説明

ノロウイルスの検出方法

【課題】GI型とGII型とを同時に検出可能なノロウイルスの検出技術を提供することを課題とする。
【解決手段】ノロウイルスの公開されている塩基配列から、ORF1とORF2のジャンクション領域付近の塩基配列が特に保存されていることを見出し、この領域を増幅するプライマーセットを設計した。次いでこのプライマーセットを用いてノロウイルス臨床株についてRT-PCRを行い、得られた増幅産物の塩基配列をすべて決定した。そして、先の公開株と臨床株とを合わせてジャンクション領域付近の相同性検索を行なった結果、遺伝子型によらず高度に保存されている領域を見出し、本発明のPCR用プライマーセットを設計した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノロウイルスの検出に用いるポリヌクレオチドに関する。本発明は、医療、公衆衛生、食品等の分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
ノロウイルスは、カリシウイルス科に属する約7700塩基のプラス1本鎖RNAウイルスであり、ゲノム上には3つのOpen Reading Frame (ORF) が存在する。ORF1はヘリカーゼやポリメラーゼを初めとする機能性蛋白質を、ORF2は構造蛋白質であるカプシド蛋白質を、ORF3は低分子量の塩基性蛋白質をコードしており、ORF1の3'末端から、ORF2の5'末端の領域の塩基配列の系統解析により、GIからGVまでの5つの遺伝子型に分類されているが特にヒトへの感染が問題視されているのはGI及びGII型である。また、GII型はさらに数種の亜型に分類され、このうちGII.4型は感染力が強く、大規模な食中毒を起こすサブタイプとして報告されている。
【0003】
ノロウイルスを原因物質とする食中毒は近年急増しており、日本における平成19年の食中毒発生状況は事件数では総事件数1066件のうち294件、患者数では総患者数26282名のうち14545名と、カンピロバクター・ジェジュニ/コリ(645件、1941名)に次いで発生件数が多く、患者数では第1位となっている。ノロウイルスを原因とする食中毒は,以前は、牡蠣などの二枚貝が原因物質として報告されることがほとんどであったが、近年はヒトからヒトを介した2次感染によるものも増加している。さらに、大量調理施設衛生管理マニュアル (平成20年6月18日食安発第0618005号) の変更に伴い、調理従事者は10月から3月にはノロウイルスの検便検査項目がもうけられたため、ノロウイルス検出に関する需要はさらに高まっている。
【0004】
以前は電子顕微鏡観察によるノロウイルス検出が主流であったが、近年は分子生物学的手法の発達により多数のノロウイルス株のゲノム全塩基配列が決定され、ウイルスゲノムが詳細に解析されたことにより、RT-PCR法による検出が主流となっている(例えば、特許文献1〜4)。
【0005】
RT-PCR法では、まず検体中のRNA遺伝子を鋳型として逆転写酵素によりcDNAを合成し、さらに、合成したcDNAを鋳型としてPCRを行う。PCRでは鋳型となるcDNAにプライマーをアニールさせ、DNAポリメラーゼによって目的のプライマー配列にはさまれるDNAを特異的に検出する。これにより、RNA遺伝子配列が分かっているあらゆるウイルスの高感度の検出が、原理上は可能であるといえる。
【0006】
しかしながら、ノロウイルスは、遺伝子亜型が多数存在するために、選択するプライマーの塩基配列により検出結果が大きく異なることとなる。現在、ノロウイルスをすべて検出可能な万能なプライマーセットは存在しない。
【0007】
また、ノロウイルス検出のためには、現在国立感染症研究所により推奨されているプライマーセットや市販のキットが存在するが、そのすべてがGI型とGII型とを別個に検出するものであり、GI型とGII型双方を含めてノロウイルスを検出するためには、検体当たりの手間が煩雑となっている。
【0008】
より検出率が高く、かつ簡便な、ノロウイルスの検査技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000-300297号公報
【特許文献2】特開2005-245434号公報
【特許文献3】特開2009-63号公報
【特許文献4】特開2009-17824号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、ノロウイルスの遺伝子型を問わずRT-PCRにより検出可能なプライマーセットについて鋭意研究してきた。まず、ノロウイルス44株の公開されている塩基配列から、ORF1とORF2のジャンクション領域付近の塩基配列が特に保存されていることを見出し、この領域を増幅するプライマーセットを設計した。次いでこのプライマーセットを用いてノロウイルス臨床株150株についてRT-PCRを行い、88株から得られた増幅産物の塩基配列をすべて決定した。そして、先の44株と合わせて132株のジャンクション領域付近の相同性検索を行なった結果、遺伝子型によらず高度に保存されている領域を見出し、本発明を完成した。本発明は以下を提供する:
1)下記のいずれか一つのオリゴヌクレオチド(ただし、任意の位置のチミン(t)はウラシル(u)に置換されていてもよい):
配列番号:1の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:3の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:4の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体。
2)下記のいずれか一つのオリゴヌクレオチドを含む、ノロウイルス検出用組成物又はキット(ただし、任意の位置のチミン(t)はウラシル(u)に置換されていてもよい):
配列番号:1の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:3の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:4の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体。
3)下記の(a)から選択される少なくとも一つ、及び(b)から選択される少なくとも一つを含む、ノロウイルス検出用オリゴヌクレオチドセット(ただし、任意の位置のチミン(t)はウラシル(u)に置換されていてもよい):
(a)配列番号:1の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:3の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体;
(b)配列番号:2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:4の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体。
4)PCR用である、上記3)に記載のオリゴヌクレオチドセット。
5)上記3)に記載のオリゴヌクレオチドセットを含む、ノロウイルス検出用キット。
6)試料中の核酸を鋳型に、請求項3に記載のオリゴヌクレオチドセットをプライマーとしてポリメラーゼPCRを行う工程を含む、ノロウイルスの検出方法。
7)下記の(a')から選択される少なくとも一つ、及び(b')から選択される少なくとも一つを含む、ノロウイルス検出用オリゴヌクレオチドセット(ただし、任意の位置のチミン(t)はウラシル(u)に置換されていてもよい:
(a')配列番号:159の塩基配列の5033〜5074の範囲から選択される連続した14〜28塩基長の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:159の塩基配列の5033〜5074の範囲から選択される連続した14〜28塩基長の塩基配列において、一又は数個の塩基が置換されている塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体;
(b')配列番号:159の塩基配列の5077〜5112の範囲から選択される連続した14〜28塩基長の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:159の塩基配列の5077〜5112の範囲から選択される連続した14〜28塩基長の塩基配列において、一又は数個の塩基が置換されている塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体。
8)下記の(a")から選択される少なくとも一つ、及び(b")から選択される少なくとも一つを含む、上記7)に記載のオリゴヌクレオチドセット:
(a")配列番号:159の塩基配列の5059〜5078の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:159の塩基配列の5059〜5078の塩基配列において、一又は数個の塩基が置換されている塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体;
(b")配列番号:159の塩基配列の5091〜5118の範囲から選択される連続した20〜27塩基長の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:159の塩基配列の5091〜5118の範囲から選択される連続した20〜27塩基長の塩基配列において、一又は数個の塩基が置換されている塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体。
9)下記から選択される少なくとも一つの塩基配列を用いる、ノロウイルス検出用オリゴヌクレオチドセットの設計方法(ただし、任意の位置のチミン(t)はウラシル(u)に置換されていてもよい):
配列番号:159の塩基配列の5033〜5085の範囲の塩基配列、
配列番号:159の塩基配列の5033〜5085の範囲の塩基配列において、一又は数個の塩基が置換されている塩基配列、及び
それらの相補体。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、ノロウイルス全塩基配列における位置既知44株及び新規に塩基配列を決定した88株のノロウイルスの保存領域における同一性を示した図である。グレー部は、株によらず共通する配列部分であり、白部は、株により異なる部分を表す。
【図2】図2は、Nvdetect プライマーセットのノロウイルス (GII型) におけるプライミング部位を示した図である。黒塗り(白抜き文字)部は、プライマー配列と同一である配列部分であり、グレー部は、株によらず共通する配列部分であり、白部は、株により異なる部分を表す。
【図3】図3は、本願発明のプライマーセットによるRT-PCR産物の電気泳動写真である。
【図4】図4は、代表的なGII株(ID AB220921)のゲノムRNAの全長配列を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ノロウイルスの検出に用いることができる新規なオリゴヌクレオチドを提供する。本発明のオリゴヌクレオチドは、対にして、PCRのためのオリゴヌクレオチドセット(プライマーセット)として使用することができる。本発明により提供されるオリゴヌクレオチドセットは、ノロウイルスに感染した疑いのある患者の糞便試料等から、GI型及びGII型のノロウイルスを同時に検出することができる。
【0013】
本発明で「オリゴヌクレオチド」というときは、特に記載した場合を除き、DNA及びRNA(示された塩基配列において、チミン(t)がウラシル(u)に置換される。)のいずれでもあり、長さは5〜100塩基長でありうる。本発明で、あるオリゴヌクレオチドに関して「相補体」というときは、そのオリゴヌクレオチドの塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをいう。本発明で、ある塩基配列に関して「相補体」というときは、その塩基配列に相補的な塩基配列をいう。なお、PCR用のオリゴヌクレオチドセットに関する本発明おいて、セットの一方のオリゴヌクレオチド又は塩基配列の選択にしたがって、他方のオリゴヌクレオチド又は塩基配列の選択が、ウイルス検出上、すなわち標的配列の増幅上、有効なものに制限されうることは、当業者には自明である。例えば、セットの一方のオリゴヌクレオチドとして「相補体」を選択した場合、他方のオリゴヌクレオチドは、それとの組み合わせにおいて、標的配列を増幅するために有効なものを選択すべきことは当業者には自明である。
【0014】
本発明のオリゴヌクレオチドは、下記の(a')又は(b')である:
(a')配列番号:159の塩基配列の5033〜5074の範囲から選択される連続した、プライマー又はプローブとして機能可能な長さ(好ましくは14〜28塩基長、より好ましくは16〜27塩基長、さらに好ましくは18〜27塩基長)の14〜28塩基長の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:159の塩基配列の5033〜5074の範囲から選択される連続した、プライマー又はプローブとして機能可能な長さ(好ましくは14〜28塩基長、より好ましくは16〜27塩基長、さらに好ましくは18〜27塩基長)の塩基配列において、一又は数個の塩基が置換されている塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体;
(b')配列番号:159の塩基配列の5077〜5112の範囲から選択される、プライマー又はプローブとして機能可能な長さ(好ましくは14〜28塩基長、より好ましくは16〜27塩基長、さらに好ましくは18〜27塩基長)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:159の塩基配列の5077〜5112の範囲から選択される連続した、プライマー又はプローブとして機能可能な長さ(好ましくは14〜28塩基長、より好ましくは16〜27塩基長、さらに好ましくは18〜27塩基長)の塩基配列において、一又は数個の塩基が置換されている塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体。
【0015】
配列表の配列番号:159には、代表的なGII型株(ID AB220921)のゲノムのRNA配列が示されている。
本明細書で塩基配列に関し、「一又は数個」というときは、その数は、好ましくは1〜9個であり、より好ましくは1〜4個であり、さらに好ましくは1〜3個である。置換は、GII株の配列において、GI株とは異なる箇所を、GI株に一致させるように行うことができる。
【0016】
本発明のオリゴヌクレオチドの好ましい例は、下記の(a")又は(b")である:
(a")配列番号:159の塩基配列の5048〜5067の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:159の塩基配列の5048〜5067の塩基配列において、一又は数個の塩基が置換されている塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体;
(b")配列番号:159の塩基配列の5081〜5107の範囲から選択される連続した20〜27塩基長の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:159の塩基配列の5081〜5107の範囲から選択される連続した20〜27塩基長の塩基配列において、一又は数個の塩基が置換されている塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体。
【0017】
本発明のオリゴヌクレオチドのより好ましい例は、配列表の配列番号:1〜4に示されている。
本発明のオリゴヌクレオチドは、ノロウイルス検出用組成物、又はノロウイルス検出用キットを構成することができる。組成物は、本発明のオリゴヌクレオチド以外に、緩衝剤、dNTP、鋳型(cDNA)、ポリメラーゼ(Ex Taq)等を含んでよい。キットは、このような組成物の他、操作手順を記載したもの、試料の前処理のための液、試料のDNase処理のための液、RT反応液等を含んでもよい。
【0018】
本発明のオリゴヌクレオチドは、適切に組み合わされ、オリゴヌクレオチドセットを構成することができる。オリゴヌクレオチドセットは、PCRのためのプライマーとして有用である。
【0019】
本発明のオリゴヌクレオチドセットの例は、上記の(a')から選択される少なくとも一つ、及び(b')から選択される少なくとも一つを含む。本発明のオリゴヌクレオチドセットのより好ましい例は、上記の(a")から選択される少なくとも一つ、及び(b")から選択される少なくとも一つを含む。
【0020】
本発明において、特に好ましいオリゴヌクレオチドセットの例は、下記のものである:
Forward 5'TGGGAGGGCGATCGCAATCT 3'(配列番号:1)、
Reverse 5'TCGACGCCATCTTCATTCAC 3'(配列番号:2)。
【0021】
このセットは、GII株のゲノム間で特に保存された領域に基づいて設計された。Fプライマーに関しては、5'、3' 側に1塩基ずれるとプライマー配列と完全一致する株が27株減る(図2のa参照)。しかしながら、Rプライマーのバリエーションとしては、5'側に1〜7塩基付加することが可能である(図2のb参照)。
【0022】
上記のプライマーセットにおいては、下線で示した箇所の配列は、GI株のゲノム配列とは一致しない。しかしながら、予想に反して、GI型ノロウイルスもこのプライマーにより検出可能である。一方で、GI株に対しては、下記のセットがより有効であり得る:
Forward 5'TGGACAGGAGATCGCAATCT 3'(配列番号:3)
Reverse 5'TAGACGCCATCATCATTTAC 3'(配列番号:4)。
【0023】
本発明においては、上述したプライマーセットを混合して用いることもできる。したがって、本発明のノロウイルス検出用オリゴヌクレオチドセットは、上記の(a')、(a")、及び下記の(a)から選択される少なくとも一つ、並びに上記の(b')、(b")、及び下記の(b)から選択される少なくとも一つを含むが、上記の(a')、(a")、及び下記の(a)から選択される二つ、並びに/又は上記の(b')、(b")、及び下記の(b)から選択される二つを含んでもよい:
(a)配列番号:1の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:3の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体;
(b)配列番号:2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:4の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体。
【0024】
本発明のオリゴヌクレオチドセットは、(a')、(a")及び(a)から選択される二つと、(b')、(b")及び(b)から選択される一つを含むことがあり、また、上記の(a')、(a")及び(a)から選択される一つと(b')、(b")及び(b)から選択される二つを含むことがある。
【0025】
本発明のオリゴヌクレオチドは、既存の自動合成装置を用いて適宜合成することができる。本発明のオリゴヌクレオチドは、標識化物(例えば、蛍光色素、ビオチン)で修飾することができる。
【0026】
本発明でいうPCR Polymerase Chain Reaction、ポリメラーゼ連鎖反応)には、RT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction,逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)が含まれる。
【0027】
本発明のオリゴヌクレオチドセットを用いてPCR法によりノロウイルスの検出を行う際には、ノロウイルスのゲノムRNAを鋳型とするRT-PCR法をとることとなる。RT-PCR法は、通常、試料からのRNAの抽出工程、RT反応工程、PCR工程(PCR反応工程、電気泳動工程、電気泳動ゲル染色工程、染色されたバンドの確認工程を含む。)を含む。
【0028】
本発明を用いてノロウイルスの検出を行う際、試料として、感染が疑われる患者の糞便、及び貝類(カキ、アサリ、シジミ、平貝、ウチムラサキ貝等)を含む食品を用いることができる。なお、食品を試料とする場合、ウイルス量が少ないので、PCR工程で陰性と判断されることが多いが、そのような場合には、PCR工程の産物をさらにNested PCR法に供することができる。
【0029】
試料からのRNA の抽出方法は、特に限定されず、当業者であれば市販のキット等を利用して、必要に応じ、キャリアーRNAの添加やDNase処理工程を追加して、適宜実施することができる。
【0030】
RT反応のための方法もまた特に限定されず、当業者であれば市販のキット等を利用して、適宜実施することができる。
PCR反応は、従来法においては、各試料毎に2つの反応チューブを用意し、GI株由来核酸増幅と、GII株由来核酸増幅とを別々に実施する必要があった。しかしながら、本発明のオリゴヌクレオチドセットを用いることにより、GI株由来核酸とGII株由来核酸とを同時に増幅することができる。
【0031】
PCR工程の結果、陽性と判定される場合には、確認のために、さらにハイブリダイゼーション工程、遺伝子配列確認工程を実施してもよい。
本発明のオリゴヌクレオチドはまた、ハイブリダイゼーション法のためのプローブとしても用いることができる。本発明でいうハイブリダイゼーション法は、PCR産物の確認のためのマイクロプレートハイブリダイゼーション法を含む。
【0032】
本発明のオリゴヌクレオチドはまた、リアルタイムPCR法によるノロウイルスの定量的検出において、プライマーとして用いることができる。
本発明はまた、ノロウイルス検出用オリゴヌクレオチドセットの設計方法も提供する。本発明の設計方法においては、下記から選択される少なくとも一つの塩基配列(ただし、任意の位置のチミン(t)はウラシル(u)に置換されていてもよい)に基づいて、少なくとも一対の増幅用プライマーとして設計される:
配列番号:159の塩基配列の5033〜5085の範囲の塩基配列、
配列番号:159の塩基配列の5033〜5085の範囲の塩基配列において、一又は数個の塩基が置換されている塩基配列、及び
それらの相補体。
【0033】
本発明のオリゴヌクレオチドセットの設計方法は、好ましくは、下記の(a')から選択される少なくとも一つ、及び(b')から選択される少なくとも一つの塩基配列を用いる、ものである:
(a')配列番号:159の塩基配列の5033〜5074の範囲から選択される連続した、プライマー又はプローブとして機能可能な長さ(好ましくは14〜28塩基長、より好ましくは16〜27塩基長、さらに好ましくは18〜27塩基長)の14〜28塩基長の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:159の塩基配列の5033〜5074の範囲から選択される連続した、プライマー又はプローブとして機能可能な長さ(好ましくは14〜28塩基長、より好ましくは16〜27塩基長、さらに好ましくは18〜27塩基長)の塩基配列において、一又は数個の塩基が置換されている塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体;
(b')配列番号:159の塩基配列の5077〜5112の範囲から選択される、プライマー又はプローブとして機能可能な長さ(好ましくは14〜28塩基長、より好ましくは16〜27塩基長、さらに好ましくは18〜27塩基長)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:159の塩基配列の5077〜5112の範囲から選択される連続した、プライマー又はプローブとして機能可能な長さ(好ましくは14〜28塩基長、より好ましくは16〜27塩基長、さらに好ましくは18〜27塩基長)の塩基配列において、一又は数個の塩基が置換されている塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体。
【実施例】
【0034】
1.材料及び方法
[データベース]
カリシウイルス科に属するウイルスのうち、ヒトに感染するnorovirus、norwalk virus、norwalk-like virus、Chiba virus、Camberwell virus、Snow Mountain virus、Murine Norovirus及びHawaii calicivoirusの全塩基配列情報は、米国遺伝子情報研究機関 (GenBank, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/) より入手した入手した塩基配列の名称、及びGenBank登録番号を下表に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
[糞便試料]
ノロウイルス患者由来の糞便上清試料は、1997年から2007年に福岡市で発生したノロウイルス患者由来150検体 (GI型 27検体、GII型117検体、GI/GII型6検体) を福岡市保健環境研究所より分与を受けた。試料中のノロウイルスは、ノロウイルス検査法(食安監発第1105001号) のRT-PCR、ハイブリダイゼーションに従い、遺伝子型が確認されている。検体から検出されたノロウイルス遺伝子型を下表に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
[塩基配列の相同性検索]
塩基配列は ClustalW (1.83) により相同性検索を行った. また、neighbor-joining 法により系統樹を作製した. 系統樹の作製にはNJplot (Perriere and Gouy, 1996) を使用した。
【0039】
[RT-PCR法による糞便上清中のノロウイルスの検出]
糞便上清からQIAmp Viral RNA mini kit (QIAGEN K.K., Tokyo, Japan) を用い付属の説明書に従い、ノロウイルスRNAを調製した。調製したRNAはDNase I amplification grade (Invitrogen Co., Carlsbad, CA., USA) により外来性のDNAを消化後、SuperScriptIII first strand cDNA synthesis kit (Invitrogen Co.) を用いてcDNAの合成を行なった。
【0040】
PCR反応は全量15 μlの反応液中で行った。0.3 μl一本鎖cDNA、0.08 Units EX Taq DNA polymerase (TAKARA BIO Inc., Shiga, Japan)、200 nM dNTP、1x Buffer for Ex Taq DNA polymeraseの混合液を0.2 mlマイクロチューブに調製し、遺伝子増幅装置 PCR ExpressTM (Thermo Bio Analysis Co., Waltham, MA, USA) を用いて,初期熱変性95℃、3分間後、熱変性95℃で20秒間、アニーリング55℃で25秒間、伸長反応72℃で15秒間からなる35サイクルの反応を行った。
【0041】
RT-PCR産物の増幅はアガロースゲル電気泳動により確認した。1.5%アガロースゲルをTAE 緩衝液(40 mM Tris-acetate,1 mM EDTA,pH 8.0) を用いて調製した。PCR反応液10μl と1 μlローディング緩衝液 (30% Glycerol,50 mM EDTA,0.25% Bromo phenol blue,0.25% Xylene cyanol FF,pH 7.0) を混合した後、アガロースゲルの試料溝にチャージし、TAE 緩衝液中、100 V、約40分間室温で電気泳動を行った。泳動終了後、アガロースゲルを暗所で1 μg/ ml のエチジウムブロマイド溶液に10 分間浸して染色し、紫外線照射装置 TFP-35M (VILBER LOURMAT) により紫外線を照射し、DNA鎖にインターカレートしたエチジウムブロマイド分子を発色させることによって増幅産物を検出した。また、PCR産物の塩基配列解析は (株) バイオマトリックス研究所へ依頼した。
【0042】
[既存の検出法との比較]
本願で設計したプライマーによる検出と以下2法による検出率の比較を行った。
1)推奨プライマーセットを用いた方法
国立感染症研究所がノロウイルス1次スクリーニングに推奨する、COG1F / G1SKR及びCOG2F / G2SKRプライマーを用い、食安監発第1105001号に従い、RT-PCRを行った。
【0043】
2)検出キットを用いた方法
ノロウイルス検出キットTRCRtest Noro1、TRCRtest Noro2 (東ソー株式会社)を用い、キットに添付の説明書に従い検出をおこなった。ただし、検出器はMx 3000P QPCR system (Stratagene Co. Ltd., La Jolla, CA, USA) を用いた。
【0044】
新規プライマーによる検出及び上記2法による検出には、同時期に調製したcDNAもしくはRNAを使用した。
2.結果及び考察
[高検出率プライマーの設計]
全塩基配列の相同性検索に用いたノロウイルス44株の相同性検索により設計したプライマーセット(下表)を用いて、ノロウイルス患者由来の糞便上清試料よりRT-PCRを行った。
【0045】
【表3】

【0046】
RT-PCRにおいては、基本的には、d1F-d1R というように、上表の同じ番号のFとRの組み合わせで増幅を試みたが、それぞれの増幅率は低く、種々のプライマーを組み合わせた。その結果、88株から増幅産物が得られた。
【0047】
次に88株からの増幅産物の塩基配列を決定した。データベース由来44株と新規に塩基配列を決定した88株、計132株について、さらに相同性検索を行った結果を図1に示す。ORF1とORF2のジャンクション領域では、遺伝子型の違いに関わらず、高度に保存された配列を確認した。この領域はGII内で特に保存されていたことから、GII型ノロウイルスに検出に特化した高率スクリーニング用プライマー、NvdetectF及びNVdetectRを設計した。なお図1の配列は、配列表において、順に、配列番号:27〜156として掲載されている。
【0048】
NVdetectプライマーの塩基配列、及びノロウイルス全ゲノム配列 (GenBank ID AB220921による) における位置は、以下の通りである:
NVdetectF 5' TGGGAGGGCGATCGCAATCT 3' (5048 - 5067 nt) (配列番号:1);
NVdetectR 5' TCGACGCCATCTTCATTCAC 3' (5081 - 5100 nt) (配列番号:2)。
増幅されるPCR産物は, 53bpであり、TM値は、NVdetectFが61.4℃、NVdetectRが55.2℃である。
【0049】
なお、既存の推奨プライマーセットの塩基配列を以下に示す:
COG1F: CGYTGGATGCGNTTYCATGA (配列番号:5);
G1SKR: CCAACCCARCCATTRTACA (配列番号:6);
COG2F: CARGARBGNATGTTYAGRTGGATGAG (配列番号:7);
G2SKR: CCRCCNGCATRHCCRTTRTACAT (配列番号:8)。
【0050】
データベース上の全塩基配列既知ノロウイルス44株のうち、GII型ノロウイルス36株と相同性を比較した結果、考えうる最大のミスマッチ数は、forwardが0塩基、reverseが1塩基であった。また、新たに塩基配列を解析した88株のうち、GII型ノロウイルス72株と相同性を比較した結果、考えうる最大のミスマッチ数は、GIIに対して、forwardが1塩基、reverseが3塩基であり (図2) 、既存のGII用プライマーセット(COG2F-G2SKR) と比較すると、GIIに対する配列のミスマッチ数は変わらない結果であった。しかし、COG2F-G2SKRプライマーが、縮重プライマーであるのに対し、今回設計したNVdetectプライマーは、特殊塩基を含まないため、より高感度、正確な検出が可能であることが期待された。
【0051】
[検出プライマーの性能評価]
新規に設計したNVdetectプライマーを用いて、福岡市より分与を受けたノロウイルス患者由来の糞便上清132サンプルを対象に、RT-PCRを行い、目的領域を含むDNA断片を131株から増幅した。PCR産物の電気泳動結果を図3に示す。増幅した131株中、16株は、COG1F / G1SKR及びCOG2F / G2SKRプライマーで増幅できなかった株であったため、今回設計したプライマーは、既存の推奨プライマーセットよりも検出率が高い結果となった。
【0052】
NVdetectプライマーは、GII株内で特に保存された領域で設計したため、GI株内では完全に配列が一致するものはみられなかった。特に、forwardプライマーのプライミングサイトにおいて、5'側から4、5及び6番目の塩基は、GIとプライマーの配列が完全に違っていた。しかしながら、今回の実験では、GI型ノロウイルスもNVdetectプライマーにより検出されたことから、今後、NVdetectプライマーを用いて、多種のノロウイルス及びほかのウイルスに対する特異性の検討を行う必要があると考えられた。
【0053】
[既存の検出法との比較]
本願で設計したプライマー、既存の推奨プライマーセット、及び既存の検出キット(配列不明)による検出率を下表に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
ノロウイルスGI型、GII型及びGI/GII型(双方が検出された検体)に対する検出率は、推奨プライマーセットに関しては、COG1F/G1SKR [GI, 23/27 (85.2%); GI/GII, 5/6 (83.3%); Total, 28/33 (84.8%)],COG2F/G2SKR [GII, 103/117 (88%); GI/GII, 6/6 (100%); Total, 109/123 (88.6%)] であり、プライマーセット全体では132/150 (88.0%) であった。また、検出キットに関しては、TRCRtest noro1 [GI, 10/21 (45.7%): GI/GII, 1/3 (33.3%): Total, 11/24 (45.8%) ]、TRCRtest noro2 [GII, 35/77 (43.4%); GI/GII, 0/1 (0%); Total, 35/78 (44.9%)]であり、それぞれの遺伝子型検出用2種合計では46/101 (45.5%) であった。
【0056】
一方、本論文で設計したNVdetectプライマーセット用いた検出では、GI, 18/18 (100%); GII, 108/109 (99.0%); GI/GII, 5/5 (100%)であり、全体では131/132 (99.2%) であり、既存法と比べ高い検出率を達成した。さらに、NVdetect プライマーセットは遺伝子型によらず1組のプライマーセットで検出が可能であるため、検出の簡易化にも有効であることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のいずれか一つのオリゴヌクレオチド(ただし、任意の位置のチミン(t)はウラシル(u)に置換されていてもよい):
配列番号:1の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:3の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:4の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体。
【請求項2】
下記のいずれか一つのオリゴヌクレオチドを含む、ノロウイルス検出用組成物又はキット(ただし、任意の位置のチミン(t)はウラシル(u)に置換されていてもよい):
配列番号:1の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:3の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:4の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体。
【請求項3】
下記の(a)から選択される少なくとも一つ、及び(b)から選択される少なくとも一つを含む、ノロウイルス検出用オリゴヌクレオチドセット(ただし、任意の位置のチミン(t)はウラシル(u)に置換されていてもよい):
(a)配列番号:1の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:3の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体;
(b)配列番号:2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:4の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体。
【請求項4】
PCR用である、請求項3に記載のオリゴヌクレオチドセット。
【請求項5】
請求項3に記載のオリゴヌクレオチドセットを含む、ノロウイルス検出用キット。
【請求項6】
試料中の核酸を鋳型に、請求項3に記載のオリゴヌクレオチドセットをプライマーとしてポリメラーゼPCRを行う工程を含む、ノロウイルスの検出方法。
【請求項7】
下記の(a')から選択される少なくとも一つ、及び(b')から選択される少なくとも一つを含む、ノロウイルス検出用オリゴヌクレオチドセット(ただし、任意の位置のチミン(t)はウラシル(u)に置換されていてもよい):
(a')配列番号:159の塩基配列の5033〜5074の範囲から選択される連続した14〜28塩基長の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:159の塩基配列の5033〜5074の範囲から選択される連続した14〜28塩基長の塩基配列において、一又は数個の塩基が置換されている塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体;
(b')配列番号:159の塩基配列の5077〜5112の範囲から選択される連続した14〜28塩基長の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:159の塩基配列の5077〜5112の範囲から選択される連続した14〜28塩基長の塩基配列において、一又は数個の塩基が置換されている塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体。
【請求項8】
下記の(a")から選択される少なくとも一つ、及び(b")から選択される少なくとも一つを含む、請求項7に記載のオリゴヌクレオチドセット:
(a")配列番号:159の塩基配列の5048〜5067の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:159の塩基配列の5048〜5067の塩基配列において、一又は数個の塩基が置換されている塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体;
(b")配列番号:159の塩基配列の5081〜5107の範囲から選択される連続した20〜27塩基長の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
配列番号:159の塩基配列の5081〜5107の範囲から選択される連続した20〜27塩基長の塩基配列において、一又は数個の塩基が置換されている塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び
それらの相補体。
【請求項9】
下記から選択される少なくとも一つの塩基配列を用いる、ノロウイルス検出用オリゴヌクレオチドセットの設計方法(ただし、任意の位置のチミン(t)はウラシル(u)に置換されていてもよい):
配列番号:159の塩基配列の5033〜5085の範囲の塩基配列、
配列番号:159の塩基配列の5033〜5085の範囲の塩基配列において、一又は数個の塩基が置換されている塩基配列、及び
それらの相補体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−78358(P2011−78358A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233729(P2009−233729)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(391043332)財団法人福岡県産業・科学技術振興財団 (53)
【Fターム(参考)】