説明

ハロアルキルスルフィドの製造方法

【課題】 アルキルチオラートとジハロアルカンとを反応させることにより、効率よくハロアルキルスルフィドを製造する方法を提供する。
【解決手段】 アルキルチオラートとジハロアルカンとを相間移動触媒の存在下に反応させて、ハロアルキルスルフィドを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬などの分野で使用される有機硫黄化合物を合成するときの中間体として有用なハロアルキルスルフィドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫黄原子を含む有機化合物である有機硫黄化合物は、医薬、農薬などの分野において極めて有用である。そのため、当該有機硫黄化合物を合成するときの中間体となるハロアルキルスルフィドの効率的な製造方法の開発が精力的に行われている。
【0003】
ハロアルキルスルフィドの製造方法としては、たとえば、γ−ヒドロキシプロピルフェニルスルフィドのピリジンの溶液に、塩化チオニルを滴下することにより反応させる方法(非特許文献1参照)、四塩化炭素の存在下、メタンチオールと3−クロロ−2−メチル−1−プロペンとの混合溶液を、チューブに封かんし、紫外線を照射することにより反応させる方法(非特許文献2参照)、アルキルチオラートに1,3−ジクロロプロパンまたは1−ブロモ−3−クロロプロパンなどのジハロアルカンを滴下することにより反応させる方法(非特許文献3,4参照)、N,N−ジメチルホルムアミド中にフェニルメタンチオールおよび1,4−ジブロモブタンを添加し、撹拌しながらフレーク状の水酸化ナトリウムを添加して懸濁させることにより反応させる方法(特許文献1参照)、1,6−ジブロモヘキサンにナトリウムメタンチオラート水溶液を滴下することにより反応させる方法(特許文献2参照)などを挙げることができる。
【0004】
また、触媒を用いてハロアルキルスルフィド化合物を製造する方法としては、ヒドラジン水和物の存在下、アルキルチオラートに1−ブロモ−3−クロロプロパンなどのジハロアルカンを滴下することにより反応させる方法(非特許文献5参照)などを挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−178957号公報
【特許文献2】特公平3−8336号公報
【非特許文献1】Truce,W.E.;Lindy,L.B.,Journal of Organic Chemistry,26,1463(1961)
【非特許文献2】Hall,D.N.,Journal of Organic Chemistry,32,2082(1967)
【非特許文献3】Anklam,Elke.,Synthesis,nb.9,841(1987)
【非特許文献4】Kjaer,A.;Wagner,S.,Acta Chemica Scandinavica.9,721(1955)
【非特許文献5】Russavskaya,N.V.;Korchevin,N.A.;Alekminskaya,O.V.;Sukhomazova,E.N.;Levanova,E.P.;Deryagina,E.N.,Russian Journal of Organic Chemistry,vol38,1445(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したハロアルキルスルフィドの製造方法の中でも、反応操作が簡便かつ容易であるので、アルキルチオラートとジハロアルカンとを反応させる方法が好適に利用されている。
【0007】
しかしながら、たとえば非特許文献3に記載されるように、エタノール溶媒中で、アルキルチオラートであるメタンチオールと、ジハロアルカンである1,3−ジクロロプロパンとを、等モルで反応させた場合、目的生成物のハロアルキルスルフィドである3−クロロプロピルメチルスルフィドと、副生成物である1,3−ビス(メチルスルファニル)プロパンとが、19:10の生成比で生成され、収率よくハロアルキルスルフィドを製造することができない。
【0008】
また、非特許文献5に記載されるように、ヒドラジン水和物の存在下、アルキルチオラートであるプロピルチオール、および水酸化カリウムの混合物に、ジハロアルカンである1−ブロモ−3−クロロプロパンを滴下することにより反応させた場合、目的生成物のハロアルキルスルフィドであるクロロプロピルスルフィドと、副生成物である1,3−ビス(プロピルスルファニル)プロパンとが、72:10の生成比で生成され、収率よくハロアルキルスルフィドを製造することができない。
【0009】
前述のような均一系溶媒を用いた反応において、収率よくハロアルキルスルフィドを製造することができないのは、アルキルチオラートが、ジハロアルカンのハロゲン原子と、目的生成物のハロアルキルスルフィドのハロゲン原子とに対して同時に求核攻撃を行い、ハロアルキルスルフィドに更にアルキルチオラートが反応したビススルファニルアルカンが副生してしまい、目的生成物であるハロアルキルスルフィドを選択的に生成することができないためと考えられる。
【0010】
したがって本発明の目的は、アルキルチオラートとジハロアルカンとを相間移動触媒の存在下に反応させることにより、収率よくハロアルキルスルフィドを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、アルキルチオラートとジハロアルカンとを相間移動触媒の存在下に反応させるハロアルキルスルフィドの製造方法である。
【0012】
また本発明は、水、疎水性の有機溶剤からなる、水相と有機相とが相分離した溶媒中で、アルキルチオラートとジハロアルカンとを相間移動触媒の存在下に反応させることが好ましい。
【0013】
また本発明は、アルキルチオラートが、式(1);
【化1】

【0014】
(式中、Mはアルカリ金属原子を示し、R1は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基または炭素数4〜9のシクロアルキルアルキル基を示す。)で表され、
【0015】
ジハロアルカンが、式(2);
【化2】

【0016】
(式中、XおよびXはそれぞれ独立して、ハロゲン原子を示す。nは、2〜6の整数で表され、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基を示し、n個のRおよびRはそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。)で表され、
【0017】
ハロアルキルスルフィドが、式(3);
【化3】

【0018】
(式中、Rは、式(1)におけるRと同じものを示し、X、RおよびRは、式(2)におけるX、RおよびRと同じものを示し、nは、式(2)におけるnと同じ整数を示す。)
で表される。
【0019】
また本発明は、相間移動触媒が、テトラブチルアンモニウムブロミドであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アルキルチオラートとジハロアルカンとを相間移動触媒の存在下に反応させることにより、ハロアルキルスルフィドを効率的に生成することができる。したがって、医薬、農薬などの分野で使用される有機硫黄化合物を合成するときの中間体として有用なハロアルキルスルフィドを、収率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、アルキルチオラートとジハロアルカンとを相間移動触媒の存在下に反応させることにより、ハロアルキルスルフィドを製造することを特徴とするハロアルキルスルフィドの製造方法である。
【0022】
本発明に用いられるアルキルチオラートとしては、たとえば、下記式(1)で表される化合物を挙げることができる。
【0023】
【化4】

【0024】
式(1)において、Mはアルカリ金属原子を示し、R1は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基または炭素数4〜9のシクロアルキルアルキル基を示す。
【0025】
Mで示されるアルカリ金属原子としては、たとえば、リチウム、カリウム、ナトリウムなどを挙げることができる。これらの中でも、ナトリウムが好適に用いられる。
【0026】
で示される炭素数1〜6のアルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などを挙げることができる。これらの中でも、メチル基が好適に用いられる。
【0027】
で示される炭素数3〜6のシクロアルキル基としては、たとえば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などを挙げることができる。これらの中でも、シクロプロピル基が好適に用いられる。
【0028】
で示される炭素数4〜9のシクロアルキルアルキル基は、シクロアルキル部分が炭素数3〜6であり、アルキル部分が炭素数1〜6である。具体的には、炭素数4〜9のシクロアルキルアルキル基としては、たとえば、シクロプロピルメチル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチルエチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルプロピル基などを挙げることができる。
【0029】
式(1)で表されるアルキルチオラートの具体例としては、たとえば、ナトリウムメチルチオラート、ナトリウムエチルチオラート、ナトリウムプロピルチオラート、ナトリウムブチルチオラート、ナトリウムイソブチルチオラート、ナトリウムt−ブチルチオラート、カリウムメチルチオラート、カリウムエチルチオラート、カリウムプロピルチオラート、カリウムブチルチオラート、カリウムイソブチルチオラート、カリウムt−ブチルチオラート、ナトリウムシクロプロピルチオラート、ナトリウムシクロブチルチオラート、ナトリウムシクロペンチルチオラート、ナトリウムシクロヘキシルチオラート、カリウムシクロプロピルチオラート、カリウムシクロブチルチオラート、カリウムシクロペンチルチオラート、カリウムシクロヘキシルチオラートなどを挙げることができる。これらの中でも、ナトリウムメチルチオラートが好適に用いられる。
【0030】
本発明に用いられるジハロアルカンとしては、たとえば、下記式(2)で表される化合物を挙げることができる。
【0031】
【化5】

【0032】
式(2)において、XおよびXはそれぞれ独立してハロゲン原子を示し、互いに同一であっても異なっていてもよい。また式(2)において、nは、2〜6の整数で表され、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基を示し、n個のRおよびRはそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
およびXで示されるハロゲン原子としては、たとえば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などを挙げることができる。XおよびXは、炭素原子に対する付加位置によって好ましい原子種が異なるが、互いに異なるハロゲン原子であることが好ましい。たとえば、Xが塩素原子の場合のXは臭素原子またはヨウ素原子の組み合わせが好適に用いられ、より好ましくはXが塩素原子、Xは臭素原子の組み合わせが好適に用いられる。
【0034】
およびRで示される炭素数1〜6のアルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などの直鎖状または分岐鎖状の炭素数1〜6のアルキル基を挙げることができる。これらの中でも、メチル基が好適に用いられる。
【0035】
およびRで示される炭素数1〜6のアルコキシ基としては、たとえば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、t−ヘキシルオキシ基などを挙げることができる。これらの中でも、メトキシ基が好適に用いられる。
【0036】
式(2)で表されるジハロアルカンは、nが2〜6の整数であり、XおよびXとしてそれぞれ独立して示されるハロゲン原子を有し、RおよびRとしてそれぞれ独立して示される水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基を有する、炭素数2〜6の化合物が好適に用いられる。
【0037】
式(2)で表されるジハロアルカンの具体例としては、たとえば、1,2−ジクロロエタン、1,3−ジクロロプロパン、1,4−ジクロロブタン、1,5−ジクロロペンタン、1,6−ジクロロヘキサン、1,2−ジブロモエタン、1,3−ジブロモプロパン、1,4−ジブロモブタン、1,5−ジブロモペンタン、1,6−ジブロモヘキサン、1,2−ジヨードエタン、1,3−ジヨードプロパン、1,4−ジヨードブタン、1,5−ジヨードペンタン、1,6−ジヨードヘキサン、1−ブロモ−2−クロロエタン、1−ブロモ−3−クロロプロパン、1−ブロモ−4−クロロブタン、1−ブロモ−5−クロロペンタン、1−ブロモ−6−クロロヘキサン、1−ヨード−2−クロロエタン、1−ヨード−3−クロロプロパン、1−ヨード−4−クロロブタン、1−ヨード−5−クロロペンタン、1−ヨード−6−クロロヘキサン、1−ヨード−2−ブロモエタン、1−ヨード−3−ブロモプロパン、1−ヨード−4−ブロモブタン、1−ヨード−5−ブロモペンタン、1−ヨード−6−ブロモヘキサン、1,2−ジクロロプロパン、1,2−ジクロロブタン、1,2−ジクロロペンタン、1,2−ジクロロヘキサン、1,3−ジクロロ−2−メチルプロパン、1,4−ジクロロ−2−メチルブタン、1,5−ジクロロ−2−メチルペンタン、1,6−ジクロロ−2−メチルヘキサン、1,3−ジクロロ−2−メトキシプロパン、1,4−ジクロロ−2−メトキシブタン、1,5−ジクロロ−2−メトキシペンタン、1,6−ジクロロ−2−メトキシヘキサンなどを挙げることができる。これらの中でも、1−ブロモ−3−クロロプロパンが好適に用いられる。
【0038】
本発明に用いられる相間移動触媒としては、たとえば、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリエチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクチルトリエチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライドなどの4級アンモニウム塩、ヘキサデシルトリエチルホスホニウムブロミド、ヘキサデシルトリブチルホスホニウムクロライド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロミド、テトラ−n−ブチルホスホニウムクロライド、トリオクチルエチルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムブロミドなどの4級ホスホニウム塩、18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6,ジシクロヘキシル−18−クラウン−6などのクラウンエーテルなどを挙げることができる。これらの中でも、4級アンモニウム塩が好適に用いられ、より好ましくは経済的見地からテトラブチルアンモニウムブロミドが好適に用いられる。
【0039】
本発明のハロアルキルスルフィドの製造方法において、アルキルチオラートは通常水溶液として使用し、水溶液中のアルキルチオラートの濃度としては、好ましくは5重量%〜飽和濃度、より好ましくは10〜35重量%である。水溶液中のアルキルチオラートの濃度が5重量%未満の場合、容積効率が悪くなるおそれがある。
【0040】
また、本発明のハロアルキルスルフィドの製造方法において、アルキルチオラートの使用割合は、特に制限されるものではないが、ジハロアルカン1モルに対して、0.5〜1.5モルであることが好ましく、0.8〜1.2モルであることがより好ましい。ジハロアルカン1モルに対するアルキルチオラートの使用割合が1.5モルを超える場合は、副生成物であるビススルファニルアルカン等がより多く生成するおそれがある。一方、ジハロアルカン1モルに対するアルキルチオラートの使用割合が0.5モル未満である場合は、反応効率が低下するおそれがある。
【0041】
また、本発明のハロアルキルスルフィドの製造方法において、相間移動触媒の使用割合は、特に制限されるものではないが、ジハロアルカン1モルに対して、0.001〜0.5モルであることが好ましく、0.01〜0.1モルであることがより好ましい。ジハロアルカン1モルに対する相間移動触媒の使用割合が0.001モル未満である場合は、反応効率が低下するおそれがある。
【0042】
本発明のハロアルキルスルフィドの製造方法では、まず、ジハロアルカンと相間移動触媒とを混合させたのち、アルキルチオラートを添加するのが好適である。ジハロアルカンと相間移動触媒とを混合させる場合は、反応を円滑に行う観点から有機溶剤を用いて混合することが好ましく、混合させる順序は問わず、たとえば、ジハロアルカンと有機溶剤とを混合し、次にその混合液に相間移動触媒を混合するようにすればよい。
【0043】
ジハロアルカンと相間移動触媒と有機溶剤とが混合された混合液に、アルキルチオラートを添加する方法としては、特に限定されないが、たとえば前記混合液に、前記アルキルチオラートの水溶液を滴下させる方法を挙げることができる。
【0044】
前記有機溶剤としては、疎水性有機溶剤が好ましく、たとえば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類などを挙げることができる。これらの中でも、トルエンが好適に用いられる。
【0045】
前記有機溶剤の使用量は、特に制限されないが、ジハロアルカン100重量部に対して10〜3000重量部であることが好ましく、10〜2000重量部であることがより好ましい。ジハロアルカン100重量部に対する有機溶剤の使用量が3000重量部を超える場合は、容積効率が悪化するおそれがある。
【0046】
また、本発明のハロアルキルスルフィドの製造方法において、アルキルチオラートとジハロアルカンとを反応させる温度は、特に制限されないが、0〜30℃であることが好ましく、5〜15℃であることがより好ましい。反応温度が0℃未満である場合は、反応効率が低下するおそれがある。
【0047】
また、アルキルチオラートとジハロアルカンとを反応させる反応時間は、反応温度により異なるが、たとえば、10分間〜20時間である。なお、前記反応は、アルキルチオラートの酸化を防ぐこと等を考慮して、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0048】
また、前記反応の推移は、GC(ガスクロマトグラフィー)などにより反応液中の原料および目的生成物の濃度を測定することによって把握することができ、この測定結果を用いて、ジハロアルカンと相間移動触媒と有機溶剤とが混合された混合液に対するアルキルチオラートの水溶液の滴下速度を調整することができる。
【0049】
以上のように、本発明のハロアルキルスルフィドの製造方法では、水、疎水性有機溶剤からなる、水相と有機相とが相分離した溶媒中で、アルキルチオラートとジハロアルカンとを相間移動触媒の存在下に反応させることによって、ハロアルキルスルフィドを得る。
【0050】
ここで、本発明において水相と有機相とが相分離した溶媒中で反応させるとは、撹拌下のけん濁状態でアルキルチオラートとジハロアルカンとを相間移動触媒の存在下に反応させることも含む。
【0051】
本発明のハロアルキルスルフィドの製造方法では、アルキルチオラートとジハロアルカンとを相間移動触媒の存在下に反応させることにより、ハロアルキルスルフィドを効率的に生成することができる。したがって、医薬、農薬などの分野で使用される有機硫黄化合物を合成するときの中間体として有用なハロアルキルスルフィドを、収率よく製造することができる。
【0052】
本発明の製造方法において、ハロアルキルスルフィドを効率的に生成することができるのは、ジハロアルカンおよびハロアルキルスルフィドを有機相、アルキルチオラートを水相として存在させることによってハロアルキルスルフィドへの不要な求核反応を抑制しつつ、相間移動触媒の使用により反応性の高いジハロアルカンへの選択的求核攻撃が行われるためと考えられ、これによって、目的生成物であるハロアルキルスルフィドに更にアルキルチオラートが反応したビススルファニルアルカンの副生を抑制できるためと考えられる。
【0053】
上記のようにして得られるハロアルキルスルフィドは、従来公知の分離、精製方法により単離することができる。具体的には、たとえば、前記反応終了後の反応液を水で洗浄し、分留等によって、ハロアルキルスルフィドを単離することができる。
【0054】
ハロアルキルスルフィドの収率を高める分留法としては、水で洗浄した反応終了後の反応液を、ハロアルキルスルフィドの共沸を防ぐように、低減圧度(たとえば、100torr以上)で溶媒をゆっくりと留去した後、更に蒸留する方法などを挙げることができる。
【0055】
以上のようにして得られるハロアルキルスルフィドは、たとえば、下記式(3)で表される。
【0056】
【化6】

【0057】
(式中、Rは、式(1)におけるRと同じものを示し、X、RおよびRは、式(2)におけるX、RおよびRと同じものを示し、nは、式(2)におけるnと同じ整数を示す。)
【0058】
式(3)で表されるハロアルキルスルフィドの具体例としては、たとえば、1−クロロエチル−2−メチルスルフィド、1−クロロプロピル−3−メチルスルフィド、1−クロロブチル−4−メチルスルフィド、1−クロロペンチル−5−メチルスルフィド、1−クロロヘキシル−6−メチルスルフィド、1−ブロモエチル−2−メチルスルフィド、1−ブロモプロピル−3−メチルスルフィド、1−ブロモブチル−4−メチルスルフィド、1−ブロモペンチル−5−メチルスルフィド、1−ブロモヘキシル−6−メチルスルフィド、1−ヨードエチル−2−メチルスルフィド、1−ヨードプロピル−3−メチルスルフィド、1−ヨードブチル−4−メチルスルフィド、1−ヨードペンチル−5−メチルスルフィド、1−ヨードヘキシル−6−メチルスルフィド、1−クロロエチル−2−エチルスルフィド、1−クロロプロピル−3−エチルスルフィド、1−クロロブチル−4−エチルスルフィド、1−クロロペンチル−5−エチルスルフィド、1−クロロヘキシル−6−エチルスルフィド、1−クロロエチル−2−プロピルスルフィド、1−クロロプロピル−3−プロピルスルフィド、1−クロロブチル−4−プロピルスルフィド、1−クロロペンチル−5−プロピルスルフィド、1−クロロヘキシル−6−プロピルスルフィド、1−クロロエチル−2−ブチルスルフィド、1−クロロプロピル−3−ブチルスルフィド、1−クロロブチル−4−ブチルスルフィド、1−クロロペンチル−5−ブチルスルフィド、1−クロロヘキシル−6−ブチルスルフィド、1−クロロエチル−2−ペンチルスルフィド、1−クロロプロピル−3−ペンチルスルフィド、1−クロロブチル−4−ペンチルスルフィド、1−クロロペンチル−5−ペンチルスルフィド、1−クロロヘキシル−6−ペンチルスルフィド、1−クロロ−2−メチルプロピル−3−エチルスルフィド、1−クロロ−2−メチルブチル−4−エチルスルフィド、1−クロロ−2−メチルペンチル−5−エチルスルフィド、1−クロロ−2−メチルヘキシル−6−エチルスルフィド、1−クロロ−2−メチルプロピル−3−プロピルスルフィド、1−クロロ−2−メチルブチル−4−プロピルスルフィド、1−クロロ−2−メチルペンチル−5−プロピルスルフィド、1−クロロ−2−メチルヘキシル−6−プロピルスルフィド、1−クロロ−2−メトキシプロピル−3−ブチルスルフィド、1−クロロ−2−メトキシブチル−4−ブチルスルフィド、1−クロロ−2−メトキシペンチル−5−ブチルスルフィド、1−クロロ−2−メトキシヘキシル−6−ブチルスルフィド、1−クロロ−2−メトキシエチル−2−ペンチルスルフィド、1−クロロ−2−メトキシプロピル−3−ペンチルスルフィド、1−クロロ−2−メトキシブチル−4−ペンチルスルフィド、1−クロロ−2−メトキシペンチル−5−ペンチルスルフィド、1−クロロ−2−メトキシヘキシル−6−ペンチルスルフィドなどを挙げることができる。
【0059】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は、この実施例によってなんら限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
撹拌機、冷却管、温度計および滴下ロートを備えた2L容の4つ口フラスコに、1−ブロモ−3−クロロプロパン314.9g(2.0モル)、テトラブチルアンモニウムブロミド32.3g(0.1モル)、トルエン400gを仕込み、5℃まで冷却した。その後、28.7重量%ナトリウムメチルチオラート水溶液488.5g(2.0モル)を3時間かけて滴下し、さらに同温度にて7時間撹拌した。反応終了後、GC(ガスクロマトグラフィー)にて、クロロプロピルメチルスルフィド94.1面積%、ビス(メチルスルファニル)プロパン0.6面積%であることを確認した。そして、反応終了後の反応液を水で洗浄し、溶媒を留去した後、更に蒸留することによって、クロロプロピルメチルスルフィド201.9g(収率81%)を得た。
【0061】
(比較例1)
非特許文献4の記載に従って、撹拌機、冷却管、温度計および滴下ロートを備えた300mL容の4つ口フラスコに、28.7重量%ナトリウムメチルチオラート水溶液24.7g(0.1モル)、エタノール50gを仕込み、5℃にて1−ブロモ−3−クロロプロパン15.8g(0.1モル)を30分間かけて滴下し、さらに同温度にて7時間撹拌した。反応終了後、GC(ガスクロマトグラフィー)にて、クロロプロピルメチルスルフィド91.5面積%、ビス(メチルスルファニル)プロパン8.5面積%であることを確認した。そして、反応終了後の反応液を水で洗浄し、溶媒を留去した後、更に蒸留することによって、クロロプロピルメチルスルフィド8.6g(収率69%)を得た。
【0062】
実施例および比較例の結果から明らかなように、ナトリウムメチルチオラート(アルキルチオラート)と、1−ブロモ−3−クロロプロパン(ジハロアルカン)とを、テトラブチルアンモニウムブロミド(相間移動触媒)の存在下で反応させた実施例では、ビス(メチルスルファニル)プロパンの副生を抑制することができるので、クロロプロピルメチルスルフィド(ハロアルキルスルフィド)を収率よく製造することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルチオラートとジハロアルカンとを相間移動触媒の存在下に反応させるハロアルキルスルフィドの製造方法。
【請求項2】
水、疎水性の有機溶剤からなる、水相と有機相とが相分離した溶媒中で、アルキルチオラートとジハロアルカンとを相間移動触媒の存在下に反応させる請求項1に記載のハロアルキルスルフィドの製造方法。
【請求項3】
アルキルチオラートが、式(1);
【化1】

(式中、Mはアルカリ金属原子を示し、R1は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基または炭素数4〜9のシクロアルキルアルキル基を示す。)で表され、
ジハロアルカンが、式(2);
【化2】

(式中、XおよびXはそれぞれ独立して、ハロゲン原子を示す。nは、2〜6の整数で表され、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基を示し、n個のRおよびRはそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。)で表され、
ハロアルキルスルフィドが、式(3);
【化3】

(式中、Rは、式(1)におけるRと同じものを示し、X、RおよびRは、式(2)におけるX、RおよびRと同じものを示し、nは、式(2)におけるnと同じ整数を示す。)
で表される請求項1または2に記載のハロアルキルスルフィドの製造方法。
【請求項4】
相間移動触媒が、テトラブチルアンモニウムブロミドである請求項1〜3のいずれか1つに記載のハロアルキルスルフィドの製造方法。

【公開番号】特開2011−207803(P2011−207803A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76426(P2010−76426)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】