説明

ニッケル化合物またはコバルト化合物から硫黄などを除去する精製方法、フェロニッケルの製造方法

【課題】ニッケル、コバルトを含む金属水酸化物または金属炭酸化物を使用した乾式製錬によるフェロニッケル製造において、環境問題と経済性の問題とを解決する。
【解決手段】あらかじめ硫黄と塩素とを除去したニッケルを含む金属水酸化物206を使用することにより、排ガス216中のSOとClガスの濃度を増大させることなく操業することができる。したがって排ガス処理設備を新たに設置する必要がなく、設備に投資する費用を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル化合物またはコバルト化合物から硫黄または塩素を除去する精製方法と、それを用いたフェロニッケルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル、コバルトを含有する酸化鉱石からニッケル、コバルトを回収する方法として、特許文献1に記載されているように、酸化鉱石を硫酸により浸出した液から、鉄、アルミニウム等の不純物を除去した後、硫化アルカリ化合物によりニッケル、コバルトを硫化物として回収する方法、あるいは特許文献2に記載されているように、アルカリ化合物によりニッケル、コバルトを金属水酸化物または金属炭酸化物として回収する方法がある。
【0003】
【特許文献1】特開平6−116660号公報
【特許文献2】特開2000−234130号公報
【0004】
ニッケル、コバルトの硫化物、水酸化物あるいは炭酸化物は不純物を含んだ中間製品であり、ニッケル、コバルトの最終製品とするには、さらに種々な工程を必要とする。
【0005】
ニッケル、コバルト硫化物は、ニッケルとコバルトを合わせて50重量%程度含有し、硫黄を30重量%程度含有しており、最終製品のニッケル、コバルトとするには一般的に以下に示す2通りの方法、すなわち、オートクレーブ装置により高温高圧下で酸素あるいは空気を吹き込み硫酸ニッケル、コバルト液として溶解した後、ニッケルとコバルトとを分離し、ニッケルとコバルトの最終製品とする方法と、塩酸により溶解した後、ニッケル、コバルトを分離し、ニッケルとコバルトの最終製品とする方法が用いられる。
【0006】
この方法による最終製品は、金属ニッケル、金属コバルトあるいは、ニッケル、コバルトの化成品として得られる。
【0007】
ニッケル、コバルト水酸化物あるいは炭酸化物は、ニッケルとコバルトを合わせて40重量%程度、硫黄を3〜4重量%程度含有しており、硫化物に比べて硫黄含有量は1/10程度であるが、マンガン、マグネシウム等の不純物が多く含有されている。また、ニッケル、コバルトを含有する酸化鉱石を硫酸により浸出する場合、海水あるいはナトリウム塩、特にNaClを使用あるいは添加した場合、ニッケル、コバルト水酸化物および炭酸化物中に塩素が0.5〜1重量%程度含有されている。
【0008】
この中間製品から最終製品のニッケル、コバルトを製造するためには、一般的に以下に示す2通りの方法、すなわち硫酸により再度溶解した後、ニッケルとコバルトとを分離し、ニッケルとコバルトの最終製品とする方法と、アンモニアによりニッケルとコバルトとを錯塩として溶解した後、ニッケルとコバルトとを分離し、ニッケルとコバルトの最終製品とする方法がある。
【0009】
このようにして得られた最終製品はともに、高純度な金属ニッケル、金属コバルトあるいは化成品としての製品の形態となる。しかし、いずれの場合も、中間製品から最終製品を得るまでには新規設備投資が必要であるためコスト上昇となる。しかも、高純度化に細心の注意を払う必要があり、操業上熟練を要する。
【0010】
以上のことに鑑み、特許文献1に記載されているように、中間製品であるニッケル、コバルト水酸化物あるいは炭酸化物をそのままフェロニッケルの製造原料として使用する方法がある。この場合の特徴は、既存の乾式製錬設備(たとえば、キルンと電気炉)をそのまま使用できることである。
【0011】
一般的な乾式製錬によるフェロニッケルの製造方法は、ニッケル酸化鉱石を石炭等の副原料とともにロータリーキルン内で高温で還元(カ焼)した後、電気炉内で溶融還元し、フェロニッケルを製造する方法である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような乾式製錬方法において、ニッケル、コバルト水酸化物あるいは炭酸化物は、ニッケル酸化鉱石とともにフェロニッケルの原料として使用する場合、ロータリーキルン内において高い温度で還元(カ焼)されることから、ニッケル、コバルト水酸化物および炭酸化物中に含有されている硫黄と塩素のほぼ全量が排ガス中にSO、塩素ガスとして除去される。
【0013】
したがって、環境上の問題から、排ガス中のこれらの元素を除去するためには、排ガス除去装置の設置が必要となる。特に、ニッケル酸化鉱石とともに使用した場合、その排ガス処理量は膨大な量となるため、多大な設備投資が必要であり、その処理コストもかかるという点で改善の余地を有していた。
【0014】
また、フェロニッケルを製造するためには、ニッケル1トンあたり約20,000KWHの電力が必要であり、たとえば、年間40,000トンのニッケルを生産するためには、約800MWHの膨大な電力が消費される。したがって、従来のニッケル酸化鉱石を用いてフェロニッケルを増産しようとすると、増産量×20,000KWHの新たな電力が必要となり、最近のエネルギー問題と環境問題とを考えると容易なことではないという点で改善の余地を有していた。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、ニッケル化合物またはコバルト化合物を効率的に精製することにある。
【0016】
また、本発明の別の目的は、ニッケル、コバルトを含む金属水酸化物または金属炭酸化物を使用した乾式製錬によるフェロニッケル製造において、環境問題と経済性の問題とを解決することにある。
また、これらを乾式製錬に使用することにより、新たな設備投資をせず、また、新たな電力の使用を必要とせず、フェロニッケルを増産することにある。さらに、鉄の浸出を抑え、ニッケル、コバルトの浸出率を向上させ、溶液の有効利用を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、
硫黄または塩素を含む、ニッケル化合物またはコバルト化合物から、前記硫黄または前記塩素を除去する精製方法であって、
水と、前記ニッケル化合物または前記コバルト化合物と、ナトリウム化合物とを混合することによりスラリーを得る工程と、
前記スラリーを攪拌する攪拌工程と、
攪拌された前記スラリーを濾過することにより、前記硫黄または前記塩素が除去されたニッケル化合物またはコバルト化合物と、ナトリウムを含む溶液とを得る濾過工程と、
を含むことを特徴とする精製方法、
が提供される。
【0018】
この発明によれば、ニッケル化合物またはコバルト化合物と、ナトリウム化合物と、水とを混合してスラリーを得て、攪拌することによって、ニッケル化合物またはコバルト化合物に含まれる硫黄または塩素を除去することができる。したがって、ニッケル化合物またはコバルト化合物の硫黄含有率または塩素含有率を低減することができる。また、スラリー状にして混合・攪拌することによって、硫黄または塩素の除去だけでなく、ニッケル化合物またはコバルト化合物のニッケル含有率またはコバルト含有率を上昇させることができる。
【0019】
本発明において、濾過工程の後に、前記ナトリウムを含む溶液と硫酸とを使用して、ニッケル、コバルト、鉄を含む酸化鉱石からニッケルまたはコバルトを浸出し、ニッケルまたはコバルトを含む硫酸浸出溶液を得る浸出工程を含んでもよい。
【0020】
浸出工程において、ナトリウムを含む溶液と硫酸とを使用して酸化鉱石からニッケルまたはコバルトを浸出することによって、ナトリウムを含む溶液を有効活用しつつ、ニッケルまたはコバルトを含有する硫酸液中に含まれる鉄の濃度を制御することができる。したがって、ニッケルまたはコバルトの製造工程におけるコストの上昇を抑制することができる。さらに、酸化鉱石中のニッケルまたはコバルトの浸出率を向上させることができる。この結果、ナトリウムを含む溶液を有効活用しつつ、酸化鉱石からのニッケルまたはコバルトの回収率を上げることができ、ニッケルまたはコバルトを回収するコストの上昇を抑制することができる。
【0021】
本発明において、前記濾過工程の後に、前記硫黄または前記塩素が除去された前記ニッケル化合物または前記コバルト化合物を、さらに精製する精製工程を含んでもよい。
【0022】
精製工程において、あらかじめ硫黄または塩素が除去されたニッケル化合物またはコバルト化合物を使用することにより、精製工程における排ガス中のSOとClガスの濃度の増大を抑制することができる。したがって、排ガスを処理する設備コストを低減できる。また、ニッケル化合物またはコバルト化合物のニッケル含有率はニッケル酸化鉱石と比較して高いため、原料中のニッケル含有率を上昇させることができる。したがって、フェロニッケル中のニッケル含有率を上昇させることができ、フェロニッケルの生産量を増加させることができる。この結果、製造コストを低減しつつ、フェロニッケルを増産することができる。
【0023】
本発明によれば、
鉄とニッケル化合物とからフェロニッケルを製造する製造方法であって、
ニッケル化合物を原料として上記本発明に係る精製方法を実施し、前記濾過工程により前記ニッケル化合物を得る工程と、
前記ニッケル化合物と鉄とを共存させた状態で加熱処理を行い前記鉄と前記ニッケル化合物とを還元する工程と、
還元された前記鉄と前記ニッケル化合物とを溶融することによりフェロニッケルを得る工程と、
を含むことを特徴とするフェロニッケルの製造方法、
が提供される。
【0024】
本発明によれば、上記本発明に係る濾過工程により得られた硫黄または塩素が除去されたニッケル化合物と、鉄とを共存させた状態で還元し、溶融することによって、製造コストを低減しつつ、フェロニッケルを増産することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ニッケル化合物またはコバルト化合物を使用して乾式製錬によりフェロニッケルを製造する際に、乾式製錬時に発生する排ガス中のSOやClが低減されることにより、排煙脱硫装置等を新たに設置することなく、しかも環境上問題なく操業ができる。また、キルンおよび電気炉のような乾式製錬設備を現状のまま用いて、フェロニッケル製品を増産できる。
【0026】
さらに、本発明によれば、ナトリウム元素を含む溶液を、ニッケル、コバルト、鉄を含む酸化鉱石からニッケル、コバルトを硫酸により浸出する工程へ再使用することにより、鉄の浸出が抑えられ、ニッケル、コバルトの浸出が促進される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明における実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の記載において、使用量および添加量は、各物質の重量を基準とした使用量および添加量である。
【0028】
本実施形態において使用する、ニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物は、たとえば、ニッケル、コバルトを含む酸化鉱石を海水によりスラリーとし、硫酸を使用してニッケル、コバルトを浸出して得られた硫酸液から、石灰石により鉄およびアルミニウムを中和除去し、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ化合物により、ニッケルとコバルトを含む金属水酸化物として得たものである。ここで、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ化合物を用いることによって、ニッケルとコバルトを含む金属炭酸化物を得ることもできる。以下、本実施形態においては、金属水酸化物を用いる形態について説明する。
【0029】
以下、上記工程を図1〜図3を用いて説明する。
【0030】
図1に酸化鉱石からニッケル、コバルトを回収するための工程図を示す。
【0031】
はじめに、工程a(分級工程(S1))において、酸化鉱石102を、オーバーサイズとアンダーサイズに分級する。アンダーサイズは用水107によりスラリー鉱石104とし、オーバーサイズは粉砕して粉砕品103とする。
【0032】
次に、工程b(浸出工程(S2))において、スラリー鉱石104を硫酸105により浸出し、ニッケル、コバルトを含む硫酸浸出液108と浸出残渣109とを得る。ここで、浸出残渣109には、スラリー鉱石104から浸出された鉄と硫酸105と溶液208とが反応して生成されたナトロジャロサイトが含まれている。溶液208は、工程hにおいて発生した溶液208を再利用したものである。
【0033】
ついで、工程c(反応工程(S3))において、浸出残渣109を含む硫酸浸出液108中のフリー硫酸と、分級工程で粉砕した粉砕品103に含有されるマグネシウムとを反応させることにより、フリー硫酸を消費しpHを調整し、反応液110と反応残渣111とを得る。このpH調整により、反応残渣111中にナトロジャロサイトが沈殿し、反応液110中の鉄濃度を減少する。
【0034】
続いて、工程d(中和工程(S4))において、反応残渣111と反応液110に中和剤112を添加することでpHを調整し、中和液113と中和残渣114とを得る。ここで、前工程の反応工程において、ナトロジャロサイトを沈殿させて反応液110中の鉄濃度が減少しているので、中和剤112の添加量を低減することができる。
【0035】
次に、工程e(固液分離工程(S5))において、中和残渣114を含む中和液113に凝集剤115を添加し、シックナーを用いて固液分離することで、中和液113と中和残渣114とを分離する。
【0036】
次に、工程f(抽出工程(S6))において、中和液113から、鉄およびアルミニウムを除去した液とモノチオホスフィン酸化合物を抽出剤として含有する有機溶媒134とを接触させる。工程fにおいて、有機溶媒134にコバルトを選択的に抽出させて、ニッケルとコバルトを分離することによって、硫酸ニッケル溶液130と硫酸コバルト溶液132とを得る。
【0037】
次に、工程g(固形化工程(S7))において、硫酸ニッケル溶液130および硫酸コバルト溶液132に、それぞれアルカリ化合物136を混合させることにより、ニッケル水酸化物138およびコバルト水酸化物140を得る。アルカリ化合物としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウムなどを用いることができる。
【0038】
次に、工程h(硫黄・塩素除去工程(S8))において、用水205と、スラリー状にしたニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物202と、水酸化ナトリウム203とを、混合・攪拌し、濾過・水洗することで、硫黄または塩素が除去されたニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物206と溶液208とを得る(図2)。
【0039】
次に、工程i(フェロニッケル製造工程(S9))において、金属水酸化物206と、酸化鉱石218と、石炭210とを混合して、ロータリーキルンなどで還元(カ焼)する。次に、還元された混合物を電気炉に装入し、溶融することによって、フェロニッケル212を得る(図3)。
【0040】
以下、工程hについて図2を用いて詳細に説明する。
【0041】
工程gにおいて得られたニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物202を、濾過後、河川水や地下水で十分に洗浄すると、表面に付着した硫酸根や塩酸根は除去されるが、洗浄後の金属水酸化物202には、硫黄が2〜5%、塩素が0.3〜1%程度含まれていることが多い。この理由は、金属水酸化物の結晶成長過程で硫酸根や塩素根が取り込まれ、結晶内部に存在するためと推測される。
【0042】
本実施形態においては、工程gにおいて得られたニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物202を用水205によりスラリー状とし、水酸化ナトリウム203と混合させて攪拌する(混合・攪拌工程(S81))。ここで、水酸化ナトリウム203の他に、炭酸ナトリウム、または水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの混合物と混合させて攪拌してもよい。
【0043】
こうすることにより、金属水酸化物202に含まれる硫酸根および塩素根が除去され、金属水酸化物202に含まれる硫黄および塩素の含有率を低減することができる。
【0044】
混合・攪拌の方法は、金属水酸化物202をあらかじめ用水205によりスラリー状とし、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムまたはそれらの混合物を固体状で加えてもよいし、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムまたはそれらの混合物を液体状として、ニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物202を固形物のままで加えてスラリー状としてもよい。また、スラリー状にしたものと液体状にしたものとを加えてもよい。
【0045】
スラリー濃度は、混合・攪拌ができる濃度であればよいが、操業安定性の面から、10〜50%程度のスラリー濃度であることが、より望ましい。
【0046】
水酸化ナトリウム203の使用量は、金属水酸化物202の乾重量に対し、0.05倍重量〜1倍重量であることが望ましく、0.1倍重量〜0.5倍重量であることが、より望ましい。つまり、水酸化ナトリウム203の使用量は、金属水酸化物202の乾重量の5重量%以上100重量%以下であることが望ましく、10重量%以上50重量%以下であることが、より望ましい。
【0047】
好ましくは0.05倍重量以上、より好ましくは0.1倍重量以上とすることにより、金属水酸化物202に含まれている硫黄、塩素の除去効果を向上させることができる。
【0048】
また、好ましくは1倍重量以下、より好ましくは0.5倍重量以下であることにより、硫黄、塩素の除去効果を維持しつつ、水酸化ナトリウム203の使用量を大きく増加させることなく、製造コストの上昇を抑制することができる。
【0049】
混合・攪拌の温度としては、20℃〜100℃が望ましく、50℃〜100℃が、より望ましい。
【0050】
20℃以上、好ましくは50℃以上の温度で混合攪拌することにより、水酸化ナトリウム203の使用量を少なく抑えることができる上、たとえば、30分程度などの短い時間の混合攪拌で、金属水酸化物202からの硫黄、塩素の除去を効率よく実施することができる。
【0051】
100℃以下の温度で混合攪拌することにより、圧力容器を用いることなく硫黄、塩素を除去することが可能となり、設備に要するコストの上昇を抑制することができる。また、操業を安定的に行うことができる。
【0052】
このようにして得られたスラリー204をフィルタープレス等により濾過した後、河川水等の硫酸根や塩酸根を含まない用水で水洗することによって、ニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物206とナトリウムを含む溶液208とを得ることができる(濾過・水洗工程(S82))。
【0053】
水洗に用いる用水量は、ニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物202の乾重量に対し、2倍重量以上で実施することが、より望ましい。こうすることにより、金属水酸化物202に含まれている硫黄、塩素を、より除去しやすくなるからである。
【0054】
ここで、水酸化ナトリウム溶液によるスラリー化により、水酸化ニッケルの結晶性が向上し、再結晶化が進む。また、結晶構造もNi(OH)・0.75HO→Ni(OH)に変化する。この結晶構造の変化は、水酸化ニッケルのニッケル含有率の上昇につながり、同じ重量の水和物を含まない水酸化ニッケルのニッケル含有率は、水和物を含む水酸化ニッケルのニッケル含有率と比較して増加する。
【0055】
用水205と水酸化ナトリウム203と金属水酸化物202とを混合させることによって、スラリーとして混合攪拌することによって、硫黄と塩素の除去だけでなく、金属水酸化物206のニッケル含有率の向上が可能となる。また、金属水酸化物206のコバルト含有率の向上も可能となる。
【0056】
次に、ナトリウムを含む溶液208を用いて、酸化鉱石102(図1)からニッケル、コバルトを浸出する方法について説明する。
【0057】
濾過水洗した溶液208には、ナトリウムが含まれ、その濃度は、ナトリウム塩の使用量、スラリー濃度にもよるが、ナトリウム元素が、たとえば、4〜100g/l程度含まれており、液のpHは7以上である。本実施形態においては、溶液208が工程b(浸出工程)に再使用され、酸化鉱石102と硫酸105と溶液208とを用いて酸化鉱石102からニッケル、コバルトが浸出される。後述する理由によって、浸出工程における酸化鉱石102からの鉄の浸出率が制御され、硫酸浸出液108中の鉄濃度の減少と、ニッケル、コバルトの浸出率を向上させることが可能となる。
【0058】
なお、濾過水洗後の溶液208は、硫酸あるいは塩酸等によりpH7前後に中和し、廃棄してもよい。
【0059】
ナトリウムにより、硫酸浸出液108中の鉄の濃度が制御される理由は下記化学反応式(1)(2)によるものと考えられる。
【0060】
FeO(OH)・(酸化鉱石)+3/2HSO=1/2Fe(SO・(液)+2HO (1)
【0061】
Fe(SO・(液)+1/3NaSO+4HO=2/3NaFe(SO(OH)・(固体)+2HSO (2)
【0062】
また、ニッケル、コバルトの浸出率が向上する理由は、上述の反応式(2)により発生したフリーの硫酸が、酸化鉱石中のニッケル、コバルトと反応することによるものと考えられる。以下、この反応式を示す。
【0063】
NiO(酸化鉱石)+HSO=NiSO+HO (3)
【0064】
CoO(酸化鉱石)+HSO=CoSO+HO (4)
【0065】
濾過水洗液であるナトリウム元素を含有する溶液208を工程bにおいて再使用することによって、濾過水洗液を有効活用しつつ、ニッケル、コバルトを含有する硫酸浸出液108中に含まれる鉄の濃度を制御することができ、後工程である工程dにおいて鉄を沈殿除去させるコストの上昇を抑制することができる。さらに、酸化鉱石102中のニッケル、コバルトの浸出率を向上させることができる。この結果、濾過水洗液を有効活用しつつ、酸化鉱石102からのニッケル、コバルトの回収率を上げることができ、ニッケル、コバルトを回収するコストの上昇を抑制することができる。
【0066】
次に、フェロニッケルを製造する方法(工程i)について述べる。この工程は、ニッケル、コバルトを含む金属水酸化物202と、水酸化ナトリウム203と、用水205とを混合してスラリー状とする。スラリーを攪拌した後、濾過水洗して得られた、硫黄、塩素を除去したニッケル、コバルトを含む金属水酸化物206をフェロニッケル乾式製錬の原料に使用し、フェロニッケルを製造する工程である。
【0067】
図3に、本実施形態における乾式製錬法によるフェロニッケルの製造工程を示す。
【0068】
本実施形態においては、主原料として、鉄とニッケルとを含有する酸化鉱石218、および金属水酸化物206、副原料として石炭210を使用する。また、キルンと電気炉を用いて、ニッケルのほぼ全量と鉄の一部を還元することによる乾式製錬法によって、フェロニッケルを製造する。ここで、キルン以外の設備、たとえば、縦型のシャフト炉を用いる方法、あるいは電気炉の代わりに鉄鉱石から鉄を製造するときに用いられる溶鉱炉などを使用してもよい。
【0069】
本実施形態において、酸化鉱石218は、25重量%〜30重量%程度の付着水分を含有している。乾燥させ、付着水分含有率を20重量%程度に低減した後、石炭210とともに、キルンへ装入する。
【0070】
石炭210の使用量は、ニッケルの全量と鉄の一部を還元する量等に基づいた燃焼ロス率を加味して決定される。
【0071】
ここで、金属水酸化物206は、40〜50重量%程度の付着水を含有しており、本実施形態においては、酸化鉱石218と混合されてキルンへ装入され(混合工程)、還元(カ焼)される。
【0072】
石炭210の使用量としては、鉄およびニッケルを含む酸化鉱石218の量、金属水酸化物206に含まれるニッケルを全量還元する量等に基づいた燃焼ロスを加味した量が必要である。
【0073】
本実施形態においては、キルンとして、円筒状シェル内部をレンガで保護されたロータリーキルンが用いられるが、他の方式のキルンでもよい。
【0074】
本実施形態においては、ロータリーキルンはわずかに傾斜しており、1〜10rpm程度の回転に伴い、原料がロータリーキルン内を移動する。また、排出口側に取り付けられたバーナによる微粉炭等の燃焼によってロータリーキルン内が高温となる。ロータリーキルン内が高温となることにより発生した高温ガスは、原料装入口側の系外に設置された誘引送風機によって、原料の装入側に向けて流れることによって、原料と接触し、原料を乾燥,予熱、還元(カ焼)して、還元鉱を生成する(還元工程(S91))。
【0075】
ここで、ロータリーキルン内の最高温度は、望ましくは600℃〜1200℃の範囲とし、より望ましくは800℃〜1100℃の範囲となるように微粉炭等の燃焼によってコントロールされている。本実施形態においては、最高温度が1000℃程度となるようにコントロールされている。
【0076】
ロータリーキルン内の最高温度を好ましくは600℃以上、より好ましくは800℃以上とすることにより、金属水酸化物206中の結晶水の分解率が向上し、原料中に残存する量が増加することを抑制することができる。そのため、次工程で用いられる電気炉に、金属水酸化物206が装入される際に、電気炉内において、急激に原料温度が上昇することによる結晶水の蒸気化を抑制することができる。したがって、電気炉の操業を安定的に行うことができる。
【0077】
ロータリーキルン内の最高温度を好ましくは1200℃以下、より好ましくは1100℃以下とすることにより、金属水酸化物206中の結晶水の分解率を維持しつつ、結晶水の分解によって生じた酸化物とニッケル酸化鉱石との溶融結合による成長を抑制することができる。そのため、溶融結合物がロータリーキルン内表面に付着することと、塊状に成長したままロータリーキルン外に排出されることが抑制され、ロータリーキルンおよび次工程における電気炉の操業を安定的に行うことができる。
【0078】
金属水酸化物206中に含まれる硫黄と塩素は、キルン内の最高温度が600℃〜1200℃の範囲では、ロータリーキルン内でほぼ全量が分解され、排ガス216中のSOガスとClガスとして放出される。そのため、上述の方法によって、あらかじめ硫黄と塩素とを除去したニッケルを含む金属水酸化物206を使用することにより、排ガス216中のSOとClガスの濃度を増大させることなく操業することができる。したがって排ガス処理設備を新たに設置する必要がなく、設備に投資する費用を低減することができる。
【0079】
次に、還元鉱を電気炉に装入することによって溶融し、還元鉱中に含まれるニッケルのほぼ全量と鉄の一部を還元する。こうすることによって、電気炉から精製されたフェロニッケル212を取り出すことができる。また、電気炉からはスラグ214および排ガス216が排出される(精製工程(S92))。ここで、本実施形態においては、電気炉内の温度は1600℃程度である。
【0080】
電気炉から取り出されたフェロニッケル212はステンレス鋼の原料として用いられる。また、スラグは、マグネシウムを多く含むため、工程dにおける中和剤として用いることもできる。
【0081】
また、金属水酸化物206のニッケル含有率は40%以上であることから、金属水酸化物206と、鉄およびニッケルを含む酸化鉱石218とを混合して使用することにより、これらの原料中の平均ニッケル含有率を上昇させることができる。ここで、混合原料の年間使用量をニッケル酸化鉱石の場合と同じとしてフェロニッケルを製造すると、原料中のニッケル含有率の比率に、ほぼ対応してフェロニッケル中のニッケル含有率も上昇する。そのため、フェロニッケルの生産量を増産することが可能となる。したがって、新規な乾式設備の設置や設備改善を行わなくても、また、新たに電力を使用しなくても、フェロニッケルの増産をすることができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0083】
たとえば、上記実施形態においては、ニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物202から硫黄を除去する形態およびニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物206を用いてフェロニッケル212を製造する形態について説明したが、これに限られず種々の金属化合物についても本発明を適用できる。たとえば、ニッケル水酸化物、ニッケル炭酸化物、ニッケルおよびコバルトを含む金属水酸化物、ニッケルおよびコバルトを含む金属炭酸化物、およびこれらの混合物を用いても上記実施形態に記載した効果と同様の効果を得ることができる。
【0084】
また、上記実施形態においては、水酸化ナトリウムを用いて金属水酸化物202を混合・攪拌する形態について説明したが、これに限られず種々のナトリウム化合物についても本発明を適用できる。たとえば、炭酸ナトリウム、または水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの混合物を用いても上記実施形態に記載した効果と同様の効果を得ることができる。
【0085】
また、上記実施形態においては、電気炉内の温度を1600℃程度とする形態について説明したが、フェロニッケルを製造できる温度である、1400℃〜1700℃の範囲であればよい。
【0086】
また、上記実施形態においては、ロータリーキルン内でニッケルと鉄とを還元する際の副原料として石炭を用いる形態について説明したが、たとえば、コークス、Hガス、COガスなどのように、その他のものであっても、ロータリーキルン内でニッケルと鉄とを還元することができるものであればよい。
【0087】
また、上記実施形態においては、ニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物206と、鉄およびニッケルを含む酸化鉱石218とを混合したものをロータリーキルンで還元し、電気炉に装入して溶融する形態について説明したが、酸化鉱石218を混合せずに金属水酸化物206と石炭とをロータリーキルン内で還元し、その後、電気炉に装入して溶融してもよい。
【0088】
また、上記実施形態においては、金属水酸化物206と酸化鉱石218とを混合し、副原料としての石炭とともにロータリーキルンで還元する形態について説明したが、ロータリーキルンを用いて金属水酸化物206を焼成することによって(焼成工程)、ニッケルまたはコバルトを含む酸化物を得て、酸化物と酸化鉱石218と石炭とを混合してロータリーキルン内で還元してもよい。ここで、焼成工程において、ロータリーキルン内の最高温度の望ましい範囲は600℃以上1200℃以下であり、この温度範囲で焼成工程を行うことによって還元工程と同様、電気炉およびロータリーキルンの操業を、より安定的に行うことができる。また、金属水酸化物206は酸化鉱石218と比較してハンドリング性に優れるため、酸化鉱石218と別系統で金属水酸化物206を石炭とともにロータリーキルン内で還元してもよい。さらに、金属水酸化物206を酸化鉱石218とともに、付着した水分をあらかじめ低減した後、石炭とともにロータリーキルン内で還元してもよい。
【0089】
また、上記実施形態においては、ニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物202から硫黄および塩素を除去する形態について説明したが、硫黄のみが除去されていてもよいし、塩素のみが除去されていてもよい。
【0090】
また、上記実施形態においては、工程iにおいて、ニッケルの含有率を向上させる形態について説明したが、これに限られずコバルトに関しても本発明を適用できる。
【実施例1】
【0091】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0092】
(実験例1)
表1に示す試料No1の金属水酸化物は、ニッケル、コバルト、鉄を含む酸化鉱石から、硫酸を使用して、ニッケル、コバルトを浸出し、ニッケルおよびコバルトを含む硫酸液を得て、中和剤を使用して鉄およびアルミニウムを中和除去した中和液から酸化マグネシウムによりニッケルおよびコバルトを金属水酸化物の形態として回収したものである。
【0093】
【表1】

【0094】
表1に示す試料No2の金属炭酸化物は、ニッケル、コバルト、鉄を含む酸化鉱石から、硫酸を使用して、ニッケル、コバルトを浸出し、ニッケルおよびコバルトを含む硫酸液を得て、中和剤を使用して鉄およびアルミニウムを中和除去した中和液から炭酸ナトリウムによりニッケルおよびコバルトを金属水酸化物の形態として回収したものである。
【0095】
なお、試料No1、試料No2ともに、ニッケル、コバルト、鉄を含む酸化鉱石から、硫酸を使用して、ニッケル、コバルトを浸出し、ニッケルおよびコバルトを含む硫酸液を得ることができるが、その際、酸化鉱石をスラリーとする用水は海水を使用した。
【0096】
このようにして得られた金属水酸化物および金属炭酸化物をフィルタープレスで濾過した後、河川水で十分洗浄した場合、十分に河川水で洗浄したにもかかわらず、金属水酸化物および金属炭酸化物中には、かなりの量の硫黄と塩素が残留しており、河川水による洗浄だけでは除去できないことがわかった。
【0097】
図4に、試料No1のX線回折結果を示す。
【0098】
図4に示す回折ピークからわかるように測定ピークが不鮮明である。そのため、試料No1は、Ni(OH)・0.75HOの結晶構造を持つ水酸化ニッケルであるが、結晶性は弱く、非晶質に近いことがわかった。また、水酸化ニッケルは水和物の形態で存在していることがわかった。このため、金属水酸化物または金属炭酸化物の結晶成長過程で硫酸根や塩素根が取り込まれ、結晶内部に硫酸根や塩素根が存在すると推測される。
【0099】
(実験例2)
図5は、試料No1の金属水酸化物と95℃の温水とを混合し、スラリー状として攪拌し、濾過した場合のX線回折結果を示す図である。図5の回折ピークは図4の回折ピークとほぼ同じであり、結晶性が弱く、非晶質に近い水酸化ニッケルの水和物であることがわかった。
【0100】
図6は、同じ試料No1の金属水酸化物と水酸化ナトリウム溶液とを混合し、スラリー状として、温度95℃で30分間攪拌し、濾過後、水洗した場合のX線回折結果を示す図である。図6の回折ピークからわかるように、測定ピークが鮮明である。そのため、試料No1の水酸化ニッケルは再結晶化されていることがわかった。また、水和物ではない水酸化ニッケルの形態で存在していることがわかった。
【0101】
図5に示すように、温水では水酸化ニッケルの結晶性には変化が見られなかったが、図6に示すように、水酸化ナトリウム溶液によるスラリー化によって水酸化ニッケルの結晶性が向上していることがうかがえ、再結晶化が進んでいることがわかった。そのため、水酸化ニッケル中におけるニッケルの含有率が上昇することがわかった。
【0102】
(実施例および比較例)
表2に、ニッケルとコバルトとを含む水酸化ニッケルおよび炭酸ニッケルを、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムによりスラリー状として攪拌処理した条件を示す。表3に、硫黄および塩素の除去結果を示す。
【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【0105】
以下、硫黄および塩素を除去するプロセスとその実験結果を、実施例1〜6、比較例1〜2を用いて説明する。
【0106】
(実施例1)
表1に示す試料No1のニッケルとコバルトとを含む金属水酸化物を使用し、河川水により20%スラリー濃度とした。
【0107】
このスラリーに、金属水酸化物の乾燥重量に対して0.2倍重量のNaOHを加え、95℃で30分攪拌した。その後、真空濾過器で濾過し、さらに金属水酸化物の乾燥重量に対して4倍重量の河川水で水洗濾過した。水洗濾過した金属水酸化物を乾燥し分析したところ、Ni: 47.23%、Co:1.55%,S:0.01%、Cl:0.08%となり、金属水酸化物からの硫黄および塩素の除去効果が大きいことがわかった。また、硫黄および塩素を除去するプロセスが施された後の金属水酸化物のニッケル含有率は、試料No1の金属水酸化物のニッケル含有率と比較して、約1.17倍に上昇した。また、コバルト含有率は、約1.15倍に上昇した。
【0108】
(実施例2)
温度80℃で実施した以外は実施例1と同じ条件で行った。
【0109】
水洗濾過した金属水酸化物を乾燥し分析したところ、Ni:48.45%、Co:1.56%、S:0.10%、Cl:0.14%であり、ニッケル含有率は、試料No1のニッケル含有率と比較して、約1.21倍に上昇した。また、コバルト含有率は、約1.16倍に上昇した。
【0110】
(実施例3)
NaOHを金属水酸化物の乾燥重量に対して、0.1倍重量加えた以外は、実施例1と同じ条件で行った。
【0111】
水洗濾過した金属水酸化物を乾燥し分析したところ、Ni:46.44%、Co:1.58%、S:0.97%、Cl:0.25%であり、ニッケル含有率は、試料No1のニッケル含有率と比較して、約1.16倍に上昇した。また、コバルト含有率は、約1.17倍に上昇した。
【0112】
(実施例4)
NaOHの代わりにNaCoを使用し、金属水酸化物の乾燥重量に対して0.4倍重量加えた以外は、実施例1と同じ条件で行った。
【0113】
水洗濾過した金属水酸化物を乾燥し分析したところ、Ni:46.63%、Co:1.55%、S:0.64%、Cl:0.14%であり、ニッケル含有率は、試料No1のニッケル含有率と比較して、約1.16倍に上昇した。また、コバルト含有率は、約1.15倍に上昇した。
【0114】
(比較例1)
試料No1の金属水酸化物に、NaOHあるいはNaCOを加えず、河川水により20%スラリー濃度で、95℃、30分攪拌し、濾過水洗した。
【0115】
濾過水洗した金属水酸化物を乾燥し分析したところ、Ni:40.32%、Co:1.37%、S:3.40%、Cl:0.62%であり、金属水酸化物のニッケル含有率、コバルト含有率はほとんど変化せず、また、金属水酸化物からの硫黄および塩素の除去効果も小さかった。
【0116】
(実施例5)
表1に示す試料No2のニッケルとコバルトとを含む金属炭酸化物を使用し、河川水により20%スラリー濃度とした。
【0117】
このスラリーに、金属水酸化物の乾燥重量に対して0.2倍重量のNaOHを加え、95℃で30分攪拌した。その後、真空濾過器で濾過し、さらに金属水酸化物の乾燥重量に対して4倍重量の河川水により、水洗濾過した。水洗濾過した金属炭酸化物を乾燥し分析したところ、Ni: 54.33%、Co:1.95%、S:0.05%、Cl:0.02%となり、硫黄および塩素の除去効果が大きいことがわかった。また、硫黄および塩素を除去するプロセスが施された後の金属炭酸化物のニッケル含有率は、試料No2のニッケル含有率と比較して、約1.12倍に上昇した。また、コバルト含有率は、約1.1倍に上昇した。
【0118】
(実施例6)
NaOHの代わりにNaCOを使用した以外は、実施例5と同じ条件で行った。
【0119】
水洗濾過した金属炭酸化物を乾燥し分析したところ、Ni:53.86%、Co:1.91%、S:0.53%、Cl:0.04%であり、ニッケル含有率は、試料No2のニッケル含有率と比較して、約1.11倍に上昇した。また、コバルト含有率は、約1.09倍に上昇した。
【0120】
(比較例2)
試料No2の金属炭酸化物に、NaOHあるいはNaCOを加えず、河川水により20%スラリー濃度で、95℃、30分攪拌し、濾過水洗した。
【0121】
水洗濾過した金属炭酸化物を乾燥し分析したところ、Ni:48.80%、Co:1.78%、S:3.76%、Cl:0.5%であり、金属炭酸化物中のニッケル含有率、コバルト含有率はほとんど変化せず、また、金属炭酸化物からの硫黄および塩素の除去効果も小さかった。
【0122】
実施例1〜実施例6において、金属水酸化物または金属炭酸化物から硫黄および塩素を除去する効果が大きく、硫黄および塩素の含有率が小さい金属水酸化物または金属炭酸化物が得られた。また、ニッケル含有率、コバルト含有率が上昇した金属水酸化物または金属炭酸化物が得られた。
【0123】
表4に、ニッケルとコバルトとを含む水酸化ニッケルおよび炭酸ニッケルを、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムによりスラリー状として攪拌処理した後のナトリウムを含む濾過水洗液を、ニッケル、コバルト、鉄、マグネシウムを含む酸化鉱石と硫酸とにより浸出する工程に再利用した場合のニッケル、コバルト、鉄、マグネシウムの浸出結果を示す。
【0124】
【表4】

【0125】
次に、ナトリウム元素を含有する濾過水溶液を酸化鉱石の浸出に用いた場合のプロセスと実験結果を、実施例7および実施例8、比較例3を用いて説明する。
【0126】
(実施例7)
実施例1で得られたナトリウム元素を15g/l含有する濾過水洗液を、少量の硫酸によりpH:7に調整した。
【0127】
この濾過水洗液と、ニッケル、コバルト、鉄、マグネシウムを含有する酸化鉱石のうち2mmのふるいで分級したアンダー2mmの鉱石で、23重量%濃度のスラリー鉱石とし、98重量%濃度の硫酸を分級前の全酸化鉱石に対して0.73倍重量加え、95℃の温度、大気圧のもとで6時間攪拌し浸出した。このようにして得られた硫酸浸出液及び浸出残渣に、オーバー2mmの酸化鉱石の粉砕品にナトリウム元素を12g/l含有する濾過水洗液を加えて40重量%濃度のスラリー鉱石とした酸化鉱石を加え、95℃の温度、大気圧のもとで6時間攪拌し反応した。この常圧反応後の浸出率を調べたところ、Ni:89%、Co:75.3%、 Fe:6.5%、Mg:82.6%であり、ニッケル、コバルトの浸出率向上と同時に、鉄の浸出率の制御が達成された。
【0128】
(実施例8)
実施例4で得られたナトリウム元素を23g/l含有する濾過水洗液を、少量の硫酸によりpH:7に調整した。この濾過水洗液と、ニッケル、コバルト、鉄、マグネシウムを含有する酸化鉱石のうち2mmのふるいで分級したアンダー2mmの鉱石で、23%濃度のスラリー鉱石とし、98重量%濃度の硫酸を分級前の全酸化鉱石に対して0.73倍重量加え、95℃の温度、大気圧のもとで6時間攪拌し浸出した。このようにして得られた硫酸浸出液および浸出残渣に、オーバー2mmの酸化鉱石の粉砕品にナトリウム元素を23g/l含有する濾過水洗液を加えて40重量%濃度のスラリー鉱石とした酸化鉱石を加え、95℃の温度、大気圧のもとで6時間攪拌し反応した。
【0129】
この常圧反応後の浸出率を調べたところ、Ni:90.3%、Co:78.5%、Fe:4.3%、Mg:85.3%であり、ニッケル、コバルトの浸出率向上と同時に、鉄の浸出率の制御が達成された。
【0130】
(比較例3)
河川水と、ニッケル、コバルト、鉄、マグネシウムを含有する酸化鉱石のうち2mmのふるいで分級したアンダー2mmの鉱石で、23%重量濃度のスラリー鉱石とし、98重量%濃度の硫酸を分級前の全酸化鉱石に対して0.73倍重量加え、95℃の温度、大気圧のもとで6時間攪拌し浸出した。
【0131】
このようにして得られた硫酸浸出液および浸出残渣に、オーバー2mmの酸化鉱石の粉砕品に河川水を加えて40重量%濃度のスラリー鉱石とした酸化鉱石を加え、95℃の温度、大気圧のもとで6時間攪拌し反応した。
【0132】
この常圧反応後の浸出率を調べたところ、Ni:81.3%、Co:60.5%、Fe:32.7%、Mg:82.5%であり、ニッケル、コバルトの浸出率が低下し、鉄の浸出率が上昇した。
【0133】
実施例7および実施例8において、ニッケル、コバルトの浸出率向上と、鉄の浸出率の制御が達成され、鉄含有量の少ない硫酸ニッケル溶液と硫酸コバルト溶液が得られた。
【0134】
ついで、硫黄または塩素を除去する処理が施された水酸化ニッケルと、鉄を含むニッケル酸化鉱石とを用いたフェロニッケルの製造の実験プロセスとその結果について、実施例9、比較例4および比較例5を用いて説明する。表5にフェロニッケルの成分とニッケル量を示し、表6にフェロニッケル、スラグ、排ガスへの硫黄の分配率を示す。
【0135】
【表5】

【0136】
【表6】

【0137】
(比較例4)
比較例4においては、ニッケル水酸化物を混合せずにフェロニッケルを製造した。
【0138】
Ni:2.4%、Fe:12.3%、S:0.025%を含有するニッケル酸化鉱石の乾重量100kgと、S:0.4%を含有する石炭の乾重量7kgとを混合し、窒素ガス雰囲気で常温から1000℃まで1時間で昇温後、1000℃に20分保持し、ニッケル酸化鉱石を還元(カ焼)した。その後、窒素ガス雰囲気のまま常温まで冷却した。この還元鉱(カ焼鉱)を定格50KVAの電気炉を用いて1600℃の温度下で溶融し、90KWHの総使用電力量により全量還元製錬し、フェロニッケルメタルとスラグを製造した。この時、フェロニッケルメタルの成分は、Ni:20.2%、S:0.18%であり、11.72kgのメタルが得られた。したがって、ニッケル純分量は2.37kgであった。スラグの生成量は78.1kgであり、スラグ中の硫黄成分は0.019%であった。したがって、Sの分配量(比率)は、フェロニッケルメタル:0.021kg(40%)、スラグ:0.015kg(28%)、排ガス:0.017kg(32%)であった。
【0139】
(比較例5)
比較例5においては、硫黄または塩素を除去する処理が施されていないニッケル水酸化物と、鉄を含むニッケル酸化鉱石とを混合した原料を用いてフェロニッケルを製造した。
【0140】
Ni:2.4%、Fe:12.3%、S:0.025%を含有するニッケル酸化鉱石の乾重量97.5kgと、表1の試料No1の成分を有する金属水酸化物の乾重量2.5kgと、S:0.4%を含有する石炭の乾重量7.5kgとを混合し、窒素ガス雰囲気で常温から1000℃まで1時間で昇温後、1000℃に20分保持し、ニッケル酸化鉱石と金属水酸化物とを還元(カ焼)した。その後、窒素ガス雰囲気のまま常温まで冷却した。この還元鉱(カ焼鉱)を定格50KVAの電気炉を用いて1600℃の温度下で溶融し、90KWHの総使用電力量により全量還元製錬し、フェロニッケルメタルとスラグを製造した。
【0141】
このとき、フェロニッケルメタルの成分は、Ni:26.3%、S:0.17%であり、12.51kgのメタルが得られた。したがって、ニッケル純分量は3.29kgであった。スラグ生成量は76.2kgであり、スラグ中のS成分は0.02%であった。金属水酸化物をわずか2.5%の使用比率でニッケル酸化鉱石とともに使用することにより、同じ総使用電力量でニッケル純分の生産量は、1.39倍に増えた。しかし、Sの分配量(比率)は、フェロニッケル:0.021kg(15%)、スラグ:0.015kg(10%)、排ガス:0.108kg(75%)となり、排ガス中のSの重量は、比較例4に比べて6.35倍に上昇した。
【0142】
(実施例9)
実施例9においては、硫黄および塩素を除去する処理が施されたニッケル水酸化物と、鉄を含むニッケル酸化鉱石とを混合した原料を用いてフェロニッケルを製造した。
【0143】
Ni:2.4%、Fe:12.3%、S:0.025%を含有するニッケル酸化鉱石の乾重量97.5kgと、表3、実施例1の成分を有する金属水酸化物の乾重量2.5kgと、S:0.4%を含有する石炭の乾重量7.5kgとを混合し、窒素ガス雰囲気で常温から1000℃まで1時間で昇温後、1000℃に20分保持し、ニッケル酸化鉱石と金属水酸化物とを還元(カ焼)した。その後、窒素ガス雰囲気のまま、常温まで冷却した。
【0144】
この還元鉱(カ焼鉱)を定格50KVAの電気炉を用いて1600℃の温度下で溶融し、90KWHの総使用電力量により全量還元製錬し、フェロニッケルとスラグを製造した。
【0145】
この時、フェロニッケルの成分は、Ni:27.33%、S:0.16%であり、12.69kgのメタルが得られた。したがって、ニッケル純分量は3.47kgであった。スラグ生成量は74.6kgであり、スラグ中のS成分は0.021%であった。
【0146】
金属水酸化物をわずか2.5%の使用比率でニッケル酸化鉱石とともに使用することにより、同じ総使用電力量でニッケル純分の生産量は、1.46倍に増加した。
【0147】
また、硫黄の分配量(比率)は、フェロニッケル:0.02kg(36%)、スラグ:0.016kg(29%)、排ガス:0.019kg(35%)となり、排ガス中の硫黄は比較例4とほぼ同じであり、比較例5に比べて0.18倍と大幅に低下した。
【0148】
実施例9において、ニッケル含有率の高いフェロニッケルが得られた。また、排ガス中の硫黄の含有率を低減できた。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】実施の形態に係る製造工程を説明するためのフロー図である。
【図2】実施の形態に係る製造工程を説明するためのフロー図である。
【図3】実施の形態に係る製造工程を説明するためのフロー図である。
【図4】実験例に係る試料のX線回折結果を説明するための図である。
【図5】実験例に係る試料のX線回折結果を説明するための図である。
【図6】実験例に係る試料のX線回折結果を説明するための図である。
【符号の説明】
【0150】
102 酸化鉱石
103 粉砕品
104 スラリー鉱石
105 硫酸
107 用水
108 硫酸浸出液
109 浸出残渣
110 反応液
111 反応残渣
112 中和剤
113 中和液
114 中和残渣
115 凝集剤
202 金属水酸化物
203 水酸化ナトリウム
204 スラリー
205 用水
206 金属水酸化物
208 溶液
210 石炭
212 フェロニッケル
214 スラグ
216 排ガス
218 酸化鉱石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄または塩素を含む、ニッケル化合物またはコバルト化合物から、前記硫黄または前記塩素を除去する精製方法であって、
水と、前記ニッケル化合物または前記コバルト化合物と、ナトリウム化合物とを混合することによりスラリーを得る工程と、
前記スラリーを攪拌する攪拌工程と、
攪拌された前記スラリーを濾過することにより、前記硫黄または前記塩素が除去されたニッケル化合物またはコバルト化合物と、ナトリウムを含む溶液とを得る濾過工程と、
を含むことを特徴とする精製方法。
【請求項2】
請求項1に記載の精製方法において、
前記ニッケル化合物または前記コバルト化合物は、水酸化ニッケル、炭酸化ニッケル、水酸化コバルト、または炭酸化コバルトであることを特徴とする精製方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の精製方法において、
前記ナトリウム化合物は、水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムを含むことを特徴とする精製方法。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかに記載の精製方法において、
前記ナトリウム化合物の重量は、前記ニッケル化合物または前記コバルト化合物の重量の5重量%以上100重量%以下であることを特徴とする精製方法。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかに記載の精製方法において、
前記攪拌工程を、50℃以上100℃以下の温度下で行うことを特徴とする精製方法。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載の精製方法において、
前記濾過工程の後に、前記ナトリウムを含む溶液と硫酸とを使用して、ニッケル、コバルト、鉄を含む酸化鉱石からニッケルまたはコバルトを浸出し、ニッケルまたはコバルトを含む硫酸浸出溶液を得る浸出工程を含むことを特徴とする精製方法。
【請求項7】
請求項1乃至5いずれかに記載の精製方法において、
前記濾過工程の後に、前記硫黄または前記塩素が除去された前記ニッケル化合物または前記コバルト化合物を加熱して溶融することにより、さらに精製する精製工程を含むことを特徴とする精製方法。
【請求項8】
請求項7に記載の精製方法において、
前記濾過工程と前記精製工程との間に、前記硫黄または前記塩素が除去された前記ニッケル化合物とニッケルを含む鉱石とを混合して混合物を得る混合工程を含むことを特徴とする精製方法。
【請求項9】
請求項7に記載の精製方法において、
前記濾過工程と前記精製工程との間に、前記硫黄または前記塩素が除去された前記コバルト化合物とコバルトを含む鉱石とを混合して混合物を得る混合工程を含むことを特徴とする精製方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の精製方法において、
前記混合工程と前記精製工程との間に、前記混合物を還元する還元工程を含むことを特徴とする精製方法。
【請求項11】
請求項8に記載の精製方法において、
前記混合工程の前に、前記ニッケル化合物を還元し、前記ニッケルを含む鉱石を還元する還元工程を含むことを特徴とする精製方法。
【請求項12】
請求項9に記載の精製方法において、
前記混合工程の前に、前記コバルト化合物を還元し、前記コバルトを含む鉱石を還元する還元工程を含むことを特徴とする精製方法。
【請求項13】
請求項8または9に記載の精製方法において、
前記混合工程の前に、600℃以上1200℃以下の温度下で、前記ニッケル化合物または前記コバルト化合物を焼成することによって、ニッケルまたはコバルトを含む酸化物とする焼成工程を含み、
前記混合工程と前記精製工程との間に、前記混合物を還元する還元工程を含むことを特徴とする精製方法。
【請求項14】
請求項10乃至13いずれかに記載の精製方法において、
前記還元工程を、600℃以上1200℃以下の温度下で行うことを特徴とする精製方法。
【請求項15】
請求項10乃至14いずれかに記載の精製方法において、
前記還元工程において、石炭を用いて還元することを特徴とする精製方法。
【請求項16】
請求項7乃至15いずれかに記載の精製方法において、
前記精製工程において、電気炉を用いて前記硫黄または前記塩素が除去された前記ニッケル化合物または前記コバルト化合物を精製することを特徴とする精製方法。
【請求項17】
請求項1乃至16いずれかに記載の精製方法において、
ニッケルまたはコバルトを含む酸化鉱石を硫酸で浸出することによりニッケル化合物またはコバルト化合物を得た後、得られたニッケル化合物またはコバルト化合物を用いて前記スラリーを得る前記工程を実施することを特徴とする精製方法。
【請求項18】
鉄とニッケル化合物とからフェロニッケルを製造する製造方法であって、
ニッケル化合物を原料として請求項1乃至5いずれかに記載の精製方法を実施し、前記濾過工程により前記ニッケル化合物を得る工程と、
前記ニッケル化合物と鉄とを共存させた状態で加熱処理を行い前記鉄と前記ニッケル化合物とを還元する工程と、
還元された前記鉄と前記ニッケル化合物とを溶融することによりフェロニッケルを得る工程と、
を含むことを特徴とするフェロニッケルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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