説明

ハイドロゲル形成用組成物およびそれを硬化してなるハイドロゲル

【課題】 破断強度等の機械物性と吸水性のバランスに優れるハイドロゲルを得ることができる、ポリアルキレンオキサイド共重合体を主剤とするハイドロゲル形成用組成物およびそれから得られるハイドロゲルを提供する。
【解決手段】 水溶性高分子および水からなり、水溶性高分子が下記化学式(1)で表される共重合体を含むことを特徴とするハイドロゲル形成用組成物。
[(CH2CH2O) l 、(CH2CH(CH2OCH2CH=CH2)O) m 、(CH2CHRO) n ] (1)
(但し式中、l、m、nは高分子主鎖に含有される各繰返し単位のmol%を表わしl+m+n=100である。l、m、nは、0<l<100、かつ0<m<100、かつ0≦n<100を満たす。また、0.001≦m/(l+m+n)≦0.5を満たし、かつ共重合体の重量平均分子量は500以上1000000以下である。Rは炭素数1〜30の官能基またはハロゲン基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性高分子および水を含んでなるハイドロゲル形成用組成物および該組成物から得られるハイドロゲルに関する。詳しくは、側鎖に二重結合を有するアルキレンオキサイド共重合体を含む水溶性高分子および水を含んでなるハイドロゲル形成用組成物および該組成物から得られる強度と吸水性のバランスに優れた生体適合性の高いハイドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、高分子量ポリエチレングリコールであるポリエチレンオキサイド等に代表されるポリアルキレンオキサイドは、分散作用、凝集作用、増粘作用等に優れていることから、各種産業用途に広く用いられている。
例えば、紙処理剤や樹脂改質剤、凝集剤などの一般工業用添加剤用途、界面活性剤、増粘剤、皮膚平滑剤などの化粧品や食品工業用途、蛋白質処理剤、医療容器、医薬品、生化学用材料としての医療用途等が挙げられる。
特に、ポリエチレンオキサイドは高い水和能を有し、タンパク質吸着抑制能があり、さらには、一般的に生体組織に対して不活性であることが知られており、多くの医療用具や医療用材料として、特に皮膚等の生体組織や血液等の体液と接触する部材として有用である。
【0003】
一方、ポリエチレングリコールやポリエチレンオキサイドを、γ線等の放射線により架橋したり、その末端のヒドロキシル基を利用して、種々の架橋剤により架橋して得られる架橋構造体も、同様に、生体組織に対して不活性となる傾向にあることが知られており、創傷被覆材用途やドラッグデリバリーシステム用担体用途等での利用が提案(特許文献1および特許文献2参照)されている。
これら一般的なポリアルキレンオキサイドからなる架橋構造体は、例えば、創傷被覆材等の医療用具や医療用材料として用いられる場合には、使用中に破断しない等の破断強度に代表される十分な物理的強度が要求される。
ところで、これら通常用いられるポリアルキレンオキサイドからなる架橋構造体は、一般に吸水性を有しており、吸水した状態であるハイドロゲルとしても有用である。例えば、上記創傷被覆材用途では、ハイドロゲル状態での利用が提案されており、さらには創傷部位の湿潤状態の保持や、創傷部位から出る体液の吸収性が要求され、これら医療用材料としては該吸水性能が高いことが、上記物理的強度と同時に、架橋構造体の性能として強く求められている。
【0004】
しかしながら、ポリエチレンオキサイドに代表されるポリアルキレンオキサイドは、一般的には、ヒドロキシル基を分子鎖の両末端のみに有するため、得られる架橋構造体は、破断強度等の物理的強度が低い傾向にある。その傾向は、ポリエチレンオキサイドの分子量の増加にともない顕著であり、例えば、重量平均分子量が1万を超える高分子量のポリエチレングリコールを用いて架橋剤により架橋することにより得られる架橋構造体は、十分な吸水性は有するものの、破断強度が低い。
また、ポリエチレンオキサイドの分子量が低い場合には、破断強度が増加する傾向にある一方で、吸水性が低下する傾向にある。
例えば、特許文献2には、低分子量のポリエチレングリコールの両末端に加水分解可能な反応性官能基を導入することにより、架橋ポリエチレングリコールを製造する方法が提案されている。しかしながら、得られる架橋構造体は吸水性が低い。
【0005】
同様に、ポリプロピレングリコールを架橋剤とともに架橋して得られる架橋構造体は、破断強度が改善されるものの、吸水性が著しく低下する傾向にある。
また、炭素−炭素二重結合の高いラジカル反応性を利用する目的で、側鎖にアリル基を導入したポリエチレンオキサイド共重合体を用いたハイドロゲルの製造について報告(非特許文献1参照)もされている。
しかしながら、該製造方法では、ラジカル発生源としてアゾビスイソブチロニトリルや過酸化ベンゾイルまたは過硫酸カリウム等を用いているため、製造したハイドロゲル中にこれらの化合物が残存してしまうという問題があった。また、該製造方法では、アルキレンオキサイド共重合体の粘度が高くなると、ラジカル発生試薬と均一に反応しなくなるために高い強度のハイドロゲルの製造が困難であった。
従って、ポリアルキレンオキサイドを分子鎖の基本骨格とした架橋構造体において、強度と吸水性のバランスを満たすことが困難であった。
【0006】
【特許文献1】特公平06−007858号公報
【特許文献2】特表2001−518528号公報
【非特許文献1】玉井聡行、松川公洋、井上弘、飯村卓哉、西岡昇、「科学と工業」74(9)、459〜461(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、破断強度等の機械物性と吸水性のバランスに優れるハイドロゲルを得ることができる、ポリアルキレンオキサイド共重合体を主剤とするハイドロゲル形成用組成物およびそれから得られるハイドロゲルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリアルキレンオキサイド共重合体を含むハイドロゲルの破断強度等の機械物性を向上させるため鋭意検討を行った。
その結果、側鎖に特定量のアリル基を有するポリアルキレンオキサイド共重合体を含む水溶性高分子と水とからなるハイドロゲル形成用組成物を放射線照射等によって架橋して得られるハイドロゲルが、著しく破断強度が改善されることを見出した。
さらには、該ハイドロゲルが優れた吸水性を同時に有することを見出し、機械物性と吸水性のバランスに優れ、かつ生体適合性の高いハイドロゲルを与えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、以下の通りのものである。
[1]水溶性高分子および水からなり、水溶性高分子が下記化学式(1)で表される共重合体を含むことを特徴とするハイドロゲル形成用組成物。
[(CH2CH2O) l 、(CH2CH(CH2OCH2CH=CH2)O) m 、(CH2CHRO) n ] (1)
(但し式中、l、m、nは高分子主鎖に含有される各繰返し単位のmol%を表わしl+m+n=100である。l、m、nは、0<l<100、かつ0<m<100、かつ0≦n<100を満たす。また、0.001≦m/(l+m+n)≦0.5を満たし、かつ共重合体の重量平均分子量は500以上1000000以下である。Rは炭素数1〜30の官能基またはハロゲン基である。)
[2]水が0.1重量%以上99.9重量%以下であることを特徴とする上記[1]に記載のハイドロゲル形成用組成物。
[3]水溶性高分子中の化学式(1)で表される共重合体の割合が、0.1重量%以上100重量%以下であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載のハイドロゲル形成用組成物。
【0010】
[4]該共重合体の式中のl、mおよびnが、0.01≦m/(l+m+n)≦0.1を満たすものであることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載のハイドロゲル形成用組成物。
[5]該共重合体の重量平均分子量が、500以上100000以下であり、かつ分子量分布が1.01以上4.0以下であることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載のハイドロゲル形成用組成物。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかに記載のハイドロゲル形成用組成物を硬化してなるハイドロゲル。
[7]上記[1]〜[5]のいずれかに記載のハイドロゲル形成用組成物に放射線を照射する工程を含むことを特徴とするハイドロゲルの製造方法。
[8]該放射線が、照射線量0.1kGy以上200kGy以下であるγ線であることを特徴とする上記[7]に記載のハイドロゲルの製造方法。
[9]上記[6]に記載のハイドロゲルの生体組織または体液と接触する部分への使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、破断強度等の機械物性と吸水性のバランスに優れるハイドロゲルを得ることができる、ポリアルキレンオキサイド共重合体を主剤とするハイドロゲル形成用組成物およびそれから得られるハイドロゲルを提供することでき、特に得られたハイドロゲルは、強度と吸水性のバランスに優れ、かつ生体適合性を有することから、医療材料用のハイドロゲルとして使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明について、以下に具体的に説明する。
本発明の共重合体は、下記化学式(1)で表される繰返し単位よりなる共重合体である。
[(CH2CH2O) l 、(CH2CH(CH2OCH2CH=CH2)O) m 、(CH2CHRO) n ] (1)
式(1)におけるRは、炭素数1〜30の官能基またはハロゲン基であれば特に限定されない。ここで、炭素数1〜30の化合物に由来する官能基には、ハロゲン原子及び/又はヘテロ原子を含ませることが可能である。本発明におけるハロゲン原子には、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。また、本発明のおけるヘテロ原子とは、酸素、硫黄、窒素、リンが挙げられる。
【0013】
本発明における炭素数1〜30の官能基には、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基などが挙げられる。本発明において、該炭化水素基にハロゲン原子及び/又はヒドロキシル基等のヘテロ原子を含む官能基を有していても良い。
また、本発明における炭素数1〜30の官能基(R)は、R基が結合する炭素原子に直接結合していても、ヘテロ原子を介して結合していても良い。
上記炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロデシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。上記不飽和炭化水素基としては、ビニル基などが挙げられる。上記芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0014】
また、ヘテロ原子を介して上記官能基が結合した場合の官能基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、フェノキシ基などのエーテル結合を介した官能基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基などのチオエーテル結合を介した官能基、OCOCH3、OCOC25、OCOC65、などのエステル結合を介した官能基、OPO(OH)2などのリン酸エステル結合を介した官能基などが挙げられる。これらの中でも、入手のし易さ、取扱いの良さから炭化水素基およびエーテル結合を介した官能基がより好ましく、炭化水素基が特に好ましい。
本発明において、式(1)のRの炭素数が30を超える場合は、該共重合体の疎水性が高くなるため、硬化して得られるハイドロゲルの吸水性が低下することから、好ましくない。Rの炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることが特に好ましい。
本発明における共重合体の末端は、ハイドロゲルの性能に影響を与えない構造であれば特に制限はない。このような構造としては、ヒドロキシル基、アルコキシル基、さらには重合触媒に由来する有機金属化合物がエーテル結合を介して結合していても良い。その中でも、ヒドロキシル基の場合が、得られるハイドロゲルの吸水性が向上するため、望ましい。
【0015】
本発明における高分子主鎖に含有される各繰返し単位のmol%であるl、m、nは、l+m+n=100、かつ0.001≦m/(l+m+n)≦0.5であればハイドロゲル形成時の副反応が抑えられ、かつ得られるハイドロゲルが十分な強度を持つことが可能となる。m/(l+m+n)が0.001未満の場合には、共重合体に含まれるアリル基の割合が小さいため、得られるハイドロゲルが十分な強度を持つことができない。また、m/(l+m+n)が0.5を超える場合には、アリル基の割合が大きいため、ハイドロゲル製造時のラジカル発生時の急な発熱があり、副反応が起きる。そしてそれに起因して得られるハイドロゲルの強度が低くなる。得られるハイドロゲルの強度の観点から、0.005≦m/(l+m+n)≦0.3であることが好ましく、更に好ましくは0.01≦m/(l+m+n)≦0.1である。
本発明の式(1)におけるnは、0≦n<100であるが、0≦n≦10の範囲が、硬化して得られるハイドロゲルの吸水性および破断強度が高くなる傾向にあるため好ましく、さらには、n=0の場合が特に好ましい。
【0016】
本発明における重量平均分子量とは、既知の重量平均分子量のポリエチレンオキサイドを標準として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定される。
本発明に用いる共重合体の重量平均分子量は500以上1000000以下である。該分子量が500未満の場合は、得られるハイドロゲルの破断強度が低下する。また1000000を超える場合は、共重合体の粘度が高く、成型性が著しく低下する。さらには、放射線照射等によりハイドロゲルを得る場合に水と均一に溶解することが困難となり、また得られるハイドロゲルの破断強度が低下する。本発明において、該分子量は1000以上500000以下が好ましく、特に5000以上100000が好ましい。
本発明における分子量分布(Mw/Mn)は、1.01以上4.0以下であれば特に制限されない。1.01以上であれば、工業的に製造可能であり、4.0以下であれば低分子量の共重合体に由来するハイドロゲルの強度低下がない。生産性と得られるハイドロゲルの強度の観点から、1.01以上3.8以下が好ましく、1.1以上3.5以下が特に好ましい。
本発明に用いる共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であっても良い。
【0017】
以下に本発明に用いる共重合体の製造方法について説明する。
本発明の共重合体は、炭素−炭素−酸素からなる三員環であるオキシラン基を有する各種単量体化合物を、所望の共重合体組成になるように直接重合することにより得ても良いし、ハロゲンを有する各種単量体化合物を、所望の共重合体組成になるように重合した後に、公知の方法によって、アリル基を導入することにより得ても良いし、ヒドロキシル基を生成させた後に、ハロゲン化アリルなどの化合物と反応させることにより本発明の共重合体を得ても良い。
本発明で用いられる重合法は特に制限は無いが、通常のエチレンオキサイド等のオキシラン化合物の重合に用いられる、触媒を用いた開環重合法が好適に用いられる。
本発明においては、上記開環重合法は、塊状重合、溶液重合、スラリー重合等の形態で適宜実施可能であるが、反応熱の制御の観点から、溶液重合、スラリー重合が好適であり、さらには、得られる共重合体の精製の簡便さの観点から、スラリー重合が特に好適である。
【0018】
本発明における直接重合により共重合体を得る方法としては、エチレンオキサイドとアリルグリシジルエーテルを共重合させる方法などが挙げられる。
本発明におけるハロゲンを有する各種単量体化合物を、所望の共重合体組成になるように重合した後に、アリル基を導入することにより得る方法としては、エチレンオキサイドとエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンなどのハロゲンを有する化合物を共重合させた後に、アリルアルコールと公知の方法によって反応させる方法などが挙げられる。
本発明におけるヒドロキシル基を生成させた後に、ハロゲン化アリルなどの化合物と反応させることにより得る方法としては、エチレンオキサイドとグリシドールを共重合させる方法などによって、ヒドロキシル基を有する共重合体を得た後に、塩化アリル、臭化アリルなどのハロゲンを有する化合物と公知の方法によって、反応させることにより得る方法などが挙げられる。
重合工程の簡便さの観点から、エチレンオキサイドとアリルグリシジルエーテルを共重合させる方法が、最も好適である。
【0019】
そこで、以下にスラリー重合による開環重合によってエチレンオキサイドとアリルグリシジルエーテルを共重合させることによって本発明の共重合体を得る方法を例に挙げて本発明に用いることができる共重合体の製造条件について説明する。
本発明において使用される重合溶媒としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテルのような炭素数2〜6のエーテル化合物、アセトン、メチルエチルケトンのような炭素数2〜6のケトン化合物、ノーマルペンタン、シクロペンタン、ノーマルヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリンのような炭素数5〜10の飽和炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリンのような炭素数6〜10の芳香族炭化水素化合物、酢酸メチル、酢酸エチルのような炭素数3〜6のエステル化合物、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンのような炭素数2〜10の含窒素化合物、ジメチルスルホキシドのような含硫黄化合物が挙げられる。また、無溶媒中でも実施される。これらは工業的な生産性、次反応への影響などを考慮して任意に選択可能であり、必要に応じて1種、あるいは2種以上の混合物であっても良い。特に好ましい溶媒としては炭素数2〜6のエーテル化合物および炭素数5〜10の飽和炭化水素化合物が挙げられる。
【0020】
本発明における重合触媒は特に制限されないが、トリアルキルアルミニウム、水酸化物、アルカリ金属アルコキシドなどの公知の化合物から適宜選択できる。具体的なこれらの化合物には、トリエチルアルミニウム、トリフェニルアルミニウム、トリブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウムや三フッ化ホウ素エーテル錯体、あるいは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなどの水酸化物、あるいはナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウム-tert-ブトキシド、カリウムプロポキシド、カリウム-tert-ブトキシド、カリウム-tert-2−メチル−2−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドが挙げられる。また、必要に応じて1種、あるいは2種以上の混合物であっても良い。この中でも特に、入手の容易さや反応の制御の観点からカリウム-tert-ブトキシド、トリエチルアルミニウム、トリフェニルアルミニウム、トリブチルアルミニウムが好ましい。
【0021】
本発明における重合温度は15℃以上120℃以下で実施することが好ましい。15℃以上あれば重合が開始され、また120℃以下であれば重合触媒の失活が無い。好ましくは20℃以上100℃以下、さらに好ましくは20℃以上80℃以下である。
重合反応に要する時間は、目的あるいは重合条件によって異なるが、通常は96時間以内であり、特に好適には30分から30時間の範囲で実施される。
重合終了後における本発明の共重合体の回収は、重合溶液中の固体を減圧濾過することに行うことができる。
本発明の共重合体の精製方法としては、共重合体を溶解させた後に、蒸留水を外液とする透析により行うことができる。得られた透析液を0.22μmのフィルターを用いて濾過することにより、更に精製することができる。これらの精製方法を繰り返すことにより、残留金属原子を必要十分な濃度に達するまで除去することができる。更に特別に高純度な共重合体が必要な場合には二酸化炭素超臨界法による抽出法も可能である。重合体中の残量金属原子濃度は、上記の精製法を用いて、0.01wtppm以上1500wtppm以下にすることができ、好ましくは0.01wtppm以上300wtppm以下、更に好ましくは0.01wtppm以上10wtppm以下である。
【0022】
本発明のおける水溶性高分子とは、25℃で水100gに対して0.1g以上溶解する高分子であれば特に制限されない。このような高分子としては、天然高分子、セルロース系高分子、アルギン酸系高分子、アクリル系高分子、アクリルアミド系高分子、ポリアルキレンオキサイドなどが挙げられる。天然高分子としては、アラビアガム、ペクチン、デキストリン、ゼラチン、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどが挙げられる。セルロース系高分子としては、セルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースなどが挙げられる。アルギン酸系高分子としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールなどが挙げられる。
ポリヒドロキシエチルメタアクリレート、ポリヒドロキシプロピルメタアクリレート、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。アクリルアミド系高分子としては、ポリアクリルアミド、ポリN,N−ジメチルアクリルアミド、ポリN,N−ジエチルアクリルアミド、ポリN−イソプロピルアクリルアミドなどが挙げられる。ポリアルキレンオキサイドとしては、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリテトラメチレンオキサイドなどが挙げられる。この中で、入手の容易さや得られるハイドロゲルの強度の観点から、ポリアルキレンオキサイド、アクリル系高分子、アクリルアミド系高分子が好ましく、アルキレンオキサイドが特に好ましい。
【0023】
本発明における水溶性高分子中の本発明の共重合体の割合としては、0.1重量%以上100重量%以下であれば、特に制限されない。0.1重量%未満の場合は、得られるハイドロゲルの強度が低下する傾向にある。得られるハイドロゲルの強度と吸水性のバランスの観点から、1重量%以上100重量%以下が好ましく、5重量%以上100重量%が特に好ましい。
本発明における水溶性高分子および水からなるハイドロゲル形成用組成物の水の割合は、ハイドロゲルを製造し得る割合であれば制限されない。0.1重量%以上であれば、ハイドロゲルの製造が可能であり、99.9重量%以下であれば該水溶性高分子が水に均一に溶解及び/又は分散可能である。製造されるハイドロゲルの強度の観点から0.5重量%以上99重量%以下が好ましく、1重量%以上95重量%以下が特に好ましい。
本発明におけるハイドロゲル形成用組成物およびハイドロゲルに含まれる水には、ハイドロゲル製造時およびハイドロゲルの性能に悪影響を及ぼさない範囲で、無機塩または有機塩などを含むことができる。本発明における無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどが挙げられる。有機塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどが挙げられる。
本発明における無機塩または有機塩の割合は、全組成物の重量を100重量%とした場合、通常15重量%以下である。
【0024】
続いて、本発明におけるハイドロゲルの製造方法について説明する。
本発明のハイドロゲルの製造方法は、該ハイドロゲル形成用組成物に放射線を照射することにより実施することができる。
ハイドロゲル製造に用いる放射線としては、γ線、電子線、プラズマなどが挙げられる。照射装置の取扱いのし易さの観点から、γ線、電子線が好ましく、γ線が特に好ましい。
放射線の照射線量については、ハイドロゲルが製造し得る線量であれば特に制限されないが、0.1kGy以上200kGy以下が好ましい。0.1kGy未満の場合は、得られるハイドロゲルの強度が低下する傾向にある。200kGyを超える場合は、水溶性高分子の分解などが起こる傾向にあり、それに起因して得られるハイドロゲルの強度が低下する傾向にある。好ましくは0.5kGy以上150kGyであり、さらに好ましくは1kGy以上100kGy以下である。
【0025】
本発明におけるハイドロゲル製造反応温度は、5℃以上99℃以下で実施することが可能である。5℃未満の場合は、放射線照射による硬化効率が低下するため、得られるハイドロゲルの強度が低下する傾向にある。99℃を超える場合、放射線照射により硬化が急速に進行する傾向にあり、それに起因して得られるハイドロゲルの吸水性が低下する傾向にある。好ましくは、10℃以上90℃以下、さらに好ましくは、15℃以上80℃以下である。
本発明のハイドロゲルの精製方法としては、大量の水に浸漬させることにより、不純物を取り除くことができる。また、15℃以上90℃以下の温度で7日間静置することにより、未反応のラジカル等を除去することもできる。
【0026】
本発明におけるハイドロゲルは、医療材料として広く用いられているポリエチレングリコール骨格を有するため、優れた生体適合性を発揮し得る。本発明における生体適合性とは、生体と相互作用しないこと、または生体と干渉作用をしないこと、または生体に対して不活性であることを意味する。従って、本発明の架橋構造体、膨潤剤含有架橋構造体は、その優れた生体適合性ゆえに、体液または生体組織などと接触する部分に用いることができる。体液とは、血液、リンパ液、脊髄液、関節液などが挙げられる。また、生体組織とは、臓器および組織を指し、肝臓、膵臓、腎臓、脾臓などの内臓組織や上皮組織、結合組織、血球・骨髄組織、筋肉、骨、軟骨、血管、目、脂肪組織、消化管・消化管粘膜、神経組織などが挙げられる。
【実施例】
【0027】
以下実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
<試薬>
実施例および比較例において、用いた試薬であるヘキサン(和光純薬工業社製、特級)、トリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液(Aldrich社製)およびカリウムt−ブトキシド1M;THF溶液(Aldrich社製)、エチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテル(Aldrich社製)、n−ブチルグリシジルエーテル(Aldrich社製)、ポリエチレングリコール20000(和光純薬工業社製)、過硫酸カリウム(和光純薬工業社製)、蒸留水(和光純薬工業社製)、炭酸ナトリウム(和光純薬工業社製、特級)、ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬工業社製、生化学用)、牛血清アルブミン(SIGMA社製)は特別な精製を実施せずに、反応に用いた。
<精製>
重合により得られた共重合体を、蒸留水(共栄製薬社製)に溶解した後に、Spetra/Por Membrane(スペクトラポア社製、MWCO:12000−14000)(商標)に入れ、蒸留水を外液とする透析を2日間行った。次いで得られた水溶液をDURAPORE MEMBRANE FILTERS(MILLIPORE社製、フィルタータイプ0.22μm GV)(商標)により濾過し、凍結乾燥することにより精製を行った。
【0028】
<重量平均分子量測定>
本発明における重量平均分子量の測定法であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)は、下記の条件により測定を行った。
カラム:G4000PWXL(東ソー(株)製)、
G5000PWXL(東ソー(株)製)
以上2本を直列に配した。
移動相:20%アセトニトリル(50mM塩化リチウムを含む)
流速:0.8ml/分
カラム温度:40℃
ポンプ:L−6200((株)日立製作所製)
検出器:L−3300(RI:示差屈折計、(株)日立製作所製)
L−4200(UV−VIS:紫外可視吸光計、(株)日立製作所製)
また、該分子量を算出するための検量線は、スタンダードポリエチレンオキサイド(TOSOH製、重量平均分子量が2.40×104、5.00×104、1.07×105、1.40×105、2.5×105、5.4×105の6種類)を用いて作成した。
【0029】
<NMR測定>
本発明におけるNMR測定は、JEOL社製、JNM−GSX400を用いた。測定に用いた溶媒は、重ジメチルスルフォキシド(Cambridge Isotope Laboratories社製、純度99.9wt%、内部標準0.05wt%テトラメチルシラン含有)であり、共重合体5.0×10-3gに対して重ジメチルスルフォキシド5.0×10-4リットルの濃度で測定を行った。測定温度は30℃にて行った。
<共重合体の組成割合の測定>
本発明におけるエチレンオキサイド単量体に由来する繰り返し単位の組成割合lおよびアリルグリシジルエーテルに由来する繰り返し単位の組成割合mおよび(CH2CHRO) に由来する繰り返し単位の組成割合n(Rがn−ブチル基の場合について記述する)は、前述のNMR測定により求めた。上記測定条件において、アリル基に由来する多重ピークは、δ3.95、δ5.10〜5.30および、δ5.80〜5.90に観測された。また、ポリエチレングリコールに由来するピークは、δ3.40〜4.15に観測された。n−ブチル基に由来するピークは、δ1.55に観測された。そしてこれらの積分比から、組成割合を求めた。
【0030】
<ハイドロゲルの製造方法>
サンプル瓶(日電理化硝子社製)に水溶性高分子および蒸留水を入れ、溶解させた後に厚さ1mmのシリコン製のスペーサー(アズワン社製)を挟んだマイクロスライドガラス(MATSUNAMI社製)に展開した。このガラス板をコバルト60を線源とするγ線(照射線量20kGy)を照射することによりハイドロゲルを製造した。
<組成物のタンパク吸着量測定>
本発明における組成物のタンパク吸着の測定は、厚さ1mmに加工したハイドロゲルを直径13mmに切り取った後に、Costar 24穴プレート(商標)(コーニング社製、商品番号3542)に入れ、35mg/mlの牛血清アルブミン(SIGMA社製)溶液を加えた後に37℃で24時間で接触させた。この組成物を大量のリン酸緩衝溶液中、室温で24時間浸漬した後に、1重量%Na2CO3−SDS水溶液を加え、60℃で24時間接触させることにより組成物に吸着しているタンパクを抽出した。この抽出液をMicro BCA Protein Assay Reagent Kit(商標)(PIERCE社製)を用いてタンパク吸着量を測定した。
【0031】
[実施例1]
耐圧反応容器に、アリルグリシジルエーテル(0.018mol)、エチレンオキサイド(0.424mol)、トリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液(4.5×10-3mol)、カリウムt−ブトキシド1M:THF溶液(0.5×10-3mol)、ヘキサン(0.25l)を加え、25℃で20時間反応を行った。析出した固体を減圧濾過した後に、蒸留水(共栄製薬社製)に溶解させ、Spetra/Por Membrane(スペクトラポア社製、MWCO:12000−14000)(商標)に入れ、蒸留水を外液とする透析を2日間行った。次いで得られた水溶液をDURAPORE MEMBRANE FILTERS(MILLIPORE社製、フィルタータイプ0.22μm GV)(商標)により濾過し、凍結乾燥することによりアリル基を有する共重合体(1)を得た。
【0032】
[実施例2]
耐圧反応容器に、アリルグリシジルエーテル(0.023mol)、n−ブチルグリシジルエーテル(0.019mol)、エチレンオキサイド(0.424mol)、トリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液(4.5×10-3mol)、カリウムt−ブトキシド1M:THF溶液(0.5×10-3mol)、ヘキサン(0.25l)を加え、25℃で20時間反応を行った。実施例1と同様の条件で回収、精製を行い、アリル基を有する共重合体(2)を得た。
[実施例3]
耐圧反応容器に、アリルグリシジルエーテル(0.018mol)、エチレンオキサイド(0.424mol)、トリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液(4.1×10-2mol)、カリウムt−ブトキシド1MTHF溶液(0.47×10-2mol)、ヘキサン(0.25l)を加え、25℃で20時間反応を行った。実施例1と同様の条件で回収、精製を行い、アリル基を有する共重合体(3)を得た。
表1に、本発明の共重合体の重量平均分子量および組成割合を示した。
【0033】
[実施例4]
サンプル瓶に共重合体(1)(1.0g)および蒸留水(1.0g)を入れ、溶解させた後に厚さ1mmのシリコン製のスペーサーを挟んだガラス板に展開した。このガラス板をコバルト60を線源とするγ線(照射線量20kGy)を照射し、大量の蒸留水中で24時間静置することによりハイドロゲル(4)を得た。
[実施例5]
サンプル瓶に共重合体(2)(1.0g)および蒸留水(1.0g)を入れ、溶解させた後に厚さ1mmのシリコン製のスペーサーを挟んだガラス板に展開した。このガラス板をコバルト60を線源とするγ線(照射線量20kGy)を照射し、大量の蒸留水中で24時間静置することによりハイドロゲル(5)を得た。
【0034】
[実施例6]
サンプル瓶に共重合体(3)(1.0g)および蒸留水(1.0g)を入れ、溶解させた後に厚さ1mmのシリコン製のスペーサーを挟んだガラス板に展開した。このガラス板をコバルト60を線源とするγ線(照射線量20kGy)を照射し、大量の蒸留水中で24時間静置することによりハイドロゲル(6)を得た。
[実施例7]
サンプル瓶に共重合体(1)(0.9g)、ポリエチレングリコール20000(0.1g)および蒸留水(1.0g)を入れ、溶解させた後に厚さ1mmのシリコン製のスペーサーを挟んだガラス板に展開した。このガラス板をコバルト60を線源とするγ線(照射線量20kGy)を照射し、大量の蒸留水中で24時間静置することによりハイドロゲル(7)を得た。
【0035】
[実施例8]
本発明のハイドロゲル((4)〜(7))をNo.4 直径3mmのポリアセタール樹脂製プランジャーを用いて、クリープメータRHEONER:33005にて破断強度の測定を行った。速度は、0.5mm/分、歪率20%の応力を測定した。
[実施例9]
本発明のハイドロゲル((4)〜(7))を、直径13mmに切り取り、Costar 24穴プレート(商標)に入れ、35mg/mlのアルブミン溶液(0.001l)を加えた後に、37℃で24時間で接触させた。この組成物をのPBS(−)溶液(10ml)中、室温で24時間浸漬した後に、1重量%Na2CO3−SDS水溶液(0.4ml)を加え、60℃で24時間接触させることにより組成物に吸着しているアルブミンを抽出した。この抽出液をMicro BCA Protein Assay Reagent Kit(商標)を用いてタンパク吸着量を測定した。
表2に、本発明のハイドロゲルの吸水量、破断強度、アルブミン吸着量を示した。
【0036】
[比較例1]
耐圧反応容器に、アリルグリシジルエーテル(0.00031mol)、エチレンオキサイド(0.427mol)、トリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液(4.5×10-3mol)、カリウムt−ブトキシド1MTHF溶液(0.5×10-3mol)、ヘキサン(0.25l)を加え、25℃で20時間反応を行った。実施例1と同様の条件で回収、精製を行い、アリル基を有する共重合体を得た。
[比較例2]
耐圧反応容器に、アリルグリシジルエーテル(0.321mol)、エチレンオキサイド(0.227mol)、トリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液(4.14×10-5mol)、カリウムt−ブトキシド1M:THF溶液(0.33×10-5mol)、ヘキサン(0.30l)を加え、25℃で20時間反応を行った。実施例1と同様の条件で回収、精製を行い、アリル基を有する共重合体を得た。実施例1と同様の条件で回収、精製を行い、アリル基を有する共重合体を得た。
【0037】
[比較例3]
耐圧反応容器に、アリルグリシジルエーテル(0.020mol)、エチレンオキサイド(0.433mol)、トリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液(0.48mol)、カリウムt−ブトキシド1M:THF溶液(0.038mol)、ヘキサン(0.25l)を加え、25℃で20時間反応を行った。実施例1と同様の条件で回収、精製を行い、アリル基を有する共重合体を得た。
[比較例4]
サンプル瓶に比較例1の共重合体(1.0g)および蒸留水(1.0g)を入れ、溶解させた後に厚さ1mmのシリコン製のスペーサーを挟んだガラス板に展開した。このガラス板をコバルト60を線源とするγ線(照射線量20kGy)を照射し、大量の蒸留水中で24時間静置することによりハイドロゲルを得た。
【0038】
[比較例5]
サンプル瓶に比較例2の共重合体(1.0g)および蒸留水(1.0g)を入れ、溶解させた後に厚さ1mmのシリコン製のスペーサーを挟んだガラス板に展開した。このガラス板をコバルト60を線源とするγ線(照射線量20kGy)を照射したが、ハイドロゲルは得られなかった。
[比較例6]
サンプル瓶に比較例3の共重合体(1.0g)および蒸留水(1.0g)を入れ、溶解させた後に厚さ1mmのシリコン製のスペーサーを挟んだガラス板に展開した。このガラス板をコバルト60を線源とするγ線(照射線量20kGy)を照射したが、ハイドロゲルは得られなかった。
【0039】
[比較例7]
サンプル瓶に共重合体(1)(0.0005g)、ポリエチレングリコール20000(0.9995g)および蒸留水(1.0g)を入れ、溶解させた後に厚さ1mmのシリコン製のスペーサーを挟んだガラス板に展開した。このガラス板をコバルト60を線源とするγ線(照射線量20kGy)を照射し、大量の蒸留水中で24時間静置することによりハイドロゲルを得た。
[比較例8]
サンプル瓶に、共重合体(1)(1.0g)および蒸留水(4.0g)を入れ、溶解させた後に、過硫酸カリウム(0.16g)を入れ、60℃で8時間静置することにより、ハイドロゲルを得た。
【0040】
実施例4〜6および比較例4との比較から、本発明の共重合体におけるアリル基の割合が小さい場合は、破断強度が著しく低下することがわかる。また、実施例4〜6および比較例8との比較から、ラジカル開始剤によって硬化させたハイドロゲルは、放射線を照射することによって硬化させたハイドロゲルと比較して、強度と吸水性のバランスが低いことがわかる。また、実施例7と比較例7との比較から、水溶性高分子における本発明の共重合体の割合が小さい場合は、破断強度が著しく低下することがわかる。また、比較例5は、共重合体の分子量が大きいために共重合体が水に均一に溶解しないため、ハイドロゲルが得られなかった。比較例6は、共重合体の分子量が小さいため、硬化が起こらなかった。以上より、本発明のハイドロゲルは、吸水性と強度のバランスに優れ、かつタンパク吸着量が低いことがわかる。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のハイドロゲルは、強度と吸水性のバランスに優れ、かつ生体適合性を有することから、医療材料用のハイドロゲルとして使用される。特に、本発明におけるハイドロゲルは、タンパク質と相互作用を起こさないという意味で、血漿蛋白接着抑制効果、血小板の粘着および活性化の抑制効果、補体系の活性化の抑制効果を有する。その結果、例えば、人工腎臓用膜、血漿分離膜、人工肺用膜、人工血管、癒着防止膜、創傷被覆材、人工皮膚、白血球除去膜、血漿蛋白回収・分離・除去膜、血小板回収、細胞回収・分離・除去膜等の生体材料、医療用材料、細胞分離用材料および細胞培養用材料の構成材料として使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子および水からなり、水溶性高分子が下記化学式(1)で表される共重合体を含むことを特徴とするハイドロゲル形成用組成物。
[(CH2CH2O) l 、(CH2CH(CH2OCH2CH=CH2)O) m 、(CH2CHRO) n ] (1)
(但し式中、l、m、nは高分子主鎖に含有される各繰返し単位のmol%を表わしl+m+n=100である。l、m、nは、0<l<100、かつ0<m<100、かつ0≦n<100を満たす。また、0.001≦m/(l+m+n)≦0.5を満たし、かつ共重合体の重量平均分子量は500以上1000000以下である。Rは炭素数1〜30の官能基またはハロゲン基である。)
【請求項2】
水が0.1重量%以上99.9重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のハイドロゲル形成用組成物。
【請求項3】
水溶性高分子中の化学式(1)で表される共重合体の割合が、0.1重量%以上100重量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のハイドロゲル形成用組成物。
【請求項4】
該共重合体の式中のl、mおよびnが、0.01≦m/(l+m+n)≦0.1を満たすものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のハイドロゲル形成用組成物。
【請求項5】
該共重合体の重量平均分子量が、500以上100000以下であり、かつ分子量分布が1.01以上4.0以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のハイドロゲル形成用組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のハイドロゲル形成用組成物を硬化してなるハイドロゲル。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のハイドロゲル形成用組成物に放射線を照射する工程を含むことを特徴とするハイドロゲルの製造方法。
【請求項8】
該放射線が、照射線量0.1kGy以上200kGy以下であるγ線であることを特徴とする請求項7に記載のハイドロゲルの製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載のハイドロゲルの生体組織または体液と接触する部分への使用。

【公開番号】特開2006−233028(P2006−233028A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49945(P2005−49945)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】