説明

ニューロパシー性の糖尿病性足潰瘍を治療するためのトレプロスチニルの使用

本発明は、糖尿病性ニューロパシーを有する被験体の足潰瘍の治療および/または予防のために、9−デオキシ−2’,9−α−メタノ−3−オキサ−4,5,6−トリノル−3,7−(1’,3’−インターフェニレン)−13,14−ジヒドロ−プロスタグランジンF1(トレプロスチニルとしても公知である)もしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩を用いるための新規の方法に関する。本発明はまた、有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩を含んでなる、足潰瘍の治療および/または予防のためのキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願の相互参照
本特許出願は、本明細書においてその全体が参照により援用される、2004年4月12日に出願された、米国仮特許出願第60/561,157号明細書に対して優先権を主張する。
【0002】
本発明は、例えば、糖尿病性ニューロパシーを有する患者の足潰瘍を治療するために、9−デオキシ−2’,9−α−メタノ−3−オキサ−4,5,6−トリノル−3,7−(1’,3’−インターフェニレン)−13,14−ジヒドロ−プロスタグランジンF1(以下、「トレプロスチニル(Treprostinil)」)もしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩の使用に関する。本発明はまた、この目的で使用するキットに関する。
【背景技術】
【0003】
トレプロスチニル(UT−15としても知られる)は、米国特許第4,306,075号明細書中の実施例33に開示された公知の化合物である。トレプロスチニルは、エポプロステノールの合成アナログ、すなわちプロスタグランジンF1である。この特許の様々な化合物による活性としては、平滑筋細胞増殖の抑制、血小板凝集の抑制、サイトカイン分泌の抑制、胃液分泌の低下、血管拡張(vasodialation)および気管支拡張が挙げられる。
【0004】
米国特許第5,153,222号明細書では、肺高血圧症を治療するためのトレプロスチニルおよび関連化合物の使用を開示している。米国特許第6,054,486号明細書では、末梢血管疾患(例えば、末梢動脈閉塞性疾患および間欠性跛行)を治療するためのトレプロスチニルおよび関連化合物の使用を開示している。パターソン(Patterson)ら、「アメリカン ジャーナル オブ カーディオロジー(Amer.J.of Cardiology)」,75:26A−33A(1995年)では、クラスIIIまたはクラスIVの心不全を有する患者におけるトレプロスチニルの血管拡張性の効果が示されている。
【0005】
クラップ(Clapp)ら、「アメリカン ジャーナル オブ レスピラトリー セル アンド モレキュラーバイオロジー(Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.)」,26(2):194−201頁(2002年)では、トレプロスチニルがヒト肺動脈性平滑筋細胞の増殖を抑制することが示されている。レイチャードフリ(Raychaudhuri)ら、「ジャーナル オブ バイオロジカルケミストリー(J Biol.Chem.)」,277(36):33344−8(2002年)では、トレプロスチニルがヒト肺胞マクロファージによる炎症性サイトカイン(腫瘍壊死因子−α、インターロイキン−1β、インターロイキン−6および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)分泌および遺伝子発現を抑制することが開示されている。
【0006】
すべての糖尿病患者の約15%は、人生のある時期に足潰瘍を発症し得る(例えば、本明細書においてその全体が参照により援用される、ジェフコート(Jeffccoate),Wおよびハーディング(Harding),K.,2003年.「糖尿病性足潰瘍(Diabetic Foot Ulcers)」.ランセット(The Lancet),362;154−51を参照のこと)。糖尿病性足潰瘍を発症するには多くの経路がある。一般に、糖尿病を有する患者の約20%は、第1に不十分な動脈血流(末梢動脈疾患)の結果として、50%は、糖尿病性ニューロパシーの結果として、そして30%は、下肢虚血と糖尿病性ニューロパシーとの組み合わせの結果として、足潰瘍を発症し得る。虚血性病変を治療するのに適するすべての方法が、糖尿病性ニューロパシーによって引き起こされる潰瘍を治療するのに必ずしも用いられ得るわけではないので、このような潰瘍の予防および治療に用いることができる、実行可能な方法およびキットを特定する必要がある。例えば、本明細書においてその全体が参照により援用される、マーゴリス(Margolis),D.ホフスタッド(Hoffstad),O,アレン‐テイラー(Allen−Taylor),L.およびバーリン(Berlin),J.,2002年.「糖尿病性ニューロパシー性足潰瘍(Diabetic Nueropathic Foot Ulcers)」:「創傷の大きさ、創傷の持続時間および創傷の治癒の関連(the association of the wound size, wound duration and wound healing)」.ダイアベティス ケア(Diabetes Care)25:1835−39頁を参照のこと。
【0007】
さらに、血管性の下腿潰瘍(足の潰瘍を含む)と糖尿病性足潰瘍との間の治癒の差は、カンター(Kantor)J,マーゴリス(Margolis)D.「慢性創傷に対する治癒予想率(Expected Healing Rates For Chronic Wounds)」.Wounds 12(6):155−158頁、 2000年に見出すことができる。例えば、血管性の下腿潰瘍 (VLU)を有する260人の患者および糖尿病性足潰瘍(DFU)を有する586人の患者による研究において、VLUの32%は、十分な潰瘍の治療の24週間後に治癒しなかったが、一方、DFUの67%は、十分な潰瘍の治療の20週間後に治癒しなかった。これらの異なる潰瘍を区別する他の参考文献は、ワトキンズ(Watkins),P.,「ブリティッシュ メディカル ジャーナル(Brit.Med.J.)」,326:977−979頁(2003年),「TransAtlantic Intersociety Consensus(TASC),ジャーナル オブ バスキュラーサージェリー(J.Vasc.Surgery)」,v.31,NI第2部,S199頁(2000年)および「グリーンハル(Greenhalgh)DG,Clin.Plast.Surg.,」30:37−45(2003年)に見出すことができ、本明細書中にこれらの全体が参照により援用される。
【0008】
糖尿病性ニューロパシーは、脚および足における感覚の低下を引き起こす糖尿病によって神経が損傷を受けている状態である。患者が圧力または切り傷によって傷口が開いた範囲を発生する場合、その患者は、痛みさえ感じないかもしれない。治療せずに放置すれば、損傷した範囲は、急速に広がって重篤な組織破壊を引き起こす、多くの微生物に感染しやすい糖尿病性足潰瘍を発症し得る。この感染プロセスが、主にニューロパシー性の潰瘍形成がみられる患者における潰瘍形成の後の重大な切断の主な理由である。足潰瘍に対する伝統的な治療アプローチとしては、脱落組織切除(desloughing)および壊死組織切除、圧力の軽減(例えば、足を載せる台、特別な履物および靴の中敷ならびに装具)、感染に対する抗生物質による治療および創傷被覆が挙げられる。時折、特定のタイプの被覆材が病変の治癒の促進を助け得るが、これらの治療は、不成功に終わることが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ニューロパシー性の糖尿病性足潰瘍は、極度の有痛性、消耗性であり得、そして治癒が遅いことがある。従って、このような潰瘍の予防および治療に用いられ得る、実行可能な方法およびキットを特定する必要がある。本発明は、この必要性を満たし、その上関連する利点も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
糖尿病性足潰瘍の病態生理学は、第1に、真性糖尿病に一意的に関連するニューロパシー性の変化および細小血管障害を有すると説明される。トレプロスチニルまたはその誘導体の投与により、ニューロパシー性の糖尿病性足潰瘍が治療される。トレプロスチニルは、プロスタグランジンの安定したアナログであり、静脈内投与に用いることができ、肺を通過したときに分解されず、かつ生物学的半減期が長いので、このような用途によく適している。
【0011】
従って、本発明は、有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩を、これらを必要としている哺乳動物に投与する工程を包含する、哺乳動物におけるニューロパシー性の糖尿病性足潰瘍の治療および/またはニューロパシー性の糖尿病性足潰瘍に関連する症状の治療を提供する。1つの実施形態において、トレプロスチニルまたはその誘導体は、細胞保護効果を提供するために疾患状態の初期に十分に投与される。本発明はまた、この目的を達成するためのキットも提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者らは、小血管および毛細血管を通る血流を増加させることによって、皮膚血流(すなわち、皮膚への血流)を増加させる治療が、ニューロパシー性の糖尿病性足潰瘍の治療および予防に効果的であると考えている。糖尿病患者に見られる血管変化の1つのタイプは、毛細血管および細動脈を含む、非閉塞性微小循環機能不全である。従って、毛細血管基底膜肥厚および異常な内皮機能を含む、微小循環における構造変化が、糖尿病を有する患者に関連する。
【0013】
プロスタサイクリンは、血小板凝集の抑制と共に、大血管の拡張、平滑筋の弛緩、平滑筋増殖の抑制を引き起こすと先に示された小分子である。微小血管レベルおよび皮膚に近い毛細血管におけるトレプロスチニルによる類似の作用が、皮膚血流量の増大を促進し、そしてニューロパシー性の糖尿病性足潰瘍を治癒および/または予防すると考えられる。
【0014】
糖尿病性のニューロパシー性足潰瘍は、時折、疼痛を伴わないと特徴付けられる。足の脈拍が通常あり、かつ潰瘍は、穴が開いたような外観を有している。痛みは、足底または足の縁にあることが多く、皮膚肥厚がみられる。糖尿病性ニューロパシー性の足の他の特徴としては、感覚、反射および振動の喪失、血流のAVシャント、拡張した静脈、乾燥した/温かい皮膚温度および赤色の外観の皮膚が挙げられ得る。典型的には、骨の変形がある。
【0015】
このことは、有痛性でありかつ足の縁のまわりに不規則な外観を有する糖尿病性の神経虚血(neuroischemic)潰瘍とは対照的である。足の脈拍が通常なく、この潰瘍は一般に足指にある。皮膚肥厚はないか、またはほとんどなく、血流は減少し、静脈は崩壊し、皮膚は冷たく感じ、かつ皮膚の色は蒼白かチアノーゼである。典型的には骨の変形はない。
【0016】
本発明は、有効量のトレプロスチニルおよび/もしくはその誘導体ならびに/またはそれらの薬学的に許容可能な塩を、これらを必要とする被験体(好ましくは、ヒト)に投与する工程を包含する、ニューロパシー性の糖尿病性足潰瘍を治療および/または予防する方法に関する。好適な誘導体としては、米国特許第6,521,212号明細書および同時係属中の米国特許仮出願第60/472,407号明細書に開示されるものを含む、トレプロスチニルの、酸誘導体、プロドラッグ、徐放性の形態、吸入形態および経口形態が挙げられる。いくつかの実施形態において、ニューロパシー性の糖尿病性足潰瘍に関連する疼痛および/または他の症状は、有効量のトレプロスチニルおよび/またはその薬学的に許容可能な塩ならびにそれらの誘導体の投与によって低減するか、排除されるか、または予防される。
【0017】
本発明はまた、ニューロパシー性の糖尿病性足潰瘍のそのような治療または予防を達成するためのキットに関する。本発明は、糖尿病性ニューロパシーを有する被験体の足潰瘍の治療および/または予防のためのキットを含み、そのキットは、(i)有効量のトレプロスチニル、その薬学的に許容可能な塩および/またはその酸誘導体と、(ii)1以上の薬学的に許容可能な担体および/または添加剤と、(iii)ニューロパシー性の糖尿病性足潰瘍の治療および/または予防に使用するための使用説明書とを含んでなる。
【0018】
他に特定されない限り、本明細書中で使用される用語「a」または「an」は、「1以上の」を意味する。
【0019】
本明細書中で使用されるとき、句「使用のための使用説明書」は、ニューロパシー性の糖尿病性足潰瘍を治療および/または予防する目的でのトレプロスチニルの投与に関する、任意の、FDA委任の表示物、使用説明書または添付文書を意味する。例えば、使用のための使用説明書は、ニューロパシー性の糖尿病性足潰瘍のための指示、トレプロスチニルにより改善され得る疼痛のようなニューロパシー性の糖尿病性足潰瘍に関連する特別な症状についての指示およびニューロパシー性の糖尿病性足潰瘍に罹患した被験体に対する推奨用量を含み得るが、これらに限定されない。
【0020】
用語「酸誘導体」は、C1−4アルキルエステルおよび、窒素が必要に応じて1個または2個のCl−4アルキル基で置換されるアミドを含むC1−4アルキルアミドを説明するために本明細書中で使用される。
【0021】
本発明はまた、トレプロスチニルの生体前駆体または「プロドラッグ」、すなわちトレプロスチニルまたはその薬学的に活性な誘導体にインビボで転換される化合物を含む。
【0022】
本発明のさらなる態様は、糖尿病性ニューロパシーを有する被験体の足潰瘍の治療または予防に対する薬物の製造における、トレプロスチニルまたはその薬学的に許容可能な塩もしくはそれらの酸誘導体の使用に関する。
【0023】
本発明は、REMODULIN(登録商標)の商品名で現在販売されているトレプロスチニルナトリウムを使用する方法を含む。FDAは、1.0mg/mL、2.5mg/mL、5.0mg/mLおよび10.0mg/mLの用量濃度の注入による肺動脈性肺高血圧症の治療のためにトレプロスチニルナトリウムを承認している。トレプロスチニルナトリウムの化学構造式は、以下である:
【化1】

【0024】
トレプロスチニルナトリウムは、時折、化学名:(a)[(1R,2R,3aS,9aS)−2,3,3a,4,9,9a−ヘキサヒドロ−2−ヒドロキシ−1−[(3S)−3−ヒドロキシオクチル]−1H−ベンゾ[f]インデン−5−イル]オキシ]酢酸;または(b)9−デオキシ−2’,9−α−メタノ−3−オキサ−4,5,6−トリノル−3,7−(1’,3’−インターフェニレン)−13,14−ジヒドロ−プロスタグランジンF1で表記される。トレプロスチニルナトリウムはまた:UT−15;LRX−15;15AU81;UNIPROST(商標);BW A15AU;およびU−62,840として公知である。トレプロスチニルナトリウムの分子量は390.52であり、その実験式は、C23345である。
【0025】
本発明は、本発明の薬理学的に活性化合物の調製に使用され得るトレプロスチニルの生理学的に許容可能な塩を使用する方法にまで及ぶ。
【0026】
トレプロスチニルの生理学的に許容可能な塩は、塩基から誘導される塩を含む。塩基性塩としては、アンモニウム塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウムおよびカリウムの塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウムおよびマグネシウムの塩)、有機塩基(例えば、ジシクロヘキシルアミンおよびN−メチル−D−グルカミン)との塩およびアミノ酸(例えば、アルギニンおよびリジン)との塩が挙げられる。
【0027】
第4級アンモニウム塩は、例えば、低級アルキルハロゲン化物(例えば、塩化メチル、塩化エチル、塩化プロピル、塩化ブチル、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピルおよび臭化ブチル、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピルおよびヨウ化ブチル)と、硫酸ジアルキルとの、長鎖ハロゲン化物(例えば、塩化デシル、塩化ラウリル、塩化ミリスチル、塩化ステアリル、臭化デシル、臭化ラウリル、臭化ミリスチル、臭化ステアリル、ヨウ化デシル、ヨウ化ラウリル、ヨウ化ミリスチルおよびヨウ化ステアリル)との、およびアラルキルハロゲン化物(例えば、臭化ベンジルおよび臭化フェネチル)との反応によって形成することが可能である。
【0028】
所望の効果を達成するために、本発明による薬物適用または診断補助薬に必要なトレプロスチニルまたはその生理学的に許容可能な塩もしくはそれらの酸誘導体の量は、多くの因子(例えば、具体的な用途、使用される特定の化合物の性質、投与の様式、使用される化合物の濃度ならびに患者の体重および状態)に依存する。ニューロパシー性の糖尿病性足潰瘍の治療または予防のための患者あたりの1日当たりの用量は、1日当たり体重1kg当たり25μg〜250mg;0.5μg〜2.5mgまたは7μg〜285μgの範囲であり得る。例えば、1日当たり体重1kg当たり0.5μg〜1.5mgの範囲の静脈内投与の用量は、1分当たり体重1kg当たり0.5ng〜1.0μgの注入として適切に投与され得る。1つの可能な用量としては、2.5ng/kg/分であり、目標の用量(例えば、15ng/kg/分)に到達するまで、各週2.50ng/kg/分の量ずつ12週間に亘って増加させ得る。この目的に適する注入液には、例えば1mlあたり10ng〜1μgが含まれる。注入用のアンプルには、例えば0.1μg〜1.0mgが含まれ、経口投与可能な処方物(例えば、錠剤またはカプセル剤)の単位用量には、例えば0.1〜100mg、典型的には1〜50mgが含まれる。診断の目的で、単回投与の用量の処方物が投与され得る。生理学的に許容可能な塩の場合、上記の重量は、活性化合物のイオン、すなわちトレプロスチニルから誘導されたイオンの重量のことをいう。
【0029】
本発明によると、薬物または診断補助薬(以下、「処方物」という)の製造において、トレプロスチニルならびにその生理学的に許容可能な塩およびそれらの酸誘導体は、とりわけ許容可能な担体と混合され得る。この担体は、当然ながらこの処方物における他の任意の成分と混合可能であるという意味で許容できなければならず、被験体にとって有害であってはならない。この担体は、固体であっても液体であってもよく、または両方であってもよく、好ましくは活性化合物の0.05重量%〜95重量%を含み得る単位用量の処方物(例えば、活性化合物錠剤)としてこの化合物とともに処方される。1以上のトレプロスチニルおよび/またはその生理学的に許容可能な塩もしくはその酸誘導体が、本発明の処方物に組み込まれ得、それらは、構成要素を混合するための任意の周知の調剤技術により調製され得る。
【0030】
トレプロスチニルに加えて、他の薬理学的に活性な物質が、糖尿病性ニューロパシーを有する患者の足潰瘍を治療および/または予防するのに有用であると知られている本発明の処方物に存在し得る。例えば、本発明の化合物は、疼痛を治療するための鎮痛薬、包帯の取替え、血管拡張性の薬物適用、および局所または経口の抗生物質と組み合わせて存在され得る。
【0031】
任意の所与の場合において適当な経路のほとんどが、治療される状態の性質および重篤度ならびに使用されるトレプロスチニルおよびその生理学的に許容可能な塩またはそれらの酸誘導体の特定の形態の性質に依存し得るが、本発明の処方物は、非経口な(例えば、皮下、筋肉内、皮内または静脈内)、経口の、吸入による(固体および液体の形態で)、直腸への、局所的な、頬側への(例えば、舌下)および経皮的な投与に適するものを含む。
【0032】
非経口投与に適する本発明の処方物は、トレプロスチニルまたはその生理学的に許容可能な塩もしくはその酸誘導体の滅菌された水性調製物を適切に含む。ここで、その調製物は、意図される受容者の血液と等張であり得る。投与は、静脈内または筋肉内注射もしくは皮内注射によっても実施され得るが、これらの調製物は、皮下注射によって投与され得る。このような調製物は、化合物と水またはグリシン緩衝液もしくはクエン酸塩緩衝液と混合し、そして生じた溶液を滅菌し、血液と等張にすることによって適切に調製され得る。本発明による注射可能な処方物は、活性化合物の0.1〜5%w/vを含み得、0.1ml/分/kgの割合で投与され得る。あるいは、本発明では、0.625〜50ng/kg/分の割合で投与され得る。あるいは、本発明では、10〜15ng/kg/分の割合で投与され得る。
【0033】
経口投与に適する処方物は、別個の単位(例えば、カプセル剤、カシェ剤、口内錠または錠剤(これらの各々は、所定の量のトレプロスチニルまたはその生理学的に許容可能な塩もしくはその酸誘導体を含んでいる))で;散剤または顆粒剤として;溶液または水性もしくは非水性の液体中の懸濁物として;または水中油型または油中水型のエマルジョンとして提供され得る。このような処方物は、活性化合物と適当な担体(1以上の副成分を含み得る)とを会合させる工程を包含する、任意の適当な調剤方法によって調製され得る。
【0034】
一般に、本発明の処方物は、活性化合物と液体もしくは細かく分割された固体の担体またはその両方とを均一かつ均質に混合し、そして必要であれば、生じた混合物を成形することによって調製される。例えば錠剤は、活性化合物を含む散剤または顆粒剤を、必要に応じて1以上の副成分とともに圧縮するかまたは成形することによって調製され得る。圧縮された錠剤は、流動性の形態(例えば、必要に応じて結合剤、潤滑剤、不活性な希釈剤および/または界面活性剤/分散剤と混合された散剤または顆粒剤)の化合物を適当な機械において圧縮することによって調製され得る。成形された錠剤は、不活性な液体の結合剤で湿らせた粉末の化合物を適当な機械において成形することによって形成され得る。
【0035】
頬側への(舌下)投与に適する処方物としては、香味づけられた基剤(通常、スクロースおよびアカシアまたはトラガカント)中にトレプロスチニルまたはその生理学的に許容可能な塩もしくはその酸誘導体を含む口内錠;および不活性な基剤(例えば、ゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアカシア)中にその化合物を含む香錠が挙げられる。
【0036】
直腸への投与に適する処方物は、好ましくは単位用量の坐剤として提供される。これらは、トレプロスチニルまたはその生理学的に許容可能な塩もしくはその酸誘導体と1以上の従来の固体の担体(例えば、カカオ脂)とを混合し、次いで得られた混合物を造形することによって調製され得る。
【0037】
皮膚への局所適用に適する処方物は、好ましくは軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、ペースト剤、ゲル剤、スプレー剤、エアゾール剤または油剤の形態をとる。使用され得る担体としては、ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、アルコールおよびこれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる。活性化合物は、一般に0.1〜15%w/w、例えば0.5〜2%w/wの濃度で存在する。経皮投与用の処方物は、イオン導入法により送達され得(例えば、「ファーマシューティカルリサーチ(Pharmaceutical Research)」,3(6):318頁(1986年)を参照のこと)、典型的にはトレプロスチニルまたはその塩もしくはその酸誘導体の必要に応じて緩衝化された水性溶液の形態をとる。適当な処方物は、クエン酸塩緩衝液もしくはビス/トリス緩衝液(pH6)またはエタノール/水を含み、かつ0.1〜0.2Mの活性成分を含む。
【0038】
本発明の化合物は、米国特許第4,306,075号明細書、米国特許第6,528,688号明細書および米国特許第6,441,245号明細書に記載されているものと同様の方法またはそれに類似した方法によって適切に調製される。
【0039】
さらなる実施形態が、本発明の範囲内にある。例えば、1つの実施形態において、糖尿病性ニューロパシーを有する被験体(例えば、ヒト)の足潰瘍を治療および/または予防するための方法は、有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩を、これらを必要としている被験体に投与する工程を含んでなる。
【0040】
別の実施形態において、糖尿病性ニューロパシーを有する被験体の足潰瘍の治療および/または予防のためのキットは、(i)有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩と、(ii)1以上の薬学的に許容可能な担体および/または添加剤と、(iii)糖尿病性ニューロパシーを有する被験体の足潰瘍の治療または予防に使用するための使用説明書とを含んでなる。
【0041】
特定の方法の実施形態において、有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩を、これらを必要としている被験体に投与する工程は、足潰瘍に関連する疼痛または他の症状の低減、排除または予防をもたらす。
【0042】
特定の方法の実施形態において、トレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、皮下に、連続皮下注入によって、静脈内に、錠剤およびカプセル剤からなる群より選択される経口的に利用可能な形態で、および/または吸入によって投与される。他の実施形態において、有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、少なくとも1.0ng/kg体重/分である。
【0043】
特定のキットの実施形態において、トレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、皮下投与、連続皮下注入、静脈内投与または吸入に適する形態である。他のキットの実施形態において、トレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、錠剤およびカプセル剤からなる群より選択される経口的に利用可能な形態である。別のキットの実施形態において、有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、少なくとも1.0ng/kg体重/分である。
【0044】
糖尿病性ニューロパシーを有する患者の足潰瘍を治療するためのトレプロスチニルの使用は、以下の実施例によってより詳細に例示されることが可能であるが、本発明は、それらに限定されないと理解されるべきである。
【実施例1】
【0045】
トレプロスチニルナトリウム(Remodulin(登録商標))は、安全であり、糖尿病および末梢動脈疾患を有する患者の虚血性創傷の治癒および休息痛の軽減を促進する。
緒言:
この非盲検試験の目的は、PAD、糖尿病および手術不能の虚血性足潰瘍を有する10人の患者における安定なプロスタサイクリンアナログであるトレプロスチニルナトリウムの安全性および効能を評価することである。
【0046】
方法:
トレプロスチニルナトリウムを、2.5ng/Kg/分で開始して、最大耐用量まで12週間に亘って適定した連続皮下注入として投与した。患者を有害事象、創傷治癒、皮膚灌流圧および虚血性の休息痛についてモニターした。
【0047】
結果:
現在までに7人の患者の試験が完了した。試験中にトレプロスチニルが原因の重大な有害事象は起きなかった。報告された薬剤に関する唯一の副作用は、軽度から中等度の注入部位の疼痛だった。2人の患者は、完全に治癒した。2人の患者は、部分的に治癒した。5人は休息痛が回復した。
【0048】
結論:
トレプロスチニルナトリウムは、安全であり、かつ虚血性の休息痛、皮膚灌流および創傷治癒に正の効果を有する。
【実施例2】
【0049】
トレプロスチニルナトリウム(Remodulin(登録商標))による虚血下肢における創傷周辺の酸素測定のシグナルおよびレーザードップラーシグナルの増大
緒言:
連続皮下注入による、トレプロスチニルナトリウム(Remodulin(登録商標))の効果を検討する症例対照治験を、不応性の下肢創傷を有する糖尿病患者において実施した。トレプロスチニルナトリウムの公知の血管拡張性および血小板凝集阻害の特性が、虚血性肢における創傷治癒に対する補助剤としての評価を保証した。主要エンドポイントは、創傷治癒および患肢温存であった。安静時の創傷周辺の経皮酸素測定(TcPO2)およびレーザードップラー分析(LD)ならびに大気圧および高圧での酸素負荷に対するTcPO2およびLDの応答が、副次的エンドポイントであった。トレプロスチニルナトリウムが前毛細血管括約筋より末梢の流入抵抗を低下させる場合、低酸素の創傷中心と流入血液との間のΔp2は、その差の規模と勾配の両方を増大させるはずである。このことは、低酸素シグナルの増大の生理学的根拠であろう。
【0050】
方法:
7人の登録された患者は、重篤な虚血性下肢(フォンテーヌステージ(Fontaine Stage)III−IVまたはラザフォードステージ(Rutherford Stage)4、5または6)に(3ヶ月より長く)存在する難治性の(non−healing)創傷を有する糖尿病患者であった。トレプロスチニルナトリウム(Remodulin(登録商標))を6週間の研究期間に亘って連続皮下注入により与えた。高圧酸素治療に対する対象者は、除外基準であった(患者による拒否、論理的制限または最近HBO2コースを完了した)。高圧酸素への曝露を診断/モニタリングの指標として盛り込んだ。Remodulin(登録商標)の注入を始める前および薬を注入している間の様々な時点で、大気圧および1、2.0または2.4絶対圧(ATA)でのTcPO2/LDを計測した。
【0051】
結果:
cPO2/LDデータは、以下を示す:
1−1人(Remodulin(登録商標)によるLD/TcPO2の改善が見られなかった個体)を除くすべての患者で、10.5ヶ月の「治癒の停止」の平均間隔で創傷が治癒することが証明された。
2−すべての患者(1人の例外を含む)で、Remodulin(登録商標)による、安静時の創傷周辺のTcPO2値(↑44%から176%)およびLDシグナル(熱刺激応答において236%上昇)において改善が実証された。
3−1、2.0および2.4ATAでのO2負荷に対するTcPO2応答の勾配は、56%から345%に上昇した。
【0052】
結論:
トレプロスチニルナトリウムが慢性的に虚血した創傷における組織血流を改善する能力は、安静時の創傷周辺のTcPO2の上昇、大気圧および高圧でのO2負荷応答の規模およびレーザードップラーシグナルの改善から明らかである。この薬剤は、難治性の虚血性創傷の治療において別の補助剤であり得、そして高圧酸素治療の効果に対して明らかに相乗的である。
【実施例3】
【0053】
足潰瘍に罹患した糖尿病性ニューロパシーを有するヒトへのトレプロスチニルの投与
足に少なくとも1つの潰瘍(すなわち、小さなただれまたは組織壊疽の範囲)を有する糖尿病性ニューロパシーの患者に、12週間に亘って増加した量のトレプロスチニルを投薬する。この薬物は、皮膚の下に取り付けられたカテーテルに連結された小型ポンプにより送達される。この様式において、増加した用量のトレプロスチニルを、長期に亘る連続皮下注入によって患者に投与する。
【0054】
具体的には、トレプロスチニルナトリウム(REMODULIN(登録商標))の1.0mg/mLの処方物を、標準的な微量注入法である、皮下への薬物送達のために設計された加圧注入ポンプ(ミニメド社(Mini−Med))を使用して皮下に投与する。患者は、2.5ng/kg/分の試験薬の初回量を受ける。所与の患者において、2.5ng/kg/分の用量が許容性を示さなかった場合(例えば、薬物適用または局所的な治療によって適切に管理することができない、持続性の頭痛、悪心、嘔吐、不穏、不安または注入部位の重度の疼痛)、その用量を、1.25ng/kg/分に減少する。患者は、第1週の間、2.5ng/kg/分(または2.5ng/kg/分が許容されない場合は1.25ng/kg/分)で維持される。その後、許容されなくなるまでか、または一旦、目標の用量に達するまでその用量を各週2.50ng/kg/分ずつ増加させる。
【0055】
患者により許容されなくならない限り、週に1度用量を増加させる。毎週の用量の増加は、それぞれ2.50ng/kg/分を超えない。目標の用量の一例は、15ng/kg/分である。最少用量は、通常0.625ng/kg/分以上である。第12週の治療の完了後、0ng/kg/分の速度に達するまで、注入速度を(臨床的な指示のとおり、1〜4時間に亘って)段階的に低下させることによって薬物注入を終了する。
【0056】
上記の治療を受けた患者は、糖尿病性ニューロパシーに関連する新たな足潰瘍をほとんど経験せず、治療前にあった足潰瘍の数、大きさおよび重篤度において低減が見られる。トレプロスチニルの投与は、糖尿病性ニューロパシーを有する患者の足潰瘍を治療および予防する。
【0057】
本発明の組成物およびプロセスに様々な改変および変更がなされ得ることは、当業者に明らかである。従って、添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物の範囲内である場合、本発明は、このような改変および変更にまで及ぶことが意図される。
【0058】
上記の列挙されたすべての出版物の開示は、その各々が個々に参照により援用されるのと同程度に、本明細書中においてその全体が参照により明示的に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩を、これらを必要としている被験体に投与する工程を含んでなる、糖尿病性ニューロパシーを有する被験体の足潰瘍の治療および/または予防を行うための方法。
【請求項2】
有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩を、これらを必要としている被験体に投与する工程が、該被験体の足潰瘍に関連する症状の低減、排除または予防をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩を、これらを必要としている被験体に投与する工程が、該被験体に有効量のトレプロスチニルの薬学的に許容可能な塩を投与する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
被験体がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩を、これらを必要としている被験体に投与する工程が、皮下投与する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩を、これらを必要としている被験体に投与する工程が、連続皮下注入によって投与する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩を、これらを必要としている被験体に投与する工程が、静脈内投与する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩を、これらを必要としている被験体に投与する工程が、錠剤およびカプセル剤からなる群より選択される経口により利用可能な形態で投与する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩を、これらを必要としている被験体に投与する工程が、吸入によって投与する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
有効量が、少なくとも1.0ng/kg体重/分である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
(i)有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩と、(ii)1以上の薬学的に許容可能な担体および/または添加剤と、(iii)糖尿病性ニューロパシーを有する被験体の足潰瘍の治療または予防に使用するための使用説明書とを含んでなる、糖尿病性ニューロパシーを有する被験体の足潰瘍の治療および/または予防のためのキット。
【請求項12】
有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩が、有効量のトレプロスチニルの薬学的に許容可能な塩である、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
被験体がヒトである、請求項11に記載のキット。
【請求項14】
有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩が、皮下投与に適した形態である、請求項11に記載のキット。
【請求項15】
有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩が、連続皮下注入による投与に適した形態である、請求項11に記載のキット。
【請求項16】
有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩が、静脈内投与に適した形態である、請求項11に記載のキット。
【請求項17】
有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩が、錠剤およびカプセル剤からなる群より選択される経口により利用可能な形態である、請求項11に記載のキット。
【請求項18】
有効量のトレプロスチニルもしくはその誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩が、吸入に適した形態である、請求項11に記載のキット。
【請求項19】
有効量が、少なくとも1.0ng/kg体重/分である、請求項11に記載のキット。

【公表番号】特表2007−532663(P2007−532663A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−508488(P2007−508488)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【国際出願番号】PCT/US2005/012471
【国際公開番号】WO2005/099680
【国際公開日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(506342741)ユナイテッド セラピューティクス インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】