説明

ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法

【課題】錯形成剤やハロゲンなどの混入がなく、リチウムイオン電池正極材料の原料として好適な平均粒径を有する高密度で球状のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を工業生産上安定的に製造するための方法の提供。
【解決手段】次の一般式(1):
Ni(1−x−y)CoAlO …(1)
(式中、xは、0.05〜0.3、yは、0.05〜0.2である。)
で表されるニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を製造する方法であって、
(i)反応槽内の空間部に不活性ガスを供給しながら、ニッケル化合物とコバルト化合物を含む水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、及びアンモニウムイオン供給体を含む水溶液からなる原料溶液を、それぞれ該反応槽内に個別にかつ同時に供給して反応させ、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を得る工程、および
(ii)得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を、大気雰囲気中において300℃から500℃までの昇温速度を4℃/分以下として昇温し、最高到達温度を600〜900℃の温度として焼成し、上記ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を得る工程、を含むことを特徴とするニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法により提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物の製造方法に関し、さらに詳しくは、錯形成剤やハロゲンなどの混入がなく、リチウムイオン電池正極材料の原料として好適な平均粒径を有する高密度で球状のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を工業生産上安定的に製造するための方法に関する。なお、本発明のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を原料として用いて、安全性やサイクル特性の良好なリチウムイオン電池正極材料が得られる。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン等の小型電子機器の急速な拡大とともに、充放電可能な電源として、リチウムイオン二次電池の需要が急激に伸びている。リチウムイオン二次電池の正極材料としては、リチウムコバルト複合酸化物とともにリチウムニッケル複合酸化物が広く用いられている。
【0003】
リチウムニッケル複合酸化物は、通常、リチウム化合物とニッケル化合物を混合焼成して製造されている。しかしながら、純粋なニッケル化合物から合成した純粋なリチウムニッケル複合酸化物では、安全性、サイクル特性等に問題があり、実用電池として使用することができなかった。
この解決策としては、コバルト、マンガン、鉄等の遷移金属元素又はアルミニウムを添加することで、リチウムイオン電池の正極材料として安全性やサイクル特性が良好なリチウムニッケル複合酸化物を得ることが一般的である。
【0004】
従来、リチウムニッケル複合酸化物へのアルミニウムの添加方法としては、遷移金属元素とともにアルミニウムを含有する水酸化ニッケルとリチウム化合物とを混合し焼成する方法が用いられていた。例えば、アルミニウムを含有する水酸化ニッケルの製造方法としては、以下の方法が開示されているが、それぞれ問題があった。
【0005】
(1)ニッケル塩とアルミニウム塩の混合水溶液を用いて、錯形成剤の存在下でニッケルアルミニウム複合水酸化物を共沈殿させる方法(例えば、特許文献1参照)。
この方法では、錯形成剤としてアンモニア化合物を用いた場合、錯形成せずに生成した微細な水酸化アルミニウムが水酸化ニッケル粒子の成長を阻害して、高密度でかつリチウムイオン電池正極材料原料用として好適な粒径(5μm以上の平均粒径)を有する粒子は得られない。また、アンモニア化合物以外の錯形成剤を用いた場合には、生成ニッケルアルミニウム複合水酸化物粒子中に錯形成剤が取り込まれるため、不純物を含むニッケルアルミニウム複合水酸化物が得られ、リチウムイオン二次電池用正極材料として用いるリチウムニッケル複合酸化物として好ましくない。
【0006】
(2)ニッケル化合物とアルミニウム化合物とを含有する水溶液から、ハロゲンイオンの存在下にニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を共沈させる方法(例えば、特許文献2参照)。
この方法では、生成した水酸化ニッケル粒子中へのハロゲンの混入が避けられない。したがって、この水酸化ニッケルをリチウムイオン電池正極材料用の原料として用いた場合には、焼成時にハロゲンガスが発生して炉材を痛めるなどの弊害が生じる。
以上のように、従来の製造方法では、水酸化ニッケル粒子中への錯形成剤又はハロゲンの混入を避けることができない。
【0007】
このような状況から、この解決策として、本出願人は、先に、ニッケルとM元素を含む金属化合物の水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、及びアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を、それぞれ同一の反応槽内に個別にかつ同時に供給して反応させることによって、下記の一般式で表されるアルミニウム含有水酸化ニッケル粒子を製造する方法を提案した(特許文献3参照)。
一般式: Ni(1−x−y)Al(OH)
(式中、Mは、Co又はMnから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、xは、0.01〜0.2、及び、yは、0.01〜0.15である。)
【0008】
この方法を工業生産に採用すると、確かに、前記一般式でMとしてマンガンを選択した場合には、得られるニッケルマンガンアルミニウム複合水酸化物粒子に錯形成剤やハロゲンなどの混入がなく、リチウムイオン電池正極材料の原料として好適な高密度の略球状のものが得られる。
しかしながら、前記一般式におけるMとしてコバルトを選択した場合、得られるニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物粒子中に錯形成剤やハロゲンなどの混入はないものの、得られる粒子の粒径が季節により変動して、高密度でかつリチウムイオン電池正極材料原料用として好適な粒径を有する粒子が得られない場合が発生し、ときによりリチウムイオン電池正極材料用の原料として好適なニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物粒子が得られないという新たな問題が明らかになった。
【0009】
一方、得られた高密度の略球状のニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物をリチウムイオン電池正極材料の原料として使用するためには、酸化焙焼してニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を得ることが行なわれている。このような酸化焙焼において、通常のセラミック製のこう鉢へニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物粉末を充填して焼成すると、高密度化してこう鉢中の該粉末の充填密度が向上したことにより水酸化物の分解時に発生する水蒸気の粉末層内からの抜けが悪化したり、あるいは略球状で流れ性が向上したりすること等の理由により、焼成中に該粉末がこう鉢より吹きこぼれるという新たな問題も明らかになった。
【0010】
こうした状況下に、従来技術の問題点を解消して、リチウムイオン電池正極材料原料用として好適なニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を安定的かつ収率よく製造する方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−97857号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献2】特開2002−249320号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献3】特開2006−89364号公報(第1頁、第2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、リチウムイオン電池正極材料原料用として好適な平均粒径を有する高密度で球状のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を、工業生産上安定的に、かつ収率よく製造する方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記目的を達成するために、リチウムイオン電池正極材料の原料用のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物について、鋭意研究を重ねた結果、特定の組成になるように、ニッケル化合物とコバルト化合物を含む水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、及びアンモニウムイオン供給体を含む水溶液からなる原料溶液を供給して反応させる際に、反応槽の液面上に不活性ガスを供給しつつ反応させたところ、錯形成剤やハロゲンなどの混入がなくリチウムイオン電池正極材料の原料として好適なニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を安定的に得られること、また、上記ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を空気雰囲気中で300℃から500℃まで4℃/分以下の速度で昇温して焼成することにより収率よくリチウムイオン電池正極材料の原料として好適な平均粒径を有する高密度で球状のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、次の一般式(1):
Ni(1−x−y)CoAlO …(1)
(式中、xは、0.05〜0.3、yは、0.05〜0.2である。)
で表されるニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を製造する方法であって、
(i)反応槽内の空間部に不活性ガスを供給しながら、ニッケル化合物とコバルト化合物を含む水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、及びアンモニウムイオン供給体を含む水溶液からなる原料溶液を、それぞれ該反応槽内に個別にかつ同時に供給して反応させ、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を得る工程、および
(ii)得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を、大気雰囲気中において300℃から500℃までの昇温速度を4℃/分以下として昇温し、最高到達温度を600〜900℃の温度として焼成し、上記ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を得る工程、を含むことを特徴とするニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記(i)の工程において、ニッケル化合物とコバルト化合物を含む水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液、及びアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を、それぞれ該反応槽内に定量的に連続供給するとともに、水酸化ナトリウム水溶液を、該反応槽内の反応液を所定のpHに保持するために添加量を調整して供給し、かつ、生成されるニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物粒子中に含有されるコバルトの全量に対して3価のコバルトの比率(3価のCoの分析値%/全Co分析値%)が0.25以下になるように該反応槽内の空間部に不活性ガスを供給し、一方、生成されたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物粒子は、オーバーフロー口を経て連続的に排出されることを特徴とするニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は第2の発明において、前記(i)の工程において、反応槽内の空間部に供給される不活性ガスの供給量は、空間部の容積1m当たり2リットル以上とすることを特徴とするニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、前記(i)の工程において、ニッケル化合物とコバルト化合物は、硫酸塩又は塩化物であることを特徴とするニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、前記(i)の工程において、アンモニウムイオン供給体は、アンモニア水、硫酸アンモニウム又は塩化アンモニウムから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とするニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記(i)の工程において、反応槽内における反応液の温度は、40〜60℃でかつ±1℃の温度範囲に制御されることを特徴とするニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法が提供される。
【0020】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、前記(i)の工程において、反応槽内における反応液のpHは、液温を25℃にして測定した基準で11.0〜13.5の範囲内の一定値に保持されることを特徴とするニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法が提供される。
【0021】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明において、前記(i)の工程において、反応槽内に供給する原料溶液の合計流量は、反応槽の容積を1分当たりの供給量で割った値が300〜1200の範囲の一定値に保持されるように調整することを特徴とするニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法が提供される。
【0022】
また、本発明の第9の発明によれば、第1〜8のいずれかの発明において、前記(i)の工程において、反応槽内における反応液のアンモニウムイオン濃度は、5〜25g/リットルの範囲内の一定値に保持されることを特徴とするニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法が提供される。
【0023】
また、本発明の第10の発明によれば、第1〜9のいずれかの発明において、前記(i)の工程において、反応槽として攪拌機、蓋、オーバーフロー口及び温度制御手段を備えた容器を用いることを特徴とするニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法が提供される。
【0024】
また、本発明の第11の発明によれば、第1〜10のいずれかの発明において、前記(ii)の工程において、上部が開放された容器に充填した状態で焼成されることを特徴とするニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法が提供される。
【0025】
また、本発明の第12の発明によれば、第1〜11のいずれかの発明において、前記(ii)の工程において、得られるニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物は、5〜20μmの平均粒径を有する略球状粒子であることを特徴とするニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明の方法は、第一工程でニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を製造した後、第二工程で下記の一般式(1)で表されるニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を製造する二段工程からなり、このことにより、錯形成剤やハロゲンなどの混入がなく、リチウムイオン電池正極材料の原料として好適な平均粒径を有する高密度で球状のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を、工業生産上、季節変動もなく安定的に製造することができるので、その工業的価値は極めて大きい。
Ni(1−x−y)CoAlO …(1)
(式中、xは、0.05〜0.3、及び、yは、0.05〜0.2である。)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法を詳細に説明する。
本発明のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物は、次の一般式(1):
Ni(1−x−y)CoAlO …(1)
(式中、xは、0.05〜0.3、yは、0.05〜0.2である。)
で表される化合物であって、そのニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法(以下、本発明の製造方法ともいう。)は、下記(i)および(ii)の工程を含むことを特徴とする。
(i)反応槽内の空間部に不活性ガスを供給しながら、ニッケル化合物とコバルト化合物を含む水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、及びアンモニウムイオン供給体を含む水溶液からなる原料溶液を、それぞれ該反応槽内に個別にかつ同時に供給して反応させ、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を得る工程
(ii)得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を、大気雰囲気中において300℃から500℃までの昇温速度を4℃/分以下として昇温し、最高到達温度を600〜900℃の温度として焼成し、上記ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を得る工程
【0028】
上記一般式(1)において、式中のxは、コバルト(Co)の含有量を表すが、通常は0.05〜0.3であり、0.1〜0.2が好ましい。すなわち、xが、0.05未満では、元素添加による安全性やサイクル特性の改善の効果が認められない。一方、xが、0.3を超えると、得られた水酸化ニッケルを原料として用いて製造したリチウムイオン正極材料の電池としての容量が低くなりすぎる。
【0029】
また、式中のyは、アルミニウム(Al)の含有量を表すが、通常は0.05〜0.2であり、0.05〜0.15が好ましい。すなわち、yが、0.05未満では、元素添加による安全性やサイクル特性の改善の効果が認められない。一方、yが、0.2を超えると、得られた水酸化ニッケルを原料として用いて製造したリチウムイオン正極材料の電池としての容量が低くなりすぎる。
【0030】
本発明では、上記(i)の工程において、反応槽内の空間部に不活性ガスを供給することが重要である。すなわち、従来の方法では、季節により得られるニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物の粒径が小さくなってしまい、リチウムイオン電池正極材料の原料として好適な平均粒径を有するアルミニウム含有水酸化ニッケル粒子が得られなくなることがあった。この原因の詳細は不明であるが、気温の低下により前記複合水酸化物の粒径が小さくなるとともに3価のコバルトの生成が増加するという現象から、3価のコバルトの生成が該粒径に影響していると推察される。3価のコバルトの生成については、以下のような作用機構が考えられる。
すなわち、反応槽内のコバルトの酸化は、反応槽内の空間部に存在する空気中の酸素が、反応槽の攪拌に伴い液中に巻き込まれることが原因で発生しているものであると考えられる。反応槽内の空間部には反応液中から遊離してきた非常に水に対する溶解性の高いアンモニアガスが存在し、それが気温の低下により反応槽のフタなどに凝縮した反応液からの水蒸気由来の水滴に吸収されて反応槽内の空間部が負圧になり、そのため、オーバーフロー口などの大気と繋がっている開口部から空気が流入することによるものと考えられる。
なお、気温の高い場合は、水蒸気の凝縮も発生せず、反応液中から遊離してくるアンモニアガスにより反応槽内の空間部が正圧になるため、空気の混入量が抑えられると考えられる。したがって、気温の低下により反応槽内の空間部への空気の混入量が増加することで、反応槽内の空間部の酸素濃度が上昇し、結果的に反応液中へ供給される酸素量が増加することにより、コバルトの酸化が促進される。
【0031】
一方、本発明の製造方法によれば、事前に調製した原料溶液を反応槽内に供給して反応させる際、反応槽内の空間部に不活性ガスを供給することにより、上記酸素による酸化を抑えて、3価のコバルトが生成するのを抑制することができる。
【0032】
具体的には、3価のコバルトの生成量としては、特に限定されるものではないが、例えば、生成されるニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物中に含有されるコバルトの全量に対する3価のコバルトの比率で表した場合、その数値が0.25以下であることが好ましく、充填性の良好な平均粒径が10μm以上のニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を得ようとした場合は、0.20以下であることがより好ましい。すなわち、その数値が0.25を超えると、生成されるニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物の平均粒径が小さくなり、焼成後に高密度でかつリチウムイオン電池正極材料の原料として好適な粒径(5μm以上の平均粒径)を有するニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物が得られないことがある。
なお、上記ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物中に含有されるコバルトの全量に対する3価のコバルトの比率は、前記複合水酸化物を分析して、3価のCo品位と全Co品位を得て、その比(3価のCoの質量%/全Coの質量%)から求められる。
【0033】
ところで、反応系内で3価のコバルトの生成量を押さえるという視点のみであれば、不活性ガスを反応溶液中に吹き込むことも考えられる。しかし、不活性ガスを吹き込んだ場合、反応系からのアンモニアガスの気散が著しく多量になり、反応系のバランスを崩してしまい、リチウムイオン電池正極材料の原料として好適な高密度を有するニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物が得られないばかりか、アンモニア除害設備やそれに引き続き設けられる排水処理設備への負荷が大きくなるという別の問題が生ずる。
【0034】
本発明の製造方法で用いる不活性ガスの反応槽内の空間部への供給量としては、特に限定されるものではないが、反応槽内の空間部の空気を除去するという目的を達成するために、空間部の容積1m当たり2リットル以上とすることが好ましい。不活性ガスの供給量の上限は、特に限定されるものではないが、得られる前記複合水酸化物中に含有されるコバルトの全量に対する3価のコバルトの比率が0.25以下、好ましくは0.20以下となるように調節すればよく、過度に供給する必要はない。
なお、前記不活性ガスとしては、窒素、アルゴンなどが挙げられるが、経済性から窒素を用いることが好ましい。
【0035】
また、本発明の製造方法で用いるニッケル化合物とコバルト化合物を含む水溶液(以下、ニッケルコバルト水溶液ともいう。)及びアルミン酸ナトリウム水溶液は、それぞれニッケルとコバルト、及びアルミニウムの供給源である。また、水酸化ナトリウム水溶液は、中和反応のpH調製剤である。
【0036】
さらに、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液は、錯形成剤として、生成するニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物の粒径と形状を制御する役割を担う。しかも、アンモニウムイオンは、生成する前記水酸化物内に取り込まれないので、不純物を含まないニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を得るために好ましい錯形成剤である。
【0037】
本発明の製造方法において、ニッケルコバルト水溶液とアルミン酸ナトリウム水溶液を別々に反応槽に供給することが特に重要である。これによって、反応槽に供給される前に強アルカリ性のアルミン酸ナトリウム水溶液とニッケルコバルト水溶液とが接触して中和反応によって沈殿が生成することを防止する。
【0038】
本発明の製造方法において、反応槽の仕様及び原料溶液の供給量の調整方法としては、特に限定されるものではないが、前記反応槽として攪拌機、蓋、オーバーフロー口、及び温度制御手段を備える容器を用いて、ニッケルコバルト水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液及びアンモニウムイオン供給体を含む水溶液は、それぞれの溶液を該反応槽内に定量的に連続供給し、一方、水酸化ナトリウム水溶液は添加量を調整して供給することによって、該反応槽内の反応液を所定のpHに保持しながら反応を行い、生成された前記複合水酸化物をオーバーフロー口を経て連続排出する方法が好ましい。
【0039】
本発明の製造方法で用いるニッケルコバルト水溶液中のニッケル及びコバルトの濃度としては、特に限定されるものではないが、1〜2.2mol/Lとすることが好ましい。濃度が1mol/L未満であると、前記複合水酸化物の結晶が十分に成長しないことがあり、濃度が2.2mol/Lを超えると、結晶が再析出して配管を詰まらせるなどの危険がある上、結晶核の発生が多く微細な粒子が多くなってしまう虞がある。
前記ニッケル化合物及びコバルト化合物としては、特に限定されるものではないが、硫酸塩又は塩化物が好ましく、ハロゲンによる汚染のない硫酸塩がより好ましい。
本発明の製造方法で用いるアルミン酸ナトリウム水溶液の濃度としては、特に限定されるものではなく、また、水酸化ナトリウム水溶液の濃度も特に限定されるものではない。その際、いずれの濃度も反応液中の粒子濃度が過度に低下し生産性が悪化しない程度で、かつ結晶の再析出による配管詰まりを防止できる程度とすればよい。
【0040】
上記反応槽内へ供給する原料溶液の合計流量は、特に限定されるものではないが、反応槽の容積を1分当たりの該合計流量で割った値が300〜1200の範囲の一定値に保持されるように調整することが好ましい。すなわち、反応槽の容積を1分当たりの合計流量で割った値が300未満では、反応時間が十分でないので所定の平均粒径まで前記複合水酸化物の粒子を成長させることができない。一方、この値が1200を超えると、供給速度が遅いので生産性が悪化し好ましくない。その際、前記合計流量の変動は、50以下とすることが好ましく、変動が大きくなると粒径の変動が大きくなる虞がある。
本発明の製造方法で用いるアンモニウムイオン供給体の水溶液の濃度としては、特に限定されるものではないが、通常の中和に用いられる濃度、例えば、アンモニア水を用いる場合は、アンモニア濃度として10〜30質量%でよい。
【0041】
前記アンモニウムイオン供給体としては、特に限定されるものではないが、アンモニア水、硫酸アンモニウム又は塩化アンモニウムが好ましく、アンモニア水がより好ましい。
上記反応液のアンモニウムイオン濃度は、特に限定されるものではないが、5〜25g/リットルの範囲の一定値に保持されることが好ましい。すなわち、アンモニウムイオン濃度が5g/リットル未満では、所定の平均粒径まで水酸化ニッケル粒子を成長させることができない。一方、25g/リットルを超えると、濃度を維持するために添加するアンモニウムイオン供給体の必要量が多くなるとともに反応槽からのアンモニウムイオンの揮発量も増える。その際、前記アンモニウムイオン濃度の変動は、1g/リットル以下とすることが好ましく、変動が大きくなると粒径の変動が大きくなる虞がある。
【0042】
本発明の製造方法における反応温度は、特に限定されるものではないが、40〜60℃が好ましく、さらに所定の温度でプラスマイナス1℃の範囲で制御されることがより好ましい。すなわち、温度が40℃未満では、生成する水酸化ニッケル粒子中への陰イオンの残留量が多くなる。一方、温度が60℃を超えると、反応槽内のアンモニウムイオンの揮発が激しくなりアンモニウムイオン供給体の使用量が大幅に増加する。また、反応温度が所定の温度から前記範囲を超えると、前記複合水酸化物の粒径の変動が大きくなる虞があり、好ましくない。
【0043】
本発明の製造方法におけるpH値は、特に限定されるものではないが、反応槽内の反応液を定期的に抜き取り、この液温を25℃にして測定する方法で、11.0〜13.5の範囲の一定値に保持されることが好ましい。すなわち、pHが11.0未満では、錯形成剤であるべきアンモニアのイオン乖離がはじまり液中からのアンモニアガスの気散度合いや供給薬品の添加量のばらつきにより反応槽内のpH変動が大きくなり実質的に反応槽内のpHを一定に保つことが困難となる。一方、pHが13.5を超えると、水酸化ナトリウムの使用量が増大し実用的でなくなる。
【0044】
ここで、反応槽内のpHは、ガラス電極法を用いたpHコントローラーで連続測定され、pHが一定になるように水酸化ナトリウム水溶液の流量が連続的にpHコントローラーによりフィードバック制御される。しかしながら、一般に、ガラス電極法では、高濃度のアルカリ溶液中に長時間浸漬されることによって、アルカリ誤差と呼ばれる誤差が徐々に発生する。そのため、アルカリ誤差を取り除くために、反応槽内の液を採取し、サンプリング液を25℃に一定に保った恒温水槽に浸漬しサンプリング液の液温が25℃となったところでpHを測定し、所定値に維持されているかをチェックする。アルカリ誤差が発生して所定のpHに維持されていない場合には、反応槽内のpHを制御しているpHコントローラーの設定値を変更して25℃で測定した値が所定のpHになるようにする。
【0045】
本発明では、上記(i)の工程で得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を、(ii)の工程において焼成してニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を得る。
ここで、(ii)の工程における焼成では、300℃から500℃までの昇温速度を4℃/分以下として昇温することが重要である。
【0046】
工業的に一般的に行われる水酸化物を酸化物へ転換する焼成は、水酸化物をこう鉢などの上部が開放された容器に充填して温度設定された焼成炉の中に連続的に供給することで行われる。上記(i)の工程で得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物は、略球状であることから非常に流動性が良く、かつ、高密度であるため、こう鉢へ充填した際にこう鉢に高密度に充填される。このため、前記複合水酸化物の焼成においては、こう鉢に高密度に充填されることで前記複合水酸化物の分解時に発生する水蒸気の逃げ場がなくなり、水蒸気の発生と同時に充填された前記複合水酸化物が水蒸気により流動状態になり、こう鉢からの焼成物の吹きこぼれが発生する。この吹きこぼれは非常に大きなものであり、条件によっては、こう鉢中への充填物の半分がこう鉢から失われるような状態となり、製造時の酸化物の収率が著しく低下する。一方、こう鉢などへの充填を行なわないで焼成する場合であっても同様に、水蒸気による前記複合水酸化物の飛散等が発生して、酸化物の収率が著しく低下する。
【0047】
本発明者らは、焼成時の水蒸気の発生は、水酸化ニッケルの分解温度から分解がほぼ完了する温度において最も激しく、この温度域の昇温速度を制御することで、上記焼成物の吹きこぼれの発生を抑制できることを見出した。すなわち、前記複合水酸化物の分解が開始する300℃から分解が完了する500℃までの温度域で短時間に多量の水酸化物が分解することを抑えることが必要であり、こう鉢からの吹きこぼれを最小限にするためには、300℃から500℃までの昇温速度を4℃/分以下とする必要がある。この昇温速度は、300℃から直線的に4℃/分以下で昇温しても、あるいは300℃から500℃の間で恒温部を設けて階段状に昇温して平均値として4℃/分以下の昇温速度としてもいずれの昇温の態様であっても効果が得られる。
【0048】
また、本発明の製造方法においては、焼成における最高到達温度を600〜900℃として焼成する。最高到達温度が600℃未満では、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物の分解が不十分であり、酸化物への転換が完全に行われない。また、最高到達温度が900℃を越えると、生成したニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物をリチウム塩と混合してさらに焼成したときのリチウム塩との反応性が低下するため、リチウムイオン電池正極材料の原料として用いることが困難となる。
前記最高到達温度で保持す時間は、酸化物への転換が十分に行われる時間とすればよいが、1〜10時間とすることが好ましい。1時間未満では、転換が十分に行われない場合があり、10時間を越えても生産性が低下するのみである。
【0049】
上記焼成における雰囲気は、水酸化物を十分に酸化させるため、酸化性雰囲気とすればよいが、作業性および費用面を考慮すると大気雰囲気とすることが好ましい。また、雰囲気の供給は、焼成中に発生する水蒸気が除去される程度の流量とすればよい。
上記焼成において用いられる焼成炉は、特に限定されるものではなく、一般的な焼成炉が用いられ、例えば、プッシャー炉やローラーハース炉が用いられる。
【0050】
以上に示した本発明の製造方法によれば、錯形成剤やハロゲンなどの混入がなく、リチウムイオン電池正極材料の原料として好適な平均粒径を有する高密度で真球状ないし楕円形状等の略球状のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物が、季節変動を受けることなく安定的に、かつ高収率で得られる。
本発明の製造方法により得られるニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物は、下記(1)の一般式で表され、その平均粒径は5〜20μmであるものである。
Ni(1−x−y)CoAlO …(1)
(式中、xは、0.05〜0.3、及び、yは、0.05〜0.2である。)
上記ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物において、5〜20μmの平均粒径を有する略球状粒子であることが重要である。これによって、これを用いて得られる正極材料の充填性が向上し、電池として高容量化が達成される。
すなわち、平均粒径が5μm未満では、得られる正極材料の充填性が極度に悪化して電池の容量が低下する。一方、粒子の平均粒径が20μmを超えると、粉末の粒径が粗いので電極を成形する際に成形性が悪化する。また、中間体であるニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物の平均粒径も7μm以下では、得られる前記複合酸化物の平均粒径が5μm未満となるため好ましくない。
【0051】
さらに、本発明により得られるニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物は、主にリチウム化合物と混合した後に焼成することによって、リチウム電池の正極材料として有用なリチウムニッケル複合酸化物の製造に利用されるが、リチウム化合物と混合して焼成した際に、得られるリチウムニッケル複合酸化物(正極材料)の殻構造は、ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物粒子のそれに大きく依存するので、原料として用いるニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物が高密度の略球状粒子であることは、リチウムニッケル複合酸化物の高密度に不可欠である。
なお、上記ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を用いて、リチウム塩と混合し、焼成する方法は、特に限定されず、通常行なわれている任意の方法でよい。そして、リチウムニッケル複合酸化物を合成することによって、電池として充放電サイクル特性と熱的安定性等の安全性に優れた高性能リチウムニッケル電池の正極材料が得られる。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた金属の分析、3価のコバルトの分析、アンモニウムイオン濃度の分析、平均粒径及び粒子形状の評価方法は、以下の通りである。
(1)金属の分析:ICP発光分析法で行った。
(2)3価のコバルトの分析:塩化第二鉄溶液を使用し、ジフェニルアミンスルホン酸ナトリウムを指示薬として、二クロム酸カリウム溶液で滴定する方法、例えば「コバルト酸化物中の金属コバルト、コバルト(II)及びコバルト(III)の分別定量」(並木美智子、広川吉之助:分析化学、30、143(1981))に記載の方法に従った。
(3)アンモニウムイオン濃度の分析:JIS標準による蒸留法によって測定した。
(4)平均粒径の測定:レーザー回折式粒度分布計(商品名マイクロトラック、日機装製)を用いて行った。
(5)粒子形状の観察:走査型電子顕微鏡を用いて行った
【0053】
(実施例1)
(A)ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物の調製
まず、室温が30℃の状況下で、下記のとおり、ニッケル化合物とコバルト化合物を含む水溶液(ニッケルコバルト水溶液)、アルミン酸ナトリウム水溶液、及び水酸化ナトリウム水溶液を作製した。
ニッケルコバルト水溶液:工業用硫酸ニッケル6水和物21.8kgと工業用硫酸コバルト7水和物4.0kgを水に溶解した後、全量を60リットルに調整して、硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合溶液を得た。
アルミン酸ナトリウム水溶液:工業用アルミン酸ナトリウム500gを水に溶解した後、全量を10リットルに調整した。
水酸化ナトリウム水溶液:工業用水酸化ナトリウム12.5kgを水に溶解した後、全量を50リットルに調整した。
【0054】
次いで、蓋付、攪拌機つきでオーバーフロー口までの容量が9リットルである反応槽に8リットルの水を張った後、50℃に調整した恒温水槽の中に反応槽を入れ保温した。反応槽内の水が恒温水槽の温度と同一になったところで、反応槽液面と反応槽上部フタの間の空間(反応槽内の空間部)に0.006リットル/分(空間部1m当たり2リットル/分)の割合で窒素を供給しつつ攪拌機を稼働させ、反応槽内の水を攪拌した。そして、この状態を維持しつつ、上記ニッケルコバルト水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液、及び工業用アンモニア水(濃度25質量%)を連続的に反応槽内へ供給した。ここで、供給流量は、ニッケルコバルト水溶液が14.8ミリリットル/分、アルミン酸ナトリウム水溶液が4.4ミリリットル/分、及びアンモニア水が1.6ミリリットル/分であった。
また、反応槽内の反応液のpHは、反応槽内に設置したpHコントローラーを用いて、上記水酸化ナトリウム水溶液の流量を調整して、制御した。なお、反応槽内のpHは、24時間ごとに反応槽内の液をサンプリングし、25℃で測定した際のpHが12.4となるように調整した。この後、反応槽内の反応液のpH、温度、アンモニウムイオン濃度及びスラリー濃度が一定値になるまで、この状態で40時間運転した。
【0055】
その後、40時間後から80時間後まで反応槽内から液を回収した。なお、この間の水酸化ナトリウム水溶液の平均流量は、5.8ミリリットル/分であった。また、反応槽の容積を、ニッケルコバルト水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液、アンモニア水及び水酸化ナトリウム水溶液の合計流量で割った値は、338であった。また、40時間後の反応槽内の液のアンモニウムイオン濃度は、8.9g/リットルであった。
この間に回収された反応液から、反応生成物をろ過により固液分離した。固液分離された反応生成物は、湿潤状態で8.3kgであった。さらに、反応生成物について、30リットルの水を用いた水洗−ろ過の操作を3回繰り返した後、100℃に設定した大気乾燥機を用いて36時間乾燥してニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を得た。また、反応中の3価のコバルトを測定するための試料として、固液分離された反応生成物100gを採取し、乾燥時のコバルトの酸化を防止するため、80℃に保持した真空乾燥機に入れ、12時間かけて乾燥した。
【0056】
得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物の平均粒径、粒子形状、及びコバルト品位を評価した。さらに、真空乾燥した試料から3価のコバルト品位を分析して、その比率を求めた。得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物は、平均粒径が13μmの高密度の球状粒子であり、反応生成物の3価のコバルトの比率は0.16であった。結果を表1に示す。
【0057】
(B)ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の調製
次に、このニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を300mm×300mm高さ95mmのセラミック製こう鉢(ノリタケ製)に3.5Kg充填した。充填後のニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物の厚みは、25mmであった。この充填こう鉢を電気マッフル炉(アドバンテック製 FUW263PA型)を用いて大気雰囲気中で常温から300℃までを10℃/分、300℃から500℃までを3.8℃/分、500℃から700℃までを5℃/分の速度で昇温し、700℃で2時間保持した後、冷却した。
冷却後に確認したところ、こう鉢周辺にわずかな吹きこぼれは認められたが、こう鉢内のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の重量は3.0Kgであり、収率は99%であった。
得られたニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の平均粒径、粒子形状、及び化学組成について評価したところ、平均粒径が11.7μmの高密度の球状粒子であり、その組成は、Ni0.77Co0.13Al0.10Oで表された。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例2)
(A)ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物の調製
まず、室温25℃とし、実施例1と同様に調整したニッケルコバルト水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液、及び水酸化ナトリウム水溶液を用いて以下の条件でニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を製造した。
蓋、攪拌機付きでオーバーフロー口までの容量が9リットルである反応槽に水を8リットル張った後、55℃に調整した恒温水槽の中に反応槽を入れ保温した。反応槽内の水が恒温水槽の温度と同一になったところで、反応槽内の空間部に0.015リットル/分(空間部1m当たり5リットル/分)の割合で窒素を供給しつつ攪拌機を稼働させ、反応槽内の水を攪拌した。そして、この状態を維持しつつ、上記ニッケルコバルト水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液、及び工業用アンモニア水(濃度25質量%)を連続的に反応槽内へ供給した。ここで、供給流量は、ニッケルコバルト水溶液が4.2ミリリットル/分、アルミン酸ナトリウム水溶液が1.3ミリリットル/分、及びアンモニア水が0.9ミリリットル/分であった。また、反応槽内の反応液のpHは、反応槽内に設置したpHコントローラーを用いて、上記水酸化ナトリウム水溶液の流量を調整して、制御した。なお、反応槽内のpHは、24時間ごとに反応槽内の液をサンプリングし、25℃で測定した際のpHが12.8となるように調整した。この後、反応槽内の反応液のpH、温度、アンモニウムイオン濃度及びスラリー濃度が一定値になるまで、この状態で100時間運転した。
【0059】
その後、100時間後から205時間後まで反応槽内からの液を回収した。なお、この間の水酸化ナトリウム水溶液の平均流量は、1.6ミリリットル/分であった。また、反応槽の容積を、ニッケルコバルト水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液、アンモニア水及び水酸化ナトリウム水溶液の合計流量で割った値は、1125であった。また、100時間後の反応槽内の液のアンモニウムイオン濃度は、15.2g/リットルであった。
この間に回収された反応液から、反応生成物をろ過により固液分離した。固液分離された反応生成物は、湿潤状態で6.0kgであった。さらに、反応生成物について、20リットルの水を用いた水洗−ろ過の操作を3回繰り返した後、100℃に設定した大気乾燥機を用いて36時間乾燥してニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を得た。
また、反応中の3価のコバルトを測定するための試料として、固液分離された反応生成物100gを採取し、乾燥中のコバルトの酸化を防止するため80℃に保持した真空乾燥機で12時間で乾燥した。
得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物の平均粒径、粒子形状、及びコバルト品位評価した。さらに、真空乾燥した試料から3価のコバルト品位を分析して、その比率を求めた。得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物は、平均粒径が12.7μmの高密度の球状粒子であり、反応生成物の3価のコバルトの比率は0.18であった。結果を表1に示す。
【0060】
(B)ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の調製
次に、このニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を実施例1と同様のこう鉢に充填し、電気マッフル炉を用いて大気雰囲気中で常温から300℃までを10℃/分、300℃から500℃までを3.5℃/分、500℃から700℃までを5℃/分で昇温し、600℃で2時間保持した後、冷却した。
冷却後に確認したところこう鉢周辺にわずかな吹きこぼれは認められたが、こう鉢内のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の重量は3.0Kgであり、収率は99%であった。
得られたニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の平均粒径、粒子形状、及び化学組成について評価したところ、ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物は、平均粒径が11.4μmの高密度の球状粒子であり、その組成は、Ni0.77Co0.13Al0.10Oで表された。結果を表1に示す。
【0061】
(実施例3)
室温を15℃とした以外は実施例1と同様にしてニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を得るとともに評価した。得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物は、平均粒径が12.5μmの高密度の球状粒子であり、反応生成物の3価のコバルトの比率は0.17であった。結果を表1に示す。
次に、得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を実施例2と同様に焼成してニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を得た。冷却後に確認したところこう鉢周辺にわずかな吹きこぼれは認められたが、こう鉢内のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の重量は3.0Kgであり、収率は99%であった。
得られたニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物粒子を実施例1と同様に評価したところ、平均粒径が11.3μmの高密度の球状粒子であり、その組成は、Ni0.77Co0.13Al0.10Oで表された。結果を表1に示す。
【0062】
(実施例4)
室温を10℃とした以外は実施例2と同様にしてニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を得るとともに評価した。得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物は、平均粒径が12.4μmの高密度の球状粒子であり、反応生成物の3価のコバルトの比率は0.17であった。結果を表1に示す。
次に、得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を実施例2と同様に焼成してニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を得た。冷却後に確認したところ、こう鉢周辺にわずかな吹きこぼれは認められたが、こう鉢内のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の重量は3.0Kgであり、収率は99%であった。
得られたニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を実施例1と同様に評価したところ、平均粒径が11.4μmの高密度の球状粒子であり、その組成は、Ni0.77Co0.13Al0.10Oで表された。結果を表1に示す。
【0063】
(比較例1)
まず、実施例1と同様にして、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を得るとともに評価した。得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物は、平均粒径が12.5μmの高密度の球状粒子であり、反応生成物の3価のコバルトの比率は0.17であった。結果を表1に示す。
次に、得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を実施例1と同様にこう鉢に充填し、電気マッフル炉を用いて大気雰囲気中で常温から300℃までを10℃/分、300℃から500℃までを5℃/分、500℃から700℃までを5℃/分で昇温し、700℃で2時間保持した後、冷却した。
冷却後に確認したところ、こう鉢周辺に多量の粉末が吹きこぼれており、こう鉢内のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の重量は2.3Kgであり、収率は76%であった。
得られたニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を実施例1と同様に評価したところ、平均粒径が11.3μmの高密度の球状粒子であり、その組成は、Ni0.77Co0.13Al0.10Oで表された。
【0064】
(比較例2)
まず、反応槽内の空間部に窒素を供給しないこと以外は、実施例1と同様にして、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を得るとともに評価した。
得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物粒子は、平均粒径が6.2μmの高密度の球状粒子であり、反応生成物の3価のコバルトの比率は0.28であった。結果を表1に示す。
次に、得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を実施例1と同様にしてこう鉢に充填し、電気マッフル炉を用いて大気雰囲気中で常温から300℃までを10℃/分、300℃から500℃までを5℃/分、500℃から700℃までを5℃/分で昇温し、700℃で2時間保持した後、冷却した。
冷却後に確認したところ、こう鉢周辺に粉末が吹きこぼれており、こう鉢内のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の重量は2.7Kgであり、収率は89%であった。
得られたニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を実施例1と同様に評価したところ、平均粒径が4.9μmの高密度の球状粒子であり、その組成は、Ni0.77Co0.13Al0.10Oで表された。
【0065】
(比較例3)
まず、室温を10℃とし、反応槽内の空間部に窒素を供給しないこと以外は、実施例1と同様にして、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を得るとともに評価した。
得られた0.25以下ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物は、平均粒径が6.0μmの高密度の球状粒子であり、反応生成物の3価のコバルトの比率は0.30であった。
次に、得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を実施例2と同様に焼成してニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を得た。冷却後に確認したところ、こう鉢周辺にわずかな吹きこぼれは認められたが、こう鉢内のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の重量は3.0Kgであり、収率は99%であった。
得られたニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を実施例1と同様に評価したところ、平均粒径が4.8μmの高密度の球状粒子であり、その組成は、Ni0.77Co0.13Al0.10Oで表された。
【0066】
【表1】

【0067】
表1より、本発明の要件を全て満たす実施例1〜4では、錯形成剤やハロゲンなどの混入がなく、リチウムイオン電池正極材料の原料として好適な組成と平均粒径を有する、高密度の球状のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物が、室温の変動受けることなく安定的に、かつ高収率で得られることがわかる。
一方、本発明の要件の一部または全部を欠如する比較例1〜3では、収率が大きく低下したり、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物や酸化物の平均粒径が小さくなったりして、問題があった。特に、比較例1及び2では、300℃から500℃までの昇温速度が4℃/分を超えていたため、焼成時に吹きこぼれが発生して、収率が大きく低下していることがわかる。
さらに、比較例2及び3では、反応槽内の空間部に窒素を供給しなかったため、得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物の平均粒径が小さく、焼成後のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物もリチウムイオン電池正極材料の原料として好適とは言えない小さな平均粒径となっている。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上より明らかなように、本発明の製造方法によれば、錯形成剤やハロゲンなどの混入がなく、リチウムイオン電池正極材料の原料として好適な平均粒径を有する高密度で球状のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を、工業生産上、季節変動もなく安定的に製造することができるので、その工業的価値は極めて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1):
Ni(1−x−y)CoAlO …(1)
(式中、xは、0.05〜0.3、yは、0.05〜0.2である。)
で表されるニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を製造する方法であって、
(i)反応槽内の空間部に不活性ガスを供給しながら、ニッケル化合物とコバルト化合物を含む水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、及びアンモニウムイオン供給体を含む水溶液からなる原料溶液を、それぞれ該反応槽内に個別にかつ同時に供給して反応させ、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を得る工程、および
(ii)得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を、大気雰囲気中において300℃から500℃までの昇温速度を4℃/分以下として昇温し、最高到達温度を600〜900℃の温度として焼成し、上記ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を得る工程、
を含むことを特徴とするニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記(i)の工程において、ニッケル化合物とコバルト化合物を含む水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液、及びアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を、それぞれ該反応槽内に定量的に連続供給するとともに、水酸化ナトリウム水溶液を、該反応槽内の反応液を所定のpHに保持するために添加量を調整して供給し、かつ、生成されるニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物粒子中に含有されるコバルトの全量に対して3価のコバルトの比率(3価のCoの分析値%/全Co分析値%)が0.25以下になるように該反応槽内の空間部に不活性ガスを供給し、一方、生成されたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物粒子は、オーバーフロー口を経て連続的に排出されることを特徴とする請求項1に記載のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記(i)の工程において、反応槽内の空間部に供給される不活性ガスの供給量は、空間部の容積1m当たり2リットル以上とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記(i)の工程において、ニッケル化合物とコバルト化合物は、硫酸塩又は塩化物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記(i)の工程において、アンモニウムイオン供給体は、アンモニア水、硫酸アンモニウム又は塩化アンモニウムから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記(i)の工程において、反応槽内における反応液の温度は、40〜60℃でかつ±1℃の温度範囲に制御されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法。
【請求項7】
前記(i)の工程において、反応槽内における反応液のpHは、液温を25℃にして測定した基準で11.0〜13.5の範囲内の一定値に保持されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
前記(i)の工程において、反応槽内に供給する原料溶液の合計流量は、反応槽の容積を1分当たりの供給量で割った値が300〜1200の範囲の一定値に保持されるように調整することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法。
【請求項9】
前記(i)の工程において、反応槽内における反応液のアンモニウムイオン濃度は、5〜25g/リットルの範囲内の一定値に保持されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法。
【請求項10】
前記(i)の工程において、反応槽として攪拌機、蓋、オーバーフロー口及び温度制御手段を備えた容器を用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法。
【請求項11】
前記(ii)の工程において、上部が開放された容器に充填した状態で焼成されることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法。
【請求項12】
前記(ii)の工程において、得られるニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物は、5〜20μmの平均粒径を有する酪球状粒子であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の製造方法。

【公開番号】特開2011−116608(P2011−116608A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277544(P2009−277544)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】