説明

ハタケシメジの栽培用培養基及びその栽培方法

【課題】ハタケシメジを栽培する上で、従来使用されてきたバーク堆肥は、需要の大きさから比較的高価で取引され、さらに家畜排泄物を使用することが多いため、これに代わる資材及び栽培方法が求められている。また、培養初期の菌糸伸長の遅さに起因する雑菌の侵入による被害の低減、栽培日数の短縮、収量向上させる栽培資材及び栽培方法が望まれる。
【解決手段】 本発明は、上記現状に鑑み、バークよりも堆肥化しやすい剪定枝葉を、家畜排泄物を使用せずに堆肥化した資材を培養基材として使用する。その栽培方法は、剪定した枝条、生葉又はその両方を堆肥化させた資材を含むハタケシメジの栽培用培養基を用い、該培養基に菌糸が蔓延した後、19〜25℃の温度範囲で、相対湿度を95〜100%の条件に調整した室内において3日間から14日間載置し、次いで室温14〜19℃、相対湿度90〜100%の条件に調整した室内で栽培を継続することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハタケシメジの栽培用培養基、及びこれを用いた栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハタケシメジは、秋に林内や庭園、畑地、道ばたなどに発生するシメジ属のきのこであり、「においマツタケ味シメジ」といわれるホンシメジの腐生型と言われるほど美味なきのこである(非特許文献1参照)。
【0003】
<ハタケシメジ栽培とバーク堆肥>
該ハタケメジの人工栽培法には、「屋外栽培法」と「室内栽培法」とがあるが、従来の技術は、そのどちらにおいても、培養基にはバーク堆肥を使用するのが一般的である。ここで「バーク堆肥」とは、広葉樹あるいは針葉樹の樹皮(バーク)に鶏糞や尿素などの窒素源を加えて長期間発酵腐熟させたものをいう(非特許文献2参照)。
【0004】
<樹皮とC/N比>
ところが、該バーク堆肥にあっても、その原料である樹皮は、C/N比(炭素量と窒素量の比)が広葉樹の場合には300から800程度で、針葉樹においては1000を超える極めて高い値のものも存在する。そして、このC/N比については、きのこ栽培における培養基中に好適なC/N比は、栄養成長において20程度、生殖成長には30〜40程度といわれており(非特許文献3参照)、上記樹皮はC/N比が高いので、そのまま培養基として使用することは困難となる。
【0005】
<樹皮と成長阻害成分>
加えて、該樹皮にフェノール類、樹脂等の菌糸伸長の阻害成分が含まれている。そして、その阻害成分による影響は、ハタケシメジの場合、ヒラタケ等のきのこに比べて大きく、自然界においても、年数の経過により阻害成分が流失した、地中に埋まった木材等を栄養としているように、これらの阻害成分により樹皮をそのまま培養基として使用することはできない。
【0006】
<長期の堆肥化期間と鶏糞添加>
そのため、バーク堆肥の製造にあたって、一般的には、先ず、(a)菌糸伸長の阻害成分を除去するために樹皮を1〜3年間野外堆積すると共に、(b)更に、C/N比を低下させるため、窒素分を多く含有し、発酵菌を含む資材である鶏糞を添加する手法が取られるのが通常である。
該鶏糞添加の手法は、具体的には、例えば樹皮1トン当たりに50kg内外を添加し、さらに硫安や尿素などの窒素質肥料を添加し、2〜3ヵ月堆積・切返しを行いながら発熱発酵させ、その後、8〜10ヵ月堆積(後熟)を行うといったものである。
【非特許文献1】「原色日本新菌類図鑑(1)」,株式会社保育社,1987年,p.58
【非特許文献2】「肥料便覧 第5版」,社団法人農山漁村文化協会,1997年,p.228
【非特許文献3】「菌蕈 第24巻第9号」,財団法人日本きのこセンター,1978年,p.33
【非特許文献4】「きのこの利用」,築地書館株式会社,1988年,p.103〜105」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
<バーク堆肥の入手の困難性>
しかしながら、該バーク堆肥は、その用途が農業用の土壌改良資材として利用されているほかに、造園緑化用、花壇の植付け、高速道路の法面の緑化基材用等に広く利用できるため、需要が大きく、従って、その原料である樹皮が、産業廃棄物として廃棄されることが極めて少なく、手に入り難い傾向にある。さらに、当該樹皮は、それ自体で畜舎の敷料やマルチング材、ラン栽培用の培地の原料としての価値があるため、有償で売却されていることも多く、結局、バーク堆肥は、きのこ栽培資材としては高価なものとならざるを得ないという難点を有している。
【0008】
<針葉樹と広葉樹の関係>
さらに、該バーク堆肥の原料とされる樹皮のうち針葉樹には、堆肥化しづらい等の不適合な点が存し、これをより適合化させるために特別の加工を必要とし、それに伴うコスト高が生じる欠点がある。即ち、バーク堆肥の原料としての樹皮の樹種には広葉樹と針葉樹のものがあるが、針葉樹皮の方は、堆肥化しづらく、且つ、フェノール類、精油等の成分が広葉樹皮よりも多いためバーク堆肥としては不適である。
そこで、一般には広葉樹の方がハタケシメジ栽培に適していると言われているが、しかし、近年は、該広葉樹皮が不足気味であり、針葉樹皮を利用せざるを得ない傾向にある。そこで、この針葉樹皮に対し、蒸煮処理、爆砕処理などによる品質の向上が試みられているが、コスト面での問題が残り、ハタケシメジ栽培の収益性を損なう一因となっている。
【0009】
<鶏糞添加による重金属等有害物質の含有>
また、上述の如く樹皮の堆肥化を促進するためには、一般的には鶏糞の添加が行われるが、この添加された鶏糞中には、飼料や、し尿処理薬剤に起因する重金属の含有が不可避である。同時に、現在の養鶏方法においては、重金属以外にも抗生物質等の飼料添加物が入った餌を与えることが多い。結局、有害物質を多く含有するという重大な欠点を有している。
即ち、きのこの菌床栽培においては、(a)土壌に施用する一般農作物と違って、堆肥を培地基材として使用し、培養基における多くの部分を占め、(b)きのこは、培地中の毒物を取り入れ、子実体に蓄積しやすい性質を有する(非特許文献4参照)。従って、そのままでは、生育後のきのこに有害物質が含有されてしまうことが避けられないものとなる。
極力、鶏糞等の家畜排泄物を使用した栽培資材を使用しないこと、あるいは、使用するにしても、その添加量を減らすことが、食品の安全性の追求及び食品への安全意識の高い消費者の購買意欲を高める上で重要となっている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者は、上記問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、通常、廃棄物として取り扱われていることが多い剪定枝条及び生葉に着目し、これらに窒素分を多く含み、且つ、菌糸伸長の阻害成分の少ない性質を見い出し、その性質を活用して、家畜排泄物を使用せずに加水堆積及び切返しの作業のみで堆肥化し、培養基として使用することにより、ハタケシメジを栽培できること、及び菌糸の初期伸長を促進し、栽培期間を短縮し、さらに収量を向上させることができるよう工夫し、本発明を完成させたものである。
【0011】
請求項1に記載の発明は、剪定した枝条、生葉、又はその両方を堆肥化させた資材を含むことを特徴とするハタケシメジの栽培用培養基に関する。
請求項2に記載の発明は、剪定した枝条、生葉又はその両方を、広葉樹を主とし、針葉樹については枝条全体の容量の3割以下としたハタケシメジの栽培用培養基に関する。
請求項3に記載の発明は、枝条の直径を10cm以下、好ましくは5cm以下のものを使用するハタケシメジの栽培用培養基に関する。
請求項4に記載の発明は、広葉樹については、生育する3月から11月までに採取したものとし、採取した枝条及び生葉は、7cm以下、好ましくは3cm以下のチップ状にしたハタケシメジの栽培用培養基に関する。
請求項5に記載の発明は、剪定した枝条、生葉、又はその両方を堆肥化させた資材を含むハタケシメジの栽培用培養基を用いて栽培することを特徴とするハタケシメジ栽培方法に関する。
請求項6に記載の発明は、剪定した枝条、生葉、又はその両方を堆肥化させた資材を含むハタケシメジの栽培用培養基を用い、該培養基に菌糸が蔓延した後、19〜25℃の温度範囲で、相対湿度を95〜100%の条件に調整した室内において3〜14日間載置し、次いで室温14〜19℃、相対湿度90〜100%の条件に調整した室内で栽培を継続することを特徴とするハタケシメジ栽培方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の培養基を用いた栽培をすることにより以下の如き効果が奏せられる。
(a)<経済性>
本発明は、通常は産業廃棄物として処理され、有効活用が求められている剪定枝条、生葉(以下これを剪定枝葉と呼ぶ)によるハタケシメジ栽培を可能としたもので、経済性に優れる。
(b)<栽培期間の短縮>
本発明の剪定枝葉中には、フェノール類、樹脂等の菌糸伸長阻害成分が少ない。堆肥化処理後もその性質が残り、ハタケシメジの菌糸が伸長しやすいため、菌糸伸長速度が速く、さらに、菌糸の密度も高くなるため、子実体発生の際の栄養供給がスムーズになり、結果として栽培期間を短縮できる。
(c)<収量の向上>
本発明の堆肥化資材は、粘性が高く、保肥力が大きいため、培養基中に含まれる栄養分が豊富であり、結果として収量が向上する。
(d)<菌糸の初期伸長の早さによる雑菌被害の低減>
本発明の剪定枝葉中には、樹皮に比べ、ハタケシメジが使用しやすい単糖類、オリゴ糖類、澱粉が多く含まれ、難分解性であるリグニンが少ない。堆肥化処理後もその性質が残るため、菌糸中に栄養が取り込まれるのが早く、菌糸の初期伸長が早まる結果、培養中に後から侵入してくる雑菌の菌糸伸長を防ぐ。
(e)<安全性>
本発明は、重金属や抗生物質を含む恐れのある鶏糞等を使用する必要がないので、これらの有害成分がもたらす危険から解放される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明において使用する材料及び栽培方法を詳細に説明する。
本発明のハタケシメジ栽培用培養基は、剪定した枝条、生葉又はその両方を堆肥化させた資材を活用する。
該剪定枝条及び生葉(剪定枝葉)とは、生育中の樹木の枝条及び生葉が剪定等により採取されたものを言い、その採取の作業方法を剪定作業に限るものではない。但し、樹木の生理現象に伴う落葉、落枝ではないものを指す。
枝条及び生葉の樹種については、広葉樹及び針葉樹のどちらでも使用可能であるが、堆肥化を早めるために広葉樹を使用し、針葉樹については枝条及び生葉全体の容量の3割以下が好ましい。また、使用する枝条の直径については10cm以下、好ましくは5cm以下のものを使用する。
また、枝条及び生葉の採取時期については、1年を通して原料として使用可能であるが、落葉広葉樹については、堆肥化を早めるために、好ましくは窒素分を多く含む生葉が生育する3月から11月までに採取したものを使用する。
採取した枝条及び生葉は、7cm以下、好ましくは3cm以下のチップ状にし、加水堆積する。堆積の量は、屋内では300kg以上、屋外では600kg以上が好ましく、量が少ないと堆肥化が遅延する。堆積後、枝条及び生葉の水分が55〜75%になるように散水を行う。1〜2ヵ月に1回切返しを行いながら、8〜15ヵ月程度堆積を継続することにより、堆肥化が完了する。なお、すでに堆肥化が完了した上記資材及び、硫安、尿素、石灰窒素、魚粕、油粕、アルコール粕、腐葉土を含む窒素含有量が多い資材を添加することにより、堆肥化が促進され、堆積期間を短縮することができる。堆肥化された資材は暗褐色ないし黒褐色を呈するようになる。
堆肥化された資材は、後述するハタケシメジの培養基の殺菌工程において、大きな枝条が残留すると加熱殺菌時に耐熱性のある雑菌が死滅しないことがあるため、篩による選別機を使用し一定粒径以上の枝条を取り除くことが好ましい。篩の目の口径は1〜5cmのものが好ましい。篩に残った枝条は堆肥化の原料として再度、堆積・切返しすることにより堆肥化することが可能である。以下、上記方法により製造された資材を剪定枝葉堆肥化資材という。
【0014】
上述の如く本発明は、剪定枝条及び生葉を利用したものであるが、それをハタケシメジの栽培に活用しようとしたのは、その剪定枝葉の成分が秘めた特性に着目したことによる。
即ち、先ず、剪定枝条及び生葉の含有成分を検討したところ、フェノール類、樹脂等といった成分が極めて少ないことが判明した。これらの成分はきのこの菌糸伸長、子実体発生の際の栄養にならないだけでなく、フェノール類はそれ自体に菌糸伸長を阻害する作用があり、樹脂は樹木の細胞壁の物理的な保護成分として機能している。そして、これらの成分は外部からの微生物の攻撃を防ぐために樹皮部分に多く含有されるものであるが、材部分において、年数が経過して心材化が起こる際にもこれらの成分が増加することになる。逆に、枝部分では樹皮が未発達であり、心材化も進んでいないため、剪定枝葉におけるこれらの成分の含有量もおのずと少なくなるものと考えられる。
同時に、木化の進んでいない剪定枝葉には、微生物の栄養源として有効な、単糖類、オリゴ糖類、澱粉及び窒素化合物が多く含まれることが確認された。きのこが菌糸伸長、子実体発生をさせる上では炭素源、窒素源その他の無機栄養素が必要で、多量に必要なのはその中でも炭素源と窒素源である。単糖類、オリゴ糖類、澱粉は利用しやすい炭素源の形態であり、木材を構成する主成分であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンよりも重合度が低く、資化する際に加水分解に要するエネルギーが低くて済むため、より効率的に資化できる成分である。また、窒素化合物はタンパク質として含まれているものであるが、硫安や尿素など、バーク堆肥の堆肥化に際して加えられることが多い無機窒素源よりも利用しやすい。
特に、ハタケシメジにおいては、ヒラタケ等のきのこに比べ腐朽力が弱く、菌糸が初期伸長するのに時間がかかるため、接種後、菌糸が伸長し、培養基表面を菌糸が蔓延するまでの間に雑菌が侵入し、雑菌の菌糸が伸長することがあるため、初期伸長までの時間を短縮する必要がある。
【0015】
そして、上記中、広葉樹を主とし、針葉樹については枝条及び生葉全体の容量の3割以下としたのは、広葉樹は針葉樹に比べ、一般に菌糸伸長阻害成分が少なく、さらに難分解性のリグニンも少ないため、結果として堆肥化を早め、堆肥化された資材もこれらの成分の少ないものとなるためである。
また、枝条の直径については10cm以下、好ましくは5cm以下のものを使用するとしたのは、比較的細い枝部は、心材化が進んでいないため心材部分が少なく、また、樹皮も未発達であるため、菌糸伸長の阻害成分が少ないという理由による。
さらに、落葉広葉樹については、好ましくは生育する3月から11月までに採取したものとしたのは、生葉には窒素化合物が多く含まれるため、生葉が付いた状態の枝条が堆肥化しやすいという性質があるという理由による。採取した枝条及び生葉について、7cm以下、好ましくは3cm以下のチップ状としたのは、細かいチップにすることにより、材料の表面積が大きくなり、堆肥化する際に菌類が活着しやすくなるため、堆肥化の期間が短縮され、さらに、均質に堆肥化がされることにより、篩に残る堆肥化されていない枝条が減少するためである。
【0016】
<培養基の調製>
そして、培養基には、剪定枝葉堆肥化資材を培地基材として使用し、栄養源として、米ぬか或いはフスマを添加した材料を用いる。配合比は培養基材と栄養源を絶乾重量比で10:0.5〜10:5の範囲、より好ましくは10:1〜10:3とする。
必要に応じて補助栄養成分、保水剤、成長促進剤、pH調整剤、塩分、接着剤等を加えることができる。配合したこれらの資材をミキサーにより攪拌した後、水を加え、含水率を50〜70%、より好ましくは55〜65%に調整する。
【0017】
<栽培容器>
栽培容器は、一般的にきのこの人工栽培に使用されている栽培容器であればいずれも使用できる。通常、ポリプロピレン製のビンまたは直方体型の袋で、容量200〜3,000mlのものを使用するのが好ましい。
【0018】
<加熱殺菌>
加熱殺菌方法は、一般に行われている高圧殺菌釜(オートクレーブ)により行うことができる。通常、115〜130℃の温度で1〜3時間殺菌を行うのが好ましい。また、常圧殺菌釜の場合、98〜100℃で4〜8時間殺菌を行うのが好ましい。なお、場合によっては、一度加熱殺菌した後、一定時間経過させ、次いで再度加熱殺菌するいわゆる間欠殺菌により培養基の殺菌を強化してもよい。
【0019】
<種菌の作製>
種菌の作製は通常の方法を用いればよく、人工栽培したハタケシメジあるいは野性のハタケシメジを採集して組織の一部を切り取って組織培養し、さらに継代培養を繰り返して得られる菌糸体をおが粉または剪定枝葉堆肥化資材と米ぬかまたはフスマを絶乾重量比で2:1〜4:1に混合し、含水率を58〜65%に調整した培養基に接種して、20〜25℃で培養することによって得ることができる。
【0020】
なお、組織培養及び継代培養に用いられる培地は、一般に担子菌が生育する培地であればいずれも使用可能であるが、ポテトデキストロース寒天培地、麦芽エキス寒天培地を使用するのが好ましい。
【0021】
<ハタケシメジ種菌の接種及び培養>
本発明におけるハタケシメジの栽培は通常、以下の方法で行う。剪定枝葉堆肥化資材を含む培養基材と栄養源を一定の割合で配合した混合物を含む培養基を栽培ビンあるいは栽培袋等の容器に充填し、加熱殺菌し、これを冷却したのち、あらかじめ作製しておいた種菌を無菌的に接種する。その後、室温20〜25℃および相対湿度60〜70%に調整した室内で30〜120日培養する。
【0022】
<菌掻きと注水>
菌糸が培養基全体に蔓延した後、栽培ビンによる栽培の場合はキャップを外し、栽培袋の場合は、袋上面を切取る。その際、菌掻きを行うのが好ましい。菌掻きとは、栽培容器上面の菌糸をかき取る工程だが、使用するハタケシメジ種菌の性質によって、菌掻きを行うことにより子実体の発生本数が減少することがあり、その場合は容器上面の周縁部のみを菌掻きするのが好ましい。菌掻きを行う場合は、菌掻き後、容器上面に水を入れ、30分〜3時間後、排水する。菌掻きを行わない場合、又は容器上面の周縁部のみを菌掻きを行う場合は、注水をしない。
【0023】
<子実体発生の前処理>
その後、きのこ菌糸の成長に適した温度である、室温20〜25℃、相対湿度95〜100%に調整した室内で3〜14日間、好ましくは7〜14日間、栽培を継続するのが好ましい。この際、栽培ビンで栽培する場合は、高湿度による水滴によりビン上面に水が溜まるのを防ぐために、ビンを倒立させるのが好ましい。この工程により、菌糸が容器上面を覆うが、この際、菌糸上面に原基が形成された場合は、上記の期間にかかわらず次の工程に移る。この操作はより多くの子実体を発生させ、発生本数を増加させ、子実体の大きさを揃える効果を促す。
【0024】
<子実体の発生>
その後、室温14〜19℃、相対湿度90〜100%、照度50〜500ルックス、より好ましくは150〜500ルックスの条件に調整した室内で栽培を継続すると15〜60日目に子実体を採取することができる。剪定枝葉堆肥化資材を使用する場合、同じ温度条件下で、バーク堆肥を使用した場合に比べ、菌傘が小さく、菌柄が長くなる傾向があるため、バーク堆肥による栽培の適温より1〜2℃低くし、照度を150ルックス以上にすることにより、良好な形質の子実体を得ることができる。
【0025】
また、屋外栽培においては、栽培袋に剪定枝葉堆肥化資材と栄養源を一定の割合で配合した混合物を含む培養基を充填したものを、上記の方法と同様の方法で殺菌、冷却、種菌の接種、培養を行った後、培養袋を剥離し、林内の直射日光の当たらない場所に埋め込む。埋め込む季節は8月中旬から10月上旬が好ましい。培養基の上に2〜4cm土を被せ、その上に落ち葉などをかけておくと、埋め込んだ後25〜60日後に子実体が発生する。
【実施例1】
【0026】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
使用した剪定枝葉堆肥化資材は以下の方法により製造したものである。剪定枝葉は、6〜8月に採取し、枝条の直径が10cm以下である、コナラ、ミズナラ、サクラ、カシなどの広葉樹、及びスギ、ヒノキ、マツなどの針葉樹を用い、広葉樹と針葉樹の割合は、容量比で4:1とした。採取した剪定枝葉は、粉砕し、チップ状にした後、30mmの篩によりそれ以上の大きさの剪定枝葉を取り除いた。次いで、これを幅10m、長さ20m、高さ5mに堆積し、含水率が65〜70%になるように散水を行いながら、1ヵ月に1回切返しを行い、15ヵ月堆積し、堆肥化を完了させた。
【0028】
培養基は、剪定枝葉堆肥化資材と米ぬかを絶乾重量比10:2の割合で配合し、含水率を60%に調整したものを用い、これを800ml容のポリプロピレン製ビンに580g充填した。次いでビンの内部全体に空気を補給し、菌糸の生育を良好にするために、ビンの口部分から底部近くに達するまで培養基の中央に直径15mmの大きさの穴を開けた後、このビンを120℃で1時間、高圧殺菌釜を使用して殺菌した。
【0029】
殺菌後、15時間放冷した後、クリーンベンチ内で種菌を15g接種して、室温22℃、相対湿度70%に調整した室内で培養した。菌糸がビン全体に蔓延するまで培養を行い、その後、室温18℃、相対湿度95%、照度80ルックスに調整した室内で栽培を継続した。
【0030】
この結果、接種後68日で子実体が発生し、栽培ビン当たり129g、子実体本数14.4本のハタケシメジの子実体が採取された。なお、菌柄の長さと菌傘の長さの割合は3:1であり、菌傘に比べやや菌柄の長い子実体となった。
【実施例2】
【0031】
実験例1と同様の方法により培養基の調製及び充填、殺菌、培養を行った後、室温20℃、相対湿度98%に調整した室内で7日間、栽培を継続した後、室温16℃、相対湿度95%、照度200ルックスに調整した室内で栽培を継続した。これ以外は実施例2と同様にして栽培を行った。その結果、接種後69日に子実体が発生し、栽培ビン当たり140g、子実体本数24.3本の子実体が採取された。なお、菌柄の長さと菌傘の長さの割合は2.5:1であり、良好な形質となった。
【比較例1】
【0032】
比較例としてバーク堆肥と米ぬかを10:2の割合で配合し、実施例1の方法で栽培したところ、接種後78日で子実体が発生し、栽培ビン当たり108g、子実体本数13.8本の子実体が採取された。
なお、菌柄の長さと菌傘の長さの割合は2.4:1であり、良好な形質であった。
上記実施例1,実施例2及び比較例1の結果について比較したものを下記表1に示す。
【表1】

【試験例1】
【0033】
菌糸伸長速度を調べるため、実施例1と同じ方法で製造した剪定枝葉堆肥化資材とフスマを絶乾重量比4:1の割合で配合したものを含水率60%程度に調整し、これを直径30mmの試験管に80g充填し、120℃で1時間、高圧殺菌釜を使用して殺菌した。
【0034】
その後、クリーンベンチ内で予めシャーレ上のポテトデキストロース寒天培地で培養しておいたハタケシメジ菌を直径1cmのコルクボーラーで打ち抜き、接種した。その後、温度22℃、相対湿度70%に調整した室内で培養を行い、菌糸の伸長量を測定した。
【0035】
なお、比較として、バーク堆肥とフスマを絶乾重量比4:1の割合で配合したものを同様の方法で培養し、菌糸の伸長量を測定した。これらの結果を図1に示す。
【0036】
上記実施例1、実施例2及び比較例1から、剪定枝葉堆肥化資材を培養基として用いることにより、ハタケシメジの栽培期間を短縮できることが確認された。
これは、剪定枝葉が樹皮に比べ、フェノール類、樹脂等の菌糸伸長阻害成分が少なく、堆肥化処理後もバーク堆肥に比べこれらの菌糸伸長阻害物質が少ないことにより、菌糸伸長速度を速め、さらに培養基中に蔓延した菌糸密度が高くなることにより、子実体発生への栄養供給がしやすい状態になったためと考えられる。
ハタケシメジは、他のきのこよりも栽培期間が長いため、空調施設を稼動させる経費が増大すること等で、収益性を損なう原因となっており、そのため、より短期間で子実体を発生させることが必要であった。本発明は、上記栽培期間の短縮を可能にすることにより、生産コストを低減させ、施設の回転率を向上させる効果を奏する。
【0037】
上記実施例1、実施例2及び比較例1から、剪定枝葉堆肥化資材を培養基として用いることにより、ハタケシメジの収量が向上することが確認された。
これは、剪定枝葉堆肥化資材は粘性が高いことから、保肥力が大きく、培養基中に含まれている栄養分が多いためと考えられる。
ハタケシメジの栽培は、他の多くの栽培きのこと同様に、空調施設を使用することにより、大量生産及び周年栽培が可能である上に、他の栽培きのこ、特にブナシメジなどの株状の形状をしたきのことの差別化が難しいため競争が激しく、生産コストの低減とともに収量の向上を実現することが収益性の向上を図る上で必要であった。本発明は、上記収量の向上を可能にすることにより、収益性を向上させる効果を奏する。
【0038】
上記試験例1から、剪定枝葉堆肥化資材を培養基として用いることにより、ハタケシメジの初期伸長を早めることが可能であることが確認された。
これは、剪定枝葉中にハタケシメジが利用しやすい単糖類、オリゴ糖類、澱粉が多く含まれ、なおかつ難分解性であるリグニンが少ないため、堆肥化処理後においても、利用しやすい栄養分が残存し、これらの栄養分を分解する時間が短く、早く吸収できるためと考えられる。
ハタケシメジは、菌の初期成長が遅いため、培養基表面に蔓延する前に、培養施設中に存在している雑菌が培養容器内に侵入し雑菌菌糸が伸長することにより、結果としてハタケシメジの菌糸伸長が阻害される原因となっていた。そしてさらに、増殖した雑菌が施設内を汚染する原因ともなっていた。
本発明は、ハタケシメジの種菌の初期伸長を早くし、後から侵入した雑菌の被害を防ぐ効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】試験例1の結果を、横軸を培養日数、縦軸を菌糸伸長量としたグラフ図である。
【図2】(A)は実施例2により発生した子実体、(B)は比較例1により発生した子実体を示した写真図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剪定した枝条、生葉又はその両方を堆肥化させた資材を含むことを特徴とするハタケシメジの栽培用培養基。
【請求項2】
剪定した枝条、生葉又はその両方を、広葉樹を主とし、針葉樹については枝条及び生葉全体の容量の3割以下とした請求項1記載のハタケシメジの栽培用培養基。
【請求項3】
枝条の直径を10cm以下、好ましくは5cm以下のものを使用する請求項1又は2記載のハタケシメジの栽培用培養基。
【請求項4】
広葉樹については、生育する3月から11月までに採取したものとし、採取した枝条及び生葉は、7cm以下、好ましくは3cm以下のチップ状にした請求項1ないし3いずれか1項記載のハタケシメジの栽培用培養基。
【請求項5】
剪定した枝条、生葉、又はその両方を堆肥化させた資材を含むハタケシメジの栽培用培養基を用いて栽培することを特徴とするハタケシメジ栽培方法。
【請求項6】
剪定した枝条、生葉、又はその両方を堆肥化させた資材を含むハタケシメジの栽培用培養基を用い、該培養基に菌糸が蔓延した後、19〜25℃の温度範囲で、相対湿度を95〜100%の条件に調整した室内において3〜14日間載置し、次いで室温14〜19℃、相対湿度90〜100%の条件に調整した室内で栽培を継続することを特徴とするハタケシメジ栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−280255(P2006−280255A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103347(P2005−103347)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(591100563)栃木県 (33)
【Fターム(参考)】