説明

ニオブ粉末及び固体電解コンデンサ

【課題】 ニオブコンデンサの酸化皮膜の熱安定性を高め、漏れ電流が小さく、熱負荷後の漏れ電流の劣化を少なく、かつ、高容量のコンデンサを作るためのニオブ粉末を提供する。
【解決手段】 水素:0.005〜0.10質量%、及び硫黄:0.002〜5質量%を含有し、さらに、マグネシウム及びアルミニウムの一方又は合計:0.002〜1質量%を含有し、残部が実質的にニオブからなり、粉末の比表面積が1〜10m2/g、二次粒子の平均粒子径が10〜200μmである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ニオブ粉末及びその粉末を用いて形成した固体電解コンデンサに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、電解コンデンサにはタンタル粉末が用いられてきたが、生産量が少なく、価格が安定しないなどの問題があった。近年、埋蔵量も多く安価なニオブを電解コンデンサの陽極(アノード)に用いようとする動きが加速している。しかしニオブを用いたものはタンタルを用いたものに比べ、いくつかの欠点がある。一番の問題は、ニオブの酸化皮膜は熱的安定性が悪いと言うことである。このことは、部品実装時の熱負荷により漏れ電流の劣化を引き起こす。
【0003】この対策として、漏れ電流低減のために、窒素添加等の手段が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。しかしながら、このような手段は熱的安定性を改善するための手段とはなり得なかった。
【0004】従来、五塩化ニオブを水素によって還元してニオブ粉とする技術があるが、この場合ニオブ粉中に残留する水素が0.7〜0.8質量%にも達し、電解コンデンサ用の粉末としては静電容量もやや劣り、漏れ電流、熱負荷後の漏れ電流が大きい。
【0005】これに対し本発明者らは、先に水素を1〜600ppm含有し、残部が実質的にニオブであるニオブ粉末を提供している(例えば、特許文献1参照。)。このようなニオブは上記五塩化ニオブを水素で還元して得たニオブ粉を例えばAr雰囲気中で約1000℃以上の温度で熱処理したものである。固体電解コンデンサのアノードとして用いると、コンデンサの静電容量が大きく、漏れ電流も少なく、優れている。
【0006】固体電解コンデンサはニオブ、酸化ニオブ、固体電解質、グラファイト、銀等が積層された構造となっており、ニオブ粉末を1000〜1400℃で焼結し、多孔性の焼結体を製造した後、化成処理し、ニオブの表面に酸化ニオブを形成させ、次いで固体電解質、グラファイト、銀を形成し、最後にニオブに外部端子としてアノードを接続して製造される。
【0007】
【非特許文献1】金属Vol.72(2002)No.3、p221
【特許文献1】特願2002−11824号出願(第2−6頁)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記特願2002−11824号出願の技術にさらに改善を加えたものであって、ニオブを用いた固体電解コンデンサにおける酸化皮膜の熱安定性を高め、漏れ電流が小さく、熱負荷後の漏れ電流の劣化も少なく、かつ、高容量のコンデンサを作るための、ニオブ粉末及びそれを用いた固体電解コンデンサを提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、水素:0.005〜0.10質量%及び硫黄:0.002〜5質量%を含有し、残部が実質的にニオブからなり、粉末の比表面積が1〜10m2/gであることを特徴とするニオブ粉末である。
【0010】上記粉末に、さらに、マグネシウム及びアルミニウムの一方又は合計:0.002〜1質量%を含有すると特性がさらに改善され、好ましい。
【0011】本発明により、ニオブ粉末中の水素量を所定の量に制限し、硫黄を添加し、さらにマグネシウム、アルミニウムを添加していくと漏れ電流が低下することが見出され、さらに、ニオブの酸化皮膜の熱的な安定性が改善されることが見出されたのである。
【0012】また上記粉末において、二次粒子の平均粒子径が10〜200μmであると好適である。上記効果は微細な一次粒子径の粉末において顕著であり、高容量と低漏れ電流を兼ね備えた電解コンデンサ用のニオブ粉末が出来上がる。さらに、二次粒子径の平均を10〜200μmに合わせることによって、微細粒子であっても成形性を維持できることとなる。さらに、驚くべきことは硫黄を適量添加したニオブ粉末は、成型時の圧力を小さくすることができ、また水素を適量に含有させたニオブ粉は、プレス後の二次粒子の境界が見えなくなり、成型体のエッジの欠けが発生しなくなる。よって、それらを添加しないニオブ粉末に比べ成形性を改善できると言うことである。
【0013】これらのいずれかのニオブ粉末を原料とし、コンデンサ内部にアノードとして焼結体を形成した固体電解コンデンサは、静電容量、漏れ電流特性において、優れた性能を有するものとなる。
【0014】
【発明の実施の形態】ニオブ粉末の製造はCVD装置等で行うことができる。原料として五塩化ニオブと硫黄化合物との混合物を用い、水素ガスを用いて還元することにより、ニオブ粉末を製造する。粒子径は原料の滞留時間温度等をコントロールすることで適当な径に制御することができる。さらに、アルゴンなどの非水素ガス雰囲気中で約1000℃で熱処理を行うことによって、粒子径と水素濃度を制御する。このニオブ粉末を用いた電解コンデンサは静電容量特性が優れ、漏れ電流、熱負荷後の漏れ電流が小さい。
【0015】また、上記ニオブ粉末の製造方法において、原料として五塩化ニオブ、マグネシウム、アルミニウム等の塩化物および硫黄化合物の混合物を用い、水素ガスを用いて還元することにより、さらに、漏れ電流、熱負荷後の漏れ電流が小さくなる。
【0016】以上のようにして作成したニオブ粉末を用い、以下の方法によって固体電解コンデンサを製作し、静電容量、漏れ電流を測定した。0.1gのニオブ粉末に、陽極に用いるφ0.3μmのニオブ線材を埋め込み嵩密度3000kg/m3にプレス成型した。作成したペレットは、炉内圧1×10-3Paの雰囲気で、1100〜1400℃で焼成した。そのペレットを0.8質量%のリン酸水溶液に浸漬させ、20Vの電圧を4時聞印加し化成皮膜を生成させた。その後40質量%の硫酸溶液中でニオブコンデンサの容量及び漏れ電流の測定を行った。漏れ電流は、14V印加時の5分後の値、容量は1.5Vのバイアスをかけた状態における120Hzの値を測定した。
【0017】
【実施例】以下に実施例をあげて本発明の具体例を説明する。
【0018】(実施例1〜5、比較例1〜6)五塩化ニオブの水素還元でニオブ粉末を作成するにあたり、硫黄、塩化アルミニウム、塩化マグネシウムの添加量を変えて、ニオブ粉末中の成分を変えた。さらに、実施例1〜5、比較例1〜4および6についてはアルゴン雰囲気中で熱処理をし、その際の熱処理の温度を変化させ粒子径を変化させた。このニオブ粉末を用いてペレットを作成し、前述の処理を行い、特性を測定した。結果を表1に示した。
【0019】
【表1】


【0020】ニオブ粉末中の水素含有量は熱電導度法で、硫黄含有量は燃焼−赤外線吸収法で測定した。ニオブ粉末中のアルミニウム含有量、マグネシウム含有量は、ニオブ粉末にフッ化水素酸および硝酸を添加し、水浴中で加熱分解後、ICP法で測定した。
【0021】ニオブ粉末の比表面積はBET法で測定した。また、レーザー粒度分布測定装置を用いてニオブ粉末のD50を求め、この値を平均二次粒子径とした。
【0022】表1に示すように、硫黄が0.002〜5質量%、水素が0.01〜0.05質量%の範囲では静電容量が大きく、かつ、漏れ電流が低いのに対し、それ以外の領域では成績が悪かった。
【0023】硫黄が0.002〜5質量%の範囲で、かつ、アルミニウムやマグネシウムが適量は入った領域では、静電容量が大きく、さらに漏れ電流が低いコンデンサを製作することができた。
【0024】また上記で作成した化成処理後のサンプルを、250℃に加熱した乾燥炉の中に1時間放置した後(熱負荷後)、漏れ電流の測定を行った。硫黄等を入れていないサンプルでは、加熱後の漏れ電流の平均は約15倍に増加したのに対し、本発明のニオブ粉末を用いたサンプルでは、加熱の前後で大きな差は見られなかった。
【0025】
【発明の効果】本発明によれば、ニオブ粉末に特定の成分を加え、コンデンサを作成したときに重要な酸化皮膜を安定化させることができるようになった。この結果、部品装着時(リフロー)の特性劣化を防止できるだけでなく、環境問題に配慮した、鉛フリーのはんだ使用にも十分耐えられるようになった。さらに皮膜の安定化により、漏れ電流が低下し、高容量で特性の優れたニオブコンデンサを製作することができるようになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水素:0.005〜0.10質量%及び硫黄:0.002〜5質量%を含有し、残部が実質的にニオブからなり、粉末の比表面積が1〜10m2/gであることを特徴とするニオブ粉末。
【請求項2】 さらに、マグネシウム及びアルミニウムの一方又は合計:0.002〜1質量%を含有することを特徴とする請求項1記載のニオブ粉末。
【請求項3】 二次粒子の平均粒子径が10〜200μmであることを特徴とする請求項1又は2記載のニオブ粉末。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれかに記載のニオブ粉末を原料とする焼結体をコンデンサ内部にアノードとして形成してなることを特徴とする固体電解コンデンサ。

【公開番号】特開2003−342603(P2003−342603A)
【公開日】平成15年12月3日(2003.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−372394(P2002−372394)
【出願日】平成14年12月24日(2002.12.24)
【出願人】(000200301)川鉄鉱業株式会社 (79)
【Fターム(参考)】