説明

ネフォパムの分割のための方法

分割剤としてO,O−ジアロイル酒石酸の実質的に単一の鏡像異性体を用いて、その酸のビスネフォパム塩を経て、ネフォパムの鏡像異性体の混合物の光学純度を増加するための方法。その塩は新規である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、ネフォパム(nefopam)の単一の鏡像異性体の製造のための分割方法に関する。
【0002】
発明の背景
ネフォパムは、激しい痛みの緩和処置のために開発されたキラルな薬剤である。ネフォパムはラセミ混合物で市販されているが、その薬剤の鏡像異性体は異なった生物活性を示すことが明らかにされている。インビトロ及びインビボの研究は、(+)−ネフォパムは(−)−ネフォパムより強い鎮痛性を有し、そしてより強いドーパミン、ノルエピネフリン及びセロトニンの吸収阻害特性を有することを明らかにしている。WO03/105832は、ネフォパムが嘔吐及び関連症状の処置において効用を有すること、(+)−ネフォパムが好ましい鏡像異性体であること、を開示している。
【0003】
ネフォパム及びネフォパム類縁体の個々の鏡像異性体の製造のための、効率的で信頼性のある方法が望まれている。ラセミ体ネフォパムは容易に入手できるので、選択的結晶化によるジアステレオマー塩の分離を含む伝統的な分割方法が適切であろう。
【0004】
Blaschkeらは、1モル当量のO,O−ジベンゾイル−L−酒石酸を用いたネフォパムの分割について開示している(Arch. Pharm.(Wheinheim)320:341−347(1987))。その分割は一酒石酸塩の形成を経て進行する。
【0005】
発明の要旨
本発明は、分割剤(resolving agent)としてO,O−ジベンゾイル酒石酸または関連するO,O−アロイル酒石酸の実質的に単一の鏡像異性体を用いて、新規なビスネフォパム酒石酸塩(ネフォパムヘミ酒石酸塩)の形成を経て、ラセミ体または非ラセミ体のネフォパムをより効率的に分割することができる、という予期せぬ発見に基づいている。
【0006】
本発明の方法の利点は、分割剤を高い純度で容易に回収することができ、そのためその後の一回以上の分割工程に再使用できる、ということである。さらに、所望であれば、1.0モル当量より少ない分割剤を本方法において使用することができることである。
【0007】
発明の説明
本発明の方法は、伝統的な光学分割方法の分野において、一般に当業者に知られている条件下で行なうことができる。
【0008】
典型的な実験では、ネフォパムをエタノールに溶解し、そしてO,O−ジベンゾイル−L−酒石酸一水和物(1モル当量)の溶液で処理した。得られた溶液を沈殿が生じるまで静置した。その固体を集め、そして再結晶によって、(+)−ビス−ネフォパム O,O−ジベンゾイル−L−酒石酸塩を収率22%、鏡像体過剰率99%で得た。
【0009】
ところで、O,O−ジベンゾイル酒石酸の両方の鏡像異性体は容易に多量に入手できるので、必要とされるネフォパムの鏡像異性体に応じて、そのどちらか一方を用いて分割を行なうことができる。すなわち、分割剤としてO,O−ジ−p−トルオイル−D−酒石酸を用いて、(−)−ビス−ネフォパム O,O−ジベンゾイル−L−酒石酸塩を同様な収率及び光学純度で製造することができる。
【0010】
また、鏡像異性的に富んだネフォパムの光学純度を増すために分割剤を使用することもできる。すなわち、ネフォパムの両方の鏡像異性体が必要とされる場合、上述の方法を合わせることができ、一方の鏡像異性体は分割によって回収され、そしてその反対の鏡像異性体は分割の母液から抽出される。実際には、上述のように(+)−ビス−ネフォパム O,O−ジベンゾイル−L−酒石酸塩が回収された場合、残っている母液は(−)−異性体に富んだネフォパム遊離塩基を単離するために処理され、そして、(−)−異性体に富んだネフォパム遊離塩基がO,O−ジベンゾイル−D−酒石酸との処理及びそれによって得られた塩の結晶化によって精製される。
【0011】
逆の分割工程(reverse resolution process)によって、分割手順の収率を改良することができる。すなわち、ラセミ体のネフォパムをO,O−ジ−p−トルオイル−D−酒石酸で処理した場合、(−)−ビス−ネフォパム O,O−ジベンゾイル−D−酒石酸塩が単離される。(+)−ネフォパムに富んだ母液を、O,O−ジベンゾイル−L−酒石酸を用いて標準の方法で分割して(+)−ビス−ネフォパム O,O−ジベンゾイル−L−酒石酸塩を良好な収率で得ることができる。同様の逆の分割工程を、(−)−ビス−ネフォパム O,O−ジベンゾイル−L−酒石酸塩を良好な収率で単離するためにも適用することができる。
【0012】
本発明の方法で使用される、または本発明の方法で製造される、実質的に単一の鏡像異性体は、少なくとも80%e.e.、好ましくは少なくとも90%e.e.、より好ましくは少なくとも95%e.e.、そして最も好ましくは少なくとも98%e.e.、であることができる。
【0013】
本発明を以下の実施例によって説明する。
実施例1 ネフォパム遊離塩基
水(12.5L)及び2M水酸化ナトリウム溶液(18.5Kg)にラセミ体のネフォパム塩酸塩(5.0Kg、17.2モル)を懸濁し、そして固体の水酸化ナトリウム(50g)を加えた。酢酸エチル(11.16Kg)を加え、そして完全に溶解するまで混合物を10分間撹拌した。撹拌を停止し、二つの層を分離した。酢酸エチル層を除いて保存した。水層をさらに酢酸エチル(11.16Kg)で抽出した。そして合わせた酢酸エチル抽出物を硫酸マグネシウム(500g)で乾燥し、ろ過し、蒸発させて、無色半固体として生成物を得た。この操作を繰り返して、定量的収率で生成物を得た(9.31Kg、106%、酢酸エチル残渣を含む)。
【0014】
実施例2 (+)−ビス−ネフォパム O,O−ジベンゾイル−l−酒石酸塩
実施例1で単離した生成物(7.86Kg、31.0モル)をエタノール(14.7Kg)に溶解し、室温で撹拌した。O,O−ジベンゾイル−L−酒石酸(2.75Kg、0.25モル当量)のエタノール(16.0Kg)溶液を20分間で加えた。得られた溶液を室温で一晩撹拌したところ、その間に結晶化が起こった。ろ過で結晶を集め、エタノール(2x2L)で洗浄し、そして一定質量となるまで減圧下45℃で乾燥した。無色固体として生成物を得た(4.27Kg、32%)。キラルHPLCは、(+)−ネフォパムについて83%e.e.を示した。
【0015】
固体を2バッチ、エタノール(2x12.16Kg)から再結晶し、そして固体を酢酸エチル(2x2L)で洗浄した。合わせた固体を一定質量となるまで減圧下45℃で乾燥し、無色結晶として生成物を得た(2.90Kg、68%)。キラルHPLC分析は99%e.e.を示した。
【0016】
分割濃度(resolution concentration)は5ボリューム(volumes)のエタノールを使用し、全収率は22%である。
実施例3 (+)−ネフォパム
水酸化ナトリウム(335g、8.38モル、2.5当量)を水(11.9Kg)に溶解し、その溶液を実施例2で単離した生成物(2.89Kg、3.34モル)に加えた。その混合物を10分間撹拌して、酢酸エチル(3x4.38Kg)で抽出した。酢酸エチル抽出物を硫酸マグネシウム(500g)で乾燥し、ろ過して、そして一定質量となるまで減圧下で蒸発させた。生成物を無色オイルとして単離した(1.53Kg、90%)。
【0017】
実施例4 (+)−ネフォパム塩酸塩
実施例3で単離した生成物(1.53Kg)をイソプロパノール(4.81L)に溶解し、得られた溶液を50℃に加熱した。濃塩酸(498mL)を15分間で加え、そして50℃で10分間撹拌した。その溶液を30℃に冷却し、そして氷/食塩浴で0℃に冷却した(35℃で沈殿が開始)。その混合物を0℃でさらに1時間撹拌した。沈殿をろ過し、冷イソプロパノール(2x1.05L)で洗浄し、そして固体を真空オーブン中35℃で乾燥した。生成物を無色固体として得た(1.05Kg、96.7%e.e.)。
【0018】
一晩放置したところ、さらに生成物が沈殿した。沈殿をろ過し、イソプロパノール(2x0.5L)で洗浄し、そして真空オーブン中35℃で乾燥した。生成物を無色固体として得た(0.51Kg、99%e.e.)。全収量1.56Kg、89%。
【0019】
実施例5
実施例2の方法をBlaschkeらの先行技術の方法(上述)と比較した。以下の表にまとめることができる。
【0020】
【表1】

【0021】
要約すれば、文献の方法は一酒石酸塩を生成するのに対し、新規の方法はビスネフォパム酒石酸塩(ヘミ酒石酸塩)を生成する。結果は、後者が以下の明らかな利点を有していることを示している:すなわち、後者はより拡張性があり、より少ないボリュームの溶媒を使用し、DMSOを使用せず、0.25当量だけの分割剤を必要とし、一回の再結晶のみを必要とし、そして最終生成物のより良いe.e.を与える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分割剤としてO,O−ジアロイル酒石酸の実質的に単一の鏡像異性体を用いることによって、その酸のビスネフォパム塩を経て、ネフォパムの鏡像異性体の混合物の光学純度を増加するための方法。
【請求項2】
ラセミ体のネフォパムの分割を用いてネフォパムの実質的に単一の鏡像異性体を製造するための、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
順次、O,O−ジベンゾイル酒石酸の実質的に単一の鏡像異性体、次いでその他方の鏡像異性体、を使用する、ラセミ体のネフォパムまたはネフォパム類縁体の逆の分割を含む、ネフォパムの実質的に単一の鏡像異性体を製造するための、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
分割剤としてO,O−ジベンゾイル−L−酒石酸を使用する、(+)−ネフォパムの実質的に単一の鏡像異性体を製造するための、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
分割剤としてO,O−ジベンゾイル−D−酒石酸を使用する、(−)−ネフォパムの実質的に単一の鏡像異性体を製造するための、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
アルコール、エステル、ケトン及びハロゲン化溶媒から選択される溶媒中で行なわれる、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
分割によって得られた塩の、ネフォパムの遊離塩基形またはその薬学的に許容しうる塩へのさらなる変換工程を含む、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
分割剤の量が1当量未満である、請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記量が0.5当量より多くない、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
実質的に単一の鏡像異性体のO,O−ジアロイル酒石酸のビスネフォパム塩。
【請求項11】
前記酸がO,O−ジベンゾイル酒石酸である、請求項10に記載の塩。

【公表番号】特表2007−513936(P2007−513936A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−543627(P2006−543627)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【国際出願番号】PCT/GB2004/005198
【国際公開番号】WO2005/056539
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(506298976)ソセイ・アール・アンド・ディー・リミテッド (10)
【Fターム(参考)】