飽和多塩基酸付加セルロースを微細繊維化することを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載のナノ繊維の製造方法。
【請求項13】
前記多塩基酸半エステル化セルロースまたは前記不飽和多塩基酸付加セルロースは、セルロースI型結晶構造を有することを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載のナノ繊維の製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれかに記載のナノ繊維の製造方法によって製造されたことを特徴とするナノ繊維。
【請求項15】
請求項1乃至5のいずれかに記載のナノ繊維の製造方法によって製造されたナノ繊維と、請求項6乃至10のいずれかに記載のナノ繊維の製造方法によって製造されたナノ繊維とが、混合されていることを特徴とする混合ナノ繊維。
【請求項16】
請求項14に記載のナノ繊維または請求項15に記載の混合ナノ繊維を樹脂と混練することにより、複合材料を調製することを特徴とする複合化方法。
【請求項17】
前記ナノ繊維または前記混合ナノ繊維を構成する多塩基酸半エステル化セルロースまたは不飽和多塩基酸付加セルロースの非晶領域を膨潤させることを特徴とする請求項16に記載の複合化方法。
【請求項18】
前記樹脂は、熱可塑性樹脂または熱硬化性初期縮合物であることを特徴とする請求項16または17に記載の複合化方法。
【請求項19】
前記ナノ繊維または前記混合ナノ繊維と前記熱可塑性樹脂または前記熱硬化性初期縮合物との混合比率は、質量比で1:99〜99:1であることを特徴とする請求項18に記載の複合化方法。
【請求項20】
請求項16乃至19のいずれかに記載の複合化方法によって調製されたことを特徴とする複合材料。
【請求項21】
請求項20に記載の複合材料から構成されていることを特徴とする成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−293167(P2009−293167A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150446(P2008−150446)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:日本木材学会 刊行物名:第58回 日本木材学会大会 研究発表要旨集 発行年月日:平成20年2月29日 研究集会名:第58回 日本木材学会大会 主催者名:日本木材学会 開催日:平成20年3月18日
【出願人】(591063154)
【出願人】(307028079)
【Fターム(参考)】