説明

ナーリング形成方法及び装置、溶液製膜方法、並びにポリマーフィルム

【課題】ナーリングのつぶれに起因する巻きズレや巻き緩みを防ぐ。
【解決手段】ナーリング形成装置17は、塗布ダイ61dと乾燥ダクト62a、62bとを備える。塗布ダイ61dは、耳部11eに向けてナーリング形成液64を連続して流出する。耳部11eにはナーリング形成液64からなる液膜68が形成する。乾燥ダクト62aは液膜68に向けて乾燥風63aを送り出す。乾燥ダクト62bは液膜68が形成される面と反対側のフィルム面に乾燥風63bを送り出す。液膜68からナーリング溶剤66が蒸発する。液膜68からナーリング溶剤66を蒸発する乾燥工程により、液膜68はナーリング原料65からなるナーリング70となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナーリング形成方法及び装置、溶液製膜方法、並びにポリマーフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルムは、優れた光透過性や柔軟性および軽量薄膜化が可能であるなどの特長から光学フィルム等として多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、写真感光用フィルムをはじめとして、近年市場が拡大している液晶表示装置の構成部材である偏光板の保護フィルムや位相差フィルム等の光学フィルムに用いられている。
【0003】
ポリマーフィルムを製造する方法として、溶融製膜方法や溶液製膜方法等が知られている。これらの製造方法によれば、帯状のポリマーフィルムを得ることができる。ポリマーフィルムは、取り扱い性の点からフィルムロールの状態で保管され、輸送される。そこで、得られた帯状のポリマーフィルムを所定の巻き取り張力で巻き芯に巻き取ってフィルムロールとされる。
【0004】
特許文献1には、フィルムロールにおけるポリマーフィルムの巻きズレや巻き緩みを防ぐために、周面に多数の突歯(ナーリング歯)を備えたナーリングローラを、ポリマーフィルムの幅方向両端部(以下、耳部と称する)に押し当てるナーリング形成工程が開示されている。このナーリング形成工程により、図9及び図10に示すような、凸状の押し跡(ナーリング)201を、ポリマーフィルム200の耳部200eに形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−262950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1の方法によりナーリング201を形成すると、ナーリングローラにより押し当てられた部分は窪むように変形する。こうして、ナーリングローラの押し当てによって、窪み部202がフィルム200に生成してしまう。窪み部202の存在に起因してナーリング201はつぶれてしまう。更に、ポリマーフィルム200の巻き取り張力が大きくなる、或いは、ポリマーフィルム200が巻き取られた状態が長時間経過すると、ナーリング201はよりつぶれやすくなる。したがって、特許文献1の方法を用いてポリマーフィルム200にナーリング201を設けても、ナーリング201がつぶれる結果、ポリマーフィルム200の巻きズレや巻き緩みが起こってしまう。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するものであり、つぶれにくいナーリングの形成方法及び装置、並びに溶液製膜方法を提供することを目的とする。更に、本発明は、つぶれにくいナーリングを備えたポリマーフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリマーウェブの表面から突設するナーリングを前記ポリマーウェブの幅方向両縁部に形成するナーリング形成方法において、前記表面の幅方向両縁部に向けてナーリング形成材料を送り出し、前記ナーリング形成材料からなる膜を前記表面の幅方向両縁部に形成する塗布工程と、前記膜の乾燥により前記膜から前記ナーリングを得る乾燥工程とを有することを特徴とする。
【0009】
前記ナーリング形成材料には前記ポリマーウェブの原料ポリマーが含まれることが好ましい。
【0010】
前記乾燥工程では、前記膜及び前記ポリマーウェブの裏面へ乾燥風をあてることが好ましい。また、前記乾燥工程では、前記表面を支持する表面側搬送ローラと前記裏面を支持する裏面側搬送ローラとが千鳥状に並べられてなる搬送手段を用いて、前記ポリマーウェブを搬送することが好ましい。更に、前記裏面側搬送ローラは、前記ポリマーウェブの幅方向中央部のみを支持することが好ましい。
【0011】
本発明の溶液製膜方法は、ポリマー及び溶剤を含むドープを支持体に向けて連続的に流出し、前記ドープからなるウェブ状の流延膜を前記支持体上に形成する膜形成工程と、前記流延膜が自立して搬送可能な状態となるまで前記流延膜から前記溶剤を蒸発させる膜乾燥工程と、前記膜乾燥工程を経た前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取り湿潤ウェブとする剥取工程と、前記湿潤ウェブから前記溶剤を蒸発させて前記ポリマーウェブとする湿潤ウェブ乾燥工程とを有し、前記ポリマーウェブに対し、上記のナーリング形成方法を行うことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、ポリマーウェブの表面から突設するナーリングを前記ポリマーウェブの幅方向両縁部に形成するナーリング形成装置において、前記表面の幅方向両縁部に向けてナーリング形成材料を送り出し、前記ナーリング形成材料からなる膜を前記表面の幅方向両縁部に形成する塗布手段と、前記膜の乾燥により前記膜から前記ナーリングを得る乾燥手段とを有することを特徴とする。
【0013】
前記乾燥手段は、前記膜に乾燥風をあてる表側乾燥手段と、前記ポリマーウェブの裏面へ乾燥風をあてる裏側乾燥手段とを備えたことが好ましい。また、前記乾燥手段は、前記ポリマーウェブを搬送する搬送手段を備え、前記搬送手段は、前記表面を支持する表面支持ローラと前記裏面を支持する裏面支持ローラとが千鳥状に配されてなることが好ましい。更に、前記表面支持ローラは、前記ポリマーウェブの幅方向中央部のみを支持する大径ローラ部と、前記大径ローラの軸方向両端に設けられ前記大径ローラよりも径の小さい小径ローラ部とを備えたことが好ましい。
【0014】
更に、本発明のポリマーフィルムは、ウェブ状のフィルム基部と、前記フィルム基部の幅方向両縁部に設けられ、前記幅方向両縁部の表面から突出するナーリング部とを備え、前記フィルム基部及び前記ナーリング部の厚みが幅方向に一様であり、前記ナーリング部が前記フィルム基部に含まれるポリマーから形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ポリマーウェブの幅方向両縁部に向けてナーリング形成材料を送り出し、ナーリング形成材料からなる膜を両縁部に形成する塗布工程と、膜の乾燥により膜からナーリングを得る乾燥工程とを有するため、従来の方法の場合に問題となっていた窪み部202がポリマーウェブには存在しない。このような方法で形成されたナーリングは、従来のものに比べて、つぶれにくい。したがって、本発明によれば、巻きズレや巻き緩みを防止しながら、ポリマーフィルムを巻き芯に巻き取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図2】ナーリング形成装置の概要を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る第1のフィルムの概要を示す平面図である。
【図4】本発明に係る第1のフィルムの概要を示すIV−IV線断面図である。
【図5】本発明に係る第2のフィルムの概要を示す平面図である。
【図6】本発明に係る第3のフィルムの概要を示す平面図である。
【図7】本発明に係る第3のフィルムの概要を示すVII−VII線断面図である。
【図8】段付きローラの概要を示す正面図である。
【図9】従来の方法により形成されたナーリング付きのフィルムの概要を示す断面図である。
【図10】従来の方法により形成されたナーリング付きのフィルムの概要を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(溶液製膜設備)
図1に示すように、溶液製膜設備10は、フィルム製造部10aとナーリング形成部10bと巻取部10cとを備える。フィルム製造部10aは、ポリマーフィルム(以下、フィルムと称する)11の原料となるポリマー(原料ポリマーと称する)12とポリマー12の溶剤(以下、ポリマー溶剤)13とを含むドープ14からフィルム11をつくるものであり、流延装置15と乾燥装置16とを備える。フィルム製造部10aから巻取部10cにかけて略水平方向に並べられた搬送ローラ10rにより、フィルム製造部10aから巻取部10cへ延びる搬送路が形成される。ナーリング形成部10bは、搬送ローラ10rによってなる搬送路に設けられる。ナーリング形成部10bは、フィルム11にナーリングを形成するナーリング形成装置17を備える。巻取部10cは、ナーリングが形成されたフィルム11を巻き取る巻取装置18を備える。
【0018】
(流延装置)
流延装置15は、ドープ14から湿潤フィルム19をつくるものであり、流延ダイ21、流延ドラム22、減圧チャンバ23及び剥取ローラ24を収容する流延室27からなる。
【0019】
流延ドラム22は、軸方向が水平となるように配され、軸を中心に回転自在となっている。流延ドラム22は、制御部の制御の下、図示しない駆動装置により軸を中心に回転する。流延ドラム22の回転により、流延ドラム22の周面はA方向へ所定の速度で走行する。
【0020】
流延ドラム22は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム22の周面に施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0021】
流延ドラム22には温調機28が接続する。温調機28は、伝熱媒体の温度を調節する温度調節部を内蔵する。温調機28は、温度調節部及び流延ドラム22内に設けられる流路との間で、所望の温度に調節された伝熱媒体を循環させる。この伝熱媒体の循環により、流延ドラム22の周面の温度を所望の温度に保つことができる。
【0022】
流延ダイ21は、流延ドラム22の上方に設けられる。流延ダイ21は、先端にドープ14を流出するスリット出口を有する。流延ダイ21は、スリット出口が流延ドラム22に近接するように配される。流延ダイ21から流出したドープ14は、流延ドラム22の周面上にて流れ延ばされる結果、帯状の流延膜30を形成する。
【0023】
減圧チャンバ23は、流延ダイ21よりもA方向の上流側であって、流延ダイ21と隣接するように設けられる。図示しない制御部の制御の下、減圧チャンバ23は、流延ビードの上流側の圧力が下流側に対して低くなるように、流延ビードの上流側を減圧することができる。
【0024】
剥取ローラ24は、流延ダイ21よりもA方向の下流側に配される。剥取ローラ24は、周面上に形成された流延膜30を剥ぎ取って、湿潤フィルム19として、流延室27の出口27aから送り出す。
【0025】
また、図示は省略するが、流延室27内の雰囲気に含まれるポリマー溶剤13を凝縮する凝縮装置、凝縮したポリマー溶剤13を回収する回収装置を設けることにより、流延室27内にて気体となっているポリマー溶剤13が液化する温度(凝縮点)を所定の範囲に保つことができる。
【0026】
(乾燥装置)
乾燥装置16は、湿潤フィルム19からポリマー溶剤13を蒸発させることにより、湿潤フィルム19からフィルム11をつくるものであり、ピンテンタ35と、スリッタ36と、ローラ乾燥室37と、冷却室38とを備える。流延室27とピンテンタ35との間の渡り部40では、複数のローラ41を用いて、流延室27から送り出された帯状の湿潤フィルム19をピンテンタ35へ搬送する。
【0027】
ピンテンタ35は、湿潤フィルム19の幅方向の両端を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。ピンプレートの保持により走行する湿潤フィルム19に対し乾燥風が送られる。乾燥風との接触により、湿潤フィルム19からポリマー溶剤13が蒸発する。
【0028】
スリッタ36は湿潤フィルム19の耳部を切り離す。この切り離された耳部は、送風によりクラッシャ(図示しない)に送られて、細かく切断され、ドープ等の原料として再利用される。
【0029】
乾燥室37には、多数のローラ45が千鳥状に配される。湿潤フィルム19は、ローラ45に巻き掛けられながら搬送される。乾燥室37には吸着回収装置46が接続される。吸着回収装置46は、湿潤フィルム19から蒸発したポリマー溶剤13を吸着により回収する。乾燥室37内のポリマー溶剤13を回収することにより、乾燥室37におけるポリマー溶剤13の凝縮点が一定の範囲内に調節されているため、乾燥室37内を搬送される間、湿潤フィルム19からポリマー溶剤13が蒸発する。この結果、湿潤フィルム19からフィルム11が得られる。
【0030】
冷却室38では、フィルム11の温度が略室温になるまで、フィルム11が冷却される。
【0031】
(巻取装置)
巻取装置18は、巻き芯51と、巻き芯駆動部(図示しない)と、プレスローラ52とを有する巻取室54を備える。巻き芯51の外径は、例えば、100mm以上500mm以下である。制御部(図示しない)により、巻き芯駆動部は、所定の速度で巻き芯51を回転する。この結果、フィルム11は、所定の巻き取り張力で巻き芯51に巻き取られ、フィルムロール55となる。プレスローラ52は、巻き芯51または巻き芯51に巻き取られたフィルムロール55に向けて、巻き芯51へ巻き取られるフィルム11を押しつける。これにより、フィルム11の間にエアーの混入を防ぎながら、フィルム11を巻きつけることができる。
【0032】
(ナーリング形成装置)
図1及び図2に示すように、ナーリング形成装置17は、フィルム11の搬送方向(X方向)上流側から下流側に向かって順次配される、塗布ダイ61ddと乾燥手段とを有する。乾燥手段は表側乾燥ダクト62aと裏側乾燥ダクト62bとからなる。塗布ダイ61dと表側乾燥ダクト62aとはフィルム11の一方の面側に配され、裏側乾燥ダクト62bはフィルム11の他方の面側にて表側乾燥ダクト62aと向き合うように配される。また、塗布ダイ61d、表側乾燥ダクト62a及び裏側乾燥ダクト62bは、フィルム11の搬送路の幅方向(Y方向)両端側に配される。更に、サポートロール61rは、フィルム11の他方の面側にて塗布ダイ61dと向き合うように配される。
【0033】
ここで、フィルム11は、Y方向両端に設けられた耳部11eと、耳部11eの間の中央部11cとからなる。耳部11eは、ナーリングが形成される部分である。中央部11cは、最終的に光学フィルムとして利用される部分である。
【0034】
塗布ダイ61dは、ナーリング形成液64を押し出すスロット出口を備え、スロット出口がサポートロール61rに支持された耳部11eと正対するように配される。表側乾燥ダクト62aは、一方の面側の耳部11eに向けて乾燥風63aを送り出す送風口を備え、送風口が一方の面側の耳部11eと正対するように配される。裏側乾燥ダクト62bは、他方の面側の耳部11eに向けて乾燥風63bを送り出す送風口を備え、送風口が他方の面側の耳部11eと正対するように配される。
【0035】
ナーリング形成液64は、ナーリング原料65と、ナーリング原料の溶剤(ナーリング溶剤)66とを含む。ナーリング形成液64におけるナーリング原料65の濃度は、例えば、25質量%以上35質量%以下であることが好ましい。
【0036】
ナーリング原料65は、特に限定されないが、ポリマーであることが好ましい。また、ナーリング溶剤66は、ナーリング原料65を溶解できるものであれば特に限定されない。
【0037】
次に、本発明の作用について説明する。図1に示すように、図示しないポンプにより、ドープ14は流延ダイ21へ送られる。流延ダイ21に設けられた温調機により、ドープ14の温度は、30℃以上35℃以下の範囲で略一定に調節される。
【0038】
温調機28は、流延ドラム22の周面の温度が、−20℃以上20℃以下の範囲で略一定になるように調節する。流延ドラム22は、軸を中心に回転する。これにより、周面はA方向へ走行する。周面の走行速度は、10m/分以上200m/分以下であることが好ましい。周面の走行速度の下限は、20m/分以上であることがより好ましい。
【0039】
(膜形成工程、剥取工程)
流延室27では、ドープ14からなる帯状の流延膜30を流延ドラム22の周面上に形成する膜形成工程と、流延ドラム22の周面から流延膜30を剥ぎ取って湿潤フィルム19とする剥取工程とが行われる。流延ダイ21は、スリット出口からドープ14を流延ドラム22の周面に向けて流出する。流出したドープ14により、周面上には帯状の流延膜30が形成する。流延ドラム22は、流延膜30は自立して搬送可能な状態となるまで、流延膜30を冷却する。流延ドラム22による冷却により、流延膜30をなすドープ14は、ゲル状となる結果、流延膜30は自立して搬送可能な状態となる。剥取ローラ24は、自立して搬送可能となった流延膜30を、流延ドラム22から湿潤フィルム19として剥ぎ取り、渡り部40を介して、ピンテンタ35へ案内する。
【0040】
ここで、ゲル化とは、コロイド溶液がジェリー状に固化した状態の他、ドープの流動性が失われた状態を含む。なお、「ドープの流動性が失われた」とは、溶質が高分子の場合において、溶剤が溶質の分子鎖の中で保持された状態で流動性を失い、結果的に溶液の流動性が失われた状態と、溶質が低分子の場合において、溶剤の分子と溶質の分子との相互作用により、結果的に溶液の流動性が失われた状態とを含む。
【0041】
剥ぎ取り時の流延膜30の溶剤含有量は、200重量%以上300重量%以下であることが好ましい。なお、本発明では、流延膜30や各フィルムに含まれるポリマー溶剤13の量を乾量基準で示したものを溶剤含有量とする。また、その測定方法は、対象のフィルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0042】
(湿潤フィルム乾燥工程)
ピンテンタ35や乾燥室37では、湿潤フィルム19からポリマー溶剤13を蒸発させる湿潤フィルム乾燥工程が行われる。ピンテンタ35は、湿潤フィルム19の両端を保持するピンを走行させることにより、湿潤フィルム19を搬送する。更に、ピンテンタ35は、湿潤フィルム19に乾燥風をあてて、湿潤フィルム19からポリマー溶剤13を蒸発させる。スリッタ36は、ピンテンタ35から送り出された湿潤フィルム19の両端を切断する。両端が切断された湿潤フィルム19は、乾燥室37に送り出される。乾燥室37を搬送中の湿潤フィルム19には、乾燥風が送り出され、湿潤フィルム19からポリマー溶剤13を蒸発させる。この結果、湿潤フィルム19はフィルム11となる。乾燥室37の出口におけるフィルム11の溶剤含有量は、5重量%以下となる。
【0043】
(ナーリング形成工程)
図2に示すように、ナーリング形成装置17は、ナーリング形成工程を行う。ナーリング形成工程では、耳部11eに向けてナーリング形成液64を流出する塗布工程と、液膜68からナーリング溶剤66を蒸発させる乾燥工程とが順次行われる。
【0044】
(塗布工程)
塗布ダイ61dに設けられた温調機により、ナーリング形成液64の温度は、30℃以上35℃以下の範囲で略一定に調節される。塗布ダイ61dは、サポートロール61rに支持された耳部11eに向けてナーリング形成液64を連続して流出する。塗布ダイ61dのスロットから流出したナーリング形成液64は、フィルム11の一方の面側の耳部11eにおいて、フィルム11のX方向へ延びる液膜68を形成する。
【0045】
(乾燥工程)
表側乾燥ダクト62aは液膜68に向けて乾燥風63aを送り出す。裏側乾燥ダクト63bは、フィルム11の他方の面の耳部11eに向けて乾燥風63bを送り出す。各乾燥風63a、63bの温度は、例えば、60℃以上100℃以下である。各乾燥風63a、63bとの接触により液膜68からナーリング溶剤66が蒸発する。乾燥工程により、液膜68はナーリング原料65からなるナーリング70となる。
【0046】
(巻取工程)
ナーリング形成工程を経たフィルム11は、冷却室38を通過した後、巻取室54に送られる。巻取室54では、ナーリング形成工程を経たフィルム11は、プレスローラ52によって押し付けられながら、所定の巻き取り張力(70N/m以上200N/m以下)で巻き芯51に巻き取られる。これにより、ナーリング形成工程を経たフィルム11からフィルムロール55が得られる。
【0047】
図3及び図4に示すように、フィルム74は、幅方向における厚みが略一様のフィルム基部75と、フィルム基部75の耳部75eに形成されたナーリング部76とを備える。ここで、フィルム74はナーリング形成工程を経たフィルム11に相当する。また、フィルム基部75は、膜形成工程〜湿潤フィルム乾燥工程により得られたフィルム11に相当し、ナーリング部76は、ナーリング形成工程によって形成されたナーリング70に相当する。そして、耳部75eは耳部11eに相当し、中央部75cは中央部11cに相当する。
【0048】
フィルム基部75の耳部75eに設けられたナーリング部76は、表面75aから突出し、フィルム74の長手方向へ延びる。フィルム基部75の厚みは幅方向において一様であり、フィルム基部75には窪み部202(図8及び図9参照)が存在しない。また、ナーリング部76の厚みも幅方向において一様であり、ナーリング部76には窪み部202(図8及び図9参照)は存在しない。「フィルム基部75やナーリング部76の厚みが一様」とは、幅方向における厚み差(厚みの最大値から最小値を減じたもの)が0.2μm以下であればよく、0.1μm以下であることがより好ましい。
【0049】
本発明では、ナーリング形成液64の塗布によりナーリング部76を形成したため、フィルム基部75には、ナーリング形成ローラの押し当て時に形成される窪み部202(図8及び図9参照)が生じない。このため、ナーリング部76はつぶれにくくなるため、ポリマーフィルムの巻きズレや巻き緩みを確実に抑えることができる。
【0050】
ところで、フィルムロール55から引き出したフィルム74(図3及び図4参照)を光学フィルムとして用いる場合、ナーリング部76が設けられた耳部75eは切り落とされる。したがって、ナーリング原料65は、原料ポリマー12と同一であることが好ましい。原料ポリマー12が複数の化合物の混合体である場合、ナーリング原料65は、原料ポリマー12のいずれかの成分と同一であることが好ましい。これにより、切り落とされた耳部75eをドープの調製用に再利用することが容易となる。
【0051】
上記実施形態では、ナーリング形成液64を連続して流出したが、本発明はこれに限れられず、ナーリング形成液64を間欠的に流出してもよい。このようにして形成されたナーリング部76は、図5に示すように、互いに離隔するように長手方向に並ぶ。
【0052】
上記実施形態では、1つの耳部75eにおいて1本のナーリング部76を設けたが、本発明はこれに限れられず、図6及び図7に示すように、1つの耳部75eにおいて、長手方向へ延設するナーリング部76を複数設けてもよい。なお、長手方向へ延設するナーリング部76を複数設ける場合、ナーリング部76間の間隔は、ナーリング部76の幅よりも狭いことが好ましい。これにより、ナーリング部76の変形が抑えられる。
【0053】
耳部11e全域にナーリング形成液64を塗布してもよい。これにより、耳部75e全域にナーリング部76を設けることができる。
【0054】
ナーリング形成材料として、ナーリング形成液64に代えて、溶融したポリマーを用いてもよい。塗布ダイ61dから溶融ポリマーを押し出すことにより、溶融ポリマーからなる膜を形成することができる。そして、溶融ポリマーからなる膜を冷却することにより、ナーリング70を形成することができる。
【0055】
なお、ナーリング形成工程を、湿潤フィルム乾燥工程内で行っても良い。例えば、ナーリング形成工程を行うタイミングは、ピンテンタ35と乾燥室37との間でも良いし、乾燥室37や冷却室38の中でも良い。また、フィルムロール55から引き出したフィルムについて、所定の工程(例えば、延伸工程)を行った後、ナーリング形成工程を行ってもよい。
【0056】
上記実施形態では、ドープ14の支持体として流延ドラム22を用いたが、ドープ14の支持体として、ドライブローラやフリーローラに掛け渡されたエンドレスバンドを用いても良い。また、支持体上の流延膜30からポリマー溶剤13を蒸発させてもよい。
【0057】
フィルム74の長さは、例えば、2000m以上8000m以下であることがより好ましい。
【0058】
フィルム基部75の幅W75(図4参照)は、600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、フィルム基部75の幅W75が2500mmより大きい場合にも効果がある。フィルム基部75の厚さd75(図4参照)は、30μm以上200μm以下であることが好ましく、40μm以上150μm以下であることがより好ましく、40μm以上100μm以下であることがさらに好ましい。
【0059】
ナーリング部76の幅W76は10mm以上30mm以下であることが好ましい。また、ナーリング部76の厚みd76は1μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0060】
上記実施形態では、溶液製膜方法により得られたフィルム11にナーリングを設ける場合に本発明を用いたが、溶融製膜方法により得られたフィルム11にナーリングを設ける場合にも本発明を適用することができる。
【0061】
なお、上記実施形態では、塗布ダイ61dよりもX方向下流側においてフィルム11の搬送路を直線状に形成したが、本発明はこれに限られず、塗布ダイ61dよりもX方向下流側において、フィルム製造部10aから巻取部10cにかけて千鳥状に並べられた搬送ローラにより、フィルム11の搬送路の形態を蛇行状、すなわち、乾燥室37に設けられた湿潤フィルム19の搬送路(図1参照)と同様のものとしても良い。このように搬送ローラを配することにより、乾燥工程を行うためのスペースを抑えることができる。フィルム11の一方の面側を支持してフィルム11を搬送する搬送ローラとして、段付きローラを用いることが好ましい。また、フィルム11の他方の面側を支持してフィルム11を搬送する搬送ローラとして、通常の搬送ローラ、すなわち軸方向において径が一定の搬送ローラを用いても良いし、段付きローラを用いても良い。
【0062】
段付きローラ80は、図8に示すように、製品部11cのみを支持する大径ローラ部80cと、大径ローラ80cの軸方向両端に設けられ径が大径ローラ部80cに比べて小さい小径ローラ部80eとからなる。段付きローラ80は、大径ローラ部80cにより製品部11cのみを支持可能である。このような段付きローラ80により耳部11eの非接触状態を維持しつつ、フィルム11を搬送することができる。
【0063】
なお、段付きローラに代えて、短軸ローラを用いても良い。短軸ローラは、段付きローラ80の小径ローラ部80eを省略したものである。
【0064】
なお、塗布ダイ61dよりもX方向下流側におけるフィルム11の搬送方法として、搬送ローラを用いずに、浮上風をあててもよい。
【0065】
なお、乾燥手段として表側乾燥ダクト62及び裏側乾燥ダクト63を用いたが、本発明はこれに限られず、乾燥手段として表側乾燥ダクト62を用い、裏側乾燥ダクト63を省略しても良い。
【0066】
(原料ポリマー)
上記実施形態では、ポリマーフィルムの原料となるポリマーは、特に限定されない。溶液製膜方法を行う場合には、原料ポリマーとして、例えば、セルロースアシレートや環状ポリオレフィン等がある。一方、溶融製膜方法を行う場合には、原料ポリマーとして、例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状ポリオレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状ポリオレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状ポリオレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状ポリオレフィンである。
【0067】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわち、アシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、アシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.0≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0068】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0069】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0070】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶剤において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0071】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0072】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0073】
(ポリマー溶剤)
ドープを調製するためのポリマー溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶剤に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0074】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0075】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶剤組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素原子数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶剤として用いることができる。
【0076】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明にも適用できる。また、溶剤及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
【0077】
なお、ナーリング形成液64の塗布によりナーリング部76を形成したが、モノマー及び溶剤を含む塗布液を塗布する塗布工程と、当該塗布液から溶剤を蒸発させる乾燥工程と、当該塗布液に含まれたモノマーの重合を行う重合工程とからナーリング部76を形成してもよい。塗布液に含まれるモノマーは、重合工程により架橋構造のポリマーとなる必要がある。
【0078】
(用途)
本発明のポリマーフィルムは、偏光板保護フィルムや位相差フィルムとして有用である。このポリマーフィルムに光学的異方性層、反射防止層、防眩機能層等を付与して、高機能フィルムとしてもよい。
【実施例】
【0079】
(実験1)
ナーリング形成液Aの調製に用いた化合物を下記に示す。
セルローストリアセテート(酢化度:60.8%) 100 質量部
可塑剤A(トリフェニルホスフェート) 7.6 質量部
可塑剤B(ジフェニルホスフェート) 3.8 質量部
二酸化ケイ素(平均粒径:15nm、モース硬度:約7) 0.05質量部
からなる固形分を
ジクロロメタン 378 質量部
メタノール 68 質量部
からなる混合溶剤に適宜添加し、攪拌溶解してナーリング形成液Aを調製した。
【0080】
ナーリング形成部10bでは、図2に示すように、フィルム11の両耳部11eにナーリング形成液Aを塗布し、液膜68を形成した。Y方向における液膜68の長さは、それぞれ10mmであった。その後、通常の搬送ローラと段付きローラ80とを千鳥状に配してなるフィルム11の搬送路へ、液膜68を有するフィルム11を送った。表側乾燥ダクト62aは液膜68に向けて乾燥風63a(温度100℃)を20秒間送り出し、裏側乾燥ダクト63bは、フィルム11の他方の面の耳部に向けて乾燥風63b(温度80℃)を20秒間送り出した。液膜68の乾燥により、フィルム基部75と、フィルム基部75の両耳部75eに形成された1条のナーリング部76とを有するフィルム74を得た。フィルム基部75の厚さd75は60μmであった。ナーリング部76の厚みd76は6μmであった。ナーリング部76の幅W76は10mmであった。また、フィルム基部75やナーリング部76の厚み差は、最大のものでも0.1μmであった。
【0081】
(実験2〜3)
フィルム基部75の厚さd75、ナーリング部76の厚みd76、幅W76を表1に示すものとしたこと以外は、実験1と同様にして、フィルム74を得た。
【0082】
【表1】

【0083】
(実験4〜6)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA 日本化薬製)100質量部を、質量部103のメチルエチルケトンに溶解させて、溶液1を得た。光重合開始剤(イルガキュア907、チバガイキー社製)3質量部を、10質量部のメチルエチルケトンに溶解させて、溶液2を得た。溶液1に溶液2を添加して、ナーリング形成液Bを調製した。
【0084】
ナーリング形成部10bでは、両耳部11eにナーリング形成液Bを塗布し、塗布膜を形成した。Y方向における塗布膜の長さは、実験4,5では10mm、実験6では20mmであった。その後、通常の搬送ローラと段付きローラ80とを千鳥状に配してなる搬送路へ、塗布膜を有するフィルム11を送った。表側乾燥ダクト62aは塗布膜に向けて乾燥風63a(温度100℃)を、20秒間送り出し、裏側乾燥ダクト63bは、フィルム11の他方の面の耳部11eに向けて乾燥風63b(温度100℃)を20秒間送り出した。塗布膜の乾燥後、窒素パージ(酸素濃度0.1%以下)下で、240W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度400mW/cm、照射量300mJ/cmの紫外線を塗布膜に照射した。紫外線照射により、ポリマーからなるナーリング部76をフィルム基部75の両耳部75eに有するフィルム74を得た。フィルム基部75の厚さd75、ナーリング部76の厚みd76、幅W76を表1に示すとおりである。
【0085】
(実験7)
フィルムの耳部にナーリングローラを押し当てて、両耳部にナーリング部を有するフィルムを得た。このフィルムの断面形状は、図9と略同様である。窪み部202の底におけるフィルムの厚みdxは表1の厚さd75に、窪み部202の底からナーリング201の頂上までの高さhxは表1の厚みd76に、ナーリング201の最大幅Wxは表1の厚みW76にそれぞれ示す。
【0086】
(実験8)
厚みdx(表1中では厚さd75として表記)、高さhx(表1中では厚みd76として表記)、最大幅wx(表1中では厚みW76として表記)を表1に示すものとしたこと以外は、実験1と同様にして、フィルム74を得た。
【0087】
実験1〜8により得られたフィルムについて、次の評価を行った。
【0088】
1.発塵評価
パーティクルカウンターを用いて、得られたフィルムの耳部近傍の雰囲気に含まれる大きさ1μm以上塵埃の数をカウントし、以下基準に基づいて評価を行った。
○:1ftあたりの塵埃の数が、1個以下であった。
△:1ftあたりの塵埃の数が、2個以上9個以下であった。
×:1ftあたりの塵埃の数が、10個以上であった。
【0089】
2.耳部変形評価
得られたフィルムの耳部(端から10mmまでの範囲)について、波打ち変形の規模を評価を行った。ここで、フィルムの耳部のうち、一方の面側に突出する部分と他方の面側に突出する部分とのギャップ高さΔHを、波打ち変形の規模の大きさの指標とし、以下基準に基づいて評価を行った。
○:ΔHが1mm未満であった。
×:ΔHが1mm以上であった。
【0090】
各評価項目についての評価結果を表1に示す。なお、表1の評価結果における数字は、上述した評価項目に付した数字を表す。また、表1のナーリング形成方法に示すAは、「ナーリング形成液の塗布」を表し、Bは「塗布液の重合」を表し、Cは「ナーリングローラの押し当て」を表す。
【符号の説明】
【0091】
10 溶液製膜設備
11 フィルム
11e 耳部
17 ナーリング形成装置
61 塗布ダイ
62 乾燥ダクト
63 乾燥風
64 ナーリング形成液
70 ナーリング
74 フィルム
75 フィルム基部
76 ナーリング部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーウェブの表面から突設するナーリングを前記ポリマーウェブの幅方向両縁部に形成するナーリング形成方法において、
前記表面の幅方向両縁部に向けてナーリング形成材料を送り出し、前記ナーリング形成材料からなる膜を前記表面の幅方向両縁部に形成する塗布工程と、
前記膜の乾燥により前記膜から前記ナーリングを得る乾燥工程とを有することを特徴とするナーリング形成方法。
【請求項2】
前記ナーリング形成材料には前記ポリマーウェブの原料ポリマーが含まれることを特徴とする請求項1記載のナーリング形成方法。
【請求項3】
前記乾燥工程では、前記膜及び前記ポリマーウェブの裏面へ乾燥風をあてることを特徴とする請求項1または2記載のナーリング形成方法。
【請求項4】
前記乾燥工程では、前記表面を支持する表面側搬送ローラと前記裏面を支持する裏面側搬送ローラとが千鳥状に並べられてなる搬送手段を用いて、前記ポリマーウェブを搬送することを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載のナーリング形成方法。
【請求項5】
前記裏面側搬送ローラは、前記ポリマーウェブの幅方向中央部のみを支持することを特徴とする請求項4記載のナーリング形成方法。
【請求項6】
ポリマー及び溶剤を含むドープを支持体に向けて連続的に流出し、前記ドープからなるウェブ状の流延膜を前記支持体上に形成する膜形成工程と、
前記流延膜が自立して搬送可能な状態となるまで前記流延膜から前記溶剤を蒸発させる膜乾燥工程と、
前記膜乾燥工程を経た前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取り湿潤ウェブとする剥取工程と、
前記湿潤ウェブから前記溶剤を蒸発させて前記ポリマーウェブとする湿潤ウェブ乾燥工程とを有し、
前記ポリマーウェブに対し、請求項1ないし5のうちいずれか1項記載のナーリング形成方法を行うことを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項7】
ポリマーウェブの表面から突設するナーリングを前記ポリマーウェブの幅方向両縁部に形成するナーリング形成装置において、
前記表面の幅方向両縁部に向けてナーリング形成材料を送り出し、前記ナーリング形成材料からなる膜を前記表面の幅方向両縁部に形成する塗布手段と、
前記膜の乾燥により前記膜から前記ナーリングを得る乾燥手段とを有することを特徴とするナーリング形成装置。
【請求項8】
前記乾燥手段は、
前記膜に乾燥風をあてる表側乾燥手段と、
前記ポリマーウェブの裏面へ乾燥風をあてる裏側乾燥手段とを備えたことを特徴とする請求項7記載のナーリング形成装置。
【請求項9】
前記乾燥手段は、
前記ポリマーウェブを搬送する搬送手段を備え、
前記搬送手段は、
前記表面を支持する表面支持ローラと前記裏面を支持する裏面支持ローラとが千鳥状に配されてなることを特徴とする請求項8記載のナーリング形成装置。
【請求項10】
前記表面支持ローラは、
前記ポリマーウェブの幅方向中央部のみを支持する大径ローラ部と、
前記大径ローラの軸方向両端に設けられ前記大径ローラよりも径の小さい小径ローラ部とを備えたことを特徴とする請求項9記載のナーリング形成装置。
【請求項11】
ウェブ状のフィルム基部と、
前記フィルム基部の幅方向両縁部に設けられ、前記幅方向両縁部の表面から突出するナーリング部とを備え、
前記フィルム基部及び前記ナーリング部の厚みが幅方向に一様であり、
前記ナーリング部が前記フィルム基部に含まれるポリマーから形成されたことを特徴とするポリマーフィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−206312(P2012−206312A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72198(P2011−72198)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】