説明

ハンガー装置及びそれを備えたクレーン装置

【課題】吊り上げ重量の増加を図ることができるハンガー装置を提供する。
【解決手段】クレーン装置のアームに取り付けるハンガー装置10であって、ベルト30又はワイヤーを巻回するプーリー11と、プーリー11の両側にそれぞれ設けられていてプーリー11を回転する2台のモーター12,12と、を備えているギアを各モーター12,12の回転軸に取り付け、少なくとも1つのギア係合部をプーリー11の各面から突出するように取り付け、ギア係合部をギアに係合して、モーターの回転に連動してプーリーを回転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の後部に取り付けられて使用に供され、車椅子や荷物などの物品を積み卸しするためのクレーン装置に係り、特にそのアームに取り付けられたハンガー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車椅子を搭載可能な自動車等の車両においては、車椅子の使用者或いは補助者が自力で車椅子を車内に運んでいたが、近年では、クレーン装置が車内に装備されていて、この装置を利用することにより使用者等に対する収納作業負担の軽減等が図られている。
【0003】
この種のクレーン装置1は、例えば図6に示すように、ミニバン型の自動車の場合、自動車2の後部車室内にてリヤゲート2aの内側の床面に取り付けられており、その先端のハンガー装置1aが後方に引き出されて、このハンガー装置1aから下方に延びるベルト1bの先端に車椅子3を吊り下げた状態で車椅子3の積み卸しが行われる。
【0004】
このようなクレーン装置1は、例えば図7に示すように構成されている。図7において、クレーン装置1は、前述した自動車2の後部車室の床面からほぼ垂直に延びる直立したクレーンシャフト4と、このクレーンシャフト4の上端に備えられたヒンジ機構部5と、このヒンジ機構部5で横方向に延びる回転軸5aの周りに揺動可能に支持されたアーム6と、を備えている。
【0005】
クレーンシャフト4は中空円筒状部材から構成されており、その下端が自動車の後部車室(またはトランク室)の床面に固定保持されている。
【0006】
ヒンジ機構部5は、クレーンシャフト4内に入れ子式に嵌合される円筒状のシャフト5bと、このシャフト5bの上端に取り付けられた水平フランジ部5cと、を備えている。これによって、ヒンジ機構部5は、このシャフト5bがクレーンシャフト4内に嵌合されて、クレーンシャフト4の中心軸の周りに揺動可能に支持されると共に、水平フランジ部5cがクレーンシャフト4の上端に当接することにより、下方に対して規制される。なお、ヒンジ機構部5のシャフト5bは、クレーンシャフト4に設けられたネジ孔4aに螺合されるハンドルノブ9のネジシャフト9aによって締め付けられて、クレーンシャフト4の中心軸の周りの揺動が抑止される。
【0007】
アーム6は、ヒンジ機構部5に設けられた回転軸5aに回転可能に支持されると共に、その先端に前述したハンガー装置1aが装着されている。さらに、アーム6は、回転軸5aを中心とする中空円筒状のロック部材7を有している。
【0008】
このロック部材7は、クレーンシャフト4に対するアーム6の停止位置、即ち使用位置A(実線図示)及び格納位置B(鎖線図示)にて、ヒンジ機構部5に設けられたロック8がそれぞれ嵌入し得る二つのロック開口7a,7bを備えている。
さらに、ロック8は、ヒンジ機構部5に対して回転軸5aに平行な回転軸8aの周りに揺動可能に支持されたロックレバー8bの先端に設けられており、バネ8cにより図面にて左旋性が付与されていると共に、回転軸8aからほぼ反対側に延びるロック解除レバー8dを有している。
【0009】
これにより、ロック8がクレーンシャフト4のロック開口7a,7bに対向したとき、バネ8cの弾性によりロック8がこれらのロック開口7aまたは7b内に嵌入してロックされると共に、ロック解除レバー8dを矢印C方向に操作することにより、ロック8がこれらのロック開口7aまたは7bから外れて、ロック解除される。
【0010】
図8は図7のB−B線断面図であり、ハンガー装置1aの断面を示している。この図に示すように、ハンガー装置1aには、モーター101とこのモーター101によって回転させられるプーリー102とがアーム6の先端部に固定されたブラケット103に取り付けられている。図8でモーター101はその詳細の構成が省略され、その外形だけが表されている。なお、プーリー102にはベルト1bの一端が固定されると共にベルト1bが巻回されていて、モーター101によってプーリー102を正方向或いは逆方向に回転させることにより、プーリー102からのベルト1bの引き出し量が変わり、ベルト先端のフック1cが上下動する。
【0011】
このような構成のクレーン装置1によれば、使用時には、ロック8がロック開口7aに嵌合してアーム6が図4にて実線で示す使用位置Aに位置し、ハンドルノブ9を緩めてヒンジ機構部5及びアーム6をクレーンシャフト4の中心軸の周りに揺動することができる。
【0012】
この状態において、クレーン装置1を用いて車外にある車椅子3を自動車の後部車室に積載する手順としては、先ず、アーム6を回転させてハンガー装置1aを車外の車椅子の上方位置へ移動させる。そして、ハンガー装置1aから吊り上げ用のベルト1bを引き出して、ベルト先端のフック1cに車椅子を掛ける。次いで、ハンガー装置1a内のモーター101を駆動させて、引き出されたベルト1bをプーリー102に巻回させて車椅子3を持ち上げる。所望の高さまで車椅子3を持ち上げたら、モーター101によるプーリー102の回転を停止させ、その高さを維持した状態でアーム6を回転して車椅子を車内に入れる。そして、モーター101によってプーリー102を逆回転させてベルト1bをハンガー装置1aから引き出し、車椅子3を徐々に下げて自動車の後部車室フロアに車椅子を着地させる。車椅子を車外に出す場合は上記の逆の手順を行なえばよい。このようにして、クレーン装置1を用いた車椅子の積み卸しが行なえる。
【0013】
これに対して、このような使用状態からアーム6を格納する場合には、使用者は、図7に示すように一方の手でロック解除レバー8dを操作して、ロック8をロック開口7aから外し、他方の手でハンガー装置1aを支えながらアーム6を下降させて、図7にて鎖線で示す格納位置Bまでアーム6を移動させる。
そして、アーム6が格納位置Bに達すると、ロック8がバネ8cの弾性に基づいてロック開口7b内に嵌入し、アーム6が格納位置Bに係止される。さらに、使用者がハンドルノブ9を締め込むことにより、ヒンジ機構部5及びアーム6がクレーンシャフト4に対して回転しないように固定される。
【0014】
また、このような格納状態から、アーム6を使用位置Aに引き出す場合には、使用者は、ハンドルノブ9を緩めると共に、図7に示すように一方の手でロック解除レバー8dを操作してロック8をロック開口7bから外し、他方の手でハンガー装置1aを上方に持ち上げる。そして、アーム6を回転軸5aの周りに揺動させて、使用位置Aまで移動させる。アーム6が使用位置Aに達すると、ロック8がバネ8cの弾性に基づいてロック開口7a内に嵌入することにより、アーム6が使用位置Aに係止される。
【0015】
このように、図7に示す従来のクレーン装置1においては、アーム6の位置を格納位置Bから使用位置Aに切り替えて車椅子の積み卸しに用い、使用しない場合にはアーム6を下ろして格納するようになっている。
この種のクレーン装置が特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2006−193304号公報(図3,4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、従来のクレーン装置では、ハンガー装置1aに設けられているモーター101が1台であるため、30kgを超えた重さの車椅子や荷物を吊り上げることはできなかった。利用者の便宜を考えると、クレーン装置は50kg程度の荷物等を吊り上げ可能であることが望ましい。
【0017】
また、従来のハンガー装置1aでは、図9に示すように、モーター101の回転軸101Aにはギア105が取り付けられており、このギア105と噛合するメスギア106がプーリー102に取り付けられている。しかし、このようなメスギア106を製造する際に材料に施す加工処理は難しい作業であり、例えばインジェクション加工を行う必要がある。このため製造コストが嵩んでしまう。また、図9に示す符号108はモーター101に設けたギアガイドであり、このようなギアガイド108がメスギア106に干渉してしまうと、メスギア106の回転の障害となってモーター101の回転をプーリー102に伝達することはできない。
【0018】
本発明は以上の点に鑑みて創作されたものであり、吊り上げ重量の増加を図ることができるハンガー装置及びそれを備えたクレーン装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明は、クレーン装置のアームに取り付けられるハンガー装置であって、ベルト又はワイヤーを巻回するプーリーと、プーリーの両側にそれぞれ設けられていてプーリーを回転する2台のモーターと、を備えたことを特徴としている。
本発明のハンガー装置において、ギアが各モーターの回転軸に取り付けられ、少なくとも1つのギア係合部がプーリーの各面から突出するように取り付けられ、ギア係合部がギアに係合してモーターの回転に連動してプーリーが回転する。
また、本発明のクレーン装置は、起立したクレーンシャフトと、クレーンシャフトの上端部に揺動可能に支持されたアームと、アームの先端部に取り付けられたハンガー装置と、を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、プーリーを回転駆動させるための動力源としてモーターを2台搭載していて、プーリーがその両側から2台のモーターによって回転駆動されるので、従来のクレーン装置1に比して、より一層重い荷物等の積み卸しを行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の実施形態に係るハンガー装置10を搭載したクレーン装置20を示す図である。クレーン装置20は、例えば自動車の後部車室の床面等の設置面からほぼ垂直に延びる直立したクレーンシャフト4と、このクレーンシャフト4の上端に備えられたヒンジ機構部5と、このヒンジ機構部5で横方向に延びる回転軸5aの周りに揺動可能に支持されたアーム6と、アーム6の先端部に取り付けられたハンガー装置10と、を備えている。
ここで、クレーンシャフト4、ヒンジ機構部5、アーム6は、背景技術で挙げたクレーン装置1の構成部材と同一或いは同様であるので、説明を省略する。
【0022】
図2は図1のA−A線断面図であり、ハンガー装置10の断面を示している。この図に示すように、ハンガー装置10は、ベルト30を巻回するプーリー11と、このプーリー11の両側に設けられプーリー11を回転する2台のモーター12,12とを備えている。
なお、ハンガー装置10のカバー14内にはアーム6の先端部に固定されたブラケット15が設けられており、このブラケット15にベアリング16,16を介してプーリー11が回転可能に支持されている。
【0023】
図3(A)はプーリー11の平面図であり、図3(B)はプーリー11の正面図である。プーリー11は、円柱状の中心部11Aと、この中心部11Aの軸線方向の両端に中心部11Aと同軸上に設けられた円板部11B,11Bと、各円板部11B,11Bの外側に円板部11Bと同軸上に設けられた円環状のブラケット取付部11C,11Cと、各ブラケット取付部11C,11Cから外方向へ回転軸と平行に突出させた棒状のギア係合部11Dと、を備えている。中心部11Aにはベルト30の一端が固定されており、二つの円板部11B,11Bによって画成される溝部領域αでベルト30が中心部11Aに巻回して収容される。ギア係合部11Dはブラケット取付部11Cに一部を埋入して取り付けられている。なお、図3(A)では、3本のギア係合部11Dが各面に設けられているが、図示省略するがブラケット取付部11Cには回転軸を中心として円状に複数のギア係合部取付用の孔が複数開設されている。
このように構成されるプーリー11は、両サイドの各ブラケット取付部11C、11Cがブラケット15の取付穴15A(図2参照)にベアリング16を介して取り付けられて、回転可能にブラケット15に支持される。
【0024】
各モーター12,12は、その回転軸がプーリー11の回転軸と同軸上になるように、ブラケット15に取り付けられて、プーリー11の両側にそれぞれ1台ずつ配設されている。図2ではモーター12,12はその詳細の構成が省略され、その外形だけが表されている。これらのモーター12,12は、その回転軸突出面を対向させてカバー14内に配設されていて向きが異なるが、これらの2台のモーター12,12の回転軸の回転方向はプーリー11に所望の回転を与えるようプーリー11の回転軸まわりに同じ方向に回転する。なお、モーター12の駆動は図示省略するスイッチを操作することで、モーター12の正回転及び逆回転を制御できる。また、各モーター12への給電は、例えば、クレーン装置20に装備されている電線(モーター12に接続された電線)を車両のワイヤーハーネスに接続することで、行われる。
【0025】
図4は各モーター12,12を示す部分側面図であり、特に回転軸12Aの周辺を示している。この図に示すように、回転軸12Aにはギア12Bが取り付けられており、それに近接してギアガイド12Cが設けられている。
【0026】
本実施形態のハンガー装置20では、図5に示すように、プーリー11のギア係合部11Dがギア12Cに係合することで、プーリー11とモーター12とによる動力伝達機構が構成される。なお、プーリー11のモーター12に対する結合を高くするためには、プーリー11に設けられた複数の孔(図示省略)に差し込むギア係合部11Dの数を増加すればよい。
【0027】
なお、本実施形態に係るクレーン装置20では、ベルト30は一端がプーリー11に固定され、他端がカバー14のベルト挿通口14Aに近接したカバー表面のベルト固定部14Bに固定されている。ハンガー装置10のベルト挿通口14Aとベルト固定部14Bとに架け渡したベルト30に動滑車40が設けられていて、ベルト30の引き出し量を調節することによって、図1の矢印β方向に動滑車40が上下動する。なお、動滑車40には、フック41が垂下するように取り付けられている。
【0028】
本実施形態に係るクレーン装置20は以上のように構成され、従来のクレーン装置1と同様に、アーム6を回動させると共にハンガー装置10からベルト30の引き出し量を調節して動滑車40を上下動させることで、フック41に掛けた車椅子や荷物の積み卸しを行うことができる。
【0029】
この積み卸しにおいて、本実施形態に係るハンガー装置10は、プーリー11を回転駆動させるための動力源としてモーター12,12を2台搭載していて、プーリー11がその両側から2台のモーター12,12によって回転駆動されるので、従来のクレーン装置1に比して、より一層重い荷物等の積み卸しを行える。これにより、クレーン装置20の有用性が高められている。
【0030】
また、プーリー11は、モーター12の回転軸12Aに取り付けたギア12Bに対して、ギア係合部11Dを介して係合し、このギア係合部11Dが従来の連結構造におけるメスギア106(図9参照)に比べて小さい部材であるので、モーター12にギアガイド12Cが設けられていても、ギア係合部11Dがギアガイド12Cに干渉することがなく、モーター12,12の回転力がプーリー11に円滑に伝達される。
【0031】
クレーン装置20は動滑車40を使用しているため、モーター12,12への負荷を軽減することができる。また、本実施形態のクレーン装置20において、ハンガー装置10の2台のモーター12,12を専用モーターに代えて、例えば自動車のガラス昇降用モーターで構成する場合、ハンガー装置10を安価に製造できるのみならず、この場合50kg程度の物の積み卸しを行うことが可能である。
【0032】
以上説明したが、本発明は発明の趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施をすることができる。例えば、本発明のハンガー装置は、他の構成部材で成るクレーン装置のハンガー装置として利用できることは明白である。動滑車の代わりに、ベルトの先端にフックを取り付けてもよい。ハンガー装置のモーターは、自動車のガラス昇降用モーター以外に他の用途にも使えるモーターであってもよい。また、本発明では、ベルトの代わりにワイヤーを用いることもできる。プーリーの両面に設けるギア係合部の数は任意である。本発明のクレーン装置は車両に搭載する他、介護施設、病院などのフロアに設置して、或いは台車などの搭載して利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は本発明の実施形態にハンガー装置を搭載したクレーン装置を示す図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るハンガー装置のプーリーを示すもので、(A)は平面図、(B)は正面図である
【図4】本発明の実施形態に係るモーターを示す部分側面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るモーターとプーリーとの連結構成例を示す部分側面図である。
【図6】従来の車両後部を示す斜視図である。
【図7】従来のクレーン装置を示す図である。
【図8】図7のB−B線断面図である。
【図9】従来のハンガー装置におけるモーターとプーリーとの連結構成例を示す部分側面図である。
【0034】
4 クレーンシャフト
5 ヒンジ機構部
5a 回転軸
6 アーム
10 ハンガー装置
11 プーリー
11A 中心部
11B 円板部
11C ブラケット取付部
11D ギア係合部
12 モーター
12A 回転軸
12B ギア
12C ギアガイド
14 カバー
15 ブラケット
15A 取付穴
16 ベアリング
20 クレーン装置
30 ベルト
40 動滑車
41 フック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーン装置のアームに取り付けられるハンガー装置であって、
ベルト又はワイヤーを巻回するプーリーと、上記プーリーの両側にそれぞれ設けられていて上記プーリーを回転する2台のモーターと、を備えたことを特徴とする、ハンガー装置。
【請求項2】
ギアが前記各モーターの回転軸に取り付けられ、
少なくとも1つのギア係合部が前記プーリーの各面から突出するように取り付けられ、
前記ギア係合部が前記ギアに係合して、前記モーターの回転に連動して前記プーリーが回転することを特徴とする、請求項1に記載のハンガー装置。
【請求項3】
前記ベルト又はワイヤーに動滑車を設けたことを特徴とする、請求項1又は2に記載のハンガー装置。
【請求項4】
前記モーターが自動車のガラス昇降用モーターであることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載のハンガー装置。
【請求項5】
起立したクレーンシャフトと、上記クレーンシャフトの上端部に揺動可能に支持されたアームと、上記アームの先端部に取り付けられた前記請求項1〜4の何れかに記載のハンガー装置と、を備えたことを特徴とする、クレーン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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