説明

ニッケル水素蓄電池

【課題】 希土類−Mg−Ni系合金を負極の活物質として用いたニッケル水素蓄電池において、充電と放電を多数繰り返した場合や、該ニッケル水素蓄電池を作成してから長時間が経過したような場合であっても、放電容量が低下しにくいニッケル水素蓄電池を提供することを目的とする。
【解決手段】 互いに異なる結晶構造を有する2以上の結晶相が該結晶構造のc軸方向に積層されてなり且つCaCu5型結晶構造を有する結晶相の含有率が15質量%以下である希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金を含んでなる負極と、ナトリウムイオン濃度が4.0mol/リットル以上であり、カリウムイオン濃度およびリチウムイオン濃度がそれぞれ2.0mol/リットル未満であり、且つ、該イオン濃度の合計が8.0mol/リットル以下であるアルカリ電解液とを備えたことを特徴とするニッケル水素蓄電池による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル水素蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル水素蓄電池は、高エネルギー密度を有することから、デジタルカメラ、ノート型パソコン等の小型電子機器類の電源として、また、作動電圧がアルカリマンガン電池等の一次電池と同等で互換性があることから、該一次電池の代替として、広く利用されており、その需要は飛躍的に拡大している。
【0003】
ところで、この種のニッケル水素蓄電池は、水酸化ニッケルを主成分とする正極活物質を含んでなるニッケル電極、水素吸蔵合金を主材料とする負極、セパレータ、及びアルカリ電解液を備えて構成されるものである。これらの電池構成材料のうち、特に、負極の主材料となる水素吸蔵合金は、放電容量やサイクル特性といったニッケル水素蓄電池の性能に大きな影響を及ぼすものであり、従来、種々の水素吸蔵合金が検討されている。
【0004】
該水素吸蔵合金としては、PuNi3型結晶構造を有するLaCaMgNi9合金(特許文献1)などの希土類−Mg−Ni系合金が知られており、該合金をニッケル水素蓄電池の負極として用いることにより、CaCu5型結晶構造を有するAB5型希土類−Ni系合金を上回る放電容量が得られることが報告されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−217643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の希土類−Mg−Ni系合金を負極の活物質として用いたニッケル水素蓄電池では、初期の放電容量は比較的良好な値を示すものの、該ニッケル水素蓄電池を作成してから長時間が経過したような場合には、放電容量が次第に低下してしまう傾向を有していた。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑み、希土類−Mg−Ni系合金を負極の活物質として用いたニッケル水素蓄電池において、該ニッケル水素蓄電池を作成してから長時間が経過したような場合であっても、放電容量が低下しにくいニッケル水素蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するべく、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、Pr5Co19型結晶構造からなる結晶相や、Ce2Ni7型の結晶構造を有する結晶相など、異なる結晶構造を有する複数の結晶相が積層されてなる希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金を負極として用いるとともに、ナトリウムイオン濃度とカリウムイオン濃度を所定の濃度範囲に調整してなるアルカリ電解液を用いてニッケル水素蓄電池を構成することにより、放電容量の低下しにくいニッケル水素蓄電池を構成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、互いに異なる結晶構造を有する2以上の結晶相が該結晶構造のc軸方向に積層されてなり且つCaCu5型結晶構造を有する結晶相の含有率が15質量%以下である希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金を有してなる負極と、
ナトリウムイオン濃度が4.0mol/リットル以上であり、カリウムイオン濃度およびリチウムイオン濃度がそれぞれ2.0mol/リットル未満であり、且つ、該イオン濃度の合計が8.0mol/リットル以下であるアルカリ電解液とを備えたことを特徴とするニッケル水素蓄電池を提供する。
【0010】
また、本発明は、前記水素吸蔵合金のコバルト元素の含有量が2.0原子%以下である前記ニッケル水素蓄電池を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記アルカリ電解液のリチウムイオン濃度が、1.0mol/リットル未満である前記ニッケル水素蓄電池を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るニッケル水素蓄電池によれば、互いに異なる結晶構造を有する2以上の結晶相が、該結晶構造のc軸方向に積層されてなる水素吸蔵合金を負極とすることにより、充電及び放電の際の水素の吸蔵及び放出によって生じる結晶相の歪みが緩和され、電極の劣化が抑制されることとなる。
また、前記希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金中のCaCu5型結晶構造を有する結晶相の含有率を15質量%以下とするとともに、ナトリウムイオン濃度が4.0mol/リットル以上であり且つカリウムイオン濃度およびリチウムイオン濃度がそれぞれ2.0mol/リットル以下であるアルカリ電解液を用いることにより、該アルカリ電解液による前記水素吸蔵合金の酸化劣化が防止されることとなる。
このように、本発明によれば、充放電による合金の歪みに起因した電極の劣化と、アルカリ電解液による電極の酸化劣化とが、ともに防止されることとなるため、腐食による水素発生での正極還元や、負極からの溶出元素による正極の還元が抑制でき、該構成を備えたニッケル水素蓄電池は保存後の放電容量が低下しにくいものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係るニッケル水素蓄電池は、異なる結晶構造を有する複数の結晶相が積層されてなり且つCaCu5型結晶構造を有する結晶相が15質量%以下である希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金を含んでなる負極と、ナトリウムイオン濃度が4.0mol/リットル以上であり、カリウムイオン濃度およびリチウムイオン濃度がそれぞれ2.0mol/リットル未満であり、且つ、該イオン濃度の合計が8.0mol/リットル以下であるアルカリ電解液とを備えたものである。
【0014】
前記負極に含まれる水素吸蔵合金は、上述のように、互いに異なる結晶構造を有する2以上の結晶相が、該結晶構造のc軸方向に積層されてなる希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金である。
前記結晶相としては、菱面体晶La5MgNi24型結晶構造からなる結晶相(以下、単にLa5MgNi24相ともいう)、六方晶Pr5Co19型結晶構造からなる結晶相(以下、単にPr5Co19相ともいう)、菱面体晶Ce5Co19型結晶構造からなる結晶相(以下、単にCe5Co19相ともいう)、六方晶Ce2Ni7型の結晶構造からなる結晶相(以下、単にCe2Ni7相ともいう)、菱面体晶Gd2Co7型の結晶構造からなる結晶相(以下、単にGd2Co7相ともいう)、六方晶CaCu5型結晶構造からなる結晶相(以下、単にCaCu5相ともいう)、立方晶AuBe5型結晶構造からなる結晶相(以下、単にAuBe5相ともいう)菱面体晶PuNi3型結晶構造からなる結晶相(以下、単にPuNi3相ともいう)などを挙げることができる。
中でも、La5MgNi24相、Pr5Co19相、Ce5Co19相、及びCe2Ni7相からなる群より選択される2種以上を積層してなる水素吸蔵合金が好適に使用される。これらの結晶相が積層されてなる水素吸蔵合金は、各結晶相間の膨張収縮率の差が小さいために歪みが生じ難く、水素の吸蔵放出を繰り返した際の劣化が起こりにくいという優れた特性を有する。
【0015】
ここで、La5MgNi24型結晶構造とは、A24ユニット間に、AB5ユニットが4ユニット分、挿入された結晶構造であり、Pr5Co19型結晶構造とは、A24ユニット間に、AB5ユニットが3ユニット分、挿入された結晶構造であり、Ce5Co19型結晶構造とは、A24ユニット間に、AB5ユニットが3ユニット分、挿入された結晶構造であり、Ce2Ni7型の結晶構造とは、A24ユニット間に、AB5ユニットが2ユニット分、挿入された結晶構造であり、Gd2Co7型の結晶構造とは、A24ユニット間に、AB5ユニットが2ユニット分、挿入された結晶構造であり、AuBe5型結晶構造とは、A24ユニットのみで構成された結晶構造である。
【0016】
尚、A24ユニットとは、六方晶MgZn2型結晶構造(C14構造)又は六方晶MgCu2型結晶構造(C15構造)を持つ構造ユニットであり、AB5ユニットとは、六方晶CaCu5型結晶構造を持つ構造ユニットである。
また、Aは、希土類元素とMgからなる群より選択される何れかの元素を表し、Bは、遷移金属元素とAlからなる群より選択される何れかの元素を表すものである。
【0017】
前記各結晶相の積層順については特に限定されず、特定の結晶相の組み合わせが繰返し周期性をもって積層されたようなものであってもよく、各結晶相が無秩序に周期性なく積層されたものであってもよい。
【0018】
また、前記各結晶相の含有量については特に限定されるものではないが、前記La5MgNi24型結晶構造を有する結晶相の含有率は0〜50質量%、前記Pr5Co19型結晶構造を有する結晶相の含有率は3〜80質量%、前記Ce5Co19型結晶構造を有する結晶相の含有率は15〜80質量%、前記Ce2Ni7型結晶構造を有する結晶相の含有率は0〜65質量%であることが好ましい。
【0019】
尚、前記各結晶構造を有する結晶相は、例えば、粉砕した合金粉末についてX線回折測定を行い、得られたX線回折パターンをリートベルト法により解析することによって結晶構造を特定することができる。
【0020】
前記水素吸蔵合金の一実施形態の模式図を図1に示す。図1に示したように、一実施形態としての水素吸蔵合金の、CaCu5相と、該CaCu5相に隣接する2つのPr5Co19相と、該Pr5Co19相に隣接する2つのCe2Ni7相とが、該結晶構造のc軸方向に積層されて構成されたものである。
【0021】
互いに異なる結晶構造を有する2以上の結晶相が、該結晶構造のc軸方向に積層されていることは、TEMを用いて合金の格子像を観察することによって確認することができる。本発明に係る第1の水素吸蔵合金の格子像の一例を図2及び図3に示す。
これらの図によれば、この水素吸蔵合金が、A24ユニットの間にAB5ユニットが3ユニット分挿入された配列が繰り返された結晶相と、A24ユニットの間にAB5ユニットが4ユニット分挿入された配列が繰り返された結晶相とが、c軸方向に積層されて構成されていることが示されている。前者の結晶相は、Ce5Co19型の結晶構造からなる結晶相であり、後者は、LaMgNi24型の結晶構造からなる結晶相である。このように、TEMによる格子像を観察することによって、本発明の構成要件である、互いに異なる結晶構造を有する2以上の結晶相がc軸方向に積層されている、という点を確認することができる。
【0022】
このように、本発明において負極を構成する水素吸蔵合金は、互いに異なる結晶構造を有する2以上の結晶相が、該結晶構造のc軸方向に積層されてなるものであるため、充電によって水素を吸蔵した際の結晶相の歪みが、隣接する他の結晶相によって緩和されることとなる。従って、該水素吸蔵合金を含んでなる負極は、充放電によって水素の吸蔵及び放出を繰り返しても合金の微粉化が生じにくく、劣化が進行しにくいという効果がある。
また、該水素吸蔵合金は希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金であるため、放電容量が大きいという効果もある。
【0023】
前記水素吸蔵合金は、組成が、一般式R1aR2bR3c(但し、R1はYを含む希土類元素からなる群より選択される1種又は2種以上の元素、R2はMg、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される1種又は2種以上の元素、R3はNi、Co、Mn、Al、Cr、Fe、Cu、Zn、Si,Sn、V、Nb、Ta、Ti、ZrおよびHfからなる群より選択される1種又は2種以上の元素であり、10≦a≦30、1≦b≦10、65≦c≦90、a+b+c=100を満たす)で表されるものを好適に使用することができる。
特に、CaCu5相の含有率を15質量%以下にするという観点から、R2はMgを主成分とし、R3はNiを主成分とし且つNi、Co以外の成分が5原子%以下となるようにし、さらに3.0≦c/(a+b)≦4.0とすることが好ましい。
【0024】
また、前記コバルト(Co)元素の含有量は2.0原子%以下であることが好ましく、1.0原子%以下であることがより好ましく、特に、Co元素を実質的に含まない(即ち、含有量が0.1原子%以下)であることが更に好ましい。
Co元素は、従来、アルカリ電解液に対して水素吸蔵合金の防食性を高めるべく添加されていたが、本発明に係るニッケル水素蓄電池においては、所定の水素吸蔵合金およびアルカリ電解液を備えたことにより、該Co元素の含有量が少ない場合であってもアルカリ電解液に対する水素吸蔵合金の防食性を高めることが可能となる。
また、該Co元素の含有量を上記の範囲に制限したことにより、該ニッケル水素蓄電池の充放電を繰り返した場合や、長期間放置した場合の回復性が顕著に改善する、という効果がある。
【0025】
また、前記水素吸蔵合金は、CaCu5型結晶構造を有する結晶相(CaCu5相)の含有量が15%以下であり、好ましくは、10%以下のものである。
従来、CaCu5相を含む水素吸蔵合金を用いた場合には、放電容量が小さくなる反面、サイクル特性に優れたニッケル水素蓄電池となることが知られいるが、本発明においては、該CaCu5相の含有率を上記範囲とすることにより、該水素吸蔵合金を含む負極のアルカリ電解液に対する耐劣化性能を高めることができる。
【0026】
また、前記水素吸蔵合金は、好ましくは、水素平衡圧が0.07MPa以下のものとする。従来の水素吸蔵合金では、水素平衡圧が高い場合には水素を吸収し難く、吸収した水素を放出し易いという性質を有しており、水素吸蔵合金のハイレート特性を高めると、水素が自己放出しやすいものとなっていた。
しかし、互いに異なる結晶構造を有する結晶相が2以上積層されてなる希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金であって、特にCaCu5型結晶構造を有する結晶相の含有率が15質量%以下である水素吸蔵合金においては、水素平衡圧を0.07MPa以下という低い値に設定した場合でも良好なハイレート特性が得られ、該水素吸蔵合金を負極として用いたニッケル水素蓄電池は、ハイレート特性に優れ且つ水素の自己放出(電池においては、自己放電)の生じ難いものとなる。これは、合金中の水素の拡散性が向上したためであると考えられる。
【0027】
尚、水素平衡圧とは、80℃のPCT曲線(圧力−組成等温線)において、H/M=0.5の平衡圧(放出側)を意味するものである。
【0028】
負極を構成する水素吸蔵合金は、以下のような製造方法によって得ることができる。
即ち、一実施形態としての水素吸蔵合金の製造方法は、所定の組成比となるように配合された合金原料を溶融する溶融工程と、溶融した合金原料を1000K/秒以上の冷却速度で急冷凝固する冷却工程と、冷却された合金を加圧状態の不活性ガス雰囲気下で860〜1000℃の温度範囲で焼鈍する焼鈍工程とを備えたものである。
【0029】
より具体的に説明すると、まず、目的とする水素吸蔵合金の化学組成に基づき、原料インゴッド(合金原料)を所定量秤量する。
溶融工程においては、前記合金原料をルツボに入れ、不活性ガス雰囲気中又は真空中で高周波溶融炉を用い、例えば、1200〜1600℃に加熱して合金原料を溶融させる。
【0030】
冷却工程においては、溶融した合金原料を冷却して固化させる。冷却速度は、1000K/秒以上(急冷ともいう)が好ましい。1000K/秒以上で急冷することにより、合金組成が微細化し、均質化するという効果がある。
【0031】
該冷却方法としては、具体的には、冷却速度が100000K/秒以上であるメルトスピニング法、冷却速度が10000K/秒程度であるガスアトマイズ法などを好適に用いることができる。
【0032】
焼鈍工程においては、不活性ガス雰囲気下の加圧状態において、例えば、電気炉等を用いて860〜1000℃に加熱する。加圧条件としては、0.2〜1.0MPa(ゲージ圧)が好ましい。また、該焼鈍工程における処理時間は、3〜50時間とすることが好ましい。
斯かる焼鈍工程により、結晶格子の歪みが取り除かれ、該焼鈍工程を経た水素吸蔵合金は、最終的に、互いに異なる結晶構造を有する結晶相が2以上積層されてなる水素吸蔵合金となる。
【0033】
本発明のニッケル水素蓄電池を構成する負極は、上述のようにして得た水素吸蔵合金を水素吸蔵媒体として備えたものである。水素吸蔵合金を水素吸蔵媒体として電極に使用する際には、該水素吸蔵合金を粉砕して使用することが好ましい。
電極製作時の水素吸蔵合金の粉砕は、焼鈍の前後のどちらで行ってもよいが、粉砕により表面積が大きくなるため、合金の表面酸化を防止する観点から、焼鈍後に粉砕するのが望ましい。粉砕は、合金表面の酸化防止のために不活性雰囲気中で行うことが好ましい。
前記粉砕には、例えば、機械粉砕、水素化粉砕などが用いられる。
【0034】
次に、本発明に係るニッケル水素蓄電池を構成するアルカリ電解液について説明する。
該アルカリ電解液としては、ナトリウムイオン濃度が4.0mol/リットル以上であり且つカリウムイオン濃度およびリチウムイオン濃度がそれぞれ2.0mol/リットル未満であるものを用い、好ましくは、ナトリウムイオン濃度が5.0mol/リットル以上7.0mol/リットル以下、カリウムイオン濃度が2.0mol/リットル未満、リチウムイオン濃度が0〜1.0mol/リットルのものを使用する。
特に、合金の腐食をより一層低減し、自己放電を抑制するという観点から、リチウムイオン濃度を0.1mol/リットル以下とすることが好ましく、リチウムイオンを含まないものとすることがより好ましい。
【0035】
また、該アルカリ電解液は、前記ナトリウムイオン、前記カリウムイオン及び前記リチウムイオンのイオン濃度の合計が、8.0mol/リットル以下であることが好ましく、5.0〜7.0mol/リットルであることがより好ましい。
さらに、合金腐食を抑制する観点から、ナトリウムイオン単独系であってもよい。
【0036】
斯かるイオン濃度のアルカリ電解液を用いることにより、該アルカリ電解液が前記希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金に及ぼす酸化等の悪影響を防止することができ、電池内でアルカリ電解液に浸漬された状態となる前記水素吸蔵合金の酸化劣化を抑制し得るという効果がある。
【0037】
また、該電解液には、合金への防食性向上、正極での過電圧向上、負極の耐食性の向上、自己放電向上のため、種々の添加剤を添加することができる。該添加剤としては、イットリウム、イッテルビウム、エルビウム、カルシウム、亜鉛などの酸化物、水酸化物等を1種で又は2種以上混合して用いることができる。
【0038】
一方、該ニッケル水素蓄電池の正極としては、特に限定されるものではないが、一般には、水酸化ニッケルを主成分とし且つ水酸化亜鉛や水酸化コバルトが混合されてなる水酸化ニッケル複合酸化物を正極活物質として含む正極を好適に使用することができ、共沈法によって均一分散した該水酸化ニッケル複合酸化物を含む正極をより好適に使用することができる。
水酸化ニッケル複合酸化物以外の添加物としては、導電改質剤としての水酸化コバルト、酸化コバルト等を用いることができ、また、前記水酸化ニッケル複合酸化物に水酸化コバルトをコートしたものや、これらの水酸化ニッケル複合酸化物の一部を酸素又は酸素含有気体、又は、K228、次亜塩素酸などの薬剤を用いて酸化したものを用いることができる。
また、添加剤としては、酸素過電圧を向上させる物質として、Y、Yb等の希土類元素の化合物や、Ca化合物を用いることができる。Y、Yb等の希土類元素は、その一部が溶解して、負極表面に配置されるため、負極活物質の腐食を抑制する効果も期待できる。
【0039】
尚、前記正極及び負極には、上述したような主要構成成分の他に、導電剤、結着剤、増粘剤等が、他の構成成分として含有されていてもよい。
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカー、炭素繊維、気相成長炭素、金属(ニッケル、金等)粉、金属繊維等の導電性材料を1種又は2種以上の混合物として含ませることができる。
これらの中でも、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、アセチレンブラックが好ましい。導電剤の添加量は、正極又は負極の総重量に対して0.1質量%〜10質量%が好ましい。特に、アセチレンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると、必要炭素量を削減できるため望ましい。
これらを混合する方法としては、できる限り均一な状態とし得るものが好ましく、例えば、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといった粉体混合機を、乾式、あるいは湿式で用いる方法を採用しうる。
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを、1種又は2種以上の混合物として用いることができる。該結着剤の添加量は、正極又は負極の総量に対して、0.1〜3質量%が好ましい。
前記増粘剤としては、通常、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、キサンタンガム等の多糖類等を1種又は2種以上の混合物として用いることができる。増粘剤の添加量は、正極又は負極の総量に対して、0.1〜0.3質量%が好ましい。
【0040】
正極及び負極は、前記活物質、導電剤および結着剤を、水やアルコール、トルエン等の有機溶媒に混合した後、得られた混合液を集電体の上に塗布し、乾燥することによって好適に作製される。前記塗布方法としては、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティング、パーコーティング等の手段を用い、任意の厚み及び任意の形状に塗布する方法が好適であるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
前記集電体としては、構成された電池において前記活物質との電子の授受に悪影響を及ぼさない電子伝導体を特に制限されることなく使用し得る。該集電体としては、例えば、耐還元性及び耐酸化性の観点から、材料としてはニッケルやニッケルメッキした鋼板を好適に用いることができ、形状としては、発泡体、繊維群の成形体、凹凸加工を施した3次元基材、或いは、パンチング板等の2次元基材を好適に用いることができる。また、該集電体の厚みについても特に限定はなく、5〜700μmのものが好適に用いられる。
これらの集電体のうち、正極用としては、アルカリに対する耐食性と耐酸化性に優れたニッケルを材料とし、集電性に優れた構造である多孔体構造の発泡体としたものを用いることが好ましい。また、負極用としては、安価で、且つ導電性に優れる鉄箔に、耐還元性向上のためニッケルメッキを施した、パンチング板を使用することが好ましい。
パンチング径は2.0mm以下、開口率は40%以上であることが好ましく、これにより、少量の結着剤でも負極活物質と集電体との密着性を高めることができる。
【0042】
ニッケル水素蓄電池のセパレータとしては、優れたレート特性を示す多孔膜や不織布等を、単独で、あるいは2以上併用して構成することが好ましい。該セパレータを構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂や、ナイロンを挙げることができる。
該セパレータの目付は、40g/m2から100g/m2が好ましい。40g/m2未満であると、短絡や自己放電性能が低下する虞があり、100g/m2を超えると単位体積当たりに占めるセパレータの割合が増加するため、電池容量が下がる傾向にある。該セパレータの通気度は、1cm/secから50cm/secが好ましい。1cm/sec未満であると、電池内圧が上昇する虞があり、50cm/secを超えると、短絡や自己放電性能が低下する虞がある。該セパレータの平均繊維径は、1μmから20μmが好ましい。1μm未満であるとセパレータの強度が低下し、電池組み立て工程での不良率が増加する虞があり、20μmを超えると、短絡や自己放電性能が低下する虞がある。
また、該該セパレータは、親水化処理を施すことが好ましい。例えば、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂繊維の表面にスルフォン化処理、コロナ処理、フッ素ガス処理、プラズマ処理を施したり、これらの処理を既に施されたものを混合したものを用いても良い。特に、スルフォン化処理を施されたセパレータは、シャトル現象を引き起こすNO3-、NO2-、NH3-等の不純物や負極からの溶出元素を吸着する能力が高いため、自己放電抑制効果が高く、好ましい。
【0043】
本発明の一実施形態としての密閉型ニッケル水素蓄電池は、前記電解液を、前記正極、セパレータ及び負極を積層する前又は積層した後に注液し、外装材で封止することにより、好適に作製される。また、正極と負極とが前記セパレータを介して積層された発電要素を巻回してなる密閉型ニッケル水素蓄電池においては、前記電解液は、巻回の前又は後に発電要素に注液されるのが好ましい。注液法としては、常圧で注液することも可能であるが、真空含浸法、加圧含浸法、遠心含浸法も使用可能である。また、該密閉型ニッケル水素蓄電池の外装体の材料としては、ニッケルメッキした鉄やステンレススチール、ポリオレフィン系樹脂等が一例として挙げられる。
【0044】
該密閉型ニッケル水素蓄電池の構成については特に限定されるものではなく、正極、負極および単層又は複層のセパレータを備えた電池、例えば、コイン電池、ボタン電池、角型電池、扁平型電池、あるいは、ロール状の正極、負極及びセパレータを有する円筒型電池等を挙げることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(正極の作製)
硫酸ニッケルと硫酸亜鉛および硫酸コバルトを所定比で溶解した水溶液に硫酸アンモニウムと苛性ソーダ水溶液を添加してアンミン錯体を生成させた。反応系を激しく攪拌しながら更に苛性ソーダを滴下し、反応系のpHを10〜13に制御して芯層母材となる球状高密度水酸化ニッケル粒子を水酸化ニッケル:水酸化亜鉛:水酸化コバルト=93:5:2の質量比となるように合成した。
該高密度水酸化ニッケル粒子を苛性ソーダでpH10〜13に制御したアルカリ水溶液に投入し、溶液を攪拌しながら所定濃度の硫酸コバルト、アンモニアを含む水溶液を滴下した。この間、苛性ソーダ水溶液を適宜滴下して反応浴のpHを10〜13の範囲に維持した。約1時間pHを10〜13の範囲に保持し、水酸化ニッケル粒子表面にCoを含む混合水酸化物から成る表面層を形成させた。該混合水酸化物の表面層の比率は水酸化物の芯層母材粒子(以下、単に芯層という)に対して、4質量%であった。
さらに、前記混合水酸化物から成る表面層を有する水酸化ニッケル粒子を、温度110℃の30質量%(10mol/リットル)の苛性ソーダ水溶液に投入し、充分に攪拌した。続いて、表面層に含まれるコバルトの水酸化物の当量に対して過剰のK228を添加し、粒子表面から酸素ガスが発生するのを確認した。活物質粒子をろ過し、水洗、乾燥した。得られた活物質粒子に、カルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液を0.2質量%とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を0.3質量%、Yb23を2質量%添加して前記活物質粒子:CMC溶質:PTFE:Yb23=97.5:0.2:0.3:2.0質量%(固形分比)のペーストとし、該ペーストを350g/mのニッケル多孔体に充填した。その後、80℃で乾燥した後、所定の厚みにプレスし、2000mAhのニッケル正極板とした。
【0047】
(負極の作製)
表1〜4に示した各化学組成の原料インゴット(合金原料)を所定量秤量してルツボに入れ、減圧アルゴンガス雰囲気下で高周波溶融炉を用いて1200℃〜1600℃に加熱し、材料を溶融した。溶融後、メルトスピニング法を適用して1000K/秒以上の冷却速度で急冷し、合金を固化させた。
次に、得られた合金インゴッドを0.2MPa(ゲージ圧、以下同じ)に加圧されたアルゴンガス雰囲気下、電気炉にて930℃で5時間加熱した。
得られた各水素吸蔵合金について、ジーベルツ型PCT測定装置(鈴木商館社製、P73−07)を用い、80℃におけるPCT曲線(圧力−組成等温線)のH/M=0.5での平衡圧を求めた。
さらに、各水素吸蔵合金を平均粒径D50=50μmに粉砕し、得られた粉末を、X線回折装置(BrukerAXS社製、品番M06XCE)を用い、40kV、100mA(Cu管球)の条件下でX線回折試験を行った。さらに、リートベルト法(解析ソフト:RIETAN2000)による解析を行い、結晶相の生成割合を算出した。結果を表1〜4に示す。
次いで、前記合金粉末、スチレンブタジエン共重合体(SBR)水溶液、及びメチルセルローズ(MC)水溶液を、99.0:0.8:0.2の固形分質量比で混合してペースト状にし、ブレードコーターを用いて、鉄にニッケルメッキを施したパンチング鋼板に塗布し、80℃で乾燥した後、所定の厚みにプレスして負極とした。該負極に含まれる活物質量(合金量)は、8.5gであった。
【0048】
(評価電池の作製)
前記負極と、スルフォン化処理を施した厚み100μmのポリプロピレンの不織布状セパレータと、前記正極とを組み合わせてロール状に巻回し、表1に示す組成のアルカリ電解液を1.97cc注液し、開弁圧3.0MPaの弁を具備するAA形の密閉型ニッケル水素蓄電池(容量2000mAh)を作製した。
(電池の化成処理)
【0049】
この電池を0.1ItA(200mA)にて12時間充電した後、0.2ItAで1Vまで放電する操作を20℃で2回繰り返したのち、40℃で48時間保存し、化成(活性化)した。
【0050】
(容量維持率及び回復率の測定)
20℃の恒温槽中で、0.1ItAで160%の充電条件、及び0.2ItAで終止電圧が1Vとなる放電条件にて、充放電を3サイクル繰り返した。更に、0.1ItAで160%の充電の後、60℃の恒温槽中で30日間保存した。その後、20℃の恒温槽中で3時間保存した後、0.2ItAで終止電圧が1Vとなる条件で放電し、残存容量を測定した。そして、下記式に基づいて容量維持率を算出した。
容量維持率(%)=残存容量/保存前の最終放電容量×100
続いて、20℃の恒温槽中で0.1ItAで160%の充電条件、及び0.2ItAで終止電圧が1Vとなる放電条件にて充放電を行い、回復放電容量を求めた。そして、下記式に基づいて回復率を算出した。
回復率(%)=回復放電容量/保存前の最終放電容量×100
結果を表1〜4に示す。
【0051】
(アルカリ溶液への合金浸漬試験)
各試験例にて用いた合金粉末(D50=50μm)5gとアルカリ電解液50ccとを三角フラスコ中に入れ、80℃にて3日間浸漬させた。その後、合金粉末を水洗し、真空乾燥させた。
得られた粉末を、X線回折装置(BrukerAXS社製、品番M06XCE)を用い、40kV、100mA(Cu管球)の条件下でX線回折試験を行った。さらに、リートベルト法(解析ソフト:RIETAN2000)による解析を行い、希土類水酸化物の生成割合を算出した。結果を表1〜4に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
表1に示した結果によると、従来のAB5型であるCaCu5単相においては、アルカリ溶液の種類をKOH(比較例4)から、NaOH(比較例3、5)に代えた場合に、浸漬試験による希土類酸化物の生成量が、それぞれ39%、28%減少している。また、従来のA27型であるCe2Ni7の単相においては、アルカリ溶液の種類をKOH(比較例7)から、NaOH(比較例6、8)に代えた場合に、浸漬試験による希土類酸化物の生成量が、それぞれ38%、24%減少している。
これに対し、本願発明のような、互いに異なる結晶構造を有する2以上の結晶相が該結晶構造のc軸方向に積層されてなり且つCaCu5型結晶構造を有する結晶相の含有率が15質量%以下である希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金の場合には、アルカリ溶液の種類をKOH(比較例1、2)から、NaOH(実施例1、2)に代えた場合に、浸漬試験による希土類酸化物の生成量が、それぞれ55%、50%減少しており、従来の構成からは予期し得ない格別の効果が発揮されていることが認められる。
【0057】
また表2に示した結果によると、アルカリイオン濃度が8mol/リットルを超えた比較例9では、浸漬試験による希土類酸化物の生成量が増大しており、アルカリ溶液により劣化が進行しやすいことが認められる。これに対し、アルカリイオン濃度が8mol/リットル以下である実施例では、浸漬試験による希土類酸化物の生成量が比較的小さい値となっており、アルカリ溶液に対する耐劣化性に優れることが認められる。
【0058】
また、表3に示した結果によると、CaCu5型結晶構造を有する結晶相の含有率が15質量%を超える比較例10では、容量維持率が低下し、しかも浸漬試験による希土類酸化物の生成量が増大しており、アルカリ溶液により劣化が進行しやすいことが認められる。これに対し、CaCu5型結晶構造を有する結晶相の含有率が15質量%以下である本発明の希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金を用いた場合には、容量維持率が向上し、且つ、浸漬試験による希土類酸化物の生成量も少なく抑えられていることが認められる。
また、Co元素の含有量が2.0原子%以下である実施例11、12では、回復率が99%を超えるような顕著な効果が発揮されていることが認められる。
【0059】
さらに、表4には、アルカリの濃度を7mol/リットルとして生成相を変化させた場合の実施例と比較例についての結果が記載されている。表3と同様に、CaCu5型結晶構造を有する結晶相の含有率が15質量%を超える比較例では、容量維持率が低下し、しかも浸漬試験による希土類酸化物の生成量が増大し、アルカリ溶液により劣化が進行しやすい傾向が認められる。これに対し、CaCu5型結晶構造を有する結晶相の含有率が15質量%以下である本発明の希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金を用いた場合には、容量維持率が向上し、且つ、浸漬試験による希土類酸化物の生成量も少なく抑えられていることが認められる。
また、Co元素の含有量が2.0原子%以下である実施例14〜16、実施例23〜25、実施例32、33では、回復率が99%を超えるような顕著な効果が発揮されていることが認められる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】水素吸蔵合金の一実施形態を示した模式図。
【図2】水素吸蔵合金の一例を示したTEM画像。
【図3】図2の一部を拡大して示した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる結晶構造を有する2以上の結晶相が該結晶構造のc軸方向に積層されてなり且つCaCu5型結晶構造を有する結晶相の含有率が15質量%以下である希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金を含んでなる負極と、
ナトリウムイオン濃度が4.0mol/リットル以上であり、カリウムイオン濃度およびリチウムイオン濃度がそれぞれ2.0mol/リットル未満であり、且つ、該イオン濃度の合計が8.0mol/リットル以下であるアルカリ電解液と
を備えたことを特徴とするニッケル水素蓄電池。
【請求項2】
前記水素吸蔵合金は、コバルト元素の含有量が2.0原子%以下であることを特徴とする請求項1記載のニッケル水素蓄電池。
【請求項3】
前記アルカリ電解液は、リチウムイオン濃度が、1.0mol/リットル未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載のニッケル水素蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−272091(P2009−272091A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120281(P2008−120281)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(304021440)株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション (461)
【Fターム(参考)】