説明

ニトロ化合物を検出するための化学センサーにおけるシロキサン系ポリマー又は複合体の使用

本発明は、次の式(I):
【化1】


[上式中、
X及びYは、単結合、又は直鎖状のC-C50炭化水素基であり;
及びRは、水素原子、CN、ZがハロゲンであるC(Z)、CH(Z)、CHZ;NH、NHR、NRであり、ここでR、Rは、ハロゲン原子、CH3、又は直鎖状又は分枝状で飽和又は不飽和のC-C20で、場合によっては一又は複数のヘテロ原子及び/又は少なくとも一のヘテロ原子を有する一又は複数の化学官能基を含む炭化水素鎖であり;但しR及びRの少なくとも一は水素原子ではない]
の繰り返し単位を有する少なくとも一のポリマー、又はこのポリマーと一又は複数の導電性フィラーを含有する複合体の、ニトロ化合物を検出するためのセンサーにおけるセンサー材料としての使用に関する。
用途:爆発物の検出、大気汚染及び周囲空気の質のコントロール/モニター、工業拠点のモニター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトロ化合物、特に芳香族ニトロ化合、例えばニトロベンゼン(NB)、ジニトロベンゼン(DNB)、トリニトロベンゼン(TNB)、ニトロトルエン(NT)、ジニトロトルエン(DNT)、2,4,6-トリニトロトルエン(TNT)などを検出するためのセンサーにおける、シロキサン系ポリマー、又はこのようなポリマーと一又は複数の導電性フィラーを含有する複合体の、センサー材料としての使用に関する。
このようなセンサーは、空港等の公共の場所での安全性の確認、ある地域において流通している商品の適法性のチェック、テロ行為との闘い、武装解除軍事行動の実施、対人地雷の位置の発見、又は工業上のもしくは軍事上の拠点の汚染除去など、爆発物の検出に有用である。
またそれらは、環境保護、特に大気汚染と程度の差はあれ限定された空間の空気の質のコントロール及びモニター、さらにはニトロ化合物を製造、保管及び/又は取り扱う工業拠点の安全目的のモニターに有用である。
【背景技術】
【0002】
爆発物の検出は、特に市民の安全に関し、命に関わる重要な問題である。
現在、爆発物の製造に使用されるニトロ化合物の蒸気を検出するためにいくつかの方法が使用されており、例えばこの目的のために訓練された探知犬、又はその場で収集されたサンプルの、例えば質量分析計又は電子捕捉検出器に連結したクロマトグラフィーによる研究室での分析、あるいは赤外線検出が使用されている。
これらの方法は一般的に高感度であり、爆発物周辺に広がるニトロ化合物の蒸気は非常に低濃度であるので、爆発物検出において感度は重要である。しかしながら、これらは必ずしも完全には満足のいくものではなかった。
例えば、探知犬の使用には、犬及び調教師の訓練に長期間が必要であり、犬の注意持続時間に限界があるために、長時間にわたる探査には不適切であるといった欠点がある。
他の方法に関しては、使用される装置の物理的な嵩、それらのエネルギー消費、及びそれらの操作費用が、運搬が容易で自立型であり、よって任意の種類の場所で使用可能である検出システムの開発に逆行するものである。
【0003】
近年、ガス状の化学種をリアルタイムで検出可能なセンサーの開発が、かなり拡大している。これらのセンサーの機能はセンサー材料(感受性材料)の膜、すなわち少なくとも一の物理的性質が探索するガス状分子と接触すると変化する材料の膜の使用に基づいており、それがこの物理的特徴の任意の変化をリアルタイムで測定することができ、よって探究するガス状分子の存在を証明することができるシステムになる。
他の上述の方法に対する化学センサーの利点は、結果の即時性、小型化の可能性、よって優れた携帯性、取扱性及び自立性、低製造及び操作費用等、多様である。
しかしながら、使用されるセンサー材料の種類に応じて、それらの効率性は極めて変化する。
【0004】
ガス状のニトロ化合物、特に芳香族ニトロ化合物を検出するための多くのセンサー材料が既に提案されており、例えば多孔性シリコン、植物炭、ポリエチレングリコール、アミン類、シクロデキストリン類、キャビタンド類及び蛍光ポリマー(文献[1]ないし[5])を挙げることができる。
さらに、芳香族ニトロ化合物の検出を意図したセンサー用のセンサー材料として、官能化ポリシロキサン類の使用可能性が、McGillら(文献[6])により研究されている。
【0005】
これらの著者は、多数の芳香族ニトロ化合物(NB、NT、TNB、DNT及びTNT)の溶解パラメータの測定、及びこれらのパラメータの定義、種々のポリシロキサン類を含む一連のポリマーにおける、蒸気状態でのそれらの吸着特性(すなわち、それらの吸収及び保持に対する能力)に焦点をあてている。
McGillらは、得られる結果から、ポリマーが芳香族ニトロ化合物に相補的な溶解パラメータを有している場合に、芳香族ニトロ化合物がポリマーと、比例的により強く相互作用可能であると推論している。彼らは、それから、芳香族ニトロ化合物を検出するための最も有望なポリシロキサン類は、そのモノマーが、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)基等の、これらの化合物と水素結合を確立可能な一又は複数の基を担持する芳香環を有するものであると結論づけている。実際、HFIP側基を担持する芳香環を有するモノマーから誘導されるポリシロキサンの薄膜を具備する、表面波を用いたセンサーを使用して実施されるDNT検出試験により、満足のいく結果が得られたと思われる。
【0006】
しかしながら、特に爆発物の検出を意図したセンサーの開発における研究において、本発明者は、全く驚くべきことに、センサー材料として、HFIP型の側鎖も芳香環も有さないシロキサン系ポリマーを使用するセンサーにより、McGillらにより推奨されるポリシロキサンを使用したセンサーよりも、際だって高感度に、ニトロ化合物、特に芳香族ニトロ化合物が検出されることを見出した。
この発見が本発明の基礎である。
【発明の開示】
【0007】
本発明の主題の一つは、次の一般式(I):
【化1】

[上式中、
X及びYは同一でも異なっていてもよく、単結合、又は1〜50の炭素原子を有する飽和又は不飽和で直鎖状の炭化水素基を表し;
及びRは同一でも異なっていてもよく、水素原子、CN基、Zがハロゲン原子を表す基C(Z)、CH(Z)又はCHZ;NH基、基NHR又はNRを表し、ここでR及びRは互いに独立して、ハロゲン原子、メチル基又は直鎖状又は分枝状で飽和又は不飽和であり、2〜20の炭素原子と、場合によっては一又は複数のヘテロ原子及び/又は少なくとも一のヘテロ原子を有する一又は複数の化学官能基を含む炭化水素鎖を表し;但しR及びRの少なくとも一は水素原子ではない]
に相当する少なくとも一のシロキサン繰り返し単位を有する少なくとも一のポリマー、又はこのポリマーと一又は複数の導電性フィラーを含有する複合体の、一又は複数のニトロ化合物を検出するためのセンサーにおけるセンサー材料としての使用にある。
【0008】
一般式(I)において、R及び/又はRがCないしC20炭化水素鎖を表す場合、及びこの鎖が一又は複数のヘテロ原子及び/又は一又は複数の化学官能基を有する場合、これらの原子及びこれらの官能基は、この鎖内部に架橋を形成してもよく、又はそれにより側方に担持されてもよく、さらにはその末端に位置していてもよい。
ヘテロ原子(類)は、炭素又は水素原子外の他の原子、例えば酸素、硫黄、窒素、フッ素、塩素、リン、ホウ素又はケイ素原子であってよい。
【0009】
化学官能基(類)は、特に-COOH、-COOR、-CHO、-CO-、-OH、-OR、-SH、-SR、-SO、-NH、-NHR、-NR、-CONH、-CONHR、-CONR、-C(Z)、-OC(Z)、-COZ、-CN、-COOCHO、及び-COOCOR官能基から選択されてよく、ここで:
・Rは、該化学官能基(類)がCないしC20炭化水素鎖に架橋を形成する場合に二重結合、又は1〜100の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状で飽和又は不飽和の炭化水素基を表し;
・Rは、1〜100の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状で飽和又は不飽和の炭化水素基を表し、この基は、Rにより表される炭化水素基と同一又は異なっていてよく;さらに
・Zは、ハロゲン原子、例えばフッ素、塩素又は臭素原子を表す。
【0010】
さらに一般式(I)において、X及び/又はYが単結合を表す場合、R及び/又はRは、シロキサン繰り返し単位が特に次の式(Ia)、(Ib)及び(Ic):
【化2】



[上式中、X、Y、R及びRは上と同じ意味を有する]
の一つに相当するように、共有結合を介して、それぞれケイ素原子に直接結合している。
【0011】
本発明の好ましい一態様において、シロキサン繰り返し単位は、次の特定の式(Id):
【化3】

[上式中、Xは1〜50の炭素原子を有する飽和又は不飽和で直鎖状の炭化水素基であり、Rは上と同じ意味を有する]
に相当する。
【0012】
特に好ましい特定の式(Id)のシロキサン繰り返し単位は、Xが2〜10の炭素原子を有するアルキレン鎖(すなわち、nが2〜10の範囲にある鎖(CH))を表すもので、これらの単位としては、トリフルオロプロピルメチルシロキサン(X=(CH)、R=CF)及びシアノプロピルメチルシロキサン(X=(CH)、R=CN)を挙げることができる。
【0013】
本発明の他の好ましい変形態様では、ポリマーはホモポリマーである、すなわち一般式(I)のシロキサン繰り返し単位のみからなるものであり、このケースにおいて有利には、ポリトリフルオロプロピルメチルシロキサン類及びポリシアノプロピルメチルシロキサン類、特に50〜100000の範囲の平均分子量を有するものから選択される。
【0014】
変形例として、ポリマーはコポリマーであってもよく、その場合、全てが一般式(I)に相当する異なるシロキサン繰り返し単位からなるか、又は一又は複数の一般式(I)のシロキサン繰り返し単位と、一又は複数の他のシロキサン又は非シロキサン繰り返し単位を含有するものであってもよい。
特に、薄膜の形態での使用が所望される場合、より良好な機械的強度を付与可能な、エチレン、プロピレン、エチレンオキシド、スチレン、ビニルカルバゾール又は酢酸ビニル等のタイプのモノマーから誘導される繰り返し単位を、例えば、ポリマーに含有せしめることが有用である。
【0015】
一般式(I)のシロキサン繰り返し単位を含有するポリマーは本質的に導電性ではないため、本発明においては、得られる複合体が抵抗センサーのセンサー材料としての使用に適した導電性を有するように、十分な量の一又は複数の導電性フィラーと混合することができる。これらの導電性フィラーは、例えばカーボンブラック粒子又は金属(Cu、Pd、Au、Pt等)又は金属酸化物(V、TiO等)粉末であってよい。
【0016】
さらなる本発明の他の好ましい変形態様では、ポリマー又は複合体は、その変化がこのセンサーにより測定されることを意図した、センサー材料の物理的特性に応じて適切に選択される基材の一面又は両面を被覆する薄膜の形態をしている。
変形例として、ポリマー又は複合体はバルク形態、例えばニトロ化合物に対して有用な、該ポリマー又は該複合体を形成する全ての分子が作製されるように、ある程度の間隙率を有する円筒状のものであってよい。
【0017】
薄膜の形態である場合、この膜は、好ましくは10オングストロームから100ミクロン厚である。
このような膜は、基材表面に薄膜を調製するために、今日までに提案されている任意の技術を介して、例えば:
− 基材に、ポリマー又は複合体を含有する溶液をスプレーする、又はスピンコーティングする、又はドロップコーティングすることにより、
− ポリマー又は複合体を含有する溶液において、基材をディップコーティングすることにより、
− ラングミュアー・ブロジェット技術を介して、
− 電気メッキにより、又は
− ポリマーの前駆体モノマーをインシトゥー、すなわち基材表面において直接重合させることにより、
得ることができる。
【0018】
センサーの測定システム及び基材は、ニトロ化合物の存在により誘発される変化がセンサーにより測定されることを意図したポリマー又は複合体の物理的特性に応じて選択される。
この場合、2つの物理的特性の変化は、ポリマーの場合には質量変化、複合体の場合には伝導率の変化を測定することが特に有利であることが証明されている。
よって、センサーは、質量変化の測定用には重量測定用センサー、又は伝導率変化の測定用には抵抗センサーであることが好ましい。
【0019】
挙げることのできる重量測定用センサーの例には、石英微量天秤センサー、弾性表面波(SAW)センサー、例えばラブ波センサー及びLamb波センサー、及びマイクロレバー(microlevers)等が含まれる。
特に好ましい重量測定用センサーは、石英微量天秤センサーである。その操作原理が文献[2]に記載されているこのタイプのセンサーは、概略的には、圧電基材(又は共鳴器)、一般的には金又はプラチナ等の金属層で2面が被覆され、2つの電極に連結された水晶振動子を具備している。センサー材料が基材の一面又は両面を被覆しているため、この材料の質量における任意の変化は、基材の振動数の変化により表される。
【0020】
言うまでもなく、例えば蛍光、発光、UV-可視領域における吸光度、又は赤外領域における波長等の光学的特性における変化といった、質量と伝導率以外の物理的特性の変化が測定できるように設計されたセンサーに、センサー材料として上述したポリマー又は複合体を使用することもできる。
この場合、適切なマーカー、例えば蛍光又は発光マーカーとカップリングさせることにより、特定の光学的特性をこのポリマー又はこの複合体に付与すること、又は光学的特性(吸光度、IRスペクトル等)を有している場合は、ポリマー又は複合体のその内因性の光学的特性を活用することができる。
さらに、同じ装置、又は互いに異なるセンサー材料を含有する「マルチセンサー」といったいくつかのセンサーと組み合わせることもでき、又は互いに異なる測定システム及び基材、例えば一又は複数の重量測定用センサー及び/又は一又は複数の抵抗センサーを具備することもでき、ここで少なくとも一のこれらのセンサーは、上述したポリマー又は複合体を含有することは必須である。
【0021】
本発明のさらなる他の好ましい変形例では、センサーによる検出が意図されるニトロ化合物(類)は、芳香族ニトロ化合物、ニトロアミン類、ニトロサミン類(nitrosamines)及び硝酸エステルから選択され、これらの化合物は固体状、液体状又はガス状(蒸気)の形態であってよい。
挙げることのできる芳香族ニトロ化合物の例には、ニトロベンゼン、ジニトロベンゼン、トリニトロベンゼン、ニトロトルエン、ジニトロトルエン、トリニトロトルエン、ジニトロフルオロベンゼン、ジニトロトリフルオロメトキシベンゼン、アミノジニトロトルエン、ジニトロトリフルオロメチルベンゼン、クロロジニトロトリフルオロメチルベンゼン、ヘキサニトロスチルベン、トリニトロフェニルメチルニトラミン(又はテトリル)又はトリニトロフェノール(又はピクリン酸)が含まれる。
ニトラミン類の例には、シクロテトラメチレンテトラニトラミン(又はオクトーゲン)、シクロトリメチレントリニトラミン(又はヘキソーゲン)及びテトリルが含まれ、ニトロサミンの例はニトロソジメチルアミンである。
硝酸エステルに関して、それらは、例えばペントライト(pentrite)、エチレングリコールジニトラート、ジエチレングリコールジニトラート、ニトログリセリン又はニトログアニジンである。
【0022】
センサー材料として、上述したポリマー又は複合体を含有するセンサーは、特に:
− ppm(100万分の1)オーダー又はppmオーダーの10分の1の濃度で存在している場合でさえ検出可能であるため、非常に高感度でニトロ化合物、特に芳香族ニトロ化合物を検出する能力、
− 素早い応答性、またこの応答の再現性、
− 連続的に機能する能力、
− 経時的な性能の安定性、
− 非常に満足のいく耐用年数、
− 一連のセンサーの作製に適した製造費用、センサーの製造には、非常に少量のポリマー又は複合体(すなわち実際には数mg)しか必要ない、さらには
− 小型化が可能で、その結果、全ての種類の場所において容易な可搬性及び操作性がある、
といった、多くの利点を有することが見出されている。
よってそれらは、特に公共の場所での爆発物の検出に有用である。
【0023】
本発明の他の特徴及び利点は、添付の図面に言及し、ジニトロトリフルオロメトキシベンゼン(DNTFMB)及びジニトロベンゼン(DNB)蒸気を検出するための石英微量天秤センサーに、ポリトリフルオロプロピルメチルシロキサン及びポリシアノプロピルメチルシロキサンの薄膜を使用する実施例に関連した次のさらなる説明を読むことにより明らかになるであろう。
検出されるニトロ化合物としてのDNTFMB及びDNBの選択は、これらの化合物が、トリニトロトルエン(TNT)系の地雷の化学的痕跡中に最も一般的に存在するニトロ誘導体であるジニトロトルエン(DNT)に非常に似ているという点で決定された。
言うまでもなく、以下の実施例は、本発明の主題を例証するためだけのものであって、決して、この主題の限定をなすものではない。
【実施例】
【0024】
実施例1:ポリトリフルオロプロピルメチルシロキサンの薄膜を含むセンサーによるDNTFMBの検出
この実施例では、横断面AT、振動数9MHzを有し、2つの円形の金測定用電極(モデルQA9RA-50、Ametek Precision Instruments)で被覆され、その2面にポリトリフルオロプロピルメチルシロキサンの薄膜を担持している石英を具備してなる石英微量天秤センサーが使用される。
この膜は、石英のそれぞれの面に各0.5秒で6回、5g/lに等しい濃度で、クロロホルムにポリトリフルオロプロピルメチルシロキサン(ABCR社、参照番号FMS-9921)が入った溶液をスプレーすることにより、付着させる。
この付着による石英の振動数の変化は8.1kHzである。
【0025】
センサーを、室温にてDNTFMB蒸気への2回の暴露サイクルにかける:
− 第1サイクルは、5800秒間の周囲空気への暴露段階、続いての600秒間のDNTFMB蒸気への暴露段階、ついで2600秒間の周囲空気への暴露段階を含み;
− 第2サイクルは、600秒のDNTFMB蒸気への暴露段階、続いての4800秒間の周囲空気への暴露段階を含み;
2つのサイクルにおいてDNTFMB濃度は3ppmである。
図1は、これら2つのサイクル中の石英の振動数の変化を示し、曲線Aと曲線Bは、ヘルツ(Hz)で表される上記振動数(F)と、秒で表される時間(t)の関数としてのppmで表されるDNTFMB濃度([C])のそれぞれの変動に対応する。
【0026】
実施例2:ポリトリフルオロプロピルメチルシロキサンの薄膜を含むセンサーによるDNBの検出
この実施例では、石英の両面が、実施例1で使用されたものよりもわずかに厚いポリトリフルオロプロピルメチルシロキサンの薄膜で被覆されている以外は、実施例1で使用したものと同じ石英を具備してなる石英微量天秤センサーが使用される。
この膜は、石英のそれぞれの面に各0.2秒で19回、2g/lに等しい濃度で、クロロホルムにポリトリフルオロプロピルメチルシロキサンが入った溶液をスプレーすることにより、付着させる。
この付着による石英の振動数の変化は9.9kHzである。
【0027】
センサーを、室温にてDNB蒸気への2回の暴露サイクルにかける:
− 第1サイクルは、1700秒間の周囲空気への暴露段階、続いての600秒間のDNB蒸気への暴露段階、ついで2300秒の周囲空気への暴露段階を含み;
− 第2サイクルは、600秒のDNB蒸気への暴露段階、続いての1800秒間の周囲空気への暴露段階を含み;
2つのサイクルにおいてDNB濃度は150ppbである。
図2は、これら2つのサイクル中の石英の振動数の変化を示し、曲線Aと曲線Bは、Hzで表される上記振動数(F)と、秒で表される時間(t)の関数としてのppbで表されるDNB濃度([C])のそれぞれの変化に対応する。
【0028】
実施例3:ポリシアノプロピルメチルシロキサンの薄膜を含むセンサーによるDNTFMBの検出
この実施例では、石英の両面がポリシアノプロピルメチルシロキサンの薄膜で被覆されている以外は、実施例1で使用したものと同じ石英を具備してなる石英微量天秤センサーが使用される。
この膜は、石英のそれぞれの面に各0.2秒で12回、5g/lに等しい濃度で、クロロホルムにポリシアノプロピルメチルシロキサン(ABCR社、参照番号YMS-T31)が入った溶液をスプレーすることにより、付着させる。
この付着による石英の振動数の変化は8.5kHzである。
【0029】
センサーを、室温にて3ppmに等しい濃度のDNTFMB蒸気への暴露サイクルにかけ:このサイクルは、3000秒間の周囲空気への暴露段階、続いて600秒間のDNTFMB蒸気への暴露段階、ついで11400秒間の周囲空気への暴露段階を含む。
図3は、このサイクル中の石英の振動数の変化を示し、曲線Aと曲線Bは、Hzで表される上記振動数(F)と、秒で表される時間(t)の関数としてのppmで表されるDNTFMB濃度([C])のそれぞれの変化に対応する。
【0030】
実施例4:ポリシアノプロピルメチルシロキサンの薄膜を含むセンサーによるDNTFMBの検出
この実施例では、石英の両面がポリシアノプロピルメチルシロキサンの薄膜で被覆されている以外は、実施例1で使用したものと同じ石英を具備してなる石英微量天秤センサーが使用される。
この膜は、石英のそれぞれの面に各0.5秒で2回、5g/lに等しい濃度で、クロロホルムにポリシアノプロピルメチルシロキサン(ABCR社、参照番号YMS-T31)が入った溶液をスプレーすることにより、付着させる。
この付着による石英の振動数の変化は2kHzである。
【0031】
センサーを、室温にて蒸気の形態のDNTFMBへの2回の暴露サイクルにかける:
− 第1サイクルは、1300秒間の周囲空気への暴露段階、続いて600秒間の1ppm濃度でのDNTFMBへの暴露段階、ついで6400秒間の周囲空気への暴露段階を含み;
− 第2サイクルは、600秒間の0.1ppm濃度でのDNTFMBへの暴露段階、続いて1100秒間の周囲空気への暴露段階を含む。
図4は、これらのサイクル中の石英の振動数の変化を示し、曲線Aと曲線Bは、ヘルツ(Hz)で表される上記振動数(F)と、秒で表される時間(t)の関数としてのppmで表されるDNTFMB濃度([C])のそれぞれの変化に対応する。
【0032】
実施例5:ポリシアノプロピルメチルシロキサンの薄膜を含むセンサーの性能の経時的安定性の研究
この実施例では、実施例4で使用したものと同じ石英微量天秤センサーが使用される。
このセンサーを室温で10分間、3ppmに等しい濃度のDNTFMB蒸気への第1暴露にかけ、ついで周囲空気で保管する。
150日の期間にわたって、それぞれ10分の持続時間で、室温にて、3ppmに等しい濃度のDNTFMB蒸気への11回の他の暴露にかける。
図5は、これら12回の暴露中に観察される石英の振動数(△F)における変動値を表し、これらの値は、それぞれの暴露について次式:
△F=暴露時間tにおける振動数−暴露時間t10分における振動数
によって決定され、図5に菱形符号により表される。
【0033】
実施例6:本発明で有用なポリシロキサンの薄膜を含むセンサーとMcGillらにより推奨されたポリシロキサンの薄膜を含むセンサーの性能比較
この実施例では、第1の石英の両面がポリシアノプロピルメチルシロキサンの薄膜で被覆される一方、第2の石英が、そのモノマーが芳香環と2つのHFIP側基を有するポリシロキサンの薄膜で被覆されている点が互いに異なっている以外は、実施例1で使用したものと同じ石英を双方とも具備してなる2つの石英微量天秤センサーが使用される。
このポリシロキサンは、次の式(II):
【化4】

に相当する。
【0034】
膜は、これらの付着物による石英の振動数の変化が、それぞれのセンサーにて2kHzに等しくなるように付着される。
このため、ポリシアノプロピルメチルシロキサン膜は、実施例4に記載されたようにして付着されるが、式(II)のポリシロキサンの膜は、石英の両面に0.2秒を6回、2g/lに等しい濃度で、ジクロロメタンに該ポリシロキサンが入った溶液をスプレーすることにより付着させる。
正確に同一の条件の下で、2つのセンサーを、室温にて10分間、3ppmに等しい濃度のDNTFMB蒸気に暴露させる。
【0035】
この暴露における時間tとt10分での、2つのセンサーの石英の振動数を測定することにより、ポリシアノプロピルメチルシロキサンの薄膜を含むセンサーの石英では600Hz、及び式(II)のポリシロキサンの薄膜を含むセンサーの石英では200Hz-すなわち3倍より少ない-といった振動数の変化が得られる。
【0036】
上述の実施例1ないし4には、本発明のセンサー材料を含有するセンサーが、DNTFMB及びDNBなどのニトロ化合物を非常に高感度で検出可能であることが示されている。またそれらには、これらのセンサーの応答性が可逆的で再現可能であることも示されている。
さらに実施例5には、これらのセンサーの性能が経時的に安定しており、さらに製造後、5ヶ月は、非常に少量のDNTFMBでも検出可能であることが示されている。
最後に、実施例6には、これらのセンサーが、芳香族ニトロ化合物に関し、McGillらにより推奨されるポリシロキサンの薄膜を含むセンサーよりも、非常に高感度であることが示されている。
【0037】
引用した参考文献
[1]Contentら, Chem. Eur. J., 6, 2205, 2000
[2]Sanchez-Pedronoら, Anal. Chim. Acta, 182, 285, 1986
[3]Yangら, Langmuir, 14, 1505, 1998
[4]Nelliら, Sens. Actuators B, 13-14, 302, 1993
[5]Yangら, J. Am. Chem. Soc., 120, 11864, 1998
[6]McGillら, Sensors and Actuators B65, 5-9, 2000
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、3ppmに等しい濃度のDNTFMB蒸気へのこのセンサーの2回の暴露サイクル(曲線B)での、ポリトリフルオロプロピルメチルシロキサンの薄膜を含む石英微量天秤センサーの石英の振動数(曲線A)の変化を表す。
【図2】図2は、150ppb(10億分の1)に等しい濃度のDNB蒸気への、このセンサーの2回の暴露サイクル(曲線B)中での、ポリトリフルオロプロピルメチルシロキサンの薄膜を含む石英微量天秤センサーの石英の振動数(曲線A)の変化を表す。
【図3】図3は、3ppmに等しい濃度のDNTFMB蒸気への、このセンサーの暴露サイクル(曲線B)での、ポリシアノプロピルメチルシロキサンの薄膜を含む石英微量天秤センサーの石英の振動数(曲線A)の変化を表す。
【図4】図4は、第1サイクルでは1ppm、第2サイクルでは0.1ppmに等しい濃度のDNTFMB蒸気への、このセンサーの2回の暴露サイクル(曲線B)での、ポリシアノプロピルメチルシロキサンの薄膜を含む石英微量天秤センサーの石英の振動数(曲線A)の変化を表す。
【図5】図5は、150日にわたってそれぞれ10分間、このセンサーをDNTFMB蒸気に12回暴露することによって得られた、ポリシアノプロピルメチルシロキサンの薄膜を含む石英微量天秤センサーの石英の振動数(△F)にける変動値を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(I):
【化1】

[上式中、
X及びYは同一でも異なっていてもよく、単結合、又は1〜50の炭素原子を有する飽和又は不飽和で直鎖状の炭化水素基を表し;
及びRは同一でも異なっていてもよく、水素原子、CN基、Zがハロゲン原子を表す基C(Z)、CH(Z)又はCHZ;NH基、基NHR又はNRを表し、ここでR及びRは互いに独立して、ハロゲン原子、メチル基又は直鎖状又は分枝状で飽和又は不飽和であり、2〜20の炭素原子と、場合によっては一又は複数のヘテロ原子及び/又は少なくとも一のヘテロ原子を有する一又は複数の化学官能基を含む炭化水素鎖を表し;但しR及びRの少なくとも一は水素原子ではない]
に相当する少なくとも一のシロキサン繰り返し単位を有する少なくとも一のポリマー、又はこのポリマーと一又は複数の導電性フィラーを含有する複合体の、一又は複数のニトロ化合物を検出するためのセンサー材料としてのセンサーにおける使用。
【請求項2】
シロキサン繰り返し単位が、次の特定の式(Id):
【化2】

[上式中、Xは1〜50の炭素原子を有する飽和又は不飽和で直鎖状の炭化水素基であり、Rは上と同じ意味を有する]
に相当する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
特定の式(Id)において、Xが2〜10の炭素原子を有するアルキレン鎖を表す、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
シロキサン繰り返し単位が、トリフルオロプロピルメチルシロキサン又はシアノプロピルメチルシロキサンである、請求項1ないし3の何れか一項に記載の使用。
【請求項5】
ポリマーが、ポリトリフルオロプロピルメチルシロキサン及びポリシアノプロピルメチルシロキサンから選択される、請求項1ないし4の何れか一項に記載の使用。
【請求項6】
ポリマーが50〜100000の範囲の平均分子量を有する、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
複合体の導電性フィラーが、カーボンブラック粒子及び金属及び金属酸化物粉末から選択される、請求項1ないし6の何れか一項に記載の使用。
【請求項8】
ポリマー又は複合体が、基材の一面又は両面を被覆する薄膜の形態で使用される、請求項1ないし7の何れか一項に記載の使用。
【請求項9】
薄膜が10オングストロームから100ミクロン厚である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
薄膜が、スプレー、スピンコーティング、ドロップコーティング、ディップコーティング、ラングミュアー・ブロジェット技術、電気メッキ、及びポリマーの前駆体モノマーのその場重合から選択される技術を介して調製される、請求項8又は9に記載の使用。
【請求項11】
化学センサーによるニトロ化合物の検出が、ポリマーの質量又は複合体の伝導率の変化を測定することにより実施される、請求項1ないし10の何れか一項に記載の使用。
【請求項12】
センサーが重量測定用センサーである、請求項1ないし11の何れか一項に記載の使用。
【請求項13】
センサーが石英微量天秤センサーである、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
センサーが抵抗センサーである、請求項1ないし11の何れか一項に記載の使用。
【請求項15】
センサーが、一又は複数の重量測定用センサー及び/又は一又は複数の抵抗センサーを含むマイクロセンサーであり、これらのセンサーの少なくとも一が、上述したポリマー又は複合体を含む、請求項1ないし14の何れか一項に記載の使用。
【請求項16】
検出されるニトロ化合物が、芳香族ニトロ化合物、ニトロアミン類、ニトロサミン類及び硝酸エステルから選択される、請求項1ないし15の何れか一項に記載の使用。
【請求項17】
検出されるニトロ化合物が、固体、液体又はガスの形態である、請求項1ないし16の何れか一項に記載の使用。
【請求項18】
検出されるニトロ化合物が、ニトロベンゼン、ジニトロベンゼン、トリニトロベンゼン、ニトロトルエン、ジニトロトルエン、トリニトロトルエン、ジニトロフルオロベンゼン、ジニトロトリフルオロメトキシベンゼン、アミノジニトロトルエン、ジニトロトリフルオロメチルベンゼン、クロロジニトロトリフルオロメチルベンゼン、ヘキサニトロスチルベン、トリニトロフェニルメチルニトラミン及びトリニトロフェノールから選択される、請求項1ないし17の何れか一項に記載の使用。
【請求項19】
爆発物を検出するための、請求項1ないし18の何れか一項に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2007−513347(P2007−513347A)
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541993(P2006−541993)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【国際出願番号】PCT/FR2004/050646
【国際公開番号】WO2005/057198
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(501402671)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (23)
【Fターム(参考)】