説明

ニトリルヒドラターゼ、およびアミドの製造方法

【課題】新規なニトリルヒドラターゼの提供。
【解決手段】ロドコッカスsp. Adp12、ゴルドニアsp. BR-1株由来の、α−ヒドロキシニトリルを基質としてα−ヒドロキシアミドを生成する新規なニトリルヒドラターゼ、およびそれをコードするDNA。また、この酵素をニトリル化合物に作用させる工程を含む、アミド化合物の製造方法。酵素活性を低下させることなく、生物化学的にニトリル化合物から対応するアミド化合物を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なニトリルヒドラターゼ、およびニトリルヒドラターゼを用いてニトリル化合物からアミド化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトリルヒドラターゼの発現量を向上させるためにニトリルヒドラターゼを遺伝子工学を用いて菌体内に大量に発現させ、該菌体を利用してニトリル化合物から対応するアミド化合物へ転換する方法が検討されている。例えば、以下のような微生物に由来するニトリルヒドラターゼが公知である。これらのニトリルヒドラターゼは、いずれも2つのヘテロなサブユニットからなる酵素である。
ロドコッカス(Rhodococcus)属(特許文献1/特公平3-54558号公報)
ロドコッカス(Rhodococcus)属(特許文献2/特開平2-119778号公報)
シュードモナス(Pseudomonas)属(特許文献3/特開平3-251184号公報)
ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)(特許文献4/欧州特許公開455646号公報)
【0003】
しかし、これら公報に記載のニトリルヒドラターゼはシアンイオン存在中や有機溶媒存在中という特殊な環境において十分な活性を保持することは困難であろうと思われる。
【0004】
一方、アクロモバクター・キセロシス(Achromobacter xerosis IFO 12668)中に極めて高いニトリル水和活性を有するニトリルヒドラターゼが見出され、該酵素をコードする遺伝子がクローニングされた。更にこの遺伝子を発現プラスミドを用いて大腸菌に形質転換し、得られた形質転換体によりニトリルヒドラターゼを大量に生産させている(特許文献5/特開平8−266277)が、上記と同様な問題があった。
【0005】
他方、微生物によるα−ヒドロキシアミドの製造に関しては、バチルス属、バクテリジウム属、マイクロコカス属またはブレビバクテリウム属の微生物によりラクトニトリル、ヒドロキシアセトニトリル、α-ヒドロキシメチルチオブチロニトリルなどから対応するアミドを製造する方法が知られている(特許文献6/特公昭62-21519号公報参照)。また、シアンヒドリンからマンデルアミドを製造する方法も公知である。(特許文献7/特開平4-222591号、特許文献8/特開平8-89267号公報参照)
【0006】
しかし、ニトリル化合物をアミド化合物に変換させる能力を有するニトリルヒドラターゼ活性を有する酵素は、原料であるニトリル化合物および生成物であるアミド化合物、によって酵素活性を容易に失うという問題点を有している。したがって、アミド化反応速度を上げる目的でニトリル化合物濃度を上昇させた場合、ニトリルヒドラターゼが短時間のうちに失活し、生成物であるアミド化合物を所定の時間で得ることが困難である。また、生成物であるアミド化合物によっても容易にニトリルヒドラターゼが活性を失うために、高濃度のアミド化合物を得ることが困難となっている。
【0007】
また、アミド化合物の酵素的な製造方法においては、しばしば原料や生成物を溶解させるために、反応液中に有機溶媒を混合する必要がある。一般に多くの酵素は、有機溶媒の影響を受け易い。すなわち、有機溶媒の存在下では、酵素活性を高い水準に維持できないことが多い。したがって、有機溶媒の存在下で酵素活性を維持しうるニトリルヒドラターゼが提供されれば有用である。
【0008】
更に、α−ヒドロキシニトリルは、極性溶媒中で化合物により程度の差は有るものの、対応するアルデヒドと青酸に部分的に解離することが知られている(非特許文献1/V. Okano et al., J. Am. Chem. Soc., Vol. 98, 4201 (1976)参照)。一般的にアルデヒドは、蛋白質と結合し酵素活性を失活させる性質が有る(非特許文献2/Chemical Modification of Proteins, G. E. Means et al., Holden-Day, 125(1971) 参照)。また青酸(シアン)も、アルデヒドと同様に、多くの酵素に対して阻害的に作用する。このため、原料であるα−ヒドロキシニトリルから生成したアルデヒドやシアンが、酵素活性低下の原因となっていた。その結果、α- ヒドロキシニトリルを酵素的に水和ないし加水分解する場合には、該酵素が短時間で失活するという問題が有り、高濃度のα−ヒドロキシアミドを高い生産性で得ることが困難であった。
【0009】
酵素活性の低下防止を目的として、酵素活性の向上や反応中の酵素活性の低下(失活)を抑制するための技術が検討されている。このような試みには、例えば以下のようなものがある。
反応を氷点から15℃の低温で行う(特許文献9/特公昭56-38118号)
複数の供給口から低濃度の基質を連続的に供給する(特許文献10/特公昭57-1234号)
微生物またはその処理物を有機溶媒で処理する(特許文献11/特開平5-308980号)
高級不飽和脂肪酸存在下で反応を行う(特許文献12/特開平7-265090号)
菌体をグルタルアルデヒド等で架橋処理する(特許文献13/特開平7-265091号、特許文献14/同8-154691号)
ニトリル化合物中の青酸濃度を化学的方法により低減させた後、ニトリル化合物にニトリルヒドラターゼを作用させる(特許文献15/特開平11-123098号公報参照)
亜硫酸イオン、酸性亜硫酸イオン、または亜ジチオン酸イオンを存在させることで酵素活性を長期に安定させる(特許文献16/特開平8-89267号公報参照)
アルデヒドを添加する(特許文献17/特開平4-222591号公報参照)
【0010】
これらの方法は、いずれも工業的な利用においては、十分な効果をあげることができなかった。あるいは、効果においては評価できるものの、経済性や実用性の点で改善の余地を残していた。たとえば、上記のアルデヒドを添加する方法は、原料であるシアンヒドリンに対して1〜5倍モルという大量のアルデヒドが必要で、経済的な解決方法とは言い難い。同様に亜硫酸イオン、酸性亜硫酸イオン、または亜ジチオン酸イオンを添加する方法も、原料と同等以上の添加量を必要としていることが例示されており、現実的な方法ではなかった。
【0011】
その他本発明者らは、シアン耐性を備える酵素として、ロドコッカス sp. Cr4(Rhodococcus sp. Cr4)由来のニトリルヒドラターゼを単離した(特許文献18/特開2002-325587)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公平3-54558号
【特許文献2】特開平2-119778号
【特許文献3】特開平3-251184号
【特許文献4】欧州特許公開455646号
【特許文献5】特開平8-266277
【特許文献6】特公昭62-21519号
【特許文献7】特開平4-222591号
【特許文献8】特開平8-89267号
【特許文献9】特公昭56-38118号
【特許文献10】特公昭57-1234号
【特許文献11】特開平5-308980号
【特許文献12】特開平7-265090号
【特許文献13】特開平7-265091号
【特許文献14】特開平8-154691号
【特許文献15】特開平11-123098号
【特許文献16】特開平8-89267号
【特許文献17】特開平4-222591号
【特許文献18】特開2002-325587号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】V. Okano et al., J. Am. Chem. Soc., Vol. 98, 4201 (1976)
【非特許文献2】Chemical Modification of Proteins, G. E. Means et al., Holden-Day, 125(1971
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、高いニトリル水和活性を持つニトリルヒドラターゼを提供することである。また本発明は、高い酵素活性を長時間維持することができる安定なニトリルヒドラターゼの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ロドコッカス属(Rhodococcus sp.)とゴルドニア属(Gordonia sp.)に属する微生物中に極めて高いニトリル水和活性を有するニトリルヒドラターゼを見出した。そしてこのニトリルヒドラターゼが、前記の課題を解決しうる新規な酵素であることを確認して本発明を完成した。
【0016】
そして該酵素をコードする遺伝子をDNA組換え技術によりクローニングし、得られた遺伝子を発現ベクターに組み込んで得られる発現プラスミドを用いて大腸菌の形質転換を作製した。更に、得られた形質転換体によりニトリルヒドラターゼを大量に生産させることに成功し、本発明を完成した。
【0017】
すなわち本発明は、以下のニトリルヒドラターゼ、この酵素をコードするポリヌクレオチド、その製造方法、並びに本発明の酵素によるアミドの製造方法を提供する。
〔1〕下記の理化学的性質を有するニトリルヒドラターゼ;
[1]分子量:
ゲルろ過法による分子量が約138,000、
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により、分子量27kDaおよび33kDaの2つのサブユニットに分離される、
[2]作用:
ニトリル化合物のニトリル基に作用し、ニトリル基を水和してアミド基にする、
[3]至適pH;
pH7.0〜9.0でニトリル基の水和作用が至適である、
[4]至適温度;
40〜45℃でニトリル基の水和作用が最大活性を示す、
[5]pH安定性;
pH4−9が安定領域である、および
[6]温度安定性;
50℃で15分間の熱処理をして65%以上の残存活性を示す。
〔2〕更に次の理化学的性質を有する〔1〕に記載のニトリルヒドラターゼ;
[7]シアン耐性:
シアン5mMで30分間処理し98%以上の残存活性を示す、または
シアン10mMで30分間処理し15%以上の残存活性を示す。
〔3〕ゴルドニア属に由来する〔1〕に記載のニトリルヒドラターゼ。
〔4〕受領番号FERM AP-20640として寄託されたゴルドニアsp. BR-1株に由来する〔1〕に記載のニトリルヒドラターゼ。
〔5〕受領番号FERM AP-20640として寄託されたゴルドニアsp. BR-1株を培養、培養物からニトリルヒドラターゼを回収する工程を含む、〔1〕に記載のニトリルヒドラターゼの製造方法。
〔6〕以下の(A)〜(E)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるαサブユニット、および(a)〜(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるβサブユニットからなり、以下の理化学的性質1)を有する蛋白質複合体;
1)作用
ニトリル化合物のニトリル基に作用し、ニトリル基を水和してアミド基にする;
αサブユニット;
(A)配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(B)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(C)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(D)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
(E)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
βサブユニット:
(a)配列番号:3に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号:4に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(d)配列番号:3に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
(e)配列番号:4に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
〔7〕αサブユニットが配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含む〔6〕に記載の蛋白質複合体。
〔8〕βサブユニットが配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含む〔6〕に記載の蛋白質複合体。
〔9〕〔6〕に記載の蛋白質複合体を構成するαサブユニットをコードするポリヌクレオチドであって、以下の(A)〜(E)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(A)配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(B)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(C)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(D)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
(E)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
〔10〕〔6〕に記載の蛋白質複合体を構成するβサブユニットをコードするポリヌクレオチドであって、以下の(a)〜(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(a)配列番号:3に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号:4に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(d)配列番号:3に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
(e)配列番号:4に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
〔11〕〔9〕、または〔10〕に記載のポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質。
〔12〕〔9〕および〔10〕に記載のポリヌクレオチドのいずれか、または両方が挿入された組換えベクター。
〔13〕〔9〕および〔10〕に記載のポリヌクレオチドのいずれか、または両方が挿入された組換えベクターによって形質転換された形質転換体。
〔14〕宿主が微生物である〔13〕に記載の形質転換体。
〔15〕〔14〕に記載の形質転換体を培養し、培養物からニトリルヒドラターゼ、またはニトリルヒドラターゼのサブユニット蛋白質を回収する工程を含む、ニトリルヒドラターゼ、またはニトリルヒドラターゼのサブユニット蛋白質の製造方法。
〔16〕〔1〕に記載のニトリルヒドラターゼ、当該ニトリルヒドラターゼを産生する微生物、〔6〕に記載の蛋白質複合体、〔13〕に記載の形質転換体、およびそれらの処理物からなる群から選択されるいずれかの酵素活性物質とニトリル化合物とを接触させ、生成するアミドを回収する工程を含む、アミドの製造方法。
〔17〕下記の理化学的性質を有するニトリルヒドラターゼ;
(1)分子量:
ゲルろ過法による分子量が約136,000、
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により、分子量26kDaおよび36kDaの2つのサブユニットに分離される、
(2)作用:
ニトリル化合物のニトリル基に作用し、ニトリル基を水和してアミド基にする、
(3)至適pH:
pH8.0〜9.0でニトリル基の水和作用が至適である、
(4)至適温度:
40〜45℃でニトリル基の水和作用が最大活性を示す、
(5)pH安定性:
pH4−9が安定領域である、および
(6)温度安定性:
50℃で15分間の熱処理をして65%以上の残存活性を示す。
〔18〕更に次の理化学的性質を有する〔17〕に記載のニトリルヒドラターゼ;
(7)有機溶媒耐性:
メタノール、エタノール、およびn-ヘキサンからなる群から選択されたいずれかの有機溶媒を20%含む水溶液で10分間処理して70%の残存活性を示す。
〔19〕ロドコッカス属に由来する〔17〕に記載のニトリルヒドラターゼ。
〔20〕受領番号FERM AP-20642として寄託されたロドコッカス sp. Adp12株に由来する〔17〕に記載のニトリルヒドラターゼ。
〔21〕受領番号FERM AP-20642として寄託されたロドコッカス sp. Adp12株を培養する工程を含む、〔17〕に記載のニトリルヒドラターゼの製造方法。
〔22〕以下の[A]〜[E]のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるαサブユニット、および[a]〜[e]のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるβサブユニットからなり、以下の理化学的性質1)を有する蛋白質複合体;
1)作用;
ニトリル化合物のニトリル基に作用し、ニトリル基を水和してアミド基にする、
αサブユニット:
[A]配列番号:5に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
[B]配列番号:6に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
[C]配列番号:6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
[D]配列番号:5に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
[E]配列番号:6に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
βサブユニット:
[a]配列番号:7に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
[b]配列番号:8に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
[c]配列番号:8に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
[d]配列番号:7に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
[e]配列番号:8に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
〔23〕αサブユニットが配列番号:6に記載のアミノ酸配列を含む〔22〕に記載の蛋白質複合体。
〔24〕βサブユニットが配列番号:8に記載のアミノ酸配列を含む〔22〕に記載の蛋白質複合体。
〔25〕〔22〕に記載の蛋白質複合体を構成するαサブユニットをコードするポリヌクレオチドであって、以下の(A)〜(E)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(A)配列番号:5に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(B)配列番号:6に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(C)配列番号:6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(D)配列番号:5に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
(E)配列番号:6に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
〔26〕〔22〕に記載の蛋白質複合体を構成するβサブユニットをコードするポリヌクレオチドであって、以下の(a)〜(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(a)配列番号:7に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号:8に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号:8に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(d)配列番号:7に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
(e)配列番号:8に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
〔27〕〔25〕、または〔26〕に記載のポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質。
〔28〕〔25〕および〔26〕に記載のポリヌクレオチドのいずれか、または両方が挿入された組換えベクター。
〔29〕〔25〕および〔26〕に記載のポリヌクレオチドのいずれか、または両方が挿入された組換えベクターにより形質転換された形質転換体。
〔30〕宿主が微生物である〔29〕に記載の形質転換体。
〔31〕〔30〕に記載の形質転換体を培養し、ニトリルヒドラターゼ、またはニトリルヒドラターゼのサブユニット蛋白質を回収する工程を含む、ニトリルヒドラターゼ、またはニトリルヒドラターゼのサブユニット蛋白質の製造方法。
〔32〕〔17〕に記載のニトリルヒドラターゼ、当該ニトリルヒドラターゼを産生する微生物、〔22〕に記載の蛋白質複合体、〔29〕に記載の形質転換体、およびそれらの処理物からなる群から選択されるいずれかの酵素活性物質とニトリル化合物とを接触させ、生成するアミドを回収する工程を含む、アミドの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、アクリロニトリルを基質としてアクリルアミドを生成することができるニトリルヒドラターゼを提供する。アクリルアミドは、凝集剤の原料として有用な化合物である。
【0019】
本発明は、アクリルアミドを酵素的に生成することができるニトリルヒドラターゼを提供するとともに、その遺伝子をクローニングした。本発明によって提供されるニトリルヒドラターゼをコードする遺伝子は、適当な宿主細胞に形質転換することにより、本発明のニトリルヒドラターゼを高い水準で発現する。したがって、本発明によって得ることができる形質転換体そのもの、あるいは形質転換体から得られる酵素蛋白質は、アクリルアミドの酵素的な製造に有用である。遺伝子組み換えによって製造された公知のニトリルヒドラターゼの多くが、高い酵素活性を達成できなかったのに対して、本発明のニトリルヒドラターゼは、遺伝子組み換え体においても高い活性を維持する点で優れている。
【0020】
また本発明のニトリルヒドラターゼは、好ましい態様において、有機溶媒の存在下においても高い酵素活性を維持する。一般に酵素蛋白質は、有機溶媒との接触によって、しばしば酵素活性が低下する。しかし本発明によって提供されたニトリルヒドラターゼは、有機溶媒との接触後、あるいは有機溶媒存在下においても、高い酵素活性を維持する。アミドの製造においては、原料となる基質化合物を溶解させるために、しばしば有機溶媒が利用される。したがって、当該酵素反応に用いられる酵素触媒が、有機溶媒耐性を有することは、アミドの製造において有利である。
【0021】
あるいは本発明のニトリルヒドラターゼは、好ましい態様において、シアンの存在下においても高い酵素活性を維持する。極性溶媒中では、基質化合物であるα−ヒドロキシニトリルが青酸とアルデヒドに解離する。青酸はシアンを生じ、しばしば酵素活性の低下の原因となる。アルデヒドもまた、蛋白質に障害を与え、酵素活性低下の原因となる。公知のニトリルヒドラターゼが工業的な利用に耐えられなかった理由の一つは、このシアンやアルデヒドの影響によって酵素活性が低下することにあった。
本発明のヒドラターゼは、シアンやアルデヒドの存在下であっても、酵素活性を維持する。そのため、アルデヒドと青酸から生成するα−ヒドロキシニトリルを基質として利用することができる。したがって、本発明のニトリルヒドラターゼは、α−ヒドロキシニトリルを原料とするアミドの製造方法に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ロドコッカス sp. Adp12の休止菌体のニトリルヒドラターゼ活性に及ぼす有機溶媒の影響を示す。グラフ中、縦軸は有機溶媒不存在下における活性を100としたときの残存活性(%)を、横軸は有機溶媒の濃度(%)を示す。
【図2】ロドコッカス sp. Adp12の休止菌体のニトリルヒドラターゼ活性に及ぼす有機溶媒(20%)の影響を示す。グラフ中、縦軸は有機溶媒不存在下における活性を100としたときの残存活性(%)を、横軸は有機溶媒による処理時間(時間/hours)を示す。
【図3】ロドコッカス sp. Adp12の無細胞抽出液のニトリルヒドラターゼ活性に及ぼす有機溶媒の影響を示す。グラフ中、縦軸は有機溶媒不存在下における活性を100としたときの残存活性(%)を、横軸は有機溶媒の濃度(%)を示す。
【図4】ゴルドニア sp. BR-1およびロドコッカス・ロドクロウスJ1の無細胞抽出液のニトリルヒドラターゼ活性に及ぼすシアナイドイオンの影響を示す。グラフ中、縦軸はシアナイドイオン不存在下における活性を100としたときの残存活性(%)を、横軸はKCNの濃度(mM)を示す。
【図5】ニトリルヒドラターゼのαサブユニットと、βサブユニットのアミノ酸配列に基づいて作成された分子系統樹。スケールバーはアミノ酸置換率を表す。
【図6】ロドコッカス sp. Adp12の16s rDNAの部分塩基配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明におけるニトリルヒドラターゼ活性は、次のようにして確認することができる。まず、基質として10%v/vの2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチロニトリル(HMBN)を含む、0.1M リン酸カリ緩衝液(pH6.5)に、酵素標品を加える。酵素標品に代えて、微生物の菌体や、粗精製酵素を用いることもできる。酵素添加後、20℃で15分間反応させる。反応液を過剰量の0.1% (v/v)リン酸溶液に加えて激しく振盪することによって反応を停止し、生成物を分析する。反応生成物は、HPLCによって分析することができる。
この測定方法に基づいて、ニトリルヒドラターゼ1Uは標準反応液組成において20℃で1分間に1μmolのニコチンアミドを生成する酵素量、1 Uは標準反応液組成において20℃で1分間に1μmolのHMBAmを生成する酵素量と定義した。
具体的には、たとえば実施例に示すような操作により、酵素活性の測定が可能である。また、蛋白質の定量は、バイオラッド製蛋白質アッセイキットを用いた色素結合法により行う。
【0024】
また本発明における有機溶媒耐性とは、有機溶媒で処理した後に、酵素活性が維持されることを言う。本発明のニトリルヒドラターゼは、たとえば20%(v/v)のアセトンで20℃で10分間処理したときに、酵素活性は実質的に低下しない。本発明において、酵素活性が低下しないとは、有機溶媒の無い状態で同じ条件で処理した場合と比較して、たとえば60%−100%、好ましくは65%−100%、より具体的には70%−100%の酵素活性が維持されることを言う。本発明のニトリルヒドラターゼは、アセトンのほか、好ましくは、メタノール、酢酸エチル、あるいはn-ヘキサンなどの有機溶媒に対する耐性を有する。なお本発明において、有機溶媒の存在下において、有機溶媒の無い状態と比較してより高い酵素活性を示す酵素蛋白質は、有機溶媒耐性を有する酵素に含まれる。同様に、有機溶媒との接触後に、有機溶媒との接触前と比較して、より高い酵素活性を獲得する酵素も、有機溶媒耐性を有するという。
【0025】
一方、本発明のシアン耐性とは、1mMのシアンイオン存在下、20℃で30分の条件で処理した時にニトリルヒドラターゼ活性が40%以上残存することを言う。または、5mMのシアンイオン存在下、20℃で30分の条件で処理した時にニトリルヒドラターゼ活性が10%以上残存するとき、その酵素はシアン耐性を有すると言うことができる。本発明によるニトリルヒドラターゼは、上記の条件で処理した後に、通常40ー50%、たとえば40−60%、あるいは40−100%の活性を維持する。なお本発明において、シアン共存下において、シアンの存在しない場合と比較してより高い酵素活性を示す酵素は、シアン耐性を有する酵素に含まれる。
【0026】
本発明は、以下の理化学的性質(1)-(6)を有するニトリルヒドラターゼを提供する。
(1)分子量:
ゲルろ過法による分子量が約136,000、
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により、分子量26kDaおよび36kDaの2つのサブユニットに分離される、
(2)作用:
ニトリル化合物のニトリル基に作用し、ニトリル基を水和してアミド基にする、
(3)至適pH:
pH8.0〜9.0でニトリル基の水和作用が至適である、
(4)至適温度:
40〜45℃でニトリル基の水和作用が最大活性を示す、
(5)pH安定性:
pH4−9が安定領域である、および
(6)温度安定性:
50℃で15分間の熱処理をして65%以上の残存活性を示す。
好ましい態様において、本発明のニトリルヒドラターゼは、前記性状(1)-(6)に加え、更に次の性状(7)を有する。
(7)有機溶媒耐性:
メタノール、エタノール、およびn-ヘキサンからなる群から選択されたいずれかの有機溶媒を20%含む水溶液で10分間処理して70%の残存活性を示す。
【0027】
本発明は、以下の理化学的性質(1)-(6)を有するニトリルヒドラターゼを提供する。
[1]分子量:
ゲルろ過法による分子量が約138,000、
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により、分子量27kDaおよび33kDaの2つのサブユニットに分離される、
[2]作用:
ニトリル化合物のニトリル基に作用し、ニトリル基を水和してアミド基にする、
[3]至適pH;
pH7.0〜9.0でニトリル基の水和作用が至適である、
[4]至適温度;
40〜45℃でニトリル基の水和作用が最大活性を示す、
[5]pH安定性;
pH4−9が安定領域である、および
[6]温度安定性;
50℃で15分間の熱処理をして65%以上の残存活性を示す。
好ましい態様において、本発明のニトリルヒドラターゼは、前記性状[1]-[6]に加え、更に次の性状[7]を有する。
[7]シアン耐性:
シアン5mMで30分間処理し98%以上の残存活性を示す、または
シアン10mMで30分間処理し15%以上の残存活性を示す。
好ましい態様において、本発明のニトリルヒドラターゼは、シアン5mMで30分間処理し98%以上の残存活性を示し、かつシアン10mMで30分間処理し15%以上の残存活性を示す。
【0028】
本発明のニトリルヒドラターゼは、該酵素を産生する微生物から通常の蛋白質の精製方法により、精製することができる。上記微生物は、細菌の培養に用いられる一般的な培地で培養される。培地には、ニトリルヒドラターゼを誘導するための化合物を添加することができる。たとえば、ニトリル化合物や、アミド化合物の添加により、ニトリルヒドラターゼの活性を高めることができる。より具体的には、アセトニトリルやアセトアミド等を、酵素の誘導剤として用いることができる。
【0029】
該酵素を産生する微生物は、十分に増殖させた後に菌体を回収し、適当な緩衝液中で、破砕して無細胞抽出液とする。緩衝液には、2-メルカプトエタノール(2-mercaptoethanol)等の還元剤や、フェニルメタンスルホニルフルオリド(phenylmethansulfonyl fluoride; PMFS)のようなプロテアーゼ阻害剤を加えることができる。得られた無細胞抽出液から、蛋白質の溶解度による分画や各種のクロマトグラフィーなどを適宜組み合わせることにより、ニトリルヒドラターゼを精製することができる。
【0030】
蛋白質の溶解度による分画方法としては、例えばアセトンやジメチルスルホキシドのような有機溶媒による沈澱や硫安による塩析等を利用することができる。一方クロマトグラフィーには、陽イオン交換、陰イオン交換、ゲルろ過、疎水性クロマトグラフィーや、キレート、色素、抗体などを用いた多くのアフィニティクロマトグラフィーが公知である。より具体的には、例えば、フェニル-トヨパールを用いた疎水クロマトグラフィー、DEAE-セファロースを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー、ブチル-トヨパールを用いた疎水クロマトグラフィー、ブルー-セファロースを用いたアフィニティークロマトグラフィー、スーパーデックス200を用いたゲルろ過等を経て、本発明のニトリルヒドラターゼを電気泳動的にほぼ単一バンドまで精製することができる。
【0031】
微生物としては、たとえばゴルドニア属(Gordonia sp.)あるいはロドコッカス属(Rhodococcus sp.)に属する微生物を用いることができる。より具体的には、ゴルドニア sp. BR-1ならびにロドコッカス sp. Adp12は、本発明のニトリルヒドラターゼの産生菌として望ましい微生物である。ゴルドニア sp. BR-1ならびにロドコッカス sp. Adp12は、受領番号FERM AP-20640および受領番号FERM AP-20642として特許微生物寄託センターに寄託されている。
【0032】
ゴルドニア sp. BR-1(Gordonia sp. BR-1)の寄託:
(a)寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
あて名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号中央第6(郵便番号305-8566)
(b)寄託日 平成17年8月25日
(c)受領番号 FERM AP-20640
【0033】
ロドコッカス sp. Adp12(Rhodococcus sp.Adp12)の寄託:
(a)寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
あて名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号中央第6(郵便番号305-8566)
(b)寄託日 平成17年8月25日
(c)受領番号 FERM AP-20642
【0034】
ゴルドニア sp. BR-1の16s rDNAの塩基配列は、Gordonia hydrophobica DSM44015株の16s rDNAとの相同性が確認された。したがって、ゴルドニア sp. BR-1は、Gordonia hydrophobicaと極めて近縁の種であると推定された。
【0035】
またロドコッカス sp. Adp12の16s rDNAの部分塩基配列は図6のとおりであった。当該塩基配列を公知のrDNAの塩基配列と比較したところ、次に示すような相同性が確認された。ロドコッカス sp. Adp12は、Rhodococcus rhodochrousと極めて近縁の種であると推定された。
菌種 GeneBank Accession No. 相同性(identity)
Rhodococcus sp. AN-22 AB087282 100 % (500/500)
Rhodococcus sp. T104 AY286493 99.2% (491/500)
Rhodococcus rhodochrous X80624 98.4% (479/487)
Rhodococcus rhodochrous X70295 98.1% (471/480)
Rhodococcus sp. AJ007002 98.1% (475/484)
【0036】
ロドコッカス sp. Adp12の16s rDNAの部分塩基配列は図6のとおりであった。したがって、16s rDNAに図6に記載の塩基配列を含む微生物は、本発明の、ニトリルヒドラターゼの産生菌として望ましい微生物である。すなわち本発明は、16s rDNAに図6に記載の塩基配列を含む微生物に由来し、(1)-(7)に記載の理化学的性状を有する、ニトリルヒドラターゼを提供する。微生物の16s rDNAの塩基配列は、公知の方法によって決定することができる。
【0037】
ゴルドニア sp. BR-1から得ることができる本発明のニトリルヒドラターゼは、前記理化学的性状[1]-[7]を有する新規な酵素である。構造的には、理化学的性状[1]に記載したとおり、SDS-PAGEによる分子量27kDaのαサブユニットと、33kDaのβサブユニットよりなるヘテロ4量体蛋白質である。αサブユニットのアミノ酸配列を配列番号:2(874アミノ酸残基)に、そしてβサブユニットのアミノ酸配列を配列番号:4(170アミノ酸残基)に示した。
【0038】
ロドコッカス sp. Adp12から得ることができる本発明のニトリルヒドラターゼは、前記理化学的性状(1)-(7)を有する新規な酵素である。構造的には、理化学的性状(1)に記載したとおり、SDS-PAGEによる分子量26kDaのαサブユニットと、36kDaのβサブユニットよりなるヘテロ4量体蛋白質である。αサブユニットのアミノ酸配列を配列番号:6(825アミノ酸残基)に、そしてβサブユニットのアミノ酸配列を配列番号:8(121アミノ酸残基)に示した。
これらの知見に基づいて、本発明のニトリルヒドラターゼを遺伝子工学的に得ることができる。すなわち本発明は、ニトリルヒドラターゼ活性を有する以下の蛋白質複合体を提供する。
【0039】
本発明によって提供されるニトリルヒドラターゼは、以下の(A)〜(E)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるαサブユニット、および(a)〜(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるβサブユニットからなり、以下の理化学的性質1)を有する蛋白質複合体である。
1)作用
ニトリル化合物のニトリル基に作用し、ニトリル基を水和してアミド基にする;
本発明の蛋白質複合体を構成するαサブユニットをコードする遺伝子には、以下の(A)〜(E)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを用いることができる。本発明において、(A)〜(E)のいずれかに記載のポリヌクレオチドは、本発明のニトリルヒドラターゼのαサブユニットの発現に有用である。
(A)配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(B)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(C)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(D)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
(E)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
【0040】
また本発明の蛋白質複合体を構成するβサブユニットをコードする遺伝子には、以下の(a)〜(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを用いることができる。本発明において、(a)〜(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドは、本発明のニトリルヒドラターゼのβサブユニットの発現に有用である。
(a)配列番号:3に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号:4に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(d)配列番号:3に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
(e)配列番号:3に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
【0041】
あるいは本発明によって提供されるニトリルヒドラターゼは、以下の[A]〜[E]のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるαサブユニット、および[a]〜[e]のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるβサブユニットからなり、以下の理化学的性質1)を有する蛋白質複合体である。
1)作用;
ニトリル化合物のニトリル基に作用し、ニトリル基を水和してアミド基にする、
本発明の蛋白質複合体を構成するαサブユニットをコードする遺伝子には、以下の[A]〜[E]のいずれかに記載のポリヌクレオチドを用いることができる。本発明において、[A]〜[E]のいずれかに記載のポリヌクレオチドは、本発明のニトリルヒドラターゼのαサブユニットの発現に有用である。
[A]配列番号:5に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
[B]配列番号:6に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
[C]配列番号:6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
[D]配列番号:5に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
[E]配列番号:6に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
【0042】
また本発明の蛋白質複合体を構成するβサブユニットをコードする遺伝子には、以下の[a]〜[e]のいずれかに記載のポリヌクレオチドを用いることができる。本発明において、[a]〜[e]のいずれかに記載のポリヌクレオチドは、本発明のニトリルヒドラターゼのβサブユニットの発現に有用である。
[a]配列番号:7に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
[b]配列番号:8に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
[c]配列番号:8に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
[d]配列番号:7に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
[e]配列番号:8に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
【0043】
本発明の蛋白質複合体は、本発明のニトリルヒドラターゼをコードするポリヌクレオチドを単離し、遺伝子組み換え技術を利用して、ニトリルヒドラターゼを発現させることができる。本発明のニトリルヒドラターゼをコードするポリヌクレオチドは、たとえば、以下のような方法によって単離することができる。
【0044】
本発明において明らかにされたニトリルヒドラターゼのαサブユニットをコードするポリヌクレオチド、およびβサブユニットをコードするポリヌクレオチドの塩基配列、並びにこれらの塩基配列によってコードされるアミノ酸配列は、いずれも新規である。本発明によって明らかにされたこれらの塩基配列情報に基いて、目的とする遺伝子を上記寄託微生物から取得することができる。遺伝子の取得には、PCRやハイブリダイズスクリーニングが用いられる。また、DNA合成によって遺伝子の全長を化学的に合成することもできる。
【0045】
更に上記塩基配列情報に基づいて、上記以外の生物に由来するニトリルヒドラターゼ遺伝子を取得することもできる。たとえば、上記塩基配列もしくはその一部の配列をプローブとして他の生物から調製したDNAに対しストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションを行うことにより、種々の生物由来のニトリルヒドラターゼを単離することができる。
【0046】
また、本発明のポリヌクレオチドには、配列番号:1および配列番号:3に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズできるポリヌクレオチドが含まれる。あるいは、本発明のポリヌクレオチドには、配列番号:5および配列番号:7に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズできるポリヌクレオチドが含まれる。これらの塩基配列は、それぞれ配列番号:17または配列番号:18に記載したゴルドニアBR-1およびロドコッカスadp12のゲノム塩基配列の、それぞれ次の領域から選択された塩基配列である。
αサブユニット βサブユニット
ゴルドニアBR-1 874−1545 170−874
(配列番号:17) (配列番号:1) (配列番号:3)
ロドコッカスadp12 825−1421 121−825
(配列番号:18) (配列番号:5) (配列番号:7)
【0047】
ここでロドコッカスadp12のβサブユニットの開始コドン(ゲノム上で121−123、配列番号:7の1−3)はgtgである。通常、gtgはバリン(Val)のコドンである。しかし本発明のニトリルヒドラターゼのようなサブユニット構造を有する蛋白質においては、開始コドンが通常とは異なる遺伝暗号で構成される場合がある。たとえばロドコッカス・ロドクロウスJ1のニトリルヒドラターゼにおいても、αサブユニットの開始コドンはgtgである。しかし蛋白質のN末端はMetであることが確認されている。本発明におけるロドコッカスadp12のβサブユニットも、N末端のアミノ酸配列解析により、N末端のアミノ酸残基がMetであることが確認された(配列番号:14)。
【0048】
ストリンジェントな条件でハイブリダイズできるポリヌクレオチドとは、これらの塩基配列の任意の少なくとも20個、好ましくは少なくとも30個、例えば40、60または100個の連続した配列を一つまたは複数選択したDNAをプローブDNAとし、例えばECL direct nucleic acid labeling and detection system (Amersham Pharmaica Biotech社製)を用いて、マニュアルに記載の条件(例えば、wash:42℃、0.5x SSCを含むprimary wash buffer)において、ハイブリダイズするポリヌクレオチドを指す。
より具体的な「ストリンジェントな条件」とは、例えば、通常、42℃、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC 、0.1%SDSの条件であり、さらに好ましくは、65℃、0.1×SSCおよび0.1%SDSの条件であるが、これらの条件に特に制限されない。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0049】
また、上記塩基配列情報に基づいて、ホモロジーの高い領域からPCR用のプライマーをデザインすることができる。このようなプライマーを用い、染色体DNAもしくはcDNAを鋳型としてPCRを行えば、ニトリルヒドラターゼをコードする遺伝子を種々の生物から単離することもできる。
なお本発明のポリヌクレオチドは、以上のような方法によってクローニングされたゲノムDNA、あるいはcDNAの他、合成によって得ることもできる。このようにして単離されたポリヌクレオチドは、本発明に含まれる。
【0050】
すなわち本発明は、単離されたポリヌクレオチドを含む。単離されたポリヌクレオチドとは、天然に存在するポリヌクレオチドとは異なる形態で存在するポリヌクレオチドを言う。たとえば、ベクターや他の生物のゲノムにインテグレートされたポリヌクレオチドは、単離されたポリヌクレオチドに含まれる。あるいは、cDNA、PCR産物、あるいは制限酵素の切断断片として得られた本発明のポリヌクレオチドは、単離されたポリヌクレオチドである。あるいは融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの一部として利用されたポリヌクレオチドも、単離されたポリヌクレオチドに含まれる。
【0051】
単離されたポリヌクレオチドとは、天然に存在するポリヌクレオチドとは異なる形態で存在するポリヌクレオチドを言う。たとえば、ベクターや他の生物のゲノムにインテグレートされたポリヌクレオチドは、単離されたポリヌクレオチドに含まれる。あるいは、cDNA、PCR産物、あるいは制限酵素の切断断片として得られた本発明のポリヌクレオチドは、単離されたポリヌクレオチドである。あるいは融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの一部として利用されたポリヌクレオチドも、単離されたポリヌクレオチドに含まれる。
【0052】
本発明の方法においては、天然型の酵素のみならず、前記理化学的性質(1)-(7)あるいは[1]-[7]を有する蛋白質複合体を構成できる限り、天然型酵素のアミノ酸配列に対して1または複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入したアミノ酸配列からなる酵素を用いることも可能である。当業者であれば、例えば、部位特異的変異導入法(Nucleic Acid Res. 10,pp.6487 (1982) , Methods in Enzymol.100,pp.448 (1983), Molecular Cloning 2ndEdt., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989) , PCR A Practical Approach IRL Press pp.200 (1991) )などを用いて、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することにより、蛋白質の構造を改変することができる。また、アミノ酸の変異は自然界において生じることもあり、人工的にアミノ酸を変異した酵素のみならず、自然界においてアミノ酸が変異した酵素も本発明の方法において用いることができる。
【0053】
また、本発明の方法においては、ニトリルヒドラターゼの各サブユニットのアミノ酸配列にホモロジーを有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドも、その産物が前記理化学的性質(1)-(7)あるいは[1]-[7]を有する蛋白質複合体を構成できる限り、本発明に含まれる。
アミノ酸配列のホモロジーは、FASTA programやBLAST programなどのホモロジー検索用のプログラムによって決定することができる。更に、上記データベースをこれらのプログラムを用いて検索するサービスも、インターネット上で提供されている。
【0054】
下記の配列番号に記載のアミノ酸配列と、少なくとも70%、通常80%、あるいは85%、好ましくは90%以上、より好ましくは95%、更には98%以上のホモロジーを有する蛋白質は、本発明の本発明に用いるニトリルヒドラターゼを構成する蛋白質として好ましい。ここでいうホモロジーとは、たとえば、BLAST programを用いたPositiveの相同性の値を示す。
αサブユニット βサブユニット
ゴルドニアBR-1 配列番号:2 配列番号:4
ロドコッカスadp12 配列番号:6 配列番号:8
【0055】
前記配列番号に記載の各アミノ酸配列において、たとえば100以下、通常50以下、好ましくは30以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは10以下、あるいは5以下のアミノ酸残基の変異は許容される。あるいは、たとえば20%以下、具体的には10%、好ましくは5%以下、より好ましくは3%、更には2%以下のアミノ酸残基の変異は許容される。
一般にタンパク質の機能の維持のためには、置換するアミノ酸は、置換前のアミノ酸と類似の性質を有するアミノ酸であることが好ましい。このようなアミノ酸残基の置換は、保存的置換と呼ばれている。例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe、Trpは、共に非極性アミノ酸に分類されるため、互いに似た性質を有する。また、非荷電性アミノ酸としては、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn、Glnが挙げられる。また、酸性アミノ酸としては、AspおよびGluが挙げられる。また、塩基性アミノ酸としては、Lys、Arg、Hisが挙げられる。これらの各グループ内のアミノ酸置換は許容される。
【0056】
本発明において、前記アミノ酸配列からなるαサブユニットおよびβサブユニットに対して、それぞれアミノ酸配列に変異を有する蛋白質によって蛋白質複合体を得る場合、いずれか一方、あるいは両方を変異体とすることができる。あるいは、由来の異なるサブユニットを組み合せて本発明の蛋白質複合体とすることもできる。いずれか一方のサブユニットを変異体とするには、他方のサブユニットと蛋白質複合体を形成させたときに、前記理化学的性質1)を有する蛋白質複合体を構成することができる変異体を選択する。
【0057】
更に、αサブユニットとβサブユニットの両方に変異体を用いる場合には、変異体に対して変異体を組み合せ、同様にして前記理化学的性質1)を有する蛋白質複合体を構成することができる変異体を選択する。このとき、予め野生型のアミノ酸配列を有するサブユニットとの組み合せにおいて必要な理化学的性質を獲得することが明らかな変異体を用い、当該変異体との組み合せにおいて必要な理化学的性質を示す変異体を選択するようにすれば、変異体を容易に選択することができる。本発明における望ましい変異体は、前記理化学的性質1)に加えて、更に前記理化学的性質(1)-(7)あるいは[1]-[7]を有する。
【0058】
本発明においてニトリルヒドラターゼ、あるいは蛋白質複合体は、配列番号:2および配列番号:4、あるいは配列番号:6および配列番号:8に記載のアミノ酸配列によって特定されたαサブユニットとβサブユニットによって構成される蛋白質複合体と機能的に同等な活性を有する限り、付加的なアミノ酸配列を結合することができる。たとえば、ヒスチジンタグやHAタグのような、タグ配列を付加することができる。あるいは、他のタンパク質との融合タンパク質とすることもできる。また本発明のニトリルヒドラターゼ、あるいはタンパク質複合体は、配列番号:2および配列番号:4、あるいは配列番号:6および配列番号:8に記載のアミノ酸配列によって特定されたαサブユニットとβサブユニットによって構成される蛋白質複合体と機能的に同等な活性を有する限り、断片であることもできる。
【0059】
本発明において機能的に同等なタンパク質複合体は、たとえば、次の条件i)およびii)の両方を有する蛋白質複合体を含む。
i)ニトリルヒドラターゼ活性を有する、
ii)シアン耐性と有機溶媒耐性のいずれか、または両方を有する
【0060】
本発明のニトリルヒドラターゼ活性を有する蛋白質複合体は、実質的に純粋なタンパク質とすることができる。本発明において、実質的に純粋なタンパク質とは、他の生物学的な分子を実質的に含まないことを言う。より具体的には、実質的に純粋なタンパク質とは、乾燥重量で、通常75%以上、あるいは80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上の純度を有する。タンパク質の純度を決定する方法は公知である。具体的には、各種カラムクロマトグラフィー、あるいはSDS−PAGE等の電気泳動分析によって、タンパク質の純度を知ることができる。
【0061】
本発明における好ましい酵素活性物質として、ニトリルヒドラターゼをコードする遺伝子を遺伝子組換え技術を用いて同種もしくは異種の宿主中で発現させた形質転換体、もしくはその処理物を示すことができる。
【0062】
本発明においてニトリルヒドラターゼ遺伝子を発現させるために、形質転換の対象となる生物は、ニトリルヒドラターゼ活性を有する蛋白質複合体を構成する各サブユニットをコードするDNAを含む組換えベクターにより形質転換され、ニトリルヒドラターゼ活性を発現することができる生物であれば特に制限はない。各サブユニットをコードするDNAは、単一のベクターに保持させることもできる。また各サブユニットを異なるベクターに保持させ、共形質転換(co-transfect)することで本発明の蛋白質複合体を発現させることもできる。更に、単一のサブユニットのみを発現する形質転換体を混合することによって、目的とする蛋白質複合体をin vitroで得ることもできる。利用可能な微生物としては、たとえば以下のような微生物を示すことができる。
【0063】
エシェリヒア(Escherichia)属
バチルス(Bacillus)属
シュードモナス(Pseudomonas)属
セラチア(Serratia)属
ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属
コリネバクテリイウム(Corynebacterium)属
ストレプトコッカス(Streptococcus)属
ラクトバチルス(Lactobacillus)属など宿主ベクター系の開発されている細菌
ロドコッカス(Rhodococcus)属
ストレプトマイセス(Streptomyces)属など宿主ベクター系の開発されている放線菌
サッカロマイセス(Saccharomyces)属
クライベロマイセス(Kluyveromyces)属
シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属
チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属
ヤロウイア(Yarrowia)属
トリコスポロン(Trichosporon)属
ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属
ピキア(Pichia)属
キャンディダ(Candida)属などの宿主ベクター系の開発されている酵母
ノイロスポラ(Neurospora)属
アスペルギルス(Aspergillus)属
セファロスポリウム(Cephalosporium)属
トリコデルマ(Trichoderma)属などの宿主ベクター系の開発されているカビ
【0064】
形質転換体の作製のための手順および宿主に適合した組み換えベクターの構築は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて行うことができる(例えば、Sambrookら、モレキュラー・クローニング、Cold Spring Harbor Laboratories)。微生物中などにおいて、本発明のニトリルヒドラターゼ遺伝子を発現させるためには、まず微生物中において安定に存在するプラスミドベクターやファージベクター中にこのDNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる必要がある。そのためには、転写・翻訳を制御するユニットにあたるプロモーターを本発明のDNA鎖の5'-側上流に、より好ましくはターミネーターを3'-側下流に、それぞれ組み込めばよい。このプロモーター、ターミネーターとしては、宿主として利用する微生物中において機能することが知られているプロモーター、ターミネーターを用いる必要がある。これら各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネータ−などに関して「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」、特に酵母に関しては、Adv. Biochem. Eng. 43, 75-102 (1990)、Yeast 8, 423-488 (1992)、などに詳細に記述されている。
【0065】
例えばエシェリヒア属、特に大腸菌エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)においては、プラスミドベクターとして、pBR、pUC系プラスミドを利用でき、lac(β−ガラクトシダーゼ)、trp(トリプトファンオペロン)、tac、trc (lac、trpの融合)、λファージ PL、PRなどに由来するプロモーターなどが利用できる。また、ターミネーターとしては、trpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来のターミネーターなどを用いることができる。これらの中で、市販のpSE420(Invitrogen製)のマルチクローニングサイトを一部改変したベクターpSE420D(特開2000-189170に記載)が好適に利用できる。
【0066】
バチルス属においては、ベクターとしてpUB110系プラスミド、pC194系プラスミドなどが利用可能であり、染色体にインテグレートすることもできる。また、プロモーター、ターミネーターとしてapr(アルカリプロテアーゼ)、npr(中性プロテアーゼ)、amy(α−アミラーゼ)などが利用できる。
【0067】
シュードモナス属においては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)などで宿主ベクター系が開発されている。トルエン化合物の分解に関与するプラスミドTOLプラスミドを基本にした広宿主域ベクター(RSF1010などに由来する自律的複製に必要な遺伝子を含む)pKT240などが利用可能であり、プロモーター、ターミネーターとして、リパーゼ(特開平5-284973)遺伝子などが利用できる。
【0068】
ブレビバクテリウム属特に、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)においては、pAJ43(Gene 39, 281 (1985))などのプラスミドベクターが利用可能である。プロモーター、ターミネーターとしては、大腸菌で使用されているプロモーター、ターミネーターがそのまま利用可能である。
【0069】
コリネバクテリウム属、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)においては、pCS11(特開昭57-183799)、pCB101(Mol. Gen. Genet. 196, 175 (1984)などのプラスミドベクターが利用可能である。
ストレプトコッカス(Streptococcus)属においては、pHV1301(FEMS Microbiol. Lett. 26, 239 (1985)、pGK1(Appl. Environ. Microbiol. 50, 94 (1985))などがプラスミドベクターとして利用可能である。
【0070】
ラクトバチルス(Lactobacillus)属においては、ストレプトコッカス属用に開発されたpAMβ1(J. Bacteriol. 137, 614 (1979))などが利用可能であり、プロモーターとして大腸菌で利用されているものが利用可能である。
ロドコッカス(Rhodococcus)属においては、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)から単離されたプラスミドベクターが使用可能である (J. Gen. Microbiol. 138,1003 (1992) )。
【0071】
ストレプトマイセス(Streptomyces)属においては、HopwoodらのGenetic Manipulation of Streptomyces: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratories (1985)に記載の方法に従って、プラスミドを構築することができる。特に、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)においては、pIJ486 (Mol. Gen. Genet. 203, 468-478, 1986)、pKC1064(Gene 103,97-99 (1991) )、pUWL-KS (Gene 165,149-150 (1995) )が使用できる。また、ストレプトマイセス・バージニア(Streptomyces virginiae)においても、同様のプラスミドを使用することができる(Actinomycetol. 11, 46-53 (1997) )。
【0072】
サッカロマイセス(Saccharomyces)属、特にサッカロマイセス・セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae) においては、YRp系、YEp系、YCp系、YIp系プラスミドが利用可能であり、染色体内に多コピー存在するリボソームDNAとの相同組み換えを利用したインテグレーションベクター(EP 537456など)は、多コピーで遺伝子を導入でき、かつ安定に遺伝子を保持できるため極めて有用である。また、ADH(アルコール脱水素酵素)、GAPDH(グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素)、PHO(酸性フォスファターゼ)、GAL(β−ガラクトシダーゼ)、PGK(ホスホグリセレートキナーゼ)、ENO(エノラーゼ)などのプロモーター、ターミネーターが利用可能である。
【0073】
クライベロマイセス属、特にクライベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)においては、サッカロマイセス・セレビジアエ由来2μm系プラスミド、pKD1系プラスミド(J. Bacteriol. 145, 382-390 (1981))、キラー活性に関与するpGKl1由来プラスミド、クライベロマイセス属における自律増殖遺伝子KARS系プラスミド、リボソームDNAなどとの相同組み換えにより染色体中にインテグレート可能なベクタープラスミド(EP 537456など)などが利用可能である。また、ADH、PGKなどに由来するプロモーター、ターミネーターが利用可能である。
【0074】
シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属においては、シゾサッカロマイセス・ポンベ由来のARS (自律複製に関与する遺伝子)及びサッカロマイセス・セレビジアエ由来の栄養要求性を相補する選択マーカーを含むプラスミドベクターが利用可能である(Mol. Cell. Biol. 6, 80 (1986))。また、シゾサッカロマイセス・ポンベ由来のADHプロモーターなどが利用できる(EMBO J. 6, 729 (1987))。特に、pAUR224は、宝酒造から市販されており容易に利用できる。
【0075】
チゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces)においては、チゴサッカロマイセス・ロウキシ (Zygosaccharomyces rouxii)由来の pSB3(Nucleic Acids Res. 13, 4267 (1985))などに由来するプラスミドベクターが利用可能であり、サッカロマイセス・セレビジアエ由来 PHO5 プロモーターや、チゴサッカロマイセス・ロウキシ由来 GAP-Zr(グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素)のプロモーター(Agri. Biol. Chem. 54, 2521 (1990))などが利用可能である。
【0076】
ピキア(Pichia)属においては、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などにピキア由来自律複製に関与する遺伝子 (PARS1、PARS2)などを利用した宿主ベクター系が開発されており(Mol. Cell. Biol. 5, 3376 (1985))、高濃度培養とメタノールで誘導可能な AOX など強いプロモーターが利用できる(Nucleic Acids Res. 15, 3859 (1987))。また、ピキア・アンガスタ(Pichia angusta、旧名ハンゼヌラ・ポリモルファ Hansenula polymorpha)において宿主ベクター系が開発されている。ベクターとしては、ピキア・アンガスタ由来自律複製に関与する遺伝子(HARS1、HARS2)も利用可能であるが、比較的不安定であるため、染色体への多コピーインテグレーションが有効である(Yeast 7, 431-443 (1991))。また、メタノールなどで誘導される AOX(アルコールオキシダーゼ)、FDH(ギ酸脱水素酵素)のプロモーターなどが利用可能である。
【0077】
キャンディダ(Candida)属においては、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・ウチルス (Candida utilis) などにおいて宿主ベクター系が開発されている。キャンディダ・マルトーサにおいてはキャンディダ・マルトーサ由来ARSがクローニングされ(Agri. Biol. Chem. 51, 51, 1587 (1987))、これを利用したベクターが開発されている。また、キャンディダ・ウチルスにおいては、染色体インテグレートタイプのベクターは強力なプロモーターが開発されている(特開平 08-173170)。
【0078】
アスペルギルス(Aspergillus)属においては、アスペルギルス・ニガー (Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリジー (Aspergillus oryzae) などがカビの中で最もよく研究されており、プラスミドや染色体へのインテグレーションが利用可能であり、菌体外プロテアーゼやアミラーゼ由来のプロモーターが利用可能である(Trends in Biotechnology 7, 283-287 (1989))。
【0079】
トリコデルマ(Trichoderma)属においては、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)を利用したホストベクター系が開発され、菌体外セルラーゼ遺伝子由来プロモーターなどが利用できる(Biotechnology 7, 596-603 (1989))。
【0080】
また、微生物以外でも、植物、動物において様々な宿主・ベクター系が開発されており、特に蚕を用いた昆虫(Nature 315, 592-594 (1985))や菜種、トウモロコシ、ジャガイモなどの植物中に大量に異種蛋白質を発現させる系が開発されており、好適に利用できる。形質転換体の培養、および形質転換体からのニトリルヒドラターゼの精製は、当業者に公知の方法により行うことができる。
【0081】
本発明のベクターにおいて、ニトリルヒドラターゼをコードするDNAとしては、たとえば前記(A)〜(E)のいずれかに記載のポリヌクレオチド、および前記(a)〜(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを用いることができる。同様に前記[A]−[E]のいずれかに記載のポリヌクレオチド、および前記[a]−[e]のいずれかに記載のポリヌクレオチドを、ニトリルヒドラターゼをコードするDNAとして利用することができる。
【0082】
本発明のベクターにおいて、ニトリルヒドラターゼのαサブユニットとβサブユニットをコードするDNAは、タンデムに連結するのが好ましい。タンデムに連結するとは、共通の発現制御領域の支配下に、これらのサブユニットが発現するように配置することを言う。このような配置とすることにより、より効率的なサブユニットの発現と、酵素活性を有する蛋白質複合体の形成を期待することができる。あるいは各サブユニットを別のベクターに保持させておき、2つのベクターを共形質転換することによって蛋白質複合体を形成させることもできる。
【0083】
本発明はまた、本発明のベクターを発現可能に保持した形質転換体に関する。本発明のベクターは、ベクターを機能的に保持しうる宿主であれば任意の宿主に形質転換することができる。このような宿主としては、たとえば大腸菌を用いることができる。
【0084】
本発明のニトリルヒドラターゼ、ニトリルヒドラターゼを産生する微生物、本発明の蛋白質複合体、蛋白質複合体を産生する形質転換体、およびそれらの処理物は、ニトリル化合物を基質とする、アミドの製造に有用である。すなわち本発明は、本発明のニトリルヒドラターゼ、ニトリルヒドラターゼを産生する微生物、本発明の蛋白質複合体、蛋白質複合体を産生する形質転換体、およびそれらの処理物からなる群から選択されるいずれかの酵素活性物質をニトリル化合物と接触させ、生成するアミドを回収する工程を含む、アミドの製造方法を提供する。
【0085】
本発明において、ニトリルヒドラターゼとは、前記理化学的性質(1)-(7)を有する酵素を言う。また本酵素を産生する微生物とは、この酵素が由来する菌株ロドコッカスadp12、あるいは本発明の酵素を産生するロドコッカス属の微生物、あるいはこの酵素をコードするDNAで形質転換された微生物宿主を含む。更に形質転換された微生物宿主とは、前記αサブユニットをコードするポリヌクレオチド(A)〜(E)、および/またはβサブユニットをコードするポリヌクレオチド(a)〜(e)を発現しうる微生物宿主を言う。本発明における前記微生物宿主は、αサブユニットおよびβサブユニットからなる本発明の蛋白質複合体を生成する。
【0086】
また本発明のニトリルヒドラターゼは、前記理化学的性質[1]-[7]を有する酵素を含む。また本酵素を産生する微生物とは、この酵素が由来する菌株ゴルドニアBR-1、あるいは本発明の酵素を産生するゴルドニア属の微生物、あるいはこの酵素をコードするDNAで形質転換された微生物宿主を含む。更に形質転換された微生物宿主とは、前記αサブユニットをコードするポリヌクレオチド[A]−[E]、および/またはβサブユニットをコードするポリヌクレオチド[a]−[e]を発現しうる微生物宿主を言う。本発明における前記微生物宿主は、αサブユニットおよびβサブユニットからなる本発明の蛋白質複合体を生成する。
【0087】
また微生物の処理物とは、ニトリルヒドラターゼ活性を維持した当該微生物細胞由来の細胞あるいはその分画を言う。細胞は、生細胞のみならず、酵素活性を維持する限り、死滅した細胞であってもよい。具体的には界面活性剤やトルエンなどの有機溶媒処理によって細胞膜の透過性を変化させた微生物、あるいはガラスビーズや酵素処理によって菌体を破砕した無細胞抽出液やそれを部分精製したものなどが処理物に含まれる。あるいは酵素の処理物とは、酵素を不溶性の担体や、水溶性の担体分子に結合したものや、酵素分子を包括固定することによって得られる固定化酵素等が含まれる。
本発明における酵素活性物質とは、本発明のニトリルヒドラターゼの酵素活性を維持しているあらゆる物質を含む。したがって、酵素の精製度や、溶解状態とは無関係に、目的とする酵素活性を維持している限り、酵素活性物質に含まれる。
【0088】
本発明によるアミドの製造方法を構成する酵素反応は、前記酵素活性物質を基質であるニトリル化合物を含む反応溶液と接触させることにより、実施することができる。具体的には、水性媒体中、水性媒体と水可溶性の有機溶媒との混合系、あるいは水不溶性の溶媒との2相系中において、酵素活性物質と基質とを接触させることができる。水性媒体としては、リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液などの中性付近に緩衝能を有する緩衝液が挙げられる。あるいは酸とアルカリを用いて反応中のpH変化を好ましい範囲にとどめることが可能であれば、緩衝液を特に使う必要はない。
水に溶解しにくい有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n-ヘキサン、イソオクタンなどを用いることができる。あるいは、エタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の有機溶媒と水性媒体との混合系中で行うこともできる。
【0089】
2相系では、酵素活性物質は、そのまま、あるいは水や緩衝液の溶液として供給される。基質化合物を水、緩衝液またはエタノール等の水溶性溶媒に溶解させて反応系に供給することもできる。この場合は、酵素活性物質とともに単一相の反応系を構成することになる。その他、本発明の反応は、固定化酵素、膜リアクターなどを利用して行うことも可能である。なお、酵素活性物質と反応溶液の接触形態はこれらの具体例に限定されない。反応溶液とは、基質を酵素活性の発現に望ましい環境を与える適当な溶媒に溶解したものである。
【0090】
本発明のニトリルヒドラターゼを用いるアミドの製造方法において、ニトリル化合物は特に限定されない。たとえば、一般式RCNを有するニトリル化合物を、本発明に利用することができる。
式中、Rは、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のシクロアルキル基、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のアリールオキシ基、置換または無置換の飽和または不飽和の複素環基を表す。これらのニトリル化合物を用いることにより、対応するアミドを製造することができる。
複素環基としては、異種原子として窒素、酸素、硫黄の少なくとも一種を含むものが挙げられる。また、置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、アリール基、アリールオキシ基、塩素、臭素等のハロゲン、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、チオール基などが挙げられる。
【0091】
より具体的には、例えば、以下に例示するようなニトリル化合物を本発明の製造方法に用いることができる。
飽和モノニトリル類;
アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、イソバレロニトリル、カプロニトリル等
飽和ジニトリル類;
マロニトリル、サクシノニトリル、グルタルニトリル、アジポニトリル等
α−アミノニトリル類;
α−アミノプロピオニトリル、α−アミノメチルチオブチロニトリル、α−アミノブチロニトリル、アミノアセトニトリル等
カルボキシル基を有するニトリル類;
シアノ酢酸等
β−アミノニトリル類;
アミノ−3−プロピオニトリル等
不飽和ニトリル類;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル、シアン化アリル、クロトンニトリル等
芳香族ニトリル類;
ベンゾニトリル、o-、m-およびp-クロロベンゾニトリル、o-、m-およびp-フルオロベンゾニトリル、o-、m-およびp-ニトロベンゾニトリル、p-アミノベンゾニトリル、4-シアノフェノール、o-、m-およびp-トルニトリル、2,4-ジクロロベンゾニトリル、2,6-ジクロロベンゾニトリル、2,6-ジフルオロベンゾニトリル、アニソニトリル、α-ナフトニトリル、β-ナフトニトリル、フタロニトリル、イソフタロニトリル、テレフタロニトリル、シアン化ベンジル、フェニルアセトニトリル等
α−ヒドロキシニトリル類
【0092】
さて、ニトリル化合物の中でも、α−ヒドロキシニトリルのようなシンヒドリン化合物は、極性溶媒中においては、その一部が青酸に解離することが知られている。たとえば一般式(1)のα−ヒドロキシニトリル化合物であれば、一般式(2)に示すアルデヒドと青酸を生じる。これらの化合物は平衡関係にあるので、α−ヒドロキシニトリル化合物が酵素反応によって消費されれば、平衡はα−ヒドロキシニトリル化合物に傾く。
【化1】

【化2】

一般式(2)
【0093】
一方、青酸に由来するシアンやアルデヒドは、一般に酵素蛋白質にダメージを与える。そのため公知のニトリルヒドラターゼを用いた場合には、α−ヒドロキシニトリル化合物を十分に水和することができないうちに、酵素活性が低下してしまい、十分な収量を期待することができなかった。しかし本発明のニトリルヒドラターゼは、シアンやアルデヒドの存在下でも酵素活性を維持する。そのため、アルデヒドと青酸から生成するニトリル化合物を基質として利用することができる。したがって本発明のα−ヒドロキシアミドの製造方法においては、前記一般式(2)で表されるアルデヒド化合物と青酸とから、一般式(1)で表される化合物を供給することができる。
【0094】
本発明において、ニトリル化合物の水和または加水分解反応は、水または緩衝液などの水性媒体中で、基質化合物、あるいは基質化合物を生成することができる一般式(2)で表わされるアルデヒドと青酸の混合物に、本発明の酵素活性物質を接触させることによって行なわれる。
なお本発明において、水和とはニトリル基に水分子が付加する反応を言う。水和に対して加水分解は、ニトリル基に置換基が結合している化合物において、この置換基が加水分解によって切断される反応を言う。これらの反応は、いずれも本発明のアミドの製造方法に含まれる。
【0095】
本発明によって、たとえば一般式RCNを有する化合物を原料として、一般式O=CR-NH3を有するアミド化合物を製造することができる。すなわち本発明は、ニトリル化合物に本発明のニトリルヒドラターゼ、蛋白質複合体、それを発現する微生物、およびその処理物からなる群から選択される酵素活性物質を接触させ、生成するアミド化合物を回収する工程を含む、アミド化合物の製造方法を提供する。
(式中、Rは置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のシクロアルキル基、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のアリールオキシ基、置換または無置換の飽和または不飽和複素環基を表す。)
より具体的には、本発明によって、たとえば先に例示したニトリル化合物を原料として、次のようなアミド化合物を製造することができる。
アセトアミド、プロピオアミド、ブチルアミド、イソブチルアミド、バレルアミド、イソバレルアミド、カプロアミド等
マロアミド、サクシノアミド、グルタルアミド、アジポアミド等
α−アミノプロピオアミド、α−アミノメチルチオブチルアミド、α−アミノブチルアミド、アミノアセトアミド等
アミノ−3−プロピオアミド等
アクリルアミド、メタクリルアミド、クロトンアミド等
ベンゾアミド、o-、m-およびp-クロロベンゾアミド、o-、m-およびp-フルオロベンゾアミド、o-、m-およびp-ニトロベンゾアミド、p-アミノベンゾアミド、o-、m-およびp-トルアミド、2,4-ジクロロベンゾアミド、2,6-ジクロロベンゾアミド、2,6-ジフルオロベンゾアミド、アニソアミド、α-ナフトアミド、β-ナフトアミド、フタルアミド、イソフタルアミド、テレフタルアミド、フェニルアセトアミド等
【0096】
反応液中の基質化合物の濃度は、特に制限されない。基質化合物による酵素活性の阻害を受けにくくするためには、たとえばα−ヒドロキシニトリルの場合、通常、0.1〜10重量%、好ましくは 0.2〜5.0 重量%相当量とすることができる。基質は反応開始時に一括して添加することも可能であるが、反応液中の基質濃度が高くなりすぎないように連続的、もしくは非連続的に添加することが望ましい。
【0097】
基質とするニトリル化合物の水性媒体に対する溶解度が著しく小さい場合には、反応液中に界面活性剤を加えることもできる。界面活性剤としては、 0.1〜5.0 重量%のTriton X-100、あるいはTween 60などが用いられる。基質の溶解度を向上させるために、有機溶媒との混合溶媒の利用も効果的である。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシドなどを添加することにより反応を効率よく行うことができる。あるいは、水に溶解しにくい有機溶媒中や、水に溶解しにくい有機溶媒と水性媒体との2相系において、本発明の反応を行うことができる。水に溶解しにくい有機溶媒としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n−ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、あるいは1−オクタノール等を用いることができる。
【0098】
この基質濃度に対して、本発明のニトリルヒドラターゼは、たとえば1mU/mL〜100U/mL、好ましくは100mU/mL以上の酵素量とすることにより、酵素反応を効率的に進めることができる。また酵素活性物質として微生物菌体を利用するときには、基質に対する微生物の使用量は、乾燥菌体として0.01〜5.0 重量%相当量とするのが好ましい。酵素や、菌体などの酵素活性物質は、反応液に溶解、あるいは分散させることにより、基質と接触させることができる。あるいは、化学結合や包括などの手法によって固定化した酵素活性物質を用いることもできる。更に、基質は透過できるが、酵素分子や菌体の透過を制限する多孔質膜で基質溶液と酵素活性物質を隔てた状態で反応させることもできる。
【0099】
反応は、通常、氷点〜50℃、好ましくは10〜30℃で 0.1〜100 時間行うことができる。反応液のpHは、酵素活性を維持できれば特に限定されない。本発明のニトリルヒドラターゼは、pH5.5〜6.5に至適pHを有するので、反応液のpHをこの範囲に設定するのが望ましい。
【0100】
かくして、ニトリル化合物は微生物の水和ないし加水分解作用により対応するアミドに変換され、反応液に蓄積する。生成したアミドは、反応液から任意の方法によって回収し、精製することができる。具体的には、たとえば、限外ろ過、濃縮、カラムクロマトグラフィー、抽出、活性炭処理、蒸留など通常の方法を組み合せることで回収、精製できる。
【実施例】
【0101】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
ニトリルヒドラターゼ(ゴルドニアBR-1およびロドコッカスadp12)
(1)有機溶媒耐性、シアナイドイオン耐性を示すニトリルヒドラターゼのスクリーニング
クロトンニトリル、アジポニトリル、シアノ酢酸を用いた集積培養から得られたニトリルヒドラターゼ生成菌と、研究室保存のニトリルヒドラターゼ生成菌を用い、有機溶媒耐性およびシアナイドイオン耐性を示すニトリルヒドラターゼをスクリーニングした。
【0102】
微生物の培養と休止菌体の調製:
500mL容の振とうフラスコに40mLの培地を入れ、ニトリルヒドラターゼ生成菌を28℃で3日間培養した。培養菌体は0.85%(v/v)塩化ナトリウム溶液に懸濁し、休止菌体とした。培養に用いた培地の組成(1Lあたり)を以下に示す。
グルコース5g、
ポリペプトン5g、
酵母エキス5g、
硫酸鉄・5水和物10mg、
塩化コバルト10mg、
クロトンアミド5g
(pH7.0)
【0103】
有機溶媒耐性およびシアナイドイオン耐性の評価:
培養液5mLから得られた休止菌体を、20%(v/v)アセトンあるいは10mMのシアン化カリウムを含む1mLの50mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に入れた。アセトン耐性を評価する場合には20℃で10分間処理し、シアナイドイオン耐性の評価では30℃で30分間処理した。その後、0.5Mの3-シアノピリジン溶液を1mL添加し、残存するニトリルヒドラターゼ活性を10分間の反応で測定した。アセトンを用いた場合には、2N塩酸(0.1mL)を添加して反応を停止した。シアナイドイオン耐性評価においては、メタノール(2mL)を添加して反応を停止させた。
【0104】
HPLC分析:
反応停止後の反応液に含まれるアミド(ニコチンアミド)をHPLCで分析した。HPLCの条件を次に示す。
カラム:Waters Spherisorb S5ODS2(4.6×150mm)
移動相:10mMリン酸緩衝液(pH2.8)/アセトニトリル=9:1
検出:230nm
流速:1mL/min.
【0105】
ロドコッカスadp12のアセトン耐性およびゴルドニアBR-1のシアナイドイオン耐性:
ロドコッカスadp12は20%(v/v)の処理によっても51%の残存活性を示した。また、ゴルドニアBR-1は10mMシアナイドイオン存在下でも活性をほぼ維持しおり、残存活性は91%であった。
【0106】
(2)ロドコッカスadp12の有機溶媒耐性ニトリルヒドラターゼの評価
ロドコッカスadp12の最適培養条件:
ロドコッカスadp12を、下記の組成(1Lあたり)の最適培地で、28℃で3日間振とう培養した。
グルコース10g、
コーン・スティープ・リカー10g、
酵母エキス1g、
メタクリルアミド5g、
リン酸ニ水素カリウム1g、
硫酸マグネシウム七水和物0.5g、
塩化コバルト六水和物20mg
(pH7.0)
【0107】
種々の有機溶媒に対する耐性
アセトン、トルエン、メタノール、エタノール、DMSO、酢酸エチル、n-ヘキサンを10-40%(v/v)添加し、ロドコッカスadp12の休止菌体を用いて20℃、10分間処理による有機溶媒耐性を評価した(図1)。メタノール、酢酸エチル、n-ヘキサンで優れた耐性を示した。そこで、これらの溶媒を20%とした条件で時間にともなう残存活性を測定した(図2)。20時間を経過しても完全に活性を失うことなく、強い有機溶媒耐性を示した。休止菌体の代わりに無細胞抽出液を用いて種々の有機溶媒耐性を評価した結果、休止菌体を用いた場合と同様に耐性が認められた(図3)。
【0108】
(3)ゴルドニアBR-1のシアナイドイオン耐性ニトリルヒドラターゼの評価
ゴルドニアBR-1の最適培養条件:
ゴルドニアBR-1を、下記の組成(1Lあたり)の最適培地で、28℃で3日間振とう培養した。
グルコース5g、
ポリペプトン5g、
酵母エキス5g、
メタクリルアミド5g、
塩化コバルト六水和物20mg
(pH7.0)
【0109】
シアナイドイオンに対する耐性:
無細胞抽出液を用いて種々のシアナイドイオン濃度で処理して残存活性を測定した(図4)。比較としてロドコッカス・ロドクロウスJ1と比較した。ゴルドニアBR-1では、15mMのシアナイドイオン存在下86%の残存活性を示したが、工業用触媒として利用されているロドコッカスロドクロウスJ1では5mMでも完全に活性は失われた。
【0110】
(4)有機溶媒耐性およびシアナイドイオン耐性ニトリルヒドラターゼの精製と性質
酵素活性測定法
250mMの3-シアノピリジン、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を含む2mlの液系を用い、酵素反応を20℃で10分間行った。3N塩酸を0.1ml添加して反応を停止させた。反応液をHPLC分析し、酵素1ユニットは1分間に1μmolのニコチンアミドを生成する酵素量と定義した。タンパク質濃度はBradfordの方法で定量した。
【0111】
ロドコッカスabp12ニトリルヒドラターゼの精製:
酵素精製用の基本緩衝液として44mMのn-酪酸を含むリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を用いた(以下、標準緩衝液と記す)。培養液480mlから得た菌体を100mM標準緩衝液に懸濁し、超音波破砕した。遠心分離で得られた上清を無細胞抽出液とし、これを30−60%飽和濃度で硫安分画した。回収された硫安分画を、次の各種クロマトグラフィーにより精製した。精製の結果を表1にまとめた。
i.DEAE-セファセル(0.3M塩化カリウムを含む50mM標準緩衝液で溶出)、
ii.フェニルセファロース(硫安を含まない50mM標準緩衝液で溶出)、および
iii.ブチルトヨパール(15%飽和濃度の硫安を含む50mM標準緩衝液で溶出)
【0112】
−表1−
==========================================================
タンパク質 酵素活性 比活性
ステップ (mg) (U) (U/mg)
----------------------------------------------------------
無細胞抽出液 381 949 2.49
硫安分画 180 739 4.11
DEAEセファセル 38.9 573 14.7
フェニルセファロースCL-4B 3.22 199 62
ブチルトヨパール650M 1.45 147 102
==========================================================
【0113】
ロドコッカスadp12ニトリルヒドラターゼの性質:
精製酵素の分子量は136kDaで、αおよびβ-サブユニットの分子量はそれぞれ26kDa、36kDaと算出され、α2β2の構造から成る。熱安定性については、40℃で15分間の処理では活性を維持しており、50℃で76%、60℃の処理では7%の活性が残存していた。最適pHは8.0−9.0であった。
【0114】
基質特異性を検討した結果を3-シアノピリジンに対する相対活性として以下に示した。精製酵素を用いた有機溶媒耐性の評価を行ない、無細胞抽出液で測定した結果と同じ結果が得られている。
アセトニトリル 116%、
アクリロニトリル 484%、
クロトンニトリル 70%、
ベンゾニトリル 304%、
マンデロニトリル 58%
【0115】
ゴルドニアBR-1ニトリルヒドラターゼの精製:
培養液960mlから得た菌体を100mM標準緩衝液に懸濁し、超音波破砕した。遠心分離で得られた上清を無細胞抽出液とし、これを30−60%飽和濃度で硫安分画した。回収された硫安分画を、次の各種クロマトグラフィーにより精製した。精製の結果を表2にまとめた。
i.DEAE-セファセル(0.3M塩化カリウムを含む50mM標準緩衝液で溶出)、
ii.フェニルセファロース(5%飽和濃度で硫安を含む50mM標準緩衝液で溶出)、および
iii.ブチルトヨパール(20%飽和濃度の硫安を含む50mM標準緩衝液で溶出)
【0116】
−表2−
========================================================
タンパク質 酵素活性 比活性
ステップ (mg) (U) (U/mg)
--------------------------------------------------------
無細胞抽出液 830 19000 22.9
硫安分画 463 18200 39.2
DEAEセファセル 118 18000 152
フェニルセファロースCL-4B 46.6 10400 224
ブチルトヨパール650M 37.1 8190 220
=======================================================
【0117】
ゴルドニアBR-1ニトリルヒドラターゼの性質:
精製酵素の分子量は138kDAで、αおよびβ-サブユニットの分子量はそれぞれ27kDa、33kDaと算出され、α2β2の構造から成る。熱安定性については、30℃で15分間の処理では活性を維持しており、40℃で91%、50℃で76%、60℃の処理では7%の活性が残存していた。最大活性が見られるpHは8.0で、その80%以上の活性が認められるpH範囲は7.0−9.0であった。
【0118】
基質特異性を検討した結果を3-シアノピリジンに対する相対活性として以下に示した。精製酵素を用いたシアナイドイオン耐性の評価を行ない、無細胞抽出液で測定した結果と同じ結果が得られている。
アセトニトリル 56%
アクリロニトリル 341%
メタクリルニトリル 397%
クロトンニトリル 132%
ベンゾニトリル 189%
マンデロニトリル 61%
【0119】
ゴルドニアBR-1およびロドコッカスadp12のニトリルヒドラターゼ遺伝子のクローニングと一次構造解析:
(1)ゴルドニアBR-1ニトリルヒドラターゼ遺伝子のクローニング
ニトリルヒドラターゼ遺伝子の簡便な解析法として、Precigouらが遺伝子増幅用の汎用型PCRプライマーを報告している(FEMS Microbiology Letters 204, 144-161, 2001)が、Gordonia BR-1では遺伝子増幅は認められない。そこで、精製酵素のN末端アミノ酸配列に基づいて遺伝子クローニングを行った。
【0120】
ゴルドニアBR-1株から精製したニトリルヒドラターゼのαおよびβサブユニットのN末端アミノ酸配列を得た。
αサブユニット:TDIIPTQEEIAARVKALESMLIEQN(配列番号:9)
βサブユニット:MNGVFDLGGTDGMGAVNPPAHE(配列番号:10)
ゴルドニアBR-1を次の組成を有する培地(pH7.0)を用いて28℃で1日間培養し、菌体から染色体DNAを調製した。
肉エキス 5g/L、
ポリペプトン 5g/L、
塩化ナトリウム 2g/L、および
酵母エキス 0.5g/L
ニトリルヒドラターゼはβ、αサブユニットの順に遺伝子がコードされているため、βサブユニットのN末端アミノ酸配列からセンスプライマーをデザインし、αサブユニットのN末端アミノ酸配列からアンチセンスプライマーを合成した。
センスプライマー配列:ATGAAYGGNGTNTTYYT(配列番号:11)
アンチセンスプライマー配列:GCDATYTCYTCYTGNGTNGG(配列番号:12)
(Y=C+T、N=A+C+G+T、D=A+G+T)
【0121】
センスプライマーを100pmol、アンチセンスプライマーを100pmol、ゴルドニアBR-1由来染色体DNAを100ng、dNTPを20nmol、TaqDNAポリメラーゼ(宝酒造製)、TaqDNAポリメラーゼ用緩衝液(宝酒造製)を含む0.1mlの反応液を用い、変性(72℃、60秒)、アニーリング(55℃、90秒)、伸長反応(72℃、90秒)を30サイクル、PCRサーマルサイクラーMP(宝酒造製)を用いてPCRを行った。PCR反応後に約800bpの増幅断片が確認され、この断片をpT7Blue(Novagen製)にライゲーションし、塩基配列の解析からニトリルヒドラターゼ遺伝子の一部であることを確認した。
【0122】
増幅断片の精製標品をDIG標識した。ゴルドニアBR-1由来染色体DNAをApaIで完全消化し、得られた消化物をアガロースゲル電気泳動後、ナイロンメンブレン(ロッシュ製)に転写し、DIG標識したDNA断片と60℃で一晩ハイブリダイズさせ、60℃で洗浄し、DIGディテクションキット(ロッシュ製)を用いて化学発光をFuji RXフィルムで検出したところ、約7kbpの陽性バンドが検出された。ゴルドニアBR-1由来染色体DNAのApaIによる完全消化物をアガロースゲル電気泳動し、約7kbpのDNA断片を精製し、得られたDNA断片をpBluescriptII SK(+)にライゲーションし、大腸菌DH5αに形質転換した。得られた形質転換体をアンピシリン(50μg/mL)を含むLB培地上で生育させた後、Molecular Cloning (Cold Spring Harbor Laboratoru Press,Cold Spring Harbor, 1989)に記載の方法に従い、DIG標識したDNA断片を用いてコロニーハイブリダイゼーションを行い、陽性クローンを取得した。ニトリルヒドラターゼのαおよびβサブユニットをコードする塩基配列と酵素アミノ酸配列を決定した。
【0123】
(2)ロドコッカスabp12ニトリルヒドラターゼ遺伝子のクローニング
ロドコッカスabp12のニトリルヒドラターゼ遺伝子についても、Precigouらの汎用型PCRプライマーを用いた遺伝子領域の増幅は認められず、ゴルドニアBR-1での場合と同様に精製酵素のN末端アミノ酸配列に基づいて遺伝子クローニングを行った。
ロドコッカスabp12から精製したニトリルヒドラターゼのαおよびβサブユニットのN末端アミノ酸配列を得た。
αサブユニット:SNRPKTSEEITARVKALERSI(配列番号:13)
βサブユニット:MNGLYDLGGMDGLGPVN(配列番号:14)
ロドコッカスabp12の染色体DNAはゴルドニアBR-1と同じ方法で調製し、PCR用プライマーの塩基配列を以下に示した。
センスプライマー配列:GAYYTNGGNGGNATGGAYGG(配列番号:15)
アンチセンスプライマー配列:ACNCKNGCNGTDATYTCYTC(配列番号:16)
(Y=C+T、N=A+C+G+T、D=A+G+T、K=G+T)
【0124】
ロドコッカスabp12由来染色体DNA100ngを鋳型としたPCRによって約900bpの増幅断片が確認され、この断片をpT7Blueにライゲーションし、塩基配列の解析からニトリルヒドラターゼ遺伝子の一部であることを確認した。この増幅断片の精製標品をDIG標識し、ゲノミックサザンブロット解析によって約4.5kbpの陽性バンドを消化物で検出された。ロドコッカスabp12由来染色体DNAのPstIによる完全消化物をアガロースゲル電気泳動し、約4.5kbpのDNA断片を精製し、得られたDNA断片をpBluescriptII SK(+)にライゲーションし、大腸菌DH5αに形質転換した。得られた形質転換体をアンピシリン(50μg/mL)を含むLB培地上で生育させた後、DIG標識したDNA断片を用いてコロニーハイブリダイゼーションを行い、陽性クローンを取得した。ニトリルヒドラターゼのαおよびβサブユニットをコードする塩基配列と酵素アミノ酸配列を決定した。
【0125】
(3)相同性解析
ゴルドニアBR-1およびロドコッカスabp12のαサブユニット、およびβサブユニットのアミノ酸配列と、既知のニトリルヒドラターゼを構成するαサブユニットおよびβサブユニットとの相同性を解析した。結果を表3(Gordonia BR-1)および表4(Rhodococcus adp12)に示す。
ゴルドニアBR-1では、ロドコッカス属の1株とのみαサブユニットで93%の相同性が認められたが、他の微生物酵素との相同性は60−70%台にとどまった。ロドコッカスad12の酵素でも極めて高い相同性を示すニトリルヒドラターゼは認められなかった。そこで次に、αおよびβサブユニットそれぞれについて分子進化系統樹を作成した(図5)。分子進化系統樹の解釈には主観的な見解が伴いがちであるが、αおよびβサブユニットいずれに関する図を見ても、ゴルドニアBR-1とロドコッカスabp12のニトリルヒドラターゼはこれまでに工業用触媒として注目されてきた酵素との強い相関性は見られず、有機溶媒耐性やシアナイドイオン耐性がこれに反映していると推定される。
【0126】
−表3−
Gordonia BR-1のαサブユニットおよびβサブユニットの相同性解析
====================================================
相同性(Identity ;%)
微生物 ----------------------
β-subunit α-subunit
----------------------------------------------------
Rhodococcus sp. 68 93
Pseudonocardia thermophila JCM3095 54 76
Rhodococcus sp. Cr4 42 67
Comamonas testosteroni 5-MGAM-4D 38 65
Agrobacterium tumefaciens d3 38 62
Bacillus sp. BR449 36 65
Bacillus sp. RAPc8 36 65
Pseudomonas putida 5B 34 66
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
Rhodococcus rhodochrous J1 - LMW 43 66
Rhodococcus rhodochrous J1 - HMW 32 53
====================================================
【0127】
−表4−
Rhodococcus adp12のαサブユニットおよびβサブユニットの相同性解析
====================================================
相同性(Identity ;%)
微生物 ----------------------
β-subunit α-subunit
----------------------------------------------------
Rhodococcus sp. 60 77
Pseudonocardia thermophila JCM3095 56 75
Rhodococcus sp. Cr4 46 67
Comamonas testosteroni 5-MGAM-4D 42 64
Agrobacterium tumefaciens d3 42 61
Bacillus sp. BR449 40 59
Bacillus sp. RAPc8 40 59
Pseudomonas putida 5B 38 64
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
Rhodococcus rhodochrous J1 - LMW 46 67
Rhodococcus rhodochrous J1 - HMW 29 53
====================================================
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、アクリロニトリルを基質としてアクリルアミドを生成することができるニトリルヒドラターゼを提供する。アクリルアミドは、凝集剤の原料として有用な化合物である。本発明のニトリルヒドラターゼは、遺伝子組み換え体においても酵素活性を維持できる。更に本発明のニトリルヒドラターゼは、有機溶媒の存在下であっても、あるいは有機溶媒との接触の後にも、酵素活性を維持する。そのため、有機溶媒の存在下であっても酵素反応を実施することができる。この特徴により、基質化合物を有機溶媒によってより高い濃度で溶解させることができる。本発明は、たとえばアクリルアミドのような、産業上有用な化合物の酵素反応による製造において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の理化学的性質を有するニトリルヒドラターゼ;
[1]分子量:
ゲルろ過法による分子量が約138,000、
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により、分子量27kDaおよび33kDaの2つのサブユニットに分離される、
[2]作用:
ニトリル化合物のニトリル基に作用し、ニトリル基を水和してアミド基にする、
[3]至適pH;
pH7.0〜9.0でニトリル基の水和作用が至適である、
[4]至適温度;
40〜45℃でニトリル基の水和作用が最大活性を示す、
[5]pH安定性;
pH4−9が安定領域である、および
[6]温度安定性;
50℃で15分間の熱処理をして65%以上の残存活性を示す。
【請求項2】
更に次の理化学的性質を有する請求項1に記載のニトリルヒドラターゼ;
[7]シアン耐性:
シアン5mMで30分間処理し98%以上の残存活性を示す、または
シアン10mMで30分間処理し15%以上の残存活性を示す。
【請求項3】
ゴルドニア属に由来する請求項1に記載のニトリルヒドラターゼ。
【請求項4】
受領番号FERM AP-20640として寄託されたゴルドニアsp. BR-1株に由来する請求項1に記載のニトリルヒドラターゼ。
【請求項5】
受領番号FERM AP-20640として寄託されたゴルドニアsp. BR-1株を培養、培養物からニトリルヒドラターゼを回収する工程を含む、請求項1に記載のニトリルヒドラターゼの製造方法。
【請求項6】
以下の(A)〜(E)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるαサブユニット、および(a)〜(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるβサブユニットからなり、以下の理化学的性質1)を有する蛋白質複合体;
1)作用
ニトリル化合物のニトリル基に作用し、ニトリル基を水和してアミド基にする;
αサブユニット;
(A)配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(B)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(C)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(D)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
(E)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
βサブユニット:
(a)配列番号:3に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号:4に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(d)配列番号:3に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
(e)配列番号:4に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
αサブユニットが配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含む請求項6に記載の蛋白質複合体。
【請求項8】
βサブユニットが配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含む請求項6に記載の蛋白質複合体。
【請求項9】
請求項6に記載の蛋白質複合体を構成するαサブユニットをコードするポリヌクレオチドであって、以下の(A)〜(E)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(A)配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(B)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(C)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(D)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
(E)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項6に記載の蛋白質複合体を構成するβサブユニットをコードするポリヌクレオチドであって、以下の(a)〜(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(a)配列番号:3に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号:4に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(d)配列番号:3に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
(e)配列番号:4に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項9、または請求項10に記載のポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質。
【請求項12】
請求項9および請求項10に記載のポリヌクレオチドのいずれか、または両方が挿入された組換えベクター。
【請求項13】
請求項9および請求項10に記載のポリヌクレオチドのいずれか、または両方が挿入された組換えベクターによって形質転換された形質転換体。
【請求項14】
宿主が微生物である請求項13に記載の形質転換体。
【請求項15】
請求項14に記載の形質転換体を培養し、培養物からニトリルヒドラターゼ、またはニトリルヒドラターゼのサブユニット蛋白質を回収する工程を含む、ニトリルヒドラターゼ、またはニトリルヒドラターゼのサブユニット蛋白質の製造方法。
【請求項16】
請求項1に記載のニトリルヒドラターゼ、当該ニトリルヒドラターゼを産生する微生物、請求項6に記載の蛋白質複合体、請求項13に記載の形質転換体、およびそれらの処理物からなる群から選択されるいずれかの酵素活性物質とニトリル化合物とを接触させ、生成するアミドを回収する工程を含む、アミドの製造方法。
【請求項17】
下記の理化学的性質を有するニトリルヒドラターゼ;
(1)分子量:
ゲルろ過法による分子量が約136,000、
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により、分子量26kDaおよび36kDaの2つのサブユニットに分離される、
(2)作用:
ニトリル化合物のニトリル基に作用し、ニトリル基を水和してアミド基にする、
(3)至適pH:
pH8.0〜9.0でニトリル基の水和作用が至適である、
(4)至適温度:
40〜45℃でニトリル基の水和作用が最大活性を示す、
(5)pH安定性:
pH4−9が安定領域である、および
(6)温度安定性:
50℃で15分間の熱処理をして65%以上の残存活性を示す。
【請求項18】
更に次の理化学的性質を有する請求項17に記載のニトリルヒドラターゼ;
(7)有機溶媒耐性:
メタノール、エタノール、およびn-ヘキサンからなる群から選択されたいずれかの有機溶媒を20%含む水溶液で10分間処理して70%の残存活性を示す。
【請求項19】
ロドコッカス属に由来する請求項17に記載のニトリルヒドラターゼ。
【請求項20】
受領番号FERM AP-20642として寄託されたロドコッカス sp. Adp12株に由来する請求項17に記載のニトリルヒドラターゼ。
【請求項21】
受領番号FERM AP-20642として寄託されたロドコッカス sp. Adp12株を培養する工程を含む、請求項17に記載のニトリルヒドラターゼの製造方法。
【請求項22】
以下の[A]〜[E]のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるαサブユニット、および[a]〜[e]のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるβサブユニットからなり、以下の理化学的性質1)を有する蛋白質複合体;
1)作用;
ニトリル化合物のニトリル基に作用し、ニトリル基を水和してアミド基にする、
αサブユニット:
[A]配列番号:5に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
[B]配列番号:6に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
[C]配列番号:6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
[D]配列番号:5に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
[E]配列番号:6に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
βサブユニット:
[a]配列番号:7に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
[b]配列番号:8に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
[c]配列番号:8に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
[d]配列番号:7に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
[e]配列番号:8に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項23】
αサブユニットが配列番号:6に記載のアミノ酸配列を含む請求項22に記載の蛋白質複合体。
【請求項24】
βサブユニットが配列番号:8に記載のアミノ酸配列を含む請求項22に記載の蛋白質複合体。
【請求項25】
請求項22に記載の蛋白質複合体を構成するαサブユニットをコードするポリヌクレオチドであって、以下の(A)〜(E)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(A)配列番号:5に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(B)配列番号:6に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(C)配列番号:6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(D)配列番号:5に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
(E)配列番号:6に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項26】
請求項22に記載の蛋白質複合体を構成するβサブユニットをコードするポリヌクレオチドであって、以下の(a)〜(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(a)配列番号:7に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号:8に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号:8に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(d)配列番号:7に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
(e)配列番号:8に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項27】
請求項25、または請求項26に記載のポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質。
【請求項28】
請求項25および請求項26に記載のポリヌクレオチドのいずれか、または両方が挿入された組換えベクター。
【請求項29】
請求項25および請求項26に記載のポリヌクレオチドのいずれか、または両方が挿入された組換えベクターにより形質転換された形質転換体。
【請求項30】
宿主が微生物である請求項29に記載の形質転換体。
【請求項31】
請求項30に記載の形質転換体を培養し、ニトリルヒドラターゼ、またはニトリルヒドラターゼのサブユニット蛋白質を回収する工程を含む、ニトリルヒドラターゼ、またはニトリルヒドラターゼのサブユニット蛋白質の製造方法。
【請求項32】
請求項17に記載のニトリルヒドラターゼ、当該ニトリルヒドラターゼを産生する微生物、請求項22に記載の蛋白質複合体、請求項29に記載の形質転換体、およびそれらの処理物からなる群から選択されるいずれかの酵素活性物質とニトリル化合物とを接触させ、生成するアミドを回収する工程を含む、アミドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−135888(P2011−135888A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31497(P2011−31497)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【分割の表示】特願2005−253259(P2005−253259)の分割
【原出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年3月5日 社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会 2005年度(平成17年度)大会講演要旨集」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度 新エネルギー・産業技術総合開発機構、生物機能を活用した生産プロセスの基盤技術開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】