説明

ハニカム構造体

【課題】DPFに用いた場合において、フィルター再生時の出口側付近の温度上昇が適度に抑えられるとともに、圧力損失も過度に上昇しないようなハニカム構造体を提供する。
【解決手段】ハニカム形状を有するセグメントを接合一体化することにより構成されたハニカム構造体である。前記セグメントは、ハニカム形状で多孔質のベース基材と、ベース基材の平均細孔径より小さい粒子を含むスラリーを、ベース基材の一部に含浸後、熱処理することにより形成された修飾部とを有し、ベース基材は、気孔率が30〜80%、平均細孔径が5〜40μmであり、修飾部は、セグメントの出口側端面から、セルの軸方向に沿って、セグメント全長の1/10〜1/2の長さまでの範囲に形成されており、ベース基材の気孔率に対し2〜20%低い気孔率と、ベース基材の平均細孔径に対し0.1〜10μm小さい平均細孔径とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルパティキュレートフィルター等の集塵用フィルターとして好適に使用されるハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス用の捕集フィルター、例えば、ディーゼルエンジン等からの排ガスに含まれているスート等の粒子状物質(パティキュレートマター(PM))を捕捉して除去するためのディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)として、ハニカム構造体が広く使用されている。
【0003】
このようなハニカム構造体(フィルター)を長期間継続して使用するためには、定期的にフィルターに再生処理を施す必要がある。すなわち、フィルター内部に経時的に堆積したPMにより増大した圧力損失を低減させてフィルター性能を初期状態に戻すため、フィルター内部に堆積したPMを燃焼させて除去する必要がある。このフィルター再生時には、フィルター内部に堆積したPMが流体(排ガス)の入口側から順に燃焼するため、出口側に近い部位ほど、前方で発生した熱とその場でPMが燃焼した熱とによる温度上昇が激しくなる。そのため、フィルター各部の温度上昇が不均一になりやすく、熱応力によってクラック等の欠陥を発生させるという問題があった。
【0004】
このような問題に対し、ハニカム構造体を複数のハニカム形状のセグメントから構成し、各セグメント間を弾性質素材からなる接合材で接合一体化した構造とすることにより、ハニカム構造体に作用する熱応力を分散、緩和する方法が提案され(例えば、特許文献1参照)、それによって耐熱衝撃性をある程度改善できるようになったが、近年のフィルターの大型化に伴う熱応力の増大により、この方法だけでは十分な効果が得られにくくなってきている。また、平均細孔径を入口側端面から出口側端面に向かって小さくなるように形成し、PMが出口側付近に偏って堆積するのを防ぐことにより、フィルター再生時における燃焼熱の偏りを抑制したハニカム構造体も知られているが(例えば、特許文献2参照)、このように平均細孔径を小さくするだけでは、十分な効果が得られにくいのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−279729号公報
【特許文献2】特開平1−145378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、DPFに用いた場合において、フィルター再生時の出口側付近の温度上昇が適度に抑えられるとともに、圧力損失も過度に上昇しないようなフィルターとしてのバランスに優れたハニカム構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下のハニカム構造体が提供される。
【0008】
[1] 流体の入口側となる入口側端面と流体の出口側となる出口側端面との間に、流体の流路となる複数のセルが多孔質の隔壁によって区画形成されたハニカム形状を有するセグメントを、前記セルの軸方向と垂直の方向において複数個組み合わせ、接合一体化することにより構成されたハニカム構造体であって、前記セグメントは、ハニカム形状で多孔質のベース基材と、前記ベース基材の平均細孔径より小さい粒子を含むスラリーを、前記ベース基材の一部に含浸後、熱処理することにより形成された修飾部とを有し、前記ベース基材は、気孔率が30〜80%、平均細孔径が5〜40μmであり、前記修飾部は、前記セグメントの出口側端面から、前記セルの軸方向に沿って、前記セグメント全長の1/10〜1/2の長さまでの範囲に形成されており、前記ベース基材の気孔率に対し2〜20%低い気孔率と、前記ベース基材の平均細孔径に対し0.1〜10μm小さい平均細孔径とを有するハニカム構造体(第一のハニカム構造体)。
【0009】
[2] 全ての前記セグメントにおいて、前記修飾部の長さ、気孔率及び平均細孔径が同一である[1]に記載のハニカム構造体。
【0010】
[3] 前記セグメントの内、ハニカム構造体の外周部に位置する外周セグメントと、その内側に位置する中央セグメントとで、前記修飾部の長さ、気孔率及び平均細孔径の何れか1つ以上が異なっている[1]に記載のハニカム構造体。
【0011】
[4] 流体の入口側となる入口側端面と流体の出口側となる出口側端面との間に、流体の流路となる複数のセルが多孔質の隔壁によって区画形成されたハニカム形状を有するセグメントを、前記セルの軸方向と垂直の方向において複数個組み合わせ、接合一体化することにより構成されたハニカム構造体であって、前記セグメントの内、ハニカム構造体の外周部に位置する外周セグメントは、ハニカム形状で多孔質のベース基材のみからなり、前記外周セグメントの内側に位置する中央セグメントの内の少なくとも一部の中央セグメントは、前記ベース基材と、前記ベース基材の平均細孔径より小さい粒子を含むスラリーを、前記ベース基材の一部に含浸後、熱処理することにより形成された修飾部とを有するとともに、残りの中央セグメントは、前記外周セグメントと同様に前記ベース基材のみからなり、前記ベース基材は、気孔率が30〜80%、平均細孔径が5〜40μmであり、前記修飾部は、前記中央セグメントの出口側端面から、前記セルの軸方向に沿って、前記セグメント全長の1/10〜1/2の長さまでの範囲に形成されており、前記ベース基材の気孔率に対し2〜20%低い気孔率と、前記ベース基材の平均細孔径に対し0.1〜10μm小さい平均細孔径とを有するハニカム構造体(第二のハニカム構造体)。
【0012】
[5] 流体の入口側となる入口側端面と流体の出口側となる出口側端面との間に、流体の流路となる複数のセルが多孔質の隔壁によって区画形成されたハニカム構造体であって、前記ハニカム構造体は、ハニカム形状で多孔質のベース基材と、前記ベース基材の平均細孔径より小さい粒子を含むスラリーを、前記ベース基材の一部に含浸後、熱処理することにより形成された修飾部とを有し、前記ベース基材は、気孔率が30〜80%、平均細孔径が5〜40μmであり、前記修飾部は、前記ハニカム構造体の出口側端面から、前記セルの軸方向に沿って、前記ハニカム構造体全長の1/10〜1/2の長さまでの範囲に形成されており、前記ベース基材の気孔率に対し2〜20%低い気孔率と、前記ベース基材の平均細孔径に対し0.1〜10μm小さい平均細孔径とを有するハニカム構造体(第三のハニカム構造体)。
【0013】
[6] 前記ハニカム構造体の径方向全体において、前記修飾部の長さ、気孔率及び平均細孔径が同一である[5]に記載のハニカム構造体。
【0014】
[7] 前記ハニカム構造体の中央から外周に向かって、前記修飾部の長さ、気孔率及び平均細孔径の何れか1つ以上が連続的又は段階的に変化している[5]に記載のハニカム構造体。
【0015】
[8] 流体の入口側となる入口側端面と流体の出口側となる出口側端面との間に、流体の流路となる複数のセルが多孔質の隔壁によって区画形成されたハニカム構造体であって、前記ハニカム構造体は、ハニカム形状で多孔質のベース基材と、前記ベース基材の平均細孔径より小さい粒子を含むスラリーを、前記ベース基材の一部に含浸後、熱処理することにより形成された修飾部とを有し、前記修飾部は、前記ハニカム構造体の外周から中央に向かって前記ハニカム構造体の半径の1/10〜3/5までの部分を除き、前記ハニカム構造体の出口側端面から、前記セルの軸方向に沿って、前記ハニカム構造体全長の1/10〜1/2の長さまでの範囲に形成されており、前記ベース基材の気孔率に対し2〜20%低い気孔率と、前記ベース基材の平均細孔径に対し0.1〜10μm小さい平均細孔径とを有するハニカム構造体(第四のハニカム構造体)。
【0016】
[9] 所定の前記セルの開口部を前記入口側端面で目封止するとともに、残余の前記セルの開口部を前記出口側端面で目封止する目封止部を備えた[1]〜[8]の何れかに記載のハニカム構造体。
【0017】
[10] 前記入口側端面の開口率が、前記出口側端面の開口率より大きい[9]に記載のハニカム構造体。
【0018】
[11] 前記隔壁に触媒成分が担持された[1]〜[10]の何れかに記載のハニカム構造体。
【発明の効果】
【0019】
本発明のハニカム構造体は、修飾部、すなわち緻密化処理を施す部位の長さを限定するとともに、ベース基材の気孔率及び平均細孔径並びに修飾部の気孔率及び平均細孔径を限定することによって、DPFに用いた場合におけるフィルター再生時の出口側付近の温度上昇が適度に抑えられるとともに、圧力損失の過度な上昇も抑えられており、フィルターとしてのバランスに優れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る第一のハニカム構造体の実施形態の一例を模式的に示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る第一のハニカム構造体の実施形態の他の一例を模式的に示す概略断面図である。
【図3】本発明に係る第一のハニカム構造体の実施形態の更に他の一例を模式的に示す概略断面図である。
【図4】本発明に係る第二のハニカム構造体の実施形態の一例を模式的に示す概略断面図である。
【図5】本発明に係る第二のハニカム構造体の実施形態の一例を模式的に示す出口側端面の概略平面図である。
【図6】本発明に係る第二のハニカム構造体の実施形態の一例を模式的に示す出口側端面の概略平面図である。
【図7】本発明に係る第二のハニカム構造体の実施形態の他の一例を模式的に示す概略断面図である。
【図8】本発明に係る第三のハニカム構造体の実施形態の一例を模式的に示す概略断面図である。
【図9】本発明に係る第三のハニカム構造体の実施形態の他の一例を模式的に示す概略断面図である。
【図10】本発明に係る第三のハニカム構造体の実施形態の更に他の一例を模式的に示す概略断面図である。
【図11】本発明に係る第四のハニカム構造体の実施形態の一例を模式的に示す概略断面図である。
【図12】本発明に係る第一及び第二のハニカム構造体の基本構造の一例を示す概略斜視図である。
【図13】本発明に係る第一及び第二のハニカム構造体を構成するハニカムセグメントの一例を示す概略斜視図である。
【図14】本発明に係る第一及び第二のハニカム構造体を構成するハニカムセグメントの他の一例を示す概略斜視図である。
【図15】本発明に係る第三及び第四のハニカム構造体の基本構造の一例を示す概略斜視図である。
【図16】本発明に係る第三及び第四のハニカム構造体の一例を示す一方の端面側から見た概略部分平面図である。
【図17】本発明に係る第三及び第四のハニカム構造体の他の一例を示す一方の端面側から見た概略部分平面図である。
【図18】入口側端面と出口側端面とで開口率が異なるハニカム構造体の実施形態の一例を示す入口側端面の部分拡大図である。
【図19】入口側端面と出口側端面とで開口率が異なるハニカム構造体の実施形態の一例を示す出口側端面の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるもではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0022】
本発明の第一及び第二のハニカム構造体は、ハニカム形状のセグメント(ハニカムセグメント)を複数個組み合わせ、接合一体化することにより構成されたものである。図12は、本発明に係る第一及び第二のハニカム構造体の基本構造の一例を示す概略斜視図であり、図13は、本発明に係る第一及び第二のハニカム構造体を構成するハニカムセグメントの一例を示す概略斜視図である。
【0023】
図13に示すように、ハニカムセグメント2は、流体の入口側となる入口側端面10と流体の出口側となる出口側端面11とを有しており、この2つの端面の間に、流体の流路となる複数のセル(貫通孔)5が多孔質の隔壁3によって区画形成されている。なお、DPFのようなフィルターとして使用する場合には、所定セルの開口部を入口側端面で目封止するとともに、残余のセルの開口部を出口側端面で目封止する目封止部を配設するのが一般的であり、通常は、図14のように、一方の端面が目封止部9により市松模様を呈するよう目封止し、他方の端面が目封止部により、これと相補的な市松模様を呈するよう目封止する。すなわち、隣接するセルの開口部が互いに反対側の端面にて目封止されるように目封止部を形成する。
【0024】
このように目封止が施されたハニカムセグメントから構成されるハニカム構造体の一端面(入口側端面)よりスート等のPMを含む流体を通気させると、流体は、当該一端面側において開口部が目封止さていないセルよりハニカム構造体の内部に流入し、濾過能を有する多孔質の隔壁を通過して、他端面(出口側端面)側が目封止されていない他の流通孔に入る。そして、この隔壁を通過する際に流体中のPMが隔壁に補足され、PMが除去された浄化後の流体が他端面より排出される。
【0025】
図12のように、本発明の第一及び第二のハニカム構造体1は、前記のようなハニカムセグメント2を、セルの軸方向と垂直の方向において複数個組み合わせ、接合一体化することにより構成される。ハニカムセグメント2の接合には接合材が使用され、この接合材としては、耐熱性を有するセラミックファイバー、セラミック粒子等からなるフィラーと、コロイダルシリカ等の無機接着剤とを主成分とし、更に必要に応じて有機バインダー(例えば、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等)、分散剤、水等を加え、それをミキサー等の混練機を使用して混合、混練してペースト状にしたものが好ましい。
【0026】
このような接合材をハニカムセグメントの接合面に所定の厚さで塗布してハニカムセグメントを組み合わせた後、接合材を乾燥硬化させることにより、複数個のハニカムセグメントが一体化されたハニカム構造体とする。その後、必要に応じ、外周部を研削加工するなどして、円柱状等の所望形状に加工してもよい。なお、この場合、加工により外周壁が除去され、内部の隔壁とセルが露出した状態となるので、露出面をコーティング材で被覆するなどして外周壁を再形成することが好ましい。
【0027】
本発明の第一のハニカム構造体に使用されるハニカムセグメントは、すべてハニカム形状で多孔質のベース基材と、このベース基材の平均細孔径より小さい粒子を含むスラリーを、ベース基材の一部に含浸後、熱処理することにより形成された修飾部(緻密化部)とを有する。また、本発明の第二のハニカム構造体に使用されるハニカムセグメントについては、それらセグメントの内、ハニカム構造体の外周部に位置する外周セグメントと外周セグメントの内側に位置する中央セグメントとで、修飾部の有無が異なる。すなわち、外周セグメントは、全て前記ベース基材のみからなるが、中央セグメントは、その内の少なくとも一部が、前記ベース基材と、このベース基材の平均細孔径より小さい粒子を含むスラリーを、ベース基材の一部に含浸後、熱処理することにより形成された修飾部とを有し、残りの中央セグメントは、外周セグメントと同様に前記ベース基材のみからなる。
【0028】
修飾部は、本発明のハニカム構造体をDPFに用いた場合において、フィルター再生時に過剰に昇温しやすい出口側端面付近の熱容量及び熱伝導率を増加させて昇温を適度に抑制し、耐熱衝撃性を向上させる目的で形成されるものであるが、本発明の第一及び第二のハニカム構造体では、この修飾部の形成によって圧力損失が上昇し過ぎないように、その形成範囲を限定している。修飾部の具体的な形成範囲は、ハニカムセグメントの出口側端面から、セルの軸方向に沿って、ハニカムセグメント全長の1/10〜1/2の長さまでの範囲である。修飾部の形成範囲がハニカムセグメント全長の1/10に満たないと、フィルター再生時における出口側端面付近の過剰な昇温を効果的に抑制するだけの熱容量と熱伝導率を確保することが困難であり、ハニカムセグメント全長の1/2を超えると、修飾部によって圧力損失が過度に上昇し、フィルターとしての実用性に問題が生じる。
【0029】
修飾部の形成範囲を前記のように限定し、更に、圧力損失に大きく影響する他の要因である、ベース基材の気孔率及び平均細孔径並びに修飾部の気孔率及び平均細孔径を後述のように限定することにより、フィルター再生時の出口側付近の温度上昇が適度に抑えられるとともに、圧力損失の過度な上昇も抑えられ、フィルターとしてのバランスに優れたハニカム構造体となる。また、本発明の第二のハニカム構造体においては、更に修飾部を形成するハニカムセグメントを、中央セグメントの内の少なくとも一部に限定することで、修飾部の形成による圧力損失の上昇をより抑えやすくしている。
【0030】
本発明の第一及び第二のハニカム構造体が前記のように複数のハニカムセグメントを接合して構成されているのに対し、本発明の第三及び第四のハニカム構造体は一体構造を有するものである。図15は、本発明に係る第三及び第四のハニカム構造体の基本構造の一例を示す概略斜視図であり、図16は、本発明に係る第三及び第四のハニカム構造体の一方の端面側から見た概略部分平面図である。
【0031】
これらの図に示すように、本発明に係る第三及び第四のハニカム構造体は、流体の入口側となる入口側端面20と流体の出口側となる出口側端面21とを有しており、この2つの端面の間に、流体の流路となる複数のセル(貫通孔)5が多孔質の隔壁3によって区画形成されている。なお、DPFのようなフィルターとして使用する場合には、所定セルの開口部を入口側端面で目封止するとともに、残余のセルの開口部を出口側端面で目封止する目封止部を配設するのが一般的であり、通常は、図17のように、一方の端面が目封止部9により市松模様を呈するよう目封止し、他方の端面が目封止部により、これと相補的な市松模様を呈するよう目封止する。すなわち、隣接するセルの開口部が互いに反対側の端面にて目封止されるように目封止部を形成する。
【0032】
このように目封止が施されたハニカム構造体の一端面(入口側端面)よりスート等のPMを含む流体を通気させると、流体は、当該一端面側において開口部が目封止さていないセルよりハニカム構造体の内部に流入し、濾過能を有する多孔質の隔壁を通過して、他端面(出口側端面)側が目封止されていない他の流通孔に入る。そして、この隔壁を通過する際に流体中のPMが隔壁に補足され、PMが除去された浄化後の流体が他端面より排出される。
【0033】
本発明の第三及び第四のハニカム構造体は、ハニカム形状で多孔質のベース基材と、このベース基材の平均細孔径より小さい粒子を含むスラリーを、ベース基材の一部に含浸後、熱処理することにより形成された修飾部(緻密化部)とを有する。
【0034】
修飾部は、本発明のハニカム構造体をDPFに用いた場合において、フィルター再生時に過剰に昇温しやすい出口側端面付近の熱容量及び熱伝導率を増加させて昇温を適度に抑制し、耐熱衝撃性を向上させる目的で形成されるものであるが、本発明の第三及び第四のハニカム構造体では、この修飾部の形成によって圧力損失が上昇し過ぎないように、その形成範囲を限定している。修飾部の具体的な形成範囲は、ハニカム構造体の出口側端面から、セルの軸方向に沿って、ハニカム構造体全長の1/10〜1/2の長さまでの範囲である。修飾部の形成範囲がハニカム構造体全長の1/10に満たないと、フィルター再生時における出口側端面付近の過剰な昇温を効果的に抑制するだけの熱容量と熱伝導率を確保することが困難であり、ハニカム構造体全長の1/2を超えると、修飾部によって圧力損失が過度に上昇し、フィルターとしての実用性に問題が生じる。
【0035】
修飾部の形成範囲を前記のように限定し、更に、圧力損失に大きく影響する他の要因である、ベース基材の気孔率及び平均細孔径並びに修飾部の気孔率及び平均細孔径を後述のように限定することにより、フィルター再生時の出口側付近の温度上昇が適度に抑えられるとともに、圧力損失の過度な上昇も抑えられ、フィルターとしてのバランスに優れたハニカム構造体となる。また、本発明の第四のハニカム構造体においては、更にハニカム構造体の径方向における修飾部の形成部位を、ハニカム構造体の外周から中央に向かってハニカム構造体の半径の1/10〜3/5までの部分を除いた部位に限定することで、修飾部の形成による圧力損失の上昇をより抑えやすくしている。なお、ハニカム構造体の径方向における修飾部の未形成部分を、ハニカム構造体の外周から中央に向かってハニカム構造体の半径の1/10に満たない範囲までとすると、圧力損失の上昇抑制効果が得られ難く、ハニカム構造体の外周から中央に向かってハニカム構造体の半径の3/5を超える範囲までとすると、フィルター再生時の出口側付近の温度上昇抑制効果が得られ難くなる。
【0036】
本発明の第一〜第四のハニカム構造体におけるベース基材の気孔率は、30〜80%、好ましくは45〜80%である。ベース基材の気孔率が30%未満では、ベース基材自体の圧力損失が大きすぎ、80%を超えると、フィルター再生時の最高温度が上昇しすぎるため、実用上問題が生じる。また、ベース基材の平均細孔径は、5〜40μm、好ましくは5〜20μmである。ベース基材の平均細孔径が5μm未満では、ベース基材自体の圧力損失が大きすぎ、40μmを超えると、PMを捕集するフィルター機能が低下しすぎるため、実用上問題が生じる。
【0037】
修飾部の気孔率は、ベース基材の気孔率に対し2〜20%低い気孔率(ベース基材の気孔率から2〜20%差し引いた値)、好ましくは3〜12%低い気孔率である。ベース基材の気孔率に対する修飾部の気孔率の減少量が2%未満では、修飾部の形成による効果、すなわちフィルター再生時における出口側端面付近の過剰な昇温を抑制する効果が十分に得られず、20%を超えると、圧力損失が大きくなり過ぎる。また、修飾部の平均細孔径は、ベース基材の平均細孔径に対し0.1〜10μm小さい平均細孔径、好ましくは0.1〜5μm小さい平均細孔径である。ベース基材の平均細孔径に対する修飾部の平均細孔径の減少量が0.1μm未満では、修飾部の形成による効果が十分に得られず、10μmを超えると、圧力損失が大きくなり過ぎる。
【0038】
なお、本発明で規定する「気孔率」は、ベース基材の修飾部を形成していない部分又は修飾部を形成した部分から隔壁厚みの平板を試験片として切り出し、アルキメデス法で測定したものであり、「平均細孔径」は、ベース基材の修飾部を形成していない部分又は修飾部を形成した部分から所定形状(□5×15mm)の試験片を切り出し、水銀ポロシメーターで測定したものである。
【0039】
本発明の第一のハニカム構造体において、修飾部の長さ、気孔率及び平均細孔径は、ハニカム構造体を構成する全てのハニカムセグメントにおいて同一であっても良いし、前記限定範囲内であれば、ハニカム構造体を構成するセグメントの内、ハニカム構造体の外周部に位置する外周セグメントと、その内側に位置する中央セグメントとで、修飾部の気孔率、平均細孔径及び長さの何れか1つ以上が異なっていても良い。また、本発明の第三のハニカム構造体において、修飾部の長さ、気孔率及び平均細孔径は、ハニカム構造体の径方向全体において同一であっても良いし、前記限定範囲内であれば、ハニカム構造体の中央から外周に向かって、修飾部の長さ、気孔率及び平均細孔径の何れか1つ以上が連続的又は段階的に変化していても良い。
【0040】
図1は、本発明に係る第一のハニカム構造体の実施形態の一例を模式的に示す概略断面図である。この実施形態では、ハニカム構造体1の外周部に位置する外周セグメント2aの修飾部7aと、外周セグメント2aの内側に位置する中央セグメント2bの修飾部7bとの長さが同一であり、これら修飾部7a、7bの気孔率と平均細孔径も同一である。通常は、このような実施形態で本発明の効果を十分に発揮させることができる。
【0041】
図2は、本発明に係る第一のハニカム構造体の実施形態の他の一例を模式的に示す概略断面図である。この実施形態では、ハニカム構造体1の外周部に位置する外周セグメント2aの修飾部7aと、外周セグメント2aの内側に位置する中央セグメント2bの修飾部7bとの長さが同一であるが、中央セグメント2bの修飾部7bの方が外周セグメント2aの修飾部7aよりも気孔率と平均細孔径が低く(小さく)なるような構成としている。フィルターの再生時には出口側端面付近が温度上昇しやすいが、更にこの出口側端面付近においても、特に径方向の断面中央部は外部に熱が逃げにくく、外周部より温度上昇しやすい傾向にあるので、このように中央セグメント2bの修飾部7bをより緻密化して熱容量と熱伝導率を高め、温度分布の不均一による熱応力の発生を緩和することが好ましい。
【0042】
図3は、本発明に係る第一のハニカム構造体の実施形態の更に他の一例を模式的に示す概略断面図である。この実施形態では、ハニカム構造体1の外周部に位置する外周セグメント2aの修飾部7aと、外周セグメント2aの内側に位置する中央セグメント2bの修飾部7bとの気孔率及び平均細孔径は同一であるが、中央セグメント2bの修飾部7bの方が外周セグメント2aの修飾部7aより長さが長くなるような構成としている。先述のとおり、出口側端面付近でも、特に径方向の断面中央部は外部に熱が逃げにくく、外周部より温度上昇しやすい傾向にあるので、このように中央セグメント2bの修飾部7bをより長くして熱容量と熱伝導率を高め、温度分布の不均一による熱応力の発生を緩和することが好ましい。
【0043】
図4は、本発明に係る第二のハニカム構造体の実施形態の一例を模式的に示す概略断面図である。この実施形態では、ハニカム構造体1の外周部に位置する外周セグメント2aには修飾部が形成されておらず、外周セグメント2aの内側に位置する中央セグメント2bにのみ修飾部7bが形成された構成としている。先述のとおり、出口側端面付近でも、特に径方向の断面中央部は外部に熱が逃げにくく、外周部より温度上昇しやすい傾向にあるので、このように中央セグメント2bにのみ修飾部7bを形成して熱容量と熱伝導率を高め、温度分布の不均一による熱応力の発生を緩和するのも好ましい形態である。また、中央セグメント2bにのみ修飾部7bを形成する場合、その修飾部7bは、図5に示す出口側端面の概略平面図のように、径方向の全体に形成されていても良いし、図6に示す出口側端面の概略平面図のように、径方向において部分的に形成されていても良い。
【0044】
図7は、本発明に係る第二のハニカム構造体の実施形態の他の一例を模式的に示す概略断面図である。この実施形態では、ハニカム構造体1の外周部に位置する外周セグメント2aと、外周セグメント2aの内側に位置する中央セグメントの内、外周セグメント2aに隣接する位置にある中央セグメント2b’とには修飾部が形成されておらず、中央セグメント2b’の内側に位置する中央セグメント2b”にのみ修飾部7b”が形成された構成としている。中央セグメントは、外周セグメントより熱が逃げにくく、温度上昇しやすい傾向にあるので、修飾部が形成されていることが好ましいが、ハニカム構造体を構成するセグメントの数が多い場合などには、中央セグメントの内、ハニカム構造体の外周に近い位置に存在するものは、外周セグメントと同様に比較的熱が逃げやすいので、そのような中央セグメントと外周セグメントには修飾部を形成せず、それ以外の一部の中央セグメントにのみ修飾部を形成して熱容量と熱伝導率を高めるようにしても、温度分布の不均一による熱応力の発生を緩和することができる。
【0045】
図8は、本発明に係る第三のハニカム構造体の実施形態の一例を模式的に示す概略断面図である。この実施形態では、ハニカム構造体1の径方向全体において、修飾部7の長さが同一であり、その気孔率及び平均細孔径も同一である。通常は、このような実施形態で本発明の効果を十分に発揮させることができる。
【0046】
図9は、本発明に係る第三のハニカム構造体の実施形態の他の一例を模式的に示す概略断面図である。この実施形態では、ハニカム構造体1の径方向全体において、修飾部7の長さは同一であるが、気孔率と平均細孔径とについては中央部の方が外周部よりも低く(小さく)なるよう段階的に変化させた構成としている。先述のとおり、出口側端面付近でも、特に径方向の断面中央部は外部に熱が逃げにくく、外周部より温度上昇しやすい傾向にあるので、このように中央部をより緻密化して熱容量と熱伝導率を高め、温度分布の不均一による熱応力の発生を緩和することが好ましい。
【0047】
図10は、本発明に係る第三のハニカム構造体の実施形態の更に他の一例を模式的に示す概略断面図である。この実施形態では、ハニカム構造体1の径方向全体において、修飾部7の気孔率と平均細孔径は同一であるが、長さについては中央部の方が外周部よりも長くなるよう段階的に変化させた構成としている。先述のとおり、出口側端面付近でも、特に径方向の断面中央部は外部に熱が逃げにくく、外周部より温度上昇しやすい傾向にあるので、このように中央部の修飾部7をより長くして熱容量と熱伝導率を高め、温度分布の不均一による熱応力の発生を緩和することが好ましい。
【0048】
図11は、本発明に係る第四のハニカム構造体の実施形態の一例を模式的に示す概略断面図である。この実施形態では、ハニカム構造体1の径方向における修飾部7の形成部位を、ハニカム構造体1の外周から中央に向かってハニカム構造体の半径の1/10〜3/5までの部分を除いた中央部に限定した構成としている。先述のとおり、出口側端面付近でも、特に径方向の断面中央部は外部に熱が逃げにくく、外周部より温度上昇しやすい傾向にあるので、このように所定範囲の外周部を除いた中央部にのみ修飾部7を形成して熱容量と熱伝導率を高め、温度分布の不均一による熱応力の発生を緩和するのも好ましい形態である。
【0049】
なお、本発明の第一及び第二のハニカム構造体においては、ハニカム構造体の外周部を形成するのに必要な個数である限り、外周セグメントの個数は特に限定されず、また、外周セグメントの内側に存在する限り、中央セグメントの個数も特に限定されない。
【0050】
本発明の第一〜第四のハニカム構造体におけるハニカム構造体又はハニカムセグメントのベース基材の構成材料としては、強度、耐熱性等の観点から、炭化珪素(SiC)、炭化珪素(SiC)を骨材とし珪素(Si)を結合材として形成された珪素−炭化珪素系複合材料、窒化珪素、コージェライト、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材、リチウムアルミニウムシリケート、チタン酸アルミニウム、Fe−Cr−Al系金属からなる群より選択される少なくとも一種の材料を好適なものとして挙げることができる。中でも、本発明の第一及び第二のハニカム構造体に使用されるハニカムセグメントのベース基材の構成材料としては、炭化珪素又は珪素−炭化珪素系複合材料を用いることが好ましく、本発明の第三及び第四のハニカム構造体に使用されるベース基材の構成材料としては、コージェライトを用いることが好ましい。目封止部の構成材料は、ハニカム構造体又はハニカムセグメントとの熱膨張差を小さくするため、ハニカム構造体又はハニカムセグメントと同じ材料を用いることが好ましい。
【0051】
ベース基材の製造方法には、従来公知の方法を用いることができる。具体的な方法の一例としては、前記のような材料に、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等のバインダー、造孔材、界面活性剤、溶媒としての水等を添加して、可塑性の坏土とし、この坏土を所定のハニカム形状となるように押出成形し、次いで、マイクロ波、熱風等によって乾燥した後、焼成する。セルに目封止部を形成する場合、前記焼成は、セルに目封止部を形成する前に行っても良いし、セルに目封止部を形成した後で、目封止部の焼成と一緒に行うようにしても良い。
【0052】
セルを目封止する方法にも、従来公知の方法を用いることができる。具体的な方法の一例としては、ハニカムセグメント又はハニカム構造体の端面にシートを貼り付けた後、当該シートの目封止しようとするセルに対応した位置に穴を開け、このシートを貼り付けたままの状態で、目封止部の構成材料をスラリー化した目封止用スラリーに、ハニカムセグメント又はハニカム構造体の端面を浸漬し、シートに開けた孔を通じて、目封止しようとするセルの開口端部内に目封止用スラリーを充填し、それを乾燥及び/又は焼成して硬化させる。
【0053】
ベース基材の気孔率や平均細孔径は、材料の粒径、造孔材の粒径や添加量、焼成条件などによって調節することができる。
【0054】
DPFに使用されるハニカム構造体は、全てのセルが同形状(通常は四角形)で同じ開口面積を持ち、それらが入口側端面と出口側端面とで市松模様を呈するよう交互に目封止され、入口側端面と出口側端面の開口率が同等であるのが一般的であるが、最近は、スート捕集後の圧力損失の上昇抑制等を目的として、入口側端面の開口率を出口側端面の開口率よりも大きくしたハニカム構造体も提案されており、本発明のハニカム構造体にも、このような構造を適用することができる。
【0055】
図18及び図19は、入口側端面と出口側端面とで開口率が異なる目封止ハニカム構造体の実施形態の一例を示しており、図18は入口側端面の部分拡大図、図19は出口側端面の部分拡大図である。これらの図に示すように、この実施形態においては、四角形セル5aとそれよりも開口面積の大きい八角形セル5bとが、各端面上の直交する二方向において交互に配列されており、四角形セル5aについては入口側端面にて目封止部9による目封止が施され、八角形セル5bについては出口側端面にて目封止部9による目封止が施された状態になっている。このように入口側端面では開口面積の大きい八角形セル5bを開口させ、出口側端面では開口面積の小さい四角形セル5aを開口させることで、入口側端面の開口率を出口側端面の開口率よりも大きくすることができる。
【0056】
修飾部の形成は、例えば、ベース基材の平均細孔径より小さい粒子を含む修飾用スラリーを調製し、このスラリーにベース基材の一端面側から、修飾部を形成しようとする所定の長さまで浸漬して、スラリーを含浸、すなわちベース基材の隔壁の細孔内にスラリー中の粒子を充填させ、その後、熱処理を施すという方法より行うことができる。また、本発明の第一及び第二のハニカム構造体における修飾部の形成は、セグメントを接合する前の段階で実施してもよいし、セグメント接合後のハニカム構造体の状態で行っても良い。セグメントを接合する前の段階で修飾部の形成を行うと、中央セグメントと外周セグメントとで修飾部の形成範囲や気孔率、平均細孔径を自由に組み合わせることができる。ただし、ハニカム構造体の状態で修飾部の形成を行っても、マスキングや複数回の修飾により、修飾部の形成範囲や気孔率、平均細孔径をセグメント毎に設定することは可能であるので、ハニカム構造体の状態で修飾部の形成を制限するものではない。
【0057】
修飾用スラリーは、最終的に隔壁に残存する成分であり、化学的に又は物理的に変化するものも、除去されるものでなければ含まれる。修飾用スラリーには、緻密化するための粒子として、炭化珪素、窒化珪素、コージェライト、アルミナ、ムライト、ジルコニア、燐酸ジルコニウム、アルミニウムチタネート、チタニア、及びこれらの組合せよりなる群から選ばれるセラミックス、Fe−Cr−Al系金属、ニッケル系金属、又は金属SiとSiC等の無機粉体を含むことが好ましい。更に、γアルミナ、セリア、ジルコニア、セリア系複合酸化物、ジルコニア系複合酸化物等のような、ハニカム構造体に触媒成分を担持させる際のウォッシュコートに含まれる粒子を用いることもできる。
【0058】
また、この粒子の粒径は、ベース基材の平均細孔径の2〜60%の大きさであることが好ましい。この粒子の平均粒子径が、ベース基材の平均細孔径の2%未満であると、隔壁の細孔内に充填されるべき粒子が細孔径に対し小さすぎる結果、細孔内に充分に充填することができないおそれがある。すなわち、細孔内に保持出来ず、素通りしてしまうことがあり、好ましくない。一方、ベース基材の平均細孔径の60%を超えると、隔壁の細孔内に充填されるべき粒子が細孔径に対し大きすぎるので、細孔内に充填することができない(細孔内に入らない)おそれがあり、好ましくない。
【0059】
修飾用スラリーは、このような粒子の他、粒子を細孔内面に結合させることが可能な結合材を含み、それらを水に希釈したものであることが好まく、更に、分散剤、消泡剤を適宜、含ませても良い。結合材としては、シリカゾル又はアルミナゾル等のコロイダルゾルや膨潤して結合性を示す層状化合物等が好適に使用できる。修飾スラリー含浸後の熱処理の条件は、修飾スラリーの組成によって、適宜、定めればよい。ベース基材と同じ組成の修飾スラリーで修飾を行う場合は、結合性を付与するため、ベース基材の焼成条件と同じ条件での熱処理が必要となる。コロイダルシリカ等の700〜800℃で強度が発現する材料を組み合わせると、低い温度での熱処理が可能となる。
【0060】
ベース基材の気孔率に対する修飾部の気孔率の減少量や、ベース基材の平均細孔径に対する修飾部の平均細孔径の減少量は、修飾用スラリーに含まれる粒子の粒径や含有量、修飾用スラリーを含浸する回数などによって調節することができる。
【0061】
本発明の第一〜第四のハニカム構造体において、ハニカム構造体又はハニカムセグメントの隔壁の厚さは、7〜20mil(178〜508μm)であることが好ましく、8〜16mil(203〜406μm)であることがより好ましく、10〜12mil(254〜305μm)であることが更に好ましい。隔壁の厚さが7mil未満であると、強度が不足して耐熱衝撃性が低下する場合があり、一方、隔壁の厚さが20mil超を超えると、圧力損失が増大する傾向にあるからである。
【0062】
セル密度は、140〜350セル/in(cpsi)であることが好ましく、160〜320cpsiであることがより好ましく、200〜300cpsiであることが更に好ましい。セル密度が140cpsi未満であると、流体との接触効率が不足する傾向にあり、一方、セル密度が350cpsiを超えると、圧力損失が増大する傾向にあるからである。なお、「cpsi」は「cells per square inch」の略であり、1平方インチ当りのセル数を表す単位である。例えば10cpsiは、約1.55セル/cmである。
【0063】
セル形状(セル断面の形状)については、特に限定されることはなく、例えば、四角形、三角形、六角形、八角形等の多角形でも、丸形であっても良く、また、前記のように異なる形状のセルが組み合わされて配列されていても良い。
【0064】
また、本発明の第一〜第四のハニカム構造体においては、フィルター再生時のPMの燃焼を促進させたり、排ガス中の有害物質を浄化したりする目的で、隔壁に触媒成分を担持させるようにしても良い。隔壁に触媒成分を担持する方法としては、例えば、触媒成分を含む溶液を、アルミナ粉末のような高比表面積の耐熱性無機酸化物からなる粉末を含浸させた後、乾燥、焼成して、触媒成分を含有する粉末を得、この粉末にアルミナゾルや水などを加えて触媒スラリーを調製し、これにハニカムセグメント又はハニカム構造体を浸漬させて、スラリーをコートしてから、乾燥、焼成するといった方法を用いることができる。
【0065】
触媒成分としては、Pt、Rh、Pdからなる群より選択される一種以上の貴金属を用いることが好ましい。これら貴金属の担持量は、ハニカム構造体単位体積当たり、0.3〜3.5g/Lとすることが好ましい。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1〜49及び比較例1〜21)
SiC粉末及び金属Si粉末を80:20の質量割合で混合し、これに造孔材、有機バインダー、界面活性剤及び水を添加して、可塑性の坏土を得た。この坏土を押出成形し、乾燥させてハニカム状成形体を得た。このハニカム状成形体に対し、その両端面が市松模様状を呈するように、各セルの一端部に目封止部を形成した。すなわち、隣接するセルが、互いに反対側の端部で封じられるように目封止部の形成を行った。目封止部の材料には、ハニカム状成形体と同じ材料を用いた。こうして目封止部を形成し、乾燥させた後、ハニカム状成形体を、大気雰囲気中、約400℃で脱脂し、更に、Ar雰囲気において約1450℃で焼成して、成形体中のSiC粒子をSiで結合させることにより、表1〜10に示すような気孔率と平均細孔径とを有し、隔壁の厚さが12mil(305μm)、セル形状が正方形、セル密度が約46.5セル/cm(300セル/平方インチ)、断面が一辺35mmの正方形、軸方向の長さが152mmである四角柱状のハニカムセグメントのベース基材を得た。なお、気孔率及び平均細孔径の測定方法は先述のとおりである。
【0068】
次に、粒子径2μmのSiC粒子150質量部に、コロイダルシリカ(固形分40%の溶液)150質量部と、水200質量部とを加え、よく撹拌して、修飾用スラリーを調製した。なお、調製に際し、分散剤、消泡剤を、適宜、加えた。こうして得られた修飾用スラリーに、前記ベース基材を、一方の端面から所定の長さまで浸漬させ、その後、エアーブローによって過剰なスラリーを除去した。次いで、スラリーを乾燥させた後、700℃で熱処理を施し、ベース基材の全長に対して表1〜10に示すような長さ(修飾部長さ比)を持つとともに、ベース基材の気孔率に対する修飾部の気孔率の減少量(気孔率減少量)と、ベース基材の平均細孔径に対する修飾部の平均細孔径の減少量(平均細孔径減少量)とが、同表に示す値となるような修飾部を形成して、ハニカムセグメントを作製した。
【0069】
続いて、SiC粉末、アルミノシリケート質繊維、シリカゾル水溶液及び粘土を混合したものに、更に水を加え、ミキサーを用いて30分間混練を行い、ペースト状の接合材を得た。この接合材を、前記ハニカムセグメントの外周面に、厚さ約1mmとなるように塗布して接合材層を形成し、その上に別のハニカムセグメントを載置する工程を繰り返し、4個×4個に組み合わされた合計16個のハニカムセグメントからなるハニカムセグメント積層体を作製した。そして、適宜、外部より圧力を加えるなどして全体を接合させた後、120℃で2時間乾燥させてハニカムセグメント接合体を得た。このハニカムセグメント接合体の外形が円柱状になるように、その外周を研削加工した後、その加工面に接合材と同じ組成のコーティング材を塗布して外周壁を再形成し、700℃で2時間、乾燥硬化させ、実施例1〜49及び比較例1〜21のハニカム構造体を得た。
【0070】
こうして作製された実施例1〜49及び比較例1〜21のハニカム構造体について、次の方法で圧力損失増加率を求めた。まず、修飾部が形成された実施例1〜49及び比較例1〜21の各ハニカム構造体(修飾済みハニカム構造体)に、スートを含む200℃の排ガスを2.27Nm/minの流量で流して、スートを徐々に堆積させて行き、スートの堆積量が4g/Lに達した時点におけるハニカム構造体の前後での圧力損失を測定して、これをスート堆積後の修飾済みハニカム構造体圧力損失とした。また、ベース基材に対して修飾部の形成を行わなかった以外は、各実施例及び比較例のハニカム構造体の作製手順と同様の手順で、修飾部が形成されていないハニカム構造体(未修飾ハニカム構造体)を作製し、これら各未修飾ハニカム構造体ついても同様の測定方法で圧力損失を測定して、これをスート堆積後の未修飾ハニカム構造体圧力損失とした。こうして測定された各圧力損失から、下式により圧力損失増加率を求めた。その結果を表1〜7に示す。
【0071】
圧力損失増加率(%)=(スート堆積後の修飾済みハニカム構造体圧力損失/スート堆積後の未修飾ハニカム構造体圧力損失−1)×100
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
【表6】

【0078】
【表7】

【0079】
表1〜7に示すとおり、本発明の要件を満たす実施例1〜49は、修飾部の長さがハニカムセグメント全長の1/2を超える比較例1、4、7、10、13、16及び19や、ベース基材の気孔率に対する修飾部の気孔率の減少量が20%を超える比較例2、3、5、6、8、9、11、12、14、15、17、18、20及び21と比べて、低い圧力損失増加率を示しており、これら実施例は、フィルター再生時の出口側付近の温度上昇を抑制するために緻密化された修飾部が形成されていても、それによって過度な圧力損失の上昇が生じにくいことがわかる。
【0080】
(実施例50〜67及び比較例22〜33)
合計16個のハニカムセグメントの内、外周部に位置する12個の外周セグメントと、その内側に位置する4個の中央セグメントとで、表8〜10に示すように、修飾部の修飾部長さ比、気孔率減少量及び平均細孔径減少量の何れか1つ以上が異なるようにした以外は、前記実施例1〜49及び比較例1〜21と同様にしてハニカム構造体を作製し、圧力損失増加率を求めた。その結果を表8〜10に示す。
【0081】
【表8】

【0082】
【表9】

【0083】
【表10】

【0084】
表8〜10に示すとおり、本発明の要件を満たす実施例50〜67は、中央セグメントの修飾部の長さがハニカムセグメント全長の1/2を超える比較例22、26及び30や、外周セグメントの修飾部の長さがハニカムセグメント全長の1/2を超える比較例23、27及び31や、中央セグメントのベース基材の気孔率に対する修飾部の気孔率の減少量が20%を超える比較例24、25、28、29、32及び33と比べて、低い圧力損失増加率を示しており、これら実施例は、フィルター再生時の出口側付近の温度上昇を抑制するために緻密化された修飾部が形成されていても、それによって過度な圧力損失の上昇が生じにくいことがわかる。
【0085】
(実施例68〜88及び比較例34〜42)
コージェライト化原料として、タルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム及びシリカを、化学組成がSiO:42〜56質量%、Al:30〜45質量%、MgO:12〜16質量%となるような質量割合で混合し、これに造孔材、有機バインダー、界面活性剤及び水を添加して、可塑性の坏土を得た。この坏土を押出成形し、乾燥させてハニカム状成形体を得た。このハニカム状成形体に対し、その両端面が市松模様状を呈するように、各セルの一端部に目封止部を形成した。すなわち、隣接するセルが、互いに反対側の端部で封じられるように目封部の形成を行った。目封止部の材料には、ハニカム状成形体と同じ材料を用いた。こうして目封止部を形成し、乾燥させた後、ハニカム状成形体を、大気雰囲気中において最高温度1400〜1430℃の温度範囲で焼成して、表11〜13に示すような気孔率と平均細孔径とを有し、隔壁の厚さが12mil(305μm)、セル形状が正方形、セル密度が約46.5セル/cm(300セル/平方インチ)、断面が直径144mmの円形、軸方向の長さが152mmである円柱状のハニカム構造体のベース基材を得た。なお、気孔率及び平均細孔径の測定方法は先述のとおりである。
【0086】
次に、粒子径2μmのコージェライト粒子150質量部に、コロイダルシリカ(固形分40%の溶液)150質量部と、水200質量部とを加え、よく撹拌して、修飾用スラリーを調製した。なお、調製に際し、分散剤、消泡剤を、適宜、加えた。こうして得られた修飾用スラリーに、前記ベース基材を、一方の端面から所定の長さまで浸漬させ、その後、エアーブローによって過剰なスラリーを除去した。次いで、スラリーを乾燥させた後、700℃で熱処理を施し、ベース基材の全長に対して表11〜13に示すような長さ(修飾部長さ比)を持つとともに、ベース基材の気孔率に対する修飾部の気孔率の減少量(気孔率減少量)と、ベース基材の平均細孔径に対する修飾部の平均細孔径の減少量(平均細孔径減少量)とが、同表に示す値となるような修飾部を形成して、実施例68〜88及び比較例34〜42のハニカム構造体を得た。こうして作製されたハニカム構造体について、前記実施例1〜49及び比較例1〜21と同様にして、圧力損失増加率を求めた。その結果を表11〜13に示す。
【0087】
【表11】

【0088】
【表12】

【0089】
【表13】

【0090】
表11〜13に示すとおり、本発明の要件を満たす実施例68〜88は、修飾部の長さがハニカム構造体全長の1/2を超える比較例34、37及び40や、ベース基材の気孔率に対する修飾部の気孔率の減少量が20%を超える比較例35、36、38、39、41及び42と比べて、低い圧力損失増加率を示しており、これら実施例は、フィルター再生時の出口側付近の温度上昇を抑制するために緻密化された修飾部が形成されていても、それによって過度な圧力損失の上昇が生じにくいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、DPF等の集塵用フィルターとして好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0092】
1:ハニカム構造体、2:ハニカムセグメント、2a:外周セグメント、2b:中央セグメント、2b’:中央セグメント、2b”:中央セグメント、3:隔壁、5:セル、5a:四角形セル、5b:八角形セル、7:修飾部、7a:修飾部、7b:修飾部、7b”:修飾部、9:目封止部、10:入口側端面、11:出口側端面、20:入口側端面、21:出口側端面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の入口側となる入口側端面と流体の出口側となる出口側端面との間に、流体の流路となる複数のセルが多孔質の隔壁によって区画形成されたハニカム形状を有するセグメントを、前記セルの軸方向と垂直の方向において複数個組み合わせ、接合一体化することにより構成されたハニカム構造体であって、
前記セグメントは、ハニカム形状で多孔質のベース基材と、前記ベース基材の平均細孔径より小さい粒子を含むスラリーを、前記ベース基材の一部に含浸後、熱処理することにより形成された修飾部とを有し、
前記ベース基材は、気孔率が30〜80%、平均細孔径が5〜40μmであり、
前記修飾部は、前記セグメントの出口側端面から、前記セルの軸方向に沿って、前記セグメント全長の1/10〜1/2の長さまでの範囲に形成されており、前記ベース基材の気孔率に対し2〜20%低い気孔率と、前記ベース基材の平均細孔径に対し0.1〜10μm小さい平均細孔径とを有するハニカム構造体。
【請求項2】
全ての前記セグメントにおいて、前記修飾部の長さ、気孔率及び平均細孔径が同一である請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記セグメントの内、ハニカム構造体の外周部に位置する外周セグメントと、その内側に位置する中央セグメントとで、前記修飾部の長さ、気孔率及び平均細孔径の何れか1つ以上が異なっている請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
流体の入口側となる入口側端面と流体の出口側となる出口側端面との間に、流体の流路となる複数のセルが多孔質の隔壁によって区画形成されたハニカム形状を有するセグメントを、前記セルの軸方向と垂直の方向において複数個組み合わせ、接合一体化することにより構成されたハニカム構造体であって、
前記セグメントの内、ハニカム構造体の外周部に位置する外周セグメントは、ハニカム形状で多孔質のベース基材のみからなり、
前記外周セグメントの内側に位置する中央セグメントの内の少なくとも一部の中央セグメントは、前記ベース基材と、前記ベース基材の平均細孔径より小さい粒子を含むスラリーを、前記ベース基材の一部に含浸後、熱処理することにより形成された修飾部とを有するとともに、残りの中央セグメントは、前記外周セグメントと同様に前記ベース基材のみからなり、
前記ベース基材は、気孔率が30〜80%、平均細孔径が5〜40μmであり、
前記修飾部は、前記中央セグメントの出口側端面から、前記セルの軸方向に沿って、前記セグメント全長の1/10〜1/2の長さまでの範囲に形成されており、前記ベース基材の気孔率に対し2〜20%低い気孔率と、前記ベース基材の平均細孔径に対し0.1〜10μm小さい平均細孔径とを有するハニカム構造体。
【請求項5】
流体の入口側となる入口側端面と流体の出口側となる出口側端面との間に、流体の流路となる複数のセルが多孔質の隔壁によって区画形成されたハニカム構造体であって、
前記ハニカム構造体は、ハニカム形状で多孔質のベース基材と、前記ベース基材の平均細孔径より小さい粒子を含むスラリーを、前記ベース基材の一部に含浸後、熱処理することにより形成された修飾部とを有し、
前記ベース基材は、気孔率が30〜80%、平均細孔径が5〜40μmであり、
前記修飾部は、前記ハニカム構造体の出口側端面から、前記セルの軸方向に沿って、前記ハニカム構造体全長の1/10〜1/2の長さまでの範囲に形成されており、前記ベース基材の気孔率に対し2〜20%低い気孔率と、前記ベース基材の平均細孔径に対し0.1〜10μm小さい平均細孔径とを有するハニカム構造体。
【請求項6】
前記ハニカム構造体の径方向全体において、前記修飾部の長さ、気孔率及び平均細孔径が同一である請求項5に記載のハニカム構造体。
【請求項7】
前記ハニカム構造体の中央から外周に向かって、前記修飾部の長さ、気孔率及び平均細孔径の何れか1つ以上が連続的又は段階的に変化している請求項5に記載のハニカム構造体。
【請求項8】
流体の入口側となる入口側端面と流体の出口側となる出口側端面との間に、流体の流路となる複数のセルが多孔質の隔壁によって区画形成されたハニカム構造体であって、
前記ハニカム構造体は、ハニカム形状で多孔質のベース基材と、前記ベース基材の平均細孔径より小さい粒子を含むスラリーを、前記ベース基材の一部に含浸後、熱処理することにより形成された修飾部とを有し、
前記修飾部は、前記ハニカム構造体の外周から中央に向かって前記ハニカム構造体の半径の1/10〜3/5までの部分を除き、前記ハニカム構造体の出口側端面から、前記セルの軸方向に沿って、前記ハニカム構造体全長の1/10〜1/2の長さまでの範囲に形成されており、前記ベース基材の気孔率に対し2〜20%低い気孔率と、前記ベース基材の平均細孔径に対し0.1〜10μm小さい平均細孔径とを有するハニカム構造体。
【請求項9】
所定の前記セルの開口部を前記入口側端面で目封止するとともに、残余の前記セルの開口部を前記出口側端面で目封止する目封止部を備えた請求項1〜8の何れか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項10】
前記入口側端面の開口率が、前記出口側端面の開口率より大きい請求項9に記載のハニカム構造体。
【請求項11】
前記隔壁に触媒成分が担持された請求項1〜10の何れか一項に記載のハニカム構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−255048(P2009−255048A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−980(P2009−980)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】