ナノ繊維製造装置及びナノ繊維製造方法
【課題】均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能なナノ繊維製造装置及びナノ繊維製造方法を提供する。
【解決手段】長尺シートWを所定の搬送速度Vで搬送する搬送装置10と、搬送装置10により搬送されていく長尺シートWにナノ繊維を堆積させる電界紡糸装置20と、電界紡糸装置20によりナノ繊維を堆積させた長尺シートWの通気度を計測する通気度計測装置40と、通気度計測装置40により計測された通気度Pに基づいて搬送速度Vを制御する搬送速度制御装置50とを備えるナノ繊維製造装置1。
【解決手段】長尺シートWを所定の搬送速度Vで搬送する搬送装置10と、搬送装置10により搬送されていく長尺シートWにナノ繊維を堆積させる電界紡糸装置20と、電界紡糸装置20によりナノ繊維を堆積させた長尺シートWの通気度を計測する通気度計測装置40と、通気度計測装置40により計測された通気度Pに基づいて搬送速度Vを制御する搬送速度制御装置50とを備えるナノ繊維製造装置1。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ繊維製造装置及びナノ繊維製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電界紡糸過程における紡糸条件(例えば、紡糸区域における浮遊物の有無、ノズルブロックとコレクターとの間隔、コレクターの構造など。)を調整することにより均一な物性を有するナノ繊維を製造することが可能なナノ繊維製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
図12は、特許文献1に記載されたナノ繊維製造方法に用いるナノ繊維製造装置900を説明するために示す図である。図12中、符号910はノズルブロックを示し、符号912はノズルを示し、符号920は送風装置を示し、符号922は風向調整板を示し、符号924は縁部材を示し、符号926は吸入装置を示し、符号928はファンを示し、符号950はコレクターを示す。
【0004】
特許文献1に記載されたナノ繊維製造方法は、例えば、図12に示すように、送風装置920、2つの縁部材924及び吸入装置926で画定される紡糸区域に空気流れを形成させて揮発した溶媒や浮遊不純物を除去することなどにより、電界紡糸過程における紡糸条件を調整するというものである。
【0005】
特許文献1に記載されたナノ繊維製造方法によれば、電界紡糸過程における紡糸条件を調整することにより、均一な物性を有するナノ繊維を製造することが可能であるため、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を製造することが可能であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−274522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたナノ繊維製造方法をもってしても、現実には電界紡糸過程における紡糸条件を長時間にわたって一定に保つことは容易ではないため、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが困難であるのが実情である。なお、このような事情は、メルトブロー紡糸装置その他の紡糸装置によりナノ繊維を製造するナノ繊維製造方法においても同様である。
【0008】
そこで、本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能なナノ繊維製造装置及びナノ繊維製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]本発明のナノ繊維製造装置は、長尺シートを所定の搬送速度で搬送する搬送装置と、前記搬送装置により搬送されていく長尺シートにナノ繊維を堆積させる紡糸装置と、前記紡糸装置によりナノ繊維を堆積させた長尺シートの通気度を計測する通気度計測装置と、前記通気度計測装置により計測された通気度に基づいて前記搬送速度を制御する搬送速度制御装置とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明のナノ繊維製造装置によれば、通気度計測装置により計測された通気度に基づいて搬送速度を制御することが可能となるため、長時間の電界紡糸過程において紡糸条件が変動して通気度が変動したとしても、それに応じて搬送速度を適切に制御することで通気度の変動量を所定の範囲に収めることが可能となり、その結果、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0011】
例えば、長時間の電界紡糸過程において通気度が大きくなる方向に紡糸条件が変動した場合には、搬送速度を遅くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を増大させることにより通気度を小さくすることで、通気度の値を所定の範囲に収めることが可能となる。また、長時間の電界紡糸過程において通気度が小さくなる方向に紡糸条件が変動した場合には、搬送速度を速くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を低減させることにより通気度を大きくすることで、通気度の値を所定の範囲に収めることが可能となる。
【0012】
なお、「ポリマー溶液の濃度」、「紡糸区域における温度や湿度」などの紡糸条件を調整することにより、通気度の値を所定の範囲に収めることも可能であるが、これらの場合には、通気度の変動に応じて紡糸条件を調整するのに一定の時間がかかるため、長尺方向に沿って通気度が均一なナノ繊維不織布を高い生産性で製造することが困難である。
【0013】
また、「ノズルとコレクターとの間隔」、「ノズルとコレクターとの間に印加する電圧」などの紡糸条件を調整することにより、通気度の値を所定の範囲に収めることも可能であるが、これらの場合には、ナノ繊維の直径、ナノ繊維層の密度などのナノ繊維の物性が変動してしまい、均一な物性を有するナノ繊維不織布を製造することが困難である。
【0014】
これに対して、本発明のナノ繊維製造装置によれば、通気度計測装置により計測された通気度に基づいて搬送速度を制御するという簡単な方法で、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となるため、通気度の変動に応じて紡糸条件を調整するに一定の時間がかかるという問題もなく、また、ナノ繊維の直径、ナノ繊維層の密度などのナノ繊維の物性が変動してしまうという問題もない。
【0015】
なお、本発明において、ナノ繊維を堆積させた長尺シートの通気度とは、長尺シート上に堆積させたナノ繊維層と、長尺シートとが積層された状態で通気度を計測した場合における通気度のことをいう。また、ナノ繊維不織布とは、ナノ繊維を堆積させた長尺シートのことをいう。ナノ繊維不織布は、これをこのまま製品としてもよいし、ナノ繊維不織布から長尺シートを除いて「ナノ繊維層のみからなる不織布」を製造し、これを製品としてもよい。また、「ナノ繊維」とは、ポリマーからなり、平均直径が数nm〜数千nmの繊維のことをいう。また、「ポリマー溶液」とは、ポリマーを溶媒に溶解させた溶液のことをいう。
【0016】
[2]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記搬送速度制御装置は、前記通気度計測装置により計測された通気度と、所定の目標通気度とのずれ量に基づいて前記搬送速度を制御することが好ましい。
【0017】
本発明のナノ繊維製造装置によれば、例えば、上記ずれ量が大きい場合には、搬送速度の制御量(初期値からの変化量)を大きくし、上記ずれ量が小さい場合には、搬送速度の制御量(初期値からの変化量)を小さくするというような制御をすることが可能となるため、通気度の変動の程度に応じて搬送速度を適切に制御することが可能となる。
【0018】
また、本発明のナノ繊維製造装置によれば、例えば、上記ずれ量が所定値未満の場合には、搬送速度を初期値から変化させずに、上記ずれ量が所定値以上の場合には、搬送速度を初期値から変化させるというような制御をすることも可能となるため、搬送速度制御装置による搬送速度の制御を単純化することが可能となる。
【0019】
[3]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記搬送速度制御装置は、前記ずれ量の時間変化率を考慮して前記搬送速度を制御することが好ましい。
【0020】
このように、上記「ずれ量の時間変化率」を考慮することにより、ずれ量だけに基づいて搬送速度を制御する場合と比較して、搬送速度をより適切に制御することが可能となる。例えば、紡糸条件が急に変動したような場合には、ずれ量の時間変化率が大きいため、それに見合うように搬送速度の制御量(初期値からの変化量)を大きくする。また、紡糸条件の変動量が小さい場合には、ずれ量の時間変化率が小さいため、それに見合うように搬送速度の制御量(初期値からの変化量)を小さくする。
【0021】
[4]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記通気度計測装置は、前記長尺シートの通気度を計測する通気度計測部と、前記通気度計測部を前記長尺シートの幅方向に沿って所定の周期で往復移動させる駆動部とを備えることが好ましい。
【0022】
このような構成とすることにより、長尺シートの幅方向の広域にわたって通気度を計測することが可能となり、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0023】
[5]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記搬送速度制御装置は、前記通気度計測部により計測された通気度を前記所定の周期又は当該周期のn倍に相当する時間(但し、nは自然数)で平均して得られる平均通気度に基づいて前記搬送速度を制御することが好ましい。
【0024】
このような構成とすることにより、長尺シートの幅方向において通気度に分布がある場合であっても、平均通気度に基づいて搬送速度を制御することで、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0025】
[6]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記通気度計測装置は、前記長尺シートの通気度を計測する通気度計測部として、前記長尺シートの幅方向における複数の位置に配置された複数の通気度計測部を備えることが好ましい。
【0026】
このような構成とすることによっても、上記[4]に記載のナノ繊維製造装置の場合と同様に、長尺シートの幅方向の広域にわたって通気度を計測することが可能となり、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0027】
[7]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記搬送速度制御装置は、前記複数の通気度計測部により計測された通気度を平均して得られる平均通気度に基づいて前記搬送速度を制御することが好ましい。
【0028】
このような構成とすることにより、上記[5]に記載のナノ繊維製造装置の場合と同様に、長尺シートの幅方向において通気度に分布がある場合であっても、平均通気度に基づいて搬送速度を制御することで、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0029】
[8]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記紡糸装置と前記通気度計測装置との間に配置され、前記ナノ繊維を堆積させた前記長尺シートを加熱する加熱装置をさらに備えることが好ましい。
【0030】
このような構成とすることにより、ナノ繊維層に残存することがある溶媒を完全に蒸発させることが可能となるため、残存溶媒量が極めて少なく高品質のナノ繊維不織布を製造することができる。また、溶媒を完全に蒸発させた状態で通気度を計測することが可能となるため、通気度を正確に計測することが可能となる。
【0031】
[9]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記紡糸装置として、前記長尺シートが搬送されていく所定の搬送方向に沿って直列に配置された複数の紡糸装置を備えることが好ましい。
【0032】
このような構成とすることにより、複数の紡糸装置のそれぞれにおいて長尺シート上にナノ繊維を次々と堆積させることが可能となるため、均一な通気度を有するナノ繊維不織布をより一層高い生産性で大量生産することが可能となる。また、長尺シート上に多種類のナノ繊維を順次堆積させたナノ繊維不織布を大量生産する場合にも均一な通気度を有するナノ繊維不織布をより一層高い生産性で大量生産することが可能となる。また、複数の紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置であっても、複数の紡糸装置のそれぞれにおいて紡糸条件を調整するのではなく搬送速度を制御することだけで、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0033】
[10]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記紡糸装置は、電界紡糸装置であることが好ましい。
【0034】
このような構成とすることにより、紡糸装置として、極めて細い直径(数nm〜数千nm)を有するナノ繊維を製造可能な電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置においても、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0035】
[11]本発明のナノ繊維製造方法は、所定の搬送速度で搬送されていく長尺シートにナノ繊維を堆積させながら、前記ナノ繊維を堆積させた前記長尺シートの通気度を計測し、当該長尺シートの通気度に基づいて長尺シートの搬送速度を制御することを特徴とする。
【0036】
本発明のナノ繊維製造方法によれば、ナノ繊維が堆積した長尺シートの通気度を計測し、当該通気度に基づいて長尺シートの搬送速度を制御することとしているため、長時間の電界紡糸過程において紡糸条件が変動して通気度が変動したとしても、それに応じて搬送速度を適切に制御することで通気度の変動量を所定の範囲に収めることが可能となり、その結果、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0037】
本発明のナノ繊維製造装置又はナノ繊維製造方法によれば、高機能・高感性テキスタイルなどの衣料品、ヘルスケア、スキンケアなど美容関連用品、ワイピングクロス、フィルターなど産業資材、二次電池のセパレーター、コンデンサーのセパレーター、各種触媒の担体、各種センサー材料などの電子・機械材料、再生医療材料、バイオメディカル材料、医療用MEMS材料、バイオセンサー材料などの医療材料、その他の幅広い用途に使用可能なナノ繊維を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態に係るナノ繊維製造装置1を説明するために示す図である。
【図2】実施形態における電界紡糸装置20の要部拡大図である。
【図3】実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の主要部のブロック図である。
【図4】ナノ繊維製造方法を説明するために示すフローチャートである。
【図5】通気度計測部41の動きを説明するために示す図である。
【図6】通気度P、平均通気度<P>及び搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。
【図7】変形例1における通気度P、平均通気度<P>及び搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。
【図8】変形例2におけるナノ繊維製造方法を説明するために示すフローチャートである。
【図9】変形例2における通気度P、平均通気度<P>及び搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。
【図10】実施形態2における通気度計測部41aの構成を示す図である。
【図11】電界紡糸装置20aの要部拡大図である。
【図12】特許文献1に記載されたナノ繊維製造方法に用いるナノ繊維製造装置900を説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明のナノ繊維製造装置及びナノ繊維製造方法について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
【0040】
[実施形態1]
1.実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の構成
図1は、実施形態に係るナノ繊維製造装置1を説明するために示す図である。図1(a)はナノ繊維製造装置1の正面図であり、図1(b)はナノ繊維製造装置1の平面図である。なお、図1においては、ポリマー溶液供給部及びポリマー溶液回収部の図示を省略してある。また、図1(a)においては、一部の部材は要部拡大図で示している。図2は、電界紡糸装置20の要部拡大図である。
【0041】
実施形態1に係るナノ繊維製造装置1は、図1及び図2に示すように、長尺シートWを所定の搬送速度Vで搬送する搬送装置10と、搬送装置10により搬送されていく長尺シートWにナノ繊維を堆積させる電界紡糸装置20と、電界紡糸装置20によりナノ繊維を堆積させた長尺シートWの通気度Pを計測する通気度計測装置40と、通気度計測装置40により計測された通気度Pに基づいて搬送速度Vを制御する搬送速度制御装置50とを備える。
【0042】
実施形態1に係るナノ繊維製造装置1においては、電界紡糸装置として、長尺シートWが搬送されていく所定の搬送方向aに沿って直列に配置された4台の電界紡糸装置20を備える。
【0043】
実施形態1に係るナノ繊維製造装置1は、電界紡糸装置20と通気度計測装置40との間に配置され、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する加熱装置30と、「搬送装置10、電界紡糸装置20、加熱装置30、通気度計測装置40、搬送速度制御装置50、後述するVOC処理装置70、ポリマー供給装置及びポリマー回収装置」の動作を制御する主制御装置60と、長尺シートWにナノ繊維を堆積させる際に発生する揮発性成分を燃焼して除去するVOC処理装置70とをさらに備える。
【0044】
搬送装置10は、長尺シートWを繰り出す繰り出しローラー11及び長尺シートWを巻き取る巻き取りローラー12並びに繰り出しローラー11と巻き取りローラー12との間に位置する補助ローラー13,18及び駆動ローラー14,15,16,17を備える。繰り出しローラー11、巻き取りローラー12及び駆動ローラー14,15,16,17は、図示しない駆動モーターにより回転駆動される構造となっている。
【0045】
電界紡糸装置20は、図2に示すように、筐体100に絶縁部材152を介して取り付けられ、長尺シートWにおける一方の面側に位置するコレクター150と、長尺シートWにおける他方の面側におけるコレクター150に対向する位置に位置し、図示しないポリマー溶液供給部から供給されるポリマー溶液を長尺シートWに向けて噴射する複数のノズルを有するノズルブロック110と、コレクター150とノズルブロック110との間に高電圧(例えば10kV〜80kV)を印加する電源装置160と、コレクター150とノズルブロック110とを覆う所定の空間を画定する電界紡糸室102と、長尺シートWが搬送されるのを補助する補助ベルト装置170とを備える。電源装置160の正極は、コレクター150に接続され、電源装置160の負極は、筐体100を介してノズルブロック110に接続されている。
【0046】
ノズルブロック110は、図2に示すように、複数のノズルとして、ポリマー溶液を吐出口から上向きに吐出する複数の上向きノズルを有する。そして、ナノ繊維製造装置1は、複数の上向きノズルの吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながら複数の上向きノズルの吐出口からポリマー溶液を吐出してナノ繊維を電界紡糸するとともに、複数の上向きノズルの吐出口からオーバーフローしたポリマー溶液を回収してナノ繊維の原料として再利用することが可能となるように構成されている。複数の上向きノズル112は、例えば、1.5cm〜6.0cmのピッチで配列されている。複数の上向きノズル112の数は、例えば、36個(縦横同数に配列した場合、6個×6個)〜21904個(縦横同数に配列した場合、148個×148個)である。また、本発明のナノ繊維製造装置には様々な大きさ及び様々な形状を有するノズルブロックを用いることができるが、ノズルブロック110は、例えば、上面から見たときに一辺が0.5m〜3mの長方形(正方形を含む)に見える大きさ及び形状を有する。
【0047】
補助ベルト装置170は、図2に示すように、長尺シートWの搬送速度に同期して回転する補助ベルト172と、補助ベルト172の回転を助ける5つの補助ベルト用ローラー174とを有する。5つの補助ベルト用ローラー174のうち1つ又は2つ以上の補助ベルト用ローラー174が駆動ローラーであり、残りの補助ベルト用ローラーが従動ローラーである。コレクター150と長尺シートWとの間に補助ベルト172が配設されているため、長尺シートWは、正の高電圧の印加されているコレクター150に引き寄せられることなくスムーズに搬送されるようになる。
【0048】
加熱装置30は、電界紡糸装置20と通気度計測装置40との間に配置され、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する。加熱温度は、長尺シートWやナノ繊維の種類によって異なるが、例えば、長尺シートWを50℃〜300℃の温度に加熱することができる。
【0049】
通気度計測装置40は、図3に示すように、長尺シートWの通気度Pを計測する通気度計測部41と、通気度計測部41を長尺シートWの幅方向に沿って所定の周期Tで往復移動させる駆動部43と、駆動部43及び通気度計測部41の動作を制御するとともに、通気度計測部41からの計測結果を受けて処理する制御部44を備える。駆動部43と、制御部44は、本体部42に配設されている。通気度計測装置40としては一般的な通気度計測装置を用いることができる。
【0050】
通気度計測装置40は、計測された通気度Pの値をそのまま搬送速度制御装置50に送信することもできるし、計測された通気度Pを所定の周期T又は当該周期Tのn倍に相当する時間(但し、nは自然数)で平均して得られる平均通気度<P>の値を搬送速度制御装置50に送信することもできる。
【0051】
搬送速度制御装置50は、通気度計測部40により計測された通気度P又は平均通気度<P>に基づいて搬送装置10が搬送する長尺シートWの搬送速度Vを制御する。例えば、長時間の電界紡糸過程において通気度Pが大きくなる方向に紡糸条件が変動した場合には、搬送速度Vを遅くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を増大させることにより通気度を小さくする。一方、長時間の電界紡糸過程において通気度が小さくなる方向に紡糸条件が変動した場合には、搬送速度を速くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を低減させることにより通気度を大きくする。なお、搬送速度Vの制御は、駆動ローラー14,15,16,17の回転速度を制御することにより行うことができる。
【0052】
VOC処理装置70は、長尺シートにナノ繊維を堆積させる際に発生する揮発性成分を燃焼して除去する。
【0053】
主制御装置60は、搬送装置10、電界紡糸装置20、加熱装置30、通気度計測装置40、搬送速度制御装置50、VOC処理装置70、ポリマー供給装置及びポリマー回収装置の動作を制御する。
【0054】
2.実施形態1に係るナノ繊維製造装置1を用いたナノ繊維製造方法
以下、上記のように構成された実施形態1に係るナノ繊維製造装置1を用いてナノ繊維不織布を製造する方法(実施形態1に係るナノ繊維製造方法)について説明する。
【0055】
図4は、実施形態1に係るナノ繊維製造方法を説明するために示すフローチャートである。図5は、通気度計測部41の動きを説明するために示す図である。図5(a)〜図5(f)は各工程図である。なお、図5中、正弦曲線状に示される曲線は通気度計測部41が長尺シートW上で通気度を計測した部位を繋ぐ軌跡である。
【0056】
図6は、通気度P、平均通気度<P>及び搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。図6(a)は通気度Pの時間変化を表すグラフであり、図6(b)は平均通気度<P>の時間変化を表すグラフであり、図6(c)は搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。図6(a)及び図6(b)中、符号P0は目標通気度を示し、符号PHは許容される通気度の上限を示し、符号PLは許容される通気度の下限を示す。図6(c)中、符号V0は搬送速度の初期値を示す。
【0057】
実施形態1に係るナノ繊維製造方法は、図4に示すように、「長尺シート搬送・電界紡糸」、「通気度計測」、「平均通気度算出」、「ずれ量ΔP算出」の「搬送速度制御」の各工程を含む。
【0058】
1.長尺シートの搬送・電界紡糸(S10)
長尺シートWを搬送装置10にセットし、その後、長尺シートWを繰り出しローラー11から巻き取りローラー12に向けて所定の搬送速度Vで搬送させながら、各電界紡糸装置20において長尺シートWにナノ繊維を順次堆積させる。その後、加熱装置30により、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する。これにより、ナノ繊維が堆積した長尺シートからなるナノ繊維不織布が製造される。
【0059】
このとき、以下の手順により、電界紡糸装置20によりナノ繊維を堆積させた長尺シートWの通気度Pを計測するとともに、通気度計測装置40により計測された通気度Pに基づいて搬送速度Vを制御する。なお、実施形態1においては、図6(a)〜図6(c)に示すように、時間t経過前の期間については搬送速度の制御を行わず、時間t経過後の期間については搬送速度の制御を行うこととしている。以下の変形例1及び2においても同様である。
【0060】
2.通気度計測(S12)
まず、図5(a)〜図5(f)に示すように、通気度計測部41を長尺シートWの幅方向に沿って所定の周期T(例えば1秒)で往復移動させながら、長尺シートWの通気度を計測する。通気度計測部41による通気度の計測は例えば10ms毎に行う。その結果、図6(a)に示すようなグラフが得られる。
【0061】
3.平均通気度算出(S14)
次に、通気度計測部41により計測された通気度Pを所定の周期T(例えば1秒)で平均することにより平均通気度<P>を算出する。その結果、図6(b)に示すようなグラフが得られる。
【0062】
4.ずれ量ΔP算出(S16)
次に、上記の平均通気度<P>と、所定の目標通気度P0とのずれ量ΔPを算出する。
【0063】
5.搬送速度制御(S18〜S24)
次に、上記ずれ量ΔPに基づいて搬送速度Vを制御する。
例えば、長時間の電界紡糸過程において通気度Pが大きくなる方向に紡糸条件が変動した場合(ずれ量ΔPが正の場合)には、搬送速度Vを遅くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を増大させることにより通気度を小さくする。一方、長時間の電界紡糸過程において通気度が小さくなる方向に紡糸条件が変動した場合(ずれ量ΔPが負の場合)には、搬送速度Vを速くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を低減させることにより通気度を大きくする(図6(c)参照。)。これにより、時間t経過後、徐々に通気度Pは所定の目標通気度P0の値に収斂する。
【0064】
以下に、実施形態1に係るナノ繊維製造方法における紡糸条件を例示的に示す。
【0065】
長尺シートとしては、各種材料からなる不織布、織物、編物などを用いることができる。長尺シートの厚さは、例えば5μm〜500μmのものを用いることができる。長尺シートの長さは、例えば10m〜10kmのものを用いることができる。
【0066】
ナノ繊維の原料となるポリマーとしては、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリプロピレン(PP)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA)、ポリウレタン(PUR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸グリコール酸(PLGA)、シルク、セルロース、キトサンなどを用いることができる。
【0067】
ポリマー溶液に用いる溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、クロロホルム、アセトン、水、蟻酸、酢酸、シクロヘキサン、THFなどを用いることができる。複数種類の溶媒を混合して用いてもよい。ポリマー溶液には、導電性向上剤などの添加剤を含有させてもよい。
【0068】
製造するナノ繊維不織布の通気度Pは、例えば0.15cm3/cm2/s〜200cm3/cm2/sに設定することができる。搬送速度Vは、例えば0.2m/分〜100m/分に設定することができる。ノズルとコレクター150とノズルブロック110に印加する電圧は、10kV〜80kVに設定することができ、50kV付近に設定することが好ましい。
【0069】
紡糸区域の温度は、例えば25℃に設定することができる。紡糸区域の湿度は、例えば30%に設定することができる。
【0070】
3.実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の効果
【0071】
実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、紡糸装置20によりナノ繊維を堆積させた長尺シートWの通気度Pを計測する通気度計測装置40と、通気度計測装置40により計測された通気度Pに基づいて搬送速度Vを制御する搬送速度制御装置50とを備えるため、通気度計測装置により計測された通気度に基づいて搬送速度を制御することが可能となる。このため、長時間の電界紡糸過程において紡糸条件が変動して通気度が変動したとしても、それに応じて搬送速度を適切に制御することで通気度の変動量を所定の範囲に収めることが可能となり、その結果、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0072】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置によれば、通気度計測装置40により計測された通気度Pと、所定の目標通気度P0とのずれ量ΔPに基づいて搬送速度Vを制御するため、例えば、上記ずれ量ΔPが大きい場合には、搬送速度Vの制御量(初期値V0からの変化量)を大きくし、上記ずれ量ΔPが小さい場合には、搬送速度Vの制御量(初期値V0からの変化量)を小さくするというような制御をすることが可能となり、通気度の変動の程度に応じて搬送速度を適切に制御することが可能となる。
【0073】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、通気度計測装置40が長尺シートWの通気度Pを計測する通気度計測部41と、通気度計測部41を長尺シートWの幅方向に沿って所定の周期Tで往復移動させる駆動部43とを備えるため、長尺シートWの幅方向の広域にわたって通気度を計測することが可能となり、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0074】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、搬送速度制御装置50が、通気度計測部40により計測された通気度Pを所定の周期T又は当該周期Tのn倍に相当する時間(但し、nは自然数)で平均して得られる平均通気度<P>に基づいて搬送速度Vを制御することが可能であるため、長尺シートWの幅方向において通気度Pに分布がある場合であっても、平均通気度<P>に基づいて搬送速度Vを制御することで、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0075】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、電界紡糸装置20と通気度計測装置40との間に配置され、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する加熱装置30をさらに備えることから、ナノ繊維層に残存することがある溶媒を完全に蒸発させることが可能となるため、残存溶媒量が極めて少なく高品質のナノ繊維不織布を製造することができる。また、溶媒を完全に蒸発させた状態で通気度Pを計測することが可能となるため、通気度を正確に計測することが可能となる。
【0076】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、電界紡糸装置として、長尺シートWが搬送されていく所定の搬送方向aに沿って直列に配置された複数の電界紡糸装置20を備えるため、複数の電界紡糸装置20のそれぞれにおいて長尺シートW上にナノ繊維を次々と堆積させることが可能となり、均一な通気度を有するナノ繊維不織布をより一層高い生産性で大量生産することが可能となる。また、長尺シートW上に多種類のナノ繊維を順次堆積させたナノ繊維不織布を大量生産する場合にも均一な通気度を有するナノ繊維不織布をより一層高い生産性で大量生産することが可能となる。また、複数の電界紡糸装置20を備えるナノ繊維製造装置であっても、複数の電界紡糸装置20のそれぞれにおいて紡糸条件を調整するのではなく搬送速度Vを制御することだけで、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0077】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、紡糸装置として、極めて細い直径(数nm〜数千nm)を有するナノ繊維を製造可能な電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置でありながら、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0078】
実施形態1に係るナノ繊維製造方法によれば、所定の搬送速度Vで搬送されていく長尺シートWにナノ繊維を堆積させるとともに、ナノ繊維が堆積した長尺シートWの通気度Pを計測し、当該長尺シートWの通気度Pに基づいて長尺シートWの搬送速度Vを制御することとしているため、長時間の電界紡糸過程において紡糸条件が変動して通気度が変動したとしても、それに応じて搬送速度を適切に制御することで通気度の変動量を所定の範囲に収めることが可能となり、その結果、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0079】
[変形例1]
図7は、変形例1における通気度P、平均通気度<P>及び搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。図7(a)は通気度Pの時間変化を表すグラフであり、図7(b)は平均通気度<P>の時間変化を表すグラフであり、図7(c)は搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。図7(a)及び図7(b)中、符号P0は目標通気度を示し、符号PHは許容される通気度の上限を示し、符号PLは許容される通気度の下限を示す。図7(c)中、符号V0は搬送速度の初期値を示す。
【0080】
変形例1においては、図7(c)からも分かるように、搬送速度Vをステップ状に制御することとしている。このように、搬送速度Vをステップ状に制御する場合であっても、図7(a)及び図7(b)に示すように、実施形態1の場合と同様に、通気度P及び平均通気度<P>を目標通気度P0に収斂させることが可能となる。
【0081】
[変形例2]
図8は、変形例2に係るナノ繊維製造方法を説明するために示すフローチャートである。図9は、変形例2における通気度P、平均通気度<P>及び搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。図9(a)は通気度Pの時間変化を表すグラフであり、図9(b)は平均通気度<P>の時間変化を表すグラフであり、図9(c)は搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。図9(a)及び図9(b)中、符号P0は目標通気度を示し、符号PHは許容される通気度の上限を示し、符号PLは許容される通気度の下限を示し、符号PH1は上側制御開始通気度を示し、符号PL1は下側制御開始通気度を示す。図9(c)中、符号V0は搬送速度の初期値を示す。
【0082】
変形例2に係るナノ繊維製造方法においては、図8及び図9からも分かるように、平均通気度<P>が上側制御開始通気度PH1よりも高くなった場合又は下側制御開始通気度PL1よりも低くなった場合に、搬送速度Vを制御する(初期値から変化させる)こととしている。このような制御を行う場合であっても、図9(a)及び図9(b)に示すように、実施形態1の場合と同様に、通気度P及び平均通気度<P>を目標通気度P0に収斂させることが可能となる。また、変形例2に係るナノ繊維製造方法によれば、搬送速度Vを変更する頻度を少なくすることが可能となるという効果も得られる。
【0083】
[実施形態2]
図10は、実施形態2における通気度計測部41aの構成を示す図である。図10(a)は通気度計測部41aの構成を示す図であり、図10(b)はそれに通気度計測部41が長尺シートW上で通気度を計測した部位を繋ぐ軌跡を追記したものである。
【0084】
実施形態2に係るナノ繊維製造方法2(図示せず)は、基本的には実施形態1に係るナノ繊維製造装置1と同様の構成を有するが、通気度計測装置の構成が実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の場合と異なる。すなわち、実施形態2に係るナノ繊維製造装置2においては、通気度計測装置40a(図示せず)は、図10に示すように、長尺シートWの通気度Pを計測する通気度計測部として、長尺シートWの幅方向における複数の位置(長尺シートの幅方向における中央部、左端部、右端部)に配置された3つの通気度計測部41aを備える。
【0085】
このように、実施形態2に係るナノ繊維製造装置2は、通気度計測装置の構成が実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の場合と異なるが、電界紡糸装置20によりナノ繊維を堆積させた長尺シートWの通気度Pを計測する通気度計測装置40aと、通気度計測装置40aにより計測された通気度Pに基づいて搬送速度Vを制御する搬送速度制御装置50とを備えるため、通気度計測装置により計測された通気度に基づいて搬送速度を制御することが可能となる。このため、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の場合と同様に、長時間の電界紡糸過程において紡糸条件が変動して通気度が変動したとしても、それに応じて搬送速度を適切に制御することで通気度の変動量を所定の範囲に収めることが可能となり、その結果、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0086】
また、実施形態2に係るナノ繊維製造装置2によれば、通気度計測装置40aが、通気度計測部として、長尺シートWの幅方向における複数の位置に配置された複数の通気度計測部41aを備えるため、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の場合と同様に、長尺シートの幅方向の広域にわたって通気度を計測することが可能となり、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0087】
また、実施形態2に係るナノ繊維製造装置2によれば、搬送速度制御装置50が、複数の通気度計測部41aにより計測された通気度Pを平均して得られる平均通気度<P>に基づいて搬送速度Vを制御することとしているため、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の場合と同様に、長尺シートWの幅方向において通気度Pに分布がある場合であっても、平均通気度<P>に基づいて搬送速度Vを制御することで、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0088】
なお、実施形態2に係るナノ繊維製造装置2は、通気度計測装置の構成以外は実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の場合と同様の構成を有するため、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0089】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0090】
(1)上記各実施形態においては、電界紡糸装置として4台の電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置を例にとって本発明のナノ繊維製造装置を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、1台〜3台又は5台以上の電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。また、電界紡糸装置に代えてメルトブロー紡糸装置等を用いたナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。加えて、本発明のナノ繊維製造装置は、メルトブロー紡糸装置、スパンボンド紡糸装置、ニードルパンチ紡糸装置その他の紡糸装置を用いて長尺シート上に不織布を製造し、さらにナノ繊維を堆積させたシートの通気度に基づいて搬送速度を制御する場合にも好適に用いることができる。
【0091】
(2)上記各実施形態においては、上向きノズルを有する上向き式電界紡糸装置を用いて本発明のナノ繊維製造装置を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、下向きノズルを有する下向き式電界紡糸装置や横向きノズルを有する横向き式電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。
【0092】
(3)上記各実施形態においては、電源装置160の正極がコレクター150に接続され、電源装置160の負極がノズルブロック110に接続された電界紡糸装置を用いて本発明のナノ繊維製造装置を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、電源装置の正極がノズルに接続され、電源装置の負極がコレクターに接続された電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。
【0093】
(4)本発明のナノ繊維製造装置は、均一な通気度を有する長尺シートに均一な通気度を有するナノ繊維を堆積させることにより均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産する場合はもちろん、それほど均一ではない通気度を有する長尺シートにそれに応じた通気度を有するナノ繊維を堆積させることにより全体として均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産する場合にも好適に用いることができる。
【0094】
(5)上記実施形態においては、1つの電界紡糸装置に1つのノズルブロックが配設されたナノ繊維製造装置を用いて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。電界紡糸装置20aの要部拡大図である。例えば、図11に示すように、1つの電界紡糸装置20aに2つのノズルブロック110a1,110a2が配設されたナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできるし、2つ以上のノズルブロックが配設されたナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。
【0095】
この場合、すべてのノズルブロックでノズル配列ピッチを同一にすることもできるし、各ノズルブロックでノズル配列ピッチを異ならせることもできる。また、すべてのノズルブロックでノズルブロックの高さ位置を同一にすることもできるし、各ノズルブロックでノズルブロックの高さ位置を異ならせることもできる。
【0096】
(6)本発明のナノ繊維製造装置においては、長尺シートの幅方向に沿ってノズルブロックを所定の往復運動周期で往復運動させる機構を備えていてもよい。当該機構を用いてノズルブロックを所定の往復運動周期で往復運動させながら電界紡糸を行うことにより、長尺シートの幅方向に沿ったポリマー繊維の堆積量を均一化することができる。この場合、ノズルブロックの往復運動周期や往復距離を、電界紡糸装置毎又はノズルブロック毎に独立して制御可能としてもよい。このような構成とすることにより、すべてのノズルブロックを同じ周期で往復運動させることもできるし、各ノズルブロックを異なる周期で往復運動させることもできる。また、すべてのノズルブロックで往復運動の往復距離を同一にすることもできるし、各ノズルブロックで往復運動の往復距離を異ならせることもできる。
【符号の説明】
【0097】
1…ナノ繊維製造装置、10…搬送装置、11…繰り出しローラー、12…巻き取りローラー、13,18…補助ローラー、14,15,16,17…駆動ローラー、20,20a…電界紡糸装置、30…加熱装置、32…ヒーター、40…通気度計測装置、41,41a…通気度計測部、42…本体部、43…駆動部、43a…支持部、44…制御部、50…搬送速度制御装置、60…主制御装置、70…VOC処理装置、100…筐体、102…電界紡糸室、110,110a1,110a2…ノズルブロック、150…コレクター、152…絶縁部材、160…電源装置、170…補助ベルト装置、172…補助ベルト、174…補助ベルト用ローラー、a…搬送方向、b…長尺シートの幅方向、P…通気度、<P>…平均通気度、V…搬送速度、W…長尺シート、ΔP…ずれ量
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ繊維製造装置及びナノ繊維製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電界紡糸過程における紡糸条件(例えば、紡糸区域における浮遊物の有無、ノズルブロックとコレクターとの間隔、コレクターの構造など。)を調整することにより均一な物性を有するナノ繊維を製造することが可能なナノ繊維製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
図12は、特許文献1に記載されたナノ繊維製造方法に用いるナノ繊維製造装置900を説明するために示す図である。図12中、符号910はノズルブロックを示し、符号912はノズルを示し、符号920は送風装置を示し、符号922は風向調整板を示し、符号924は縁部材を示し、符号926は吸入装置を示し、符号928はファンを示し、符号950はコレクターを示す。
【0004】
特許文献1に記載されたナノ繊維製造方法は、例えば、図12に示すように、送風装置920、2つの縁部材924及び吸入装置926で画定される紡糸区域に空気流れを形成させて揮発した溶媒や浮遊不純物を除去することなどにより、電界紡糸過程における紡糸条件を調整するというものである。
【0005】
特許文献1に記載されたナノ繊維製造方法によれば、電界紡糸過程における紡糸条件を調整することにより、均一な物性を有するナノ繊維を製造することが可能であるため、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を製造することが可能であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−274522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたナノ繊維製造方法をもってしても、現実には電界紡糸過程における紡糸条件を長時間にわたって一定に保つことは容易ではないため、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが困難であるのが実情である。なお、このような事情は、メルトブロー紡糸装置その他の紡糸装置によりナノ繊維を製造するナノ繊維製造方法においても同様である。
【0008】
そこで、本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能なナノ繊維製造装置及びナノ繊維製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]本発明のナノ繊維製造装置は、長尺シートを所定の搬送速度で搬送する搬送装置と、前記搬送装置により搬送されていく長尺シートにナノ繊維を堆積させる紡糸装置と、前記紡糸装置によりナノ繊維を堆積させた長尺シートの通気度を計測する通気度計測装置と、前記通気度計測装置により計測された通気度に基づいて前記搬送速度を制御する搬送速度制御装置とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明のナノ繊維製造装置によれば、通気度計測装置により計測された通気度に基づいて搬送速度を制御することが可能となるため、長時間の電界紡糸過程において紡糸条件が変動して通気度が変動したとしても、それに応じて搬送速度を適切に制御することで通気度の変動量を所定の範囲に収めることが可能となり、その結果、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0011】
例えば、長時間の電界紡糸過程において通気度が大きくなる方向に紡糸条件が変動した場合には、搬送速度を遅くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を増大させることにより通気度を小さくすることで、通気度の値を所定の範囲に収めることが可能となる。また、長時間の電界紡糸過程において通気度が小さくなる方向に紡糸条件が変動した場合には、搬送速度を速くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を低減させることにより通気度を大きくすることで、通気度の値を所定の範囲に収めることが可能となる。
【0012】
なお、「ポリマー溶液の濃度」、「紡糸区域における温度や湿度」などの紡糸条件を調整することにより、通気度の値を所定の範囲に収めることも可能であるが、これらの場合には、通気度の変動に応じて紡糸条件を調整するのに一定の時間がかかるため、長尺方向に沿って通気度が均一なナノ繊維不織布を高い生産性で製造することが困難である。
【0013】
また、「ノズルとコレクターとの間隔」、「ノズルとコレクターとの間に印加する電圧」などの紡糸条件を調整することにより、通気度の値を所定の範囲に収めることも可能であるが、これらの場合には、ナノ繊維の直径、ナノ繊維層の密度などのナノ繊維の物性が変動してしまい、均一な物性を有するナノ繊維不織布を製造することが困難である。
【0014】
これに対して、本発明のナノ繊維製造装置によれば、通気度計測装置により計測された通気度に基づいて搬送速度を制御するという簡単な方法で、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となるため、通気度の変動に応じて紡糸条件を調整するに一定の時間がかかるという問題もなく、また、ナノ繊維の直径、ナノ繊維層の密度などのナノ繊維の物性が変動してしまうという問題もない。
【0015】
なお、本発明において、ナノ繊維を堆積させた長尺シートの通気度とは、長尺シート上に堆積させたナノ繊維層と、長尺シートとが積層された状態で通気度を計測した場合における通気度のことをいう。また、ナノ繊維不織布とは、ナノ繊維を堆積させた長尺シートのことをいう。ナノ繊維不織布は、これをこのまま製品としてもよいし、ナノ繊維不織布から長尺シートを除いて「ナノ繊維層のみからなる不織布」を製造し、これを製品としてもよい。また、「ナノ繊維」とは、ポリマーからなり、平均直径が数nm〜数千nmの繊維のことをいう。また、「ポリマー溶液」とは、ポリマーを溶媒に溶解させた溶液のことをいう。
【0016】
[2]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記搬送速度制御装置は、前記通気度計測装置により計測された通気度と、所定の目標通気度とのずれ量に基づいて前記搬送速度を制御することが好ましい。
【0017】
本発明のナノ繊維製造装置によれば、例えば、上記ずれ量が大きい場合には、搬送速度の制御量(初期値からの変化量)を大きくし、上記ずれ量が小さい場合には、搬送速度の制御量(初期値からの変化量)を小さくするというような制御をすることが可能となるため、通気度の変動の程度に応じて搬送速度を適切に制御することが可能となる。
【0018】
また、本発明のナノ繊維製造装置によれば、例えば、上記ずれ量が所定値未満の場合には、搬送速度を初期値から変化させずに、上記ずれ量が所定値以上の場合には、搬送速度を初期値から変化させるというような制御をすることも可能となるため、搬送速度制御装置による搬送速度の制御を単純化することが可能となる。
【0019】
[3]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記搬送速度制御装置は、前記ずれ量の時間変化率を考慮して前記搬送速度を制御することが好ましい。
【0020】
このように、上記「ずれ量の時間変化率」を考慮することにより、ずれ量だけに基づいて搬送速度を制御する場合と比較して、搬送速度をより適切に制御することが可能となる。例えば、紡糸条件が急に変動したような場合には、ずれ量の時間変化率が大きいため、それに見合うように搬送速度の制御量(初期値からの変化量)を大きくする。また、紡糸条件の変動量が小さい場合には、ずれ量の時間変化率が小さいため、それに見合うように搬送速度の制御量(初期値からの変化量)を小さくする。
【0021】
[4]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記通気度計測装置は、前記長尺シートの通気度を計測する通気度計測部と、前記通気度計測部を前記長尺シートの幅方向に沿って所定の周期で往復移動させる駆動部とを備えることが好ましい。
【0022】
このような構成とすることにより、長尺シートの幅方向の広域にわたって通気度を計測することが可能となり、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0023】
[5]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記搬送速度制御装置は、前記通気度計測部により計測された通気度を前記所定の周期又は当該周期のn倍に相当する時間(但し、nは自然数)で平均して得られる平均通気度に基づいて前記搬送速度を制御することが好ましい。
【0024】
このような構成とすることにより、長尺シートの幅方向において通気度に分布がある場合であっても、平均通気度に基づいて搬送速度を制御することで、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0025】
[6]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記通気度計測装置は、前記長尺シートの通気度を計測する通気度計測部として、前記長尺シートの幅方向における複数の位置に配置された複数の通気度計測部を備えることが好ましい。
【0026】
このような構成とすることによっても、上記[4]に記載のナノ繊維製造装置の場合と同様に、長尺シートの幅方向の広域にわたって通気度を計測することが可能となり、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0027】
[7]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記搬送速度制御装置は、前記複数の通気度計測部により計測された通気度を平均して得られる平均通気度に基づいて前記搬送速度を制御することが好ましい。
【0028】
このような構成とすることにより、上記[5]に記載のナノ繊維製造装置の場合と同様に、長尺シートの幅方向において通気度に分布がある場合であっても、平均通気度に基づいて搬送速度を制御することで、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0029】
[8]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記紡糸装置と前記通気度計測装置との間に配置され、前記ナノ繊維を堆積させた前記長尺シートを加熱する加熱装置をさらに備えることが好ましい。
【0030】
このような構成とすることにより、ナノ繊維層に残存することがある溶媒を完全に蒸発させることが可能となるため、残存溶媒量が極めて少なく高品質のナノ繊維不織布を製造することができる。また、溶媒を完全に蒸発させた状態で通気度を計測することが可能となるため、通気度を正確に計測することが可能となる。
【0031】
[9]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記紡糸装置として、前記長尺シートが搬送されていく所定の搬送方向に沿って直列に配置された複数の紡糸装置を備えることが好ましい。
【0032】
このような構成とすることにより、複数の紡糸装置のそれぞれにおいて長尺シート上にナノ繊維を次々と堆積させることが可能となるため、均一な通気度を有するナノ繊維不織布をより一層高い生産性で大量生産することが可能となる。また、長尺シート上に多種類のナノ繊維を順次堆積させたナノ繊維不織布を大量生産する場合にも均一な通気度を有するナノ繊維不織布をより一層高い生産性で大量生産することが可能となる。また、複数の紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置であっても、複数の紡糸装置のそれぞれにおいて紡糸条件を調整するのではなく搬送速度を制御することだけで、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0033】
[10]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記紡糸装置は、電界紡糸装置であることが好ましい。
【0034】
このような構成とすることにより、紡糸装置として、極めて細い直径(数nm〜数千nm)を有するナノ繊維を製造可能な電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置においても、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0035】
[11]本発明のナノ繊維製造方法は、所定の搬送速度で搬送されていく長尺シートにナノ繊維を堆積させながら、前記ナノ繊維を堆積させた前記長尺シートの通気度を計測し、当該長尺シートの通気度に基づいて長尺シートの搬送速度を制御することを特徴とする。
【0036】
本発明のナノ繊維製造方法によれば、ナノ繊維が堆積した長尺シートの通気度を計測し、当該通気度に基づいて長尺シートの搬送速度を制御することとしているため、長時間の電界紡糸過程において紡糸条件が変動して通気度が変動したとしても、それに応じて搬送速度を適切に制御することで通気度の変動量を所定の範囲に収めることが可能となり、その結果、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0037】
本発明のナノ繊維製造装置又はナノ繊維製造方法によれば、高機能・高感性テキスタイルなどの衣料品、ヘルスケア、スキンケアなど美容関連用品、ワイピングクロス、フィルターなど産業資材、二次電池のセパレーター、コンデンサーのセパレーター、各種触媒の担体、各種センサー材料などの電子・機械材料、再生医療材料、バイオメディカル材料、医療用MEMS材料、バイオセンサー材料などの医療材料、その他の幅広い用途に使用可能なナノ繊維を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態に係るナノ繊維製造装置1を説明するために示す図である。
【図2】実施形態における電界紡糸装置20の要部拡大図である。
【図3】実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の主要部のブロック図である。
【図4】ナノ繊維製造方法を説明するために示すフローチャートである。
【図5】通気度計測部41の動きを説明するために示す図である。
【図6】通気度P、平均通気度<P>及び搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。
【図7】変形例1における通気度P、平均通気度<P>及び搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。
【図8】変形例2におけるナノ繊維製造方法を説明するために示すフローチャートである。
【図9】変形例2における通気度P、平均通気度<P>及び搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。
【図10】実施形態2における通気度計測部41aの構成を示す図である。
【図11】電界紡糸装置20aの要部拡大図である。
【図12】特許文献1に記載されたナノ繊維製造方法に用いるナノ繊維製造装置900を説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明のナノ繊維製造装置及びナノ繊維製造方法について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
【0040】
[実施形態1]
1.実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の構成
図1は、実施形態に係るナノ繊維製造装置1を説明するために示す図である。図1(a)はナノ繊維製造装置1の正面図であり、図1(b)はナノ繊維製造装置1の平面図である。なお、図1においては、ポリマー溶液供給部及びポリマー溶液回収部の図示を省略してある。また、図1(a)においては、一部の部材は要部拡大図で示している。図2は、電界紡糸装置20の要部拡大図である。
【0041】
実施形態1に係るナノ繊維製造装置1は、図1及び図2に示すように、長尺シートWを所定の搬送速度Vで搬送する搬送装置10と、搬送装置10により搬送されていく長尺シートWにナノ繊維を堆積させる電界紡糸装置20と、電界紡糸装置20によりナノ繊維を堆積させた長尺シートWの通気度Pを計測する通気度計測装置40と、通気度計測装置40により計測された通気度Pに基づいて搬送速度Vを制御する搬送速度制御装置50とを備える。
【0042】
実施形態1に係るナノ繊維製造装置1においては、電界紡糸装置として、長尺シートWが搬送されていく所定の搬送方向aに沿って直列に配置された4台の電界紡糸装置20を備える。
【0043】
実施形態1に係るナノ繊維製造装置1は、電界紡糸装置20と通気度計測装置40との間に配置され、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する加熱装置30と、「搬送装置10、電界紡糸装置20、加熱装置30、通気度計測装置40、搬送速度制御装置50、後述するVOC処理装置70、ポリマー供給装置及びポリマー回収装置」の動作を制御する主制御装置60と、長尺シートWにナノ繊維を堆積させる際に発生する揮発性成分を燃焼して除去するVOC処理装置70とをさらに備える。
【0044】
搬送装置10は、長尺シートWを繰り出す繰り出しローラー11及び長尺シートWを巻き取る巻き取りローラー12並びに繰り出しローラー11と巻き取りローラー12との間に位置する補助ローラー13,18及び駆動ローラー14,15,16,17を備える。繰り出しローラー11、巻き取りローラー12及び駆動ローラー14,15,16,17は、図示しない駆動モーターにより回転駆動される構造となっている。
【0045】
電界紡糸装置20は、図2に示すように、筐体100に絶縁部材152を介して取り付けられ、長尺シートWにおける一方の面側に位置するコレクター150と、長尺シートWにおける他方の面側におけるコレクター150に対向する位置に位置し、図示しないポリマー溶液供給部から供給されるポリマー溶液を長尺シートWに向けて噴射する複数のノズルを有するノズルブロック110と、コレクター150とノズルブロック110との間に高電圧(例えば10kV〜80kV)を印加する電源装置160と、コレクター150とノズルブロック110とを覆う所定の空間を画定する電界紡糸室102と、長尺シートWが搬送されるのを補助する補助ベルト装置170とを備える。電源装置160の正極は、コレクター150に接続され、電源装置160の負極は、筐体100を介してノズルブロック110に接続されている。
【0046】
ノズルブロック110は、図2に示すように、複数のノズルとして、ポリマー溶液を吐出口から上向きに吐出する複数の上向きノズルを有する。そして、ナノ繊維製造装置1は、複数の上向きノズルの吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながら複数の上向きノズルの吐出口からポリマー溶液を吐出してナノ繊維を電界紡糸するとともに、複数の上向きノズルの吐出口からオーバーフローしたポリマー溶液を回収してナノ繊維の原料として再利用することが可能となるように構成されている。複数の上向きノズル112は、例えば、1.5cm〜6.0cmのピッチで配列されている。複数の上向きノズル112の数は、例えば、36個(縦横同数に配列した場合、6個×6個)〜21904個(縦横同数に配列した場合、148個×148個)である。また、本発明のナノ繊維製造装置には様々な大きさ及び様々な形状を有するノズルブロックを用いることができるが、ノズルブロック110は、例えば、上面から見たときに一辺が0.5m〜3mの長方形(正方形を含む)に見える大きさ及び形状を有する。
【0047】
補助ベルト装置170は、図2に示すように、長尺シートWの搬送速度に同期して回転する補助ベルト172と、補助ベルト172の回転を助ける5つの補助ベルト用ローラー174とを有する。5つの補助ベルト用ローラー174のうち1つ又は2つ以上の補助ベルト用ローラー174が駆動ローラーであり、残りの補助ベルト用ローラーが従動ローラーである。コレクター150と長尺シートWとの間に補助ベルト172が配設されているため、長尺シートWは、正の高電圧の印加されているコレクター150に引き寄せられることなくスムーズに搬送されるようになる。
【0048】
加熱装置30は、電界紡糸装置20と通気度計測装置40との間に配置され、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する。加熱温度は、長尺シートWやナノ繊維の種類によって異なるが、例えば、長尺シートWを50℃〜300℃の温度に加熱することができる。
【0049】
通気度計測装置40は、図3に示すように、長尺シートWの通気度Pを計測する通気度計測部41と、通気度計測部41を長尺シートWの幅方向に沿って所定の周期Tで往復移動させる駆動部43と、駆動部43及び通気度計測部41の動作を制御するとともに、通気度計測部41からの計測結果を受けて処理する制御部44を備える。駆動部43と、制御部44は、本体部42に配設されている。通気度計測装置40としては一般的な通気度計測装置を用いることができる。
【0050】
通気度計測装置40は、計測された通気度Pの値をそのまま搬送速度制御装置50に送信することもできるし、計測された通気度Pを所定の周期T又は当該周期Tのn倍に相当する時間(但し、nは自然数)で平均して得られる平均通気度<P>の値を搬送速度制御装置50に送信することもできる。
【0051】
搬送速度制御装置50は、通気度計測部40により計測された通気度P又は平均通気度<P>に基づいて搬送装置10が搬送する長尺シートWの搬送速度Vを制御する。例えば、長時間の電界紡糸過程において通気度Pが大きくなる方向に紡糸条件が変動した場合には、搬送速度Vを遅くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を増大させることにより通気度を小さくする。一方、長時間の電界紡糸過程において通気度が小さくなる方向に紡糸条件が変動した場合には、搬送速度を速くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を低減させることにより通気度を大きくする。なお、搬送速度Vの制御は、駆動ローラー14,15,16,17の回転速度を制御することにより行うことができる。
【0052】
VOC処理装置70は、長尺シートにナノ繊維を堆積させる際に発生する揮発性成分を燃焼して除去する。
【0053】
主制御装置60は、搬送装置10、電界紡糸装置20、加熱装置30、通気度計測装置40、搬送速度制御装置50、VOC処理装置70、ポリマー供給装置及びポリマー回収装置の動作を制御する。
【0054】
2.実施形態1に係るナノ繊維製造装置1を用いたナノ繊維製造方法
以下、上記のように構成された実施形態1に係るナノ繊維製造装置1を用いてナノ繊維不織布を製造する方法(実施形態1に係るナノ繊維製造方法)について説明する。
【0055】
図4は、実施形態1に係るナノ繊維製造方法を説明するために示すフローチャートである。図5は、通気度計測部41の動きを説明するために示す図である。図5(a)〜図5(f)は各工程図である。なお、図5中、正弦曲線状に示される曲線は通気度計測部41が長尺シートW上で通気度を計測した部位を繋ぐ軌跡である。
【0056】
図6は、通気度P、平均通気度<P>及び搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。図6(a)は通気度Pの時間変化を表すグラフであり、図6(b)は平均通気度<P>の時間変化を表すグラフであり、図6(c)は搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。図6(a)及び図6(b)中、符号P0は目標通気度を示し、符号PHは許容される通気度の上限を示し、符号PLは許容される通気度の下限を示す。図6(c)中、符号V0は搬送速度の初期値を示す。
【0057】
実施形態1に係るナノ繊維製造方法は、図4に示すように、「長尺シート搬送・電界紡糸」、「通気度計測」、「平均通気度算出」、「ずれ量ΔP算出」の「搬送速度制御」の各工程を含む。
【0058】
1.長尺シートの搬送・電界紡糸(S10)
長尺シートWを搬送装置10にセットし、その後、長尺シートWを繰り出しローラー11から巻き取りローラー12に向けて所定の搬送速度Vで搬送させながら、各電界紡糸装置20において長尺シートWにナノ繊維を順次堆積させる。その後、加熱装置30により、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する。これにより、ナノ繊維が堆積した長尺シートからなるナノ繊維不織布が製造される。
【0059】
このとき、以下の手順により、電界紡糸装置20によりナノ繊維を堆積させた長尺シートWの通気度Pを計測するとともに、通気度計測装置40により計測された通気度Pに基づいて搬送速度Vを制御する。なお、実施形態1においては、図6(a)〜図6(c)に示すように、時間t経過前の期間については搬送速度の制御を行わず、時間t経過後の期間については搬送速度の制御を行うこととしている。以下の変形例1及び2においても同様である。
【0060】
2.通気度計測(S12)
まず、図5(a)〜図5(f)に示すように、通気度計測部41を長尺シートWの幅方向に沿って所定の周期T(例えば1秒)で往復移動させながら、長尺シートWの通気度を計測する。通気度計測部41による通気度の計測は例えば10ms毎に行う。その結果、図6(a)に示すようなグラフが得られる。
【0061】
3.平均通気度算出(S14)
次に、通気度計測部41により計測された通気度Pを所定の周期T(例えば1秒)で平均することにより平均通気度<P>を算出する。その結果、図6(b)に示すようなグラフが得られる。
【0062】
4.ずれ量ΔP算出(S16)
次に、上記の平均通気度<P>と、所定の目標通気度P0とのずれ量ΔPを算出する。
【0063】
5.搬送速度制御(S18〜S24)
次に、上記ずれ量ΔPに基づいて搬送速度Vを制御する。
例えば、長時間の電界紡糸過程において通気度Pが大きくなる方向に紡糸条件が変動した場合(ずれ量ΔPが正の場合)には、搬送速度Vを遅くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を増大させることにより通気度を小さくする。一方、長時間の電界紡糸過程において通気度が小さくなる方向に紡糸条件が変動した場合(ずれ量ΔPが負の場合)には、搬送速度Vを速くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を低減させることにより通気度を大きくする(図6(c)参照。)。これにより、時間t経過後、徐々に通気度Pは所定の目標通気度P0の値に収斂する。
【0064】
以下に、実施形態1に係るナノ繊維製造方法における紡糸条件を例示的に示す。
【0065】
長尺シートとしては、各種材料からなる不織布、織物、編物などを用いることができる。長尺シートの厚さは、例えば5μm〜500μmのものを用いることができる。長尺シートの長さは、例えば10m〜10kmのものを用いることができる。
【0066】
ナノ繊維の原料となるポリマーとしては、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリプロピレン(PP)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA)、ポリウレタン(PUR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸グリコール酸(PLGA)、シルク、セルロース、キトサンなどを用いることができる。
【0067】
ポリマー溶液に用いる溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、クロロホルム、アセトン、水、蟻酸、酢酸、シクロヘキサン、THFなどを用いることができる。複数種類の溶媒を混合して用いてもよい。ポリマー溶液には、導電性向上剤などの添加剤を含有させてもよい。
【0068】
製造するナノ繊維不織布の通気度Pは、例えば0.15cm3/cm2/s〜200cm3/cm2/sに設定することができる。搬送速度Vは、例えば0.2m/分〜100m/分に設定することができる。ノズルとコレクター150とノズルブロック110に印加する電圧は、10kV〜80kVに設定することができ、50kV付近に設定することが好ましい。
【0069】
紡糸区域の温度は、例えば25℃に設定することができる。紡糸区域の湿度は、例えば30%に設定することができる。
【0070】
3.実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の効果
【0071】
実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、紡糸装置20によりナノ繊維を堆積させた長尺シートWの通気度Pを計測する通気度計測装置40と、通気度計測装置40により計測された通気度Pに基づいて搬送速度Vを制御する搬送速度制御装置50とを備えるため、通気度計測装置により計測された通気度に基づいて搬送速度を制御することが可能となる。このため、長時間の電界紡糸過程において紡糸条件が変動して通気度が変動したとしても、それに応じて搬送速度を適切に制御することで通気度の変動量を所定の範囲に収めることが可能となり、その結果、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0072】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置によれば、通気度計測装置40により計測された通気度Pと、所定の目標通気度P0とのずれ量ΔPに基づいて搬送速度Vを制御するため、例えば、上記ずれ量ΔPが大きい場合には、搬送速度Vの制御量(初期値V0からの変化量)を大きくし、上記ずれ量ΔPが小さい場合には、搬送速度Vの制御量(初期値V0からの変化量)を小さくするというような制御をすることが可能となり、通気度の変動の程度に応じて搬送速度を適切に制御することが可能となる。
【0073】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、通気度計測装置40が長尺シートWの通気度Pを計測する通気度計測部41と、通気度計測部41を長尺シートWの幅方向に沿って所定の周期Tで往復移動させる駆動部43とを備えるため、長尺シートWの幅方向の広域にわたって通気度を計測することが可能となり、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0074】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、搬送速度制御装置50が、通気度計測部40により計測された通気度Pを所定の周期T又は当該周期Tのn倍に相当する時間(但し、nは自然数)で平均して得られる平均通気度<P>に基づいて搬送速度Vを制御することが可能であるため、長尺シートWの幅方向において通気度Pに分布がある場合であっても、平均通気度<P>に基づいて搬送速度Vを制御することで、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0075】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、電界紡糸装置20と通気度計測装置40との間に配置され、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する加熱装置30をさらに備えることから、ナノ繊維層に残存することがある溶媒を完全に蒸発させることが可能となるため、残存溶媒量が極めて少なく高品質のナノ繊維不織布を製造することができる。また、溶媒を完全に蒸発させた状態で通気度Pを計測することが可能となるため、通気度を正確に計測することが可能となる。
【0076】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、電界紡糸装置として、長尺シートWが搬送されていく所定の搬送方向aに沿って直列に配置された複数の電界紡糸装置20を備えるため、複数の電界紡糸装置20のそれぞれにおいて長尺シートW上にナノ繊維を次々と堆積させることが可能となり、均一な通気度を有するナノ繊維不織布をより一層高い生産性で大量生産することが可能となる。また、長尺シートW上に多種類のナノ繊維を順次堆積させたナノ繊維不織布を大量生産する場合にも均一な通気度を有するナノ繊維不織布をより一層高い生産性で大量生産することが可能となる。また、複数の電界紡糸装置20を備えるナノ繊維製造装置であっても、複数の電界紡糸装置20のそれぞれにおいて紡糸条件を調整するのではなく搬送速度Vを制御することだけで、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0077】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、紡糸装置として、極めて細い直径(数nm〜数千nm)を有するナノ繊維を製造可能な電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置でありながら、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0078】
実施形態1に係るナノ繊維製造方法によれば、所定の搬送速度Vで搬送されていく長尺シートWにナノ繊維を堆積させるとともに、ナノ繊維が堆積した長尺シートWの通気度Pを計測し、当該長尺シートWの通気度Pに基づいて長尺シートWの搬送速度Vを制御することとしているため、長時間の電界紡糸過程において紡糸条件が変動して通気度が変動したとしても、それに応じて搬送速度を適切に制御することで通気度の変動量を所定の範囲に収めることが可能となり、その結果、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0079】
[変形例1]
図7は、変形例1における通気度P、平均通気度<P>及び搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。図7(a)は通気度Pの時間変化を表すグラフであり、図7(b)は平均通気度<P>の時間変化を表すグラフであり、図7(c)は搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。図7(a)及び図7(b)中、符号P0は目標通気度を示し、符号PHは許容される通気度の上限を示し、符号PLは許容される通気度の下限を示す。図7(c)中、符号V0は搬送速度の初期値を示す。
【0080】
変形例1においては、図7(c)からも分かるように、搬送速度Vをステップ状に制御することとしている。このように、搬送速度Vをステップ状に制御する場合であっても、図7(a)及び図7(b)に示すように、実施形態1の場合と同様に、通気度P及び平均通気度<P>を目標通気度P0に収斂させることが可能となる。
【0081】
[変形例2]
図8は、変形例2に係るナノ繊維製造方法を説明するために示すフローチャートである。図9は、変形例2における通気度P、平均通気度<P>及び搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。図9(a)は通気度Pの時間変化を表すグラフであり、図9(b)は平均通気度<P>の時間変化を表すグラフであり、図9(c)は搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。図9(a)及び図9(b)中、符号P0は目標通気度を示し、符号PHは許容される通気度の上限を示し、符号PLは許容される通気度の下限を示し、符号PH1は上側制御開始通気度を示し、符号PL1は下側制御開始通気度を示す。図9(c)中、符号V0は搬送速度の初期値を示す。
【0082】
変形例2に係るナノ繊維製造方法においては、図8及び図9からも分かるように、平均通気度<P>が上側制御開始通気度PH1よりも高くなった場合又は下側制御開始通気度PL1よりも低くなった場合に、搬送速度Vを制御する(初期値から変化させる)こととしている。このような制御を行う場合であっても、図9(a)及び図9(b)に示すように、実施形態1の場合と同様に、通気度P及び平均通気度<P>を目標通気度P0に収斂させることが可能となる。また、変形例2に係るナノ繊維製造方法によれば、搬送速度Vを変更する頻度を少なくすることが可能となるという効果も得られる。
【0083】
[実施形態2]
図10は、実施形態2における通気度計測部41aの構成を示す図である。図10(a)は通気度計測部41aの構成を示す図であり、図10(b)はそれに通気度計測部41が長尺シートW上で通気度を計測した部位を繋ぐ軌跡を追記したものである。
【0084】
実施形態2に係るナノ繊維製造方法2(図示せず)は、基本的には実施形態1に係るナノ繊維製造装置1と同様の構成を有するが、通気度計測装置の構成が実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の場合と異なる。すなわち、実施形態2に係るナノ繊維製造装置2においては、通気度計測装置40a(図示せず)は、図10に示すように、長尺シートWの通気度Pを計測する通気度計測部として、長尺シートWの幅方向における複数の位置(長尺シートの幅方向における中央部、左端部、右端部)に配置された3つの通気度計測部41aを備える。
【0085】
このように、実施形態2に係るナノ繊維製造装置2は、通気度計測装置の構成が実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の場合と異なるが、電界紡糸装置20によりナノ繊維を堆積させた長尺シートWの通気度Pを計測する通気度計測装置40aと、通気度計測装置40aにより計測された通気度Pに基づいて搬送速度Vを制御する搬送速度制御装置50とを備えるため、通気度計測装置により計測された通気度に基づいて搬送速度を制御することが可能となる。このため、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の場合と同様に、長時間の電界紡糸過程において紡糸条件が変動して通気度が変動したとしても、それに応じて搬送速度を適切に制御することで通気度の変動量を所定の範囲に収めることが可能となり、その結果、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0086】
また、実施形態2に係るナノ繊維製造装置2によれば、通気度計測装置40aが、通気度計測部として、長尺シートWの幅方向における複数の位置に配置された複数の通気度計測部41aを備えるため、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の場合と同様に、長尺シートの幅方向の広域にわたって通気度を計測することが可能となり、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0087】
また、実施形態2に係るナノ繊維製造装置2によれば、搬送速度制御装置50が、複数の通気度計測部41aにより計測された通気度Pを平均して得られる平均通気度<P>に基づいて搬送速度Vを制御することとしているため、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の場合と同様に、長尺シートWの幅方向において通気度Pに分布がある場合であっても、平均通気度<P>に基づいて搬送速度Vを制御することで、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0088】
なお、実施形態2に係るナノ繊維製造装置2は、通気度計測装置の構成以外は実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の場合と同様の構成を有するため、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0089】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0090】
(1)上記各実施形態においては、電界紡糸装置として4台の電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置を例にとって本発明のナノ繊維製造装置を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、1台〜3台又は5台以上の電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。また、電界紡糸装置に代えてメルトブロー紡糸装置等を用いたナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。加えて、本発明のナノ繊維製造装置は、メルトブロー紡糸装置、スパンボンド紡糸装置、ニードルパンチ紡糸装置その他の紡糸装置を用いて長尺シート上に不織布を製造し、さらにナノ繊維を堆積させたシートの通気度に基づいて搬送速度を制御する場合にも好適に用いることができる。
【0091】
(2)上記各実施形態においては、上向きノズルを有する上向き式電界紡糸装置を用いて本発明のナノ繊維製造装置を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、下向きノズルを有する下向き式電界紡糸装置や横向きノズルを有する横向き式電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。
【0092】
(3)上記各実施形態においては、電源装置160の正極がコレクター150に接続され、電源装置160の負極がノズルブロック110に接続された電界紡糸装置を用いて本発明のナノ繊維製造装置を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、電源装置の正極がノズルに接続され、電源装置の負極がコレクターに接続された電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。
【0093】
(4)本発明のナノ繊維製造装置は、均一な通気度を有する長尺シートに均一な通気度を有するナノ繊維を堆積させることにより均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産する場合はもちろん、それほど均一ではない通気度を有する長尺シートにそれに応じた通気度を有するナノ繊維を堆積させることにより全体として均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産する場合にも好適に用いることができる。
【0094】
(5)上記実施形態においては、1つの電界紡糸装置に1つのノズルブロックが配設されたナノ繊維製造装置を用いて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。電界紡糸装置20aの要部拡大図である。例えば、図11に示すように、1つの電界紡糸装置20aに2つのノズルブロック110a1,110a2が配設されたナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできるし、2つ以上のノズルブロックが配設されたナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。
【0095】
この場合、すべてのノズルブロックでノズル配列ピッチを同一にすることもできるし、各ノズルブロックでノズル配列ピッチを異ならせることもできる。また、すべてのノズルブロックでノズルブロックの高さ位置を同一にすることもできるし、各ノズルブロックでノズルブロックの高さ位置を異ならせることもできる。
【0096】
(6)本発明のナノ繊維製造装置においては、長尺シートの幅方向に沿ってノズルブロックを所定の往復運動周期で往復運動させる機構を備えていてもよい。当該機構を用いてノズルブロックを所定の往復運動周期で往復運動させながら電界紡糸を行うことにより、長尺シートの幅方向に沿ったポリマー繊維の堆積量を均一化することができる。この場合、ノズルブロックの往復運動周期や往復距離を、電界紡糸装置毎又はノズルブロック毎に独立して制御可能としてもよい。このような構成とすることにより、すべてのノズルブロックを同じ周期で往復運動させることもできるし、各ノズルブロックを異なる周期で往復運動させることもできる。また、すべてのノズルブロックで往復運動の往復距離を同一にすることもできるし、各ノズルブロックで往復運動の往復距離を異ならせることもできる。
【符号の説明】
【0097】
1…ナノ繊維製造装置、10…搬送装置、11…繰り出しローラー、12…巻き取りローラー、13,18…補助ローラー、14,15,16,17…駆動ローラー、20,20a…電界紡糸装置、30…加熱装置、32…ヒーター、40…通気度計測装置、41,41a…通気度計測部、42…本体部、43…駆動部、43a…支持部、44…制御部、50…搬送速度制御装置、60…主制御装置、70…VOC処理装置、100…筐体、102…電界紡糸室、110,110a1,110a2…ノズルブロック、150…コレクター、152…絶縁部材、160…電源装置、170…補助ベルト装置、172…補助ベルト、174…補助ベルト用ローラー、a…搬送方向、b…長尺シートの幅方向、P…通気度、<P>…平均通気度、V…搬送速度、W…長尺シート、ΔP…ずれ量
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺シートを所定の搬送速度で搬送する搬送装置と、
前記搬送装置により搬送されていく前記長尺シートにナノ繊維を堆積させる紡糸装置と、
前記紡糸装置により前記ナノ繊維を堆積させた前記長尺シートの通気度を計測する通気度計測装置と、
前記通気度計測装置により計測された通気度に基づいて前記搬送速度を制御する搬送速度制御装置とを備えることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のナノ繊維製造装置において、
前記搬送速度制御装置は、前記通気度計測装置により計測された通気度と、所定の目標通気度とのずれ量に基づいて前記搬送速度を制御することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項3】
請求項2に記載のナノ繊維製造装置において、
前記搬送速度制御装置は、前記ずれ量の時間変化率を考慮して前記搬送速度を制御することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のナノ繊維製造装置において、
前記通気度計測装置は、前記長尺シートの通気度を計測する通気度計測部と、前記通気度計測部を前記長尺シートの幅方向に沿って所定の周期で往復移動させる駆動部とを備えることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載のナノ繊維製造装置において、
前記搬送速度制御装置は、前記通気度計測部により計測された通気度を前記所定の周期又は当該周期のn倍に相当する時間(但し、nは自然数)で平均して得られる平均通気度に基づいて前記搬送速度を制御することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のナノ繊維製造装置において、
前記通気度計測装置は、前記長尺シートの通気度を計測する通気度計測部として、前記長尺シートの幅方向における複数の位置に配置された複数の通気度計測部を備えることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載のナノ繊維製造装置において、
前記搬送速度制御装置は、前記複数の通気度計測部により計測された通気度を平均して得られる平均通気度に基づいて前記搬送速度を制御することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のナノ繊維製造装置において、
前記紡糸装置と前記通気度計測装置との間に配置され、前記ナノ繊維を堆積させた前記長尺シートを加熱する加熱装置をさらに備えることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のナノ繊維製造装置において、
前記紡糸装置として、前記長尺シートが搬送されていく所定の搬送方向に沿って直列に配置された複数の紡糸装置を備えることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のナノ繊維製造装置において、
前記紡糸装置は、電界紡糸装置であることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項11】
所定の搬送速度で搬送されていく長尺シートにナノ繊維を堆積させながら、前記ナノ繊維を堆積させた前記長尺シートの通気度を計測し、計測された前記長尺シートの通気度に基づいて長尺シートの搬送速度を制御することを特徴とするナノ繊維製造方法。
【請求項1】
長尺シートを所定の搬送速度で搬送する搬送装置と、
前記搬送装置により搬送されていく前記長尺シートにナノ繊維を堆積させる紡糸装置と、
前記紡糸装置により前記ナノ繊維を堆積させた前記長尺シートの通気度を計測する通気度計測装置と、
前記通気度計測装置により計測された通気度に基づいて前記搬送速度を制御する搬送速度制御装置とを備えることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のナノ繊維製造装置において、
前記搬送速度制御装置は、前記通気度計測装置により計測された通気度と、所定の目標通気度とのずれ量に基づいて前記搬送速度を制御することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項3】
請求項2に記載のナノ繊維製造装置において、
前記搬送速度制御装置は、前記ずれ量の時間変化率を考慮して前記搬送速度を制御することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のナノ繊維製造装置において、
前記通気度計測装置は、前記長尺シートの通気度を計測する通気度計測部と、前記通気度計測部を前記長尺シートの幅方向に沿って所定の周期で往復移動させる駆動部とを備えることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載のナノ繊維製造装置において、
前記搬送速度制御装置は、前記通気度計測部により計測された通気度を前記所定の周期又は当該周期のn倍に相当する時間(但し、nは自然数)で平均して得られる平均通気度に基づいて前記搬送速度を制御することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のナノ繊維製造装置において、
前記通気度計測装置は、前記長尺シートの通気度を計測する通気度計測部として、前記長尺シートの幅方向における複数の位置に配置された複数の通気度計測部を備えることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載のナノ繊維製造装置において、
前記搬送速度制御装置は、前記複数の通気度計測部により計測された通気度を平均して得られる平均通気度に基づいて前記搬送速度を制御することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のナノ繊維製造装置において、
前記紡糸装置と前記通気度計測装置との間に配置され、前記ナノ繊維を堆積させた前記長尺シートを加熱する加熱装置をさらに備えることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のナノ繊維製造装置において、
前記紡糸装置として、前記長尺シートが搬送されていく所定の搬送方向に沿って直列に配置された複数の紡糸装置を備えることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のナノ繊維製造装置において、
前記紡糸装置は、電界紡糸装置であることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項11】
所定の搬送速度で搬送されていく長尺シートにナノ繊維を堆積させながら、前記ナノ繊維を堆積させた前記長尺シートの通気度を計測し、計測された前記長尺シートの通気度に基づいて長尺シートの搬送速度を制御することを特徴とするナノ繊維製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−122151(P2012−122151A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272075(P2010−272075)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(508231821)トップテック・カンパニー・リミテッド (40)
【氏名又は名称原語表記】TOPTEC Co., Ltd.
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(508231821)トップテック・カンパニー・リミテッド (40)
【氏名又は名称原語表記】TOPTEC Co., Ltd.
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
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