説明

ノイズ吸収具及びノイズ吸収構造

【課題】1つのノイズ吸収具によってノーマルモードのノイズとコモンモードのノイズとを共に吸収することのできるノイズ吸収具、及び、そのノイズ吸収具を用いてノイズ対策を施したノイズ吸収構造の提供。
【解決手段】ノイズ吸収具1は、中空部を有する筒状の磁性体コアとして組み合わせ可能な断面コの字形の一対の分割コア2,2を備えており、その内壁面2Aには、上記中空部の略長方形状断面の長辺中央に対応する位置から突起3がそれぞれ3箇所に突設されている。突起3を挟むようにして2本の電線を挿入し、かつ、3つの突起3の間で電線を捩った上で、一対の分割コア2を組み合わせると、突起3に隣接する区間では2本の電線が磁性体によって外周から個々に囲まれることになり、突起3に隣接しない区間では2本の電線がまとめて磁性体によって囲まれることになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2本の電線を挿入されてその電線を流れるノイズを吸収するノイズ吸収具、及び、2本の電線を備えてその電線を流れるノイズを吸収するノイズ吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電線が挿入可能な中空部を有する筒状の磁性体コアとして組み合わせ可能な一対の分割コアを備えたノイズ吸収具が提案されている。この種のノイズ吸収具では、上記一対の分割コアを組み合わせて筒状の磁性体コアとし、その磁性体コアの中空部に電線を挿入しておけば、その電線を流れるノイズを吸収することができる。
【0003】
また、2本の電線を介して信号等の電流が通電される場合は、ノイズ電流の方向が逆向きのノーマルモードのノイズと、ノイズ電流の方向が同じのコモンモードのノイズとが発生する。そこで、ノーマルモードのノイズを吸収するためには上記磁性体コアの中空部に電線を1本ずつ挿入し、コモンモードのノイズを吸収するためには上記磁性体コアの中空部に2本の電線を一緒に挿入することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−310340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記方法でノーマルモードのノイズとコモンモードのノイズとを共に吸収するためには、合計3つの磁性体コアを2本の電線に装着する必要があり、装着作業の作業性が低下すると共にノイズ対策のためのコストも上昇する。そこで、本発明は、1つのノイズ吸収具によってノーマルモードのノイズとコモンモードのノイズとを共に吸収することのできるノイズ吸収具、及び、そのノイズ吸収具を用いてノイズ対策を施したノイズ吸収構造の提供を目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達するためになされた本発明のノイズ吸収具は、少なくとも2本の電線が挿入可能な中空部を有する筒状の磁性体コアとして組み合わせ可能な一対の分割コアと、少なくとも一方の上記分割コアの上記中空部を構成する部分から、上記中空部の軸方向の一部の区間に亘って突設され、上記2本の電線の間を通って上記一対の分割コアをつなぐ磁路を形成する磁性体からなる突起と、を備えたことを特徴としている。
【0007】
このように構成された本発明のノイズ吸収具では、一対の分割コアを組み合わせてなる筒状の磁性体コアの中空部には、少なくとも2本の電線を挿入することができる。また、少なくとも一方の上記分割コアの上記中空部を構成する部分からは、磁性体からなる突起が突設されている。この突起は、上記中空部の軸方向の一部の区間に亘って突設され、上記2本の電線の間を通って上記一対の分割コアをつなぐ磁路を形成する。このため、上記中空部における上記一部の区間では、上記2本の電線を個々に周回する2つの磁路を形成してノーマルモードのノイズを吸収することができる。また、上記中空部における他の区間では、上記2本の電線全体を周回する1つの磁路を形成してコモンモードのノイズを吸収することができる。従って、本発明のノイズ吸収具を用いれば、1つのノイズ吸収具によってノーマルモードのノイズとコモンモードのノイズとを共に吸収することができる。従って、本発明のノイズ吸収具を用いれば、ノイズ対策の作業性を向上させると共にそのノイズ対策のためのコストも低減することができる。
【0008】
なお、上記突起は、上記軸方向の複数の区間に突設され、上記2本の電線を当該区間の間で捩って上記中空部に挿入可能であってもよい。その場合、2本の電線が捩って重ねられた部分の周囲には、その部分を間に挟んだ一対の上記突起と上記一対の分割コアとを通る磁路が形成されるので、一層良好にノイズを吸収することができる。また、2本の電線が捩られることによって各電線が上記突起に密着するので、より一層良好にノイズを吸収することができる。更に、このように2本の電線が捩られることによって各電線が上記突起に密着するので、電線の径に合わせてその電線が密着するような各種サイズのノイズ吸収具を用意しておく必要がなく、ノイズ対策のためのコストを一層良好に低減することができる。
【0009】
また、上記突起は、上記一対の分割コアが組み合わされたときに上記一対の分割コアをつないで形成する磁路に隙間を形成してもよい。このように、上記突起が上記一対の分割コアをつないで形成する磁路が隙間(いわゆるエアギャップ)を有する場合、その磁路が磁気飽和するのを抑制することができる。従って、この場合、磁気飽和を抑制することによって上記ノイズを一層良好に吸収することができる。
【0010】
また、上記目的を達するためになされた本発明のノイズ吸収構造は、上記突起が軸方向の複数の区間に突設された上記ノイズ吸収具と、上記区間の間で捩って上記中空部に挿入された2本の電線と、を備えたことを特徴としている。このため、本発明のノイズ吸収構造では、前述のように、上記2本の電線を流れるノーマルモードのノイズとコモンモードのノイズとを1つのノイズ吸収具によって共に吸収することができる。また、上記2本の電線が捩って重ねられた部分の周囲には、その部分を間に挟んだ一対の上記突起と上記一対の分割コアとを通る磁路が形成されるので、一層良好にノイズを吸収することができる。更に、上記2本の電線が捩られることによって各電線が上記突起に密着するので、より一層良好にノイズを吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明が適用されたノイズ吸収具の構成を表す斜視図(A)、その一方の分割コアの構成を表す斜視図(B)、そのノイズ吸収具の構成を表す正面図(C)である。
【図2】そのノイズ吸収具の使用状態を表す説明図である。
【図3】そのノイズ吸収具に形成される磁路を表す説明図である。
【図4】そのノイズ吸収具の変形例の構成を表す模式図である。
【図5】そのノイズ吸収具の他の変形例の構成を表す斜視図(A)、分解斜視図(B)、正面図(C)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態を図面と共に説明する。図1(A)は、本発明が適用されたノイズ吸収具1の構成を表す斜視図であり、図1(C)は、そのノイズ吸収具1の構成を表す正面図である。
【0013】
図1(A),(C)に示すように、ノイズ吸収具1は、中空部を有する筒状の磁性体コアとして組み合わせ可能な断面コの字形の一対の分割コア2,2を備えている。また、図1(B)は、一方の分割コア2の構成を表す斜視図である。なお、以下の説明において、上記中空部の軸方向を縦方向という。
【0014】
図1に示すように、一対の分割コア2は、組み合わされたときに上記中空部の外周を構成する内壁面2Aを備えており、この内壁面2Aは、組み合わされたときに、横断面が略長方形で角部が円弧状に面取りされた形状となる中空部を構成する。また、一対の分割コア2は、上記中空部の略長方形状横断面の一対の短辺中央で分割されており、その部分が分割コア2の分割面2Bとなっている。これら一対の分割コア2は、図示省略したケースに収納され、そのケースを閉じることによって図1(A),(C)に示すような組み合わされた状態に保持される。
【0015】
また、各分割コア2の内壁面2Aには、上記中空部の略長方形状断面の長辺中央に対応する位置から突起3がそれぞれ突設されている。この突起3は、角部が円弧状に面取りされ縦方向に平行な2辺を有する正四角柱状で、図1(B)に示すように、分割コア2の縦方向両端と中央の3箇所に突設され、分割コア2と一体の磁性体によって構成されている。また、図1(C)に示すように、各突起3の先端側の端面3Aは、分割コア2が分割面2Bを当接させて組み合わされたときに、もう一方の分割コア2における突起3の端面3Aと所定の隙間(いわゆるエアギャップ)を開けて対向するように、その突起3の長さが設計されている。なお、分割コア2,突起3を構成する磁性体としては、マンガン系(酸化鉄,酸化マンガン,酸化亜鉛)のフェライトや、ニッケル系(酸化鉄,酸化ニッケル,酸化銅,酸化亜鉛)のフェライトなど、種々のものが適用できる。
【0016】
このように構成された本実施の形態のノイズ吸収具1は、図2に示すように、突起3を挟むようにして2本の電線91,92を挿入し、かつ、3つの突起3の間で電線91,92を捩った上で、一対の分割コア2を組み合わせて使用される。すると、次のように、図2に示す区間93では電線91,92を流れるノーマルモードのノイズを吸収することができ、区間94では電線91,92を流れるコモンモードのノイズを吸収することができる。なお、電線91,92を挿入するに当っては、電線91,92は捩りながら上記のように挿入してもよいし、電線91,92が最初から捩られている場合は捩りを戻すことによってその戻され部分に突起3を挿入してもよい。
【0017】
図3(A)の横断面図に示すように、突起3を挟んで電線91,92が配設される区間93では、2本の電線91,92が磁性体によって外周から個々に囲まれることになる。このため、互いに対向する突起3を通って電線91,92を個々に周回する2つの磁路91A,92Aを形成してノーマルモードのノイズを吸収することができる。なお、区間93では、電源電流による磁路も磁路91A,92Aと同様に形成されるが、突起3の端面3Aの間に前述のエアギャップが存在するため、磁気飽和を抑制することができる。
【0018】
また、電線91,92の間に突起3が存在しない区間94では、図3(B)の横断面図に示すように、2本の電線91,92がまとめて磁性体によって囲まれることになる。このため、電線91,92の全体を周回する磁路91C,92Cを形成してコモンモードのノイズを吸収することができる。また、このとき、各電線91,92を流れるコモンモードのノイズによって電線91,92の間に形成される磁界91D,92Dは、互いに打ち消しあう。なお、区間94では、図3(C)の横断面図に示すように、電源電流によって磁路91E,92Eが形成されるが、これらの磁路91E,92Eは方向が異なるため互いに打ち消し合い、その電源電流による磁気飽和も抑制することができる。
【0019】
更に、図3(D)の縦断面図に示すように、ノーマルモードのノイズによって、中央の突起3と一端の突起3、若しくは中央の突起3と他端の突起3とを通る磁路91F,92Fが形成される。このように、ノイズ吸収具1では縦方向にも磁路が形成されるので、ノイズを一層良好に吸収することができる。
【0020】
このように、本実施の形態のノイズ吸収具1を用いれば、1つのノイズ吸収具1によってノーマルモードのノイズとコモンモードのノイズとを共に吸収することができる。従って、ノイズ対策の作業性を向上させると共にそのノイズ対策のためのコストも低減することができる。
【0021】
なお、図3(A)〜(C)に示したようなノイズ吸収効果は、電線91,92を捩らずに、電線91を各突起3の一方の側に配設して電線92を各突起3の他方の側に配設しても生じる。但し、上記のように電線91,92を捩った場合、図3(D)に示したような縦方向の磁路によってもノーマルモードのノイズが吸収できるばかりでなく電線91,92が捩られることによって各突起3に密着するので、ノーマルモードのノイズをより一層良好に吸収することができる。また、電線91,92を捩ることにより、ノイズ吸収具1の内部に存在する電線91,92の長さが捩らない場合より大きくなり(例えば1.16倍〜1.4倍)、ノーマルモードのノイズ及びコモンモードのノイズを一層良好に吸収することができる。
【0022】
更に、このように電線91,92が捩られることによって各電線91,92が各突起3に密着するので、電線91,92の径に合わせてその電線91,92が密着するような各種サイズのノイズ吸収具を用意しておく必要がなく、ノイズ対策のためのコストを一層良好に低減することができる。また、このため、ノイズ吸収具1では、電線91,92の径に対して、内壁面2Aによって構成される中空部が余裕を持っている場合がある。従って、その場合、電線91,92を分割コア2に対して何周も巻き付けることによってその電線91,92に対するインピーダンスを向上させることも可能となる。
【0023】
なお、本発明は上記実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、前述のノイズ吸収具1では、図4(A)に模式的に示すように、突起3を各分割コア2から突出させて両者の中央でエアギャップを開けて対向させているが、突起やエアギャップの形態は種々に変更することができる。例えば、図4(B)に模式的に示すノイズ吸収具21のように、突起23を一方の分割コア2のみから突出させ、その先端側の端面23Aを他方の分割コア2の内壁面2Aに所定のエアギャップを開けて対向させてもよい。また、図4(C)に示すノイズ吸収具31のように、突起33を一方の分割コア2のみから突出させ、その先端側の端面33Aを他方の分割コア2の内壁面2Aと同一平面上に配設し、当該他方の分割コア2の側に凹部2Dを形成することによってエアギャップを形成してもよい。これらの場合も、前述のノイズ吸収具1と同様の作用・効果が生じる。
【0024】
また、上記各実施の形態では同様の外形を有する一対の分割コア2を使用しているが、図5に示すノイズ吸収具41のように、一方の分割コア42を断面コの字形に形成し、他方の分割コア45を平板状に構成してもよい。なお、図5(A)はノイズ吸収具41の構成を表す斜視図であり、図5(B)はそのノイズ吸収具41の構成を表す分解斜視図、図5(C)は、そのノイズ吸収具41の構成を表す正面図である。
【0025】
図5に示すように、このノイズ吸収具41では、一方の分割コア42のみから突起43が突出し、その突起43の先端側の端面43Aは他方の分割コア45に所定のエアギャップを開けて対向している。このように構成されたノイズ吸収具41でも、上記各実施の形態のノイズ吸収具1〜31と同様の作用・効果が生じる。
【0026】
また、突起3の形状も種々に変更することができる。但し、突起3が前述のように四角柱状であると図3(D)に示したような縦方向の磁路ができ易いといった効果が生じる。また、突起3に前述のような面取りがなされていたり、突起3が円柱状であると、電線91,92に傷が付き難く、しかも、電線91,92を捩って挿入することが容易になるといった効果が生じる。更に、突起3は一対の対向する頂点を縦方向に有する菱形であったり、縦方向に細長い平板状であったりしてもよく、この場合も、電線91,92を捩って挿入することが容易になるといった効果が生じる。また更に、突起3は1つまたは2つまたは4つ以上設けてもよく、縦1列に設けるばかりでなく縦横にマトリックス状に設けてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1,21,31,41…ノイズ吸収具 2,42,45…分割コア
2A,42A…内壁面 3,23,33,43…突起
3A,23A,33A,43A…端面 91,92…電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2本の電線が挿入可能な中空部を有する筒状の磁性体コアとして組み合わせ可能な一対の分割コアと、
少なくとも一方の上記分割コアの上記中空部を構成する部分から、上記中空部の軸方向の一部の区間に亘って突設され、上記2本の電線の間を通って上記一対の分割コアをつなぐ磁路を形成する磁性体からなる突起と、
を備えたことを特徴とするノイズ吸収具。
【請求項2】
上記突起が上記軸方向の複数の区間に突設され、上記2本の電線を当該区間の間で捩って上記中空部に挿入可能なことを特徴とする請求項1記載のノイズ吸収具。
【請求項3】
上記突起は、上記一対の分割コアが組み合わされたときに上記一対の分割コアをつないで形成する磁路に隙間を形成することを特徴とする請求項1または2記載のノイズ吸収具。
【請求項4】
請求項2記載のノイズ吸収具と、
上記区間の間で捩って上記中空部に挿入された2本の電線と、
を備えたことを特徴とするノイズ吸収構造。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−100888(P2011−100888A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255167(P2009−255167)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】