説明

ハイブリダイズ装置およびハイブリダイズ方法

【課題】本発明は、再現性の良好なハイブリダイズ反応を実現可能なハイブリダイズ装置を提供する。
【解決手段】核酸のハイブリダイズ反応のためのハイブリダイズ装置2を、核酸プローブが固定された基板の該核酸プローブの固定領域6を含んでハイブリダイズ反応のための液体を貯留可能なキャビティ12を形成するカバー部材10を備え、キャビティ12の内部に露出される領域の少なくとも一部に疎水性領域16を有するものとする。ハイブリダイズ反応を実施するキャビティに露出される領域の表面特性を制御することで、シグナル強度を向上させ、また、そのバラツキを抑制して再現性の良好なハイブリダイズ反応を実施できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸のハイブリダイズ反応のためのハイブリダイズ装置、ハイブリダイズ方法および核酸アレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、DNAマイクロアレイなどの核酸プローブを固定した基板における核酸ハイブリダイズ反応を行うハイブリダイズ装置としては、例えば、特許文献1,2に示されるように、基板と基板に付着される可撓性層とを備えるものが提案されている。これらのハイブリダイズ装置では、作業者によるバラツキを低減し、小さな反応空間での核酸のハイブリダイズ効率を向上させるものとして、かかる空間内の流体成分に可撓性層を介してローラーにより外力を加えて積極的に混合を行わせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−517156号公報
【特許文献2】特表2003−517591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハイブリダイズ反応の結果得られるシグナル強度などのバラツキや不安定性は主としてハイブリダイズ反応中において生じるものである。しかしながら、かかるハイブリダイズ反応の場である反応空間あるいは内部の流体成分への外力の付加という手段によっては、ハイブリダイズ反応の不安定性が増大するばかりかハイブリダイズ反応の効率の増大という目的に対しても十分な効果が得られていない。したがって、現状においても依然として、微小な反応空間におけるハイブリダイズ反応の不安定性や不均一性を解決するという要望が存在しているが、具体的解決策は見出されていない。
【0005】
そこで、本発明の一つの目的は、再現性の良好なハイブリダイズ反応を実現可能なハイブリダイズ装置およびハイブリダイズ方法を提供することである。また、本発明の他の一つの目的は、精度(正確性)の良好なハイブリダイズ反応を実現可能なハイブリダイズ装置およびハイブリダイズ方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記した課題について検討したところ、ハイブリダイズ反応を実施するキャビティに露出される領域の表面特性やキャビティの構造等が大きくシグナル強度やそのバラツキ(変動係数)に影響していることを見出し、これらを制御することでシグナル強度を向上させ、また、そのバラツキを抑制して再現性の良好なハイブリダイズ反応を実施できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0007】
本発明の一つの形態によれば、核酸のハイブリダイズ反応のためのハイブリダイズ装置であって、核酸プローブが固定される基板の該核酸プローブの固定領域を含んで前記ハイブリダイズ反応のための液体を貯留可能なキャビティを形成するカバー部材を備え、前記キャビティの内部に露出される領域の少なくとも一部に疎水性領域を有している、装置が提供される。この形態においては、前記カバー部材の少なくとも一部に疎水性領域を有していることが好ましい態様であり、さらに、前記カバー部材は、前記核酸プローブの固定領域に対向する領域に前記疎水性領域を有していることが好ましい態様である。これらの態様において、前記疎水性領域は、水の接触角が30°以上であることが好ましい態様である。
【0008】
本発明の他の一つの形態によれば、核酸のハイブリダイズ反応のためのハイブリダイズ装置であって、核酸プローブが固定される基板の該核酸プローブの固定領域を含んで前記ハイブリダイズ反応のための液体を貯留可能なキャビティを形成するカバー部材を備え、前記カバー部材の前記核酸プローブの固定領域に対向する領域の厚みが300μm以上である、装置が提供される。この形態において、前記カバー部材は前記キャビティ内に露出される領域の少なくとも一部に疎水性領域を有していることが好ましい態様である。
【0009】
本発明の他の一つの形態によれば、核酸のハイブリダイズ反応のためのハイブリダイズ装置であって、核酸プローブが固定される基板の該核酸プローブの固定領域を含んで前記ハイブリダイズ反応のための液体を貯留可能なキャビティを形成するカバー部材を備え、前記キャビティ内の前記核酸プローブの固定領域における空間高さの変動係数が50%以下である、装置が提供される。この形態においては、前記空間高さは15μm以上であることが好ましい態様であり、前記カバー部材は前記キャビティ内に露出される領域の少なくとも一部に疎水性領域を有していることが好ましい態様である。
【0010】
これらのいずれかのハイブリダイズ装置において、前記カバー部材は、少なくともシート体と、該シート体と前記基板との間に介在させるスペーサと、を備える、装置が提供される。また、上記したいずれかのハイブリダイズ装置において、前記カバー部材の前記核酸プローブの固定領域に対向する領域には前記チャンバー内に液体を供給するための開口を有し、該開口はその一部によって前記キャビティを構成する内周壁が外側に膨出した膨出状部を構成するように形成されていることが好ましい態様であり、この態様においては、前記開口は、前記キャビティの長尺方向の両端部位にそれぞれ形成されていることが好ましい。また、上記したいずれかのハイブリダイズ装置において、前記カバー部材の前記核酸プローブの固定領域に対向する領域を形成する材料は、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、アクリル樹脂ならびにこれらのフッ化物およびポリハロゲン化ビニルからなる群から選択される1種あるいは2種以上からなることが好ましい態様である。
【0011】
また、これらのいずれかのハイブリダイズ装置において、前記カバー部材の前記核酸プローブの固定領域に対向する領域には、凹部及び/又は凸部を有していることが好ましい。また、これらのいずれかのハイブリダイズ装置においては、前記カバー部材には、前記基板に剥離可能に一体化され、前記基板及び前記カバー部材の外延から露出される露出端部を有するタブ層を備えることが好ましい。
【0012】
本発明の他の一つの形態によれば、核酸のハイブリダイズ方法であって、核酸プローブが固定された固定領域を有する基板に対して上記いずれかの核酸のハイブリダイズ反応のためのハイブリダイズ装置をセットする工程と、前記固定領域を含んで形成されたキャビティ内において該キャビティに供給された被験核酸を含有する液体中の該被験核酸と前記核酸プローブとのハイブリダイズ反応を実施する工程と、を備える、方法が提供される。この形態においては、前記ハイブリダイズ工程は、前記基板と前記ハイブリダイズ装置とを静置して行うことが好ましい態様である。また、この形態においては、前記ハイブリダイズ工程は、前記キャビティ内の液体を攪拌することが好ましい態様である。この態様においては、前記液体の攪拌を、前記キャビティを形成した基板及びハイブリダイズ装置を動かして行ってもよい。さらに、この態様においては、前記キャビティ内にガスを存在させた状態とすることが好ましく、ガスをキャビティ内で移動させて前記液体を撹拌することが好ましい。
【0013】
本発明の他の一つの形態によれば、核酸のハイブリダイズ方法であって、核酸プローブが固定された固定領域を有する基板の前記固定領域を含んでハイブリダイズのための液体を貯留可能に形成されたキャビティ内において該キャビティに供給された被験核酸を含有する液体中の該被験核酸と前記核酸プローブとのハイブリダイズ反応を実施する工程、を備え、前記ハイブリダイズ工程は前記キャビティ内に存在させたガスをキャビティ内で移動させて前記液体を撹拌する工程を含むことが好ましい態様である。この態様においては、前記ハイブリダイズ工程は、前記基板を含む前記キャビティを構成する部材を動かして行ってもよい。また、この態様においては、前記ハイブリダイズ工程は、前記基板と組み合わされて前記キャビティを形成する弾性変形可能なカバー部材に外力を付加して行ってもよい。
【0014】
さらに、本発明の他の一つの形態によれば、核酸のハイブリダイズ反応のためのハイブリダイズ反応キットであって、核酸プローブが固定されるための固定領域を有する基板と、該基板の前記核酸プローブの固定領域を含んで前記ハイブリダイズ反応のための液体を貯留可能なキャビティを形成するカバー部材を備え、前記キャビティの内部に露出される領域の少なくとも一部に疎水性領域を有している、キットが提供される。このキットにおいては、前記カバー部材の前記核酸プローブの固定領域に対向する領域には、凹部及び/又は凸部を有していることが好ましい。また、前記カバー部材は、前記基板に剥離可能に一体化され、前記基板及び前記カバー部材の外延から露出される露出端部を有するタブ層を備えることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明の他の一つの形態によれば、核酸のアレイであって、1あるいは2以上の核酸プローブが固定された固定領域を有する基板と、前記固定領域を含んで核酸ハイブリダイズ反応のための液体を貯留可能なキャビティを形成するカバー部材と、を備え、前記キャビティ内部に露出される少なくとも一部に疎水性領域を有する、アレイが提供される。このアレイにおいては、前記カバー部材は前記基板に対して分離可能に装着されていることが好ましい態様である。また、このアレイにおいては、前記基板と前記カバー部材とは、前記基板に剥離可能に一体化され、前記基板及び前記カバー部材の外延から露出され把持可能な露出端部を有するタブ層を介して積層されていることが好ましい。また、前記カバー部材の前記核酸プローブの固定領域に対向する領域には、凹部及び/又は凸部を有していることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のハイブリダイズ装置の一例を示す図である。
【図2】図1に示すハイブリダイズ装置の平面図と断面図とを示す図である。
【図3】空間高さを測定するための測定部位を例示する図である。
【図4】実施例1において作製するDNAマイクロアレイにおけるcDNAのスポットのアレイ図である。
【図5】ハイブリダイズ装置の材質とシグナル強度との関係を示す図である。
【図6】ハイブリダイズ装置の対向領域の厚みとシグナル強度との関係を示す図である。
【図7】キャビティの空間高さの変動係数とシグナル強度の変動係数との関係を示す図である。
【図8】キャビティの空間高さの変動係数とシグナル強度の変動係数との関係を示す図である。
【図9】タブ層を有するカバー部材及びアレイを示す図である。
【図10】キャビティの空間高さとシグナル強度の変動係数との関係を示す図である。
【図11】実施例6におけるカバー部材及びアレイを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のハイブリダイズ装置は、核酸のハイブリダイズ反応のためのハイブリダイズ装置であって、核酸プローブが固定される基板の該核酸プローブの固定領域を含んで前記ハイブリダイズ反応のための液体を貯留可能なキャビティを形成可能なカバー部材を備えている。そして、第1の形態のハイブリダイズ装置においては、前記キャビティ内に露出される領域の少なくとも一部に疎水性領域を有することを特徴としている。このハイブリダイズ装置によれば、ハイブリダイズを促進し、ハイブリダイズ産物の検出強度(シグナル強度)を高めることができる。このため、核酸プローブの固定領域全体で効率的なハイブリダイズ反応を実現でき、結果的にハイブリダイズ反応の再現性を向上させることができる。核酸のハイブリダイズ反応のための液体が貯留される微小なキャビティにおいて疎水性領域を設けることによりこのようなハイブリダイズ反応の促進効果を得られることは本発明者らの予想を超えるものであった。本発明を理論的に拘束するものではないが、本発明の上記効果はキャビティ内に疎水性領域を有することで、キャビティ内でのハイブリダイズ液の対流および被験核酸の拡散が促進され、プローブ核酸との接触確率およびハイブリダイズが促進されたことによると推論される。
【0018】
また、本発明の第2の形態のハイブリダイズ装置は、前記カバー部材の前記核酸プローブの固定領域に対向する領域の厚みが300μm以上であることを特徴としている。このハイブリダイズ装置によれば、ハイブリダイズ産物のシグナル強度のバラツキを低減することができ、ハイブリダイゼーションの検出精度と再現性とを高めることができる。本発明を理論的に拘束するものではないが、核酸プローブの固定領域に対向する領域のカバー部材の厚みが300μm以上であることにより、キャビティ内にハイブリダイズ液を貯留し加熱したときにおいても、一定の熱容量を持つことによる熱緩衝材となるため、基板上における複数位置のハイブリダイズ反応を均一に行うことができると推論される。
【0019】
さらに、本発明の第3の形態のハイブリダイズ装置は、前記キャビティ内の前記核酸プローブの固定領域における空間高さの変動係数が50%以下であることを特徴としている。このハイブリダイズ装置によれば、ハイブリダイズ産物のシグナル強度のバラツキを低減することができ、ハイブリダイゼーションの検出精度を高めることができる。本発明を理論的に拘束するものではないが、前記キャビティの空間高さの変動係数が50%以下であると、キャビティ内壁の表面特性および形状によるハイブリダイズ液の対流ないし被験核酸の拡散への悪影響が抑制されて基板上における複数位置のハイブリダイズ反応を均一に行うことができると推論される。
【0020】
また、本発明の核酸ハイブリダイズ方法は、核酸プローブが固定された固定領域を有する基板の前記固定領域を含んでハイブリダイズのための液体を貯留可能に形成されたキャビティ内において該キャビティに供給された被験核酸を含有する液体中の該被験核酸と前記核酸プローブとのハイブリダイズ反応を実施する工程、を備え、前記ハイブリダイズ工程を前記キャビティ内に存在させたガスをキャビティ内で移動させて行うことを特徴とする。このハイブリダイズ方法によれば、ハイブリダイズ反応中のハイブリダイズ効率を向上させることができる結果、ハイブリダイズ産物によるシグナル強度を増大させることができ、また、そのバラツキを低減することができる。
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、まず、これら第1〜第3のハイブリダイズ装置について説明しつつ、これらのハイブリダイズ装置を用いたハイブリダイズ方法、ハイブリダイズキットについて、図面を適宜参照しながら説明する。図1には、本ハイブリダイズ装置の一例が基板とともに示されており、図2には、その平面図と断面図とが示されている。
【0022】
(ハイブリダイズ装置)
ハイブリダイズ装置2は核酸のハイブリダイズ反応のための装置である。ここで、核酸とは、少なくとも一部に核酸の塩基対合によって他の核酸とハイブリダイズするものであればよい。したがって、核酸とは、天然あるいは合成のヌクレオチドのオリゴマーおよびポリマーの双方を含み、さらにゲノムDNA、cDNAなどのDNA、PCR産物、mRNAなどのRNA、ペプチド核酸を含む概念である。また、ハイブリダイズ反応とは、核酸分子間における塩基の対合による相補鎖間の結合反応を意味している。
【0023】
(基板)
本ハイブリダイズ装置2が適用される基板4は、少なくとも核酸プローブが固定される核酸固定領域6を備えている。核酸固定領域6は、それぞれ核酸プローブが固定された微小な1以上の領域(スポットともいう。)が形成された、あるいは該微小領域が形成されるために準備された領域である。なお、本発明においては、基板4に対する核酸プローブの固定方法や固定形態については特に限定することなく本出願時における公知の全ての形態を包含するものである。基板4における核酸固定領域6は、微小な三次元形状を有している場合も含め実質的に平坦であることが好ましい。また、基板4は、基板4上に直接あるいは必要に応じて多孔質体などの介在物を介して核酸固定領域6を単数あるいは2以上有することができる。基板4に2以上の核酸固定領域6を有する場合には、これらは疎水性の離隔部によって互いに隔てられていてもよい。
【0024】
また、基板4の形状は特に限定しない。例えば、平板のほか、基板4として機能する平坦な底部を有する凹状体が挙げられる。基板4を構成する材料は、従来この種の基板に用いられている各種の材料の他各種の材料を使用できる。例えば、ガラス、二酸化ケイ素、窒化ケイ素などのシリコン系セラミックスを含むセラミックス、シリコーン、ポリメチルメタクリレート、ポリ(メタ)アクリレートなどの樹脂、金、銀、銅等の金属などを用いることができる。所望の表面特性を付与するために適当なコートが施されていてもよい。なかでも、ガラス基板、シリコーン、アクリル樹脂を使用することができる。こうした基板4の最も典型例は、cDNAプローブ等が固定されたDNAチップ若しくはDNAマイクロアレイまたはcDNA等が固定されていない(固定されるべき)DNAマイクロアレイ用等の基板である。
【0025】
(カバー部材)
本ハイブリダイズ装置2は、基板4に対して使用されるカバー部材10を備えている。カバー部材10は、基板4の核酸固定領域6を含んだハイブリダイズ反応のためのキャビティ12を構成する。カバー部材10は、基板4に対して装着されるものとすることもできるが、基板4を収容あるいは保持する基板保持体に対して装着された結果として、基板4との間でキャビティ12を構成するものであってもよい。前者の例としては、平板状あるいは平坦な底部を有する凹状の基板に対して装着される形態を挙げることができ、後者の例としては、平板状の基板を載置する平坦部あるいは凹状部を備える基板保持体に対して装着される形態を挙げることができる。
【0026】
キャビティ12は、核酸固定領域6を含んだ空間であって、前記ハイブリダイズ反応のための液体(以下、単にハイブリダイズ液という。)を貯留可能に形成される空間である。キャビティ12は、核酸固定領域6上において所定の空間高さ(あるいは空間の厚み)を有する空間を有していることが好ましい。すなわち、カバー部材10は、ハイブリダイズ液が貯留されない状態であっても基板4の核酸固定領域6に対向する領域(以下、単に対向領域という。)14を基板4からいくらかの距離離れて保持できる構成を有していることが好ましい。カバー部材10がこうした形態を有することで、基板4に対して特別な操作を施すことなく、カバー部材10を基板4等に対して装着するだけで、核酸固定領域6に所定の空間高さを有するキャビティ12を形成できる。
【0027】
キャビティ12内には、少なくとも基板4の核酸固定領域6とカバー部材10の対向領域14とが露出されている他、これらの領域以外にキャビティ12を外部と遮断するために必要な追加の面が露出されている。追加の面は、基板4あるいはカバー部材10の一部であってもよいし、さらに別個の部材で構成されていてもよい。キャビティ12の平面形態は特に限定しないが、突状部や角部を有しないことが好ましい。このような個所には、ハイブリダイズ液が滞留しやすいからである。なお、後述するように外側に膨出する個所であっても、該個所が、十分に小さく全体として液体の滞留が抑制されるような曲線形態などを有する側壁部分近傍に形成されていれば、滞留が抑制される。好ましい平面形態としては、図1および図2に示すような長円や円などが挙げられる。また、キャビティ12の対向領域14は基板4から離れる方向に対して凸状としても凹状としてもよいが、平坦であることが好ましい。平坦であると、核酸固定領域6に対しておおよそ一定の空間高さを備えるキャビティ12を容易に構成できるからである。
【0028】
このようなカバー部材10は、図1に示すように、基板4が平板である場合には、対向領域14を含む平板状体10aの周囲に所定高さのスペーサ8を有する形態とすることもできる。図1においては、カバー部材10は、基板4とほぼ同じ大きさで少なくとも基板4に対向する側にはほぼ平坦な表面を有する板状体10aと、その周縁に基板4との間に介在されるスペーサ8とを有している。他の形態としては、それ自体が核酸固定領域6を覆う所定形状のドームを有する形態とすることもできる。このような形態のカバー部材10は、高分子材料の成形体とすることができる。一方、基板4が凹状部の底部を核酸固定領域6とする凹状体であるとか核酸固定領域6の外周に所定高さの周縁部を有する場合、さらには基板4が基板保持体などの底部に収容される場合など、カバー部材10を装着するのにあたり核酸固定領域6が凹状部の底部に位置されるときには、これら凹状部の周縁の縦壁部分に装着される平板状体とすることもできる。
【0029】
スペーサ8の材料としては、例えば、アクリル樹脂、熱可塑性エラストマー、天然あるいは合成ゴム、シリコーン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ハロゲン化ビニル、ポリカーボネートを用いることができる。
【0030】
(疎水性領域)
本ハイブリダイズ装置2は、キャビティ12内に露出される領域の少なくとも一部に疎水性領域16を有している。疎水性とは、少なくとも撥水性を示す表面特性を意味し、好ましくは、親水処理など施されていない一般的なケイ酸ソーダガラスよりも高い撥水性を有していることを意味する。撥水性は、一般に平坦な表面における水の接触角で表現することができる。本発明における疎水性領域の水の接触角は、30°以上であることが好ましく、より好ましくは60°以上であり、さらに好ましくは70°以上である。最も好ましくは、90°以上である。なお、接触角とは、液滴を水平な固体板状に置いたときに液滴が固体と接している部分の角度をいうものとする。接触角は、静的接触角や臨界値としての前進接触角あるいは後退接触角、さらには動的接触角などをも用いることができるが、液滴法によって測定した静的接触角を用いることが好ましい。
【0031】
なお、静的接触角を測定する液滴法は、(1)接線法、(2)θ/2法および(3)3点クリック法がある。(1)の接線法は、読み取り顕微鏡等を利用してカーソルを液滴の接線に合わせて接触角を直接求める方法であり、(2)のθ/2法は、液滴の片端と頂点とを結ぶ直線と固体面との角度を2倍して接触角として求める方法であり、(3)の3点クリック法は、液滴と固体面との接点2ヶ所と頂点をコンピュータ画像上等でクリックして画像処理により求める方法である。これらの液滴法においては、上記(2)および(3)の方法にて接触角を求めることが好ましい。
【0032】
疎水性領域16は、キャビティ12内に露出される領域の少なくとも一部に備えられていればよいが、好ましくは、カバー部材10に備えられる。カバー部材10に疎水性領域16を備えることで、シグナル強度を効果的に向上させることができる。カバー部材10においては、対向領域14に疎水性領域16を有していることが好ましく、さらに好ましくは、核酸固定領域6のおおよそ全体に対応する対向領域14の全体に均一に疎水性領域16を備えることが好ましい。疎水性領域16は、対向領域14において複数個分散して備えられていてもよいが、好ましくは、対向領域14のおおよそ全体を被覆するような連続状に備えられている。さらに、カバー部材10のキャビティ12に露出される全領域が疎水性領域16であってもよい。
【0033】
疎水性領域16は、例えば、カバー部材10自体の材質を疎水性材料を用いることで形成することもできるし、疎水性領域16を形成しようとする領域に対して疎水性材料および/または疎水性(撥水性)を呈する表面形態を付与することによっても形成することができる。疎水性領域16を構成する疎水性材料としては、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ハロゲン化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、アクリル樹脂およびこれらの樹脂のフッ化又は塩化物を挙げることができる。また、撥水性を呈する表面形態としては、例えば、各種材料表面に化学的な修飾や機械的処理により接触角が90°以上になるように粗面化された形態を挙げることができる。
【0034】
キャビティ12における核酸固定領域6とこれに対向する対向領域14との距離、すなわち、核酸固定領域6におけるキャビティ12の空間高さの変動係数(標準偏差/平均値×100(%))が50%以下であることが好ましい。核酸固定領域6において空間高さの変動係数が50%以下であると、ハイブリダイズ産物のシグナル強度のバラツキを抑制することができる。シグナル強度のバラツキが抑制されることは、精度の高い検出が可能となるとともに、再現性の高いハイブリダイズ反応が実現できることを意味する。例えば、空間高さの変動係数が50%以下であるとシグナル強度の変動係数を20%以下程度に容易に抑制することができる。空間高さの変動係数はより好ましくは40%以下であり、さらに好ましくは30%以下であり、最も好ましくは20%以下である。本発明者らの今回得られた知見によれば、キャビティ12内の核酸固定領域6の空間高さの変動係数が一定以下であることは、核酸固定領域6の単位面積あたりのハイブリダイズ液量(液厚)の均一性に大きく寄与していることがわかっている。
【0035】
また、キャビティ12の空間の高さの平均値は、15μm以上であることが好ましい。15μm以上であると、ハイブリダイズ産物のシグナル強度のバラツキがよく抑制されるからである。より好ましくは、20μm以上である。キャビティ12の空間高さを20μm以上とすることで、それによって確保される核酸固定領域6における液厚により、キャビティ12内に露出される領域の影響を抑制してハイブリダイズ液の対流ないし被験核酸の拡散を確保できる。また、空間高さの平均値の上限は、好ましくは1000μm以下である。さらに、こうしたキャビティ12が区画する基板4上の面積は、1mm2以上2000mm2以下であることが好ましい。
【0036】
キャビティ12における上記空間高さの平均値および空間高さの変動係数は、例えば、以下の方法(以下、高さ−表面うねり量法という。)により測定することができる。
(1)計測部位
カバー部材10によって形成されるキャビティ12を分割する分割線、好ましくは、キャビティ12の中心線あるいは等分割線の分割線上を計測部位とする。計測部位は、例えば、図3(a)に示すように、キャビティ12の長手方向および短手方向のそれぞれ2等分する2本の分割線の組み合わせとすることもできる(分割線は計2本)。また、図3(b)に示すように、長手方向および短手方向にそれぞれ4等分する分割線の組み合わせとすることもできる(分割線は計6本)。さらに、図3(c)に示すように、長手方向に8等分する分割線と短手方向に4分割する分割線との組み合わせとすることもできる(分割線は計10本)。
(2)周縁高さの測定と基準高さの算出
まず基準高さ(H)を求める。基準高さ(H)とは、カバー部材10を基板4の核酸固定領域6に対向するように装着したとき形成されるキャビティ12の外縁に対応するカバー部材10の周縁部の核酸固定領域6を含む表面からの高さ(以下、周縁部高さという。)の平均値である。周縁部高さは、図3に示すとおり、分割線上の周縁部において計測する。分割線は、キャビティ12を分割しているため、一つの分割線について周縁部の高さは対向する周縁部の2点を計測することになる。したがって、周縁高さの測定箇所数は、分割線の数×2となる。すべての分割線上における周縁部高さを測定し、これらから平均値を求め、これを基準高さ(H)とする。なお、空間高さの平均値および変動係数を得るのに好ましい周縁高さの測定個所は、4箇所以上であり、より好ましくは、20箇所以上である。
(3)カバー部材の表面のうねり量の測定
カバー部材10の表面のうねり量は、分割線上のカバー部材10の対向領域14に対応する領域の外表面(基板4と対向しない側の表面)の周縁部を基準とした表面の凹凸の変動量として測定する。うねり量としては、一つの分割線をその測定軌跡として測定し、最高値と最低値とのみを用いればよい。したがって、うねり量の測定箇所は、結果として各分割線に対して2箇所ということになり、分割線の数×2がうねり量の測定箇所数となる。なお、空間高さの平均値および変動係数を得るのに好ましいうねり量の測定個所は、4箇所以上であり、より好ましくは、20箇所以上である。
(4)膜厚の測定
カバー部材10の膜厚は、対向領域14の膜厚を意味しており、対向領域14の膜厚の平均値(Tave)を用いてもよいし、あるいは上記うねり量の最高値と最低値とをそれぞれ測定した部位の膜厚(Tmax、Tmin))を用いてもよいが、好ましくは平均値を用いる。なお、膜厚は、ノギスなどの計測装置など公知の計測装置により測定できる。
(5)空間高さの算出
これらのデータから一つの分割線上において複数の空間高さを求めることができる。一つの分割線上においては、うねり量の最高値と最低値(それぞれMAXおよびMINとする)から最大の空間高さと最小の空間高さとを求めることができる。
最大空間高さ=基準高さ(H)+うねり量の最高値(MAX)−膜厚(TaveあるいはTmax)
最小空間高さ=基準高さ(H)+うねり量の最低値(MIN)−膜厚(TaveあるいはTmin)として得ることができる。
こうして、一つの分割線から最大空間高さと最小空間高さを得て、他の分割線からも同様に最大空間高さと最小空間高さとを得て、これらの平均値を、空間高さの平均値とし、標準偏差/空間高さの平均値×100を変動係数(%)とする。
【0037】
なお、カバー部材10の所定位置における周縁高さは、例えば、デジタル測長機(デジマイクロ、株式会社Nikon製)によって測定することができ、カバー部材10の表面のうねり量は、表面粗さ形状測定機(サーフコム、株式会社東京精密製)にて測定することができる。
【0038】
さらに、キャビティ12の容積は、必要に応じ適宜設計されるものであるが、0.1μL以上2000μL以下であることが好ましい。より好ましくは1μL以上1000μL以下である。
【0039】
さらに、カバー部材10の対向領域14を含む部分は、外部からキャビティ12内を視認可能な光透過性を有することが好ましいが、対向領域14を含む部分の厚みの平均値が300μm以上であることが好ましい。厚みの平均値が300μm以上であると、ハイブリダイズ産物のシグナル強度の変動係数がよく抑制されるからである。該厚みはより好ましくは350μm以上である。なお、上限は特に限定しないが、厚いため熱容量が大きくなり過ぎて加熱時にキャビティの温度分布の不均一性が生起してしまうことを考慮すれば3000μm以下であることが好ましい。
【0040】
(その他の構造)
カバー部材10にはハイブリダイズ液を注入するための開口20を備えている。開口20は2以上備えることが好ましく、少なくとも一つの開口20は、カバー部材10においてキャビティ12を区画する輪郭近傍に開口していることが好ましい。かかる部位に開口されていることで、キャビティ12に注入したハイブリダイズ液がキャビティ12の内壁に留まりにくくキャビティ12全体にハイブリダイズ液が容易に拡散される。より好ましくは、開口20は、前記輪郭に沿って形成されおり、さらに好ましくは、前記開口20によってキャビティ12の内壁が外側に膨出した膨出部を構成するように形成されている。すなわち、図1に示すように、円形上にカバー部材10に開口された開口20は、平面形態が長円状のキャビティ12の長径方向の両端に形成されるとともに、該両端部において開口20の開口端縁の一部がキャビティ12の両端を外側に膨出させるように形成されている。かかる開口20からハイブリダイズ液が注入されると、開口20の両側および反対側のいずれにもハイブリダイズ液が容易に拡散されることになる。なお、開口20は、適当なシール材によって密閉される。
【0041】
こうした本ハイブリダイズ装置2に用いるカバー部材10は、実質的にカバー部材10を構成する平板状体10aにシール層5を介してスペーサ8を積層することにより得ることができる。シール層5としては、平板状体10aとスペーサ8とを接着する接着剤層あるいは粘着剤層とすることができる。また、一つのカバー部材10に対して、隣合う区画を遮断するような形態のスペーサ8を用いることで基板4上に複数個のキャビティ12を形成するカバー部材10も容易に得ることができる。
【0042】
また、カバー部材10は、複合体としてではなく一体の樹脂の成形体として得ることもできる。さらに、こうしたカバー部材10の基板4あるいは基板保持体に対して装着するための部位には、接着剤や粘着剤の層を形成しておくことが好ましく、さらに、このような接着層は剥離可能なシートによって保護されていることが好ましい。したがって、本発明の別の形態として、このハイブリダイズ装置2と基板4とを備えるハイブリダイズ反応用キットも提供されることになる。このようなキットに備えられる基板4に核酸プローブなどを固定すれば有効な好ましい核酸アレイを得ることができる。なお、カバー部材10は、基板4あるいは基板保持体に対して別個に備えられて適時に装着可能に備えられなくてもよい。カバー部材10は、基板4あるいは基板保持体に対して接着により予め一体化されていてもよく、また、基板4等と一体の成形体として一体化されていてもよい。また、カバー部材10は洗浄やシグナル検出のために基板4等に対し、該基板4等から分離可能に装着可能に形成されていてもよく、あるいは一体化されていてもよい。
【0043】
カバー部材10の対向領域14を含む部分を弾性変形可能に形成してもよい。この部分あるいはカバー部材10の全体を弾性変形可能な材料で形成することにより、対向領域14にガス圧又は機械的外力を付加して変形させることでキャビティ12内の液体を攪拌することができる。
【0044】
また、カバー部材10の対向領域14のキャビティ12に露出される側(基板4と対向される側の表面)には、凹部及び/又は凸部を備えることができる。この凹凸は、キャビティ12内の液体を撹拌する場合に、液体の流れを複雑化して撹拌効率を向上させ、ひいてはハイブリダイズ効率を向上させることができる。こうした凹部及び/又は凸部は、カバー部材10の対向領域14を構成する材料で一体に備えていてもよいし、カバー部材10の基板4に対向される側の表面にこうした凹部及び/又は凸部を備えるフィルムやシート状体を付着させることによっても形成できる。こうした凹部及び凸部の大きさは、特に限定しないで、キャビティの空間高さに応じて設定される。なお、こうした凹部及び/又は凸部に疎水性領域を備えていてもよい。
【0045】
また、図9に示すように、カバー部材10が基板4の固定領域6の存在する表面に積層されて一体化される場合、カバー部材10の基板4の表面への当接部分には、カバー部材10と基板4との積層状態を解除するためのタブ層を設けることができる。タブ層30は、基板4とカバー部材10とによりキャビティ12が形成された状態において基板4及びカバー部材10の外延から露出される露出端部を有していることが好ましい。この露出端部32は、把持可能な程度の長さで露出されていることが好ましい。また、このタブ層30は、少なくとも基板4との間においては剥離可能な程度に一体化されている。具体的には、タブ層30の基板4側は剥離可能な程度の粘着性を有しているかあるいは同様の粘着程度の粘着剤層を介して基板4に一体化されている。このため、ハイブリダイゼーション後など、基板4とカバー部材10との積層形態を解除する場合には、このタブ層30の露出端部32を把持して外側に引っ張ることで、タブ層30と基板4との積層状態が崩壊し、この結果、基板4とカバー部材10との積層状態も解除されることになる。こうした解除形態によれば、基板4に大きな負荷をかけることなく容易にカバー部材10を除去できる。
【0046】
タブ層30の有する露出端部32は、器具又は手指等によって把持可能であればよく、タブ層30のごく一部であってもよいし、基板4とカバー部材10との積層体の周囲にわたって備えられていてもよい。また、タブ層30は、基板4と剥離可能な粘着性を有する材料(例えば、樹脂材料やシリコンゴムなどのゴム材料)で形成されていることが好ましい。この場合、基板4との間においては、特別な粘着剤層は必要がなくなるからである。また、タブ層30は、カバー部材10の一部であってもよいし、そうでなくてもよい。カバー部材10に対しても剥離可能な程度に一体化されていてもよい。後者の場合には、結果として、基板4への負荷を一層軽減できる。
【0047】
(核酸のハイブリダイズ方法)
このハイブリダイズ装置2を用いたハイブリダイズ反応は常法に準じて行うことができる。例えば、本ハイブリダイズ装置2あるいはカバー部材10を用いるハイブリダイズ工程は次のようにして行うことができる。基板4としてのDNAマイクロアレイに、基板4への装着側にシール層を有するカバー部材10を該シール層を介して貼着し、開口2から所定の方法で調製したハイブリダイズ液を注入し、2つの開口20の双方をシール材でシールして、25℃以上80℃以下の温度で所定時間静置する。
【0048】
本ハイブリダイズ装置2によれば、キャビティ12内に露出される少なくとも一部に疎水性領域16を有するため、攪拌、振動、摩擦、噴流等を基板4に対して付与するなど、外力を加えなくても、キャビティ12内におけるハイブリダイズ液の対流あるいは被験核酸の拡散を促進してハイブリダイズ反応を促進しその効率を向上させることができる。したがって、本ハイブリダイズ装置2あるいはカバー部材10は、静置状態でハイブリダイズ反応を行うハイブリダイズ方法およびかかるハイブリダイズ工程を含む各種の検査方法に好ましく用いることができる。さらに、静置によっても十分なハイブリダイズ反応の促進効果を有するため、作業者の基板4やカバー部材10の取り扱い操作の違いなどの作業者によるバラツキ要因およびハイブリダイズ時のハイブリダイズ装置2の静置場所の水平性や外力の大小などの外部環境によるバラツキ要因による影響を抑制して再現性の高いハイブリダイズ結果を得ることができる。
【0049】
また、本ハイブリダイズ装置2およびカバー部材10が形成するキャビティ12においてキャビティ12の空間高さおよびその変動係数の制御ならびに対向領域14部分の厚みの制御することで、ハイブリダイズ産物のシグナル強度のバラツキを抑制して精度の高いシグナル検出が可能となる。このようなキャビティ12の構造あるいは寸法制御によって、ハイブリダイズ産物のシグナル強度のバラツキ抑制のための従来採用されていた各種の上記した手法を採用することなく簡易な構成でハイブリダイズ産物のシグナル強度のバラツキ抑制という効果が得ることができる。なお、このようなキャビティ12の構造あるいは寸法制御は、核酸固定領域6の単位面積当たりのハイブリダイズ液量を均一化あるいは熱緩衝効果によって得られた効果であるということもできる。
【0050】
また、カバー部材10の対向領域14の基板4に対向される側に凹部及び/又は凸部を有している場合には、静置によっても、好ましい液体の対流が得られ、ハイブリダイズ反応の効率を向上させることができる。
【0051】
ハイブリダイズ工程においては、キャビティ12を構成する基板4及びカバー部材10を内の液体を攪拌する撹拌工程を実施してもよい。キャビティ12内の少なくとも一部には疎水領域16を有するため、キャビティ12内の水性の液体が撹拌された際に、疎水性領域16において液体が撥液されることにより、キャビティ12内のハイブリダイズ液の移動が促進され、この結果、より一層ハイブリダイズ効率が向上される。
【0052】
キャビティ12内の液体の攪拌のためには、例えば、キャビティ12を形成した基板4やハイブリダイズ装置2を動かすことが有効である。具体的な動作としては、基板4を含んでキャビティ12を構成する部材を、回転運動、旋回運動、シーソー運動、往復運動、転倒運動又はこれらの2種類以上の組み合わせなどの各種動作が挙げられる。他には、カバー部材10の対向領域14が弾性変形可能である場合には、この対向領域14を外力により変形させることによってもキャビティ12内の液体の攪拌が可能である。具体的には、ローラーなどの回転体を回転させつつ対向領域14上を移動させたり、その他の押圧部材を対向領域14上を押圧しながら移動させることが挙げられる。こうした撹拌工程は、ハイブリダイズ工程の全体を通じて実施してもよいし、断続的に又はその一部においてのみ実施してもよい。
【0053】
こうしたキャビティ12内の液体の攪拌にあたっては、キャビティ12内にキャビティ12内の液体と分離して存在する程度に該液体に不溶解性のガス(例えば、空気のほか、窒素などの不活性ガスなど)を存在させた状態とすることが好ましい。通常、ガスがキャビティ12内に存在する場合、キャビティ12が静置状態であると、ガスが定位置で保持されるため、ガスの保持部分(ガス溜り)においてはハイブリダイゼーションが進行しにくいが、ガスを存在させた上でキャビティ12内の液体を移動させるような外力が付加されることで、キャビティ12内の液体の移動を促進することができ、これにより、ハイブリダイズ反応を促進することができる。
【0054】
特に、キャビティ12の一部に疎水性領域16を有する場合には、ガス溜りの移動にあたり、水性の液体が疎水性領域16において撥液されることにより、ガス溜りの移動が促進され、ガス溜りの移動による撹拌効果が向上される。また、カバ−部材10の対向領域14の基板4に対向される側に凹部及び/又は凸部を有することにより、ガス溜りの移動範囲も変化するため、より高い撹拌効果が得られる。
【0055】
キャビティ12内にガスを存在させる場合、キャビティ12内のガス溜りをキャビティ12内における1個又は2個以上の撹拌子のようにして基板4等を動かすようにすることが好ましい。より具体的には、ガス溜りがその形態をおおよそ維持した状態でキャビティ12内を移動するように基板4等を動かすことが好ましい。こうすることで、ハイブリダイズ反応を効果的に促進できる。ここで、ガス溜りがその形態をおおよそ維持した状態で移動するとは、撹拌工程の半分以上の範囲においてキャビティ12内のガスが単一又は2個以上のガス溜りとして移動又は保持されることを認識できるものであればよく、例えば、基板4を激しく振とうしてキャビティ12内の液体の全体に分散して存在することが撹拌工程の優勢となるような状態は排除される。なお、ガス溜りがキャビティ12内の移動の際に、一時的に集合したり分離したりしてもよいし、一時的にはガスが液体全体に分散するような形態となってもよい。
【0056】
ガス溜りがおおよそその形態を維持してキャビティ12内を移動させるための動作形態は、好ましくは、回転運動、シーソー運動あるいはこれらの組み合わせである。こうした動作形態によれば、安定してガス溜りにキャビティ12内を移動させることができる。例えば回転運動の場合、水平状の回転軸によって支持される縦型のローターを備える回転装置においては、回転半径(回転中心からアレイ(ハイブリダイズ装置及び基板)の重心までの距離とする。)が12mm〜150mmであり、回転数(rpm)が60rpm以下であることが好ましい。60rpm以下であると、ガス溜りの形態を安定して保持できる傾向がある。より好ましくは20rpm以下であり、さらに好ましくは10rpm以下である。10rpm以下であると、ガスをあまり分離することなく安定してキャビティ12内を移動させられるからである。最も好ましくは5rpm以下である。5rpm以下であるとガスを一時的にも分離することなく安定してキャビティ12内を移動させられ、シグナル強度の増大とともにバラツキを良く抑えることができるからである。また、シーソー運動の場合、支点からの距離(支点からアレイ(ハイブリダイズ装置及び基板)の重心までの距離とする。)が0〜76mmであり、上下動が総角5°以上100°以下の範囲である場合、シーソー運動(上下動で1回とする。)は、1回〜120回/分であることが好ましい。
【0057】
また、ガス溜りの移動には、カバー部材10の対向領域14が弾性変形可能として、この対向領域14を外力により変形させることも有効である。
【0058】
ガスの容量はこうした促進効果が得られる範囲であればよいが、好ましくは、キャビティ12の全容積の50%以下である。50%以下であれば、気泡の存在によるハイブリダイズ反応への悪影響を抑制しつつハイブリダイズ反応を行うことができる。より好ましくは、30%以下である。30%以下であれば、加熱時のガス膨張並びにチャンバー作製時の接着面等に残留した空気が膨張したときの影響を抑制して確実にハイブリダイズすることができる。さらに好ましくは15%以下であり、5%であっても良好なハイブリダイズ反応を行うことができる。
【0059】
以上のことから、本発明の別の形態として、予め1種あるいは2種以上の核酸プローブが固定された核酸固定領域を有する基板4と、前記核酸固定領域を含んで核酸ハイブリダイズ反応のための液体を貯留可能なキャビティを形成するカバー部材10と、を備え、前記キャビティ内部に露出される少なくとも一部に疎水性領域を有する、核酸アレイも提供される。こうした核酸アレイによれば、カバー部材10によって効率的なハイブリダイズ反応が可能なチャンバーが予め形成されているため、一層容易かつ効率的に核酸のハイブリダイズ反応を行うことができる。カバー部材10は、既に説明したように、基板4あるいは基板保持体に対して接着や成形等により予め一体化させておくことができる。さらに、基板4や基板保持体に対して予め一体化されたカバー部材10は、基板4等から分離可能とされていてもよい。また、アレイは、タブ層30を備えていてもよい。このアレイにおいては、上記したカバー部材10や基板4における各種の態様がそのまま適用される。
【0060】
また、以上のことから、本発明のさらに別の形態として、基板4の固定領域6を含んだキャビティ12内においてキャビティ12に供給されたハイブリダイズ液中の該被験核酸と前記核酸プローブとのハイブリダイズ反応を実施するハイブリダイズ工程において、キャビティ12内に存在させた不溶解性のガスをキャビティ内で移動させる、核酸のハイブリダイズ方法も提供される。なお、このハイブリダイズ方法におけるキャビティ12は疎水性領域16を備える必要はなく、疎水性領域16を備えていなくても、ガス溜りの移動によってキャビティ12内の液体を撹拌することができる。この核酸ハイブリダイズ方法における、ガス又はガス溜りの移動については、上記した各種態様をそのまま適用できる。
【0061】
また、こうしたハイブリダイズ方法におけるキャビティ12としては、既に説明したように、基板の固定領域6の対向する対向領域14に凹部及び/又は凸部を有していることが好ましい。すなわち、基板4と基板4の固定領域6に対向する対向領域14の基板4に対向される側に凹部及び/又は凸部を有するカバー部材10によって形成されるキャビティ12が挙げられる。こうしたキャビティ12によれば、固定領域6に対向される凹凸によって、ガス溜りの移動範囲も変化するため、より高い撹拌効果が得られる。
【実施例】
【0062】
(実施例1)
本実施例は、疎水性領域を有するハイブリダイズ装置(カバー部材)を用いたときのシグナル強度の向上を評価した例である。本実施例では、ガラス基板にcDNAが固定されたDNAマイクロアレイに対して疎水性材料で形成したカバー部材をセットして相補的なcDNAハイブリダイズし、ハイブリダイズ産物のシグナル強度を評価した。対照として、カバー部材としてスライドガラスを用いた。
【0063】
まず、ラット由来のcDNAを5000種を準備し、図4に示すように、ポリL−リジンでコートしたガラス基板上にそれぞれ一定量を5000点スポットするとともに、うち1種類の遺伝子を計9点スポットした。なお、5000点のスポット径は約150μmであり、9点のスポット径も約150μmであった。こうしてcDNAをスポットしたガラス基板を80℃で1時間加熱処理し、次いで、ブロッキング溶液(70mM無水コハク酸、0.1Mホウ酸ナトリウム(pH8.0)、1−メチル−2−ピロリドン)に15分間浸漬した後、沸騰した滅菌水中に3分間浸漬し、エタノールで脱水後、遠心乾燥し、DNAマイクロアレイとした。
【0064】
また、ラットから取得したmRNAを前記アレイに対して1μg/枚用いて、細胞工学vol.18,No.7,P1052−1053(1999)記載の手順に従ってCy3標識cDNAを調製した。
【0065】
一方、図2に示すように、76.2mm×25.4mmの両面接着フィルムの一方の面に同一サイズであって片面に接着面を有するスペーサ材料(PET厚み160μm)の非接着面を重ね、長円状の刃で型抜きした長円状孔部(長径約50mm×短径約20mm)を有する積層体を形成し、この積層体の前記両面接着フィルムの他方の面に76.2×25.4のポリカーボネートフィルム(フィルム厚300μm)を貼着してハイブリダイズ装置とした。このハイブリダイズ装置は、アレイに対して装着されることによりアレイ上を長円状に区画してキャビティを形成し、そのキャビティの長径方向に沿った両端部には、ハイブリダイズ液供給用の開口をそれぞれ有していた。本ハイブリダイズ装置は、ポリカーボネートフィルムに替えてガラスプレート(厚み300μm)を用いる以外は実施例と同様に操作して対照例のハイブリダイズ装置とした。実施例および対照例のハイブリダイズ装置について次の方法でハイブリダイゼーションを実施し、次いで、シグナル強度を蛍光測定し、数値解析した。
【0066】
ハイブリダイゼーションは、作製したアレイにハイブリダイズ装置を貼着し、一つの開口から作製した標識cDNA(終濃度5×SSC、0.5%SDS)を130μL注入し、双方の開口を封止した。この状態のアレイとハイブリダイズ装置とを、42℃で16時間(湿度は特に調整せず)で静置状態でハイブリダイゼーションした。16時間経過後、ハイブリダイズ装置をアレイから剥離し、アレイを(2×SSC、0.1%SDS)溶液、(1×SSC)溶液および(0.1×SSC)溶液の順でそれぞれの溶液内で5分間振とうして洗浄した。ついで、アレイを遠心(1000rpm、3分間)して乾燥させた後、スキャナーで(Scan Array 4000、Packard BioChip Technologies社製)で蛍光を測定し、数値解析ソフト(Gene Pix Pro、Axon社製)で蛍光強度の数値化を行った。得られた数値に基づいて蛍光強度の比較を行った結果を図5に示す。
【0067】
図5に示すように、ポリカーボネートフィルムを用いた実施例のハイブリダイズ装置を用いることで、ガラス製のハイブリダイズ装置を用いるよりも高いシグナル強度(約2.5倍)が得られることがわかった。すなわち、実施例のハイブリダイズ装置を用いることでハイブリダイズ反応の効率が向上されることがわかった。
【0068】
(実施例2)
本実施例は、カバー部材の対向領域(基板の核酸固定領域に対向するカバー部材の領域)の厚みとシグナル強度の変動係数との関係を評価した例である。シグナル強度の変動係数はハイブリダイゼーションの良否を示す有効な指標の一つである。本実施例では、ポリカーボネートフィルムとして膜厚が300μmと100μmのものとをそれぞれ使用して2種類のハイブリダイズ装置を作製した以外は、実施例1と同様に操作して、同一遺伝子のcDNAがスポットされた9点のスポットのシグナル強度を測定し、変動係数を算出した。結果を図6に示す。
【0069】
図6に示すように、対向領域の厚みが300μmであるハイブリダイズ装置を用いることで、同厚みが100μmを用いるよりもシグナル強度の変動係数がおおよそ半分以下となった。なお、シグナル強度の平均はほぼ同一であった。この結果から、対向領域の厚みを厚くすることで核酸固定領域の異なる位置におけるハイブリダイズ反応が均質化され、精度および再現性の良好なハイブリダイズ反応を実施できることがわかった。
【0070】
(実施例3)
本実施例は、ハイブリダイズ装置が形成するキャビティの空間高さ(変動係数)の制御とシグナル強度の変動係数との関係を評価した例である。本実施例では、以下のように作製したハイブリダイズ装置を用いる以外は、実施例1と同様に操作して、同一遺伝子のcDNAがスポットされた9点のスポットのシグナル強度を測定し、その変動係数を算出した。ハイブリダイズ装置は、スペーサ材料として高さが160μmのものを用い、このスペーサ−材料に積層されるポリカーボネートフィルム(膜厚、平均値300μm)の対向領域となる部分をおおよそ30mm×10mm程度の範囲でアレイ側に凸状に変形させて、最終的に得られるキャビティの空間高さの最大値と最小値とから求めた変動係数が10%〜100%(10%きざみで)となるように10種類のハイブリダイズ装置を作製した。空間高さの平均値および変動係数は、既に説明した高さー表面うねり量法による測定した。分割線としては、キャビティを長手方向に8等分割するように7本の分割線をひき、短手方向に4等分割する3本の分割線をひいた上、これらの分割線上においてそれぞれ周縁高さと表面うねり量の最高値と最低値とを求めた。また、周縁高さは、デジタル測長機(デジマイクロ、株式会社Nikon製)によって測定し、表面のうねり量は、表面粗さ形状測定機(サーフコム、株式会社東京精密製)にて測定した。結果を図7に示す。
【0071】
図7に示すように、全体としては、空間高さの変動係数が増大するにつれシグナル強度の変動係数も増大したが、空間高さの変動係数が50%以下の範囲では、シグナル強度の変動係数は20%以下に抑制されるとともに、シグナル強度の変動係数の増加割合もかったが、空間高さの変動係数が50%を超えると、シグナル強度の変動係数が増大し、またその増加割合も大きくなった。以上のことから、キャビティの空間高さの変動係数は50%以下であることが好ましいことがわかった。
【0072】
(実施例4)
本実施例は、ハイブリダイズ装置が形成するキャビティの空間高さ(寸法)の制御とシグナル強度の変動係数との関係を評価した例である。本実施例では、以下のように作製したハイブリダイズ装置を用いる以外は、実施例1と同様に操作して、同一遺伝子のcDNAがスポットされた9点のスポットのシグナル強度を測定し、その変動係数を算出した。ハイブリダイズ装置は、スペーサ材料として高さが5μm、10μm、15μm、20μm、40μm、80μm、120μm、160μm、180μmを用いるとともに、これら各種の高さのスペーサ−材料に積層されるポリカーボネートフィルム(膜厚、平均値300μm)の対向領域となる部分をおおよそ30mm×10mm程度の範囲でアレイ側に凸状に変形させて、最終的に得られるキャビティの空間高さの最大値と最小値とから求めた変動係数が50%となるように9種類のハイブリダイズ装置を作製した。空間高さの平均値および変動係数の算出は、実施例3と同様に行った。結果を図8に示す。
【0073】
図8に示すように、キャビティの空間高さが小さくなるとシグナル強度の変動係数は顕著に大きくなる一方、15μm以上であれば30%以下であり、20μm以上であればほぼ安定して20%程度であった。以上のことから、キャビティの空間高さは15μm以上200μm以下の範囲でシグナル強度の変動係数を抑制できることから再現性の高いハイブリダイズ反応が実現できることがわかった。
【0074】
(実施例5)
本実施例は、ハイブリダイズ装置が形成するキャビティ内の液体を攪拌(回転式)することとシグナル強度との関係を評価した例である。本実施例は、以下のような操作及びハイブリダイズ条件を用いる以外は、実施例1と同様に行い、蛍光強度の数値化を行った。すなわち、標識cDNAの注入量を110μLとし、ハイブリダイズ温度を60℃とし、ハイブリダイゼーションの間(16時間)、アレイとハイブリダイズ装置とを、ハイブリダイゼーション装置(TAITEC社製HYBRIDIZATION INCUBATOR(HB−100))の回転式ユニットの回転軸に対してアレイの重心が半径約75mmの位置になるようにセットした状態で回転数を4rpmとして動かした。この回転条件によれば、ハイブリダイゼーション中、いずれのアレイのキャビティ中の空気(約20μL、15vol%)は、その形態をおおよそ維持した状態でキャビティ内をゆっくりと移動していた。なお、ハイブリダイゼーション中静置する以外は上記と同様に操作したものを対照例として同様に蛍光強度の数値化を行った。この結果を図10に示す。
【0075】
図10に示すように、基板とハイブリダイズ装置とを回転した実施例5のシグナル強度は、対照例のシグナル強度の約5倍であった。また、CVも対照例が13%であるのに対し、実施例5は5%であった。以上のことから、基板とハイブリダイズ装置とで構成されるキャビティ内に空気(ガス)を内在させ、この空気が移動するように基板とハイブリダイズ装置とを動作(回転)させることで、ハイブリダイゼーション効率を向上させ、シグナル強度を向上させられることがわかった。シグナル強度の向上は、精度と再現性の向上に大きく寄与するため、こうした撹拌形態によれば精度と再現性の向上とを向上させることができる。
【0076】
なお、チャンバーにおける空気量を5vol%、30vol%及び50vol%となるように標識cDNAの注入量を65μL、90μL及び113.5μlの3種類とした以外は、上記と同様に操作しハイブリダイズするとともに、対照例も同時に準備して蛍光強度の数値化を行った。その結果、いずれの空気量であっても、対照例の約5倍のシグナル強度を示した。以上のことから、空気量が5vol%以上50vol%以下の範囲において、好ましいハイブリダイゼーション効率が得られていることがわかった。
【0077】
(実施例6)
本実施例は、ハイブリダイズ装置が形成するキャビティ内の液体を攪拌(シーソー式)することとシグナル強度との関係を評価した例である。本実施例は、図11に示す構造のカバー部材を用いて容積400μLのキャビティを構成した点、及び以下のような操作及びハイブリダイズ条件を用いる以外は、実施例1と同様に行い、蛍光強度の数値化を行った。
【0078】
本実施例のハイブリダイズ装置(カバー部材110)は、以下のように作製した。まず、アクリル樹脂をスペーサ形状に切削加工してアクリル樹脂片102を作製した。一方、剥離可能な粘着層を有する片面シールを両面シールの接着層に積層しアクリル樹脂片102と同形状に打ち抜いてシール材104を作製した。また、両面シールのみをアクリル樹脂片102と同形状に打ち抜いたシール材106も作製した。次に、アクリル樹脂片102の片面にシール材104を貼着し、他の面にシール材106を貼着した。この積層体のシール材106の接着層にポリカーボネート製フィルム(厚み0.3mm、注入口加工済み)107を積層した。さらに、アクリル樹脂片102よりやや外側に膨出した輪郭を有するシリコンゴム片108を準備し、このシリコンゴム片108を、シール材104の剥離可能な粘着層に対して、その周縁がアクリル樹脂片102よりも外側にはみ出すようにして貼着し、カバー部材110(総厚5mm)を作製した。このカバー部材を実施例1と同様にして作製したアレイに貼り付けて、真空状態(−98kPa)で30分以上放置した。こうして本実施例のハイブリダイズ装置により反応用のキャビティを構築した。
【0079】
また、標識cDNAの注入量を200μLとし、ハイブリダイズ温度を60℃とし、ハイブリダイゼーションの間(16時間)、アレイとハイブリダイズ装置とを、ハイブリダイゼーション装置(Labnet International社製Benchtop Rocker(35/35D))を用いて、上下動角度±20°、上下動回数50回/分のシーソー条件でアレイ(基板)及びハイブリダイズ装置とを動かした。アレイは、その重心がシーソーの支点に一致するようにセットした。このシーソー条件によれば、ハイブリダイゼーション中、キャビティ中の空気(約200μL、50vol%)は、その形態をおおよそ維持した状態でキャビティ内をゆっくりと移動していた。なお、ハイブリダイゼーション中静置する以外は上記と同様に操作したものを対照例として同様に蛍光強度の数値化を行った。
【0080】
この結果、基板とハイブリダイズ装置とをシーソー式で動かした実施例6のシグナル強度は、対照例のシグナル強度の約5倍であった。以上のことから、基板とハイブリダイズ装置とで構成されるキャビティ内に空気(ガス)を内在させ、この空気が移動するように基板とハイブリダイズ装置とを動作(シーソー運動)させることで、ハイブリダイゼーション効率を向上させ、シグナル強度を向上させられることがわかった。シグナル強度の向上は、精度と再現性の向上に大きく寄与するため、こうした撹拌形態によれば精度と再現性の向上とを向上できる。
【0081】
また、本実施例におけるカバー部材110は、タブ層として機能するシリコンゴム片108を有しているため、アレイに負担をかけることなくまた小さな力でカバー部材110を基板から分離させることができた。
【0082】
本発明は、2004年7月29日に出願された日本国特許出願2004−221807号を優先権主張の基礎としており、その内容のすべてが編入される。
【0083】
なお、本願の原出願の特許請求の範囲に記載された請求項は以下のとおりである。本明細書においても、以下の各請求項に係る発明が開示されている。
[請求項1]
核酸のハイブリダイズ反応のためのハイブリダイズ装置であって、
核酸プローブが固定される基板の該核酸プローブの固定領域を含んで前記ハイブリダイズ反応のための液体を貯留可能なキャビティを形成可能なカバー部材を備え、
前記キャビティの内部に露出される領域の少なくとも一部に疎水性領域を有している、装置。
[請求項2]
前記カバー部材の少なくとも一部に疎水性領域を有している、請求項1に記載の装置。
[請求項3]
前記カバー部材は、前記核酸プローブの固定領域に対向する領域に前記疎水性領域を有している、請求項1または2に記載の装置。
[請求項4]
前記疎水性領域は、水の接触角が30°以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の装置。
[請求項5]
核酸のハイブリダイズ反応のためのハイブリダイズ装置であって、
核酸プローブが固定される基板の該核酸プローブの固定領域を含んで前記ハイブリダイズ反応のための液体を貯留可能なキャビティを形成するカバー部材を備え、
前記カバー部材の前記核酸プローブの固定領域に対向する領域はその厚みが300μm以上である、装置。
[請求項6]
前記カバー部材は前記キャビティ内に露出される領域の少なくとも一部に疎水性領域を有している、請求項5に記載の装置。
[請求項7]
核酸のハイブリダイズ反応のためのハイブリダイズ装置であって、
核酸プローブが固定される基板の該核酸プローブの固定領域を含んで前記ハイブリダイズ反応のための液体を貯留可能なキャビティを形成するカバー部材を備え、
前記キャビティ内の前記核酸プローブの固定領域における空間高さの変動係数が50%以下である、装置。
[請求項8]
前記空間高さの平均値が15μm以上である、請求項7に記載の装置。
[請求項9]
前記カバー部材は前記キャビティ内に露出される領域の少なくとも一部に疎水性領域を有している、請求項7または8に記載の装置。
[請求項10]
前記カバー部材は、少なくともシート体と、該シート体と前記基板との間に介在させるスペーサと、を備える、請求項1〜9のいずれかに記載の装置。
[請求項11]
前記カバー部材の前記核酸プローブの固定領域に対向する領域には前記チャンバー内に液体を供給するための開口を有し、該開口はその一部によって前記キャビティを構成する内周壁が外側に膨出した膨出状部を構成するように形成されている、請求項1〜10のいずれかに記載の装置。
[請求項12]
前記開口は、前記キャビティの長尺方向の両端部位にそれぞれ形成されている、請求項11に記載の装置。
[請求項13]
前記カバー部材の前記核酸プローブの固定領域に対向する領域を形成する材料は、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、アクリル樹脂ならびにこれらのフッ化物およびポリハロゲン化ビニルからなる群から選択される1種あるいは2種以上である、請求項1〜12のいずれかに記載の装置。
[請求項14]
前記カバー部材の前記核酸プローブの固定領域に対向する領域には、凹部及び/又は凸部を有している、請求項1〜13のいずれかに記載の装置。
[請求項15]
前記カバー部材は、前記基板に剥離可能に一体化され、前記基板及び前記カバー部材の外延から露出され把持可能な露出端部を有するタブ層を備える、請求項1〜14のいずれかに記載の装置。
[請求項16]
核酸のハイブリダイズ方法であって、
核酸プローブが固定された固定領域を有する基板に対して請求項1〜14のいずれかに記載の核酸のハイブリダイズ反応のためのハイブリダイズ装置をセットするセット工程と、
前記固定領域を含んで形成されたキャビティ内において該キャビティに供給された被験核酸を含有する液体中の該被験核酸と前記核酸プローブとのハイブリダイズ反応を実施するハイブリダイズ工程と、
を備える、方法。
[請求項17]
前記ハイブリダイズ工程は、前記基板と前記ハイブリダイズ装置とを静置して行う、請求項16に記載の方法。
[請求項18]
前記ハイブリダイズ工程は、前記キャビティ内の液体を攪拌することを含む、請求項17に記載の方法。
[請求項19]
前記ハイブリダイズ工程は、前記キャビティ内にガスを存在させた状態で実施する工程である、請求項18に記載の方法。
[請求項20]
前記ハイブリダイズ工程は、前記ガスをキャビティ内で移動させて前記液体を撹拌することを含む、請求項19に記載の方法。
[請求項21]
前記ハイブリダイズ工程は、前記キャビティを形成した基板及びハイブリダイズ装置を動かして行うことを含む、請求項18〜20のいずれかに記載の方法。
[請求項22]
核酸のハイブリダイズ方法であって、
核酸プローブが固定された固定領域を有する基板の前記固定領域を含んでハイブリダイズのための液体を貯留可能に形成されたキャビティ内において該キャビティに供給された被験核酸を含有する液体中の該被験核酸と前記核酸プローブとのハイブリダイズ反応を実施する工程、を備え、
前記ハイブリダイズ工程は前記キャビティ内に存在させたガスを移動させて前記液体を撹拌することを含む、方法。
[請求項23]
核酸のハイブリダイズ反応のためのハイブリダイズ反応キットであって、
核酸プローブが固定されるための固定領域を有する基板と、
該基板の前記核酸プローブの固定領域を含んで前記ハイブリダイズ反応のための液体を貯留可能なキャビティを形成するカバー部材を備え、
前記キャビティの内部に露出される領域の少なくとも一部に疎水性領域を有している、キット。
[請求項24]
前記カバー部材は、前記基板に剥離可能に一体化され、前記基板及び前記カバー部材の外延から露出され把持可能な露出端部を有するタブ層を備える、請求項23に記載のキット。
[請求項25]
核酸のアレイであって、
1あるいは2以上の核酸プローブが固定された固定領域を有する基板と、
前記固定領域を含んで核酸ハイブリダイズ反応のための液体を貯留可能なキャビティを形成するカバー部材と、
を備え、
前記キャビティ内部に露出される少なくとも一部に疎水性領域を有する、アレイ。
[請求項26]
前記カバー部材は前記基板に対して分離可能に装着されている、請求項25に記載のアレイ。
[請求項27]
前記基板と前記カバー部材とは、前記基板に剥離可能に一体化され、前記基板及び前記カバー部材の外延から露出され把持可能な露出端部を有するタブ層を介して積層されている請求項25又は26に記載のアレイ。
【符号の説明】
【0084】
2 ハイブリダイズ装置、 4 基板、 5 シール層、 6 核酸固定領域、 8 スペーサ、10 カバー部材、10a 平板状体、12 キャビティ、14 対向領域、16 疎水性領域、20 開口、30 タブ層、32 露出端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸のハイブリダイズ反応のためのハイブリダイズ装置であって、
核酸プローブが固定される基板の該核酸プローブの固定領域を含んで前記ハイブリダイズ反応のための液体を貯留可能なキャビティを形成するカバー部材を備え、
前記カバー部材の前記核酸プローブの固定領域に対向する領域はその厚みが300μm以上である、装置。
【請求項2】
前記キャビティ内の前記核酸プローブの固定領域における空間高さの変動係数が50%以下である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記空間高さの平均値が15μm以上である、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記カバー部材は、少なくともシート体と、該シート体と前記基板との間に介在させるスペーサと、を備える、請求項1〜3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記カバー部材の前記核酸プローブの固定領域に対向する領域には前記チャンバー内に液体を供給するための開口を有し、該開口はその一部によって前記キャビティを構成する内周壁が外側に膨出した膨出状部を構成するように形成されている、請求項1〜4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
前記開口は、前記キャビティの長尺方向の両端部位にそれぞれ形成されている、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記カバー部材の前記核酸プローブの固定領域に対向する領域を形成する材料は、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、アクリル樹脂ならびにこれらのフッ化物およびポリハロゲン化ビニルからなる群から選択される1種あるいは2種以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
前記カバー部材の前記核酸プローブの固定領域に対向する領域には、凹部及び/又は凸部を有している、請求項1〜7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
前記カバー部材は、前記基板に剥離可能に一体化され、前記基板及び前記カバー部材の外延から露出され把持可能な露出端部を有するタブ層を備える、請求項1〜8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
核酸のハイブリダイズ方法であって、
核酸プローブが固定された固定領域を有する基板に対して請求項1〜9のいずれかに記載の核酸のハイブリダイズ反応のためのハイブリダイズ装置をセットするセット工程と、
前記固定領域を含んで形成されたキャビティ内において該キャビティに供給された被験核酸を含有する液体中の該被験核酸と前記核酸プローブとのハイブリダイズ反応を実施するハイブリダイズ工程と、
を備える、方法。
【請求項11】
前記ハイブリダイズ工程は、前記基板と前記ハイブリダイズ装置とを静置して行う、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ハイブリダイズ工程は、前記キャビティ内の液体を攪拌することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ハイブリダイズ工程は、前記キャビティ内にガスを存在させた状態で実施する工程である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ハイブリダイズ工程は、前記ガスをキャビティ内で移動させて前記液体を撹拌することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ハイブリダイズ工程は、前記キャビティを形成した基板及びハイブリダイズ装置を動かして行うことを含む、請求項12〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
核酸のハイブリダイズ反応のためのハイブリダイズ反応キットであって、
核酸プローブが固定されるための固定領域を有する基板と、
該基板の前記核酸プローブの固定領域を含んで前記ハイブリダイズ反応のための液体を貯留可能なキャビティを形成するカバー部材を備え、
前記カバー部材の前記核酸プローブの固定領域に対向する領域はその厚みが300μm以上である、キット。
【請求項17】
前記カバー部材は、前記基板に剥離可能に一体化され、前記基板及び前記カバー部材の外延から露出され把持可能な露出端部を有するタブ層を備える、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
核酸のアレイであって、
1あるいは2以上の核酸プローブが固定された固定領域を有する基板と、
前記固定領域を含んで核酸ハイブリダイズ反応のための液体を貯留可能なキャビティを形成するカバー部材と、
を備え、
前記カバー部材の前記核酸プローブの固定領域に対向する領域はその厚みが300μm以上である、アレイ。
【請求項19】
前記カバー部材は前記基板に対して分離可能に装着されている、請求項18に記載のアレイ。
【請求項20】
前記基板と前記カバー部材とは、前記基板に剥離可能に一体化され、前記基板及び前記カバー部材の外延から露出され把持可能な露出端部を有するタブ層を介して積層されている請求項18又は19に記載のアレイ。
【請求項21】
核酸のハイブリダイズ反応のためのハイブリダイズ装置であって、
核酸プローブが固定される基板の該核酸プローブの固定領域を含んで前記ハイブリダイズ反応のための液体を貯留可能なキャビティを形成するカバー部材を備え、
前記キャビティ内の前記核酸プローブの固定領域における空間高さの変動係数が50%以下である、装置。
【請求項22】
核酸のハイブリダイズ方法であって、
核酸プローブが固定された固定領域を有する基板の前記固定領域を含んでハイブリダイズのための液体を貯留可能に形成されたキャビティ内において該キャビティに供給された被験核酸を含有する液体中の該被験核酸と前記核酸プローブとのハイブリダイズ反応を実施する工程、を備え、
前記ハイブリダイズ工程は前記キャビティ内に存在させたガスを移動させて前記液体を撹拌することを含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図9】
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【図11】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−104380(P2010−104380A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22302(P2010−22302)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【分割の表示】特願2006−527900(P2006−527900)の分割
【原出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】