説明

ハロゲンフリー難燃性ワイヤケーブル組成物および関連物品

本発明は、高い引っかき摩耗耐性および柔軟性を有する、コーティングされた自動車用ワイヤを調製するために有用な難燃性組成物に関する。本発明は、エチレン/α−オレフィンコポリマー、ハロゲンフリー無機難燃剤、該無機難燃剤と該コポリマーを結合させるためのカップリング剤、および加工助剤から作られるか、またはそれらを含有する、ハロゲンフリー難燃性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲンフリー難燃性ワイヤケーブル組成物に関する。特に、本発明は、高い引っかき摩耗耐性およびに柔軟性を有するコーティングされた自動車用ワイヤを調製するために有用な難燃性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ワイヤは、難燃性および引っかき摩耗耐性を含む、厳しい要件を通過しなければならない。標準規格、例えばISO6722、LVl12、およびJ−1128に、難燃性および引っかき摩耗耐性についての要件が説明される。
【0003】
ハロゲン化ポリマーまたはハロゲン化難燃剤を含有する組成物は、難燃性用途において有用性があることが見出されている。しかし、これらの物質は健康上の危険および他の懸念をもたらす。自動車用ワイヤ適用のための難燃性被覆剤を調製するためのハロゲンフリー組成物に対する必要性がある。
【0004】
高密度ポリエチレンおよびエチレンと不飽和エステルのコポリマーを含有する組成物は、自動車用ワイヤをコーティングする際に有用性が見出されている。残念ながら、該組成物または被覆剤を調製する場合に高密度ポリエチレンを使用することは加工上の問題が生じる。同様に、エチレンと不飽和エステルのコポリマーでは適した引っかき摩耗耐性を有する被覆剤を生じさせることができない。優れた加工特性をもたらし、優れた引っかき摩耗耐性を有する被覆剤を生じる組成物に対する必要性がある。該組成物が、大きな破断点延び、機械的強度、および溶融強度を有する被覆剤を生じることに対しても必要性がある。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、エチレン/α−オレフィンコポリマー、ハロゲンフリー無機難燃剤、該無機難燃剤を該コポリマーと結合させるためのカップリング剤、および加工助剤を含む、ハロゲンフリー難燃性組成物である。
【0006】
好ましい実施形態において、本発明は、被覆剤がハロゲンフリー難燃性組成物から調製される、コーティングされた自動車用ワイヤである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本明細書において、「ポリマー」とは、同一または異なる種類のモノマーを重合させることにより調製される高分子化合物を意味する。「ポリマー」には、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、インターポリマーなどが含まれる。「インターポリマー」という用語は、少なくとも2つの種類のモノマーまたはコモノマーの重合により調製されるポリマーを意味する。その用語には、限定されるものではないが、コポリマー(通常2つの異なる種類のモノマーまたはコモノマーから調製される重合体を指すが、3またはそれ以上の異なる種類のモノマーまたはコモノマーから作られるポリマーを指す「インターポリマー」と互換的にしばしば用いられる)、ターポリマー(通常3つの異なる種類のモノマーまたはコモノマーから調製されるポリマーを指す)、テトラポリマー(通常4つの異なる種類のモノマーまたはコモノマーから調製されるポリマーを指す)などが含まれる。
【0008】
「モノマー」または「コモノマー」という用語は、互換的に用いられ、それらは、ポリマーを生成するためにリアクターに添加される重合可能な部分を含有する任意の化合物を指す。1つの重合体が1またはそれ以上のモノマーを含むと説明される、例えばプロピレンおよびエチレンを含むポリマーである場合、該ポリマーは、当然ながら、該モノマー自体(例えば、CH2=CH2)ではなく、該モノマーに由来する単位(例えば、−CH2−CH2−)を含む。
【0009】
第1の実施形態において、本発明はエチレン/α−オレフィンコポリマー、ハロゲンフリー無機難燃剤、該無機難燃剤を該コポリマーと結合させるためのカップリング剤、および加工助剤を含むハロゲンフリー難燃性組成物である。該組成物はエチレンと不飽和エステルのコポリマーを実質的に含まず、ハロゲン化成分を実質的に含まない。該組成物には、いかなるエチレンと不飽和エステルコポリマーも存在せず、いかなるハロゲン化成分も存在しないことが好ましい。
【0010】
本発明において有用なエチレン/α−オレフィンコポリマーは、エチレンと、3〜12個の炭素原子を、好ましくは、4〜8個の炭素原子を有する1またはそれ以上のα−オレフィンのコポリマーであるか、またはこのようなコポリマーの混合物またはブレンドである。α−オレフィンコモノマーは、約2%〜約12%の間の量で存在してよい。コポリマーがコポリマーの混合物またはブレンドである場合、それは機械的ブレンドまたは現場ブレンドであってよい。α−オレフィンの例は、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、および1−オクテンである。
【0011】
コポリマーは、通常約5.0よりも大きい多分散性(Mw/Mn)を有し、Mwは重量平均分子量として定義され、Mnは数平均分子量として定義される。
【0012】
コポリマーは、約0.860g/cm3〜約0.960g/cm3の範囲の密度を有し得、好ましくは、約0.915g/cm3〜約0.945g/cm3の範囲の密度を有し得る。
【0013】
また、それらは、約0.5g/10分から約5.0g/10分の範囲のメルトインデックスを有し得る。メルトインデックスは、ASTM D−1238、条件Eの下で決定され、190℃および2160gで測定される。
【0014】
コポリマーを調製するために有用な触媒系としては、限定されるものではないが、メタロセンまたは拘束幾何触媒系が挙げられる。
【0015】
エチレン/α−オレフィンコポリマーは、約20重量%〜約80重量%の間の量で存在することが好ましい。
【0016】
適したハロゲンフリー無機難燃剤としては、金属水酸化物、炭酸カルシウム、およびその混合物が挙げられる。特に有用な金属水酸化物は、アルミニウムトリヒドロキシド(ATH、またはアルミニウム三水和物としても公知である)およびマグネシウムヒドロキシド(マグネシウムジヒドロキシドとしても公知である)である。その他の金属水酸化物は当業者に公知である。金属水酸化物はマグネシウムヒドロキシドであることが好ましい。
【0017】
金属水酸化物の平均的な粒径は0.1μm未満〜50μmの範囲であってよい。場合により、ナノスケールの粒径を有する金属水酸化物を用いることが望ましいこともあり得る。金属水酸化物は、天然に存在するものであってもよいし、合成され、粉砕または沈殿されていてもよい。
【0018】
また、ハロゲンフリー無機難燃剤が金属水酸化物である場合には、金属水酸化物が細かく分散されているか、または約5m2/g〜約15m2/gの範囲、好ましくは約9m2/g〜約11m2/gの範囲の比表面積を有することが望ましい。
【0019】
ハロゲンフリー無機難燃剤とエチレン/α−オレフィンコポリマーとの結合を増強するため、難燃剤は、シラン、チタネート、ジルコネート、カルボン酸、および無水マレインでグラフトされた重合体を含むカップリング剤で表面処理されてよい。適した被覆剤としては、米国特許第6,500,882号に開示されるものが挙げられる。被覆剤は、シラン系またはオレイン酸系であることが好ましい。他の適したカップリング剤は当業者に公知である。これらの表面処理されたハロゲンフリー無機難燃剤を用いることは、本発明の範囲内である。
【0020】
ハロゲンフリー無機難燃剤は、約20重量%〜約70重量%の間の量で存在することが好ましい。
【0021】
ハロゲンフリー難燃性組成物は、他の難燃添加剤を含み得る。他の適した非ハロゲン化難燃添加剤としては、赤リン、シリカ、アルミナ、酸化チタン、カーボンナノチューブ、タルク、粘土、有機改質粘土、シリコーン重合体、ホウ酸亜鉛、三酸化アンチモン、珪灰石、雲母、ヒンダードアミン系安定剤、八モリブデン酸アンモニウム、八モリブデン酸メラミン、フリット、中空ガラスミクロスフェア、膨張性化合物(intumescent compounds)、膨張性黒鉛、エチレンジアミンホスフェート、メラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、メラミンポリホスフェート、およびアンモニウムポリホスフェートが挙げられる。
【0022】
ハロゲンフリー難燃性組成物は、無機難燃剤とコポリマーとの間の適合性を改善するためのカップリング剤を含有する。カップリング剤の例としては、シラン、チタネート、ジルコネート、無水マレインでグラフトされた各種ポリマー、コポリマーへの無水マレイン酸グラフト、およびその混合物が挙げられる。カップリング剤は、無水マレインでグラフトされたホモポリマーポリエチレンまたはコポリマーポリエチレン、またはコポリマーへの無水マレイン酸グラフトを含有するエチレン/α−オレフィンコポリマーであることが好ましい。他のカップリング技術は当業者には容易に明らかであり、本発明の範囲内にあると考えられる。
【0023】
グラフトされたオレフィン系ポリマーは、任意の従来法により調製され得る。
【0024】
無水マレイン酸化合物は、そのオレフィン不飽和部位が酸性基と共役されているとして当分野において公知である。フマル酸は、これも共役されているマレイン酸の異性体であるが、加熱した場合、水を放して再配置されて無水マレイン酸を形成し、従って本発明において実施可能である。グラフトは、酸素、空気、ヒドロペルオキシド、または他のフリーラジカル開始剤の存在下で、または、モノマーとポリマーの混合物が高剪断および加熱条件下で維持される場合、これらの材料の本質的非存在下でもたらされ得る。グラフトポリマーを生成するために便利な方法は押出機であるが、BrabenderミキサーまたはBanburyミキサー、ロールミルなどを用いてグラフトポリマーを形成してもよい。無水マレイン酸を溶融温度でオレフィン系ポリマーと混合し、反応させてグラフトされたポリマーを生成して押出する、二軸脱揮押出機(例えば、Werner−Pfleiderer社の二軸押出機)を用いることが好ましい。
【0025】
グラフトされたポリマーの無水物基は、一般に約0.001〜約2.00重量%を含み、好ましくはグラフトされたポリマーの約0.01〜約1.00重量%を含む。グラフトされたポリマーは、ポリマー鎖に沿った無水物側基の存在により特徴づけられる。
【0026】
カップリング剤は、好ましくは約2重量%〜約15重量%の間、より好ましくは約2重量%〜約13重量%の間の量で存在する。
【0027】
ハロゲンフリー難燃性組成物は、シリコンポリマー、ステアリン酸、フルオロポリマー、ステアリン酸亜鉛、およびその混合物からなる群より選択される加工助剤を含有する。加工助剤は、ポリシロキサンとステアリン酸の組合せであることが好ましい。
【0028】
加工助剤は、約0.2重量%〜約5重量%の間の量で存在することが好ましい。
【0029】
さらに、ハロゲンフリー難燃性組成物は、他の添加剤、例えば、高密度ポリエチレン、酸供与体、抗酸化物質、安定剤、発泡剤、カーボンブラック、顔料、過酸化物、およびキュアブースター(cure boosters)などを含有してよい。高密度ポリエチレンが存在する場合、それは約10重量%未満の量で存在する。さらに、ハロゲンフリー難燃性組成物は、熱可塑性であるかまたは架橋結合していてよい。
【0030】
さらに、ハロゲンフリー難燃性組成物はナノクレイを含有してよい。好ましくは、ナノクレイの少なくとも1つの寸法は0.9〜200ナノメートルのサイズ範囲であり、さらに好ましくは、少なくとも1つの寸法は0.9〜150ナノメートルであり、さらにより好ましくは、0.9〜100ナノメートルであり、最も好ましくは、0.9〜30ナノメートルである。
【0031】
好ましくは、ナノクレイは層状であり、ナノクレイ、例えば、モンモリロナイト、マガディアイト、フッ素化合成雲母、サポナイト、フルオロヘクトライト(fluorhectorite)、ラポナイト、セピオライト、アタパルジャイト、ヘクトライト、バイデライト、バーミュライト、カオリナイト、ノントロナイト、ボルコンスコアイト、ステベンサイト、パイロサイト、ソーコナイト、およびケニヤアイトが含まれる。層状ナノクレイは、天然に存在するかまたは人工のものであってよい。
【0032】
ナノクレイの陽イオン(例えば、ナトリウムイオン)の一部は、ナノクレイを有機陽イオン含有化合物で処理することにより、有機陽イオンと交換され得る。あるいは、陽イオンは水素イオン(プロトン)を含むか、または水素イオン(プロトン)で置換され得る。好ましい交換陽イオンは、イミダゾリウム、ホスホニウム、アンモニウム、アルキルアンモニウム、およびポリアルキルアンモニウムである。適したアンモニウム化合物の例は、ジメチル、ジ(水素化牛脂)アンモニウムである。好ましくは、陽イオンの被覆剤は、層状ナノクレイに陽イオン被覆剤を加えた総重量に基づいて、15〜50重量%で存在する。最も好ましい実施形態では、陽イオン被覆剤は、層状ナノクレイに陽イオン被覆剤を加えた総重量に基づいて、30重量%よりも多くで存在する。もう一つの好ましいアンモニウム被覆剤は、オクタデシルアンモニウムである。
【0033】
代替的な実施形態において、本発明は、ハロゲンフリー難燃性組成物から調製された物品である。好ましくは、この物品は、組成物から調製された絶縁層でコーティングされた自動車用ワイヤである。他の物品には、ビルおよび他の建造物用のケーブル外装および絶縁ワイヤが含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.約2%〜約12%の範囲のα−オレフィンコポリマー含有量と、約5.0よりも大きい多分散性指数と、約0.5g/10分〜約5.0g/10分の範囲のメルトインデックスと、約0.860g/cm3〜約0.960g/cm3の範囲の濃度を有し、実質的に酸素原子を含まない、メタロセンまたは拘束幾何触媒で調製されたエチレン/α−オレフィンコポリマーと、
b.ハロゲンフリー無機難燃剤と、
c.前記無機難燃剤を前記コポリマーと結合させるためのカップリング剤、および、
d.加工助剤、
を含み、エチレンと不飽和エステルとのコポリマーを実質的に含まず、ハロゲン化成分を実質的に含まない、ハロゲンフリー難燃性組成物。
【請求項2】
前記ハロゲンフリー無機難燃剤が、金属水酸化物、炭酸カルシウム、およびその混合物からなる群より選択される、請求項1に記載のハロゲンフリー難燃性組成物。
【請求項3】
前記カップリング剤が、シラン、チタネート、ジルコネート、無水マレイン酸でグラフトされた重合体、前記コポリマーへの無水マレイン酸グラフト、およびその混合物からなる群より選択される、請求項1に記載のハロゲンフリー難燃性組成物。
【請求項4】
前記カップリング剤が、無水マレイン酸でグラフトされたポリエチレンである、請求項3に記載のハロゲンフリー難燃性組成物。
【請求項5】
前記加工助剤が、シリコンポリマー、ステアリン酸、フルオロポリマー、ステアリン酸亜鉛、およびその混合物からなる群より選択される、請求項1に記載のハロゲンフリー難燃性組成物。
【請求項6】
前記加工助剤が、ポリシロキサンである、請求項5に記載のハロゲンフリー難燃性組成物。
【請求項7】
前記高密度ポリエチレンをさらに含む、請求項1に記載のハロゲンフリー難燃性組成物。
【請求項8】
ナノクレイをさらに含む、請求項1に記載のハロゲンフリー難燃性組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のハロゲンフリー難燃性組成物から調製された絶縁層でコーティングされる、自動車用ワイヤ。

【公表番号】特表2009−535487(P2009−535487A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−509660(P2009−509660)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/010545
【国際公開番号】WO2007/130407
【国際公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】