説明

ハロゲン化スルホン酸の製造方法

【課題】ハロゲン化スルホン酸の製造方法の提供。
【解決手段】式(I)


(式中、R、R及びRは、水素原子、ハロゲン原子、等を示し、nは1〜20の整数を示す。mは1又は2を示す。Mはアルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子を示す)で表されるスルホン酸塩をH形陽イオン交換樹脂と接触させる式(II)


で表されるスルホン酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化スルホン酸塩からハロゲン化スルホン酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トリクロロメタンスルホン酸ナトリウム塩等のハロゲン化スルホン酸塩からトリクロロメタンスルホン酸等のハロゲン化スルホン酸を製造する方法として、スルホン酸のナトリウム塩の懸濁液又は溶液に塩化水素ガスを吹き込む方法が知られている(非特許文献1)が、ハロゲン化スルホン酸の収率は低かった(本発明者の追試では収率は5%以下)。
【0003】
【非特許文献1】Journal of Molecular Structure,263(1991),11-20
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、ハロゲン化スルホン酸塩から収率よくハロゲン化スルホン酸を得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、CClSOClからCClSONaを経てCClSOHを製造する過程において、CClSONaをH形陽イオン交換樹脂と接触させることにより収率よくCClSOHを得ることができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、
(1)式(I)
【化1】

【0007】
(式中、R、R及びRは、夫々独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1−C6アルキル基又はC6−C10アリール基を示し、nは1〜20のいずれかの整数を示す。nが2以上の場合、R同士及びR同士は、同一でも相異なっていてもよい。但し、R、R及びRのうち、少なくとも1つはハロゲン原子を示す。mは1又は2を示す。Mはアルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子を示す)で表されるスルホン酸塩をH形陽イオン交換樹脂と接触させることを特徴とする、式(II)
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、R、R、R及びnは式(I)における各定義と同じ)で表されるスルホン酸の製造方法、
(2)式(I)においてR、R及びRが塩素原子であることを特徴とする上記(1)記載のスルホン酸の製造方法、及び、
(3)nが1であり、かつMがNa原子であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のスルホン酸の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ハロゲン化スルホン酸塩から収率よくハロゲン化スルホン酸を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、式(I)で表されるハロゲン化スルホン酸塩にH形陽イオン交換樹脂を接触させることにより、ハロゲン化スルホン酸塩の金属イオンを陽イオン交換樹脂により水素イオンに変え、式(II)で表されるハロゲン化スルホン酸を製造することを特徴とする。
本発明の詳細は以下のとおりである。
【0012】
1)式(I)で表されるハロゲン化スルホン酸塩
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、R、R及びRは、夫々独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1−C6アルキル基又はC6−C10アリール基を示し、nは1〜20の整数を示す。)
ここで、「ハロゲン原子」は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
「C1−C6アルキル基」は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。
「C6−C10アリール基」は、単環又は多環のアリール基を意味する。ここで、多環アリール基の場合は、完全不飽和に加え、部分飽和の基も包含する。例えばフェニル基、ナフチル基、アズレニル基、インデニル基、インダニル基、テトラリニル基等が挙げられる。
【0015】
上記「C1−C6アルキル基」及び「C6−C10アリール基」は、置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、
フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;
メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基等のアルキル基;
シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、
ビニル基、アリル基等のアルケニル基;
エチニル基、1−プロピニル基等のアルキニル基;
フェニル基、ナフチル基等のアリール基;
メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基等のアルコキシ基;
2−チエニル基、2−フリル基、2−ピロール基等の複素環基;等が挙げられ、これ等のうちの少なくとも1種を少なくとも1つ置換基として有することができる。
nは1〜20の整数を示す。nが2以上の場合、R同士及びR同士は、同一でも相異なっていてもよい。但し、R、R及びRのうち、少なくとも1つはハロゲン原子を示す。
mは1又は2を示す。
Mはアルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子を示す。
ここで、「アルカリ金属原子」としては、Li、Na、K、Rb等が挙げられ、「アルカリ土類金属原子」としては、Ca、Mg、Sr、Ba等が挙げられる。
【0016】
式(I)で表される化合物としては、具体的に、CClSONa、CClSOK、CBrSONa、CISONa、CFSONa、CHClSONa、CHClCHSOK、CCl-(CHSONa、CCl-(CH-SOLi、(CClSOCa、(CClSOMg、(CClSOBa、CCl(CH)SONa、CCl(Ph)SONa、(CFSOCa等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上の混合物を使用することができる。ここでPhはPhenylを示す。
【0017】
式(I)で表される化合物として、好ましくは、R、R及びRが塩素原子である場合であり、さらに好ましくは、CClSONa等である。
【0018】
2)H形陽イオン交換樹脂
H形陽イオン交換樹脂としては、処理効率の点で繊維状や粒状等の陽イオン交換樹脂が好ましく、また、弱酸性陽イオン交換樹脂でも強酸性陽イオン交換樹脂のいずれでも良く、あるいは、これらの複数の種類を任意の割合で混合して用いても良いが、好ましくは、強酸性陽イオン交換樹脂である。
強酸性陽イオン交換樹脂は、官能基にスルホン酸基(RSO)を持ち、例えば、三菱化学社製のPKシリーズ、SKシリーズ、デュポン社製ナフィオン(登録商標)などが挙げられる。
弱酸性陽イオン交換樹脂 は官能基にカルボン酸基(R−COO)、ホスホン酸基(R−P(O)(O )、ホスフィン酸基(R−PH(O)(O))、亜ひ酸基(R−OAsO)、フェノキシド基(R−C)を持ったものが挙げられる。
H形陽イオン交換樹脂の使用量は、式(I)で表されるハロゲン化スルホン酸塩に対して、通常、1〜10倍量、好ましくは2〜4倍量である。
【0019】
3)溶媒
本工程において使用する溶媒は、式(I)で表される化合物とH形陽イオン交換樹脂との接触に影響しない限り限定されないが、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、蟻酸、酢酸等のプロトン性極性溶媒、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
溶媒の使用量は、特に制限されないが、式(I)で表されるハロゲン化スルホン酸塩に対して、通常、3〜30倍量、好ましくは、5〜15倍量である。
【0020】
4)式(II)で表されるハロゲン化スルホン酸
【0021】
【化4】

【0022】
本発明において製造される化合物は、式(II)で表される化合物であり、R、R、R及びnは式(I)における各定義と同じである。
具体的には、CClSOH、CBrSOH、CISOH、CFSOH、CHClSOH、CHClCHSOH、CCl−(CHSOH、CCl−(CH−SOH等が挙げられる。
【0023】
5)製造方法
本発明の製造方法は、式(I)で表されるハロゲン化スルホン酸塩、H形陽イオン交換樹脂及び溶媒を攪拌混合し、濾過後、濾液を濃縮乾固させる。あるいは、イオン交換樹脂のカラムにハロゲン化スルホン酸塩を溶解した溶媒を通してクロマトグラフィを行い、溶出液を濃縮乾固させてもよい。
【0024】
陽イオン交換のための温度は、通常、5〜50℃、好ましくは15〜25℃の範囲である。
陽イオン交換のための時間は、通常1時間〜24時間、好ましくは5〜15時間の範囲である。
また、濃縮乾固は、大気圧〜減圧下で、通常40〜90℃で行われる。
【0025】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。略号は以下のとおりである。
CSNa: sodium trichloromethanesulphonate(CClSONa)
CSA: trichloromethanesulphonic acid(CClSOH)
【実施例1】
【0026】
ビーカーに、CSNa4.00g(18.1mmol)、強酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学社製PK216H)15.15g、蒸留水40.2gを仕込み、室温下で15時間、マグネチックスターラーを用い攪拌した。目開き300μmの篩で濾過し、濾液を85℃、13.3kPa−absの減圧下で濃縮乾固して、固体2.71g(収率75.2%)を得た。
固体をNMR及びIRにより分析し、固体がCSAであることを確認した。
【実施例2】
【0027】
ビーカーに、CSNa4.00g(18.1mmol)、強酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学社製PK216H)15.15g、アセトニトリル40.0gを仕込み、室温下で16.5時間、マグネチックスターラーを用い攪拌した。反応終了後、目開き300μmの篩で濾過し、濾液を85℃、34.6kPa−absの減圧下で濃縮乾固して、スラリー3.94g(収率40%(推定値))を得た。
スラリーをNMR及びIRにより分析し、成分がCSAであることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

(式中、R、R及びRは、夫々独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1−C6アルキル基又はC6−C10アリール基を示し、nは1〜20のいずれかの整数を示す。 nが2以上の場合、R同士及びR同士は、同一でも相異なっていてもよい。但し、R、R及びRのうち、少なくとも1つはハロゲン原子を示す。mは1又は2を示す。Mはアルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子を示す)で表されるスルホン酸塩をH形陽イオン交換樹脂と接触させることを特徴とする、式(II)
【化2】

(式中、R、R、R及びnは式(I)における各定義と同じ)で表されるスルホン酸の製造方法。
【請求項2】
式(I)においてR、R及びRが塩素原子であることを特徴とする請求項1記載のスルホン酸の製造方法。
【請求項3】
nが1であり、かつMがNa原子であることを特徴とする請求項1又は2記載のスルホン酸の製造方法。

【公開番号】特開2010−53050(P2010−53050A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217252(P2008−217252)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】