説明

ニトリルゴムから残留メルカプタンを除去する方法

【課題】ニトリルゴムから残留メルカプタンを除去する方法を提供する。
【解決手段】硫黄のコロイド状エマルションを、遊離メルカプタンを含み、pH7〜14であるNBRゴムラテックスに温度30〜120℃で加え、NBRゴムラテックスを凝固させ、凝固の後に回収されるNBRゴムを脱イオン水で洗浄し乾燥させることによりニトリルゴムから残留メルカプタンを除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリルゴムから残留メルカプタンを除去する方法に関する。
【0002】
より詳しくは、本発明は、ニトリルモノマー含有量が19〜45重量%であるブタジエン−アクリロニトリル共重合体中の残留メルカプタンを除去する方法に関する。以下、本共重合体を、当業者には公知の同義語「ニトリルゴムまたはNBR」で示す。
【背景技術】
【0003】
本明細書に記載する全ての条件は、特に規定しなくても、好ましい条件と考えるべきである。
【0004】
ニトリルゴムを製造するためのブタジエンとアクリロニトリル(ACN)の共重合は、10℃以下の温度におけるレドックスカップリング(couple)により発生するラジカルを使用して開始するエマルション中重合製法(「低温」製法)により行われる。この製法は、ラジカルの発生を、過酸化物化学種の熱的ホモリシス(60℃を超える温度)により行うエマルション製法(「高温」製法)の歴史的進化を代表している。「低温」製法および「高温」製法の両方ともに、連鎖成長を伴うラジカルの動力学的鎖を移動させ、ブレンドを調製する際の混合工程を制限するか、または両製法のいずれの場合も複雑になる、極端に相互接続された画分(ゲル)の形成を回避するか、あるいは、好ましくは制限することができる物質を使用する必要がある。これらの物質は、連鎖成長ラジカルとの反応に特に利用できる水素原子を有するのが特徴である。これらの様々な種類の物質が研究されているが、炭素に結合した、第1級、第2級または第3級でよい−SH基が存在する物質であるチオール(メルカプタン)が、移動反応において特に有効であることが立証されている。酸性度、従って、移動に利用できるプロトンは、チオールの構造に由来し、第3級>第2級>第1級の順であり、ここで「>」は、チオールの酸性度がより大きいことを示す。非限定的な例として、下記のチオール、すなわち
n−オクチルメルカプタン、
n−ドデシルメルカプタン、
tert−ドデシルメルカプタン(TDM)
が通常使用されるが、工業的には、イソブテンのトリマー(TDM 3B)またはプロペンのテトラマー(TDM 4P)から得られる、それぞれ下記の構造式を有する第3級チオールが特に使用される。
【化1】

【0005】
ゴム中に含まれるゲルを回避するかまたは少なくとも減少させる効率が高いにもかかわらず、メルカプタンは不快な刺激臭を有するのが特徴である。メルカプタンは、反応中に完全に消費されないので、いずれの場合も100〜3,000ppm(これらの量は、ラテックス中に含まれるゴム、一般的に15〜40重量%の量に対しての値である)になる大量の残留チオールが、不快臭の原因となり、特に処理工程で環境上の問題を引き起こすことがある。これらの問題は、100kgを超える量のゴムを100℃以上の温度で処理する典型的なミキサー装填で特に深刻になる。これらの条件下では、メルカプタンの蒸気圧は、十分に保護していない作業員を配置するのが困難になる程高くなる。従って、ゴムから残留メルカプタンを除去する方法を見出すことが重要である。
【0006】
重合体からメルカプタンを除去するのに、これまで3種類の主な方法が採用されている。第一の方法では、蒸気を使用するストリッピング工程で、重合体ラテックスから残留メルカプタンを未反応モノマーと共に除去する。第二の方法では、ラテックスを70℃以上の温度で、酸化性化学薬品で処理し、第三の方法では、遊離アクリロニトリルに対して、塩基溶液中でメルカプタンの集積反応(Michael反応)を行う。
【0007】
第一の方法では、蒸気を使用するNBRラテックスの処理により、メルカプタン含有量を低減させる/メルカプタンを除去することが可能である。この方法は、チオールの除去が、その蒸気圧が低いために困難であり、ゴム粒子中に優先的に配分されるので非経済的である。その結果、蒸気流における蒸留工程の効率が、残留チオール量の減少と共に漸進的に低くなる。その上、長時間の蒸気処理が、ゴムの最終的な特性に悪影響を及ぼすことも分かっている。
【0008】
例えば米国特許第3,756,976号に記載されている酸化体、例えば過酸化物、または有機次亜塩素酸塩の使用は、ゴムの最終的な特性に、加工性および耐エージング性の両方で悪影響を及ぼすラジカルの形成を引き起こす。
【0009】
米国特許第3,980,600号は、塩基溶液中でACN残留物に対してメルカプタンの集積反応を行うことにより、残留メルカプタン含有量を低減/排除できることを開示している。この反応により、室温で安定した付加物が形成されるが、この付加物は、処理または成形温度で構成成分、すなわちACNおよびメルカプタンを再生する。
【発明の概要】
【0010】
驚くべきことに、特許請求の範囲に記載するように、遊離メルカプタンを100〜3,000ppm(これらの量は、ラテックス中に含まれるゴム、一般的に15〜40重量%に対する値であり、残りの百分率は実質的に水からなる)含み、pHが7〜14であり、温度が30℃〜120℃、好ましくは40℃〜80℃であるニトリルラテックス(NBRラテックス)に添加したコロイド状硫黄が、180’以上の時間でメルカプタンと定量的に反応し、この時間は反応を行う温度に逆比例することが分かった。
【0011】
必要なコロイド状硫黄の量は、残留メルカプタンの量によって異なる。限定されるものではないが、一般的に、25%以下の固体を含むラテックス中に存在するゴムに対して1,500〜2,000ppmまでのメルカプタンの量に対して、以下に記載するように、2,000〜4,000ppmのコロイド状硫黄で十分である。メルカプタンの量が少ない程、硫黄の量も少なく、一般的な法則として、メルカプタン:硫黄(元素状)の重量比は、1:0.5〜1:4、好ましくは1:0.5〜1:2.5の範囲内である。
【0012】
この処理は、連続的またはバッチ方式で行うことができ、これらの2つの用語は、2個の異なった反応器配置を指す。前者(連続的配置)の場合、ゴムラテックスを、例えば40〜80℃に維持された、攪拌している容器に連続的に供給し、硫黄のコロイド状エマルションを連続的に加え、平均滞留時間が180分間以上になるように注意する。第二の場合(バッチ配置)、ラテックスおよびエマルションを容器中に供給し、上記の条件下でメルカプタンが完全に除去されるまで、反応させる。
【0013】
いずれの場合も、一種以上の酸化防止剤、典型的にはヒンダードフェノール、例えばブチルヒドロキシトルエン(BHT)を添加し、次いで機械的押出機を使用して乾燥させた後、ラテックスが凝固する。
【0014】
コロイド状エマルションは、強い攪拌手段(例えば高速せん断攪拌機)を使用し、陰イオン系または非イオン系の乳化物質またはこれらの混合物の存在下で、硫黄粉末を水中に分散させ、安定して分散した硫黄の量が30重量%以上、典型的には40〜60重量%以上になるようにすることにより、得られる。より少ない量の硫黄を含むエマルションも本発明の方法において使用できるが、必要な体積が大きくなるために、工業的な製造には極めて不適当である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】は、反応時間とTDM転化率の関係を示すグラフである。
【実施例】
【0016】
本発明およびその実施態様をより深く理解するために、いくつかの代表例を非限定的な例として以下に記載する。
【0017】
以下に記載する実験のための非限定的な例として、陰イオン系界面活性剤で安定化させた硫黄50重量%からなるEURALEXと呼ばれる市販のエマルションを使用した。
【0018】
以下は、ニトリルゴムラテックス中に含まれる残留メルカプタンを測定するための分析方法である。
【0019】
1.抽出物の調製
溶解用のクロロホルム20mlを含む50mlフラスコ中に重合体2gを入れた。重合体が完全に溶解した後、その溶液を、メタノール150mlを含む250mの等級のガラス容器の中に、磁気攪拌下で注ぎ込むことにより、凝固させた。凝塊を濾別し、体積2mlに濃縮した。
【0020】
2.残留TDMを測定するためのガスクロマトグラフィー法
1.に記載するようにして調製した抽出物を、ガスクロマトグラフィー法により、硫化した化合物用の選択的検出器で分析する(GC−FPD)。特に、下記の計器を使用する。
【0021】
分析条件
ガスクロマトグラフ TRACE 2000、
カラム HP1 60mt×0.32mm×1μm、70℃/10分、5℃/分、200℃/2分、20℃/分、300℃/17分、
注入器 280℃ SPLITLESS METHOD (注入量2μl)、
FPD検出器 250℃、H流、90ml/分、空気流105ml/分、
メイク−アップ 20ml/分
上記の条件下で、社内標準を使用した。分析感度は<10ppmである。
【0022】
例1
ブタジエン−アクリロニトリル共重合体のラテックス(ACNの33重量%)250mlを、蒸気で処理した後、還流冷却器および加熱ジャケットを備えた500mlフラスコ中に入れる。これによって、残留ACN(<10ppm)はほとんど完全に除去されるのに対し、残留量のメルカプタン(TDN)は140ppm(乾燥物質に対して704ppmに相当)である。このラテックスは固体20重量%を含み、界面活性剤系はオレイン酸ナトリウムおよびステアリン酸ナトリウムからなる。
【0023】
この試料に、コロイド状硫黄(ラテックス中に存在する分散剤と同じ分散剤で処方した水中50%硫黄のエマルション)31mgを温度70℃、pH9±0.2で3時間加える。
【0024】
ラテックスを凝固させ、抽出後、残留メルカプタンの分析(分析の1.および2)を行い、同じゴムの、処理を行わなかった試料(ブランク)と比較する。これらの値を表1に示す。
【0025】
例2、3、4、5(硫黄含有量)
例1と同じ実験条件下で最適TDM/Selemental重量比を確認するために、コロイド状硫黄の量を増加しながらラテックスを処理し、反応時間180分間後、残留メルカプタンの分析を行う。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に対する考察
表1のデータから、除去される残留TDMは、硫黄含有量によって異なることが分かる。
【0028】
表1から、理想的なS/TDM比(重量)は1.5〜2の中央にあること、および少なくとも70℃の温度および少なくとも180分間では、TDMを50ppm未満に確実に下げられることが観察される。
【0029】
例5(温度の影響)
温度の影響を確認するために、実験を3種類の異なった温度40、70、および80℃で行い、試料を、例1と同様に、表1の例4と同じS/TDM比で調製した。結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2に対する考察
反応速度は温度に大きく依存することが分かる。80℃では、すでに2時間後に、90%を超える残留TDMの減少が観察され、この時間は実験を70℃で行った時には長くなり、同じ転化値を得るのに3時間が必要であり、40℃では、この時間がさらに長くなる。70℃未満の温度では、図1のグラフから分かるように、90%を超える転化を達成するのに、極めて長い反応時間が必要である。
【0032】
例6(残留TDMの除去速度に対するpHの影響)
同じ実験配置および上記の点から決定された最良の条件下、すなわちS/TDM比2:1、70℃、少なくとも180分間で、環境の影響を評価した。これに関して、反応を2種類の異なったpH値で行う。結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
表3に対する考察
表3のデータから、pH値が高い程、同じ温度(70℃)および硫黄の添加量で、残留TDMの転化率が高くなることが分かる。これらのデータから、1:2の値を中心とするS/TDM比、pH9±0.3、70℃以上の温度で処理することにより、残留メルカプタンを180’以内でほとんど完全に除去できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリルゴムから残留メルカプタンを除去する方法であって、
a.硫黄のコロイド状エマルションを、遊離メルカプタンを含み、pH7〜14のニトリルラテックスエマルション(NBRゴムラテックス)に、温度30〜120℃で加えること、
b.前記ニトリルラテックスを凝固させること、および
c.凝固の後に回収されるNBRゴムを脱イオン水で洗浄し、乾燥させること、
を含んでなる、方法。
【請求項2】
前記ラテックス中の遊離メルカプタンの濃度が、前記ゴムに対して100〜3,000ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ニトリルラテックスエマルションの固体含有量が15〜40重量%である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記メルカプタン:硫黄(元素状)重量比が1:0.5〜1:4である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記コロイド状エマルションの硫黄含有量が20〜60重量%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−65225(P2010−65225A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−208412(P2009−208412)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(508128303)ポリメーリ エウローパ ソシエタ ペル アチオニ (24)
【Fターム(参考)】