説明

ノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法

【課題】耐熱性、絶縁性、耐光性、機械的特性に優れるノルボルナン骨格含有ポリアミドを製造する製造方法を提供する。
【解決手段】特定構造のノルボルナンジカルボン酸と、ジイソシアネート化合物とを極性溶媒中で反応させるノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法であって、前記ノルボルナンジカルボン酸総量の60モル%以上が、エキソ体ノルボルナンジカルボン酸であることを特徴とする下記一般式(IV)で表されるノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。


(但し、式中、Xは2価の有機基であり、nは1〜500の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光電子機器等に利用される光学部材用樹脂には、電子基板等への実装プロセスや高温動作下での耐熱性や機械特性、又はその汎用性から、エポキシ樹脂が広く使用されてきた。しかし、近年、光電子機器分野でも高強度のレーザー光や青色光、近紫外光の利用が広がり、従来以上に透明性、耐熱性及び耐光性に優れた樹脂が求められている。
【0003】
一般にエポキシ樹脂は、可視光での透明性は高いが、紫外から近紫外域では十分な透明性が得られない。また、脂環族エポキシ樹脂と酸無水物からなる硬化物は、近紫外領域での透明性が比較的高いが、熱や光によって着色し易い等の問題がある。また、耐熱、耐紫外線着色性の向上が求められており、様々なエポキシ樹脂が検討されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0004】
一方、ポリアミド等の耐熱性樹脂は、耐熱性、絶縁性、耐光性や機械的特性に優れることから、エレクトロニクス分野で半導体素子の表面保護膜や層間絶縁膜等として幅広く使用されている。その中でも、脂環族構造を有するポリマーが、紫外領域での透明性に優れるため、光電子機器、各種ディスプレイ等の材料として検討され始めている。それらの原料モノマーとして、ノルボルナン骨格を有するジカルボン酸あるいはその誘導体が盛んに使用されている(例えば、特許文献5〜8参照)。
【0005】
ところで、ノルボルナン骨格を有するジカルボン酸誘導体であるノルボルナンジカルボン酸ジメチルは、一般的に、シクロペンタジエンとアクリル酸エステルとをディールス・アルダー反応させてノルボルネンモノカルボン酸エステルとした後、その不飽和結合部分にカルボン酸エステルを付加させることによって得ることができるが、上記ディールス・アルダー反応では、エンド体比率の多いエキソ体/エンド体混合物が得られる(例えば、特許文献9参照)。一方、エンド位に極性官能基を持つノルボルナン誘導体が、触媒の重合活性を低下させることが知られている(例えば、特許文献10参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−308683号公報
【特許文献2】特開2006−131867号公報
【特許文献3】特開2003−171439号公報
【特許文献4】特開2004−75894号公報
【特許文献5】特許第3091784号公報
【特許文献6】特許第3331121号公報
【特許文献7】特許第3795234号公報
【特許文献8】特許第4384636号公報
【特許文献9】特願2007−261980号公報
【特許文献10】特開2003−128766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エンド位に極性官能基を持つノルボルナン誘導体を用いて得られるポリマーは、耐熱性等が低いことを本発明者等は見出した。
【0008】
これに対し、エキソ体比率が高いノルボルナン骨格含有ポリアミドは、結晶性が高い構造となるため、耐熱性、熱伝導性に優れるポリマーとなることが期待できる。このことより、本発明は、エキソ体比率の高いノルボルナン骨格含有ポリアミドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、かかる目的を解決すべく鋭意研究した結果、エキソ体比率の高いノルボルナン骨格含有ポリアミドが耐熱性等に優れることを見出し、エキソ体比率の高いノルボルナン骨格含有ポリアミドを合成すべく、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0011】
<1>下記式(I)で表されるノルボルナンジカルボン酸と、
【化1】

下記一般式(II)で表されるジイソシアネート化合物と、
【化2】

(但し、式中Xは2価の有機基である。)
を極性溶媒中で反応させるノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法であって、
上記ノルボルナンジカルボン酸総量の60モル%以上が、下記式(III)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸であることを特徴とする、エキソ体骨格を60モル%以上含有する下記一般式(IV)で表されるノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。
【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

(但し、式中Xは2価の有機基である。nは1〜500の整数である。)
【0014】
<2>上記一般式(II)で表されるジイソシアネート化合物が、下記一般式(V)で表されるジイソシアネート化合物であることを特徴とする上記<1>記載のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。
【0015】
【化5】

(但し、式中Yは炭素数4〜16の2価の脂肪族基及び炭素数4〜16の2価の脂環族基から選ばれる2価の有機基である。)
【0016】
<3>上記一般式(II)で表されるジイソシアネート化合物が、下記一般式(VI)で表されるジイソシアネート化合物であることを特徴とする上記<1>記載のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。
【0017】
【化6】

(但し、式中Zは2価の芳香族基である。)
【0018】
<4>上記式(III)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸を60モル%含むエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸が、(1)〜(2)工程を含む方法で得られることを特徴とする上記<1>〜<3>のいずれか1つに記載のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。
【0019】
(1)工程:下記式(VII)で表されるノルボルナジエンと下記一般式(VIII)で表されるギ酸エステルとを、
【化7】

【化8】

(但し、式中R、Rは、炭素数1〜5のアルキル基、ビニル基、ベンジル基を示す。なお、R、Rは同じであっても違ってもよい。)
ルテニウム化合物と、コバルト化合物と、ハロゲン化物塩と、塩基性化合物と、を含む触媒系の存在下で反応させて、下記一般式(IX)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸誘導体を60モル%以上含むエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸誘導体とする。
【0020】
【化9】

(但し、式中、R、Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基、ビニル基、ベンジル基を示す。なお、R、Rは同じであっても違ってもよい。)
【0021】
(2)工程:上記一般式(IX)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸誘導体を60モル%以上含むエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸誘導体のアルコキシカルボニル基を加水分解して、上記式(III)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸を60モル%以上含むエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸を得る。
【0022】
<5>上記ルテニウム化合物が、分子内にカルボニル配位子とハロゲン配位子とを合わせ持つルテニウム錯体である上記<1>〜<4>のいずれか1つに記載のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。
【0023】
<6>上記ハロゲン化物塩が、四級アンモニウム塩であることを特徴とする上記<1>〜<5>のいずれか1つに記載のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。
【0024】
<7>上記塩基性化合物が三級アミンであることを特徴とする上記<1>〜<7>のいずれか1つに記載のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。
【0025】
<8>上記触媒系がさらにフェノール化合物を含む上記<1>〜<7>のいずれか1つに記載のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。
【0026】
<9>上記触媒系がさらに有機ハロゲン化合物を含む上記<1>〜<8>のいずれか1つに記載のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明の製造方法により、エキソ体比率の高い、具体的には、エキソ体骨格を60モル%以上含有するノルボルナン骨格含有ポリアミドが得られる。本発明の製造方法から得られるエキソ体比率の高いノルボルナン骨格含有ポリアミドは、耐熱性、絶縁性、耐光性や機械的特性に優れるため、半導体・液晶に用いられる電子部品、光ファイバー、光学レンズ等に代表される光学材料、さらには、ディスプレイ関連材料、医療用材料として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】合成例1で得られたエキソ体ノルボルナンジカルボン酸メチルの13C−NMRスペクトル
【図2】合成例1で得られたエキソ体ノルボルナンジカルボン酸メチルの13C−NMRスペクトル
【図3】合成例1で得られたエキソ体ノルボルナンジカルボン酸メチルの1H−NMRスペクトル
【図4】合成例1で得られたエキソ体ノルボルナンジカルボン酸メチルの1H−13C HSQCスペクトル
【図5】合成例1で得られたエキソ体ノルボルナンジカルボン酸メチルの1H−1H COSYスペクトル
【図6】合成例1で得られたエキソ体ノルボルナンジカルボン酸メチルの1H−13H HMBCスペクトル
【図7】合成例1で得られたエキソ体ノルボルナンジカルボン酸メチルの1H−1H NOESYスペクトル
【図8】合成例1で得られたエキソ体ノルボルナンジカルボン酸の1H−NMRスペクトル
【図9】合成例1得られたエンド体ノルボルナンジカルボン酸メチルの1H−NMRスペクトル
【図10】合成例1で得られたエンド体ノルボルナンジカルボン酸メチルの13C−NMRスペクトル
【図11】合成例1で得られたエンド体ノルボルナンジカルボン酸メチルの1H−13C HSQCスペクトル
【図12】合成例1で得られたエンド体ノルボルナンジカルボン酸メチルの1H−1H COSYスペクトル
【図13】合成例1で得られたエンド体ノルボルナンジカルボン酸メチルの1H−13H HMBCスペクトル
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0030】
<1>本発明のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法
本発明は、下記式(I)で表されるノルボルナンジカルボン酸と、
【化10】

下記一般式(II)で表されるジイソシアネート化合物と、
【化11】

(但し、式中Xは2価の有機基である。)
を極性溶媒中で反応させるノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法であって、
上記ノルボルナンジカルボン酸総量の60モル%以上が、下記式(III)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸であることを特徴とする、エキソ体骨格を60モル%以上含有する下記一般式(IV)で表されるノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法に関する。
【0031】
【化12】

【0032】
【化13】

(但し、式中、Xは2価の有機基である。)
【0033】
まず、本発明の製造方法で得られるノルボルナン骨格含有ポリアミドについて、以下に説明する。
【0034】
<本発明の製造方法で得られるノルボルナン骨格含有ポリアミド>
本発明の製造方法で得られるノルボルナン骨格含有ポリアミドは、下記一般式(IVa)で表される骨格を60モル%以上含有するエキソ体比率の高いノルボルナン骨格含有ポリアミドである。
【0035】
【化14】

(但し、式中、Xは2価の有機基である。nは1〜500の整数である。)
【0036】
なお、上記式中のXは、後述の一般式(II)で表されるジイソシアネート化合物のXと同じである。
また、上記式中のnは1〜500である。
【0037】
本発明の製造方法によって得られるノルボルナン骨格含有ポリアミドは、数平均分子量を2,000〜200,000とすることが好ましく、3,000〜180,000とすることがより好ましい。数平均分子量が、2,000未満では、耐熱性等が低下する傾向があり、200,000を超えると、溶媒への溶解性が低下する傾向がある。
ノルボルナン骨格含有ポリアミドの数平均分子量を上記範囲とするには、本発明の製造方法により製造すればよい。
【0038】
なお、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以降、「GPC」と略記する)を用いて、下記条件で測定し、標準ポリスチレンによる検量線を用いて算出する。
装置:(株)日立製作所製、L6000型
カラム:昭和電工(株)製、Shodex KD−806M×1本
溶離液:N−メチル−2−ピロリドン 1.0ml/min
検出器:UV(280nm)
【0039】
本発明におけるノルボルナン骨格含有ポリアミドは、下記式(III)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸を60モル%以上含むエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸と、下記一般式(II)で表されるジイソシアネート化合物と、を極性溶媒中で反応させることで得られる。
【化15】

【化16】

(但し、式中Xは2価の有機基である。)
【0040】
本発明の製造方法において、上記式(III)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸を60モル%以上含むエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸を原料として用いることで、上記一般式(IVa)で表される骨格を60モル%以上含有する、エキソ体比率の高いノルボルナン骨格含有ポリアミドを得ることができる。
なお、本発明におけるノルボルナン骨格含有ポリアミドが、上記一般式(IVa)で表される骨格をどの程度含有するかを測定するには、GC(ガスクロマトグラフィー)を用いる。
具体的には、ノルボルナン骨格含有ポリアミドの合成に用いるノルボルナンジカルボン酸が、上記式(III)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸をどの程度含有するかを測定した値を、得られるポリアミドのエキソ体/エンド体の含有率とする。しかし、ジカルボン酸はGCでは分析できないため、カルボン酸ジエステルをGCで測定することで、エキソ体/エンド体の比率とする。
【0041】
<本発明の製造方法で用いる各種原料成分>
本発明のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法における各種原料成分を以下に説明する。
【0042】
(ジイソシアネート化合物)
本発明のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法において、上記式(I)で表されるエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸と反応させる、上記一般式(II)で表されるジイソシアネート化合物としては、具体的には、下記一般式(V)又は下記一般式(VI)で表されるジイソシアネート化合物が挙げられる。
【0043】
【化17】

(但し、式中Yは炭素数4〜16の2価の脂肪族基及び炭素数4〜16の2価の脂環族基から選ばれる2価の有機基である。)
【0044】
【化18】

(但し、式中Zは2価の芳香族基である。)
【0045】
一般式(V)で表されるジイソシアネート化合物は、特に制限はなく、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート(上記一般式(V)中、Yが2価の脂肪族基);
イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、シクロヘキシルメチルイソシアネート等の脂環族イソシアネート(上記一般式(V)中、Yが2価の脂環族基);等を使用することができる。
これらは、単独又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0046】
一般式(VI)で表されるジイソシアネート化合物は、特に制限はなく、例えば、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4′−[2,2−ビス(4−フェノキシフェニル)プロパン]ジイソシアネート、ビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、ビフェニル−3,3′−ジイソシアネート、ビフェニル−3,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジメチルビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、2,2′−ジメチルビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジエチルビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、2,2′−ジエチルビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジメトキシビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、2,2′−ジメトキシビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、ナフタレン−2,6−ジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、4−クロロ−6−メチル−1,3−フェニレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート(上記一般式(VI)中、Zが2価の芳香族基);等を使用することができる。
これらは、単独又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0047】
また、上記一般式で(V)で表される脂肪族又は脂環族ジイソシアネート化合物と、上記一般式(VI)で表される芳香族ジイソシアネート化合物の2種以上を混合して使用することもできる。
【0048】
(極性溶媒)
上記式(I)で表されるエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸と、上記一般式(II)で表されるジイソシアネート化合物との反応には、極性溶媒を使用する。使用可能な極性溶媒は、原料として使用する化合物を溶解できればよく、特に限定されない。
【0049】
好適に使用できる極性溶媒の具体例として、N−メチルピロリドン、N,N’−ジメチルアセトアミド、N,N’−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン等の含窒素系溶媒;
ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;
ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン等の含硫黄系溶媒;
γ−ブチロラクトン、酢酸セロソルブ等のエステル系溶媒,シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;等を使用することができる。
【0050】
<上記式(I)で表されるエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸と上記一般式(II)で表されるジイソシアネート化合物との反応条件>
本発明のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法において、上記式(I)で表されるエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸と上記一般式(II)で表されるジイソシアネート化合物とを極性溶媒中で反応させる場合の反応条件を以下に説明する。
【0051】
上記式(I)で表されるエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸と、上記一般式(II)で表されるジイソシアネート化合物との使用量は、ノルボルナンジカルボン酸のカルボキシル基のモル数の合計に対するイソシアネート基のモル数を0.7〜2.0とすることが好ましく、0.8〜1.7とすることがより好ましく、0.9〜1.5とすることがさらに好ましく、0.95〜1.3とすることが特に好ましい。
【0052】
0.7未満又は2.0を超えると、得られるポリアミドの分子量を大きくすることが困難になり、機械特性、耐熱性等が低下する傾向がある。
【0053】
上記極性溶媒の使用量は、上記式(I)で表されるエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸と、上記一般式(II)で表されるジイソシアネート化合物との総量100質量部に対して、20〜500質量部とすることが好ましく、30〜300質量部にすることがより好ましく、50〜200質量部にすることが特に好ましい。
【0054】
使用量が20質量部未満だと、原料が十分に溶解せず、反応速度が遅くなる傾向があり、500質量部を超えても、1バッチ当りのポリアミドの収量が低下するだけで、特に利点は無い。
【0055】
反応温度は、80〜200℃とすることが好ましく、90〜190℃とすることがより好ましく、100〜180℃とすることが特に好ましい。反応時間は、バッチの規模、採用される反応条件により適宜選択することができる。
【0056】
<式(I)で表されるエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸の合成>
本発明の製造方法に用いる上記式(I)で表されるエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸は、エキソ体比率の高いノルボルナン骨格含有ポリアミドを得るために、上記式(III)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸を60モル%以上含むエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸(以下、「エキソ体比率の高いエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸」ともいう)とすることが重要である。
本発明におけるエキソ体比率の高いエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸は、下記(1)〜(2)工程を含む方法で得られる。
【0057】
(1)工程:下記式(VII)で表されるノルボルナジエンと下記一般式(VIII)で表されるギ酸エステルとを、
【化19】

【化20】

(但し、式中R、Rは、炭素数1〜5のアルキル基、ビニル基、ベンジル基を示す。なお、R、Rは同じであっても違ってもよい。)
ルテニウム化合物と、コバルト化合物と、ハロゲン化物塩と、塩基性化合物と、を組み合わせた触媒系の存在下で反応させて、下記一般式(IX)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸誘導体を60モル%以上含むエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸誘導体(以下、「エキソ体比率の高いエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸誘導体」ともいう)とする。
【0058】
【化21】

(但し、式中、R、Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基、ビニル基、ベンジル基を示す。なお、R、Rは同じであっても違ってもよい。)
【0059】
(2)工程:上記エキソ体比率の高いエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸誘導体のアルコキシカルボニル基を加水分解して、上記エキソ体比率の高いエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸を得る。
【0060】
各工程について説明する。
(1)工程:一般式(IX)で表されるノルボルナンジカルボン酸誘導体を得る(「ヒドロエステル化反応」ともいう)工程
上記式(VII)で表されるノルボルナジエンと反応させる上記一般式(VIII)で表されるギ酸エステルとしては、特に制限は無く、下記のものが挙げられる。
【0061】
(ギ酸エステル)
ヒドロエステル化反応工程に使用可能なギ酸エステルは、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソプロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸アミル、ギ酸イソアミル、ギ酸ビニル、ギ酸ベンジル等から適宜選択して使用することができる。コスト及び反応性の観点から、ギ酸メチル、ギ酸エチル等の直鎖状のアルキルギ酸エステルが好ましく、ギ酸メチルがより好適である。
【0062】
なお、ギ酸エステルのエステル部分(R、R)は、上記一般式(IX)中のR、Rに対応する。なお、R、Rは同じであっても違ってもよい。
【0063】
一般式(IX)で表されるノルボルナンジカルボン酸誘導体が、異なるギ酸エステルに由来するエステル部分を2種有するには、上記式(VII)で表されるノルボルナジエンと2種のギ酸エステルとを一緒に反応させればよい。
【0064】
(触媒系)
ヒドロエステル化反応には、ルテニウム化合物と、コバルト化合物と、ハロゲン化物塩と、塩基性化合物との4成分を必須とする触媒系を使用する。
なお、ここで「触媒系」とは、触媒そのものだけでなく、触媒の作用を助ける添加剤、増感剤等も含むものである。
【0065】
後述する実施例によって明らかにされるように、本発明では、ルテニウム化合物と、コバルト化合物と、ハロゲン化物塩と、塩基性化合物との組み合わせによって、所期の目的(エキソ体比率の高いノルボルナンジカルボン酸エステルが効率よく得られること)が達成可能となる。理論によって拘束するものではないが、本発明による不飽和有機化合物のヒドロエステル化反応は、ルテニウム化合物がギ酸エステルのC−H結合を開裂し、ノルボルナジエンの不飽和基に付加したコバルト化合物と反応することによって進行し、このような反応をハロゲン化物塩と塩基性化合物が促進するものと考えられる。
【0066】
以下、触媒系の各種化合物について具体的に説明する。
【0067】
(1)ルテニウム化合物
ヒドロエステル化反応工程で使用可能なルテニウム化合物は、ルテニウムを含む化合物であればよく、特に制限はない。例えば、ルテニウム原子を中心として、周囲に配位子が結合した構造を有するルテニウム錯体化合物が挙げられる。本発明の一実施形態では、分子内にカルボニル配位子とハロゲン配位子とを合わせ持つ、ルテニウム錯体化合物が好ましい。
【0068】
そのようなルテニウム錯体化合物の具体例として、[RuCl(CO)、[RuCl(CO)、並びに[Ru(CO)Cl、[Ru(CO)11Cl]及び[Ru(CO)13Cl]等をカウンタアニオンとして有する各種化合物が挙げられる。上記カウンタアニオンを有する各種化合物は、カウンタカチオンとして、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属等の金属イオンを有するものであってよい。例示した化合物の中でも、反応率向上の観点から、[Ru(CO)Cl、及び[Ru(CO)Clがより好ましい。
【0069】
ヒドロエステル化反応工程で使用するルテニウム化合物は、当技術分野において周知の方法に従って製造することもできるが、市販品として入手することもできる。また、[Ru(CO)Clは、M.J.Cleare,W.P.Griffith,J.Chem.Soc.(A),1969,372.に記載された方法に従って製造することができる。
【0070】
ヒドロエステル化反応工程で使用するルテニウム化合物は、例えば、RuCl、Ru(CO)12、RuCl(C12)、Ru(CO)(C)、Ru(CO)(C12)、及びRu(C10)(C12)を前駆体化合物として使用し、本発明におけるヒドロエステル化の反応工程前又は反応工程中に、上記ルテニウム化合物を調製して、反応系に導入してもよい。
【0071】
上記ルテニウム化合物の使用量は、製造コストを考えると、可能な限り少量にすることが好ましい。しかし、上記ルテニウムの使用量が1/10000当量未満となると、エステル化反応の速度が遅くなる傾向にある。そのため、上記ルテニウム化合物の使用量は、原料として使用するノルボルナジエンに対して、1/10000〜1当量の範囲が好ましく、1/1000〜1/10当量の範囲がより好ましい。ルテニウム化合物を単独で用いても、複数組み合わせて用いてもよい。
【0072】
(2)コバルト化合物
ヒドロエステル化反応工程で使用可能なコバルト化合物は、コバルトを含む化合物であればよく、特に制限はない。好適な化合物の具体例として、Co(CO)、HCo(CO)、Co(CO)12等のカルボニル配位子を持つコバルト錯体化合物、酢酸コバルト、プロピオン酸コバルト、安息香酸コバルト、クエン酸コバルト等のカルボン酸化合物を配位子に持つコバルト錯体化合物、及びリン酸コバルトが挙げられる。なかでも、反応率向上の観点から、カルボニル配位子を持つコバルト錯体化合物が好ましい。
【0073】
上記コバルト化合物の使用量は、上記ルテニウム化合物に対して、1/100〜10当量、好ましくは1/10〜5当量である。上記ルテニウム化合物に対する上記コバルト化合物の比率が1/100当量より低くても、又は10当量より高くても、上記エキソ体比率の高いエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸化合物の生成量は低下する、又は生成されない傾向にある。コバルト化合物を単独で用いても、複数組み合わせて用いてもよい。
【0074】
(3)ハロゲン化物塩
ヒドロエステル化反応工程で使用可能なハロゲン化物塩は、塩化物イオン、臭化物イオン及びヨウ化物イオン等のハロゲンイオンと、カチオンとから構成される化合物であればよく、特に限定されない。上記カチオンは、無機物イオン及び有機物イオンのいずれであってもよい。また、上記ハロゲン化物塩は、分子内に1以上のハロゲンイオンを含んでもよい。
【0075】
ハロゲン化物塩を構成する無機物イオンは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される1種の金属イオンであってよい。具体例として、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウム等のイオンが挙げられる。
【0076】
また、有機物イオンは、有機化合物から誘導される1価以上の有機基であってよい。一例として、アンモニウム、ホスホニウム、ピロリジニウム、ピリジウム、イミダゾリウム及びイミニウム等のイオンが挙げられ、これらイオンの水素原子はアルキル及びアリール等の炭化水素基によって置換されていてもよい。特に限定するものではないが、好適な有機物イオンの具体例として、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラヘプチルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、トリオクチルメチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム、ベンジルトリフェニルホスホニウム、ビス(トリフェニルホスフィン)イミニウム等のイオンが挙げられる。なかでも、反応率向上の観点から、ブチルメチルピロリジニウムクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)イミニウムアイオダイド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド等の第四級アンモニウム塩がより好ましい。
【0077】
ヒドロエステル化反応工程で使用するハロゲン化物塩は、固体の塩である必要はなく、室温付近又は100℃以下の温度領域で液体となる、ハロゲン化物イオンを含むイオン性液体を用いてもよい。このようなイオン性液体に用いられるカチオンの具体例として、1−エチル3−メチルイミダゾリウム、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ペンチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘプチル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム、1−デシル−3−メチルイミダゾリウム、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−テトラデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキサデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクタデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチルピリジニウム、1−ブチルピジリニウム、1−ヘキシルピリジニウム、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−エチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−プロピル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−ブチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−ペンチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−ヘキシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−ヘプチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−オクチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン等の有機物イオンが挙げられる。
【0078】
上述のハロゲン化物塩のうち、好適なハロゲン化物塩は、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩であり、カチオンが有機物イオンである化合物である。特に限定するものではないが、本発明において好適なハロゲン化物塩の具体例として、ブチルメチルピロリジニウムクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)イミニウムアイオダイド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0079】
ハロゲン化物塩の添加量は、例えば、ルテニウム化合物に対して1〜1000当量、好ましくは2〜50当量である。添加量を1当量以上とすることによって、反応速度を効果的に高めることができる。一方、添加量が1000当量を超えると、添加量をさらに増加したとしても、反応促進のさらなる向上効果は得られない傾向がある。本発明では、ハロゲン化物塩を単独で用いても、複数組み合わせて用いてもよい。
【0080】
(4)塩基性化合物
ヒドロエステル化反応工程において、使用可能な塩基性化合物は、無機化合物であっても、有機化合物であってもよい。塩基性の無機化合物の具体例として、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の各種金属の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物塩、アルコキシドが挙げられる。塩基性の有機化合物の具体例として、一級アミン化合物、二級アミン化合物、三級アミン化合物、ピリジン化合物、イミダゾール化合物、キノリン化合物が挙げられる。
【0081】
上述の塩基性化合物のなかでも、反応促進効果の観点から、三級アミン化合物が好適である。本発明において好適な三級アミン化合物の具体例として、トリアルキルアミン、N−アルキルピロリジン、N−アルキルピペリジン、キヌクリジン、及びトリエチレンジアミンが挙げられる。
【0082】
塩基性化合物の添加量は、特に限定されるものではないが、例えば、ルテニウム化合物に対して1〜1000当量、好ましくは2〜200当量である。添加量を1当量以上とすることによって、促進効果の発現がより顕著になる傾向がある。また、添加量が1000当量を超えると、添加量をさらに増加したとしても、反応促進のさらなる向上効果は得られない傾向がある。
【0083】
(5)触媒系のその他の成分
ヒドロエステル化反応工程では、ルテニウム化合物とコバルト化合物とハロゲン化物塩と塩基性化合物とを含む特定の触媒系に、必要に応じて、フェノール化合物、又は有機ハロゲン化合物を追加することによって、上記触媒系による反応促進の効果をより高めることが可能である。
以下、各種化合物について説明する。
【0084】
(5−1)フェノール化合物
ヒドロエステル化反応に用いる好適なフェノール化合物の具体例として、フェノール、クレゾール、アルキルフェノール、メトキシフェノール、フェノキシフェノール、クロルフェノール、トリフルオロメチルフェノール、ヒドロキノン及びカテコールが挙げられる。
【0085】
フェノール化合物の添加量は、例えば、ルテニウム化合物に対して1〜1000当量、好ましくは2〜50当量である。添加量を1当量以上とすることによって、促進効果の発現がより顕著になる傾向がある。また、添加量が1000当量を超えると、添加量をさらに増加したとしても、反応促進のさらなる向上効果は得られない傾向がある。
【0086】
(5−2)有機ハロゲン化合物
ヒドロエステル化反応工程において好適な有機ハロゲン化合物としては、ハロゲン化メチル、ジハロゲンメタン、ジハロゲンエタン、トリハロゲンメタン、テトラハロゲン炭素、ハロゲン化ベンゼン等が挙げられる。
【0087】
有機ハロゲン化合物の添加量は、例えば、ルテニウム化合物に対して1〜1000当量、好ましくは2〜50当量である。添加量を1当量以上とすることによって、促進効果の発現が顕著になる傾向がある。また、添加量が1000当量を超えると、添加量をさらに増加したとしても、反応促進のさらなる向上効果は得られない傾向がある。
【0088】
(溶媒)
ヒドロエステル化反工程応において、上記式(VII)で表されるノルボルナジエンと上記一般式(VIII)で表されるギ酸エステルとの反応は、特に溶媒を用いることなく進行させることができる。しかし、必要に応じて、溶媒を使用してもよい。本発明において使用可能な溶媒は、原料として使用する化合物を溶解できればよく、特に限定はされない。本発明において好適に使用できる溶媒の具体例として、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、エチルベンゼン、クメン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルイミダゾリジノン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル等が挙げられる。
【0089】
(各原料の割合)
反応に用いる上記式(VII)で表されるノルボルナジエンと上記一般式(VIII)で表されるギ酸エステルとの割合は、仕込み量で、上記式(VII)で表されるノルボルナジエン1モルに対し、上記一般式(VIII)で表されるギ酸エステルを2〜100モルが好ましく、4〜50がより好ましい。2モル未満であると、副反応が増えて数率が低下する傾向があり、100モルを超えても、生産性が低下するだけで、特に効果は無い。
【0090】
(反応温度)
ヒドロエステル化反応工程において、上記式(VII)で表されるノルボルナジエンと上記一般式(VIII)で表されるギ酸エステルとの反応は、80℃〜200℃の温度範囲で実施することが好ましい。上記反応は、100℃〜160℃の温度範囲で実施することがより好ましい。80℃以上の温度で反応を実施することによって、反応速度が速まり、効率良く反応を進めることができる。その一方で、反応温度を200℃以下に制御することによって、原料として使用するギ酸エステルの分解を抑制することができる。ギ酸エステルが分解すると、ノルボルナジエンに対するエステル基の付加が達成されなくなる。さらに、反応温度が高すぎると、原料であるノルボルナジエンの開環重合が起こり、収率が低下する可能性があるので、高すぎる反応温度は望ましくない。
【0091】
反応温度が、原料として使用するノルボルナジエン又はギ酸エステルのいずれかの沸点を超える場合には、耐圧容器内で反応を行う必要がある。反応の終結は、ガスクロマトグラフ、NMR等の周知の分析技術を用いて確認することができる。
【0092】
上記に示すような(1)工程で得られたエキソ体比率の高いエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸誘導体は、必要により蒸留等で単離して、下記(2)工程の加水分解工程の原料とすることができる。
【0093】
(2)工程:上記一般式(IX)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸誘導体を60モル%含むエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸誘導体の加水分解工程
本発明の製造方法において、エキソ体比率の高いノルボルナン骨格含有ポリアミドを得るために用いられる、エキソ体比率の高いエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸は、上記(1)工程で得られたエキソ体比率の高いエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸誘導体のアルコキシカルボニル基を加水分解して得られる。
【0094】
上記エキソ体比率の高いエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸誘導体のアルコキシカルボニル基を加水分解して、エキソ体比率の高いエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸とする方法には、特に制限は無く、例えば、特許第2591492号又は特開2008−31406号公報等に記載されている酸加水分解、アルカリ加水分解等を使用することができる。又は、酸成分、あるいはアルカリ成分を加えること無しに、耐熱容器内で水分存在下、140℃以上の高温で加熱することによっても加水分解することができる。
【実施例】
【0095】
以下、本発明を実施例によってより詳細に説明する。しかし、本発明の範囲は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0096】
<1>ノルボルナンジカルボン酸の合成
(合成例1)
<式(III)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸を60モル%以上含むエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸の合成>
[ノルボルナンジカルボン酸ジメチルの合成:一般式(IX)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸誘導体を60モル%以上含むエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸誘導体の合成(一般式(IX)中、R、R=メチル基)]
【0097】
【化22】

【0098】
室温下、内容積50mlのステンレス製加圧反応装置内に、ルテニウム化合物として[Ru(CO)Clを0.05mmol、コバルト化合物としてCo(CO)を0.05mmol、ハロゲン化物塩としてブチルメチルピロリジニウムクロリドを0.25mmol、塩基性化合物としてトリエチルアミンを1.0mmol加え、混合して触媒系を得た。この触媒系に、ノルボルナジエンを2.5mmol、ギ酸メチルを5.0mL加え、次いで窒素ガス0.5MPaで反応装置内をパージし、120℃で15時間保持した。
その後、反応装置を室温まで冷却し、放圧し、残存有機相の一部を抜き取り、ガスクロマトグラフを用いて、反応混合物の成分を分析した。
【0099】
分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは1.63mmol(ノルボルナンジカルボン酸メチル基準で収率65.2%)であり、エキソ体/エンド体の組成比(モル比)は75/25であった。また、この際、エキソ体、エンド体ともガスクロマトグラフのピークが2本ずつ存在したので、2,5−体と2,6−体であると推察した。
【0100】
なお、ガスクロマトグラフ分析は、ジーエルサイエンス(株)製GC−353B型GCを使用して下記条件で行った。
検出器:水素炎イオン検出器
カラム:ジーエルサイエンス(株)製 TC−1(長さ:60m)
キャリアガsス:ヘリウム(300kPa)
温度
注入口:200℃
検出器:200℃
カラム:40℃〜240℃(昇温速度:5℃/min)
【0101】
また、上記エキソ体/エンド体(ガスクロマトグラフのピークが2本)を減圧蒸留で分離して、エキソ体とエンド体それぞれを得た。
【0102】
減圧蒸留で分離して得られたエキソ体ノルボルナンジカルボン酸メチルの13C−NMRスペクトルを図1及び図2に示す。図1及び図2に示した13C−NMRスペクトルの測定条件及び同定データは以下のとおりである。
条件:溶媒DMSO−d6、BRUKER社製の装置「AV400M」(カーボン基本周波数:100.62MHz)。
【0103】
13C−NMR分析の結果、170〜180ppm付近にカルボニルのカーボン、51〜52ppm付近にメチルエステルのカーボン、39〜45ppm付近にメチレンのカーボン、32〜36ppm付近にメチンのカーボンが観測され、それぞれのカーボン数は、カルボニル/メチルエステル/メチレン/メチン=2/2/4/5であった。各カーボンが下記に示すように帰属された。
【0104】
【化23】

【0105】
下記の文中の各カーボンの符号は、上記化学式のカーボンの位置を示す丸数字に対応する。
カーボン(1):39.89ppmのピーク(メチン)
カーボン(2):44.59ppmのピーク(メチン)
カーボン(3):33.03ppmのピーク(メチレン)
カーボン(4):39.89ppmのピーク(メチン)
カーボン(5):44.59ppmのピーク(メチン)
カーボン(6):33.02ppmのピーク(メチレン)
カーボン(7):34.35ppmのピーク(メチレン)
カーボン(8):51.44ppmのピーク(メチルエステル)
カーボン(9):175.22ppmのピーク(カルボニル)
カーボン(11):35.15ppmのピーク(メチン)
カーボン(12):44.77ppmのピーク(メチン)
カーボン(13):32.68ppmのピーク(メチレン)
カーボン(14):43.86ppmのピーク(メチン)
カーボン(15):32.68ppmのピーク(メチレン)
カーボン(16):44.77ppmのピーク(メチン)
カーボン(17):34.47ppmのピーク(メチレン)
カーボン(18):51.51ppmのピーク(メチルエステル)
カーボン(19):174.85ppmのピーク(カルボニル)
【0106】
得られたエキソ体ノルボルナンジカルボン酸メチルの1H−NMRスペクトルを図3に示す。図3に示した1H−NMRスペクトルの測定条件及び同定データは以下のとおりである。
【0107】
条件:溶媒DMSO−d6、BRUKER社製の装置「AV400M」(プロトン基本周波数:400.13MHz)。
1H−NMR分析の結果、各プロトンが下記に示すように帰属された。
【0108】
【化24】

【0109】
下記の文中の各カーボンの符号は、上記化学式のカーボンの位置を示す丸数字に対応する。
プロトン(1):2.47ppm付近のピーク(メチン)
プロトン(2):2.4ppm付近のピーク(メチン)
プロトン(3):1.5ppm〜1.8ppm付近のピーク(メチレン)
プロトン(4):2.47ppm付近のピーク(メチン)
プロトン(5):2.4ppm付近のピーク(メチン)
プロトン(6):1.5ppm〜1.8ppm付近のピーク(メチレン)
プロトン(7):1.3ppm付近のピーク(メチレン)
プロトン(8):3.6ppm付近のピーク(メチル)
プロトン(9):2.3ppm付近のピーク(メチン)
プロトン(12):2.5ppm付近のピーク(メチン)
プロトン(13):1.5ppm〜1.8ppm付近のピーク(メチレン)
プロトン(14):2.7ppm付近のピーク(メチン)
プロトン(15):1.5ppm〜1.8ppm付近のピーク(メチレン)
プロトン(16):2.5ppm付近のピーク(メチン)
プロトン(17):1.2ppm付近のピーク(メチレン)
プロトン(18):3.6ppm付近のピーク(メチル)
【0110】
また、積分強度比から、メチル基が4つ、メチレン基が6つ、メチン基が8つ存在することが分かった。
【0111】
得られたエキソ体ノルボルナンジカルボン酸メチルの1H−13C HSQCスペクトルを図4に示す。図4に示した1H−13C HSQCスペクトルから、それぞれ同じピーク番号を持つカーボンとプロトンが相関し、図1、図2及び図3の帰属結果が正しいことが分かった。
【0112】
得られたエキソ体ノルボルナンジカルボン酸メチルの1H−1H COSYスペクトルを図5に示す。
【0113】
【化25】

【0114】
図5から、プロトン(1)(4)とプロトン(7)、プロトン(1)(4)とプロトン(3)(6)、プロトン(2)(5)とプロトン(3)(6)、プロトン(11)(14)とプロトン(17)、プロトン(12)(16)とプロトン(13)(15)プロトン(13)(15)とプロトン(14)の相関が観測され、それぞれ、プロトン(1)〜(7)及び(11)〜(17)でノルボルナン環が構成されていることを確認した。
【0115】
得られたエキソ体ノルボルナンジカルボン酸メチルの1H−13H HMBCスペクトルを図6に示す。1H−13H HMBCスペクトルによって、2種類の化合物の構造同定を行った。
【0116】
(1)プロトン(1)〜(7)でノルボルナン環が構成されている化合物
【化26】

【0117】
図6から、カルボニルカーボン(9)とメチンプロトン(2)及びメチンプロトン(5)に相関が認められることから、ノルボルナン−2,5−ジカルボン酸メチルであることを確認した。
【0118】
(2)プロトン(11)〜(17)でノルボルナン環が構成されている化合物
【化27】

【0119】
図6から、カルボニルカーボン(19)とメチンプロトン(12)及びメチンプロトン(16)に相関が認められることから、ノルボルナン−2,6−ジカルボン酸メチルであることを確認した。
【0120】
得られたエキソ体ノルボルナンジカルボン酸メチルの1H−1H NOESYスペクトルを図7に示す。1H−1H NOESYスペクトルから、ノルボルナン−2,5−ジカルボン酸メチル及びノルボルナン−2,6−ジカルボン酸メチルの立体構造同定を行った。
【0121】
(1)ノルボルナン−2,5−ジカルボン酸メチル
図7から、プロトン(1)(4)とプロトン(7)との相関はあるが、プロトン(2)(5)との相関が認められないことから、プロトン(2)(5)はエンド位に結合していることが分かる。よって、この化合物が、ノルボルナン−2(エキソ)−5(エキソ)−ジカルボン酸メチルであることを確認した。
【0122】
(2)ノルボルナン−2,6−ジカルボン酸メチル
図7から、プロトン(11)(14)はプロトン(17)との相関はあるが、プロトン(12)(16)との相関が認められないことから、プロトン(12)(16)はエンド位に結合していることが分かる。よって、この化合物が、ノルボルナン−2(エキソ)−6(エキソ)−ジカルボン酸メチルであることを確認した。
【0123】
[ノルボルネンジカルボン酸の合成:式(III)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸を60モル%以上含むエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸の合成]
冷却管を取り付けた1リットルナス型フラスコに、上記[ノルボルナンジカルボン酸ジメチル]で得られたノルボルナンジカルボン酸ジメチル(エキソ体/エンド体の組成比(モル比):75/25)30g及びメタノール200gを投入して均一溶液とした後、10%水酸化ナトリウム溶液200gを加え、100℃のオイルバスに入れ、6時間加熱還流した。その後、反応液量が140gになるまでメタノールを留去し、これに36%塩酸48mlを加え、PHを1としたところ、白色粉末が沈殿した。この白色粉末をろ過、水洗、乾燥し、ノルボルナンジカルボン酸25gを得た(NBDA−1)。
【0124】
得られたノルボルナンジカルボン酸を、1H−NMRで分析した結果、ノルボルナン環のメチレン及びメチン基のピークが1.1〜3.0ppm付近に、カルボン酸に起因する水酸基のピークが12.4ppm付近に確認でき、その積分強度比が10.00/1.98(理論値:10/2)であった。1H−NMRの結果を図8に示す。
なお、加水分解後のノルボルナンジカルボン酸のエキソ体/エンド体の組成比(モル比)は、加水分解前のノルボルナンジカルボン酸誘導体のエキソ体/エンド体の組成比(モル比)と同じである。
【0125】
次に、減圧蒸留で分離したエンド体ノルボルナンジカルボン酸メチルの1H−NMRを図9に示す。なお、エンド体ノルボルナンジカルボン酸メチルはガスクロマトグラフによる分析の結果、ピークが2本存在するものの、その比率は95/5(組成比)なので、1種類として分析した。
【0126】
1H−NMR分析の結果、1.3〜1.7ppm付近にノルボルナン環のメチレン、2.3〜2.8ppm付近にノルボルナン環のメチン、3.6ppm付近にメチルエステルが観測され、ノルボルナンジカルボン酸メチルであることが確認された。
【0127】
得られたエンド体ノルボルナンジカルボン酸メチルの13C−NMRスペクトルを図10に示す。
【0128】
13C−NMR分析の結果、各カーボンが下記に示すように帰属された。
【0129】
【化28】

【0130】
下記の各カーボンの符号は、上記化学式のカーボンの位置を示す丸数字に対応する。
カーボン(1):39.61ppmのピーク(メチン)
カーボン(2):44.01ppmのピーク(メチン)
カーボン(3):31.36ppmのピーク(メチレン)
カーボン(4):40.63ppmのピーク(メチン)
カーボン(5):45.07ppmのピーク(メチン)
カーボン(6):28.94ppmのピーク(メチレン)
カーボン(7):37.50ppmのピーク(メチレン)
カーボン(8):51.37及び51.48ppmのピーク(メチルエステル)
カーボン(9):174.22及び175.03ppmのピーク(カルボニル)
【0131】
得られたエンド体ノルボルナンジカルボン酸ジメチルの1H−13C HSQCスペクトルを図11に示す。
【0132】
【化29】

【0133】
図11から、それぞれのカーボンとプロトンの相関が確認され、エンド体ノルボルナンジカルボン酸メチルを構成する全てのプロトンが帰属でき、得られたエンド体ノルボルナンジカルボン酸ジメチルは、2,5−体であることが分かった。
【0134】
得られたエンド体ノルボルナンジカルボン酸ジメチルの1H−1H COSYスペクトルを図12に示す。
【0135】
【化30】

【0136】
図12から、プロトン(1)〜(7)において隣接する全てのメチン基及びメチレン基プロトン同士の相関が観測され、プロトン(1)〜(7)でノルボルナン環が構成されていることが確認できた。
【0137】
得られたエンド体ノルボルナンジカルボン酸ジメチルの1H−1H NOESYスペクトルを図13に示す。
【0138】
【化31】

【0139】
図13から、メチンプロトン(2)及び(5)とメチレンプロトン(7)に相関が認められることから、2位及び5位に結合しているカルボン酸メチル基は、いずれもエンド体であると確認した。
【0140】
(合成例2)
<式(I)で表されるノルボルナンジカルボン酸の合成>
[ノルボルナンジカルボン酸ジメチルの合成]
(シクロペンタジエンの生成)
【0141】
【化32】

【0142】
撹拌機、温度計及び塔頂に分溜塔、温度計及び冷却管を備えたスニーダー型分溜管(7段)を備えた1リットルフラスコに、ジシクロペンタジエンを700g仕込み、オイルバスで加熱した。フラスコ内の温度が158℃に達したところで、分溜塔頂からシクロペンタジエンが留出してきたので、受器を氷冷しながら約6時間かけて回収した。この際の留出温度は41〜48℃で、回収量は609gだった(回収率:87%)。
得られたシクロペンタジエンをガスクロマトグラフィーで分析したところ、純度は100%であった。
【0143】
(ノルボルネンカルボン酸メチルの合成)
【0144】
【化33】

【0145】
撹拌機、温度計、滴下ロート及び冷却管を備えた1リットルフラスコに、アクリル酸メチル 344g(4.0モル)を仕込んだ後、フラスコを水冷して撹拌しながら、上記(シクロペンタジエンの生成)で得られたシクロペンタジエン265g(4.0モル)を、フラスコ内の温度が30〜40℃に保持されるように注意しながら滴下した。滴下終了後、反応温度を維持しながら6時間反応させ、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、原料であるアクリル酸メチルとシクロペンタジエンは完全に消失し、ノルボルネンカルボン酸メチルの選択率が99.6%の反応液を得た(ジシクロペンタジエンが0.4%生成)。また、このノルボルネンカルボン酸メチルの組成比(モル比)は、エキソ体/エンド体=25/75であった。
【0146】
(ノルボルナンジカルボン酸メチルの合成)
【0147】
【化34】

【0148】
室温下、内容積500mlのステンレス製加圧反応装置内で、ルテニウム化合物として[Ru(CO)Clを0.25mmol、コバルト化合物としてCo(CO)を0.25mmol、ハロゲン化物塩としてトリオクチルメチルアンモニウムクロリド5mmol、塩基性化合物としてトリエチルアミンを20mmol混合した触媒系に、上記(ノルボルネンカルボン酸メチルの合成)で得られたノルボルネンカルボン酸メチル(未精製)を100mmol、ギ酸メチルを50mL加えたのち、窒素ガス0.5MPaで反応容器をパージし、120℃で8時間保持した。その後反応装置を室温まで冷却し、放圧し、残存有機層の一部を抜き取り、ガスクロマトグラフを用いて分析した。
【0149】
分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは94.3mmol(ノルボルナンジカルボン酸メチル基準で収率94.3%)であり、エキソ/エンド体の組成比(モル比)は43/57であった。得られたノルボルナンジカルボン酸メチル(エキソ体/エンド体混合物)を減圧蒸留で単離した。
【0150】
[ノルボルネンジカルボン酸の合成]
上記合成例1の[ノルボルネンジカルボン酸の合成]において、上記(ノルボルナンジカルボン酸メチルの合成)で得られたノルボルナンジカルボン酸ジメチル(エキソ/エンド体の組成比:43/57)にした以外は、上記合成例1の[ノルボルネンジカルボン酸の合成]と全く同様の操作を実施し、ノルボルナンジカルボン酸(NBDA−2)24gを得た。
【0151】
(合成例3)
[ノルボルナンジカルボン酸ジメチルの合成]
【0152】
【化35】

【0153】
室温下、内容積50mlのステンレス製加圧反応装置内に、ルテニウム化合物として[Ru(CO)Clを0.05mmol、コバルト化合物としてCo(CO)を0.05mmol、ハロゲン化物塩としてブチルメチルピロリジニウムクロリドを0.25mmol、加え、混合して触媒系を得た。この触媒系に、ノルボルナジエンを2.5mmol、ギ酸メチルを5.0mL加え、次いで窒素ガス0.5MPaで反応装置内をパージし、120℃で15時間保持した。
その後、反応装置を室温まで冷却し、放圧し、残存有機相の一部を抜き取り、ガスクロマトグラフを用いて、反応混合物の成分を分析した。
【0154】
分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは痕跡量であった。
【0155】
<2>ノルボルナン骨格含有ポリアミドの合成
(実施例1)[エキソ体比率の高いノルボルナン骨格含有ポリアミド(PA−1)の合成]
攪拌機、温度計、窒素導入管及び冷却管を備えた500mlフラスコに、合成例1で得られたノルボルナンジカルボン酸74.20g(0.350モル)、ヘキサメチレンジイソシアネート59.98g(0.357モル)(ジカルボン酸/ジイソシアネート(モル比)=1.00/1.02)及びN−メチルピロリドン202.84gを仕込み、160℃まで昇温した後、3時間反応させて、数平均分子量が85,000のノルボルナン骨格を持つポリアミド(PA−1)を得た。
なお、得られたポリアミドのエキソ体比率は、原料で用いたノルボルナンジカルボン酸の比率と同じである。
【0156】
得られたノルボルナン骨格を有するポリアミド(PA−1)をテフロン(登録商標)基板上に塗布し、250℃で加熱して、有機溶媒を乾燥させて、膜厚30μmの塗膜を形成した。この塗膜のガラス転移温度(Tg)及び熱分解開始温度(5%質量減少温度、Td)を下記条件で測定した。結果を表1に示す。
【0157】
(1)ガラス転移温度(Tg)
熱機械分析装置(セイコー電子(株)製、5200型 TMA)で測定した。
測定モード:エクステンション
測定スパン:10mm
荷重:10g
昇温速度:5℃/min
雰囲気:空気
【0158】
(2)熱分解開始温度(5%質量減少温度、Td
示差熱天秤(セイコー電子(株)製、5200型 TG−DTA)で測定した。
昇温速度:5℃/min
雰囲気:空気
【0159】
(3)光線透過率
また、得られたノルボルナン骨格を有するポリアミド(PA−1)の各波長における光線透過率を、日本分光(株)製、V−570型UV/VISスペクトロフォトメーターで測定した。評価結果をまとめて表1に示す。
【0160】
(実施例2)[エキソ体比率の高いノルボルナン骨格含有ポリアミド(PA−2)の合成]
攪拌機、温度計、窒素導入管及び冷却管を備えた500mlフラスコに、合成例1で得られたノルボルナンジカルボン酸53.00g(0.250モル)、4,4’−シクロヘキシルメタンジイソシアネート66.81g(0.255モル)(ジカルボン酸/ジイソシアネート(モル比)=1.00/1.02)及びN−メチルピロリドン179.72gを仕込み、160℃まで昇温した後、3時間反応させて、数平均分子量が90,000のノルボルナン骨格を有するポリアミド(PA−2)を得た。
得られたノルボルナン骨格を有するポリアミド(PA−2)の特性を実施例1と同様に評価した。結果をまとめて表1に示す。
【0161】
(実施例3)[エキソ体比率の高いノルボルナン骨格含有ポリアミド(PA−3)の合成]
攪拌機、温度計、窒素導入管及び冷却管を備えた500mlフラスコに、合成例1で得られたノルボルナンジカルボン酸57.24g(0.270モル)、イソホロンジイソシアネート61.14(0.275モル)(ジカルボン酸/ジイソシアネート(モル比)=1.00/1.02)及びN−メチルピロリドン177.57gを仕込み、160℃まで昇温した後、3時間反応させて、数平均分子量が85,000のノルボルナン骨格を持つポリアミド(PA−3)を得た。
得られたノルボルナン骨格を有するポリアミド(PA−3)の特性を実施例1と同様に評価した。結果をまとめて表1に示す。
【0162】
(実施例4)[エキソ体比率の高いノルボルナン骨格含有ポリアミド(PA−4)の合成]
攪拌機、温度計、窒素導入管及び冷却管を備えた500mlフラスコに、合成例1で得られたノルボルナンジカルボン酸55.12g(0.260モル)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート66.30g(0.265モル)(ジカルボン酸/ジイソシアネート(モル比)=1.00/1.02)及びN−メチルピロリドン182.91gを仕込み、160℃まで昇温した後、3時間反応させて、数平均分子量が80,000のノルボルナン骨格を持つポリアミド(PA−4)を得た。
得られたノルボルナン骨格を有するポリアミド(PA−4)の特性を実施例1と同様に評価した。結果をまとめて表1に示す。
【0163】
(比較例1)[ノルボルナン骨格含有ポリアミド(PA−5)の合成]
攪拌機、温度計、窒素導入管及び冷却管を備えた500mlフラスコに、合成例2で得られたノルボルナンジカルボン酸74.20g(0.350モル)、ヘキサメチレンジイソシアネート59.98g(0.357モル)(ジカルボン酸/ジイソシアネート(モル比)=1.00/1.02)及びN−メチルピロリドン202.84gを仕込み、160℃まで昇温した後、3時間反応させて、数平均分子量が45,000のノルボルナン骨格を持つポリアミド(PA−5)を得た。
得られたノルボルナン骨格を有するポリアミド(PA−5)の特性を実施例1と同様に評価した。結果をまとめて表1に示す。
なお、得られたポリアミドのエキソ体比率は、原料で用いたノルボルナンジカルボン酸の比率と同じである。
【0164】
(比較例2)[ノルボルナン骨格含有ポリアミド(PA−6)の合成]
攪拌機、温度計、窒素導入管及び冷却管を備えた500mlフラスコに、合成例2で得られたノルボルナンジカルボン酸 53.00g(0.250モル)、4,4’−シクロヘキシルメタンジイソシアネート 66.81g(0.255モル)(ジカルボン酸/ジイソシアネート(モル比)=1.00/1.02)及びN−メチルピロリドン 179.72gを仕込み、160℃まで昇温した後、3時間反応させて、数平均分子量が55,000のノルボルナン骨格を有するポリアミド(PA−6)を得た。
得られたノルボルナン骨格を有するポリアミド(PA−6)の特性を実施例1と同様に評価した。結果をまとめて表1に示す。
【0165】
(比較例3)[ノルボルナン骨格含有ポリアミド(PA−7)の合成]
攪拌機、温度計、窒素導入管及び冷却管を備えた500mlフラスコに、合成例2で得られたノルボルナンジカルボン酸57.24g(0.270モル)、イソホロンジイソシアネート61.14(0.275モル)(ジカルボン酸/ジイソシアネート(モル比)=1.00/1.02)及びN−メチルピロリドン177.57gを仕込み、160℃まで昇温した後、3時間反応させて、数平均分子量が42,000のノルボルナン骨格を持つポリアミド(PA−7)を得た。
得られノルボルナン骨格を有するポリアミド(PA−7)の特性を実施例1と同様に評価した。結果をまとめて表1に示す。
【0166】
(比較例4)[ノルボルナン骨格含有ポリアミド(PA−8)の合成]
攪拌機、温度計、窒素導入管及び冷却管を備えた500mlフラスコに、合成例2で得られたノルボルナンジカルボン酸55.12g(0.260モル)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート66.30g(0.265モル)(ジカルボン酸/ジイソシアネート(モル比)=1.00/1.02)及びN−メチルピロリドン182.91gを仕込み、160℃まで昇温した後、3時間反応させて、数平均分子量が42,000のノルボルナン骨格を持つポリアミド(PA−8)を得た。
得られたノルボルナン骨格を有するポリアミド(PA−8)の特性を実施例1と同様に評価した。結果をまとめて表1に示す。
【0167】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明の製造方法により、耐熱性、絶縁性、耐光性、機械的特性に優れるエキソ体比率の高いノルボルナン骨格含有ポリアミドが得られる。そのため、本発明のエキソ体比率の高いノルボルナン骨格含有ポリアミドは、半導体・液晶に用いられる電子部品、光ファイバー、光学レンズ等に代表される光学材料、さらには、ディスプレイ関連材料、医療用材料として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるノルボルナンジカルボン酸と、
【化1】

下記一般式(II)で表されるジイソシアネート化合物と、
【化2】

(但し、式中Xは2価の有機基である。)
を極性溶媒中で反応させるノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法であって、
前記ノルボルナンジカルボン酸化合物総量の60モル%以上が、下記式(III)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸であることを特徴とする、エキソ体骨格を60モル%以上含有する下記一般式(IV)で表されるノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。
【化3】

【化4】

(但し、式中、Xは2価の有機基である。nは1〜500の整数である。)
【請求項2】
前記一般式(II)で表されるジイソシアネート化合物が、下記一般式(V)で表されるジイソシアネート化合物であることを特徴とする請求項1記載のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。
【化5】

(但し、式中Yは炭素数4〜16の2価の脂肪族基及び炭素数4〜16の2価の脂環族基から選ばれる2価の有機基である。)
【請求項3】
前記一般式(II)で表されるジイソシアネート化合物が、下記一般式(VI)で表されるジイソシアネート化合物であることを特徴とする請求項1記載のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。
【化6】

(但し、式中Yは2価の芳香族基である。)
【請求項4】
前記式(III)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸を60モル%含むエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸が、(1)〜(2)工程を含む方法で得られることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。
(1)工程:下記式(VII)で表されるノルボルナジエンと下記一般式(VIII)で表されるギ酸エステルとを、
【化7】

【化8】

(但し、式中R、Rは、炭素数1〜5のアルキル基、ビニル基、ベンジル基を示す。なお、R、Rは同じであっても違ってもよい。)
ルテニウム化合物と、コバルト化合物と、ハロゲン化物塩と、塩基性化合物と、を含む触媒系の存在下で反応させて、下記一般式(IX)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸誘導体を60モル%以上含むエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸誘導体とする。
【化9】

(但し、式中、R、Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基、ビニル基、ベンジル基を示す。なお、R、Rは同じであっても違ってもよい。)
(2)工程:前記一般式(IX)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸誘導体を60モル%以上含むエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸誘導体のアルコキシカルボニル基を加水分解して、前記式(III)で表されるエキソ体ノルボルナンジカルボン酸を60モル%以上含むエキソ体/エンド体混合ノルボルナンジカルボン酸化合物を得る。
【請求項5】
前記ルテニウム化合物が、分子内にカルボニル配位子とハロゲン配位子とを合わせ持つルテニウム錯体である請求項1〜4のいずれかに記載のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。
【請求項6】
前記ハロゲン化物塩が、四級アンモニウム塩であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。
【請求項7】
前記塩基性化合物が三級アミンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。
【請求項8】
前記触媒系がさらにフェノール化合物を含む請求項1〜7のいずれかに記載のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。
【請求項9】
前記触媒系がさらに有機ハロゲン化合物を含む請求項1〜8のいずれかに記載のノルボルナン骨格含有ポリアミドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−79351(P2013−79351A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221084(P2011−221084)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000004455)日立化成株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】