説明

ニューロキニンアンタゴニストを含む製剤

(4R)−4−[N’−メチル−N’−(3,5−ビストリフルオロメチル−ベンゾイル)−アミノ]−4−(3,4−ジクロロベンジル)−ブト−2−エン酸 N−[(R)−ε−カプロラクタム−3−イル]−アミド、またはその薬学的に許容される塩または溶媒和物および担体を含む固体分散体。かかる固体分散体を含む医薬組成物は、内臓の機能性運動障害、とりわけ過敏性腸症候群もしくは機能性消化不良、または膀胱障害、とりわけ尿失禁を有する患者の処置に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューロキニンアンタゴニスト、特にアシルアミノアルケニレンアミドを含む新規医薬組成物に関する。
【発明の概要】
【0002】
より具体的には、本発明は、医薬成分として(4R)−4−[N’−メチル−N’−(3,5−ビストリフルオロメチル−ベンゾイル)−アミノ]−4−(3,4−ジクロロベンジル)−ブト−2−エン酸 N−[(R)−ε−カプロラクタム−3−イル]−アミドまたはその塩または溶媒和物、および担体を含む固体分散体に関する。該医薬成分はまた、N−[(R,R)−(E)−1−(3,4−ジクロロベンジル)−3−(2−オキソアゼパン−3−イル)−カルバモイル]−アリル−N−メチル−3,5−ビス(トリフルオロメチル)−ベンズアミドとしても公知であり、式I
【化1】


で示される化学構造を有する。
【0003】
式Iの化合物、とりわけその半水和物は、ニューロキニン(物質P、ニューロキニンA、ニューロキニンB)と関係する多くの状態、例えば(i)内臓過敏および/または変化した運動反応(電解質/水分泌を含む)と関係するものを含む内臓の機能性運動障害、例えば過敏性腸症候群(IBS)、便秘、下痢、機能的消化不良、胃食道逆流疾患、機能性腹部膨満、ならびに機能性腹部痛のような機能性腸障害および機能性胃腸障害、術後内臓痛、内臓平滑筋痙攣、および過敏性膀胱のような内臓過敏と関係する他の状態、ならびに国際特許出願WO03/66062に記載の他の機能性腸障害(内臓過敏または異常な運動反応とは必ずしも関係しない)、または(ii)尿失禁のような膀胱障害(それらは、例えば、国際特許出願WO05/39563に記載の、切迫性尿失禁、緊張性失禁、混合型刺激性/緊張性失禁、または神経性失禁(排尿筋不安定および排尿筋過反射、低下した膀胱コンプライアンス、神経性尿意促迫、膀胱関連内臓痛)であり得る。)の処置に有用である。本発明は、過敏性腸症候群(IBS)、とりわけ下痢型IBS、および機能性消化不良(FD)の処置に特に重要である。式Iの化合物の製造方法は、国際特許出願WO98/07694(その内容は、参照により本明細書中に包含される。)に記載される。
【0004】
本化合物は、特に、薬剤バイオアベイラビリティならびに患者間および患者内の用量応答の変動性の問題を含む、ガレニック(galenic)組成物の投与全般および製造に関して高度に特異な困難性を示し、実質的に不水溶性特性の化合物についての非常套的な投与量形態の開発を必要とする。
【0005】
現在、(4R)−4−[N’−メチル−N’−(3,5−ビストリフルオロメチル−ベンゾイル)−アミノ]−4−(3,4−ジクロロベンジル)−ブト−2−エン酸 N−[(R)−ε−カプロラクタム−3−イル]−アミドが、有利な物理的および化学的安定性ならびに優れたバイオアベイラビリティプロフィールを有する固体分散体として製剤され得ることが見出されている。
【0006】
第一局面において、本発明は、(4R)−4−[N’−メチル−N’−(3,5−ビストリフルオロメチル−ベンゾイル)−アミノ]−4−(3,4−ジクロロベンジル)−ブト−2−エン酸 N−[(R)−ε−カプロラクタム−3−イル]−アミド、またはその薬学的に許容される塩または溶媒和物および担体を含む固体分散体を提供する。
【0007】
本明細書で用いる用語“固体分散体”は、少なくとも2個の成分を含む固体状態の系であって、1成分が、他の1または複数の成分中、実質的に均一に分散される系を意味すると解される。これには、固体またはガラス溶液が含まれ、すなわち、成分の分散体が、該系が化学的および物理的に均一または全体として均質または単相からなるようなもの(熱力学的に定義される通り)である。“固体分散体”は、活性成分および担体媒体の共沈殿または共融解を含んでいてよく、ここで該活性成分は、該担体系全体に実質的に均一に分散される。該活性成分は、ガラス状の無定形または微結晶性分散形態で存在していてよい。それは、無定形および結晶形態の混合物として存在していてよい。用語“固体分散体”はまた、2相以上からなる系を包含し得る。そのことは、活性成分が、純粋な薬物相および/または薬物富化相および/または薬物の乏しい相のような多相に存在していてよいことを意味する。かかる多相系において、薬物の存在しない相もあり得る。本明細書で用いる用語“固体分散体”にはまた、活性成分の共融混合物が包含される。固体またはガラス溶液を含む固体分散体は、先行技術文献、例えば、A. T. M. Serajuddin “Solid Dispersion of Poorly Water−Soluble Drugs: Early Promises, Subsequent Problems and Recent Breakthroughs” J. Pharm. Sci. 88:1058−1066 (1999); C. Leuner and J. Dressman “Improving drug solubility for oral delivery using solid dispersions” European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 50:47−60 (2000) or Chou and Riegelman, J. Pharm. Sci. 60, 1281s. (1971) にて公知であり、詳しく記載されている。
【0008】
本明細書全体および特許請求の範囲において、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、用語“包含(comprise)”、または“含む(comprises)”もしくは“含んでいる(comprising)”のような変形は、指定された個体(integer)もしくは段階(step)または複数の個体もしくは複数の段階の群を含むことを意味するが、全ての他の個体もしくは段階または複数の個体もしくは複数の段階の群を除外するものではないことが理解されなければならない。
【0009】
式Iの化合物には、1個以上の原子が、同じ原子番号を有するが、原子質量または質量数が通常天然で見出される原子質量または質量数と異なる原子により置換される、その全ての薬学的に許容される同位体標識した形態が含まれる。本発明の化合物に包含されるのに適する同位体の例には、水素、例えばHおよびH、炭素、例えば11C、13Cおよび14C、塩素、例えば36Cl、フッ素、例えば18F、ヨウ素、例えば123Iおよび125I、窒素、例えば13Nおよび15N、酸素、例えば15O、17Oおよび18O、ならびに硫黄、例えば35Sの同位体が含まれる。
【0010】
式Iの化合物の特定の同位体標識した形態、例えば放射性同位体を含むものは、薬剤および/または基質の組織分布実験において有用である。放射性同位体トリチウム(H)および炭素−14(14C)は、それらの挿入の容易性および検出容易性の観点からこの目的に特に有用である。重水素(H)のようなより重い同位体での置換は、結果としてより優れた代謝安定性、例えば増加したインビボ半減期または減少した必要投与量をもたらす、いくつかの治療上の利点をもたらし、それにより、いくつかの状況に好適であり得る。11C、18F、15O、および13Nのような陽電子放出同位体での置換は、基質受容体占有を調べるための陽電子放射断層撮影(PET)実験において有用であり得る。
【0011】
式Iの化合物の同位体標識した形態は、一般的に、当業者に公知の常套技術または下記の実施例に記載の方法と同様の方法により、標識していない以前用いられた試薬の代わりに適当な同位体標識した試薬を用いて製造され得る。
【0012】
第二局面において、本発明は、(4R)−4−[N’−メチル−N’−(3,5−ビストリフルオロメチル−ベンゾイル)−アミノ]−4−(3,4−ジクロロベンジル)−ブト−2−エン酸 N−[(R)−ε−カプロラクタム−3−イル]−アミド、またはその薬学的に許容される塩または溶媒和物および担体を含む固体分散体を含む医薬組成物を提供する。
【0013】
第三局面において、本発明は、ニューロキニンアンタゴニストで処置され得る障害を有する対象の処置方法であって、(4R)−4−[N’−メチル−N’−(3,5−ビストリフルオロメチル−ベンゾイル)−アミノ]−4−(3,4−ジクロロベンジル)−ブト−2−エン酸 N−[(R)−ε−カプロラクタム−3−イル]−アミドまたはその薬学的に許容される塩または溶媒和物および担体を含む固体分散体を含む治療的有効量の医薬組成物を、かかる処置を必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。
【0014】
第四局面において、本発明は、(i)消化器障害、とりわけ下痢型IBSおよび機能性消化不良、(ii)膀胱障害、とりわけ切迫性尿失禁、または(iii)呼吸器疾患、とりわけ喘息を有する対象の処置方法であって、(4R)−4−[N’−メチル−N’−(3,5−ビストリフルオロメチル−ベンゾイル)−アミノ]−4−(3,4−ジクロロベンジル)−ブト−2−エン酸 N−[(R)−ε−カプロラクタム−3−イル]−アミドまたはその薬学的に許容される塩または溶媒和物および担体を含む固体分散体を含む治療的有効量の医薬組成物を、かかる処置を必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。
【0015】
本発明の固体分散体は、多数の方法により製造され得る。
【0016】
第一の方法において、該薬剤基質または活性成分を、1個以上の担体と共に溶媒または溶媒混合物中に溶解する。いくつかまたは全ての賦形剤(例えば固着防止剤、不活性充填剤、界面活性剤、湿潤剤、pH調節剤または添加剤)はまた、溶解、懸濁、または膨潤状態で溶媒もしくは溶媒混合物中に存在し得る。得られる供給溶液または懸濁液を、噴霧乾燥させるか、または噴霧乾燥造粒方法により乾燥させて固体分散体を形成し得る。用語“噴霧乾燥”は、供給懸濁液または溶液を小さい液滴に噴霧化し、そして溶媒の蒸発のための強力な駆動力(すなわち、高温乾燥ガスもしくは部分的減圧またはそれらの組合せ)を有するプロセッサーチャンバー中で混合物から溶媒を迅速に除去することを含む方法を意味する。用語“噴霧乾燥造粒”は、溶媒溶液または懸濁液を、適当な化学的および物理的に不活性な充填剤、すなわち噴霧乾燥したラクトース、またはマンニトールに、典型的な2方向または3方向ノズルを用いて噴霧する方法を意味する。
【0017】
第二の方法において、該供給溶液または懸濁液は、噴霧乾燥機または流動層噴霧乾燥機のプロセスチャンバー中で噴霧化および乾燥されて、その後に流動床中で凝集される一次粒子を形成する。
【0018】
第三の方法において、該供給溶液または懸濁液は、不活性充填剤物質が充填される流動床型プロセッサーまたはパンコーティング機(pan−coater)のプロセッサーチャンバー中に噴霧化されることにより乾燥される。乾燥中、該充填剤は、凝集塊を形成し、および/またはコーティングされ、および/または固体分散体の層構造を形成する。底部噴霧モードまたは頂部噴霧モード、好ましくは底部噴霧モードが用いられ得る。
【0019】
第四の方法において、固体分散体を、薬剤および/または担体を融解することにより製造する。溶融分散体の噴霧化および再固化(resodification)は、適当な流動床プロセッサー(噴霧凝結法)で行われる。あるいは、加熱式高剪断ミキサーにおける典型的な溶解造粒法を用いる。
【0020】
第五の方法において、該供給溶液または懸濁液は、例えば、ロータリーエバポレーター(rotavapor)様プロセッサーまたはパドルドライヤー型プロセッサー中、高温および/または部分的減圧で、乾燥され、ならびに/または乾燥および剪断される。
【0021】
第六の方法において、固体分散体は、溶融押出機を用いて薬剤および/または担体を溶解することにより製造される。
【0022】
第七の方法において、固体分散体は、薬剤および/または担体を、充填剤物質の存在下で溶解することにより製造され、ここで粒子は、溶融押出機を用いて、凝集塊形成され、そして/またはコーティングされる。
【0023】
第八の方法において、固体分散体は、溶媒または低融点物質(例えば、ポリマー、可塑剤、ワックス、界面活性剤)を用いて該薬剤を溶解し、次いで、溶融押出機を用いてそれを担体中に混合して製造される。
【0024】
第九の方法において、固体分散体は、溶媒を用いて該薬剤を溶解し、それを、例えば溶融押出機の真空ポートの前後で密閉材を用いて、減圧下で乾燥させて製造される。
【0025】
第十の方法において、固体分散体は、例えば供給溶液もしくは懸濁液と、COとの、または何れか他の非溶媒/抗溶媒との急速混合により沈殿させて製造される。
【0026】
該溶媒蒸発方法に適当な溶媒は、エタノール、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノールおよびブタノールのようなアルコールである。アセトンおよびメチルエチルケトンのようなケトンならびに塩化メチレンのような種々の他の溶媒である。これらの溶媒の混合物もまた、使用され得る。溶媒または溶媒混合物は、供給溶液中の選択したポリマー担体の膨潤を増し、それにより、生成物(=固体分散体)の分散グレードを最終的に最適化するために40%まで水分を含んでいてもよい。
【0027】
本発明の固体分散体は、錠剤またはカプセル剤形態にさらに処理され得るか、または複数粒子系、例えばミニ錠剤、または口腔内に流し入れる顆粒(pour−into mouth granulate)、または経口用粉末の構成のために処理されてよい。あるいは、適当な希釈剤中、他の賦形剤(すなわち、再結晶/沈殿阻止ポリマー、味覚遮蔽(taste−masking)成分など)と組み合わせて固体分散体を分散させて、限られた使用中の安定性を有する小児処置用の、すぐに使用できる懸濁液製剤を提供することもできる。
【0028】
本発明の一態様において、(4R)−4−[N’−メチル−N’−(3,5−ビストリフルオロメチル−ベンゾイル)−アミノ]−4−(3,4−ジクロロベンジル)−ブト−2−エン酸 N−[(R)−ε−カプロラクタム−3−イル]−アミドまたはその薬学的に許容される塩または溶媒和物および担体としてのポリマー担体を含む固体分散体が提供される。
【0029】
適当なポリマー担体には、水溶性ポリマー、好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)のようなセルロース誘導体、またはポリビニルピロリドン(PVP)もしくはコポビドン(1−ビニル−2−ピロリドンおよび酢酸ビニルのコポリマー)が含まれる。良好な結果が、例えば20℃にて2重量%水溶液について測定するとき、約0.01cpsないし約100cps、例えば約0.01cpsないし約50cps、好ましくは約0.01cpsないし約20cpsの、見掛け上、低動粘性のHPMC、例えばHPMC 3cpsを用いて得られ得る。HPMCは、公知であり、例えば、Handbook of Pharmaceutical Excipients, Second Edition, Pharmaceutical Society of Great Britain and American Pharmaceutical Association, 1994, pages 229−232(その内容は、参照により本明細書中に包含される。)に記載されている。HPMC 3cpsを含むHPMCは、ShinEtsu companyの商品名Pharmacoat(登録商標)603の下に市販されている。PVPは、例えば、商品名Povidone(登録商標)(Handbook of Pharmaceutical Excipients, pages 392−399)の下に市販されており、約8,000ないし約50,000ダルトンの間の平均分子量を有するPVP、例えばPVP K30が好ましい。
【0030】
適当なポリマー担体にはまた、pH依存性の膨潤を示し、故に胃環境中での固体分散体からの薬剤放出の遅延または阻止を示すが、腸液中での膨潤または溶解を示し得るポリマーが含まれる。錠剤の腸溶コーティングに用いられるこれらのポリマーの例には、セルロース誘導体であるヒドロキシル−プロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)、例えばAqoat MFまたはHFおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(例えば、HPMCP−HP50またはHPMC−HP55)が含まれる。適当なポリマー担体にはまた、例えば公知かつRoehm Pharma GmbHからの商品名Eudragit(登録商標)下に市販されるもののような、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸およびアクリル酸エステルからなる群から選択されるモノマーから形成されるコポリマーが含まれる。とりわけ好ましいポリマーは、メタクリル酸およびメタクリル酸低級アルキルエステルからなる群から選択されるモノマーから形成される1:1または1:2コポリマー、例えばメタクリル酸およびメタクリル酸メチルから形成される1:1または1:2コポリマーである。該1:1コポリマーは、商品名Eudragit(登録商標)Lの下に市販され、該1:2コポリマーは、商品名Eudragit(登録商標)Sの下に市販される。特に好ましいポリマーは、公知かつ商品名Eudragit(登録商標)L 100−55の下に市販される、メタクリル酸およびアクリル酸エチルエステルの1:1コポリマーである。該腸溶性ポリマーはまた、GIT中で局所利用可能な薬剤濃度に最適化するのを可能にし、それによりバイオアベイラビリティを最適化するために、胃液に対して耐性でないポリマー(例えば、HPMCまたはPVP)と組み合わせて用いられ得る。
【0031】
別の態様において、該ポリマー担体は、以下のものを含む:
(i)ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)またはその誘導体。HPC誘導体の例には、例えば25℃にて2%水溶液中で測定するとき、約0.01cpsないし約400cps、例えば約0.01cpsないし約150cpsの、水性媒体中で、例えば水中で低い動粘性を有するものが含まれる。好ましいHPC誘導体は、低置換度であり、かつ例えば約5000ないし約200,000ダルトン、例えば約50,000ないし約150,000ダルトンの平均分子量を有する。市販されているHPCの例としては、Aqualon companyのKlucel(登録商標)LF、Klucel(登録商標)EFおよびKlucel(登録商標)JF;ならびに、Nippon Soda LtdのNisso(登録商標)HPC−Lが挙げられる;
【0032】
(ii)シクロデキストリン、例えばベータ−シクロデキストリンまたはアルファ−シクロデキストリン。適当なベータ−シクロデキストリンの例としては、メチル−ベータ−シクロデキストリン;ジメチル−ベータ−シクロ−デキストリン;ヒドロキシプロピル−ベータ−シクロデキストリン;グリコシル−ベータ−シクロデキストリン;マルトシル−ベータ−シクロ−デキストリン;スルホ−ベータ−シクロデキストリン;ベータ−シクロデキストリンのスルホ−アルキルエーテル、例えばスルホ−C[1−4]−アルキルエーテルが挙げられる。アルファ−シクロデキストリンの例としては、グルコシル−アルファ−シクロデキストリンおよびマルトシル−アルファ−シクロデキストリンが挙げられる;
【0033】
(iii)ポリエチレングリコール(PEG)。例としては、1000ないし9000ダルトン、例えば約1800ないし7000の平均分子量を有するPEG、例えば、PEG2000、PEG4000またはPEG6000が挙げられる(Handbook of Pharmaceutical Excipients, pages 355−361);
(iv)ポリメタクリレート(単に胃液耐性のみではない);および
(v)ポリビニルアルコールポリマー、およびPVPまたは他のポリマーとのそのコポリマー。
【0034】
別の態様において、該担体は、サッカロース、例えばマンニトール、ソルビトールまたはウレアのような物質などの非晶質(amorphous)ガラスを形成し得る低分子量物質を含む非ポリマー担体である。
【0035】
該担体は、1個以上の界面活性剤または湿潤剤、例えば非イオン性、イオン性、陰イオン性または両性の界面活性剤をさらに含み得る。適当な界面活性剤/湿潤剤の例としては、例えば商品名Pluronic(登録商標)またはPoloxamer(登録商標)の下に公知のポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン コポリマーおよびブロック コポリマー、商品名Tween(登録商標)の下に公知のタイプのモノ−およびトリ−ラウリル、パルミチル、ステアリルおよびオレイルエステルを含むポリオキシエチレン−ソルビタン−脂肪酸エステル、商品名Myrj(登録商標)の下に公知のタイプのポリオキシエチレンステアリン酸エステルを含むポリオキシエチレン脂肪酸エステル、商品名Brij(登録商標)の下に公知のポリ−オキシエチレンアルキルエーテル、アルキル硫酸ナトリウムおよびアルキルスルホン酸ナトリウム、ならびにアルキルアリールスルホン酸ナトリウム、水溶性トコフェリル・ポリエチレングリコール・コハク酸エステル(TPGS)、ポリグリセロール脂肪酸エステル、アルキレンポリオールエーテルまたはエステル類、ポリエチレングリコール・グリセリル脂肪酸エステル、ステロールおよびその誘導体、トランスエステル化、ポリオキシエチル化カプリル−カプリン酸グリセリド、糖脂肪酸エステル、PEGステロールエーテル、リン脂質、脂肪酸の塩類、脂肪酸硫酸塩およびスルホン酸塩、中鎖または長鎖アルキル、例えばC−C18、アンモニウム塩類、胆汁酸またはその塩;例えば、コール酸、グリコール酸もしくは塩、例えば塩化ナトリウム塩および飽和C10−C22脂肪酸のポリオキシエチレンモノエステルが挙げられる。
【0036】
さらなる態様において、本発明は、(4R)−4−[N’−メチル−N’−(3,5−ビストリフルオロメチル−ベンゾイル)−アミノ]−4−(3,4−ジクロロベンジル)−ブト−2−エン酸 N−[(R)−ε−カプロラクタム−3−イル]−アミドまたはその薬学的に許容される塩、ポリマー担体、ならびにGIT中でのポリマー担体の膨潤を遅延または促進させ、それにより薬剤放出を所望の場所に標的化し得る、酸、塩基または緩衝剤のようなpH調節剤を含む固体分散体を含む医薬組成物を提供する。さらに、充填剤、崩壊剤、抗酸化剤、結合剤または固着防止剤のような慣習的添加剤は、該固体分散体自体の一部であり得る。これらの添加剤が該分散体の一部として包含されるとき、それらは、該固体分散体が形成される供給溶液中に溶解または懸濁または混合され得るか、あるいは例えばパンコーティング剤または流動床プロセッサーにおいて出発物質(充填剤)として用いられ得る。
【0037】
適当なpH調節剤には、クエン酸、乳酸、コハク酸、ならびに酢酸ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化ナトリウムのような塩基および緩衝系が含まれるが、これらに限定されない。
【0038】
適当な充填剤(または希釈剤)には、ラクトース、スクロース、アミロース、デキストロース、マンニトールおよびイノシトール、キシリトール、微結晶セルロースのような水溶性または難水溶性化合物が含まれるが、これらに限定されず、好ましくはラクトース、マンニトールまたは微結晶セルロースである。微結晶セルロースは、商品名Avicel(登録商標)、Pharmacel(登録商標)、Emcocell(登録商標)、Vivapur(登録商標)の下に市販されており、例えばFMC Corporateから市販されているAvicel(登録商標)が好ましい(Handbook of Pharmaceutical Excipients, pages 84−87)。該充填剤はまた、ビーズまたはペレットのような粗いほぼ球状の粒子形態で用いられ得る;コーティングおよび積層技術に好ましい出発物質であるCellets(登録商標)、Celsphere(登録商標)。適当な充填剤および固着防止剤はまた、Aerosil(登録商標)200のようなコロイド状二酸化ケイ素またはタルクを含む。
【0039】
薬学的に許容される崩壊剤の例には、デンプン;粘土;セルロース;アルギン酸塩;ゴム;架橋ポリマー、例えば架橋ポリビニルピロリドンもしくはクロスポビドン、例えば、International Specialty Products(Wayne, NJ)のPOLYPLASDONE XL;架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムもしくはクロスカルメロースナトリウム、例えば、FMCのAC−DI−SOL;および、架橋カルボキシメチルセルロースカルシウム;大豆多糖類;ならびに、グアーガムが含まれるが、これらに限定されない。
【0040】
本発明の医薬組成物は、崩壊剤、滑剤、流動促進剤、結合剤および充填剤のような、投与量形態の製造において常用される付加的賦形剤を含んでいてよい。
【0041】
薬学的に許容される滑剤および薬学的に許容される流動促進剤の例には、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、デンプン、タルク、第三リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ポリエチレングリコール、粉末セルロース、ベヘン酸グリセリル、ステアリン酸、硬化ヒマシ油、モノステアリン酸グリセリン、およびステアリルフマル酸ナトリウムが含まれるが、これらに限定されない。
【0042】
薬学的に許容される結合剤の例には、デンプン;セルロースおよびその誘導体、例えば微結晶セルロース、例えばFMC(Philadelphia, PA)のAVICEL PH、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシルエチルセルロースおよびヒドロキシルプロピルメチルセルロース、Dow Chemical Corp. (Midland, MI)のMETHOCEL;スクロース;デキストロース;コーンシロップ;多糖類;ならびに、ゼラチンが含まれるが、これらに限定されない。
【0043】
薬学的に許容される充填剤および薬学的に許容される希釈剤の例には、粉砂糖、圧縮糖(compressible sugar)、デキストレート(dextrate)、デキストリン、デキストロース、ラクトース、マンニトール、微結晶セルロース、粉末セルロース、ソルビトール、スクロースおよびタルクが含まれるが、これらに限定されない。
【0044】
本発明の医薬組成物は、抗酸化剤(例えば、パルミチン酸アスコルビル、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、トコフェロール、没食子酸プロピルおよびフマル酸)、抗菌剤、酵素阻害剤、安定化剤(例えば、マロン酸)、および/もしくは保存剤のような、添加剤または成分をさらに含んでいてよい。
【0045】
活性成分は、組成物中、約0.01重量%ないし約80重量%の量で;例えば、0.01重量%ないし約80重量%、0.1重量%ないし約70重量%、例えば1重量%ないし60重量%、例えば、2重量%、5重量%、10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、50重量%または60重量%の量で存在し得る。
【0046】
本発明の固体分散体中、担体:薬剤成分(すなわち、(4R)−4−[N’−メチル−N’−(3,5−ビストリフルオロメチル−ベンゾイル)−アミノ]−4−(3,4−ジクロロベンジル)−ブト−2−エン酸 N−[(R)−ε−カプロラクタム−3−イル]−アミドまたはその塩または溶媒和物)の重量比は、1:0.01ないし1:0.8、好ましくは1:0.2ないし1:0.8である。
【0047】
担体、好ましくはポリマー担体は、組成物の約0.1重量%ないし99.99重量%の量で存在し得る。
可塑剤または界面活性剤が存在するとき、それは、一般的に、組成物の約0.01重量%ないし約50重量%、例えば、約1重量%ないし約30重量%、例えば5重量%ないし20重量%の量で存在し得る。
【0048】
崩壊剤が医薬組成物中に存在するとき、それは、一般的に、組成物の約1重量%ないし約30重量%、約5重量%ないし約10重量%ないし約20重量%の量で存在し得る。
【0049】
充填剤が存在するとき、それは、一般的に、組成物の約0.01重量%ないし約99重量%、例えば約0.5重量%ないし約70重量%、例えば約30重量%、40重量%または50重量%ないし約60重量%の量で存在し得る。
【0050】
滑剤が存在するとき、それは、一般的に、組成物の約0.1重量%ないし約5重量%の量で存在し得る;一方、例えば流動促進剤は、組成物の約0.1重量%ないし約10重量%の量で存在し得る。
【0051】
添加剤、例えば抗酸化剤が存在するとき、それらは、一般的に、組成物の約0.05重量%ないし5重量%、好ましくは0.05重量%ないし1重量%含まれ得る。
【0052】
pH調節剤が存在するとき、それらは、一般的に、組成物の約0.05−20重量%含まれ得る。
【0053】
必要ならば、本発明の固体分散体は、好ましくは、投与のために、例えば錠剤、カプセル剤または顆粒もしくは粒状物もしくは粉末のような多粒子系の単位投与量形態に製造される。該組成物が単位投与量形態であるとき、各単位投与量は、0.1ないし150mgの活性剤、例えば0.1mg、1mg、5mg、10mg、15mg、25mg、50mgまたは100mg、例えば5ないし100mgの活性剤を適当に含み得る。かかる単位投与量形態は、特定の治療目的、治療段階などによって、1日1ないし5回の投与に適当である。
【0054】
多粒子系(すなわち、ミニ錠剤)は、高吸湿性の崩壊剤(それらのより大きい表面積に関して)の通常必要とされる量をさらに減少することが示され、従って、単一投与量形態と比較して低い吸湿特性に関して、より高い物理的安定性を有する可能性があり得る。
【0055】
用いる投与量形態、例えば錠剤、ミニ錠剤、ビーズ、ペレット、顆粒、粒状物または粉末は、例えば腸溶コーティングを用いてコーティングされていてよい。適当なコーティングには、酢酸フタル酸セルロース;ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート;ポリメチルアクリル酸コポリマー、例えばEudragit LまたはEudragit S;または、酢酸コハク酸・ヒドロキシル−プロピルメチルセルロース、例えばAqoat MFまたはHFが含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
本発明の医薬組成物の単位投与量は、好ましくは、結晶形成を誘導し、および該組成物全体の安定性に負の影響を与える、吸湿を避けるために適当なブリスターパックに区分化される。これは、該組成物が任意の崩壊剤のような吸湿性(hydroscopic)物質を含むとき、特に重要である。
【0057】
本発明の医薬組成物は、経口投与されるとき、例えば、標準的バイオアベイラビリティ試験で得られる一貫して高レベルのバイオアベイラビリティの観点において、とりわけ有利な特性を示す。かかる試験は、クロマトグラフ法、例えばHPLCを用いて、動物、例えばラットまたはイヌまたは健常ボランティアにおいて行われる。
【0058】
本発明は、以下の非限定的実施例で説明される。
【実施例】
【0059】
実施例
これらの実施例において、“化合物A”は、微粒化(4R)−4−[N’−メチル−N’−(3,5−ビストリフルオロ−メチル−ベンゾイル)−アミノ]−4−(3,4−ジクロロベンジル)−ブト−2−エン酸 N−[(R)−ε−カプロラクタム−3−イル]−アミド半水和物である。
【0060】
以下の表1に列記した成分を含む対照製剤は、硬ゼラチンカプセル中、粉末混合物として製造される。
【表1】

【0061】
実施例1
スプレー乾燥固体分散体
固体分散体1Aおよび1Cないし1Kを、Buechi−Minispary装置を用いて製造する。1A、1D、1E、1Fおよび固体分散体1G−1Kを、アセトンおよびエタノール(無水)の1:1混合物中に化合物Aを溶解することにより製造する。固体分散体Cについてアセトンおよび94%密度エタノール(=水およびイソプロパノールを含むエタノール品質)の1:1混合物を用いる。
【0062】
透明溶液が形成されるとき、表2および3に列記される他の成分がこの混合物に添加され、供給懸濁液または溶液が得られる。これらの供給液中の典型的な固体または液体比は、1:5ないし1:7である。該供給液を、スプレー乾燥機の高温の窒素ガス雰囲気中で噴霧化し、約90℃の製造温度で溶媒を除去する。固体分散体を該処理機から粉末形態で集める。
【0063】
固体分散体1Bを、Pilot spray dryer Niro−Mobile Minor上で製造する。アセトンおよび94%密度エタノール(=水およびイソプロパノールを含むエタノール品質)の1:1混合物を用いる。透明溶液が形成されるとき、HPMCをこの混合物に添加し、供給懸濁液を得る。ポリマーの添加後、該供給液を少なくとも1時間激しく撹拌する。その後、IKAミル(Pilot SN1102)を通して湿式粉砕する。得られる供給物を、スプレー乾燥機の高温の窒素ガス雰囲気中で噴霧化し、約90−100℃の製造温度で溶媒を除去する。乾燥固体分散体を、サイクロン放出弁上で粉末として集める。
【0064】
【表2】


【表3】

【0065】
これらの固体分散体のいくつかを、表4または5に列記した賦形剤と混合し、次いで混合した混合物を、錠剤(T)に圧縮するか、または硬ゼラチンカプセル(H)中に充填する。
【0066】
【表4】

【0067】
錠剤/カプセル1L、1M、1Nおよび1P中に含まれる化合物Aの質量は、それぞれ20mg、20mg、25mgおよび100mgである。
【0068】
【表5】

【0069】
錠剤/カプセル1Q、1Rおよび1S中に含まれる化合物Aの質量は、それぞれ20mg、25mgおよび100mgである。
【0070】
いくつかの錠剤/カプセルの溶解速度を決定し、以下の表6に示す結果を得る。それぞれの場合に、錠剤/カプセルを、1000mLの0.1N HClおよび0.3% Tween(登録商標)20を含む溶液に、50rpm パドル法、37℃で添加する。
【0071】
【表6】

【0072】
表6は、固体分散体の溶解速度の顕著な増大が、対照と比較して観察されることを示す。
【0073】
固体分散体および錠剤は、密閉および開口容器中、25℃および60%相対湿度、ならびに密閉および開口容器中、40℃および75%相対湿度で貯蔵する。しかしながら、それぞれの場合に、示差走査熱量測定(DSC)およびX線粉末回折(XRPD)により測定されるとおり、3ヶ月以上、結晶構造の変化は観察されない。このことは、該固体分散体が、加速条件下(すなわち、40℃/75%相対湿度 開口)でも非晶質形のままであることを示唆する。
【0074】
過飽和実験
HPMCベースの固体分散体1B(成分1B)および腸溶HPMC−Pベースの固体分散体2D(成分2D)のインビトロ溶解を、異なる媒体中で試験し、結晶−半水和物または非晶質化合物Aと比較した。
【0075】
【表7】

【0076】
成分1Bのインビトロ溶解は、半水和物または非晶質化合物Aと比較して顕著に優れており、それは、この化合物の固体分散体形態の原則を裏付ける。さらに、活性化合物Aは、溶解により急速沈殿する傾向が強いことが明らかである。この沈殿画分は、低/無バイオアベイラビリティであることが予想される。驚くことに、固体分散体系1Bは、明らかにその沈殿を遅延させ、溶解した化合物への安定化効果を示す。
【0077】
【表8】

【0078】
腸溶ポリマーHPMC−Pを用いて製造された固体分散体系2D(成分2D)(実施例2、表9参照)は、活性化合物を胃液(SGF)中に放出しない。そのため、胃環境における化合物Aの急速沈殿は避けられ得る。固体分散体系2Dは、化合物Aの胃での沈殿を減少または避けることのできる可能性のある腸溶ポリマーを示す、100%の薬剤が30分以内に溶解される中性pHで良好に作用する。
【0079】
実施例2
流動床処理機で製造されたスプレー造粒固体分散体
固体分散体2Aないし2Dを、以下の表9に列記した成分を用いて製造する。
【0080】
化合物Aを、アセトンおよびエタノール混合物の1:1混合物中に溶解して、透明溶液を形成する。その後、該ポリマー担体をその混合物中に懸濁する。典型的な液体:固体比は、1:5ないし1:7である。不活性充填剤(例えば、ラクトース)および固着防止剤(例えば、Aerosil(登録商標)200)を実験室規模の流動床処理機(Aeromatic(商標))中で混合し、暖気流処理で流動床形成し、該供給物は、溶媒を蒸発させる間に、充填剤を凝集させ、固体分散体によりコーティングされるように、処理機のトップスプレー型二流体ノズルを通して噴霧化される。典型的な製造温度は、20−50℃である。固体分散体を、自由に流動する顆粒または粒状物として処理機の製品コンテナから集める。
【0081】
【表9】

【0082】
固体分散体顆粒のいくつかは、最終投与量形態として錠剤またはカプセル剤にさらに処理される。これは、固体分散体顆粒を表10に列記した賦形剤と混合し、次いで混合した混合物を錠剤(T)に圧縮するか、または硬ゼラチンカプセル(H)に充填することにより達成される。
【0083】
【表10】

【0084】
錠剤/カプセル2F、2G、2Hおよび2J中に含まれる化合物Aの質量は、25mgであるが、2K中では100mgである。
【0085】
該錠剤/カプセルのいくつかの相対的溶解性が決定され、結果は、以下の表11に示される。それぞれの場合に、錠剤/カプセル剤を、1000mLの0.1N HClおよび0.3%Tween(登録商標)20を含む溶液に、50rpmパドル法、37℃で添加する。
【0086】
【表11】

【0087】
固体分散体および錠剤を、密閉および開口容器中、25℃および60%相対湿度、ならびに密閉および開口容器中、40℃および75%相対湿度で貯蔵する。しかしながら、それぞれの場合に、示差走査熱量測定(DSC)およびX線粉末回折(XRPD)により測定されるとおり、3ヶ月以上、結晶構造の変化は観察されない。このことは、該固体分散体が、加速条件下(すなわち、40℃/75%相対湿度 開口)でも非晶質形のままであることを示唆する。
【0088】
実施例3
溶融押出固体分散体
化合物AおよびHPMCを混合し、溶融押出により固体分散体とする。
【0089】
非晶質化合物Aを粉末固体分散体として含む錠剤25mg、微結晶セルロース187.75mg、クロスポビドン(登録商標)10mg、およびステアリン酸マグネシウム2.25mgを含む錠剤を、実施例1の通りに製造する。これらを溶融押出して、固体分散体3Aおよび3Bを得る。これらの固体分散体は、以下の表12に列記する成分を含む。
【0090】
【表12】

【0091】
固体分散体および錠剤を、密閉および開口容器中、25℃および60%相対湿度、ならびに密閉および開口容器中、40℃および75%相対湿度で貯蔵する。しかしながら、それぞれの場合に、示差走査熱量測定(DSC)およびX線粉末回折(XRPD)により測定されるとおり、3ヶ月以上、結晶構造の変化は観察されない。このことは、該固体分散体が、加速条件下(すなわち、40℃/75%相対湿度 開口)でも非晶質形のままであることを示唆する。
【0092】
実施例4
バイオアベイラビリティ実験
材料および方法。比較バイオアベイラビリティ実験を、Marshall Farms(North Rose, USA)またはHarlan(France)からのオスビーグル成犬(9ないし15kg体重の飼育動物)を用いて、スイスの動物保護規則に従って行う。当該イヌを投薬前に一晩絶食させ、さらに5ないし6時間後に、投薬処理する。該動物は、毎日300ないし350gの標準的犬用ペレット飼料を受容する。少なくとも8匹の動物が投与形態毎に用いられ、可能なときはいつでも、対的個体内比較を得るために、同じ群のイヌを、交差またはラテン方格実験究デザインを用いるその後の実験に再使用する。
【0093】
化合物Aのカプセルおよび錠剤形態の投与を、深咽頭部に沈着させ(deep throat deposition)、次いで、服用するために20mLの水で濯ぐことにより経口で行う。血液サンプルを、投与前および投与後48時間に、ヘパリン化ポリプロピレン注射器に前脚静脈(V. cephalica)から集める。通常、12時間までに、例外的に15時間までに、血液サンプルを各イヌから集め、経時的な薬剤レベルの正確なプロフィールを得る。2150gで遠心して血漿を集め、未分析のまま凍結貯蔵する。解凍し、タンパク質沈殿およびメタノールを用いてサンプルを再構成後、該サンプルを1.0ng/mLの定量下限でHPLC/タンデム質量分析(大気圧化学イオン化界面)に付す。
【0094】
異なる錠剤形および対照カプセルの経口投与後のPKパラメーターは、以下の結果である(以下の表13で比較):
(a)固体分散体製剤は、比較的早く、1ないし1.5時間の間の平均tmaxで高ピークレベルに達し、しかしながら、その後急速に低下し、血漿レベルは、1匹当たり20mgのみの投与後での数匹の動物において、投与後24時間で定量化の限界に近いか、またはそれ以上である。
(b)時々、とりわけ高用量群において、第二ピークが、固体分散体製剤の投与後24時間で観察され、多くの場合、第一ピークより低く、数匹のイヌ個体においては、他よりもより顕著である;この第二ピークの理由は、とりわけこの第二ピークが、24時間前後の増加した採取点で、中間用量のイヌ群で再現されなかったため、未だ明らかではない。
(c)PKの非線形の傾向は明らかであった。ここで、用量の増加と共にCmax/用量およびAUC/用量は低下した。:厳格なデータ比較は、同じ用量レベル内でのみ行われ得る。
【0095】
同じ用量レベル内で:
(a)固体分散体製剤は、標準的粉末混合法で微粒化薬剤を含む対照カプセルと比較して約2倍高いバイオアベイラビリティを示し、一方、30%薬剤充填の溶融押出錠剤3Aと比較しても、約2倍高いバイオアベイラビリティを示す。
(b)界面活性剤の添加は、絶食したイヌモデルにおける固体分散体製剤の経口バイオアベイラビリティに対して正の効果を示さない。
(c)20−40%の範囲内での薬剤充填、ポリマー担体(HPMC、PVP)の選択、ならびに製造方法(スプレー造粒、スプレー乾燥)の選択は、固体分散体として絶食イヌに供される薬剤のバイオアベイラビリティにどんな影響も与えなかった。
【0096】
固体分散体製剤は、速やかに吸収され、絶食イヌモデルにおける化合物Aのバイオアベイラビリティを増大するための優れた手段である。
【0097】
【表13】

【0098】
固体分散体製剤(1L、1M、1Q)と20mg用量での対照製剤の比較により、CmaxおよびAUCは、固体分散体ベースの製剤で顕著に高かった。
【0099】
実施例5
スプレー造粒した固体分散体を含むミニ錠剤
固体分散体顆粒のいくつかは、最終投与量形態またはさらに処理され得る(すなわち、コーティングされ、カプセル充填される)中間体生成物としてミニ錠剤にさらに処理される。これは、固体分散体顆粒を表14に列記した賦形剤と混合し、次いで、該混合した混合物を小さなミニ錠剤(直径2mm)に圧縮することにより達成される。
【0100】
ミニ錠剤1個の重量は、0.5mgの活性化合物用量を含む約8mgである。例えば、25mg用量の送達のために、50個のミニ錠剤を、適当なカプセル充填機で1個の硬ゼラチンカプセルに充填することができる。
【0101】
【表14】

【0102】
所定の実施例において、崩壊剤クロスポビドンXLの量は、5%より低く、活性化合物の25mg用量について優れた溶解特性を達成するのに完全に十分である。表15は、0%(バッチ1)、5%(バッチ2)および10%クロスポビドン(バッチ3)を含むこの投与量形態の放出プロフィールを示す。
【0103】
【表15】

【0104】
より低い(通常の錠剤と比較して)崩壊濃度を有するミニ錠剤についての放出特性の優れた維持が、インビボで胃腸管中での分配に有益である。付加的機能的コーティング(すなわち、腸溶コーティング)は、該薬剤のより部位特異的な送達を可能とするべきである。
【0105】
実施例6
小児の薬剤送達のための、水性媒体中スプレー造粒した固体分散体の分散体
小児適用に関して、液体投与量形態(すなわち、シロップ、懸濁液)が、患者のコンプライアンスに対して好ましい。水性媒体中、実施例2から得られる固体分散体の、化合物(4R)−4−[N’−メチル−N’−(3,5−ビストリフルオロメチル−ベンゾイル)−アミノ]−4−(3,4−ジクロロベンジル)−ブト−2−エン酸 N−[(R)−ε−カプロラクタム−3−イル]−アミド適用の場合は、新鮮に調製した懸濁液の投与が、3時間以内の間隔で行われるとき、可能となることが明らかとなった。水性媒体は、すなわち、化合物の最初の沈殿を阻止するために、6%(w/w)HPMCまたは6%(w/w)PVP、6%カルボキシメチルセルロースナトリウム、HPMCAS溶液を含むべきである。付加的味覚遮蔽賦形剤(風味剤、甘味剤)を、患者の受容性を増すために添加することができる。水性媒体中のヒドロキシプロピルセルロース(HPC)は、再結晶/沈殿を促進し、そのため、避けられるべきであることが見出されている。
【0106】
製造方法:
1.適当な大きさのビーカーに必要量の水を入れ、例えば、HPMCまたはPVPの必要量を添加し、そしてポリマーが溶解するまで激しく撹拌する。
2.該撹拌水の渦中に固体分散体をゆっくり添加し、そして粉末添加が終了した後さらに15−30分間、撹拌を継続する。
【0107】
ほとんどが透明である粘性溶液が形成されるが、固体分散体からの非常に微細なAerosil粒子は、溶液/懸濁液中に可視のまま残っていてよい。
【0108】
必要なとき、さらなる味覚遮蔽賦形剤(風味剤)を添加し、すぐに使用できる懸濁液は3時間以内に調製され得ることを確実にする。
【0109】
スプレー造粒した固体分散体製剤から製造した、化学的かつ物理的使用において安定な異なる濃度(2mg/mlないし30mg/mlの化合物)の懸濁液は、表16から見出され得るとおり、4時間間隔で十分であることが明らかとなった。該懸濁液の物理的安定性(再結晶/沈殿)は、偏光顕微鏡下で調べられ、同様に適当であった。
【0110】
【表16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(4R)−4−[N’−メチル−N’−(3,5−ビストリフルオロメチル−ベンゾイル)−アミノ]−4−(3,4−ジクロロベンジル)−ブト−2−エン酸 N−[(R)−ε−カプロラクタム−3−イル]−アミド、またはその薬学的に許容される塩または溶媒和物、および担体を含む、固体分散体。
【請求項2】
(4R)−4−[N’−メチル−N’−(3,5−ビストリフルオロメチル−ベンゾイル)−アミノ]−4−(3,4−ジクロロベンジル)−ブト−2−エン酸 N−[(R)−ε−カプロラクタム−3−イル]−アミド半水和物、および担体を含む、請求項1記載の固体分散体。
【請求項3】
該担体が、ポリマー、コポリマー、またはそれらの混合物である、請求項1または2記載の固体分散体。
【請求項4】
該担体が、水溶性セルロース誘導体、腸溶性セルロース誘導体、ポリビニルピロリドンまたはコポビドンである、請求項1ないし3のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項5】
該担体が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸・コハク酸ヒドロキシルプロピルメチル−セルロース、またはフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選択される、請求項1ないし4のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項6】
担体:医薬成分の重量比が、1:0.01ないし1:0.8である、請求項1ないし5のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項7】
該担体が、1個以上の固着防止剤、不活性充填剤(inert filer)、界面活性剤、湿潤剤、pH調節剤または添加剤を含み得る、請求項1ないし6のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項8】
請求項1ないし7記載の固体分散体を、少なくとも1個の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて含む、医薬組成物。
【請求項9】
界面活性剤、崩壊剤、滑剤、流動促進剤、固着防止剤または結合剤からなる群から選択される1個以上の薬学的に許容される賦形剤を含む、請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
該滑剤がステアリン酸マグネシウムである、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
該崩壊剤が、カルボキシメチルデンプンナトリウムまたはクロスポビドンである、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項12】
該流動促進剤がコロイド状シリカである、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項13】
該医薬組成物が、経口投与のための乾燥粉末である、請求項8ないし12のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項14】
該医薬組成物が、水溶液で再構成される乾燥粉末を含むシロップ/懸濁液である、請求項8ないし13のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項15】
該シロップ/懸濁液が、高濃度のグルコースおよび/またはフルクトース溶液である、請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
該医薬組成物が錠剤である、請求項8ないし13のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項17】
該錠剤がミニ錠剤である、請求項16記載の医薬組成物。
【請求項18】
該錠剤がフィルムコートされている、請求項16または17記載の医薬組成物。
【請求項19】
(a)(4R)−4−[N’−メチル−N’−(3,5−ビストリフルオロメチル−ベンゾイル)−アミノ]−4−(3,4−ジクロロベンジル)−ブト−2−エン酸 N−[(R)−ε−カプロラクタム−3−イル]−アミド、またはその薬学的に許容される塩または溶媒和物および担体を溶媒中に溶解または懸濁し、溶液または懸濁液を形成する工程;および(b1)該溶液または懸濁液を噴霧乾燥させ、固体分散体を乾燥粉末形態で得る工程、または(b2)該溶液または懸濁液を、少なくとも1個の不活性充填剤賦形剤および少なくとも1個の固着防止剤上で噴霧造粒する工程、を含む、請求項1ないし7のいずれか一項記載の固体分散体の製造方法。
【請求項20】
工程(b2)において、該不活性充填剤が、ラクトース、スクロース、アミロース、デキストロース、マンニトールおよびイノシトール、キシリトール、微結晶セルロースのような水溶性または難水溶性化合物からなる群から選択され、好ましくはラクトース、マンニトールまたは微結晶セルロースであり、該固着防止剤が、コロイド状二酸化ケイ素およびタルクからなる群から選択される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
(a)(4R)−4−[N’−メチル−N’−(3,5−ビストリフルオロメチル−ベンゾイル)−アミノ]−4−(3,4−ジクロロベンジル)−ブト−2−エン酸 N−[(R)−ε−カプロラクタム−3−イル]−アミド、またはその薬学的に許容される塩または溶媒和物および担体、所望により他の賦形剤を混合する工程、および(b)得られた固体分散体を溶融押出する工程、を含む、請求項1ないし7のいずれか一項記載の固体分散体の製造方法。
【請求項22】
請求項19ないし21のいずれか一項記載の方法により得られ得る、請求項1ないし7のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項23】
請求項4ないし13のいずれか一項記載の医薬組成物の区分化された用量を含む、ブリスター包装。
【請求項24】
(i)消化器障害、とりわけ下痢型IBSおよび機能性消化不良、(ii)膀胱障害、とりわけ切迫性尿失禁、または(iii)呼吸器疾患、とりわけ喘息を有する対象の処置方法であって、治療的有効量の請求項8ないし18のいずれか一項記載の医薬組成物を、かかる処置を必要とする対象に投与することを含む、方法。

【公表番号】特表2010−513356(P2010−513356A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541897(P2009−541897)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際出願番号】PCT/EP2007/011293
【国際公開番号】WO2008/077591
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】