説明

ニッケルナノ粒子の連続製造装置及び連続製造方法

【課題】ニッケルナノ粒子を大量に合成できる実用性に優れた連続製造装置及び連続製造方法を提供する。
【解決手段】連続製造装置100では、原料導入部1Bを介して原料である錯化反応液と金属塩をそれぞれ別々に、あるいは混合状態で反応容器1内に連続的又は間欠的に供給する。そして、マイクロ波発生部10で発生したマイクロ波を、マイクロ波導入部1Aから反応容器1内に導入し、酢酸ニッケルと金属塩を含む反応混合液に照射する。これにより、金属塩が加熱還元されてAgなどの微粒子が生成するとともに、酢酸ニッケルが還元され、この微粒子を核として金属ニッケルが成長することによりニッケルナノ粒子が生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルナノ粒子の連続製造装置及び連続製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子として、Ag、Au、Ptなどの貴金属類や、Fe、Ni、Cu、Coなどの卑金属類が知られているが、最近ではコストの面から卑金属のナノ粒子が注目を浴びている。また、ナノ粒子化することにより、貴金属と同等の触媒活性が卑金属でも発現できるという報告もなされており、ニッケルをはじめとする卑金属類の金属ナノ粒子の大量合成方法の開発が望まれている。特に、ニッケルナノ粒子は、銀ナノ粒子等の貴金属ナノ粒子よりも安価であることから、例えば触媒、磁性材料、積層セラミックコンデンサにおける電極等の幅広い分野への利用が期待されている。
【0003】
ニッケルナノ粒子の合成に関して、マイクロ波を利用して、粒子の均一性の高いニッケルナノ粒子を製造する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、この提案の技術は、あくまでもバッチ反応を前提としており、ニッケルナノ粒子を大量合成するために必要な連続プロセスへ適用するには、改良が必要であった。
【0004】
ところで、マイクロ波の産業的な利用に関しては、電子レンジなどのようにバッチ反応が一般的であるが、マイクロ波を加熱源とする連続プロセスも数例の提案がされている(例えば特許文献2〜5)。このうち、特許文献2は、金属ナノ粒子ではなく水熱によるチタン酸バリウムの合成に関するものであるが、加圧容器内の原料にマイクロ波照射を行って加熱することが記載されている。特許文献2では、回分式のみならず連続合成も可能であると記載されているものの、その場合の具体的な装置構成や条件などについての検討はされておらず、詳細は述べられていない。
【0005】
特許文献3〜5では、マイクロ波を照射できるアプリケータ内に反応物質を流通できる流通管を通す、連続フロー式が提案されている。特許文献3は、マイクロ波加熱を用いた流通反応装置でシングルモードキャビティを使用するものであるが、金属錯体の連続合成について応用されるものであり、金属ナノ粒子の合成の可能性については触れられていない。特許文献4も同じくマイクロ波加熱を用いた流通反応装置であるが、シングルモードキャビティを使用するものであり、反応管の径もせいぜい2.9mmと非常に小さい。この特許文献4では、反応管内を流れる溶液との接触面積を広げる工夫はされているものの、大量合成にはほど遠い。また、特許文献4では、金属ナノ粒子の合成の可能性については触れられていない。
【0006】
特許文献5は、同様にマイクロ波加熱を用いた流通反応装置であり、反応液流路を形成している充填層は、マイクロ波を透過する固体物質(樹脂、ガラス、セラミックス)によって構成されている。しかし、この特許文献5の装置を金属ナノ粒子の合成に適用した場合、反応液流路の内壁面に生成した金属ナノ粒子が徐々に付着して金属鏡が形成されてしまうと考えられる。反応液流路の内壁面に金属鏡が形成されてしまうと、そこでマイクロ波が反射されてしまうため、反応液流路を流れる反応前駆体までマイクロ波が到達できなくなって合成反応が進行しないことが懸念される。この点は、細い流通管を使用する特許文献3、4についても同様である。
【0007】
一方、特許文献6は、金属ナノ粒子の連続合成に関して、反応前駆体が流通する直径1〜50mmの反応器チャンネルを螺旋形構造のコンデンサ形式の加熱装置によって外側から加熱する方法が提案されている。しかし、特許文献6では、マイクロ波加熱については一切言及されていない。
【0008】
以上のように、ニッケルナノ粒子を大量に合成する技術は現在までのところ確立されていない状況にあり、実用化に耐えうる大量生産技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許3005683号公報
【特許文献2】特開2010−202440号公報
【特許文献3】特開2010−215677号公報
【特許文献4】特開2010−207735号公報
【特許文献5】特開2010−184230号公報
【特許文献6】特開2008−285749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、ニッケルナノ粒子を大量に合成できる実用性に優れた連続製造装置及び連続製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のニッケルナノ粒子の連続製造装置は、マイクロ波を導入するマイクロ波導入部、原料を導入する原料導入部、及び、反応生成物を含む反応混合液を排出する排出部を備えた反応容器と、
前記マイクロ波導入部に接続されたマイクロ波発生部と、
前記原料導入部に接続され、酢酸ニッケルおよび1級アミンの混合物を加熱して生成したニッケル錯体を含有する錯化反応液と、パラジウム塩、銀塩、白金塩および金塩からなる群より選択される1または2以上の金属塩と、を含む原料を供給する原料供給部と、
を備え、
前記原料供給部から、前記錯化反応液及び前記金属塩を、前記原料導入部を介して前記反応容器内に連続的又は間欠的に供給するとともに、前記マイクロ波発生部からマイクロ波を前記マイクロ波導入部を介して前記反応容器内に導入し、前記錯化反応液及び前記金属塩をマイクロ波で加熱することによりニッケルナノ粒子を生成させ、該ニッケルナノ粒子を含む反応混合液を前記排出部から前記反応容器外へ連続的又は間欠的に排出して回収するものである。
【0012】
本発明のニッケルナノ粒子の連続製造装置は、前記錯化反応液と、前記金属塩とを、混合状態で前記反応容器内に供給してもよく、あるいは、前記錯化反応液と、前記金属塩とを、それぞれ別々に前記反応容器内に供給してもよい。
【0013】
本発明のニッケルナノ粒子の連続製造装置において、前記マイクロ波導入部は、前記反応容器内の反応混合液の液面よりも上方に設けられていてもよい。
【0014】
本発明のニッケルナノ粒子の連続製造装置は、前記反応容器内に導入された原料を攪拌する攪拌手段をさらに備えていてもよい。
【0015】
本発明のニッケルナノ粒子の連続製造装置は、前記反応容器が金属製であってもよい。
【0016】
本発明のニッケルナノ粒子の連続製造方法は、上記いずれかのニッケルナノ粒子の連続製造装置を用い、ニッケルナノ粒子を製造する。この場合、前記酢酸ニッケル中に含まれる金属換算のニッケルに対して、前記金属塩を金属換算で0.01〜5mol%の範囲内で供給するものであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マイクロ波照射を利用し、粗大粒子をほとんど含まないニッケルナノ粒子を連続的にかつ大量に合成できるため、工業的規模での大量生産が可能である。また、本発明により得られるニッケルナノ粒子は、粗大粒子の成長が抑えられ、粒子径が比較的均一であるため、例えば触媒、磁性材料、積層セラミックコンデンサにおける電極等の用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態にかかるニッケルナノ粒子の連続製造装置の概略構成図である。
【図2】各酢酸ニッケル錯体の構造を示す図であり、(a)は二座配位、(b)は単座配位、(c)は外圏にカルボン酸イオンが存在した状態を、それぞれ示す。
【図3】比較例で得られた40分経過後のニッケルナノ粒子のSEM写真を示す図である。
【図4】比較例で得られた180分経過後のニッケルナノ粒子のSEM写真を示す図である。
【図5】実施例で得られた40分経過後のニッケルナノ粒子のSEM写真を示す図である。
【図6】実施例で得られた180分経過後のニッケルナノ粒子のSEM写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明の一実施の形態にかかるニッケルナノ粒子の連続製造装置100の概要を示した。この連続製造装置100は、連続攪拌槽型反応装置(CSTR)として構成され、主要な構成として、反応容器1と、マイクロ波発生部10と、原料供給部20と、を備えている。
【0020】
[反応容器]
反応容器1は、マイクロ波を反射する性質を有する材質、例えばアルミニウム、ステンレス等の金属により形成されている。反応容器1を金属で形成することにより、反応容器1内に導入されたマイクロ波が、反応容器1の内壁面で反射するため、反応容器1内の原料にむらなく均一にマイクロ波を照射できる。また、金属のシールド機能により、反応容器1の外部へのマイクロ波の漏洩を防止できる。このように、反応容器1は、マイクロ波を直接錯化反応液及び金属塩を含む反応混合液Sの液面LSの上部より照射できる釜型をしており、その壁面はマイクロ波を効率的に反射できる金属でできている。そのため、反応容器1の内壁面にニッケルナノ粒子の生成による金属鏡が生成しても問題は生じない。これに対し、反応容器1がガラス、セラミックス、樹脂などの場合には、生成するニッケル粒子が壁面に付着したときに、マイクロ波の集中により局部的に高温となり、変形・破損するおそれがある。
【0021】
反応容器1は、マイクロ波を導入するマイクロ波導入部1A、原料を導入する原料導入部1B、及び、反応生成物を排出する排出部1Cを備えている。
【0022】
マイクロ波導入部1Aは、導波管11によってマイクロ波発生部10と接続され、マイクロ波を反応容器1内に導入できるように構成されている。マイクロ波導入部1Aは、図示は省略するが、例えば石英などの誘電体からなるマイクロ波透過窓部材を備えていてもよい。本実施の形態の連続製造装置100では、マイクロ波導入部1Aは、反応容器1内の反応混合液Sの液面LSよりも上方に設けられている。マイクロ波導入部1Aを反応混合液Sの液面LSよりも上方に設けることによって、反応容器1内でマイクロ波を反応混合液Sの上部から浸透させることが可能である。また、マイクロ波導入部1Aを反応容器1内の反応混合液Sの液面LSより上方に十分な距離で離間して設けることによって、マイクロ波透過窓部材に金属Niが付着してマイクロ波の導入の妨げになるといった不都合を回避できる。
【0023】
原料導入部1Bは、配管21によって、原料供給部20に接続され、原料を反応容器1内に供給できるように構成されている。本実施の形態では、原料導入部1Bは、反応容器1の上部に設けられ、反応容器1内の反応混合液Sの上部から、原料を投入できるように構成されている。また、本実施の形態では、図1に示したように、マイクロ波導入部1Aと原料導入部1Bを共に反応容器1の上部において反応混合液Sの液面LSよりも上方に設けたので、反応混合液Sの上部に新しく供給された原料中の未反応のニッケル錯体や、シードとなる金属塩に対して、反応混合液Sの上部からマイクロ波を照射できるため、還元反応の効率を高めることができる。
【0024】
排出部1Cは、還元反応によって生成したニッケルナノ粒子を含有する反応混合液Sを排出する。排出部1Cは、図示しないポンプや流量調節バルブなどを備えた排出管に接続されている。排出部1Cからの反応生成物の排出は、連続的又は間欠的に行うことができる。なお、図1において、排出部1Cは、反応容器1の底部に位置する例を示しているが、生成したニッケルナノ粒子を排出できれば、排出部1Cを備える位置は特に制限されず、例えば反応混合液Sの液面LSより下部の反応容器1の側面に備えてもよいし、反応混合液Sをオーバーフロー方式にしてニッケルナノ粒子を排出できるような位置に備えてもよい。
【0025】
また、反応容器1は、導入された原料を攪拌する攪拌手段として、攪拌機3を備えている。攪拌手段としては、簡便な構成で均一に攪拌できる観点から、図1に示すように、攪拌子として回転羽根を有するものが好ましい。すなわち、攪拌機3は、回転駆動部3aと、回転軸3bと、回転羽根3cとを備えている。このような攪拌機としては、例えば、ホモミキサー、ホモディスパー、リボンミキサーなどの慣用のミキサーを挙げることができる。攪拌機3を構成する回転軸3b及び回転羽根3cも金属製とすることが好ましい。回転軸3b及び回転羽根3cがガラス、セラミックス、樹脂などの場合には、生成するニッケル粒子が付着したときに、マイクロ波の集中により局部的に高温となり、変形・破損するおそれがある。回転羽根の形状は、特に限定されず、例えば、タービン形、プロペラ形など任意の形状のものを利用できる。なお、攪拌手段としては、上記機械的攪拌手段に限らず、例えば有機溶媒などの液流による攪拌、窒素、ヘリウム、アルゴン、空気などのバブリングなどを利用することもできる。
【0026】
[マイクロ波発生部]
マイクロ波発生部10は、例えばマグネトロン、クライストロンなどを有するマイクロ波発振器(図示省略)を備えている。マイクロ波発生部10は、例えば300MHz〜300GHzの範囲内のマイクロ波を発生できるように構成されている。また、マイクロ波発生部は、必要に応じてパルス発振機能を有していてもよく、マイクロ波を所定のデューティー比でパルス状に発生させてもよい。
【0027】
[原料供給部]
原料供給部20は、原料導入部1Bを介して原料を反応容器1内に連続的又は間欠的に供給する。原料としては、酢酸ニッケルおよび1級アミンの混合物を加熱して生成したニッケル錯体を含有する錯化反応液と、パラジウム塩、銀塩、白金塩、金塩等から選択される1または2以上の金属塩と、を含むものが用いられる。原料供給部20と原料導入部1Bとを接続する配管21には、図示は省略するが、流量調節装置やバルブなどを備えている。ここで、原料である錯化反応液と金属塩について詳しく説明する。
【0028】
<錯化反応液>
錯化反応液とは、酢酸ニッケルと1級アミンの反応によって生成する反応生成液(反応生成物)をいう。
【0029】
(酢酸ニッケル)
酢酸ニッケルは、無水物であってもよく、また水和物であってもよい。なお、酢酸ニッケルに代えて、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等の無機塩を用いることも考えられるが、無機塩の場合、解離(分解)が高温であるため、解離後のニッケルイオン(又はニッケル錯体)を還元する過程で更なる高い温度での加熱が必要となるため好ましくない。また、Ni(acac)(β−ジケトナト錯体)、ステアリン酸ニッケル等の有機配位子により構成されるニッケル塩を用いることも考えられるが、これらのニッケル塩を用いると、原料コストが高くなり好ましくない。
【0030】
(1級アミン)
1級アミンは、ニッケルイオンと錯体を形成することができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)に対する還元能を効果的に発揮する。一方、2級アミンは立体障害が大きいため、ニッケル錯体の良好な形成を阻害するおそれがあり、3級アミンはニッケルイオンの還元能を有しないため、いずれも使用できない。
【0031】
1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成できるものであれば、その種類は特に限定されるものではなく、常温で固体又は液体のものが使用できる。ここで、常温とは、20℃±15℃をいう。常温で液体の1級アミンは、ニッケル錯体を形成する際の有機溶媒としても機能する。なお、常温で固体の1級アミンであっても、100℃以上の加熱によって液体であるか、又は有機溶媒を用いて溶解するものであれば、特に問題はない。
【0032】
1級アミンは、分散剤としても機能し、ニッケル錯体を錯化反応液中に良好に分散させることができるため、錯体形成後にニッケル錯体を加熱分解してニッケルナノ粒子を得る際の粒子同士の凝集を抑えることができる。1級アミンは、芳香族1級アミンであってもよいが、錯化反応液におけるニッケル錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンが好適である。脂肪族1級アミンは、例えばその炭素鎖の長さを調整することによって生成するナノ粒子の粒子径を制御することができ、特に平均粒子径が50nm以下のニッケルナノ粒子を製造する場合において有利である。ニッケルナノ粒子の粒子径を制御する観点から、脂肪族1級アミンは、その炭素数が6〜20程度のものから選択して用いることが好適である。炭素数が多いほど得られるナノ粒子の粒子径が小さくなる。このようなアミンとして、例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン等を挙げることができる。例えばオレイルアミンは、ナノ粒子生成過程に於ける温度条件下において液体状態として存在するため均一溶液での反応を効率的に進行できる。
【0033】
1級アミンは、ナノ粒子の生成時に表面修飾剤として機能するため、1級アミンの除去後においても二次凝集を抑制できる。また、1級アミンは、還元反応により生成したナノ粒子の固体成分と溶剤又は未反応の1級アミン等を分離する洗浄工程における処理操作の容易性の観点からも好ましい。更に、1級アミンは、ニッケル錯体を還元してニッケルナノ粒子を得るときの反応制御の容易性の観点からは還元温度より沸点が高いものが好ましい。すなわち、脂肪族1級アミンは、沸点が180℃以上のものが好ましく、200℃以上のものがより好ましい。また、脂肪族1級アミンは、炭素数が9以上であることが好ましい。ここで、例えば炭素数が9である脂肪族アミンのC21N(ノニルアミン)の沸点は201℃である。
【0034】
1級アミンの量は、酢酸ニッケル中に含まれる金属換算のニッケル1molに対して2mol以上用いることが好ましく、2.2mol以上用いることがより好ましく、4mol以上用いることが望ましい。1級アミンの量が2mol未満では、得られるニッケルナノ粒子の粒子径の制御が困難となり、粒子径がばらつきやすくなる。また、1級アミンの量の上限は特にはないが、例えば生産性の観点からは酢酸ニッケル中に含まれる金属換算のニッケル1molに対して20mol以下程度とすることが好ましい。2価のニッケルイオンは配位子置換活性種として知られており、形成する錯体の配位子は温度、濃度によって容易に配位子交換により錯形成が変化する可能性がある。例えば酢酸ニッケルおよび1級アミンの混合物を加熱して錯化反応液を得る工程において、用いるアミンの炭素鎖長等の立体障害を考慮すると、例えば、図2に示すようなカルボン酸イオン(RCOO、RCOO)が二座配位(a)または単座配位(b)のいずれかで配位する可能性があり、さらにアミンの濃度が大過剰の場合は外圏にカルボン酸イオンが存在する構造(c)をとる可能性がある。目的とする反応温度(還元温度)において均一溶液とするには少なくともA、B、C、D、E、Fの配位子のうち少なくとも一箇所は1級アミンが配位している必要がある。その状態をとるには、1級アミンが過剰に反応溶液内に存在している必要があり、少なくともニッケルイオン1molに対し2mol以上存在していることが好ましく、2.2mol以上存在していることがより好ましく、4mol以上存在していることが望ましい。
【0035】
錯化反応液を得るための錯形成反応は室温においても進行させることができるが、反応を確実、かつ、より効率的に行うために、100℃以上の温度で加熱を行う。この加熱は、酢酸ニッケルとして、例えば酢酸ニッケル4水和物のような酢酸ニッケルの水和物を用いた場合に特に有利である。加熱温度は、好ましくは100℃を超える温度とし、より好ましくは105℃以上の温度とすることで、酢酸ニッケルに配位した配位水と1級アミンとの配位子置換反応が効率よく行われ、この錯体配位子としての水分子を解離させることができ、更にその水を系外に出すことができるので効率よく錯体を形成させることができる。例えば、酢酸ニッケル4水和物は、室温では2個の配位水と2座配位子である2個の酢酸イオン、外圏に2つの水分子が存在した錯体構造をとっているため、この2つの配位水と1級アミンの配位子置換により効率よく錯形成させるには、100℃より高い温度で加熱することでこの錯体配位子としての水分子を解離させることが好ましい。また、加熱温度は、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)のマイクロ波照射による加熱還元の過程と確実に分離し、錯形成反応を完結させるという観点から、175℃以下が好ましい。従って、錯化反応液形成における加熱温度は105℃〜175℃の範囲内が好ましく、より好ましくは、125〜160℃の範囲内である。このように、錯化反応液を形成する段階での加熱温度を、ニッケルナノ粒子を生成させる際の反応容器1内での反応混合液Sの加熱温度よりも確実に低くしておくことで、粒子径・形状の整った粒子が生成し易くなる。例えば、錯化反応液を形成する段階で加熱温度が高すぎると、ニッケル錯体の生成とニッケル(0価)への還元反応が同時に進行し、ニッケルナノ粒子生成での形状の整った粒子の生成が困難となるおそれがある。また、ニッケルナノ粒子を生成させる際の加熱温度が低すぎるとニッケル(0価)への還元反応速度が遅くなり、添加した金属塩由来の核及びニッケル錯体由来の核の発生が少なくなるため粒子が大きくなるだけでなく、ニッケルナノ粒子の収率の点からも好ましくはない。
【0036】
加熱時間は、加熱温度や、各原料の含有量に応じて適宜決定することができるが、錯形成反応を確実に完結させるという観点から、15分以上とすることが好ましい。加熱時間の上限は特にないが、長時間加熱することは、エネルギー消費及び工程時間を節約する観点から無駄である。なお、この加熱の方法は、特に制限されず、例えばオイルバスなどの熱媒体による加熱であっても、マイクロ波照射による加熱であってもよい。
【0037】
酢酸ニッケルと1級アミンとの錯形成反応は、酢酸ニッケルと1級アミンを混合して得られる溶液を加熱したときに、溶液の色の変化によって確認することができる。また、この錯形成反応は、例えば紫外・可視吸収スペクトル測定装置を用いて、300nm〜750nmの波長領域において観測される吸収スペクトルの吸収極大の波長を測定し、原料の極大吸収波長(例えば酢酸ニッケル四水和物ではその極大吸収波長は710nmである。)に対する錯化反応液のシフトを観測することによって確認することができる。
【0038】
酢酸ニッケルと1級アミンとの錯形成により得られた錯化反応液は、後で説明するように、マイクロ波照射によって加熱することにより、ニッケル錯体のニッケルイオンが還元され、ニッケルイオンに配位しているカルボン酸イオンが同時に分解し、最終的に酸化数が0価のニッケルを含有するニッケルナノ粒子が生成する。一般に酢酸ニッケルは水を溶媒とする以外の条件では難溶性であり、マイクロ波照射による加熱還元反応の前段階として、酢酸ニッケルを含む溶液は均一反応溶液とする必要がある。これに対して、本実施の形態で使用される1級アミンは、使用温度条件で液体であり、かつそれがニッケルイオンに配位することで液化し、均一反応溶液を形成すると考えられる。
【0039】
(有機溶媒)
均一溶液での反応をより効率的に進行させるために、錯化反応液には、1級アミンとは別の有機溶媒を含有してもよい。有機溶媒を用いる場合、有機溶媒を酢酸ニッケル及び1級アミンと同時に混合してもよいが、酢酸ニッケル及び1級アミンをまず混合し錯形成した後に有機溶媒を加えると、1級アミンが効率的にニッケルイオンに配位するので、より好ましい。使用できる有機溶媒としては、1級アミンとニッケルイオンとの錯形成を阻害しないものであれば、特に限定するものではなく、例えば炭素数4〜30のエーテル系有機溶媒、炭素数7〜30の飽和又は不飽和の炭化水素系有機溶媒、炭素数8〜18のアルコール系有機溶媒等を使用することができる。また、マイクロ波照射による加熱条件下でも使用を可能とする観点から、使用する有機溶媒は、沸点が170℃以上のものを選択することが好ましく、より好ましくは200〜300℃の範囲内にあるものを選択することがよい。このような有機溶媒の具体例としては、例えばテトラエチレングリコール、n−オクチルエーテル等が挙げられる。なお、錯形成反応に使用する1級アミンをそのまま錯化反応液でも有機溶媒として用いることができる。
【0040】
<金属塩>
金属塩は、例えばパラジウム塩、銀塩、白金塩、金塩等の貴金属塩から選択される。金属塩は、錯化反応液に添加され、混合される。金属塩を添加することで、ニッケルナノ粒子の生成起点となる核を多量に生じさせることが可能になり、連続合成においても目的とするニッケルナノ粒子の粒子径を小さくすることができる。金属塩は、いずれも塩の種類を特に限定するものではない。塩を構成する酸(酸基)として、塩酸、硝酸、硫酸および酢酸を用いることは好適な実施の形態である。白金塩および金塩については、例えば塩化白金酸や塩化金酸を用いることも好適な実施の形態である。
【0041】
錯化反応液に加える金属塩の量は特に限定するものでないが、酢酸ニッケル中に含まれる金属換算のニッケルに対して金属塩を金属換算で0.01mol%以上加えると好適である。金属塩の量の上限は特にないが、例えば発明の効果とコストのバランス等を勘案して、酢酸ニッケル中に含まれる金属換算のニッケルに対して、金属塩の添加量を金属換算で5mol%以下に設定することが好ましい。
【0042】
原料となる上記錯化反応液と金属塩とは、原料供給部20において混合しておき、混合状態で反応容器1内に供給してもよいし、それぞれ別々に反応容器1内に供給し、反応容器1内で混合してもよい。原料の錯化反応液と金属塩とを予め混合した状態で供給することにより、原料供給部20から原料導入部1Bに至るまでの配管21や流量制御装置などの構成を簡素化できるとともに、錯化反応液と金属塩とを十分に混合した状態で反応容器1内に供給できる。一方、錯化反応液と金属塩とを、それぞれ別々に反応容器1内に供給する場合は、結晶生成の核となる金属塩の供給量を、Ni錯体の量と独立して調節できる。このため、例えば金属塩の濃度を過飽和状態にして核の発生率を高くすることで、ニッケルナノ粒子を微細化し、ニッケルナノ粒子の過剰な成長を抑制するといった制御を容易に行うことが可能になる。
【0043】
[ニッケルナノ粒子の連続合成方法]
以上の構成を有する連続製造装置100では、原料導入部1Bを介して原料である錯化反応液と金属塩をそれぞれ別々に、あるいは混合状態で反応容器1内に連続的又は間欠的に供給する。反応容器1内の反応混合液Sは、攪拌機3により攪拌する。そして、マイクロ波発生部10で発生したマイクロ波を、マイクロ波導入部1Aから反応容器1内に導入し、ニッケル錯体と金属塩とを含む反応混合液Sの上部から照射する。これにより、金属塩が加熱還元されてAgなどの微粒子が生成するとともに、ニッケル錯体が還元されてこの微粒子を核として金属ニッケルが成長することによりニッケルナノ粒子が生成する。ここで、原料として供給される錯化反応液は、ニッケルナノ粒子の粒度分布をより均一に保つために、反応容器1内でニッケルの還元反応が開始する温度よりも50℃以上低温にしておくことが好ましく、100℃以上低温であることがより好ましい。
【0044】
反応容器1内では、ニッケル錯体と金属塩とを含む反応混合液Sをマイクロ波で加熱することにより、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)を金属ニッケルに還元してニッケルナノ粒子を生成させる。マイクロ波で反応混合液Sを加熱することにより、マイクロ波が反応混合液S内に浸透するため、均一加熱が行われ、かつ、エネルギーを媒体に直接与えることができるため、急速加熱を行うことができる。これにより、反応混合液S全体を所望の均一な温度にすることができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)の還元、核生成、核成長各々の過程を反応混合液Sの全体において同時多発的に進行させ、粒子径分布の狭い単分散な粒子を短時間で連続的に製造することができる。このとき、添加された金属塩により、ニッケルとの酸化還元電位の違いによって、先にパラジウム、銀、白金又は金の金属微粒子が多数生成するため、これらを核として、その周囲に金属ニッケルが形成されることにより、粗大粒子の生成を抑制し、粒子径のばらつきの小さいニッケルナノ粒子の連続合成が実現する。
【0045】
マイクロ波照射による加熱温度は、得られるニッケルナノ粒子の形状のばらつきを抑制するという観点から、200℃以上であることが好ましく、220℃以上がより好ましい。加熱温度の上限は特にないが、処理を効率的に行う観点からは例えば260℃以下程度とすることが好適である。なお、マイクロ波の波長は、特に限定されるものではないが、例えば2.45GHzとすることができる。
【0046】
マイクロ波による加熱時間は、反応容器1内における反応混合液Sの滞留時間によって制御することができる。この滞留時間は、特に限定するものではなく、例えば2〜10分程度とすることができる。反応容器1内における反応混合液Sの滞留時間は、主に排出部1Cにおける排出流量の調節によって行うことができる。酢酸ニッケルを原料として得られるニッケル錯体は、220℃以上の温度で、短時間で0価のニッケル原子に分解されると考えられ、生成した0価のニッケル原子は、ニッケルナノ粒子の核となるとともに、ニッケルナノ粒子の成長にも使用されることになる。したがって、滞留時間が長いほど、生成するニッケルナノ粒子の粒子径がばらつきやすくなり、一方、滞留時間が短いほど、十分なニッケルナノ粒子の成長が行われず粒子径が小さくなる傾向になる。このように、所望の粒子径のニッケルナノ粒子を得るために、適宜滞留時間を調整すればよい。また、供給するニッケル錯体の濃度によっても粒子径は制御でき、例えばニッケルナノ粒子の粒子径を大きくする場合には、ニッケル錯体の濃度を高めに設定すればよい。
【0047】
CSTR方式の連続製造装置100による製造において、マイクロ波を加熱手段として用いる最大のメリットは、均一な粒度分布を得るというよりも、反応混合液Sの温度に比べ、より低温である錯化反応液を連続的(又は間欠的)に添加することによる反応混合液Sの温度低下を、マイクロ波の急速加熱により補い、反応温度を維持させることにある。通常の外部加熱の場合には、マイクロ波加熱ほどの急速加熱は不可能であることから、ニッケルナノ粒子の粒度分布が広くなるばかりか、反応容器1内の滞留時間を長く保つ必要があり、大量合成という面から不利となる。もちろん、連続製造装置100においても、補助的な外部加熱手段の併用は、マイクロ波の出力を抑える観点から好ましい。また、連続製造装置100において、均一な粒子径を有するニッケルナノ粒子を連続的に生成させるには、マイクロ波照射によって加熱する際にニッケル錯体(又はニッケルイオン)の還元により生成するニッケル(0価)の核の発生・成長を速やかに行うことが重要である。本実施の形態では、錯化反応液とともに金属塩を反応混合液Sに供給することによって、Agなどの貴金属微粒子の核の生成を先行させ、この貴金属微粒子を核としてその周囲に金属ニッケルを成長させる方法を採用した。
【0048】
反応容器1内で反応混合液S中に生成したニッケルナノ粒子は、スラリーの状態で排出部1Cから反応容器1外へ連続的又は間欠的に排出され、図示しない回収容器に回収される。このスラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、適当な溶媒を用いて洗浄し、乾燥することで、ニッケルナノ粒子が得られる。
【0049】
以上のように、連続製造装置100では、錯化反応液と金属塩を含む原料を、反応容器1の上部から、攪拌された反応混合液Sの液面LSへ向けて連続的に導入し、反応容器1の下部の排出部1Cからニッケルナノ粒子を含んだ反応混合液Sを連続的に排出することができる。また、連続製造装置100では、反応容器1内に導入した錯化反応液及び金属塩を含む原料を所定時間反応させた後、反応混合液Sを一定量排出し、新しく原料を一定量導入し、また所定時間反応させた後、反応混合液Sを一定量排出し、さらに新しく原料を導入する、という操作を繰り返す半回分式での運転も可能である。
【0050】
[ニッケルナノ粒子]
以上説明したように、連続製造装置100では、平均粒子径が200nm以下、好ましくは10〜150nmの範囲内、より好ましくは、10〜100nmの範囲内のニッケルナノ粒子を連続的に製造することができる。ここで、平均粒子径は、SEM(走査電子顕微鏡)により粉末の写真を撮影して、そのなかから無作為に200個を抽出したものの面積平均粒子径である。
【0051】
本実施の形態で得られるニッケルナノ粒子の形状は、例えば球状、擬球状、長球状、立方体様、切頭四面体様、双角錘状、正八面体様、正十面体様、正二十面体様等の種々の形状であってよいが、例えばニッケルナノ粒子を電子部品の電極に使用した場合の充填密度の向上という観点から、球状又は擬球状が好ましく、球状がより好ましい。ここで、ナノ粒子の形状は、走査電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認できる。このようなニッケルナノ粒子は、例えばインクジェット方式で吐出して用いる導電性ペーストや、高表面積の触媒、低融点を利用した金属バインダー、ブラックマトリックスなどの顔料等の用途に好適に用いることができる。そして、例えば積層セラミックコンデンサの内部電極をはじめ、電子部品の電極等の形成に利用できる。
【0052】
[作用]
ニッケルナノ粒子の生成は、まず、前駆体であるニッケル錯体から0価のニッケル原子が発生し、過飽和状態になることで、金属ニッケル核が生成し、それらがいくつか凝集または金属ニッケル核表面にニッケル原子が付着することで成長していく。マイクロ波による均一なナノ粒子合成のメカニズムは、マイクロ波の均一加熱による同時核発生によるものと考えられており、核の生成と成長がバラバラに起こるとナノ粒子の粒度分布が広くなると考えられる。バッチ式製造の場合は、マイクロ波照射によって核の発生が同時に起こるため、粒度分布の狭い均一な粒子径のニッケルナノ粒子を製造することが比較的容易である。しかし、CSTR方式を用いた連続的な製造においては、反応混合液S中にすでに存在する金属粒子(金属核を含む)と新たに導入される前駆体による0価金属が共存することになり、すでに存在している金属表面に0価金属が付着して粒子成長をしていくことになる。粒子は無限に大きく成長するものではなく、粒子表面のエネルギーが低くなるある時点で成長がストップするものの、CSTRを用いた連続的な製造においては、多数の金属ニッケル核の発生と、粒子の成長とが独立的かつ同時進行で生じるために、反応容器1内から排出されるニッケルナノ粒子の成長度合いにばらつきが発生し、均一な粒度分布の金属ニッケルナノ粒子の製造は不可能と考えられていた。
【0053】
しかし、本発明者らは、反応混合液S中に、前駆体とともに、ニッケルよりも核を発生させやすい異種金属による、いわゆる核剤を共存させることで、多数の金属核を常に優先して発生させることに成功した。これによって、新たに供給される前駆体が、ニッケル粒子の過剰な成長に消費されるのではなく、新しく生成する多数の金属核の成長に利用されるようになり、CSTR方式でも粒度分布が狭い均一な粒子径のニッケルナノ粒子の合成を実現した。
【実施例】
【0054】
次に、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに説明するが、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。なお、ニッケルナノ粒子の粒子径は、SEM(走査電子顕微鏡)によりニッケル粉末の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出し、その平均粒子径及び最大粒子径を求めた。また、CV値(変動係数)は(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出した。また、反応率は、単位時間当たりに供給するニッケル前駆体と排出されるニッケルナノ粒子のモル比を算出することにより求めた。
【0055】
[比較例]
ニッケル粒子の前駆体には、還元性を有するオレイルアミンなど高級1級アミンを配位子とする酢酸ニッケルアミン錯体を用い、溶媒としては、同様なアミンを用いた。これを反応容器に所定量投入し、220〜250℃までマイクロ波により加熱して220℃以上で5分加熱を維持して金属ニッケルナノ粒子を得た。なお、マイクロ波の出力は、反応容器内の反応混合液1リットルあたり0.6kWとした。ここまではバッチ反応である。マイクロ波の導入を続けて温度を維持したまま、40℃の前駆体を含む反応液をポンプにより投入し、投入前の反応液の重量を維持するように、反応容器内の反応液をポンプにより抜き取った。すなわち、投入前の反応混合液全量10kgに対して新たな錯化反応液を2kg/minで投入し、2kg/minの反応混合液の抜き取りを行った。
【0056】
前駆体を含む錯化反応液の投入開始から5分後に抜き取った反応混合液中のニッケルナノ粒子の平均粒子径は60nm(最大100nm)で粒度分布はCV値=0.14であったが、40分後には平均粒子径は、110nm(最大150nm)に成長するとともにCV値=0.18であった。ここまでは反応率は、95%であったが、80分後には平均粒子径は160nm(最大250nm)に成長しており、CV値=0.19となり、反応率は68%に低下した。100分後は、平均粒子径が250nm(最大350nm)に成長し、CV値=0.20、反応率63%となった。2時間後には、平均粒子径は、350nm(最大500nm)でCV値=0.23となり、反応率も約43%に低下していた。さらに3時間後には、450nm(最大700nm)でCV値=0.31となり、反応率も約40%であった。このように酢酸Niアミン錯体を前駆体に使用し、CSTRを使用した連続合成では、反応時間とともに粒子径が増大するとともに、ばらつき(CV値)が増加し、反応率も低下する結果となった。この反応率の低下は、高温でのアミンと酢酸によるアミド発生による水発生による反応率の低下と考えられる。
【0057】
[実施例]
ニッケル前駆体を含む錯化反応液に対してAgイオン(硝酸銀)をAg/Ni=1/100モル(1mol%)添加した系において比較例と同様な実験を行った。その結果、前駆体投入開始から5分後に抜き取った反応混合液のニッケル平均粒子径は40nm(最大50nm)で粒度分布はCV値=0.12であったが、40分後には平均粒子径は55nm(最大100nm)に成長するとともにCV値=0.18であった。80分後には平均粒子径は60nm(最大100nm)CV値=0.18でほぼ40分後と同じであった。しかし100分後は、75nm(最大140nm)に成長し、CV値=0.22となった。2時間後には、平均粒子径は、90nm(最大200nm)でCV値=0.24となった。さらに3時間後には、90nm(最大200nm)でCV値=0.24となった。反応混合液の色は青みがなく、反応率はどの時間でもほぼ100%であった。本実施例においても、水は発生していると考えられるが、反応混合液中に多量の核となって存在するAgが存在していることにより、水が存在していても比較的低い活性化エネルギーでニッケルナノ粒子が成長できると考えられる。一方、比較例では、ニッケルナノ粒子の核の生成に必要な活性化エネルギーが、当該ナノ粒子の成長に必要な活性化エネルギーよりもかなり高くなるのに加え、水が存在することによって、核生成に必要な高活性化エネルギーが得られず、核が発生しにくいことによるものと考えられる。
【0058】
上記実施例、比較例における平均粒子径の測定結果を表1に、最大粒子径の測定結果を表2に、変動係数の測定結果を表3に、反応率を表4に、それぞれ示した。また、比較例における40分経過後のニッケルナノ粒子の状態を図3に、180分経過後のニッケルナノ粒子の状態を図4にそれぞれ示した。実施例における40分経過後のニッケルナノ粒子の状態を図5に、180分経過後のニッケルナノ粒子の状態を図6にそれぞれ示した。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
以上の結果から、実施例では、ニッケル錯体とともに、Ag,Au,Pt,Pdなどの貴金属イオンを反応混合液中に共存させておくことにより、粗大粒子の形成が少なく、均一な粒子径のニッケルナノ粒子を連続的にかつ大量に合成することが可能であった。ニッケル前駆体を含む錯化反応液が高温の反応混合液に供給されると、即座に0価のニッケル原子に還元されるが、同時に共存する貴金属イオンはニッケル原子が生成するよりも早く貴金属原子に還元されるため、これが核となり、その表面にニッケル原子が集合して金属ニッケルの核が生成し、さらに、0価のニッケル原子が金属ニッケルの核に付着し一定の大きさにまで成長する。この理由は未だ明らかではないが、新たに供給されたニッケル錯体からの0価のニッケル原子は、反応混合液中に既に存在するニッケルナノ粒子の成長に使用されるよりも、貴金属原子の表面に付着してニッケル金属核になるほうが優先されていると考えられる。その結果、新たに供給されるニッケル前駆体の0価の金属原子から、ニッケル粒子の生成が次々に起こりやすくなり、全体として比較的粒子径の小さなニッケルナノ粒子が生成するとともに、ニッケルナノ粒子の過剰な成長を抑制することが可能となるものと考えられる。
【0064】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…反応容器、1A…マイクロ波導入部、1B…原料導入部、1C…排出部、3…攪拌機、3a…回転駆動部、3b…回転軸、3c…回転羽根、10…マイクロ波発生部、11…導波管、20…原料供給部、21…配管、100…連続製造装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波を導入するマイクロ波導入部、原料を導入する原料導入部、及び、反応生成物を含む反応混合液を排出する排出部を備えた反応容器と、
前記マイクロ波導入部に接続されたマイクロ波発生部と、
前記原料導入部に接続され、酢酸ニッケルおよび1級アミンの混合物を加熱して生成したニッケル錯体を含有する錯化反応液と、パラジウム塩、銀塩、白金塩および金塩からなる群より選択される1または2以上の金属塩と、を含む原料を供給する原料供給部と、
を備え、
前記原料供給部から、前記錯化反応液及び前記金属塩を、前記原料導入部を介して前記反応容器内に連続的又は間欠的に供給するとともに、前記マイクロ波発生部からマイクロ波を前記マイクロ波導入部を介して前記反応容器内に導入し、前記錯化反応液及び前記金属塩をマイクロ波で加熱することによりニッケルナノ粒子を生成させ、該ニッケルナノ粒子を含む反応混合液を前記排出部から前記反応容器外へ連続的又は間欠的に排出して回収するニッケルナノ粒子の連続製造装置。
【請求項2】
前記錯化反応液と、前記金属塩とを、混合状態で前記反応容器内に供給する請求項1に記載のニッケルナノ粒子の連続製造装置。
【請求項3】
前記錯化反応液と、前記金属塩とを、それぞれ別々に前記反応容器内に供給する請求項1に記載のニッケルナノ粒子の連続製造装置。
【請求項4】
前記マイクロ波導入部は、前記反応容器内の反応混合液の液面よりも上方に設けられている請求項1から3のいずれか1項に記載のニッケルナノ粒子の連続製造装置。
【請求項5】
前記反応容器内に導入された原料を攪拌する攪拌手段をさらに備えている請求項1から4のいずれか1項に記載のニッケルナノ粒子の連続製造装置。
【請求項6】
前記反応容器が金属製である請求項1から5のいずれか1項に記載のニッケルナノ粒子の連続製造装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のニッケルナノ粒子の連続製造装置を用い、ニッケルナノ粒子を製造するニッケルナノ粒子の連続製造方法。
【請求項8】
前記酢酸ニッケル中に含まれる金属換算のニッケルに対して、前記金属塩を金属換算で0.01〜5mol%の範囲内で供給する請求項7に記載のニッケルナノ粒子の連続製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−7070(P2013−7070A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138767(P2011−138767)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000006644)新日鉄住金化学株式会社 (747)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】