説明

ニトリルゴムをメタセシス分解するための方法

【課題】ニトリルゴムをメタセシス分解するための方法を提供する。
【解決手段】金属−カルベン錯体触媒と特定の遷移金属添加剤とを組み合わせて使用することにより、ニトリルゴムのメタセシス分解を改良することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の触媒系の存在下にメタセシスによってニトリルゴムの分子量を低下させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタセシス反応は化学合成において、たとえば閉環メタセシス(RCM)、交叉メタセシス(CM)または開環メタセシス(ROMP)の形態で広く使用されている。メタセシス反応は、たとえば、オレフィンの合成のため、不飽和ポリマーの解重合のため、およびテレケリックポリマーの合成のために用いられる。
【0003】
メタセシス触媒は、特に、(特許文献1)および(特許文献2)からも公知である。それらは基本的には次の構造を有している:
【0004】
【化1】

[式中、Mはオスミウムまたはルテニウムであり、基Rは同一であっても異なっていてもよい有機基であって広く各種の構造をとることが可能であり、XおよびXはアニオン性配位子であり、そして配位子Lは、電荷を持たない電子供与体である]。文献において、そのようなメタセシス触媒の文脈における「アニオン性配位子」という用語は常に、金属中心から個々に見たときに、閉じた電子殻に負の電荷を有している配位子を指している。
【0005】
近年になって、メタセシス反応は、ニトリルゴムの分解の面での重要性が増してきた。
【0006】
本発明の目的においては、ニトリルゴム(略して「NBR」と呼ぶ)は、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、少なくとも1種の共役ジエン、および適切であるならば1種または複数のさらなる共重合性モノマーのコポリマーまたはターポリマーであるニトリルゴムである。
【0007】
水素化ニトリルゴム(略して「HNBR」と呼ぶ)は、ニトリルゴムを水素化することにより得られる。したがって、HNBR中の共重合ジエン単位のC=C二重結合が、全面的または部分的に水素化される。共重合ジエン単位の水素化度は通常50〜100%の範囲である。
【0008】
水素化ニトリルゴムは特殊ゴムであって、極めて良好な耐熱性、優れた耐オゾン性および耐薬品性、ならびに優れた耐油性を有する。
【0009】
上述のHNBRの物理的および化学的性質が、極めて良好な機械的性質、特に高い耐摩耗性と組み合わさっている。この理由から、HNBRは各種広い分野において広汎な用途を有している。HNBRは、たとえば、自動車分野におけるシーリング材、ホース、ベルトおよび緩衝要素、さらには原油生産分野における油井シール材およびバルブシール材、ならびに、飛行機産業、電子産業、機械構築および造船における多くの部品に使用されている。
【0010】
通常市場で商品として入手可能なHNBRは、55〜120の範囲のムーニー粘度(ML1+4、100℃)を有しているが、これは、約200 000〜700 000の範囲の数平均分子量M(測定方法:ポリスチレン標準に対するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC))に相当する。測定される多分散性指数PDI(PDI=M/M、ここで、Mは重量平均分子量、そしてMは数平均分子量である)は、分子量分布の幅に関する情報を与えるが、多くの場合3以上である。残存二重結合含量は通常1〜18%の範囲である(IR分光光度法により測定)。
【0011】
HNBRの加工性は、そのムーニー粘度が比較的に高いために、厳しい限界が存在する。多くの用途において、分子量がより低い、したがってムーニー粘度がより低いHNBRが望ましいであろう。それによって、加工性が顕著に改良されるであろう。
【0012】
過去においても、分解によってHNBRの鎖長を短くするための試みが多数実施されてきた。たとえば、熱機械的処理(混練)によって分子量を低下させることができる((特許文献3))。しかしながら、この熱機械的分解は、部分酸化によって分子の中にヒドロキシル、ケト、カルボン酸およびカルボン酸エステル基のような官能基が導入され、その上、ポリマーの微細構造が実質的に変化してしまうという難点を有している。
【0013】
長い間、55未満の範囲のムーニー粘度(ML1+4、100℃)またはM<約200 000g/モルの数平均分子量に相当する低モル質量を有するHNBRを、既存の製造方法によって製造することは不可能であったが、その理由は、第一には、NBRの水素化においてムーニー粘度の段階的上昇が起こり、第二には、水素化に使用されるNBR供給原料の質量を意のままに低下させることができないからであるが、そうしないと、ゴムの粘着性が強すぎて、使用される工業プラントでの作業がもはや不可能となるためである。既存の工業プラントにおいて、困難なく作業をすることが可能なNBR供給原料の最低のムーニー粘度は、約30ムーニー単位(ML1+4、100℃)である。そのようなNBR供給原料を使用して得られる水素化ニトリルゴムのムーニー粘度は、約55ムーニー単位(ML1+4、100℃)である。ムーニー粘度は、ASTM標準D1646に従って測定する。
【0014】
より最近の従来技術においては、分解による水素化の前のニトリルゴムの分子量を、30ムーニー単位未満のムーニー粘度(ML1+4、100℃)、またはM<70000g/モルの数平均分子量とすることによって、この問題を解決している。分子量の低下は、メタセシスによって実施されるが、その場合、低分子量1−オレフィンが通常添加される。ニトリルゴムのメタセシスについては、たとえば、(特許文献4)、(特許文献5)、および(特許文献6)に記載がある。メタセシス反応を、水素化反応と同一の溶媒の中で実施するのが好都合であるが、それは、分解反応が完了した後で次の水素化にかける前に、分解されたニトリルゴムを溶媒から単離する必要がないからである。メタセシス分解反応は、メタセシス触媒を使用して触媒反応させられるが、その触媒は、極性基、特にニトリル基に耐性がある。
【0015】
(特許文献4)および(特許文献5)には、オレフィンメタセシスにより、ニトリルゴム出発ポリマーを分解させ、次いで水素化することによって、低ムーニー粘度を有するHNBRを得ることを含む方法が記載されている。この場合、ニトリルゴムを、第一の工程において、共オレフィン、およびオスミウム、ルテニウム、モリブデンまたはタングステンをベースとする特殊な錯体触媒の存在下に反応させ、第二の工程において水素化をしている。この方法においては、30 000〜250 000の範囲の重量平均分子量(M)、3〜50の範囲のムーニー粘度(ML1+4、100℃)、そして2.5未満の多分散性指数PDIを有する水素化ニトリルゴムを得ることが可能である。
【0016】
ニトリルゴムのメタセシスは、たとえば、次式の触媒であるビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリドを使用して実施することができる。
【0017】
【化2】

【0018】
メタセシスおよび水素化の結果として、そのニトリルゴムは、従来技術によってこれまで製造することが可能であった水素化ニトリルゴムよりも、分子量が低く、分子量分布が狭い。
【0019】
しかしながら、そのメタセシスを実施させるために使用されるグラブス(I)触媒の量が多い。(特許文献6)における実験では、それらは、使用されるニトリルゴムを基準にして、307ppmおよび61ppmのRuである。必要とされる反応時間も長く、分解の後の分子量はまだ比較的に高い((特許文献6)の実施例3を参照、M=180 000g/モル、M=71 000g/モル)。
【0020】
(特許文献7)には、二峰性または多峰性の分子量分布を有する低分子量HNBRゴムをベースとしてブレンド物およびそれらのゴムの加硫物が記載されている。それらの実施例によれば、メタセシスを実施するために0.5phrのグラブス(I)触媒が使用されている。これは、使用したニトリルゴムを基準にして614ppmのルテニウムという大量に相当する。
【0021】
さらに、当業者によって「グラブス(II)触媒」と呼ばれている一群の触媒が、(特許文献8)から公知である。
【0022】
このタイプの「グラブス(II)触媒」、たとえば下記の触媒の1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリデニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)(フェニルメチレン)ルテニウムジクロリドが、NBRのメタセシスのために使用されているが((特許文献9))、これは、共オレフィンを使用しなくてもうまくいく。
【0023】
【化3】

【0024】
それに続けての水素化(これは、同一の溶媒中で実施するのが好ましい)の後では、その水素化ニトリルゴムは、グラブス(I)タイプの触媒を使用した場合よりも、分子量が低く、分子量分布(PDI)が狭い。分子量および分子量分布に関しては、グラブス(II)タイプの触媒を使用したメタセシス分解の方が、グラブス(I)タイプの触媒を使用した場合よりも、効率的に進行する。しかしながら、この高効率のメタセシス分解に必要なルテニウムの量は、依然として、比較的に高い。グラブス(II)触媒を使用してメタセシスを実施した場合でも、依然として長い反応時間が必要である。
【0025】
ニトリルゴムをメタセシス分解させるための上述の方法のすべてにおいて、比較的大量の触媒を使用することが必要であり、メタセシスによって所望の低分子量ニトリルゴムを製造しようとすると、長い反応時間が必要である。
【0026】
その他のタイプのメタセシス反応においても、使用される触媒の活性は、極めて重要である。
【0027】
(非特許文献1)には、下記のジアリルマロン酸ジエチルの閉環メタセシスにおいて、
【0028】
【化4】

グラブス(I)タイプの触媒の活性を、CuClおよびCuClを添加することによって向上させることが可能であるとの記載がある。この活性の向上は、ホスファン配位子がその配位座を銅イオンに明け渡すことによって銅−ホスファン錯体が形成される、解離平衡におけるシフトによって説明することができる。
【0029】
しかしながら、上述の閉環メタセシスにおける銅塩によってもたらされる活性の向上は、他のタイプのメタセシス反応に意のままに利用することはできない。本発明者らによる研究では、意外にも、銅塩を添加すると、ニトリルゴムのメタセシス分解におけるメタセシス反応の初期の加速には効果があるものの、メタセシスの効率が顕著に悪化することが観察されるということが判った。最終的に得られる分解されたニトリルゴムの分子量は、同一の触媒の存在下に銅塩無しでメタセシス反応を実施した場合よりも実質的に高い。
【0030】
まだ未公開の独国特許出願においては、実際のメタセシス触媒に加えて1種または複数の塩を使用するメタセシスのための触媒系が記載されている。このようにメタセシス触媒に1種または複数の塩を組み合わせることによって、触媒の活性が向上する。各種のリストから選択することができる多くの意味合いは、いずれの場合においても、それらの塩のアニオンおよびカチオンの場合でもあり得る。この独国特許出願の実施例においては、臭化リチウムを使用すると、ゴムたとえばニトリルゴムのメタセシス分解とジアリルマロン酸ジエチルの閉環メタセシスのいずれに対しても、特に有利であることが見出されている。そこで使用されている触媒は、グラブス(II)触媒、ホベイダ触媒、ブッフマイザー−ヌイケン触媒、およびグレラ触媒である。
【0031】
臭化物イオンが腐食促進性を有しているために、臭化リチウム、さらには臭化セシウムを使用することは、無条件に、すべてのメタセシス反応において推奨できない。低分子量水素化ニトリルゴムを製造する場合において、たとえば、さらなる安全な態様が役目を果たすが、その理由は、ニトリルゴムのメタセシス分解の後に、鋼製の反応器中、過圧下で水素化を実施するからである。ニトリルゴムの残存水分含量からその反応混合物に水が導入されるために、臭化リチウムの存在下に水素化を実施する場合、さらなる手段を講じて、鋼製オートクレーブの「孔食」が起きないようにする必要がある。この理由から、特に低分子量ニトリルゴムの製造において臭化物の添加を採用することは、経済的にも最善の手順とは言えない。
【0032】
上述の独国特許出願の実施例からはさらに、塩化リチウムの活性向上効果は、臭化リチウムのそれよりも弱いことも明らかである。
【0033】
塩の添加の結果としてメタセシス触媒の活性が向上することは、(非特許文献2)においても同様に確認された。塩化スズ、臭化スズ、ヨウ化スズ、塩化鉄(II)、臭化鉄(II)、塩化鉄(III)、塩化セリウム(III)・7HO、塩化イッテルビウム(III)、三塩化アンチモン、二塩化ガリウムおよび三塩化アルミニウムの、1−オクテンの自己メタセシスによる7−テトラデセンおよびエチレンの生成に対する影響が、検討された。グラブス−I触媒を使用した場合には、塩化スズまたは臭化スズの添加によって、7−テトラデセンの転化率が顕著に改良されることが観察された(表1)。塩を添加しないと、25.8%の転化率が得られるが、SnCl・2HOを添加すると転化率が68.5%にまで上がり、臭化スズを添加するとそれが71.9%にまで上がった。ヨウ化スズを添加すると、転化率が極端に低下して25.8%から4.1%になった。しかしながら、グラブスII触媒と組み合わせると、それら3種のスズ塩すべてにおいて、わずかしか改良されず、76.3%(添加なしの参照考実験)から78.1%(SnCl)、79.5%(SnBr)、および77.6%(SnI)となった。「フォブキャッツ(Phobcats)」すなわち[Ru(phobCy)Cl(=ChPh)]を使用した場合には、転化率が87.9%から、SnClの添加によっては80.8%へ、SnBrの添加によっては81.6%へ、SnIの添加によっては73.9%へ、と低下した。鉄(II)塩をグラブスI触媒と組み合わせて使用すると、臭化鉄(II)を用いた時の転化率の上昇が、塩化鉄(II)を使用した場合よりも高い。使用する触媒のタイプとは無関係に、転化率が、臭化物を使用したときの方が対応する塩化物を使用した場合よりも常に高いということは、注目に値する。
【0034】
しかしながら、(非特許文献2)に記載されているように、臭化スズまたは臭化鉄(II)を使用することは、上述したように臭化物の腐食性のために、ニトリルゴムの調製のための最善の解決策ではない。
【0035】
水素化ニトリルゴムの調製の際には、水素化の後で溶媒を、通常は水蒸気蒸留によって除去する。触媒系の一部としてスズ塩を使用した場合、それらのスズ塩のある程度の量が廃水に入るので、廃水を精製しなければならず、費用がかかる。この理由から、ニトリルゴムの調製において触媒の活性を向上させる目的でスズの塩を使用することは、経済的に推奨できない。
【0036】
鉄塩を使用することは、鉄塩が、水素化において使用される貴金属化合物を回収するために通常使用されるある種のイオン交換樹脂の容量を低下させるために、制限を受ける。このことはさらに、プロセス全体の経済性を損なうことにもなる。
【0037】
さらに、(非特許文献3)には、ルテニウム−カルベン錯体Cl(PCyRu=CHフェニルの存在下に、LiClを添加して、ノルボルニルオリゴペプチドを開環メタセシス重合(ROMP)させることによって、ポリマーを合成することが記載されている。LiClを添加するのは、凝集を回避し、成長しているポリマー鎖の溶解性を向上させることが目的である旨、明確に記載されている。触媒の塩を添加することによる活性向上効果については、何の記載もない。
【0038】
(非特許文献4)にも、LiClを添加して、オリゴペプチド−置換ノルボルネンの開環重合を実施することが開示されている。ここでもまた、非極性の有機溶媒中へのペプチドの溶解性向上添加剤としてのLiClの影響が強調されている。この理由から、重合度DPの増加が、LiClの添加によって達成可能となる。
【0039】
(非特許文献1)には、NHC配位子を含むメタセシス触媒、たとえばグラブス(II)触媒をLiBrまたはNaIで処理して、グラブス(II)触媒の塩化物配位子を臭化物またはヨウ化物で置き換えることが記されている。
【0040】
(非特許文献5)には、グラブス(I)触媒の活性を向上させるためにテトライソプロポキシチタネートを添加することによって、1,ω−ジエンの閉環メタセシスにおいて収率が改良されるとの記載がある。4−ペンテン酸エステルの9−デセン酸エステルの環化においては、LiBrを添加した場合よりもテトライソプロポキシチタネートを添加した場合の方が、マクロライドの収率が高くなる。他のタイプのメタセシス反応や他のメタセシス触媒に対してこの効果をどの程度適用することが可能であるかについては、何の指摘もない。
【0041】
(非特許文献6)においては、[1,3−ビス(2,6−ジメチルフェニル)4,5−ジヒドロイミダゾル−2−イリデン](CN)(Cl)Ru=CHPhを使用した、アクリロニトリルのそれ自体との、および他の官能性オレフィンとの交叉メタセシス(CM)が検討されている。テトライソプロポキシチタネートを添加すると、それぞれの反応生成物の収率が改良される。この公刊物は、ピリジン配位子を有する特定の触媒を使用したときのみに、テトライソプロポキシチタネートの活性向上作用が起きるという印象を与える。ピリジンを含まない触媒を使用したときや、他のタイプのメタセシス反応の場合に、テトライソプロポキシチタネートが有効であるかどうかについての指摘はない。
【0042】
(非特許文献7)からは、アリルカルバメートとアクリル酸メチルとの交叉メタセシスにおいては、触媒としてホベイダ触媒を用いた場合、テトライソプロポキシチタネートを添加すると、その生成物収率にマイナスの影響がでることが知られている。そのために、テトライソプロポキシチタネートを添加すると、生成物収率が28%から0%にまで低下する。ジメチルアルミニウムクロリドを添加した場合もまた、収率は28%から20%へとやはり低下する。それとは対照的に、ホウ酸誘導体を添加すると生成物収率が改良される。
【0043】
上記のようなことからも、どのようにすればメタセシスによりニトリルゴムの分子量を低下させることにおける改良が可能であるかについての教示は、文献からは得ることができないということが明らかであるが、その理由は、1つのメタセシス反応からの結果を他の反応へ移し替えることが、明確に可能ではないからである。特定のメタセシス触媒を使用して得られた結果を他の触媒へ移し替えることもまた不可能である。
【特許文献1】国際公開第96/04289号パンフレット
【特許文献2】国際公開第97/06185号パンフレット
【特許文献3】EP−A−0419952
【特許文献4】国際公開第02/100905号パンフレット
【特許文献5】国際公開第02/100941号パンフレット
【特許文献6】国際公開第03/002613号パンフレット
【特許文献7】米国特許出願公開第2004/0127647A1号明細書
【特許文献8】国際公開第00/71554号パンフレット
【特許文献9】米国特許出願公開第2004/0132891号明細書
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.、1997、119、3887〜3897
【非特許文献2】Inorganica Chimica Acta、359(2006)、2910〜2917
【非特許文献3】ChemBioChem、2003、4、1229〜1231
【非特許文献4】J.Org.Chem.、2003、68、202〜2023
【非特許文献5】J.Am.Chem.Soc.、1997、119、9130
【非特許文献6】Biomol.Chem.、2005、3、4139
【非特許文献7】Synlett、2005、No.4、670〜672
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0044】
したがって、本発明の目的は、メタセシスによってニトリルゴムの分子量を低下させるために使用されるメタセシス触媒の活性向上を得ると同時に、ニトリルゴムのゲル化が起きないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0045】
意外にも、メタセシス触媒と特定の遷移金属化合物とを組み合わせて使用すると、メタセシスによるニトリルゴムの分子量の低下を顕著に改良することが可能となることが見出された。ゲル化が観察されることなく、顕著に狭い分子量分布と低い分子量を得ることができる。
【0046】
したがって、本発明はニトリルゴムの分子量を低下させるための方法を提供するが、そこでは、ニトリルゴムを、周期律表の遷移族6または8の金属をベースとする錯体触媒であって、カルベン様の方式でその金属に結合された少なくとも1個の配位子を有するメタセシス触媒、およびさらに一般式(I)の化合物と接触させる。
M(OZ) (I)
[式中、
Mが、元素周期律表の遷移族4、5または6の遷移金属であり、
mが、4、5または6であり、そして
基Zは同一であっても異なっていてもよいが、それぞれ、1〜32個の炭素原子を有し、さらに1〜15個のヘテロ原子を有していてもよい、直鎖状、分岐状、脂肪族、環式、複素環式または芳香族基である]
【0047】
本発明の方法において起きるメタセシス反応は、その間にニトリルゴムのポリマー鎖の分解が起きる交叉メタセシスである。
【0048】
一般式(I)の化合物において適切な遷移族4、5または6の遷移金属は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、およびタングステンである。
【0049】
一般式(I)の化合物において、基Zは同一であっても異なっていてもよく、1〜30個の炭素原子を有し、さらに1〜15個のヘテロ原子、好ましくは窒素または酸素を有していてもよい直鎖状、分岐状、脂肪族、環式、複素環式または芳香族基である。
【0050】
基Zが1〜32個の炭素原子を有し、さらに1〜15個のヘテロ原子、好ましくは窒素または酸素を有していてもよいという条件の場合、Zは、直鎖状または分岐状のC〜C30−アルキル、好ましくはC〜C20−アルキル、特に好ましくはC〜C12−アルキル、C〜C20−シクロアルキル、好ましくはC〜C10−シクロアルキル、特に好ましくはC〜C−シクロアルキル、C〜C20−アルケニル、好ましくはC〜C18−アルケニル、C〜C20−アルキニル、一般式(−CHZ−CHZ−A−)−CH−CHの基[式中、pは1〜10の整数であり、基Zは同一であっても異なっていてもよく、それぞれが水素またはメチルであるが、隣接した炭素原子の上に位置している基Zは好ましくは異なっており、そしてAは、酸素、硫黄もしくは−NH、C〜C24−アリール、好ましくはC〜C14−アリールまたは少なくとも1個のヘテロ原子、好ましくは窒素もしくは酸素を有するC〜C23−ヘテロアリール基である]であってよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
本発明の方法においては、次のような一般式(I)の化合物を使用するのが好ましい:
Mが、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデンまたはタングステンであり、
mが、4、5または6であり、そして
Zが、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、tert−ペンチル、ドデシル、オレイル、フェニル、または立体障害のあるフェニルである。
【0052】
本発明の方法における一般式(I)の化合物として、テトラエチルオキシチタネート、テトライソプロピルオキシチタネート、テトラ−tert−ブチルオキシチタネート、テトラ−tert−ブチルオキシジルコネート、ペンタエトキシニオベート、およびペンタエトキシタンタレートを使用するのが特に好ましい。
【0053】
本特許出願および発明の目的においては、以上および以下において述べる基、パラメーター、または説明の一般的な定義または好ましいとする定義はすべて、相互に組み合わせることができる、すなわち各種所望の方法で、それぞれの範囲と好ましい範囲の間で組み合わせることができる。
【0054】
本特許出願の目的において、メタセシス触媒または一般式(I)の化合物に関連して使用される「置換される」という用語は、指示された基または原子の上の水素原子が、それぞれの場合において指示された基の1つで置換されたことを意味しているが、ただし、指示された原子の原子価が過剰であってはならず、またその置換で安定な化合物が得られなければならない。
【0055】
本発明の方法において使用されるメタセシス触媒は、周期律表の遷移族6または8の金属をベースとする錯体触媒である。それらの錯体触媒は、金属に対してカルベン様の方式で結合された少なくとも1個の配位子を有するという、共通した構造的な特徴を有している。好ましい実施態様においては、錯体触媒が2個のカルベン配位子、すなわちその錯体の中心金属に対して、カルベン様の方式で結合されている2個の配位子を有している。周期律表の遷移族6および8の金属としては、モリブデン、タングステン、オスミウム、およびルテニウムが好ましい。
【0056】
本発明の方法において使用される触媒としては、一般式(A)の触媒を使用することができる:
【0057】
【化5】

[式中、
Mが、オスミウムまたはルテニウムであり、
およびXは同一であっても異なっていてもよいが、2個の配位子、好ましくはアニオン性配位子であり、
記号Lが、同一であっても異なっていてもよい配位子、好ましくは電荷を持たない電子供与体であり、
基Rは同一であっても異なっていてもよいが、それぞれ、水素、アルキル、好ましくはC〜C30−アルキル、シクロアルキル、好ましくはC〜C20−シクロアルキル、アルケニル、好ましくはC〜C20−アルケニル、アルキニル、好ましくはC〜C20−アルキニル、アリール、好ましくはC〜C24−アリール、カルボキシレート、好ましくはC〜C20−カルボキシレート、アルコキシ、好ましくはC〜C20−アルコキシ、アルケニルオキシ、好ましくはC〜C20−アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、好ましくはC〜C20−アルキニルオキシ、アリールオキシ、好ましくはC〜C24−アリールオキシ、アルコキシカルボニル、好ましくはC〜C20−アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、好ましくはC〜C30−アルキルアミノ、アルキルチオ、好ましくはC〜C30−アルキルチオ、アリールチオ、好ましくはC〜C24−アリールチオ、アルキルスルホニル、好ましくはC〜C20−アルキルスルホニル、またはアルキルスルフィニル、好ましくはC〜C20−アルキルスルフィニルであるが、ここでそれらの基は、それぞれの場合において、1種または複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールもしくはヘテロアリール基によって置換されているか、あるいはそれに代えて、2個の基Rが、それらが結合している共通の炭素原子と共に架橋されて、基本的に脂肪族であっても芳香族であってもよく、置換されていてもよく、あるいは1個または複数のヘテロ原子を含んでいてよい環式基を形成していてもよい。
【0058】
一般式(A)の好適な触媒においては、1つの基Rが水素であり、もう1つの基Rが、C〜C20−アルキル、C〜C10−シクロアルキル、C〜C20−アルケニル、C〜C20−アルキニル、C〜C24−アリール、C〜C20−カルボキシレート、C〜C20−アルコキシ、C〜C20−アルケニルオキシ、C〜C20−アルキニルオキシ、C〜C24−アリールオキシ、C〜C20−アルコキシカルボニル、C〜C30−アルキルアミノ、C〜C30−アルキルチオ、C〜C24−アリールチオ、C〜C20−アルキルスルホニル、またはC〜C20−アルキルスルフィニルであるが、ここで、それらの基は、それぞれの場合において、1種または複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールまたはヘテロアリール基によって置換されていてもよい。
【0059】
一般式(A)の触媒において、XおよびXは同一であっても異なっていてもよく、2個の配位子がアニオン性配位子であるのが好ましい。
【0060】
およびXは、たとえば、水素、ハロゲン、擬ハロゲン、直鎖状または分岐状のC〜C30−アルキル、C〜C24−アリール、C〜C20−アルコキシ、C〜C24−アリールオキシ、C〜C20−アルキルジケトネート、C〜C24−アリールジケトネート、C〜C20−カルボキシレート、C〜C20−アルキルスルホネート、C〜C24−アリールスルホネート、C〜C20−アルキルチオール、C〜C24−アリールチオール、C〜C20−アルキルスルホニル、またはC〜C20−アルキルスルフィニル基とすることができる。
【0061】
上述の基XおよびXは、1種または複数のさらなる基、たとえばハロゲン、好ましくはフッ素、C〜C10−アルキル、C〜C10−アルコキシまたはC〜C24−アリールによって置換されていてもよく、それらの基がさらにもう一度、ハロゲン、好ましくはフッ素、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシおよびフェニルからなる群から選択される1種または複数の置換基によって置換されていてもよい。
【0062】
好ましい実施態様においては、XおよびXは同一であっても異なっていてもよく、それぞれが、ハロゲン特に、フッ素、塩素、臭素もしくはヨウ素、ベンゾエート、C〜C−カルボキシレート、C〜C−アルキル、フェノキシ、C〜C−アルコキシ、C〜C−アルキルチオール、C〜C24−アリールチオール、C〜C24−アリールまたはC〜C−アルキルスルホネートである。
【0063】
特に好ましい実施態様においては、XおよびXが同一であって、それぞれハロゲン特に、塩素、CFCOO、CHCOO、CFHCOO、(CHCO、(CF(CH)CO、(CF)(CHCO、PhO(フェノキシ)、MeO(メトキシ)、EtO(エトキシ)、トシレート(p−CH−C−SO)、メシレート(2,4,6−トリメチルフェニル)またはCFSO(トリフルオロメタンスルホネート)である。
【0064】
一般式(A)において、記号Lは、同一であっても異なっていてもよい配位子、好ましくは電荷を持たない電子供与体を表している。
【0065】
2個の配位子Lは、たとえば、互いに独立して、ホスフィン、スルホネート化ホスフィン、ホスフェート、ホスフィナイト、ホスホナイト、アルシン、スチビン、エーテル、アミン、アミド、スルホキシド、カルボキシル、ニトロシル、ピリジン、チオエーテルまたはイミダゾリジン(「Im」)配位子とすることができる。
【0066】
それら2個の配位子Lが、互いに独立して、C〜C24−アリールホスフィン、C〜C−アルキルホスフィンもしくはC〜C20−シクロアルキルホスフィン配位子、スルホネート化C〜C24−アリールホスフィンもしくはスルホネート化C〜C10−アルキルホスフィン配位子、C〜C24−アリールホスフィナイトもしくはC〜C10−アルキルホスフィナイト配位子、C〜C24−アリールホスホナイトもしくはC〜C10−アルキルホスホナイト配位子、C〜C24−アリールホスファイトもしくはC〜C10−アルキルホスファイト配位子、C〜C24−アリールアルシンもしくはC〜C10−アルキルアルシン配位子、C〜C24−アリールアミンもしくはC〜C10−アルキルアミン配位子、ピリジン配位子、C〜C24−アリールスルホキシドもしくはC〜C10−アルキルスルホキシド配位子、C〜C24−アリールエーテルもしくはC〜C10−アルキルエーテル配位子、または、C〜C24−アリールアミドもしくはC〜C10アルキルアミド配位子であるのが好ましいが、それらのそれぞれが、フェニル基によって置換されていてもよく、そのフェニル基がさらにハロゲン−、C〜C−アルキルまたはC〜C−アルコキシ基によって置換されていてもよい。
【0067】
「ホスフィン」という用語には、たとえば、PPh、P(p−Tol)、P(o−Tol)、PPh(CH、P(CF、P(p−FC、P(p−CF、P(C−SONa)、P(CH−SONa)、P(イソプロピル)、P(CHCH(CHCH))、P(シクロペンチル)、P(シクロヘキシル)、P(ネオペンチル)、およびP(ネオフェニル)が含まれる。
【0068】
「ホスフィナイト」という用語には、たとえば、フェニルジフェニルホスフィナイト、シクロヘキシルジシクロヘキシルホスフィナイト、イソプロピルジイソプロピルホスフィナイト、およびメチルジフェニルホスフィナイトが含まれる。
【0069】
「ホスファイト」という用語には、たとえば、トリフェニルホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、トリ−tert−ブチルホスファイト、トリイソプロピルホスファイト、およびメチルジフェニルホスファイトが含まれる。
【0070】
「スチビン」という用語には、たとえば、トリフェニルスチビン、トリシクロヘキシルスチビン、およびトリメチルスチビンが含まれる。
【0071】
「スルホネート」という用語には、たとえば、トリフルオロメタンスルホネート、トシレート、およびメシレートが含まれる。
【0072】
「スルホキシド」という用語には、たとえば、CHS(=O)CHおよび(CSOが含まれる。
【0073】
「チオエーテル」という用語には、たとえば、CHSCH、CSCH、CHOCHCHSCH、およびテトラヒドロチオフェンが含まれる。
【0074】
本出願の目的においては、「ピリジン」という用語は、グラブスによって国際公開第03/011455号パンフレットに記載されているようなすべての窒素含有配位子の総称として使用されている。例としては以下のものが挙げられる:ピリジン、ピコリン(α−、β−、およびγ−ピコリン)、ルチジン(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、および3,5−ルチジン)、コリジン(2,4,6−トリメチルピリジン)、トリフルオロメチルピリジン、フェニルピリジン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、クロロピリジン、ブロモピリジン、ニトロピリジン、キノリン、ピリミジン、ピロール、イミダゾール、およびフェニルイミダゾール。
【0075】
イミダゾリジン基(Im)は通常、一般式(IIa)または(IIb)に相当する構造を有している。
【0076】
【化6】

[式中、
、R、R10、R11は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素、直鎖状または分岐状のC〜C30−アルキル、C〜C20−シクロアルキル、C〜C20−アルケニル、C〜C20−アルキニル、C〜C24−アリール、C〜C20−カルボキシレート、C〜C20−アルコキシ、C〜C20−アルケニルオキシ、C〜C20−アルキニルオキシ、C〜C20−アリールオキシ、C〜C20−アルコキシカルボニル、C〜C20−アルキルチオ、C〜C20−アリールチオ、C〜C20−アルキルスルホニル、C〜C20−アルキルスルホネート、C〜C20−アリールスルホネート、またはC〜C20−アルキルスルフィニルである]
【0077】
適切であるならば、基R、R、R10、R11の1個または複数を、1種または複数の置換基、好ましくは直鎖状または分岐状のC〜C10−アルキル、C〜C−シクロアルキル、C〜C10−アルコキシまたはC〜C24−アリールによって置換することもできるが、ここで上述の置換基がさらに、1種または複数の基、好ましくはハロゲン特に塩素もしくは臭素、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ、およびフェニルからなる群から選択される基によって、置換されていてもよい。
【0078】
単に簡明にするためだけであるが、本特許出願における一般式(IIa)および(IIb)として表されたイミダゾリジン基の構造は、(IIa’)および(IIb’)の構造とは等価のものであるが、これはこのイミダゾリジン基(Im)に関する文献においてしばしば見出されるものであって、イミダゾリジン基のカルベン的な性質を強調しているものである、ということを付け加えておく。これは、本文において後ほど示される、関連する好ましい構造(IIIa)〜(IIIf)にも同様に当てはまる。
【0079】
【化7】

【0080】
一般式(A)の触媒の好ましい実施態様においては、RおよびRはそれぞれ、互いに独立して、水素、C〜C24−アリール、特に好ましくはフェニル、直鎖状または分岐状のC〜C10−アルキル、特に好ましくはプロピルもしくはブチルであるか、それらが結合されている炭素原子と共に、シクロアルキルもしくはアリール基を形成するが、ここで、上述の基はすべて、直鎖状または分岐状のC〜C10−アルキル、C〜C10−アルコキシ、C〜C24−アリール、ならびに、ヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、およびハロゲンからなる群から選択される官能基からなる群から選択される1種または複数のさらなる基によってさらに置換されていてもよい。
【0081】
一般式(A)の触媒の好ましい実施態様においては、基R10およびR11は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、直鎖状または分岐状のC〜C10−アルキル、特に好ましくはi−プロピルもしくはネオペンチル、C〜C10−シクロアルキル、好ましくはアダマンチル、C〜C24−アリール、特に好ましくはフェニル、C〜C10−アルキルスルホネート、特に好ましくはメタンスルホネート、C〜C10−アリールスルホネート、特に好ましくはp−トルエンスルホネートである。
【0082】
10およびR11の意味合いとしての上述の基は、直鎖状または分岐状のC〜C−アルキル、特にメチル、C〜C−アルコキシ、アリールからなる群から選択される1種または複数のさらなる基、ならびに、ヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、およびハロゲンからなる群から選択される官能基によって置換されていてもよい。
【0083】
特に、基R10およびR11は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、i−プロピル、ネオペンチル、アダマンチル、メシチルまたは2,6−ジイソプロピルフェニルである。
【0084】
特に好適なイミダゾリジン基(Im)は、以下の(IIIa)〜(IIIf)の構造を有するが、ここでMesは、それぞれの場合において2,4,6−トリメチルフェニルであるか、またはそれに代えて、すべての場合において2,6−ジイソプロピルフェニルである。
【0085】
【化8】

【0086】
式(A)の触媒の各種代表的なものが、たとえば、国際公開第96/04289号パンフレットおよび国際公開第97/06185号パンフレットからも公知である。
【0087】
それらの好適なIm基に代わるものとして、一般式(A)の中の配位子Lの一方または両方が、この場合も好ましくは同一であっても異なっていてもよいが、トリアルキルホスフィン配位子であって、その中のアルキル基の少なくとも1個が、第二級アルキル基またはシクロアルキル基、好ましくはイソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、ネオペンチル、シクロペンチルまたはシクロヘキシルである。
【0088】
一般式(A)の中の配位子Lの一方または両方が、その中のアルキル基の少なくとも1個が、第二級アルキル基またはシクロアルキル基、好ましくはイソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、ネオペンチル、シクロペンチルまたはシクロヘキシルであるトリアルキルホスフィン配位子であれば、特に好ましい。
【0089】
下記の2種の触媒の1つを使用するのが特に好ましいが、これらは一般式(A)に分類され、構造(IV)(グラブス(I)触媒)および(V)(グラブス(II)触媒)の構造を有するが、ここでCyはシクロヘキシルである。
【0090】
【化9】

【0091】
さらなる実施態様においては、一般式(A1)の触媒が使用される。
【0092】
【化10】

[式中、
、XおよびLは、一般式(A)におけるX、XおよびLとして一般的意味合い、好ましい意味合い、および特に好ましい意味合いと同じ意味合いを有していてよく、
nが、0、1または2であり、
mが、0、1、2、3または4であり、そして
基R’は同一であっても異なっていてもよいが、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニルまたはアルキルスルフィニル基であって、それらは、それぞれの場合において1種または複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールまたはヘテロアリール基によって置換されていてもよい。
【0093】
一般式(A1)で表される好適な触媒としては、たとえば下記の式(VI)の触媒を使用することが可能であるが、ここでMesは、それぞれの場合において、2,4,6−トリメチルフェニルであり、Phはフェニルである。
【0094】
【化11】

【0095】
文献においては「ノラン触媒」とも呼ばれている、この触媒は、たとえば国際公開第2004/112951号パンフレットからも公知である。
【0096】
本発明の方法において使用するのに好適なさらなる触媒は、一般式(B)のものである。
【0097】
【化12】

[式中、
Mが、ルテニウムまたはオスミウムであり、
およびXは同一であっても異なっていてもよい配位子、好ましくはアニオン性配位子であり、
Yが、酸素(O)、硫黄(S)、N−R基もしくはP−R基(ここで、Rは以下に定義されるものである)であり、
が、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、またはアルキルスルフィニル基であるが、それらは、それぞれの場合において、1種または複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールまたはヘテロアリール基によって、場合によっては置換されていてもよく、
、R、RおよびRは同一であっても異なっていてもよいが、それぞれ水素または有機もしくは無機基であり、
が、水素またはアルキル、アルケニル、アルキニルもしくはアリール基であり、そして
Lが、式(A)におけるのと同じ意味合いを有する配位子である]
【0098】
一般式(B)の触媒は、基本的には公知である。このタイプの化合物の代表的なものは、ホベイダ(Hoveyda)らによって、米国特許出願公開第2002/0107138A1号明細書、およびAngew.Chem.Int.Ed.、2003、42、4592中に記載されている触媒、およびグレラ(Grela)によって、国際公開第2004/035596号パンフレット、Eur.J.Org.Chem.、2003、963〜966、およびAngew.Chem.Int.Ed.、2002、41、4038、さらには、J.Org.Chem.、2004、69、6894〜96およびChem.Eur.J.、2004、10、777〜784中に記載されている触媒である。それらの触媒は市場で入手することが可能であり、または引用した参考文献の記載に従って調製することもできる。
【0099】
一般式(B)の触媒においては、Lは、電子供与体機能を通常有する配位子であって、一般式(A)におけるLの場合の一般的意味合い、好ましい意味合い、および特に好ましい意味合いと同じ意味合いを有していることができる。
【0100】
さらに、一般式(B)におけるLが、P(R基であるのが好ましいが、ここで基Rはそれぞれ、互いに独立して、C〜C−アルキル、C〜C−シクロアルキルもしくはアリール、そうでなければ置換または非置換のイミダゾリジン基(「Im」)である。
【0101】
〜C−アルキルは、たとえば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、およびn−ヘキシルである。
【0102】
〜C−シクロアルキルには、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、およびシクロオクチルが包含される。
【0103】
アリールは、6〜24個の骨格炭素原子を有する芳香族基である。6〜10個の骨格炭素原子を有する好適な単環式、2環式または3環式炭素環芳香族基としては、たとえば、フェニル、ビフェニル、ナフチル、フェナントレニル、またはアントラセニルをあげることができる。
【0104】
イミダゾリジン基(Im)は通常、一般式(IIa)または(IIb)の構造を有している。
【0105】
【化13】

[式中、
、R、R10、R11は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素、直鎖状または分岐状のC〜C30−アルキル、C〜C20−シクロアルキル、C〜C20−アルケニル、C〜C20−アルキニル、C〜C24−アリール、C〜C20−カルボキシレート、C〜C20−アルコキシ、C〜C20−アルケニルオキシ、C〜C20−アルキニルオキシ、C〜C20−アリールオキシ、C〜C20−アルコキシカルボニル、C〜C20−アルキルチオ、C〜C20−アリールチオ、C〜C20−アルキルスルホニル、C〜C20−アルキルスルホネート、C〜C20−アリールスルホネート、またはC〜C20−アルキルスルフィニルである]
【0106】
適切であるならば、基R、R、R10、R11の1個または複数を、1種または複数の置換基、好ましくは直鎖状または分岐状のC〜C10−アルキル、C〜C−シクロアルキル、C〜C10−アルコキシまたはC〜C24−アリールによって置換することもできるが、ここで上述の置換基がさらに、1種または複数の基、好ましくはハロゲン特に塩素もしくは臭素、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ、およびフェニルからなる群から選択される基によって、置換されていてもよい。
【0107】
本発明の方法の好ましい実施態様においては、RおよびRがそれぞれ、互いに独立して、水素、C〜C24−アリール、特に好ましくはフェニル、直鎖状または分岐状のC〜C10−アルキル、特に好ましくはプロピルもしくはブチルであるか、それらが結合している炭素原子と共に、シクロアルキルまたはアリール基を形成している一般式(B)の触媒を使用するが、ここで、上述の基はすべて、直鎖状または分岐状のC〜C10−アルキル、C〜C10−アルコキシ、C〜C24−アリール、ならびに、ヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、およびハロゲンからなる群から選択される官能基からなる群から選択される1種または複数のさらなる基によってさらに置換されていてもよい。
【0108】
本発明の方法の好ましい実施態様においては、基R10およびR11が同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、直鎖状または分岐状のC〜C10−アルキル、特に好ましくはi−プロピルもしくはネオペンチル、C〜C10−シクロアルキル、好ましくはアダマンチル、C〜C24−アリール、特に好ましくはフェニル、C〜C10−アルキルスルホネート、特に好ましくはメタンスルホネート、またはC〜C10−アリールスルホネート、特に好ましくはp−トルエンスルホネートである、一般式(B)の触媒を使用する。
【0109】
10およびR11の意味合いとしての上述の基は、直鎖状または分岐状のC〜C−アルキル、特にメチル、C〜C−アルコキシ、アリールからなる群から選択される1種または複数のさらなる基、ならびに、ヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、およびハロゲンからなる群から選択される官能基によって置換されていてもよい。
【0110】
特に、基R10およびR11は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、i−プロピル、ネオペンチル、アダマンチル、またはメシチルである。
【0111】
特に好適なイミダゾリジン基(Im)は、先に一般式(A)のところで述べた構造(IIIa〜IIIf)を有している。
【0112】
一般式(B)の触媒においては、XおよびXは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、たとえば、水素、ハロゲン、擬ハロゲン、直鎖状または分岐状のC〜C30−アルキル、C〜C24−アリール、C〜C20−アルコキシ、C〜C24−アリールオキシ、C〜C20−アルキルジケトネート、C〜C24−アリールジケトネート、C〜C20−カルボキシレート、C〜C20−アルキルスルホネート、C〜C24−アリールスルホネート、C〜C20−アルキルチオール、C〜C24−アリールチオール、C〜C20−アルキルスルホニル、またはC〜C20−アルキルスルフィニルであってよい。
【0113】
上述の基XおよびXは、1種または複数のさらなる基、たとえばハロゲン、好ましくはフッ素、C〜C10−アルキル、C〜C10−アルコキシまたはC〜C24−アリールによって置換されていてもよく、これらの基がさらに、ハロゲン、好ましくはフッ素、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシおよびフェニルからなる群から選択される1種または複数の置換基によって置換されていてもよい。
【0114】
好ましい実施態様においては、XおよびXは同一であっても異なっていてもよく、それぞれが、ハロゲン特に、フッ素、塩素、臭素もしくはヨウ素、ベンゾエート、C〜C−カルボキシレート、C〜C−アルキル、フェノキシ、C〜C−アルコキシ、C〜C−アルキルチオール、C〜C24−アリールチオール、C〜C24−アリールまたはC〜C−アルキルスルホネートである。
【0115】
特に好ましい実施態様においては、XおよびXが同一であって、それぞれハロゲン特に、塩素、CFCOO、CHCOO、CFHCOO、(CHCO、(CF(CH)CO、(CF)(CHCO、PhO(フェノキシ)、MeO(メトキシ)、EtO(エトキシ)、トシレート(p−CH−C−SO)、メシレート(2,4,6−トリメチルフェニル)またはCFSO(トリフルオロメタンスルホネート)である。
【0116】
一般式(B)においては、基Rが、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、またはアルキルスルフィニル基であるが、それらは、それぞれの場合において、1種または複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールまたはヘテロアリール基によって、場合によっては置換されていてもよい。
【0117】
基Rは通常、C〜C30−アルキル、C〜C20−シクロアルキル、C〜C20−アルケニル、C〜C20−アルキニル、C〜C24−アリール、C〜C20−アルコキシ、C〜C20−アルケニルオキシ、C〜C20−アルキニルオキシ、C〜C24−アリールオキシ、C〜C20−アルコキシカルボニル、C〜C20−アルキルアミノ、C〜C20−アルキルチオ、C〜C24−アリールチオ、C〜C20−アルキルスルホニルまたはC〜C20−アルキルスルフィニル基であるが、それらは、それぞれの場合において、場合によっては1種または複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールまたはヘテロアリール基によって置換されていてもよい。
【0118】
は、C〜C20−シクロアルキル基、C〜C24−アリール基、または直鎖状または分岐状のC〜C30−アルキル基であるのが好ましいが、これは、適切であるならば、1個もしくは複数の二重結合もしくは三重結合、または1個もしくは複数のヘテロ原子、好ましくは酸素もしくは窒素によって中断されていてもよい。Rが、直鎖状または分岐状のC〜C12−アルキル基であれば特に好ましい。
【0119】
〜C20−シクロアルキル基には、たとえば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、およびシクロオクチルが包含される。
【0120】
〜C12−アルキル基は、たとえば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−デシル、またはn−ドデシルであってよい。特には、Rがメチルまたはイソプロピルである。
【0121】
〜C24−アリール基は、6〜24個の骨格炭素原子を有する芳香族基である。6〜10個の骨格炭素原子を有する好適な単環式、2環式または3環式炭素環芳香族基としては、たとえば、フェニル、ビフェニル、ナフチル、フェナントレニル、またはアントラセニルをあげることができる。
【0122】
一般式(B)において、基R、R、RおよびRは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素または有機もしくは無機基とすることができる。
【0123】
適切な実施態様においては、R、R、R、Rが同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素、ハロゲン、ニトロ、CF、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニルまたはアルキルスルフィニルであるが、それらはそれぞれの場合において、場合によっては、1種または複数のアルキル、アルコキシ、ハロゲン、アリールまたはヘテロアリール基により置換されていてもよい。
【0124】
、R、R、Rは通常同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素、ハロゲン、好ましくは塩素もしくは臭素、ニトロ、CF、C〜C30−アルキル、C〜C20−シクロアルキル、C〜C20−アルケニル、C〜C20−アルキニル、C〜C24−アリール、C〜C20−アルコキシ、C〜C20−アルケニルオキシ、C〜C20−アルキニルオキシ、C〜C24−アリールオキシ、C〜C20−アルコキシカルボニル、C〜C20−アルキルアミノ、C〜C20−アルキルチオ、C〜C24−アリールチオ、C〜C20−アルキルスルホニルまたはC〜C20−アルキルスルフィニルであるが、それらは、それぞれの場合において、場合によっては、1種または複数のC〜C30−アルキル、C〜C20−アルコキシ、ハロゲン、C〜C24−アリール、またはヘテロアリール基によって置換されていてもよい。
【0125】
特に有用な実施態様においては、R、R、R、Rが同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、ニトロ、直鎖状または分岐状のC〜C30−アルキル、C−C20−シクロアルキル、直鎖状または分岐状のC〜C20−アルコキシまたはC〜C24−アリール基、好ましくはフェニルもしくはナフチルである。それらのC〜C30−アルキル基およびC〜C20−アルコキシ基は、場合によっては、1個もしくは複数の二重結合もしくは三重結合、または1個もしくは複数のヘテロ原子、好ましくは酸素もしくは窒素によって中断されていてもよい。
【0126】
さらに、基R、R、RまたはRの2種以上が、脂肪族または芳香族を介して架橋されていてもよい。たとえば、RとRとが、式(B)のフェニル環の中でそれらが結合されている炭素原子と共に縮合フェニル環を形成すると、全体としてナフチル構造が生成する。
【0127】
一般式(B)においては、基Rは、水素または、アルキル、アルケニル、アルキニルもしくはアリール基である。Rが、水素、C〜C30−アルキル基、C〜C20−アルケニル基、C〜C20−アルキニル基、またはC〜C24−アリール基であるのが好ましい。Rが水素であれば特に好ましい。
【0128】
本発明の方法において好適なさらなる触媒は、一般式(B1)の触媒である。
【0129】
【化14】

[式中、
M、L、X、X、R、R、R、R、およびRは、一般式(B)において述べた一般的意味合い、好ましい意味合い、および特に好ましい意味合いと同じ意味合いを有することができる]
【0130】
一般式(B1)の触媒は基本的には、たとえば米国特許出願公開第2002/0107138A1号明細書(ホベイダ(Hoveyda)ら)からも公知であり、そこに記載された調製法により得ることができる。
【0131】
以下のような一般式(B1)の触媒が特に好ましい:
Mが、ルテニウムであり、
およびXが、共にハロゲン、特に共に塩素であり、
が、直鎖状または分岐状のC〜C12−アルキル基であり、
、R、R、Rが、一般式(B)において述べた一般的な意味合いおよび好ましい意味合いを有しており、そして
Lが、一般式(B)において述べた一般的な意味合いおよび好ましい意味合いを有している。
【0132】
以下のような一般式(B1)の触媒が極めて特に好ましい:
Mが、ルテニウムであり、
およびXが、共に塩素であり、
が、イソプロピル基であり、
、R、R、Rが、すべて水素であり、そして
Lが、式(IIa)または(IIb)の置換または非置換イミダゾリジン基であるが、ここで、基R、R、R10、R11はすべて、上述した一般的な意味合いおよび好ましい意味合いを有している。
【0133】
本発明の方法においては、一般構造式(B1)に属し、式(VII)を有する触媒を使用するのが極めて特に好ましいが、ここでMesは、それぞれの場合において、2,4,6−トリメチルフェニルである。
【0134】
【化15】

【0135】
この触媒(VII)は、文献においては「ホベイダ触媒」とも呼ばれている。
【0136】
さらに好適な触媒は、一般構造式(B1)に属し、式(VIII)、(IX)、(X)、(XI)、(XII)、(XIII)、(XIV)および(XV)の1つを有するものであるが、ここでMesは、それぞれの場合において、2,4,6−トリメチルフェニルである。
【0137】
【化16A】

【化16B】

【0138】
本発明の方法において好適なさらなる触媒は、一般式(B2)の触媒である。
【0139】
【化17】

[式中、
M、L、X、X、R、およびRが、式(B)において述べた一般的な意味合いおよび好ましい意味合いを有し、
基R12は同一であっても異なっていてもよいが、式(B)の基R、R、R、およびRにおいて述べた一般的な意味合いおよび好ましい意味合い(水素を除く)を有し、そして
nが、0、1、2または3である]
【0140】
一般式(B2)の触媒は基本的には、たとえば、国際公開第2004/035596号パンフレット(グレラ(Grela))からも公知であり、そこに記載された調製法により得ることができる。
【0141】
以下のような一般式(B2)の触媒を使用するのが特に好ましい:
Mが、ルテニウムであり、
およびXが、共にハロゲン、特に共に塩素であり、
が、直鎖状または分岐状のC〜C12−アルキル基であり、
12が、一般式(B2)において述べた一般的な意味合いを有し、
nが、0、1、2または3であり、
が、水素であり、そして
Lが、一般式(B)において述べた一般的な意味合いを有している。
【0142】
以下のような一般式(B2)の触媒を使用するのが極めて特に好ましい:
Mが、ルテニウムであり、
およびXが、共に塩素であり、
が、イソプロピル基であり、
nが、0であり、そして
Lが、式(IIa)または(IIb)の置換または非置換イミダゾリジン基であるが、ここで、R、R、R10、R11は同一であっても異なっていてもよく、一般式(B1)の触媒におけるLの一般的意味合いおよび好ましい意味合いを有していてよい。
【0143】
さらに特に有用な触媒は、一般式(B2)に属し、構造(XVI)を有するものである。
【0144】
【化18】

【0145】
触媒(XVI)は、文献においては「グレラ触媒」とも呼ばれている。
【0146】
本発明の方法に好適であって、一般式(B2)に属するさらなる触媒は、構造(XVII)を有するが、ここでMesは、それぞれの場合において、2,4,6−トリメチルフェニルである。
【0147】
【化19】

【0148】
本発明の方法のさらに別な実施態様においては、樹枝状の構造を有する一般式(B3)の触媒を使用することも可能である。
【0149】
【化20】

[式中、D、D、D、およびDはそれぞれ、下記の一般式(XVIII)の構造を有しているが、これが、メチレン基を介して式(B3)のケイ素に対して直角に結合されている。
【0150】
【化21】

(式中、
M、L、X、X、R、R、R、R、およびRは、一般式(B)において述べた一般的意味合いおよび好ましい意味合いと同じ意味合いを有することができる)]
【0151】
そのような一般式(B3)の触媒は米国特許出願公開第2002/0107138A1号明細書からも公知であり、それの記載に従って調製することができる。
【0152】
本発明の方法のさらに別な実施態様においては、式(B4)の触媒を使用することも可能である。
【0153】
【化22】

[式中、記号の
【0154】
【化23】

は担体を表している]
【0155】
担体は、好ましくはポリ(スチレン−ジビニルベンゼン)コポリマー(PS−DVB)である。
【0156】
これら式(B4)の触媒は基本的には、Chem.Eur.J.、2004、10、777〜784から公知であり、そこに記載されている調製法により得ることができる。
【0157】
上述の基本的にタイプ(B)の触媒はすべて、NBRメタセシスの反応混合物中でそのまま使用することもでき、あるいは固体担体の上に適用して固定させることもできる。適切な固体相または担体は、第一にはメタセシスの反応混合物に対して不活性であり、第二には触媒の活性に悪影響を及ぼすことがない物質である。触媒を固定するためには、たとえば、金属、ガラス、ポリマー、セラミック、有機ポリマー球状体または無機ゾル−ゲル、さらにはカーボンブラック、ケイ酸塩、炭酸カルシウム、および硫酸バリウムを使用することができる。
【0158】
本発明の方法のさらなる実施態様においては、一般式(C)の触媒を使用することも可能である。
【0159】
【化24】

[式中、
Mが、ルテニウムまたはオスミウムであり、
およびXは同一であっても異なっていてもよいが、アニオン性配位子であり、
基R’は同一であっても異なっていてもよいが、有機基であり、
Imが、置換または非置換のイミダゾリジン基であり、そして
Anが、アニオンである]
【0160】
一般式(C)の触媒は基本的には公知である(たとえば、Angew.Chem.Int.Ed.、2004,43、6161〜6165参照)。
【0161】
一般式(C)におけるXおよびXは、式(A)および(B)の場合と同じ一般的意味合い、好ましい意味合い、および特に好ましい意味合いと同じ意味合いを有していてよい。
【0162】
イミダゾリジン基(Im)は通常、式(A)および(B)の触媒について上述した、一般式(IIa)または(IIb)の構造を有していて、そこで記載されたすべての構造が好ましいが、特に式(IIIa)〜(IIIf)のものが好ましい。
【0163】
一般式(C)における基R’は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、直鎖状または分岐状のC〜C30−アルキル、C−C30−シクロアルキル、またはアリール基であるが、ここで、そのC〜C30−アルキル基は、1個もしくは複数の二重結合もしくは三重結合または1個または複数のヘテロ原子、好ましくは酸素もしくは窒素によって中断されていてもよい。
【0164】
アリールは、6〜24個の骨格炭素原子を有する芳香族基である。6〜10個の骨格炭素原子を有する好適な単環式、2環式または3環式炭素環芳香族基としては、たとえば、フェニル、ビフェニル、ナフチル、フェナントレニル、またはアントラセニルをあげることができる。
【0165】
一般式(C)における基R’が同一であって、それぞれフェニル、シクロヘキシル、シクロペンチル、イソプロピル、o−トリル、o−キシリル、またはメシチルであるのが好ましい。
【0166】
本発明の方法において使用するのに好適なさらなる触媒は、一般式(D)の触媒である。
【0167】
【化25】

[式中、
Mが、ルテニウムまたはオスミウムであり、
13およびR14がそれぞれ、互いに独立して、水素、C〜C20−アルキル、C〜C20−アルケニル、C〜C20−アルキニル、C〜C24−アリール、C〜C20−カルボキシレート、C〜C20−アルコキシ、C〜C20−アルケニルオキシ、C〜C20−アルキニルオキシ、C〜C24−アリールオキシ、C〜C20−アルコキシカルボニル、C〜C20−アルキルチオ、C〜C20−アルキルスルホニル、またはC〜C20−アルキルスルフィニルであり、
が、アニオン性配位子であり、
が、単環式であっても多環式であってもよい、電荷を有さないp−結合された配位子であり、
が、ホスフィン、スルホネート化ホスフィン、フッ素化ホスフィン、3個までのアミノアルキル、アンモニオアルキル、アルコキシアルキル、アルコキシカルボニルアルキル、ヒドロカルボニルアルキル、ヒドロキシアルキルもしくはケトアルキル基を有する官能化ホスフィン、ホスファイト、ホスフィナイト、ホスホナイト、ホスフィンアミン、アルシン、スチビン、エーテル、アミン、アミド、イミン、スルホキシド、チオエーテル、およびピリジンからなる群から選択される配位子であり、
が、非配位アニオンであり、そして
nが、0、1、2、3、4または5である]
【0168】
本発明の方法のさらなる実施態様においては、一般式(E)の触媒を使用することも可能である。
【0169】
【化26】

[式中、
が、モリブデンまたはタングステンであり、
15およびR16は同一であっても異なっていてもよいが、それぞれ、水素、C〜C20−アルキル、C〜C20−アルケニル、C〜C20−アルキニル、C〜C24−アリール、C〜C20−カルボキシレート、C〜C20−アルコキシ、C〜C20−アルケニルオキシ、C〜C20−アルキニルオキシ、C〜C24−アリールオキシ、C〜C20−アルコキシカルボニル、C〜C20−アルキルチオ、C〜C20−アルキルスルホニル、またはC〜C20−アルキルスルフィニルであり、
17およびR18は同一であっても異なっていてもよいが、それぞれ、置換もしくはハロゲン−置換のC〜C20−アルキル、C〜C24−アリール、C〜C30−アラルキル基、またはそれらのシリコーン含有類似体である]
【0170】
本発明の方法のさらに別な実施態様には、一般式(F)の触媒の使用が含まれる。
【0171】
【化27】

[式中、
Mが、ルテニウムまたはオスミウムであり、
およびXは同一であっても異なっていてもよいが、一般式(A)および(B)におけるXおよびXの意味合いのすべてを有していてよいアニオン性配位子であり、
記号Lは、同一であっても異なっていてもよい配位子であって、一般式(A)および(B)におけるLの一般的な意味合いおよび好ましい意味合いのすべてを有していてよく、
19およびR20は同一であっても異なっていてもよいが、それぞれ水素または置換もしくは非置換のアルキルである]
【0172】
本発明の方法のさらに別な実施態様には、一般式(G)、(H)、(K)の触媒の使用が含まれる。
【0173】
【化28】

[式中、
Mが、オスミウムまたはルテニウムであり、
およびXは同一であっても異なっていてもよいが、2個の配位子、好ましくはアニオン性配位子であり、
Lが、配位子、好ましくは電荷を持たない電子供与体であり、
およびZは同一であっても異なっていてもよいが、電荷を持たない電子供与体であり、
21およびR22が、それぞれ、互いに独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、カルボキシレート、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、またはアルキルスルフィニルであるが、それらは、それぞれの場合において、場合によっては、アルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、もしくはヘテロアリールから選択される1種または複数の基によって置換されていてもよい]
【0174】
一般式(G)、(H)および(K)の触媒は基本的には、たとえば、国際公開第2003/011455A1号パンフレット、国際公開第2003/087167A2号パンフレット、Organometallics、2001、20、5314、およびAngew.Chem.Int.Ed.、2002、41、4038、からも公知である。それらの触媒は市場で入手することも可能であり、あるいは、上述の参考文献に記載の調製方法によって合成することもできる。
【0175】
およびZ
本発明において使用可能な触媒系においては、ZおよびZが同一であっても異なっていてもよく、電荷を持たない電子供与体である、一般式(G)、(H)および(K)の触媒が使用される。それらの配位子は通常、弱く配位結合されている。
【0176】
それらの配位子は通常、場合によっては置換された複素環式基である。それらは、1〜4個、好ましくは1〜3個、特に好ましくは1個もしくは2個のヘテロ原子を有する5員もしくは6員の単環式基であるか、または、このタイプの2員、3員、4員もしくは5員、6員の単環式基から構成された2環式もしくは多環式構造であってよいが、ここで上述の基はすべて、それぞれの場合において、場合によっては、1種または複数のアルキル、好ましくはC〜C10−アルキル、シクロアルキル、好ましくはC〜C−シクロアルキル、アルコキシ、好ましくはC〜C10−アルコキシ、ハロゲン、好ましくは塩素もしくは臭素、アリール、好ましくはC〜C24−アリール、またはヘテロアリール、好ましくはC−C23−ヘテロアリール基によって置換されていてもよいが、それらはさらに、それぞれ、1種または複数の基、好ましくはハロゲン、特に塩素もしくは臭素、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ、およびフェニルからなる群から選択される基によって置換されていてもよい。
【0177】
およびZの例には、窒素含有複素環、たとえば、ピリジン、ピリダジン、ビピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピラゾリジン、ピロリジン、ピペラジン、インダゾール、キノリン、プリン、アクリジン、ビスイミダゾール、ピコリルイミン、イミダゾリジン、およびピロールが包含される。
【0178】
およびZが互いに架橋されて、環式構造を形成していてもよい。この場合、ZおよびZは単一の二座配位の配位子を形成する。
【0179】

一般式(G)、(H)および(K)の触媒において、Lは、一般式(B)におけるLと同じ意味合いを有することができる。
【0180】
21およびR22
一般式(G)、(H)および(K)の触媒において、R21およびR22は同一であっても異なっていてもよいが、それぞれ、アルキル、好ましくはC〜C30−アルキル、特に好ましくはC〜C20−アルキル、シクロアルキル、好ましくはC〜C20−シクロアルキル、特に好ましくはC〜C−シクロアルキル、アルケニル、好ましくはC〜C20−アルケニル、特に好ましくはC〜C16−アルケニル、アルキニル、好ましくはC〜C20−アルキニル、特に好ましくはC〜C16−アルキニル、アリール、好ましくはC〜C24−アリール、カルボキシレート、好ましくはC〜C20−カルボキシレート、アルコキシ、好ましくはC〜C20−アルコキシ、アルケニルオキシ、好ましくはC〜C20−アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、好ましくはC〜C20−アルキニルオキシ、アリールオキシ、好ましくはC〜C24−アリールオキシ、アルコキシカルボニル、好ましくはC〜C20−アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、好ましくはC〜C30−アルキルアミノ、アルキルチオ、好ましくはC〜C30−アルキルチオ、アリールチオ、好ましくはC〜C24−アリールチオ、アルキルスルホニル、好ましくはC〜C20−アルキルスルホニル、またはアルキルスルフィニル、好ましくはC〜C20−アルキルスルフィニルであるが、ここで上述の置換基は、1種または複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールまたはヘテロアリール基によって置換されていてもよい。
【0181】
およびX
一般式(G)、(H)および(K)の触媒において、XおよびXは同一であっても異なっていてもよく、先に一般式(A)においてXおよびXとして示したものの一般的意味合い、好ましい意味合い、および特に好ましい意味合いと同じ意味合いを有することができる。
【0182】
下記の一般式(G)、(H)および(K)の触媒を使用するのが好ましい:
Mが、ルテニウムであり、
およびXが、共にハロゲン、特に塩素であり、
およびRは同一であっても異なっていてもよく、1〜4個、好ましくは1〜3個、特に好ましくは1個もしくは2個のヘテロ原子を有する5員もしくは6員の単環式基であるか、または、このタイプの2員、3員、4員もしくは5員、6員の単環式基から構成された2環式もしくは多環式構造であってよいが、ここで、上述の基のすべてが、それぞれの場合において、1種または複数のアルキル、好ましくはC〜C10−アルキル、シクロアルキル、好ましくはC〜C−シクロアルキル、アルコキシ、好ましくはC〜C10−アルコキシ、ハロゲン、好ましくは塩素もしくは臭素、アリール、好ましくはC〜C24−アリール、またはヘテロアリール、好ましくはC−C23−ヘテロアリール基によって置換されていてもよく、
21およびR22は同一であっても異なっていてもよく、それぞれC〜C30−アルキル、C〜C20−シクロアルキル、C〜C20−アルケニル、C〜C20−アルキニル、C〜C24−アリール、C〜C20−カルボキシレート、C〜C20−アルコキシ、C〜C20−アルケニルオキシ、C〜C20−アルキニルオキシ、C〜C24−アリールオキシ、C〜C20−アルコキシカルボニル、C〜C30−アルキルアミノ、C〜C30−アルキルチオ、C〜C24−アリールチオ、C〜C20−アルキルスルホニル、C〜C20−アルキルスルフィニルであり、そして
Lは、上述の一般式(IIa)または(IIb)、特に式(IIIa)〜(IIIf)の1つの構造を有している。
【0183】
一般式(G)に属する特に好ましい触媒は構造(XIX)を有している。
【0184】
【化29】

[式中、
23およびR24は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、ハロゲン、直鎖状または分岐状のC〜C20−アルキル、C〜C20−ヘテロアルキル、C〜C10−ハロアルキル、C〜C10−アルコキシ、C〜C24−アリール、好ましくはフェニル、ホルミル、ニトロ、窒素複素環、好ましくはピリジン、ピペリジンもしくはピラジン、カルボキシ、アルキルカルボニル、ハロカルボニル、カルバモイル、チオカルバモイル、カルバミド、チオホルミル、アミノ、ジアルキルアミノ、トリアルキルシリル、またはトリアルコキシシリルである]
【0185】
上述の基の、C〜C20−アルキル、C〜C20−ヘテロアルキル、C〜C10−ハロアルキル、C〜C10−アルコキシ、C〜C24−アリール、好ましくはフェニル、ホルミル、ニトロ、窒素複素環、好ましくはピリジン、ピペリジンもしくはピラジン、カルボキシ、アルキルカルボニル、ハロカルボニル、カルバモイル、チオカルバモイル、カルバミド、チオホルミル、アミノ、トリアルキルシリル、およびトリアルコキシシリルは、それぞれ、1種または複数のハロゲン、好ましくはフッ素、塩素もしくは臭素、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシまたはフェニル基によってさらに置換されていてもよい。
【0186】
式(XIX)の触媒の特に好ましい実施態様は、構造(XIXa)または(XIXb)を有するが、ここでR23およびR24は、式(XIX)において示したものと同じ意味合いを有する。
【0187】
【化30】

【0188】
23およびR24がそれぞれ水素である場合には、その触媒は、文献において「グラブスIII触媒」とも呼ばれている。
【0189】
一般式(G)、(H)および(K)に属するさらに好適な触媒は、以下の構造式(XX)〜(XXXI)を有するが、ここでMesは、それぞれの場合において、2,4,6−トリメチルフェニルである。
【0190】
【化31A】

【化31B】

【化31C】

【0191】
本発明の方法において使用する場合、一般式(I)の化合物を、溶媒もしくは分散媒体中、または溶媒もしくは分散媒体なしで、メタセシス触媒またはメタセシス触媒の溶液に添加することができ、次いでその混合物を、分解させる対象のニトリルゴムと接触させることができる。別な方法としては、一般式(I)の化合物を、分解させる対象のニトリルゴムの溶液に直接添加し、それにメタセシス触媒をさらに添加することも可能である。
【0192】
一般式(I)の化合物を触媒またはその溶液に添加するのに役立たせるための溶媒または分散媒体としては、各種公知の溶液を使用することが可能である。一般式(I)の化合物の効力を発揮させるためには、一般式(I)の化合物が、その溶媒に対して実質的な溶解性を必ず有していなければならないという訳ではない。好適な溶媒/分散媒体としては、アセトン、ベンゼン、クロロベンゼン、クロロホルム、シクロヘキサン、ジクロロメタン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、およびトルエンなどが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。その溶媒/分散媒体がメタセシス触媒に対して不活性であるのが好ましい。
【0193】
本発明の方法においては、メタセシス触媒と一般式(I)の化合物は、メタセシス触媒の一般式(I)の化合物に対するモル比が、1:1000から1:1まで、好ましくは1:100から1:1まで、特に好ましくは1:25から1:1までの範囲で使用される。
【0194】
分解させる対象のニトリルゴムの量に対して一般式(I)の化合物が使用される量は、0.0005phr〜5phr、好ましくは0.005phr〜2.5phrの範囲である(phr=100重量部のゴムあたりの重量部)。
【0195】
使用されるニトリルゴムを基準にしたメタセシス触媒の量は、その特定の触媒の性質と触媒活性に依存する。使用される触媒の量は通常、使用されるニトリルゴムを基準にして貴金属が、1〜1000ppm、好ましくは2〜500ppm、特には5〜250ppmである。
【0196】
NBRのメタセシスは、共オレフィンの非存在下または存在下に実施することができる。これは好ましくは、直鎖状または分岐状のC〜C16−オレフィンである。好適なオレフィンは、たとえば、エチレン、プロピレン、イソブテン、スチレン、1−ヘキセン、および1−オクテンである。1−ヘキセンまたは1−オクテンを使用するのが好ましい。共オレフィンが液状である場合(たとえば1−ヘキセンの場合)、共オレフィンの量が、使用されるNBRを基準にして0.2〜20重量%の範囲であるのが好ましい。共オレフィンがガス状である場合、たとえばエチレンの場合には、共オレフィンの量を選択して、室温で反応容器の中で、1×10Pa〜1×10Paの範囲の圧力、好ましくは5.2×10Pa〜4×10Paの範囲の圧力が得られるようにするのが好ましい。
【0197】
メタセシス反応は、使用される触媒を失活させることなく、さらには何か別なことでその反応に悪影響を与えることがない、適切な溶媒の中で実施することができる。好適な溶媒としては、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、およびシクロヘキサンなどが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。特に好適な溶媒はクロロベンゼンである。場合によっては、共オレフィンそのものが溶媒として機能することができる、たとえば1−ヘキセンの場合には、さらなる追加の溶媒を加えずにすますこともできる。
【0198】
メタセシスの反応混合物中で使用されるニトリルゴムの濃度には厳しい制約はないが、ただし当然のことながら、反応混合物の粘度が過度に高く、それに伴って混合の問題が起きて反応に悪影響が出るようなことがあってはならないということには注意されたい。反応混合物中のNBRの濃度は、全反応混合物を基準にして、好ましくは1〜25重量%の範囲、特に好ましくは5〜20重量%の範囲である。
【0199】
メタセシス分解は、通常10℃〜150℃の範囲の温度、好ましくは20〜100℃の範囲の温度で実施する。
【0200】
その反応時間はいくつかの因子に依存するが、そのような因子としてはたとえば、NBRのタイプ、触媒のタイプ、採用される触媒濃度、反応温度などが挙げられる。通常の条件下では、その反応は典型的には5時間以内に完了する。メタセシス反応の進行状況は、標準的な分析方法、たとえばGPC測定や粘度測定によってモニターすることができる。
【0201】
ニトリルゴム(「NBR」)としては、少なくとも1種の共役ジエン、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、および適切であるならばメタセシス反応における1種または複数のさらなる共重合性モノマーの繰り返し単位を有するコポリマーまたはターポリマーを使用することができる。
【0202】
共役ジエンは各種のタイプのものであってよい。(C〜C)−共役ジエンを使用するのが好ましい。1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、ピペリレン、またはそれらの混合物が特に好ましい。特には、1,3−ブタジエンもしくはイソプレンまたはそれらの混合物を使用するのが好ましい。1,3−ブタジエンが極めて特に好ましい。
【0203】
α,β−不飽和ニトリルとしては、各種公知のα,β−不飽和ニトリルを使用することができるが、(C〜C)−α,β−不飽和ニトリル、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルまたはそれらの混合物が好ましい。特に好ましいのは、アクリロニトリルである。
【0204】
したがって、特に好ましいニトリルゴムは、アクリロニトリルと1,3−ブタジエンとのコポリマーである。
【0205】
共役ジエンおよびα,β−不飽和ニトリルに加えて、当業者に公知の1種または複数のさらなる共重合性モノマー、たとえば、α,β−不飽和モノカルボン酸またはジカルボン酸、それらのエステルまたはアミドを使用することもできる。α,β−不飽和モノカルボン酸またはジカルボン酸としては、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸、およびメタクリル酸が好ましい。α,β−不飽和カルボン酸のエステルとしては、それらのアルキルエステルおよびアルコキシアルキルエステルが好ましい。特に好ましいα,β−不飽和カルボン酸のアルキルエステルは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、およびアクリル酸オクチルである。特に好ましいα,β−不飽和カルボン酸のアルコキシアルキルエステルは、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、および(メタ)アクリル酸メトキシエチルである。アルキルエステルたとえば上に挙げたものと、アルコキシアルキルエステルたとえば上に挙げた形態のものとの混合物を使用することも可能である。
【0206】
使用されるNBRポリマーの中での共役ジエンとα,β−不飽和ニトリルとの比率は、広い範囲で変化させることができる。共役ジエン、または共役ジエンを合計したものの比率は、全ポリマーを基準にして、通常は40〜90重量%の範囲、好ましくは60〜85重量%の範囲である。α,β−不飽和ニトリル、またはα,β−不飽和ニトリルを合計したものの比率は、全ポリマーを基準にして、通常は10〜60重量%、好ましくは15〜40重量%である。モノマーの比率は、それぞれの場合において、合計して100重量%とする。追加のモノマーは、全ポリマーを基準にして、0〜40重量%、好ましくは0.1〜40重量%、特に好ましくは1〜30重量%の量で存在させることができる。この場合、共役ジエンもしくはジエンおよび/またはα,β−不飽和ニトリルもしくはニトリルの相当する比率を、追加のモノマーの比率で置き換えるが、それぞれの場合において、全部のモノマーの比率を合計して100重量%とする。
【0207】
上述のモノマーを重合させてニトリルゴムを調製することは、当業者には周知のことであって、ポリマー文献に包括的に記載されている。
【0208】
本発明の目的のために使用することが可能なニトリルゴムは、たとえばランクセス・ドイチュラント・GmbH(Lanxess Deutschland GmbH)のペルブナン(Perbunan)(登録商標)およびクリナック(Krynac)(登録商標)製品グレードからの製品として、市場で入手することも可能である。
【0209】
メタセシスのために使用されるニトリルゴムは、30〜70、好ましくは30〜50の範囲のムーニー粘度(ML1+4、100℃)を有している。これは、150 000〜500 000の範囲、好ましくは180 000〜400 000の範囲の重量平均分子量Mに相当する。さらに、使用されるニトリルゴムは、2.0〜6.0の範囲、好ましくは2.0〜4.0の範囲の、多分散性PDI=M/M(ここでMは重量平均分子量、Mは数平均分子量である)を有している。
【0210】
ムーニー粘度の測定は、ASTM標準D1646に従って実施する。
【0211】
本発明のメタセシス法により得られるニトリルゴムは、5〜30、好ましくは5〜20の範囲のムーニー粘度(ML1+4、100℃)を有している。これは、10 000〜100 000の範囲、好ましくは10 000〜80 000の範囲の重量平均分子量Mに相当する。さらに、得られたニトリルゴムは、1.4〜4.0の範囲、好ましくは1.5〜3の範囲の多分散性PDI=M/M(ここでMは数平均分子量である)を有している。
【0212】
本発明による触媒系の存在下におけるメタセシス分解の後に、そうして得られた分解されたニトリルゴムを水素化させることができる。これは、当業者公知の方法で実施することができる。
【0213】
水素化は、均一系または不均一系の水素化触媒を使用して実施することができる。水素化をインサイチュで、すなわちその前にメタセシス分解を実施したのと同一の反応容器中で、分解されたニトリルゴムを単離することを必要とせずに、実施することも可能である。水素化触媒を、反応容器の中に単純に導入する。
【0214】
使用される触媒は通常は、ロジウム、ルテニウムまたはチタンをベースとするものであるが、白金、イリジウム、パラジウム、レニウム、ルテニウム、オスミウム、コバルト、または銅を金属としてか、または好ましくは金属化合物の形態として使用することも可能である(たとえば、米国特許第3,700,637号明細書、DE−A−25 39 132、EP−A−0 134 023、DE−OS−35 41 689、DE−A−35 40 918、EP−A−0 298 386、DE−A−35 29 252、DE−A−34 33 392、米国特許第4,464,515号明細書、および米国特許第4,503,196号明細書を参照されたい)。
【0215】
均一相における水素化のために好適な触媒および溶媒は、以下において記載され、DE−A−25 39 132およびEP−A−0 471 250からも公知である。
【0216】
たとえば選択的水素化は、ロジウムまたはルテニウム含有触媒の存在下で実施することができる。たとえば、次の一般式の触媒を使用することも可能である。
(RB)MX
[式中、Mがルテニウムまたはロジウムであり、基Rは同一であっても異なっていてもよいが、それぞれC〜C−アルキル基、C〜C−シクロアルキル基、C〜C15−アリール基またはC−C15−アラルキル基であり、Bが、リン、ヒ素、硫黄またはスルホキシド基S=Oであり、Xが、水素もしくはアニオン、好ましくはハロゲン、特に好ましくは塩素もしくは臭素であり、lが2、3または4であり、mが2または3であり、そしてnが1、2または3、好ましくは1または3である]好適な触媒は、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(III)クロリド、およびトリス(ジメチルスルホキシド)ロジウム(III)クロリド、さらには式(CP)RhHのテトラキス(トリフェニルホスフィン)ロジウム水素化物および、そのトリフェニルホスフィンの全部または一部をトリシクロヘキシルホスフィンで置換したそれに対応する化合物である。触媒の使用量は少量でよい。その量を、ポリマーの重量を基準にして、0.01〜1重量%の範囲、好ましくは0.03〜0.5重量%の範囲、特に好ましくは0.1〜0.3重量%の範囲とするのが好適である。
【0217】
通常は、その触媒を助触媒と共に使用するのが有用であるが、その助触媒は、式RBの配位子であり、ここでR、mおよびBは上で触媒について定義されたものである。mが3であり、Bがリンであるものが好ましく、基Rは同一であっても異なっていてもよい。その助触媒が、トリアルキル、トリシクロアルキル、トリアリール、トリアラルキル、ジアリールモノアルキル、ジアリールモノシクロアルキル、ジアルキルモノアリール、ジアルキルモノシクロアルキル、ジシクロアルキルモノアリール、またはジシクロアルキルモノアリール基を有しているのが好ましい。
【0218】
助触媒の例は、たとえば米国特許第4,631,315号明細書に見出すことができる。好適な助触媒はトリフェニルホスフィンである。助触媒は、水素化されるニトリルゴムの重量を基準にして、0.3〜5重量%の範囲、好ましくは0.5〜4重量%の範囲の量で使用するのが好ましい。さらに、ロジウム含有触媒の助触媒に対する重量比は、好ましくは1:3〜1:55の範囲、特に好ましくは1:5〜1:45の範囲である。水素化されるニトリルゴムの100重量部を基準にして、0.1〜33重量部の助触媒、好ましくは0.5〜20重量部、特に好ましくは1〜5重量部、特には2重量部を超えるが5重量部未満の助触媒を使用するのが適切である。
【0219】
この水素化を実施する実用的な手順は、米国特許第6,683,136号明細書からも当業者には周知のことである。水素化されるニトリルゴムを通常は、溶媒たとえばトルエンまたはモノクロロベンゼンの中で、水素を用いて、100〜150℃の範囲の温度と50〜150バール圧力で2〜10時間かけて処理する。
【0220】
本発明の目的においては、水素化で、出発ニトリルゴムの中に存在する二重結合の、少なくとも50%、好ましくは70〜100%、特に好ましくは80〜100%を反応させる。
【0221】
不均一系触媒を使用する場合には、通常それらは、たとえば、カーボン、シリカ、炭酸カルシウムまたは硫酸バリウムの上に支持されたパラジウムをベースとする担持触媒である。
【0222】
水素化が完了すると、ASTM標準D1646に従って測定して、10〜50、好ましくは10〜30の範囲のムーニー粘度(ML1+4、100℃)を有する水素化ニトリルゴムが得られる。これは、2000〜400 000g/モルの範囲、好ましくは20 000〜200 000g/モルの範囲の重量平均分子量Mに相当する。さらに、そのようにして得られた水素化ニトリルゴムは、1〜5の範囲、好ましくは1.5〜3の範囲の多分散性PDI=M/M(ここでMは重量平均分子量、Mは数平均分子量である)を有している。
【実施例】
【0223】
以下の一連の実験では、以下の触媒を使用した:
【0224】
【表1】

【0225】
以下の触媒添加剤を用いて実験を実施したが、それらはすべてアクロス・オーガニックス(Acros Organics)から入手した:
【0226】
【表2】

【0227】
使用したニトリルゴム:
以下の一連の実験において記載される分解反応は、ランクセス・ドイチュラント・GmbH(Lanxess Deutschland GmbH)製のニトリルゴムのペルブナン(Perbunan)(登録商標)NT3435を使用して実施した。このニトリルゴムは、以下の特性値を有していた:
アクリロニトリル含量:34.6重量%
ムーニー粘度(ML1+4、100℃):33ムーニー単位
残存水分含量:0.9重量%
:204 000g/モル
:89 000g/モル
PDI(M/M):2.3
【0228】
メタセシスを実施するための手順:
メタセシスを実施するために、12時間かけてニトリルゴムをクロロベンゼンの中に溶解させた(12重量%;ニトリルゴムとクロロベンゼンの正確な量は、下記の一連の実験についての表の中に示している)。次いで、1−ヘキセン、それぞれのルイス酸、および触媒をこの順で添加した。反応温度は20℃であった。エチルビニルエーテルによって、少なくとも30分間かけて、メタセシス反応を停止させた。
【0229】
GPCサンプルの調製:
GPCによる分子量測定を実施するために、メタセシスの後で得られたニトリルゴムのサンプルの100mgを、3.5mLのN,N’−ジメチルアセトアミド(LiBr、0.075Mを用いて安定化させたもの)の中に溶解させた。次いで、シリンジフィルター(孔径:0.2μm)によりその溶液を濾過した。
【0230】
GPC測定:
ポンプ:ウォータース(Waters)Mod.510
RI検出器:ウォータース・モデル・410(Waters Model 410)示差屈折計
流量:1mL/分
溶出液:N,N’−ジメチルアセトアミド
温度:80℃
カラムセット:2×レジポア(Resipore)300×7.5mm、孔径:3μm
較正標準:PS(ポリマー・スタンダード・サービス(Polymer Standard Service));モル質量、960〜6×10g/モル
【0231】
【表3】

【0232】
シリーズ1:グラブスII触媒
【0233】
【表4】

【0234】
【表5】

【0235】
【表6】

【0236】
【表7】

【0237】
【表8】

【0238】
【表9】

【0239】
【表10】

【0240】
【表11】

【0241】
【表12】

【0242】
【表13】

【0243】
【表14】

【0244】
【表15】

【0245】
【表16】

【0246】
【表17】

【0247】
シリーズ2:グラブス−ホベイダ触媒
【0248】
【表18】

【0249】
【表19】

【0250】
シリーズ3:グレラ触媒
【0251】
【表20】

【0252】
【表21】

【0253】
シリーズ4:ノラン触媒
【0254】
【表22】

【0255】
【表23】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリルゴムの分子量を低下させるための方法であって、
ニトリルゴムを、周期律表の遷移族6または8の金属をベースとする錯体触媒であって、前記金属にカルベン様の方式で結合された少なくとも1個の配位子を有するメタセシス触媒、およびさらに一般式(I):
M(OZ) (I)
[式中、
Mが、元素周期律表の遷移族4、5または6の遷移金属であり、
mが、4、5または6であり、そして
基Zは同一であっても異なっていてもよいが、それぞれ、1〜32個の炭素原子を有し、さらに1〜15個のヘテロ原子を有していてもよい、直鎖状、分岐状、脂肪族、環式、複素環式または芳香族基である]
の化合物と接触させる、方法。
【請求項2】
Mが、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、またはタングステンである一般式(I)の化合物を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Zが1〜32個の炭素原子を有し、そしてさらに、1〜15個のヘテロ原子、好ましくは窒素または酸素を有していることが可能であって、直鎖状または分岐状のC〜C30−アルキル、好ましくはC〜C20−アルキル、特に好ましくはC〜C12−アルキル、C〜C20−シクロアルキル、好ましくはC〜C10−シクロアルキル、特に好ましくはC〜C−シクロアルキル、C〜C20−アルケニル、好ましくはC〜C18−アルケニル、C〜C20−アルキニル、一般式(−CHZ−CHZ−A−)−CH−CHの基[式中、pは1〜10の整数であり、基Zは同一であっても異なっていてもよく、それぞれが水素またはメチルであるが、隣接した炭素原子の上に位置している基Zは好ましくは異なっており、そしてAは、酸素、硫黄もしくは−NH、C〜C24−アリール、好ましくはC〜C14−アリールまたは少なくとも1個のヘテロ原子、好ましくは窒素もしくは酸素を有するC〜C23−ヘテロアリール基である]である、一般式(I)の化合物を使用する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
Mが、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデンまたはタングステンであり、
mが、4、5または6であり、そして
Zが、メトキシド、エトキシド、n−プロポキシド、i−プロポキシド、n−ブトキシド、i−ブトキシド、tert−ブトキシド、n−ペントキシド、i−ペントキシド、tert−ペントキシド、ドデカノエート、オレエート、フェノキシド、または立体障害のあるフェノキシドである、
一般式(I)の化合物を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
テトラエトキシチタネート、テトライソプロピルオキシチタネート、テトラ−tert−ブチルオキシチタネート、テトラ−tert−ブチルオキシジルコネート、ペンタエトキシニオベート、またはペンタエトキシタンタレートを一般式(I)の化合物として使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
一般式(A):
【化1】

[式中、
Mが、オスミウムまたはルテニウムであり、
およびXは同一であっても異なっていてもよいが、2個の配位子、好ましくはアニオン性配位子であり、
記号Lが、同一であっても異なっていてもよい配位子、好ましくは電荷を持たない電子供与体であり、
基Rは同一であっても異なっていてもよいが、それぞれ、水素、アルキル、好ましくはC〜C30−アルキル、シクロアルキル、好ましくはC〜C20−シクロアルキル、アルケニル、好ましくはC〜C20−アルケニル、アルキニル、好ましくはC〜C20−アルキニル、アリール、好ましくはC〜C24−アリール、カルボキシレート、好ましくはC〜C20−カルボキシレート、アルコキシ、好ましくはC〜C20−アルコキシ、アルケニルオキシ、好ましくはC〜C20−アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、好ましくはC〜C20−アルキニルオキシ、アリールオキシ、好ましくはC〜C24−アリールオキシ、アルコキシカルボニル、好ましくはC〜C20−アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、好ましくはC〜C30−アルキルアミノ、アルキルチオ、好ましくはC〜C30−アルキルチオ、アリールチオ、好ましくはC〜C24−アリールチオ、アルキルスルホニル、好ましくはC〜C20−アルキルスルホニル、またはアルキルスルフィニル、好ましくはC〜C20−アルキルスルフィニルであるが、ここでそれらの基は、それぞれの場合において、1種または複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールもしくはヘテロアリール基によって置換されているか、あるいはそれに代えて、2個の基Rが、それらが結合している共通の炭素原子と共に架橋されて、基本的に脂肪族であっても芳香族であってもよく、置換されていてもよく、あるいは1個または複数のヘテロ原子を含んでいてよい環式基を形成していてもよい]
の化合物を触媒として使用する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
およびXは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素、ハロゲン、擬ハロゲン、直鎖状または分岐状のC〜C30−アルキル、C〜C24−アリール、C〜C20−アルコキシ、C〜C24−アリールオキシ、C〜C20−アルキルジケトネート、C〜C24−アリールジケトネート、C〜C20−カルボキシレート、C〜C20−アルキルスルホネート、C〜C24−アリールスルホネート、C〜C20−アルキルチオール、C〜C24−アリールチオール、C〜C20−アルキルスルホニル、またはC〜C20−アルキルスルフィニル基である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
およびXは同一であっても異なっていてもよく、それぞれが、ハロゲン特に、フッ素、塩素、臭素もしくはヨウ素、ベンゾエート、C〜C−カルボキシレート、C〜C−アルキル、フェノキシ、C〜C−アルコキシ、C〜C−アルキルチオール、C〜C24−アリールチオール、C〜C24−アリールまたはC〜C−アルキルスルホネートである、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
およびXは同一であって、それぞれが、ハロゲン、特に塩素、CFCOO、CHCOO、CFHCOO、(CHCO、(CF(CH)CO、(CF)(CHCO、PhO(フェノキシ)、MeO(メトキシ)、EtO(エトキシ)、トシレート(p−CH−C−SO)、メシレート(2,4,6−トリメチルフェニル)、またはCFSO(トリフルオロメタンスルホネート)である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記2個の配位子Lが、それぞれ、互いに独立して、ホスフィン、スルホネート化ホスフィン、ホスフェート、ホスフィナイト、ホスホナイト、アルシン、スチビン、エーテル、アミン、アミド、スルホキシド、カルボキシル、ニトロシル、ピリジン、チオエーテルまたはイミダゾリジン(「Im」)配位子である、請求項6〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記イミダゾリジン基(Im)が、一般式(IIa)または(IIb):
【化2】

[式中、
、R、R10、R11は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素、直鎖状または分岐状のC〜C30−アルキル、C〜C20−シクロアルキル、C〜C20−アルケニル、C〜C20−アルキニル、C〜C24−アリール、C〜C20−カルボキシレート、C〜C20−アルコキシ、C〜C20−アルケニルオキシ、C〜C20−アルキニルオキシ、C〜C20−アリールオキシ、C〜C20−アルコキシカルボニル、C〜C20−アルキルチオ、C〜C20−アリールチオ、C〜C20−アルキルスルホニル、C〜C20−アルキルスルホネート、C〜C20−アリールスルホネート、またはC〜C20−アルキルスルフィニルであって、それらの基が、互いに独立して、1種または複数の置換基、好ましくは直鎖状または分岐状のC〜C10−アルキル、C〜C−シクロアルキル、C〜C10−アルコキシ、またはC〜C24−アリールによって置換されていてもよいが、それら上述の置換基がさらに、1種または複数の基、好ましくは、ハロゲン特に塩素もしくは臭素、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ、およびフェニルからなる群から選択される基により置換されていてもよい]
の構造を有している、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
一般式(A1):
【化3】

[式中、
、XおよびLが、請求項6〜11のいずれか一項に記載の一般式(A)としての一般的意味合い、好ましい意味合い、および特に好ましい意味合いと同じ意味合いを有していてよく、
nが、0、1または2であり、
mが、0、1、2、3または4であり、そして
基R’は同一であっても異なっていてもよいが、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニルまたはアルキルスルフィニル基であって、それらは、それぞれの場合において1種または複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールまたはヘテロアリール基によって置換されていてもよい]
の化合物を触媒として使用する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記触媒が、構造(IV)、(V)または(VI)を有し、ここでCyが、それぞれの場合において、シクロヘキシルであり、Mesが2,4,6−トリメチルフェニルであり、Phがフェニルである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【化4】

【請求項14】
一般式(B):
【化5】

[式中、
Mが、ルテニウムまたはオスミウムであり、
Yが、酸素(O)、硫黄(S)、N−R基またはP−R基であり、
およびXが、同一であっても異なっていてもよい配位子であり、
が、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、またはアルキルスルフィニル基であるが、それらは、それぞれの場合において、1種または複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールまたはヘテロアリール基によって、場合によっては置換されていてもよく、
、R、RおよびRは同一であっても異なっていてもよいが、それぞれ水素または有機もしくは無機基であり、
が、水素またはアルキル、アルケニル、アルキニルもしくはアリール基であり、そして
Lが、請求項6に記載の式(A)中の配位子Lと同じ意味合いを有する配位子である]
の触媒を使用する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
Lが、P(R基であって、前記基Rが、それぞれ、互いに独立して、C〜C−アルキル、C〜C−シクロアルキルもしくはアリールであるか、あるいは、置換または非置換のイミダゾリジン基(「Im」)であって、それが好ましくは請求項11に記載の一般式(IIa)および(IIb)の内の1つ、特に好ましくは以下の構造(IIIa)〜(IIIf)の内の1つ[ここでMesは、それぞれの場合において、2,4,6−トリメチルフェニルであるか、またはそれに代えて、それぞれの場合において、2,6−ジイソプロピルフェニル基である]の構造を有している、請求項14に記載の方法。
【化6】

【請求項16】
一般式(B)におけるXおよびXが、請求項8〜10のいずれか一項に記載のXおよびXの意味合いを有する、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
一般式(B1):
【化7】

[式中、
M、L、X、X、R、R、R、R、およびRが、請求項14〜16のいずれか一項に記載の一般式(B)において述べた一般的な意味合いを有する]
の触媒を使用する、請求項14〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
Mが、ルテニウムであり、
およびXが、共にハロゲン、特に塩素であり、
が、直鎖状または分岐状のC〜C12−アルキル基であり、
、R、R、Rが、請求項14の一般式(B)において述べた意味合いを有しており、そして
Lが、請求項14の一般式(B)において述べた意味合いを有している、
一般式(B1)の触媒を使用する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
Mが、ルテニウムであり、
およびXが、共に塩素であり、
が、イソプロピル基であり、
、R、R、Rが、すべて水素であり、そして
Lが、(IIa)または(IIb):
【化8】

[式中、
、R、R10、R11は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素、直鎖状または分岐状のC〜C30−アルキル、C〜C20−シクロアルキル、C〜C20−アルケニル、C〜C20−アルキニル、C〜C24−アリール、C〜C20−カルボキシレート、C〜C20−アルコキシ、C〜C20−アルケニルオキシ、C〜C20−アルキニルオキシ、C〜C24−アリールオキシ、C〜C20−アルコキシカルボニル、C〜C20−アルキルチオ、C〜C24−アリールチオ、C〜C20−アルキルスルホニル、C〜C20−アルキルスルホネート、C〜C24−アリールスルホネート、またはC〜C20−アルキルスルフィニルである]
の置換または非置換イミダゾリジン基である、一般式(B1)の触媒を使用する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
構造(VII)、(VIII)、(IX)、(X)、(XI)、(XII)、(XIII)、(XIV)または(XV)の触媒[ここでMesは、それぞれの場合において、2,4,6−トリメチルフェニルである]を、一般構造式(B1)の触媒として使用する、請求項17に記載の方法。
【化9】

【請求項21】
一般式(B2):
【化10】

[式中、
M、L、X、X、R、およびRが、請求項14の一般式(B)において述べた意味合いを有し、
基R12は同一であっても異なっていてもよいが、請求項14の一般式(B)の基R、R、R、およびRにおいて述べた意味合い(水素を除く)を有し、そして
nが、0、1、2または3である]
の触媒を使用する、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
構造(XVI)または(XVII)の触媒[ここでMesは、それぞれの場合において、2,4,6−トリメチルフェニルである]を使用する、請求項21に記載の方法。
【化11】

【請求項23】
一般式(B3):
【化12】

[式中、D、D、D、およびDはそれぞれ、下記の一般式(XVIII):
【化13】

(式中、
M、L、X、X、R、R、R、RおよびRが、請求項14の一般式(B)において述べた意味合いを有する)
の構造を有しているが、これが、示されるメチレン基を介して式(B3)のケイ素に対して直角に結合されている]
の触媒を使用する、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
一般式(B4):
【化14】

[式中、記号の
【化15】

は担体を表している]
の触媒を使用する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
一般式(C):
【化16】

[式中、
Mが、ルテニウムまたはオスミウムであり、
およびXは同一であっても異なっていてもよいが、アニオン性配位子であり、
R’は同一であっても異なっていてもよいが、有機基であり、
Imが、置換または非置換のイミダゾリジン基であり、そして
Anが、アニオンである]
の触媒を使用する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
一般式(D):
【化17】

[式中、
Mが、ルテニウムまたはオスミウムであり、
13およびR14がそれぞれ、互いに独立して、水素、C〜C20−アルキル、C〜C20−アルケニル、C〜C20−アルキニル、C〜C24−アリール、C〜C20−カルボキシレート、C〜C20−アルコキシ、C〜C20−アルケニルオキシ、C〜C20−アルキニルオキシ、C〜C24−アリールオキシ、C〜C20−アルコキシカルボニル、C〜C20−アルキルチオ、C〜C20−アルキルスルホニル、またはC〜C20−アルキルスルフィニルであり、
が、アニオン性配位子であり、
が、単環式であっても多環式であってもよい、電荷を有さないp−結合された配位子であり、
が、ホスフィン、スルホネート化ホスフィン、フッ素化ホスフィン、3個までのアミノアルキル、アンモニオアルキル、アルコキシアルキル、アルコキシカルボニルアルキル、ヒドロカルボニルアルキル、ヒドロキシアルキルもしくはケトアルキル基を有する官能化ホスフィン、ホスファイト、ホスフィナイト、ホスホナイト、ホスフィンアミン、アルシン、スチビン、エーテル、アミン、アミド、イミン、スルホキシド、チオエーテル、およびピリジンからなる群から選択される配位子であり、
が、非配位アニオンであり、そして
nが、0、1、2、3、4または5である]
の触媒を使用する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
一般式(E):
【化18】

[式中、
が、モリブデンまたはタングステンであり、
15およびR16は同一であっても異なっていてもよいが、それぞれ、水素、C〜C20−アルキル、C〜C20−アルケニル、C〜C20−アルキニル、C〜C24−アリール、C〜C20−カルボキシレート、C〜C20−アルコキシ、C〜C20−アルケニルオキシ、C〜C20−アルキニルオキシ、C〜C24−アリールオキシ、C〜C20−アルコキシカルボニル、C〜C20−アルキルチオ、C〜C20−アルキルスルホニル、またはC〜C20−アルキルスルフィニルであり、
17およびR18は同一であっても異なっていてもよいが、それぞれ、置換もしくはハロゲン−置換のC〜C20−アルキル、C〜C24−アリール、C〜C30−アラルキル基、またはそれらのシリコーン含有類似体である]
の触媒を使用する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
一般式(F):
【化19】

[式中、
Mが、ルテニウムまたはオスミウムであり、
およびXは同一であっても異なっていてもよいが、一般式(A)および(B)におけるXおよびXの意味合いのすべてを有していてよいアニオン性配位子であり、
記号Lは同一であっても異なっていてもよい配位子を表し、一般式(A)および(B)におけるLのすべての意味合いを有していてよく、
19およびR20は同一であっても異なっていてもよいが、それぞれ水素または置換もしくは非置換のアルキルである]
の触媒を使用する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
一般式(G)、(H)または(K):
【化20】

[式中、
Mが、オスミウムまたはルテニウムであり、
およびXは同一であっても異なっていてもよいが、2個の配位子、好ましくはアニオン性配位子であり、
Lが、配位子、好ましくは電荷を持たない電子供与体であり、
およびZは同一であっても異なっていてもよいが、電荷を持たない電子供与体であり、
21およびR22が、それぞれ、互いに独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、カルボキシレート、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、またはアルキルスルフィニルであるが、それらは、それぞれの場合において、場合によっては、アルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、もしくはヘテロアリールから選択される1種または複数の基によって置換されていてもよい]
の触媒を使用する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記メタセシス触媒および前記一般式(I)の化合物を、メタセシス触媒の一般式(I)の化合物に対するモル比が、1:1000から1:1まで、好ましくは1:100から1:1まで、特に好ましくは1:25から1:1までの範囲で使用する、請求項1〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記一般式(I)の化合物を、前記ニトリルゴムを基準にして、0.0005phr〜5phr、好ましくは0.005phr〜2.5phrの範囲の量(phr=ゴム100重量部あたりの重量部)で使用する、請求項1〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記触媒を、使用されるニトリルゴムを基準にして、1〜1000ppm、好ましくは2〜500ppm、特には5〜250ppmの貴金属が使用されるような量で使用する、請求項1〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
ニトリルゴムの分子量を低下させるための前記方法の後に、前記ニトリルゴムの水素化を行わせる、請求項1〜32のいずれか一項に記載の方法。

【公開番号】特開2009−57555(P2009−57555A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−212062(P2008−212062)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】