説明

ナノ複合体およびその製造方法

【課題】MAPを人工ゼオライトに強固に担持させたナノ複合体を提供し、併せてこのナノ複合体を確実にかつ安定して得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】人工ゼオライトの共存下で、リン酸塩と、マグネシウム塩とアンモニウム塩とを反応させて、反応生成物であるリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)3をゼオライト成分2にナノオーダー距離まで接近乃至接触させて、MAP3をゼオライト成分2に分子レベルで共有結合およびイオン結合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工ゼオライトと無機物質とのナノ複合体に係り、特に植物生育促進資材として有用なナノ複合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工ゼオライトは、珪酸およびアルミニウムを含む無機成分をアルカリ処理して得られるもので、優れた吸着能およびイオン交換能を有していることが知られている。そして従来、前記吸着能およびイオン交換能に着目して、人工ゼオライトに鉄、マグネシウム、銅、カルシウム等の金属イオンを吸着担持させて、植物生育促進資材として利用することが既に行われており(例えば、特許文献1、特許文献2等参照)、その優れた保肥性および徐放性により、今後も、環境にやさしい安全な植物生育促進資材として、様々な分野での利用が期待される。
【0003】
ところで、人工ゼオライトは負に帯電しており、このため、人工ゼオライトに正電荷をもつ金属イオンを担持させることは容易である。一方、負電荷をもつ金属イオンを担持させることは、例えば、Ca,Mgなどの2価の陽イオンを担持したゼオライトのイオン成分(Ca,Mg)と架橋反応させることにより可能であるが、正電荷をもつ金属イオンを担持させる場合と比較すると、その担持力は非常に弱い。負電荷をもつ金属イオンとしては、例えば、植物の生育に有用なリンがあるが、従来は、このリンを担持する人工ゼオライトは、その担持力が弱いため、いま一つ、植物生育促進資材としての利用価値が低い、という問題があった。
【0004】
一方、無機肥料として、リン酸マグネシウムアンモニウム、所謂MAPが知られており(例えば、特許文献3等参照)、植物の生育に必要なリン、マグネシウム、窒素を総合的に含むことから、現在、多方面で利用されている。したがって、このMAPを上記した人工ゼオライトに担持させることができれば、極めて有用な植物生育促進資材になると考えられるが、MAPを担持した人工ゼオライトは、いまだ実現していない。
【0005】
【特許文献1】特開2001−152148号公報
【特許文献2】特開2005−281439号公報
【特許文献3】特開平05−319966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した技術的背景に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、MAPを人工ゼオライトに強固に担持させたナノ複合体を提供し、併せてこのナノ複合体を確実にかつ安定して得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係るナノ複合体は、人工ゼオライトとリン酸マグネシウムアンモニウムとを分子レベルで結合してなることを特徴とする。このように構成されたナノ複合体においては、人工ゼオライトとMAPとが分子レベルで結合しているので、MAP成分の保持は安定しかつその放出は極めて緩慢となる。
【0008】
本ナノ複合体において、上記人工ゼオライトとリン酸マグネシウムアンモニウムとの結合割合は、重量比で1:100乃至100:1の範囲とすることができる。
【0009】
また、上記人工ゼオライトは、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、重金属イオンのうちの一種または複数の交換性陽イオンを担持していてもよく、この場合は、リン、マグネシウム、窒素以外にも、その用途に有用な種々の金属を担持させることができる。
【0010】
さらに、上記人工ゼオライトの由来は任意であり、廃棄物由来とすることができる。人工ゼオライトは、前記したように珪酸およびアルミニウムを含む無機成分をアルカリ処理して得られるものであるから、珪酸およびアルミニウムを含む種々の廃棄物を原料として用いることができる。このような廃棄物としては、石炭灰、都市ゴミ焼却灰、高炉スラグ、アルミニウムドロス、製紙スラッジ等がある。廃棄物由来の人工ゼオライトを用いる場合は、廃棄物の有効利用によりその処分量の削減に大きく寄与するものとなる。
【0011】
本発明に係るナノ複合体の製造方法は、人工ゼオライトの共存下で、リン酸塩と、マグネシウム塩とアンモニウム塩とを反応させて、反応生成物であるリン酸マグネシウムアンモニウムを人工ゼオライトに分子レベルで結合させることを特徴とする。このようにすることで、各塩の反応で生成されたMAP成分がゼオライト成分に分子レベルで結合される。
【0012】
この場合、リン酸アンモニウム水溶液と塩化マグネシウム水溶液との混合溶液に人工ゼオライトを懸濁させた後、前記懸濁液にアンモニア水を該溶液が白濁するまで添加し、しかる後、固液分離して、ナノ複合体を固形物として採取するようにしてもよく、このようにすることで、極めて簡単にナノ複合体を製造できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るナノ複合体によれば、リンを含めて植物の生育に必要なマグネシウム、窒素が人工ゼオライトに分子レベルで結合されているので、保肥性および徐放性に著しく優れたものとなり、植物生育促進資材として極めて有用となる。
【0014】
また、本発明に係るナノ複合体の製造方法によれば、人工ゼオライトの共存下で化学反応を起こさせてリン酸マグネシウムアンモニウムを生成させるので、ナノ複合体を確実にかつ安定して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面も参照して説明する。
【0016】
図1および図2は、本発明に係るナノ複合体の結合構造を模式的に示したものである。本ナノ複合体1は、人工ゼオライト成分2とリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)3とを分子レベルで結合させたものである。MAP3は陽イオン(Mg2+、NH4+)と陰イオン(PO43-)とを含んでおり、その一部は、図1(B)に示されるように、ゼオライト成分2中の末端に存在するシラノール基(Si−O-)およびアルミノール基(Al−O-)に分子レベルで共有結合しており、また、他の一部は、図2(B)に示されるように、ゼオライト成分2中の末端に存在するアルミニウムに生じた永久負電荷(Al-)に、分子レベルでイオン結合している。
【0017】
リン酸(リン)は、単独では負電荷を有しており、同じ負電荷を有するゼオライト成分中のシラノール基、アルミノール基あるいはアルミニウムの永久負電荷に分子レベルで強固に結合させることは困難である。しかし、本発明においては、上記したように陽イオンを含むMAP3の形態でゼオライト成分2に結合させているので、リンを含めて植物の生育に必要なマグネシウム、窒素が人工ゼオライトに強固に担持される。
【0018】
このようなナノ複合体は、人工ゼオライトがイオン交換能に優れていることから、これに結合されたリン、マグネシウム、窒素等は、植物が接触した際分泌される水素イオンなどとイオン交換することで放出され、したがって、植物生育促進資材として用いる場合は、植物の生育に必要な分だけ栄養素が放出されることになる。
【0019】
なお、ここで選択する人工ゼオライトの成分は任意であり、ヒドロキシソーダライト、フィリップサイトグループのNa−P1、フォージャサイト、ゼオライトA、チャバサイト等を選択することができる。
【0020】
本ナノ複合体を製造するには、人工ゼオライトの共存下で、リン酸塩と、マグネシウム塩とアンモニウム塩とを反応させればよい。この場合、リン酸アンモニウム(NH42PO4)の水溶液と塩化マグネシウム(MgCl2)の水溶液との混合溶液に人工ゼオライトを懸濁させ、前記懸濁液にpH調整用のアンモニア水(NH4OH)を該溶液が白濁するまで添加し、しかる後、固液分離して、ナノ複合体を固形物として採取するのが望ましい。前記白濁物質は反応により生成したMAPであり、前記したように人工ゼオライトの共存下でMAPの生成反応を起こさせることで、MAPがゼオライト成分に対して、分子軌道同士が相互作用を起こすナノオーダー距離まで接近乃至接触し、これにより上述した形態(図1、2)でゼオライト成分2とMAP3とが分子レベルで結合し、ナノ複合体1が生成する。
【実施例1】
【0021】
石炭灰由来の人工ゼオライトを選択し、この人工ゼオライト20gを予め反応容器に入れ、次に、前記反応容器にNH42PO4(リン酸アンモニウム)とMgCl2(塩化マグネシウム)との飽和混合溶液を加え、混合溶液中に人工ゼオライトを懸濁させた。このとき、NH42PO4とMgCl2は、MAP換算でゼオライトとの割合が、重量比で1:1(ゼオライト:MAP)となるように加えた。次に、前記ゼオライト懸濁液にNH4OH(アンモニア水)を、該溶液が白濁するまで添加し、その後、遠心分離器により固液分離して固形物を採取し、さらに、乾燥した。そして、乾燥した固形物をX線回折試験に供し、物質の同定を行った。
【0022】
図3は、X線回折結果を示したものである。これより、固形物にはゼオライトおよびMAPが明瞭に認められ、この固形物がゼオライトとMAPとを分子レベルで結合させた
ナノ複合体であることを確認できた。
【実施例2】
【0023】
NH42PO4とMgCl2を、MAP換算でゼオライトとの割合が、重量比で10:1(ゼオライト:MAP)となるように加えた以外は、実施例1同じ手順で固形物を採取し、この固形物についてX線回折試験を行った。この結果、固形物にはゼオライトおよびMAPが明瞭に認められ、この固形物がゼオライトとMAPとを分子レベルで結合させたナノ複合体であることを確認できた。
【実施例3】
【0024】
NH42PO4とMgCl2を、MAP換算でゼオライトとの割合が、重量比で100:1(ゼオライト:MAP)となるように加えた以外は、実施例1同じ手順で固形物を採取し、この固形物についてX線回折試験を行った。この結果、固形物にはゼオライトおよびMAPが明瞭に認められ、この固形物がゼオライトとMAPとを分子レベルで結合させたナノ複合体であることを確認できた。
【実施例4】
【0025】
NH42PO4とMgCl2を、MAP換算でゼオライトとの割合が、重量比で1:10(ゼオライト:MAP)となるように加えた以外は、実施例1同じ手順で固形物を採取し、この固形物についてX線回折試験を行った。この結果、固形物にはゼオライトおよびMAPが明瞭に認められ、この固形物がゼオライトとMAPとを分子レベルで結合させたナノ複合体であることを確認できた。
【実施例5】
【0026】
NH42PO4とMgCl2を、MAP換算でゼオライトとの割合が、重量比で1:100(ゼオライト:MAP)となるように加えた以外は、実施例1同じ手順で固形物を採取し、この固形物についてX線回折試験を行った。この結果、固形物にはゼオライトおよびMAPが明瞭に認められ、この固形物がゼオライトとMAPとを分子レベルで結合させたナノ複合体であることを確認できた。
【実施例6】
【0027】
石炭灰由来のFe型人工ゼオライトを選択し、実施例1と同様の手順で、人工ゼオライトとMAPとを重量比で10:1となる割合で結合させたナノ複合体(MAP型ゼオライト)を製造し、これを、任意の湾から採取したヘドロ状底泥に重量%で1%となるように添加して試験土を製造した。そして、前記試験土を紙製の10個のポットに入れると共に、各ポットにアマモの種子を50粒ずつ播種し、これらを塩分濃度約3%の海水を溜めた水槽に入れた。試験は、水槽内を曝気しかつ水槽に3〜4E/m2の光合成エネルギーが得られるように白色蛍光灯の光を照射しながら、水温を、アマモの発芽に必要な10℃からアマモの生育に好適な22℃まで徐々に高めていき、アマモの生育状況を経時的に観察した。なお、比較のため、前記Fe型人工ゼオライトのうち、その10重量%をケイ素(珪酸)で置換したものを用意し、これを前記MAP型ゼオライトに代えて加えた比較土についても、前記同様にアマモを播種してその生育状況を観察した。
【0028】
図4は、播種から70日経過までのアマモの生育状況を示したものである。なお、同図中、発芽数は10個のポット間の平均発芽数を、葉長は最大葉長を、葉幅は最大葉幅をそれぞれ表している。これより、本試験土と比較土とでは、発芽数においてほどんど差がないものの、葉長および葉幅において、本試験土の方が比較土よりもはるかに大きくなっており、MAP型ゼオライトが植物生育促進資材として有用であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るナノ複合体の結合構造の1つの形態を示したもので、(A)は概略構造を示す模式図、(B)は詳細構造を示す模式図である。
【図2】本発明に係るナノ複合体の結合構造の他の形態を示したもので、(A)は概略構造を示す模式図、(B)は詳細構造を示す模式図である。
【図3】本発明の1つの実施例で得られたナノ複合体のX線回折結果を示すグラフである。
【図4】本発明に係るナノ複合体(MAP型ゼオライト)を添加した試験土に播種したアマモの生育状況を、非MAP型人工ゼオライトを添加した比較土に播種したアマモの生育状況と対比して示す図表である。
【符号の説明】
【0030】
1 ナノ複合体
2 ゼオライト成分
3 リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工ゼオライトとリン酸マグネシウムアンモニウムとを分子レベルで結合してなることを特徴とするナノ複合体。
【請求項2】
人工ゼオライトとリン酸マグネシウムアンモニウムとの結合割合が、重量比で1:100乃至100:1の範囲にある、請求項1に記載のナノ複合体。
【請求項3】
人工ゼオライトが、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、重金属イオンのうちの一種または複数の交換性陽イオンを担持している、請求項1または2に記載のナノ複合体。
【請求項4】
人工ゼオライトが、廃棄物由来である、請求項1乃至3の何れか1項に記載のナノ複合体。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載のナノ複合体を製造する方法であって、人工ゼオライトの共存下で、リン酸塩と、マグネシウム塩とアンモニウム塩とを反応させて、反応生成物であるリン酸マグネシウムアンモニウムを人工ゼオライトに分子レベルで結合させることを特徴とするナノ複合体の製造方法。
【請求項6】
リン酸アンモニウム水溶液と塩化マグネシウム水溶液との混合溶液に人工ゼオライトを懸濁させた後、前記懸濁液にアンモニア水を該懸濁液が白濁するまで添加し、しかる後、固液分離して、ナノ複合体を固形物として採取する、請求項5に記載のナノ複合体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−153704(P2007−153704A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353647(P2005−353647)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(592062943)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【Fターム(参考)】