説明

ハイブリダイゼーション用カートリッジ、ハイブリダイゼーション装置およびハイブリダイゼーション方法

【課題】 試料DNA等の検体の電極への吸着等を抑制し、電極から発生するガスのハイブリダイゼーションへの影響を排除することができる、ハイブリダイゼーション用カートリッジ等を提供すること。
【解決手段】 本発明のハイブリダイゼーション用カートリッジ1は、貫通孔28が形成されたゲル保持チップ26を支持する板状のチップ支持部材18と、少なくとも一部分が貫通孔と対向するようにチップ支持部材の一側面に隣接して設けられた第1の収容部32と、第1の収容部のチップ支持部材と反対側で貫通孔と対向するように配置された第1の半透膜14と、少なくとも一部分が貫通孔と対向するようにチップ支持部材の他側面に隣接して設けられた第2の収容部34と、第2の収容部のチップ支持部材と反対側で貫通孔と対向するように配置された第2の半透膜16とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリダイゼーション用カートリッジ、ハイブリダイゼーション装置およびハイブリダイゼーション方法に関し、より詳細には、電気泳動を利用したハイブリダイゼーションに用いるハイブリダイゼーション用カートリッジ、ハイブリダイゼーション装置および電気泳動を利用したハイブリダイゼーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子を利用した病気の診断、予測等に有用なDNAチップ等のバイオチップが開発されている。このようなDNAチップとして、束ねた多数の中空繊維を樹脂で一体化して柱状の中空繊維配列体とし、中空繊維の中空部にプローブをゲルと共に導入してゲル内に固定化した後、この中空繊維配列体を中空繊維が延びる方向と直交する方向にスライスしたチップが知られている(特許文献1)。
【0003】
このようなプローブがゲル内に固定化されたチップを用いたハイブリダイゼーションとしては、試料DNA等を含む検体をゲル内で電気泳動により強制的に移動させながらゲル内のプローブとハイブリダイズさせる方法が知られている(特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−270878号公報
【特許文献2】特開2000−60554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2で開示されているような電気泳動を利用したハイブリダイゼーション方法では、試料DNA等を含む検体溶液に電極が接触するため、電極への検体の吸着、電極反応による検体の変質等によって、ハイブリダイゼーション効率が低下するという問題があった。
また、電気分解により電極から発生するガスの気泡によって、検体が意図した方向に泳動することが阻害され、ハイブリダイゼーションの効率が低下するという問題もあった。
【0006】
本発明は、試料DNA等の検体の電極への吸着、電極反応による検体の変質を抑制し、また電極から発生するガスのハイブリダイゼーションへの影響を排除することができる、ハイブリダイゼーション用カートリッジ、ハイブリダイゼーション装置およびハイブリダイゼーション方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ハイブリダイゼーション用カートリッジであって、貫通孔が形成されたゲル保持チップを支持する板状のチップ支持部材と、少なくとも一部分が前記貫通孔と対向するように該チップ支持部材の一側面に隣接して設けられた第1の収容部と、該第1の収容部の前記チップ支持部材と反対側で前記貫通孔と対向するように配置された第1の半透膜と、少なくとも一部分が前記貫通孔と対向するように前記チップ支持部材の他側面に隣接して設けられた第2の収容部と、該第2の収容部の前記チップ支持部材と反対側で前記貫通孔と対向するように配置された第2の半透膜と、を備えている、ことを特徴とするハイブリダイゼーション用カートリッジが提供される。
【0008】
このような構成によれば、試料DNA等の検体は、ハイブリダイゼーション用カートリッジの第1の収容部又は第2の収容部に収容された状態で、ハイブリダイゼーション装置の電極間に配置されるので、試料DNA等の検体が電極に接触することがない。従って、検体が電極に接触することに起因する上述の問題の発生が回避される。
【0009】
また、第1の収容部、第2の収容部等がカートリッジ内に設けられているので、検体毎に新しいカートリッジを使用することにより、前に行なわれたハイブリダイゼーションで用いた検体が、後のハイブリダイゼーション処理に混入して汚染が発生する可能性が極めて低くなる。
【0010】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記チップ支持部材が、着脱可能である。
このような構成によれば、ハイブリダイゼーション処理後に、チップ支持部材をカートリッジから取り外して、チップ支持部材のみを未反応の検体を取り除く洗浄工程等に移すことができるで、洗浄工程等の効率が向上する。
【0011】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記チップ支持部材の一側面に凹部が形成され、前記第1の収容部の少なくとも一部が前記凹部によって構成されている。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記チップ支持部材の一側面に凹部が形成され、前記第1の収容部が前記凹部によって構成されている。
【0012】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記凹部が外方に向かって開放する開口を備え、該開口が前記凹部への検体導入口を構成する。
このような構成によれば、外方に向かって開放する開口を通して第1の収容部又は第2の収容部に検体を含むサンプル液を注入することができる。
【0013】
本発明の他の態様によれば、ハイブリダイゼーション処理が行なわれたゲル保持チップから、未反応の検体を除去する洗浄処理で使用される洗浄用カートリッジであって、貫通孔が形成されたゲル保持チップを支持する板状のチップ支持部材と、少なくとも一部分が前記貫通孔と対向するように該チップ支持部材の一側面に隣接して設けられた第1のバッファ液収容部と、該第1のバッファ液収容部の前記チップ支持部材と反対側で前記貫通孔と対向するように配置された第1の半透膜と、少なくとも一部分が前記貫通孔と対向するように前記チップ支持部材の他側面に隣接して設けられた第2のバッファ液収容部と、該第2のバッファ液収容部の前記チップ支持部材と反対側で前記貫通孔と対向するように配置された第2の半透膜と、を備えている、ことを特徴とする洗浄用カートリッジが提供される。
【0014】
本発明の他の態様によれば、ハイブリダイゼーション装置であって、バッファ液槽と、バッファ液槽内に配置され、対向して配置された一対の電極と、検体とゲル保持チップとが隣接して配置されたハイブリダイゼーション用カートリッジを前記一対の電極間に配置するカートリッジ収容部とを有するハイブリダイゼーション部と、前記バッファ液槽内に配置され、前記ゲル保持チップをバッファ液内で支持してゲル保持チップの洗浄を行なう洗浄部と、を備えていることを特徴とするハイブリダイゼーション装置が提供される。
【0015】
このような構成によれば、ハイブリダイゼーションが行われるハイブリダイゼーション部と洗浄が行なわれる洗浄部とが設けられているので、それぞれの処理が効率的に行なわれる。
【0016】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記ハイブリダイゼーション用カートリッジが、貫通孔が形成されたゲル保持チップを支持する板状のチップ支持部材と、少なくとも一部分が前記貫通孔と対向するように該チップ支持部材の一側面に隣接して設けられた第1の収容部と、該第1の収容部の前記チップ支持部材と反対側で前記貫通孔と対向するように配置された第1の半透膜と、少なくとも一部分が前記貫通孔と対向するように前記チップ支持部材の他側面に隣接して設けられた第2の収容部と、該第2の収容部の前記チップ支持部材と反対側で前記貫通孔と対向するように配置された第2の半透膜と、を備えているハイブリダイゼーション用カートリッジであって、前記一対の電極は、前記ハイブリダイゼーション用カートリッジが前記ハイブリダイゼーション部に配置されたとき、前記ハイブリダイゼーション用カートリッジの第1および第2の半透膜に対向するように位置決めされている。
このような構成によれば、電極による電気泳動が効率的に行なわれので、ハイブリダイゼーションの効率も向上する。
【0017】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記洗浄部が一対の電極を備え、前記ゲル保持チップは前記洗浄部で支持されたとき、前記一対の電極間に位置決めされる。
このような構成によれば、ゲル保持チップ内の未反応の検体が、電極によって電気泳動されるので、未反応の検体を除去する洗浄が効率的に行なわれる。
【0018】
本発明の他の態様によれば、ハイブリダイゼーション方法であって、バッファ液を収容したバッファ液槽内に設けられたカートリッジ収容部の一対の電極間に、検体とゲル保持チップとが隣接して配置されたハイブリダイゼーション用カートリッジを配置するステップと、前記電極に電圧を印加して前記検体を前記ゲル保持チップの前記貫通孔に充填されたゲル内で電気泳動させ、前記ゲル内のプローブとハイブリダイゼーションさせるステップと、前記ゲル保持チップを、前記バッファ液槽内に設けられた洗浄部に移動させるステップと、前記ゲル保持チップを前記洗浄部でバッファ液に浸漬し、前記ゲル内に残留した未反応の検体を除去するステップと、を備えている、ことを特徴とするハイブリダイゼーション方法が提供される。
【0019】
このような構成によれば、試料DNA等の検体は、ハイブリダイゼーション用カートリッジに収容された状態で、電気泳動用の電極間に配置されるので、試料DNA等の検体が電極に接触することがない。従って、検体が電極に接触することに起因する上述の問題が解消される。
【0020】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記除去ステップが、電気泳動を利用して行なわれる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、試料DNA等の検体の電極への吸着、電極反応による検体の変質を抑制し、また電極から発生するガスのハイブリダイゼーションへの影響を排除することができる、ハイブリダイゼーション用カートリッジ、ハイブリダイゼーション装置およびハイブリダイゼーション方法等が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態のハイブリダイゼーション用カートリッジ、ハイブリダイゼーション装置およびハイブリダイゼーション方法について詳細に説明する。
まず、図1ないし図3に沿って、ハイブリダイゼーション用カートリッジの構造について説明する。図1は、本実施形態のハイブリダイゼーション用カートリッジ1の斜視図、図2は図1のハイブリダイゼーション用カートリッジ1の分解斜視図、図3は図1のIII-III線に沿った断面図である。
【0023】
ハイブリダイゼーション用カートリッジ1は、内部に支持されているゲル保持チップ(DNAチップ)の貫通孔内のゲル内に固定化されているDNAプローブに、ゲル保持チップに隣接する第1の収容部に注入されたサンプル液に含まれる検体(検体DNA等)をハイブリダイゼーションさせる際に使用されるカートリッジである。
【0024】
図1ないし図3に示されているように、ハイブリダイゼーション用カートリッジ1は、本体2を備えている。本体2は、厚さが薄い直方体形状であり、上方に向かって開口する板状の内部空間4を有している。本体2の両側壁6、8の上下方向中央よりやや下方の位置には、内部空間4に連通する円形開口10、12が形成されている。図3に示されているように、円形開口10、12は整列して配置されている。また、円形開口10、12には、それぞれ半透膜14、16が取付けられ、本体2の内部空間4の側部が、半透膜14、16を介して、外部と連通するように構成されている。
【0025】
半透膜14、16としては、後述する第1の収容部に収容する検体DNA等の検体を透過させず、検体を含む溶液中の水や塩類のような低分子は透過させる特性を有するものであり、本実施形態では、機械的強度に優れ、取り扱いおよびおよび入手の容易性から、セルロース膜が使用されている。しかしながら、半透膜14、16として、ゼラチン膜、アセテート膜、アクリルアミド系ポリマーやポリビニルアルコール等のハイドロゲル等を用いてもよい。
【0026】
図2に示されているように、ハイブリダイゼーション用カートリッジ1は、さらに、細長い板状のチップ支持部材18を備えている。チップ支持部材18の両側面には、チップ支持部材18を略全長にわたって縦断して延びる凹部20、22が形成されている(図1および図2には、一方の凹部のみを図示)。凹部20、22の最下部には、チップ支持部材18を貫通する矩形の開口24が形成され、この開口24にゲル保持チップ26が着脱可能に取付けられている。ゲル保持チップ26は、多数の貫通孔28を備え、この貫通孔28内にDNAプローブがゲル30とともに充填された矩形の板状部材である。ゲル保持チップ26は、貫通孔28がチップ支持部材18の一方の側面から他方の側面に向かって延びるように開口22に取付けられている(図3)。なお、図3では、明確化のため貫通孔28が誇張されて実際より大きく描がれている。
【0027】
本実施形態では、ゲル保持チップ26として、上述した特許文献1に記載されているような、多数の中空繊維を樹脂で一体化して柱状の中空繊維配列体とし、中空繊維の中空部にプローブをゲル30と共に注入してゲル30内に固定化した後、この中空繊維配列体を中空繊維の長手方向と交叉する方向にスライスすることによって製造されたチップが使用されている。しかしながら、ゲル保持チップ26は、このような中空繊維配列体用いたチップに限定されるものではない。例えば、特開2000−60554号に記載の樹脂板に複数の貫通孔が形成され、各貫通孔にゲルを介してプローブが保持されているチップも使用可能である。
【0028】
チップ支持部材18は、幅方向の横断面形状が本体2の内部空間4の横断面形状に略等しく、ゲル保持チップ26を支持する側から本体2の上端の開口から内部空間4内に挿入され、図1に示されているように本体2内に収容される。チップ支持部材18が本体2に完全に収容されたとき、チップ支持部材18の上端部18aは、本体2の上方に突出した状態となる(図1)。
【0029】
このとき、チップ支持部材18に取付けられたゲル保持チップ26は、本体2の開口10、12間に配置され、開口10、12に取付けられた半透膜14、16と対向する(図3)。さらに、図3に示されているように、チップ支持部材18の両側面の凹部20、22によって、本体2とチップ支持部材18の間に、2つの空間が32、34が形成される。すなわち、チップ支持部材18によって本体2の内部空間4が、2つの空間32、34に分割される。一方の空間32(または34)がサンプル液を収容する第1の収容部となり、他方の空間34(または32)がバッファ液を収容する第2の収容部となる。これらの空間32、34は、一方に収容されている流体が他方に漏れ出さないように、流体密に構成されている。
上述では、第1の収容部及び第2の収容部が、流体密となっている実施形態を説明したが、他の実施形態として、第1の収容部及び第2の収容部が、連通していても良い。
【0030】
図1および図3に示されているように、チップ支持部材18の上端部は、本体2の上方に突出しているので、これらの空間32、34は、チップ支持部材18の上端部で外方に向って開口し、外部と連通することになる。
【0031】
開口10、12および半透膜14、16は、対向するゲル保持チップ26の少なくとも貫通孔28が形成されている部分と等しいかあるいはこれより大きな面積を有し、この貫通孔28が形成されている部分を覆うように構成されている。
【0032】
本体2およびチップ支持部材18の材質は、サンプル液およびバッファ液に対して化学的に安定であって、イオンやその他の成分をサンプル液およびバッファ液に溶出させにくく、且つサンプル液中の検体分子の吸着が少ないものを用いることが好ましい。本実施形態では、アクリル樹脂が用いられているが、ブチルゴム、二トリルゴム、シリコンゴム、テトラフルオロエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂等を用いても良い。
【0033】
次に、図4ないし図6に沿って、洗浄用カートリッジ40の構造を説明する。図4は、本実施形態の洗浄用カートリッジ40の斜視図、図5は図4の洗浄用カートリッジ1の分解斜視図、図6は図4のVI-VI線に沿った断面図である。
【0034】
洗浄用カートリッジ40は、ハイブリダイゼーション処理が行なわれたゲル保持チップ26から未反応の検体を除去する洗浄処理で使用されるカートリッジであり、ハイブリダイゼーション用カートリッジ1から取り出したチップ支持部材18’を装填して、チップ支持部材18’に取付けられているゲル保持チップ26’内から未反応の検体を除去する洗浄処理を行なうものである。
【0035】
図4ないし図6に示されているように、洗浄用カートリッジ40は、本体42を備えている。本体42は、直方体形状であり、上方に向かって開口する板状の内部空間44を有している。洗浄用カートリッジ40の内部空間44の厚さ(T2)は、ハイブリダイゼーション用カートリッジ1の内部空間4の厚さ(T1)より大きく設定されており、したがって、洗浄用カートリッジ40の内部空間44は、ハイブリダイゼーション用カートリッジ1の内部空間4より大きな容積を有している。
【0036】
本体42の両側壁46、48の上下方向中央よりやや下方の位置には、内部空間44に連通する円形開口50、52が形成されている。図6に示されているように、円形開口50、52は整列して配置されている。また、円形開口50、52には、それぞれ半透膜54、56が取付けられ、本体42の内部空間44の側部が、半透膜54、56を介して、外部と連通するように構成されている。半透膜54、56としては、ハイブリダイゼーション用カートリッジ1の半透膜14、16と同様の材質が使用されている。
【0037】
図5に示されているように、本体42の内壁すなわち内部空間44側の壁には、チップ支持部材18を内部空間44内で支持する一対のガイド58、60が設けられている。図5に示されているように、ガイド58、60は、断面「コ」字状のレールであり、ガイド58、60間にチップ支持部材18を挟持することによって、チップ支持部材18’を図4に示される内部空間44内の所定位置に配置することができるように構成されている。
【0038】
チップ支持部材18が、内部空間44内の所定位置に配置されると、チップ支持部材18に取付けられたゲル保持チップ26は、本体42の開口50、52間に配置され、開口50、52に取付けられた半透膜54、56と対向する(図6)。
【0039】
さらに、図6に示されているように、チップ支持部材18’によって本体42の内部空間44が、2つの空間62、64に分割される。上述したように、洗浄用カートリッジ40の内部空間44の厚さ(T2)は、ハイブリダイゼーション用カートリッジ1の内部空間4の厚さ(T1)より大きく設定されているので、洗浄用カートリッジ40の2つの空間が62、64は、ハイブリダイゼーション用カートリッジ1の2つの空間32、34より大きな容積を有している。洗浄用カートリッジ40では、これら2つの空間62、64の両方がバッファ液を収容するバッファ液収容部となる。これら2つの空間も、例えば、洗浄用カートリッジの底部で連通していても構わない。
【0040】
ハイブリダイゼーション用カートリッジ1と同様に、洗浄用カートリッジ40も、本体42の材質は、サンプル液およびバッファ液に対して化学的に安定であって、イオンやその他の成分をサンプル液およびバッファ液に溶出させにくく、且つサンプル液中の検体分子の吸着が少ないものを用いることが好ましい。本実施形態では、アクリル樹脂が用いられているが、ブチルゴム、二トリルゴム、シリコンゴム、テトラフルオロエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂等を用いても良い。
【0041】
次に、図7に沿って、ハイブリダイゼーション用カートリッジ1および洗浄用カートリッジ40を用いてハイブリダイゼーション処理および洗浄処理を行なうハイブリダイゼーション装置70の構造を説明する。図7は、本実施形態のハイブリダイゼーション装置70の斜視図である。
【0042】
ハイブリダイゼーション装置70は、上方が開口した直方体状のバッファ液槽72を備えている。図7に示されているように、バッファ液槽72の開口には、カートリッジ配置部材74が取付けられている。カートリッジ配置部材74には、ハイブリダイゼーション用カートリッジ配置開口76と、洗浄用カートリッジ配置開口78が、2カ所ずつ設けられている。
【0043】
ハイブリダイゼーション用カートリッジ配置開口76は、上方からハイブリダイゼーション用カートリッジ1を差し込むと、ハイブリダイゼーション用カートリッジ配置開口76より大きな寸法を有するハイブリダイゼーション用カートリッジ1の本体2の上端肩部2aが、ハイブリダイゼーション用カートリッジ配置開口76の縁に引っかかり、ハイブリダイゼーション用カートリッジ1をバッファ液槽72内の所定位置に保持できるように構成されている。
【0044】
同様に、洗浄用カートリッジ配置開口78は、洗浄用カートリッジ40を差し込むと、洗浄用カートリッジ配置開口78より大きな寸法を有する洗浄用カートリッジ40の本体42の上端肩部42aが、洗浄用カートリッジ配置開口78の縁に引っかかり、洗浄用カートリッジ40をバッファ液槽72内の所定位置に保持できるように構成されている。
【0045】
バッファ液槽72に内には、電気泳動用の4対の電極80、82が配置されている。各電極対80、82は、ハイブリダイゼーション用カートリッジ配置開口76または洗浄用カートリッジ配置開口78に差し込まれることよってバッファ液槽72内で所定位置に配置されたハイブリダイゼーション用カートリッジ1または洗浄用カートリッジ40の半透膜14、16または54、56の外側の位置でこれらから所定距離、離間して、これらに対向するように配置されている。図8は、この状態における電極とカートリッジの位置関係を示す模式的な図面である。なお、図8では、各カートリッジ1、40および電極80、82が、図7の状態から90度回転した状態で示されている。
【0046】
電極80、82は、導電性であれば材質は特に限定されるものではない。可逆電極を使用する場合を除けば、化学的に安定でイオンやその他の成分のバッファ液中へ溶出の少ないものが好ましく、本発明では、白金が用いられる。
【0047】
さらに、バッファ液槽72には、複数の給排水管84が接続され、バッファ液槽72にバッファ液を給排水できるように構成されている。バッファ液としては、トリス‐ホウ酸バッファ(TB)、トリス−酢酸バッファ(TA)、塩化ナトリウム−クエン酸ナトリウム(SSC)等の電解質溶液を用いる。
【0048】
次に、本実施形態のハイブリダイゼーション用カートリッジ1、洗浄用カートリッジ40およびハイブリダイゼーション装置70を用いたハイブリダイゼーション処理について説明する。
【0049】
所定のプローブがゲル30と共に貫通孔28に充填されているゲル保持チップ26が取付けられたチップ支持部材18を、ハイブリダイゼーション用カートリッジ1の所定位置(図1)に取付ける。ついで、DNA等の生体関連物質の溶液を調製し公知の方法で標識した検体を含むサンプル液をハイブリダイゼーション用カートリッジ1の第1の収容部32の上方の外部に開放した開口から第1の収容部32に注入する。また、バッファ液をバッファ液収容部34に注入する。
【0050】
一方、ハイブリダイゼーション装置70のバッファ液槽72には、予め調整した所定量のバッファ液を収容しておく。この状態で、チップ支持部材18が取付けられているハイブリダイゼーション用カートリッジ1を、矢印Aで示すように、ハイブリダイゼーション装置70のハイブリダイゼーション用カートリッジ配置開口76に差し込み、図8に模式的に示すように、ゲル保持チップ26等が電極80、82間に配置されるハイブリダイゼーション位置に配置する。
【0051】
次に、バッファ液槽72内に配置されたハイブリダイゼーション用カートリッジ1に対応する電極80を正極、電極82を負極として電圧を印加して、第1の収容部32内に注入されたサンプル液に含まれるDNA検体を泳動させる。負に荷電したDNA検体は、第1の液収容部32からゲル保持チップ26のゲル30の内部へ泳動する。ゲル30に固定されたDNAプローブに特異的なDNA検体は、DNAプローブとハイブリダイズしてゲル30内に保持される。DNAプローブに相補的でないDNA検体は、DNAプローブとハイブリダイズせず、第2の収容部34を通過して半透膜16の方向に泳動する。このような電気泳動を所定時間、行なった後、電圧印加を停止する。
【0052】
次いで、ハイブリダイゼーション用カートリッジ1をバッファ液槽72から取り出し、さらに、ハイブリダイゼーション用カートリッジ1からチップ支持部材18を取り外す。次いで、取り外したチップ支持部材18’を、洗浄用カートリッジ40内に取付け、洗浄用カートリッジ40を、矢印Bで示すように、ハイブリダイゼーション装置70の洗浄用カートリッジ配置開口78に差し込み、洗浄用カートリッジ40を、図8に模式的に示すように、ゲル保持チップ26’等が電極80、82間に配置される所定位置(洗浄位置)に配置する。
【0053】
次に、バッファ液槽72内に配置された洗浄位置に配置された洗浄用カートリッジ40に対応する電極80を正極、電極82を負極として電圧を印加して、ゲル保持チップ26’のゲル30内に残留している未結合検体を正極側のバッファ液収容部に泳動させ、ゲル30から除去する洗浄処理を行なう。
【0054】
所定時間の洗浄処理を終了すると、洗浄用カートリッジ40をバッファ液槽72から取り出し、洗浄用カートリッジ40からチップ支持部材18を抜き取り、さらに、チップ支持部材18からゲル保持チップ28’を取り外す。
取り外したゲル保持チップ28’を、サンプル液に用いた標識方法に対応する検出方法により、ゲル保持チップ28’のゲル30に保持された生体関連物質を検出する。
上述した一連のハイブリダイゼーション処理は、一部の工程又は全ての工程を自動化することも可能である。
【0055】
本発明は上記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で種々の変更又は変形が可能である。
上記実施形態では、洗浄時に電気泳動を利用して未反応の検体をゲルから除去するものであったが、洗浄時には、電気泳動を利用しないものであってもよい。このような洗浄処理で使用される洗浄用カートリッジは、本体の側壁に開口および半透膜が設けられていない。
【0056】
さらに、上述したハイブリダイゼーション方法では、同一のバッファ液槽内でハイブリダイゼーションと洗浄とを行なう構成であったが、これらを別々のバッファ液槽内で行なうものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本実施形態のハイブリダイゼーション用カートリッジの斜視図である。
【図2】図1のハイブリダイゼーション用カートリッジ1の分解斜視図である。
【図3】図1のIII-III線に沿った断面図である。
【図4】本実施形態の洗浄用カートリッジの斜視図である。
【図5】図4の洗浄用カートリッジ1の分解斜視図である。
【図6】図4のVI-VI線に沿った断面図である。
【図7】本実施形態のハイブリダイゼーション装置の斜視図である。
【図8】図7のハイブリダイゼーション装置内における電極とカートリッジの位置関係を示す模式的な図面である。
【符号の説明】
【0058】
1:ハイブリダイゼーション用カートリッジ
2:本体(ハイブリダイゼーション用カートリッジ)
4:内部空間(ハイブリダイゼーション用カートリッジ)
10、12:円形開口(ハイブリダイゼーション用カートリッジ)
14、16:半透膜(ハイブリダイゼーション用カートリッジ)
18:チップ支持部材
26:ゲル保持チップ
28:貫通孔
30:ゲル
32:空間(第1の収容部)
34:空間(第2の収容部)
40:洗浄用カートリッジ
44:内部空間(洗浄用カートリッジ)
50、52:円形開口(洗浄用カートリッジ)
54、56:半透膜(洗浄用カートリッジ)
58、60:ガイド
70:ハイブリダイゼーション装置
72:バッファ液槽
74:カートリッジ配置部材
76:ハイブリダイゼーション用カートリッジ配置開口
78:洗浄用カートリッジ配置開口
80、82:電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリダイゼーション用カートリッジであって、
貫通孔が形成されたゲル保持チップを支持する板状のチップ支持部材と、
少なくとも一部分が前記貫通孔と対向するように該チップ支持部材の一側面に隣接して設けられた第1の収容部と、
該第1の収容部の前記チップ支持部材と反対側で前記貫通孔と対向するように配置された第1の半透膜と、
少なくとも一部分が前記貫通孔と対向するように前記チップ支持部材の他側面に隣接して設けられた第2の収容部と、
該第2の収容部の前記チップ支持部材と反対側で前記貫通孔と対向するように配置された第2の半透膜と、を備えている、
ことを特徴とするハイブリダイゼーション用カートリッジ。
【請求項2】
前記チップ支持部材が、着脱可能である、
請求項1に記載のハイブリダイゼーション用カートリッジ。
【請求項3】
前記チップ支持部材の一側面に凹部が形成され、前記第1の収容部の少なくとも一部が前記凹部によって構成されている、
請求項1または2に記載のハイブリダイゼーション用カートリッジ。
【請求項4】
前記チップ支持部材の一側面に凹部が形成され、前記第1の収容部が前記凹部によって構成されている、
請求項1または2に記載のハイブリダイゼーション用カートリッジ。
【請求項5】
前記凹部が外方に向かって開放する開口を備え、該開口が前記凹部への検体導入口を構成する、
請求項3または4に記載のハイブリダイゼーション用カートリッジ。
【請求項6】
ハイブリダイゼーション処理が行なわれたゲル保持チップから、未反応の検体を除去する洗浄処理で使用される洗浄用カートリッジであって、
貫通孔が形成されたゲル保持チップを支持する板状のチップ支持部材と、
少なくとも一部分が前記貫通孔と対向するように該チップ支持部材の一側面に隣接して設けられた第1のバッファ液収容部と、
該第1のバッファ液収容部の前記チップ支持部材と反対側で前記貫通孔と対向するように配置された第1の半透膜と、
少なくとも一部分が前記貫通孔と対向するように前記チップ支持部材の他側面に隣接して設けられた第2のバッファ液収容部と、
該第2のバッファ液収容部の前記チップ支持部材と反対側で前記貫通孔と対向するように配置された第2の半透膜と、を備えている、
ことを特徴とする洗浄用カートリッジ。
【請求項7】
ハイブリダイゼーション装置であって、
バッファ液槽と、
該バッファ液槽内に配置され、対向して配置された一対の電極と、検体とゲル保持チップとが隣接して配置されたハイブリダイゼーション用カートリッジを前記一対の電極間に配置するカートリッジ収容部とを有するハイブリダイゼーション部と、
前記バッファ液槽内に配置され、前記ゲル保持チップをバッファ液内で支持してゲル保持チップの洗浄を行なう洗浄部と、を備えている、
ことを特徴とするハイブリダイゼーション装置。
【請求項8】
前記ハイブリダイゼーション用カートリッジが、
貫通孔が形成されたゲル保持チップを支持する板状のチップ支持部材と、
少なくとも一部分が前記貫通孔と対向するように該チップ支持部材の一側面に隣接して設けられた第1の収容部と、
該第1の収容部の前記チップ支持部材と反対側で前記貫通孔と対向するように配置された第1の半透膜と、
少なくとも一部分が前記貫通孔と対向するように前記チップ支持部材の他側面に隣接して設けられた第2の収容部と、
該第2の収容部の前記チップ支持部材と反対側で前記貫通孔と対向するように配置された第2の半透膜と、を備えているハイブリダイゼーション用カートリッジであって、
前記一対の電極は、前記ハイブリダイゼーション用カートリッジが前記ハイブリダイゼーション部に配置されたとき、前記ハイブリダイゼーション用カートリッジの第1および第2の半透膜に対向するように位置決めされている、
請求項7に記載のハイブリダイゼーション装置。
【請求項9】
前記洗浄部が一対の電極を備え、前記ゲル保持チップは前記洗浄部で支持されたとき、前記一対の電極間に位置決めされる、
請求項8に記載のハイブリダイゼーション装置。
【請求項10】
ハイブリダイゼーション方法であって、
バッファ液を収容したバッファ液槽内に設けられたカートリッジ収容部の一対の電極間に、検体とゲル保持チップとが隣接して配置されたハイブリダイゼーション用カートリッジを配置するステップと、
前記電極に電圧を印加して前記検体を前記ゲル保持チップの前記貫通孔に充填されたゲル内で電気泳動させ、前記ゲル内のプローブとハイブリダイゼーションさせるステップと、
前記ゲル保持チップを、前記バッファ液槽内に設けられた洗浄部に移動させるステップと、
前記ゲル保持チップを前記洗浄部でバッファ液に浸漬し、前記ゲル内に残留した未反応の検体を除去するステップと、を備えている、
ことを特徴とするハイブリダイゼーション方法。
【請求項11】
前記除去ステップが、電気泳動を利用して行なわれる、
請求項10に記載のハイブリダイゼーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−280258(P2006−280258A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103608(P2005−103608)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】