説明

ハニカム構造体

【課題】直噴ガソリンエンジンの排ガスに含有される粒子状物質を、圧力損失の上昇を抑制しながら、高い捕集効率で捕集することができるハニカム構造体を提供する。
【解決手段】隔壁の厚さが50.8μm以上、161.5μm未満であり、セル密度が15.5〜62.0セル/cmであり、ハニカム構造部のセル開口率が、76〜91%であり、隔壁の気孔率が35〜45%であり、隔壁の平均細孔径が2μm以上、10μm未満であり、隔壁の材料が、コージェライト、アルミニウムチタネート、炭化珪素、アルミナ及びムライトからなる群から選択される少なくとも一種を含む材料であり、隔壁の平均細孔径を隔壁の厚さで除した値が、0.040より大きく、0.065より小さい値であるハニカム構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体に関し、更に詳しくは、直噴ガソリンエンジンの排ガスに含有される粒子状物質を、圧力損失の上昇を抑制しながら、高い捕集効率で捕集することができるハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境保護、資源節約の観点から自動車の燃費低減が求められている。乗用車において主として用いられるガソリンエンジンについては、燃費改善のために燃料直噴化が進められている。
【0003】
従来、ガソリンエンジンは、吸気ポート燃料噴射の方式を採用していたため、煤(粒子状物質:PM)の発生が少なく、ほとんど問題にはならなかった。しかし、燃料直噴式のガソリンエンジンの場合は、吸気ポート燃料噴射の場合と比較してPMの発生量が多く、発生したPMを大気に放出しないための対策が必要であった。
【0004】
一方、ディーゼルエンジンから排出される粒子状物質を除去するための捕集フィルタとして、ハニカム構造体が用いられている。粒子状物質捕集フィルタとして用いるハニカム構造体としては、両端面の所定の位置に目封止部を備えた目封止ハニカム構造体が用いられている(例えば、特許文献1を参照)。ここで、目封止ハニカム構造体とは、流体(排ガス、浄化ガス)の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と最外周に位置する外周壁とを有するハニカム構造部と、当該ハニカム構造部における、「流体(排ガス)の入口側の端面における所定のセルの開口部」及び「流体(浄化ガス)の出口側の端面における残余のセルの開口部」に配設された目封止部とを備えるものである。このようなハニカム構造体によれば、排ガスの入口側の端面からセル内に排ガスが流入し、セル内に流入した排ガスが隔壁を通過し、隔壁を通過した排ガス(浄化ガス)が排ガスの出口側の端面から排出される。そして、排ガスが隔壁を通過するときに、排ガス中に含有されるPMが隔壁により捕集され、排ガスが浄化ガスとなる。
【0005】
上記のようなディーゼルエンジンから排出される粒子状物質を除去するために使用される目封止ハニカム構造体を、ガソリンエンジンから排出される粒子状物質を除去するために使用する方法が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−254034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来、ガソリンエンジンから排出される排ガスを処理するために、三元触媒コンバーター、NO吸蔵還元触媒等が使用されているため、更に目封止ハニカム構造体を排気系に搭載すると、排気系の圧力損失が大きくなり、エンジン出力の低下等の問題が生じると考えられる。
【0008】
また、上記圧力損失増大の問題を解消するために、ガソリンエンジンの排気系に搭載する「PM捕集用の目封止ハニカム構造体」として、隔壁厚さの薄い目封止ハニカム構造体を使用する方法が考えられる。しかし、隔壁厚さの薄い目封止ハニカム構造体を使用した場合、ガソリンエンジンではディーゼルエンジンと比較するとPM排出量が少ないため、目封止ハニカム構造体の隔壁表面にPMによる層が形成され難く、隔壁そのものがPMを捕集することになり、PMの捕集効率が不十分であった。また、隔壁厚さの薄い目封止ハニカム構造体は、多孔質の隔壁が薄く形成されているため、細孔径の大きな細孔は、柱状に近い形状の貫通孔となることがあり、この貫通孔からPMが漏れ出すことも考えられる。尚、ディーゼルエンジンから排出されるPMを目封止ハニカム構造体によって捕集する場合には、PM発生量が多いため、隔壁表面にPMの堆積層が形成され、この隔壁表面のPMの堆積層が排ガス中のPMを捕集する機能を果たし、十分なPM捕集効率を得ることができる。
【0009】
また、PMの捕集効率を上げるために、目封止ハニカム構造体の多孔質の隔壁の細孔径を小さくする方法が考えられる。しかし、隔壁の細孔径を小さくすると、排ガスが隔壁を通過するときの通過抵抗が過大になり、圧力損失が増大するという問題があった。
【0010】
ガソリンエンジンとディーゼルエンジンとでは、使用燃料が異なるため、上記のように排ガス中のPMの量が異なる他、排ガス中のPMの、粒子径、形状、成分も異なる。そのため、排ガス中のPMを捕集するためのハニカム構造体の最適な構成(特徴)も、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンとでは異なるのである。
【0011】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、直噴ガソリンエンジンの排ガスに含有される粒子状物質を、圧力損失の上昇を抑制しながら、高い捕集効率で捕集することができるハニカム構造体を提供することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によって以下のハニカム構造体が提供される。
【0013】
[1] 流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と最外周に位置する外周壁とを有するハニカム構造部と、前記ハニカム構造部の、流体の入口側の端面における所定の前記セルの開口部及び流体の出口側の端面における残余の前記セルの開口部に配設された目封止部とを備え、前記隔壁の厚さが50.8μm以上、161.5μm未満であり、セル密度が15.5〜62.0セル/cmであり、前記ハニカム構造部のセル開口率が、76〜91%であり、前記隔壁の気孔率が35〜45%であり、前記隔壁の平均細孔径が2μm以上、10μm未満であり、前記隔壁の材料が、コージェライト、アルミニウムチタネート、炭化珪素、アルミナ及びムライトからなる群から選択される少なくとも一種を含む材料であり、前記隔壁の平均細孔径を前記隔壁の厚さで除した値が、0.040より大きく、0.065より小さい値であるハニカム構造体。
【発明の効果】
【0014】
本発明のハニカム構造体によれば、隔壁の厚さが50.8μm以上、161.5μm未満であり、セル密度が15.5〜62.0セル/cmであり、ハニカム構造部のセル開口率が、76〜91%であり、隔壁の気孔率が35〜45%であり、隔壁の平均細孔径が2μm以上、10μm未満であり、隔壁の材料が、コージェライト、アルミニウムチタネート、炭化珪素、アルミナ及びムライトからなる群から選択される少なくとも一種を含む材料であり、隔壁の平均細孔径を隔壁の厚さで除した値が、0.040より大きく、0.065より小さい値であるため、燃料直噴式ガソリンエンジンの排ガスに含有される粒子状物質を、圧力損失の上昇を抑制しながら、高い捕集効率で捕集することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のハニカム構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明のハニカム構造体の一の実施形態の、セルの延びる方向に平行な断面を示す模式図である。
【図3】ハニカム構造体の、「平均細孔径」と「捕集効率」との関係を示すグラフである。
【図4】ハニカム構造体の、「平均細孔径」と「圧損」との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0017】
(1)ハニカム構造体:
図1、図2に示すように、本発明のハニカム構造体の一実施形態は、流体の流路となる複数のセル2を区画形成する多孔質の隔壁1と最外周に位置する外周壁4とを有するハニカム構造部11と、ハニカム構造部11の「流体の入口側の端面5における所定のセル2の開口部及び流体の出口側の端面6における残余のセル2の開口部」に配設された目封止部3とを備え、隔壁1の厚さが50.8μm以上、161.5μm未満であり、セル密度が15.5〜62.0セル/cmであり、ハニカム構造部11のセル開口率が、76〜91%であり、隔壁1の気孔率が35〜45%であり、隔壁1の平均細孔径が2μm以上、10μm未満であり、隔壁1の材料が、コージェライト、アルミニウムチタネート、炭化珪素、アルミナ及びムライトからなる群から選択される少なくとも一種を含む材料であり、隔壁1の平均細孔径を隔壁1の厚さで除した値が、0.040より大きく、0.065より小さい値である。
【0018】
図1は、本発明のハニカム構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、本発明のハニカム構造体の一の実施形態の、セルの延びる方向に平行な断面を示す模式図である。
【0019】
本実施形態のハニカム構造体は、上記のように、「隔壁厚さ」、「セル密度」、「セル開口率」、「隔壁の気孔率」、「隔壁の平均細孔径」、「隔壁の材料」、及び「隔壁の平均細孔径と隔壁の厚さとの関係」を、所定の値に規定したため、直噴ガソリンエンジンの排ガスに含有される粒子状物質を、圧力損失の上昇を抑制しながら、高い捕集効率で捕集することができる。
【0020】
本実施形態のハニカム構造体100においては、隔壁1の厚さ(隔壁厚さ)は、50.8μm以上、161.5μm未満であり、63.5〜160.0μmであることが好ましく、63.5〜132.1μmであることが更に好ましい。50.8μmより薄いと、PMが隔壁を透過しやすくなり(捕集効率が低下し)、更にハニカム構造体100の強度が低下する。161.5μm以上の厚さであると、排ガスが目封止ハニカム構造体を通過するときの圧力損失が大きくなる。「隔壁厚さ」は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定した値である。
【0021】
本実施形態のハニカム構造体100においては、隔壁1の気孔率は、35〜45%であり、38〜42%であることが好ましい。35%より小さいと、圧力損失が増大するため好ましくない。45%より大きいと、PMが隔壁を透過しやすくなり、更にハニカム構造体100が脆く、欠落し易くなるため好ましくない。隔壁1の気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0022】
本実施形態のハニカム構造体100においては、隔壁1の平均細孔径は、2μm以上、10μm未満であり、4〜8μmであることが好ましい。2μmより小さいと、圧力損失が増大するため好ましくない。10μm以上の大きさであるとPMが隔壁を透過しやすくなり(捕集効率が低下し)、更にハニカム構造体100が脆く、欠落し易くなるため好ましくない。隔壁1の平均細孔径は、水銀ポロシメータで測定した値である。
【0023】
本実施形態のハニカム構造体100においては、隔壁1の平均細孔径を隔壁1の厚さで除した値が、0.040より大きく、0.065より小さい値であり、0.049〜0.056であることが好ましい。0.040以下であると、圧力損失が増大するため好ましくない。0.065以上であると、PMが隔壁を透過しやすくなり(捕集効率が低下し)、更にハニカム構造体100が脆く、欠落し易くなるため好ましくない。
【0024】
本実施形態のハニカム構造体100においては、隔壁1の材料が、コージェライト、アルミニウムチタネート、炭化珪素、アルミナ及びムライトからなる群から選択される少なくとも一種を含む材料である。そして、隔壁1の材料は、コージェライト、アルミニウムチタネート、炭化珪素、アルミナ及びムライトからなる群から選択される少なくとも一種を「主成分」とすることが好ましく、コージェライト、アルミニウムチタネート、炭化珪素、アルミナ及びムライトからなる群から選択される「一種」を主成分とすることが更に好ましい。ここで、「主成分」とは、全体の70質量%以上含有される成分のことである。さらに、耐熱衝撃性を向上させるために、熱膨張係数の小さいコージェライト、アルミニウムチタネートが好ましい。熱膨張係数としては、1.0×10−6以下であることが好ましく、0.8×10−6以下であることが更に好ましい。このような材料から構成されることによって、目封止ハニカム構造体の耐熱性が確保され、高温の排気ガスに曝されても機能を維持することができる。
【0025】
炭化珪素、窒化珪素等の熱膨張係数が1.0×10−6を超える材料を用いる場合には、セルの延びる方向に細長く形成された四角柱状等のハニカム構造体(ハニカムセグメント)を複数個作製し、当該複数個のハニカムセグメントの側面同士を接合して、1つの接合型のハニカム構造体とすることが好ましい。
【0026】
本実施形態のハニカム構造体100においては、セル密度(セル2の延びる方向に直交する断面における、単位面積当りのセル2の個数)は、15.5セル/cm〜62.0セル/cmであり、31.0セル/cm〜46.5セル/cmであることが好ましい。15.5セル/cmより小さいと(隔壁厚さ一定とする)、濾過流速が増加することによりPMの捕集効率が低下するため好ましくない。62.0セル/cmより大きいと(隔壁厚さ一定とする)、圧力損失が大きくなるため好ましくない。
【0027】
本実施形態のハニカム構造体100においては、ハニカム構造部11のセル開口率が76〜91%であり、83〜91%であることが好ましい。76%より小さいと、圧力損失が増大するため好ましくない。91%より大きいと、濾過流速が速くなるためPMの捕集効率が低下し、更に隔壁の強度が不足するため好ましくない。ここで、「ハニカム構造部11のセル開口率」とは、ハニカム構造部のセルの延びる方向に直交する断面における、「隔壁全体の断面積」と「全てのセルの断面積の総和」との合計に対する、「全てのセルの断面積の総和」の比率を意味する。
【0028】
本実施形態のハニカム構造体100においては、セル水力直径は全て同一である必要はなく、入口に開口するセルと出口に開口するセルとの水力直径が異なってもよい。ガソリンエンジンの排ガスの浄化に使用する場合においては、圧力損失を小さくするために、出口側の端面に開口するセルの水力直径を、入口側の端面に開口するセルの水力直径より大きくすることが好ましい。更に、入口側の端面に開口するセルの水力直径が、出口側の端面に開口するセルの水力直径の20〜45%であることが好ましい。「セルの水力直径」は、「4×(断面積)/(周長)」の式で計算される値である。ここで、「断面積」とは、セルの延びる方向に直交する断面におけるセルの面積のことであり、「周長」とは、セルの延びる方向に直交する断面における「セルの外周の長さ」のことである。
【0029】
本実施形態のハニカム構造体100においては、セル形状は特に限定されないが、セルの延びる方向に直交する断面において、三角形、四角形、五角形、六角形等の多角形、円形、又は楕円形であることが好ましく、その他不定形であってもよい。また、これらの組合せであってもよい。更に、ハニカム構造体100は、セルの延びる方向に直交する断面において、セルの断面積が全て同じであることが好ましいが、入口側の端面5側に目封止部3を有する所定のセル2の断面積(セルの延びる方向に直交する断面における断面積)が、出口側の端面6側に目封止部3を有する残余のセル2の断面積(セルの延びる方向に直交する断面における断面積)より、小さいことも好ましい態様である。これにより、排ガスが流入する側のセル2(上記、残余のセル)における、粒子状物質を捕集する隔壁表面の面積が大きくなるため、排ガス中の粒子状物質を捕集した際の圧力損失の増大を抑制することができる。
【0030】
本実施形態のハニカム構造体100の外形は、特に限定されないが、円筒形、楕円筒形、「底面多角形(四角形等)の筒形状」、底面不定形の筒形状等を挙げることができる。また、ハニカム構造体100の大きさは、特に限定されないが、外形が円筒形の場合、底面の直径は、80〜180mmであることが好ましい。ハニカム構造体の中心軸方向における長さは、30〜200mmであることが好ましい。また、ハニカム構造体の外径(直径)に対する、ハニカム構造体の軸方向における長さの割合(長さ/外径)が、0.3〜2.0であることが好ましい。また、ハニカム構造体100の形状が他の形状である場合、その底面の面積が、上記円筒形の場合の底面の面積と同じ範囲であることが好ましい。
【0031】
本実施形態のハニカム構造体100においては、最外周に位置する外周壁は、成形時にハニカム成形体と一体的に形成される壁(成形一体壁)であってもよいし、成形後に、ハニカム成形体の外周を研削して所定形状とし、セメント等で外周壁を形成するセメントコート壁であってもよい。成形一体壁の場合、外周壁の材質はハニカム構造部の材質と同じであることが好ましい。また、外周壁がセメントコート壁の場合、セメントコート壁の材質としては、共素地にガラス等のフラックス成分を加えた材料等を挙げることができる。また、外周壁の厚さは、0.5〜1.5mmが好ましい。
【0032】
本実施形態のハニカム構造体100においては、目封止部3の深さは、1〜5mmであることが好ましく、1〜3mmであることが更に好ましい。1mmより浅いと、目封止部3の強度が低下することがある。5mmより深いと、隔壁1の、PMを捕集する面積が小さくなることがある。ここで、目封止部の深さとは、目封止部の「セルの延びる方向」における長さを意味する。
【0033】
本実施形態のハニカム構造体100は、ハニカム構造部11の「流体の入口側の端面5における所定のセル2の開口部と、流体の出口側の端面6における残余のセル2の開口部」に目封止部3を備えるものである。そして、上記所定のセルと上記残余のセルとが交互に配置され(交互に並び)、入口側の端面5及び出口側の端面6において、目封止部と「セルの開口部」とにより市松模様が形成されていることが好ましい。
【0034】
本実施形態のハニカム構造体においては、目封止部3の材質は、コージェライト、ムライト、アルミナ、炭化珪素、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであることが好ましい。また、目封止部3の材質は隔壁1の材質と同じであることが更に好ましい。
【0035】
本実施形態のハニカム構造体100は、用途に合わせて、隔壁1の表面に、粒子状物質を燃焼除去するための触媒、排ガス中のNO等の有害物質を除去するための触媒等が担持されていてもよい。
【0036】
(2)ハニカム構造体の製造方法:
次に、本発明のハニカム構造体の一実施形態を製造する方法について説明する。
【0037】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法においては、まず、セラミック原料を含有するセラミック成形原料を調製することが好ましい。
【0038】
セラミック成形原料に含有されるセラミック原料としては、コージェライト化原料、コージェライト、ムライト、アルミナ、炭化珪素、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種を含むものであることが好ましく、コージェライト化原料、コージェライト、ムライト、アルミナ、炭化珪素、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種であることが更に好ましく、コージェライト化原料、コージェライト、ムライト、アルミナ、炭化珪素、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択された1種であることが特に好ましい。尚、コージェライト化原料とは、シリカが42〜56質量%、アルミナが30〜45質量%、マグネシアが12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合されたセラミックス原料であって、焼成されてコージェライトになるものである。
【0039】
コージェライト化原料としては、具体的には、シリカ源成分、マグネシア源成分、及びアルミナ源成分を用いることが好ましい。
【0040】
シリカ源成分としては、石英、溶融シリカ等を挙げることができる。また、シリカ源成分の粒径は100〜150μmであることが好ましい。
【0041】
マグネシア(MgO)源成分としては、タルク、マグネサイト等を挙げることができる。これらの中でも、タルクが好ましい。タルクは、コージェライト化原料中37〜43質量%含有させることが好ましい。タルクの平均粒子径は、5〜50μmであることが好ましく、10〜40μmであることが更に好ましい。また、マグネシア源成分は、不純物としてFe、CaO、NaO、KO等を含有していてもよい。
【0042】
アルミナ源成分としては、不純物が少ないという点で、酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。水酸化アルミニウムを用いる場合、水酸化アルミニウムは、コージェライト化原料中、10〜30質量%含有されることが好ましい。また、酸化アルミニウムを用いる場合、酸化アルミニウムは、コージェライト化原料中、1〜45質量%含有されることが好ましい。また、水酸化アルミニウムと酸化アルミニウムとを混合して使用する場合、コージェライト化原料中、水酸化アルミニウムは5〜25質量%含有され、酸化アルミニウムは10〜40質量%含有されることが好ましい。
【0043】
セラミック成形原料は、上記セラミック原料に、分散媒、造孔材、バインダ、分散剤、界面活性剤等を混合して調製することが好ましい。それぞれの原料の混合比は、セラミック原料100質量部に対して、分散媒10〜40質量部、造孔材3〜40質量部、バインダ3〜8質量部、分散剤0.1〜2質量部、界面活性剤0.1〜2質量部であることが好ましい。
【0044】
分散媒としては、水を挙げることができる。
【0045】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル、炭素等を挙げることができる。
【0046】
バインダとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
【0047】
分散剤としては、デキストリン、ポリアルコール等を挙げることができる。
【0048】
界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸等を挙げることができる。
【0049】
次に、調製したセラミック成形原料を、ニーダー、真空土練機等を用いて混練し、坏土を形成することが好ましい。
【0050】
次に、坏土を成形して、流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁と最外周に位置する外周壁とを備える筒状のハニカム成形体を成形することが好ましい。坏土を成形する方法としては、押出成形法、射出成形法、プレス成形法等を挙げることができる。これらの中では、連続成形が容易であり、また、例えばコージェライト結晶を配向させることができるという特徴を有していることより、押出成形法が好ましい。押出成形法は、真空土練機、ラム式押出成形機、2軸スクリュー式連続押出成形機等の装置を用いて実施することができる。例えば、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形してハニカム成形体を形成することが好ましい。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。
【0051】
上記成形後に、得られたハニカム成形体を乾燥してもよい。乾燥方法は、特に限定されるものではないが、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥を挙げることができ、なかでも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥又は熱風乾燥を単独で又はこれらを組合せて行うことが好ましい。また、乾燥条件としては、乾燥温度80〜150℃、乾燥時間5分〜2時間とすることが好ましい。
【0052】
次に、得られたハニカム成形体を焼成してハニカム焼成体(ハニカム構造部11に相当)を得ることが好ましい。尚、焼成は、ハニカム成形体に目封止部を形成した後に行ってもよい。
【0053】
また、ハニカム成形体を焼成(本焼成)する前には、そのハニカム成形体を仮焼することが好ましい。仮焼は、脱脂のために行うものであり、その方法は、特に限定されるものではなく、ハニカム成形体中の有機物(有機バインダ、分散剤、造孔材等)を除去することができればよい。一般に、有機バインダの燃焼温度は100〜300℃程度、造孔材の燃焼温度は200〜800℃程度であるので、仮焼の条件としては、酸化雰囲気において、200〜1000℃程度で、3〜100時間程度加熱することが好ましい。
【0054】
ハニカム成形体の焼成(本焼成)は、仮焼したハニカム成形体を構成する成形原料を焼結させて緻密化し、所定の強度を確保するために行われる。焼成条件(温度、時間、雰囲気)は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。例えば、コージェライト化原料を使用している場合には、焼成温度は、1410〜1440℃が好ましい。また、焼成時間は、3〜15時間が好ましい。
【0055】
次に、得られたハニカム焼成体の、流体の入口側の端面における所定のセル(第1のセル)の開口部と、流体の出口側の端面における残余のセル(第2のセル)の開口部に目封止材料を充填して、流体の入口側の端面における所定のセル(第1のセル)の開口部と、流体の出口側の端面における残余のセル(第2のセル)の開口部に目封止部を備えた、上記本発明のハニカム構造体の一実施形態を得ることが好ましい。
【0056】
ハニカム焼成体に目封止材料を充填する方法としては、流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と最外周に位置する外周壁とを備えるハニカム焼成体の一方の端面にシートを貼り付け、当該シートにおける、目封止部を形成しようとする所定のセルと重なる位置に孔を開けるマスキング工程と、ハニカム焼成体のシートが貼り付けられた側の端部を、目封止材料が貯留された容器内に圧入して、ハニカム焼成体の一方の端面から、シートに形成された孔を通じて、目封止材料を上記所定のセル内に圧入する圧入工程とを有する方法を挙げることができる。そして、ハニカム焼成体の一方の端面において所定のセルに目封止部を形成した後に、他方の端面において、同じ方法で、残余のセルに目封止部を形成し、本発明のハニカム構造体を得ることが好ましい。
【0057】
ハニカム焼成体の端面に貼り付けるシートの材質としては、ポリエステル系樹脂が好ましく、PET(ポリエチレンテレフタレート)が更に好ましい。シートの厚さは30〜70μmが好ましい。
【0058】
シートに孔を形成する際には、あらかじめ、ハニカム焼成体の端面を撮像装置により撮像して、目封止部を形成すべきセルと目封止部を形成すべきでないセルの、形状及び位置を特定し得る画像データを取得しておくことが好ましい。そして、取得しておいた画像データに基づき、レーザーによって、シートの「目封止部を形成すべきセルに重なる部分」に孔を開けることが好ましい。撮像装置としては、特に限定されないが、例えば、CCD(charge−coupled device)カメラ、CMOS(complementary metal oxide semiconductor)センサ等を挙げることができる。
【0059】
目封止材料としては、隔壁の材料として用いた材料を用いることが好ましいが、25℃における粘度が100〜300dPa・sとなるように分散媒の量を調整することが好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
タルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム、及びシリカを調合してコージェライト化原料を作製した。そして、コージェライト化原料100質量部に対して、造孔材を13質量部、分散媒を35質量部、有機バインダを6質量部、分散剤を0.5質量部、それぞれ添加し、混合、混練して坏土を調製した。造孔材としては平均粒子径1〜10μmのコークスを使用し、分散媒としては水を使用し、有機バインダとしてはヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用し、分散剤としてはエチレングリコールを使用した。
【0062】
次に、所定の口金を用いて坏土を押出成形し、セル形状が四角形で、全体形状が円筒形のハニカム成形体を得た。そして、得られたハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥し、更に熱風乾燥機で完全に乾燥させた後、ハニカム成形体の両端面を切断し、所定の寸法に整えた。
【0063】
次に、ハニカム成形体の一方の端面のセル開口部に、市松模様状に交互にマスクを施し、マスクを施した側の端部をコージェライト化原料を含有する目封止スラリーに浸漬し、市松模様状に交互に配列された目封止部を形成した。他方の端部については、一方の端部において目封止されたセルについてマスクを施し、上記一方の端部に目封止部を形成したのと同様の方法で、市松模様状に交互に配列された目封止部を形成した。
【0064】
その後、目封止部を形成したハニカム成形体を熱風乾燥機で乾燥し、更に、1410〜1440℃で、5時間、焼成することによって、ハニカム構造体を得た。
【0065】
得られたハニカム構造体は、底面の直径が105.7mmであり、中心軸方向の長さが115.4mmであった。また、隔壁の厚さ(リブ厚)は152.4μmであり、セル密度は15.5セル/cmであり、「ハニカム構造部の入口側の端面における開口率」(OFA:Open Frontal Area)は88.3%であり、隔壁の気孔率(気孔率)は39%であり、隔壁の平均細孔径(平均細孔径)は8μmであり、「隔壁の平均細孔径(d)を隔壁の厚さ(t)で除した値」(d/t)は0.052であった。
【0066】
隔壁の気孔率及び隔壁の平均細孔径は、水銀ポロシメータによって測定した。また、「隔壁の厚さ」は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定した。
【0067】
得られたハニカム構造体について、以下の方法で「PM捕集効率」、「圧力損失」及び「ハニカム構造体の強度」を評価した。結果を表1に示す。
【0068】
(PM捕集効率)
排気量2リッターの直噴ガソリンエンジンの排気系に装着し、回転数2000rpm、50%トルクの条件で、直噴ガソリンエンジンを運転した。そして、ハニカム構造体内に流入する直前の排ガス(処理前排ガス)と、ハニカム構造体の外に流出した直後の排ガス(処理後排ガス)の、それぞれのPM個数をSMPSにより測定した。そして、「処理前排ガスのPM個数」に対する「処理後排ガスのPM個数」の比率を算出し、PM捕集効率とした。PM捕集効率60%以上を合格とし、表中に「○」で示した。SMPSとは、スキャニングモビリティーパーティクルサイザーのことであり、TSI社製、型式3936N86を用いた。尚、表1、表2における「×」は、各評価において、不合格であったことを示す。
【0069】
(圧力損失)
排気量2リッターの直噴ガソリンエンジンの排気系に装着し、全負荷運転時の圧力損失(圧損)を測定した。圧力損失が10kPa以下である場合を合格とし、表中に「○」で示した。
【0070】
(ハニカム構造体の強度)
ハニカム構造体全体に静水圧を付加し、破損に至る圧力を測定し、ハニカム構造体の強度(強度)とした。0.5MPa以上を合格とし、表中に「○」で示した。
【0071】
(総合評価)
「圧損」、「PM捕集効率」、「強度」の全てが「○」である場合を合格とし、表中に「○」で示した。それ以外を不合格とし、表中に「×」で示した。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
(実施例2〜20、比較例1〜56)
造孔材の粒子径と配合量を調整して、隔壁の平均細孔径と気孔率とが表1、表2に示される値となるようにするとともに、セル密度、リブ厚、OFA及び「d/t」が表1、表2に示される値となるようにした以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製した(実施例2〜20、比較例1〜56)。実施例1の場合と同様に、上記方法で「PM捕集効率」、「圧力損失」及び「ハニカム構造体の強度」を評価した。結果を表1、表2に示す。尚、表1、表2において、「圧損」の欄の「−」は、圧損が大き過ぎて(測定限界100kPa)測定不能であったことを示す。
【0075】
上記評価結果に基づき、「平均細孔径」と「捕集効率」との関係を図3に示し、「平均細孔径」と「圧損」との関係を図4に示した。図3は、ハニカム構造体の、「平均細孔径」と「捕集効率」との関係を示すグラフである。図4は、ハニカム構造体の、「平均細孔径」と「圧損」との関係を示すグラフである。図3において、「捕集効率の許容レベル」は、捕集効率の合格レベルを意味し、捕集効率が当該「捕集効率の許容レベル」以上である場合、捕集効率が合格であることを示す。図4において、「圧損の許容レベル」は、圧損の合格レベルを意味し、圧損が当該「圧損の許容レベル」以下である場合、圧損が合格であることを示す。
【0076】
図3より、ハニカム構造体の捕集効率は、隔壁の厚さ毎に、特定の平均細孔径の領域において急激に変化し、当該特定の平均細孔径の領域より大きな平均細孔径では捕集効率が極端に低下することが分かる。また、隔壁が薄いハニカム構造体ほど、小さな平均細孔径において捕集効率の急激な変化が生じ、60%以上の捕集効率を得るための平均細孔径が小さくなることが分かる。
【0077】
これは、細孔径の分布において、平均細孔径に対して非常に大きな径の細孔(柱状に近い形状の貫通孔)が存在することによると考えられる。つまり、柱状に近い形状の貫通孔が一定量以上になると、急激に捕集効率が低下するためと考えられる。そして、隔壁の厚さが薄いほど、このような柱状の貫通孔はでき易いため、柱状の貫通孔を形成し難くするために平均細孔径を小さくする必要があると考えられる。ここで、「柱状に近い形状の貫通孔」とは、貫通孔の空間部分が柱状に近く、隔壁の一方の面(表面)から他方の面(裏面)まで、ほぼ直線状にガスが通過することができるような形状を意味する(貫通孔は、隔壁の表面及び裏面と、直交していなくてもよい)。
【0078】
上記評価結果より、平均細孔径dと隔壁厚さtとの関係が、「d<0.065t」である場合に、捕集効率の高いハニカム構造体となることが分かる。
【0079】
図4より、ハニカム構造体の圧力損失は、隔壁の厚さ毎に、特定の平均細孔径より小さくなると、急激に上昇することが分かる。また、隔壁が薄いハニカム構造体ほど、小さな平均細孔径において圧力損失の急激な上昇が生じ、10%以下の圧力損失とするための平均細孔径が小さくなることが分かる。
【0080】
これは、隔壁が厚くなるほど、更には平均細孔径が小さくなるほど、細孔の連通性が低下するためと考えられる。つまり、細孔の連通性が低くなるほど、隔壁の細孔を通過するガスの通過抵抗が大きくなり、細孔の連通性が一定程度より低くなると、急激に圧力損失が上昇するためと考えられる。ここで、「細孔の連通性」とは、細孔が他の細孔と繋がる程度を意味し、「細孔の連通性が高い」というときは、他の細孔と連がっていない閉気孔(閉細孔)の容積比率が小さいことを意味し、「細孔の連通性が低い」というときは、他の細孔と連がっていない閉気孔(閉細孔)の容積比率が大きいことを意味する。
【0081】
上記評価結果より、平均細孔径dと隔壁厚さtとの関係が、「d>0.040t」である場合に、捕集効率の高いハニカム構造体となることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のハニカム構造体は、燃料直噴式ガソリンエンジンの排ガスに含有される粒子状物質の処理に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1:隔壁、2:セル、3:目封止部、4:外周壁、5:入口側の端面、6:出口側の端面、11:ハニカム構造部、100:ハニカム構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と最外周に位置する外周壁とを有するハニカム構造部と、前記ハニカム構造部の、流体の入口側の端面における所定の前記セルの開口部及び流体の出口側の端面における残余の前記セルの開口部に配設された目封止部とを備え、
前記隔壁の厚さが50.8μm以上、161.5μm未満であり、
セル密度が15.5〜62.0セル/cmであり、
前記ハニカム構造部のセル開口率が、76〜91%であり、
前記隔壁の気孔率が35〜45%であり、
前記隔壁の平均細孔径が2μm以上、10μm未満であり、
前記隔壁の材料が、コージェライト、アルミニウムチタネート、炭化珪素、アルミナ及びムライトからなる群から選択される少なくとも一種を含む材料であり、
前記隔壁の平均細孔径を前記隔壁の厚さで除した値が、0.040より大きく、0.065より小さい値であるハニカム構造体。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−139975(P2011−139975A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−690(P2010−690)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】