説明

ノズルの噴霧特性の評価基準部材及びそれを用いた評価方法

【課題】二流体ノズルの噴霧特性(洗浄性能など)を評価するのに適した評価基準部材及びそれを用いたノズルの性能評価方法を提供する。
【解決手段】ガラス基板などの基板の表面に、熱可塑性樹脂粒子(スチレン系樹脂粒子を含むラテックス粒子など)を加熱により付着させ、ノズルの噴霧特性を評価するための基準部材とする。加熱温度及び/又は加熱時間を異にして、それぞれ基板に所定の付着力で樹脂粒子が付着した複数の基準セット部材をノズルからのミストの噴霧域に配置し、ノズルからミストを噴霧し、各基板に残存する樹脂粒子数と前記加熱温度及び/又は加熱時間との関係から変曲域を算出し、この変曲域に基づいてノズルの洗浄性能を評価できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルからの噴霧又は噴射ミストの噴霧特性(洗浄性など)を評価する上で有用な評価基準部材及びその評価基準部材を用いたノズル性能の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気体と液体とを合流させてミストを噴霧し、基材を洗浄するため、種々の二流体ノズルが利用されている。このようなノズルの性能は、通常、噴霧パターン、噴霧角度、噴霧量分布、噴霧の液滴径、流速や衝突力などにより評価されている。また、洗浄性能の評価に関し、M&E(2000年11月号、228頁〜233頁)(非特許文献1)には、クロムメッキ膜付き液晶用ガラス基板にポリスチレン粒子を散布し、24時間放置し、ノズルの洗浄性を評価することが記載されている。しかし、ガラス基板とポリスチレン粒子との付着力を制御できず、しかも付着力が小さいため、洗浄力の大きなノズルの性能評価には適さない。
【非特許文献1】M&E(2000年11月号、228頁〜233頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明の目的は、洗浄力の大きなノズルであっても幅広くノズルの噴霧特性(洗浄性能など)を評価するのに適した評価基準部材及びそれを用いたノズルの性能評価方法を提供することにある。
【0004】
本発明は、二流体ノズルの洗浄性を精密に評価できる評価基準部材及びそれを用いたノズルの性能評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、熱可塑性樹脂粒子の加熱の程度により基板に対する粒子の付着力が異なることに着目し、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、加熱温度及び/又は加熱時間を変化させて基板に熱可塑性樹脂粒子を加熱により付着させ、噴霧ノズルの性能を評価し、各基板に残存する樹脂粒子数と前記加熱温度及び/又は加熱時間との関係をグラフ化すると、ノズルの噴霧特性(洗浄性能など)と関連して変曲点又は変曲域が生じることを見いだし、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明の評価基準部材は、ノズルの噴霧特性(洗浄性など)を評価するための部材であって、基板と、この基板の表面に加熱により付着(又は融着)した熱可塑性樹脂粒子(例えば、基板の全面に亘って被膜状に形成された樹脂粒子)とで構成されている。前記基板は、例えば、ガラス基板などであってもよい。
【0007】
また、熱可塑性樹脂粒子は、融着可能な種々の樹脂粒子、例えば、スチレン系樹脂粒子、(メタ)アクリル系樹脂粒子、オレフィン系樹脂粒子、脂肪酸ビニルエステル系樹脂粒子、ポリエステル系樹脂粒子、ポリアミド系樹脂粒子、及びポリカーボネート系樹脂粒子から選択された少なくとも一種であってもよい。樹脂粒子は、平均粒子径0.01〜3μmの熱可塑性樹脂粒子あってもよく、粉粒状に限らず、エマルジョン粒子又はラテックス粒子であってもよい。なお、熱可塑性樹脂粒子のガラス転移温度T℃を基準にしてT℃±30℃の温度で加熱して基板へ樹脂粒子を付着させてもよい。
【0008】
さらに、評価基準部材は、加熱温度及び/又は加熱時間を異にして基板に熱可塑性樹脂粒子が付着(又は融着)した複数の基準セット部材で構成してもよい。前記単一又は複数の基準セット部材で構成された評価基準部材は、ノズルの噴霧特性(洗浄性能など)を評価するための基準部材として有用である。
【0009】
本発明は、ノズルの噴霧特性(洗浄性能など)を評価する方法も包含する。この方法では、前記評価基準部材に、ノズルからミストを噴霧し、基板に残存する樹脂粒子を基準にしてノズルの噴霧特性(洗浄性能など)を評価できる。また、加熱温度及び/又は加熱時間を異にして、それぞれ基板に熱可塑性樹脂粒子が付着(又は融着)した複数の基準セット部材をノズルからのミストの噴霧域に配置し、ノズルからミストを噴霧し、各基板に残存する樹脂粒子数と前記加熱温度及び/又は加熱時間との関係から変曲域を算出し、この変曲域に基づいてノズルの噴霧特性(洗浄性能など)を評価することもできる。このような方法は、液晶表示用ガラス基板などの噴霧特性(洗浄性能など)を評価するのに有用である。
【0010】
なお、樹脂粒子は、独立して基板に付着又は融着していてもよく、隣接する樹脂粒子が粒子形状(若干変形してもよい)を維持しつつ熱融着していてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、基板に対する樹脂粒子の付着力(又は融着力)を制御できる。そのため、洗浄力の大きなノズルであっても噴霧特性(洗浄性能など)を評価でき、幅広いノズルの噴霧特性(洗浄性能など)を評価できる。また、加熱温度及び/又は加熱時間により基板に対する樹脂粒子の付着力を制御できるので、二流体ノズルの洗浄性を精密に評価できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の評価基準部材は、ノズルの噴霧特性(洗浄性能など)を評価するための基準部材として有用であり、基板と、この基板の表面に加熱により付着(又は融着)した熱可塑性樹脂粒子とで構成されている。
【0013】
基板の種類は特に制限されず、例えば、金属類(鉄、銅、アルマイト加工されていてもよいアルミニウム、チタンなどの金属単体;鉄系合金(ステンレススチールなど)、チタン合金、アルミニウム合金などの合金など)、セラミックス類(シリカ、石英、アルカリガラスなどのガラス類;アルミナ、シリカ・アルミナ、チタニア、ジルコニアなどの酸化物系セラミックス;窒化ホウ素、窒化炭素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタンなどの窒化物セラミックス;炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンなどの炭化物セラミックス;ホウ化チタン、ホウ化ジルコニウムなどのホウ化物セラミックスなど)、プラスチック類(ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂などのポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂、その他のエンジニアリングプラスチック類など)などが例示できる。これらの基板は複合基板、例えば、金属類とセラミックス類との積層基板、金属又はセラミックス類とプラスチック類との積層基板であってもよい。
【0014】
これらの基板は用途に応じて選択でき、液晶表示装置やプラズマディスプレイ装置などの表示装置ではガラス基板である場合が多い。
【0015】
これらの基板は、基板の種類に応じて表面処理されていてもよい。表面処理としては、例えば、アンカーコート処理、プライマー処理、カップリング剤(シランカップリング剤など)による表面処理、リン酸処理、コロナ放電処理などが例示できる。
【0016】
前記基板の表面に付着(又は融着)した熱可塑性樹脂粒子を形成する熱可塑性樹脂としては、ラジカル重合又は付加重合により生成する樹脂(スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、脂肪酸ビニルエステル系樹脂など)、縮合重合により生成する樹脂(ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂など)などが例示できる。
【0017】
スチレン系樹脂としては、スチレン系単量体(スチレン、ビニルトルエンなど)の単独又は共重合体(ポリスチレンなど);スチレン系単量体と共重合性単量体((メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、(メタ)アクリロニトリル、無水マレイン酸など)との共重合体(スチレン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体など)などが例示できる。
【0018】
(メタ)アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル[メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなど]、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステルなどの(メタ)アクリル系単量体の単独又は共重合体;(メタ)アクリル系単量体と共重合性単量体との共重合体(例えば、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸アルキルエステル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸アルキルエステル−(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体など)などが例示できる。
【0019】
オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂(ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体など)、ポリプロピレン系樹脂(ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体など)などが例示できる。
【0020】
脂肪酸ビニルエステル系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などが例示できる。
【0021】
ポリエステル系樹脂としては、芳香族ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリアルキレンアリレート、又はアルキレンアリレート単位を有する共重合体、ポリアリレート系樹脂など)、脂肪族ポリエステル系樹脂などが例示できる。
【0022】
ポリアミド系樹脂としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド6−6、ポリアミド6−10、ポリアミド6−12などの脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミドなどが例示できる。ポリカーボネート系樹脂としては、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂などのビスフェノール系ポリカーボネート樹脂などが例示できる。
【0023】
また、前記熱可塑性樹脂は、例えば、熱可塑型ポリイミド系樹脂、(変性)ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトンなどであってもよい。
【0024】
これらの熱可塑性樹脂粒子は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい熱可塑性樹脂粒子は、ラジカル重合又は付加重合により樹脂粒子の融着温度を容易にコントロールできる樹脂、特にスチレン系樹脂粒子及び/又は(メタ)アクリル系樹脂粒子である。
【0025】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、樹脂の種類に応じて、40〜250℃程度の範囲から選択でき、通常、例えば、50〜120℃、好ましくは75〜110℃、さらに好ましくは80〜105℃(例えば、90〜105℃)程度であってもよい。
【0026】
熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は樹脂粒子による均一な層(付着層など)を形成できる限り特に制限されず、0.01〜3μm程度の範囲から選択でき、例えば、0.03〜2.5μm、好ましくは0.05〜2μm(例えば、0.1〜1.8μm)、さらに好ましくは0.3〜1.7μm(例えば、0.5〜1.5μm)程度である。粒子径が小さすぎると、基板に残存する粒子数の計数が煩雑化するとともに、粒子径が大きすぎると均一な樹脂粒子層(付着層など)を形成しがたい場合がある。例えば、ポリスチレン系樹脂粒子及び/又は(メタ)アクリル系樹脂粒子の平均粒子径は、0.5〜2μm(例えば、1〜1.5μm)程度であってもよい。
【0027】
前記熱可塑性樹脂粒子の粒度分布幅は狭いのが好ましい。重量平均粒子径と数平均粒子径の割合は、例えば、前者/後者=1〜1.7、好ましくは1.05〜1.5、さらに好ましくは1.1〜1.3程度であってもよい。
【0028】
熱可塑性樹脂粒子の形状は、球状、楕円形状、多角形状、無定形などであってもよいが、球面を有する形態、特に球形であるのが好ましい。また、熱可塑性樹脂粒子は微粉末状の固体であってもよいが、エマルジョン粒子又はラテックス粒子である場合が多い。
【0029】
このような樹脂粒子は粉砕法や分散相がマトリックス相に分散した分散体においてマトリックスを溶出する溶出法などで調製してもよいが、乳化剤(界面活性剤、保護コロイドなど)を用いる乳化重合法や懸濁重合法などで調製できる。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤及び/又はアニオン系界面活性剤を使用する場合が多く、保護コロイドとしては、ポリビニルアルコールなどが例示できる。なお、樹脂粒子を含む分散液(水性エマルジョン又は水性ラテックスなど)は、必要により造膜助剤、可塑剤などを含んでいてもよい。造膜助剤としては、アルコール類、セロソルブ類、カルビトール類、セロソルブアセテート類などが例示できる。可塑剤としては、フタル酸系可塑剤、アジピン酸系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などが例示できる。
【0030】
基板の表面に樹脂粒子又はその組成物を適用し、加熱することにより熱可塑性樹脂粒子が基板に付着した基準部材を得ることができる。樹脂粒子は静電塗装などの電気的吸引力を利用して粉体塗布剤の形態で基板に適用してもよく、塗布などにより樹脂粒子の水性分散体の形態で基板に適用してもよい。また、基板を加熱して樹脂粒子を付着させてもよい。加熱温度及び加熱時間は、樹脂粒子のガラス転移温度や塗布剤の組成などに応じて選択できる。例えば、樹脂粒子と造膜助剤や可塑剤とを含む水性分散体を用いる場合、基板に水性分散体を塗布し、乾燥した後、粒子を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも低い温度で付着(又は融着)できる。そのため、塗布剤の熱可塑性樹脂粒子の種類及び構成成分(可塑剤の可塑化温度など)に応じて加熱温度及び加熱時間を選択し、基板に樹脂粒子を付着(又は融着)できる。
【0031】
加熱温度は、通常、熱可塑性樹脂粒子のガラス転移温度T℃を基準にしてT℃±50℃程度の範囲から選択でき、通常、T℃±40℃(例えば、T℃±35℃)、好ましくはT℃±30℃(例えば、T℃±25℃)、さらに好ましくはT℃±20℃程度である。加熱温度が低すぎると、基板に対する付着力が小さく、高すぎると、付着力が強すぎ、ノズルの噴霧特性(洗浄性能など)を精度よく評価できない場合がある。加熱時間は、例えば、5〜120分、好ましくは10〜90分、さらに好ましくは20〜75分(例えば、30〜70分)程度であってもよい。例えば、ポリスチレン系樹脂粒子及び/又は(メタ)アクリル系樹脂粒子では、例えば、加熱温度80〜120℃(例えば、90〜110℃)程度であってもよい。また、加熱時間は20〜90分(例えば、25〜70分)程度であってもよい。加熱時間が長くなると、樹脂粒子の付着又は融着の程度が大きくなる。
【0032】
ノズルの噴霧特性(洗浄性能など)を精度よく評価するためには、樹脂粒子が粒子の形態を維持しつつ基板に付着(又は融着)するのが好ましい。このような形態は電子顕微鏡又は光学顕微鏡により容易に観察できる。
【0033】
樹脂粒子は独立して基板に付着(又は融着)していてもよく、隣接して層状の形態で基板に付着(又は融着)していてもよい。
【0034】
ノズルの噴霧特性(洗浄性能など)を評価するための評価基準部材は、単一の部材であってもよく、同じ加熱温度及び加熱時間で基板に樹脂粒子が付着(又は融着)した複数の同種の基準部材であってもよい。単一部材(1枚の部材)で構成された評価基準部材では、ノズルからミストを噴霧し、基板に残存する樹脂粒子を基準にしてノズルの噴霧特性(洗浄性能など)を評価できる。例えば、基板上の樹脂粒子の残存の程度(残存粒子数、樹脂粒子の除去率又は残存率など)を指標として、ノズルの噴霧特性(洗浄性能など)を評価できる。また、複数の同種の基準部材をそれぞれノズルからのミストの噴霧域に配置し、ノズルからミストを噴霧し、各基板に残存する樹脂粒子数を評価することにより、ノズルからのミストの噴霧量分布や衝撃力分布を求めることもできる。
【0035】
さらに、評価基準部材は、加熱温度及び/又は加熱時間を異にして、基板に熱可塑性樹脂粒子が付着(又は融着)した複数の基準セット部材で構成してもよい。このような評価基準部材では、複数の基板のうち少なくとも1つの基板に、少なくとも粒子の形態を保持し、かつ融着した熱可塑性樹脂粒子が付着しているのが好ましい。複数の基板は、通常、粒子の形態を維持して互いに独立又は接触して樹脂粒子が付着した基板、少なくとも粒子の形態を保持し、かつ樹脂粒子が付着又は融着した基板、大きく変形した粒子の形態を有し、樹脂粒子が融着した基板を含む場合が多い。なお、粒子の形態は電子顕微鏡や光学顕微鏡で容易に確認できる。
【0036】
評価基準部材では、加熱温度及び/又は加熱時間を異にして、基板に熱可塑性樹脂粒子を付着させて複数の基準セット部材を調製し、複数の基準セット部材をそれぞれノズルからのミストの噴霧域に配置し、ノズルからミストを噴霧し、各基板の樹脂粒子の残存の程度(残存粒子数、樹脂粒子の除去率又は残存率、特に各基板に残存する樹脂粒子数など)と前記加熱温度及び/又は加熱時間との関係から変曲点又は変曲域を算出し、この変曲点又は変曲域(又は変曲点又は変曲域に対応する温度など)に基づいてノズルの噴霧特性(洗浄性能など)を評価できる。例えば、各基板に残存する樹脂粒子数と前記加熱温度及び/又は加熱時間との関係をグラフ化し、低温域に変曲点が現れるノズルは洗浄性能が低く、高い温度域に変曲点が現れるノズルは洗浄性能が高いと評価できる。また、ノズルの噴霧特性(洗浄性能など)は、前記のようにグラフ化し、樹脂粒子の除去率に関する所定の閾値を基準にして、ノズルの噴霧特性を評価してもよい。
【0037】
さらに、評価基準部材は、互いに異なる加熱温度及び加熱時間で基板に熱可塑性樹脂粒子を付着させた複数の基準セット部材群、例えば、同じ加熱温度及び加熱時間で基板に樹脂粒子を付着(又は融着)させた複数の第1の基準セット部材と、この第1の基準セット部材とは異なる加熱温度及び/又は加熱時間で基板に樹脂粒子を付着(又は融着)させた複数の第2,第3…第nの基準セット部材とで構成してもよい。
【0038】
このような評価方法は、種々のノズルの噴霧による噴霧特性(洗浄性能など)を評価するのに適しており、例えば、ガラス基板(液晶表示用ガラス基板など)の噴霧特性(洗浄性能など)を評価するのに適している。
【0039】
ノズルの種類は特に制限されず、気体と液体とを合流させてミストを噴霧又は噴射可能な種々の二流体ノズルが使用できる。ミストは吐出口から噴霧又は噴射する場合が多いものの、一方の流体を吐出口から吐出させ、他方の流体を吐出口の前方域で合流させてミストを生成して噴霧又は噴射してもよい。本発明の方法は、スリット状に噴霧するノズル(スリットミストノズル)や複数個のノズルを所定間隔毎に配設したノズルの性能評価に適している。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、ノズルからのミストの噴霧特性(洗浄性など)を評価するのに有用である。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0042】
実施例1
蒸留水中に平均粒子径1.3μmのポリスチレン系樹脂粒子(ガラス転移温度100℃)を分散させた懸濁液を、ノズルを用いて噴霧し、水分を蒸発乾燥させて噴霧し、粒子をガラス基板に付着させた後、温度75〜100℃に加熱し、樹脂粒子を所定の付着力で付着させた。2つのフラットスプレー2流体ノズルを50mmピッチで配置し、所定の条件(ノズル1個当たりの水の流量0.6L/分、空気の流量3.6m/h、噴射距離50mm、噴射時間2秒)でガラス基板に噴霧して洗浄し、得られたガラス基板をクリーンブース内で乾燥させ、電子顕微鏡により洗浄前後のガラス基板中央部の領域(1mm×1mm四方)の樹脂粒子の付着数(残存個数)を計数し、除去効率(%)を求め洗浄性能を評価した。結果を図1に示す。
【0043】
図1より、スプレー中心では、加熱温度95℃での樹脂粒子の除去率が急激に低下し、ラップ部(2つのノズルからのミストの噴霧域が重複するオーバーラップ部)では加熱温度80℃での樹脂粒子の除去率が急激に低下し、スプレー中心よりもラップ部の洗浄性能が劣ることが分かる。また、加熱温度90℃での樹脂粒子はラップ部(オーバーラップ部)での除去率が小さいものの、加熱温度90℃での樹脂粒子をスプレー中心で再度洗浄したところ、当初のスプレー中心での除去率と同程度となった。
【0044】
比較例1
蒸留水中に平均粒子径1.3μmのポリスチレン系樹脂粒子を分散させた懸濁液を、ノズルを用いて噴霧し、水分を蒸発乾燥させ、インパクターを用いて粒子をガラス基板に付着させ、加熱することなく、実施例1と同様にして、洗浄性能を評価した。なお、2つのフラットスプレー2流体ノズルからのミストの噴射時間は1秒に設定した。
【0045】
その結果、樹脂粒子はガラス基板から全て除去され(除去率100%)、洗浄レベルを判定できなかった。
【0046】
比較例2
蒸留水中に平均粒子径1.3μmのポリスチレン系樹脂粒子を分散させた懸濁液を、ノズルを用いて噴霧し、水分を蒸発乾燥させ、インパクターを用いて粒子をガラス基板に付着させた後、接着剤(スチレン−ブタジエン系ゴムを含む溶剤型接着剤)を塗布し.実施例1と同様にして、洗浄性能を評価した。なお、2個のフラットスプレー2流体ノズルからのミストの噴射時間は1秒に設定した。
【0047】
その結果、樹脂粒子はガラス基板から全て除去され(除去率100%)、洗浄レベルを判定できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は実施例1での樹脂粒子の付着数(残存個数)と加熱温度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルの噴霧特性を評価するための基準部材であって、基板と、この基板の表面に加熱により付着した熱可塑性樹脂粒子とで構成されている評価基準部材。
【請求項2】
基板がガラス基板である請求項1記載の評価基準部材。
【請求項3】
熱可塑性樹脂粒子が、スチレン系樹脂粒子、(メタ)アクリル系樹脂粒子、オレフィン系樹脂粒子、脂肪酸ビニルエステル系樹脂粒子、ポリエステル系樹脂粒子、ポリアミド系樹脂粒子、及びポリカーボネート系樹脂粒子から選択された少なくとも一種である請求項1又は2記載の評価基準部材。
【請求項4】
加熱温度及び/又は加熱時間を異にして基板に熱可塑性樹脂粒子が付着した複数の基準セット部材で構成された請求項1〜3のいずれかに記載の評価基準部材。
【請求項5】
熱可塑性樹脂粒子が、平均粒子径0.01〜3μmの粒子である請求項1〜4のいずれかに記載の評価基準部材。
【請求項6】
熱可塑性樹脂粒子のガラス転移温度T℃を基準にしてT℃±30℃の温度での加熱により付着している請求項1〜5のいずれかに記載の評価基準部材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の評価基準部材に、ノズルからミストを噴霧し、基板に残存する樹脂粒子を基準にしてノズルの噴霧特性を評価する方法。
【請求項8】
加熱温度及び/又は加熱時間を異にして、それぞれ基板に熱可塑性樹脂粒子が付着した複数の基準セット部材をノズルからのミストの噴霧域に配置し、ノズルからミストを噴霧し、各基板に残存する樹脂粒子数と前記加熱温度及び/又は加熱時間との関係から変曲域を算出し、この変曲域に基づいてノズルの洗浄性能を評価する請求項7記載の方法。
【請求項9】
液晶表示用ガラス基板の洗浄性能を評価する請求項7又は8記載の方法。

【図1】
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