説明

ハスモンヨトウ用殺虫剤

【課題】ハスモンヨトウに対する殺虫効果を一層向上させることができるハスモンヨトウ用殺虫剤を提供する。
【解決手段】ハスモンヨトウ用殺虫剤は、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルス及びエトキサゾールを有効成分とするものである。ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスは界面活性剤で希釈された希釈液として用いられ、エトキサゾールは水性溶媒及び界面活性剤で希釈された希釈液として用いられる。ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの希釈液中におけるハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの濃度は10〜10個/mlであり、かつエトキサゾールの希釈液の希釈倍率は10,000〜100,000倍であることが好ましい。前記ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスは、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの包埋体であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鱗翅目害虫であるハスモンヨトウを特異的に殺虫することができるハスモンヨトウ用殺虫剤に関する。
【背景技術】
【0002】
鱗翅目害虫であるハスモンヨトウは、野菜や果樹などの多種の植物に発生して被害を与える。このハスモンヨトウを駆除するための殺虫剤として、近年微生物殺虫剤が人体や環境にやさしく、薬剤抵抗性がつきにくい点から注目されている。そのような微生物殺虫剤として、核多角体病ウイルスを有効成分とするウイルス製剤が知られている。例えば、宿主昆虫を異にする2種の核多角体病ウイルスの両株をそれぞれのウイルスのみが増殖する細胞に順次感染させて培養することにより作製される組換えウイルスを活性成分とする殺虫剤が提案されている(特許文献1を参照)。この殺虫剤によれば、例えばキャベツの害虫であるモンシロチョウとコナガの両方を防除することができる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−129208号公報(第1頁から第3頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、微生物殺虫剤などの殺虫剤は一定の希釈倍率で水などの溶媒に希釈されて用いられる。殺虫剤の希釈倍率を過度に高く(濃度を低く)すると所望とする殺虫作用が発現されないため、十分な殺虫作用が発現される程度まで殺虫剤の希釈倍率を低く(濃度を高く)設定する必要がある。特許文献1に記載されている微生物殺虫剤においては、殺虫作用が核多角体病ウイルスのみに基づいていることから、その殺虫作用が限られており、希釈倍率を十分に高くすることができなかった。従って、ハスモンヨトウに対する殺虫作用が核多角体病ウイルスだけに基づくのではなく、殺虫作用を高める手段により殺虫効果を一層向上させることが望まれている。
【0005】
そこで、本発明の目的とするところは、ハスモンヨトウに対する殺虫効果を一層向上させることができるハスモンヨトウ用殺虫剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明のハスモンヨトウ用殺虫剤は、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルス及びエトキサゾールを有効成分とすることを特徴とする。
請求項2に記載の発明のハスモンヨトウ用殺虫剤は、請求項1に係る発明において、前記ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスは界面活性剤で希釈された希釈液として用いられ、エトキサゾールは水性溶媒及び界面活性剤で希釈された希釈液として用いられることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明のハスモンヨトウ用殺虫剤は、請求項2に係る発明において、前記ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの希釈液中におけるハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの濃度は10〜10個/mlであり、エトキサゾールの希釈液の希釈倍率は10,000〜100,000倍であることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明のハスモンヨトウ用殺虫剤は、請求項1から請求項3のいずれか1項に係る発明において、前記ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスは、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの包埋体であることを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明のハスモンヨトウ用殺虫剤は、請求項2から請求項4のいずれか1項に係る発明において、前記エトキサゾールの水性溶媒は、グリコール類を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
本発明のハスモンヨトウ用殺虫剤においては、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルス及びエトキサゾールを有効成分とする。このハスモンヨトウ用殺虫剤によれば、ハスモンヨトウに対するハスモンヨトウ核多角体病ウイルスによる殺虫作用と、エトキサゾールによる殺虫作用の総和を超える相乗的な殺虫作用を発現することができる。このため、ハスモンヨトウ用殺虫剤の希釈倍率を十分に高く設定することができる。従って、ハスモンヨトウ用殺虫剤によれば、ハスモンヨトウに対する特異的な殺虫効果を従来のハスモンヨトウ核多角体病ウイルス単独の場合に比べて一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1〜4及び比較例1〜4におけるハスモンヨトウの死亡率について、実測値と予想値との関係を示す棒グラフ。
【図2】実施例5〜8及び比較例5〜8におけるハスモンヨトウの死亡率について、実測値と予想値との関係を示す棒グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のハスモンヨトウ用殺虫剤の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態のハスモンヨトウ用殺虫剤は、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルス及びエトキサゾールを有効成分とするものである。両成分を組合せることにより、ハスモンヨトウに対する特異的な殺虫作用を発現させることができる。一方の成分であるハスモンヨトウ核多角体病ウイルスは界面活性剤で希釈された希釈液として用いられ、他方の成分であるエトキサゾールは水性溶媒及び界面活性剤で希釈された希釈液として用いられることにより、ハスモンヨトウに対する殺虫作用を適切に発現させることができる。
【0013】
ハスモンヨトウは鱗翅目害虫であり、大豆、枝豆、しそ、いちご等の野菜や果樹などの植物の葉を食い荒らし、農作物に大きな被害を与える。このハスモンヨトウは、卵から幼虫、蛹、成虫という変態を繰り返すライフサイクルに従って成長する昆虫であり、幼虫の時期に最も大きな被害を引き起こす。幼虫としては、脱皮を重ねる毎に発育齢が1つずつ加齢するようになっており、基本的には1齢から6齢までの各齢が存在する。ハスモンヨトウは4齢以降の老齢幼虫に成育するに従って病原性ウイルスに対する抵抗性が増大して感染されにくくなる。しかも、4齢以降では摂食量が急激に増加することから農作物の被害が拡大する。加えて、野外のハスモンヨトウは、休眠することなく活動すると共に、環境温度に依存しながら昆虫独自のライフサイクルを繰り返し、発育齢が揃っている場合が少ないことから、被害の拡大が助長される。
【0014】
前記ハスモンヨトウ核多角体病ウイルス〔Nuclear Polyhedrosis Virus、略号はNPV〕は、バキュロウイルス科ヌクレオポリヘドロウイルス属に属し、ハスモンヨトウに対する天敵ウイルスである。このハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの生産方法としては、ハスモンヨトウ幼虫内でウイルスを増殖させる虫体培養法と、人工的に作った培地の中でウイルスを増殖させる細胞培養法との2つの方法がある。しかしながら、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスを大量生産する場合には、後者の方法は高価であることから、一般的に前者の方法が採用される。
【0015】
虫体培養法におけるウイルスの生産では、ハスモンヨトウ幼虫を中齢時から老齢時まで飼育し、経口感染(人工飼料にウイルスの包埋体を混合して摂食させる、又は口内に強制的にウイルスの包埋体を投与する)や経皮感染(注射器等でウイルス粒子を体内に挿入する)により、ウイルス感染させる。そして、数日後に感染した罹病虫や死亡虫を回収して虫体内よりウイルスを抽出、精製する。
【0016】
ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスは、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの包埋体であることが好ましい。この包埋体は、その内部に棒状のウイルス粒子が包埋された構造を有し、安定性が非常に高い。そして、包埋体がハスモンヨトウにより食されるとハスモンヨトウの消化器官内の高アルカリ条件下で包埋体が溶解し、放出されたウイルス粒子が各細胞に感染し、殺虫作用を発現するようになっている。
【0017】
ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの包埋体は、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの含有液をハスモンヨトウ幼虫に対して注射、接触又は経口によって感染させることにより、大量に製造することができる。
【0018】
ハスモンヨトウは例えば5齢0日目の幼虫であることにより、幼虫の脱皮直後であってウイルス感染が成立しやすいステージであるためウイルスの感染効率が高められる。加えて、幼虫の身体がほぼ最大となる6齢でハスモンヨトウ罹病虫が致死しやすいため、ウイルス包埋体の収量が高められる。
【0019】
ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの希釈液中におけるハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの濃度は、10〜10個/mlであることが好ましく、10〜10個/mlであることがさらに好ましい。この濃度が10個/mlを下回る場合には、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスに基づく殺虫作用が低下し、所望とする殺虫効果が得られなくなる。その一方、濃度が10個/mlを上回る場合には、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの濃度が高くなり過ぎて殺虫作用が過大となり、殺虫剤の無駄が生じる結果を招く。
【0020】
一方、エトキサゾールはオキサゾリン環を有する殺虫・殺ダニ剤であり、下記の構造式(1)、化学名、分子式及び分子量を有する化合物である。このエトキサゾールは、ヘテロ環を挟んで両側にベンゼン環が結合した特異な構造を有し、特有の活性を示す。
【0021】
【化1】

化学名:(RS)-5-tert-フ゛チル-2-[2-(2,6-シ゛フルオロフェニル)-4,5-シ゛ヒト゛ロ-1,3-オキサソ゛ール-4-イル]フェネトール
分子式:C2123NO
分子量:359.4
エトキサゾールの希釈液の希釈倍率は10,000〜100,000倍であることが好ましい。この希釈倍率が10,000倍を下回る場合、エトキサゾールの濃度が高く、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの濃度とのバランスが悪くなり、エトキサゾールの濃度に見合う殺虫作用が得られない傾向を示す。一方、希釈倍率が100,000倍を上回る場合、エトキサゾールの濃度が低くなり、エトキサゾールとハスモンヨトウ核多角体病ウイルスとの相乗的な殺虫作用が十分に発現されなくなる。
【0022】
エトキサゾールの水性溶媒としては水又はアルコール類が用いられ、エトキサゾールの水性液が形成される。アルコール類としては、エタノール等の一価アルコールほか、エチレングリコール等のグリコール類(二価アルコール類)が挙げられる。
【0023】
ハスモンヨトウ核多角体病ウイルス及びエトキサゾールの希釈に用いられる界面活性剤は希釈液中におけるハスモンヨトウ核多角体病ウイルス及びエトキサゾールの分散性を良好にするためのものであり、非イオン界面活性剤が好ましい。非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が用いられる。
【0024】
ハスモンヨトウ用殺虫剤には、その他の添加剤を配合することができる。そのような添加剤としては、摂食促進剤としてのスクロース(ショ糖)、ハスモンヨトウを誘引するための誘引剤、葉に対する付着性を高める展着剤、タルク、クレー等の増量剤、凍結防止剤等が挙げられる。
【0025】
次に、ハスモンヨトウ用殺虫剤の作用について説明する。
ハスモンヨトウ用殺虫剤は、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスを界面活性剤で希釈した希釈液と、エトキサゾールを水性溶媒及び界面活性剤で希釈した希釈液とを混合することにより水和剤(フロアブル)として調製される。そして、得られたハスモンヨトウ用殺虫剤の水和剤を、ハスモンヨトウが発生している大豆、いちご等の野菜、果樹の葉に散布する。すると、ハスモンヨトウは前記水和剤を野菜、果樹の葉と共に摂食する。その水和剤がハスモンヨトウにより食されるとハスモンヨトウの消化器官内でハスモンヨトウ核多角体病ウイルス粒子が各細胞に感染すると同時に、エトキサゾールが各細胞に浸透し、殺虫作用が発現される。
【0026】
このとき、ハスモンヨトウ用殺虫剤に含まれるハスモンヨトウ核多角体病ウイルスとエトキサゾールの両成分がそれぞれ単独で殺虫作用を発現する上に、両成分の複合的、相乗的な作用が発現され、殺虫作用が顕著に高められる。その結果、例えばハスモンヨトウの死亡率が60〜80%に達するような殺虫効果を得ることができ、ハスモンヨトウを駆除することができる。
【0027】
以上の実施形態により発揮される効果について以下にまとめて記載する。
(1)本実施形態のハスモンヨトウ用殺虫剤はハスモンヨトウ核多角体病ウイルス及びエトキサゾールを有効成分とし、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスに基づく殺虫作用とエトキサゾールに基づく殺虫作用の総和を超える相乗的な殺虫作用を発現することができる。従って、ハスモンヨトウ用殺虫剤によれば、ハスモンヨトウに対する特異的な殺虫効果を従来のハスモンヨトウ核多角体病ウイルス単独の場合に比べて一層向上させることができる。
(2)ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスは界面活性剤で希釈された希釈液として用いられ、エトキサゾールは水性溶媒及び界面活性剤で希釈された希釈液として用いられることにより、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスとエトキサゾールとを所定の希釈濃度でハスモンヨトウに対する殺虫作用を適切に発現することができる。
(3)ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの希釈液中におけるハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの濃度が10〜10個/mlに設定され、かつエトキサゾールの希釈液の希釈倍率が10,000〜100,000倍に設定される。この場合、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスとエトキサゾールの濃度のバランスが良く、両成分の相乗作用を有効に発現させることができ、ハスモンヨトウに対する殺虫効果を十分に向上させることができる。
(4)ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスがハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの包埋体であることにより、該包埋体内にウイルス粒子が安定した状態で保持され、ハスモンヨトウにより食されたときその消化器官内の高アルカリ条件下で包埋体が溶解し、放出されたウイルス粒子が殺虫作用を発現することができる。
(5)エトキサゾールの水性溶媒がグリコール類を含有することにより、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの希釈液に対するエトキサゾールの溶解性が高められ、ハスモンヨトウに対する殺虫作用を向上させることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜4及び比較例1〜4)
表1に示すように、ハスモンヨトウ用殺虫剤として、比較例1及び2ではハスモンヨトウ核多角体病ウイルスのみを表1に示す濃度で用い、実施例1〜4ではハスモンヨトウ核多角体病ウイルスとエトキサゾールとを表1に示す濃度で用い、比較例3及び4ではエトキサゾールのみを表1に示す濃度で用いた。ここで、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスは虫体培養法で生産した。すなわち、ハスモンヨトウ幼虫を中齢時から老齢時まで飼育し、経口感染つまり人工飼料にウイルスの包埋体を混合して摂食させることにより、ウイルス感染させ、数日後に感染した罹病虫や死亡虫を回収して虫体内よりウイルスを抽出、精製した。
【0029】
エトキサゾールとしては、エトキサゾール水和剤〔エトキサゾール10質量%、エチレングリコール2質量%及び水、界面活性剤等88質量%を含有、協友アグリ(株)製のバロックフロアブル、農林水産省登録第19962号〕を用い、Tween20水溶液〔非イオン界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートの0.02質量%水溶液、東京化成工業(株)製〕で所定の希釈倍率になるまで希釈して使用した。また、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスとしては、上記のTween20水溶液で所定の濃度になるまで希釈して使用した。なお、殺虫剤溶液には、摂食促進剤としてスクロース(ショ糖)をその濃度が10質量%となるように配合した。そして、次に示す殺虫試験方法にて殺虫試験を行った。
(殺虫試験方法)
1)試験前日に4齢終日のハスモンヨトウ幼虫を容器にとり、翌日まで絶食させた。
2)個別飼育容器のセル内に、表1に示す殺虫剤溶液を10μlずつマイクロピペットで滴下した。
3)次いで、ハスモンヨトウ幼虫を1匹ずつセル内に入れ、殺虫剤溶液を摂食させた。
4)摂食後、昆虫用人工飼料インセクタLFS〔日本農産工業(株)製〕片を約5gずつ入れ、通気孔(直径0.1mm)のある厚さ0.75mmのポリプロピレンクラフトシートを個別飼育容器の上部に載せ、粘着テープで接着して蓋をした。
5)そして、人工気象器(温度25℃、湿度60%、24時間暗条件下)内で飼育し、14日後における死亡虫数より死亡率(%)を算出した。
【0030】
また、殺虫効果の予想値Qeを次式に基づいて算出した。なお、この予想値は、Limpel,L.E.P.H.Shuldt及びD.Lamont,Proc.NEWCC,16,48-53(1962)に基づくものである。
予想値Qe=(Qa+Qb)−〔(Qa×Qb)/100〕
但し、Qaはハスモンヨトウにハスモンヨトウ核多角体病ウイルスを与えたときの死亡率、Qbはハスモンヨトウにエトキサゾールを与えたときの死亡率を表す。
【0031】
ここで、ハスモンヨトウ用殺虫剤の殺虫効果の実測値が予想値Qeよりも大きい場合には、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルス及びエトキサゾールの各々単独の性質からは予期できない相乗効果が発揮されたことを意味する。
【0032】
これらの結果を表1及び図1に示した。
【0033】
【表1】

表1及び図1に示した結果より、実施例1〜4ではハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの濃度を10又は10個/mlとし、エトキサゾールの希釈倍率を10,000倍又は100,000倍として組合せた。このため、殺虫効果の予想値を遥かに超える殺虫効果を得ることができ、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスとエトキサゾールとの相乗効果が示された。一方、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスのみの比較例1及び2では、対応する実施例1〜4の場合に比べて殺虫効果が劣ることが明らかになった。また、比較例3及び4では殺虫剤がエトキサゾールのみであることから、ハスモンヨトウに対する殺虫効果はほとんど発揮されないことが明白になった。
(実施例5〜8及び比較例5〜8)
エトキサゾールの溶解及び希釈(濃度調整)については、濃度99.5質量%のエタノールを使用してエトキサゾールを100倍に希釈し、さらに前記Tween20水溶液で所定の希釈倍率となるように行った。その他は実施例1〜4及び比較例1〜4と同様にしてハスモンヨトウ用殺虫剤を調製し、同様の殺虫試験方法にて殺虫試験を行った。それらの結果を表2及び図2に示した。
【0034】
【表2】

表2及び図2に示したように、実施例5及び6ではハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの濃度を10又は10個/mlとし、エトキサゾールの希釈倍率を10,000倍又は100,000倍として組合せたことから、殺虫効果の予想値を遥かに超える殺虫効果を得ることができた。実施例7及び8においても、ハスモンヨトウの死亡率の実測値が予想値に比べて十分に高く、優れた殺虫効果が示された。一方、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスのみの比較例5及び6では、対応する実施例5〜8の場合に比べて殺虫効果が劣ることが明らかになった。また、比較例7及び8では殺虫剤がエトキサゾールのみであることから、ハスモンヨトウに対する殺虫効果はほとんど発揮されないことが示された。
【0035】
なお、前記実施形態を次のように変更して実施することも可能である。
・ ハスモンヨトウ用殺虫剤を乳化液とした乳剤や、懸濁液とした懸濁剤などの形態で使用することもできる。
【0036】
・ ハスモンヨトウ用殺虫剤を他の鱗翅目害虫用の殺虫剤と組合せて使用することも可能である。
・ ハスモンヨトウ用殺虫剤を、ハスモンヨトウ以外のモンシロチョウ、コナガ、ヨトウガ等の鱗翅目害虫に対する殺虫剤として用いることもできる。
【0037】
さらに、前記実施形態より把握される技術的思想について以下に記載する。
(イ)前記界面活性剤は非イオン界面活性剤であることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか1項に記載のハスモンヨトウ用殺虫剤。このように構成した場合、請求項2から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加えて、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルス及びエトキサゾールの分散性を向上させることができる。
(ロ)前記水性溶媒は、水又はアルコール類であることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか1項に記載のハスモンヨトウ用殺虫剤。このように構成した場合、請求項2から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加えて、エトキサゾールの水性液を容易に調製することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハスモンヨトウ核多角体病ウイルス及びエトキサゾールを有効成分とすることを特徴とするハスモンヨトウ用殺虫剤。
【請求項2】
前記ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスは界面活性剤で希釈された希釈液として用いられ、エトキサゾールは水性溶媒及び界面活性剤で希釈された希釈液として用いられることを特徴とする請求項1に記載のハスモンヨトウ用殺虫剤。
【請求項3】
前記ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの希釈液中におけるハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの濃度は10〜10個/mlであり、エトキサゾールの希釈液の希釈倍率は10,000〜100,000倍であることを特徴とする請求項2に記載のハスモンヨトウ用殺虫剤。
【請求項4】
前記ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスは、ハスモンヨトウ核多角体病ウイルスの包埋体であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のハスモンヨトウ用殺虫剤。
【請求項5】
前記エトキサゾールの水性溶媒は、グリコール類を含有することを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか1項に記載のハスモンヨトウ用殺虫剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−26215(P2011−26215A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171115(P2009−171115)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591043950)揖斐川工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】