説明

ハニカム構造体

【課題】 触媒を担持させた際にセル壁及び境界壁に無駄に担持される触媒の量を少なくすることができるハニカム構造体を提供する。
【解決手段】 多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、最外周を外壁によって囲まれた柱状のハニカム焼成体が、接着材層を介して複数個結束されたハニカム構造体であって、上記セル壁の厚さは0.15〜0.30mmであり、上記接着材層と上記接着材層の両側に位置する二つのハニカム焼成体の外壁とからなる境界壁の厚さは、上記セル壁の厚さの5〜20倍であり、上記外壁又は上記外壁と上記接着材層との間には、撥水性物質、陽イオン交換物質及び吸水性物質からなる群から選ばれる少なくとも一種の物質を含む、触媒浸透防止領域を有することを特徴とするハニカム構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
バス、トラック等の車両や建設機械等の内燃機関から排出される排ガスを浄化するためにハニカム触媒が用いられており、従来、ハニカム触媒としては、例えば、一体構造で低熱膨張性のコージェライト質ハニカム構造体の表面に、活性アルミナ等の高比表面積材料と白金等の触媒金属を担持したものが提案されている。また、リーンバーンエンジンおよびディーゼルエンジンのような酸素過剰雰囲気下におけるNOx処理のために、NOx吸蔵剤としてBa等のアルカリ土類金属を担持したものも提案されている。
【0003】
また、活性アルミナ等の高比表面積材料を主原料とし、これに補強材としての無機繊維と無機バインダを添加した原料をハニカム形状に成形し、焼成することにより製造される、高比表面積材料と無機繊維が無機バインダで結合されたハニカム焼成体からなるハニカム構造体が知られており、接着材層を介して、ハニカム焼成体を複数個結束させてなる集合型ハニカム構造体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−349378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されているようなハニカム焼成体を構成する壁は2種類ある。
その2種類の壁とは、ハニカム焼成体の隣接するセルの間を隔てるセル壁と、ハニカム焼成体の最外周に存在する外壁である。
そして、一のハニカム焼成体の最も外側のセルと隣接するハニカム焼成体の最も外側のセルの間は、上記一のハニカム焼成体の外壁と接着材層と他のハニカム焼成体の外壁とを合わせた壁によって隔てられていることとなる。
この、一のハニカム焼成体の最も外側のセルと他のハニカム焼成体の最も外側のセルの間を隔てる壁について図面を用いて説明する。
【0005】
図1は、集合型ハニカム構造体の端面の一部を示す正面図である。
図1においては、2つのハニカム焼成体110a、110bが接着材層101を介して接着されている。
図中上に示したハニカム焼成体110aは、セル111aの間がセル壁113aで隔てられており、その最外周には外壁114aが存在している。同様に、図中下に示したハニカム焼成体110bにおいても、セル111bの間がセル壁113bで隔てられており、その最外周には外壁114bが存在している。さらに、外壁114aと外壁114bとの間には接着材層101が存在している。
そして、図1において両矢印で示す壁である、外壁114a 、接着材層101及び外壁114bを合わせた壁10が、一のハニカム焼成体の最も外側のセルと隣接するハニカム焼成体の最も外側のセルの間を隔てる壁に該当する。この壁を、本明細書では境界壁ということとする。
そして、本明細書において、境界壁の厚さを、一のハニカム焼成体の最も外側のセルと他のハニカム焼成体の最も外側のセルの間の距離(すなわち、図1左側に示す両矢印の長さ)と定義する。
上記定義に基づけば、集合型ハニカム構造体には、隣接するセルの間を隔てる壁として、セル壁と境界壁の2種類の壁が存在することとなる。
【0006】
集合型ハニカム構造体を触媒担体として使用するためには、排ガスが通過するセルの周囲に存在するセル壁及び境界壁に触媒を担持する。そして、担持させた触媒と排ガスを接触させることによって排ガスを浄化する。
【0007】
通常、ハニカム構造体への触媒の担持は、触媒金属等を含む触媒溶液にハニカム構造体を浸漬することによって行う。ハニカム構造体のセル壁及び境界壁には均等に触媒溶液が浸透するため、ハニカム構造体のセル壁及び境界壁には満遍なく触媒が担持されていると推測される。
【0008】
ここで、触媒担体として用いられるハニカム構造体のセルの両端は通常は開放されているため、触媒担体の一方の端面側からセルに流入した排ガスの多くは、セル壁又は境界壁を貫通することなく同じセルの他方の端面側から流出する。従って、排ガスが触媒と接触する領域は、セル壁又は境界壁のうちセル壁又は外壁の表面からの距離が短い領域が殆どである。従って、セル壁又は外壁の表面からの距離が短い領域以外に担持された触媒は殆ど排ガスと接触する機会がなく、排ガス浄化反応に寄与しない触媒であると考えられる。
【0009】
しかし、通常用いられているハニカム構造体では、上述したようにハニカム構造体のセル壁及び境界壁には満遍なく触媒が担持されており、排ガス浄化反応に寄与しない無駄な触媒が多く担持されていると推測される。
触媒金属は白金等の高価かつ貴重な金属であるにも関わらず、このように無駄に担持されている触媒があることは、製造コストを増大させる原因となり、また、貴重な資源の無駄使いとなるため、問題となっている。
【0010】
特に、境界壁の厚さは外壁二枚分の厚さに接着材層の厚さを加えた厚さとなることから、セル壁の厚さに比べて非常に厚くなるため、ハニカム構造体に満遍なく担持された触媒のうち、特に境界壁に担持された触媒は、その多くが排ガス浄化反応に寄与することのない無駄に担持された触媒となっていると推測される。
このことから、境界壁に無駄に担持される触媒の量を少なくすることが求められている。
【0011】
また、セル壁の厚さが厚い場合には、セル壁に担持された触媒のうち排ガス浄化反応に寄与しない触媒の割合が多くなると推測されるため、セル壁の厚さをできるだけ小さくすることが求められている。
【0012】
本発明は、このような問題に対してなされたものであり、触媒を担持させた際にセル壁及び境界壁に無駄に担持される触媒の量を少なくすることができるハニカム構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載のハニカム構造体は、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、最外周を外壁によって囲まれた柱状のハニカム焼成体が、接着材層を介して複数個結束されたハニカム構造体であって、
上記セル壁の厚さは0.15〜0.30mmであり、
上記接着材層と上記接着材層の両側に位置する二つのハニカム焼成体の外壁とからなる境界壁の厚さは、上記セル壁の厚さの5〜20倍であり、
上記外壁又は上記外壁と上記接着材層との間には、撥水性物質、陽イオン交換物質及び吸水性物質からなる群から選ばれる少なくとも一種の物質を含む、触媒浸透防止領域を有することを特徴とする。
【0014】
請求項1に記載のハニカム構造体は、そのセル壁の厚さが0.15〜0.30mmである。セル壁の厚さが0.15mm以上であると、セル壁の強度を充分に保つことができる。
また、セル壁の厚さを0.30mm以下としているため、セル壁の全ての領域はセル壁の表面からの距離が短い領域となる。そのため、セル壁に触媒を担持させた際に、セル壁に担持させた触媒の殆どを排ガス浄化反応に寄与する触媒とすることができ、セル壁に無駄に担持される触媒の量が少ないハニカム構造体とすることができる。
【0015】
また、境界壁の厚さは上記セル壁の厚さの5〜20倍である。
境界壁の厚さがセル壁の厚さの5倍未満であるハニカム構造体では、接着材層の厚さが薄くなりすぎるため、ハニカム焼成体同士の接着強度が不充分となってしまうことがある。
また、境界壁の厚さがセル壁の厚さの20倍を超えているハニカム構造体では、セルの開口面積(開口率)が小さくなってしまうため、排ガス浄化用の触媒担体としての性能が低下することがある。
【0016】
さらに、上記境界壁のうち、上記外壁、又は、上記外壁と上記接着材層との間には、撥水性物質、陽イオン交換物質、吸水性物質からなる群から選ばれる少なくとも一種の物質を含む、触媒浸透防止領域を有する。
【0017】
図2は、触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体の一例をその長手方向に平行に切断した際の境界壁近傍を模式的に示す断面図である。
図2に示すハニカム構造体には、触媒浸透防止領域20が接着材層101と外壁114aの間、接着材層101と外壁114bの間にそれぞれ設けられている。
また、境界壁10の厚さは、図2中の上から外壁114a、触媒浸透防止領域20、接着材層101、触媒浸透防止領域20、外壁114bの厚さを合計した厚さとなる。
【0018】
図2中には、触媒溶液が流れる方向を模式的に矢印で示している。
ハニカム構造体に触媒を担持させる際に、ハニカム構造体を触媒溶液に浸漬すると、触媒溶液は初めにセル111a、111b内に入り、続いてセル111a、セル111bに隣接する外壁114a、114bに浸透する。
そして、ハニカム構造体に設けられている触媒浸透防止領域20は、外壁114a、114bに浸透した触媒溶液中の触媒金属がさらに接着材層内に浸透することを防止するために設けられた領域である。
【0019】
触媒浸透防止領域に含まれる物質は、ハニカム構造体を触媒金属等の触媒を含む触媒溶液に浸漬した際に外壁から接着材層に触媒金属が浸透することを防止する働きがある物質である。そのため、請求項1に記載のハニカム構造体を触媒溶液に浸漬した場合にはハニカム焼成体の外壁又はハニカム焼成体の外壁と接着材層の間までに触媒が浸透するものの、接着材層にまで触媒が浸透することが防止される。
従って、請求項1に記載のハニカム構造体は、触媒を担持させた際に接着材層には触媒が担持されていないハニカム構造体とすることができる。
なお、この触媒防止浸透領域は、上記物質を含む層状の領域であることが望ましいが、上記物質を含む領域であれば、層状には限定されず、上記物質を含む領域と上記物質が含まれない領域が不連続に分布した領域であってもよい。
また、触媒浸透防止領域はハニカム焼成体の外壁に設けられていても良い。触媒浸透防止領域がハニカム焼成体の外壁に設けられた場合については後述する。
【0020】
境界壁のうち、ハニカム焼成体の外壁部分は、外壁の表面からの距離が短い領域であるため、外壁に担持された触媒は排ガス浄化反応に寄与する触媒となる。一方、境界壁のうち、接着材層は外壁の表面からの距離が長い領域であるため、接着材層に担持された触媒は排ガス浄化反応に寄与しない無駄な触媒となるが、上述のように請求項1に記載のハニカム構造体の接着材層には触媒が担持されないため、無駄な触媒が担持されないこととなる。
【0021】
従って、請求項1に記載のハニカム構造体では、触媒を担持させた際に境界壁に無駄に担持される触媒の量は少なくなり、ハニカム構造体全体について無駄に担持される触媒の量を少なくすることができる。
【0022】
請求項2に記載のハニカム構造体では、上記触媒浸透防止領域には、撥水性物質が含まれ、上記撥水性物質は、シリコンオイル、ロウ、ガラスのいずれかからなる。
【0023】
触媒浸透防止領域が撥水性物質を含んでいると、撥水性物質が障壁となって触媒溶液がハニカム焼成体の外壁側から接着材層側に浸透することが防止される。そのため、接着材層に触媒が担持されることを防止して、境界壁に無駄に担持される触媒の量を少なくすることができる。
この撥水性物質の作用について図面を用いて説明する。
【0024】
図3は、撥水性物質を含む触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体の一例をその長手方向に平行に切断した際の触媒浸透防止領域近傍を模式的に示す断面図である。
なお、図3に示す領域は、図2においてAで示す部分を拡大した領域である。
そして、図3に示すハニカム構造体においては、外壁114と接着材層101との間には撥水性物質を含む触媒浸透防止領域21が設けられている。
【0025】
図3において、実線で示す矢印は、触媒金属を含む触媒溶液の流れを示している。
図3に示すハニカム構造体が触媒溶液に浸されると、触媒溶液はセル111から外壁114に浸透し、触媒溶液に含まれる触媒金属30は外壁114に担持されていく。そして、外壁114の最も奥(図3中下方向)にまで浸透した触媒溶液は、撥水性物質を含む触媒浸透防止領域21と接触する。
ここで、触媒浸透防止領域21にはシリコンオイル、ロウ、ガラスのいずれかからなる撥水性物質が含まれている。これらの撥水性物質は水と接触した際に水をはじく性質を有する。そのため、触媒浸透防止領域21と接触した触媒溶液は触媒浸透防止領域21に含まれる撥水性物質にはじかれる。よって、触媒溶液は触媒浸透防止領域21内に浸透することがなく、触媒浸透防止領域21の先に存在する接着材層101にも浸透することがない。
従って、触媒金属30が接着材層101に到達することもないため、接着材層101に触媒金属30が担持されることが防止される。
【0026】
請求項3に記載のハニカム構造体では、上記触媒浸透防止領域には、陽イオン交換物質が含まれ、上記陽イオン交換物質は、フェノール樹脂からなる。
【0027】
触媒浸透防止領域が陽イオン交換物質を含んでいると、陽イオン交換物質と接触した触媒金属等の陽イオンが陽イオン交換物質によって取り込まれるため、触媒金属がハニカム焼成体の外壁側から接着材層側に浸透することが防止される。そのため、接着材層に触媒が担持されることを防止して、境界壁に無駄に担持される触媒の量を少なくすることができる。
この陽イオン交換物質の作用について図面を用いて説明する。
【0028】
図4は、陽イオン交換物質を含む触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体の一例をその長手方向に平行に切断した際の触媒浸透防止領域近傍を模式的に示す断面図である。
なお、図4に示す領域は、図2においてAで示す部分を拡大した領域である。
そして、図4に示すハニカム構造体においては、外壁114と接着材層101との間には陽イオン交換物質を含む触媒浸透防止領域22が設けられている。
【0029】
図4において、実線で示す矢印は、触媒金属を含む触媒溶液の流れを示しており、点線で示す矢印は、触媒金属を含まない溶液の流れを示している。
図4に示すハニカム構造体が触媒溶液に浸されると、触媒溶液はセル111から外壁114に浸透し、触媒溶液に含まれる触媒金属30は外壁114に担持されていく。そして、外壁114の最も奥(図4中下方向)にまで浸透した触媒溶液は、さらに陽イオン交換物質を含む触媒浸透防止領域22内に浸透する。
ここで、触媒浸透防止領域22にはフェノール樹脂等からなる陽イオン交換物質が含まれている。触媒金属30は陽イオンとして触媒溶液中に存在しているため、触媒金属30が陽イオン交換物質と接触すると、陽イオン交換物質が有する陽イオンと触媒金属30が交換され、触媒金属30は陽イオン交換物質と結合して触媒浸透防止領域22に留まることとなる。
従って、触媒金属30が触媒浸透防止領域22の先に存在する接着材層101に到達することがないため、接着材層101に触媒金属30が担持されることが防止される。
【0030】
請求項4に記載のハニカム構造体では、上記触媒浸透防止領域には、吸水性物質が含まれ、上記吸水性物質は、モンモリロナイト、サポナイト、バーミキュライト、高気孔率接着材、吸水性ポリマーのいずれかからなる。
【0031】
触媒浸透防止領域が吸水性物質を含んでいると、吸水性物質と接触した触媒溶液は吸水性物質によって捕捉され、触媒金属がハニカム焼成体の外壁側から接着材層側に浸透することが防止される。そのため、接着材層に触媒が担持されることを防止して、境界壁に無駄に担持される触媒の量を少なくすることができる。
この吸水性物質の作用について図面を用いて説明する。
【0032】
図5は、吸水性物質を含む触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体の一例をその長手方向に平行に切断した際の触媒浸透防止領域近傍を模式的に示す断面図である。
なお、図5に示す領域は、図2においてAで示す部分を拡大した領域である。
そして、図5に示すハニカム構造体においては、外壁114と接着材層101との間には吸水性物質を含む触媒浸透防止領域23が設けられている。
【0033】
図5において、実線で示す矢印は、触媒金属を含む触媒溶液の流れを示している。
図5に示すハニカム構造体が触媒溶液に浸されると、触媒溶液はセル111から外壁114に浸透し、触媒溶液に含まれる触媒金属30は外壁114に担持されていく。そして、外壁114の最も奥(図5中下方向)にまで浸透した触媒溶液は、さらに吸水性物質を含む触媒浸透防止領域23内に浸透する。
ここで、触媒浸透防止領域23にはモンモリロナイト、サポナイト、バーミキュライト、高気孔率接着材、吸水性ポリマーのいずれかからなる吸水性物質が含まれている。これらの吸水性物質は水と接触した際に水を吸込み、水が吸水性物質の外部に放出されないようにする性質を有する。そして、触媒金属を含む水溶液がこれらの吸水性物質のいずれかと接触した場合には、触媒金属と水が共に吸水性物質に吸い込まれるため、触媒浸透防止領域23と接触した触媒金属30は水と共に触媒浸透防止領域23に留まることとなる。
従って、触媒金属30が触媒浸透防止領域23の先に存在する接着材層101に到達することがないため、接着材層101に触媒金属30が担持されることが防止される。
【0034】
請求項5に記載のハニカム構造体では、上記ハニカム焼成体は、無機粒子と、無機繊維及び/又はウィスカと、無機バインダとを含んでなる。
また、請求項6に記載のハニカム構造体では、上記無機粒子は、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、セリア、ムライト、ゼオライトからなる群から選択された少なくとも一種である。
また、請求項7に記載のハニカム構造体では、上記無機繊維及び/又はウィスカは、アルミナ、シリカ、炭化珪素、シリカ−アルミナ、ガラス、チタン酸カリウム及びホウ酸アルミニウムからなる群から選択された少なくとも一種である。
また、請求項8に記載のハニカム構造体では、上記無機バインダは、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、水ガラス、セピオライト及びアタパルジャイトからなる群から選択された少なくとも一種である。
請求項5〜8に記載されたこれらの物質からなるハニカム焼成体は、比表面積が高く、強度が充分であるため、このようなハニカム焼成体から構成されるハニカム構造体は、触媒担体として好適に使用する事ができる。
【0035】
請求項9に記載のハニカム構造体は、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、最外周を外壁によって囲まれた柱状のハニカム焼成体が、接着材層を介して複数個結束されたハニカム構造体であって、
上記セル壁の厚さは0.15〜0.30mmであり、
上記接着材層と上記接着材層の両側に位置する二つのハニカム焼成体の外壁とからなる境界壁の厚さは、上記セル壁の厚さの5〜20倍であり、
上記接着材層は、撥水性物質を含むことを特徴とする。
【0036】
請求項9に記載のハニカム構造体においては、ハニカム構造体を触媒溶液に浸漬した際に、接着材層のうちハニカム焼成体の外壁と接する領域にまで触媒溶液が浸透する。しかし、接着材層が撥水性物質を含んでいるため、撥水性物質が障壁となって、触媒溶液が接着材層の内部にまで浸透することが防止される。そのため、接着材層の内部にまで触媒が担持されることを防止することができ、境界壁に無駄に担持される触媒の量を少なくすることができる。
このような撥水性物質を含む接着材層の作用について図面を用いて説明する。
【0037】
図6は、撥水性物質を含む接着材層を有するハニカム構造体の一例をその長手方向に平行に切断した際の接着材層近傍を模式的に示す断面図である。
【0038】
図6において、実線で示す矢印は、触媒金属を含む触媒溶液の流れを示している。
図6に示すハニカム構造体が触媒溶液に浸されると、触媒溶液はセル111から外壁114に浸透し、触媒溶液に含まれる触媒金属30は外壁114に担持されていく。そして、外壁114の最も奥(図6中下方向)にまで浸透した触媒溶液は、撥水性物質を含む接着材層201と接触する。
ここで、接着材層201には撥水性物質が含まれており、撥水性物質は水と接触した際に水をはじく性質を有する。そのため、接着材層201と接触した触媒溶液は接着材層201に含まれる撥水性物質にはじかれる。よって、触媒溶液は接着材層201内に浸透することがない。
従って、触媒金属30が接着材層201に到達することもなく、接着材層201に触媒金属30が担持されることが防止される。
【0039】
請求項10に記載のハニカム構造体では、上記撥水性物質は、シリコンオイル、ロウ、ガラスのいずれかからなる。
撥水性物質がこれらの物質のいずれかからなると、触媒溶液が接着材層の内部に浸透することを好適に防止することができ、接着材層の内部にまで触媒が担持されることを好適に防止することができる。
【0040】
請求項11に記載のハニカム構造体では、上記ハニカム焼成体は、無機粒子と、無機繊維及び/又はウィスカと、無機バインダとを含んでなる。
また、請求項12に記載のハニカム構造体では、上記無機粒子は、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、セリア、ムライト、ゼオライトからなる群から選択された少なくとも一種である。
また、請求項13に記載のハニカム構造体では、上記無機繊維及び/又はウィスカは、アルミナ、シリカ、炭化珪素、シリカ−アルミナ、ガラス、チタン酸カリウム及びホウ酸アルミニウムからなる群から選択された少なくとも一種である。
また、請求項14に記載のハニカム構造体では、上記無機バインダは、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、水ガラス、セピオライト及びアタパルジャイトからなる群から選択された少なくとも一種である。
請求項11〜14に記載されたこれらの物質からなるハニカム焼成体は、比表面積が高く、強度が充分であるため、このようなハニカム焼成体から構成されるハニカム構造体は、触媒担体として好適に使用する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
(第一実施形態)
以下、本発明のハニカム構造体及びハニカム構造体の製造方法の一実施形態である第一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図7(a)は、本発明のハニカム構造体の一例を模式的に示す斜視図であり、図7(b)は、ハニカム焼成体の一例を模式的に示す斜視図である。
図7(a)に示すハニカム構造体100においては、多孔質セラミックからなる、図7(b)に示すような四角柱形状のハニカム焼成体110が、接着材層101を介して複数個結束されてセラミックブロック103を構成し、このセラミックブロック103の周囲にコート層102が形成されている。
また、接着材層101とハニカム焼成体110の間には触媒浸透防止領域が設けられている。
【0042】
図7(b)に示すハニカム焼成体110は、多数のセル111がセル壁113を隔てて長手方向(図7(b)中、矢印Bの方向)に並設されてなる。
そして、ハニカム焼成体110の最外周には外壁114が存在している。
セル111には排ガス等の流体を流通させることができ、セル壁113及び外壁114には排ガスを浄化するための触媒を担持させることができる。そのため、セル壁113及び外壁114に触媒を担持させて、セル111に排ガスを流すと、セル111内を流れる排ガス中に含まれる有害成分は、担持させた触媒の働きによって浄化される。
【0043】
本実施形態において、ハニカム焼成体のセル壁の厚さは0.15〜0.30mmである。また、境界壁の厚さは上記セル壁の厚さの5〜20倍である。
なお、上記境界壁の厚さには、触媒浸透防止領域の厚さを含む。
接着材層とハニカム焼成体の外壁との間に存在する触媒浸透防止領域の厚さは、特に限定されるものではないが、5μm以上であることが望ましく、10μm以上であることがより望ましく、30μm以上であることがさらに望ましい。
触媒浸透防止領域の厚さが薄すぎると触媒の浸透を防止する作用が不充分となってしまうことがある。
また、触媒浸透防止領域の厚さはセル壁の厚さ以下であることが望ましい。
触媒浸透防止領域の厚さが厚すぎると、接着材層の厚さが薄くなってしまうため、接着強度が低下することがある。
【0044】
また、本実施形態において、接着材層の厚さは、0.5〜5mmが望ましい。
接着材層の厚さが0.5mm未満では十分な接合強度が得られないおそれがあり、また、接着材層は触媒担体として機能しない部分であるため、5mmを超えると、ハニカム構造体の単位体積あたりの比表面積が低下するため、ハニカム構造体を排ガスを浄化するための触媒担体として用いた際に触媒を十分に高分散させることができなくなることがある。
また、接着材層の厚さが5mmを超えると、圧力損失が大きくなることがある。
【0045】
本実施形態のハニカム構造体においては、触媒浸透防止領域が接着材層とハニカム焼成体の外壁との間に存在しており、上記触媒浸透防止領域は、撥水性物質、陽イオン交換物質及び吸水性物質からなる群から選ばれる少なくとも一種の物質を含んでいる。
【0046】
撥水性物質としては、接着材層への触媒溶液の浸透を防止することができるものであれば、その種類は特に限定されるものではないが、例えば、シリコンオイル、ロウ、ガラス等が挙げられる。
【0047】
また、陽イオン交換物質としては、触媒金属を含む触媒溶液と接触した際に触媒金属である陽イオンと結合することによって陽イオンを取り込み、触媒金属が接着材層へ浸透することを防止することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0048】
また、吸水性物質としては、触媒溶液と接触した際に触媒金属と水を吸込み、吸い込んだ水と触媒金属が吸水性物質の外部、すなわち接着材層に放出されないようにすることができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、バーミキュライト、高気孔率接着材、吸水性ポリマー等が挙げられる。
この中では、耐熱性の高いモンモリロナイト、サポナイト、バーミキュライトがより望ましい。
なお、接着材層とハニカム焼成体の外壁との間に存在する触媒浸透防止領域の詳しい作用については既に説明したため省略する。
【0049】
上記ハニカム焼成体の組成は、特に限定されるものではないが、無機粒子と、無機繊維及び/又はウィスカと、無機バインダとを含んでなることが望ましい。
無機粒子によって比表面積が向上するため、ハニカム焼成体を触媒担体として好適に用いることができ、また、無機繊維及び/又はウィスカによってハニカム焼成体の強度が向上することとなる。
【0050】
上記無機粒子としては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、セリア、ムライト、ゼオライト等からなる粒子が望ましい。これらの粒子は、単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
また、これらの中では、アルミナ粒子、セリア粒子が特に望ましい。
【0051】
上記無機繊維及び/又はウィスカとしては、アルミナ、シリカ、炭化珪素、シリカ−アルミナ、ガラス、チタン酸カリウム等からなる無機繊維が望ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記無機繊維及び/又はウィスカのなかでは、ホウ酸アルミニウムウィスカがより望ましい。
なお、本明細書中において、無機繊維やウィスカとは、平均アスペクト比(長さ/径)が5を超えるものをいう。また、上記無機繊維やウィスカの望ましい平均アスペクト比は、10〜1000である。
【0052】
上記ハニカム焼成体に含まれる無機バインダとしては、無機ゾルや粘土系バインダ等を用いることができ、上記無機ゾルの具体例としては、例えば、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、水ガラス等が挙げられる。また、粘土系バインダとしては、例えば、白土、カオリン、モンモリロナイト、セピオライト、アタパルジャイト等の複鎖構造型粘土等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
これらのなかでは、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、水ガラス、セピオライト及びアタパルジャイトからなる群から選択された少なくとも1種が望ましい。
上記無機ゾルや粘度系バインダ等は水分を含んでおり、これらを加熱等して水分を除去して残存した無機成分が無機バインダとなる。
【0053】
また、上記接着材層は、既に説明した上記無機粒子と、上記無機繊維及び/又はウィスカと、上記無機バインダと、有機バインダとを含む接着材ペーストを原料として形成されてなることが望ましい。
【0054】
上記有機バインダとしては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
【0055】
また、本実施形態のハニカム構造体に担持させる触媒(触媒金属)は、特に限定されるものではないが、例えば、貴金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0056】
上記貴金属としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等が挙げられ、上記アルカリ金属としては、例えば、カリウム、ナトリウム等が挙げられ、上記アルカリ土類金属としては、例えば、バリウム等が挙げられる。
【0057】
また、上述したような触媒が担持されたハニカム構造体(ハニカム触媒)の用途は、特に限定されるものではないが、例えば自動車の排ガス浄化用のいわゆる三元触媒やNOx吸蔵触媒として用いることができる。
【0058】
続いて、本実施形態のハニカム構造体の製造方法について説明する。
まず、原料組成物を調製し、この原料組成物を用いて押出成形を行い、所定の形状のハニカム成形体を作製する成形工程を行う。
上記原料組成物としては、上記無機粒子と、上記無機繊維及び/又はウィスカを主成分とし、これらのほかに、上記無機バインダや、有機バインダ、分散媒、成形助剤を成形性にあわせて適宜加えたものを用いることができる。
【0059】
次に、作製したハニカム成形体を所定の長さに切断し、マイクロ波乾燥機、熱風乾燥機、誘電乾燥機、減圧乾燥機、真空乾燥機及び凍結乾燥機等を用いて乾燥させる乾燥工程を行う。
【0060】
次に、ハニカム成形体中の有機物を脱脂炉中で加熱して除去する脱脂工程を行う。
脱脂条件は、特に限定されず、成形体に含まれる有機物の種類や量によって適宜選択するが、おおよそ400℃、2時間程度が望ましい。
【0061】
次に、脱脂処理を施したハニカム成形体を焼成する焼成工程を行う。
焼成条件は、特に限定されるものではないが、500〜1200℃が望ましく、600〜1000℃がより望ましい。
このような工程を経ることにより、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設された柱状のハニカム焼成体を製造することができる。
なお、本明細書において、「柱状」には、円柱状や楕円柱状、多角柱状等の任意の柱の形状を含む。
【0062】
続いて、触媒浸透防止領域形成工程を行う。
本実施形態においては、接着材層とハニカム焼成体の外壁との間に触媒浸透防止領域を形成するために、ハニカム焼成体の外周面に触媒浸透防止用基材層を作製する。
まず、無機粒子としてアルミナ粉末、無機バインダとしてシリカゾルを混合し、混練してペースト材を作製する。
そして、このペースト材をハニカム焼成体の外周面に塗布して、ハニカム焼成体の外周面上に触媒浸透防止用基材層を形成する。
【0063】
別途、撥水性物質、陽イオン交換物質、又は、吸水性物質のいずれかを含む溶液(スラリー)を調製する。なお、シリコンオイルのように常温で液体である物質を溶液として用いる場合は別途溶液を調製する必要はないが、常温で固体である物質を用いる場合は水と混合して水溶液を調製する。また、水に溶けない物質を用いる場合には固体を細かく粉砕した後に水と混合して均一なスラリー状の溶液を作製する。
【0064】
そして、これらの溶液を触媒浸透防止用基材層に塗布して、撥水性物質、陽イオン交換物質、又は、吸水性物質を触媒浸透防止用基材層に浸透させる。
最後に、乾燥機中で100〜150℃でハニカム焼成体を乾燥させることによって触媒浸透防止用基材層中の水分を除去して、撥水性物質、陽イオン交換物質、又は、吸水性物質のいずれかを含む触媒浸透防止領域をハニカム焼成体の外周面上に形成する。
【0065】
次に、外周面上に触媒浸透防止領域を形成したハニカム焼成体を接着材層を介して接着するハニカム焼成体の結束工程を行う。
ハニカム焼成体同士の接着は、例えば、各ハニカム焼成体の側面、触媒浸透防止領域の上に接着材ペーストを塗布して接着材ペースト層を形成し、ハニカム焼成体を順次積層する方法、又は、作製するセラミックブロックの形状と略同形状の型枠内に各ハニカム焼成体を仮固定した状態とし、接着材ペーストを各ハニカム焼成体間(触媒浸透防止領域間)に注入する方法等によって行うことができる。
【0066】
上記接着材ペーストとしては、例えば、無機バインダと無機粒子とを混ぜたものや、無機バインダと無機繊維及び/又はウィスカとを混ぜたものや、無機バインダと無機粒子と無機繊維及び/又はウィスカとを混ぜたもの等を用いることができる。
また、これらの接着材ペーストには、有機バインダを加えてもよい。
【0067】
そして、接着材ペースト層を乾燥、固化させて接着材層を形成する。以上の工程によってハニカム焼成体同士を接着してセラミックブロックを作製することができ、同時に接着材層とハニカム焼成体の外壁との間に触媒浸透防止領域を形成することができる。
さらに、作製したセラミックブロックの外周面に適宜切断、研磨等を施す。
【0068】
次に、セラミックブロックの外周面にシール材ペーストを塗布して乾燥し、固定化させることにより、コート層を形成し、ハニカム構造体を製造する。
上記コート層を形成することにより、セラミックブロックの外周面を保護することができ、その結果、ハニカム構造体の強度を高めることができる。
なお、コート層は必ずしも設ける必要はなく、必要に応じて設ければよい。
【0069】
上記シール材ペーストは、特に限定されず、上記接着材ペーストと同じ材料からなるものであってもよいし、異なる材料からなるものであってもよい。
また、上記シール材ペーストが、上記接着材ペーストと同じ材料からなるものである場合、両者の構成成分の配合比は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0070】
以下、本実施形態のハニカム構造体の作用効果について列挙する。
(1)本実施形態のハニカム構造体においては、接着材層とハニカム焼成体の外壁との間に触媒浸透防止領域が形成されている。
触媒浸透防止領域に含まれる物質は、ハニカム構造体を触媒金属等の触媒を含む触媒溶液に浸漬した際に外壁から接着材層に触媒金属が浸透することを防止する働きがある物質である。そのため、触媒を担持させた際に接着材層には触媒が担持されていないハニカム構造体とすることができる。
【0071】
(2)本実施形態のハニカム構造体においては、セル壁の厚さが0.15〜0.30mmである。セル壁の厚さをこのように定めることによって、セル壁の強度を充分に保つことができる。また、セル壁に触媒を担持させた際に、セル壁に担持させた触媒の殆どを排ガス浄化反応に寄与する触媒とすることができ、セル壁に無駄に担持される触媒の量が少ないハニカム構造体とすることができる。
【0072】
(3)本実施形態のハニカム構造体においては、境界壁の厚さは上記セル壁の厚さの5〜20倍である。境界壁の厚さとセル壁の厚さがこのように定められていると、接着材層の厚さが充分に厚いため、ハニカム焼成体同士の接着強度が充分に高くなる。また、セルの開口面積(開口率)が充分に大きいため、本実施形態のハニカム構造体を排ガス浄化用の触媒担体として好適に使用することができる。
【0073】
(4)本実施形態のハニカム構造体においては、ハニカム焼成体は、無機粒子と、無機繊維及び/又はウィスカと、無機バインダとを含んでなる。このような物質からなるハニカム焼成体は、比表面積が高く、強度が充分であるため、このようなハニカム焼成体から構成されるハニカム構造体は、触媒担体として好適に使用する事ができる。
【0074】
以下、本発明の第一実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
(ハニカム焼成体の製造工程)
γ−アルミナ粒子(平均粒径2μm)2250g、ホウ酸アルミニウムウィスカ(平均繊維径0.5〜1μm、平均繊維長10〜30μm)680g、シリカゾル(固体濃度30重量%)2600gを混合し、得られた混合物に対して有機バインダとしてメチルセルロース320g、潤滑剤(日本油脂社製、ユニルーブ)290g及び可塑剤(グリセリン)225gを加えて更に混合・混練して混合組成物を得た。次に、この混合組成物を押出成形機により押出成形して、生のハニカム成形体を得た。
【0076】
次に、マイクロ波乾燥機及び熱風乾燥機を用いて、上記生のハニカム成形体を十分乾燥させ、さらに、400℃で2時間保持して脱脂し、ハニカム脱脂体とした。
その後、ハニカム脱脂体を800℃で2時間保持して焼成を行い、角柱状(37mm×37mm×150mm)、セル密度が93個/cm(600cpsi)、セル壁の厚さが0.2mm、セルの断面形状が四角形(正方形)のハニカム焼成体を得た。
【0077】
(触媒浸透防止領域形成工程)
γ―アルミナ粒子(平均粒径2μm)100g、シリカゾル(固体濃度30重量%)100gを混合、混錬してペースト材を作製した。
このペースト材をハニカム焼成体の外周面に、厚み約100μmとなるように塗布して、触媒浸透防止用基材層を形成した。
【0078】
この触媒浸透防止用基材層に、撥水性物質としてのシリコンオイルを塗布し、シリコンオイルを触媒浸透防止用基材層に浸透させた。
さらに、熱風乾燥機中で100℃、1時間乾燥させることによって触媒浸透防止用基材層中の水分を除去し、ハニカム焼成体の外周面に撥水性物質を含む触媒浸透防止領域を形成した。
【0079】
(ハニカム焼成体の結束工程)
γ−アルミナ粒子(平均粒径2μm)29重量%、ホウ酸アルミニウムウィスカ(平均繊維径0.5〜1μm、平均繊維長10〜30μm)7重量%、シリカゾル(固体濃度30重量%)34重量%、カルボキシメチルセルロース(CMC)5重量%及び水25重量%を混合して、接着材ペーストを調製した。
【0080】
触媒浸透防止領域を形成したハニカム焼成体を、触媒浸透防止領域を形成した面を上にして断面V字形状の積層用台に載置し、調製した接着材ペーストを触媒浸透防止領域を形成した面に塗布して接着材ペースト層を形成し、この接着材ペースト層上に別のハニカム焼成体をその触媒浸透防止領域を形成した面が接着材ペースト層と接するようにして積層した。
このようなハニカム焼成体への接着材ペーストの塗布とハニカム焼成体の積層を順次繰り返して、複数のハニカム焼成体を結束した。
【0081】
続いて、結束したハニカム焼成体を100℃で1時間加熱して接着材ペーストを乾燥、固化させて接着材層とし、セラミックブロックを作製した。
【0082】
続いて、ダイヤモンドカッターを用いて、図7(a)に示したようにセラミックブロックの端面のパターンが円の中心に対して略点対称になるように円柱状にこのセラミックブロックを切断し、その後、セラミックブロックの外周面に、シール材ペースト(接着材ペーストと同じもの)を、コート層の厚みが0.5mmとなるように塗布し、セラミックブロックの外周面をコーティングした。
【0083】
次に、120℃で1時間乾燥を行い、円柱状(直径143.8mm×高さ75mm)のハニカム構造体を得た。
【0084】
(触媒の担持)
ジニトロジアンミン白金硝酸溶液([Pt(NH(NO]HNO、白金濃度4.53重量%)溶液(白金溶液)中に、ハニカム構造体を浸漬し、1分間保持した。
続いて、このハニカム構造体を110℃で2時間乾燥し、窒素雰囲気中500℃で1時間焼成することによってハニカム構造体に白金触媒を担持させた。
【0085】
(境界壁の観察)
白金触媒を担持させたハニカム構造体を切断して、ハニカム焼成体の外壁、触媒浸透防止領域、及び、接着材層の一部を切り出し、切り出したそれぞれの試験片についてTEM(日立製作所製、FE−TEM HF−2000)を用いて倍率5万倍、加圧電圧200kVで写真撮影し、EDS法を用いたマッピング分析を行って、触媒(Pt粒子)が存在するか否かを観察した。
この結果を表1に示した。
【0086】
(実施例2)
実施例1と同様にしてハニカム焼成体を作製し、ハニカム焼成体の外周面に触媒浸透防止用基材層を形成した。
続いて、陽イオン交換物質としてのフェノール樹脂を粉砕し、水と混合してフェノール樹脂を含むスラリーを調製した。
そして、触媒浸透防止用基材層に、上記スラリーを塗布して、フェノール樹脂を触媒浸透防止用基材層に浸透させた。さらに、ハニカム焼成体を熱風乾燥機中で100℃、1時間乾燥させることによって触媒浸透防止用基材層中の水分を除去し、ハニカム焼成体の外周面に陽イオン交換物質を含む触媒浸透防止領域を形成した。
その後は実施例1と同様にしてハニカム構造体の製造、触媒の担持、境界壁の観察を行った。境界壁の観察結果を表1に示した。
【0087】
(実施例3)
フェノール樹脂に代えて、吸水性物質としてのモンモリロナイトを用いた他は実施例2と同様にして触媒浸透防止領域を形成し、その後は実施例1と同様にしてハニカム構造体の製造、触媒の担持、境界壁の観察を行った。境界壁の観察結果を表1に示した。
【0088】
(比較例1)
触媒浸透防止用基材層の形成及び触媒浸透防止領域の形成を行うことなく、ハニカム焼成体の外周面に直接接着材ペーストを塗布した他は実施例1と同様にしてハニカム構造体を製造した。その後、触媒の担持、境界壁の観察を行った。境界壁の観察結果を表1に示した。
【0089】
【表1】

【0090】
表1から明らかなように、各実施例において製造した、触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体に触媒を担持させた場合、EDS法を用いた分析の結果、接着材層中にはPt原子(触媒)が観察されなかった。このことから、各実施形態において製造したハニカム構造体は、触媒を担持させた際に無駄に担持される触媒の量が少ないハニカム構造体となっていた。
実施例1のように撥水性物質を含む触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体では、触媒はハニカム焼成体の外壁まで担持されていた。また、実施例2のように陽イオン交換物質を含む触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体、及び、実施例3のように吸水性物質を含む触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体では、触媒は触媒浸透防止領域まで担持されていた。
このことから、触媒金属を含む触媒溶液は、実施例1においてはハニカム焼成体の外壁まで、実施例2及び3においては触媒浸透防止領域まで浸透しているものと推定された。
【0091】
これに対し、比較例1において製造した、触媒浸透防止領域を有さないハニカム構造体に触媒を担持させると、接着材層にも触媒が担持されていた。
このことから、比較例1において触媒金属を含む触媒溶液は、接着材層にまで浸透しているものと推定された。
【0092】
(第二実施形態)
本実施形態のハニカム構造体は、触媒浸透防止領域を接着材層とハニカム焼成体の外壁との間ではなく、ハニカム焼成体の外壁に有している。
触媒浸透防止領域は、第一実施形態と同様に撥水性物質、陽イオン交換物質、吸水性物質からなる群から選ばれる少なくとも一種の物質を含み、その他の構成は第一実施形態のハニカム構造体と同様である。
また、本実施形態のハニカム構造体において、触媒浸透防止領域の設けられる位置は、ハニカム焼成体の外壁内であれば特に限定されるものではなく、ハニカム焼成体の外壁の一部に設けられていてもよいし、ハニカム焼成体の外壁の全体にわたって設けられていてもよい。
【0093】
以下、撥水性物質、陽イオン交換物質、吸水性物質をそれぞれ含む触媒浸透防止領域を有する本実施形態のハニカム構造体における、各触媒浸透防止領域の作用について図面を用いて説明する。
【0094】
図8は、ハニカム焼成体の外壁に撥水性物質を含む触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体をその長手方向に平行に切断した際の触媒浸透防止領域近傍を模式的に示す断面図である。
図8に示すハニカム構造体においては、撥水性物質を含む触媒浸透防止領域121が、ハニカム焼成体の外壁114の中に外壁114の厚み方向に対して約半分の領域に、層状に設けられている。
【0095】
図8において、実線で示す矢印は、触媒金属を含む触媒溶液の流れを示している。
図8に示すハニカム構造体が触媒溶液に浸されると、触媒溶液はセル111から外壁114aに浸透するが、外壁114の中には撥水性物質を含む触媒浸透防止領域121が設けられているため、触媒浸透防止領域121と接触した触媒溶液は触媒浸透防止領域121に含まれる撥水性物質にはじかれる。よって、触媒溶液は触媒浸透防止領域121内に浸透することがなく、触媒浸透防止領域121の先に存在する接着材層101に浸透することがない。
従って、触媒金属30が接着材層101に到達することもないため、接着材層101に触媒金属30が担持されることが防止される。
【0096】
図9は、ハニカム焼成体の外壁に陽イオン交換物質を含む触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体の一例をその長手方向に平行に切断した際の触媒浸透防止領域近傍を模式的に示す断面図である。
図9に示すハニカム構造体においては、外壁114に陽イオン交換物質が含まれており、外壁114全体が陽イオン交換物質を含む触媒浸透防止領域122となっている。
【0097】
図9において、実線で示す矢印は、触媒金属を含む触媒溶液の流れを示しており、点線で示す矢印は、触媒金属を含まない溶液の流れを示している。
図9に示すハニカム構造体が触媒溶液に浸されると、触媒溶液はセル111から外壁114に浸透するが、外壁114(触媒浸透防止領域122)の中には陽イオン交換物質が含まれており、外壁114に浸透した触媒溶液に含まれる触媒金属30は外壁114の中で陽イオン交換物質と接触する。すると、陽イオン交換物質が有する陽イオンと触媒金属30が交換され、触媒金属30は陽イオン交換物質と結合して外壁114中に留まることとなる。
従って、触媒金属30が外壁114の先に存在する接着材層101に到達することはなく、接着材層101に触媒金属30が担持されることが防止される。
【0098】
図10は、ハニカム焼成体の外壁に吸水性物質を含む触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体の一例をその長手方向に平行に切断した際の触媒浸透防止領域近傍を模式的に示す断面図である。
図10に示すハニカム構造体においては、外壁114に吸水性物質が含まれており、外壁114全体が吸水性物質を含む触媒浸透防止領域123となっている。
【0099】
図10において、実線で示す矢印は、触媒金属を含む触媒溶液の流れを示している。
図10に示すハニカム構造体が触媒溶液に浸されると、触媒溶液はセル111から外壁114に浸透するが、外壁114(触媒浸透防止領域123)の中には吸水性物質が含まれており、外壁114に浸透した触媒溶液に含まれる触媒金属30は、触媒溶液中の水と共に吸水性物質に接触する。
すると、触媒溶液に含まれる触媒金属30と水が共に吸水性物質に吸い込まれるため、吸水性物質と接触した触媒金属30は水と共に外壁114中に留まることとなる。
従って、触媒金属30が外壁114の先に存在する接着材層101に到達することはなく、接着材層101に触媒金属30が担持されることが防止される。
【0100】
続いて、本実施形態のハニカム構造体の製造方法について説明するが、第一実施形態のハニカム構造体の製造方法と異なる点は触媒浸透防止領域形成工程のみであるため、その他の工程についての説明は省略する。
【0101】
まず、触媒浸透防止領域形成工程において、撥水性物質としてのシリコンオイルを用いる例にして説明する。
シリコンオイルをハニカム焼成体の外周面に塗布すると、ハニカム焼成体は多孔質セラミックからなるため、シリコンオイルがハニカム焼成体の外壁内に浸透する。そして、外壁にシリコンオイルを浸透させたハニカム焼成体を乾燥することによって、ハニカム焼成体の外壁のうちのシリコンオイルが浸透した領域を触媒浸透防止領域とすることができる。
シリコンオイルを塗布する量、シリコンオイルの粘度、ハニカム焼成体の気孔率等を変化させることによって、触媒浸透防止領域の深さ(厚さ)を適宜調整することができる。なお、シリコンオイルを外壁の厚さ方向に対して途中まで浸透させることによって、ハニカム焼成体の外壁の一部に、図8に示すような層状の触媒浸透防止領域を形成することができる。
【0102】
次に、触媒浸透防止領域形成工程において、撥水性物質、陽イオン交換物質、又は、吸水性物質のいずれかを含む溶液(スラリー)を用いる例にして説明する。
まず、第一実施形態のハニカム構造体の製造方法と同様にして上記スラリーを調製する。そして、このスラリーをハニカム焼成体の外周面に塗布する。ハニカム焼成体は多孔質セラミックからなるため、スラリーはハニカム焼成体の外壁に浸透し、スラリー中の撥水性物質、陽イオン交換物質、又は、吸水性物質がハニカム焼成体の気孔部分に担持されていく。その後、これらの物質を浸透させたハニカム焼成体を乾燥させることによって、スラリーが浸透した領域を触媒浸透防止領域とすることができる。
スラリーを塗布する量、スラリーの粘度、ハニカム焼成体の気孔率等を変化させることによって、触媒浸透防止領域の深さ(厚さ)を適宜調整することができる。なお、スラリーを外壁の厚さ方向の全てに渡って浸透させることによって、ハニカム焼成体の外壁全体に図9及び図10に示すような触媒浸透防止領域を形成することができる。
【0103】
本実施形態では第一実施形態において説明した効果(2)〜(4)を発揮することができるとともに、以下の効果を発揮することができる。
(5)本実施形態のハニカム構造体においては、ハニカム焼成体の外壁に触媒浸透防止領域が形成されている。
触媒浸透防止領域に含まれる物質は、ハニカム構造体を触媒金属等の触媒を含む触媒溶液に浸漬した際に外壁から接着材層に触媒金属が浸透することを防止する働きがある物質である。そのため、触媒を担持させた際に接着材層には触媒が担持されていないハニカム構造体とすることができる。
【0104】
以下、本発明の第二実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0105】
(実施例4)
実施例1と同様にしてハニカム焼成体を作製し、触媒浸透防止領域形成工程において、ハニカム焼成体の外周面に、撥水性物質としてのシリコンオイルを薄く塗布し、シリコンオイルをハニカム焼成体の外壁に浸透させた。
さらに、熱風乾燥機中で100℃、1時間乾燥させることによって、ハニカム焼成体の外壁に撥水性物質を含む触媒浸透防止領域を形成した。
その後は実施例1と同様にしてハニカム構造体の製造、触媒の担持、境界壁の観察を行った。なお、境界壁の観察は、外壁及び接着材層の2箇所について試験片を切り出して行った。その結果、ハニカム焼成体の外壁には触媒が担持されていたが、接着材層には触媒はほとんど担持されていなかった。
【0106】
(実施例5)
実施例1と同様にしてハニカム焼成体を作製し、続いて、陽イオン交換物質としてのフェノール樹脂を粉砕し、水と混合してフェノール樹脂を含むスラリーを調製した。
そして、ハニカム焼成体の外周面に、上記スラリーを塗布して、フェノール樹脂を含むスラリーをハニカム焼成体の外壁に浸透させた。さらに、ハニカム焼成体を熱風乾燥機中で100℃、1時間乾燥させることによってスラリー中の水分を除去し、ハニカム焼成体の外壁に陽イオン交換物質を含む触媒浸透防止領域を形成した。
その後は実施例4と同様にしてハニカム構造体の製造、触媒の担持、境界壁の観察を行った。その結果、ハニカム焼成体の外壁には触媒が担持されていたが、接着材層には触媒は担持されていなかった。
【0107】
(実施例6)
フェノール樹脂に代えて、吸水性物質としてのモンモリロナイトを用いた他は実施例5と同様にして触媒浸透防止領域を形成し、その後は実施例4と同様にしてハニカム構造体の製造、触媒の担持、境界壁の観察を行った。その結果、ハニカム焼成体の外壁には触媒が担持されていたが、接着材層には触媒は担持されていなかった。
【0108】
このことから、ハニカム焼成体の外壁に触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体では、触媒金属を含む触媒溶液は接着材層に浸透することがなく、触媒金属が接着材層に無駄に担持されることが防止されることがわかった。
【0109】
(第三実施形態)
本実施形態のハニカム構造体においては、接着材層に撥水性物質が含まれている。
本実施形態のハニカム構造体には触媒浸透防止領域に該当する領域は設けられておらず、その他の構成は第一実施形態のハニカム構造体と同様である。
【0110】
本実施形態では、接着材層に撥水性物質が含まれているため、接着材層に触媒が担持されることを防止することができる。
【0111】
図6は、撥水性物質を含む接着材層を有するハニカム構造体の一例をその長手方向に平行に切断した際の接着材層近傍を模式的に示す断面図である。
【0112】
図6において、実線で示す矢印は、触媒金属を含む触媒溶液の流れを示している。
図6に示すハニカム構造体が触媒溶液に浸されると、触媒溶液はセル111から外壁114に浸透し、触媒溶液に含まれる触媒金属30は外壁114に担持されていく。そして、外壁114の最も奥(図6中下方向)にまで浸透した触媒溶液は、撥水性物質を含む接着材層201と接触する。
ここで、接着材層201には撥水性物質が含まれており、撥水性物質は水と接触した際に水をはじく性質を有する。そのため、接着材層201と接触した触媒溶液は接着材層201に含まれる撥水性物質にはじかれる。よって、触媒溶液は接着材層201内に浸透することがない。
従って、触媒金属30が接着材層201に到達することもなく、接着材層201に触媒金属30が担持されることが防止される。
撥水性物質として使用することのできる物質としては、特に限定されるものではないが、第一実施形態の説明で述べた物質が挙げられる。
【0113】
続いて、本実施形態のハニカム構造体の製造方法について説明するが、第一実施形態のハニカム構造体の製造方法と異なる点は、調製する接着材ペーストの組成のみであるため、その他の工程についての説明は省略する。
【0114】
すなわち、第一実施形態のハニカム構造体の製造方法において説明した接着材ペーストに対して撥水性物質を加えて、撥水性物質を含む接着材ペーストを調製する。
撥水性物質としては、シリコンオイル、ロウ、ガラス等が挙げられる。
【0115】
そして、撥水性物質を含む接着材ペーストを用いて隣接するハニカム焼成体の間に接着材ペースト層を形成し、さらに接着材ペースト層を乾燥、固化させることによって撥水性物質を含む接着材層を介してハニカム焼成体同士を接着する。
このようにすることによって、撥水性物質を含む接着材層を形成することができる。
【0116】
本実施形態では第一実施形態において説明した効果(2)〜(4)を発揮することができるとともに、以下の効果を発揮することができる。
(6)本実施形態のハニカム構造体においては、接着材層に撥水性物質が含まれている。
ハニカム構造体を触媒溶液に浸漬した際には、接着材層のうちハニカム焼成体の外壁と接する領域にまで触媒溶液が浸透するが、接着材層が撥水性物質を含んでいるため、撥水性物質が障壁となって、触媒溶液が接着材層の内部にまで浸透することが防止される。そのため、接着材層の内部にまで触媒が担持されることを防止することができ、境界壁に無駄に担持される触媒の量を少なくすることができる。
【0117】
以下、本発明の第三実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0118】
(実施例7)
実施例1と同様にしてハニカム焼成体を作製した。
別途、実施例1と同様の接着材ペーストを調製し、さらに、撥水性物質としてシリコンオイルを、接着材ペースト100重量部に対して5重量部加えて、撥水性物質を含む接着材ペーストを調製した。
この接着材ペーストを用いて、実施例1と同様にして複数のハニカム焼成体を結束し、その後は実施例1と同様にしてハニカム構造体の製造、触媒の担持、境界壁の観察を行った。なお、境界壁の観察は、外壁及び接着材層の2箇所について試験片を切り出して行った。その結果、ハニカム焼成体の外壁には触媒が担持されていたが、接着材層には触媒は担持されていなかった。
なお、本実施形態においては、触媒浸透防止用基材層の形成、及び、触媒浸透防止領域の成形は行っていない。
【0119】
(その他の実施形態)
ハニカム焼成体の形状は、特に限定されるものではないが、ハニカム焼成体同士が結束しやすい形状であることが好ましく、その長手方向に垂直な断面の形状としては、正方形、長方形、六角形、扇状等が挙げられる。
【0120】
また、上記ハニカム焼成体のセル密度は、望ましい下限が15.5個/cm(100cpsi)であり、より望ましい下限が46.5個/cm(300cpsi)であり、さらに望ましい下限が62.0個/cm(400cpsi)である。一方、セル密度の望ましい上限は186個/cm(1200cpsi)であり、より望ましい上限は170.5個/cm(1100cpsi)であり、さらに望ましい上限は155個/cm(1000cpsi)である。
セル密度が、15.5個/cm未満では、ハニカム焼成体内部の排ガスと接触する壁の面積が小さくなり、186個/cmを超えると、圧力損失が高くなるとともに、ハニカム焼成体の作製が困難になるためである。
【0121】
ハニカム構造体のコート層の厚さは、特に限定されるものではないが、0.1〜2mmであることが望ましい。0.1mm未満では、外周面を保護しきれず強度を高めることができないおそれがあり、2mmを超えると、ハニカム構造体としての単位体積あたりの比表面積が低下してしまいハニカム構造体を排ガスを浄化するための触媒担体として用いた際に触媒を十分に高分散させることができなくなることがある。
【0122】
上記ハニカム焼成体に含まれる上記無機粒子の量について、望ましい下限は30重量%であり、より望ましい下限は40重量%であり、さらに望ましい下限は50重量%である。
一方、望ましい上限は97重量%であり、より望ましい上限は90重量%であり、さらに望ましい上限は80重量%であり、特に望ましい上限は75重量%である。
無機粒子の含有量が30重量%未満では、比表面積の向上に寄与する無機粒子の量が相対的に少なくなるため、ハニカム焼成体としての比表面積が小さく、触媒成分を担持する際に触媒成分を高分散させることができなくなる場合がある。一方、97重量%を超えると強度向上に寄与する無機繊維及び/又はウィスカの量が相対的に少なくなるため、ハニカム焼成体の強度が低下することとなる。
【0123】
上記ハニカム焼成体に含まれる上記無機繊維及び/又は上記ウィスカの合計量について、望ましい下限は3重量%であり、より望ましい下限は5重量%であり、さらに望ましい下限は8重量%である。一方、望ましい上限は70重量%であり、より望ましい上限は50重量%であり、さらに望ましい上限は40重量%であり、特に望ましい上限は30重量%である。
無機繊維及び/又はウィスカの含有量が3重量%未満ではハニカム焼成体の強度が低下することとなり、70重量%を超えると比表面積向上に寄与する無機粒子の量が相対的に少なくなるため、ハニカム構造体(ハニカム焼成体)としての比表面積が小さく触媒成分を担持する際に触媒成分を高分散させることができなくなる場合がある。
【0124】
また、上記ハニカム焼成体は、上記無機粒子と上記無機繊維及び/又はウィスカと無機バインダとを含む混合物である原料組成物を用いて製造されていることが望ましい。
このように無機バインダを含む原料組成物を用いることにより、ハニカム成形体を焼成する温度を低くしても充分な強度のハニカム焼成体を得ることができるからである。
【0125】
上記原料組成物中に含まれる無機バインダの量は、原料組成物に含まれる上記無機粒子と上記無機繊維及び/又はウィスカと上記無機バインダとの固形分の総量に対して、固形分として、その望ましい下限は、5重量%であり、より望ましい下限は、10重量%であり、さらに望ましい下限は15重量%である。一方、望ましい上限は、50重量%であり、より望ましい上限は、40重量%であり、さらに望ましい上限は、35重量%である。
上記無機バインダの量が5重量%未満では、製造したハニカム焼成体の強度が低くなることがあり、一方、上記無機バインダの量が50重量%を超えると上記原料組成物の成型性が悪くなる傾向にある。
【0126】
また、原料組成物中に含まれる可塑剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、グリセリン等が挙げられる。また、潤滑剤は特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン系化合物等が挙げられる。
潤滑剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンモノブチルエーテル、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル等が挙げられる。
なお、可塑剤、潤滑剤は、場合によっては、原料組成物中に含まれていなくてもよい。
【0127】
また、原料組成物中に含まれる分散媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、水、有機溶媒(ベンゼンなど)、アルコール(メタノールなど)等が挙げられる。
成形助剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】集合型ハニカム構造体の端面の一部を示す正面図である。
【図2】触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体の一例をその長手方向に平行に切断した際の境界壁近傍を模式的に示す断面図である。
【図3】撥水性物質を含む触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体の一例をその長手方向に平行に切断した際の触媒浸透防止領域近傍を模式的に示す断面図である。
【図4】陽イオン交換物質を含む触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体の一例をその長手方向に平行に切断した際の触媒浸透防止領域近傍を模式的に示す断面図である。
【図5】吸水性物質を含む触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体の一例をその長手方向に平行に切断した際の触媒浸透防止領域近傍を模式的に示す断面図である。
【図6】撥水性物質を含む接着材層を有するハニカム構造体の一例をその長手方向に平行に切断した際の接着材層近傍を模式的に示す断面図である。
【図7】図7(a)は、本発明のハニカム構造体の一例を模式的に示す斜視図であり、図7(b)は、ハニカム焼成体の一例を模式的に示す斜視図である。
【図8】ハニカム焼成体の外壁に撥水性物質を含む触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体をその長手方向に平行に切断した際の触媒浸透防止領域近傍を模式的に示す断面図である。
【図9】ハニカム焼成体の外壁に陽イオン交換物質を含む触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体の一例をその長手方向に平行に切断した際の触媒浸透防止領域近傍を模式的に示す断面図である。
【図10】ハニカム焼成体の外壁に吸水性物質を含む触媒浸透防止領域を有するハニカム構造体の一例をその長手方向に平行に切断した際の触媒浸透防止領域近傍を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0129】
10 境界壁
20 触媒浸透防止領域
21、121 撥水性物質を含む触媒浸透防止領域
22、122 陽イオン交換物質を含む触媒浸透防止領域
23、123 吸水性物質を含む触媒浸透防止領域
30 触媒金属(触媒)
100 ハニカム構造体
101 接着材層
110、110a、110b ハニカム焼成体
111、111a、111b セル
113、113a、113b セル壁
114、114a、114b 外壁
201 撥水性物質を含む接着材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、最外周を外壁によって囲まれた柱状のハニカム焼成体が、接着材層を介して複数個結束されたハニカム構造体であって、
前記セル壁の厚さは0.15〜0.30mmであり、
前記接着材層と前記接着材層の両側に位置する二つのハニカム焼成体の外壁とからなる境界壁の厚さは、前記セル壁の厚さの5〜20倍であり、
前記外壁又は前記外壁と前記接着材層との間には、撥水性物質、陽イオン交換物質及び吸水性物質からなる群から選ばれる少なくとも一種の物質を含む、触媒浸透防止領域を有することを特徴とするハニカム構造体。
【請求項2】
前記触媒浸透防止領域には、撥水性物質が含まれ、前記撥水性物質は、シリコンオイル、ロウ、ガラスのいずれかからなる請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記触媒浸透防止領域には、陽イオン交換物質が含まれ、前記陽イオン交換物質は、フェノール樹脂からなる請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記触媒浸透防止領域には、吸水性物質が含まれ、前記吸水性物質は、モンモリロナイト、サポナイト、バーミキュライト、高気孔率接着材、吸水性ポリマーのいずれかからなる請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記ハニカム焼成体は、無機粒子と、無機繊維及び/又はウィスカと、無機バインダとを含んでなる請求項1〜4のいずれかに記載のハニカム構造体。
【請求項6】
前記無機粒子は、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、セリア、ムライト、ゼオライトからなる群から選択された少なくとも一種である請求項5に記載のハニカム構造体。
【請求項7】
前記無機繊維及び/又はウィスカは、アルミナ、シリカ、炭化珪素、シリカ−アルミナ、ガラス、チタン酸カリウム及びホウ酸アルミニウムからなる群から選択された少なくとも一種である請求項5又は6に記載のハニカム構造体。
【請求項8】
前記無機バインダは、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、水ガラス、セピオライト及びアタパルジャイトからなる群から選択された少なくとも一種である請求項5〜7のいずれかに記載のハニカム構造体。
【請求項9】
多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、最外周を外壁によって囲まれた柱状のハニカム焼成体が、接着材層を介して複数個結束されたハニカム構造体であって、
前記セル壁の厚さは0.15〜0.30mmであり、
前記接着材層と前記接着材層の両側に位置する二つのハニカム焼成体の外壁とからなる境界壁の厚さは、前記セル壁の厚さの5〜20倍であり、
前記接着材層は、撥水性物質を含むことを特徴とするハニカム構造体。
【請求項10】
前記撥水性物質は、シリコンオイル、ロウ、ガラスのいずれかからなる請求項9に記載のハニカム構造体。
【請求項11】
前記ハニカム焼成体は、無機粒子と、無機繊維及び/又はウィスカと、無機バインダとを含んでなる請求項9又は10に記載のハニカム構造体。
【請求項12】
前記無機粒子は、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、セリア、ムライト、ゼオライトからなる群から選択された少なくとも一種である請求項11に記載のハニカム構造体。
【請求項13】
前記無機繊維及び/又はウィスカは、アルミナ、シリカ、炭化珪素、シリカ−アルミナ、ガラス、チタン酸カリウム及びホウ酸アルミニウムからなる群から選択された少なくとも一種である請求項11又は12に記載のハニカム構造体。
【請求項14】
前記無機バインダは、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、水ガラス、セピオライト及びアタパルジャイトからなる群から選択された少なくとも一種である請求項11〜13のいずれかに記載のハニカム構造体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−190020(P2009−190020A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185770(P2008−185770)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】