説明

ニッケルめっき皮膜中の不純物の定量方法

【課題】 簡便で確実なニッケルめっき皮膜中の不純物の定量方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 ニッケルめっき被膜を有する金属部材を試料とし、この試料を、例えば60%硝酸と3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムとエチレンジアミンからなる40〜80℃のニッケルめっき皮膜剥離液に浸漬してニッケルめっき皮膜と金属部材とを分離し、得られたニッケルめっき皮膜を溶解し、得た溶液中のニッケルおよび不純物の量を、ICP発光分析装置もしくはICP質量分析装置を用いて求め、得た値よりニッケルめっき皮膜中の不純物濃度をもとめる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルめっき皮膜中に含有されている不純物の定量方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄や他の金属、合金等の金属部材の表面に施されたニッケルめっき皮膜中に含有されている不純物を定量する場合、金属部材表面のニッケルめっき皮膜層のみを溶解して得た溶液を用いて定量するか、金属部材のみを選択的に溶解し、得られたニッケルめっき皮膜を洗浄後、溶解し、得た溶液を用いて定量することが好ましい。
【0003】
しかし、ニッケルめっき皮膜層のみを溶解しようとして硝酸、塩酸、硫酸等の適当な無機酸に試料のニッケルめっき皮膜面を浸漬すると、ニッケルめっき皮膜層が溶解して露出した下地の金属部材が即座に無機酸によって侵食される。このため、無機酸にニッケルめっき皮膜層を浸漬する方法では、ニッケルめっき皮膜層のみを溶解することができない。
【0004】
また、金属部材のみを溶解すべく無機酸に試料の金属部材部を浸漬しても同様な問題が発生する。
【0005】
こうした問題を解決する方法として、非特許文献1に記載された方法がある。すなわち、試料のニッケルめっき皮膜部分を硝酸、塩酸、硫酸等の適当な無機酸に一定時間浸漬させて溶解し、めっき試料を引き上げる。得られた溶液を溶液1とする。次にこの操作を繰り返して溶液2を得る。そうして、前記操作を逐次繰り返して、溶液3〜溶液nを得る。次に、溶液1から溶液nまでのそれぞれの溶液ごとにめっき皮膜成分であるニッケル、金属部材の主成分、目的成分である不純物についての濃度をそれぞれ求め、それぞれの濃度の関係よりニッケルめっき皮膜成分由来の不純物濃度を計算する。
【0006】
しかし、この方法では一定時間ごとに試料を浸漬、溶解、引き上げ、洗浄、秤量の操作を繰り返さなければならず、測定溶液の調製に時間がかかるという問題がある。また測定する溶液数が非常に多くなりかつ、めっき皮膜成分、金属部材成分、不純物の3成分を定量するために、測定にも時間がかかるという問題がある。
【0007】
ところで、めっき業界では、ニッケルめっき工程で発生した不良品の金属部材を有効活用すべく、ニッケルめっき剥離液を用いてニッケルめっき皮膜を金属部材から除去することが行われている。しかし、これをニッケルめっき皮膜の分析に用いる手法は未だ提案されていない(非特許文献2参照)。
【非特許文献1】日本分析化学会第54年回講演要旨集C3018 社団法人日本分析学会
【非特許文献2】本田健一ら編 表面・界面工学大系下巻 応用編45〜48頁 株式会社テクノシステム出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、簡便で確実なニッケルめっき皮膜中の不純物の定量方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は種々検討した結果、前記ニッケルめっき皮膜剥離液を用いてニッケルめっき皮膜を金属部材面より剥離し、得たニッケルめっき皮膜のみを溶解し、この溶液を用いれば、前記課題を解決しうることを見いだし、本発明に至った。
【0010】
すなわち、前記課題を解決する本第1の発明は、ニッケルめっき被膜を有する金属部材を試料とし、この試料をニッケルめっき皮膜剥離液に浸漬してニッケルめっき皮膜と金属部材とを分離し、得られたニッケルめっき皮膜を溶解し、得た溶液中の不純物の量を、ICP発光分析装置もしくはICP質量分析装置を用いて求め、得た値よりニッケルめっき皮膜中の不純物濃度をもとめるものである。
【0011】
そして、本第2の発明は、前記発明に加えて前記試料を前記ニッケルめっき剥離液に浸漬した後、ニッケルめっき剥離液の温度を40〜80℃とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属部材を溶解させること無く剥離して得たニッケルめっき皮膜を溶解し、得た溶液中のニッケルと目的の不純物との量を求め、得た値よりニッケルめっき皮膜中の不純物濃度を求める。このため、本発明の方法は従来のどの方法よりも簡便、かつ正確なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の方法では、ニッケルめっき皮膜を有する金属部材を試料とし、この試料をニッケルめっき皮膜剥離液(以下、単に「剥離液」と示す。)に浸漬し、ニッケルめっき皮膜と金属部材とを分離する。
【0014】
この剥離液は通常、酸成分と酸化剤成分と液性調整剤成分とから構成するが、市販のものを利用してもよく、前記非特許文献2等の刊行物に記載された組成で合成して得てもよい。
【0015】
通常、試料を剥離液に浸漬した後、剥離液の温度を40〜80℃、より好ましくは50〜70℃に加温すると、剥離速度が好適になる。この温度範囲より低い場合には剥離に時間がかかりすぎるか、剥離しないという事態になり、この温度範囲より高い場合には、金属部材の溶解が始まるからである。
【0016】
ニッケルめっき皮膜を剥離した後、ニッケルめっき皮膜を常法に従って加熱溶解する。用いる酸としては、硝酸、塩酸、硫酸等の無機酸、好ましくは硝酸を用いる。加熱方法については拘らない。ニッケルめっき皮膜が完全に溶解した後、常温まで放冷し、メスフラスコ等に移し入れ、オルガノ清水を加えて一定容量にする。
【0017】
この溶液を必要に応じて希釈し、希釈液中のニッケルおよび目的とする不純物の濃度をICP発光分析装置もしくはICP質量分析装置で測定する。希釈は、試料量や目的不純物の量にもよるが、5〜100倍程度に希釈するのが好ましい。希釈倍率が不十分の場合には、液中のニッケル濃度が高くなり、測定中に分析装置の試料導入経路が詰まり、測定強度が低下して測定が不可能となる。また、あまりに希釈しすぎると、不純物の濃度が分析装置の定量下限より小さくなり、正確に測定できない虞がある。
【0018】
以下、実施例を元に本発明を説明する。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
鉄板の表面にニッケルめっき皮膜が施された試料1を、ニッケルめっき皮膜を含むように一辺が約10mmの板状に切り出し、100mlビーカーに入れ、次に表1に示した組成の皮膜剥離液15mlを添加し、時計皿でビーカーを覆い、試料全体が剥離液に浸漬された状態でウォーターバス中に入れ、剥離液の温度を60℃にし、この温度でニッケルめっき皮膜が完全に剥離するまで保持した。完全に剥離するまで約8時間の保持時間が必要とされた。
【0020】
【表1】

【0021】
次に、ビーカーより鉄部分を取り出し、純水洗浄し、洗浄液をビーカー内の剥離液に加えた。そして、60%硝酸20mlをビーカー内に添加してビーカーを加熱し、ニッケルめっき皮膜を完全に溶解した。得た溶液を放冷後、100mlメスフラスコに移し入れて純水で定容して溶液1を得た。
【0022】
次に、溶液1の5mlを50mlメスフラスコに取り、60%硝酸5mlを添加して純水で定容して溶液1−1を得、この溶液中の鉄、ニッケル、カドミウムおよびクロムの濃度を求めた。得られた値より試料1のニッケル、カドミウム、クロムの各濃度を求めた。得られた結果の内、カドミウム、クロムについての濃度を表2に示した。表2中に示さなかったけれども、鉄濃度は0.01%以下であり、被めっき材である鉄はほとんど溶解していないことがわかった。
【0023】
なお、ニッケルはエスアイアイ・ナノテクノロジー社製のSPS4000というICP発光分析装置で測定し、カドミウムおよびクロムはサーモフィッシャーサイエンティフィック社製のELEMENT2というICP質量分析装置で測定した。
【0024】
次に、溶液1の1mlを50mlメスフラスコに取り、60%硝酸5mlをメスフラスコ内の溶液に添加して、純水で定容して溶液1−2を得た。この溶液中の鉛濃度をICP質量分析装置で求めた。得られた値より試料1中の鉛濃度を求め、表2に示した。
【0025】
なお、測定に使用したICP質量分析装置はサーモフィッシャーサイエンティフィック社製のELEMENT2である。
【0026】
(実施例2)
実施例1で用いた試料1と別の、鉄板の表面にニッケルめっき皮膜が施された試料2を、ニッケルめっき皮膜を含むように一辺が約5mmのさいころ状に切り出して用いた以外は実施例1と同様にして溶液2、溶液2−1、溶液2−2を得、同様にカドミウム、クロム、鉛の定量を行い、試料2中の鉄、ニッケル、カドミウム、クロム、鉛の濃度を求め、その結果を表2にあわせて示した。なお、表2中に示さなかったけれども、鉄濃度は0.01%以下であり、実施例1と同様に被めっき材である鉄はほとんど溶解していないことがわかった。
【0027】
【表2】

【0028】
(実施例3)
剥離液の温度を40℃、60℃、80℃と変化させた以外は実施例1と同様にしてカドミウム、クロム、鉛の定量を行い、その結果を表3に示した。表3の結果から剥離液の温度を40〜80℃に変化させても、定量値はほぼ同じであることが分かった。表3中に示さなかったけれども、鉄濃度は0.01%以下であり、被めっき材である鉄はほとんど溶解していないことがわかった。
【0029】
【表3】

【0030】
(実施例4)
表4に示した組成の剥離液(2)を用いた以外は実施例1と同様にして試料1と2とのカドミウム、クロム、鉛の濃度を求めた。得られた結果を表5に示した。
【0031】
表5より、ニッケルめっき皮膜剥離液の組成を変化させても、定量値はほぼ同じであることがわかった。なお、被めっき材である鉄の濃度は0.01%以下であり、鉄はほとんど溶解していないことがわかった。
【0032】
【表4】

【0033】
【表5】

【0034】
(実施例5)
試料1,2より切り出した板状試料を曲げ、剥離液(1)に浸漬させずに、5%硝酸溶液にニッケルめっき皮膜のみ浸漬させてニッケルめっき皮膜の溶解を試みた。いずれの試料も浸漬させたニッケルめっき皮膜の溶解が完了しない間に、部分的に露出した鉄が溶解し、ニッケルめっき皮膜のみを溶解させることはできなかった。
【0035】
(実施例6)
試料1を、ニッケルめっき皮膜を含むように、その一辺を10mmの板状に切り出し、剥離液(1)に完全に浸漬させた後、室温(約20℃)に放置した。ニッケルめっき皮膜層の剥離・溶解がほとんど進行せず、実用上ニッケルめっき皮膜と鉄とを分離することはできなかった。
【0036】
(実施例7)
試料1を、ニッケルめっき皮膜を含むように、その一辺を10mmの板状に切り出し、剥離液(1)に完全に浸漬させた後、剥離液の温度を約90℃にした以外は 実施例1と同様に操作した。ニッケルめっき皮膜剥離液中に鉄が溶解しており、ニッケルめっき皮膜層のみを溶解させることは不可能であった。
【0037】
(実施例8)
実施例1の溶液1を希釈せずに、IPC質量分析装置にかけ、カドミウム、クロムおよび鉛の濃度を測定したが、測定中にICP質量分析装置の試料導入経路が詰まり、測定強度が低下して測定が不可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルめっき被膜を有する金属部材を試料とし、この試料をニッケルめっき皮膜剥離液に浸漬してニッケルめっき皮膜と金属部材とを分離し、得られたニッケルめっき皮膜を溶解し、得た溶液中の不純物の量を、ICP発光分析装置もしくはICP質量分析装置を用いて求め、得た値よりニッケルめっき皮膜中の不純物濃度をもとめることを特徴とするニッケルめっき皮膜中の不純物の定量方法。
【請求項2】
前記試料を前記ニッケルめっき剥離液に浸漬した後、ニッケルめっき剥離液の温度を40〜80℃とする請求項1記載の定量方法。

【公開番号】特開2008−232730(P2008−232730A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70724(P2007−70724)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】