ニッケル微粒子およびその製造方法
【課題】長期にわたり安定に存在し得るナノサイズのニッケル微粒子を簡便に製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明によって提供されるニッケル微粒子の製造方法は、α型結晶構造の水酸化ニッケル粒子が水系溶媒に分散して成る水酸化ニッケル分散液を用意すること、および上記用意した分散液に還元剤を添加して、該分散液中の水酸化ニッケルから金属ニッケル微粒子を生成すること、を包含する。この方法により生成される金属ニッケル微粒子は、TEM観察に基づく平均粒子径が1nm〜50nmの範囲内にあることを特徴とする。
【解決手段】本発明によって提供されるニッケル微粒子の製造方法は、α型結晶構造の水酸化ニッケル粒子が水系溶媒に分散して成る水酸化ニッケル分散液を用意すること、および上記用意した分散液に還元剤を添加して、該分散液中の水酸化ニッケルから金属ニッケル微粒子を生成すること、を包含する。この方法により生成される金属ニッケル微粒子は、TEM観察に基づく平均粒子径が1nm〜50nmの範囲内にあることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメートル〜数十ナノメートルの平均粒径を有するニッケル微粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、電子機器の小型化および高度集積化に応じて該電子機器の内部に搭載される電子部品の小型化および高度集積化が求められており、かかる小型化および高度集積化に伴って、かかる電子部品における回路基板やコンデンサ(例えば、誘電体層(セラミック層)と内部電極層とを交互に積層、焼成して成る積層セラミックコンデンサ)においても、薄層化、多層化が強く求められている。
【0003】
このようなコンデンサの内部電極層や基板の電気回路を形成する際には、従来では、銀、白金、またはパラジウムのような高価の貴金属材料を含有するペースト状、あるいはスラリー状に調製された導電性材料(以下、「導体ペースト」と総称する。)が用いられており、かかる導体ペーストを所定部分に所定の膜厚で塗布し、これを焼成することにより上記電極層や基板回路等を形成していた。最近では、上記貴金属材料に代えて、比較的安価で信頼性の高いニッケルを含む導体ペーストが多用されており、上記薄層化、多層化を実現するにあたり、上記導体ペーストに含まれるニッケル粉末としては、ナノメートル(nm)サイズ(ナノサイズ)の粒径(すなわち平均粒子径または粒度分布のメジアン径)を有するニッケル微粒子(ニッケルナノ粒子)が好ましい。
【0004】
ニッケル微粒子の製造方法としては、種々の技術が提案されている。例えば非特許文献1〜3では、塩化ニッケルにヒドラジンを加えて塩基性条件下で還元することによりニッケル粒子を生成する方法が開示されている。また、特許文献1では、水酸化ニッケル等の金属塩を、還元性のエチレングリコール等の有機溶媒に塩化白金酸等の固体触媒とともに溶解または分散させて溶液を作製し、かかる溶液にマイクロ波を照射することによりニッケル粒子を作製する方法が開示されている。また、例えば特許文献2では、水酸化ニッケルを水素ガスで還元した後に高速分級ロータを備えたジェットミルで解砕し、再凝集前に粗大粒子を除去してニッケル粒子を作製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−256707号公報
【特許文献2】特開2003−89806号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chou K., et al., "Studies on the chemical synthesis of nanosized nickel powder and its stability", J. Nanopart. Res., 2001, 3, p.127-132
【非特許文献2】Duan Y., et al., "Structure study of nickel nanoparticles", Mater. Chem. Phys., 2004, 87, p.452-454
【非特許文献3】Park J. W., et al., "Preparation of fine Ni powders from nickel hydrazine complex", Mater. Chem. Phys., 2006, 97, p.371-378
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の方法において、例えば特許文献1および2で開示される方法では、ニッケル微粒子を作製するのに特別な装置が必要である。また、非特許文献1〜3に開示される方法では、塩化ニッケルにヒドラジンを加え、塩化ニッケルを還元してニッケル微粒子を生成させるには、典型的には塩化ニッケルとヒドラジンの混合溶液を高温下(例えば非特許文献1では、反応温度が80℃以上)に置く必要があること、上記還元反応を進行させるために触媒や分散剤等の他成分を添加する必要があること、あるいは上記還元反応を進行させるために、(例えば水酸化ナトリウムを加えることにより)上記混合溶液の液性を塩基性に調整する必要があること等、上記反応を円滑に進行させるための反応条件の調整が難しい。また、生成したニッケル微粒子は酸化等により変質し易く、長期的に安定して存在させることが難しい。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、長期にわたり安定に存在し得るナノサイズのニッケル微粒子を簡便に製造する方法を提供することである。また、そのような方法を用いて製造されるニッケルナノ粒子を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するべく、本発明により提供されるニッケル微粒子の製造方法は、α型結晶構造の水酸化ニッケル粒子が水系溶媒に分散して成る水酸化ニッケル分散液を用意すること、および上記用意した分散液に還元剤を添加して、該分散液中の水酸化ニッケルから金属ニッケル微粒子を生成すること、を包含する。
本発明に係るニッケル微粒子(粉末状のニッケル微粒子、またはニッケル微粒子の集合体)の製造方法では、ニッケル(Ni)源としてα型の結晶構造を有する水酸化ニッケル(α‐Ni(OH)2)を用いており、かかる水酸化ニッケルを還元剤と反応させて還元すると、微粒子状の金属ニッケルが生成する。上記水酸化ニッケルは、例えば水と混合させて分散液あるいはスラリーに調製された状態で用いられ、かかる状態の水酸化ニッケルに、(例えば水溶液として調製された)還元剤を加えて混合すると、この混合液体中で上記水酸化ニッケルは容易に還元されて、金属ニッケルが生成(析出)する。したがって、かかる製造方法によると、α型水酸化ニッケルを還元することにより容易にニッケル微粒子を製造することができる。
【0010】
ここで開示されるニッケル微粒子の製造方法の好ましい一態様では、TEM観察に基づく平均粒子径が1nm〜50nmの範囲内にあることを特徴とする金属ニッケル微粒子を生成する。
ここで、上記TEM観察に基づく平均粒子径とは、顕微鏡法を用いて透過型電子顕微鏡(TEM)による顕微鏡像から計測された粒子径(円相当径)をいう。
【0011】
ここで開示されるニッケル微粒子の製造方法の別の好ましい一態様では、上記還元剤として、水素化ホウ素化合物または水素化アルミニウム化合物を用いる。より好ましくは水素化ホウ素ナトリウムを用いる。
かかる態様によると、上記還元剤として、金属水素化物を用いることが好ましく、より好ましくは水素化ホウ素化合物(より好ましくは水素化ホウ素ナトリウム;NaBH4)または水素化アルミニウム化合物(例えば水素化アルミニウムリチウム;LiAlH4)を用いる(例えば、該金属水素化物の水溶液を上記水酸化ニッケルと混合させる)。このことにより、該金属水素化物と上記水酸化ニッケルとの混合液体を高温条件下、あるいは高圧条件下に曝すことなく、常温常圧下でニッケル微粒子(ニッケルナノ粒子)を容易に製造することができる。
【0012】
ここで開示されるニッケル微粒子の製造方法のさらに好ましい一態様では、上記還元剤は、0.1M〜3.0Mの濃度範囲となるように添加される。
かかる態様によると、上記還元剤を添加後における該還元剤と上記水酸化ニッケルとの混合液体(分散体)中における該還元剤の濃度が、上記範囲(好ましくは1.5M〜3.0M、より好ましくは2.0M〜3.0M)となるように上記水酸化ニッケル分散液に添加されることにより、上記ニッケルナノ粒子をより一層効率よく製造することができる。
【0013】
ここで開示されるニッケル微粒子の製造方法の別の好ましい一態様では、上記α型結晶構造の水酸化ニッケルとして、硝酸ニッケル(Ni(NO3)2)または硫酸ニッケル(NiSO4)とアルカリ金属水酸化物とを混合した水溶液を調製することにより生成した水酸化ニッケルを用いる。
かかる態様によると、上記α型結晶構造の水酸化ニッケルを、硝酸ニッケルまたは硫酸ニッケルとアルカリ金属水酸化物(典型的には水酸化ナトリウム)とを反応させて生成することにより、該水酸化ニッケルの生成時における上記混合液体の液性が既に塩基性となっている。したがって、かかる水酸化ニッケルから金属ニッケルへの還元反応を促進するために、改めて上記混合液体を塩基性にする必要がない。このことにより、改めて塩基性にするための余分な工程や試薬を要せずに、ニッケル微粒子を効率よく生成することができる。
【0014】
また、上記調製されたα型結晶構造の水酸化ニッケルは、好ましくは0.5nm〜30nmの範囲内にある平均粒子径を有する。
かかる態様によると、このような平均粒子径の水酸化ニッケル(微粒子)が用いられることにより、上記範囲の平均粒子径を有するニッケル微粒子を好適に生成することができる。
【0015】
また、本発明は、他の側面として、ここに開示される製造方法により製造されるニッケル微粒子(微粒子群、すなわち粉体)を提供する。なお、かかるニッケル微粒子は、例えば該ニッケル微粒子を含む上記混合液体を濾過することで分離され、濾物(残渣)を洗浄、乾燥することによりニッケル粉末として得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例(例1)に係る方法により生成したα型水酸化ニッケルのX線回折スペクトルである。
【図2】実施例(例2)に係る方法により生成したβ型水酸化ニッケルのX線回折スペクトルである。
【図3】実施例(例5)に係る方法により生成したニッケル微粒子のTEM写真である。
【図4】実施例(例7)に係る方法により生成したニッケル微粒子のTEM写真である。
【図5】実施例(例9)に係る方法により得られたニッケル微粒子を含む沈殿物の時間変化を示すX線回折スペクトルである。
【図6】実施例(例11)に係る方法により得られたニッケル微粒子を含む沈殿物の時間変化を示すX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、ニッケル微粒子の原料となるα型水酸化ニッケルの製造方法)以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、生成したニッケル微粒子を粉末として取り出す方法)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
本発明に係るニッケル微粒子の製造方法は、ナノサイズの平均粒子径(典型的には、0.5nm〜200nm、例えば平均粒子径1nm〜100nm)を有するニッケル微粒子(ニッケルナノ粒子)の集合体(すなわち粉末状のニッケルナノ粒子)を生成する方法であって、α型の水酸化ニッケルを水系溶媒に分散することによって得られる水酸化ニッケル分散液に対して、還元剤として金属水素化物(典型的には、水素化ホウ素化合物または水素化アルミニウム化合物)を添加することにより特徴づけられるものである。したがって、上記目的を達成し得る限りにおいて、その他の構成成分(副成分)の内容や組成については、種々の基準に照らして任意に決定することができる。
【0019】
本発明に係る製造方法では、ニッケル(Ni)源として水酸化ニッケル(Ni(OH)2)粉末を好ましく用いることができる。また、かかる水酸化ニッケル粉末は、α型結晶構造を有する水酸化ニッケル(α‐Ni(OH)2)粒子から構成される(もしくは全体の50質量%以上がα‐Ni(OH)2である粉末)ことが好ましいが、該α型結晶構造の水酸化ニッケル粒子を主成分とすればよく、副成分として別の結晶構造(典型的にはβ型結晶構造)の水酸化ニッケル粒子を含んでいてもよい。このような水酸化ニッケル粉末を構成する水酸化ニッケル粒子の平均粒子径としては、0.1nm〜50nm(より好ましくは0.5nm〜30nm)が好ましい。かかる水酸化ニッケル粉末は、水系溶媒に分散されて成る分散液、あるいはスラリーの状態に調製されて用いられる。
【0020】
上記α型結晶構造の水酸化ニッケル粒子(粉末)の分散液(スラリー)については、市販のα型結晶構造の水酸化ニッケル(α型水酸化ニッケル)粉末を用い、これに水系溶媒を加えることにより得ることができる。あるいは、例えば以下に示す方法により、上記範囲の平均粒子径を有するα型水酸化ニッケル粒子を主成分として含む分散液(スラリー)を容易に調製することができる。
まず、硝酸ニッケル(Ni(NO3)2)または硫酸ニッケル(NiSO4)の水溶液に対してアルカリ金属(典型的にはナトリウム)の水酸化物を添加して攪拌する。上記Ni(NO3)2またはNiSO4は、水系溶媒に対する溶解度が大きい塩であるので好ましく、より好ましくは硝酸ニッケルである。上記アルカリ金属の水酸化物としては、上記のように水酸化ナトリウム(NaOH)を好ましく用いることができ、かかる水酸化物を水(溶媒)に溶解して水溶液を調製し、Ni(NO3)2またはNiSO4の水溶液に添加することができる。上記水酸化物水溶液の濃度としては、該水溶液中の水酸化物イオンが上記Ni(NO3)2またはNiSO4の水溶液中のニッケルイオンと過不足なく反応し得る以上の量で存在し得る濃度であることが好ましい。上記水酸化物水溶液を添加する際には、1〜5秒間で1mL(例えば4秒間±1秒間で1mL)の速度で該水酸化物水溶液を上記Ni(NO3)2またはNiSO4水溶液に滴下(添加)することが好ましい。上記Ni(NO3)2またはNiSO4と上記水酸化物との混合は常温下で実施することができ、両者の反応を進行させるために加熱を行う必要はない。また、このとき混合溶液を攪拌しながら滴下することが好ましい。好ましくは、かかる水酸化物の添加後も、しばらくの間(例えば3分間〜5分間程度)攪拌を継続する。
上記攪拌の終了後、上記混合溶液に対して、例えば3000rpm〜8000rpm(例えば6000rpm±1000rpm)の回転速度で5分間〜10分間(例えば7分間±1分間)遠心分離を行う。これにより、水酸化ニッケルを沈殿させることができる。
【0021】
上記遠心分離後の上澄み部分を捨てて、残ったゼリー状の沈殿物(水酸化ニッケル)に対して有機溶剤(例えばアセトン)を加え、これを例えば5分間程度の超音波浴にかけて上記沈殿物を上記有機溶剤中に分散させる。その後、再び遠心分離を実施する。かかる分離条件については上記と同様でよく、適宜調整される。かかる遠心分離の後に、再度上澄み部分を捨てて、残った(ゼリー状)沈殿物に対して純水を加え、上記と同様にして超音波浴にかけて上記沈殿物を純水中に分散させる。かかる純水の量は、所望の分散液(スラリー)の濃度に応じて適宜調整される。最後に、例えば10分間〜60分間(例えば30分間±10分間)放置して、上記分散液中に残存し得る有機溶剤を完全に揮発させることが好ましい。
以上のようにして、α型水酸化ニッケルの分散液を調製することができる。なお、かかる分散液に目的に応じて、後述の還元剤との還元反応に悪影響を及ぼさない限りにおいて、適宜別の成分(例えば安定剤等)を添加してもよい。
【0022】
上記調製された水酸化ニッケルの分散液に添加される還元剤としては、金属水素化物を用いることができる。好ましくは、水素化ホウ素化合物または水素化アルミニウム化合物であり、例えば水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAHまたはDIBAL‐Hと呼ばれる。)、あるいは水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)が挙げられる。特に好ましくはNaBH4である。このような還元剤を用いることにより、上記α型水酸化ニッケルをナノサイズ(例えば粒子径が1nm〜50nm)の金属ニッケル(微粒子)に好ましく還元することができる。
【0023】
かかる金属水素化物は、好ましくは水系溶媒に溶解して水溶液として上記水酸化ニッケル分散液に添加される。このとき、かかる金属水素化物は、添加後の混合液体中における該金属水素化物の濃度が1.0M〜3.0M(好ましくは2.0M〜3.0M、例えば2.2M±0.2M)の範囲となるような水溶液として調製され、添加される。かかる濃度が1.0Mよりも低い場合には、金属ニッケル微粒子の生成に長時間を要するとともに、生成された金属ニッケル微粒子は不安定で、しばらく静置すると再び酸化されてしまう虞がある。また、上記濃度が3.0Mより大幅に高い場合には、金属ニッケル微粒子が生成される還元反応以外に別の副反応が起こり得るために、金属ニッケル微粒子の収率が低下する虞がある。なお、上記濃度範囲においては、金属水素化物の濃度が高い場合の方が、後述の金属ニッケル微粒子を含む沈殿物がより速やかに且つ安定的に生成するとともに、生成した沈殿物は長期間にわたって安定的に存在するので粉末として取り出すことが可能となる。
また、水酸化ニッケル分散液中のα型水酸化ニッケルが相変化(典型的にはβ型水酸化ニッケルに変化)するのを防ぐために、好ましくは、上記金属水素化物の水溶液および水酸化ニッケル分散液は常圧、室温下で混合される。このとき、金属水素化物の水溶液を、適当な滴下速度で上記水酸化ニッケル分散液に滴下し、攪拌させながら混合するのが好ましい。
かかる混合により、上記水酸化ニッケルは上記還元剤により還元されて、金属ニッケルが生成する。かかる金属ニッケルは、微粒子として上記混合液体中に生成する沈殿物として得られる。金属ニッケル微粒子を完全に沈殿させるためには、上記混合の後、1時間〜5時間(好ましくは2時間以上、例えば2時間〜3時間)混合液体を静置して、上記沈殿物を反応容器の底部に沈下(堆積)させることが好ましい。
【0024】
上記のように、α型水酸化ニッケルを上記金属水素化物で還元することにより、該水酸化ニッケル分散液に該金属水素化物の水溶液を添加するという還元工程のみで、ナノサイズの平均粒子径を有する金属ニッケル微粒子を生成することができる。また、かかる還元工程も常圧、室温下で実施すればよく、上記α型水酸化ニッケル分散液と上記金属水素化物の水溶液とを混合させるのみで容易に金属ニッケル微粒子を沈殿させることができる。
また、例えば塩化ニッケルを金属ニッケルに還元する場合には、塩化ニッケルを含む溶液(典型的には水溶液)に水酸化ナトリウム等を添加して液性を塩基性にする必要がある。一方、上述の方法によりα型水酸化ニッケルを製造する場合には、該水酸化ニッケルを含む分散液は既に塩基性となっているだけでなく、上記金属水素化物の水溶液は強い塩基性を示す。このことにより、本発明に係る還元工程では、かかる還元反応を進行させるために改めて塩基性物質を添加する必要はなく、工程の複雑化やコストの増加を好ましく防止することができる。
【0025】
以上のようにして、上記混合液体中に沈殿物として生成した金属ニッケル微粒子は、従来の沈殿物の取出し方法と同様の方法を用いることにより、粉末状態で取り出すことができる。すなわち、例えば上記混合液体を濾過して沈殿物を濾物として濾液から分離するとともに、かかる濾物を純水等で洗浄して未反応の金属水素化物やその他塩類を除去した後に、残った残渣を乾燥する。このような工程を経て粉末状態の金属ニッケル微粒子を得ることができる。
【0026】
このようにして製造された金属ニッケル微粒子は、TEM観察に基づく顕微鏡像から計測された粒子径(平均粒子径)として、1nm〜50nmの範囲のナノサイズの粒子径を有するニッケルナノ粒子として得ることができる。
【0027】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0028】
<例1:α型水酸化ニッケル分散液の調製>
以下のようにしてα型水酸化ニッケル分散液(α‐Ni(OH)2)を調製した。
まず、市販(Chem−Supply Pty. Ltd.製)の硝酸ニッケル(Ni(NO3)2)に純水を加えて、0.2MのNi(NO3)2水溶液を50mL調製した。次に、市販(Asia Pacific Speciality Chemicals Ltd.製)の水酸化ナトリウム(NaOH)に純水を加えて、0.4MのNaOH水溶液を50mL調製した。
次に、Ni(NO3)2水溶液を350rpmの回転速度で室温下で攪拌させ、ここに上記NaOH水溶液を4秒間で1mL程度の滴下速度で滴下(添加)した。この後、4分間程度、攪拌を継続した。
次いで、ここに適量のアセトンを加えて、6000rpmの回転速度で7分間遠心分離した。浮遊物を捨て、ゼリー状の沈殿物に対してさらにアセトンを加えて、再び分散させた。次に、これを5分間程度、超音波浴に入れた。その後再び6000rpmの回転速度で7分間遠心分離した。
この後、浮遊物を捨ててゼリー状の沈殿物に対して純水を加えて分散させた。次いで、5分間程度超音波浴に入れた。最後に純水を加えて100mLとなるように希釈し、室温下で30分程度静置して、余剰分として残存しているアセトンを揮発させた。
以上のようにして、α‐Ni(OH)2の分散液(スラリー)を調製した。
【0029】
<例2:β型水酸化ニッケル分散液の調製>
次に、上記例1で得られたα‐Ni(OH)2分散液の一部を取り分け、これを80℃の温度条件で2時間還流することにより、β型水酸化ニッケル(β‐Ni(OH)2)分散液(スラリー)を調製した。
【0030】
<例3:調製した各水酸化ニッケル分散液のXRD測定>
上記例1で得られたα‐Ni(OH)2分散液の一部をXRD測定用に取り分けて、XRD測定を実施した。この測定結果を図1に示す。また、上記例2で得られたβ‐Ni(OH)2分散液の一部をXRD測定用に取り分けて、α‐Ni(OH)2分散液と同様にしてXRD測定を実施した。その測定結果を図2に示す。図1,2に示されるように、α‐Ni(OH)2とβ‐Ni(OH)2のそれぞれに特徴的な回折ピークが認められた。
【0031】
<例4:還元剤の調製>
次に、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を採用し、かかるNaBH4の粉末(Asia Pacific Speciality Chemicals Ltd.製)に純水を加えることにより、NaBH4水溶液を調製した。かかる水溶液として2種類(1),(2)用意した。なお、かかる2種類のNaBH4水溶液(1),(2)は、該水溶液を上記水酸化ニッケル分散液に加えて得られる混合液体中のNaBH4の濃度がそれぞれ0.1Mおよび2.2Mとなるように調製されたものである。
【0032】
<例5:α型水酸化ニッケル分散液とNaBH4水溶液(1)との反応>
次に、上記例1で調製されたα‐Ni(OH)2分散液に、上記例4で調製されたNaBH4水溶液(1)を添加して混合することにより、NaBH4の濃度が1.0Mとなるような混合液体を得た。この混合液体は、20分〜30分後に茶色〜黒色の沈殿を生じた。そしてかかる沈殿物は、約3時間で完全に容器の底に沈下した。この沈殿物は磁性を有しており、金属ニッケルの生成が確認された。なお、この混合液体中の沈殿物は、およそ215時間後に緑色がかった灰色に変化した。これは該沈殿物の一部が酸化されて再び水酸化ニッケルが生じたためと推察された。しかし、かかる沈殿物において、その後の変化は認められなかった。
【0033】
<例6:α型水酸化ニッケル分散液とNaBH4水溶液(1)との反応後のTEM観察>
次に、上記沈殿物のTEM観察を実施した。まず、上記α‐Ni(OH)2分散液とNaBH4水溶液(1)とを混合し、得られた混合液体を約1g遠心分離管に取り、ここに10mLの水と10mLのアセトンを注いで十分に振った。この遠心分離管を6000rpmで7分間遠心分離にかけた。遠心分離後、上層部分を捨て、新たに10mLのアセトンを注いでガラス瓶に移した。次いで、このガラス瓶を超音波浴に10分間入れた。このようにして十分に分散されたスラリー状の混合液体を数滴カーボングリッドの上に滴下し、IRランプの下で15分程度乾燥させてTEM観察用試料を作製した。
この得られた試料のTEM観察結果を図3に示す。図3に示されるように、試料中には、複数の粒子が点在しており、この粒子が金属ニッケル粒子であることが確認された。かかる粒子の平均的な粒径は、このTEM画像より約5nmであることがわかった。
【0034】
<例7:α型水酸化ニッケル分散液とNaBH4水溶液(2)との反応>
次に、上記例5と同様にして、上記例1で調製されたα‐Ni(OH)2分散液に、上記例4で調製されたNaBH4水溶液(2)を添加して混合することにより、NaBH4の濃度が2.2Mとなるような混合液体を得た。この混合液体は、混合後直ちに黒色沈殿を生じた。そしてかかる沈殿物は、2〜3時間で完全に容器の底に沈下した。この沈殿物は上記例5のときと同様に、磁性を有しており、金属ニッケルの生成が確認された。なお、この混合液体中の沈殿物は、100日経過後も磁性を有しており、かかる沈殿物を酸化させることなく、粉末(固体)として使用可能な状態で取り出し得ることが示唆された。
【0035】
<例8:α型水酸化ニッケル分散液とNaBH4水溶液(2)との反応後のTEM観察>
次に、上記例7で得られた沈殿物のTEM観察を、上記例6と同様にして作製したTEM観察用試料を用いて実施した。その結果を図4に示す。図4に示されるように、試料中には、複数の粒子が点在しており、この粒子が金属ニッケル粒子であることが確認された。かかる粒子の平均的な粒径は、このTEM画像より約30nmであることがわかった。
【0036】
<例9:β型水酸化ニッケル分散液とNaBH4水溶液(1)との反応>
次に、上記例5と同様にして、上記例2で調製されたβ‐Ni(OH)2分散液に、上記例4で調製されたNaBH4水溶液(1)を添加して混合することにより、NaBH4の濃度が1.0Mとなるような混合液体を得た。この混合液体は、30分後に灰色がかった緑色の沈殿を生じた。そして5時間経過した後も泡が発生しており、還元反応が継続していることが確認された。21時間経過後までには、上記沈殿の表層部に緑色の塊が再び現れ始め、45時間経過後までには、上記沈殿物は、ほぼ完全に緑色に変化した。
【0037】
<例10:β型水酸化ニッケル分散液とNaBH4水溶液(1)との反応後のXRD測定>
ここで、上記例9において得られた混合液体について、混合後5時間経過後(5hrs)、および混合後215時間経過後(215hrs)のそれぞれにおける状態の変化をXRD測定により評価した。また、混合前のβ‐Ni(OH)2分散液についても、比較のためにXRD測定を実施した(0hrs)。かかるXRD測定に際し、上記各時間経過後の混合液体およびβ‐Ni(OH)2分散液を所定の容器に滴下し、室温下で20分〜30分静置して乾燥させることにより、XRD測定用試料をそれぞれ作製した。そして、各試料のXRD測定を実施した。その結果を図5に示す。その結果、上記各時間経過後の混合液体中の生成物(沈殿物)では、β‐Ni(OH)2と同じ位置にピークが現われており、β‐Ni(OH)2とは異なる生成物は確認されなかった。
【0038】
<例11:β型水酸化ニッケル分散液とNaBH4水溶液(2)との反応>
次に、上記例9と同様にして、上記例2で調製されたβ‐Ni(OH)2分散液に、上記例4で調製されたNaBH4水溶液(2)を添加して混合することにより、NaBH4の濃度が2.2Mとなるような混合液体を得た。この混合液体は、混合後直ちに灰色っぽい沈殿を生じ、30分間の間に黒色に変化した。そして5時間経過後までに完全に黒色沈殿の沈下が完了した。21時間経過後までには、上記沈殿の表層部に緑色の塊が現れ始め、215時間経過後までには、上記沈殿物は、ほぼ完全に緑色に変化した。
【0039】
<例12:β型水酸化ニッケル分散液とNaBH4水溶液(2)との反応後のXRD測定>
ここで、上記例11において得られた混合液体について、混合後5時間経過後(5hrs)、および混合後215時間経過後(215hrs)のそれぞれにおける状態の変化を、上記例10と同様にして、XRD測定により評価した。また、混合前のβ‐Ni(OH)2分散液についても、比較のためにXRD測定を実施した(0hrs)。その結果を図6に示す。その結果、上記例10と同様に、上記各時間経過後(5hrsおよび215hrs)の混合液体中の生成物(沈殿物)では、β‐Ni(OH)2と同じ位置にピークが現われており、β‐Ni(OH)2とは異なる生成物は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
上述のように、本実施例によると、ニッケル源としてα型結晶構造を有する水酸化ニッケルの分散液に対して、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム水溶液を添加することにより、室温および常圧条件下でも還元反応が好ましく進行し、かかる還元行程を経ることのみで、ナノサイズの粒子径を有する金属ニッケル微粒子であって長期にわたって安定的に存在し得る金属ニッケル微粒子を容易に得ることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメートル〜数十ナノメートルの平均粒径を有するニッケル微粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、電子機器の小型化および高度集積化に応じて該電子機器の内部に搭載される電子部品の小型化および高度集積化が求められており、かかる小型化および高度集積化に伴って、かかる電子部品における回路基板やコンデンサ(例えば、誘電体層(セラミック層)と内部電極層とを交互に積層、焼成して成る積層セラミックコンデンサ)においても、薄層化、多層化が強く求められている。
【0003】
このようなコンデンサの内部電極層や基板の電気回路を形成する際には、従来では、銀、白金、またはパラジウムのような高価の貴金属材料を含有するペースト状、あるいはスラリー状に調製された導電性材料(以下、「導体ペースト」と総称する。)が用いられており、かかる導体ペーストを所定部分に所定の膜厚で塗布し、これを焼成することにより上記電極層や基板回路等を形成していた。最近では、上記貴金属材料に代えて、比較的安価で信頼性の高いニッケルを含む導体ペーストが多用されており、上記薄層化、多層化を実現するにあたり、上記導体ペーストに含まれるニッケル粉末としては、ナノメートル(nm)サイズ(ナノサイズ)の粒径(すなわち平均粒子径または粒度分布のメジアン径)を有するニッケル微粒子(ニッケルナノ粒子)が好ましい。
【0004】
ニッケル微粒子の製造方法としては、種々の技術が提案されている。例えば非特許文献1〜3では、塩化ニッケルにヒドラジンを加えて塩基性条件下で還元することによりニッケル粒子を生成する方法が開示されている。また、特許文献1では、水酸化ニッケル等の金属塩を、還元性のエチレングリコール等の有機溶媒に塩化白金酸等の固体触媒とともに溶解または分散させて溶液を作製し、かかる溶液にマイクロ波を照射することによりニッケル粒子を作製する方法が開示されている。また、例えば特許文献2では、水酸化ニッケルを水素ガスで還元した後に高速分級ロータを備えたジェットミルで解砕し、再凝集前に粗大粒子を除去してニッケル粒子を作製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−256707号公報
【特許文献2】特開2003−89806号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chou K., et al., "Studies on the chemical synthesis of nanosized nickel powder and its stability", J. Nanopart. Res., 2001, 3, p.127-132
【非特許文献2】Duan Y., et al., "Structure study of nickel nanoparticles", Mater. Chem. Phys., 2004, 87, p.452-454
【非特許文献3】Park J. W., et al., "Preparation of fine Ni powders from nickel hydrazine complex", Mater. Chem. Phys., 2006, 97, p.371-378
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の方法において、例えば特許文献1および2で開示される方法では、ニッケル微粒子を作製するのに特別な装置が必要である。また、非特許文献1〜3に開示される方法では、塩化ニッケルにヒドラジンを加え、塩化ニッケルを還元してニッケル微粒子を生成させるには、典型的には塩化ニッケルとヒドラジンの混合溶液を高温下(例えば非特許文献1では、反応温度が80℃以上)に置く必要があること、上記還元反応を進行させるために触媒や分散剤等の他成分を添加する必要があること、あるいは上記還元反応を進行させるために、(例えば水酸化ナトリウムを加えることにより)上記混合溶液の液性を塩基性に調整する必要があること等、上記反応を円滑に進行させるための反応条件の調整が難しい。また、生成したニッケル微粒子は酸化等により変質し易く、長期的に安定して存在させることが難しい。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、長期にわたり安定に存在し得るナノサイズのニッケル微粒子を簡便に製造する方法を提供することである。また、そのような方法を用いて製造されるニッケルナノ粒子を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するべく、本発明により提供されるニッケル微粒子の製造方法は、α型結晶構造の水酸化ニッケル粒子が水系溶媒に分散して成る水酸化ニッケル分散液を用意すること、および上記用意した分散液に還元剤を添加して、該分散液中の水酸化ニッケルから金属ニッケル微粒子を生成すること、を包含する。
本発明に係るニッケル微粒子(粉末状のニッケル微粒子、またはニッケル微粒子の集合体)の製造方法では、ニッケル(Ni)源としてα型の結晶構造を有する水酸化ニッケル(α‐Ni(OH)2)を用いており、かかる水酸化ニッケルを還元剤と反応させて還元すると、微粒子状の金属ニッケルが生成する。上記水酸化ニッケルは、例えば水と混合させて分散液あるいはスラリーに調製された状態で用いられ、かかる状態の水酸化ニッケルに、(例えば水溶液として調製された)還元剤を加えて混合すると、この混合液体中で上記水酸化ニッケルは容易に還元されて、金属ニッケルが生成(析出)する。したがって、かかる製造方法によると、α型水酸化ニッケルを還元することにより容易にニッケル微粒子を製造することができる。
【0010】
ここで開示されるニッケル微粒子の製造方法の好ましい一態様では、TEM観察に基づく平均粒子径が1nm〜50nmの範囲内にあることを特徴とする金属ニッケル微粒子を生成する。
ここで、上記TEM観察に基づく平均粒子径とは、顕微鏡法を用いて透過型電子顕微鏡(TEM)による顕微鏡像から計測された粒子径(円相当径)をいう。
【0011】
ここで開示されるニッケル微粒子の製造方法の別の好ましい一態様では、上記還元剤として、水素化ホウ素化合物または水素化アルミニウム化合物を用いる。より好ましくは水素化ホウ素ナトリウムを用いる。
かかる態様によると、上記還元剤として、金属水素化物を用いることが好ましく、より好ましくは水素化ホウ素化合物(より好ましくは水素化ホウ素ナトリウム;NaBH4)または水素化アルミニウム化合物(例えば水素化アルミニウムリチウム;LiAlH4)を用いる(例えば、該金属水素化物の水溶液を上記水酸化ニッケルと混合させる)。このことにより、該金属水素化物と上記水酸化ニッケルとの混合液体を高温条件下、あるいは高圧条件下に曝すことなく、常温常圧下でニッケル微粒子(ニッケルナノ粒子)を容易に製造することができる。
【0012】
ここで開示されるニッケル微粒子の製造方法のさらに好ましい一態様では、上記還元剤は、0.1M〜3.0Mの濃度範囲となるように添加される。
かかる態様によると、上記還元剤を添加後における該還元剤と上記水酸化ニッケルとの混合液体(分散体)中における該還元剤の濃度が、上記範囲(好ましくは1.5M〜3.0M、より好ましくは2.0M〜3.0M)となるように上記水酸化ニッケル分散液に添加されることにより、上記ニッケルナノ粒子をより一層効率よく製造することができる。
【0013】
ここで開示されるニッケル微粒子の製造方法の別の好ましい一態様では、上記α型結晶構造の水酸化ニッケルとして、硝酸ニッケル(Ni(NO3)2)または硫酸ニッケル(NiSO4)とアルカリ金属水酸化物とを混合した水溶液を調製することにより生成した水酸化ニッケルを用いる。
かかる態様によると、上記α型結晶構造の水酸化ニッケルを、硝酸ニッケルまたは硫酸ニッケルとアルカリ金属水酸化物(典型的には水酸化ナトリウム)とを反応させて生成することにより、該水酸化ニッケルの生成時における上記混合液体の液性が既に塩基性となっている。したがって、かかる水酸化ニッケルから金属ニッケルへの還元反応を促進するために、改めて上記混合液体を塩基性にする必要がない。このことにより、改めて塩基性にするための余分な工程や試薬を要せずに、ニッケル微粒子を効率よく生成することができる。
【0014】
また、上記調製されたα型結晶構造の水酸化ニッケルは、好ましくは0.5nm〜30nmの範囲内にある平均粒子径を有する。
かかる態様によると、このような平均粒子径の水酸化ニッケル(微粒子)が用いられることにより、上記範囲の平均粒子径を有するニッケル微粒子を好適に生成することができる。
【0015】
また、本発明は、他の側面として、ここに開示される製造方法により製造されるニッケル微粒子(微粒子群、すなわち粉体)を提供する。なお、かかるニッケル微粒子は、例えば該ニッケル微粒子を含む上記混合液体を濾過することで分離され、濾物(残渣)を洗浄、乾燥することによりニッケル粉末として得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例(例1)に係る方法により生成したα型水酸化ニッケルのX線回折スペクトルである。
【図2】実施例(例2)に係る方法により生成したβ型水酸化ニッケルのX線回折スペクトルである。
【図3】実施例(例5)に係る方法により生成したニッケル微粒子のTEM写真である。
【図4】実施例(例7)に係る方法により生成したニッケル微粒子のTEM写真である。
【図5】実施例(例9)に係る方法により得られたニッケル微粒子を含む沈殿物の時間変化を示すX線回折スペクトルである。
【図6】実施例(例11)に係る方法により得られたニッケル微粒子を含む沈殿物の時間変化を示すX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、ニッケル微粒子の原料となるα型水酸化ニッケルの製造方法)以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、生成したニッケル微粒子を粉末として取り出す方法)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
本発明に係るニッケル微粒子の製造方法は、ナノサイズの平均粒子径(典型的には、0.5nm〜200nm、例えば平均粒子径1nm〜100nm)を有するニッケル微粒子(ニッケルナノ粒子)の集合体(すなわち粉末状のニッケルナノ粒子)を生成する方法であって、α型の水酸化ニッケルを水系溶媒に分散することによって得られる水酸化ニッケル分散液に対して、還元剤として金属水素化物(典型的には、水素化ホウ素化合物または水素化アルミニウム化合物)を添加することにより特徴づけられるものである。したがって、上記目的を達成し得る限りにおいて、その他の構成成分(副成分)の内容や組成については、種々の基準に照らして任意に決定することができる。
【0019】
本発明に係る製造方法では、ニッケル(Ni)源として水酸化ニッケル(Ni(OH)2)粉末を好ましく用いることができる。また、かかる水酸化ニッケル粉末は、α型結晶構造を有する水酸化ニッケル(α‐Ni(OH)2)粒子から構成される(もしくは全体の50質量%以上がα‐Ni(OH)2である粉末)ことが好ましいが、該α型結晶構造の水酸化ニッケル粒子を主成分とすればよく、副成分として別の結晶構造(典型的にはβ型結晶構造)の水酸化ニッケル粒子を含んでいてもよい。このような水酸化ニッケル粉末を構成する水酸化ニッケル粒子の平均粒子径としては、0.1nm〜50nm(より好ましくは0.5nm〜30nm)が好ましい。かかる水酸化ニッケル粉末は、水系溶媒に分散されて成る分散液、あるいはスラリーの状態に調製されて用いられる。
【0020】
上記α型結晶構造の水酸化ニッケル粒子(粉末)の分散液(スラリー)については、市販のα型結晶構造の水酸化ニッケル(α型水酸化ニッケル)粉末を用い、これに水系溶媒を加えることにより得ることができる。あるいは、例えば以下に示す方法により、上記範囲の平均粒子径を有するα型水酸化ニッケル粒子を主成分として含む分散液(スラリー)を容易に調製することができる。
まず、硝酸ニッケル(Ni(NO3)2)または硫酸ニッケル(NiSO4)の水溶液に対してアルカリ金属(典型的にはナトリウム)の水酸化物を添加して攪拌する。上記Ni(NO3)2またはNiSO4は、水系溶媒に対する溶解度が大きい塩であるので好ましく、より好ましくは硝酸ニッケルである。上記アルカリ金属の水酸化物としては、上記のように水酸化ナトリウム(NaOH)を好ましく用いることができ、かかる水酸化物を水(溶媒)に溶解して水溶液を調製し、Ni(NO3)2またはNiSO4の水溶液に添加することができる。上記水酸化物水溶液の濃度としては、該水溶液中の水酸化物イオンが上記Ni(NO3)2またはNiSO4の水溶液中のニッケルイオンと過不足なく反応し得る以上の量で存在し得る濃度であることが好ましい。上記水酸化物水溶液を添加する際には、1〜5秒間で1mL(例えば4秒間±1秒間で1mL)の速度で該水酸化物水溶液を上記Ni(NO3)2またはNiSO4水溶液に滴下(添加)することが好ましい。上記Ni(NO3)2またはNiSO4と上記水酸化物との混合は常温下で実施することができ、両者の反応を進行させるために加熱を行う必要はない。また、このとき混合溶液を攪拌しながら滴下することが好ましい。好ましくは、かかる水酸化物の添加後も、しばらくの間(例えば3分間〜5分間程度)攪拌を継続する。
上記攪拌の終了後、上記混合溶液に対して、例えば3000rpm〜8000rpm(例えば6000rpm±1000rpm)の回転速度で5分間〜10分間(例えば7分間±1分間)遠心分離を行う。これにより、水酸化ニッケルを沈殿させることができる。
【0021】
上記遠心分離後の上澄み部分を捨てて、残ったゼリー状の沈殿物(水酸化ニッケル)に対して有機溶剤(例えばアセトン)を加え、これを例えば5分間程度の超音波浴にかけて上記沈殿物を上記有機溶剤中に分散させる。その後、再び遠心分離を実施する。かかる分離条件については上記と同様でよく、適宜調整される。かかる遠心分離の後に、再度上澄み部分を捨てて、残った(ゼリー状)沈殿物に対して純水を加え、上記と同様にして超音波浴にかけて上記沈殿物を純水中に分散させる。かかる純水の量は、所望の分散液(スラリー)の濃度に応じて適宜調整される。最後に、例えば10分間〜60分間(例えば30分間±10分間)放置して、上記分散液中に残存し得る有機溶剤を完全に揮発させることが好ましい。
以上のようにして、α型水酸化ニッケルの分散液を調製することができる。なお、かかる分散液に目的に応じて、後述の還元剤との還元反応に悪影響を及ぼさない限りにおいて、適宜別の成分(例えば安定剤等)を添加してもよい。
【0022】
上記調製された水酸化ニッケルの分散液に添加される還元剤としては、金属水素化物を用いることができる。好ましくは、水素化ホウ素化合物または水素化アルミニウム化合物であり、例えば水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAHまたはDIBAL‐Hと呼ばれる。)、あるいは水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)が挙げられる。特に好ましくはNaBH4である。このような還元剤を用いることにより、上記α型水酸化ニッケルをナノサイズ(例えば粒子径が1nm〜50nm)の金属ニッケル(微粒子)に好ましく還元することができる。
【0023】
かかる金属水素化物は、好ましくは水系溶媒に溶解して水溶液として上記水酸化ニッケル分散液に添加される。このとき、かかる金属水素化物は、添加後の混合液体中における該金属水素化物の濃度が1.0M〜3.0M(好ましくは2.0M〜3.0M、例えば2.2M±0.2M)の範囲となるような水溶液として調製され、添加される。かかる濃度が1.0Mよりも低い場合には、金属ニッケル微粒子の生成に長時間を要するとともに、生成された金属ニッケル微粒子は不安定で、しばらく静置すると再び酸化されてしまう虞がある。また、上記濃度が3.0Mより大幅に高い場合には、金属ニッケル微粒子が生成される還元反応以外に別の副反応が起こり得るために、金属ニッケル微粒子の収率が低下する虞がある。なお、上記濃度範囲においては、金属水素化物の濃度が高い場合の方が、後述の金属ニッケル微粒子を含む沈殿物がより速やかに且つ安定的に生成するとともに、生成した沈殿物は長期間にわたって安定的に存在するので粉末として取り出すことが可能となる。
また、水酸化ニッケル分散液中のα型水酸化ニッケルが相変化(典型的にはβ型水酸化ニッケルに変化)するのを防ぐために、好ましくは、上記金属水素化物の水溶液および水酸化ニッケル分散液は常圧、室温下で混合される。このとき、金属水素化物の水溶液を、適当な滴下速度で上記水酸化ニッケル分散液に滴下し、攪拌させながら混合するのが好ましい。
かかる混合により、上記水酸化ニッケルは上記還元剤により還元されて、金属ニッケルが生成する。かかる金属ニッケルは、微粒子として上記混合液体中に生成する沈殿物として得られる。金属ニッケル微粒子を完全に沈殿させるためには、上記混合の後、1時間〜5時間(好ましくは2時間以上、例えば2時間〜3時間)混合液体を静置して、上記沈殿物を反応容器の底部に沈下(堆積)させることが好ましい。
【0024】
上記のように、α型水酸化ニッケルを上記金属水素化物で還元することにより、該水酸化ニッケル分散液に該金属水素化物の水溶液を添加するという還元工程のみで、ナノサイズの平均粒子径を有する金属ニッケル微粒子を生成することができる。また、かかる還元工程も常圧、室温下で実施すればよく、上記α型水酸化ニッケル分散液と上記金属水素化物の水溶液とを混合させるのみで容易に金属ニッケル微粒子を沈殿させることができる。
また、例えば塩化ニッケルを金属ニッケルに還元する場合には、塩化ニッケルを含む溶液(典型的には水溶液)に水酸化ナトリウム等を添加して液性を塩基性にする必要がある。一方、上述の方法によりα型水酸化ニッケルを製造する場合には、該水酸化ニッケルを含む分散液は既に塩基性となっているだけでなく、上記金属水素化物の水溶液は強い塩基性を示す。このことにより、本発明に係る還元工程では、かかる還元反応を進行させるために改めて塩基性物質を添加する必要はなく、工程の複雑化やコストの増加を好ましく防止することができる。
【0025】
以上のようにして、上記混合液体中に沈殿物として生成した金属ニッケル微粒子は、従来の沈殿物の取出し方法と同様の方法を用いることにより、粉末状態で取り出すことができる。すなわち、例えば上記混合液体を濾過して沈殿物を濾物として濾液から分離するとともに、かかる濾物を純水等で洗浄して未反応の金属水素化物やその他塩類を除去した後に、残った残渣を乾燥する。このような工程を経て粉末状態の金属ニッケル微粒子を得ることができる。
【0026】
このようにして製造された金属ニッケル微粒子は、TEM観察に基づく顕微鏡像から計測された粒子径(平均粒子径)として、1nm〜50nmの範囲のナノサイズの粒子径を有するニッケルナノ粒子として得ることができる。
【0027】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0028】
<例1:α型水酸化ニッケル分散液の調製>
以下のようにしてα型水酸化ニッケル分散液(α‐Ni(OH)2)を調製した。
まず、市販(Chem−Supply Pty. Ltd.製)の硝酸ニッケル(Ni(NO3)2)に純水を加えて、0.2MのNi(NO3)2水溶液を50mL調製した。次に、市販(Asia Pacific Speciality Chemicals Ltd.製)の水酸化ナトリウム(NaOH)に純水を加えて、0.4MのNaOH水溶液を50mL調製した。
次に、Ni(NO3)2水溶液を350rpmの回転速度で室温下で攪拌させ、ここに上記NaOH水溶液を4秒間で1mL程度の滴下速度で滴下(添加)した。この後、4分間程度、攪拌を継続した。
次いで、ここに適量のアセトンを加えて、6000rpmの回転速度で7分間遠心分離した。浮遊物を捨て、ゼリー状の沈殿物に対してさらにアセトンを加えて、再び分散させた。次に、これを5分間程度、超音波浴に入れた。その後再び6000rpmの回転速度で7分間遠心分離した。
この後、浮遊物を捨ててゼリー状の沈殿物に対して純水を加えて分散させた。次いで、5分間程度超音波浴に入れた。最後に純水を加えて100mLとなるように希釈し、室温下で30分程度静置して、余剰分として残存しているアセトンを揮発させた。
以上のようにして、α‐Ni(OH)2の分散液(スラリー)を調製した。
【0029】
<例2:β型水酸化ニッケル分散液の調製>
次に、上記例1で得られたα‐Ni(OH)2分散液の一部を取り分け、これを80℃の温度条件で2時間還流することにより、β型水酸化ニッケル(β‐Ni(OH)2)分散液(スラリー)を調製した。
【0030】
<例3:調製した各水酸化ニッケル分散液のXRD測定>
上記例1で得られたα‐Ni(OH)2分散液の一部をXRD測定用に取り分けて、XRD測定を実施した。この測定結果を図1に示す。また、上記例2で得られたβ‐Ni(OH)2分散液の一部をXRD測定用に取り分けて、α‐Ni(OH)2分散液と同様にしてXRD測定を実施した。その測定結果を図2に示す。図1,2に示されるように、α‐Ni(OH)2とβ‐Ni(OH)2のそれぞれに特徴的な回折ピークが認められた。
【0031】
<例4:還元剤の調製>
次に、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を採用し、かかるNaBH4の粉末(Asia Pacific Speciality Chemicals Ltd.製)に純水を加えることにより、NaBH4水溶液を調製した。かかる水溶液として2種類(1),(2)用意した。なお、かかる2種類のNaBH4水溶液(1),(2)は、該水溶液を上記水酸化ニッケル分散液に加えて得られる混合液体中のNaBH4の濃度がそれぞれ0.1Mおよび2.2Mとなるように調製されたものである。
【0032】
<例5:α型水酸化ニッケル分散液とNaBH4水溶液(1)との反応>
次に、上記例1で調製されたα‐Ni(OH)2分散液に、上記例4で調製されたNaBH4水溶液(1)を添加して混合することにより、NaBH4の濃度が1.0Mとなるような混合液体を得た。この混合液体は、20分〜30分後に茶色〜黒色の沈殿を生じた。そしてかかる沈殿物は、約3時間で完全に容器の底に沈下した。この沈殿物は磁性を有しており、金属ニッケルの生成が確認された。なお、この混合液体中の沈殿物は、およそ215時間後に緑色がかった灰色に変化した。これは該沈殿物の一部が酸化されて再び水酸化ニッケルが生じたためと推察された。しかし、かかる沈殿物において、その後の変化は認められなかった。
【0033】
<例6:α型水酸化ニッケル分散液とNaBH4水溶液(1)との反応後のTEM観察>
次に、上記沈殿物のTEM観察を実施した。まず、上記α‐Ni(OH)2分散液とNaBH4水溶液(1)とを混合し、得られた混合液体を約1g遠心分離管に取り、ここに10mLの水と10mLのアセトンを注いで十分に振った。この遠心分離管を6000rpmで7分間遠心分離にかけた。遠心分離後、上層部分を捨て、新たに10mLのアセトンを注いでガラス瓶に移した。次いで、このガラス瓶を超音波浴に10分間入れた。このようにして十分に分散されたスラリー状の混合液体を数滴カーボングリッドの上に滴下し、IRランプの下で15分程度乾燥させてTEM観察用試料を作製した。
この得られた試料のTEM観察結果を図3に示す。図3に示されるように、試料中には、複数の粒子が点在しており、この粒子が金属ニッケル粒子であることが確認された。かかる粒子の平均的な粒径は、このTEM画像より約5nmであることがわかった。
【0034】
<例7:α型水酸化ニッケル分散液とNaBH4水溶液(2)との反応>
次に、上記例5と同様にして、上記例1で調製されたα‐Ni(OH)2分散液に、上記例4で調製されたNaBH4水溶液(2)を添加して混合することにより、NaBH4の濃度が2.2Mとなるような混合液体を得た。この混合液体は、混合後直ちに黒色沈殿を生じた。そしてかかる沈殿物は、2〜3時間で完全に容器の底に沈下した。この沈殿物は上記例5のときと同様に、磁性を有しており、金属ニッケルの生成が確認された。なお、この混合液体中の沈殿物は、100日経過後も磁性を有しており、かかる沈殿物を酸化させることなく、粉末(固体)として使用可能な状態で取り出し得ることが示唆された。
【0035】
<例8:α型水酸化ニッケル分散液とNaBH4水溶液(2)との反応後のTEM観察>
次に、上記例7で得られた沈殿物のTEM観察を、上記例6と同様にして作製したTEM観察用試料を用いて実施した。その結果を図4に示す。図4に示されるように、試料中には、複数の粒子が点在しており、この粒子が金属ニッケル粒子であることが確認された。かかる粒子の平均的な粒径は、このTEM画像より約30nmであることがわかった。
【0036】
<例9:β型水酸化ニッケル分散液とNaBH4水溶液(1)との反応>
次に、上記例5と同様にして、上記例2で調製されたβ‐Ni(OH)2分散液に、上記例4で調製されたNaBH4水溶液(1)を添加して混合することにより、NaBH4の濃度が1.0Mとなるような混合液体を得た。この混合液体は、30分後に灰色がかった緑色の沈殿を生じた。そして5時間経過した後も泡が発生しており、還元反応が継続していることが確認された。21時間経過後までには、上記沈殿の表層部に緑色の塊が再び現れ始め、45時間経過後までには、上記沈殿物は、ほぼ完全に緑色に変化した。
【0037】
<例10:β型水酸化ニッケル分散液とNaBH4水溶液(1)との反応後のXRD測定>
ここで、上記例9において得られた混合液体について、混合後5時間経過後(5hrs)、および混合後215時間経過後(215hrs)のそれぞれにおける状態の変化をXRD測定により評価した。また、混合前のβ‐Ni(OH)2分散液についても、比較のためにXRD測定を実施した(0hrs)。かかるXRD測定に際し、上記各時間経過後の混合液体およびβ‐Ni(OH)2分散液を所定の容器に滴下し、室温下で20分〜30分静置して乾燥させることにより、XRD測定用試料をそれぞれ作製した。そして、各試料のXRD測定を実施した。その結果を図5に示す。その結果、上記各時間経過後の混合液体中の生成物(沈殿物)では、β‐Ni(OH)2と同じ位置にピークが現われており、β‐Ni(OH)2とは異なる生成物は確認されなかった。
【0038】
<例11:β型水酸化ニッケル分散液とNaBH4水溶液(2)との反応>
次に、上記例9と同様にして、上記例2で調製されたβ‐Ni(OH)2分散液に、上記例4で調製されたNaBH4水溶液(2)を添加して混合することにより、NaBH4の濃度が2.2Mとなるような混合液体を得た。この混合液体は、混合後直ちに灰色っぽい沈殿を生じ、30分間の間に黒色に変化した。そして5時間経過後までに完全に黒色沈殿の沈下が完了した。21時間経過後までには、上記沈殿の表層部に緑色の塊が現れ始め、215時間経過後までには、上記沈殿物は、ほぼ完全に緑色に変化した。
【0039】
<例12:β型水酸化ニッケル分散液とNaBH4水溶液(2)との反応後のXRD測定>
ここで、上記例11において得られた混合液体について、混合後5時間経過後(5hrs)、および混合後215時間経過後(215hrs)のそれぞれにおける状態の変化を、上記例10と同様にして、XRD測定により評価した。また、混合前のβ‐Ni(OH)2分散液についても、比較のためにXRD測定を実施した(0hrs)。その結果を図6に示す。その結果、上記例10と同様に、上記各時間経過後(5hrsおよび215hrs)の混合液体中の生成物(沈殿物)では、β‐Ni(OH)2と同じ位置にピークが現われており、β‐Ni(OH)2とは異なる生成物は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
上述のように、本実施例によると、ニッケル源としてα型結晶構造を有する水酸化ニッケルの分散液に対して、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム水溶液を添加することにより、室温および常圧条件下でも還元反応が好ましく進行し、かかる還元行程を経ることのみで、ナノサイズの粒子径を有する金属ニッケル微粒子であって長期にわたって安定的に存在し得る金属ニッケル微粒子を容易に得ることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル微粒子を製造する方法であって、
α型結晶構造の水酸化ニッケル粒子が水系溶媒に分散して成る水酸化ニッケル分散液を用意すること、および
前記用意した分散液に還元剤を添加して、該分散液中の水酸化ニッケルから金属ニッケル微粒子を生成すること、
を包含する方法。
【請求項2】
TEM観察に基づく平均粒子径が1nm〜50nmの範囲内にあることを特徴とする金属ニッケル微粒子を生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記還元剤として、水素化ホウ素化合物および/または水素化アルミニウム化合物を用いる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記還元剤として、水素化ホウ素ナトリウムを用いる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記還元剤は、0.1M〜3.0Mの濃度範囲となるように添加される、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記α型結晶構造の水酸化ニッケルとして、硝酸ニッケルまたは硫酸ニッケルとアルカリ金属水酸化物とを混合した水溶液を調製することにより生成した水酸化ニッケルを用いる、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記生成したα型結晶構造の水酸化ニッケルは、0.5nm〜30nmの範囲内にある平均粒子径を有する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により製造されるニッケル微粒子。
【請求項1】
ニッケル微粒子を製造する方法であって、
α型結晶構造の水酸化ニッケル粒子が水系溶媒に分散して成る水酸化ニッケル分散液を用意すること、および
前記用意した分散液に還元剤を添加して、該分散液中の水酸化ニッケルから金属ニッケル微粒子を生成すること、
を包含する方法。
【請求項2】
TEM観察に基づく平均粒子径が1nm〜50nmの範囲内にあることを特徴とする金属ニッケル微粒子を生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記還元剤として、水素化ホウ素化合物および/または水素化アルミニウム化合物を用いる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記還元剤として、水素化ホウ素ナトリウムを用いる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記還元剤は、0.1M〜3.0Mの濃度範囲となるように添加される、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記α型結晶構造の水酸化ニッケルとして、硝酸ニッケルまたは硫酸ニッケルとアルカリ金属水酸化物とを混合した水溶液を調製することにより生成した水酸化ニッケルを用いる、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記生成したα型結晶構造の水酸化ニッケルは、0.5nm〜30nmの範囲内にある平均粒子径を有する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により製造されるニッケル微粒子。
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図3】
【図4】
【図2】
【図5】
【図6】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2010−185112(P2010−185112A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30287(P2009−30287)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【出願人】(500534843)カーティン ユニバーシティ オブ テクノロジー (5)
【氏名又は名称原語表記】CURTIN UNIVERSITY OF TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】KENT STREET, BENTLEY WESTERN AUSTRALIA 6102 AUSTRALIA
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【出願人】(500534843)カーティン ユニバーシティ オブ テクノロジー (5)
【氏名又は名称原語表記】CURTIN UNIVERSITY OF TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】KENT STREET, BENTLEY WESTERN AUSTRALIA 6102 AUSTRALIA
【Fターム(参考)】
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