説明

ノロウイルスの簡易高感度検出法

【課題】 食品中に微量に存在するノロウイルス核酸を特異的、高感度、簡易的に検出する方法を提供すること。
【解決手段】 NASBA法、RT−LAMP法などの単独では、食品中の微量のノロウイルスを検出できない検出法を用いて、食品中の微量なノロウイルス遺伝子を増幅させるために、ノロウイルス遺伝子を増幅させる段階を、2段階とし、かつ第1段階と第2段階とは異なるノロウイルス検出法を組み合わせ、それぞれの段階においては2段階増幅法に適した試薬、プライマーを添加することにより、上記の課題を解決し得ることを見いだした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品中のノロウイルス遺伝子の検出法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス性食中毒の原因のほとんどがノロウイルスによるものであり、該中毒は年々増加傾向が見られ、如何にしてこれを予防するかが大きな課題となっている。そして、該ノロウイルスによる食中毒予防のため、食品のノロウイルスの検出は遺伝子増幅法を用いて行われている。
【0003】
一般に、ノロウイルスの遺伝子増幅法としては、RT−PCR法及び株式会社シーエムシーが発行した雑誌バイオインダストリー2005年3月号第65頁に記載されている如く、RT−LAMP法、TRC法、NASBA法による方法が開発されているが、用途は一般的に糞便の中のノロウイルスの検出に使用されている。
【0004】
しかし、RT−PCR法(特許文献1)、RT−LAMP法(特許文献2)、TRC法(特許文献3、特許文献4)、NASBA法(特許文献5)は、微量のノロウイルスしか存在しない食品の中のノロウイルスの検出ができない。そのため、RT−PCR法、RT−LAMP法、TRC法、NASBA法では、食品の中に微量なノロウイルスが存在しているのにかかわらず、検査結果がノロウイルス検出せずとなるため誤判断されてしまい、そのためにウイルス性食中毒の被害が拡がっていく危険性があった。ここで、「RT」なる用語は、RNAからcDNAを合成する逆転写反応を意味し、「RT−LAMP法」なる用語は、逆転写反応をプラスしたLAMP法を意味する。
【特許文献1】特開昭61−27497
【特許文献2】特許3313358
【特許文献3】特許3189000
【特許文献4】特許3572340
【特許文献5】特許2650159
【0005】
そこで、食品中のノロウイルスの検出法については、厚生労働省からの通達(非特許文献1)に記載されているRT−nestedPCR法を用いることが知られており、使用されている。該RT−nestedPCR法の使用方法については該通達に別添されてある「ノロウイルスの検査法」(非特許文献2)に記載されている。
【非特許文献1】「ノロウイルスの検出法について」 食安監発第1105001号 平成15年11月5日付
【非特許文献2】[非特許文献1]の別添資料である表題「ノロウイルスの検出法」の文献
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明において、「RT−nestedPCR法」なる用語は、厚生労働省通達別添(非特許文献2)の記載と同一で、RT反応、1stPCR、Nested PCRをすべて含んだ方法を意味する。
【0007】
該RT−nestedPCR法の概要ステップを、該通達の別添「ノロウイルスの検査法」に基づいて記すと、
工程1 貝類の中腸腺を取り出し、リン酸緩衝液にて10倍乳剤にして、ポリエチレングリコール6000で濃縮する。
工程2 QIAamp Viral RNA Mini キット(キアゲン社)によるノロウイルスRNAを抽出する。
工程3 逆転写反応によりRNAからcDNAを合成する。
工程4 1回目のPCR実施によりノロウイルス遺伝子を増幅する。
工程5 2回目のPCR実施によりノロウイルス遺伝子を増幅する。
工程6 電気泳動を行う。
工程7 ハイブリダイゼーションにより、ノロウイルス遺伝子を同定する。
であり、工程3〜工程6のノロウイルス遺伝子を増幅するのに要する時間が約7〜8時間で、さらに工程7のノロウイルス遺伝子を同定するまでに要する時間を加えると、工程3のノロウイルス遺伝子増幅開始から工程7の判定結果判明までに要する時間は約16〜18時間要する。したがって、迅速に食品中のノロウイルス検査を完了できないという問題があった。
【0008】
本発明において、「cDNA」なる用語は、Complementary DNAの略で、相補的DNAを意味する。また、「cDNA」の用語は、「英和・和英 微生物用語集(第5版) 日本細菌学会用語委員会編 株式会社菜根出版」に記載されている。
【0009】
本発明の目的は、食品のノロウイルスの検出において、厚生労働省通達に基づくRT−nestedPCR法と同等の感度を有し、該RT−nestedPCR法より、判定までの作業が迅速に行え、かつ判定が容易にできるノロウイルスの簡易高感度検出法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明において、「NASBA法」なる用語は、Nucleic Acid Sequence Based Amplificationの略で、株式会社カイノスが製造販売している遺伝子増幅試薬を使用する遺伝子増幅法を意味する。
【0011】
次に、本発明において、「RT−LAMP法」なる用語は、Reverse Transcription−Loop Mediated Isothermal Amplification の略で、栄研化学株式会社が製造販売している遺伝子増幅試薬を使用する遺伝子増幅法を意味する。
【0012】
そして、本発明において「NASBA−RT−LAMP法」なる用語は、NASBA法とRT−LAMP法を組み合わせたノロウイルス遺伝子検出法を意味し、該ノロウイルス遺伝子検出法が本発明のノロウイルスの簡易高感度検出法である。
また、本発明において「感度」なる用語は、ノロウイルスを検出できる程度までにノロウイルス遺伝子を増幅できる能力を意味する。
【0013】
発明者は、厚生労働省通達(非特許文献1)、「ノロウイルスの検査法」(非特許文献2)のRT−nestedPCR法と同じ感度で、RT−nestedPCR法より迅速かつ容易に検出可能な検出方法を創出しようと、RT−LAMP法、NASBA法のそれぞれ単独では、食品の中の微量なノロウイルス遺伝子が検出できない方法をもとに試行錯誤をして、NASBA−RT−LAMP法を創出した。
【0014】
NASBA−RT−LAMP法について説明する。
【0015】
まず、NASBA−RT−LAMP法のフロー図を図1に記す。
食品試料を準備し(1)、RNAを抽出する(2)。そして、NASBA法(A)による核酸を1次増幅させる。該1次増幅のフローは、まず1本のマイクロチューブを準備する(3)。そして、NASBA反応液、ノロウイルスの遺伝子グループであるジェノグループI(GI)とジェノグループII(GII)遺伝子検出用プライマー、試料から抽出したRNAを添加し(4)、所定の温度で加温後(5)、NASBA酵素液を添加し(6)、さらに所定の温度で加温すると(7)、増幅産物(8)ができる。
【0016】
次に、RT―LAMP法(B)で核酸を2次増幅させる。該2次増幅フローは、ノロウイルスの遺伝子グループであるジェノグループI(GI)用とジェノグループII(GII)用のマイクロチューブを準備する(9)。そして、試薬、プライマー、NASBA増幅産物を添加し(10)、所定温度で加温すると(11)、2次増幅させた増幅産物(12)ができる。このとき、ノロウイルス遺伝子の増幅の有無は反応液の色の目視又は濁度測定装置で確認する(13)。
【0017】
ノロウイルス遺伝子の増幅を開始する前の工程においては、RT−nestedPCR法と同じ作業を行う。例えば、カキ中腸腺を取り出し、リン酸緩衝液にて10倍乳剤にしてポリエチレングリコール6000で濃縮した後、QIAamp Viral RNA Mini キットによりノロウイルスRNAを抽出する。なお、ノロウイルスRNAを抽出する方法は、QIAamp Viral RNA Mini キットによるキットに限らない。
【0018】
抽出したRNAからノロウイルス遺伝子増幅の工程以降が、RT−nested PCR法とは異なる作業を行う工程である。
【0019】
請求項1に係るノロウイルスの簡易高感度検出法の発明は、試料中に微量に存在するノロウイルス核酸を特異的に増幅するための方法であって、試料中より抽出されたRNAから所定の温度下で核酸を増幅できる第1の方法による核酸を得る工程と、第1の方法による増幅産物を所定の温度下で核酸を増幅できる第2の方法により、さらに核酸を増幅する工程とを含む工程からなることを特徴とする。
【0020】
請求項2に係るノロウイルスの簡易高感度検出法の発明は、試料中に微量に存在するノロウイルス核酸を特異的に増幅するための方法であって、試料中より抽出されたRNAから所定の温度下で核酸を増幅できるNASBA法による相補的な1本鎖核酸を得る工程と、該NASBA法による増幅産物を所定の温度下で核酸を増幅できるRT−LAMP法により、さらに核酸を増幅する工程とを含む工程からなることを特徴とする。
【0021】
請求項3に係るノロウイルスの簡易高感度検出法の発明は、請求項2の発明において、NASBA法を用いる工程において、大別されるノロウイルスの遺伝子グループであるジェノグループI(GI)とジェノグループII(GII)の遺伝子を同時に同じマイクロチューブで増幅することを特徴とする。
【0022】
請求項4に係るノロウイルスの簡易高感度検出法の発明は、請求項2の発明において、RT−LAMP法を用いる工程において、ノロウイルス遺伝子が増幅されたか否かを、核酸増幅工程で生じる白濁を目視で判定すること又は濁度を測定することを特徴とする。
【0023】
請求項5に係るノロウイルスの簡易高感度検出法の発明は、試料から得た微量のRNAを鋳型にして,NASBA法を用いて増幅産物として相補的な1本鎖RNAを得る工程と、得られた増幅産物を鋳型として,RT−LAMP法を用いて多量のDNAを得る工程と,を含む工程からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
RT−LAMP法単独では、微量なノロウイルスしか存在しない食品からノロウイルス遺伝子を検出することができないため、ノロウイルスが存在する糞便を対象として、本発明であるNASBA−RT−LAMP法とのノロウイルス遺伝子検出のための感度の比較を行った。
【0025】
RT−LAMP法に使用する試薬は、Loopamp RNA増幅試薬キット(栄研化学株式会社)を使用し、該キットの使用方法は、該キット添付の使用説明書に準じて行った。
【0026】
NASBA−RT−LAMP法に使用する試薬は、NASBA Amplification キット(株式会社カイノス社)とLoopamp RNA増幅試薬キット(栄研化学株式会社)を使用し、それぞれの該キットの使用方法は、それぞれの該キットに添付の使用説明書に準じて行った。
【0027】
糞便の中のノロウイルス遺伝子検出感度を比較した結果を図2に表す。
【0028】
図2において、ノロウイルスが検出されたことを示す陽性を「●」で示し、ノロウイルスが検出されなかったことを示す陰性を「○」で示している。
【0029】
図2より、NASBA−RT−LAMP法の検出法の方が、RT−LAMP法の検出法より、感度が約100倍高いことが認められた。
【0030】
カキの中の微量なノロウイルス遺伝子検出感度について、NASBA−RT−LAMP法、RT−nested PCR法、RT−LAMP法の比較を行った。
【0031】
NASBA−RT−LAMP法に使用する試薬は、NASBA Amplification キット(株式会社カイノス社)とLoopamp RNA増幅試薬キット(栄研化学株式会社)を使用し、それぞれの該キットの使用方法は、それぞれの該キットに添付の使用説明書に準じて行った。
【0032】
RT−nested PCR法に使用する機器は、プログラムコントロールシステムPC−818A(株式会社アステック)を使用した。そして、RT−nested PCR法の作業は、「ノロウイルスの検出法」(非特許文献2)に準じて行った。
【0033】
反応条件は、RT工程では30°Cで10分、42°Cで60分、そして99°Cで5分の温度調節を行い、試薬は「PrimeScript RT regent Kit(Perfect Real Time)タカラバイオ株式会社」を用いた。該試薬とその添加量を以下に記す。
5 × PrimeScript buffer 4μl
PrimeScript RT Enzyme Mixl 1μl
Oligo dT Primer(50μM) 1μl
Random 6 mer(100μM) 1μl
RNase free water 3μl
抽出RNA 10μl 計 20μl
【0034】
PCR工程では、94°Cで3分の後、94°Cで1分、50°Cで1分、72°Cで1分という1サイクルを40サイクル繰り返し、その後72°Cで15分温度調節をした。 nested PCR工程がPCR工程の繰り返しなので、PCR工程における温度調節のサイクルを2回繰り返した。
【0035】
なお、PCRに使用したプライマーや試薬は、厚生労働省からの「ノロウイルスの検出法」(非特許文献2)で記載されているものと同じものを使用した。
【0036】
カキの中のノロウイルス遺伝子を検出した結果を図3と図4に表す。図3は、ジェノグループI(GI)を対象としたもので、図4は、ジェノグループII(GII)を対象としたものである。
【0037】
図3と図4において、ノロウイルス遺伝子が検出されたことを示す陽性を「●」で示し、ノロウイルスが検出されなかったことを示す陰性を「○」で示している。
図3と図4より、RT−LAMP法単独では検査結果は陰性でカキの中のノロウイルスを検出することはできなかったが、RT−LAMP法の前の工程でNASBA法を行ったNASBA−RT−LAMP法では、RT−nested PCR法と同等のノロウイルス遺伝子検出のための感度であることが得られた。
【0038】
これにより、NASBA−RT−LAMP法は、厚生労働省通達(非特許文献1、非特許文献2)のRT−nested PCR法と、同等の感度を有するという効果が認められた。
【0039】
カキの中のノロウイルス遺伝子検出において、NASBA−RT−LAMP法の作業に要した時間は、NASBA法の工程で100分、RT−LAMP法の工程で90分で、ノロウイルス遺伝子の増幅開始からノロウイルス有無判定完了までの時間は約190分であり約3時間である。
【0040】
一方、RT−nested PCR法における、ノロウイルス遺伝子の増幅開始からノロウイルス遺伝子有無判定完了までの時間は約16〜18時間である。
【0041】
よって、NASBA−RT−LAMP法の方がRT−nested PCR法より、要した時間を1/5〜1/6に短縮させられるという大きな効果が認められた。
【0042】
RT−nested PCR法とNASBA−RT−LAMP法とを比較して得られた効果は、NASBA−RT−LAMP法に限られるものでなく、2つの異なるノロウイルス遺伝子検出法を使用してノロウイルス遺伝子を増幅させ検出する場合にも同じ効果を有するものである。
【0043】
したがって、請求項1に記載のノロウイルス遺伝子検出法は、2つの異なるノロウイルス遺伝子検出法を組み合わせた検出法であるので、RT−nested PCR法と同じ感度を有し、RT−nested PCR法に比較して、ノロウイルス遺伝子検出までに要する時間が短縮されるという効果を有する。
【0044】
RT−nestedPCR法では、RTの過程で30°C、42°Cそして99°Cという温度調整が必要とされ、また、1回目のPCRと2回目のPCRの過程では、94°C、50°Cそして72°Cの温度調節の1サイクルを合計80サイクル繰り返して行うことが必要とされるため、高価な温度調整機器が必要である。これに対し、NASBA−RT−LAMP法では、NASBA法使用のときは65°Cと41°C、RT−LAMP法使用のときは62°Cの一定温度を用いるため、安価な恒温機器であればよいというコスト面での効果と、温度調節回数が減じられ作業効率が向上するという効果が生じる。
【0045】
したがって、請求項2に記載のノロウイルス遺伝子検出法は、請求項1に記載の発明と同様に、RT−nested PCR法と同じ感度を有し、RT−nested PCR法に比較して、ノロウイルス遺伝子検出のために要する時間が短縮されるという効果を有するとともに、コスト面で安価であることと作業効率が向上するという効果がある。
【0046】
RT−nestedPCR法では、1回目のPCRのときに、大別されるノロウイルスの遺伝子グループであるジェノグループI(GI)とジェノグループII(GII)を、それぞれ別個のマイクロチューブに添加する。
【0047】
これに対し、本発明においては、NASBA法を用いる工程において、大別されるノロウイルス遺伝子グループであるジェノグループI(GI)とジェノグループII(GII)を、同時に同じマイクロチューブで増幅することを特徴とするノロウイルス遺伝子検出法を用いる。
【0048】
したがって、請求項3に記載のノロウイルス遺伝子検出法は、請求項2に記載の発明と同様に、RT−nested PCR法と同じ感度を有し、RT−nested PCR法に比較して、ノロウイルス遺伝子検出のために要する時間が短縮されるという効果を有し、コスト面で安価であることと作業効率が向上するを有するとともに、1回目のノロウイルス遺伝子増幅の際に、マイクロチューブを1つしか使用しなくてよいので、2つマイクロチューブを使用するわずわらしさがないという効果がある。
【0049】
RT−nestedPCR法では、ノロウイルス遺伝子増幅工程後、ノロウイルス遺伝子の存在を確認するためには、電気泳動を行いハイブリダイゼーションによりノロウイルス遺伝子を同定する工程が必要である。
【0050】
一方、NASBA−RT−LAMP法では、ノロウイルス遺伝子増幅工程後、マイクロチューブを取り出して反応液の色を目視ですぐ確認できるという効果がある。また、リアルタイム濁度測定装置(テラメックス株式会社)によってもリアルタイムでノロウイルス遺伝子の存在が確認できる。
【0051】
よって、請求項4に記載のノロウイルス遺伝子検出法は、請求項2に記載の発明と同様に、RT−nested PCR法と同じ感度を有し、RT−nested PCR法に比較して、ノロウイルス遺伝子検出のために要する時間が短縮されるという効果を有し、コスト面で安価であることと作業効率が向上するという効果を有するとともに、容易に、簡易にノロウイルス遺伝子を確認できるという効果がある。
【0052】
請求項5に記載のノロウイルス遺伝子検出法は、請求項2に記載の発明と同様に、RT−nested PCR法と同じ感度を有し、RT−nested PCR法に比較して、ノロウイルス遺伝子検出のために要する時間が短縮されるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
図1は、NASBA−RT−LAMP法のフロー図において、AはNASBA法の工程、BはRT−LAMP法の工程、1は食品の試料の準備の工程、2はRNAの抽出工程、3はGI用とGII用を同じマイクロチューブにする工程、4はNASBA液反応後、プライマー、試料から抽出したRNAの添加工程、5は65°Cで5分、41°Cで5分加温の工程、6はNASBA酵素液の添加工程、7は41°Cで90分加温の工程、8は1次増幅産物、9はGI用とGII用に別々のマイクロチューブの準備工程、10は試薬、プライマー、NASBA増幅産物の添加工程、11は62°Cで90分加温の工程、12は2次増幅産物、13は目視判定又は濁度測定の工程、である。
【0054】
まず、カキの中腸腺を取り出す。取り出し方法は、平成15年11月5日付け厚生労働省食安監発1105001号別添「ノロウイルスの検出法」2ページ〜3ページ記載の方法に準じる。
【0055】
次に、QIAamp Viral RNA Mini キットを用いて、ノロウイルスRNAを抽出する。抽出方法は、平成15年11月5日付け厚生労働省食安監発1105001号別添「ノロウイルスの検出法」4ページ〜6ページ記載の方法に準じる。
【0056】
そして、NASBA法でカキのノロウイルス遺伝子を1次増幅させる。このNASBA法に使用する試薬は、NASBA Amplification キット(株式会社カイノス社)を使用する。
【0057】
使用するマイクロチューブについては、ノロウイルスの遺伝子グループである ジェノグループI(GI)とジェノグループII(GII)を同時に同じマイクロチューブで増幅する。
【0058】
NASBA法でのカキのノロウイルス遺伝子を一次増幅する方法は、NASBA Amplification キット(株式会社カイノス社)添付の使用説明書に準ずる。但し、ノロウイルスの遺伝子グループであるジェノグループI(GI)とジェノグループII(GII)を同時に同一のチューブで増幅すること、本発明の表1に記すプライマーを本発明の表1に記す濃度になるように添加すること、該使用説明書に記載されている構成試薬の一部であるNASBAコントロールプライマーを用いないことが、該使用説明書の記載内容と異なる。
【0059】
【表1】




















【0060】
表1の左欄に記したNo.1乃至No.11の配列は、本発明者が創出したものであり、No.12とNo.13の配列は、Journal of Virological Methods 100巻107ページ 2002年に記載されたものである。
【0061】
0.2mLのマイクロチューブに、NASBA Amplification キット(カイノス株式会社)付属のNASBA試薬と該キット付属のNASBA溶解液からなるNASBA反応液10μLと表1に記載のNASBA用プライマーを表1に記載の最終濃度になるようにすべて添加する。
【0062】
該マイクロチューブに、試料であるカキから抽出したRNAを5μLを添加する。ブロックヒーターにて65°Cで5分間加温しRNAの高次構造を解き、該加温後さらにブロックヒーターにて41°Cで5分間加温してプライマーのアーニングを促進させる。その後、41°Cに保持した状態で、NASBA酵素液5μLを添加し、混和した後、ブロックヒーターにて41°Cで90分間加温し、反応させる。
【0063】
さらNASBA法で1次増幅させたカキのノロウイルス遺伝子を、RT−LAMP法により2次増幅する。
RT−LAMP法に使用する試薬は、Loopamp RNA増幅試薬キット(栄研化学株式会社)を使用する。
【0064】
RT−LAMP法でカキのノロウイルス遺伝子を2次増幅する方法は、Loopamp RNA増幅試薬キット(栄研化学株式会社)添付の使用説明書に準ずる。
【0065】
但し、該キット添付の使用説明書において、コントロール反応用の試薬及びその用量が、ノロウイルスのであるジェノグループI(GI)とジェノグループII(GII)に対し同一であることが記載されているが、本発明RT−LAMP法ではGI用とGII用にそれぞれ表2、表3に記載する内容に変更する。
【0066】
[表2]
(GI用試薬)
試薬 用量
2 × Reaction Mix.(RM) 12.5μL
RTmate 2.5μL
Enzyme Mix.(EM) 1.0μL
Distilled Water(DW) 5.3μL
【0067】
表2に記載した「RTmate」は、ニッポンジーン株式会社の試薬であり、他の試薬はLoopamp RNA増幅試薬キット(栄研化学株式会社)添付の試薬である。
【0068】
[表3]
(GII用試薬)
試薬 用量
2 × Reaction Mix.(RM) 12.5μL
RTmate 2.5μL
Enzyme Mix.(EM) 1.0μL
Distilled Water(DW) 4.3μL
【0069】
プライマーについては、表4に記載のプライマーを添加するが、表4右欄に記載の最終濃度になるように、GI用とGII用のプライマーを添加する。
【0070】
【表4】























【0071】
表4の右欄のNo.2とNo.11の配列は、Journal of Virological Method 100巻、107ページ、2002年に記載されており、No.1、No.3乃至No.10、No.12乃至No.22の配列は本発明者が、Journal of Clinical Microbiology 44巻、1376ページ、2006年で発表したものである。
【0072】
ジェノグループI(GI)とジェノグループII(GII)用に準備したマイクロチューブに、NASBA法による増幅産物を2μLずつ添加し、表2と表3に記載している試薬をそれぞれ添加し、表4に記載しているプライマーをそれぞれ最終濃度になるようにすべてのプライマーの添加量を調節する。
【0073】
該試薬、該プライマー、該NASBA増幅産物を加えた後、62°Cの一定温度で90分間加温する。
【0074】
該90分加温後、マイクロチューブを取り出し、マイクロチューブ内の反応液の色がピロリン酸Mg生成によって透明色から白濁に変わっているかを観察する。ノロウイルス遺伝子が増幅されれば白濁に変化し、ノロウイルス遺伝子が増幅されなければ透明なので、容易にノロウイルス遺伝子の有無を判定することができる。
【0075】
また、ノロウイルス遺伝子増幅の有無の判定にリアルタイム濁度測定装置(テラメックス株式会社)を用いることもできる。
【0076】
次に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例により限定されるものでない。
【実施例】
【0077】
養殖筏からカキを採取し、カキの中腸腺を取り出し、リン酸緩衝液にて10倍乳剤にして、ポリエチレングリコール6000で濃縮した後、QIAamp Viral RNA Mini キット(キアゲン社)によりノロウイルスRNAを抽出した。
【0078】
NASBA法でカキのノロウイルス遺伝子を1次増幅させた。該NASBA法の試薬は、NASBA Amplification キット(株式会社カイノス社)を使用した。
【0079】
NASBA法でのカキのノロウイルスを1次増幅する方法は、NASBA Amplification キット(株式会社カイノス社)添付の使用説明書に準じて行った。
【0080】
ノロウイルスの遺伝子グループであるジェノグループI(GI)とジェノグループII(GII)を同時に同じマイクロチューブで増幅させた。
【0081】
0.2mLのマイクロチューブに、NASBA Amplification キット(カイノス株式会社)付属のNASBA試薬と該キット付属のNASBA溶解液からなるNASBA反応液10μL添加した。
【0082】
表1に記載のNASBA用プライマーを表1の右欄に記載の最終濃度になるようにすべて添加した。
【0083】
濃度が100μMのNASBA用プライマーを使用したので、添加するプライマー量は、G1F3N1、G1F3N2、G1F3N3、G1F3N4、G1F3N5、G1F3N6、G2F3N1、G2F3N2、G2F3N3、G2F3N4、
G2F3N5は1マイクロチューブ当り各0.04μL、G1B31T7、G2B31T7は1マイクロチューブ当り各0.1μLで1マイクロチューブ当り合計0.64μLを添加した。
【0084】
該マイクロチューブに、試料であるカキから抽出したRNAを5μLを添加した。ブロックヒーターにて65°Cで5分間加温しRNAの高次構造を解き、該加温後さらにブロックヒーターにて41°Cで5分間加温してプライマーのアーニングを促進させた。その後、41°Cに保持した状態で、NASBA酵素液5μLを添加し、混和した後、ブロックヒーターにて41°Cで90分間加温し、反応させた。
【0085】
また、温度調節用機器ブロックヒーターは、アルミブロック恒温槽 クールサーモユニット CTU−N(タイテック株式会社)を使用した。
【0086】
次に、RT−LAMP法によりカキのノロウイルス遺伝子を2次増幅させた。
RT−LAMP法に使用する試薬は、Loopamp RNA増幅試薬キット(RT−LAMP)(栄研化学株式会社)を使用した。
【0087】
RT−LAMP法でカキのノロウイルス遺伝子を2次増幅方法は、Loopamp RNA増幅試薬キット(RT−LAMP)(栄研化学株式会社)添付の使用説明書に準じて行った。
【0088】
ノロウイルスの遺伝子グループであるジェノグループI(GI)用のマイクロチューブとジェノグループII(GII)用のマイクロチューブを準備した。該マイクロチューブに、GIとGII別に、それぞれ表2と表3に記す試薬を添加した。
【0089】
表4に記載するプライマーを表4右欄に記載のそれぞれの最終濃度になるようにGI用とGII用のプライマーを添加した。
【0090】
最終濃度にするために、100μM濃度のプライマーを使用したので、加えるプライマー量は、プライマー別に表5の右欄に記載する量を添加した。
【0091】
該マイクロチューブにNASBA法による増幅産物を2μLずつ添加した。
【0092】
【表5】































【0093】
該試薬、該プライマー、該NASBA増幅産物を加えた後、62°Cの一定温度で90分間加温した。
【0094】
該90分加温後、マイクロチューブを取り出し、マイクロチューブ内の反応液の色がピロリン酸Mg生成によって透明色から白濁に変わっているかを観察した。結果、白濁に変化した場合は、採取したカキには、ノロウイルス遺伝子が含まれていることが確認された。また、ノロウイルス遺伝子の増幅の有無は、リアルタイム濁度測定装置(テラメックス株式会社)によってもノロウイルス遺伝子が確認された。
【0095】
温度調節用機器ブロックヒーターは、アルミブロック恒温槽 クールサーモユニット CTU−N(タイテック株式会社)を使用した。
【産業上の利用可能性】
【0096】
食品の中の微量なノロウイルス遺伝子の検出方法として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】NASBA−RT−LAMP法のフロー図である。
【図2】糞便の中のノロウイルス検出結果図である。
【図3】カキの中のノロウイルス(ジェノグループI)検出結果である。
【図4】カキの中のノロウイルス(ジェノグループII)検出結果である。
【符号の説明】
【0098】
A NASBA法
B RT−LAMP法
1 食品試料の準備
2 RNAの抽出工程
3 GI用とGII用を同じマイクロチューブにする工程
4 NASBA反応液、プライマー、試料から抽出したRNAの添加工程
5 65°Cで5分、41°Cで5分加温
6 NASBA酵素液の添加工程
7 41°Cで90分加温の工程
8 1次増幅産物
9 GI用とGII用に別々のマイクロチューブの準備工程
10 試薬、プライマー、NASBA増幅産物の添加工程
11 62°Cで90分加温の工程
12 2次増幅産物
13 目視判定又は濁度測定の工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に微量に存在するノロウイルス核酸を特異的に増幅するための方法であって,試料中より抽出されたRNAから所定の温度下で核酸を増幅できる第1の方法による核酸を得る工程と、第1の方法による増幅産物を所定の温度下で核酸を増幅できる第2の方法により,さらに核酸を増幅する工程と、を含む工程からなることを特徴とするノロウイルスの簡易高感度検出法。
【請求項2】
試料中に微量に存在するノロウイルス核酸を特異的に増幅するための方法であって、試料中より抽出されたRNAから所定の温度下で核酸を増幅できるNASBA法による相補的な1本鎖核酸を得る工程と、該NASBA法による増幅産物を所定の温度下で核酸を増幅できるRT−LAMP法により、さらに核酸を増幅する工程と、を含む工程からなることを特徴とするノロウイルスの簡易高感度検出法。
【請求項3】
NASBA法を用いる工程において、大別されるノロウイルスの遺伝子グループであるジェノグループI(GI)とジェノグループII(GII)の遺伝子を同時に同じマイクロチューブで増幅することを特徴とする請求項2に記載のノロウイルスの簡易高感度検出法。
【請求項4】
RT−LAMP法を用いる工程において、ノロウイルスが増幅されたか否かを、核酸増幅工程で生じる白濁を目視で判定すること又は濁度を測定することを特徴とする請求項2に記載のノロウイルスの簡易高感度検出法。
【請求項5】
試料から得た微量のRNAを鋳型にして,NASBA法を用いて増幅産物として相補的な1本鎖RNAを得る工程と、得られた増幅産物を鋳型として,RT−LAMP法を用いて多量のDNAを得る工程と,を含む工程からなるノロウイルスの簡易高感度検出法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−240207(P2009−240207A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90013(P2008−90013)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 第55回日本ウイルス学会学術集会 刊行物名 第55回日本ウイルス学会学術集会 プロクラム・抄録集 発行年月日 平成19年10月1日
【出願人】(591079487)広島県 (101)
【Fターム(参考)】