説明

ノンハロゲン難燃性樹脂組成物およびそれを用いた電線・ケーブル

【課題】 ハロゲン系難燃剤を含有することなく、PVC電線と同等の難燃性を示し、かつ、機械物性、耐熱性、耐加熱変形性などに優れた被覆層を形成することができる難燃性樹脂組成物及びこの難燃性樹脂組成物を被覆層として用いた電線・ケーブルを提供すること。
【解決手段】 樹脂成分100重量部に対して窒素系難燃剤を5〜70重量部含有し、かつリン系難燃剤を実質的に含まないことを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、前記樹脂成分100重量部中にポリフェニレンエーテル系樹脂40〜70重量部及びスチレン系エラストマー30〜60重量部を含有することを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線などの被覆層として好適に用いられるノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びこの樹脂組成物を用いた電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタなどのOA機器、電子機器の内部配線では、プリント基板間やプリント基板とセンサー、アクチュエータ、モータ等の電子部品間で給電や信号電送を行うワイヤーハーネスが多量に使用されている。
【0003】
ワイヤーハーネスとは、複数本の電線やケーブルを束ねて端末に挿抜可能なコネクタ等の端子を組み付けしたものである。難燃性、電気絶縁性等の点から、ワイヤーハーネス用の電線には絶縁材料としてポリ塩化ビニル(PVC)を適用したPVC電線が使用されている。PVC電線は柔軟性に優れるので、ワイヤーハーネスとした場合も取り回し性が良く、また充分な強度を有しているので、ワイヤーハーネスの配線中に絶縁体が破れたり摩耗したりする問題が無く、更に端末に取り付ける圧接コネクタの取り付け作業性にも優れている。
【0004】
しかし、PVC電線にはハロゲン元素が含まれるため、使用後のワイヤーハーネスを焼却処理を行う場合に塩化水素系の有毒ガスが発生したり、また焼却条件によってはダイオキシンを発生するという問題があり、環境負荷の低減が求められる中PVCは絶縁材料として好ましい材料とはいえない。
【0005】
近年、環境負荷の低減に対する要求の高まりに応えるために、ポリ塩化ビニル樹脂やハロゲン系難燃剤を含有しない被覆材料を用いたハロゲンフリー電線が開発されている。他方、電子機器の機内配線に使用する絶縁電線や絶縁ケーブルなどの電線には、一般に、UL(Underwriters Laboratories inc.)規格に適合する諸特性を有することが求められている。UL規格には、製品が満たすべき難燃性、加熱変形性、低温特性、被覆材料の初期と熱老化後の引張特性などの諸特性について詳細に規定されている。これらの中でも、難燃性については、VW−1試験と称される垂直燃焼試験に合格する必要があり、UL規格の中で最も厳しい要求項目の1つとなっている。
【0006】
一般に、ハロゲンフリー電線の被覆材料としては、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂に水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物(金属水和物ともいう)を配合して難燃化した樹脂組成物が使用されている。しかし、垂直燃焼試験VW−1に合格させるためには、ポリオレフィン樹脂中に多量の金属水酸化物を配合する必要がある。その結果、被覆材料の柔軟性や伸びが著しく損なわれてしまうとともに、押出成形等の成形加工性も低下するという問題がある。
【0007】
このため、特開2002−105255号公報(特許文献1)にはプリプロピレン樹脂にエチレンプロピレンゴムやスチレンブタジエンゴム等のエラストマーを配合した熱可塑性樹脂成分に対して、金属水和物を加熱・混練した難燃性樹脂組成物が開示されている。エラストマーを配合することでフィラー受容性を高めることができ、またこれらのエラストマーを動的加硫することで、柔軟性、伸び等の機械的物性と押出加工性及び難燃性のバランスを取ることが検討されている。しかし、このような材料はPVCと比べると耐摩耗性や耐エッジ性が悪く、これらの特性を向上させようとすると柔軟性が低下して特性のバランスを失うという問題があった。
【0008】
一方、特許文献2に記載されているポリフェニレンエーテル樹脂や特許文献3に記載されているポリフェニレンサルファイド樹脂を被覆材料に使用した高強度のノンハロゲン電線も提案されている。これらの樹脂は難燃性と強度の点では優れるが柔軟性に乏しく、また押出加工温度が高いという欠点がある。そこでこれらの樹脂にリン酸エステルを可塑剤として配合して柔軟性を付与すると共に押出加工性も改善する方法が検討されている。リン酸エステルは難燃剤としても作用するため、柔軟性や押出加工性の向上によって難燃性が低下するという問題も生じない。
【0009】
しかしながら、リン酸エステルは押出成形加工時に蒸散しやすく、リン酸エステル特有の悪臭を放って作業環境を悪化させるという問題がある。また使用後に埋め立て処理された場合に雨水等により抽出されて河川の富栄養化の原因になるという点も指摘されており、環境負荷の低減という観点では好ましくない。また、リン酸エステルを添加することによって成形品の熱変形温度が低下することもあり、好ましくない。
【0010】
【特許文献1】特開2002−105255号公報
【特許文献2】特開平11−189685号公報
【特許文献3】特開平05−012924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、PVCと同等の難燃性、柔軟性、及び耐摩耗性、耐エッジ性等の機械的強度に優れ、かつ環境負荷の低減に役立つノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びこの難燃性樹脂組成物を被覆層として用いた電線・ケーブルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討の結果、ポリフェニレンエーテル系樹脂とスチレン系エラストマーを含有する樹脂組成物と窒素系難燃剤を組み合わせることで上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成した。
【0013】
すなわち本発明は、樹脂成分100重量部に対して窒素系難燃剤を5〜70重量部含有し、かつリン系難燃剤を実質的に含まないことを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、前記樹脂成分100重量部中にポリフェニレンエーテル系樹脂40〜70重量部及びスチレン系エラストマー30〜60重量部を含有することを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物である(請求項1)。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記スチレン系エラストマーが、スチレンとゴム成分のブロック共重合エラストマーであることを特徴とする請求項1に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物である。スチレン系エラストマーがスチレンとゴム成分のブロック共重合エラストマーであることにより、押出加工性に優れる樹脂組成物が得られる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂が、ポリスチレンを溶融ブレンドしたポリフェニレンエーテル樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物である。ポリスチレンを溶融ブレンドしたポリフェニレンエーテル樹脂を使用することで、押出加工性が向上する。
【0016】
請求項4に記載の発明は、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の荷重たわみ温度が130℃以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物である。ポリフェニレンエーテル系樹脂の荷重たわみ温度が130℃以上であることにより機械強度の大きい電線の被覆層が得られる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、前記窒素系難燃剤がメラミンシアヌレートであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物である。
窒素系難燃剤としてメラミンシアヌレートを使用することにより混合時の熱安定性が向上し、また難燃性も向上する。
【0018】
請求項6に記載の発明は、更に架橋助剤を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物である。架橋助剤を更に含有することで、樹脂の可塑化効果が得られて押出加工性を向上させ、また、電離放射線の照射時には架橋効率が高まる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、前記架橋助剤がトリメチロールプロパントリメタクリレートであることを特徴とする請求項6に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物である。トリメチロールプロパントリメタクリレートは樹脂との相溶性が良好であり、容易に混合できる。
【0020】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7いずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を被覆層として用いたことを特徴とする電線・ケーブルである。本発明により、PVC電線と同等の難燃性、柔軟性及び機械的特性に優れたノンハロゲン絶縁電線が得られる。
【0021】
請求項9に記載の発明は、前記被覆層の厚みが0.3mm以下であることを特徴とする請求項8に記載の電線・ケーブルである。絶縁被覆層の厚みが0.3mm以下と薄い場合には、耐摩耗性、耐エッジ性等の機械的特性において、従来技術による電線との差が顕著となり、優れた効果を発揮する。
【0022】
請求項10に記載の発明は、前記被覆層が電離放射線の照射により架橋されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の電線・ケーブルである。被覆層が架橋されていることで、耐熱性や機械的強度が向上する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、PVCと同等の難燃性、柔軟性及び耐摩耗性や耐エッジ性等の機械的強度に優れ、かつ環境負荷の低減に役立つノンハロゲン絶縁電線を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に本発明を実施するための最良の形態について説明する。ポリフェニレンエーテルは、メタノールとフェノールを原料として合成される2,6−キシレノールを酸化重合させて得られるエンジニアリングプラスチックである。またポリフェニレンエーテルの成形加工性を向上させるため、ポリフェニレンエーテルにポリスチレンを溶融ブレンドした材料が変性ポリフェニレンエーテル樹脂として各種市販されている。本発明に用いるポリフェニレンエーテル系樹脂としては、上記のポリフェニレンエーテル樹脂単体、及びポリスチレンを溶融ブレンドしたポリフェニレンエーテル樹脂のいずれも使用することができる。また無水マレイン酸等のカルボン酸を導入したものを適宜ブレンドして使用することもできる。
【0025】
ポリフェニレンエーテル系樹脂としてポリスチレンを溶融ブレンドしたポリフェニレンエーテル樹脂を使用すると、スチレン系エラストマーとの溶融混合時の作業性が向上し好ましい。ポリスチレンを溶融ブレンドしたポリフェニレンエーテル樹脂はスチレン系エラストマーとの相溶性に優れるため、押出加工時の樹脂圧が低減し、押出加工性が向上する。
【0026】
このようなポリフェニレンエーテル系樹脂においては、ポリスチレンのブレンド比率に応じて加重たわみ温度が変化するが、荷重たわみ温度が130℃以上のものを使用すると電線被膜の機械的強度が大きくなり、また熱変形特性が優れるため好ましい。なお荷重たわみ温度はISO75−1、2の方法により、荷重1.80MPaで測定した値とする。
【0027】
ポリフェニレンエーテル系樹脂としてポリスチレンをブレンドしていないポリフェニレンエーテル樹脂も使用できる。この場合、低粘度のポリフェニレンエーテル樹脂を使用すると、機械的強度を保持しつつ押出加工時の樹脂圧を低減することができる。ポリフェニレンエーテル系樹脂の固有粘度としては0.1〜0.6dl/gが好ましく、更に好ましい範囲は0.3〜0.5dl/gである。
【0028】
本発明に使用するスチレン系エラストマーとしては、スチレン・エチレンブテン・スチレン共重合体、スチレン・エチレンプロピレン・スチレン共重合体、スチレン・エチレン・エチレンプロピレン・スチレン共重合体、スチレン・ブチレン・スチレン共重合体等が挙げられ、これらの水素添加ポリマーや部分水素添加ポリマーを例示できる。また無水マレイン酸等のカルボン酸を導入したものを適宜ブレンドして使用することもできる。
【0029】
この中でも、スチレンとゴム成分のブロック共重合エラストマーを使用すると、押出加工性が向上することに加え、引張破断伸びが向上し、また耐衝撃性が向上するなどの点で好ましい。またブロック共重合体として、水素化スチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体やスチレン・イソブチレン・スチレン系共重合体等のトリブロック型共重合体、及びスチレン・エチレン共重合体、スチレン・エチレンプロピレン等のジブロック型共重合体を使用することができ、スチレン系エラストマー中トリブロック成分が50重量%以上含まれていると、電線被膜の強度及び硬度が向上するため好ましい。
【0030】
またスチレン系エラストマー中に含まれるスチレン含有量が20重量%以上のものが機械特性、難燃性の点から好適に使用できる。スチレン含有量が20重量%より少ないと硬度や押出加工性が低下する。またスチレン含有量が50重量%を超えると引張破断伸びが低下するため好ましくない。
更に、分子量の指標となるメルトフローレート(「MFR」と略記;JIS K 7210に従って、230℃×2.16kgfで測定)が0.8〜15g/10minの範囲であることが好ましい。メルトフローレートが0.8g/10minより小さいと押出加工性が低下し、また15g/10minを超えると機械強度が低下するからである。
【0031】
ポリフェニレンエーテル系樹脂とスチレン系エラストマーは任意の比率で溶融混合することが可能であるが、電線の可撓性やハーネスとしての取り回し性の点から、ポリフェニレンエーテル系樹脂は樹脂組成物全体の40〜70重量%とし、スチレン系エラストマーは樹脂組成物全体の30〜60重量部とすることが好ましい。ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量が70重量%を超えると押出加工性が低下し、また40重量%より少ないと機械的強度や難燃性が低下する。ポリフェニレンエーテル系樹脂50〜60重量%、スチレン系エラストマー40〜50重量%であることがさらに好ましい。
【0032】
さらに樹脂成分としては、本発明の趣旨を損なわない範囲でポリプロピレン、ポリエチレン等の各種樹脂を混合することが可能である。ポリエチレン及びランダムポリプロピレンを混合した樹脂組成物は、加速電子線やガンマ線等の電離放射線の照射により架橋することができるため、耐熱性の向上が必要な場合に好適である。
【0033】
本発明に使用する窒素系難燃剤としては、メラミン樹脂、メラミンシアヌレート等を例示できる。窒素系難燃剤は使用後に焼却処理してもハロゲン化水素等の有毒ガスが発生せず、環境負荷の低減を図ることができる。窒素系難燃剤としてメラミンシアヌレートを使用すると混合時の熱安定性や難燃性向上効果の面で好ましい。
【0034】
メラミンシアヌレートは、シランカップリング剤やチタネート系カップリング剤で表面処理して使用することも可能である。表面処理したメラミンシアヌレートと、カルボン酸を導入したポリフェニレンエーテル系樹脂やスチレン系エラストマーとを組み合わせることにより、耐摩耗性や機械的強度を向上させることができる。
【0035】
前記窒素系難燃剤の含有量は、樹脂組成物100重量部に対して5〜70重量部とすることが好ましい。5重量部を下回ると絶縁電線の難燃性が不充分であり、また70重量部を超えると伸びや押出加工性が低下するからである。窒素系難燃剤の含有量は10〜40重量部がさらに好ましい。
【0036】
また本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物はリン系難燃剤を実質的に含まないことを特徴とする。リン系難燃剤を実質的に含まないことにより、河川の富栄養化等の環境負荷を低減することができる。なお、実質的に含まない、とはリン酸エステル等の難燃剤を積極的に添加しないことを意味し、原料樹脂や添加剤に由来する微量のリン成分が含まれているものを本発明の範囲から排除するものではない。
【0037】
更に本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物には架橋助剤を添加することができる。架橋助剤としてはトリメチロールプロパントリメタクリレートやトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の分子内に複数の炭素−炭素二重結合を持つ多官能性モノマーが好ましく使用できる。また架橋助剤は常温で液体であることが好ましい。液体であるとポリフェニレンエーテル系樹脂やスチレン系エラストマーとの混合がしやすいからである。更に架橋助剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレートを使用すると、樹脂への相溶性が向上し、好ましい。
【0038】
本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物には、必要に応じて酸化防止剤、加工安定剤、着色剤、重金属不活性化材、発泡剤、多官能性モノマー等を適宜混合することができ、これらの材料を短軸押出型混合機、加圧ニーダー、バンバリーミキサー等の既知の溶融混合機を用いて混合して作成することができる。
【0039】
更に本発明は、上記のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を被覆層として用いた電線・ケーブルを提供する。本発明にかかる電線・ケーブルは、導体と、導体を被覆する被覆層とから成り、導体上に被覆層を形成するには、既知の押出成形機を用いることができる。
【0040】
被覆層の厚みは、導体径に応じて適宜選択することができるが、被覆層の厚みを0.3mm以下とすると、機械的強度の面で好ましい。従来技術によるハロゲンフリー電線では、被覆層の厚みが0.3mm以下の場合、耐摩耗性や耐エッジ性において性能が著しく低下するが、本発明によると被覆層の厚みが0.3mm以下でも優れた性能が得られ、従来技術による電線との差が顕著に現れる。また圧接用電線においては、コネクタとの嵌合性の点から被覆層厚みが0.3mm以下の電線が好ましく使用される。
【0041】
更に被覆層が電離放射線の照射により架橋されていると、機械的強度が向上する点で好ましい。電離放射線源としては、加速電子線やガンマ線、X線、α線、紫外線等が例示できるが、線源利用の簡便さや電離放射線の透過厚み、架橋処理の速度など工業的利用の観点から加速電子線が最も好ましく利用できる。
【0042】
次に発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0043】
[実施例1〜16]
(ノンハロゲン難燃性樹脂組成物ペレットの作成)
表1に示す配合処方で各成分を溶融混合した。二軸混合機(45mmφ、L/D=42)を使用し、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混合し、ストランド状に溶融押出し、次いで、溶融ストランドを冷却切断してペレットを作製した。
【0044】
(絶縁電線の作製)
単軸押出機(30mmφ、L/D=24)を用いて、導体上に押出被覆する方法で絶縁電線を製造した。導体には、素線径0.16mm錫めっき銅線の7本撚り導体(外径0.48mm、撚りピッチ5.6mm)を用い、被膜厚みは0.25mmとした。押出条件は、導体予熱温度を120℃とし、シリンダー温度230℃、ダイス温度240℃に設定し、ライン線速300mm/分とした。また実施例16の絶縁電線には照射量が6Mradになるように加速電子線を照射した。
【0045】
(被覆層の評価:引張特性)
作製した電線から導体を抜き取り、被覆層の引張試験を行った。試験条件は引張速度=500mm/分、標線間距離=25mm、温度=23℃とし、引張強さと引張破断伸びを各3点の試料で測定し、それらの平均値を求めた。引張強さが10.3MPa以上かつ引張破断伸び100%以上のものを「合格」と判定した。
【0046】
(被覆層の評価:2%モジュラス)
上記引張試験と同様のサンプルを用いて、引張速度=50mm/分、標線間距離=25mm、温度=23℃で引張試験を行った後、応力−伸び曲線から伸びが2%となる点の弾性率を計算した。
【0047】
(絶縁電線の評価:耐摩耗試験)
図1に示すように電線と直交方向から絶縁被覆に金属刃(0.125mmR)を当て、荷重130gを負荷した状態で電線と平行方向へ往復運動させて金属刃が内部導体と接触して導通するまでの往復回数を測定した。耐摩耗性合格の指標としては、PVC電線比70%以上となる30回数以上を合格とする。
【0048】
(絶縁電線の評価:耐エッジ試験)
図2に示すように、電線と直交方向から絶縁被覆に金属刃(0.125mmR)を当て、内部導体と接触し導通するまでの荷重を測定した。評価指標としては、100N以上を合格とする。
【0049】
(絶縁電線の評価:難燃性試験)
ULStandard1581、1080項に記載のVW−1垂直難燃試験に10点の試料を提供し、10点とも合格した場合に「合格」と判定した。その判定基準は、各試料に15秒着火を5回繰り返した場合に、60秒以内に消火し、下部に敷いた脱脂綿が燃焼落下物によって類焼せず、試料の上部に取り付けたクラフト紙が燃えたり、焦げたりしないものを合格とした。
【0050】
(絶縁電線の評価:加熱変形試験)
ULStandard758に基づき、ULStandard1581,560項記載の加熱変形試験を実施した。電線を水平に配置し、直交方向から金属の丸棒を押しつけ、荷重250gを負荷して136℃環境下に一時間保持し、絶縁厚さの変形率を測定した。初期の厚さに対する残率が50%以上を合格とした。
【0051】
[実施例17]
絶縁被膜厚みを0.16mmとしたこと以外は実施例2と同様に電線を作製し、一連の評価を行った。
【0052】
[実施例18]
電線の導体として外径0.81mmの錫めっき銅線単線を用い、絶縁被膜厚みを0.3mmとしたこと以外は実施例2と同様に電線を作製し、一連の評価を行った。以上の結果を表1に示す。また比較として、市販のPVC電線での評価結果を同時に示す。
【0053】
[比較例1〜12]
表2に示す配合処方を持つ樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1〜16と同様に電線を作製し、一連の評価を行った。結果を表2に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
(脚注)
(*1)荷重たわみ温度170℃の変性ポリフェニレンエーテル樹脂
(*2)荷重たわみ温度145℃の変性ポリフェニレンエーテル樹脂
(*3)荷重たわみ温度130℃の変性ポリフェニレンエーテル樹脂
(*4)固有粘度0.47dl/gのポリフェニレンエーテル樹脂
(*5)固有粘度0.38dl/gのポリフェニレンエーテル樹脂
(*6)スチレン含量30wt%、MFR=5.0g/10minの水素添加SEBS
(*7)スチレン含量42wt%、MFR=0.8g/10minの水素添加SEBS
(*8)スチレン含量67wt%、MFR=2.0g/10minの水素添加SEBS
(*9)スチレン含量30wt%、MFR=2.4g/10minの水素添加SEPS
(*10)スチレン含量35wt%、MFR=8.0g/10minの水素添加SEBS
(*11)日産化学工業(株)製 MC860
(*12)日産化学工業(株)製 MC6000
(*13)芳香族縮合系リン酸エステル:大八化学(株)製 PX200
(*14)芳香族縮合系リン酸エステル:旭電化工業(株)製FP−500
(*15)窒素−リン系難燃剤:旭電化工業(株)製FP−2100
(*16)トリメチロールプロパントリメタクリレート
(*17)その他配合剤:チバスペシャリティケミカルズ(株)製Irganox1010、旭電化工業(株)製アデカスタブCDA−1、オレイン酸アミド
【0057】
実施例1〜16は、荷重たわみ温度が130℃〜170℃のポリフェニレンエーテル/ポリスチレンブレンドポリマー(ポリフェニレンエーテル系樹脂)とスチレン系エラストマーを重量比で40/60〜70/30の割合で混合した樹脂組成物100重量部に対して、窒素系有機難燃剤であるメラミンシアヌレートを5〜70重量部の範囲で配合したノンハロゲン難燃性樹脂組成物を、絶縁被膜層として用いた電線の評価結果である。
【0058】
結果、被覆層の引張強さ、破断伸びは全て合格レベルであった。また電線の耐摩耗性、耐エッジ性、難燃性、加熱変形試験いずれの評価においても合格レベルであり、本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線は全ての要求特性を満たすことがわかった。
【0059】
実施例17及び18は絶縁皮膜厚み及び導体径を変えて作製した電線の評価結果である。導体径及び絶縁皮膜厚みにかかわらず、全ての要求特性を満たすことがわかった。
【0060】
比較例1〜6は、窒素系難燃剤を用いず、難燃剤としてリン酸エステルを使用した樹脂組成物を被覆層として用いた電線の評価結果である。難燃剤の入っていない比較例1及び、リン酸エステルの少ない比較例2、3は難燃性が不合格である。またリン酸エステルを多量に配合した場合は難燃性は高まるが、電線としての可撓性が失われ、引張特性や熱変形性が低下している。
【0061】
比較例7〜10は、窒素系難燃剤を用いず、またスチレン系エラストマーの種類を変えた樹脂組成物を被覆層として用いた電線の評価結果である。また比較例11、12はリン系難燃剤の種類を変えたものである。いずれも難燃性が劣っており、またリン酸エステルを使用した場合は熱変形性が大幅に低下している。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の活用例としては、複写機、プリンタ等の電子機器の内部配線のハイヤーハーネスが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分100重量部に対して窒素系難燃剤を5〜70重量部含有し、かつリン系難燃剤を実質的に含まないことを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、前記樹脂成分100重量部中にポリフェニレンエーテル系樹脂40〜70重量部及びスチレン系エラストマー30〜60重量部を含有することを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記スチレン系エラストマーが、スチレンとゴム成分のブロック共重合エラストマーであることを特徴とする請求項1に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリフェニレンエーテル系樹脂が、ポリスチレンを溶融ブレンドしたポリフェニレンエーテル樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の荷重たわみ温度が130℃以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記窒素系難燃剤がメラミンシアヌレートであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
更に架橋助剤を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
前記架橋助剤が、トリメチロールプロパントリメタクリレートであることを特徴とする請求項6に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を被覆層として用いたことを特徴とする電線・ケーブル。
【請求項9】
前記被覆層の厚みが0.3mm以下であることを特徴とする請求項8に記載の電線・ケーブル。
【請求項10】
前記被覆層が電離放射線の照射により架橋されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の電線・ケーブル。

【公開番号】特開2007−197619(P2007−197619A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−19932(P2006−19932)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】