説明

ネット構造体

【課題】
従来ネットに比べ卓越した耐摩耗性、耐衝撃性を有し、屋外環境下においても長期間その機能を消失することなく使用できるネット構造体を提供する。
【解決手段】
ポリエステル繊維が樹脂エラストマーで被覆されてなるネット構造体であって、該樹脂エラストマーの被覆量が繊維重量100重量部に対し75〜600重量部であることを特徴とするネット構造体。ネット構造体のデュロメータ硬さがA10〜A80であることが好ましく、樹脂エラストマーの被覆量が繊維重量100重量部に対し150〜400重量部であることがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はネット構造体に関する。詳しくは従来ネットに比べ耐摩耗性、耐衝撃性等の特性が大幅に向上し屋外環境において長期間使用することができるネット構造体に関する。さらに詳しくは河川、海洋など特に厳しい自然環境下においても、長期間その機能を失うことなく好適に使用できるネット構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屋外で使用されるネットには、例えば、建築現場を覆うように設置され工具等の飛散を防止する安全ネット、養生ネット、法面保護や地盤強化のため土中に埋設されるジオネット、またネット内部に石片などを充填し河川岸や海洋岸に設置されるいわゆる河川護岸ネット、海洋護岸ネット、さらには農業用の防雪ネット、遮光ネット、漁網に代表される各種水産ネットやスポーツ・レジャーネット等々、その使用目的・使用形態に応じて多種多様なネットが存在する。これらいずれのネットにおいても屋外環境下で長期間その機能を保持したまま使用できることが最も重要な事項の1つであり、そのためにはネットの耐摩耗性・耐衝撃性を高めることが必要である。特に上記ネットのうち、河川護岸ネットおよび海洋護岸ネットは内部に石片、コンクリート片などを充填した袋体をなし、大きな波力が及ぶ河川岸、海岸に設置されることから、該ネットは充填材との衝突、地表面にある石砂との接触を繰り返し受けることとなり、ときとして数週間から数ヶ月のうちに破網に至り本来の機能を保持しなくなるケースも珍しくない。この通り特に厳しい環境下で使用されるネットについては、耐摩耗性・耐衝撃性に極めて優れたものでなければならない。
【0003】
上記の通りネットの耐摩耗性・耐衝撃性を向上せしめることは、重要かつ永年の課題であり、これまでに数多くの提案がなされてきている。そのうちネットを構成する繊維に工夫・改善を施すことでかかるネット特性を向上させ得る技術として特許文献1〜4がある。
【0004】
特許文献1、2にはネットを構成する繊維の単糸繊度を特定の範囲とすることで、ネットにかかる衝撃や石砂との摩耗を吸収分散させ耐摩耗性、耐衝撃性を向上させる方法が記載されている。しかしながら、この方法による向上効果は僅かであり、厳しい環境下で使用するネットに適用した場合には、耐摩耗性、耐衝撃性が全く不十分である。
【0005】
特許文献3には芯部にポリエステル、鞘部にポリアミドを配し、さらにポリアミド中にはケイ素化合物を添加することで耐候性、耐熱性、耐摩耗性、耐衝撃性等に優れた芯鞘複合繊維に関する技術が記載されている。しかしながら、この複合繊維を使用したネットについても、耐摩耗性、耐衝撃性の点で十分とは言えず、より厳しい屋外環境下で長期間使用するという要望に応えきれるものではなかった。
【0006】
特許文献4には繊維の動摩擦係数を0.10以下に抑えることで耐衝撃性、耐摩耗性の向上を図る技術が提案されている。この方法では繊維と石砂等が衝突・接触した際に糸条を構成する単繊維が素早く移動し衝撃圧力を分散させることで繊維自体が受けるダメージが低減できると記載されている。しかし屋外での実使用環境下においては、必ずしも有効ではなく、ネット寿命の延長が認められないケースもあった。また、繊維の動摩擦係数を低く抑えるあまりに取り扱い難く、ネット製造工程において問題が残るものでもあった。
【0007】
以上述べてきたように各種特徴を有した繊維材を使用することで、ネットの耐摩耗性、耐衝撃性を向上させる技術は数多く提案されているが、いずれの場合も、その効果には限界があり、さらなる耐摩耗性、耐衝撃性の向上、つまりこれまでの技術レベルを卓越したネット構造体が未だ望まれ続けている状況にあった。
【0008】
一方で、繊維材に樹脂材を被覆した複合材料に関する技術として特許文献5および特許文献6が提案されている。
【0009】
特許文献5には繊維ネットにエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂および無機充填材を主成分とする樹脂組成物を被覆してなる工事用仮設ネットに関する技術が記載されている。この方法で得られるネットは、繊維材のみからなるネットに比べると耐摩耗性・耐衝撃性の向上効果が認められるものの、本来は振動減衰や騒音消去を狙った技術であり、ネットの使用寿命を延長させるうえで肝要の耐摩耗性、耐衝撃性については考慮されておらず、不十分なものであった。
【0010】
特許文献6ではある特定の物性を有す繊維ネット上にアクリル系又はシリコン系樹脂を被覆する技術が提案されている。この方法では繊維ネット材に伸び応力がかかった際、被覆樹脂にクラックが発生するのを防ぐため、比較的硬い樹脂が選択使用されている。一方、被覆樹脂によりネット材自体が硬くなり過ぎることを抑制するため、樹脂の被覆量を70%以下に規制している。つまりこのネット構造体は特許文献5と同じく障害物との衝突・接触による摩耗進行の抑制を十分には考慮できておらず、特に河川、海洋など石砂等との繰り返し衝突・接触が起こる厳しい環境下において長期間使用するネットとしては適当なものではなかった。
【特許文献1】特開平11―350293号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2001−262452号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平7−316927号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平11−350289号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】実開平2−68045号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特許第3781222号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来技術では解決できなかった課題を鋭意検討した結果、達成したものである。すなわちは耐摩耗性・耐衝撃性が大幅に向上したネット構造体に関するものであり、屋外で使用される全てのネットに適用でき、特に内部に石片やコンクリート片などを充填した袋体をなし、大きな波力が及ぶ河川護岸ネット、海洋護岸ネットに使用した場合においても、長期間その機能を保持し続けることができるネット構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は主として次の構成を有する。すなわち、ポリエステル繊維が樹脂エラストマーで被覆されてなるネット構造体であって、該樹脂エラストマーの被覆量が繊維重量100重量部に対し75〜600重量部であることを特徴とするネット構造体である。
【0013】
さらに、本発明のネット構造体においては、次の(a)〜(e)のいずれか1つまたはその組み合わせを満たすことが好ましい態様であり、さらに優れた効果が期待できるものである。
(a)ネット構造体のデュロメータ硬さがA10〜A80であること。
(b)樹脂エラストマーの被覆量が繊維重量100重量部に対し150〜400重量部であること。
(c)樹脂エラストマーが天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ウレタンゴムから選ばれる少なくとも1種のエラストマーであること。
(d)ポリエステル繊維が以下の特性を満たすこと。
総繊度 :500〜3000dtex
単糸繊度 :18〜35dtex
強度 :5〜9cN/dtex
伸度 :15〜30%
乾熱収縮率:3〜15%
(e)また、本発明のネット構造体は、河川護岸ネット、海洋護岸ネット用途に特に好適に用いられるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐摩耗性・耐衝撃性が大幅に向上したネット構造体が得られ、屋外で使用される全てのネットに適用でき、特に内部に石片やコンクリート片などを充填した袋体をなし、大きな波力が及ぶ河川護岸ネット、海洋護岸ネットに使用した場合においても、長期間その機能を保持し続けることができるネット構造体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明のネット構造体を構成する繊維材にはポリエステル繊維が使用される。ポリエステル繊維は優れた機械的特性・寸法安定性を有し、耐候性・耐水性等にも優れることから、屋外環境下で使用されるネット用繊維として適当である。ポリエステル繊維をなすポリマは特に限定されるものではないが、高強度、高タフネスの繊維を得るためにはエチレンテレフタレートを主な繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレートが好適に用いられる。ポリマの一部にはこれらの特性を阻害しない範囲において、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの酸成分、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオールなどのジオール成分を含むものであっても良い。また近年、地球環境保護の観点から利用推奨されているリサイクルポリエステル繊維を適用することも十分可能である。
【0017】
繊維材自体の耐候性、耐熱性等を向上させる目的でベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、抗酸化剤、ラジカル補足剤、また、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、クレーなどの無機物などを含有していても何ら差し支えなく、該繊維材を使用することでネット構造体としての特性向上が十分に期待できる。さらに、ポリマ中に着色剤を含むものであってもよい。着色剤は、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化鉄などの無機着色剤、シアニン系、フタロシアニン系、アントラキノン系、アゾ系、ペリノン系、スチレン系、キナクドリン系などの有機着色剤が挙げられる。これら着色剤を含有したポリマを使用した場合は耐色堅牢度に優れるとともに、ネット製造工程において染色工程を省略できるという地球環境面および製造コスト面でのメリットが生じる。
【0018】
高強度・高伸度の繊維材を得るうえで使用するポリマの重合度は高い方が良い。ポリエチレンテレフタレートの場合、固有粘度0.8以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上である。
【0019】
そして、本発明に用いるポリエステル繊維の強伸度特性は特に限定されるものではないが、強度は5〜9cN/dtexであることが好ましく、7〜9cN/dtexであることがより好ましい。また伸度は15〜30%がであることが好ましく、20〜30%であることがより好ましい。繊維材の強伸度特性をかかる範囲とすることで、ネット構造体の強伸度特性が向上し、大きな衝撃を受けた際にも破断に至る確率を低減させることができ、すなわち屋外環境下において長期間その機能を維持したまま使用することができるようになる。
【0020】
またポリエステル繊維の乾熱収縮率は3〜15%とすることで、形態安定性に優れたネットが高品位で得られやすくなるため好ましく、5〜10%とすることがより好ましい。
【0021】
また使用するポリエステル繊維の総繊度、単糸繊度についても特に制限はなく、ネット構造体の使用目的や要求特性、さらにはネット製造工程における生産効率・生産コスト等に応じて適宜設計すればよい。なお、繊維の製造工程からは総繊度は500〜3000dtexであることが好ましく、1000〜2000dtexであることがより好ましい。また単糸繊度は18〜35dtexであることが好ましく、18〜25dtexであることがより好ましい。かかる範囲のポリエステル繊維であれば、特に品位品質に優れた繊維を良好な生産性で得ることができる。
【0022】
以上述べてきた本発明のネット構造体を構成するポリエステル繊維は通常の方法により製造することができる。一例としてポリエチレンテレフタレートの溶融紡糸方法を示すが、何らこれに限定されるものではない。固有粘度が1.0以上のポリエチレンテレフタレートを溶融濾過したのち口金細孔から紡出する。紡出糸条はポリマの融点以上、例えば270〜350℃に加熱せしめた雰囲気を通過したのち80℃以下の冷却風にて冷却固化される。かかる温度履歴を経ることで、高強度・高伸度の繊維を品位良く製造することができる。冷却後の糸条は油剤を付与され、所定の回転速度で回転する引取ローラに捲回して引き取られる。引き続き、順次高速回転するローラに捲回することで延伸を行う。より高強度・高伸度の繊維を得るには2〜3段に分けて、トータル3.5〜6.0倍の倍率になるように延伸すればよい。各ローラの表面温度は得られる繊維の品位品質に影響を与えるものであり、適当な温度に設定する必要がある。例えば、引取ローラ、第1延伸供給ローラは60〜100℃、第1延伸ローラは100〜130℃、第2延伸ローラは180〜230℃とするのが好ましい。延伸後には1〜10%程度の弛緩処理することで、形態安定性に優れた繊維を得ることができる。巻き取る直前において、高圧空気を走行糸条に噴射して交絡処理を施すことが好ましい。交絡はできるだけ多くかつ均一にすることが好ましく、交絡数(CF値)は10〜30あれば十分である。かかる交絡を付与することで巻き取りチーズからの糸条解舒性、および糸条のガイド通過性等が良好になり、続く製網工程やエラストマー塗布工程におけるトラブルを回避することできる。
【0023】
本発明のネット構造体は、通常上記得られたポリエステル繊維を数本合わせ使用するが、合わせ本数は使用用途、所望のネット強力等に従って適宜設定すればよい。例えば、安全ネットや養生ネットでは1670T程度の高強度ポリエステル繊維を5〜20本程度合わせて網糸とすることが多く、河川護岸ネット、海洋護岸ネットなどより厳しい環境下で使用するネットでは、50本以上ときとして100本以上を合わせて使用することもある。
【0024】
ネット構造体の形状についても、使用用途・目的に応じて適宜設定すればよい。網目については菱目、亀甲目、角目、千鳥目、六角目などが挙げられる。ネット種としては、蛙又、本目のような結節網、無結節網、ラッセル網、もじ網、織網などを採用することができる。本発明のネット構造体ではポリエステル繊維が樹脂エラストマーで被覆されてなることが最大の特徴であり、その点においては無結節網、ラッセル網が特に好適に選択される。目合いについては10〜100mmが好ましく、特に河川護岸ネット、海洋護岸ネットといった袋体をなし、その内部に石片等を充填するネットの場合は、その充填材が漏出するのを防ぐようにすればよく、例えば50〜100mmの目合いに設定すればよい。
【0025】
本発明のネット構造体は繊維材および樹脂エラストマー材から構成される。
【0026】
樹脂エラストマー材は、特に限定されるものではないが、柔軟であり、耐摩耗性、耐衝撃性に優れたものを選択すべきである。つまり、本発明ではあえて樹脂エラストマーと呼び、通常の樹脂とは区別して用いている。樹脂エラストマーとはいわゆる“ゴム”であり、常温下において軟らかく弾性に富む高分子物質である。そして、該樹脂エラストマーをその表面に配してなる本発明のネット構造体のデュロメータタイプAで測定したデュロメータ硬さはA10〜A80であることが好ましく、より好ましくはA30〜A70である。かかる範囲内の硬さを有すネット構造体は、衝撃を吸収緩和し自材が受けるダメージを最小限に減衰することができる。同様に石砂との擦れに対しても耐性を示し、弾性変形することで摩滅消失を抑制することができるようになる。
【0027】
つまり本発明のネット構造体は、その表面に柔軟な樹脂エラストマーを配してなることから耐摩耗性、耐衝撃性に極めて優れ、河川や海洋といった厳しい環境下においても破損・破断が起こりにくく長期間その機能を維持したまま使用することが可能となる。従来提案されている樹脂、例えばエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂などを被膜してなる表面が硬いネット構造体に比べ耐摩耗性、耐衝撃性において遙かに凌ぐ効果を示すものであると言える。本発明で使用する樹脂エラストマー材は、特に限定されるものではないが、柔軟性に富み、耐摩耗性、耐衝撃性に優れたものが好適である。具体的には、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。なかでも物性バランスの点からウレタンゴム、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴムがより好ましい。これら樹脂エラストマーに加硫剤、架橋剤を添加し熱処理することで樹脂エラストマー自身の構造がより安定化・強靱化し、該エラストマーが被覆されてなるネット構造体ではより一層の耐摩耗性、耐衝撃性向上効果が発現する。
【0028】
また、該エラストマーに耐摩耗性、耐衝撃性、さらには耐候性、耐水性等を向上させる目的で各種薬剤を添加してもよい。例えば、高分子ポリエチレンやポリテトラフルオロエチレン等の微粉末を添加することで耐摩耗性の向上が期待でき、カーボン、シリカなどの無機物の添加により被膜強度アップが期待できる。その他、酸化防止剤、PH調整剤、安定剤などを添加することでも樹脂エラストマー特性を向上させることができる。また、本来の耐摩耗性、耐衝撃性、さらには強伸度特性を損なわない範囲において難燃剤や抗菌剤を添加することも可能であり、ネット構造体に所望の機能を付加することができる。
【0029】
樹脂エラストマーの被覆量は繊維材100重量部に対し75〜600重量部であり、150〜400重量部の範囲でがより好ましい。被覆量をかかる範囲とすることでいかなる環境下においても摩耗、損傷等の進行を最大限に抑制することができ、ネットとしての役割を長期間維持することが可能となる。エラストマー被覆量が繊維重量100重量部に対し75重量部に満たない場合、河川や海洋といった非常に厳しい環境下での使用において必ずしも十分な効果が得られるとは言い難い。逆にエラストマー被覆量が600重量部を越えると、耐摩耗性、耐衝撃性向上は既に飽和してしまい、一方で被覆加工工程の難度が増すことや、ネット構造体自体の重量が増し取り扱い性が悪化することなどの問題が生じ、また当然ながら製造コストアップとなる等の問題が生じてしまう。
【0030】
本発明のポリエステル繊維が樹脂エラストマーで被覆されてなるネット構造体を得る方法としては、繊維を成形・編網して得られたネットに樹脂エラストマーを被覆する方法と、繊維もしくは繊維を数本合わせた網糸に樹脂エラストマーを被覆して得られた繊維材を成形・編網する方法に大別される。本発明ではいずれの方法とも好適に採用でき、何ら限定されるものではない。
【0031】
前者としては、例えばネット構造体の繊維材を樹脂エラストマー溶液に浸漬させた後、余分な樹脂等をマングル、バキューム、さらにはコーティングナイフを用いて除去・均一化する方法、樹脂エラストマーを溶融させネット構造体の繊維材に直接塗布する方法、スプレー装置やフォーミング装置を用いて吹き付ける方法などが一般的である。これらの方法の中で樹脂エラストマーをより均一に塗布するには浸漬法が有利であり、一方、樹脂エラストマーを多く塗布したい場合には、溶融樹脂エラストマーを直接ネット構造体の繊維材に塗布する溶融被覆法がより好ましいと考えられる。前記浸漬法の場合は、樹脂エラストマーを有機溶媒または水で希釈・エマルジョン化して使用する場合が多く、その際には溶媒を除去するために該溶媒の沸点以上に加熱する工程が必要となる。一方、溶融被覆法では樹脂エラストマーをそのまま使用する場合が多く、溶媒除去のための加熱工程が省略でき、コスト面での優位性が期待できる。引き続き、樹脂エラストマーをネット構造体の繊維材にしっかり固着させ、また樹脂エラストマー自体の耐摩耗性・耐衝撃性等の特性を一段と向上させるため、高温熱処理工程に供すことが好ましい。加熱温度は使用する樹脂エラストマーに特有であり、例えば、ウレタンゴムの場合は、130〜180℃、クロロプレンゴムの場合は100〜150℃程度に設定すればよい。該温度に保持する時間については、樹脂エラストマーの塗布量により適宜設定すべきであるが、長くても5分加熱すれば、ほとんど場合、適当な樹脂エラストマー被膜が形成され、所望の耐摩耗性、耐衝撃性に優れたネット構造体が得られる。
【0032】
本発明のネット構造体を得るもう1つの方法、つまりポリエステル繊維もしくは該繊維を数本合わせてなる網糸に樹脂エラストマーを被覆した後、繊維材を成形・編網する方法において、繊維および網糸に樹脂エラストマーを被覆するには前述と同様に浸漬法、溶融被覆法などが採用できる。引き続き該エラストマー被覆繊維体からネット構造体を得るには、通常の繊維用編網機を使用して編網する方法、ときとして金属用編網機を使用する場合もある。また、エラストマーが被覆されてなる繊維体同士を接着させて成形することも可能である。接着には各種接着剤を使用してもよいし、繊維表面に存在するエラストマーを加熱融着させることも可能である。
【0033】
得られたネット構造体はその使用目的・形態に応じて吊りロープや口縛りロープなどに取り付けて使用することができる。これらのロープ類はネットを設置・使用するうえで補助的に必要なものであり、本発明で想定している繰り返し衝撃、繰り返し摩耗を受けることはない。従って、必ずしも樹脂エラストマーで被覆する必要はなく、繊維材や針金材のみからなるものであっても何ら問題ない。
【0034】
かくして得られる本発明のネット構造体は、その表面に耐摩耗性、耐衝撃性等に優れた樹脂エラストマーを配してなることから、各種特性、特に耐摩耗性、耐衝撃性に極めて優れ、あらゆる屋外環境下において、長期間その機能を消失することなく使用することができる。特にネット内部に石片やコンクリート片などを充填した袋体をなし、大きな波力が及ぶ河川護岸ネット、海洋護岸ネットに使用した場合においても、寿命の延長が期待できるネット構造体である。しかも、特異な生産工程を要するものでなく、既知の製網工程、樹脂被覆工程を組み合わせることで、その実現が可能となる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、各種物性は次に方法により算出した。
【0036】
[ポリマの固有粘度(IV)]:
試料8.0gにオルソクロロフェノール100mlを加えて、160℃×10分間加熱溶解した溶液の相対粘度ηrをオストワルド粘度計を用いて測定し、次の近似式に従い算出した。
IV=0.0242ηr+0.02634
【0037】
[総繊度]:
JIS L−1013(1999)8.3.1正量繊度a)A法に従って、所定荷重5mN/tex×表示テックス数、所定糸長90mで測定した。
【0038】
[単糸繊度]:
総繊度をフィラメント本数で徐して求めた。
【0039】
[強度・伸度]:
試料を気温20℃、湿度65%の温調室において、オリエンテック(株)社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100でJIS L−1013(1999)8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。このときの掴み間隔は25cm、引張速度は30cm/min、試験回数は10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0040】
[乾熱収縮率]:
JIS L−1013(1999)8.18.2乾熱収縮率a)かせ収縮率(A法)に従って、試料採取時の所定荷重5mN/tex×表示テックス数、処理温度150℃、また、かせ長測定時の所定荷重200mN/tex×表示テックス数として測定した。
【0041】
[エラストマー被覆量]:
エラストマー被覆前の繊維材から1m採取し重量Xを、エラストマー被覆後の繊維材から1m採取し重量Yをそれぞれ測定し以下式に従って算出した。
エラストマー被覆量(重量部)=(Y−X)/X×100
【0042】
[ネット構造体のデュロメータ硬さ]:
ASKER製デュロメータ硬度計タイプAを用いJIS K−6253(1997)5.デュロメータ硬さ試験に従って測定した。加圧面を試験片側面に密着後1秒以内に目盛りを読みとった。試験回数を5回とし、その平均値を記した。
【0043】
[ネット構造体の強力]:
JIS A−8960(2004)7.2網糸の引張強さ試験に従って、掴み間隔25cm、引張速度20cm/minとしてオリエンテック(株)社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100を用い測定した。試験回数は10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0044】
[ネット構造体の耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)]:
ネット構造体から30cm×30cmの試験片を採取した。次に50lのコンクリートミキサーに試験片、水およそ30l、割れ石およそ5kg、平均粒径およそ300μmの砂3kgを入れ、50rpmの回転速度で1h攪拌させた。攪拌後試験片を取り出し、乾燥後、ネット構造体の強伸度を測定し、次式に従いネット構造体の耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)を算出した。
ネット構造体の耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)(%)
=(摩耗試験後のネット強力/摩耗試験前のネット強力)×100
【0045】
[実施例1]
高純度テレフタル酸とエチレングリコールにアンチモン系触媒を添加し、減圧下において285℃まで徐々に加熱し所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージし常圧に戻し重縮合反応を停止した。次いで得られたポリマを冷水中に押し出しカッティングすることでポリエチレンテレフタレートのペレットを作製した。得られたペレットを130℃にて3時間の予備結晶化を行った後、真空下230℃にて10時間の固相重合を行い、固有粘度1.2のポリエチレンテレフタレートを製造した。引き続き得られた固有粘度1.2のポリエチレンテレフタレートをエクストルーダ型紡糸機で溶融し、計量ポンプで計量した後、紡糸パック内で濾過し紡糸口金より紡出した。この際、エクストルーダ、スピンブロック、紡糸パックの各部は溶融ポリマ温度が300℃となるように温度設定した。また、紡糸口金には孔数96、円形孔型のものを使用した。
【0046】
紡出された糸条は温度320℃、長さ300mmの加熱筒内を通過した後、20℃の冷却風を30m/minの風速で吹き当てられ冷却固化せしめ、油剤ローラに接触させ給油したのち、600m/minの速度で回転する引取ローラに捲回して引き取った。引取られた糸条は一旦巻き取ることなく、順次高速回転する第1延伸供給ローラ、第1延伸ローラ、第2延伸ローラ、および第2延伸ローラより低速回転する弛緩ローラに捲回することで、総倍率5.6倍、弛緩率5%となるように2段延伸・弛緩処理を施した。この際、各ローラ温度は引取ローラ70℃、第1延伸供給ローラ100℃、第1延伸ローラ110℃、第2延伸ローラ220℃、弛緩ローラ50℃に設定した。引き続き弛緩処理後の糸条に交絡ノズルを用い0.5Mpaの圧縮空気を噴射し、交絡処理を施した後、巻き取り装置にて巻き取ることで、1850dtex−96フィラメント、強度7.5cN/dtex、伸度20%、乾熱収縮率8.0%のポリエチレンテレフタレート繊維を製造した。
【0047】
次に得られたポリエチレンテレフタレート繊維を8本合わせ、ラッセル型編網機を使用し目合い50mm×50mmに編網した後、150℃×3分間の熱処理を施しラッセル型ネットを作製した。
【0048】
引き続き、被覆用の樹脂エラストマーとして第一工業製薬製E2000タイプのウレタンゴムを選択し、濃度60%の水系エマルジョンとなした後、上記得られたネットを該ウレタン溶液に20秒間浸漬して塗布し、マングル装置にて余分なウレタン溶液を除去し、第1乾熱槽(100℃、2分間)にて水媒の除去、第2乾熱槽(245℃、2分間)にてウレタン固着させた。この塗布−熱処理工程を1回行い、本発明のネット構造体を製造した。
【0049】
得られたネット構造体のエラストマー被覆量、およびデュロメータ硬さ、強力を表1に記す。また、耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)を表1に併せて記す。
【0050】
[実施例2]
塗布−熱処理工程を3回行った以外は実施例1と同様にして、本発明のネット構造体を製造した。
【0051】
得られたネット構造体のエラストマー被覆量、およびデュロメータ硬さ、強力を表1に記す。また、耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)を表1に併せて記す。
【0052】
[実施例3]
塗布−熱処理工程を5回行った以外は実施例1と同様にして、本発明のネット構造体を製造した。
【0053】
得られたネット構造体のエラストマー被覆量、およびデュロメータ硬さ、強力を表1に記す。また、耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)を表1に併せて記す。
【0054】
[実施例4]
被覆用の樹脂エラストマーとして昭和電工製ショウプレン400タイプのクロロプレンゴム(濃度40%)を用いた以外は実施例1と同様の方法でネット構造体を製造した。得られたネット構造体のエラストマー被覆量、デュロメータ硬さ、強力、および耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)を表1に記す。
【0055】
[実施例5]
塗布−熱処理工程を8回行った以外は実施例4と同様にして、本発明のネット構造体を製造した。
【0056】
得られたネット構造体のエラストマー被覆量、およびデュロメータ硬さ、強力を表1に記す。また、耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)を表1に併せて記す。
【0057】
[実施例6]
被覆用の樹脂エラストマーとしてGolden Hope Plantation Berhad , Malaysia製のHYTEXタイプの天然ゴム(濃度40%)を用いた以外は実施例1と同様の方法でネット構造体を製造した。得られたネット構造体のエラストマー被覆量、デュロメータ硬さ、強力、および耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)を表1に記す。
【0058】
[実施例7]
被覆用の樹脂エラストマーとして住友精化製のCSM450タイプのクロロスルホン化ポリエチレンゴム(濃度40%)を用いた以外は実施例1と同様の方法でネット構造体を製造した。得られたネット構造体のエラストマー被覆量、デュロメータ硬さ、強力、および耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)を表1に記す。
【0059】
[実施例8]
被覆用の樹脂エラストマーとして日本エイアンドエル製SR114タイプのスチレン−ブタジエンゴム(濃度40%)を用いた以外は実施例1と同様の方法でネット構造体を製造した。得られたネット構造体のエラストマー被覆量、デュロメータ硬さ、強力、および耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)を表1に記す。
【0060】
【表1】

【0061】
[比較例1]
実施例1と同様の方法でポリエチレンテレフタレート繊維、およびラッセル型ネットを作製し、樹脂エラストマー被覆を施さずそのままネット構造体とした。該ネット構造体のデュロメータ硬さ、強力、および耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)を表2に記す。
【0062】
[比較例2]
被覆用の樹脂としてエラストマー特性を有さないアクリル樹脂(大日本インキ製ボーンコート*濃度40%)を用いた以外は実施例1と同様の方法でネット構造体を製造した。得られたネット構造体の樹脂被覆量、デュロメータ硬さ、強力、および耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)を表2に記す。
【0063】
[比較例3]
塗布−熱処理工程を5回行った以外は比較例2と同様にして、本発明のネット構造体を製造した。
【0064】
得られたネット構造体のエラストマー被覆量、およびデュロメータ硬さ、強力を表2に記す。また、耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)を表2に併せて記す。
【0065】
[比較例4]
被覆用樹脂エラストマーとして昭和電工製ショウプレン400タイプのクロロプレンゴム(濃度15%)を用いた以外は実施例1と同様の方法でネット構造体を製造した。得られたネット構造体のエラストマー被覆量、デュロメータ硬さ、強力、および耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)を表2に記す。
【0066】
【表2】

【0067】
表1、2から明らかなように本発明のネット構造体は、柔軟であり、耐摩耗・耐衝撃試験後の強力保持率が極めて高い結果が得られた。このことから屋外使用環境下、特に河川、海洋など波や砂石との繰り返し衝突を受ける激しい環境下においても長期間その機能を維持することが十分に期待できるものであった。
【0068】
一方、エラストマー被覆を施さず、繊維材のみからなる比較例1の従来ネットでは、耐摩耗・耐衝撃試験後の強力保持率が低いことから、屋外使用環境下において容易に破網に至ることが示唆されるものであった。
【0069】
また、高硬度のアクリル樹脂を被覆した比較例2、3においても、耐摩耗・耐衝撃試験後の強力保持率が不足しており、屋外使用環境下での長期間使用には不適と判断せざるを得ないものであった。さらに樹脂エラストマーの被覆量が本発明の範囲外である比較例4においても十分な強力保持率が得られているとは言い難く、激しい環境下における長期間使用が期待できるものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のネット構造体は、その表面に耐摩耗性、耐衝撃性等に優れた樹脂エラストマーを配してなることから、各種特性、特に耐摩耗性、耐衝撃性に極めて優れ、あらゆる屋外環境下において、長期間その機能を消失することなく使用することができる。特にネット内部に石片やコンクリート片などを充填した袋体をなし、大きな波力が及ぶ河川護岸ネット、海洋護岸ネットに使用した場合においても、寿命の延長が期待できるネット構造体である。しかも、特異な生産工程を要するものでなく、既知の製網工程、樹脂被覆工程を組み合わせることで、その実現が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維が樹脂エラストマーで被覆されてなるネット構造体であって、該樹脂エラストマーの被覆量が繊維重量100重量部に対し75〜600重量部であることを特徴とするネット構造体。
【請求項2】
ネット構造体のデュロメータ硬さがA10〜A80であることを特徴とする請求項1に記載のネット構造体。
【請求項3】
樹脂エラストマーの被覆量が繊維重量100重量部に対し150〜400重量部であることを特徴とする請求項1に記載のネット構造体。
【請求項4】
樹脂エラストマーが天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ウレタンゴムから選ばれる少なくとも1種のエラストマーであることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のネット構造体。
【請求項5】
ポリエステル繊維が以下の特性を満たすことを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のネット構造体。
(1)総繊度 :500〜3000dtex
(2)単糸繊度 : 18〜35dtex
(3)強度 :5〜9cN/dtex
(4)伸度 : 15〜30%
(5)乾熱収縮率: 3〜15%
【請求項6】
ネット構造体が河川護岸ネット、または海洋護岸ネットであることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載のネット構造体。

【公開番号】特開2008−163493(P2008−163493A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352118(P2006−352118)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】