説明

ハイドレート製造方法及びこれを利用したガス精製方法

【課題】 低圧下でも、ハイドレート化でき、ガス選択性に優れたハイドレート製造法及びガス精製法の提供
【解決手段】 低級炭化水素を含有する燃料ガスを有機物水溶液に1MPa以下の圧力で接触させるハイドレートの製造法であって、該有機物が、テトラヒドロフラン及びその誘導体、並びに4級アミン類及びその塩の中から選ばれる1種又は2種以上であり、且つ該有機物水溶液のpHを5以下又は8以上に調整したものであることを特徴とするハイドレートの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種燃料ガスのハイドレートの製造方法及びこれを利用したガス精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスハイドレートは、ガス分子が水分子の籠の中に取り込まれた構造を持ち、近年、新たなエネルギー資源として注目されている。
燃料ガスをハイドレート化し、液中に取り込むと、CNG(圧縮天然ガス)よりも、コンパクト化でき、輸送に便利である。
また、ハイドレートは、中に入るガスにより結晶構造や生成条件が異なることから、メタン等の低級炭化水素や水素を燃料成分とするガスから、非燃料成分および/もしくは大気汚染成分を除去する方法に応用することが期待される。
【0003】
バイオガス等の精製、貯蔵については、天然ガスと同様、ハイドレート化による方法が検討、開発されている(非特許文献1参照)。
一方、ハイドレート生成に要するエネルギー(加圧、冷却)を軽減するため、ハイドレート化を目的とする成分外に共存成分を加えて、ハイドレートの低圧化を図る方法が検討されている(非特許文献2参照)。
この他の従来技術として、ガス精製に関しては水洗法、PSA(圧力スイング吸着)法等があり、貯蔵に関してはCNGとしての貯蔵、ANG(活性炭吸着など)としての貯蔵が挙げられる(非特許文献3参照)。
【0004】
以上の技術において、ハイドレート生成の低圧化は精製と貯蔵を行える点で他の方法と比べて非常に効率的であるが,例えば、バイオガスと水との気液接触でメタンハイドレートを作る場合、数度℃の温度で5Mpa程度の圧力をかける必要がある。この加圧に要するエネルギーの大きさがハイドレートを利用したガスの精製・貯蔵システム普及を妨げている最大の理由である。
低圧ハイドレート化はこの問題を解決するものであるが、単なる水と複合ガス系(例えば、4級アミン塩を溶解した水とメタン、二酸化炭素混合ガス系)ではハイドレート化におけるガスの選択性が十分でなく、効率の悪い精製しかできない。
【非特許文献1】三井造船(株)、「バイオマス利活用技術情報交換会」資料、2004年
【非特許文献2】北海道工業試験場報告書 No.303 「低圧ハイドレート技術のバイオガス貯蔵・分離技術への応用」P.47、2004年
【非特許文献3】北海道経産局提出資料「バイオガスプラント余剰ガス利用システム、可能性の補足検討資料」2004年、9月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、低圧下でも、ハイドレート化でき、ガス選択性に優れたハイドレート製造法及びガス精製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる実情に鑑み本発明者は、鋭意研究を行った結果、燃料ガスを特定のpHの有機物水溶液に接触させることにより、低圧下でも、ハイドレート化でき、ガス選択性に優れたハイドレート製造法及びガス精製法となり得ることを見出し本発明を完成した。
即ち、本発明は次の方法を提供するものである。
【0007】
<1> 低級炭化水素を含有する燃料ガスを有機物水溶液に1MPa以下の圧力で接触させるハイドレートの製造法であって、該有機物が、テトラヒドロフラン及びその誘導体、並びに4級アミン類及びその塩の中から選ばれる1種又は2種以上であり、且つ該有機物水溶液のpHを5以下又は8以上に調整したものであることを特徴とするハイドレートの製造法。
【0008】
<2> 低級炭化水素を含有する燃料ガスが、(1)メタンおよび/もしくは水素を生成する嫌気性発酵ガス、(2)天然ガス又は(3)有機性化合物を含む物質の熱分解ガスである<1>記載のハイドレートの製造法。
【0009】
<3> テトラヒドロフランの誘導体が、テトラヒドロフランが酸素含有基、低級炭化水素基、ヘテロ原子で置換されたものであり、4級アミン類及びその塩が、4級アミン化合物の水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、燐酸塩又はカルボン酸塩である<1>又は<2>記載のハイドレートの製造法。
【0010】
<4> 有機物水溶液が、有機物を10重量%以上含有することを特徴とする<1>、<2>又は<3>記載のハイドレートの製造法。
【0011】
<5> 有機物水溶液が、<1>〜<4>の何れか1項記載のハイドレートの製造法により得られたハイドレートをガス放散させた後の有機物水溶液であることを特徴とする<1>〜<4>の何れか1項記載のハイドレートの製造法。
【0012】
<6> 温度及び圧力を調整することにより、低級炭化水素を含有する燃料ガス中の特定のガスをハイドレート化することを特徴とする<1>〜<5>の何れか1項記載のハイドレートの製造法。
【0013】
<7> <6>記載の製造法により得られたハイドレートとガスを分離することを特徴とするガス精製方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明方法においては、テトラヒドロフラン(THF)や4級アミン(例えばハロゲン化TBA(テトラブチルアンモニウム)など)を溶解し、さらにpHを調節した水を用いることにより、低圧下でも、ハイドレート化でき、二酸化炭素や硫化水素等のガスの吸収性を制御できるので、非常に効率よく貯蔵とを行え、かつガス選択性に優れガス精製法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のハイドレートの製造法は、低級炭化水素を含有する燃料ガスを有機物水溶液に1MPa以下の圧力で接触させるハイドレートの製造法であって、該有機物が、テトラヒドロフラン及びその誘導体、並びに4級アミン類及びその塩の中から選ばれる1種又は2種以上であり、且つ該有機物水溶液のpHを5以下又は8以上に調整したものであることを特徴とする。
【0016】
(燃料ガス)
本発明方法が適用可能なガス、即ち、低級炭化水素を含有する燃料ガスとしては、バイオガス(メタンおよび/もしくは水素を生成する嫌気性発酵ガス)、天然ガス、熱分解ガス、即ち、メタン、エタン、プロパン、アセチレン等の低級炭化水素、水素、窒素、二酸化炭素、硫化水素、水蒸気等を含む嫌気性発酵ガス、熱分解ガス、天然ガス等が挙げられる。
【0017】
(有機物水溶液)
本発明において有機物水溶液は、上記燃料ガスを取り込み、ハイドレートを生成するものである。ここで用いる有機物は、テトラヒドロフラン(THF)及びその誘導体、並びに4級アミン類及びその塩から選ばれるものである。THFの誘導体としては、カルボキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、水酸基、ヒドロキシアルキル、スルホン基、その他の異元素がTHFの水素原子、炭素原子と置換された化合物が挙げられ、具体的には、テトラヒドロフルフリルアルコール、テトラヒドロフランスルホン酸等が挙げられる。
4級アミン類及びその塩としては、4級アミン化合物の水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、燐酸塩又はカルボン酸塩等が挙げられ、具体的には、臭化テトラブチルアンモニウム(臭化TBA)、水酸化テトラブチルアンモニウム(水酸化TBA)、 塩化テトラブチルアンモニウム(塩化TBA)、水酸化テトラメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0018】
有機物水溶液中の有機物の濃度は10〜50重量%とすることが好ましく、特に15〜30重量%とすることが好ましい。
有機物水溶液のpHは、5以下又は8以上に調整するが、好ましいpHは、1〜5又は8〜13であり、1未満、13以上は、調整に用いる酸又はアルカリの量が多く経済的でない。特に好ましいpHは、2〜3又は9〜11である。
また、pH調整に用いる酸としては、一般の鉱酸、カルボン酸類、スルホン酸類などが挙げられ、アルカリとしては、4級アミン水酸化物自身、水酸化アルカリ類、水酸化アルカリ土類などが挙げられる。
なお、上記有機物により、すでに上記pH範囲になっている場合は、酸又はアルカリにより調整する必要がない場合がある。
【0019】
(ハイドレートの製造、精製法)
精製槽としては気液接触によってハイドレート化する従来の槽が使用できる。例えば、三井造船(株)「バイオマス利活用技術情報交流会資料」の「CO2分離CH4濃縮のプロセス」(図1参照)および 産総研 第10回日本エネルギー学会要旨集 「ガスハイドレート生成速度」2001年に記載の槽が使用できる。
ハイドレート製造の際の温度は15℃以下が好ましく、圧力は1MPa以下とする。圧力が1MPa以下であることは、法規制上非常に重要であり(高圧ガス取締法適用から除外される)、また、装置も簡便なものとすることができる。
【0020】
精製の方法としては、非燃料成分、大気汚染成分を液中に補足する場合と、まず、燃料成分を液側に取り入れて、非燃料成分と分離してから放散し、精製ガスを得る場合とがある。
具体的に図1に沿って実施態様を挙げて説明すると、燃料ガス(ここでは、下水消化ガス)は、まずCO2ハイドレート生成槽1に送られ、燃料ガス中のCO2がハイドレート化される。ここでの温度は、0〜15℃が好ましく、特に5〜10℃が好ましい。また、圧力は、0.1〜5MPa、特に0.5〜1MPaが好ましい。また、有機物の濃度は、 10〜50重量%が好ましく、特に15〜30重量%が好ましい。燃料ガスは有機物水溶液に対して、循環注入して、所要の(意図する)ハイドレート濃度にもってゆくことができる。
CO2ハイドレート生成槽1で生成したCO2ハイドレートは、分解槽5に送られる。 なお、CO2ハイドレート生成槽1で同時にH2Sも分離除去することができる。
【0021】
CO2ハイドレート生成槽2は、CO2ハイドレート生成槽1と同じ機能を有するもので、CO2ハイドレートの生成と除去をより高いレベルで実現しようとするものである。
【0022】
CH4ハイドレート生成槽3では、燃料ガス(ここではメタン)をハイドレート化する。ここでの温度は、0〜10℃が好ましく、特に0〜5℃が好ましい。また、圧力は、 〜0.5〜10MPa、特に0.5〜2MPaが好ましい。また、有機物の濃度は、10〜50重量%が好ましく、特に15〜30重量%が好ましい。また、燃料ガスは有機物水溶液に対して、循環注入して、所要の(意図する)ハイドレート濃度にもってゆくことができる。
【0023】
燃料ガスのハイドレートは、貯槽4に送られる。
燃料ガスのハイドレートから、燃料ガスを取り出し使用した残液は、上記有機物水溶液として循環使用することができる。
【実施例】
【0024】
実施例1
被処理ガスとしてメタン約60%、二酸化炭素約40%、硫化水素約500ppmからなる家畜糞尿消化ガス(毎分約100mLでリアクターを流入出)を表1の各組成の液(毎分約20mLでリアクターを流入出)と連続的に2Lリアクター内で気液接触(リアクター内圧力9.5Mpa、攪拌曝気方式、温度5℃)させて、接触後のガスの組成、液側に吸蔵されたガスの量と組成を測定した。
液側のガス測定は、リアクターから抜き出した液を密閉容器内で加湿してガスを放散させ、そのガス量と組成を測定した。組成はガスクロマトグラフでメタンと二酸化炭素を、検知管で硫化水素を測定した。
【0025】
【表1】

【0026】
酸性の液で行った実施例において硫化水素は液側放散ガス中には検出されなかった。また、アルカリ性の液で行った実施例においてはガス側(リアクター出口ガス)には検出されなかった。(0.1ppm以下)
【0027】
実施例2
液側組成を20%臭化TBA、硫酸によるpH調整4として、その他は実施例1と同じ装置、同じ条件で次のガスに対する精製試験を行った。
【0028】
【表2】

【0029】
硫化水素の挙動は実施例1と同様であった。
【0030】
実施例3
塩化アンモニウムを加えてpH5に調整し、さらにTHF20重量%を添加した有機物水溶液を用いて、下記消化ガス導入、攪拌(500rpm)した(30分毎のバッチハイドレート化)。
消化ガス組成 CH4:55重量%、CO2:45重量%、H2S:1500ppm
【0031】
ハイドレート生成条件に対する30分毎のバッチハイドレート化のハイドレート濃度は、1℃、1.0MPaの場合20重量%、5℃、0.5MPaの場合22重量%、10℃、0.1MPaの場合19重量%であった。
【0032】
上記実施例で使用した液は長期(1年以上)にわたる繰り返し使用において、そのハイドレート化容量、速度に変化が見られず、ガス輸送手段として使用できることを確認した
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明方法によれば、低圧下でも、ハイドレート化でき、二酸化炭素や硫化水素等のガスの吸収性を制御できるので、非常に効率よく貯蔵とを行え、かつガス選択性に優れガス精製法を提供できる。
従って、燃料ガスに対して実用可能なコストレベルにまで低減した精製・貯蔵を提供できる。
また、分離したCO2を有効利用することができる。例えば、温室への導入、または工業用CO2ガスの非常に安価な製造方法を提供する。
さらに、ハイドレートスラリーの輸送によってCNGやANGよりも安全で高密度な燃料ガスの輸送ができ、ガスを利用(ハイドレートからの放散)する際に冷熱を利用することができ、各種燃料ガスを精製し、高カロリー化(都市ガス化)することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施態様の1例を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 CO2ハイドレート生成槽
2 CO2ハイドレート生成槽
3 CH4ハイドレート生成槽
4 貯槽
5 分解槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低級炭化水素を含有する燃料ガスを有機物水溶液に1MPa以下の圧力で接触させるハイドレートの製造法であって、該有機物が、テトラヒドロフラン及びその誘導体、並びに4級アミン類及びその塩の中から選ばれる1種又は2種以上であり、且つ該有機物水溶液のpHを5以下又は8以上に調整したものであることを特徴とするハイドレートの製造法。
【請求項2】
低級炭化水素を含有する燃料ガスが、(1)メタンおよび/もしくは水素を生成する嫌気性発酵ガス、(2)天然ガス又は(3)有機性化合物を含む物質の熱分解ガスである請求項1記載のハイドレートの製造法。
【請求項3】
テトラヒドロフランの誘導体が、テトラヒドロフランが酸素含有基、低級炭化水素基又はヘテロ原子で置換されたものであり、4級アミン類及びその塩が、4級アミン化合物の水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、燐酸塩又はカルボン酸塩である請求項1又は2記載のハイドレートの製造法。
【請求項4】
有機物水溶液が、有機物を10重量%以上含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載のハイドレートの製造法。
【請求項5】
有機物水溶液が、請求項1〜4の何れか1項記載のハイドレートの製造法により得られたハイドレートをガス放散させた後の有機物水溶液であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載のハイドレートの製造法。
【請求項6】
温度及び圧力を調整することにより、低級炭化水素を含有する燃料ガス中の特定のガスをハイドレート化することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項記載のハイドレートの製造法。
【請求項7】
請求項6記載の製造法により得られたハイドレートとガスを分離することを特徴とするガス精製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−225562(P2006−225562A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42850(P2005−42850)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】