説明

ハニカムフィルタ

【課題】圧力損失を低減することが可能なハニカムフィルタを提供する。
【解決手段】ハニカムフィルタ100は、多孔質の隔壁120により仕切られた互いに平行な複数の流路110を有し、複数の流路110が、流路110aと、流路110aに隣接する流路110bとを有しており、流路110aにおけるハニカムフィルタ100の一端側の端部が封口されており、流路110bにおけるハニカムフィルタ100の他端側の端部が封口されており、流路110aの内壁115aの領域A、又は、流路110bの内壁115bの領域Bの少なくとも一方の最大高さRzが55.00μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカムフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ハニカムフィルタは、被捕集物を含む流体から当該被捕集物を除去するセラミックスフィルタとして用いられており、例えば、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等の内燃機関から排気される排気ガスを浄化するための排ガスフィルタ等として用いられている。このようなハニカムフィルタは、隔壁により仕切られた互いに平行な複数の流路を有している(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−270755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のハニカムフィルタでは、被捕集物を含む流体が当該ハニカムフィルタにおいて一端側から流入して他端側から流出する場合において、ハニカムフィルタに被捕集物が捕集されるに伴い圧力損失が増加することを充分に抑制することが困難である。そのため、ハニカムフィルタに対しては、従来に比して圧力損失を低減することが求められている。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、圧力損失を低減することが可能なハニカムフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係るハニカムフィルタは、多孔質の隔壁により仕切られた互いに平行な複数の流路を有するハニカムフィルタであって、複数の流路が、第1の流路と、当該第1の流路に隣接する第2の流路とを有しており、第1の流路におけるハニカムフィルタの一端側の端部が封口されており、第2の流路におけるハニカムフィルタの他端側の端部が封口されており、第1の流路又は第2の流路の少なくとも一方の内壁における少なくとも一部の領域の最大高さRzが55.00μm以下である。
【0007】
ところで、被捕集物を含む流体が流通する流路において、当該流路の内壁が最大高さRzの大きい領域を有していると、当該領域において流体の移動が妨げられると共に、ハニカムフィルタに被捕集物が捕集されるに伴い被捕集物により流路が塞がれ易くなる。一方、本発明に係るハニカムフィルタでは、第1の流路又は第2の流路の少なくとも一方の内壁における少なくとも一部の領域の最大高さRzが55.00μm以下であることにより、流路の内壁が流体の移動を妨げることが抑制され易くなる。また、ハニカムフィルタに被捕集物が捕集されるに伴い被捕集物により流路が塞がれることが抑制され易くなる。したがって、本発明に係るハニカムフィルタでは、圧力損失を低減することができる。
【0008】
上記内壁における最大高さRzの平均値は、56.00μm以下であることが好ましい。この場合、圧力損失を更に低減することができる。
【0009】
上記内壁の上記領域の算術平均粗さRaは、9.000μm以下であることが好ましい。この場合、流路の内壁が流体の移動を妨げることが更に抑制され易くなる。また、ハニカムフィルタに被捕集物が捕集されるに伴い被捕集物により流路が塞がれることが更に抑制され易くなる。したがって、圧力損失を更に低減することができる。
【0010】
上記内壁における算術平均粗さRaの平均値は、8.000μm以下であることが好ましい。この場合、圧力損失を更に低減することができる。
【0011】
また、隔壁はチタン酸アルミニウムを含んでいてもよい。この場合、ハニカムフィルタの熱応力に対する耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るハニカムフィルタによれば、従来に比して圧力損失を低減することができる。このようなハニカムフィルタは、被捕集物を含む流体から当該被捕集物を除去するセラミックスフィルタとして好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るハニカムフィルタを示す斜視図である。
【図2】図2は、図1のII−II矢視図である。
【図3】図3は、流路の内壁における所定の測定領域の表面形状を示す図である。
【図4】図4は、圧力損失の測定装置を模式的に示す図である。
【図5】図5は、圧力損失の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0015】
<ハニカムフィルタ>
図1は、本実施形態に係るハニカムフィルタを示す斜視図であり、図2は、図1のII−II矢視図である。ハニカムフィルタ100は、図1,2に示すように、互いに平行に配置された複数の流路110を有する円柱体である。複数の流路110のそれぞれは、ハニカムフィルタ100の中心軸に平行に伸びる隔壁120により仕切られている。流路110は、流路110のうちの一部を構成する流路(第1の流路)110aと、流路110のうちの残部を構成する流路(第2の流路)110bとを有している。
【0016】
流路110aにおけるハニカムフィルタ100の一端側の端部は、ハニカムフィルタ100の一端面100aにおいてガス流入口として開口しており、流路110aにおけるハニカムフィルタ100の他端側の端部は、ハニカムフィルタ100の他端面100bにおいて封口部130により封口されている。一方、流路110bにおけるハニカムフィルタ100の一端側の端部は、一端面100aにおいて封口部130により封口されており、流路110bにおけるハニカムフィルタ100の他端側の端部は、他端面100bにおいてガス流出口として開口している。
【0017】
流路110bは、流路110aに隣接している。ハニカムフィルタ100では、流路110aと流路110bとが交互に配置されて格子構造が形成されている。流路110a,110bは、ハニカムフィルタ100の両端面に垂直であり、端面から見て正方形配置、すなわち、流路110a,110bの中心軸が、正方形の頂点にそれぞれ位置するように配置されている。流路110a,110bにおける当該流路の軸方向(長手方向)に垂直な断面は、例えば正方形状である。
【0018】
流路110a又は流路110bの少なくとも一方の内壁における少なくとも一部の領域の最大高さRzは、55.00μm以下である。例えば、ガス流入側の流路である流路110aの内壁115aにおける少なくとも一部の領域A(図2参照)の最大高さRzが55.00μm以下である。さらに、ガス流出側の流路である流路110bの内壁115bにおける少なくとも一部の領域B(図2参照)の最大高さRzが55.00μm以下であってもよい。最大高さRzは、JIS B 0601:2001に基づく最大高さをいう。最大高さRzは、50.00μm以下が好ましく、48.00μm以下がより好ましい。
【0019】
領域A及び領域Bの位置は特に限定されず、流路110の軸方向におけるハニカムフィルタ100の中央の位置であってもよく、当該中央の位置よりも一端面100a側又は他端面100b側の位置であってもよい。領域A,Bの大きさは、例えば298μm×224μmである。また、流路110のそれぞれは、最大高さRzが55.00μm以下である領域を一の内壁に複数有していてもよく、最大高さRzが55.00μm以下である領域を有する内壁を複数有していてもよい。
【0020】
流路110a又は流路110bの少なくとも一方の内壁において測定される最大高さRzの平均値は、56.00μm以下が好ましく、55.00μm以下がより好ましく、54.00μm以下が更に好ましい。最大高さRzの平均値とは、流路の軸方向に沿って位置する3箇所の領域を、測定対象の流路の一の内壁から任意に選択した場合において、当該3箇所の領域における最大高さRzの平均値をいう。
【0021】
55.00μm以下の最大高さRzを与える上記領域の算術平均粗さRaは、9.000μm以下が好ましく、8.000μm以下がより好ましく、7.500μm以下が更に好ましい。算術平均粗さRaは、JIS B 0601:2001に基づく算術平均粗さをいう。
【0022】
流路110a又は流路110bの少なくとも一方の内壁において測定される算術平均粗さRaの平均値は、8.000μm以下が好ましく、7.500μm以下がより好ましい。算術平均粗さRaとは、流路の軸方向に沿って位置する3箇所の領域を、測定対象の流路の一の内壁から任意に選択した場合において、当該3箇所の領域における算術平均粗さRaの平均値をいう。本実施形態では、流路110a又は流路110bの少なくとも一方の内壁において、最大高さRzの平均値が56.00μm以下であり、且つ、算術平均粗さRaの平均値が8.000μm以下であることが好ましい。
【0023】
流路110a,110bの長手方向におけるハニカムフィルタ100の長さは、例えば30〜300mmである。ハニカムフィルタ100が円柱体である場合、ハニカムフィルタ100の外径は、例えば10〜300mmである。また、流路110a,110bの軸方向に垂直な断面の内径(正方形の一辺の長さ)は、例えば0.5〜1.2mmである。隔壁120の平均厚み(セル壁厚)は、例えば0.1〜0.5mmである。
【0024】
ハニカムフィルタ100において隔壁120は、多孔質であり、例えば多孔質セラミックス(多孔質セラミックス焼結体)を含んでいる。隔壁120は、流体(例えば、すす等の微粒子を含む排ガス)が透過できるような構造を有している。具体的には、流体が通過し得る多数の連通孔(流通経路)が隔壁120内に形成されている。隔壁120の気孔率(開気孔率)は、例えば30〜70体積%である。隔壁120の気孔径(細孔直径)は、例えば5〜30μmである。隔壁120の気孔率及び気孔径は、原料の粒子径、孔形成剤の添加量、孔形成剤の種類、焼成条件により調整可能であり、水銀圧入法により測定することができる。
【0025】
隔壁120は、チタン酸アルミニウムを含んでいてもよく、マグネシウムやケイ素を更に含んでいてもよい。隔壁120は、例えば、主にチタン酸アルミニウム系結晶からなる多孔性のセラミックスから形成されている。「主にチタン酸アルミニウム系結晶からなる」とは、チタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体を構成する主結晶相がチタン酸アルミニウム系結晶相であることを意味し、チタン酸アルミニウム系結晶相は、例えば、チタン酸アルミニウム結晶相、チタン酸アルミニウムマグネシウム結晶相等であってもよい。
【0026】
隔壁120がマグネシウムを含有する場合、隔壁120の組成式は、例えばAl2(1−x)MgTi(1+x)であり、xの値は、0.03以上が好ましく、0.03〜0.20がより好ましく、0.03〜0.18が更に好ましい。隔壁120は、原料由来の微量成分又は製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0027】
隔壁120がケイ素を含有する場合、隔壁120は、ケイ素源粉末由来のガラス相を含んでいてもよい。ガラス相は、SiOが主要成分である非晶質相を指す。この場合、ガラス相の含有量は、4質量%以下であることが好ましい。ガラス相の含有量が4質量%以下であることにより、パティキュレートフィルタ等のセラミックスフィルタに要求される細孔特性を充足するチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体が得られ易くなる。ガラス相の含有量は、2質量%以上であることが好ましい。
【0028】
隔壁120は、チタン酸アルミニウム系結晶相やガラス相以外の相(結晶相)を含んでいてもよい。このようなチタン酸アルミニウム系結晶相以外の相としては、チタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体の作製に用いる原料由来の相等を挙げることができる。原料由来の相とは、より具体的には、ハニカムフィルタの製造に際してチタン酸アルミニウム系結晶相を形成することなく残存したアルミニウム源粉末、チタン源粉末及び/又はマグネシウム源粉末由来の相である。原料由来の相としては、アルミナ、チタニア等の相が挙げられる。隔壁120を形成する結晶相は、X線回折スペクトルにより確認することができる。
【0029】
ハニカムフィルタ100は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等の内燃機関からの排ガス中に含まれるすす等の被捕集物を捕集するパティキュレートフィルタとして適する。例えば、ハニカムフィルタ100では、図2に示すように、一端面100aから流路110aに供給されたガスGが隔壁120内の連通孔を通過して隣の流路110bに到達し、他端面100bから排出される。このとき、ガスG中の被捕集物が隔壁120の表面や連通孔内に捕集されてガスGから除去されることにより、ハニカムフィルタ100はフィルタとして機能する。
【0030】
なお、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、隔壁120は、チタン酸アルミニウムを含むことに限られず、コージェライト、炭化珪素、ムライト等のセラミックスや、金属物質を含んでいてもよい。また、ハニカムフィルタ100における流路の軸方向に垂直な当該流路の断面は、正方形状等の矩形状であることに限定されず、六角形状、八角形状、三角形状、円形状、楕円形状等であってもよい。さらに、ハニカムフィルタ100は円柱体であることに限られず、立方体、直方体等であってもよい。
【0031】
<ハニカムフィルタの製造方法>
次に、ハニカムフィルタ100の製造方法について説明する。上記ハニカムフィルタ100の製造方法は、例えば、(a)上記セラミックス粉末や添加剤を含む原料混合物を調製する原料調製工程と、(b)原料混合物を成形して、流路を有する成形体を得る成形工程と、(c)成形体を焼成する焼成工程と、を備え、(d)成形工程と焼成工程の間、又は、焼成工程の後に、各流路の一端を封口する封口工程を更に備える。
【0032】
[工程(a):原料調製工程]
工程(a)では、セラミックス粉末と添加剤とを混合した後に混練して原料混合物を調製する。添加剤としては、例えば孔形成剤(造孔剤)、バインダ、可塑剤、分散剤、溶媒が挙げられる。
【0033】
以下、チタン酸アルミニウムを含む隔壁を備えるハニカムフィルタの製造方法を例として説明する。セラミックス粉末は、アルミニウム源粉末及びチタン源粉末を少なくとも含み、マグネシウム源粉末及びケイ素源粉末等を更に含んでいてもよい。
【0034】
(アルミニウム源粉末)
アルミニウム源粉末は、隔壁を構成するアルミニウム成分となる化合物の粉末である。アルミニウム源粉末としては、例えば、アルミナ(酸化アルミニウム)の粉末が挙げられる。アルミナの結晶型としては、γ型、δ型、θ型、α型等が挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。アルミナの結晶型は、α型が好ましい。
【0035】
アルミニウム源粉末は、単独で空気中で焼成することによりアルミナに導かれる化合物の粉末であってもよい。かかる化合物としては、例えばアルミニウム塩、アルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、金属アルミニウム等が挙げられる。
【0036】
アルミニウム塩は、無機酸とのアルミニウム無機塩であってもよく、有機酸とのアルミニウム有機塩であってもよい。アルミニウム無機塩の具体例としては、例えば、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウムアルミニウム等のアルミニウム硝酸塩;炭酸アンモニウムアルミニウム等のアルミニウム炭酸塩などが挙げられる。アルミニウム有機塩としては、例えば、蓚酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0037】
アルミニウムアルコキシドの具体例としては、例えば、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムtert−ブトキシド等が挙げられる。
【0038】
水酸化アルミニウムの結晶型としては、例えば、ギブサイト型、バイヤライト型、ノロソトランダイト型、ベーマイト型、擬ベーマイト型等が挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。アモルファスの水酸化アルミニウムとしては、例えば、アルミニウム塩、アルミニウムアルコキシド等のような水溶性アルミニウム化合物の水溶液を加水分解して得られるアルミニウム加水分解物が挙げられる。
【0039】
アルミニウム源粉末は、1種又は2種以上のいずれでもよい。アルミニウム源粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0040】
アルミニウム源粉末は、好ましくはアルミナ粉末であり、より好ましくはα型のアルミナ粉末である。
【0041】
アルミニウム源粉末において、レーザ回折法により測定される体積基準の累積百分率50%相当粒径(中心粒径、D50)は、好ましくは20〜60μmである。アルミニウム源粉末のD50をこの範囲内に調整することにより、優れた多孔性を示すチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体が得られると共に、焼成収縮率をより効果的に低減させることができる。アルミニウム源粉末のD50は、より好ましくは25〜60μmである。
【0042】
(チタン源粉末)
チタン源粉末は、隔壁を構成するチタン成分となる化合物の粉末であり、例えば酸化チタンの粉末である。酸化チタンは、例えば、酸化チタン(IV)、酸化チタン(III)、酸化チタン(II)であり、好ましくは酸化チタン(IV)である。酸化チタン(IV)の結晶型は、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型である。酸化チタンは不定形(アモルファス)であってもよい。酸化チタンは、より好ましくはアナターゼ型やルチル型の酸化チタン(IV)である。
【0043】
チタン源粉末は、単独で空気中で焼成することによりチタニア(酸化チタン)に導かれる化合物の粉末であってもよく、例えば、チタニウム塩、チタニウムアルコキシド、水酸化チタニウム、窒化チタン、硫化チタン、チタン金属である。
【0044】
チタニウム塩は、例えば三塩化チタン、四塩化チタン、硫化チタン(IV)、硫化チタン(VI)、硫酸チタン(IV)である。チタニウムアルコキシドは、例えばチタン(IV)エトキシド、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)t−ブトキシド、チタン(IV)イソブトキシド、チタン(IV)n−プロポキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシド、及び、これらのキレート化物である。
【0045】
チタン源粉末は、1種又は2種以上のいずれでもよい。チタン源粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0046】
チタン源粉末は、好ましくは酸化チタン粉末であり、より好ましくは酸化チタン(IV)粉末である。
【0047】
チタン源粉末において、レーザ回折法により測定される体積基準の累積百分率50%相当粒径(D50)は、好ましくは0.1〜25μmである。チタン源粉末のD50は、充分に低い焼成収縮率を達成するため、より好ましくは1〜20μmである。
【0048】
チタン源粉末は、バイモーダルな粒径分布を示すことがある。このようなバイモーダルな粒径分布を示すチタニウム源粉末を用いる場合、レーザ回折法により測定される粒径が大きい方のピークを形成する粒子の粒径は、好ましくは20〜50μmである。
【0049】
レーザ回折法により測定されるチタン源粉末のモード径は、通常0.1〜60μmである。
【0050】
原料混合物中におけるAl23(アルミナ)換算でのアルミニウム源粉末とTiO2(チタニア)換算でのチタン源粉末のモル比(アルミニウム源粉末:チタン源粉末)は、好ましくは35:65〜45:55であり、より好ましくは40:60〜45:55である。このような範囲内で、チタン源粉末をアルミニウム源粉末に対して過剰に用いることにより、原料混合物の成形体の焼成収縮率をより効果的に低減させることが可能となる。
【0051】
(マグネシウム源粉末)
原料混合物は、マグネシウム源粉末を更に含有していてもよい。原料混合物がマグネシウム源粉末を含む場合、得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体は、チタン酸アルミニウムマグネシウム結晶を含む焼成体である。マグネシウム源粉末は、マグネシア(酸化マグネシウム)の粉末のほか、単独で空気中で焼成することによりマグネシアに導かれる化合物の粉末である。このような化合物は、例えば、マグネシウム塩、マグネシウムアルコキシド、水酸化マグネシウム、窒化マグネシウム、金属マグネシウムである。
【0052】
マグネシウム塩は、例えば塩化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ピロりん酸マグネシウム、蓚酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、安息香酸マグネシウムである。
【0053】
マグネシウムアルコキシドは、例えばマグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド等である。
【0054】
マグネシウム源粉末として、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物の粉末を用いることができる。このような化合物は、例えば、マグネシアスピネル(MgAl24)である。
【0055】
マグネシウム源粉末として、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物の粉末を用いる場合、アルミニウム源粉末のAl23(アルミナ)換算量、及び、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物粉末に含まれるAl成分のAl23(アルミナ)換算量の合計量と、チタニウム源粉末のTiO2(チタニア)換算量とのモル比が、原料混合物中において上記範囲内となるように調整される。
【0056】
マグネシウム源粉末は、1種又は2種以上のいずれでもよい。マグネシウム源粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0057】
マグネシウム源粉末において、レーザ回折法により測定される体積基準の累積百分率50%相当粒径(D50)は、好ましくは0.5〜30μmである。マグネシウム源粉末のD50は、成形体の焼成収縮率を低減する観点から、より好ましくは3〜20μmである。
【0058】
原料混合物中におけるMgO(マグネシア)換算でのマグネシウム源粉末の含有量は、Al(アルミナ)換算でのアルミニウム源粉末とTiO(チタニア)換算でのチタニウム源粉末との合計量に対して、モル比で、好ましくは0.03〜0.15であり、より好ましくは0.03〜0.12である。マグネシウム源粉末の含有量をこの範囲内に調整することにより、耐熱性がより向上された、大きい気孔径及び気孔率を有するチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体を比較的容易に得ることができる。
【0059】
(ケイ素源粉末)
原料混合物は、ケイ素源粉末を更に含有していてもよい。ケイ素源粉末は、シリコン成分となってチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体に含まれる化合物の粉末であり、ケイ素源粉末の併用により、耐熱性がより向上されたチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体を得ることが可能となる。ケイ素源粉末は、例えば、二酸化ケイ素、一酸化ケイ素等の酸化ケイ素(シリカ)の粉末である。
【0060】
ケイ素源粉末は、単独で空気中で焼成することによりシリカに導かれる化合物の粉末であってもよい。かかる化合物は、例えば、ケイ酸、炭化ケイ素、窒化ケイ素、硫化ケイ素、四塩化ケイ素、酢酸ケイ素、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、長石、ガラスフリット、好ましくは長石、ガラスフリットであり、工業的に入手が容易であると共に組成が安定している点で、より好ましくはガラスフリットである。ガラスフリットは、ガラスを粉砕して得られるフレーク又は粉末状のガラスをいう。ケイ素源粉末として、長石とガラスフリットとの混合物からなる粉末を用いることも好ましい。
【0061】
ガラスフリットを用いる場合、得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体の耐熱分解性をより向上させるという観点から、ガラスフリットの屈伏点は、600℃以上であることが好ましい。本明細書において、ガラスフリットの屈伏点は、熱機械分析装置(TMA:Thermo Mechanical Analysis)を用いて、低温からガラスフリットの膨張を測定し、膨張が止まり、次に収縮が始まる温度(℃)と定義される。
【0062】
ガラスフリットを構成するガラスには、ケイ酸〔SiO2〕を主成分(全成分中50質量%以上)とする一般的なケイ酸ガラスを用いることができる。ガラスフリットを構成するガラスは、その他の含有成分として、一般的なケイ酸ガラスと同様、アルミナ〔Al23〕、酸化ナトリウム〔Na2O〕、酸化カリウム〔K2O〕、酸化カルシウム〔CaO〕、マグネシア〔MgO〕等を含んでいてもよい。また、ガラスフリットを構成するガラスは、ガラス自体の耐熱水性を向上させるために、ZrO2を含有していてもよい。
【0063】
ケイ素源粉末は、1種又は2種以上のいずれでもよい。ケイ素源粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0064】
ケイ素源粉末において、レーザ回折法により測定される体積基準の累積百分率50%相当粒径(D50)は、好ましくは0.5〜30μmである。ケイ素源粉末のD50は、成形体の充填率をより向上させて機械的強度が更に高い焼成体を得るため、より好ましくは1〜20μmである。
【0065】
原料混合物がケイ素源粉末を含む場合、原料混合物中におけるケイ素源粉末の含有量は、Al(アルミナ)換算でのアルミニウム源粉末とTiO(チタニア)換算でのチタニウム源粉末との合計量100質量部に対して、SiO(シリカ)換算で、通常0.1〜10質量部であり、好ましくは0.1〜5質量部である。
【0066】
ハニカムフィルタの製造では、上記マグネシアスピネル(MgAl24)等の複合酸化物のように、チタニウム、アルミニウム、ケイ素及びマグネシウムのうち、2つ以上の金属元素を成分とする化合物を原料粉末として用いることができる。この場合、化合物は、それぞれの金属源化合物を混合した原料と同じであると考えることができる。このような考えに基づき、原料混合物中におけるアルミニウム源、チタニウム源、マグネシウム源及びケイ素源の含有量が上記範囲内に調整される。
【0067】
原料混合物にはチタン酸アルミニウムやチタン酸アルミニウムマグネシウムが含まれていてもよく、例えば、原料混合物の構成成分としてチタン酸アルミニウムマグネシウムを使用する場合、チタン酸アルミニウムマグネシウムは、チタニウム源、アルミニウム源及びマグネシウム源を兼ね備えた原料混合物に相当する。
【0068】
チタン酸アルミニウムやチタン酸アルミニウムマグネシウムは、本製造方法により得られるハニカムフィルタから調製してもよい。例えば、本製造方法により得られたハニカムフィルタが破損した場合、破損したハニカムフィルタやその破片等を粉砕して使用することができる。粉砕して得られる粉末をチタン酸アルミニウムマグネシウム粉末とすることができる。
【0069】
(添加剤)
孔形成剤としては、焼成工程において成形体を脱脂・焼成する温度以下で消失する素材によって形成されたものを使用することができる。脱脂や焼成において、孔形成剤を含有する成形体が加熱されると、孔形成剤は燃焼等によって消滅する。これにより、孔形成剤が存在していた箇所に空間ができると共に、この空間同士の間に位置するセラミックス粉末が焼成の際に収縮することにより、流体を流すことができる連通孔を隔壁内に形成することができる。
【0070】
孔形成剤は、例えば、トウモロコシ澱粉、大麦澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、豆澱粉、米澱粉、エンドウ澱粉、サンゴヤシ澱粉、カンナ澱粉、ポテト澱粉(馬鈴薯デンプン)である。孔形成剤の平均粒径は、例えば5〜25μmである。原料混合物が孔形成剤を含有する場合、孔形成剤の含有量は、例えば、セラミックス粉末100質量部に対して1〜25質量部である。
【0071】
バインダは、例えば、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシルメチルセルロース等のセルロース類;ポリビニルアルコール等のアルコール類;リグニンスルホン酸塩等の塩;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等のワックスである。原料混合物におけるバインダの含有量は、例えば、セラミックス粉末100質量部に対して20質量部以下である。
【0072】
可塑剤は、例えばグリセリン等のアルコール類;カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラギン酸、オレイン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸;ステアリン酸Al等のステアリン酸金属塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルである。原料混合物における可塑剤の含有量は、例えば、セラミックス粉末100質量部に対して0〜10質量部である。
【0073】
分散剤は、例えば、硝酸、塩酸、硫酸等の無機酸;シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸等の有機酸;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;ポリカルボン酸アンモニウムなどの界面活性剤である。原料混合物における分散剤の含有量は、例えば、セラミックス粉末100質量部に対して0〜20質量部である。
【0074】
溶媒は、例えば水であり、不純物が少ない点で、イオン交換水が好ましい。原料混合物が溶媒を含有する場合、溶媒の含有量は、例えば、セラミックス粉末100質量部に対して10〜100質量部である。
【0075】
[工程(b):成形工程]
工程(b)では、ハニカム構造を有する所定形状のセラミックス成形体を得る。工程(b)では、例えば、一軸押出機により原料混合物を混練しながらダイから押出す、いわゆる押出成形法を採用することができる。
【0076】
[工程(c):焼成工程]
工程(c)では、成形体の焼成前に、成形体中(原料混合物中)に含まれる孔形成剤等を除去するための脱脂(仮焼)が行われてもよい。脱脂は、酸素濃度0.1%以下の雰囲気下で行われる。
【0077】
本明細書において酸素濃度の単位として用いられる「%」は、「体積%」を意味する。脱脂工程(昇温時)の酸素濃度を0.1%以下の濃度に管理することにより、有機物の発熱が抑えられ、脱脂後の割れを抑制することができる。脱脂においては、脱脂が酸素濃度0.1%以下の雰囲気中で行われることにより、孔形成剤等の有機成分の一部が除去され、残部が炭化されてセラミック成形体中に残存することが好ましい。このように、セラミックス成形体中に微量のカーボンが残存することで、成形体の強度が向上し、セラミックス成形体の焼成工程への仕込みが容易になる。このような雰囲気としては、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気や、一酸化炭素ガス、水素ガス等のような還元性ガス雰囲気、真空中等が挙げられる。また、水蒸気分圧を低くした雰囲気中で焼成を行なってもよく、炭と一緒に蒸し込んで酸素濃度を低減させてもよい。
【0078】
脱脂の最高温度は、好ましくは700〜1100℃であり、より好ましくは800〜1000℃である。脱脂の最高温度を従来の600〜700℃程度から、700〜1100℃に上昇させることで、粒成長によって、脱脂後のセラミックス成形体の強度が向上するため、セラミックス成形体の焼成への仕込みが容易になる。また、脱脂は、セラミックス成形体の割れを防止するために、最高温度に到達するまでの昇温速度を極力抑えることが好ましい。
【0079】
脱脂は、管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉、ガス燃焼炉等の通常の焼成に用いられるものと同様の炉を用いて行なわれる。脱脂は回分式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。また、脱脂は静置式で行なってもよいし、流動式で行なってもよい。
【0080】
脱脂に要する時間は、セラミックス成形体中に含まれる有機成分の一部が消失するのに充分な時間であればよく、好ましくは、セラミックス成形体中に含まれる有機成分の90〜99質量%が消失する時間である。具体的には、原料混合物の量、脱脂に用いる炉の形式、温度条件、雰囲気等により異なるが、最高温度でキープする時間は、通常1分〜10時間であり、好ましくは1〜7時間である。
【0081】
セラミックス成形体は、上記の脱脂後、焼成される。焼成温度は、通常1300℃以上であり、好ましくは1400℃以上である。また、焼成温度は、通常1650℃以下であり、好ましくは1550℃以下である。焼成温度までの昇温速度は特に限定されるものではないが、通常1〜500℃/時間である。ケイ素源粉末を用いる場合には、焼成工程の前に、1100〜1300℃の温度範囲で3時間以上保持する工程を設けることが好ましい。これにより、ケイ素源粉末の融解、拡散を促進させることができる。
【0082】
焼成は、酸素濃度1〜6%の雰囲気下で行われることが好ましい。酸素濃度を6%以下とすることによって脱脂で発生した残存炭化物の燃焼を抑制することができるため、焼成におけるセラミックス成形体の割れが生じにくくなる。また、適度な酸素が存在するため、最終的に得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス成形体の有機成分を完全に除去することができる。酸素濃度は、得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体中に有機成分に由来する炭化物(すす)が残存しないことから、1%以上が好ましい。原料混合物、すなわちアルミニウム源粉末、チタン源粉末、マグネシウム源粉末及びケイ素源粉末の種類や使用量比によっては、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス中で焼成してもよいし、一酸化炭素ガス、水素ガス等のような還元性ガス中で焼成してもよい。また、水蒸気分圧を低くした雰囲気中で焼成を行なってもよい。
【0083】
焼成は、通常、管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉、ガス燃焼炉等の従来の装置を用いて行なわれる。焼成は回分式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。また、焼成は静置式で行なってもよいし、流動式で行なってもよい。
【0084】
焼成時間は、セラミックス成形体がチタン酸アルミニウム系結晶に遷移するのに充分な時間であればよく、原料の量、焼成炉の形式、焼成温度、焼成雰囲気等により異なるが、通常は10分〜24時間である。
【0085】
[工程(d):封口工程]
工程(d)は、工程(b)と工程(c)の間、又は、工程(c)の後に行われる。工程(b)と工程(c)の間に工程(d)を行う場合、工程(b)において得られた未焼成のセラミックス成形体の各流路の一方の端部を封口物で封口した後、工程(c)においてセラミックス成形体と共に封口物を焼成することにより、流路の一方の端部を封口する封口部が得られる。工程(c)の後に工程(d)を行う場合、工程(c)において得られたセラミックス成形体の各流路の一方の端部を封口物で封口した後、セラミックス成形体と共に封口物を焼成することにより、流路の一方の端部を封口する封口部が得られる。封口物としては、上記原料混合物と同様の混合物を用いることができる。
【0086】
以上の工程によって、ハニカムフィルタを得ることができる。なお、ハニカムフィルタは、工程(b)における成形直後の成形体の形状をほぼ維持した形状を有するが、工程(b)、工程(c)又は工程(d)の後に研削加工等を行って、所望の形状に加工することもできる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0088】
<ハニカムフィルタの作製>
(実施例1)
チタン酸アルミニウムマグネシウムの原料粉末(Al粉末、TiO粉末、MgO粉末)、SiO粉末、チタン酸アルミニウムマグネシウムとアルミナとアルミノシリケートガラスとの複合相をもつセラミックス粉末(仕込み時の組成式:41.4Al−49.9TiO−5.4MgO−3.3SiO、式中の数値はモル比を表す)、孔形成剤、有機バインダ、潤滑剤、可塑剤、分散剤及び水(溶媒)を含む原料混合物を調製した。原料混合物中の主な成分の含有量は下記の値に調整した。
【0089】
[原料混合物の成分]
Al粉末:37.3質量部
TiO粉末:37.0質量部
MgO粉末:1.9質量部
SiO粉末:3.0質量部
セラミックス粉末:8.8質量部
孔形成剤:馬鈴薯から得た平均粒径25μmの澱粉、12.0質量部
有機バインダ1:メチルセルロース(三星精密化学社製:MC−40H)、5.5質量部
有機バインダ2:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(三星精密化学社製:PMB−40H)、2.4質量部
【0090】
上記の原料混合物を混練した後に押出成形することにより、図1,2に示す構造を有する円柱状のハニカムフィルタ(DPF)を作製した。実施例1のハニカムフィルタのチタン酸アルミニウム化率(AT化率)を測定したところ100%であった。なお、AT化率は、実施例1のハニカムフィルタを乳鉢にて解砕して得られる粉末の粉末X線回折スペクトルにおける2θ=27.4°の位置に現れるピーク(チタニア・ルチル相(110)面)の積分強度(I)と、2θ=33.7°の位置に現れるピーク〔チタン酸アルミニウムマグネシウム相(230)面〕の積分強度(IAT)とから、下記式(1)により算出した。
AT化率(%)=IAT/(I+IAT)×100 ・・・(1)
【0091】
流路の軸方向におけるハニカムフィルタの長さは152mmであった。ハニカムフィルタの外径は144mmであった。流路の密度(セル密度)は300cpsiであった。流路の断面内径(正方形の一辺の長さ)は1.2mmであった。流路間の隔壁の厚みは0.30mmであった。隔壁の気孔率は45体積%であり、隔壁の気孔径は15μmであった。
【0092】
(比較例1)
SiCからなる隔壁により仕切られた互いに平行な複数の流路を有するハニカムフィルタ(DPF)を準備した。流路の軸方向におけるハニカムフィルタの長さは140mmであった。ハニカムフィルタの外径は144mmであった。流路間の隔壁の厚みは0.33mmであった。
【0093】
(比較例2)
SiCからなる隔壁により仕切られた互いに平行な複数の流路を有するハニカムフィルタ(DPF)を準備した。流路の軸方向におけるハニカムフィルタの長さは152mmであった。ハニカムフィルタの外径は144mmであった。流路間の隔壁の厚みは0.28mmであった。
【0094】
<表面粗さ測定>
各ハニカムフィルタから一つの流路を測定対象として選択した。測定対象の流路の一つの内壁から任意に3箇所の測定領域を選択し、各測定領域の最大高さRz及び算術平均粗さRaをJIS B 0601:2001に準拠して測定した。各測定領域の表面形状をキーエンス製レーザ顕微鏡 VK−8500により測定した。測定領域の表面形状の例を図3に示す。なお、測定領域の大きさは、いずれも298μm×224μmであった。最大高さRz及び算術平均粗さRaの測定結果を表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
<圧力損失測定>
スス堆積時の圧力損失測定を以下のとおり実施した。図4に、圧力損失測定装置の概略図を示す。圧力損失測定には、スス発生装置(Matter Engineering社製、商品名:REXS)200、及び、大型コンプレッサー装置210を用いた。ハニカムフィルタの一方の端面をスス発生装置200に接続し、ハニカムフィルタとスス発生装置200とを接続する配管にコンプレッサー装置210を接続した。
【0097】
スス発生装置200には、プロパンガスを流量2L/minで供給し、窒素ガスを流量2L/minで供給し、空気を流量1000L/minで供給した。スス発生装置200から発生する“スス”は、プロパンガスを不完全燃焼することによって生成する人工的なススであり、スス発生装置200では、空気流量や酸素濃度等によってススの平均粒子径を制御することができる。測定に際しては、ススの平均粒子径を約90nmに調整した。ススを含む空気の流量はコンプレッサー装置210により200Nm−1に調整した。
【0098】
スス堆積時の圧力損失挙動を把握するため、ハニカムフィルタ内部にススを供給しつつハニカムフィルタ前後の差圧(図4中の圧力P1と圧力P2の差圧ΔP)を記録した。実施例1及び比較例1,2のハニカムフィルタを用いてスス堆積量の増加に伴う圧力損失を測定した結果を図5に示す。図5に示されるように、実施例1では、比較例1,2に比して圧力損失の値が小さいことが確認される。また、実施例1では、比較例1,2に比してスス堆積量の増加に伴う圧力損失の増加量が小さいことが確認される。
【符号の説明】
【0099】
100…ハニカムフィルタ、110…流路、110a…流路(第1の流路)、110b…流路(第2の流路)、115a,115b…内壁、120…隔壁、A,B…領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の隔壁により仕切られた互いに平行な複数の流路を有するハニカムフィルタであって、
前記複数の流路が、第1の流路と、当該第1の流路に隣接する第2の流路とを有しており、
前記第1の流路における前記ハニカムフィルタの一端側の端部が封口されており、
前記第2の流路における前記ハニカムフィルタの他端側の端部が封口されており、
前記第1の流路又は前記第2の流路の少なくとも一方の内壁における少なくとも一部の領域の最大高さRzが55.00μm以下である、ハニカムフィルタ。
【請求項2】
前記内壁における最大高さRzの平均値が56.00μm以下である、請求項1に記載のハニカムフィルタ。
【請求項3】
前記内壁の前記領域の算術平均粗さRaが9.000μm以下である、請求項1又は2に記載のハニカムフィルタ。
【請求項4】
前記内壁における算術平均粗さRaの平均値が8.000μm以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項5】
前記隔壁がチタン酸アルミニウムを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のハニカムフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−39513(P2013−39513A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177003(P2011−177003)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】